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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079381
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】積層塗膜及び塗装物
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20240604BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240604BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20240604BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240604BHJP
   C09D 5/29 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B32B27/20 A
C09D201/00
C09D7/41
C09D7/61
C09D5/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192295
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 貴和
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭一
(72)【発明者】
【氏名】松本 理沙
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA22B
4F100AA37B
4F100AB10B
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK36B
4F100AK36C
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA13B
4F100CA13C
4F100CC00B
4F100CC00C
4F100DE02B
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100GB32
4F100JN01B
4F100JN01C
4F100JN21B
4F100YY00B
4F100YY00C
4J038CG001
4J038DG001
4J038HA026
4J038HA066
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】全体として低明度を確保しながら透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立できるダーク系カラーの積層塗膜及び塗装物を提供する。
【解決手段】積層塗膜12は、光輝材21を含有する光輝性層14と、該光輝性層14の上に重ねられ着色層赤系顔料25を含有し透光性を有する着色層15とを備えた積層塗膜であって、光の入射角を45゜として、受光角θで測定した反射光の明度L値及び彩度C値をそれぞれL(θ)及びC(θ)としたときに、上記積層塗膜は、下記式(1)~(3)を満たす。
5≦L(θ)≦25 (10°≦θ≦25°) ・・・(1)
20≦C(θ)≦65 (10°≦θ≦25°) ・・・(2)
2≦C(80°) ・・・(3)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物の表面に直接又は間接的に形成された光輝材を含有する光輝性層と、該光輝性層の上に重ねられ着色材を含有し透光性を有する着色層とを備えた積層塗膜であって、
光の入射角を45゜として、受光角θで測定した反射光の明度L値及び彩度C値をそれぞれL(θ)及びC(θ)としたときに、上記積層塗膜は、下記式(1)~(3)を満たす
5≦L(θ)≦25 (10°≦θ≦25°) ・・・(1)
20≦C(θ)≦65 (10°≦θ≦25°) ・・・(2)
2≦C(80°) ・・・(3)
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項2】
請求項1において、
上記積層塗膜のL(θ)(但し、10°≦θ≦25°)が上限値及び下限値となるθをそれぞれθ1及びθ2としたときに、
上記積層塗膜について、C(θ1)=k×C(θ2)を満たす係数kは、0.03以上0.5以下である
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記積層塗膜のL(θ)(但し、10°≦θ≦25°)が上限値となるθをθ1としたときに、
(θ1)と上記C(80°)との差ΔC=C(θ1)-C(80°)を彩度陰影感指数とすると、該彩度陰影感指数は50以上である
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
受光角θを45°として上記積層塗膜の表面と平行な方向に連続的に測定して得られた該積層塗膜のY値の変化における所定の測定距離毎に算出した該Y値の標準偏差の平均値を該積層塗膜の粒子感指数とすると、該粒子感指数は0.09以上0.12以下である
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
上記光輝性層は、下記式(4)~(6)を満たす
11≦L(θ)≦70 (10°≦θ≦25°) ・・・(4)
6≦C(θ)≦30 (10°≦θ≦25°) ・・・(5)
0.5≦C(80°) ・・・(6)
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
上記光輝性層は、第1着色材と、第2着色材と、を含み、
上記第1着色材は、黒系着色材であり、
上記第2着色材は、黒系以外の色の着色材である
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項7】
請求項6において、
上記光輝性層における上記第1着色材の固形成分濃度は1質量%以上20質量%以下である
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項8】
請求項6において、
上記光輝性層における上記第2着色材の固形成分濃度は1質量%以上20質量%以下である
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項9】
請求項6において、
上記第1着色材は、黒系顔料であり、
上記第2着色材は、赤系顔料である
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項10】
請求項1又は請求項2において、
上記着色層に含有される上記着色材は、赤系顔料であり、
上記着色層における上記赤系顔料の固形成分濃度が1質量%以上17質量%以下である
ことを特徴とする積層塗膜。
【請求項11】
請求項1又は請求項2の積層塗膜を備えていることを特徴とする塗装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層塗膜、及び該積層塗膜を備えた塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の高い意匠性が求められる被塗物については、深みのある鮮やかな発色を有する塗色を得ることが要望されている。
【0003】
特許文献1には、自動車関連部材等に有用な成形用積層シートに関し、深み感のある意匠を得ることが記載されている。それは、金属光沢層の上に着色層を重ねた積層シートにおいて、着色層の透過光の明度Lを20~80とし、金属光沢層の光沢値を200以上とし、45度の正反射光の彩度Cを150以上にするというものである。同文献には、金属光沢層にアルミフレークを添加すること、並びに着色層の顔料としてペリレンレッドを採用することも記載されている。
【0004】
特許文献2には、被塗物の表面に直接又は間接的に形成された光輝材を含有する光輝性層と該光輝性層の上に重ねられ暖色系顔料を含有し透光性を有する着色層によって暖色系の色を出すようにした積層塗膜において、FF性を改善し、意匠性が高い金属調カラーを実現することが記載されている。それは、上記積層塗膜において、光輝性層を、XYZ表色系の標準白色板で校正したY値に関して、光の入射角を45゜として、受光角10゜で測定した反射光のY値をY(10゜)とし、受光角25゜で測定した反射光のY値をY(25゜)としたとき、Y(10゜)が50以上950以下であり、Y(25゜)=k×Y(10゜)であって(但し、kは係数である。)、k=0.05以上0.35以下とし、着色層の暖色系顔料濃度Cを1質量%以上17質量%以下とするものである。
【0005】
特許文献3には、被塗物の表面に直接又は間接的に形成された光輝材を含有する光輝性層と、該光輝性層の上に重ねられ赤系着色材を含有し透光性を有する着色層とを備えた積層塗膜において、FF性を改善し、意匠性が高い金属調カラーを実現することが記載されている。当該文献の技術では、光輝性層は、XYZ表色系の標準白色板で校正したY値に関して、光の入射角(光輝性層の表面の垂線からの角度)を45゜として、受光角(正反射方向から光源側への傾き角度)5゜で測定した反射光のY値をY(5゜)とし、受光角15゜で測定した反射光のY値をY(15゜)としたとき、Y(5゜)が30以上700以下である。また、Y(15゜)=k×Y(5゜)であって(但し、kは係数である。)、kが0.01以上0.3以下である。さらに、上記着色層における上記赤系着色材の濃度が1質量%以上17質量%以下である。
【0006】
特許文献4には、各種工業製品、特に自動車の外板に適用できる、ハイライト(正反射光近傍)においては高明度且つ高彩度で、シェード(斜め方向)では高彩度であり、ハイライトとシェードとの明度差が大きく、仕上がり意匠が均一な塗膜が得られる複層塗膜形成方法が記載されている。当該方法では、着色顔料及び鱗片状光輝性顔料を含むメタリックベース塗料を塗装して得られるメタリックベース塗膜上に、第1カラークリヤー塗膜を形成し、さらにその上に第2カラークリヤー塗膜が形成される。そして、第1及び第2カラークリヤー塗膜に含まれる着色顔料を同一とする。また、第1及び第2カラークリヤー塗膜における単位膜厚あたりの着色顔料の濃度を、前者対後者の比率として、30/70~60/35の範囲内とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-281451号公報
【特許文献2】国際公開2018/061215号パンフレット
【特許文献3】特開2022-078780号公報
【特許文献4】特開2012-232236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、全体として低明度なダーク系カラーにおいては、ハイライトとシェードの明度差を確保することが難しく、透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立させることが困難であるという問題があった。
【0009】
そこで本開示では、全体として低明度を確保しながら透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立できるダーク系カラーの積層塗膜及び塗装物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、ここに開示する積層塗膜は、
被塗物の表面に直接又は間接的に形成された光輝材を含有する光輝性層と、該光輝性層の上に重ねられ着色材を含有し透光性を有する着色層とを備えた積層塗膜であって、
光の入射角を45゜として、受光角θで測定した反射光の明度L値及び彩度C値をそれぞれL(θ)及びC(θ)としたときに、上記積層塗膜は、下記式(1)~(3)を満たす
5≦L(θ)≦25 (10°≦θ≦25°) ・・・(1)
20≦C(θ)≦65 (10°≦θ≦25°) ・・・(2)
2≦C(80°) ・・・(3)
ことを特徴とする。
【0011】
ダーク系カラー、すなわち全体として低明度の色相を有する積層塗膜において、ハイライト(10°≦θ≦25°)を、上記式(1)、(2)で表されるように、低明度且つ高彩度とすることにより、全体として暗い色相の中にも、きめ細かい、透明度の高い鮮やかな発色が得られる。また、シェード(θ=80°)は、上記式(3)に表されるように、極めて低明度でありながら一定の彩度を確保することにより、彩度がありつつ濃厚な深み感を実現できる。
【0012】
好ましくは、上記積層塗膜のL(θ)(但し、10°≦θ≦25°)が上限値及び下限値となるθをそれぞれθ1及びθ2としたときに、
上記積層塗膜について、C(θ1)=k×C(θ2)を満たす係数kは、0.03以上0.5以下である。
【0013】
ハイライトにおける明度L値の上限値及び下限値に対応するC(θ1)及びC(θ2)について、kが上記数値範囲を満たすことにより、ハイライトにおける透明度の高い赤の発色をより効果的に確保できる。
【0014】
上記積層塗膜のL(θ)(但し、10°≦θ≦25°)が上限値となるθをθ1としたときに、
(θ1)と上記C(80°)との差ΔC=C(θ1)-C(80°)を彩度陰影感指数とすると、該彩度陰影感指数は50以上であることが好ましい。
【0015】
彩度陰影感指数が大きいほど、全体として低明度でありながらも、ハイライトとシェードの彩度のコントラストを確保できるから、透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立できる。
【0016】
また、受光角θを45°として上記積層塗膜の表面と平行な方向に連続的に測定して得られた該積層塗膜のY値の変化における所定の測定距離毎に算出した該Y値の標準偏差の平均値を該積層塗膜の粒子感指数とすると、該粒子感指数は0.09以上0.12以下であることが好ましい。
【0017】
粒子感指数を上記数値範囲とすることにより、ダーク系カラーにおいて低明度でありながらも鮮やか且つ深みのある色相を得ることができる。
【0018】
特に、ダーク系カラーの積層塗膜において、彩度陰影感指数及び粒子感指数がいずれも上記数値範囲を満たす場合には、全体として低明度を確保しながら透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とをより効果的に両立できる。
【0019】
好ましくは、上記光輝性層は、下記式(4)~(6)を満たす。
【0020】
11≦L(θ)≦70 (10°≦θ≦25°) ・・・(4)
6≦C(θ)≦30 (10°≦θ≦25°) ・・・(5)
0.5≦C(80°) ・・・(6)
光輝材を含有する光輝性層のL値及びC値が上記式(4)~(6)を満たすことにより、積層塗膜における上述のL値及びC値の数値範囲を達成しやすくなる。
【0021】
一実施形態では、上記光輝性層は、第1着色材と、第2着色材と、を含み、
上記第1着色材は、黒系着色材であり、
上記第2着色材は、黒系以外の色の着色材である。
【0022】
光輝材表面の微小凹凸やエッジ、下地(例えば電着塗膜)において拡散反射された光が着色層を透過すると、シェード方向の光量が増えて、シェードの明度が高くなる。シェードの明度が高まると、シェードの白みが増すから、ハイライトにおける赤の発色がぼやける原因となる。
【0023】
本構成では、光輝性層に黒系着色材が含有されているから、光輝性層において、光輝材同士の隙間を透過する入射光の多くは、黒系着色材により吸収及び/又は遮蔽されるため、下地による光の反射は殆どなくなる。また、光輝材の表面の微小凹凸やエッジによって拡散反射される光が黒系着色材によって吸収及び/又は遮蔽されるから、シェードの明度が低下する。
【0024】
光輝性層に含まれる黒系着色材としては、耐候性に優れる黒系顔料及び/又は透明性に優れる黒系染料が挙げられるが、積層塗膜の十分な耐候性を確保する観点から、黒系顔料を採用できる。黒系顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、酸化マンガン、黒色インジゴイド顔料等を用いることができる。
【0025】
また、上記光輝性層は、着色材として上記黒系以外の色の着色材、例えば赤系着色材を含むことにより、光散乱が抑制されるとともに、シェードにおける彩度を確保して、濃厚な深み感をもたらすことができる。
【0026】
好ましくは、上記光輝性層における上記第1着色材の固形成分濃度は1質量%以上20質量%以下である。
【0027】
第1着色材の固形成分濃度が低すぎると、その光吸収機能及び隠蔽能が十分に得られないおそれがある。一方、第1着色材の固形成分濃度が高すぎると、例えば第1着色材が顔料の場合は、一次粒子が凝集してなるストラクチャーが機械的に絡み合った状態になりやすく、光散乱が増加するから、透明性が低下するとともに、シェードの明度が増加するおそれがある。従って、光輝性層における第1着色材の固形成分濃度を上記範囲とすることにより、シェードの明度を低下させるのに有利になる。
【0028】
好ましくは、上記光輝性層における上記第2着色材の固形成分濃度は1質量%以上20質量%以下である。
【0029】
これにより、十分な光散乱の抑制効果が得られるとともに、シェードにおける彩度を十分に確保して、濃厚な深み感をもたらすことができる。
【0030】
上記第1着色材は、黒系顔料であり、上記第2着色材は、赤系顔料であることが好ましい。
【0031】
これにより、光散乱を抑制できるとともに、全体として低明度の色相の中にも赤の鮮やかさが保持された色相を実現できる。
【0032】
上記着色層に含有される上記着色材は、赤系顔料であり、
上記着色層における上記赤系顔料の固形成分濃度が1質量%以上17質量%以下であることが好ましい。
【0033】
着色層が赤系顔料を上記の固形成分濃度で含有することにより、全体として低明度の色相の中にも赤色の彩度を確保し、透明感のある鮮やかな赤色を実現できる。
【0034】
被塗物に上記積層塗膜を備えた塗装物としては、例えば、自動車の車体があり、また、自動二輪車、その他の乗物のボディであってもよく、或いはその他の金属製品、プラスチック製品であってもよい。
【発明の効果】
【0035】
以上述べたように、本開示によると、ダーク系カラー、すなわち全体として低明度の色相を有する積層塗膜において、ハイライト(10°≦θ≦25°)を、上記式(1)、(2)で表されるように、低明度且つ高彩度とすることにより、全体として暗い色相の中にも、きめ細かい、透明度の高い発色が得られる。また、シェード(θ=80°)は、上記式(3)に表されるように、極めて低明度でありながら一定の彩度を確保することにより、彩度がありつつ濃厚な深み感を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】積層塗膜を模式的に示す断面図。
図2】積層塗膜のL値の測定方法を示す説明図。
図3】積層塗膜の粒子感指数の(a)測定方法を示す説明図及び(b)測定結果の一例を示すグラフ。
図4】実施例及び比較例の積層塗膜における(a)L値と受光角との関係を示すグラフ及び(b)C値と受光角との関係を示すグラフ。
図5】実施例及び比較例の積層塗膜における彩度陰影感指数と粒子感指数との関係を示すグラフ。
図6】光輝性層における黒系顔料のPWCと平均粒径との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本開示を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0038】
(実施形態1)
<用語>
本明細書において、塗料組成物に含有される全固形成分(溶剤及び水を除く、顔料、光輝材、樹脂、添加材等の固形成分の全体)の質量に対する、各固形成分の質量の割合(質量%)を、「固形成分濃度」又は「PWC」ということがある。
【0039】
<積層塗膜の構成例>
以下、積層塗膜及び塗装物の構成例について説明する。
【0040】
図1に示すように、本実施形態の自動車の車体11(塗装物)は、鋼板11A(被塗物)の表面に、電着塗膜13を介して設けられた積層塗膜12を備える。積層塗膜12は、光輝性層14、透光性を有する着色層15及び透明クリヤ層16を順に積層してなる。電着塗膜13は、鋼板11Aの表面に、予めカチオン電着塗装によって形成されている。
【0041】
光輝性層14は、母材である樹脂成分と、光輝材21と、黒系顔料23(第1着色材、黒系着色材)と、光輝性層赤系顔料24(第2着色材、黒系以外の色の着色材)と、を含有する。
【0042】
着色層15は、母材である樹脂成分と、着色層赤系顔料25(着色材)を含有する。
【0043】
光輝性層14及び着色層15の樹脂成分としては、限定する意図ではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等を単独で又は複数種類を組み合わせて採用することができる。透明クリヤ層16の樹脂成分としては、例えば、カルボン酸基含有アクリル樹脂、ポリエステル樹脂とエポキシ含有アクリル樹脂の組み合わせ、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とポリイソシアネートとの組み合わせ等を採用することができる。
【0044】
光輝性層14及び着色層15は、必要に応じて、紫外線遮蔽材、粘性材、増粘材、顔料分散剤、表面調整材等の添加材を含んでもよい。特に、積層塗膜12の耐光性の観点から、紫外線遮蔽材を含むことが望ましい。紫外線遮蔽材としては、有機化合物系の紫外線吸収剤、無機化合物系の紫外線散乱剤(以下、「無機系UVA」と称することがある)等を採用することができ、なかでも、酸化鉄など酸化金属のナノ粒子を採用することが好ましい。
【0045】
光輝性層14の膜厚は好ましくは6μm以上15μm以下、より好ましくは7μm以上13μm以下であり、着色層15の膜厚は好ましくは8μm以上15μm以下である。
【0046】
電着塗膜13の表面粗さRaは、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下である。これにより、光輝性層14の光輝材21の配向性が向上する。
【0047】
<光輝性層>
[光輝材]
光輝性層14は、光輝材21として、高反射フレーク21Aと、該高反射フレーク21Aよりも可視光線反射率の低い低反射フレーク21Bと、を含有する。
【0048】
・高反射フレーク
光輝性層14に含有される高反射フレーク21Aとしては、可視光線反射率の高い、金属フレーク等を採用できる。本実施形態では、高反射フレーク21Aとしてアルミフレークを採用している。
【0049】
アルミフレークは、ハイライトの十分な明度及び彩度を得る観点から、可視光線反射率が90%以上であることが好ましい。これにより、ハイライト方向の光量を十分に確保して、ハイライトの十分な明度及び彩度を得ることができる。
【0050】
そのようなアルミフレークとして、具体的には、平均粒径が5μm以上30μm以下、好ましくは10μm以上15μm以下、平均厚さが10nm以上500nm以下のものを採用することが好ましい。特に、平均厚さは、蒸着アルミフレークの場合は、10nm以上50nm以下、薄膜アルミフレークの場合は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0051】
なお、本明細書において、光輝材21、各種顔料、ナノ粒子からなる無機系UVA等の「平均粒径」は、例えばレーザ回折式粒度分布測定装置により測定した粒度分布の50%値であるD50を求めることにより得られる。平均粒径は、好ましくは個数平均粒径である。
【0052】
また、光輝材21の平均厚さは、例えば走査型電子顕微鏡で観察して、複数個(例えば50個)の光輝材21の厚さを測定し、その平均値を算出することにより得られる。
【0053】
平均粒径が小さすぎると、反射特性が低下するおそれがあり、平均粒径が大きすぎると、反射特性は優れるものの外観の粒子感が強くなりすぎるおそれがある。また、アルミフレークのエッジでの拡散反射は該フレークの厚さが厚いほど強くなるところ、上記の通り、その厚さが薄いから、当該拡散反射が弱い。よって、シェードの明度の低減に有利になる。
【0054】
なお、アルミフレークのアスペクト比(平均粒径/平均厚さ)は、30以上300以下であることが好ましい。
【0055】
また、アルミフレークは、その表面粗さRaが50nm以下であることが好ましい。特に、蒸着アルミフレークの場合は、表面粗さRaが7nm以下、平滑アルミフレークの場合は、表面粗さRaが50nm以下であることが好ましい。これにより、アルミフレーク表面の微細凹凸による拡散反射を低減できるから、シェードの明度を低減できる。
【0056】
なお、光輝材21は、ハイライトの明度を高めるため、光輝性層14の表面と略平行になるように(光輝性層14の表面に対する光輝材21の平均配向角度が1.2度以下になるように)配向されている。例えば、光輝材21、黒系顔料23、光輝性層赤系顔料24等を含有する塗料を電着塗膜13の上に塗布した後、焼付けによる溶剤の蒸発によって塗膜が体積収縮して薄くなることを利用して、平均配向角度が1.2度以下になるように光輝材21を並べる。光輝材21の平均配向角度は、レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X1000)を用いて計測した光輝性層14表面の3D形状データ(xyz座標)から、1視野内に含まれる複数個(例えば50個)の光輝材21における光輝性層14の表面に対する傾きを算出し、それらを平均することにより得られる。
【0057】
アルミフレークには、リーフィング型及びノンリーフィング型の2種類があり、いずれを用いてもよいが、ノンリーフィング型のアルミフレークを用いることが好ましい。
【0058】
リーフィング型のアルミフレークは、その表面張力が低いため、リーフィング型のアルミフレークを含有する塗料を塗装した場合、アルミフレークは光輝性層14の表面に浮上し、光当該表面と平行に配向する。アルミフレークが光輝性層14の表面に浮上すると、反射光の光量は増し、金属質感は高まるものの、鏡面反射のような平面的な強い光沢が得られる。また、リーフィング型のアルミフレークの場合、表面積が小さいこと、光輝性層14の表面に配置される樹脂成分の量が少なくなること等により、光輝性層14と着色層15との密着性が低下し、チッピング等の外的要因により剥離しやすくなるという課題がある。
【0059】
これに対し、ノンリーフィング型のアルミフレークは、その表面張力が高いため、ノンリーフィング型のアルミフレークを含有する塗料を塗装した場合、例えば図1に示すように、アルミフレークは光輝性層14の表面と平行に配向しつつ膜厚方向には不規則に分散する。これにより、膜厚方向のアルミフレークの位置に対応して反射光の光量が変化するから、立体感のある金属調の光沢が得られ、より意匠性の高い塗色を得ることができる。また、ノンリーフィング型のアルミフレークの場合、光輝性層14の表面に配置される樹脂成分の量を十分確保できるから、光輝性層14と着色層15との十分な密着性を確保できる。
【0060】
・低反射フレーク
アルミフレークのような高反射フレーク21Aは、ハイライトの明度を高めることに有効であるものの、フレーク表面の微小凹凸による拡散反射やフレークのエッジでの拡散反射があり、さらに、電着塗膜13での拡散反射がある。そのため、高反射フレーク21Aの濃度調整だけでは、ハイライト及びシェードの明度を所期の暗さに調整することができない。そこで、本実施形態では、高反射フレーク21Aと低反射フレーク21Bを併用し、低反射フレーク21Bの光吸収機能及び隠蔽能を利用して積層塗膜の反射特性を調整するようにしている。
【0061】
高反射及び低反射の両フレーク21A,21Bの併用では、高反射フレーク21A同士の隙間を透過する入射光の多くは、低反射フレーク21Bに当たって遮蔽されるため、下地(電着塗膜13)による光の反射は殆どなくなる。そして、高反射フレーク21Aによって拡散反射される光が低反射フレーク21Bによって遮蔽ないし吸収されることにより、シェードの明度が低下する。
【0062】
低反射フレーク21Bは、その可視光線反射率が高反射フレーク21Aの3/4以下であることが好ましく、1/2以下であることがより好ましい。低反射フレーク21Bは、平均粒径が5μm以上20μm以下とすれば良く、拡散反射を抑える観点から、平均厚さは10nm以上100nm以下、表面粗さRaは100nm以下であることが好ましい。フレーク状光輝材のエッジでの拡散反射は該フレークの厚さが厚いほど強くなるところ、低反射フレーク21Bはその厚さが薄いから、当該拡散反射が弱い。よって、シェードの明度の低減に有利になる。
【0063】
低反射フレーク21Bとしては、具体的には例えば、その可視光線反射率がアルミフレークの3/4であり、クロムフレークに代表されるフレーク、その可視光線反射率がアルミフレークの1/2であり、ステンレスフレークに代表されるフレーク、その可視光線反射率がアルミフレークの1/4であり、酸化クロムフレークに代表されるフレーク、その可視光線反射率がアルミフレークの1/18であり、板状酸化鉄(α-Fe)フレークやカーボンフレークに代表されるフレーク等が挙げられる。低反射フレーク21Bとしては、酸化クロムフレークを採用することが好ましい。
【0064】
なお、光の反射特性の調整のために、光輝性層14の光輝材として高反射フレーク21Aのみを採用し、光輝性層14と電着塗膜13の間に光を吸収する黒色、その他の暗色下地層(吸収層)設けるようにしてもよい。すなわち、光輝性層14における高反射フレーク21AのPWCを調整し、高反射フレーク21A間の隙間を透過した光を暗色下地層で吸収するという方式である。この方式の場合、暗色下地層の塗装が必要になるが、反射特性を調整することは可能である。
【0065】
・光輝材の面積率
光輝材21を光輝性層14の底面に投影したときに該底面に占める光輝材21の投影面積の割合(本明細書において、「面積率」ともいう。)は、単位面積当たり、好ましくは3%以上70%以下、より好ましくは20%以上50%以下である。
【0066】
光輝材21の面積率が少なすぎると、光輝材21による反射光の光量が不足し、ハイライトの十分な彩度が得られない。一方、光輝材21の面積率が多すぎると、光輝材21の量が多いため、光輝材21の表面の微細凹凸やエッジによる拡散反射の影響が大きくなり、ハイライト及びシェードの明度が上昇するとともに、光輝性層14の強度及び耐候性が低下する。光輝材21の面積率を上記範囲とすることにより、十分なハイライト及びシェードの暗さを確保しつつ、彩度陰影感を高めることができるとともに、十分な強度及び耐候性を得ることができる。
【0067】
光輝材21の単位面積当たりの面積率は、例えば、光輝性層14をその表面からマイクロスコープで拡大して観察し、画像処理によって複数視野(例えば10視野)における光輝材21の面積率を算出し、それらを平均することにより得られる。
【0068】
上述のような光輝材21の面積率は、例えば、光輝性層14における光輝材21のPWCを、好ましくは1質量%以上17質量%以下、より好ましくは5質量%以上12質量%以下とすることにより達成できる。光輝材21のPWCが1質量%未満では、光輝材21の十分な面積率が得られない。光輝材21のPWCが17質量%を超えると、光輝材21の面積率が大きくなりすぎる。
【0069】
また、光輝材21として高反射フレーク21Aと低反射フレーク21Bとを採用する場合は、光輝材21中における低反射フレーク21Bの割合を10質量%以下とすることが好ましい。
【0070】
[黒系顔料]
フレーク状の光輝材21は、ハイライトの明度を高めることに有効であるものの、フレーク表面の微小凹凸による拡散反射やフレークのエッジでの拡散反射があり、さらに、下地(本実施形態では電着塗膜13)での拡散反射がある。このような拡散反射された光が着色層15を透過すると、特にシェード方向の光量が増えて、シェードの明度が高くなる。シェードの明度が高まると、シェードの白みが増すから、ハイライトにおける赤の発色がぼやけて全体の明度が上昇するとともに彩度陰影感が低下する原因となる。そこで、光輝性層14に黒系顔料23を含有させ、黒系顔料23の光吸収機能及び隠蔽能を利用してシェードの反射特性を調整することが望ましい。
【0071】
光輝材21同士の隙間を透過する入射光の多くは、黒系顔料23により吸収及び/又は遮蔽されるため、下地(電着塗膜13)による拡散反射は殆どなくなる。そして、光輝材21の微細凹凸やエッジによって拡散反射される光が黒系顔料23によって吸収及び/又は遮蔽されることにより、シェードの明度が低下する。
【0072】
光輝性層14に含有される黒系顔料23としては、限定する意図ではないが、例えば、耐候性に優れるカーボンブラックを採用できる。
【0073】
光輝性層14における黒系顔料23のPWCは1質量%以上20質量%以下、好ましくは3質量%以上19質量%以下、より好ましくは5質量%以上15質量%以下であることが望ましい。黒系顔料23のPWCが低すぎると、その光吸収機能及び隠蔽能が十分に得られないおそれがある。一方、黒系顔料23のPWCが高すぎると、一次粒子が凝集してなるストラクチャーが機械的に絡み合った状態になりやすく、光散乱が増加するから、透明性が低下するとともに、シェードの明度が増加するおそれがある。従って、光輝性層14における黒系顔料23のPWCを上記範囲とすることにより、シェードの明度を低下させるのに有利になる。
【0074】
黒系顔料23の平均粒径は10nm以上200nm以下であることが好ましく、50nm以上160nm以下であることがより好ましい。平均粒径200nm以下は、可視光下限(波長400nm)の1/2波長以下であるから、黒系顔料23の粒子による光散乱を抑制でき、シェードの暗さを確保できる。黒系顔料23の平均粒径が10nm未満では、十分な低明度を確保することが困難になる。黒系顔料23の平均粒径が200nmを超えると、黒系顔料23の粒子による光散乱を十分に抑制できなくなり、シェードにおける十分な暗さを確保することが困難になる。
【0075】
光の反射特性の調整のために、光輝性層14と電着塗膜13の間に光を吸収する黒色、その他の暗色下地層(吸収層)を設けるようにしてもよい。すなわち、光輝性層14における光輝材21間の隙間を透過した光を暗色下地層で吸収するという方式である。この方式の場合、暗色下地層の塗装が必要になるが、反射特性を調整することは可能である。
【0076】
[光輝性層赤系顔料]
光輝性層14は、黒系以外の色の着色材、好ましくは着色層15に含まれる着色材と同系色の着色材、例えば赤系着色材を含むことが好ましい。これにより、光散乱を抑制できるとともに、ハイライト及びシェード、特にシェードの彩度を確保して、全体として低明度の色相の中にも赤の鮮やかさ及び深み感が保持された色相を実現できる。
【0077】
本実施形態では、赤系着色材として、光輝性層赤系顔料24を含む。光輝性層赤系顔料24としては、具体的には例えば、ペリレンレッド、ジブロムアンザスロンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド、キナクリドンレッド、ジケトピロロピロール等の有機顔料を用いることができ、特に耐候性に優れるペリレンレッドを用いることが好ましい。
【0078】
光輝性層赤系顔料24の平均粒径は、10nm以上200nm以下、好ましくは50nm以上200nm以下である。
【0079】
光輝性層赤系顔料24の平均粒径が200nm以下であるから、顔料粒子による幾何光学的な散乱やミー散乱がなく、10nm以上であるから、レイリー散乱も避けられ、透明感ある鮮やかな赤の発色及び濃厚な深み感の達成に有利になる。
【0080】
光輝性層14における光輝性層赤系顔料24のPWCは、1質量%以上20質量%以下であり、好ましくは2質量%以上10質量%以下、より好ましくは4質量%以上8質量%以下である。
【0081】
光輝性層14における光輝性層赤系顔料24のPWCが1質量%未満では、ハイライトにおける赤色の十分な発色性が得られない。また、光輝性層赤系顔料24のPWCが20質量%超では、顔料粒子による反射光の吸収及び/又は遮蔽効果が大きくなってハイライトの明度及び彩度が下がるとともに、顔料粒子による光散乱の効果によりシェードの明度が増加するから、彩度陰影感が低下する。
【0082】
[着色材全体]
ダーク系カラーの積層塗膜では、全体の明度を低くする必要がある。その点で、光輝性層14に黒系顔料23を含むことは効果的である。そして、着色層15に加えて、光輝性層14にも赤系顔料を含むことが、全体的に低明度ながらもハイライトとシェードの彩度陰影感を十分に確保し、透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立させる上で、非常に有利に働く。
【0083】
すなわち、光輝性層14には、黒系顔料23と光輝性層赤系顔料24の両者を含むことが望ましい。
【0084】
そして、光輝性層14に含まれる全着色材、すなわち黒系顔料23及び光輝性層赤系顔料24の総計のPWCは、好ましくは1質量%以上26質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下である。
【0085】
また、黒系顔料23及び光輝性層赤系顔料24の総計に対する光輝性層赤系顔料24の割合は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは5質量%以上50質量%以下である。
【0086】
上記構成により、全体的に低明度ながらも透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを効果的に両立させることができる。
【0087】
<着色層>
[着色層赤系顔料]
着色層赤系顔料25としては、例えば、ペリレンレッド、ジブロムアンザスロンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド、キナクリドンレッド、ジケトピロロピロール等の有機顔料を用いることができ、特に耐候性に優れるペリレンレッドを用いることが好ましい。
【0088】
着色層赤系顔料25の平均粒径は、好ましくは2nm以上160nm以下、より好ましくは2nm以上30nm以下である。
【0089】
赤系顔料の平均粒径が160nm以下であるから、顔料粒子による幾何光学的な散乱やミー散乱がなく、2nm以上であるから、レイリー散乱も避けられ、透明感ある鮮やかな赤の発色に有利になる。また、平均粒径が小さいことにより、同じPWCであれば、顔料粒径が大きい場合に比べて、光が着色層を透過するときに顔料粒子に当たって吸収される頻度が高く、従って、光の減衰が大きくなる。光の減衰が大きくなると、着色層15を透過する光量が低下し、全体の彩度は低下するが、ハイライト方向の光量はもともと多いため、光の減衰が彩度に及ぼす影響は小さい。一方、シェード方向の光量はもともと少ないため、光の減衰が彩度に及ぼす影響が大きくなる。そうして、顔料粒子の小径化により、彩度陰影感の向上が図れ、透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立させる上で有利になる。
【0090】
着色層15における着色層赤系顔料25のPWCは、1質量%以上17質量%以下であり、好ましくは4質量%以上10質量%以下である。
【0091】
着色層15における着色層赤系顔料25のPWCが1質量%未満では、ハイライトにおける赤色の十分な発色性が得られない。また、着色層赤系顔料25のPWCが17質量%超では、顔料粒子による反射光の吸収及び/又は遮蔽効果が大きくなってハイライトの彩度が下がるとともに、顔料粒子による光散乱の効果によりシェードの明度及び彩度が増加するから、彩度陰影感指数が低下する。
【0092】
<積層塗膜の光学特性>
[L値及びC値]
値及びC値は、L表色系のそれぞれ明度及び彩度である。なお、C値は、a及びbの値から、C=√((a+(b)の式により算出できる。
【0093】
図2に、積層塗膜12のL値の測定方法を示す。光源41の光の入射角(測定対象物、ここでは積層塗膜12の表面の垂線からの角度)は45゜である。センサ42による受光角θ(正反射方向から光源側への傾き角度)は正反射方向を0゜としている。測定には株式会社村上色彩研究所製三次元変角分光測色システムGCMS-4を用いた。
【0094】
光の入射角を45゜として、受光角θで測定した反射光のL値及びC値をそれぞれL(θ)及びC(θ)としたときに、積層塗膜12は、下記式(1)~(3)を満たす。
【0095】
5≦L(θ)≦25 (10°≦θ≦25°) ・・・(1)
20≦C(θ)≦65 (10°≦θ≦25°) ・・・(2)
2≦C(80°) ・・・(3)
言い換えると、ハイライトである10°≦θ≦25°におけるL(θ)が5以上25以下、好ましくは6以上25以下、より好ましくは8以上24以下、特に好ましくは8.77以上23.41以下である。また、10°≦θ≦25°におけるC(θ)が20以上65以下、好ましくは21以上65以下、より好ましくは23以上63以下、特に好ましくは31.2以上62.68以下である。
【0096】
また、受光角90°は、反射光が入射光と重なるため測定が困難である。従って、受光角90°の近傍である受光角80°のC(80°)をシェードのC値とする。C(80°)は、2以上、好ましくは2.2以上10以下、より好ましくは3以上8以下、特に好ましくは4以上5以下である。
【0097】
熟成されたワインのようなダーク系の赤色、すなわち全体として低明度の赤い色相を有する積層塗膜12において、ハイライト(10°≦θ≦25°)を、上記式(1)、(2)で表されるように、低明度且つ高彩度とすることにより、全体として暗い色相の中にも、きめ細かい、透明度の高い鮮やかな赤の発色が得られる。また、シェード(θ=80°)は、上記式(3)に表されるように、極めて低明度でありながら一定の彩度を確保することにより、彩度がありつつ濃厚な深み感を実現できる。
【0098】
なお、ダーク系カラーの積層塗膜では、十分な低明度を確保する観点から、シェード(θ=80°)の明度L(80°)は5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。
【0099】
[k]
ダーク系カラーの積層塗膜12では、ハイライトは低明度であるが、低明度ながらも透明感のある鮮やかな赤の発色を得る観点から、ハイライトにおける彩度の傾きを所定の数値範囲とすることが望ましい。
【0100】
具体的には、ハイライト(10°≦θ≦25°)における積層塗膜12のL(θ)が上限値(例えば25、好ましくは24、より好ましくは23.41)及び下限値(例えば5、好ましくは8、より好ましくは8.77)となるθをそれぞれθ1及びθ2とする。
【0101】
積層塗膜12について、C(θ1)=k×C(θ2)を満たす係数kをハイライトにおける彩度の傾きとすると、kは、0.03以上0.5以下であることが好ましく、0.1以上0.5以下であることがより好ましい。
【0102】
ハイライトにおける明度L値の上限値及び下限値に対応するC(θ1)及びC(θ2)について、kが上記数値範囲を満たすことにより、ハイライトにおける透明度の高い鮮やかな赤の発色をより効果的に確保できる。
【0103】
[彩度陰影感指数]
ダーク系カラーの積層塗膜では、ハイライト及びシェードのいずれにおいても低明度となる。低明度の中にも透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立させるためには、ハイライトとシェードの彩度におけるコントラストを確保することが効果的である。このハイライトとシェードの彩度におけるコントラストを、本明細書では「彩度陰影感」と称している。
【0104】
積層塗膜12のハイライトにおける彩度C値の代表値として、上記受光角θ1における彩度C(θ1)を採用し、シェードの彩度C(80°)との差ΔC=C(θ1)-C(80°)、すなわちハイライトとシェードの彩度差を、上述の彩度陰影感を示す指標である彩度陰影感指数(本明細書において、「CFF」ともいう)とした。
【0105】
彩度陰影感指数が大きいほど、全体として低明度でありながらも、ハイライトとシェードの彩度のコントラストを確保できるから、透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立できる。
【0106】
具体的には、彩度陰影感指数は、50以上であることが好ましく、50以上60以下であることがより好ましい。
【0107】
[粒子感指数]
XYZ表色系のY値は、CIE XYZ色空間において下記式により定義される三刺激値X、Y及びZのうちのYであり(https://ja.wikipedia.org/wiki/CIE_1931_%E8%89%B2%E7%A9%BA%E9%96%93)、明るさ(視感反射率)を表す刺激値である。
【0108】
【数1】
【0109】
なお、x(λ)、y(λ)及びz(λ)(各々のアッパーバーの付記省略)はCIE等色関数であり、Le,Ω,λは測色観測者における色の分光放射輝度である。
【0110】
図3(a)に、積層塗膜12の粒子感指数の測定方法を示す。本明細書において、「粒子感」とは、積層塗膜12中にある光輝材21等により反射される拡散光の強弱により感じる、“ぎらぎら”、“ざらざら”といった質感のことを意味している。拡散光の強弱が粒子感をもたらすと考えられることから、上述のY値の変動の大きさ、すなわちY値のばらつきと、粒子感との間に相関があると仮定し、Y値のばらつきを表す指標であるY値の標準偏差を粒子感の指標とした。なお、測定には日本電色工業株式会社製微小面光度計VSS 7700をベースに、サンプルを載置するステージを可動とした装置を用いた。
【0111】
光源41の積層塗膜12に対する入射角は45゜(積層塗膜12の表面の垂線からの傾き角度)である。センサ42による受光角θ(正反射方向から光源側への傾き角度)は正反射方向を0゜としている。
【0112】
受光角θを45°(積層塗膜12の表面の垂線方向)として、積層塗膜12の表面と平行な方向に連続的に測定してY値の変化を測定した。具体的には、積層塗膜12を備えたサンプルをステージ(不図示)に載置し、所定の測定面積を有する円形のスポット領域M毎にY値の測定を行う。ステージは矢印A1の方向に所定の速度で移動する。そうして、積層塗膜12の表面のスポット領域MのY値を矢印A2の方向に連続的に測定できるようになっている。スポット領域Mのスポット直径Rを0.2mm、測定ピッチPを0.2mm、ステージの移動速度を5mm/分として、各スポット領域のY値を測定した。なお、測定開始個所を0mmとし、測定開始個所からA2方向へ測定距離50mmに亘って連続測定を行った。
【0113】
測定結果の一例を図3(b)に示している。光輝材21が存在する個所はY値が高くなり、存在しない個所ではY値が低くなると考えられる。得られたY値の変化における所定の測定距離5mm毎にY値の標準偏差を算出し、該標準偏差の平均値を求めて積層塗膜12の粒子感指数とした。なお、図4(b)中破線で示すように、Y値が1.3以上になると、Y値の違いを人の視覚では認識できないものと仮定し、1.3以上のY値は全て1.3とした。
【0114】
粒子感指数は、その数値が小さい方が、より細かく、変化幅が小さく、均一な質感を示しているといえる。
【0115】
ダーク系カラーでは、低明度でありながらも鮮やか且つ深みのある色相を得る観点から、粒子感指数は0.09以上0.12以下であることが好ましく、0.09以上0.11以下であることがより好ましい。
【0116】
なお、ダーク系カラーの積層塗膜において、彩度陰影感指数及び粒子感指数がいずれも上記数値範囲を満たす場合に、全体として低明度を確保しながら透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とをより効果的に両立できる。
【0117】
<光輝性層の光学特性>
積層塗膜12の光学特性と同様に、光輝性層14のみの光学特性を検討した。
【0118】
具体的には、着色層15及び透明クリヤ層16を形成する前の鋼板11Aの表面に、電着塗膜13を介して光輝性層14のみが設けられたサンプルについて、積層塗膜12と同様に、光学特性を検討した。
【0119】
積層塗膜12では、光輝性層14の上側に光透過を抑制する着色層15が積層される。従って、光輝性層14のハイライト(10°≦θ≦25°)の明度L(θ)は、積層塗膜12のハイライトの明度L(θ)よりも高いことが好ましい。
【0120】
一方、光輝性層14のハイライト(10°≦θ≦25°)の彩度C(θ)は、積層塗膜12のハイライトの彩度C(θ)よりも低くてもよい。
【0121】
ハイライトにおける明度L(θ)を高くする(反射率を増加させる)ことにより、着色層15の着色材の発色を際立たせて、積層塗膜12のハイライトの彩度C(θ)を高くすることができる。
【0122】
また、光輝性層14のシェード(θ=80°)の彩度C(80°)は、積層塗膜12のシェードの彩度C(80°)よりも低くてもよい。
【0123】
具体的には、光輝性層14は、下記式(4)~(6)を満たすことが好ましい。
【0124】
11≦L(θ)≦70 (10°≦θ≦25°) ・・・(4)
6≦C(θ)≦30 (10°≦θ≦25°) ・・・(5)
0.5≦C(θ) (θ=80°) ・・・(6)
言い換えると、ハイライトである10°≦θ≦25°におけるL(θ)が11以上70以下、好ましくは12以上68以下である。また、10°≦θ≦25°におけるC(θ)が6以上30以下、好ましくは6.5以上25以下である。
【0125】
また、シェードの彩度を示すC(80°)は、0.5以上、好ましくは0.6以上10以下、より好ましくは0.7以上8以下、特に好ましくは1以上8以下である。
【0126】
光輝材を含有する光輝性層14のL値及びC値が上記式(4)~(6)を満たすことにより、積層塗膜12における上述のL値及びC値の数値範囲を達成しやすくなる。
【0127】
<実施例>
以下、本実施形態の実施例について説明する。
【0128】
表1に示す製造例1の着色層と、表2に示す実施例1~9(本明細書において、それぞれ符号「E1~E9」で示すことがある)及び比較例1、6(本明細書において、それぞれ符号「C1、C6」で示すことがある)の光輝性層を備えた積層塗膜(下地は電着塗膜)を備えた塗装板を作製した。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
[実施例1]
リン酸亜鉛処理したダル鋼板(基板)に、カチオン電着塗料を乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。得られた被塗物の電着塗膜の上に、表2に示す光輝性層用の第1ベース塗料(アクリルエマルション系水性塗料)を回転霧化式静電塗装機によって塗装することにより、未硬化の光輝性層を形成した。光輝材のアルミフレークの平均粒径及び平均厚さは、それぞれ15μm及び200nmである。また、酸化クロムフレークの平均粒径及び平均厚さは、それぞれ10μm及び50nmである。
【0132】
次いで、未硬化の光輝性層の上に、表1に示す着色層用の第2ベース塗料(アクリルエマルション系水性塗料)を回転霧化式静電塗装機によって塗装することにより、未硬化の着色層を形成した。
【0133】
なお、表1及び表2の無機系UVAとしては、酸化鉄ナノ粒子(平均粒径50nm)を使用した。
【0134】
次いで、未硬化の着色層の上に、2液ウレタンクリヤ塗料を回転霧化式静電塗装機によって塗装することにより、未硬化の透明クリヤ層を形成した。当該クリヤ塗料には、有機系紫外線吸収剤としてのベンゾトリアゾール系UVA(CAS No.70321-86-7(分子量447))をPWC5質量%となるように配合した。
【0135】
しかる後、上記未硬化の光輝性層、未硬化の着色層、および未硬化の透明クリヤ層を同時に加熱(140℃で20分間加熱)して硬化させた。
【0136】
光輝性層及び着色層各々の乾燥厚さは12μmであり、透明クリヤ層の乾燥厚さは30μmであった。
【0137】
なお、第1ベース塗料及び第2ベース塗料をウェットオンウェットで塗装した後、プレヒート(80℃で3分間加熱)を行ない、クリヤ塗装後に焼付け(140℃で20分間加熱)を行なうようにしてもよい。
【0138】
[実施例2~9及び比較例1、2]
表2に示す光輝性層用の第1ベース塗料を用いた以外は、上記実施例1と同様に積層塗膜を形成した。
【0139】
[光学特性評価1]
そして、表3に示すように、上述の方法で各光学特性の指標を調べた。なお、上述の上限値L(θ1)及び下限値L(θ2)は、それぞれ、θ=10°のときのE1のL(10°)である23.41、θ=25°のときのE1のL(25°)である8.77とした。また、観察者が積層塗膜を様々な角度から見て行う外観目視試験により、透明感のある鮮やかな赤の発色の透明感、鮮やかさ及び深み感を評価した。外観目視試験は、「◎」、「○」、「△」及び「×」の4段階評価とした。赤の発色の透明感、鮮やかさ及び深み感の強さの評価は、「◎」が最も高く、「○」→「△」→「×」の順で段階的に低くなるというものである。
【0140】
【表3】
【0141】
[光学特性評価2]
また、表4に示すように、比較例2~5(本明細書において、それぞれ符号「C2~C5」で示すことがある)として、市販の塗装物の表面に形成されたダーク系赤色の塗膜A~Dについて、表3に示す積層塗膜の評価項目と同様の項目について評価を行った。
【0142】
【表4】
【0143】
[考察]
図4の(a)及び(b)は、E1~E4及びC1~C5の積層塗膜のそれぞれL値及びC値と受光角θとの関係を示すグラフである。
【0144】
図4に示すように、E1~E4では、ハイライト(10°≦θ≦25°)の明度L値及びC値が図4中ドットのハッチングで示す上記数値範囲の領域に入っていることが判る。
【0145】
また、ハイライトにおけるL値の上限値L(θ1)及び下限値L(θ2)をそれぞれ23.41及び8.77としたときの、E1~E4及びC1のθ1、θ2、C(θ1)及びC(θ2)の算出方法を、図4中点線で示している。
【0146】
図5は、E1~E4及びC1~C5の彩度陰影感指数と粒子感指数との関係を示すグラフである。図5に示すように、E1~E4では、彩度陰影感指数及び粒子感指数がいずれも上記数値範囲を満たしている。
【0147】
図6は、E1~E7、C1及びC6の光輝性層における黒系顔料(カーボンブラック)のPWCと平均粒径との関係を示している。E1、E2及びE5では、彩度陰影感指数CFFが55以上、E3、E4、E6及びE7では彩度陰影感指数CFFが50以上となり、ダーク系赤色の積層塗膜において、全体として低明度を確保しながら透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立できることが判る。図6から、光輝性層における黒系顔料のPWC及び平均粒径の好ましい数値範囲が判る。
【0148】
また、E8、E9についても、各評価項目について、上記数値範囲を満足していることが判る。
【0149】
(実施形態2)
以下、本開示に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0150】
光輝性層14に含まれる第2着色材は、赤系着色材に限られず、他の色相の着色材であってもよい。この場合、着色層15に含まれる着色材は、上述のごとく、第2着色材と同系色の着色材であることが好ましい。
【0151】
表5の塗料組成表に示す実施例10(E10)の積層塗膜は、第2着色材及び着色材として青系顔料であるフタロシアニンブルーを用いた例である。
【0152】
【表5】
【0153】
表5の積層塗膜においても、光学特性は上記実施形態1の光学特性の要件を満たしており、全体として低明度を確保しながら透明感のある鮮やかな赤の発色と濃厚な深み感とを両立できるダーク系青色の積層塗膜が得られることが判る。
【符号の説明】
【0154】
11 車体
11A 鋼板
12 積層塗膜
13 電着塗膜
14 光輝性層
15 着色層
16 透明クリヤ層
21 光輝材
21A 高反射フレーク
21B 低反射フレーク
23 黒系顔料(第1着色材)
24 光輝性層赤系顔料(第2着色材)
25 着色層赤系顔料(着色材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6