(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079423
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】低温タンクの保冷構造、及び施工方法
(51)【国際特許分類】
F17C 3/04 20060101AFI20240604BHJP
F17C 3/00 20060101ALI20240604BHJP
B65D 90/02 20190101ALI20240604BHJP
E04H 7/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
F17C3/04 A
F17C3/00 A
B65D90/02 N
E04H7/06 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192363
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000113517
【氏名又は名称】BASF INOACポリウレタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一貴
(72)【発明者】
【氏名】伊熊 健二
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 龍樹
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AA08
3E170AB29
3E170BA08
3E170DA03
3E170DA09
3E170NA04
3E170NA05
3E170QA05
3E170VA01
3E170VA07
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB11
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC10
3E172BD05
3E172CA02
3E172CA07
3E172CA10
3E172DA05
3E172DA13
3E172DA15
3E172DA26
(57)【要約】
【課題】保冷材層を作業性良く形成できる低温タンクの保冷構造を提供する。
【解決手段】低温液体16を収容可能な低温タンク10の保冷構造であって、内殻18と外殻20とからなる二重殻構造を有し、内殻18と外殻20との間に配置された、断熱性を有する仕切り板62と、内殻18と外殻20との間であって、仕切り板62よりも上方に設けられた、硬質ウレタンフォームにより形成された硬質ウレタンフォーム部36と、を備える。仕切り板62が、内殻18の外周を取り囲むように内殻18と外殻20との間に固定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容可能な低温タンクの保冷構造であって、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻との間に配置された、断熱性を有する仕切り部材と、
前記内殻と前記外殻との間であって、前記仕切り部材よりも上方に設けられた、硬質ウレタンフォームにより形成された第1断熱層と、
を備える、低温タンクの保冷構造。
【請求項2】
前記仕切り部材が、前記内殻の外周を取り囲むように前記内殻と前記外殻との間に固定されている、請求項1記載の低温タンクの保冷構造。
【請求項3】
前記仕切り部材が、前記内殻及び前記外殻のうちの少なくとも一方に設けられた保持部材によって固定されている、請求項1記載の低温タンクの保冷構造。
【請求項4】
前記仕切り部材は、以下の試験方法によって測定されるたわみが5mm以下である、請求項1記載の低温タンクの保冷構造。
(試験方法)
100cm×150cm×20cmの部材に対して、荷重250kgfとして単純支持梁(中央集中荷重)試験を行う。
【請求項5】
前記硬質ウレタンフォームの圧縮強度が、25kPa以上である、請求項1記載の低温タンクの保冷構造。
【請求項6】
液体を収容可能であり、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻との間に配置された、断熱性を有する仕切り部材と、
前記内殻と前記外殻との間であって、前記仕切り部材よりも上方に設けられた、硬質ウレタンフォームにより形成された第1断熱層と、
を備える、低温タンクの保冷構造の施工方法であって、
前記仕切り部材を固定する仕切り部材固定工程と、
前記仕切り部材よりも上方の二重殻構造内の領域にウレタン樹脂組成物を吹付けて保冷材層を形成する保冷材層形成工程と、
を有する施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温液体を貯蔵可能な低温タンクの保冷構造、及び施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液化窒素や液化天然ガス(LNG)等を貯蔵可能な低温タンクが知られている。低温タンクとは「低温液体」を貯蔵するタンクで、「低温液体」は0℃以下の液化ガスを指す。液化ガスとしては、液化窒素(約-192℃)、液化天然ガス(LNG、約-161℃)、液化石油ガス(LPG/プロパン、約-42℃)、及び、液化アンモニア(約-33℃)等を例示できる。
【0003】
低温タンクには、二重殻構造のドームルーフ型のものや、サスペンデッド・デッキ型のものがある。特許文献1には、ドームルーフ型の低温タンクが開示されている。特許文献2には、サスペンデッド・デッキ型の低温タンクが開示されている。特許文献1に開示されたようなドームルーフ型の低温タンクにおいては、二重殻を構成する内殻と外殻との間の空間に、断熱材(保冷材)として粒状パーライトを充填し、熱伝導率を上げる要因である水分を除去するため窒素ガス等で封入することが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-195498号公報
【特許文献2】特開2012-184017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、断熱材(保冷材)により保冷材層を形成するにあたっては、保冷材層を作業性良く形成できることが望ましい。
【0006】
本発明は、新規な低温タンクの保冷構造、及び施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様による低温タンクの保冷構造の特徴は、
液体を収容可能な低温タンクの保冷構造であって、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻との間に配置された、断熱性を有する仕切り部材と、
前記内殻と前記外殻との間であって、前記仕切り部材よりも上方に設けられた、硬質ウレタンフォームにより形成された第1断熱層と、
を備えることである。
上記態様の保冷構造において、前記仕切り部材が、前記内殻の外周を取り囲むように前記内殻と前記外殻との間に固定されていてもよい。
また、前記仕切り部材が、前記内殻及び前記外殻のうちの少なくとも一方に設けられた保持部材(リブ部材66、68など)によって固定されていてもよい。
前記仕切り部材は、以下の試験方法によって測定されるたわみが5mm以下であるようにしてもよい。
(試験方法)
100cm×150cm×20cmの部材に対して、荷重250kgfとして単純支持梁(中央集中荷重)試験を行う。
前記硬質ウレタンフォームの圧縮強度が、25kPa以上であるようにしてもよい。
また、本発明の他の態様による施工方法の特徴は、
液体を収容可能であり、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻との間に配置された、断熱性を有する仕切り部材と、
前記内殻と前記外殻との間であって、前記仕切り部材よりも上方に設けられた、硬質ウレタンフォームにより形成された第1断熱層と、
を備える、低温タンクの保冷構造の施工方法であって、
前記仕切り部材を固定する仕切り部材固定工程と、
前記仕切り部材よりも上方の二重殻構造内の領域にウレタン樹脂組成物を吹付けて保冷材層を形成する保冷材層形成工程と、を有することである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な保冷構造、及び施工方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る低温タンクを概略的に示す断面図である。
【
図2】ウレタン樹脂組成物を吹付ける際の施工方法を示す説明図である。
【
図6】作業者が足に圧力分散具を装着した状態を示す説明図である。
【
図8】ウレタン樹脂組成物の吹付けに係る第1施工例を示す説明図である。
【
図9】ウレタン樹脂組成物の吹付けに係る第2施工例を示す説明図である。
【
図10】高所ロープ作業により吹付けを行う様子を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態、及び、本実施形態に係る図面において、同一の符号が付された構成要素は、同様の構造又は機能を有するものとする。また、同様の構造又は機能を有する構成が、作図上の事情等により、互いに異なる図において異なる縮尺や形状で記載されている場合があるものとする。
【0011】
<低温タンク10の基本構造>
図1は、本実施形態に係る低温タンク10の構造を概略的に示している。低温タンク10は、ドームルーフ構造のタイプであり、二重殻構造を有している。低温タンク10は、例えば、液体窒素、液化天然ガス(LNG)、又は、液化プロパンガス(LPG)、液化アンモニア等といった低温液体16を内部に備蓄する。低温タンク10は、屋根部12と、屋根部12を支持する側壁部14とを有している。なお、
図1では、低温液体16の出入り口は不図示である。
【0012】
低温タンク10は、
図1に示すように、内側に配置された内殻18と、外側に配置された外殻20とを備えている。内殻18は、内側屋根部22と、内側屋根部22を支持する内側側壁部24とを有している。内側屋根部22は、上方に突出した屋根型の形状(「ドーム状」や「曲面状」などともいう)に形成されており、傾斜する曲面を有している。内側側壁部24は、円形容器状に形成されており、内側屋根部22に連続している。
【0013】
外殻20も、内殻18の外側において、外側屋根部26と、外側屋根部26を支持する外側側壁部28とを有している。外側屋根部26は、上方に突出した屋根型の形状(「ドーム状」や「曲面状」などともいう)に形成されており、傾斜する曲面を有している。外側側壁部28は、円形容器状に形成されており、外側屋根部26に連続している。
【0014】
内殻18の内側屋根部22と、外殻20の外側屋根部26は、低温タンク10の屋根部12を構成している。内殻18の内側側壁部24と、外殻20の外側側壁部28は、低温タンク10の側壁部14を構成している。
【0015】
本明細書において、内殻18と外殻20の間に介在する領域(空間)を空洞部30とする。空洞部30は、屋根部12の空洞部30aと、側壁部14の空洞部30bを含んで構成されている。低温タンク10の屋根部12において、空洞部30aは、内側屋根部22と外側屋根部26によりドーム状に形成されている。側壁部14においては、空洞部30bは、内側側壁部24と外側側壁部28により円筒状に形成されている。
【0016】
空洞部30を構成する内殻18と外殻20との間隔(空洞部30の幅)は、例えば、500mm~1500mmとすることができる。
【0017】
空洞部30には保冷材層32が充填されている。保冷材層32は、低温タンク10における保冷構造の一部を構成する。詳細には、空洞部30aは、硬質ウレタンフォーム部36で充填されており、空洞部30bは、パーライト粒部34及び窒素等の不活性ガス等の断熱材料で充填されている。
【0018】
パーライト粒部34は、従来から低温タンクに用いられているような一般的なパーライト粒を用いて形成することが可能である。パーライト粒は、内側側壁部24と外側側壁部28との間に、上方から流し込まれている。
【0019】
硬質ウレタンフォーム部36は、低温タンク10の屋根部12に形成されている。硬質ウレタンフォーム部36は、ウレタン樹脂組成物の吹付け作業により形成されているが、硬質ウレタンフォーム部36の材料特性や施工方法の詳細については後述する。
【0020】
低温タンク10の底部38にも、保冷構造が採用されている。底部38の保冷構造としては、低温タンク10の底部38に係る従来の種々の保冷構造を採用できる。
図1の例では、底部38は、パーライトブロック・クッションや、パーライトコンクリート等を用いて形成されている。
【0021】
なお、低温タンク10の底部38が地面から浮くように支持されていてもよい。
【0022】
<屋根部12への原料ホース50の導入>
前述したように、硬質ウレタンフォーム部36は、保冷材層32の一部を構成している。
図2は、硬質ウレタンフォーム部36と、硬質ウレタンフォーム部36の施工方法を概略的に示している。また、
図2は、低温タンク10の中心部から片側の外周部までの範囲を破断して、概略的に示している。
【0023】
図2に示すように、屋根部12の天頂部(外殻20の天頂部)には、円形容器状の外側頂部マンホール42が設けられている。外側頂部マンホール42は、外殻20に形成されており、外側頂部マンホール42の内側の空間は、空洞部30の空間と繋がっている。
【0024】
外側頂部マンホール42は、施工を行う作業者Aが、蓋(図示略)を開放し、梯子部44を伝って、空洞部30に出入りすることを可能としている。内殻18における内側屋根部22の上面は曲面であり、作業者Aは曲面上を移動する。
【0025】
図2に示すように、原料ホース50を取り入れるための開口として外殻20の屋根部(外側屋根部26)に原料ホース取り入れ口48が設けられている。原料ホース取り入れ口48は、外側頂部マンホール42を中心とした円上に複数個設置されており、原料ホース50を、屋根部12の空洞部30aに導入する際に開放される。原料ホース取り入れ口48の数は、低温タンク10の大きさにもよるが、例えば、4~16個等とすることができる。
図2の例では、8個の原料ホース取り入れ口48が設けられている。この原料ホース取り入れ口48の直下よりも中心部に近い部分の施工をする場合は、天頂の外側頂部マンホール42から原料ホース50を取り入れる。
【0026】
原料ホース50は、低温タンク10の外に配置されたトラック車両52から低温タンク10の屋根部12に向かって延び、原料ホース取り入れ口48を通って、空洞部30aに到達している。原料ホース50の一端は、トラック車両52の荷台に設置されたスプレーマシン(図示略)に接続されており、他端には、作業者Aにより把持される噴射装置(スプレーガン)が接続されている。
【0027】
図2では、原料ホース50のみが示されているが、図示しない他のホース(エアホース、エアラインマスク用ホースなど)が存在してもよい。これらのホースの外部を断熱カバー等の断熱手段が覆っていてもよい。スプレーマシン(図示略)には、発電機やコンプレッサが接続されている。ウレタン樹脂組成物を含む硬質ウレタンフォーム原料は加圧され、原料ホース50を介して、スプレーマシン(図示略)から、屋根部12の空洞部30aに送出される。
【0028】
図2及び
図3に示すように、パーライト注入口56が屋根部12に設けられている。パーライト注入口56は、屋根部12の外周部において、上向きに突出している。パーライト注入口56は、前述のパーライト粒を側壁部14の空洞部30bに注入するために用いられる。
【0029】
図8は、硬質ウレタンフォーム部36を形成する際の施工例の一例を模式的に示すものであるが、ここでの説明に援用する。
【0030】
図8には、内殻18の内側屋根部22を斜め上から見た状態が概略的に示されている。
図8では、原料ホース取り入れ口48、配管54、パーライト注入口56が、いずれも長方形のマークにより模式的に示されている。また、
図8では、位置の目安として、外殻20に形成されているパーライト注入口56も実線により示されている。
図8に示す施工例の詳細については後述する。
【0031】
図8では外殻20の図示が省略されているが、個々の配管54における軸方向の各端部は内側屋根部22と外側屋根部26とに接続されている。
【0032】
原料ホース取り入れ口48から空洞部30a導入された原料ホース50は、原料ホース取り入れ口48から外周方向に引き込まれる。
図8では、外殻20が取り除かれているが、前述のように、配管54は、内側屋根部22と外側屋根部26とに接続されていることから、原料ホース50は、隣り合った配管54の間を通過する。
【0033】
原料ホース50は、内側屋根部22と外側屋根部26との間の空洞部30aにおいて作業者Aにより引き回された際に、配管54に干渉し得る。原料ホース50が、配管54に干渉した場合には、原料ホース50の、周方向への移動が、配管54により規制される。
【0034】
内側屋根部22の傾斜は、内側屋根部22の中心部58から外周部60に向かう部位においては相対的に緩やかである。しかし、外周部60に近付いた部位では、内側屋根部22の傾斜は急峻になる。そして、内側屋根部22の傾斜は、内側側壁部24と繋がる部位では、ほぼ鉛直となる。このため、本実施形態の低温タンク10では、次に説明するように仕切り板62が設置され、作業者Aが側壁部14の空洞部30bに落下することが防止されている。
【0035】
<仕切り板62>
仕切り板62は、断熱部材であり、例えば、断熱性を有する硬質発泡ウレタン、発泡スチロール等の材料を板状に加工して形成されている。
図2及び
図3に示すように、仕切り板62は、屋根部12と側壁部14との境界の領域(境界領域)αにおける空洞部30に設置されている。本実施形態では、仕切り板62は、外殻20のパーライト注入口56よりも、幾分内周側に配置されている。なお、仕切り板62の断熱性は、例えば、硬質ウレタンフォーム部36の断熱性と同等である。
【0036】
本実施形態において、屋根部12と側壁部14との境界領域αは、屋根部12と側壁部14との境界を含んだ領域であり、屋根部12の外周部や、側壁部14の上端部を含み得る。例えば、屋根部12と側壁部14との境界を基準とし、この基準から±3m程度を境界領域とすることが可能であるが、これに限定されない。屋根部12の外周部から側壁部14の上端部を含む境界領域αの範囲内において、仕切り板62は、どの位置に配置されていてもよい。なお、
図2及び
図3において、境界領域αは寸法を表すものではなく、範囲を示すものとして用いられている。
【0037】
さらに、仕切り板62の配置は、
図2及び
図3に示す位置に限定されない。仕切り板62を、例えば、側壁部14の上端部よりも下側の部位に配置してもよい。また、仕切り板62を、例えば、側壁部14の、底部38寄りの部位(底部38の近傍の部位を含む)に配置してもよい。
【0038】
仕切り板62は、内殻18の周方向に沿って複数用いられている。個々の仕切り板62は、円弧状に加工されており、厚みは一定である。
図3は、仕切り板62の断面(低温タンク10の径方向に切断した状態の断面)を示しており、断面の形状は長方形である。
【0039】
仕切り板62は、内殻18の外周(及び外殻20の内周)に沿って、円状(真円状)に並べられている。仕切り板62は、内殻18と外殻20の間に掛け渡されており、
図2に示すように、内殻18側のリブ部材66と、外殻20側のリブ部材68により支持されている。そして、仕切り板62は、空洞部30において、上方の領域と下方の領域とを区切る(区画する)ように設置されている。
【0040】
個々のリブ部材66、68は、
図4に一方のみ示すように、金属板等を断面がL字状になるように加工して形成されている。
図3には、内殻18側のリブ部材66のみが示されている。
【0041】
内殻18側のリブ部材66は、内殻18に固定されている。リブ部材66は、内殻18の外周面に合致した形状(円弧状)の面を内殻18に突き当てて、溶接等の方法で内殻18に固定される。外殻20側のリブ部材68は、外殻20の内周面に合致した形状(円弧状)の面を外殻20に突き当てて、溶接等の方法で外殻20に固定される。リブ部材66の内殻18への固定、及び、リブ部材68の外殻20への固定は、溶接以外の方法により行われてもよい。
【0042】
図2に示すように、両リブ部材66、68は、互いに向かい合って突出している。対になっているリブ部材66、68に、仕切り板62が載せられている。
図4に一方のみ示すように、仕切り板62は、リブ部材66(及びリブ部材68)に角部を沿わせ、リブ部材66(及びリブ部材68)に係止している。換言すれば、仕切り板62は、両リブ部材66、68により支持されている。
【0043】
本実施形態では、リブ部材66、68は、内殻18及び外殻20の周方向に沿って、複数配置されている。リブ部材66、68の数は、内殻18を全周に亘って囲う全ての仕切り板62を、支持できる数であればよい。例えば、位置(位相)をずらして配置された一対のリブ部材66、68により複数の仕切り板62を支持できる場合には、仕切り板62の数を、リブ部材66、68の数よりも少なくすることができる。リブ部材66、68により、仕切り板62が、上面62a(足場面)を斜め上方に向けて傾斜した状態で保持される。
【0044】
仕切り板62は、内側屋根部22の外周部60において、空洞部30を、屋根部12の空洞部30aと、側壁部14の空洞部30bに仕切っている。そして、仕切り板62は、内側屋根部22を伝って、中心部58から外周部60に移動してきた作業者Aが、足(例えば片足)を載せて姿勢を確保する際の足場となる。そして、仕切り板62は、原料ホースを把持した作業者Aが足場として用いるのに十分な剛性や強度(リブ部材66、68による支持強度を含む)を有することが好ましい。
【0045】
仕切り板62としては、以下のような特性を有するものが採用されている。仕切り板62の材料に関する以下の試験方法によって測定されるたわみが5mm以下である。たわみの測定においては、100cm×150cm×20cmの部材に対して、荷重250kgfとして単純支持梁(中央集中荷重)試験を行う。
【0046】
<保冷構造の施工方法>
上述したような硬質ウレタンフォーム部36や、仕切り板62を用いた保冷構造は、
図2~
図6に示すようにして施工される。
【0047】
<<仕切り部材固定工程>>
先ず、仕切り部材固定工程が行われる。仕切り部材固定工程では、
図2及び
図3に示すように、屋根部12と側壁部14との境界領域αにおいて、リブ部材66が内殻18に固定され、リブ部材68が外殻20に固定される。リブ部材66、68は、内殻18及び外殻20の周方向に沿って、それぞれ複数個設置される。リブ部材66、68は、互いに向かい合って突出するように設けられる。
【0048】
続いて、複数の仕切り板62が、内殻18における内側屋根部22の外周を囲むように配置される。個々の仕切り板62は、対のリブ部材66、68によって支持される。
【0049】
<<保冷材層形成工程>>
続いて、保冷材層形成工程が行われる。保冷材層形成工程では、空洞部30a(仕切り板62よりも上方の領域)に、硬質ウレタンフォームを用いて、保冷材層の一部である硬質ウレタンフォーム部36が形成される。硬質ウレタンフォーム部36の形成は、
図2に示す外側頂部マンホール42から空洞部30aに降りた作業者Aが、内殻18における内側屋根部22の上面を伝い、外周部60へ移動してから行われる。
【0050】
空洞部30aには、原料ホース取り入れ口48から、原料ホース50が導入されている。作業者Aは、中心部58から外周側へ向かって移動し、途中で原料ホース50の先端の噴射装置(スプレーガン)を把持して、外周部60へ向かう。
【0051】
前述したように、内側屋根部22の上面は曲面であり、内殻18と外殻20の間隔が狭い場合には、作業者Aは、必要に応じて、屈んだ姿勢のまま移動する。外周部60において、作業者Aは仕切り板62に、例えば片足を載せ、荷重(原料ホース50を持った状態の荷重)の一部を仕切り板62に加える場合がある。この際、作業者Aが、両足を仕切り板62に載せることがあってもよい。
【0052】
作業者Aは、噴射装置(スプレーガン)の先端を斜め下方に向け、仕切り板62の上面62a(
図3)に、ウレタン樹脂組成物を噴射する。仕切り板62の上面62aにウレタン樹脂組成物が吹付けられ、所定の密度の硬質ウレタンフォームが形成される。
【0053】
吹付けに用いるウレタン樹脂組成物には、硬質ウレタンフォームを形成可能な従来公知のものを使用可能である。ウレタン樹脂組成物は、2液系であってもよいし、1液系であってもよい。ウレタン樹脂組成物は、公知の添加剤(難燃剤等)を含んでいてもよい。
【0054】
作業者Aは、ウレタン樹脂組成物の吹付け位置を、仕切り板62が配置されている方向(周方向)に沿って移動させる。この際の一方向の移動量としては、作業者Aが一定の位置から届く範囲や、作業者Aが歩いて移動する範囲などが挙げられる。この点については、具体的な施工例(
図8、
図9)の説明において後述する。
【0055】
作業者Aは、ウレタン樹脂組成物を、1枚又は複数枚の仕切り板62の外周部に沿って、吹き付ける。この際の吹き付け位置の軌跡を平面視すると円弧状となる。作業者Aは、1回の円弧状の吹付けが終わった後には、吹付け位置を、内周側へ移動させ、さらに形成された硬質ウレタンフォームの内側(内周側の隣の部位に)で、再び円弧状に、且つ、一方向の逆向きに移動させる。作業者Aは、このような吹付けを左右交互に行い、仕切り板62の上面62aを埋めるように、硬質ウレタンフォームを形成させる。
【0056】
1回の吹付けで仕切り板62の上面62aに形成される硬質ウレタンフォームの層を一層とし、硬質ウレタンフォームの層は、先に形成された層の上に積み重ねられる。1回の吹付けの厚み(1層の厚み)が所定量(後述するように、例えば30mm)程度となるように、吹付け作業が行われる。
【0057】
このように、吹付け作業は、硬質ウレタンフォームを敷き詰める方向と、積み上げる方向に行われる。硬質ウレタンフォームの層が積み重なることにより、仕切り板62の上に硬質ウレタンフォームが立体的に堆積する。ウレタン樹脂組成物の吹付け後、硬質ウレタンフォームは順次硬化する。このため、作業者Aは、
図2及び
図3に示すように、硬化して徐々に形成される硬質ウレタンフォーム部36に足を掛けて、作業することができる。硬質ウレタンフォームの硬化時間(ウレタン樹脂組成物の硬化時間)は、適宜調整可能であるが、例えば、5秒~60秒等である。
【0058】
仕切り板62の上方での吹付けは、仕切り板62と内殻18との隙間、仕切り板62と外殻20との隙間、及び、隣り合った仕切り板62同士の隙間が、硬質ウレタンフォームで埋まる或いは硬質ウレタンフォームで覆われるように行われる。ここで、硬質ウレタンフォームの吹付けは、内殻18の屋根部(内側屋根部22)の上面に密着するように行うことが好ましい。また、硬質ウレタンフォーム部36の厚みを十分に確保できれば、必ずしも、硬質ウレタンフォームを外殻20の下面(外側屋根部26の内側面、外側屋根部26の内周面)密着させる必要はない。
【0059】
硬質ウレタンフォームの層が積み重なることにより、屋根部12の空洞部30aが、下から上に、徐々に埋まる。
図2及び
図3は、ウレタン樹脂組成物の吹付けがある程度進み、作業者Aが、仕切り板62よりも原料ホース取り入れ口48の側へ移動した状態を示している。ウレタン樹脂組成物の吹付けがさらに進むにつれて、作業者Aは、より一層、原料ホース取り入れ口48に近付く。
【0060】
原料ホース取り入れ口48の直下よりも中心部に近い部分の施工をする場合は、天頂の外側頂部マンホール42から原料ホース50を取り入れる。周りから中心に施工してゆき、最後は機材と共に外側頂部マンホール42から出て、必要な厚みまで施工したのち、外側頂部マンホール42を封鎖する。
【0061】
図5には、原料ホース50の可動範囲が示されている。原料ホース50の可動範囲は、概ね、作業者Aの移動可能範囲を表している。そして、作業者Aの移動可能範囲は、原料ホース50と配管54との関係により制約される。
【0062】
原料ホース50は、配管54の間を通過しているため、原料ホース50が屋根部12の周方向へ移動すると、配管54に干渉する。したがって、原料ホース取り入れ口48と、配管54とを結ぶ線Bにより表される扇形の範囲が、原料ホース50の可動範囲となる。以下では、この線Bを「可動範囲境界線B」と称する。
【0063】
配管54よりも外周側の部位では、作業者Aの移動は、原料ホース50と配管54の関係により制約される。
図5の可動範囲境界線Bは、配管54よりも外周側では、配管54よりも外側(周方向の外側)に延びている。
【0064】
なお、作業者Aが硬質ウレタンフォーム部36を形成する際、独立気泡率(独泡率)の高いフォームを選択した場合、内部温度を考慮し、フォームの1回の吹付けの厚みが、例えば25~100mm、好ましくは30~50mm、より好ましくは30mm程度となるように吹付けが行われる。
【0065】
また、本実施形態においては、後述する実施例に基づき、硬質ウレタンフォーム部36を構成する硬質ウレタンフォームとして、圧縮強度が25kPa以上のものが採用されている。
【0066】
また、硬質ウレタンフォームとして、熱伝導率が、0.04[W/(m・K)]以下のものが採用されている。
【0067】
硬質ウレタンフォーム部36を、高密度独泡フォームを用いて形成する場合には、密度を35kg/m3以上が好ましい。
【0068】
独泡率は、80%以上が好ましい。
【0069】
熱伝導率は、0.040[W/(m・K)]以下が好ましい。
【0070】
また、硬質ウレタンフォーム部36を、低密度独泡フォームを用いて形成する場合には、密度を20kg/m3以下が好ましい。
【0071】
独泡率(独立気泡率)は、15%未満が好ましい。
【0072】
なお、低密度フォームの場合、相対的に、樹脂比率が少なくなり、強度が低くなることから、独立気泡率を下げる必要がある。独立気泡率を下げて、連続気泡とすることで、熱が逃げやすくなり、一度にほぼ制限なく厚く吹付けることが可能になる。
【0073】
発泡時の内部温度は、165℃未満が好ましい。
【0074】
内部温度に関して、内部温度の最高値に達する時期は、吹付けから、例えば、30分から3時間程度後である。内部温度が最高値に達する時期は、気泡の連通度が高いもの(独泡率が低いもの)は相対的に早く、連通度が低いもの(独泡率が高いもの)は遅くなる。
【0075】
<<圧力分散具の使用>>
作業者Aは、吹付けの際に、
図6に示すように、圧力分散具70を作業靴72に装着する。圧力分散具70は、軽量な発泡性樹脂材料を用いて形成されており、作業靴72よりも広い接地面積を有している。
図6及び
図7に示すように圧力分散具70は、固定バンド74を備えており、作業靴72のつま先の部分や、作業者Aの足首の部分に固定バンド74を掛け渡して、作業者Aの足に固定される。固定バンド74は、例えば、面ファスナー等の固定手段により、作業者Aの足に固定される。
【0076】
図7に示すように、圧力分散具70の上面には格子状にリブ76が形成されており、リブを設けることにより、厚みを薄くできるため軽量化に繋がるとともに高剛性化が図られている。また、圧力分散具70の下面には、滑り止め加工が施されていてもよい。
【0077】
圧力分散具70を装着することにより、作業者Aから硬質ウレタンフォーム部36に作用する圧力が、分散されて小さくなる。圧力分散具70は、例えば、一般に雪上で使用されるかんじきのように機能する。このため、硬質ウレタンフォーム部36が作業者Aにより踏みつけられた場合に、硬質ウレタンフォーム部36に作用する圧縮力を低減できる。そして、ウレタン樹脂組成物の吹付けを行っている間に、作業者Aが先に形成されている硬質ウレタンフォーム部36を踏みつけた際にも硬質ウレタンフォーム部36が破壊され難い。
【0078】
圧力分散具70の接地面積を十分に大きくすることにより、作業者Aから硬質ウレタンフォーム部36に作用する圧力が、作業者Aが歩き難くなることもあり得る。したがって、圧力分散具70の接地面積を、作業靴72の設置面積の、例えば1.5倍程度とすることが好ましい。
【0079】
なお、硬質ウレタンフォーム部36の表面には、吹付け作業に支障はない或いは断熱性が著しく低下しないひび割れが発生してもよい。
【0080】
<<仕切り板62の下方からの吹付け>>
ここで、
図2及び
図3の例では、仕切り板62の下方からも、ウレタン樹脂組成物の吹付けが行われている。
図2及び
図3の例では、側壁部14における空洞部30に、パーライト粒が導入され、パーライト粒部34(
図1)が形成される前に、空洞部30に、作業用足場80が設置される。作業用足場80を上った作業者Cは、仕切り板62に向けてウレタン樹脂組成物を吹付ける。作業用足場80を、作業用ゴンドラ等で代用してもよい。
【0081】
ウレタン樹脂組成物の吹付けにより発生する硬質ウレタンフォームは、順次硬化するため、硬質ウレタンフォームが側壁部14内において、流れ落ちることはない。仕切り板62の下方からの吹付けは、仕切り板62と内殻18との隙間、仕切り板62と外殻20との隙間、及び、隣り合った仕切り板62同士の隙間を埋めるように或いは覆うように行われる。
【0082】
作業用足場80を構成する各種の足場材の、空洞部30への搬入は、例えば、側壁部14の下方の部位に出入口(図示略)を設けて行うことが可能である。
【0083】
仕切り板62の上方に形成された硬質ウレタンフォーム部36を、例えば「第1断熱層」と称した場合に、仕切り板62の下方に形成された硬質ウレタンフォーム部82は、「第2断熱層」などと称することが可能である。
【0084】
第2断熱層(硬質ウレタンフォーム部82)の形成は、仕切り板62の下方から、外周部のパーライト注入口56の手前までの範囲で行うことが可能である。このようにすることで、第2断熱層(硬質ウレタンフォーム部82)の形成後に、空洞部30bに、パーライトの注入を行うことが可能である。
【0085】
また、側壁部14の空洞部30bの全体に、硬質ウレタンフォーム部82を形成することも可能である。この場合は、作業用足場80を段階的に低くする等の工法により、吹付け作業を行うことが可能である。さらに、この場合は、硬質ウレタンフォーム部82に、低密度独泡フォームよりも、高密度独泡フォームを用いることが好ましい。
【0086】
また、硬質ウレタンフォーム部82の形成を行わず、仕切り板62の下方(側壁部14の空洞部30bの全体を含む)を、パーライトで埋めることも可能である。この場合は、第2断熱層がパーライトにより形成されることとなる。
【0087】
さらに、第2断熱層を、硬質ウレタンフォームやパーライト以外の断熱材で形成することも可能である。そして、仕切り板62の下方(側壁部14の空洞部30bの全体を含む)を、硬質ウレタンフォームやパーライト以外の断熱材により埋めることも可能である。
【0088】
このように、第2断熱層を形成する断熱材は、パーライトでも、硬質ウレタンでも、他の断熱材でもよい。また、仕切り板62の下方(側壁部14の空洞部30bの全体を含む)の部位の断熱材の全体を同じ種類の断熱材により形成したような場合には、仕切り板62の下方の断熱層(保冷材層)の全体について、第2断熱層と称することも可能である。
【0089】
<<ウレタン樹脂組成物の吹付けに係る第1施工例>>
図8は、硬質ウレタンフォームを吹付ける際の施工例の一例(第1施工例)を模式的に示している。
図8には、内殻18の内側屋根部22の外周部60から中心部58の範囲を斜め上から見た状態が示されている。
図8の中央上部に示されているのは、内殻18の天頂部に設けられた内側頂部マンホール46である。なお、
図8では、外殻20が取り除かれているが、位置の目安として、外殻20に形成されているパーライト注入口56も、矩形のマークにより示されている。
【0090】
図8に示す第1施工例においては、前述したのと同様に、原料ホース取り入れ口48から原料ホース50が導入される。原料ホース50の可動範囲は、2本の可動範囲境界線Bにより挟まれた範囲である。可動範囲境界線Bは、配管54の位置で外側に折れ曲がっている。
【0091】
第1施工例においては、原料ホース50、及び、配管54により規定される2本の可動範囲境界線Bの幅内で、扇型に、ウレタン樹脂組成物が吹付けられる。硬質ウレタンフォームの吹付け位置は、矢印D1で示すように、扇における円弧の一端から移動開始し、
図8の右から左に円弧状に進む。
【0092】
次に、矢印D2で示すように、ウレタン樹脂組成物の吹付け位置が円弧の端に到達すると、吹付け位置の経路が折り返され、先に形成された円弧の内側で、再び円弧状に移動する。この後も、矢印D3~D5のように、円弧状に、硬質ウレタンフォームの吹付けが繰り返される。
【0093】
なお、図示が煩雑になるのを防ぐため、
図8では、特に方向を区別した記載は行われていないが、吹付け位置の移動は、前述したように、硬質ウレタンフォームを敷き詰める方向と、積み上げる方向に行われる。また、吹付け位置の移動は、空洞部30aの空間形状に応じて行われる。
【0094】
例えば、ウレタン樹脂組成物の吹付けの開始時には、吹付けを、仕切り板62における上面62aの最外周部に対して行うことが可能である。
【0095】
この後、吹付け位置が、仕切り板62の最外周部の形状に沿って円弧状に移動し、硬質ウレタンフォームにより1段の円弧が形成される。続いて、吹付け位置が、仕切り板62の内周側に移動し、再び円弧状に移動する。この結果、仕切り板62の上面62aにおいて、1段目の円弧に対して内周側の位置に、2段目の円弧が形成される。なお、1段目の円弧と2段目の円弧は一方の端部で繋がっていることから、ここでいう2段目の円弧は、例えば、「1段分内側の円弧」などと称することが可能である。
【0096】
このように、ウレタン樹脂組成物の吹付け位置を移動させて硬質ウレタンフォームによる円弧の形成が繰り返される。さらに、外周部から配管54までの領域(第1作業領域E1)において、既に形成されている1層目の上に、2層目以降が積み重ねられる。
【0097】
第1作業領域E1において、ウレタン樹脂組成物が届く範囲で吹付けが完了した後、作業者Aは、矢印Kで示すように、配管54よりも中心部58の側における円弧状の領域(第2作業領域E2)に移動して、同様に円弧状に(矢印D6~D9により模式的に示すように)、吹付けを行う。そして、原料ホース取り入れ口48を中心点とした扇形の領域(第1作業領域E1+第2作業領域E2)について、可能な範囲での硬質ウレタンフォームの充填が完了すると、原料ホース取り入れ口48から原料ホース50を抜き出し、隣接する原料ホース取り入れ口48から原料ホース50を入れ同様な作業を行う。この際、第1作業領域E1+第2作業領域E2が扇形の領域にならなくてもよい。複数の第1作業領域E1+第2作業領域E2の作業が完了した後、抜き出した原料ホース50を外側頂部マンホール42から空洞部30aに導入して、原料ホース取り入れ口48よりも内周側への吹付けが行われる。
【0098】
このように、吹付け位置の円弧状の移動と、積み上げ方向への移動とを繰り返し、空洞部30aの空間形状に応じて、吹付けが行われる。そして、原料ホース50の1つの可動範囲内での吹付けの後、原料ホース50を、左隣(又は右隣)の配管54との間に移動させ、同様に、可動範囲内での吹付けを行う。同様の作業が、屋根部12における空洞部30の全周に亘って行われる。
【0099】
なお、このような第1施工例は、複数の作業者Aにより同時に行うことも可能である。また、第1施工例は、原料ホース取り入れ口48を中心として、2本の可動範囲境界線Bに挟まれた範囲内(可動域)全体に対して吹付け位置を移動させる方法であるということができる。
【0100】
<<ウレタン樹脂組成物の吹付けに係る第2施工例>>
図9は、ウレタン樹脂組成物を吹付ける際の施工例の一例を模式的に示している。第2施工例においては、先ず、内側屋根部22の外周部60について、複数の作業者A及びスプレーマシン(図示略)により、同時に吹付けを行う。作業者Aは、周方向に分散し、傾斜が急な外周部60に、全周に亘り環状に、硬質ウレタンフォームによる足場を形成する。
【0101】
傾斜が急な箇所に足場を形成した後には、例えば、原料ホース取り入れ口48までの領域を周方向に3つの領域(中間分割領域)F1、F2、F3に分ける。
図9では、中間分割領域F1、F2、F3が、異なる態様のハッチングや網掛けにより区別されている。そして、各中間分割領域F1、F2、F3に作業者A及びスプレーマシン(図示略)を割り当て、それぞれの領域で吹付けを行う。
【0102】
その後は、原料ホース取り入れ口48よりも内周側の領域(中心領域)Gで吹付けを行い、硬質ウレタンフォーム部36の形成を完了する。
【0103】
このような第2施工例によれば、第1施工例と同様に、下から上への施工により、硬質ウレタンフォームからのガス(泡ガス)の抜け道を確保することができる。また、施工の初期に、多人数で足場を形成することから、より迅速に足場に係る安全性を確保できる。
【0104】
なお、このような第2施工例は、一人の作業者Aにより行うことも可能である。すなわち、一人の作業者Aが、傾斜が急な外周部60に、全周に亘り環状に、硬質ウレタンフォームによる足場を形成し、その後、各中間分割領域F1、F2、F3を順次吹き付けをしてもよい。
【0105】
<本実施形態に係る低温タンク10の保冷構造及び施工方法のメリット>
以上説明したような本実施形態の低温タンク10の保冷構造及び施工方法によれば、硬質ウレタンフォームを用いて、保冷材層32の一部である硬質ウレタンフォーム部36を形成することができる。硬質ウレタンフォーム部36は、ウレタン樹脂組成物の吹付けにより形成することが可能であるから、保冷材層32を作業性良く形成できる。
【0106】
また、屋根部12と側壁部14との境界領域αにおける空洞部30に、仕切り板62を設置して吹付け作業が行われることから、仕切り板62を作業者Aの足場として利用できる。したがって、硬質ウレタンフォーム部36の形成を、作業者Aが安全に行うことが可能である。そして、このメリットには以下のような意味がある。
【0107】
パーライト粒の充填を前提としたドームルーフ構造の低温タンクにおいては、境界領域αに、パーライト注入口56が設置され、境界領域αから下方に向けてパーライト粒の供給が開始されるのが通常である。このため、境界領域αにおいては、屋根部12と側壁部14とを区画する柱状の部材(以下では「区画部材」と称する)は設置されない。
【0108】
このような区画部材には、内殻18と外殻20の両方に接合する必要や、外側屋根部26を支持するのに十分な剛性を有する必要がある。そして、区画部材は、パーライト粒の導入をスムーズに行うための妨げになったり、熱橋(ヒートブリッジ)となったりする場合がある。したがって、通常は、屋根部12と側壁部14の境界の空洞部30に、区画部材が設置されることはない。
【0109】
また、空洞部30aに作業者Aが入り込んでウレタン樹脂組成物の吹付けを行うと、内側屋根部22がドーム状であることから、不注意により足を滑らせることも考え得る。さらに、内側屋根部22の傾斜角度は、外周部60へいくほど急峻になることから、作業者Aには一層の注意が求められることとなる。
【0110】
このような作業性の改善のためには、例えば、
図10に示すように、作業者Aに、上方を支点としてロープ84を繋ぎ、矢印Hで示すようにロープ84に張力を与えて、作業者Aを支えること(高所ロープ作業を行うこと)が考えられる。作業者は、作業場所にロープで支えられながら吹付けを行う。このように、ロープ84により上方から作業者Aを支える場合、ウレタン樹脂組成物の吹付けは、下方から上方へ移動しながら行う必要がある。これは、上方から施工すると、ロープ84が硬質ウレタンフォームに埋まってしまうためである。
【0111】
また、例えば、内側屋根部22の傾斜面(曲面)において、鉄パイプ等の多数の足場材を縦横に組み、網の目状の足場を形成することも考えられる。しかし、多数の足場材の導入、固定、組上げ、撤去等といった多くの工数が必要になる。そして、これらの作業を、空洞部30の幅(内殻18と外殻20との間隔)の中で行わなければならない。また、足場材の長さに見合った通路の確保も必要である。さらに、高所ロープ作業を組み合わせた場合には、作業場所毎に、ロープを繋ぐ部位が必要になる。
【0112】
また、作業者Aが、下方から上方へ施工する場合、作業者Aは、中心方向に背を向けた姿勢で吹付けを行う。空洞部30の幅が狭いことから、作業者Aは、屈んだ姿勢で、内側屋根部22の下側(外周部60の側)を向き、吹付けを行いながら、傾斜面を登ることとなる。このような作業は、水平な面で吹付け作業を行うことが可能な施工方法(例えばウレタンフォーム盛土工法など)に比べて容易ではない。
【0113】
そこで、本実施形態の施工方法のように、屋根部12と側壁部14との境界近辺(ここでは境界領域α)に仕切り板62を設置することにより、足場や高所ロープ作業に頼ることなく、作業者Aの安全を確保したうえで、下から上へ向かって施工することが可能となる。
【0114】
また、仕切り板62を設置することにより、作業者Aが仕切り板62を足場として利用できる。さらに、仕切り板62を起点にして吹付けを開始し、硬質ウレタンフォームを順次積層することが可能になる。これらの結果、安全を確保しながら、容易に、硬質ウレタンフォーム部36を形成することができる。
【0115】
また、本実施形態の施工方法によれば、
図6に示すように、作業者Aが、圧力分散具70を足に装着して吹付けを行っている場合、硬質ウレタンフォームが破壊され難く、良好な硬質ウレタンフォーム部36を形成することが可能である。
【0116】
特に、ウレタン樹脂組成物が低密度且つ連通構造を有する(独泡率が低い)場合には、相対的に大きな気泡が多く含まれる、反応熱が小さい等の理由により、内部温度が上がりにくく、厚吹き(1回の吹付けの厚みを相対的に大きくすること)し易いが、一般的には圧縮強度が低くなる。しかし、圧力分散具70を使用することで、圧縮強度が低くても作業時の足場とすることができる。そして、厚吹き充填作業の効率を上げることが容易になる。
【0117】
また、
図8に示す第1施工例によれば、下から上への施工が可能である。さらに、施工中には、原料ホース取り入れ口48や外側頂部マンホール42により、吹付けられた硬質ウレタンフォームからのガス(泡ガス)の抜け道を確保することができる。さらに、内側屋根部22の外周部60から、硬質ウレタンフォーム部36が形成されるため、作業者Aが足を滑らせても、確実に作業者Aを支えることができる。そして、これらのことから、より安全に施工することが可能である。
【0118】
また、
図9に示す第2施工例によれば、第1施工例と同様に、下から上への施工により、硬質ウレタンフォームからのガス(泡ガス)の抜け道を確保することができる。さらに、施工の初期に、足場を形成することから、より迅速に足場に係る安全性を確保できる。
【0119】
なお、本実施形態の施工方法は、前述したような高所ロープ作業や、内側屋根部22の傾斜面(曲面)への足場設置を不要にするが、高所ロープ作業や、足場設置との組み合わせを除外するものではない。さらなる安全性向上のため、仕切り板62の設置と、高所ロープ作業、及び/又は、足場設置とを組み合わせることも可能である。
【0120】
<実施形態から抽出可能な発明>
以上説明した実施形態から、低温タンクの保冷構造に関しては、例えば以下のような発明を抽出することが可能である。
(1)液体(低温液体16など)を収容可能な低温タンク(低温タンク10など)の保冷構造であって、
内殻(内殻18など)と外殻(外殻20など)とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻との間に配置された、断熱性を有する仕切り部材(仕切り板62など)と、
前記内殻と前記外殻との間であって、前記仕切り部材よりも上方に設けられた、硬質ウレタンフォームにより形成された第1断熱層(硬質ウレタンフォーム部36など)と、
を備える、低温タンクの保冷構造。
(2)前記仕切り部材が、前記内殻の外周を取り囲むように前記内殻と前記外殻との間に固定されている、上記(1)記載の低温タンクの保冷構造。
(3)前記仕切り部材が、前記内殻及び前記外殻のうちの少なくとも一方に設けられた保持部材(リブ部材66、68など)によって固定されている、上記(1)記載の低温タンクの保冷構造。
(4)前記仕切り部材は、以下の試験方法によって測定されるたわみが5mm以下である、上記(1)記載の低温タンクの保冷構造。
(試験方法)
100cm×150cm×20cmの部材に対して、荷重250kgfとして単純支持梁(中央集中荷重)試験を行う。
(5)前記硬質ウレタンフォームの圧縮強度が、25kPa以上である、上記(1)記載の低温タンクの保冷構造。
なお、低温タンクの保冷構造に関しては、以下のような発明も抽出できる。
(a)前記内殻と前記外殻との距離が500~1500mmである、上記(1)記載の低温タンクの保冷構造。
(b)前記低温タンクの屋根部(屋根部12など)において、前記外殻に作業者用出入り孔(外側頂部マンホール42など)が形成されている、上記(1)記載の低温タンクの保冷構造。
(c)前記硬質ウレタンフォームの熱伝導率が、0.04[W/(m・K)]以下である上記(1)記載の低温タンクの保冷構造。
また、施工方法に関しては以下のような発明を抽出することが可能である。
(6)液体(低温液体16など)を収容可能であり、
内殻(内殻18など)と外殻(外殻20など)とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻との間に配置された、断熱性を有する仕切り部材(仕切り板62など)と、
前記内殻と前記外殻との間であって、前記仕切り部材よりも上方に設けられた、硬質ウレタンフォームにより形成された第1断熱層(仕切り板62よりも上方の硬質ウレタンフォーム部36など)と、
を備える、低温タンクの保冷構造の施工方法であって、
前記仕切り部材を固定する仕切り部材固定工程と、
前記仕切り部材よりも上方の二重殻構造内の領域にウレタン樹脂組成物を吹付けて前記第1断熱層を形成する保冷材層形成工程と、を有する施工方法。
なお、施工方法に関しては、以下のような発明も抽出できる。
(d)前記仕切り部材固定工程が、前記内殻の外周を取り囲むように前記内殻と前記外殻との間に前記仕切り部材を固定する工程である、上記(6)記載の施工方法。
(e)前記仕切り部材固定工程が、前記内殻及び前記外殻のうちの少なくとも一方に設けられた保持部材(リブ部材66、68など)によって前記仕切り部材を固定する工程である、上記(6)記載の施工方法。
(f)前記保冷材層形成工程が、ウレタン樹脂組成物の吹付けを行い、前記内殻に沿って下方から上方へ徐々に前記第1断熱層を形成する工程である、上記(6)記載の施工方法。
(g)前記保冷材層形成工程が、前記二重殻構造内の領域を所定の分割領域(第1施工例の第1作業領域E1、第2作業領域E2など、第2施工例の中間分割領域F1~F3など)に分割して実施される、上記(f)記載の施工方法。
(h)前記保冷材層形成工程は、前記内殻と前記外殻との間にいる作業者によって行われる、上記(g)記載の施工方法。
(i)前記保冷材層形成工程において、前記仕切り部材、前記内殻、または、形成された前記硬質ウレタンフォームが前記作業者の足場となる、上記(h)記載の施工方法。
(j)前記作業者が、足元にかかる圧力を分散させる圧力分散手段を足に装着して作業を行う、上記(i)記載の施工方法。
(k)前記保冷材層形成工程において、吹付けられた後の前記硬質ウレタンフォームの内部の最高温度が165℃未満である、上記(f)記載の施工方法。
(l)前記内殻と前記外殻との距離が500~1500mmである、上記(6)記載の施工方法。
(m)前記仕切り部材は、以下の試験方法によって測定されるたわみが5mm以下である、上記(6)記載の施工方法。
(試験方法)
100cm×150cm×20cmの部材に対して、荷重250kgfとして単純支持梁(中央集中荷重)試験を行う。
(n)前記硬質ウレタンフォームの圧縮強度が、25kPa以上である、上記(6)記載の施工方法。
(o)前記硬質ウレタンフォームの熱伝導率が、0.04[W/(m・K)]以下である、上記(6)記載の施工方法。
【0121】
<その他>
なお、前述した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例0122】
以下、実施例に基づいて本発明に好ましく用いられる硬質ウレタンフォームをより詳細に説明するが、本発明は以下により何ら限定されるものではない。
【0123】
表1は、保冷材層を形成するのに適した硬質ウレタンフォームの各特性を示している。
【表1】
【0124】
<実施例1>
実施例1では、1回の施工厚み(吹付けの厚み)を25mmとし、吹付けを2回行った。内部温度は174[℃]であり、火災リスクは低かった。硬質ウレタンフォームの密度は57[kg/m3]であり、熱伝導率は、0.021[W/(m/k)]であり、圧縮強度は509[kPa]であり、独立気泡率は89[%]であった。歩行試験では、許容できないような圧縮は見られず、評価は良好であった。
【0125】
硬質ウレタンフォームについての施工厚み、密度、熱伝導率、及び、圧縮強度の測定方法は、JIS_9511に従った。内部温度の測定では、注1に示すように、800mm角に吹付け発泡し、中心部の温度を、吹付けの直後から測定し、最高温度を記録した。火災リスクについては、注2に示すように、最高温度175℃以下を「低い」と判断し、165℃以下を「十分低い」と判断し、175℃超えを「要注意」と判断した。
【0126】
<実施例2>
実施例2では、吹付けは1回のみで、施工厚み(吹付けの厚み)は50mmとした。内部温度は170[℃]であり、火災リスクは低かった。硬質ウレタンフォームの密度は44[kg/m3]であり、熱伝導率は、0.020[W/(m/k)]であり、圧縮強度は200[kPa]であり、独立気泡率は86[%]であった。歩行試験では、許容できないような圧縮は見られず、評価は良好であった。
【0127】
<実施例3>
実施例3では、吹付けは1回のみで、施工厚み(吹付けの厚み)は100mmとした。内部温度は145[℃]であり、火災リスクは十分低かった。硬質ウレタンフォームの密度は11[kg/m3]であり、熱伝導率は、0.036[W/(m/k)]であり、圧縮強度は50[kPa]であり、独立気泡率は5[%]であった。歩行試験では、許容できないような圧縮は見られず、評価は良好であった。