(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079366
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192271
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 朱音
(72)【発明者】
【氏名】坂下 武
(57)【要約】
【課題】検出感度の低下を抑制することが可能な検出装置を提供する。
【解決手段】検出装置は、気体内の物質を吸着する感応膜を有するセンサと、前記センサの温度を設定する温度設定素子と、前記温度設定素子により前記センサの温度を第1温度T1に設定させ、前記第1温度における前記センサが出力する第1信号が所定条件のとき、前記第1信号に基づき前記気体に関する情報を導出し、前記第1信号が前記所定条件以外のとき、前記温度設定素子により前記センサの温度を前記第1温度と異なる第2温度T2に設定させ、前記第2温度における前記センサが出力する第2信号に基づき前記気体に関する情報を導出する処理部と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体内の物質を吸着する感応膜を有するセンサと、
前記センサの温度を設定する温度設定素子と、
前記温度設定素子により前記センサの温度を第1温度に設定させ、前記第1温度における前記センサが出力する第1信号が所定条件のとき、前記第1信号に基づき前記気体に関する情報を導出し、
前記第1信号が前記所定条件以外のとき、前記温度設定素子により前記センサの温度を前記第1温度と異なる第2温度に設定させ、前記第2温度における前記センサが出力する第2信号に基づき前記気体に関する情報を導出する処理部と、
を備える検出装置。
【請求項2】
前記第2温度は前記第1温度より低い請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記感応膜はチャンバ内に設けられ、
前記処理部は、基準となる第1気体が前記チャンバ内に導入されかつ前記センサの温度が前記第1温度である状態において、前記センサが出力する第1基準信号を測定し、前記センサの温度が前記第1温度であるとき測定対象である第2気体を前記チャンバに導入してから第1期間経過後に、前記第1信号を測定し、
前記所定条件は、前記第1基準信号と前記第1信号との差が所定値以上である請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記第1気体が前記チャンバ内に導入されかつ前記センサの温度が前記第2温度である状態において、前記センサが出力する第2基準信号を測定し、前記センサの温度が前記第2温度において前記第2気体を前記チャンバに導入してから第2期間経過後に、前記第2信号を測定する請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記第2期間は前記第1期間より長い請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記センサは複数設けられ、
前記感応膜はチャンバ内に設けられ、
前記処理部は、基準となる第1気体が前記チャンバ内に導入されかつ前記複数のセンサの温度が前記第1温度である状態において、前記複数のセンサがそれぞれ出力する複数の第1基準信号を測定し、前記複数のセンサの温度が前記第1温度において測定対象である第2気体を前記チャンバに導入してから第1期間経過後に、前記複数のセンサがそれぞれ出力する複数の前記第1信号を測定し、
前記所定条件は、前記第1基準信号と前記複数の第1信号とのそれぞれの差である複数の差の内すべてが第1所定値以上かつ前記第1所定値より小さい第2所定値以下である請求項2に記載の検出装置。
【請求項7】
前記複数のセンサのうち少なくとも1つのセンサの感応膜の材料を、他のセンサの感応膜の材料と異なる請求項6に記載の検出装置。
【請求項8】
上面に前記センサを搭載する基板を備え、
前記温度設定素子は、前記基板の下面に接合する請求項1から7のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項9】
前記感応膜はチャンバ内に設けられ、
前記基板の上面と前記チャンバとで、前記気体が充満する空間を形成する請求項8に記載の検出装置。
【請求項10】
前記基板および前記チャンバの下に設けられ、前記センサと着脱可能なピンを介し電気的に接続され、平面視において前記基板と重なる領域に開口を有する回路基板と、
前記開口内に設けられ、前記温度設定素子の上面と前記基板の下面とを熱的に接触させる熱伝導体と、
を備える請求項9に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置に関し、例えば感応膜を有する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体等の流体中の物質を検出するセンサとして、感応膜を有するセンサが知られている。センサである圧電振動子の温度を制御することが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
感応膜を有するセンサにおいて、流体中の物質の検出感度が低くなることがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、検出感度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、気体内の物質を吸着する感応膜を有するセンサと、前記センサの温度を設定する温度設定素子と、前記温度設定素子により前記センサの温度を第1温度に設定させ、前記第1温度における前記センサが出力する第1信号が所定条件のとき、前記第1信号に基づき前記気体に関する情報を導出し、前記第1信号が前記所定条件以外のとき、前記温度設定素子により前記センサの温度を前記第1温度と異なる第2温度に設定させ、前記第2温度における前記センサが出力する第2信号に基づき前記気体に関する情報を導出する処理部と、を備える検出装置である。
【0007】
上記構成において、前記第2温度は前記第1温度より低い構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記感応膜はチャンバ内に設けられ、前記処理部は、基準となる第1気体が前記チャンバ内に導入されかつ前記センサの温度が前記第1温度である状態において、前記センサが出力する第1基準信号を測定し、前記センサの温度が前記第1温度であるとき測定対象である第2気体を前記チャンバに導入してから第1期間経過後に、前記第1信号を測定し、前記所定条件は、前記第1基準信号と前記第1信号との差が所定値以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記処理部は、前記第1気体が前記チャンバ内に導入されかつ前記センサの温度が前記第2温度である状態において、前記センサが出力する第2基準信号を測定し、前記センサの温度が前記第2温度において前記第2気体を前記チャンバに導入してから第2期間経過後に、前記第2信号を測定する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第2期間は前記第1期間より長い構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記センサは複数設けられ、前記感応膜はチャンバ内に設けられ、前記処理部は、基準となる第1気体が前記チャンバ内に導入されかつ前記複数のセンサの温度が前記第1温度である状態において、前記複数のセンサがそれぞれ出力する複数の第1基準信号を測定し、前記複数のセンサの温度が前記第1温度において測定対象である第2気体を前記チャンバに導入してから第1期間経過後に、前記複数のセンサがそれぞれ出力する複数の前記第1信号を測定し、前記所定条件は、前記第1基準信号と前記複数の第1信号とのそれぞれの差である複数の差の内すべてが第1所定値以上かつ前記第1所定値より小さい第2所定値以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記複数のセンサのうち少なくとも1つのセンサの感応膜の材料を、他のセンサの感応膜の材料と異なる構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、上面に前記センサを搭載する基板を備え、前記温度設定素子は、前記基板の下面に接合する構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記感応膜はチャンバ内に設けられ、前記基板の上面と前記チャンバとで、前記気体が充満する空間を形成する構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記基板および前記チャンバの下に設けられ、前記センサと着脱可能なピンを介し電気的に接続され、平面視において前記基板と重なる領域に開口を有する回路基板と、前記開口内に設けられ、前記温度設定素子の上面と前記基板の下面とを熱的に接触させる熱伝導体と、を備える構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出感度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1における検出装置の断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1におけるセンサの例を説明する断面図である。
【
図3】
図3は、チャンバ内の温度に対するΔfを示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1における検出装置のブロック図である。
【
図5】
図5は、実施例1における処理部のフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図5におけるステップS12およびS20のフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施例1における時間に対する、ポンプのオン/オフ、|Δf|および温度を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例2における検出装置のブロック図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実施例2おける時間に対する|Δf|の例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例2おける時間に対する|Δf|の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0019】
気体中のにおいの原因となる特定の物質を優先的に検出するセンサとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)を例にして説明する。以下、「特定の物質Aを優先的に検出する、または吸着する。」「特定物質の検出」とは、以下のように定義する。例えば、においの元となる特定の物質を吸着または検出する感応膜は、特定の物質A以外に、物質BおよびC等を吸着していると考えられる。感応膜には、物質BおよびCに比べ物質Aが吸着されやすい。このような場合、感応膜には、物質BおよびC等に対し、物質Aが優先的に吸着または検出されている。また、特定の物質Aを優先的に吸着する感応膜では、吸着された物質の全体量に対する物質Aの割合が最も多い。
【0020】
図1は、実施例1における検出装置の断面図である。検出装置は、センサ10が設けられた流路またはセンサ空間である空間23を備える。空間23は、基板25の上面を内壁とし、基板25が取りつけられたチャンバ20の内壁とともに構成され、気体を収納する空間を形成する。さらに、チャンバ20には、気体を取り込む導入路21と、気体を排出する排出路24とを有する。基板25は、例えばプリント基板などの回路基板である。センサ10は基板25の上面に搭載されている。センサ10は、空間23内に設けられており、この空間23内の気体の特定の物質を検出する。例えば導入路21に設けられたポンプにより、導入路21から特定の物質を含む気体が空間23に取り込まれ、センサ10に供給される。
【0021】
ここでは、センサ10に供給された気体は、
図1の紙面の左側の導入路21から導入され右方向に流れ、紙面の右側の排出路24から排出される。基板25の下面に熱伝導体31を介し温度設定素子30が設けられている。温度設定素子30は、例えばペルチェ素子である。温度設定素子30は、加熱と冷却の機能を有し、センサ10の温度を所望の温度に設定する。温度設定素子30は、ペルチェ素子以外に例えばヒータ等の加熱装置でもよいし、冷却装置でもよい。センサ10が設けられた基板25の下面を、熱伝導体31を介して温度設定素子30に接触させることで、センサ10の温度を設定することができる。熱伝導体31を設けず、基板25の下面に温度設定素子30を直接接触させてもよいが、熱伝導体31を設けた方がよい。熱伝導体31は、例えばゲル状であり、基板25の表面との密着性が高く、基板25より熱伝導率が高い材料である。
【0022】
図2は、実施例1に採用したFBARセンサの断面図である。センサ10は、共振器15および感応膜16を備えている。共振器15では、基板11上に空隙13を介して下部電極14aが設けられ、下部電極14a上に圧電層12が設けられ、さらに圧電層12上に上部電極14bが設けられている。空隙13はキャビティである。圧電層12を挟み、下部電極14aと上部電極14bとが重なる領域は弾性波が振動する共振領域17である。平面視において共振領域17は空隙13と重なる。平面視において共振領域17内の上部電極14b上に感応膜16が設けられている。感応膜16は、気体内の特定の物質を吸着させる。特定の物質が感応膜16に吸着されると、感応膜16の質量が増加する。これにより、共振器15の共振周波数が低くなり、発振回路26の発振周波数が低くなる。測定器28は、この発振回路26の発振周波数を測定する。
【0023】
基板11は、例えばシリコン基板、サファイア基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板である。下部電極14aおよび上部電極14bは、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの膜から複数の種類を選択した積層膜である。圧電層12は、例えば窒化アルミニウム(AlN)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜、窒化ガリウム(GaN)膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜、チタン酸鉛(PbTiO3)膜、タンタル酸リチウム(LiTaO3)膜またはニオブ酸リチウム(LiNbO3)膜である。
【0024】
感応膜16の材料は、例えば高分子材料、多孔質材料または有機金属化合物である。高分子材料としては、例えばセルロース、フッ素系ポリマー、ポリエチレンイミン、エステル系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリスチレン、ポリブタジエン、シクロオレフィンポリマー等であり、高分子材料は特定の物質が結合しやすい官能基を有している。多孔質材料は、例えばゼオライト、UiO-66またはZIF-8等のMOF(Metal Organic Flamework)である。有機金属化合物は、例えば金属フタロシアニンまたは金属ポルフィリンである。有機金属化合物の金属は、例えば銅、ニッケル、コバルトまたは亜鉛である。
【0025】
共振器15としては、FBAR以外にSMR(Solidly Mounted Resonator)またはSAW(Surface Acoustic Wave)共振器でもよい。共振器15は、水晶振動子を用いたQCM(Quartz Crystal Microbalance)でもよい。検出する気体内の物質としては、例えばエタノール、アセトンもしくはトルエン等の有機化合物、または、アンモニア、窒素酸化物、オゾンもしくは塩素等の無機物質である。また、導入される気体は、例えばにおいの元となる色々な成分(特定の物質)を有し、その中の特定の物質として例えば前述した物質が含まれている。例えば、エタノールおよびエタノール以外のガスを含む気体を用意し、その中からエタノールを検出する。
【0026】
以下、発明者が行った実験の結果を示す。チャンバ20内の温度と発振周波数の変動量との関係を調べた。共振器15は、FBARである。下部電極14aは、基板11側から厚さが70nmのクロム膜および厚さが166nmのルテニウム膜である。圧電層12は厚さが996nmの(002)方向に配向する窒化アルミニウム膜である。上部電極14bは、圧電層12側から厚さが166nmのルテニウム膜および厚さが55nmのクロム膜である。感応膜16は、厚さが80nmのポリマー系の樹脂である。共振器15の共振周波数は約2.4GHzである。
【0027】
チャンバ20内の温度を一定にし、検出する気体としてエタノールの濃度が90ppmの空気を10分間チャンバ20内に導入した後の、発振周波数の変動量Δfを測定した。気体内の特定の物質の分子(ここではエタノール)が、感応膜16に吸着されるにつれ、時間経過とともに、徐々に変動量Δfの変化が小さくなっていく。変動量Δfを測定する時点は、この変動量Δfの変化が安定化し、一定となる時点である。以降、この変動量Δfを測定する時点を、単に「安定化」したときまたは時点と呼ぶ。
【0028】
図3は、センサの温度を4つの温度に設定し、各温度において、測定対象の気体を導入する前と導入した後の変動量Δfを算出してグラフにしたものである。なお、各測定において温度以外は同じ条件である。
【0029】
式で表せば、測定対象となる気体が感応膜16に触れる前の基準となる発振周波数をf0とし、測定対象の気体が感応膜16に触れた後の発振周波数をfとしたとき、Δf=f0-fである。
図3は、チャンバ内の温度を横軸に設定したとき、Δfを縦軸に示す図である。Δfがマイナスの符号のときは、検出する気体を導入した後に発振周波数が低くなっていることを示している。ドットは測定点を示し、直線は近似直線を示している。
【0030】
チャンバ20内の温度を一定とし、上記のように安定化した時点においてΔfを測定した場合、感応膜16には、気体内の特定の物質の分子が吸着と脱離を繰り返しており、吸着量と脱着量が平衡状態となって、感応膜16の質量は一定となる。このため、Δfは一定となる。本実験によれば、チャンバ20内の温度が低いときΔfの絶対値は大きい。これは、温度が低いときには、気体中の特定の物質(例えばエタノール)の分子が感応膜16に吸着する量が増えた状態で、平衡状態となるためと考えられる。一方、チャンバ20内の温度が高いときΔfの絶対値は小さい。これは、温度が高くなると、気体中の分子が感応膜16に吸着する量が減った状態で、平衡状態となるためと考えられる。
【0031】
このように、感応膜16の温度が低くなると、Δfの絶対値が大きくなり、センサ10の検出感度が向上する。一方、温度が低くなると、感応膜16への物質の分子の吸着速度が遅くなり、安定化するまでの時間が長くなる。一方、感応膜16の温度が高くなると、感応膜16への物質の分子の吸着速度が速くなり、安定化するまでの時間が短くなる。
【0032】
センサ10の検出精度を向上させるために、安定化した時点でのセンサ10の測定値を用いることが好ましい。安定化する前にセンサ10の測定値を取得すると、センサ10の検出精度が悪化する。一方、安定化したあとに、センサ10の測定値を取得すると、検出精度は向上するが測定時間が長くなるという問題がある。
【0033】
このように、感応膜16の温度が低いと、センサ10の検出感度は高いが、センサ10が特定の物質を検出する時間が長くなる。感応膜16の温度が高いと、センサ10が特定の物質を検出する時間は短いが、検出感度は低くなる。上記説明した通り、このような現象は、温度を変えたときの、分子の感応膜16への吸着および脱離のメカニズムに起因するものである。一般には、温度が高くなると分子の感応膜16への吸着および脱離は促進される。よって、上記現象は、感応膜16の材料および検出する物質の種類によらず、生じる現象と言える。
【0034】
実施例1では、このような現象に基づき、センサ10の温度を第1温度に設定し、第1温度におけるセンサが出力する第1信号が所定条件のとき、第1信号に基づき気体に関する情報を導出する。第1信号が所定条件以外のとき、センサ10の温度を第1温度と異なる第2温度に設定し、第2温度におけるセンサが出力する第2信号に基づき気体に関する情報を導出する。これにより、センサ10の検出感度が低い場合には、センサ10を適切な検出感度とすることができる。または、センサ10の安定化までの時間が長い場合に、時定数の小さな応答で気体中の物質を検出することができる。詳細を以下に説明する。
【0035】
図4は、実施例1における検出装置のブロック図である。チャンバ20内に、センサ10および温度センサ18が設けられている。センサ10および温度センサ18は、基板25上に搭載されている。チャンバ20には、導入路21aおよび21bより気体50aおよび50bが導入され、排出路24より、チャンバ20内を通過した気体52が排出される。導入路21aおよび21bにポンプ22aおよび22bがそれぞれ設けられている。ポンプ22aを駆動することで、基準となる気体50aがチャンバ20内に導入される。そのため、ポンプ22aの前または後ろにフィルタが取り付けられている。
【0036】
この基準の気体50aは、水分およびにおい成分(特定の物質の分子)が除去されている。外部の気体を、フィルタを通過させることにより、水分およびにおい成分が除去され、気体50aはクリーンな空気かつドライな空気となる。ポンプ22bを駆動することで、測定対象となる気体50bがチャンバ20内に導入される。気体50bは、例えば、におい成分を含む空気である。
【0037】
処理部32は、例えばプロセッサである。処理部32には、ソフトウエアが組み込まれている。処理部32は、ソフトウエアと協働し、演算または推測により気体50bに関する情報を導出する。気体50bに関する情報は、例えば、気体50b内の特定の物質の濃度の情報、または、気体50bに、どのようなにおい成分が含まれているのかという情報である。また、処理部32は、温度センサ18の出力信号に基づき、温度設定素子30が設定する温度等を制御する制御部として機能する。処理部32の少なくとも一部は専用回路等のハードウエアにより形成されていてもよい。処理部32は、測定器28の測定結果および温度センサ18の検出した温度に基づき、温度設定素子30およびポンプ22aおよび22bを制御する。メモリ34は、例えば揮発性メモリまたは不揮発性メモリであり、データおよびプログラムなどを記憶する。
【0038】
図5は、実施例1における処理部のメインのフローを示すフローチャートである。
図6は、このメインのフローにおける測定処理のフローのフローチャートである。ここでは、
図6のフローは、
図5の測定ステップS12およびS20のときに実施される。
【0039】
図7は、横軸を時間に設定している。1番上のグラフは、ポンプ22aおよび22bのオン/オフ駆動を示している。上から2番目のグラフは、|Δf|の変動を示している。上から3番目のグラフは、センサ10の温度を示している。なお、|Δf|は、Δfの絶対値を示している。|Δf|は、各温度における基準となる発振周波数f0を仮定したときの|f-f0|である。
【0040】
センサ10の温度は、温度T1、T2およびT3に設定される。温度T1は、室温よりやや高い温度であり、例えば40℃である。温度T2は、室温より低い温度であり、例えば5℃~15℃である。温度T3は温度T1より高い温度であり、例えば70℃である。このように、加熱と冷却の両方を、1つの素子で可能な温度設定素子30として、ペルチェ素子を用いることができる。
【0041】
図7において、時刻t1~t2の期間P1は、通常感度モードの測定を行う期間であり、時刻t5~t6の期間P2は、高感度モードの測定を行う期間である。この2つのモードの切り分けは、以下のように行われる。通常感度モードにおいて測定される|Δf|に対し目標値Δfthが設定され、センサ10により測定された|Δf|が目標値Δfthを越えたか否かを判定する。|Δf|がΔfthを越えた場合、導入された気体50b内の検出する物質が感応膜16に十分に吸着している。このため通常感度モードで気体50b内の物質を解析できると判定する。この場合、点線で示す曲線S1のように、時刻t1~t2の間において気体50b内の物質を測定し、時刻t3において終了する。
【0042】
また、センサ10で測定された|Δf|が目標値Δfthよりも低いと判定された場合、高感度な測定を行う。この場合には、ポンプ20aをオンし、空間23に基準となる気体50a(すなわち、リフレッシュガス)を導入しつつ、センサ10を温度T3まで加熱して、感応膜16に吸着したガスを脱離させてリフレッシュする。その後、センサ10を温度T2まで低下させ、センサ10の感度を高くして、ポンプ22bをオンし、空間23に測定対象の気体50bを導入し、時刻t5から再度測定を開始する。
【0043】
このように、センサ10の感度が高いと判定された場合は、そのまま気体50bに関する情報を導出して終了する。センサ10の感度が低いと判断された場合には、センサ10を高温としつつ、ポンプ22aをオンし、気体50aをセンサ10に供給して感応膜16をリフレッシュする。その後、センサ10の感度を高くするため、センサ10の温度T2を低温にして、再度測定を開始する。
【0044】
こうして、センサ10の感応膜16への吸着量が少ない検出物質を含む気体50bが空間23に導入された場合、または、気体50b内の検出物質の濃度が低い場合に、センサ10を低温とし、センサ10の感度を高めて測定が可能となる。さらに、感応膜16に吸着された物質をリフレッシュし、再度測定を行うため、感応膜16に吸着していたノイズ源となる物質を除去できる。このため、センサ10を高感度化でき、センサ10の長期使用が可能となる。
【0045】
なお、センサ10の感度が低いことが、感応膜16にノイズ源となる物質が結合してしまい、感応膜16の劣化に起因する場合がある。このように、感応膜16に恒久的に物質が結合してしまうと、測定前から感応膜16の質量が増加する。また、感応膜16における吸着サイトの数が減るため、同じ濃度の検出物質を含む気体50bを供給しても、同じ感度が得られなくなる。このように、センサ10の感度が低下し、1回以上のリフレッシュをしても、|Δf|が目標値Δfthに到達しない場合は、センサ10の交換時期と判断し、処理部32から交換の指示を発出してもよい。なお、この指示は、ディスプレイに表示されてもよい。
【0046】
続いて、
図5から
図7を参照し、処理部32の具体的な処理について説明する。
【0047】
図5のように動作が開始されると、ステップS10の「T1に設定」に移行する。ステップS10において、処理部32は、温度設定素子30にセンサ10を温度T1に設定させる。
図7の時刻t0では既にセンサ10の温度は、温度設定素子30により温度T1(例えば40℃)に設定されている。
【0048】
時刻t0~t1において、処理部32は、温度T1を維持した状態において、ポンプ22aをオンとし、空間23にリフレッシュガスとなる気体50aを導入する。空間23に気体50aが導入され、温度T1においてセンサ10の感応膜16はリフレッシュされている。
【0049】
まず、通常感度モードについて説明する。時刻t1において、ステップS12の通常感度モードの測定処理に移行する。測定処理では、
図6のように、ステップS30において、処理部32は、ポンプ22aをオンし、空間23に基準となる気体50aを導入する。すでに、空間23に気体50aを導入している場合には、ステップS30は行わなくてもよい。続いて、ステップS32において、処理部32は、測定器28から基準となる発振周波数f0を取得する。
【0050】
ステップS34において、処理部32は、ポンプ22aをオフし、ポンプ22bをオンし、空間23に測定対象となる気体50bを導入する。続いて、ステップS36において、時刻t1から期間P1経過後の時刻t2において、処理部32は、測定器28から発振周波数fを取得する。続いて、ステップS38において、処理部32は、|Δf|=|f-f0|を算出する。その後、測定処理を終了し
図5に戻る。
【0051】
図7において、センサ10の感度が低くない場合は、期間P1において、処理部32が導出した|Δf|は、点線の曲線S1のように、時間とともに大きくなり、目標値Δfthを越える。
【0052】
図5のステップS14の判定のステップにおいて、処理部32は、|Δf|は所定の範囲か判定する。|Δf|が目標値Δfthを越えるとき、処理部32は、|Δf|は所定範囲であると判定し、Yesの矢印のように、ステップS22へ移行する。
【0053】
ステップS22は、算出のステップである。ステップS22において、処理部32は、|Δf|の値から、気体50bに関する情報を算出する。ステップS22が終了すると、ステップS24に移行する。ステップS24において、処理部32は、ポンプ22aをオンし、センサ10を温度T3に設定する。感応膜16が温度T3の高温下でリフレッシュされる。その後、温度T1に戻り、時刻t3において終了する。
【0054】
次に、高感度モードの場合について説明する。
図7において、センサ10の感度が低い場合は、実線の曲線S2のように、期間P1において、|Δf|の上昇は小さく、時刻t2においても目標値Δfthを越えない。このとき、
図5のステップS14において、処理部32は、|Δf|が所定範囲でないと判定する。Noの矢印のように、時刻t2において、ステップS16に移行する。
【0055】
ステップS16において、処理部32は、ポンプ22aをオンし、センサ10を温度T3に設定する。時刻t3までの所定期間、センサ10は温度T3に維持され、空間23に気体50aが導入される。感応膜16は、高温の温度T3においてリフレッシュガスの気体50aに曝される。このため、感応膜16に吸着された物質は、ほとんど脱離され、感応膜16はリフレッシュされる。
【0056】
続いて、時刻t4において、ステップS18に移行する。ステップS18において、処理部32は、センサ10を低い温度T2に設定する。処理部32は、時刻t4~t5の間、センサ10を温度T2に設定し、空間23に気体50aを導入する。この時刻t4~t5では、|Δf|がほぼゼロである。
【0057】
続いて、時刻t5において、ステップS20の高感度モードの測定処理に移行する。測定処理では、
図6のように、ステップS30において、処理部32は、空間23に基準となる気体50aを導入する。続いて、ステップS32において、処理部32は、測定器28から基準となる発振周波数f0を取得する。ステップS34において、処理部32は、空間23に測定対象となる気体50bを導入する。続いて、時刻t5から期間P2経過後の時刻t6において、ステップS36として、処理部32は、測定器28から発振周波数fを取得する。続いて、ステップS38において、処理部32は、|Δf|=|f-f0|を算出する。その後、測定処理を終了し
図5に戻る。
【0058】
図7において、センサ10の温度がT2のとき、センサ10の感度が高くなる。このため、実線の曲線S2のように、期間P2において、|Δf|は時間とともに大きくなる。
【0059】
続いて、
図5のステップS22において、処理部32は、|Δf|の値から、気体50に関する情報を算出する。ステップS22が終了すると、時刻t6においてステップS24に移行する。ステップS24において、処理部32は、感応膜16をリフレッシュし、時刻t7において終了する。
【0060】
図7の期間P1における曲線S1では、|Δf|が大きくなる。これは、感応膜16に気体中の特定物質の分子が吸着していることを示している。一方、曲線S2では、|Δf|が多少大きくなるものの|Δf|は曲線S1に比べて小さい。これは、感応膜16に気体中の特定物質の分子が吸着しているものの、吸着する分子の量が小さいことを示している。
【0061】
図5のステップS12および
図6のステップS32のように、処理部32は、基準となる気体50a(第1気体)がチャンバ20内に導入されかつセンサ10の温度が温度T1(第1温度)である状態において、センサ10が出力する発振周波数f0(第1基準信号)を測定する。ステップS36のように、温度T1において測定対象である気体50b(第2気体)をチャンバ20に導入してから期間P1(第1期間)経過後に、センサ10の発振周波数f(第1信号)を測定する。
図5のステップS14において、処理部32は、発振周波数f0とfとの差|Δf|がΔfth(所定値)以上のとき、Yesと判定する。これにより、温度T1において、センサ10の感度が高いときには、ステップS22において、処理部32は、気体に関する情報を算出できる。
【0062】
ステップS14において、Noのとき、
図5のステップS20および
図6のステップS32のように、処理部32は、気体50aがチャンバ20内に導入されかつセンサ10の温度が温度T1より低い温度T2である状態において、センサ10が出力する発振周波数f0(第2基準信号)を測定する。ステップS36のように、処理部32は、温度T2において気体50bをチャンバ20に導入してから期間P2(第2期間)経過後に、センサ10の発振周波数fを測定する。このように、温度T1において、センサ10の感度が低いときには、センサ10の温度を温度T2に設定することでセンサ10の感度を高くして、ステップS22において、処理部32は、気体に関する情報を算出できる。
【0063】
温度T2が温度T1より低いとき、期間P2は期間P1より長くなる。よって、最初からセンサ10の温度が低い温度T2として、気体の測定を行うと、測定時間が長くなる。実施例1では、最初は、高い温度T1において、気体の測定を行い、センサ10の感度が十分でないときに、温度T2において、気体の測定を行う。これにより、気体の測定時間を短縮できる。
【0064】
温度T1は、室温よりやや高い温度であり、例えば30℃以上かつ50℃以下であり、35℃以上かつ45℃以下である。温度T2におけるセンサ10の感度を向上させる観点から、温度T2は、温度T1より5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましい。また、温度T2は0℃以上かつ15℃以下が好ましい。温度T3は、感応膜16をリフレッシュする観点から70℃以上かつ80℃以下が好ましい。温度T1において、測定時間を短縮させる観点から、期間P2は期間P1の2倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましい。期間P2が長すぎると測定時間が長くなってしまう。この観点から期間P1は期間P2の50倍以下が好ましい。
【0065】
図5から
図7では、温度T2が温度T1より低い例を説明したが、温度T2は温度T1より高くてもよい。例えば、|Δf|が大きすぎると、気体に関する情報の算出精度が低くなる場合がある。このような場合に、通常、特定の物質の濃度が比較的低い気体の測定を行っている。温度T1はセンサ10の感度を高くするように低い温度とする。ステップS14において、処理部32は、|Δf|がΔfth以下のときYesと判定し、Δfthより大きいときNoと判定する。|Δf|がΔfth以下のときには、センサ10の感度が高く、特定の物質の濃度が低くても気体に関する情報の算出精度を高くすることができる。|Δf|がΔfthより大きいときには、センサ10の感度が高すぎて、特定の物質の濃度が高い場合に気体に関する情報の算出精度が低下する。そこで、ステップS18において、センサ10の温度を温度T2とし、センサ10の感度を低くする。これにより、気体に関する情報の算出精度を向上させることができる。
センサ10a~10dを温度T2に設定した後の期間P2では、センサ10a~10dの感度が高くなる。これにより、センサ10a~10cの|Δf|が大きくなる。センサ10dの感応膜16は、特定の物質をほとんど吸着しない。このため、温度T2においてもセンサ10dの|Δf|はノイズレベルである。センサ10a~10cの|Δf|が大きいため、ステップS22において、処理部32はセンサ10a~10cの|Δf|に基づき、気体に関する情報を算出する。