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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079368
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】インク用樹脂エマルション
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240604BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240604BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192275
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂元 芳峰
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀明
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC02
2C056HA46
2H186FA07
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB56
4J039AD09
4J039AD10
4J039BA13
4J039BA35
4J039BC10
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE28
4J039CA06
4J039EA43
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】乾燥温度が低くても密着性を示す新規のインクの提供を課題とする。
【解決手段】上記課題は、芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマー由来の構造単位(A)と、式(b1)で表される化合物由来の構造単位(B)と、反応性乳化剤由来の構造単位(C)を有する重合体を含むことで解決できる。
[式(b1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2およびR3はアルキル基を表し、R2およびR3のアルキル基の合計炭素数は2~20であり、かつR2の炭素数≦R3の炭素数を満たす。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマー由来の構造単位(A)と、式(b1)で表される化合物由来の構造単位(B)と、反応性乳化剤由来の構造単位(C)を有する重合体を含む、インク用樹脂エマルション。
【化1】
[式(b1)において、R1は水素原子またはメチル基を表す。R2およびR3はアルキル基を表し、R2およびR3のアルキル基の合計炭素数は2~20であり、かつR2の炭素数≦R3の炭素数を満たす。]
【請求項2】
前記重合体における、構造単位(B)と構造単位(A)の質量比(構造単位(B)/構造単位(A))が、0.2~12である請求項1に記載の樹脂エマルション。
【請求項3】
前記重合体が、さらに酸基含有モノマーに由来する構造単位及び水酸基含有モノマーに由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の樹脂エマルション。
【請求項4】
デジタル印刷用である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂エマルション。
【請求項5】
インクジェット印刷用である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂エマルション。
【請求項6】
芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマー由来の構造単位(A)と、式(b1)で表される化合物由来の構造単位(B)と、反応性乳化剤由来の構造単位(C)を有する重合体を含むインク。
【化2】
[式(b1)において、R1は水素原子またはメチル基を表す。R2およびR3はアルキル基を表し、R2およびR3のアルキル基の合計炭素数は2~20であり、かつR2の炭素数≦R3の炭素数を満たす。]
【請求項7】
請求項6に記載のインクが、基材上に印刷されてなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク用樹脂エマルション及びインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、軟包装基材にインクを用いて画像を記録する技術が発展してきている。特に軟包装基材としては、安価で、かつ成形性、耐薬品性、耐熱性などの優れた性能を多数有する点から、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂から形成される基材(特に延伸ポリプロピレン基材)が使用されることが多く、前記ポリオレフィン樹脂に記録できるインクが開発されている。しかし、前記ポリオレフィン樹脂は、非極性であり、結晶性を有するため、水性インクが弾かれやすく、インク層を密着させるのが困難であるという問題がある。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリオレフィン樹脂等の低吸水性印刷媒体への印刷における定着性を高めるため、顔料を含有する特定の水不溶性ポリマー粒子Aと、顔料を含有しない特定の水不溶性ポリマー粒子Bと、水とを含有する水系インクであって、該ポリマー粒子Bを構成する水不溶性ポリマーP2のガラス転移温度が-30℃以上40℃以下であり、該ポリマー粒子Bのキュムラント平均粒径が5nm以上30nm以下である、水系インクを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-84087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例では、ポリマー粒子Bを構成する水不溶性ポリマーP2として、芳香族基含有モノマー由来の構成単位が含まれている。芳香族基含有モノマーや脂環式モノマー等の環状モノマー由来の構造単位を有することは、得られるインクのポリオレフィン樹脂への密着性を高めるのに有用である。ここで、前記ポリオレフィン樹脂を用いた基材にインクを付与して乾燥させる場合、基材の収縮を避けるために低温で乾燥させることがある。しかしながら、前記環状モノマー由来の構造単位を有するポリマーを用いたインクでは、乾燥温度が低いと、ポリオレフィン樹脂基材に対し十分な密着性が発現しない場合があることが分かった。
【0006】
そこで本発明は、乾燥温度が低くても密着性を示す新規のインクの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマーと共に、特定の構造を有する化合物と反応性乳化剤とを共重合させることで、乾燥温度が低くても密着性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマー由来の構造単位(A)と、式(b1)で表される化合物由来の構造単位(B)と、反応性乳化剤由来の構造単位(C)を有する重合体を含む、インク用樹脂エマルション。
【化1】
[式(b1)において、R1は水素原子またはメチル基を表す。R2およびR3はアルキル基を表し、R2およびR3のアルキル基の合計炭素数は2~20であり、かつR2の炭素数≦R3の炭素数を満たす。]
[2] 前記重合体における、構造単位(B)と構造単位(A)の質量比(構造単位(B)/構造単位(A))が、0.2~12である[1]に記載の樹脂エマルション。
[3] 前記重合体が、さらに酸基含有モノマーに由来する構造単位及び水酸基含有モノマーに由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種を含む[1]又は[2]に記載の樹脂エマルション。
[4] デジタル印刷用である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂エマルション。
[5] インクジェット印刷用である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂エマルション。
[6] 芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマー由来の構造単位(A)と、式(b1)で表される化合物由来の構造単位(B)と、反応性乳化剤由来の構造単位(C)を有する重合体を含むインク。
【化2】
[式(b1)において、R1は水素原子またはメチル基を表す。R2およびR3はアルキル基を表し、R2およびR3のアルキル基の合計炭素数は2~20であり、かつR2の炭素数≦R3の炭素数を満たす。]
[7] [6]に記載のインクが、基材上に印刷されてなる印刷物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乾燥温度が低くても密着性を示す新規のインクの提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。「(メタ)アクリロキシ」や「(メタ)アクリロイル」等の用語も同様である。また、「~由来の構造単位」とは、各モノマー成分が有するエチレン性不飽和二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が単結合(-C-C-)となった構造)に相当する。
【0011】
本発明のインク用樹脂エマルション及びインクは、芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマー由来の構造単位(A)と、式(b1)で表される化合物由来の構造単位(B)と、反応性乳化剤由来の構造単位(C)を有する重合体を含むことを特徴とする。
【0012】
[重合体]
以下、前記重合体を構成する各成分に関して説明する。
【0013】
[芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマー]
前記重合体は、芳香族モノマー及び脂環式モノマーから選択される少なくとも1種のモノマー(以下、環状モノマーという場合がある)由来の構造単位(A)を有する。なお、本明細書において、後述する反応性乳化剤に該当する化合物は、環状モノマーに包含されない。前記重合体が構造単位(A)を有することにより、基材への密着性を高めることができる。
【0014】
前記芳香族モノマーとしては、分子中に少なくとも1個の芳香族炭化水素環と少なくとも1個の重合性不飽和基を有するものであることが好ましく、該芳香族炭化水素環としてはベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環等が挙げられ、中でもベンゼン環が好ましい。
【0015】
芳香族モノマーとしては、スチレン系モノマー、アリール(メタ)アクリレート、アラルキル(メタ)アクリレート、ビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレート、アリール基を有するマレイミド等が挙げられる。
前記スチレン系モノマーとしては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等のC1-4アルキル基)、ビニル基、アルコキシシリル基(例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリC1-4アルコキシシリル基)等の置換基を1つ以上有していてもよいスチレンが挙げられる。前記置換基としては、ハロゲン原子及びアルキル基から選択される少なくとも1種が好ましい。前記スチレン系モノマーとしては、具体的に、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ジビニルベンゼン、p-スチリルトリメトキシシラン、2-スチリルエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
前記アリール(メタ)アクリレートとしては、具体的に、フェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
前記アラルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的に、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、ナフチルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
前記ビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
前記アリール基を有するマレイミドとしては、N-フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0016】
前記脂環式モノマーとしては、分子中に少なくとも1個の脂環式炭化水素環と少なくとも1個の重合性不飽和基を有するものであることが好ましく、該脂環式炭化水素環としては、飽和であっても不飽和であってもよいが、飽和であることが好ましい。また、前記脂環式炭化水素環は、単環式であってもよく、二環、三環などの多環式であってもよい。多環式の場合、縮合環であることが好ましく、橋掛け環であることが特に好ましい。前記脂環式炭化水素環としては、炭素数3~10の環、例えば、シクロアルキル基、イソボルニル基、アダマンチル基などが好ましい。
【0017】
前記脂環式モノマーとしては、具体的に、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸とシクロアルカノールとのエステル;イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多環式アルコールとのエステル;N-シクロヘキシルマレイミド等のシクロアルキル基含有マレイミド;等が挙げられる。
【0018】
前記環状モノマーとしては、スチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸とシクロアルカノールとのエステル、(メタ)アクリル酸と多環式アルコールとのエステルが好ましく、スチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸と炭素数6~10のシクロアルカノールとのエステル、イソボルニル(メタ)アクリレートがより好ましく、スチレン、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0019】
環状モノマー由来の構造単位(A)は、重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0020】
前記重合体における環状モノマー由来の構造単位(A)の割合は、10質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上であり、また、95質量%以下が好ましく、より好ましくは90質量%以下である。
【0021】
[式(b1)で表される化合物]
前記重合体は、下記式(b1)で表される化合物由来の構造単位(B)を有しており、すなわち、前記重合体は、下記式(b1’)で表される構造単位(B)を有する。式(b1)で表される化合物は(メタ)アクリル酸と2級アルキルアルコールとのエステルに相当する。前記重合体が構造単位(B)を有すると、エステルとなるアルコールが2級アルコールであるために1級アルコールに比べてカルボン酸基を高度に被覆でき、またエステルとなるアルコールが鎖状であるために環状である場合と比べてアルコールの炭化水素部分が基材に対して拡がりやすくなるためか、乾燥温度が低くても基材に対する密着性を高めることができる。また、前記重合体が構造単位(B)を有することで、1級アルコールに比べてエステル部分が嵩高い結果、ポリマー鎖の運動性が向上し、成膜性が向上する。更に、該重合体を含むインクから形成される塗膜(画像)の伸び性及び耐水性が向上する。インクから形成される塗膜の伸び性が向上することで、軟包装基材等の柔軟性を有する基材に対して塗膜が追従することができ、塗膜剥がれを防止でき、インクから形成される塗膜の耐水性が向上することで耐湿熱環境や高水分環境下での塗膜剥がれを抑制できる。
【0022】
【化3】
[式(b1)及び(b1’)において、R1は水素原子またはメチル基を表す。R2およびR3はアルキル基を表し、R2およびR3のアルキル基の合計炭素数は2~20であり、かつR2の炭素数≦R3の炭素数を満たす。]
【0023】
2及びR3で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0024】
2及びR3で表されるアルキル基としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル、n-ドデシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2,3-ジメチル-2-ブチル基、3-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル等の分岐鎖状アルキル基;が挙げられる。
【0025】
2およびR3のアルキル基の合計炭素数は3~20であることが好ましく、より好ましくは3~15、さらに好ましくは5~14である。
また、R2のアルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましく、より好ましくは1又は2である。
また、R3のアルキル基の炭素数は、4~12であることが好ましく、より好ましくは4~10である。
【0026】
式(b1)で表される化合物としては、具体的に、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチル(メタ)アクリレート、2-ペンチル(メタ)アクリレート、3-メチル-2-ブチル(メタ)アクリレート、3-ペンチル(メタ)アクリレート、2-ヘキシル(メタ)アクリレート、3,3-ジメチル-2-ブチル(メタ)アクリレート、3-メチル-2-ペンチル(メタ)アクリレート、4-メチル-2-ペンチル(メタ)アクリレート、2,4-ジメチル-3-ペンチル(メタ)アクリレート、2-ヘプチル(メタ)アクリレート、2-メチル-3-ヘキシル(メタ)アクリレート、3-ヘプチル(メタ)アクリレート、4-ヘプチル(メタ)アクリレート、5-メチル-2-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-オクチル(メタ)アクリレート、2,2-ジメチル-3-ヘキシル(メタ)アクリレート、2,5-ジメチル-3-ヘキシル(メタ)アクリレート、3-オクチル(メタ)アクリレート、4-オクチル(メタ)アクリレート、5-メチル-2-ヘプチル(メタ)アクリレート、5-メチル-3-ヘプチル(メタ)アクリレート、6-メチル-2-ヘプチル(メタ)アクリレート、6-メチル-3-ヘプチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、2-オクチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
特に、2-オクチル(メタ)アクリレートは、バイオマス材料を原料として合成することができ、環境負荷低減の観点から好ましい。具体的に、トウゴマの種子から採取及び抽出されるひまし油から誘導されたリシノール酸をクラッキングした後、副生成物であるセバシン酸を含む混合物から蒸留するなどして得られた2-オクタノールと、(メタ)アクリル酸とをエステル化することで得ることができる。なおこの際使用される(メタ)アクリル酸は、バイオ由来であっても石油由来であってもよい。
【0028】
式(b1)で表される化合物由来の構造単位(B)は、前記重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0029】
前記重合体における構造単位(B)の割合は、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、90質量%以下が好ましく、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。構造単位(B)の割合を上記範囲に調整することで、低温乾燥時の密着性をより高めることができる。
【0030】
また前記重合体における、構造単位(B)と構造単位(A)の質量比(構造単位(B)/構造単位(A))は、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.2以上であり、また12以下であることが好ましく、より好ましくは8以下、さらに好ましくは5以下である。質量比(構造単位(B)/構造単位(A))を上記範囲に調整することで、低温乾燥時の密着性をより高めることができる。
さらに、低温乾燥時の密着性をより顕著に高める観点からは、前記重合体における、構造単位(B)と脂環式モノマー由来の構造単位の質量比(構造単位(B)/脂環式モノマー由来の構造単位)が0.1~1.0であることが好ましく、より好ましくは0.2~0.8である。
【0031】
[酸基含有モノマー]
前記重合体は、さらに酸基含有モノマー由来の構造単位を含むことが好ましい。重合体が酸基含有モノマー由来の構造単位を含むことにより、印刷時や送液時の凝集に対する安定性を向上できる。
【0032】
酸基含有モノマーは、分子中に少なくとも1個の酸基と少なくとも1個の重合性不飽和基を有するもの(ただし、芳香族炭化水素環や脂環式炭化水素環は含まない)であればよく、前記酸基としては、スルホ基、カルボキシ基などが挙げられ、カルボキシ基が好ましい。酸基含有モノマーとしては、具体的に、(メタ)アクリル酸、ケイ皮酸、およびクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、およびシトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステル;無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸の無水物;2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。なかでも不飽和モノカルボン酸が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましい。
【0033】
酸基含有モノマー由来の構造単位は、前記重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0034】
前記重合体が酸基含有モノマー由来の構造単位を含む場合、重合体における酸基含有モノマー由来の構造単位の割合は、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上であり、また10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0035】
[水酸基含有モノマー]
前記重合体は、さらに水酸基含有モノマー由来の構造単位を含むことが好ましい。重合体が水酸基含有モノマー由来の構造単位を含むことにより、印刷時や送液時の凝集に対する安定性を向上できる。
【0036】
水酸基含有モノマーは、分子中に少なくとも1個の水酸基と少なくとも1個の重合性不飽和基を有する(ただし、芳香族炭化水素環や脂環式炭化水素環は含まない)ものであればよい。水酸基含有モノマーとしては、具体的に、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のハロゲン置換ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル2-ヒドロキシエチルフタル酸等の変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のオキシアルキレン変性モノマー;ビニルアルコール、アリルアルコール等の水酸基含有ビニルモノマー;等が挙げられる。なかでも、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0037】
水酸基含有モノマー由来の構造単位は、前記重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0038】
前記重合体が水酸基含有モノマー由来の構造単位を含む場合、重合体における水酸基含有モノマー由来の構造単位の割合は、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上であり、また10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0039】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステル]
前記重合体は、さらに、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(ただし、式(b1)で表される化合物を除く)由来の構造単位を有していてもよい。
【0040】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体的に、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、メタクリル酸C1-14アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸C1-10アルキルエステルがより好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位は、前記重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0042】
前記重合体が(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位を含む場合、前記重合体における(メタ)アクリル酸アルキルエステル(特に、メタクリル酸C1-14アルキルエステル)由来の構造単位の割合は、5質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、また、75質量%以下が好ましく、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下である。
【0043】
なお、低温乾燥時の密着性をより高める観点からは、前記重合体における、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-20℃以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、低Tg(メタ)アクリル酸アルキルエステルという場合がある)由来の構造単位の含有量が少ない方が好ましい。低Tg(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート等が挙げられる。特に、2-エチルヘキシルアクリレート由来の構造単位の含有量が少ないことが好ましい。
前記重合体における低Tg(メタ)アクリル酸アルキルエステル(特に、2-エチルヘキシルアクリレート)由来の構造単位の割合は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下又は5質量%未満、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下であり、0質量%、すなわち低Tg(メタ)アクリル酸アルキルエステル(特に、2-エチルヘキシルアクリレート)由来の構造単位を含まないことが最も好ましい。
【0044】
[窒素原子含有モノマー]
前記重合体は、さらに、窒素原子含有モノマー由来の構造単位を有していてもよい。前記重合体が窒素原子含有モノマー由来の構造単位を有することにより、密着性および耐擦過性を向上できる。
【0045】
前記窒素原子含有モノマーは、分子中に窒素原子を構成員として含む置換基と重合性不飽和基とを少なくとも有するものであればよい。なお、窒素原子含有モノマーには、芳香族炭化水素環、脂環式炭化水素環、酸基及び水酸基の少なくとも1つを有する化合物は含まれない。
窒素原子含有モノマーとしては、窒素系複素環含有モノマー、アミノ基含有モノマー、アミド基含有モノマーなどが挙げられる。なお、アミノ基含有モノマーおよびアミド基含有モノマーであるものの、窒素系複素環を含有するモノマーについては、本明細書において窒素系複素環含有モノマーとして取り扱う。
【0046】
窒素系複素環含有モノマーとしては、具体的に、
N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピロリドン等のビニルラクタム系モノマー;
マレイミド等のマレイミド系モノマー;
2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル(メタ)アクリレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル(メタ)アクリレート等のピペリジル(メタ)アクリル系モノマー;
(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2-アジリジニルエチルなどのアジリジニル基含有(メタ)アクリル系モノマー;
2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリン;等が挙げられる。
【0047】
前記アミノ基含有モノマーとしては、具体的に、N,N-ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル系モノマーなどが挙げられる。
【0048】
アミド基含有モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマーなどが挙げられる。
【0049】
窒素原子含有モノマーとしては、窒素系複素環含有モノマーが好ましく、ビニルラクタム系モノマー、ピペリジル(メタ)アクリル系モノマーがより好ましく、N-ビニル-2-ピロリドン、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル(メタ)アクリレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
また光安定性を向上させる観点からは、ヒンダードアミン構造を有する窒素原子含有モノマーが好ましい。このようなモノマーとしては、分子内に2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン環構造と重合性不飽和基とを有するモノマーが好ましく、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン環構造と重合性不飽和基とを有するモノマーがより好ましく、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル(メタ)アクリレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0050】
窒素原子含有モノマー由来の構造単位は、前記重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0051】
前記重合体が窒素原子含有モノマー由来の構造単位を含む場合、前記重合体における窒素原子含有モノマー由来の構造単位の割合は0.5質量%以上が好ましく、より好ましくは0.75質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上であり、また、15.0質量%以下が好ましく、より好ましくは12.0質量%以下、さらに好ましくは10.0質量%以下、特に好ましくは8.0質量%以下である。
【0052】
[架橋性モノマー]
前記重合体は、さらに、架橋性モノマー由来の構造単位を有していてもよい。前記重合体が架橋性モノマー由来の構造単位を有することにより、密着性および耐擦過性を向上できる。
【0053】
前記架橋性モノマーは、芳香族炭化水素環、脂環式炭化水素環、酸基、水酸基、及び窒素原子を構成員として含む置換基をいずれも有さず、且つ、分子中に架橋性官能基と重合性不飽和基を有するものであればよい。前記架橋性官能基としては、重合性不飽和基、エポキシ基、加水分解性シリル基等が挙げられる。なお、加水分解性シリル基とは、加水分解性基(例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子など)が結合したシリル基を指す。
【0054】
架橋性モノマーとしては、例えば、重合性不飽和基を2つ以上有するモノマー、加水分解性シリル基と重合性不飽和基とを有するシランカップリング剤、エポキシ基と重合性不飽和基とを有する(但し、加水分解性シリル基は含まない)エポキシ基含有架橋性モノマー等が挙げられる 。
【0055】
前記重合性不飽和基を2つ以上有するモノマーとしては、具体的に、
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのジ(メタ)アクリレート;
エチレンオキシドの付加モル数が2~50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドの付加モル数が2~50のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数2~4のアルキレンオキシド基の付加モル数が2~50であるアルキルジ(メタ)アクリレート;
エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのテトラ(メタ)アクリレート;
ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのヘキサ(メタ)アクリレート;
2-(2’-ビニルオキシエトキシエチル)(メタ)アクリレート;などが挙げられる。
【0056】
前記シランカップリング剤としては、具体的に、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシエトキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;などが挙げられる。
【0057】
前記エポキシ基含有架橋性モノマーとしては、具体的に、グリシジル(メタ)アクリレート、α-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-グリシジルオキシエチル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート;アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有ビニルモノマー;などが挙げられる。
【0058】
架橋性モノマー由来の構造単位は、前記重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0059】
前記重合体が架橋性モノマー由来の構造単位を含む場合、前記重合体における架橋性モノマー由来の構造単位の割合は、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0060】
[他のモノマー]
前記重合体は、さらに、前述のモノマー(環状モノマー、式(b1)で表される化合物、酸基含有モノマー、水酸基含有モノマー、窒素原子含有モノマー、架橋性モノマー、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル)以外の他のモノマー由来の構造単位を有していてもよい。他のモノマーとしては、前述のモノマー以外のモノマーであって、且つ分子中に少なくとも1個の重合性不飽和基を有するものであればよい。
【0061】
他のモノマーとしては、具体的に、
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレート;
メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリプロポキシ(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル基含有(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリルオキシアルキルプロペナール、アセトニル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートアセチルアセテート、ブタンジオール-1,4-アクリレートアセチルアセテート、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどのカルボニル基含有(メタ)アクリレート;
酢酸ビニル、塩化ビニル、安息香酸ビニル等のビニル系モノマー;
エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;等が挙げられる。
【0062】
他のモノマー由来の構造単位は、前記重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0063】
前記重合体における他のモノマー由来の構造単位の割合は、例えば、50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下であり、5又は3質量%以下であってもよい。また前記重合体における他のモノマー由来の構造単位の割合は、0質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、1質量%以上であってもよい。
【0064】
[反応性乳化剤]
前記重合体は、前述のモノマー成分(環状モノマー及び式(b1)で表される化合物、並びに、必要に応じて用いられる酸基含有モノマー、水酸基含有モノマー、窒素原子含有モノマー、架橋性モノマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び他のモノマー)由来の構造単位に加えて、さらに反応性乳化剤由来の構造単位(C)を有する。乳化重合の際に用いる乳化剤として反応性乳化剤を用いることで、前記重合体に構造単位(C)を導入できる。前記重合体が構造単位(C)を有することで、印刷時や送液時の凝集に対する安定性および顔料分散性を向上させる事が出来る。なお、本明細書において、反応性乳化剤とは、重合性不飽和基と親水性基と疎水性基とを有するモノマーを指し、重合性不飽和基は1つ又は2つ以上であってもよい。
重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、スチリル基などが挙げられる。
親水性基としては、乳化剤(界面活性剤)として公知の基が挙げられ、例えば、スルホン酸基、リン酸基、硫酸エステル残基、リン酸エステル残基などのアニオン性基;ポリエーテル基、エステル基などのノニオン性基;が好ましい。
疎水性基としても乳化剤(界面活性剤)として公知の基が挙げられ、例えば、アルキル基(特に炭素数が8~40程度のアルキル基)、アリール基含有炭化水素基(特に、フェニル基を有する炭素数12~40程度の炭化水素基)、多環フェニル基が好ましい。
【0065】
反応性乳化剤としては、具体的に、
プロペニル-アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩(例えば、三洋化成工業(株)製、商品名:エレミノールRS-30など)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルホネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS-10など)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンKH-10など)、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンAR-10、アクアロンAR-20など)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルホネート塩(例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSE-10など)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR-10、SR-20、SR-30など)、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルホネート塩(例えば、日本乳化剤(株)製、商品名:アントックスMS-60など)等の重合性不飽和基を有するアニオン性乳化剤;
ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンAN-10、アクアロンAN-20など)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープER-20など)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンRN-20など)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープNE-10など)等の重合性不飽和基を有するノニオン性乳化剤;等が挙げられる。
【0066】
前記反応性乳化剤としては、重合性不飽和基を有するアニオン性乳化剤が好ましく、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩がより好ましい。
【0067】
また反応性乳化剤としては、下記式(c1)~(c3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0068】
【化4】
[式(c1)中、
c1は、アルキル基を表し、
c1は、水素原子又は-SO3NH4を表し、
n1は、5~50の整数を表す。]
【0069】
【化5】
[式(c2)中、
c2は、アルキル基を表し、
c2は、水素原子又は-SO3NH4を表し、
n2は、5~50の整数を表す。]
【0070】
【化6】
[式(c3)中、
c3は、水素原子又は-SO3NH4を表し、
n3は、5~50の整数を表し、
m3は、1~3の整数を表す。]
【0071】
c1及びRc2で表されるアルキル基の炭素数は、8~40が好ましく、8~24がより好ましい。
c1~Xc3は、-SO3NH4が好ましい。
n1~n3は、10~40が好ましい。
【0072】
反応性乳化剤由来の構造単位(C)は、前記重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0073】
前記重合体における構造単位(C)の含有量は、前述のモノマー成分由来の構造単位100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.3質量部以上であり、また10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。構造単位(C)の割合を上記範囲に調整することで、印刷時や送液時の凝集に対する安定性および顔料分散性を向上させる事が出来る。
【0074】
[重合体の物性]
前記重合体の重量平均分子量(Mw)は、20万~120万であることが好ましく、30万~110万であることがより好ましく、40万~100万であることがさらに好ましい。前記重合体のMwを上記範囲に調整することで、低温乾燥時の成膜性および密着性を向上できる。
【0075】
また、前記重合体における、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とを用いて算出される分散度(Mw/Mn)は、10.0以下であることが好ましく、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは6.0以下である。また分散度の下限は1が好ましく、2又は3であってもよい。上記重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:gel permeation chromatography)を用いた標準ポリスチレン換算法によって算出することができる。
また、前記重合体における分子量が1000以下の低分子量成分の含有割合は、0.5質量%以下であってよく、0.4質量%以下、0.3質量%以下、0.25質量%以下であってよいが、0.23質量%以下が好ましく、0.20質量%以下がより好ましく、0.15質量%以下がさらに好ましく、0.13質量%以下が特に好ましい。低分子量成分の含有割合は、GPCにより得られた分子量分布を示す曲線に基づくピーク面積の割合から算出することができ、すなわち、分子量1000以下の低分子量成分の合計面積をポリマー全体の合計面積で除することにより求められる。
上述の所定の構成単位を有する本発明の重合体は、分散度を小さくすることができ、また、低分子量成分の含有割合を低くすることができる。これにより、低温乾燥時の成膜性および密着性を向上できる。
【0076】
前記重合体のガラス転移温度(Tg(℃))は、特に限定はされないが、-20℃以上が好ましく、より好ましくは-10℃以上である。インクに含まれる重合体のTgは低温乾燥時の密着性をより高める観点から、下限を上記範囲に調整することが好ましいところ、Tgが高くなると該重合体を含むインクから形成される塗膜の伸び性が低下し、柔軟な基材に追従しにくくなる場合がある。一方、本発明の上記重合体を含むインクは、Tgが高くても良好な伸び性を有することができる点で好ましい。前記重合体のTgの上限は、低温乾燥時の密着性をより高める観点から、100℃以下が好ましく、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
なお、重合体のTg(℃)は、示差熱量測定法(AST D3418-08)により測定することができるが、下記式(1)で示されるFox式から求められるTgA(K)から換算したものであってもよい。
【0077】
【数1】
[式(1)中、TgA:重合体のTg(K)、Tgn:使用した各モノマーの単独重合体のTg(K)、Wn:使用した各モノマーの配合割合(質量%)]
【0078】
なお、後述するように、前記重合体から構成される樹脂エマルション粒子は単層であっても、多層構造であってもよい。樹脂エマルション粒子が多層構造である場合、多層構造のエマルションを構成する重合体全体のガラス転移温度は、多段乳化重合の際に用いられたすべてのモノマー成分における各モノマーの配合割合とこれに対応する各モノマーの単独重合体のガラス転移温度を用いて、上記式から算出すればよい。
【0079】
[重合体の製造方法]
前記重合体の製造方法としては、前述のモノマー成分を、反応性乳化剤を含む乳化剤及び重合開始剤の存在下で水系溶剤中で、乳化重合する方法が好ましく挙げられる。乳化重合に用いる好ましいモノマー成分の種類、組み合わせ、配合比等は、上述の重合体を形成するためのモノマーについて説明した好ましい形態に準じる。乳化重合を行う際の具体的手段および条件については、従来公知の乳化重合方法における手段および技術を適宜選択し採用することができる。以下好ましい製造方法について詳述する。
【0080】
上記乳化重合を行う際に用いる乳化剤としては、反応性乳化剤を用いる。これにより、得られる重合体が、反応性乳化剤由来の構造単位(C)を有することができる。反応性乳化剤としては、上述で説明した反応性乳化剤を用いることができ、その好ましい態様も同様である。反応性乳化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0081】
また前記反応性乳化剤と共に、重合性不飽和基を含まない乳化剤(以下、非反応性乳化剤という場合がある)を用いてもよい。非反応性乳化剤としては、重合性不飽和基を含まないノニオン性乳化剤、重合性不飽和基を含まないアニオン性乳化剤、重合性不飽和基を含まないカチオン性乳化剤、重合性不飽和基を含まない両性乳化剤、重合性不飽和基を含まない高分子乳化剤等が挙げられ、従来公知の乳化剤を用いることができる。これらの非反応性乳化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。上記非反応性乳化剤の中でも、重合性不飽和基を含まないノニオン性乳化剤または重合性不飽和基を含まないアニオン性乳化剤が好ましい。
【0082】
重合性不飽和基を含まないアニオン性乳化剤としては、例えば、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェートなどのアルキルサルフェート塩;アンモニウムドデシルスルホネート、ナトリウムドデシルスルホネート、ナトリウムアルキルジフェニルエーテルジスルホネートなどのアルキルスルホネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルホネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルホネートなどのアルキルアリールスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルサルフェート塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸-ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレートなどの脂肪酸塩などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0083】
重合性不飽和基を含まないノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの縮合物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、エチレンオキサイドと脂肪族アミンとの縮合生成物などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0084】
重合性不飽和基を含まない高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレートなどのポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの重合体を構成する単量体のうちの1種類以上を共重合成分とする共重合体などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0085】
上記乳化重合を行う際に用いる乳化剤100質量%中、反応性乳化剤の含有割合は、30質量%以上が好ましく、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、また、100質量%であってもよく、90質量%以下であってもよい。
【0086】
乳化剤の使用量は、例えば、モノマー成分100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であり、また10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。なお、必要に応じ保護コロイド類を単独または乳化剤と共に使用することもできる。
【0087】
上記乳化重合を行う際に用いる重合開始剤としては、限定はされないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)などのアゾ系重合開始剤;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、過酸化アンモニウムなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0088】
上記乳化重合を行う際に用いる重合開始剤の使用量は、モノマー成分100質量部に対して、0.01~3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~2質量部、さらに好ましくは0.1~1質量部である。重合開始剤として過酸化物系重合開始剤を使用する場合に、重合速度を増大させたり反応温度を低下させたりする必要があれば、可溶性亜硫酸塩やアスコルビン酸等の還元剤あるいは硫酸第1鉄等の水中で重金属イオンを発生する金属化合物を、上記過酸化物系重合開始剤と組合せてレドックス系の開始剤とすることもできる。
【0089】
上記乳化重合を行う際の反応温度は、得られる重合体の重量平均分子量や、モノマー成分の配合割合、および、重合開始剤の種類等を考慮し、適宜設定できるが、反応温度は例えば0~100℃であり、好ましくは50~95℃、より好ましくは60~90℃であり、また反応時間は例えば0.5~30時間、好ましくは1~20時間、より好ましくは3~10時間である。反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが望ましい。
【0090】
上記乳化重合を行う際の水系溶剤としては、水をはじめ、水と水溶性有機溶剤の混合溶剤が挙げられる。水系溶剤における水の含有量は10~100質量%であることが好ましい。より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。残部は水溶性有機溶剤であることが好ましい。
【0091】
水溶性有機溶剤としては、例えば、
メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコールなどの低級アルコール;
プロピレングリコール、1,3プロパンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコール;
モノエチレングリコールモノメチルエーテル、モノエチレングリコールモノエチルエーテル、モノエチレングリコールモノプロピルエーテル、モノエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノエチレングリコールモノブチルエーテル、モノエチレングリコールモノイソブチルエーテル等のモノエチレングリコールのエーテル;
モノプロピレングリコールモノメチルエーテル、モノプロピレングリコールモノエチルエーテル、モノプロピレングリコールモノプロピルエーテル、モノプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノプロピレングリコールモノブチルエーテル、モノプロピレングリコールモノイソブチルエーテル等のモノプロピレングリコールのエーテル;
ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル等のジエチレングリコールのエーテル;
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル等のジプロピレングリコールのエーテル;
ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノエチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノイソプロピルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノブチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノイソブチルエーテル等のポリエチレングリコールのエーテル;
ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノプロピルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノイソプロピルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノイソブチルエーテル等のポリプロピレングリコールのエーテル;
2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等の複素環類;
アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;等が挙げられる。
【0092】
これらの中でも、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~4)のモノブチルエーテル、2-ピロリドンが好ましく、さらに好ましくは、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~4)のモノブチルエーテル、2-ピロリドンである。これらの水溶性有機溶剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0093】
上記乳化重合を行う際の水系溶剤の使用量は、限定はされないが、モノマー成分100質量部に対して、20~300質量部であることが好ましく、より好ましくは30~200質量部、さらに好ましくは40~150質量部である。
【0094】
上記乳化重合における具体的な重合方法としては、例えば、モノマー滴下重合法、プレエマルション滴下重合法、シード重合法および多段重合法等を挙げることができる。
【0095】
上記乳化重合における反応系内には、必要により、例えば、tert-ドデシルメルカプタンなどのチオール基を有する化合物などの連鎖移動剤、pH緩衝剤、キレート剤などの添加剤を適量で添加してもよい。添加剤の量は、その種類によって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部に対し、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
【0096】
このような乳化重合法では、得られた重合体がエマルション粒子として水系溶剤中に分散した樹脂エマルションが得られる。本発明のインクにおいて、重合体を含ませる際、樹脂エマルションとして添加することが好ましく、すなわち本発明のインクにおいて、重合体はエマルション粒子として含まれることが好ましい。当該インク用樹脂エマルションも本発明に包含される。以下、本発明のインク用樹脂エマルションについて詳述する。
【0097】
[樹脂エマルション]
本発明の樹脂エマルションに含まれるエマルション粒子は、上記重合体から構成されるエマルション粒子である。なおエマルション粒子を構成する重合体の組成や物性等の好ましい態様は、前記と同様である。本発明の樹脂エマルションにおけるエマルション粒子の含有割合は、ハンドリング性の観点から、10~80質量%が好ましく、より好ましくは20~70質量%、さらに好ましくは30~65質量%である。なお、エマルション粒子の含有割合は、樹脂エマルションの不揮発分量(固形分量)として求めることができ、すなわち、樹脂エマルションの固形分量を上記範囲に調整することが好ましい。なお本明細書において、不揮発分(固形分)とは、溶剤を除いた成分を指す。
不揮発分の算出方法としては、公知の手法を用いることができ、樹脂エマルション全質量から、重合体、及び各種添加剤に含まれる揮発成分質量を除く質量として、以下の式1の通り算出してもよく、実施例記載の通り、樹脂エマルション1gを秤量し、熱風乾燥機で110℃の温度で1時間乾燥させ、得られた残渣を不揮発分とし、下記式2の通り算出してもよい。
式1:〔樹脂エマルションにおける不揮発分量(質量%)〕=(〔樹脂エマルション全質量-揮発成分質量〕÷〔樹脂エマルション全質量〕)×100
式2:〔樹脂エマルションにおける不揮発分量(質量%)〕=(〔残渣の質量〕÷〔樹脂エマルションの質量1g〕)×100
【0098】
前記エマルション粒子の形状は特に限定されないが、通常は球状である。形状は透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡により測定することができる。また前記エマルション粒子は単層構造であってもよく、多層構造(例えば、コアシェル構造)であってもよい。
【0099】
前記エマルション粒子の体積平均粒子径は、50nm以上が好ましく、より好ましくは80nm以上、さらに好ましくは100nm以上であり、また500nm以下が好ましく、より好ましくは350nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。エマルション粒子の体積平均粒子径を上記範囲に調整することにより、インクの粘度を適正な範囲に保ちながら、エマルション粒子を高濃度に配合し易くなる。なお、エマルション粒子の体積平均粒子径は、後述の実施例で示されるように、動的光散乱法による粒度分布測定器を用いて測定すればよい。
【0100】
エマルション粒子の分散媒体である水系溶剤は、乳化重合の際に使用した水系溶剤由来の溶剤であってもよく、乳化重合の反応液若しくは単離した重合体に別途添加した溶剤であってもよい。前記水系溶剤としては、乳化重合法に用いられる溶媒として説明した水系溶剤と同様のものが挙げられる。
【0101】
本発明の樹脂エマルションにおける水系溶剤の含有量は、ハンドリング性の観点から、エマルション粒子100質量部に対して、30~900質量部が好ましく、より好ましくは50~400質量部、さらに好ましくは70~250質量部である。
【0102】
本発明の樹脂エマルションには、例えば、tert-ドデシルメルカプタンなどのチオール基を有する化合物などの連鎖移動剤、pH緩衝剤、キレート剤などの添加剤が含まれていてもよい。添加剤の量は、その種類によって異なるので一概には決定することができないが、通常、エマルション粒子100質量部に対し、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
【0103】
本発明の樹脂エマルションの粘度は、BH型粘度計で回転速度20rpmにおける25℃での粘度が、例えば、200~10000mPa・s、好ましくは300~8000mPa・s、より好ましくは400~5000mPa・sである。
【0104】
また、本発明の樹脂エマルションの最低成膜温度は、基材に対する密着性をより向上させる観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。本発明の樹脂エマルションの最低成膜温度の下限は、例えば-15℃であってもよい。なお、樹脂エマルションの最低成膜温度は、熱勾配試験機の上に置いたガラス板上に樹脂エマルションを厚さが0.2mmとなるようにアプリケーターで塗工して乾燥させ、クラックが生じたときの温度を意味する。
【0105】
[インク]
本発明のインクは、前記重合体(好ましくは前記エマルション粒子)を含むものである。インクにおける前記重合体(好ましくは前記エマルション粒子)の含有割合は、インクに要求される特性に応じて設定すればよいが、5質量%以上が好ましく、より好ましくは8質量%以上であり、また40質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。インクの固形分(不揮発分)における前記重合体(好ましくは前記エマルション粒子)の含有割合は、15質量%以上が好ましく、より好ましくは25質量%以上であり、また、100質量%であってもよく、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0106】
本発明のインクはさらに着色剤を有していてもよい。着色剤の色相としては、例えば、ホワイト、ブラック、グレーなどの無彩色およびイエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーンなどの有彩色が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、本発明のインクをクリアインクとして用いる場合、着色剤を含む必要はない。
【0107】
着色剤としては、顔料および染料が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのなかでは、耐候性に優れていることから、顔料が好ましい。顔料を用いる場合、当該顔料は、例えば、ペーストなどの顔料分散液の形態で用いてもよい。顔料としては、有機顔料および無機顔料が挙げられる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
【0108】
有機顔料としては、例えば、ベンジジン、ハンザイエローなどのアゾ顔料、ジアゾ顔料、アゾメチン顔料、メチン顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニンブルーなどのフタロシアニン顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イミノイソインドリン顔料、イミノイソインドリノンなどのイソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、キナクリドンレッドやキナクリドンバイオレットなどのキナクリドン顔料、フラバントロン顔料、インダントロン顔料、アントラピリミジン顔料、カルバゾール顔料、モノアリーライドイエロー、ジアリーライドイエロー、ベンゾイミダゾロンイエロー、トリルオレンジ、ナフトールオレンジ、キノフタロン顔料などが挙げられる。好ましい有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、C.I.ピグメント・グリーンなどの品番製品が挙げられる。
【0109】
無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、三酸化アンチモン、亜鉛華等の酸化亜鉛、リトポン、鉛白、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、フェロシアン化第二鉄(プルシアンブルー)、ウルトラマリン、クロム酸鉛などがあげられる。また、無機顔料としては、雲母(マイカ)、クレー、アルミニウム粉末、タルク、ケイ酸アルミニウムなどの扁平形状を有する顔料、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの体質顔料なども挙げられる。さらに、カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0110】
無機顔料のうち、白色顔料としては、二酸化チタン、三酸化アンチモン、亜鉛華等の酸化亜鉛、リトポン、鉛白、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、クレー、タルク、ケイ酸アルミニウムが好ましい。中でも屈折率が高く隠ぺい性に優れる観点から二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンの中でも、結晶構造がルチルである二酸化チタンが好ましい。
【0111】
着色顔料としては、上記の有機顔料、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、フェロシアン化第二鉄(プルシアンブルー)、ウルトラマリン、クロム酸鉛等が好ましい。
【0112】
顔料の平均粒子径は、分散安定性と発色性あるいは隠ぺい力の観点から10~1000nmが好ましく、20~500nmが好ましい。
白色顔料の場合、平均粒子径は、隠蔽性により優れる観点から、100~500nmが好ましく、下限については、より好ましくは150nm以上であり、さらに好ましくは200nm以上であり、上限については、より好ましくは450nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下である。
着色顔料の場合、平均粒子径は、特に発色性の観点から20~200nmが好ましく、下限については、より好ましくは40nm以上であり、さらに好ましくは50nm以上であり、上限については、より好ましくは150nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。
【0113】
上記顔料の平均粒子径は、本発明のインク中における平均粒子径を指す。顔料の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布計や動的光散乱法により測定することができる。たとえば、動的光散乱法により測定されるキュムラント平均粒子径を採用することができる。ただし、黒色顔料などのように動的光散乱法による測定が難しい場合は、レーザー回折散乱式粒度分布計により測定し得られた体積基準の粒度分布における50%粒径を平均粒子径として採用することができる。
【0114】
前記顔料は、インク中で、分散剤で分散安定化されていることが好ましい。上記分散剤としては、たとえば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩等のポリ(メタ)アクリル酸(塩);(メタ)アクリル酸(塩)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、酢酸ビニル等の(メタ)アクリル酸(塩)以外の前記モノマー成分の1種または2種以上との共重合体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0115】
染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、C.I.ソルベント・オレンジ、C.I.ソルベント・バイオレットなどが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0116】
本発明のインクが着色剤を含む場合、インクの固形分における着色剤の含有率は、5~80質量%が好ましく、10~75質量%がより好ましい。また着色剤の含有率の下限は、20質量%以上であってもよく、35質量%以上であってもよい。
【0117】
本発明のインクは、さらに溶剤を含有することが好ましい。前記溶剤は、インクの粘度を調整する希釈剤として作用する。溶剤としては、環境負荷低減の観点から水系溶剤を好適に用いることができる。
【0118】
前記水系溶剤は、乳化重合の際に使用した水系溶剤由来の溶剤であってもよく、乳化重合の反応液若しくは単離した重合体に別途添加した溶剤であってもよい。前記水系溶剤としては、乳化重合法に用いられる溶媒として説明した水系溶剤と同様のものが挙げられる。
【0119】
保湿性や前記重合体との相溶性を高める観点から、インクに含まれる水系溶剤は、水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。前記水系溶剤における水溶性有機溶剤の含有割合は、20~65質量%が好ましく、より好ましくは30~55質量%である。
【0120】
特に、保湿性をより高める観点からは、沸点が150℃以上である水溶性有機溶剤が好ましく、沸点が180℃以上である水溶性有機溶剤がより好ましく、沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤がさらに好ましい。沸点が150℃以上である水溶性有機溶剤としては、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。保湿性をより高める前記水溶性有機溶剤の含有量は、水系溶剤における水100質量部に対し、25~75質量部が好ましく、35~65質量部がより好ましい。
また、前記重合体との相溶性をより高める観点からは、疎水基と水酸基とを有する水溶性有機溶剤が好ましく、中でも、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~4)のモノブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。相溶性をより高める前記水溶性有機溶剤の含有量は、水系溶剤における水100質量部に対し、5~45質量部が好ましく、15~35質量部がより好ましい。
【0121】
本発明のインクにおける溶剤の含有量は、所望するインクの粘度等に応じて設定すればよく、特に限定されないが、ハンドリング性の観点から、例えば、40~90質量%であり、好ましくは50~88質量%、より好ましくは55~85質量%である。
【0122】
[その他添加剤]
本発明のインクは、さらに、本発明の目的が阻害されない範囲内で、添加剤を含んでいてもよい。例えば、架橋剤、界面活性剤、分散剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、増粘剤、湿潤剤、可塑剤、安定剤、消泡剤、酸化防止剤、架橋促進剤、PH調整剤、防腐剤などの添加剤が適量で含まれていてもよい。
【0123】
上記添加剤を添加する場合、その含有量は、特に限定されるものではないが、本発明のインク中、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。また添加効果を発揮するためには0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。
【0124】
また本発明のインクは、さらに、本発明の目的が阻害されない範囲内で、前記重合体以外の、ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂等の他のバインダー樹脂を含んでいてもよい。なお、前述の重合体も、本発明のインクにおけるバインダー樹脂に包含されるものである。他のバインダー樹脂としては、融点が40~200℃のワックスを用いることが好ましく、特にアクリル系ワックスを用いることが好ましい。本発明のインクに含まれるバインダー樹脂100質量%中、前記重合体の含有量は、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上であり、また100質量%であってもよく、95質量%以下であってもよい。前記他のバインダー樹脂も、エマルションとして添加されることが好ましい。
【0125】
本発明のインクの粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定した際、2~20mPa・sの範囲が好ましく、2~10mPa・sの範囲がより好ましい。インクの粘度を上記範囲に調整することで、インクジェット印刷に適用した際に、インクジェットヘッドのノズル目詰まりを抑制することができる。また本発明のインク表面張力は、25~45mN/mの範囲が好ましい。
【0126】
[インクの製造方法]
本発明のインクの製造方法は特に限定されない。例えば、前記重合体、並びに、必要に応じて用いられる溶剤、着色剤及びその他添加剤を混合することにより、製造することができる。以下にはインクの製造方法の一例を示すが、これに限定されるものではない。
【0127】
まず、前記重合体を含む樹脂エマルションを準備する。前記樹脂エマルションとしては、上述の樹脂エマルションとして説明したエマルションを用いることができる。当該エマルションは、上記したように従来公知の乳化重合法により製造することができる。
【0128】
また、着色剤として顔料を用いる場合、顔料が水系溶剤に分散されてなる顔料分散体を調製しておくことが好ましい。上記顔料分散体は、たとえば、水等の水系溶剤に、顔料および分散剤を混合し、ビーズミル等で分散処理を行うことにより製造することができる。分散剤としては、上記で説明した分散剤と同様のものを使用できる。
【0129】
顔料分散体における顔料の含有率は、特に限定されないが、顔料分散体100質量%に対し、5~80質量%であることが好ましい。特に顔料が白色顔料である場合、顔料分散体における白色顔料の含有率は、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。また顔料が有機顔料である場合、顔料分散体における有機顔料の含有率は、5~40質量%が好ましく、8~30質量%がより好ましい。
【0130】
次に、上記樹脂エマルション、並びに、必要に応じて顔料分散体、染料などのその他着色剤、溶剤、及びその他添加剤を混合する。混合にあたり、上記染料やその他添加剤は、該化合物をそのまま用いてもよいし、溶剤等で希釈した溶液として添加してもよい。上記の各成分を混合する方法や順番は特に限定されない。混合後は遠心分離やフィルター濾過等を必要に応じて行うことができる。
【0131】
[印刷物]
上記インクが、基材上に印刷されてなる印刷物も本発明に包含される。
【0132】
前記基材としては、例えば、紙;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの樹脂フィルムが積層された紙(コート紙など);アルミニウム、亜鉛、銅などの金属板;ポリエチレンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、セルロースフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、アクリル樹脂フィルムなどの樹脂フィルム;金属被膜を有する紙;金属被膜を有する樹脂フィルム;などが挙げられる。中でも、樹脂フィルムが好ましく、より好ましくはポリオレフィンフィルム、さらに好ましくは二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)および無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)である。
【0133】
前記樹脂フィルムの中でも、本発明のインクを印刷する表面が、コロナ処理、アンカーコート処理等により、表面を化学的または物理的に改質したものが好ましい。これにより本発明のインクから形成された塗膜との密着性がより優れたものとなる。特に好ましくは、コロナ処理した二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)および無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)である。
【0134】
また、前記基材としては、軟包装用の基材が好ましい。
【0135】
前記基材の厚さとしては、特に制限はないが、1~500μmであることが好ましく、2~200μmであることがより好ましく、5~100μmであることが更に好ましく、10~90μmであることが特に好ましい。
【0136】
印刷方法は特に限定されず、フレキソ印刷、オフセット印刷、リソグラフ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等を採用できる。特に、無製版であること、省資源であること、省エネルギーであることから、デジタル印刷が好ましく、中でもインクジェット印刷がより好ましい。以下、インクジェット印刷による印刷物の製造方法の一例を示すが、これに限定されるものではない。
【0137】
インクジェット印刷による印刷物は、本発明のインクを、インクジェットプリンターを用いて、基材に付着させ画像(塗膜)を形成する画像形成工程を含む製造方法により製造できる。上記画像形成工程において用いるインクジェットプリンターは特に限定されず、従来公知のインクジェットプリンターを用いることができる。インクジェットプリンターは、たとえば、ピエゾ方式、サーマル方式、荷電変更制御方式(連続吐出方式)等、いずれの方式のものであってもよい。上記ピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いる場合、インクの突出条件等は特に限定されない。
【0138】
上記画像形成工程において、インクジェットプリンターヘッドのノズル開口より、吐出された本発明のインクは、前記基材に付着し、画像を形成する。
【0139】
上記画像形成工程において画像形成された基材を、さらに室温超の温度で加熱し乾燥することが好ましい。室温超の温度での加熱処理により、基材に形成された画像中に含まれる、インク由来の溶剤等の揮発成分の除去を促進でき、画像の定着を促進することができる。またインクに含まれるバインダー樹脂(重合体)の成膜(融着)により画像の密着性等を向上できる。
【0140】
前記加熱は、画像形成工程と同時であっても画像形成工程の後であってもよい。また両者を組み合わせてもよい。たとえば、加熱を画像形成工程と同時に行う方法としては、基材を加熱しながら、画像形成工程を行う方法があげられる。画像形成工程の後に加熱を行う場合は、たとえば、加熱乾燥炉による加熱方法、ヒートプレスによる加熱方法、赤外線ランプによる加熱方法、常圧スチームまたは高圧スチーム等のスチームを用いる方法等が好ましくあげられる。中でも加熱方法としては、同時に行うと気流が乱れる虞から、画像形成工程の後に行うことが好ましい。
【0141】
加熱する温度(乾燥温度)は、25℃以上が好ましく、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。上限値は、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。本発明のインクは、上述の特定の重合体を含むものであるため、乾燥温度が70℃以下(例えば60℃程度)の低温であっても、基材(好ましくは樹脂フィルム等の軟包装基材、より好ましくはポリオレフィン樹脂基材)に対する密着性に優れる。
【実施例0142】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0143】
(実施例1)
滴下ロート、撹拌機、窒素導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水400部を仕込んだ。
滴下ロートに脱イオン水465部、乳化剤(反応性乳化剤、(株)第一工業製薬製、商品名:アクアロンAR-10)の25%水溶液120部、2-オクチルアクリレート(2OA)320部、メチルメタクリレート(MMA)460部、スチレン(St)200部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)5部、アクリル酸(AA)10部、架橋性モノマー(商品名:KBM-503)5部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうちの100部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、過硫酸カリウムの5%水溶液60部をフラスコ内に添加することにより、重合を開始した。
【0144】
次に、滴下用プレエマルションの残部を180分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で60分間維持し、25%アンモニア水をpHが9となるようにフラスコ内に添加し、重合反応を終了した。
【0145】
得られた反応液を室温まで冷却した後、300メッシュ(JISメッシュ、以下同じ)の金網で濾過することにより、樹脂エマルションを得た。
【0146】
(実施例2~14、比較例1~3)
モノマーの及び乳化剤の種類及び配合割合を表1に記載のようにした以外は実施例1と同様にして、樹脂エマルションを得た。
なお、表1において、2EHAとは2-エチルヘキシルアクリレートを示し、nOAとはn-オクチルアクリレートを示し、2OMAとは2-オクチルメタクリレートを示し、IBOAとはイソボルニルアクリレートを示し、CHMAとはシクロヘキシルメタクリレートを示す。
また、実施例4で使用の乳化剤SR-10は、反応性乳化剤であって、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR-10(アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレン硫酸エステル塩)を示し、実施例5で使用の乳化剤NF-08は、非反応性乳化剤であって、(株)第一工業製薬製、商品名:ハイテノールNF-08(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩)を示す。
【0147】
得られた樹脂エマルションの物性を、以下のように測定した。
[ガラス転移温度(Tg)]
エマルション粒子(重合体)のガラス転移温度は、重合体を構成するモノマー成分に使用されている各モノマーの単独重合体のガラス転移温度を用いて、下記式(1)で表されるフォックス(Fox)の式に基づいて求められた温度として算出した。
【0148】
【数2】
[式(1)中、TgA:重合体のTg(絶対温度:K)、Tgn:使用した各モノマーの単独重合体のTg(絶対温度:K)、Wn:使用した各モノマーの配合割合(質量%)]
【0149】
[固形分量(N.V.)]
樹脂エマルションにおける不揮発分量(固形分量)は、樹脂エマルション1gを秤量し、熱風乾燥機で110℃の温度で1時間乾燥させ、得られた残渣を不揮発分とし、下記式:
〔樹脂エマルションにおける不揮発分量(質量%)〕=(〔残渣の質量〕÷〔樹脂エマルションの質量1g〕)×100
に基づいて求めた。
【0150】
[粘度]
BH型粘度計〔東京計器株式会社製〕で回転速度20rpmにおける25℃での粘度を求めた。
【0151】
[体積平均粒子径]
樹脂エマルション粒子の平均粒子径(体積平均粒子径)は、動的光散乱法による粒度分布測定器〔パーティクル・サイジング・システムズ(Particle Sizing Systems)社製、商品名:NICOMP Model 380〕を用いて測定した。
【0152】
[最低成膜温度(MFT)]
熱勾配試験機(テスター産業社製)の上に置いたガラス板上に樹脂エマルションを厚さが0.2mmとなるようにアプリケーターで塗工し、クラックが生じたときの温度を最低成膜温度とした。
【0153】
―伸び性及び塗膜吸水率の評価―
[処方例1A]
実施例1にて得られた樹脂エマルション36.2部にWAXエマルションとしてST200(日本触媒製)5.4部を加え、ホモディスパーで回転速度1000min-1にて撹拌しながら、プロピレングリコール20.0部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG、SP値9.5)10.0部、界面活性剤[信越化学工業株式会社製、KF-6011]0.4部、および全体で100部となるようにイオン交換水を加え、更に30分間撹拌した後、孔径3μmのフィルター[アドバンテック社製、MCP-3-C10S]で濾過することで水性インクを調製した。
【0154】
[処方例2A-14A、比較処方例1A-3A]
実施例1にて得られた樹脂エマルションに代えて、実施例2~14、比較例1~3で得られた樹脂エマルションを各々用いた以外は処方例1Aと同様にして、水性インクを得た。
【0155】
(1)伸び性
離型紙に水性インクを乾燥後厚さが200μmとなるように塗布し、80℃で2時間乾燥させた後、形成された塗膜(縦:1cm程度、横:7cm程度、厚さ:200μm)を試験体として用いた。
【0156】
得られた試験体を25℃に温度調節した恒温ボックス内で3時間温度調節した後、当該塗膜の短辺を引っ張り試験機〔(株)島津製作所製、商品名:オートグラフAGS-100D〕のチャックに掴持し、初期標線間距離50mm、引っ張り速度200mm/minの条件で引っ張り、下記式:
〔伸張率(%)〕=〔(破断時の伸び-50mm)÷(50mm)〕×100
に基づいて塗膜の伸び性を評価した。
【0157】
(2)塗膜吸水率
離型紙に水性インクを乾燥後厚さが100μmとなるように塗布し、80℃で2時間乾燥させた後、形成された塗膜(縦:3cm程度、横:3cm程度、厚さ:100μm)を試験体として用いた。
【0158】
得られた試験体を25℃に温度調節したイオン交換水に6時間浸漬した後、当該塗膜を取り出し余分な水分を拭き取った後に下記式:
〔塗膜吸水率(%)〕=〔(6時間浸漬後の質量-初期質量)÷(初期質量)〕×100
に基づいて塗膜吸水率を評価した。
【0159】
-密着性の評価-
[白色ペーストの調製]
脱イオン水411部、分散剤[ビックケミージャパン株式会社製、BYK-190]97部、プロピレングリコール60部、酸化チタン[石原産業株式会社製、CR-95]1000部およびガラスビーズ(直径1mm)200部をディスパーで回転速度3000min-1にて120分間分散させた後、300メッシュの金網で濾過することにより白色ペーストを調製した。
【0160】
[処方例1B]
実施例1にて得られた樹脂エマルション19.8部にWAXエマルションとしてST200(日本触媒製)2.8部を加え、ホモディスパーで回転速度1000min-1にて撹拌しながら、白色ペースト30部、プロピレングリコール20部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG、SP値9.5)10部、界面活性剤[信越化学工業株式会社製、KF-6011]0.4部、および全体で100部となるようにイオン交換水を加え、更に30分間撹拌した後、孔径3μmのフィルター[アドバンテック社製、MCP-3-C10S]で濾過することで水性白インクを調製した。
【0161】
[処方例2B-14B、比較処方例1B-3B]
実施例1にて得られた樹脂エマルションに代えて、実施例2~14、比較例1~3で得られた樹脂エマルションを各々用いた以外は処方例1Bと同様にして、水性白インクを得た。
【0162】
<インクジェット印刷物の作製>
温度25±1℃および相対湿度30±5%の空気中でインクジェットプリントヘッド〔京セラ(株)製、品番:KJ4B-YH06WST-STDV〕を装備した印字評価装置〔(株)ジェネシス製〕に水性白インクを充填した。
次に、印字評価装置において、ヘッド電圧を26Vに、周波数を4kHzに、吐出液滴量を12pL(ピコリットル)に、ヘッド温度を32℃に、解像度を600dpiに、負圧を-4.0kPaに設定した。記録媒体(基材)としてコロナ処理OPPフィルム[フタムラ化学(株)製、商品名:FOR-AQ]を用い、当該コロナ処理OPPフィルムの長手方向と搬送方向とが同一方向となるようにして搬送台に固定した。印字命令を前記印字評価装置に転送し、水性白インクをインクジェット記録方式でコロナ処理OPPフィルム上に打ち込み量100%(12pL、600×600dpi)でベタ画像を印刷し、その直後に60℃の乾燥機で当該コロナ処理OPPフィルム(印刷物)を10秒間乾燥させることにより、試験用シートを得た。
【0163】
(3)密着性
試験用シートの印刷画像を脱脂綿で往復10回擦り、以下の評価基準に基づいて基材に対する密着性を評価した。各実施例、比較例の評価結果を表1に示す。
〔評価基準〕
◎:印刷画像の剥離が0~5%である。
〇:印刷画像の剥離が5%超え~25%である。
×:印刷画像の剥離が25%超え~100%である。
【0164】
【表1】
【0165】
表1中、「モノマーb/環状モノマー」とは、樹脂エマルションの製造に用いた式(b1)で表される化合物と環状モノマーの質量比(式(b1)で表される化合物/環状モノマー)を指し、すなわち、樹脂エマルション中の重合体における構造単位(B)と構造単位(A)の質量比(構造単位(B)/構造単位(A))に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の重合体や該重合体を含む樹脂エマルションは、乾燥温度が低くてもポリオレフィン樹脂等の基材に対し密着性を示すため、インク(特に軟包装基材への印刷に用いるインク)として好適に使用することができる。