(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079341
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】織編物
(51)【国際特許分類】
D03D 25/00 20060101AFI20240604BHJP
D04B 21/14 20060101ALI20240604BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
D03D25/00 102A
D04B21/14 Z
D04B1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192229
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】小野木 祥玄
【テーマコード(参考)】
4L002
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB05
4L002AC07
4L002BB01
4L002CA01
4L002CB01
4L002DA02
4L002EA00
4L002FA06
4L048AA21
4L048AA34
4L048AA35
4L048AB07
4L048BA01
4L048BC03
4L048CA15
4L048EB03
(57)【要約】
【課題】光を照射した際にのみ図柄を表現できる、起毛表面を有する光透過性の織編物を提供すること。
【解決手段】透光部と遮光部とを有する組織を含んで構成され、前記組織表面に起毛された繊維を含む織編物であって、
前記透光部と前記遮光部の明度指数L*値の差が10.0以下であり、
前記透光部の光透過率が5.0%以上であり、かつ、前記透光部の光透過率と前記遮光部の光透過率との差が3.0%以上である、織編物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光部と遮光部とを有する組織を含んで構成され、前記組織表面に起毛された繊維を含む織編物であって、
前記透光部と前記遮光部の明度指数L*値の差が10.0以下であり、
前記透光部の光透過率が5.0%以上であり、かつ、前記透光部の光透過率と前記遮光部の光透過率との差が3.0%以上である、織編物。
【請求項2】
前記起毛された繊維の単糸繊度が0.90dtex以下である、請求項1に記載の織編物。
【請求項3】
前記透光部の見かけ密度が0.1~0.8g/cm3である、請求項1または2に記載の織編物。
【請求項4】
前記遮光部の厚みが前記透光部の厚みの1.5倍以上である、請求項1または2に記載の織編物。
【請求項5】
前記透光部の厚みが0.40mm以下である、請求項1または2に記載の織編物。
【請求項6】
織編物全体に対する高分子弾性体の混率が3質量%以下である、請求項1または2に記載の織編物。
【請求項7】
前記組織がダブルラッセル組織またはダンボールニット組織である、請求項1または2に記載の織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織編物、特に、起毛表面を有する光透過性の織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトと機械との間の情報伝達を行うための手段やそのためのデバイス(ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI))に関する技術開発が盛んに行われている。それに伴いHMIに用いられる素材の開発も進んでいる。特に、HMIの代表例ともいえる車両や航空機などの座席の周囲に配置されるインストゥルメンタルパネル(インパネ)などには、HMIとしての機能を阻害することなく、使用者が触れた際の感触や視覚的により高い心地よさを与えられるような素材が求められている。従来、いわゆるスエード調の起毛素材は心地よい触感や高級感などの高い視覚的効果を与え得る素材として知られており、インパネなどの加飾用の起毛素材として、不織布にポリウレタンを含浸して起毛することにより得られる人工の起毛素材が利用されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-81817号公報
【特許文献2】特開2014-185404号公報
【特許文献3】特開2001-295156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、インパネのような情報表示用のデバイスは、パネルの背面からバックライトを照射して該パネルを透過する光によって情報を画面上に表示する。したがって、これを加飾する素材には、情報を表示するのに必要な光を遮断しないことが求められる。不織布は一般に目が細かく、光透過性を有しない。このため、上記特許文献1および2に開示されるような不織布系の起毛素材においては、不織布の一部を切削したり、不織布の一部分を熱融着させたりすることによって透光部と遮光部とを設け、これにより光透過性を出している。しかしながら、切削や熱融着により透光部を設ける方法では、多種多様の複雑な表現をすることが難しく、その加工時に生地の風合いも損なわれやい。また、ポリウレタンを含浸して製造される不織布では、ポリウレタン部分において光の吸収や散乱が生じ、高い光透過性を確保することが難しい場合がある。さらに、一般に、不織布は伸縮性が低く、例えば、複雑な形状の車内装備品などの表面を加飾する際にはシワが生じやすく、作業性においても課題がある。
【0005】
一般に、織編物には、織目や網目によって光透過性を付与しやすい。また、不織布に比べて高い伸縮性を有しているため、光透過性や作業性において有利であり得る。従来、例えば、カーテンなどに用いる生地として、光透過性を有する起毛の織編物も提案されている(特許文献3)。しかしながら、前記特許文献3に開示されるような光透過性の織編物は、生地表面を濃色部分と淡色部分とに色分けすることにより図柄を表現している。このような織編物では、染色の差によって生地表面の起毛感に差が生じて風合いが損なわれやすいだけでなく、光を照射していない状態でも図柄が生地表面に表現されてしまうため、光を透過することにより情報を表示するHMI用途には適さない。
【0006】
本発明は、光を照射した際にのみ図柄を表現できる、起毛表面を有する光透過性の織編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために詳細に検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]透光部と遮光部とを有する組織を含んで構成され、前記組織表面に起毛された繊維を含む織編物であって、
前記透光部と前記遮光部の明度指数L*値の差が10.0以下であり、
前記透光部の光透過率が5.0%以上であり、かつ、前記透光部の光透過率と前記遮光部の光透過率との差が3.0%以上である、織編物。
[2]前記起毛された繊維の単糸繊度が0.90dtex以下である、[1]に記載の織編物。
[3]前記透光部の見かけ密度が0.1~0.8g/cm3である、[1]または[2]に記載の織編物。
[4]前記遮光部の厚みが前記透光部の厚みの1.5倍以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の織編物。
[5]前記透光部の厚みが0.40mm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の織編物。
[6]織編物全体に対する高分子弾性体の混率が3質量%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の織編物。
[7]前記組織がダブルラッセル組織またはダンボールニット組織である、[1]~[6]のいずれかに記載の織編物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光を照射した際にのみ図柄を表現できる、起毛表面を有する光透過性の織編物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の織編物の一実施態様において、織編物の裏面から光を照射したときの表面の見え方を示す概略図である。
【
図2a】
図2aは、三層構造の立体編物の構造を表面繊維層側から説明する斜視図である。
【
図2b】
図2bは、三層構造の立体編物の構造を裏面繊維層側から説明する斜視図である。
【
図3a】
図3aは、本発明の一実施態様であるトリコット組織により構成される編物の表面繊維層側の平面写真(光未照射)である。
【
図3c】
図3cは、
図3aの編物に、裏面繊維層側から光を照射した場合の表面繊維層側の平面写真である。
【
図4a】
図4aは、本発明の一実施態様であるダブルラッセル組織により構成される編物の表面繊維層側の平面写真(光未照射)である。
【
図4c】
図4cは、
図4aの編物に、裏面繊維層側から光を照射した場合の表面繊維層側の平面写真である。
【
図5】
図5は、
図4a~cに示すダブルラッセル組織により構成される編物の厚み方向の断面を拡大した写真である
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
本発明の織編物は、透光部と遮光部とを有する組織を含んで構成され、前記組織表面に起毛された繊維を含んでなる。本発明の織編物に光を照射すると、光が透過する透光部が発光して、光を透過しない遮光部との関係において図柄を表現できる。また、透光部と遮光部とを含む組織表面全体に起毛された繊維を含め得るため、織編物の表面全体を起毛された繊維で均一に覆うことができる。これにより、織編物に光が照射されていないときは図柄が見えず、高級感のあるスエード調の一体感のある外観や質感をもたらすことができる。なお、本開示において、「スエード調」とは、織編物の表面繊維層(表生地)または裏面繊維層(裏生地)を構成する繊維の一部が、単繊維および/または繊維束の立毛状態で繊維層の表面に存在する、起毛調の外観を意味する。
【0012】
本発明の織編物においては、光を照射した際に光を透過する透光部と、光を透過しない遮光部とによって所望の図柄を表現できる。本発明の織編物において透光部は、通常、光を照射した際に表示される図柄に対応する領域である。例えば、
図1に示すように、織編物1の所望する箇所にダイヤ柄の透光部11を設けることにより、生地に光を照射した際に該透光部11を透過する光によってダイヤ柄を表現することができる。織編物1において透光部11は遮光部12に囲まれており、光を照射していない状態においては透光部11による図柄は視認されない。
なお、本開示において、織編物に「光を照射」するとは、特記しない限り、織編物の一方の面、通常、起毛された繊維を含む面(以下、「表面」ともいう)とは反対側の面(以下、「裏面」ともいう)から光を照射することを意味する。また、「光を透過する」とは、特記しない限り、織編物の裏面から、例えば一般的な市販の白色LED(光束:135ルーメン、指向特性:120°)の光を照射したときに光が透過して見えることを意味する。
【0013】
本発明の織編物において、透光部の明度指数L*値と遮光部の明度指数L*値との差は10.0以下である。透光部と遮光部におけるL*値の差が10.0を超えると、織編物に光を照射していないときにもそれらの明度の差によって図柄が見えやすくなるため、光を透過することによって情報を表示するHMI用途には適さない。透光部と遮光部とにおけるL*値の差は、好ましくは9.5以下、より好ましくは9.0以下、さらに好ましくは8.5以下、特に好ましくは8.0以下である。L*値の差が前記上限以下であると、光を照射していないときには図柄が見えず、表面の均一感に優れる織編物が得られるとともに、光を照射した際に浮かび上がる図柄により、使用者に驚きや感動を与え得る。光を照射していないときの織編物表面の均一感を高める観点からは、L*値の差は小さくてもよいが、通常0.5以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.5以上である。L*値の差が前記下限以上であると、光を照射した際に透光部と遮光部との境界がより明確になる。これにより、より細かい、または、複雑な図柄の表現が可能になり、織編物により高い意匠性を付与できる。透光部の明度指数L*値と遮光部の明度指数L*値との差は、前記上限と下限との任意の組合せの範囲内であることが好ましく、例えば0.5~10.0であってよく、好ましくは1.0~9.5、より好ましくは1.5~9.0、さらに好ましくは2.0~8.5、特に好ましくは2.5~8.0である。
【0014】
透光部および遮光部における明度指数L*値は、例えば、分光測色計を用いて、JIS Z-8781に準じた方法により測定できる。測定対象とする織編物の透光部および遮光部について、無作為に一定数の箇所を測定し、その平均値をそれぞれ透光部のL*値および遮光部のL*値として、下記式:
明度指数L*値の差(絶対値)=|(透光部のL*値)-(遮光部のL*値)|
に従い、算出できる。より詳細には、後述の実施例に記載する方法により測定できる。
【0015】
本発明において、透光部および遮光部の明度指数L*値は、それぞれ、例えば10~90であってよく、好ましくは20~80、より好ましくは30~80である。なお、透光部および遮光部のL*値は、織編物の色味やデザインなどによって変化し得るものである。本発明においては、透光部のL*値と遮光部のL*値とが先に記載するような特定の範囲の差を有していれば、いずれのL*値が高くてもよい。透光部のL*値が前記範囲内であると、光を照射したときに光が適度に透過するだけでなく、光を照射していないときに図柄が浮かび上がらず、より均一な外観の織編物を得ることができる。また、遮光部との関係においてL*値の差を所望の範囲に制御しやすい。一方、遮光部のL*値が前記範囲内であると、光を照射していないときに図柄が浮かび上がらず、より均一な外観の織編物を得ることができる。また、透光部との関係においてL*値の差を所望の範囲に制御しやすい。
【0016】
透光部および遮光部におけるL*値の差は、透光部および遮光部のL*値をそれぞれ調整することにより制御し得る。透光部と遮光部のL*値は、それぞれの見かけ密度、目付、厚み、構成する繊維の種類や繊度、透光部と遮光部とを構成する組織構造(織り方、編み方、編みゲージ数)等によって制御し得る。例えば、見かけ密度、目付および/または厚みは、一般に、その値を小さくすることによりL*値は高くなる傾向にある。また、構成する繊維の繊度は太いほど一般的にはL*値は高くなる傾向にある。また、組織構造を変化させることで密度を上げると一般的にL*値は高くなる傾向にある。
【0017】
本発明の織編物において、透光部の光透過率は5.0%以上である。透光部の光透過率が5.0%未満であると、光を照射した際に透光部において十分な量の光が透過できず、光照射によって図柄を表現することが困難である。透光部の光透過率は、好ましくは6.0%以上、より好ましくは6.5%以上、さらに好ましくは7.0%以上であり、例えば7.5%以上や9.0%以上であってもよい。透光部の光透過率が前記下限以上であると、光を照射した際に十分な光を透過することができ、光照射時に所望の図柄をよりクリアに表現できる。透光部の光透過性が高いほど、光照射時に図柄を明確に表現しやすくなる。しかし、光を照射していないときに図柄が見えにくく、織編物表面の外観に優れる観点から、透光部の光透過率は、通常30%以下であり、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下である。透光部の光透過率は、前記上限と下限との任意の組合せの範囲内であることが好ましく、例えば5.0~30%であってよく、好ましくは6.0~25%、より好ましくは6.5~20%、さらに好ましくは7.0~15%である。本開示において、「透光部」とは後述する光透過率の測定方法に従って測定した光透過率が5.0%以上である領域である。ただし、光透過率が5.0%以上である領域が2以上存在する場合、本開示においては、光透過率が(遮光部となり得る)他方の光透過率よりも3.0%以上高い領域を「透光部」と表現し、低い領域を「遮光部」と表現する。光透過率の差が3.0%以上ある2以上の領域が存在しない(すなわち、複数の領域間の光透過率の差がいずれも3.0%未満である)場合には、透過部および/または遮光部が存在しないものとみなす。言い換えると、本発明の織編物には、光透過率が互いに3.0%以上異なる少なくとも2つの領域が存在する。
【0018】
透光部の光透過率は、例えば、ヘーズメーターを用いて、JIS K7136に準じた方法により測定できる。より詳細には、後述の実施例に記載する方法により測定できる。
【0019】
本発明において、透光部の光透過率と遮光部の光透過率との差は3.0%以上である。光透過率の差が3.0%未満であると、光を照射した際にのみ図柄を表現することが困難になる。具体的には例えば、光を照射していないときにも図柄が見える、または、光を照射しても図柄が見えないといった状態になり得る。光透過率の差は、例えば3.5%以上であってよく、4.0%以上または4.5%以上(若しくは4.5%超え)であってもよく、さらには5.0%以上でもあり得る。透光部と遮光部における光透過率の差が上記下限以上であると、光を照射していないときには図柄が見えず、光を照射した際にのみ図柄を表現するという本発明の効果が期待できる。光透過率の差は、通常30%以下であり、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。光透過率の差が前記上限以下であると、光を照射していないときの織編物表面の均一な外観を確保できる。光透過率の差は、前記上限と下限との任意の組合せの範囲内であることが好ましく、例えば3.0~30%であってよく、4.0~25%または5.0~20%であってもよい。
【0020】
本発明において織編物を構成する透光部との関係において光透過率の差が3.0%以上となる領域であれば、遮光部の光透過率は特に限定されるものではない。本発明の一実施態様において遮光部の光透過率は、例えば0.5~8.0%であってよく、好ましくは1.0~8.0%、より好ましくは2.0~8.0%、さらに好ましくは2.5~8.0%であり、例えば3.0~8.0%であってもよく、0.5~7.5%または0.5%~7.0%でもあり得る。遮光部の光透過率が上記範囲内であると、図柄のない領域における光の透過を抑制することができ、光を照射した際に遮光部との関係において明確な図柄を表現しやすい。遮光部の光透過率は、透光部の光透過率と同様に、例えば、ヘーズメーターを用いて、JIS K7136に準じた方法により測定できる。より詳細には、後述の実施例に記載する方法により測定できる。
【0021】
透光部および遮光部の光透過率は、それぞれの見かけ密度、目付、厚み、構成する繊維の種類や繊度、透光部と遮光部とを構成する組織構造(織り方、編み方、ゲージ数)等によって制御し得る。例えば、見かけ密度、目付および/または厚みは、一般に、その値を小さくすることにより光透過率は高くなる傾向にある。また、組織構造を変化させることで密度を下げると、一般的に光透過率は高くなる傾向にある。
【0022】
透光部の見かけ密度は、好ましくは0.1~0.8g/cm3である。透光部の見かけ密度が前記範囲内であると、透光部の光透過性を所望の範囲に制御しやすい。これにより、光を照射した際には図柄をきれいに表現することが可能になる。一方、光を照射しないときには図柄が見えず、均一な外観の織編物が得られる。前記効果をより一層高める観点から、透光部における見かけ密度は、より好ましくは0.1~0.9g/cm3、さらに好ましくは0.2~0.8g/cm3、特に好ましくは0.2~0.7g/cm3であり、例えば0.2~0.6g/cm3であってもよい。
見かけ密度は、透光部もしくは遮光部を生地から切断し得られた目付(g/m2)から、生地の厚み(mm)を乗算することで算出できる。なお、生地の厚みは、光学顕微鏡にて生地断面を観察し得られた画像から測定できる。より詳細には、後述の実施例に記載する方法により測定できる。
【0023】
遮光部の見かけ密度は、特に制限は無いが、好ましくは0.2~1.5g/cm3である。遮光部の見かけ密度が前記範囲内であると、図柄のない領域における光の透過を抑制でき、透光部を含む織編物の表面全体の均一感が向上しやすい。前記効果をより一層高める観点から、透光部における見かけ密度は、より好ましくは0.3~1.3g/cm3、さらに好ましくは0.4~1.1g/cm3、特に好ましくは0.4~1.0g/cm3である。
【0024】
透光部の見かけ密度と遮光部の見かけ密度との比(透光部の見かけ密度/遮光部の見かけ密度)は、例えば1.5~15であり得る。透光部と遮光部とで見かけ密度の差が適度にあることにより、両領域の光透過率の差を制御しやすくなる。このような織編物では、光を照射した際にのみ所望の図柄を浮かびあがらせる効果が得られやすい。前記見かけ密度の比は、好ましくは1.75~10、より好ましくは2.0~5.0である。
【0025】
本発明において、遮光部の厚みは透光部の厚みの1.5倍以上であることが好ましい。透光部と遮光部とで厚みの差を適度に設けることにより、両領域の光透過率の差を制御しやすくなる。このような織編物では、光を照射した際にのみ所望の図柄を浮かびあがらせる効果が得られやすい。透光部の厚みに対する遮光部の厚みの上限は特に限定されるものではなく、通常、10倍以下である。厚みの比(遮光部の厚み/透光部の厚み)は、好ましくは1.5~10倍、より好ましくは2.0~8.0倍、さらに好ましくは2.5~8.0倍、例えば3.0~7.0倍であってもよい。
なお、遮光部および透光部の厚みは、例えば、光学顕微鏡を用いて得られる、各部に対応する生地の厚さ方向の断面画像から算出できる。また、表面が起毛処理されている場合、各部の厚みは、起毛繊維を含む(起毛繊維の高さ)を含む厚みである。
【0026】
透光部の厚みは、好ましくは0.40mm以下であり、より好ましくは0.35mm以下、さらに好ましくは0.30mm以下である。透光部の厚みが前記上限以下であると、透光部の光透過性を所望の範囲に制御しやすい。これにより、光を照射した際には図柄がきれいに表現でき、光を照射しないときには図柄が見えず、均一な外観の織編物を得ることができる。透光部の厚みは、通常0.05mm以上である。透光部の厚みは、好ましくは0.05~0.40mmであり、上記効果をより一層高める観点から、好ましくは0.10~0.35mm、より好ましくは0.10~0.30mmである。特に、遮光部と透光部の厚みの関係が先に記載の範囲にあり、かつ、透光部の厚みが上記範囲にあると、前記本発明の効果がより向上しやすい。
【0027】
遮光部の厚みは、透光部の厚みに対して先に示す関係を満たす範囲であることが好ましい。その厚みは、例えば0.50~5.00mmであってよく、好ましくは0.50~4.00mm、より好ましくは0.50~3.00mmである。遮光部の厚みが前記範囲内であると、図柄のない領域における光の透過を抑制でき、透光部を含む織編物の表面全体の均一感が向上しやすい。
【0028】
透光部の目付は、好ましくは10~300g/m2、より好ましくは30~250g/m2、さらに好ましくは50~200g/m2である。透光部の目付が前記範囲内であると、透光部の光透過性を所望の範囲に制御しやすい。これにより、光を照射した際には図柄をきれいに表現することができ、光を照射しないときには図柄が見えず、均一な外観の織編物が得られやすい。
【0029】
遮光部の目付は、透光部の目付よりも大きいことが好ましい。遮光部の目付は、好ましくは100~1000g/m2、より好ましくは150~900g/m2、さらに好ましくは200~800g/m2である。遮光部の目付が前記範囲内であると、図柄のない領域における光の透過を抑制しやすく、光を照射していないときの、透光部を含む織編物の表面全体の均一感が向上しやすい。
【0030】
本発明において、透光部と遮光部とを有する組織は、少なくとも二層の繊維層を含んでなる多層構造であることが好ましい。繊維層が二層からなる場合、織編物における前記組織は、例えば表面繊維層と裏面繊維層とから構成される。このような組織において、透光部は表面繊維層から構成され、遮光部は表面繊維層と裏面繊維層とから構成され得る。また、例えば、繊維層が三層からなる場合、前記組織は表面繊維層と裏面繊維層と、それらの間に位置する中間繊維層とから構成される。このような組織において、透光部は表面繊維層(場合により、表面繊維層と中間繊維層)から構成され、遮光部は表面繊維層、中間繊維層および裏面繊維層から構成され得る。本発明の織編物において、通常、透光部は遮光部よりも少ない繊維層数で構成され、遮光部は前記組織を構成する全ての繊維層から構成されることが好ましい。透光部および遮光部を有する組織がさらに多くの繊維層を含む場合においても同様である。なお、本開示においては、透光部と遮光部との両領域に含まれる繊維層であって、該組織の最外層を構成する側の層を「表面繊維層」という。また、遮光部のみに含まれる(透光部には含まれない)繊維層であって、該組織の最外層を構成する側の層を「裏面繊維層」という。
【0031】
前記のような多層構造としては、本発明の織編物が編物である場合、例えば、表裏二層の編地(基布)から構成される立体編物、表裏二層の編地(基布)と該層を連結する連結糸とから構成される立体編物などが挙げられる。例えば、
図2aおよびbに示すように、三層構造の立体編物は、表面繊維層21と裏面繊維層22と、それらの間に位置し、表面繊維層21と裏面繊維層22とを連結する中間繊維層23とから構成され、透光部11は表面繊維層21から構成され、遮光部は表面繊維層21、中間繊維層23および裏面繊維層22から構成される。裏面繊維層22側から光を照射すると、裏面繊維層22と中間繊維層23が存在する領域(すなわち遮光部12)は光が透過せず、表面繊維層21のみからなる透光部11のみを光が透過することにより、遮光部12で表現された図柄が透光部11を透過する光によって浮かびあがる。このような多層構造を構成し得る編物組織としては、具体的には、トリコット組織、ダブルラッセル組織、ダンボールニット組織等が挙げられる。
【0032】
本発明の織編物が織物である場合、前記多層構造としては、例えば、パイル部と基布部から構成される立体織物、表裏二層の立体織物などが挙げられる。例えば、経糸と緯糸とを織り合わせた基布と、該基布から織物の厚み方向に立ち上がったパイル部とから構成されるパイル織物の場合、基布が表面繊維層に相当し、パイル部が裏面繊維層に相当する。透光部は基布から構成され、遮光部は基布とパイル部とから構成される。裏面繊維層側から光を照射すると、裏面繊維層(パイル部)が存在する遮光部は光が透過せず、表面繊維層(基布)のみからなる透光部のみを光が透過することにより、遮光部で表現された図柄が透光部を透過する光によって浮かびあがる。このような多層構造を構成し得る織物組織としては、具体的には、パイル織組織、二重織組織、ジャガード織組織等が挙げられる。
【0033】
本発明の織編物は、透光部と遮光部とを有する組織の表面に起毛された繊維(以下、「起毛繊維」ともいう)を含み、本発明の織編物表面には起毛繊維が存在する。起毛繊維は、織編物の表面に部分的に存在していてもよいが、均一な外観および質感を得る観点からは、透光部と遮光部の各領域表面全体にわたって、すなわち、透光部と遮光部とを有する組織表面の全体に存在することが好ましい。また、本発明の織編物において、起毛繊維は、通常表面繊維層の表面に存在する。起毛繊維は、表面繊維層に存在していれば、裏面繊維層に存在していてもよい。
【0034】
本発明において、表面繊維層を構成する繊維としては、該繊維層表面に起毛繊維を存在させ得るものであれば、当該分野において公知の繊維を使用し得る。例えば、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨンの合成繊維だけでなく綿、麻等の天然繊維が挙げられる。中でも、耐久性が高く、風合いに優れる起毛感を得やすいことから、ポリエステル、ポリアミドが好ましく、ポリエステルがより好ましい。これらは、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
表面繊維層を構成する繊維に用いられるポリエステルとしては、繊維化が可能なものであれば特に限定されるものではないが、透光部を構成する繊維となるため、必要な光の透過を妨げないものであることが好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート等が挙げられる。中でも、耐熱性、耐久性およびコスト面の観点から、ポリエチレンテレフタレート、または、主としてエチレンテレフタレート単位からなる変性ポリエステル(例えば、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート)が好ましい。
【0036】
表面繊維層を構成する繊維は、モノフィラメントおよびマルチフィラメントのいずれの形態であってもよい。風合いがよく、高級感のある仕上がりが期待できることから、マルチフィラメントが好ましい。中でも、織編物表面(起毛表面)の緻密感を高める観点から、単糸繊度0.90dtex以下のマルチフィラメント、もしくは複数の成分からなる複合繊維から加工処理により成分を溶脱して得られるマルチフィラメント糸が好ましい。前記の複合繊維の繊維断面は特に限定されないが、例えば芯鞘型、スリット型、多ヒダ型、海島型等が考えられる。特に、均一に極細糸を得られる海島型繊維が好ましい。以下、一例として海島型複合繊維を用いる場合について詳しく説明するが、公知の材料や方法を採用して他の複合繊維から所望のマルチフィラメントを得ることも可能であるし、直接紡糸することにより製造した、または、市販の単糸繊度0.90dtex以下のマルチフィラメントを用いることもできる。
【0037】
前記マルチフィラメント糸を得るための海島型複合繊維は、例えば、選択的に除去できる海成分を構成する樹脂成分と、最終的に極細マルチフィラメント糸を形成する島成分を構成する樹脂成分とを溶融紡糸し、延伸することにより得ることができる。
【0038】
島成分を形成する樹脂成分としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができ、海島型複合繊維を形成でき、かつ、最終的に極細マルチフィラメント糸を形成し得る樹脂であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、スルホイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート樹脂等の脂肪族ポリエステル;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12。ポリアミド6-12等のポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン等が挙げられる。中でも、耐熱性、耐久性及びコスト面の観点からポリエステルが好ましく、芳香族ポリエステルがより好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
海成分の熱可塑性樹脂としては、島成分の樹脂とは熱水、溶剤またはアルカリ等に対する溶解性や耐性が異なる樹脂成分(熱可塑性樹脂)を選択し得る。具体的には、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレンエチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、水系の溶剤で容易に溶脱が可能なポリエステル系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂が好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂がより好ましく、さらにその中でもエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂が特に好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は、熱水や湿熱によって溶脱することができる。このため、中和処理が必要なアルカリ液による溶脱処理や、有機溶剤により溶脱処理などと比較して作業性に優れる。また、エネルギー効率や環境面においても有利である。
【0040】
海島型複合繊維における島成分と海成分との複合比率(質量比:島成分/海成分)は、最終的に所望するマルチフィラメントの形態に応じて適宜決定し得る。例えば20/80~80/20であってよく、好ましくは40/60~60/40である。また島の繊維断面形状はどんなものであってもよく、丸断面、四角断面、三角断面等が挙げられる。
【0041】
海島型複合繊維は、海成分である樹脂と島成分である樹脂の組合せを決定した上で、従来公知の複合紡糸装置を用いて繊維化することが可能である。例えば、低速、中速で溶融紡糸した後に延伸する方法、高速による直接紡糸延伸方法、紡糸後に延伸と仮撚を同時にまたは続いて行う方法などの任意の製糸方法で製造することができる。溶融温度、紡糸速度、延伸方法、延伸倍率等の製造条件は、用いる樹脂成分、延伸設備、巻取設備等に応じて適宜選択できる。得られた海島型複合繊維から海成分を溶脱することにより、島成分から構成されるマルチフィラメント糸を得ることができる。溶脱処理は、例えば、海島型複合繊維を用いて生地を織編みした後、染色前の段階など適当な段階において行うことができる。
【0042】
表面繊維層を構成するマルチフィラメント糸のフィラメント数は、特に限定されるものではないが、好ましくは10~10000、より好ましくは50~5000、さらに好ましくは100~5000である。フィラメント数が前記範囲であると、起毛後の風合いが良く、均一な外観が得られやすい。
【0043】
表面繊維層を構成するマルチフィラメント糸の単糸繊度は、好ましくは0.01~10dtex、より好ましくは0.05~1dtexである。単糸繊度が前記範囲であると、起毛後の風合いが良く、均一な外観が得られやすい。
【0044】
本発明において、裏面繊維層を構成する繊維としては、織編物に所望の図柄を形成し得る繊維であれば、当該分野において公知の繊維を使用し得る。遮光部を構成する繊維となるため、光を透過し難い繊維であることが好ましい。例えば、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨンなどの合成繊維だけでなく、綿、麻等の天然繊維等が挙げられる。中でも、耐久性が高く、風合いに優れる起毛感を得やすいことから、ポリエステル、ポリアミドが好ましく、ポリエステルがより好ましい。これらは、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
裏面繊維層を構成する繊維は、モノフィラメントおよびマルチフィラメントのいずれの形態であってもよい。内装パーツに生地を貼り付ける際の作業性の観点から、マルチフィラメントが好ましい。
【0046】
裏面繊維層を構成するマルチフィラメント糸のフィラメント数は、特に限定されるものではないが、好ましくは5~100、より好ましくは10~80である。フィラメント数が前記範囲であると、生地に適度な屈曲性が与えられるため、内層パーツに生地を貼り付ける際の作業性が得られやすい。
【0047】
裏面繊維層を構成するマルチフィラメント糸の単糸繊度は、好ましくは0.1~10dtex、より好ましくは0.5~5dtexである。単糸繊度が前記範囲であると、生地の強度を保持しながら、生地に適度な屈曲性が与えられるため、内層パーツに生地を貼り付ける際の作業性が得られやすい。
【0048】
裏面繊維層を構成する繊維は、表面繊維層を構成する繊維と同一であっても、異なっていてもよい。一般に、表面繊維層には適する極細繊維のみで生地全体を構成する場合十分な生地強度を保持し難いことがあるため、表面と裏面を構成する繊維をそれぞれ選択し、裏面繊維層に表面繊維層とは異なる繊維を用いることによって生地強度が向上しやすくなる。
【0049】
本発明において、特に、織編物が編物である場合、透光部と遮光部とを含む組織は、表面繊維層と裏面繊維層に加えてこれらの間に位置する中間繊維層を含むことが好ましい。中間繊維層は織編物においてスペーサー層として機能し得る。これにより、織編物に適度な厚みやクッション性を付与することができ、透光部と遮光部における光透過率の差を制御しやすくなる。
【0050】
中間繊維層を構成する繊維としては、表面繊維層と裏面繊維層とをつなぐ役割を果たし得る繊維であれば、当該分野において公知の繊維を使用し得る。ポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨンなどの合成繊維だけでなく綿、麻等の天然繊維等が挙げられる。中でも、耐久性が高く、風合いに優れる起毛感を得やすいことから、ポリエステル、ポリアミドが好ましく、ポリエステルがより好ましい。これらは、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
中間繊維層を構成する繊維は、モノフィラメントおよびマルチフィラメントのいずれの形態であってもよい。例えば、染色工程や織編み工程においても繊維の形状がつぶれにくく、スペーサー層を維持しやすいため、モノフィラメントが好ましい。モノフィラメントの繊度は、好ましくは5~100dtex、より好ましくは10~70dtexである。
【0052】
本発明の織編物が編物である場合、透光部と遮光部とを有する組織としては、例えば、トリコット組織、ダブルラッセル組織、ダンボールニット組織等が挙げられる。中でも、織編物に適度な厚みやクッション性を付与することができ、透光部と遮光部において所望の光透過率の差を設けやすい観点から、ダブルラッセル組織およびダンボールニット組織が好ましい。
【0053】
ダブルラッセル組織等の上記各組織は、上述したような表面繊維層を構成する繊維、裏面繊維層を構成する繊維、および、必要に応じて中間繊維層を構成する繊維を用いて、ダブルラッセル編み機など所望する組織を形成するための編み機により形成できる。編地(編組織)を形成する際に、例えばジャガード編み機やホールガーメント編み機に所望の図形やアイコンの明部や暗部を読み取らせることにより所望の図柄を、透光部と遮光部とによって表現できる。
【0054】
本発明の織編物が織物である場合、透光部と遮光部とを有する組織としては、例えば、ジャガード織組織やパイル織組織等が挙げられる。このような組織は、上述したような表面繊維層を構成する繊維と裏面繊維層を構成する繊維とを適宜選択し、これらの繊維をジャガード織機やパイル織機など所望する組織を形成するための織機によって形成できる。織物(織組織)を形成する際に、対応する織機に所望の図形やアイコンの明部や暗部を読み取らせて所望の図柄を透光部と遮光部とで表現することが可能である。
【0055】
さらに、表現したい図形を光源に貼り合わせ、本発明の織編物生地の図柄に光を透過させることで、より複雑な図柄を表現することも可能である。具体的には、例えば、透光部と遮光部とで所望の図柄を構成する本発明の織編物と、該織編物の図柄とは異なる所望の図形(例えば、アイコンなど)を貼り合わせ、光を点灯させた際に光の透過によって該図形を表現できる光源とを組み合わせることによって、本発明の織編物による図柄と光源の図形とを組み合わせた図柄や図形を表現でき、透過図形にさらなる意匠性をもたせることが可能になる。
【0056】
起毛繊維は、透光部と遮光部とを有する組織表面の所望する領域に、起毛処理を施すことにより得ることができる。本開示において、起毛とは、織編物表面から積極的に毛羽を引き出した状態のものや、ループを剪毛したものをいう。このような起毛は、例えば、針布ロール、サンドロール、サンドベルト、エメリーペーパー等により組織表面にバフィング処理を行うことにより得られる。
【0057】
透光部と遮光部とを有する組織の表面に存在する起毛繊維の単糸繊度は、好ましくは0.90dtex以下であり、より好ましくは0.80dtex以下、さらに好ましくは0.60dtex以下である。起毛繊維の単糸繊度が前記上限以下であると、風合いがよく、高級感ある外観が得られやすい。起毛繊維の単糸繊度は、通常0.05dtex以上である。起毛繊維の単糸繊度は、好ましくは0.05~0.90dtexであり、上記効果をより一層高める観点から、好ましくは0.10~0.80dtex、より好ましくは0.10~0.60dtexである。
【0058】
本発明の織編物における起毛長については特に制限はないが、地組織の非極細糸の最上部から0.05~0.50mm程度存在することで、表面から地糸が見えづらく、一般的に起毛されているスエード調の織編物に見せることができる。
なお、起毛長の測定は、顕微鏡にて編みループまたは織りループ最上部から起毛している起毛部分だけの厚みを測定する。織編地を構成するループの断面を観察した場合、地組織のニードルループ、あるいはシンカーループの最上部のループは連続して凹凸が生じているが、編みループまたは織りループの最上部とは、最も高い凸部を編み/織りループ最上部として、起毛部分はこのループ最上部から起毛された繊維の先端までの厚み、あるいは起毛された繊維が折れ曲がっている場合は、折れ曲がっている部分で最も厚い部分の厚みを測定する。織編地の測定部分を変えて10ヶ所測定し、10ヶ所の平均を起毛長とすることができる。
【0059】
起毛長の調整は起毛機による起毛回数、パイルローラー、カウンターパイルローラの回転数、トルクなどにより行い得る。起毛糸が長くなりすぎないように弱起毛条件とすることが好ましい。また、生機で起毛する先起毛でも、染色後に起毛する後起毛のどちらであってもよく、起毛長、品位を考慮して選択可能である。
【0060】
本発明において、織編物全体に対する高分子弾性体の混率は、好ましくは3質量%以下である。従来、インパネなどの加飾用の起毛素材として知られている不織布タイプの人工起毛素材は、生地の形状を安定に保つ等の目的のため、不織布にポリウレタンなどの高分子弾性体を含浸して製造される。かかる起毛素材においては、高分子弾性体が存在する領域で光の吸収や散乱が生じやすく、透光部における十分な透光性が得にくくなる。織編物である本発明の起毛素材においては、不織布タイプの起毛素材の製造時に必要とされる高分子弾性体による含浸処理を必要とせず、透光部における十分な光透過性を確保できる。本発明において、高分子弾性体の混率は、織編物全体の総質量に対して、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。本発明のより好適な一実施態様において、本発明の織編物は高分子弾性体を実質的に含まない(すなわち、0質量%である)。
なお、本開示において、「高分子弾性体」とは、一般に、変形に応じた応力が生じ、変形を元に戻すことにより応力も元に戻り、加えた力学的エネルギーも回復する物体を意味する。代表的には、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等の各種ポリウレタンや、アクリル系弾性体、ポリウレタンアクリル複合弾性体、ポリ塩化ビニル、合成ゴム等が挙げられる。本開示の一態様において、高分子弾性体はポリウレタンを意味する。また、本発明の織編物が、透光部と遮光部とを有する組織以外の他の組織を含む場合、前記高分子弾性体の混率は、透光部と遮光部とを有する組織から構成される織編物の領域における総質量に対する割合を意味する。織編物における高分子弾性体の混率は、例えば、後述する実施例に記載の方法に従い測定できる。
【0061】
以下、本発明の織編物の実施態様を図面に基づき例示する。
図3aは、トリコット組織により構成される編物の表面繊維層側の平面写真である。表面繊維層21の表面には起毛繊維24が存在する。
図3bは、
図3aの編物の裏面繊維層側の平面写真である。裏面繊維層側からは、表面繊維層21からなる透光部11と、表面繊維層22および裏面繊維層22からなる遮光部12とが確認できる。光を照射していない状態(
図3a)では透光部および遮光部の各領域は視認されないが、
図3cに示す通り、裏面繊維層側から光を照射すると透光部11のみを透過する光によって、透光部11と遮光部12とで描かれた図柄(ダイヤ柄)が浮かび上がる。
【0062】
図4aは、ダブルラッセル組織により構成される編物の表面繊維層側の平面写真である。表面繊維層21の表面には起毛繊維24が存在する。
図4bは、
図4aの編物の裏面繊維層側の平面写真である。裏面繊維層側からは、表面繊維層21からなる透光部11と、表面繊維層21、中間繊維層および裏面繊維層22からなる遮光部12とが確認できる。
図5は、
図4a~cに示すダブルラッセル組織により構成される編物の厚み方向の断面を拡大した写真である。
図5に示される通り、表面繊維層21と裏面繊維層22とは中間繊維層23により連結されており、表面繊維層21の表面には起毛繊維24が存在する。光を照射していない状態(
図4a)では透光部および遮光部の各領域は視認されないが、
図4cに示す通り、裏面繊維層側から光を照射すると透光部11のみを透過する光によって、透光部11と遮光部12とで描かれた図柄(六角形)が浮かび上がる。
【0063】
本発明の織編物は、光を照射していないときには均一な起毛表面の外観を呈しながら、光を照射した際には、所望の図柄を浮かび上がらせることができる。このため、HMI用途や意匠性を求められる用途等に好適である。そのような用途としては、具体的に例えば、インパネを含む車両インテリア、ウエラブル携帯端末、家電製品等の加飾素材が挙げられる。
【実施例0064】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に述べるが、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0065】
<実施例1>
(1)紡糸
(i)複合繊維 84dtex/24f(溶脱後:42dtex/288f)
島成分ポリマーとして、イソフタル酸を10モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(IV=0.65)を用い、海成分ポリマーとしてエチレン単位8.3%を含有し、けん化度98.6%のポリエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、単にPVAと略す)を用いた。島成分および海成分のポリマーそれぞれのペレットを2軸押し出し機により、海島構造(島成分と海成分の複合比率=50/50)で、12島の円形紡糸ノズル(24ホール)より溶融吐出した。これを紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入した。チューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で油剤を付与し、2個の引き取りローラーを介して3800m/分の引き取り速度で巻き取り、84dtex/24fそれぞれのマルチフィラメント(表1中、「複合繊維(1)」と記載する)を得た。
【0066】
(ii)ポリエステル繊維 84dtex/24f
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.7)のペレットを単軸押し出し機により、円形紡糸ノズル(24ホール)より溶融吐出した。これを紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入した。チューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で油剤を付与し、2個の引き取りローラーを介して4500m/分の引き取り速度で巻き取り、84dtex/24fのマルチフィラメント(表1中、「ポリエステル繊維(3)」と記載する)を得た。
【0067】
(2)ダブルラッセル編み
釜間2mmの22ゲージダブルラッセル機にて、表編地(表面繊維層)に上記で得られた84dtex/24fのマルチフィラメント、パイル層(中間繊維層)に東レ製ポリエステルモノフィラメント22dtex/1f、裏メッシュ編地(裏面繊維層)に上記で得られたポリエステル繊維84dtex/24fを用いて生地を作成した。なお、裏メッシュ編地にはタテ:ヨコ=2mm:1mmの大きさ比のダイヤ柄のメッシュ組織を採用した。この生地を、生地:水=1:50の浴比(質量比)で90℃の熱水にて20分間処理することで、表面繊維層を構成する海成分を溶脱して精錬し、140℃の温度で3分間乾燥、セットした後、バフィング処理により毛羽立たせて起毛生地を得た。
【0068】
<実施例2>
ダブルラッセル編み機のゲージ数を28ゲージに変更した以外は、実施例1と同様にして起毛生地を得た。
【0069】
<実施例3>
裏メッシュ編地に使用するポリエステル糸を、ポリエステル繊維56dtex/24fに変更した以外は、実施例1と同様にして起毛生地を得た。
なお、上記ポリエステル繊維56dtex/24fは、以下のようにして得られる繊維である。
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.7)のペレットを単軸押し出し機により、円形紡糸ノズル(24ホール)より溶融吐出した。これを紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入した。チューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で油剤を付与し、2個の引き取りローラーを介して4500m/分の引き取り速度で巻き取り、56dtex/24fのマルチフィラメント(表1中、「ポリエステル繊維(4)」と記載する)を得た。
【0070】
<実施例4>
表編地に使用したマルチフィラメントを、ポリエステル繊維56dtex/96fに変更した以外は、実施例1と同様にして起毛生地を得た。
なお、上記ポリエステル繊維56dtex/96fは、以下のようにして得られる繊維である。
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.7)のペレットを単軸押し出し機により、円形紡糸ノズル(96ホール)より溶融吐出し、紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入した。チューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で油剤を付与し、2個の引き取りローラーを介して4000m/分の引き取り速度で巻き取り、56dtex/96fのマルチフィラメント(表1中、「ポリエステル繊維(5)」と記載する)を得た。
【0071】
<実施例5>
ダンボールニット編み
30インチ、20ゲージ、釜間2mmのダブルニット編機を用いて、表編地(表面繊維層)に上記で得られた84dtex/24fのマルチフィラメント、パイル層(中間繊維層)に東レ製ポリエステルモノフィラメント22dtex/1f、裏メッシュ編地(裏面繊維層)に上記で得られたポリエステル繊維84dtex/24fを用いて生地を作成した。この生地を90℃で精錬し、140℃の温度で乾燥、セットした後、バフィング処理により毛羽立たせて起毛生地を得た。
【0072】
<実施例6>
実施例1と同様にして得られた生地にポリウレタンエマルジョンを以下のようにして含浸させた。ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とする水系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度4%)を含浸させた後、150℃の乾燥炉で水分を乾燥してポリウレタンを架橋させた。このようにして、ポリウレタン/ニットの質量比が3/97のポリウレタン含浸ニットを形成した。その後バフィング処理により毛羽立たせて起毛生地を得た。
【0073】
<実施例7>
表編地に使用したマルチフィラメントを、ポリエステル繊維84dtex/96fに変更した以外は、実施例1と同様にして起毛生地を得た。
なお、上記ポリエステル繊維84dtex/96fは、以下のようにして得られる繊維である。
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.7)のペレットを単軸押し出し機により、円形紡糸ノズル(96ホール)より溶融吐出し、紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入した。チューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で油剤を付与し、2個の引き取りローラーを介して4000m/分の引き取り速度で巻き取り、84dtex/96fのマルチフィラメント(表1中、「ポリエステル繊維(6)」と記載する)を得た。
【0074】
<実施例8>
トリコット編み
28ゲージのトリコット編機を用いて、表編地(表面繊維層)に上記で得られた84dtex/24fのマルチフィラメント、裏メッシュ編地(裏面繊維層)に上記で得られたポリエステル繊維84dtex/24fを用いて生地を作成した。この生地を90℃で精錬し、140℃の温度で乾燥、セットした後、バフィング処理により毛羽立たせて生地を得た。
【0075】
<比較例1>
釜間2mmの18ゲージダブルラッセル機を用いた以外は、実施例1と同様にして起毛生地を得た。
【0076】
<比較例2>
釜間2mmの36ゲージダブルラッセル機を用いた以外は、実施例1と同様にして起毛生地を得た。
【0077】
<比較例3>
(1)紡糸 複合繊維 167dtex/48f
島成分ポリマーとして、イソフタル酸を10モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(IV=0.65)を用い、海成分ポリマーとしてエチレン単位8.3%を含有し、けん化度98.6%のポリエチレンービニルアルコール共重合体を用いた。島成分および海成分のポリマーそれぞれのペレットを2軸押し出し機により、海島構造(島成分と海成分の複合比率=50/50)で、12島の円形紡糸ノズル(48ホール)より溶融吐出した。これを紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入した。チューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で付与し、2個の引き取りローラーを介して3800m/分の引き取り速度で巻き取り、167dtex/48fのマルチフィラメント(表1中、「複合繊維(2)」と記載する)を得た。
【0078】
(2)ダブルラッセル編み
釜間2mmの28ゲージダブルラッセル機を用い、表編地に上記で得た167dtex/48fのマルチフィラメントを使用した以外は、実施例1と同様にして起毛生地を得た。
【0079】
<比較例4>
裏編地に使用する糸をポリエステル繊維33dtex/12fに変更した以外は、実施例8と同様にして起毛生地を得た。
なお、上記ポリエステル繊維33dtex/12fは、以下のようにして得られる繊維である。
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.7)のペレットを単軸押し出し機により、円形紡糸ノズル(12ホール)より溶融吐出した。これを紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入した。チューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で付与し、2個の引き取りローラーを介して3500m/分の引き取り速度で巻き取り、33dtex/12fのマルチフィラメント(表1中、「ポリエステル繊維(7)」と記載する)を得た。
【0080】
<比較例5>
実施例1と同様にして得られた生地にポリウレタンエマルジョンを以下のようにして含浸させた。ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とする水系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度7%)を含浸させた後、150℃の乾燥炉で水分を乾燥しポリウレタンを架橋させた。このようにして、ポリウレタン/ニットの質量比が5/95のポリウレタン含浸ニットを形成した。その後バフィング処理により毛羽立たせて起毛生地を得た。
【0081】
上記実施例1~8および比較例1~5で調製した起毛生地(織編物)の構成を表1に示す。
【表1】
【0082】
実施例および比較例で調製した各種繊維、組織および織編物(生地)に関する物性や特性の評価を以下に記載の方法に従い行った。
【0083】
(1)透光部と遮光部の厚み
透光部および遮光部の生地厚み方向の断面を光学顕微鏡にて撮影し、得られた画像から算出した。
【0084】
(2)見かけ密度
透光部のみを生地から切断し、その質量を測定した。測定した質量を面積で除して目付を算出し、得られた目付(g/m2)から上記方法で測定した厚みを用いて見かけ密度を算出した。遮光部の見かけ密度についても同様に、遮光部のみを生地から切断し、目付および厚みから算出した。
【0085】
(3)ポリウレタン混率
ポリウレタンの含有割合は、以下の方法により求めた。生地の厚さ方向の断面においてポリウレタンの含浸状態が平均的である3箇所を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率500倍で撮影し、それぞれの画像をA4サイズの用紙に印刷した。次いで、印刷した用紙をOHP(Overhead projector)シート等の透明シートに重ね、透明シートにポリウレタン部位を黒塗りして転写した。これとは別に、繊維層を構成する全ての部位についても、ポリウレタンを転写した方法と同様に転写した。これらの透明シートに転写した模様を別々にスキャナーで取り込んで画像を形成した。画像処理装置を用いて、得られた画像からポリウレタンの総面積(A)ならびに繊維の総面積(B)を求め、下記式に基づきポリウレタンの含有割合(質量%)を算出した。
{(A)*(α)}/[{(A)*(α)}+{(B)*(β)}]×100
〔式中、αはポリウレタンのポリマー密度であり、βは繊維を構成するポリマー密度である。〕
なお、画像処理装置としては、コンピュータに画像処理ソフトをインストールして構成されるものを用いた。画像処理ソフトとしては、Media Cybernetics社のimage-pro plusを用いた。
【0086】
(4)単糸繊度測定
起毛繊維を生地から採取し、JIS 1015 8.5.1 A法に規定される方法に従い測定した。
【0087】
(5)光透過性
透光部および遮光部を、それぞれ生地から切断し、生地の厚み方向と平行な方向に入射するようサンプルを設置した。JIS K7136に準拠し、スガ試験機(株)製のヘーズメーター HZ-1により、全光線透過率(%)を測定した。結果を表2に示す。
また、以下の方法に従い、透光部の光透過性を評価した。
生地の裏側から正方形に照射されるLEDライト(20cm×20cm、500ルーメン、白色発光)を照射し、生地表側から目視にて正方形の輪郭の見え方を確認した。下記基準に従い、透光部の光透過性を評価した。結果を表2に示す。
<透光部の光透過性評価基準>
〇:正方形の輪郭がクリアに透過して見えた
△:正方形の輪郭が少しぼやけるも正方形の輪郭が透過して見えた
×:正方形の輪郭がぼやけて円形に透過して見えた
【0088】
(6)透光部と遮光部の光透過性差の評価
以下の方法に従い、透光部と遮光部との光透過性の差を評価した。結果を表2に示す。
生地の裏側からLEDライト(20cm×20cm、500ルーメン、白色発光)を照射し、生地表側から目視にて生地の図柄(ダイヤのメッシュ柄)の見え方を確認した。
<透光部と遮光部との光透過性差の評価基準>
〇:ライト照射時に、ダイヤ柄がクリアに透過して見えた
△:ライト照射時に、すこし輪郭がぼやけるもダイヤ柄に透過して見えた
×:ライト照射時に、輪郭がぼやけて楕円形に透過して見えた
【0089】
(7)白度(L*値)
透光部および遮光部をそれぞれ生地から切断し、生地の厚み方向と平行な方向に入射するようサンプルを設置した。分光光度計(ミノルタ社製:CM-3700)を用いて、JISZ 8781に準拠して、立毛調人工皮革の表面のL*a*b*表色系の座標値から明度L*値を求めた。透光部のL*値と遮光部のL*値をそれぞれ測定し、その差を求めた。結果を表2に示す。
<透光部と遮光部のL*差における視認性>
〇:ライト未照射時に透光部と遮光部の見え方にほぼ差が無かった
△:ライト未照射時に透光部と遮光部の見え方に差がやや見えた
×:ライト未照射時に透光部と遮光部と見え方に差がはっきりとあった
【0090】
【0091】
本発明に従う織編物では、光を照射しない状態では透光部の図柄が見えず、均一な外観である一方、光を照射した場合には、透光部の図柄がクリアに見えることが確認された。これに対して、透光部と遮光部とのL*値の差が大きいと、光を照射しない状態においても図柄が認識されてしまい、透光部と遮光部との光透過率の差が小さいと、光を照射した際に図柄がクリアに見えなかった。