IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱鉛筆株式会社の特許一覧

特開2024-793183次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための樹脂組成物及びフィラメント
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079318
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための樹脂組成物及びフィラメント
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20240604BHJP
   C08K 13/04 20060101ALI20240604BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20240604BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240604BHJP
   C08K 3/04 20060101ALN20240604BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALN20240604BHJP
   C08L 63/00 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K13/04
B29C64/314
B33Y70/00
C08K3/04
C08K5/1515
C08L63/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192193
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】新井 啓之
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F213AA15
4F213AB06
4F213AB18
4F213AB25
4F213AC02
4F213AR15
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL15
4F213WL23
4F213WL25
4F213WL27
4F213WL96
4J002BD041
4J002BD051
4J002BD081
4J002CD162
4J002DA016
4J002EL027
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD202
4J002FD207
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】本発明は、3次元プリンタにより成形でき、かつ炭素化後においてその形状を維持できる、樹脂組成物、及びそのような樹脂組成物で構成されているフィラメントを得ることを目的とする。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、
ポリ塩化ビニル又は塩化ビニルと他のビニル系モノマーの共重合体、
エポキシ系安定化剤、及び
前記ポリ塩化ビニル又は前記共重合体中に分散している炭素質フィラー
を含有している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための樹脂組成物であって、
ポリ塩化ビニル又は塩化ビニルと他のビニル系モノマーの共重合体、
エポキシ系安定化剤、及び
前記ポリ塩化ビニル又は前記共重合体中に分散している炭素質フィラー
を含有している、樹脂組成物。
【請求項2】
前記共重合体が、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素質フィラーが、炭素繊維である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリ塩化ビニル又は前記共重合体の質量の、前記エポキシ系安定化剤の質量に対する比が、1.5~3.5である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリ塩化ビニル又は前記共重合体の質量の、前記炭素質フィラーの質量に対する比が、1.0~8.0である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記炭素質フィラーの含有率が、前記樹脂組成物全体の質量に対して、10~45質量%である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物で構成されている、3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のためのフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元プリンタ用樹脂組成物、特に3次元プリンタにより成形でき、かつ炭素化する際に形状を維持できる樹脂組成物に関する。また、本発明は、そのような樹脂組成物で構成されているフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
3次元(3D)プリンタは、CAD等により入力された3次元データから薄い断面の形状を計算し、この計算結果をもとに材料を何層にも積層することで立体物を造形する技術であり、付加製造技術(Additive Manufacturing Technology)とも呼ばれている。3次元プリンタは、射出成形で用いられる金型を必要とせず、射出成形では成形できない複雑な立体構造を造形することができることから、多品種少量生産技術として注目されている。
【0003】
3次元プリンタ用材料(付加製造材料ともいう)には、3次元プリンタの方式や用途に応じて、様々な材料が開発されており、主材料としては光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、金属、セラミックス、ワックス等が用いられる。
【0004】
3次元プリンタの方式は、材料を立体的に造形する方式により、(1)結合剤噴霧方式、(2)指向性エネルギー堆積方式、(3)材料押出方式、(4)材料噴霧方式、(5)粉末床溶融結合方式、(6)シート積層方式、(7)液槽光重合方式等に分類される。前述の方式の中でも、材料押出方式(熱溶解積層方式とも呼ばれる)を採用した3次元プリンタは、低価格化が進んでおり、家庭・オフィス用として需要が高まっている。また、粉末床溶融結合方式を採用した3次元プリンタは、粉末材料のリサイクル性向上を実現したシステムの開発が進み、注目されている方式である。
【0005】
熱溶解積層方式(材料押出方式)とは、フィラメントと呼ばれる糸状などの形状を有する熱可塑性樹脂を押出しヘッド内部の加熱手段にて流動化したのち、ノズルからプラットフォーム上に吐出し、目的とする造形物の断面形状に従って、少しずつ積層しながら冷却固化することで造形する方法である。
【0006】
このような熱溶解積層方式の3次元プリンタのための樹脂組成物として、種々の組成物が開示されている。
【0007】
特許文献1では、平均繊維長1μm~300μm、且つ平均アスペクト比3~200である無機繊維と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物であり、3次元プリンタ用造形材料である樹脂組成物が開示されている。
【0008】
特許文献2では、熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントであって、熱可塑性を有するマトリックス樹脂と、この熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に分散された機能性ナノフィラーを含む機能性樹脂組成物によって形成されていることを特徴とする熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2018/043231号
【特許文献2】特開2016-28847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の3次元プリンタにより成形できる成形体は、樹脂をベースとする成形体であった。
【0011】
これに対して、本発明は、3次元プリンタにより成形できる樹脂組成物であって、得られた成形体を炭素化することによって炭素成形体を得ることができる樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための樹脂組成物であって、
ポリ塩化ビニル又は塩化ビニルと他のビニル系モノマーの共重合体、
エポキシ系安定化剤、及び
前記ポリ塩化ビニル又は前記共重合体中に分散している炭素質フィラー
を含有している、樹脂組成物。
〈態様2〉前記共重合体が、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体である、態様1に記載の樹脂組成物。
〈態様3〉前記炭素質フィラーが、炭素繊維である、態様1又は2に記載の樹脂組成物。
〈態様4〉前記ポリ塩化ビニル又は前記共重合体の質量の、前記エポキシ系安定化剤の質量に対する比が、1.5~3.5である、態様1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〈態様5〉前記ポリ塩化ビニル又は前記共重合体の質量の、前記炭素質フィラーの質量に対する比が、1.0~8.0である、態様1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〈態様6〉前記炭素質フィラーの含有率が、前記樹脂組成物全体の質量に対して、10~45質量%である、態様1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〈態様7〉態様1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物で構成されている、3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のためのフィラメント。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3次元プリンタにより成形できる樹脂組成物であって、得られた成形体を炭素化することによって炭素成形体を得ることができる樹脂組成物を得ることができる。また、本発明によれば、このような樹脂組成物で構成されているフィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《樹脂組成物》
3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための、本発明の樹脂組成物は、
ポリ塩化ビニル又は塩化ビニルと他のビニル系モノマーの共重合体、
エポキシ系安定化剤、及び
前記ポリ塩化ビニル又は共重合体中に分散している炭素質フィラー
を含有している。
【0015】
すなわち、本発明は、3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための上記の樹脂組成物の使用にも関する。
【0016】
本発明の樹脂組成物は、3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のためのフィラメントの形態にすること、すなわち3Dプリンタの押出ヘッドに供給することができ、かつ炭素化により形状を維持できるフィラメントの形態にすることができる。
【0017】
本発明者らは、上記の構成により、3次元プリンタにより成形でき、かつ炭素化後においてその形状を維持できる、樹脂組成物を得ることができることを見出した。
【0018】
理論に拘束されることを望まないが、より具体的には、この樹脂組成物によれば、3次元プリンタによる成形の際には、エポキシ系安定化剤が、ポリ塩化ビニル又は上記の共重合体の可塑剤として作用して、樹脂組成物の塑性変形が促進され、それによって、3次元プリンタによる成形性が良好になると考えられる。
【0019】
また、この樹脂組成物によれば、炭素化の際には、エポキシ系安定剤がポリ塩化ビニル又は上記の共重合体の早期の熱分解を抑制して、ポリ塩化ビニル又は上記の共重合体の残炭率を高め、それによってポリ塩化ビニル又は上記の共重合体の炭化物による炭素質フィラーの結合を促進し、その結果、炭素化前の形状を炭素化後においても維持できると考えられる。
【0020】
ポリ塩化ビニル又は共重合体の質量の、エポキシ系安定剤の質量に対する比は、1.5以上、2.0以上、2.5以上、又は2.8以上であることが、炭素化後の形状維持の観点から好ましい。この比は、4.5以下、4.0以下、3.5以下、又は3.3以下であることが、3次元プリンタによる成形性を良好にする観点から好ましい。
【0021】
ポリ塩化ビニル又は共重合体の質量の、炭素質フィラーの質量に対する比は、1.0以上、1.5以上、2.0以上、2.5以上、又は2.8以上であることが、炭素化後の形状維持の観点から好ましい。この比は、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、又は3.3以下であってよい。
【0022】
また、本発明の樹脂組成物は、炭素質フィラー以外の随意の他の粒子を含有していてもよい。
【0023】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0024】
〈ポリ塩化ビニル又は塩化ビニルと他のビニル系モノマーの共重合体〉
ポリ塩化ビニルとしては、商業的に入手可能なものを用いることができる。
【0025】
共重合体を構成する他のビニル系モノマーとしては、例えば酢酸ビニル、ビニルアルコール等を用いることができる。共重合体としては、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体を用いることが、成形性の観点から好ましい。このようなビニル系モノマー又は共重合体としては、商業的に入手可能なものを用いることができる。
【0026】
ポリ塩化ビニル又は共重合体の含有率は、樹脂組成物全体の質量に対して、10質量%以上、又は15質量%以上であることが、炭素化後に成形体を得る観点から好ましい。この含有率は、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0027】
〈エポキシ系安定化剤〉
エポキシ系安定化剤としては、エポキシ化脂肪酸エステル、例えばエポキシ化脂肪酸アルキルエステルを用いることができる。
【0028】
特に、エポキシ系安定化剤としてエポキシ化脂肪酸エステルを用いた場合、3次元プリンタによる成形の際には、エポキシ化されている脂肪酸に由来するアルキル鎖が非極性部として作用し、エステル基が極性部として作用することにより、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、ポリ塩化ビニル又は上記の共重合体の可塑剤として作用して、樹脂組成物の塑性変形が促進され、それによって、3次元プリンタによる成形性が良好になると考えられる。
【0029】
また、炭素化の際には、エポキシ化脂肪酸エステルがポリ塩化ビニル又は上記の共重合体の早期の熱分解を抑制して、ポリ塩化ビニル又は上記の共重合体の残炭率を高め、それによってポリ塩化ビニル又は上記の共重合体の炭化物による炭素質フィラーの結合を促進し、その結果、炭素化前の形状を炭素化後においても維持できると考えられる。
【0030】
エポキシ化脂肪酸エステルとしては、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ化油脂、及びエポキシ化ステアリン酸オクチル等のエポキシ化脂肪酸アルキルエステルを用いることができる。
【0031】
安定化剤の含有率は、樹脂組成物全体の質量に対して、10質量%以上、13質量%以上、又は15質量%以上であることが、3次元プリンタによる成形性の観点から好ましい。この含有率は、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であることが、炭素化後の形状維持の観点から好ましい。
【0032】
〈炭素質フィラー〉
炭素質フィラーは、ポリ塩化ビニル又は共重合体中に分散している炭素繊維及び/又は炭素粒子であってよい。この炭素質フィラーは、炭素化後に得られる炭素成形体においては、アモルファス炭素中に分散することとなる。中でも、炭素繊維を用いることが、炭素化後に得られる成形体の形状を維持する観点から好ましい。
【0033】
炭素繊維としては、これに限られないが、ミルドファイバー、及びチョップドファイバー等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
【0034】
炭素繊維の平均長さは、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上、50μm以上、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、75μm以上、80μm以上、85μm以上、又は90μm以上であることができ、また800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、180μm以下、150μm以下、120μm以下、又は110μm以下であることができる。
【0035】
炭素繊維の平均繊維径は、1μm以上、3μm以上、5μm以上、又は7μm以上であることができ、また20μm以下、15μm以下、12μm以下、又は10μm以下であることができる。なお、炭素繊維の平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)等により50本以上の繊維を無作為に選んで観察、計測し、個数平均を算出することにより求めることができる。
【0036】
炭素粒子としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ、黒鉛、及びカーボンブラック等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
【0037】
炭素粒子の形状は、特に限定されず、例えば扁平状、アレイ状、球状等の形状であってよい。
【0038】
炭素粒子の平均粒子径は、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であることができ、また20μm以下、15μm以下、10μm以下、又は7μm以下であることができる。ここで、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)を意味するものである。
【0039】
樹脂組成物中の炭素質フィラーの含有率は、樹脂組成物全体の質量に対して、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であることが、形状の維持の観点から好ましい。この含有率は、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0040】
〈他の粒子〉
炭素質フィラー以外の他の粒子としては、例えば樹脂粒子、金属系粒子等を用いることができる。
【0041】
樹脂粒子としては、例えばアクリル系樹脂粒子等を用いることができる。アクリル系樹脂粒子としては、例えばポリ(メタ)アクリル酸、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリペンチル(メタ)アクリレート、ポリヘキシル(メタ)アクリレート、ポリ-2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の粒子を用いることができる。
【0042】
金属系粒子としては、例えば金属単体、金属酸化物、金属炭化物、及び金属窒化物の粒子からなる群より選択される少なくとも一種、特に金属単体の粒子を用いることができ、より具体的には、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、及び金(Au)の単体、酸化物、炭化物及び窒化物の粒子からなる群より選択される少なくとも一種を用いることができる。
【0043】
他の粒子の平均粒子径は、10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上、70nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、又は1μm以上であることができ、また5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下、2.0μm以下、1.5μm以下、又は1.3μm以下であることができる。ここで、この平均粒子径の測定方法については、炭素質フィラーに関する記載を参照することができる。
【0044】
樹脂組成物中の他の粒子の含有率は、樹脂組成物全体の質量に対して、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、また45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0045】
《炭素成形体の製造方法》
炭素成形体を製造する本発明の方法は、
上記の樹脂組成物を3次元印刷して、樹脂成形体を提供すること、
前記樹脂成形体を熱処理して不融化させること、及び
不融化させた前記樹脂成形体を非酸化雰囲気下で熱処理することにより、前記樹脂成形体を炭素化させて、炭素成形体を提供すること
を含む。
【0046】
〈樹脂成形体の提供〉
樹脂成形体の提供は、上記の樹脂組成物を3次元印刷することにより行う。
【0047】
本発明において用いられる3次元印刷の方式は、特に限定されるものではなく、例えば材料押出方式(熱溶解積層方式)等であってよい。
【0048】
〈樹脂成形体の不融化〉
樹脂成形体の不融化は、樹脂成形体を空気中で熱処理することにより行う。
【0049】
不融化のための熱処理の温度は、ポリ塩化ビニル又は共重合体の熱分解温度よりも低い温度であってよく、例えば170℃以上、180℃以上、又は190℃以上であってよく、また300℃以下、280℃以下、250℃以下、又は220℃以下であってよい。
【0050】
〈炭素成形体の提供〉
炭素成形体の提供は、不融化させた樹脂成形体を非酸化雰囲気下で熱処理することにより、樹脂成形体を炭素化させることにより行う。
【0051】
非酸化雰囲気としては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、若しくはヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気、又は水素含有窒素ガス等の還元性雰囲気を採用してよく、中でも窒素ガス雰囲気は、取り扱い容易で、かつ安価である観点から、好ましく用いられる。なお、非酸化雰囲気は、3次元印刷により積層させた層の完全燃焼を予防して炭素化させることが可能な範囲で、酸素を含有していてもよく、例えば5体積%以下、3体積%以下、又は1体積%以下の範囲で酸素を含有していてもよく、又は酸素を含有していなくてもよい。
【0052】
炭素化のための熱処理の温度は、例えば600℃以上、650℃以上、700℃以上、750℃以上、又は800℃以上、850℃以上、又は900℃以上であり、かつ1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1050℃以下、又は1000℃以下であってよい。
【実施例0053】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0054】
《残炭率》
表1に示す材料を準備した。表1の「安定化剤あり」は、80質量部の熱可塑性樹脂及び20質量部のエポキシ系安定化剤としてのエポキシ化脂肪酸アルキルエステル(アデカサイザーD-55、株式会社ADEKA)を混錬したものを示している。表1に示す材料の詳細は以下のとおりである:
PVC-PVAc:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体
PVC:ポリ塩化ビニル
PVAc:ポリ酢酸ビニル
【0055】
表1に示す各材料の焼成前質量を測定し、次いで、熱天秤を用いて、窒素雰囲気下において昇温速度20℃/分で室温から900℃まで昇温し、850℃での質量を焼成後質量として、以下の式により、残炭率(質量%)を算出した。
残炭率(%)=(焼成後(850℃)質量/焼成前質量)×100
【0056】
各材料の残炭率を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から、PVC又はこれを含む共重合体であるPVC-PVAcは、エポキシ系安定化剤と組み合わせることにより、残炭率が増加していることが理解できよう。なお、表1の下で記載しているとおり、安定化剤単独での残炭率は0%であった。
【0059】
《樹脂組成物の作製》
表2に示す材料を、表2に示す含有率で混錬して、実施例1~3及び比較例1~4の樹脂組成物を得た。表1に示す材料の詳細は以下のとおりである:
エポキシ系(安定化剤):エポキシ化脂肪酸アルキルエステル(アデカサイザーD-55、株式会社ADEKA)
炭素繊維:炭素繊維(長さ30~200μm、平均繊維径約8μm)
【0060】
《評価》
〈3次元成形性〉
得られた各樹脂組成物を、3次元プリンタを用いた成形を試み、得られた成形体を目視により確認した。評価結果は以下のとおりである:
A:入力した形状が出力できていた
B:入力した形状が出力できなかった
【0061】
〈炭素化後の形状維持〉
押出成形により、得られた各樹脂組成物を所与のブロック体の形状に成形して、炭素化後の形状を評価するための樹脂成形体を得た。次いで、得られた樹脂成形体を、空気中で200℃で7時間熱処理して、樹脂成形体を不融化した。次いで、非酸化性雰囲気下で1000℃で50時間熱処理して、樹脂成形体を炭素化させ、炭素成形体を得た。得られた炭素成形体の形状を目視により確認した。評価基準は以下のとおりである:
A:炭素化前の形状とほぼ相似の形状の成形体が得られた
B:炭素化前の形状から著しく変化した形状の成形体が得られた、又は成形体が得られなかった
【0062】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から、ポリ塩化ビニル又は共重合体、安定化剤、及び炭素質フィラーを含有している実施例1~3の樹脂組成物は、良好な3次元造形性を有し、かつ炭素化後においても形状が維持できることが理解できよう。