(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079371
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】アイスクリーム類用品質改良剤
(51)【国際特許分類】
A23G 9/32 20060101AFI20240604BHJP
A23G 9/00 20060101ALI20240604BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20240604BHJP
【FI】
A23G9/32
A23G9/00 101
A23L29/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192279
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】和泉 秀征
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 尚美
(72)【発明者】
【氏名】星野 菜摘
【テーマコード(参考)】
4B014
4B035
【Fターム(参考)】
4B014GB18
4B014GK07
4B014GL06
4B014GP13
4B035LC01
4B035LC16
4B035LE16
4B035LG08
4B035LG09
4B035LG12
4B035LK13
4B035LP21
4B035LP43
(57)【要約】
【課題】アイスクリーム類の製造において、高いオーバーランを実現し、且つ保型性及び風味が良好なアイスクリーム類が得られるアイスクリーム類用品質改良剤を提供する。
【解決手段】下記(A)及び(B)を有効成分とする、アイスクリーム類用品質改良剤。
(A)構成脂肪酸が炭素数16~18の飽和脂肪酸であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステル
(B)ジグリセリンモノオレイン酸エステル
前記アイスクリーム類用品質改良剤を含有する、アイスミックス及びアイスクリーム類。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)を有効成分とする、アイスクリーム類用品質改良剤。
(A)構成脂肪酸が炭素数16~18の飽和脂肪酸であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステル
(B)ジグリセリンモノオレイン酸エステル
【請求項2】
請求項1記載のアイスクリーム類用品質改良剤を含有する、アイスミックス及びアイスクリーム類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイスクリーム類用品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス等のアイスクリーム類の製造では、通常、脂肪分、無脂乳固形分、糖分、乳化剤、安定剤及び水を主要成分とし、これを均一に混合しアイスクリーム類製造用原料混合物(以下、アイスミックスという)を作製する。そして、このアイスミックスに空気を混入させながらフリージングすることによりアイスクリーム類を製造する。このように製造されるアイスクリーム類は、アイスミックスにおける脂肪分の乳化、フリージング工程における起泡性(以下、オーバーランという)の調整により、品質が決定される。
【0003】
アイスクリーム類の製造における乳化剤の主な役割は、1)アイスクリーム類の原料油脂の均質な乳化を助ける、2)オーバーランを調整する、3)ドライな腰の強い組織を作り、口溶けを良くする、4)溶けにくくし、保型性を良くする、5)保存性(ヒートショック耐性)を良くすること等である(非特許文献1)。
【0004】
アイスクリーム類の製造に主に使用されてきた乳化剤としては、乳化力の強いステアリン酸モノグリセリドと保型性の向上効果に優れたオレイン酸モノグリセリドが挙げられる。しかし、オレイン酸モノグリセリドは風味的に重大な難点があり、またアイスクミックスのエージング中に著しく粘度を増大させる欠点がある。このため、ステアリン酸モノグリセリドとオレイン酸モノグリセリドを併用するにあたり、オレイン酸モノグリセリドに由来する問題を回避するため、ステアリン酸モノグリセリドとオレイン酸モノグリセリドの使用量及び比率を最適化する試みがなされてきた(非特許文献2)が、アイスクリーム類の風味の問題は依然として残されている。
【0005】
一方、アイスクリーム類の製造におけるオーバーランの調整に用いる乳化剤に関する技術としては、コハク酸モノグリセリドとモノグリセリドを組合せて添加することを特徴とするアイスクリーム製造の方法(特許文献1)、平均置換度が3.0~6.0であるショ糖脂肪酸ポリエステルを有効成分とするアイスクリーム用乳化剤(特許文献2)、構成脂肪酸残基のうち20重量%以上がパルミチン酸残基であるジグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする冷菓(特許文献3)、脂肪分、HLBが8.0~11.0である乳化剤及び水を含む冷菓ミックス(特許文献4)、トリグリセリン脂肪酸エステルを添加することを特徴とするアイスクリーム類の製造方法(特許文献5)等がある。
【0006】
しかし、上記技術をもってしても、高いオーバーランを実現し、且つ良好な保型性及び風味を有するアイスクリーム類の製造は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日高徹、「食品用乳化剤」、株式会社幸書房、1991年3月1日第2版発行、p.127
【非特許文献2】戸田義郎 他2名編、「食品用乳化剤~基礎と応用~」、株式会社光琳、平成9年4月1日発行、p.197-198
【特許文献1】特公昭63-26971号公報
【特許文献2】特許第3379220号公報
【特許文献3】特許第3502333号公報
【特許文献4】特開2008-011739号公報
【特許文献5】特開2014-124095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アイスクリーム類の製造において高いオーバーランを実現し、且つ保型性及び風味が良好なアイスクリーム類が得られるアイスクリーム類用品質改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、(A)構成脂肪酸が炭素数16~18の飽和脂肪酸であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、(B)ジグリセリンモノオレイン酸エステルをアイスミックスに添加することにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0010】
即ち、本発明は、次の(1)及び(2)からなっている。
(1)下記(A)及び(B)を有効成分とする、アイスクリーム類用品質改良剤。
(A)構成脂肪酸が炭素数16~18の飽和脂肪酸であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステル
(B)ジグリセリンモノオレイン酸エステル
(2)前記(1)記載のアイスクリーム類用品質改良剤を含有する、アイスミックス及びアイスクリーム類。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアイスクリーム類用品質改良剤によればアイスクリーム類の製造において、高いオーバーランを実現でき、且つ保型性及び風味が良好なアイスクリーム類が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアイスクリーム類とは、食品衛生法の規定に基づく乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に適合するもの(即ち、「アイスクリーム」、「アイスミルク」及び「ラクトアイス」に種類分けされるもの)、及びソフトクリームや油脂を含む氷菓等を指す。
【0013】
本発明のアイスクリーム類用品質改良剤は、(A)構成脂肪酸が炭素数16~18の飽和脂肪酸であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステル(以下、「成分(A)」ともいう。)と、(B)ジグリセリンモノオレイン酸エステル(以下、「成分(B)」ともいう。)を有効成分とする。
【0014】
本発明で成分(A)として用いられるモノグリセリンモノ脂肪酸エステルは、グリセリンが有するヒドロキシル基のいずれか1つに脂肪酸がエステル結合した、エステル結合数が1の化合物であって、構成脂肪酸が炭素数16~18の飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸)のものである。
【0015】
成分(A)の好ましい製法の概略は次の通りである。例えば、油脂とグリセリンの混合物にアルカリ(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等)を触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下、例えば、180~260℃の範囲、好ましくは200~250℃で0.5~5時間、好ましくは、1~3時間加熱してエステル交換反応するか、又は脂肪酸とグリセリンの混合物に酸又はアルカリを触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば、180~260℃の範囲、好ましくは200~250℃で0.5~5時間、好ましくは1~3時間加熱してエステル化反応を行い、反応終了後触媒を中和し、得られた反応混合物から未反応のグリセリン、ジグリセライド及びトリグリセライドを可及的に除去することにより得ることができる。前記未反応のグリセリン、ジグリセライド及びトリグリセライドを除去する方法としては、例えば、減圧蒸留、分子蒸留、カラムクロマトグラフィー又は液液抽出等自体公知の方法が挙げられる。グリセリン、ジグリセライド及びトリグリセライド除去後、所望により脱色、脱臭等の処理を行ってよい。
【0016】
成分(A)としては、エマルジーP-100(商品名;構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸;理研ビタミン社製)、エマルジーMH(商品名;構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸;理研ビタミン社製)、エマルジーMS(商品名;構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸;理研ビタミン社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。ここで、これら商品について「構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸」とは、構成脂肪酸がパルミチン酸のモノグリセリンモノ脂肪酸エステル(即ち、モノグリセリンモノパルミチン酸エステル)と構成脂肪酸がステアリン酸のモノグリセリンモノ脂肪酸エステル(即ち、モノグリセリンモノステアリン酸エステル)の両方を含有する混合物であることを意味する。
【0017】
本発明で成分(B)として用いられるジグリセリンモノオレイン酸エスエルは、ジグリセリンが有するヒドロキシル基のいずれか1つにオレイン酸がエステル結合した、エステル結合数が1の化合物である。
【0018】
成分(B)の原料として用いられるジグリセリンは、グリセリンに少量の酸(例えば、濃硫酸、p-トルエンスルホン酸等)又はアルカリ(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等)を触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、好ましくは180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が好ましくは1.5~2.4、より好ましくは平均重合度が2.0のジグリセリン混合物が挙げられる。また、ジグリセリンはグリシドール又はエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであってもよい。反応終了後、所望により中和、脱塩、脱色等の処理を行ってもよい。本発明においては、上記ジグリセリン混合物を、蒸留又はカラムクロマトグラフィー等の自体公知の方法を用いて精製し、グリセリン2分子からなるジグリセリンを好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上に高濃度化した高純度ジグリセリンが好ましく用いられる。
【0019】
成分(B)の好ましい製法の概略は次の通りである。例えば、攪拌機、加熱用のジャケット又は邪魔板等を備えた反応容器に、ジグリセリンとオレイン酸を1:1のモル比で仕込み、触媒として水酸化ナトリウム等を加えて撹拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。所定温度は、好ましくは180~260℃、より好ましくは200~250℃である。また、反応における圧力条件は減圧下又は常圧下で、反応時間は、好ましくは0.5~15時間、より好ましくは1~3時間である。反応の終点は、反応混合物の酸価を測定し、酸価12以下を目安とするのが好ましい。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のジグリセリン、ジグリセリンモノオレイン酸エステル(モノエステル体)、ジグリセリンジオレイン酸エステル(ジエステル体)、ジグリセリントリオレイン酸エステル(トリエステル体)、ジグリセリンテトラオレイン酸エステル(テトラエステル体)等を含む混合物である。
【0020】
その後、所望により反応液中に残存する触媒を中和してもよい。その際、エステル化反応の温度が200℃以上の場合は液温を180~200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また、反応温度が200℃未満の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってもよい。中和後、上記反応液を、所望により冷却して、好ましくは100~180℃、より好ましくは130~150℃に保ち、好ましくは1~10時間放置する。未反応のジグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0021】
前記処理後の反応液を、更に精製し、モノエステル体の濃度を高める。精製方法は、特に制限されないが、減圧下で蒸留して残存する未反応のジグリセリンを留去し、例えば、流下薄膜式分子蒸留装置又は遠心式分子蒸留装置等を用いた分子蒸留を挙げることができる。カラムクロマトグラフィー又は液液抽出等、自体公知の方法を用いて精製してもよい。これにより、成分(B)を得ることができる。
【0022】
成分(B)としては、ポエムDO-100V(商品名;理研ビタミン社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0023】
本発明のアイスクリーム類用品質改良剤において、成分(A)及び(B)の使用比率〔(A)/(B)〕は、40/60~95/5(w/w)であり、好ましくは60/40~90/10(w/w)である。
【0024】
本発明のアイスクリーム類用品質改良剤は、成分(A)及び(B)をそのまま用いてもよく、成分(A)及び(B)を含有する製剤を調整し、これを用いてもよい。
【0025】
このような製剤の調整方法は、特に制限はないが、溶融混合、粉粉混合、スプレードライ製法、スプレークーリング製法等の自体公知の方法を用いることができる。また、製剤の形態としては、特に制限はないが、例えば、液状、乳状、ペースト状、半固形状、固形状、ペレット状、粉末状、顆粒状等が挙げられる。より具体的には、例えば、スプレークーリング製法等により、成分(A)、(B)及び極度硬化油を溶融混合した混合物を冷却し、粉末化することにより粉末状の製剤とすることができる。
【0026】
本発明のアイスクリーム類用品質改良剤の使用方法は、特に制限はないが、例えば、アイスクリーム類の製造においてアイスミックスを調製する際に添加する方法を用いることができる。また、本発明のアイスクリーム類用品質改良剤を含有するアイスミックス及びアイスクリーム類も本発明の形態の一つである。
【0027】
本発明のアイスクリーム類の製造方法としては、上記アイスクリーム類用品質改良剤を添加すること以外には特に制限はなく、例えば慣用の装置を用いて、常法により製造することができる。その製造方法の概略を以下に示す。
【0028】
例えば、先ず、アイスクリーム類用品質改良剤、水、油脂、乳製品、糖質、所望により卵加工品、成分(A)及び(B)以外の乳化剤、安定剤、甘味料、香料、色素等の原材料を秤量、混合し、好ましくは30~90℃に加温しながら撹拌し、分散、溶解させることにより、アイスミックスを調整する。
【0029】
次に、アイスミックスについて、均質化工程、殺菌工程、エージング工程、フリージング工程、充填工程、硬化工程を順次実施できる。均質化工程では、アイスミックスを予備乳化した後、均質化装置にて、好ましくは1~30MPaで均質化する。均質化は複数回繰り返してもよい。殺菌工程では、68℃、0.5時間以上の条件で殺菌されることが好ましい。エージング工程では、好ましくは0~10℃、より好ましくは0~5℃に冷却し、静置保管されてもよく、攪拌されながら保管されてもよい。フリージング工程では、好ましくは-8~-2℃に冷却し、その後、充填工程をとる。硬化工程では、好ましくは-18℃以下で硬化させる。
【0030】
アイスミックス及びアイスクリーム類100質量%中のアイスクリーム類用品質改良剤の含有量は、0.1~0.5質量%、好ましくは0.2~0.3質量%である。
【0031】
上記油脂としては、例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油、なたね油、綿実油、大豆油、コーン油、オリーブ油、サフラワー油、ひまわり油、落花生油、米油等の植物油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、バター等の動物油脂、分別油脂、硬化油脂、微水添油脂、エステル交換油脂等が挙げられる。
【0032】
上記乳製品としては、例えば、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、加糖練乳、クリーム類、ホエー、バター、チーズ等が挙げられる。
【0033】
上記糖質としては、例えば、ショ糖、グラニュー糖、異性化糖、乳糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水飴、粉末水飴、還元麦芽水飴、蜂蜜、トレハロース、パラチノース、D-キシロース等の糖類、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール等の糖アルコール類が挙げられる。
【0034】
上記卵加工品としては、例えば、卵黄、卵白、加糖卵黄、卵タンパク質等が挙げられる。
【0035】
上記成分(A)及び(B)以外の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル〔成分(A)及び(B)を除く〕、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
【0036】
上記安定剤としては、例えば、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンドガム、タラガム、カラヤガム、キサンタンガム、ジェランガム、ネイティブジェランガム、グアガム、アラビアガム、マクロホモプシスガム等のガム質、カラギナン、寒天、ペクチン、カードラン、グルコマンナン、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)等のゲル化剤、CMC、大豆多糖類等が挙げられる。
【0037】
本発明のアイスクリーム類の形態は、特に制限は無いが、カップタイプ、バータイプ、ソフトクリームタイプ、チョコレート等の食品素材でコーティングされたもの、フルーツソース等の食品素材を充填したもの、ナッツ等の食品素材をトッピングしたもの、焼き菓子や最中で挟んだもの、アルミ、プラスチックパウチ等に充填されたもの等を挙げることができる。
【0038】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0039】
[製造例1]
[ジグリセリン混合物の製造]
攪拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた反応釜にグリセリン20kgを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム20w/v%水溶液100mLを加え、窒素ガス気流中250℃で4時間グリセリン縮合反応を行った。得られた反応生成物を90℃まで冷却し、リン酸(85質量%)20gを添加して中和した後ろ過し、ろ液を160℃、250Paの条件下で減圧蒸留してグリセリンを除き、続いて200℃、20Paの高真空条件下で分子蒸留してグリセリン3質量%、ジグリセリン92質量%、トリグリセリン5質量%を含む留分を得た。
該留分に対して1質量%の活性炭を加え、減圧下にて脱色処理した後ろ過し、ジグリセリン混合物約3.0kgを得た。得られたジグリセリン混合物の水酸基価は約1359で、その平均重合度は約2.0であった。
【0040】
[製造例2]
[ジグリセリンジオレイン酸エステル(試作品1)の製造]
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた2Lの四つ口フラスコに、製造例1で得たジグリセリン混合物269.0g、及びオレイン酸(商品名:オレイン酸V;花王社製)731.0gを仕込み、窒素ガス気流中、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、235℃で酸価1.5以下となるまで5時間エステル化反応を行った。得られた反応物を130℃まで冷却し、その温度で約1時間放置し、下層に分離した未反応のジグリセリンを除去してジグリセリンジオレイン酸エステル(試作品1)約900.0gを得た。
【0041】
[製造例3]
[トリグリセリン混合物の製造]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた反応釜にグリセリン20kgを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム20w/v%水溶液100mLを加え、窒素ガス気流中250℃で4時間グリセリン縮合反応を行った。
得られた反応生成物を90℃まで冷却し、リン酸(85質量%)20gを添加して中和した後ろ過し、ろ液を160℃、250Paの条件下で減圧蒸留してグリセリンを除き、続いて200℃、20Paの高真空条件下で分子蒸留してジグリセリンを回収し、更に蒸留残液を、240℃、20Paの高真空条件下で分子蒸留し、グリセリン0.2質量%、ジグリセリン5質量%、トリグリセリン88質量%、テトラグリセリン6質量%及び環状ポリグリセリン0.8質量%を含む留分を得た。
該留分に対して1質量%の活性炭を加え、減圧下にて脱色処理した後ろ過し、トリグリセリン混合物約1.5kgを得た。得られたトリグリセリン混合物の水酸基価は約1170で、その平均重合度は約3.0であった。
【0042】
[製造例4]
[トリグリセリンモノオレイン酸エステル(試作品2)の製造]
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた2Lの四つ口フラスコに製造例3で得たトリグリセリン混合物439.0g、オレイン酸(商品名:ルナックO-V;花王社製)561.0gを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.64gを加え窒素ガス気流中、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、240℃で酸価2以下となるまで3時間エステル化反応を行った。得られた反応混合物を180℃まで冷却し、リン酸(85質量%)1.28gを添加して触媒を中和した。得られた反応物を、遠心式分子蒸留機(実験機;CEH-300II特;ULVAC社製)を用いて、1Paの真空下、230℃にて、未反応のトリグリセリンを除去し、続いて、1Paの真空下、260℃にて、トリグリセリンモノオレイン酸エステル(試作品2)約177.0gを得た。
【0043】
[ラクトアイスの製造及び評価]
(1)原材料
1)植物油脂(商品名:メラノメロー300;ヤシ油及びパーム油の混合油脂;不二製油社製)
2)グラニュー糖(商品名:グラニュー糖GHC1;三井製糖社製)
3)粉末水飴(商品名:粉末水飴SPD;昭和産業社製)
4)脱脂粉乳(商品名:森永脱脂粉乳;タンパク質含有量約34%;森永乳業社製)
5)安定剤(商品名:アイスターCY;住友ファーマフード&ケミカル社製)
6)モノグリセリンモノ脂肪酸エステル1(商品名:エマルジーP-100;構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸;理研ビタミン社製)
7)モノグリセリンモノ脂肪酸エステル2(商品名:エマルジーMH;構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸;理研ビタミン社製)
8)モノグリセリンモノ脂肪酸エステル3(商品名:エマルジーMS;構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸;理研ビタミン社製)
9)モノグリセリンジパルミチン酸エステル(商品名:ポエムDES-70V;理研ビタミン社製)
10)モノグリセリンモノ脂肪酸エステル4(商品名:ポエムB-100;構成脂肪酸:ベヘニン酸;理研ビタミン社製)
11)モノグリセリンモノ脂肪酸エステル5(商品名:ポエムM-300;構成脂肪酸:ラウリン酸;理研ビタミン社製)
12)ジグリセリンモノパルミチン酸エステル(商品名:ポエムDP-95RF;理研ビタミン社製)
13)ジグリセリンモノステアリン酸エステル(商品名:ポエムDS-100A;理研ビタミン社製)
14)ジグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)
15)モノグリセリンモノ脂肪酸エステル6(商品名:エマルジーOL-100H;構成脂肪酸:オレイン酸;理研ビタミン社製)
16)ジグリセリンジオレイン酸エステル(試作品1)
17)トリグリセリンモノオレイン酸エステル(試作品2)
18)水
【0044】
(2)ラクトアイスの配合
上記原材料を用いて製造したラクトアイスの配合組成を表1~4に示す。このうち、表1のラクトアイス1~4は、本発明の実施例であり、表2~4のラクトアイス5~14は、それらに対する比較例である。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
(3)ラクトアイスの製造方法
表1~4の配合割合に従い、総量3000gの原材料を5L容量のステンレス製のジョッキに加え、スリーワンモーター(型式:BL600;HEIDON社製)にて撹拌しながら溶液を加温し、75℃達温後10分間撹拌してアイスミックスを得た。該アイスミックスをTKホモミキサー(型式:MARKII;プライミクス社製)にて8000rpm、5分間予備乳化した後、二段階ピストンホモジナイザー(型式:HV-0A;イズミフードマシナリ社製)にて1段目10MPa、2段目5MPaの圧力条件で均質化処理を行った。次いで均質化したアイスミックスをエージング(5℃、約18時間)した後、アイスクリームフリーザー・バッチ式フリーザー(型式:HTFIV-240;エフ・エム・アイ社製)にて-6℃、140rpmでフリージングし、排出したものを140mL容量のカップに充填した。更に-40℃で2時間硬化させ、-20℃で24時間保管してラクトアイス1~15を得た。なお、フリージングは、冷却開始2分後から、1分毎に品温及びオーバーランを測定しながら、オーバーランの最高値(最高オーバーラン)に達するまで行った。
【0050】
(4)オーバーランの評価
ラクトアイス1~14の製造において、下記式にて最高オーバーランを算出し、以下の基準に従って記号化した。結果を表5に示す。
<最高オーバーランの計算式>
最高オーバーラン(%)={(A-B)/B}×100
A:アイスミックスの質量
B:Aのアイスミックスと同容量のラクトアイスの質量
<記号化基準>
○:良好 最高オーバーラン70%以上
△:やや悪い 最高オーバーラン50%以上、70%未満
×:悪い 最高オーバーラン50%未満
【0051】
(5)保型性の評価
ラクトアイス1~14をカップから取り出して目開き1.2mmの金網に乗せ、室温にて60分静置後に金網から落下したラクトアイスの容量を落下量(mL)とした。この落下量及び下記式に基づき溶出率を算出し、以下の基準に従って記号化した。結果を表5に示す。
<溶出率>
溶出率(%)=落下量/140×100
<記号化基準>
○:良好 溶出率20%未満
△:やや悪い 溶出率20%以上~25%未満
×:悪い 溶出率25%以上
【0052】
(6)風味の評価
ラクトアイス1~14を喫食し、風味について官能試験を行った。官能試験では、以下の評価基準に従い、10名のパネラーで評価を行い、評点の平均点を求め、以下の基準に従って記号化した。結果を表5に示す。
<評価基準>
評点3:異味及び油っぽさを感じない
評点2:少し異味を感じる、又は少し油っぽさを感じる
評点1:顕著に異味を感じる、又は油っぽさを感じる
<記号化基準>
○:良好 平均値2.5以上
△:やや悪い 平均値1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均値1.5未満
【0053】
【0054】
表5の結果から明らかなように、成分(A)及び(B)を添加した本発明の実施例のラクトアイス1~4は、最高オーバーランが良好であり、保型性及び風味も優れていた。これに対し、比較例のラクトアイス5~14では、いずれかの評価項目において本発明のものに比べて劣っていた。