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特開2024-79426溶接システム、送給制御方法、および通信接続方法
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  • 特開-溶接システム、送給制御方法、および通信接続方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079426
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】溶接システム、送給制御方法、および通信接続方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20240604BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20240604BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B23K9/12 305
B23K9/12 310Z
B23K9/095 501A
B23K9/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192369
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中司 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】福永 敦史
(72)【発明者】
【氏名】東良 敬矢
(72)【発明者】
【氏名】関口 翔太
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA04
4E082AA08
4E082AB02
4E082CA01
4E082DA01
4E082ED05
4E082EE01
4E082EE03
4E082EF16
4E082EF23
(57)【要約】
【課題】送給制御方法において、ワイヤの先端位置の動作精度が高く、ワイヤの先端位置又は送給速度のうち少なくとも一つに基づいて行う溶接条件の制御を最適に実現する。
【解決手段】溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に母材に向けて送給され、溶接ワイヤの先端位置及び送給速度のうち少なくとも一つに基づいて溶接条件を制御するための溶接システムが、溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、サーボアンプとを含み、サーボアンプと溶接電源とがデジタル通信で直接的又は間接的に接続され、サーボアンプは、デジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給又は逆送給の送給指令を生成する手段と、生成した送給指令に基づく制御信号をサーボモータに出力する手段と、生成した送給指令に係る同期信号を溶接電源に出力する手段とを有し、溶接電源は、同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する手段を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給され、前記溶接ワイヤの先端位置および送給速度のうち少なくとも一つに基づいて、溶接条件のうち少なくとも一つを制御するための溶接システムであって、
前記溶接システムは少なくとも、溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを含み、
少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続され、
前記サーボアンプは、
前記デジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成する手段と、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力する手段と、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力する手段と、を有し、
前記溶接電源は、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する手段を有すること、
を特徴とする、溶接システム。
【請求項2】
前記同期信号は、ワイヤ位置位相および送給速度の速度位相のうち、少なくとも一つの位相に基づくことを特徴とする、請求項1に記載の溶接システム。
【請求項3】
前記サーボアンプは、
前記設定情報と前記サーボモータの動作信号を入力し、生成した前記送給指令と前記サーボモータの動作信号との差異を算出する手段を有し、
前記溶接電源は、
前記差異と前記同期信号に基づいて、前記溶接条件の制御を行う手段
を有すること
を特徴とする、請求項2に記載の溶接システム。
【請求項4】
前記溶接電源は、
前記設定情報と前記サーボモータの動作信号との差異を予め算出したデータを含むデータベースを有し、
前記データベースと前記同期信号に基づいて、前記溶接条件の制御を行う手段と、
を有すること
を特徴とする、請求項2に記載の溶接システム。
【請求項5】
前記設定情報は、
平均送給速度と、ワイヤ振幅と、ワイヤ正逆周波数と、ワイヤ正逆周期とのうち少なくとも一つの設定値を含むことを特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の溶接システム。
【請求項6】
前記溶接電源と前記サーボアンプとの間が、少なくともアナログ入出力で接続され、
前記溶接電源には、前記サーボアンプから前記アナログ入出力を介して少なくとも前記同期信号が入力されること、
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の溶接システム。
【請求項7】
前記溶接システムは、ワイヤバッファ装置とプッシュモータとを含み、
前記ワイヤバッファ装置は、ワイヤのバッファ量を検出するセンサを有し、
前記溶接電源は、入力した前記バッファ量に基づいて、前記プッシュモータの制御を行う手段を有すること
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の溶接システム。
【請求項8】
溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給され、前記溶接ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて溶接条件のうち少なくとも一つを制御しつつ溶接する、送給制御方法であって、
溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを少なくとも備える溶接システムにおいて、少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続されており、
前記サーボアンプが、
前記デジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成し、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力し、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力し、
前記溶接電源が、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する、
送給制御方法。
【請求項9】
溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給されるように、少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置および送給速度のうち少なくとも一つに基づいて、溶接条件のうち少なくとも一つを制御する溶接システムを構成する機器間を通信するための通信接続方法であって、
前記溶接システムは少なくとも、溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを含み、
少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続されており、
前記サーボアンプが、
前期溶接システムを構成する機器のうち、前記サーボアンプ以外の機器からデジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成し、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力し、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力し、
前記溶接電源が、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する、
通信接続方法。
【請求項10】
前記デジタル通信は、産業用のフィールドネットワークで接続されたデジタル通信であり、
前記サーボアンプ、前記溶接制御装置、前記溶接電源の順、または、前記サーボアンプ、前記溶接電源、前記溶接制御装置の順にライン型で接続されることを特徴とする、請求項9に記載の通信接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接システム、送給制御方法、および通信接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、鉄骨、建機、造船その他様々な業種の製造にガスシールドアーク溶接が用いられている。このガスシールドアーク溶接において、スパッタの低減を含む溶接作業性の改善が求められている。スパッタの低減に効果的とされる従来方法に、溶接ワイヤ(以降、単に「ワイヤ」とも称する)の正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら、溶接ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて、溶接条件のうち少なくとも一つを制御しつつ溶接する方法(以降、「送給制御方法」とも称する)がある。
【0003】
特許文献1には、消耗電極であるワイヤの先端の正送給と逆送給を周期的に繰り返してアーク溶接する場合に、ワイヤに大電流を流してもスパッタの発生を抑制することができることを目的にし、消耗電極としてのワイヤに溶接電流を供給する消耗電極式アーク溶接電源は、ワイヤの先端が、正送給される期間と逆送給される期間の周期的な切り替えを伴いながら母材に向けて送給される場合に、周期的に変動するワイヤの先端位置に応じて溶接電流を変化させる制御手段を有することで、高い入熱で効率良く溶接できる高電流域の場合によってもスパッタの低減を実現できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-49506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、ワイヤの先端位置またはワイヤの送給速度に応じて溶接電流を制御することにより、スパッタの低減を実現している。しかしながら、ワイヤの先端位置はワイヤの送給速度に基づいて算出されており、ワイヤを正送または逆送させるためのサーボモータを制御するサーボアンプへ出力するワイヤ送給速度の指令(以降、「正逆送給指令」と称する。)の更新周期が遅いと、この正逆送給指令による更新回数が制限され、ワイヤの先端位置の動作が精度良く得られなくなる。さらに、正逆送給指令とワイヤの先端位置の動作に位相ズレが生じることもあり、最適なタイミングで溶接電流の制御が行えない場合もある。結果として、電流制御のタイミングが乱れ、スパッタの低減効果が得られない等、溶接作業性の改善効果が得られない虞がある。このワイヤ送給速度の指令速度が遅くなる要因としては、通信速度が挙げられるが、現状の溶接電源内の制御部からサーボアンプへ送給指令をデジタル通信で送信する構成では、およそ1ms(ミリ秒)毎にワイヤ送給速度の指令を更新することが限界となる。例えば、正送給期間と逆送給期間を1周期としたときの周波数(以降、「ワイヤ正逆周波数」と称する。)を100Hzとした場合に、通信速度が1msであれば、10回の更新しかできない。なお、溶接作業性の改善効果を得るためには、少なくとも、200usより早い周期で送給指令を更新する必要がある。この場合、ワイヤ正逆周波数を100Hzとした場合、50回の更新が可能となる。
【0006】
本発明は、送給制御方法において、ワイヤの先端位置の動作精度が高く、ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて行う溶接条件の制御を最適に実現することができる溶接システム、送給制御方法、および通信接続方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) 溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給され、前記溶接ワイヤの先端位置および送給速度のうち少なくとも一つに基づいて、溶接条件のうち少なくとも一つを制御するための溶接システムであって、
前記溶接システムは少なくとも、溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを含み、
少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続され、
前記サーボアンプは、
前記デジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成する手段と、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力する手段と、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力する手段と、を有し、
前記溶接電源は、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する手段を有すること、
を特徴とする、溶接システム。
(2) 溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給され、前記溶接ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて溶接条件のうち少なくとも一つを制御しつつ溶接する、送給制御方法であって、
溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを少なくとも備える溶接システムにおいて、少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続されており、
前記サーボアンプが、
前記デジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成し、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力し、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力し、
前記溶接電源が、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する、
送給制御方法。
(3) 溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給されるように、少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置および送給速度のうち少なくとも一つに基づいて、溶接条件のうち少なくとも一つを制御する溶接システムを構成する機器間を通信するための通信接続方法であって、
前記溶接システムは少なくとも、溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを含み、
少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続されており、
前記サーボアンプが、
前期溶接システムを構成する機器のうち、前記サーボアンプ以外の機器からデジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成し、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力し、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力し、
前記溶接電源が、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する、
通信接続方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、送給制御方法において、ワイヤの先端位置の動作精度が高く、ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて、最適な溶接条件の制御を得ることが可能となり、良好な溶接作業性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図である。
図2】本実施形態における溶接電源、溶接制御装置、およびサーボアンプの制御に係る概略構成を示すブロック図である。
図3】電流設定信号と、速度位相および位置位相と、同期信号との関係性を例示するグラフである。
図4】溶接シーケンスに沿ったガスシールドアーク溶接におけるタスク処理を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係るガスシールドアーク溶接の溶接システム、送給制御方法、および通信接続方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
なお、本実施形態は溶接ロボットを用いた場合の一例であり、本開示に係る溶接制御方法は本実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、溶接ロボット本体の代わりに台車を用いた自動溶接装置を適用してもよいし、可搬型の小型溶接ロボットを適用してもよい。
【0012】
本実施形態においては、ガスシールドアーク溶接のうち消耗式電極である溶接ワイヤを適用したガスメタルアーク溶接(以降、「GMAW」とも称する)方法について説明する。しかし、本開示に係る溶接システムは、ガスメタルアーク溶接を応用した付加製造用のシステムについても同様に適用可能である。なお、フィラーワイヤを適用したTIGなどの非消耗式電極の場合も本開示に該当する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図である。溶接システム50は、溶接ロボット110と、溶接制御装置120と、溶接電源140と、コントローラ150と、サーボアンプ160と、サーボモータ170と、プッシュモータ180と、ワイヤバッファ190とを備えている。プッシュモータ180は溶接ワイヤ100を送給する。
【0014】
溶接電源140は、不図示のプラスのパワーケーブルを介して、消耗式電極である溶接ワイヤ100に通電できるように溶接ロボット110に接続され、不図示のマイナスのパワーケーブルを介して、ワーク(以降、「母材」とも称する)200と接続されている。この接続は、逆極性で溶接を行う場合である。正極性で溶接を行う場合、溶接電源140は、極性を逆にすればよい。
【0015】
また、溶接電源140とプッシュモータ180が信号線によって接続され、溶接ワイヤの送り速度を制御することができる。本実施形態の送給制御において、プッシュモータ180は、正転方向のみ行っており、後述するサーボモータ170は正転、逆転方向に切り替えが行われる。
【0016】
溶接ロボット110は、エンドエフェクタとして溶接トーチ111を備える。溶接トーチ111は、溶接ワイヤ100に通電させる通電機構、すなわち溶接チップを有する。溶接ワイヤ100は、溶接チップからの通電により先端からアークを発生させ、その熱で溶接の対象であるワーク200を溶接する。なお、溶接チップは一般的に、コンタクトチップとも称されることがある。
【0017】
溶接トーチ111は、シールドガスを噴出する機構となるシールドガスノズルを備える。シールドガスは特に限定しないが、本実施形態で用いる制御の特性上、グロビュール移行の形態を取るガス組成にすればなおよく、具体的には、電位傾度の高い炭酸ガス、窒素ガス、水素ガス、酸素ガスのうち少なくとも一つのガスが含まれることが好ましい。また、汎用性の観点から、アルゴンガス(以降、「Arガス」とも称する)との混合ガスの場合は、少なくとも炭酸ガスが10体積%以上混合した系がより好ましく、炭酸ガスが90体積%以上混合した系がさらに好ましく、炭酸ガス単体で用いることがさらにより好ましい。なお、シールドガスは、不図示のシールドガス供給装置から供給される。
【0018】
サーボモータ170は溶接トーチ111近傍に設けられる。サーボモータ170に接続されたサーボアンプ160がサーボモータ170を制御する。本実施形態は、溶接トーチ111がサーボモータ170から独立した構成としているが、溶接トーチ111の中にサーボモータ170を備える構成のトーチであってもよい。サーボモータ170は、正逆送給指令に基づいて、正転、逆転方向に切り替えを行い、送給制御を行う。また、サーボアンプ160は高速演算処理を可能とし、後述のように正逆送給指令生成部161を有する。
【0019】
プッシュモータ180とサーボモータ170の間にはワイヤバッファ190が配置される。プッシュモータ180は正転方向のみ、サーボモータ170は正転および逆転方向にワイヤを送給することにより、プッシュモータ180とサーボモータ170とで送給方向が異なる場合がある。そのため、送給経路内でワイヤに大きな負荷がかかり易い状況が生じる。このような送給の状況においても適正に送給制御が可能となるよう、ワイヤバッファ190を設けて、ワイヤの座屈などを抑制する。
【0020】
本実施形態で使用する溶接ワイヤ100は特に問わない。例えば、フラックスを含まないソリッドワイヤと、フラックスを含むフラックス入りワイヤのどちらを用いてもよい。また、溶接ワイヤ100の材質も問わない。例えば、材質は軟鋼でもよいし、ステンレス、アルミニウム、チタンでもよく、ワイヤ表面にCuなどのめっきがあってもよい。溶接ワイヤ100の径も特に問わない。本実施形態の場合、好ましくは、径の上限を1.6mm、下限を0.8mmとする。
【0021】
また、本実施形態においてワーク200の具体的構成は特に問わず、継手形状、溶接姿勢や開先形状などの溶接条件も特に問わない。溶接制御装置120は、主に溶接ロボット110の動作を制御する。よって、溶接制御装置120はロボットコントローラと言い換えても良い。溶接制御装置120は、あらかじめ溶接ロボット110の動作パターン、溶接開始位置、溶接終了位置、溶接条件、ウィービング動作等を定めた教示データを保持し、溶接ロボット110に対してこれらを指示して溶接ロボット110の動作を制御する。また、溶接制御装置120は、教示データに従い、溶接作業中の溶接電流、溶接電圧、送給速度などの溶接条件を溶接電源140に与える。
【0022】
なお、図1に示すように、本実施形態の溶接システム50は、溶接制御装置120が溶接電源140から独立した構成としているが、溶接電源140の中に溶接制御装置120を備える構成であってもよい。
【0023】
コントローラ150は、溶接制御装置120に接続され、溶接ロボット110を動作させるためのプログラムの作成又は表示、教示データの入力等を行う。ユーザがコントローラ150に入力した情報は溶接制御装置120に与えられる。また、コントローラ150は、溶接ロボット110のマニュアル操作を行う機能も有していてよい。コントローラ150と溶接制御装置120の間の接続は、有線又は無線の種類を特に問わない。
【0024】
溶接電源140は、溶接制御装置120からの指令により、溶接ワイヤ100及びワーク200に電力を供給することで、溶接ワイヤ100とワーク200との間にアークを発生させる。また、溶接電源140は、溶接制御装置120からの指令により、プッシュモータ180の制御信号を出力する。
【0025】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る溶接システム50の機能構成について詳細に説明する。図2は、本実施形態における溶接電源140、溶接制御装置120、およびサーボアンプ160の制御に係る概略構成を示すブロック図である。
【0026】
溶接電源140は溶接制御装置120とデジタル通信で接続されており、溶接制御装置120はサーボアンプ160とデジタル通信で接続されている。すなわち、デジタル通信接続したサーボアンプ160、溶接制御装置120、および溶接電源140の順に、ライン型で接続されている。これは、サーボアンプ160と溶接電源140とがデジタル通信で間接的に接続されている状態と解釈することができる。なお、サーボアンプ160、溶接電源140、溶接制御装置120の順にライン型で接続されてもよい。これは、サーボアンプ160と溶接電源140とがデジタル通信で直接的に接続されている状態と解釈することができる。
【0027】
なお、本実施形態では溶接電源140と溶接制御装置120の間は産業用のフィールドネットワークの一つであるCAN(Controller Area Network)で、溶接制御装置120とサーボアンプ160間は産業用のフィールドネットワークの一つであるEtherCAT(Ethernet for Control Automation Technology)(登録商標)でそれぞれ通信されているが、これらには限られない。
【0028】
(溶接電源の機能構成)
溶接電源140の制御系部141は、例えば、溶接制御装置120又は不図示のコンピュータによるプログラムの実行を通じて実行される。溶接電源140の制御系部141には、電流設定部36が含まれる。本実施形態における電流設定部36は、溶接ワイヤ100に流れる溶接電流を規定する各種の電流値を設定する機能を有する。電流設定部36は、目標電流設定部36Aと、ワイヤ先端位置変換部36Bと、電圧設定部36Cとを有する。目標電流設定部36Aは、電流制御に係るピーク期間Dap、立下がり期間Ddwn、ベース期間Db、および立上り期間Dupの各期間について、それぞれの期間開始時間と終了時間を設定する機能を有する。ワイヤ先端位置変換部36Bは、溶接ワイヤ100の先端位置の情報を求める機能を有する。
【0029】
なお、電流非抑制期間TIP(本実施形態ではDupとDap期間の合計)、電流抑制期間TIB(本実施形態ではDdwnとDb期間の合計)に係るピーク期間Dap、立下がり期間Ddwn、ベース期間Db、立上り期間Dupの各期間の各種条件設定は、予め用意した波形制御テーブルに基づいて波形制御テーブルリニア演算部37で決定すればよい。なお、ここでいう各種条件設定とは、本実施形態において電流値、時間または位相などの条件設定を意味する。
【0030】
溶接電流は、ワイヤ先端位置に係る位相(以降、「ワイヤ位置位相」または「位置位相」と称する)に基づいて、電流非抑制期間TIPと電流抑制期間TIBの溶接電流を交互に繰り返すパルス波形を示す。なお、本実施形態において、ワイヤ先端位置がチップ側に最も近づく場合を0°母材側に最も近づく場合を180°とした0~360°(0~2π)のワイヤ位置位相に基づいて、ピーク期間Dap、立下がり期間Ddwn、ベース期間Db、立上り期間Dupのタイミングを制御している。
【0031】
制御系部141が保存する溶接条件情報における平均送給速度Favgの設定値に基づいて、波形制御テーブルリニア演算部37で算出された電流非抑制期間TIPにおけるピーク期間Dapの設定電流値Iap(以降、「ピーク電流Iap」とも称する)と、電流抑制期間TIBにおけるベース区間Dbの設定電流値Ib(以降、「ベース電流Ib」とも称する)が電流設定部36に設定される。なお、あくまで一例ではあるが、波形制御テーブルからのピーク電流指令値Ipと操作量Mnとを足したものを、ピーク電流Iapとして使用してよい。この場合、Iap=Ip+Mnとなる。操作量Mnは、電圧設定値Vapと電圧検出信号の値Voとに基づいて算出される。
【0032】
本実施形態の場合、溶接電流は基本的にピーク電流Iapとベース電流Ibの2値で制御される。このため、ベース期間Dbの開始時間は、ベース電流Ibが開始する時間、すなわちベース電流開始時間を表す。また、電流抑制期間Dbが終了する時間は、ベース電流Ibが終了する時間、すなわちベース電流終了時間を表す。このベース期間Dbの開始される時間、ベース期間Dbが終了する時間、立下がり期間Ddwnの期間(時間)、立下がり期間Ddwnの期間(時間)は波形制御テーブルリニア演算部37において算出される。ピーク期間Dapが開始される時間は、ピーク電流開始時間と表現されてもよく、ピーク期間Dapが終了する時間は、ピーク電流終了時間と表現されてもよい。
【0033】
なお、上記における種々の開始時間や終了時間などは、時間を基準として説明を行っている。しかし、ワイヤ位置位相の値を基準として、ワイヤ位置位相から時間または周期cycに値を変換して処理が行われてもよい。すなわち、ワイヤ位置位相、時間、および周期cycの値は相互に変換可能であるため、いずれの値を基準にして制御を行ってもよい。
【0034】
また、サーボアンプ160からの位相同期信号と位相遅延補正量信号に基づいて、ワイヤ先端位置変換部36Bがワイヤ先端位置を決定する。なお、本実施形態において、ワイヤ先端位置は、前述の通りワイヤ位置位相として角度(0~2π)を用いて表現されてよい。
【0035】
位相遅延補正量信号は、位相遅延補正部38から出力される。位相遅延補正部38は図示を省略するデータベースを有する。このデータベースには、各種溶接条件ごとに、周期性のある設定情報とサーボモータ170の実際の正逆送給動作の動作信号との差異を予め算出したデータが記憶されている。例えば、溶接条件がワイヤ正逆周波数である場合、用いるワイヤ正逆周波数の値に応じて、上記のデータベースに基づき、位相遅延補正量が決定され、位相遅延補正量信号として位相遅延補正部38から出力される。
【0036】
溶接電源140の電源主回路は、三相交流電源(以降、「交流電源」とも称する)1と、1次側整流器2と、平滑コンデンサ3と、スイッチング素子4と、トランス5と、2次側整流器6と、リアクトル7とで構成される。
【0037】
交流電源1から入力された交流電力は、1次側整流器2により全波整流され、さらに平滑コンデンサ3により平滑されて直流電力に変換される。次に、直流電力は、スイッチング素子4によるインバータ制御により高周波の交流電力に変換された後、トランス5を介して2次側電力に変換される。トランス5の交流出力は、2次側整流器6によって全波整流され、さらにリアクトル7により平滑される。リアクトル7の出力電流は、電源主回路からの出力として溶接チップに与えられ、消耗電極としての溶接ワイヤ100に通電される。
【0038】
溶接ワイヤ100はプッシュモータ180によって送給され、母材200との間にアークを発生させる。溶接ワイヤ100の先端を母材200に向かって移動させる正送給期間を、正送給期間TPと表記する。溶接ワイヤ100の先端を母材200の位置する方向と逆方向に移動させる逆送給期間を、逆送給期間TNと表記する。本実施形態の場合、送給モータは、正送給期間TPと逆送給期間TNとを合わせて1周期として、周期的に溶接ワイヤ100を送給する。なお、溶接ワイヤの先端とは、通常、ワイヤ先端に垂下する溶滴の存在を無視した場合のワイヤ先端を指すものとする。すなわち、アークによって溶融されたワイヤは即時、母材200へ移行したとみなす。
【0039】
プッシュモータ180による溶接ワイヤ100の送給は、プッシュフィーダ制御部39に基づく制御信号によって制御される。なお、送給速度の平均値は、溶融速度とほぼ同じである。本実施形態の場合、プッシュモータ180による溶接ワイヤ100の送給も溶接電源140により制御される。
【0040】
また、プッシュフィーダ制御部39は、ワイヤバッファ190の状態に応じて制御を行う。本実施形態において、ワイヤバッファ190は、プッシュモータ180とサーボモータ170間の送給経路でワイヤに大きな負荷がかからないように、ワイヤバッファ190にワイヤの遊び部(モータ間による送給の影響でワイヤが弛んだ場合に逃げる隙間部分)を設け、ワイヤバッファ190に内蔵されたセンサであるアブソリュートエンコーダによって、ワイヤのバッファ量を回転角度として検出する。検出値はシリアルアナログ変換部191によってアナログ信号に変換され、電気角演算部で電気角が算出される。算出された電気角は溶接電源のA/D入力部40に入力される。
【0041】
A/D入力部40からの電気角と、電気角調整部41において予め設定された電気角の基準値との間の差分を取った差分信号が、プッシュフィーダ制御部39に入力される。プッシュフィーダ制御部39はこの差分信号に基づいて、適正なワイヤのバッファ量となるように、プッシュモータ180を制御することによって、送給系に大きな負荷をかけないようにする干渉制御を行う。なお、本実施形態では前述のような干渉制御を行っているが、これに限られるわけではない。また、本実施形態では、ワイヤバッファ190に内蔵されたアブソリュートエンコーダを用いたが、これに限られるわけでもない。例えば、回転角度センサを用いてもよく、この場合、シリアルアナログ変換部191は設けなくともよい。
【0042】
電流設定部36には、溶接チップと母材200との間に加える電圧の目標値である電圧設定信号Vapが電圧設定部36Cから与えられる。
【0043】
一方、電圧検出信号Voは実測値である。本実施形態では、電圧検出信号VoはローパスフィルターLPFを通過し、後述する離脱検出部33を経て、後述する離脱検出信号DTRとともに電流設定部36に入力される。なお、電圧比較部を設け、電圧設定信号Vapと電圧検出信号Voとの差分を増幅し、電圧誤差増幅信号として電流設定部36に出力する構成としてもよい。
【0044】
電流設定部36は、アークの長さ(以降、「アーク長」とも称する)が一定になるようにピーク期間Dapの溶接電流を制御する。電流設定部36は、電圧設定信号Vapと電圧検出信号Voとに基づいて、少なくともピーク期間、立ち上がり期間、ベース期間、立ち上り期間を決定し、設定する。なお、ピーク電流Ipの値、ベース電流Ibの値を再設定してもよい。設定された期間又は値に応じた電流設定信号CCsetを電流誤差増幅部(PWM)34に出力する。
【0045】
電流誤差増幅部34は、目標値として与えられた電流設定信号CCsetと電流検出部31で検出された電流検出信号Ioとの差分を増幅し、電流誤差増幅信号Edとしてインバータ駆動部30に出力する。インバータ駆動部30は、電流誤差増幅信号Edによってスイッチング素子4の駆動信号Ecを補正する。
【0046】
電流設定部36には、溶接ワイヤ100の先端からの溶滴の離脱を検知する信号となる離脱検出信号DTRも入力される。離脱検出信号DTRは、離脱検出部33から出力される。離脱検出部33は、電圧検出部32が出力する電圧検出信号Voの変化を監視し、その変化から溶接ワイヤ100からの溶滴の離脱を検知する。なお、離脱検出部33は検出手段の一例である。
【0047】
離脱検出部33は、例えばLPFを通した電圧検出信号Voを微分又は二階微分した値を検出用の所定の閾値と比較することにより、溶滴の離脱を検出する。検出用の閾値は、図示を省略する記憶部にあらかじめ記憶されている。なお、離脱検出部33は、実測値である電圧検出信号Voと電流検出信号Ioとから算出される抵抗値の変化に基づいて、離脱検出信号DTRを生成してもよい。
【0048】
波形制御テーブルリニア演算部37には、送給される溶接ワイヤ100の平均送給速度Favgが与えられる。平均送給速度Favgは、送給設定データ部35に予め記憶されている。なお、送給設定データ部35は本実施形態においては溶接電源140内にあるが、溶接制御装置120内に送給設定に係る各種の情報を記憶させておき、各種の情報を溶接制御装置120から溶接電源140へと出力してもよい。
【0049】
波形制御テーブルリニア演算部37は、与えられた平均送給速度Favgに基づいて、ピーク電流Ip、ベース電流Ib、ベース電流Ibが開始する時間、ベース電流Ibが終了する時間などの値を決定し、電流設定部36へ出力する。なお、上述のようにワイヤ位置位相、時間、および周期cycの値は相互に変換可能であるため、ベース開始の位相の設定値などを時間または周期cycの値に換算して、換算後の値を電流設定部36へ出力してもよい。
【0050】
本実施形態では、平均送給速度Favgを波形制御テーブルリニア演算部37に入力しているが、平均送給速度Favgに関連する値を設定値として波形制御テーブルリニア演算部37に入力し、波形制御テーブルリニア演算部37がその設定値を平均送給速度Favgに置き換えて用いてもよい。例えば、図示を省略する記憶部に平均送給速度Favgと、その平均送給速度Favgに対して最適な溶接が可能となる平均電流値のデータベースが記憶されている場合、平均電流値を設定値として用い、設定値を平均送給速度Favgに置き換えて用いてもよい。
【0051】
送給設定データ部35は、平均送給速度Favgの他、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sfおよびワイヤ正逆周期Tfなどの設定値を記憶していてもよい。なお、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sfおよびワイヤ正逆周期Tfは、入力された平均送給速度Favgに基づいて決定されてもよい。また、送給設定データ部35はこれら以外の設定値
を送給設定データとして記憶してもよい。
【0052】
本実施形態では、平均送給速度Favgよりも送給速度が大きい期間を正送給期間とし、平均送給速度Favgよりも送給速度が小さい期間を逆送給期間として、正送給期間と逆送給期間とが交互に現れる送給(以降、「振幅送給」と省略して称する)となる。なお、平均送給速度Favgよりも送給速度が小さい期間とは、平均送給速度Favg未満を指し、マイナスの送給速度、すなわち、ワイヤ先端が母材200のある位置と逆方面へ移動する速度を含む。ワイヤ振幅Wfは平均送給速度Favgに対する変化幅を与え、ワイヤ正逆周期Tfは繰り返し単位であるワイヤ振幅の変化の時間を与える。ワイヤ正逆周波数Sfはワイヤ正逆周期Tfの逆数である。
【0053】
送給設定データ部35に記憶された平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、およびワイヤ正逆周期Tfは、デジタル通信部42から、溶接制御装置120のデジタル通信部122へと入力される。本実施形態において、これらの送給設定データの通信はCAN通信で行っている。
【0054】
溶接シーケンス部43は、ティーチングデータに基づいて、アイドル、ガスフロー、アークスタート、溶接中、アンチスティックの順で各タスクを処理する。これらのタスクのうち、「溶接中」のタスクにおいて、上述した電流設定部36を主とした制御が行われる。なお、図2において、溶接制御装置120が有する溶接条件情報を、便宜上、溶接電源140の中においても破線で囲って示している。
【0055】
(溶接制御装置の機能構成)
溶接制御装置120のデジタル通信部122には、前述の通り、CAN通信によって、溶接電源140の送給設定データ部35から、平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、ワイヤ正逆周期Tfなどの送給設定データが入力される。溶接制御装置120は、これらの送給設定データをサーボアンプ160のデジタル通信部162へ出力するためのデジタル通信部123を有する。本実施形態において、溶接制御装置120のデジタル通信部123とサーボアンプ160のデジタル通信部162との間はEtherCAT(登録商標)通信で接続される。
【0056】
(サーボアンプの機能構成)
サーボアンプ160のデジタル通信部162には、EtherCAT(登録商標)通信によって、平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、ワイヤ正逆周期Tfなどの送給設定データが入力される。サーボアンプ160の正逆送給指令生成部161は、デジタル通信によって入力された設定情報、すなわち送給設定データに基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成する。正逆送給指令生成部161は、ワイヤ振幅Wfおよびワイヤ正逆周期Tfから振幅送給速度Ffを算出し、振幅送給速度Ffと平均送給速度Favgとに基づいて、送給速度指令信号Fwをサーボモータ170に出力する。
【0057】
本実施形態の場合、送給速度指令信号Fwは、次式で表される。
Fw=Ff+Favg ・・・式(A)
【0058】
また、正逆送給指令生成部161は、離脱検出部33から与えられる離脱検出信号DTRにより、振幅送給のどのワイヤ位置位相で離脱が発生したかを検知してもよい。ただし、式(A)で表される送給速度指令信号Fwは、溶接ワイヤ100の先端からの溶滴の離脱が想定する期間内に検知されている場合に限られる。想定する期間内に溶滴の離脱が検出されなかった場合、正逆送給指令生成部161は、送給速度指令信号Fwを一定速度による送給制御に切り替えてもよい。例えば、正逆送給指令生成部161は、送給速度指令信号Fwを平均送給速度Favgによる送給に切り替える。平均送給速度Favgによる送給から、式(A)で表される送給制御への切り替えは、溶滴の離脱が検知されるタイミングに応じて定まる。
【0059】
サーボアンプ160は、送給速度指令信号Fwに基づいて、サーボモータ170のインバータ制御を行う。また、サーボアンプ160の同期信号生成部163は位相同期信号を溶接電源140に出力する。この位相同期信号は、送給速度指令信号Fwに基づいて生成される。
【0060】
なお、溶接電源140と、サーボアンプ160の同期信号生成部163との間は、少なくともアナログ入出力で接続されていてよい。この場合、溶接電源140にはサーボアンプ160からアナログ入出力を介して同期信号が入力される。平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、ワイヤ正逆周期Tfなどの送給設定データをデジタル通信で伝送する一方で、同期信号についてはアナログ通信で伝送することにより、デジタル通信とアナログ通信を用途に応じて効率的に使い分けることができる。
【0061】
図3は、電流設定信号CCsetと、速度位相および位置位相と、同期信号との関係性を例示するグラフである。なお、送給速度の速度位相において破線で示した波線は、送給速度指令信号Fwが示す送給速度を表している。送給速度の速度位相において実線で示した波線は実際の送給速度Fc_comを表している。
【0062】
本実施形態において、位相同期信号は、ワイヤ位置位相の同期信号および送給速度の速度位相(以降、単に「速度位相」とも称する)の同期信号のうち、少なくとも一つとなる。図3に示されるように、速度位相の同期信号は、正送給期間(0~πの位置)をONとし、逆送給期間(π~2π位置)をOFFとする同期信号となる。一方、位置位相の同期信号は、ワイヤが正逆送されるときのワイヤの先端が、ワイヤ振幅wfの中心位置(波高Lm/2となる位置)より母材200側に近づく期間(0.5π~1.5πの位置)をONとし、ワイヤ振幅の中心位置よりチップ側に近づく期間(1.5π~0.5πの位置)をOFFとする同期信号となる。なお、本実施形態では、波高Lmはワイヤ先端位置がチップ側に最も近づく位置とワイヤ先端位置が母材側に最も近づく位置の差(mm)であり、設定値であるワイヤ振幅wfの単位を「mm」で設定した場合には、波高Lmとワイヤ振幅wfは同じとなる。
【0063】
位相同期信号と、前述の位相遅延補正量とに基づいて、溶接電源140におけるワイヤ先端位置変換部36Bが溶接ワイヤ100のワイヤ位置位相を決定する。電流設定部36は、決定されたワイヤ位置位相に基づいて、溶接ワイヤ100に流れる溶接電流を規定する各種の電流値を設定する。すなわち、前述のデータベースと同期信号とに基づいてワイヤ位置位相を決定することにより、溶接条件の制御を行う。なお、本実施形態において、この溶接条件の制御は、溶接電流の波形制御のタイミング補正となる。ここで本実施形態においては、位相遅延補正量は図3において示されるDeg-adjに該当し、Deg-adj分位相を補正した位相同期信号に基づいてワイヤ位置位相が決まる。
【0064】
なお、位相遅延補正部38にデータベースを設けずに溶接条件の制御を行ってもよい。これを実現するために、サーボモータ170の動作周期を、図示を省略するエンコーダー等で読み込むことにより位相遅延補正量を算出する。つまりサーボアンプ160は、設定情報とサーボモータ170の動作信号、例えば正逆送動作の位相信号を入力し、サーボアンプ160が生成した送給指令とサーボモータ170の動作信号との差異、例えば位相ズレを算出する手段であるエンコーダーを有する。前記の差異と同期信号とに基づいてワイヤ位置位相を決定することにより、溶接電源140において、溶接条件の制御を行ってもよい。なお、溶接条件の制御は、溶接電流の波形制御のタイミング補正とするとよい。
【0065】
図4は、溶接シーケンスに沿ったガスシールドアーク溶接におけるタスク処理を例示するフローチャートである。
【0066】
まず、溶接電源140の送給設定データ部35には、送給設定データが予め記憶されている。送給設定データは、平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、およびワイヤ正逆周期Tfなどである。
【0067】
溶接電源140は、送給設定データを溶接制御装置120に送信する(S1)。この送信は、CAN通信またはEtherCAT(登録商標)通信で行われてよい。
【0068】
溶接制御装置120は、送給設定データをサーボアンプ160に送信する(S2)。この送信は、EtherCAT(登録商標)通信で行われてよい。
【0069】
サーボアンプ160の正逆送給指令生成部161は、取得した送給設定データ、すなわち平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、およびワイヤ正逆周期Tfに基づいて、サーボモータ170を駆動制御する基となる送給速度指令信号Fwを算出する(S3)。
【0070】
なお、本実施形態では、溶接電源140が溶接制御装置120とデジタル通信で接続されており、溶接制御装置120がサーボアンプ160とデジタル通信で接続されている形態であるため、上記のステップS1およびS2の処理となる。ただし、これには限られず、各装置のネットワーク接続形態に応じた処理が行われれば良い。例えば、サーボアンプ160と溶接電源140とがデジタル通信で接続されており、溶接電源140と溶接制御装置120とがデジタル通信で接続されているというネットワーク接続形態も考えられる。この場合、平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、およびワイヤ正逆周期Tfの送給設定データは、溶接電源140または溶接制御装置120のいずれかに記憶されていてよい。送給設定データが溶接電源140に記憶されている場合は、EtherCAT(登録商標)通信で溶接電源140からサーボアンプ160へと送給設定データを伝送する。送給設定データが溶接制御装置120に記憶されている場合は、例えば、溶接制御装置120から溶接電源140へとCAN通信で送給設定データを伝送し、溶接電源140からサーボアンプ160へとEtherCAT(登録商標)通信で送給設定データを伝送すればよい。
【0071】
ステップS4において、溶接シーケンス部43の処理が開始される。「アイドル」、「ガスフロー」、および「アークスタート」の各タスクについては、ガスシールドアーク溶接において一般的に行われるタスクであるため、詳しい説明を省略する。
【0072】
ステップS5において、溶接シーケンス部43のタスクが「溶接中」になってから所定時間経過後に、サーボモータ170は送給速度指令信号Fwに基づいて制御される。また、同期信号生成部163は、送給速度指令信号Fwに基づいて、前述した速度位相の同期信号または位置位相の同期信号のうち少なくとも一つの位相同期信号を生成して、生成した同期信号を溶接電源140に出力する。
【0073】
ステップS6において溶接電源140は、溶接電源140の位相遅延補正部38から算出される位相遅延補正量に基づいて、位相同期信号の位相ズレを補正する。溶接電源140は、補正された位相同期信号をワイヤ先端位置変換部36Bに入力し、リアルタイムの溶接ワイヤ100のワイヤ位置位相を算出する。なお、位相ズレの補正を行うのがワイヤの先端位置の動作精度の観点からより好ましいものの、溶接電源140は位相同期信号を補正せずにそのままワイヤ先端位置変換部36Bに入力してもよい。
【0074】
ステップS6にて算出したリアルタイムの溶接ワイヤ100のワイヤ位置位相に基づいて、溶接電源140による溶接電流の制御を行う(ステップS7)。なお、本実施形態では溶接条件の制御として溶接電流の波形制御を行っている。しかしステップS7における溶接条件の制御は溶接電流の波形制御に限られるものでなく、例えば、溶接条件のうちアーク電圧の波形や溶接速度の制御などを行ってもよい。例えば、溶接電流の波形制御とアーク電圧の波形制御を行うなど複数の溶接条件の制御を行ってもよい。
【0075】
S8において、溶接シーケンス部43のタスクが「溶接中」の間はステップS5~S7のプロセスを継続し、「溶接中」のタスクが完了すると、「アンチスティック」の制御がなされ、溶接が完了する。なお、「アンチスティック」のタスクについては、ガスシールドアーク溶接において一般的に行われるタスクであるため、詳しい説明を省略する。
【0076】
以上のステップS1~S8のステップにより、デジタル通信によるスムーズなデータ送信が可能となる。かつ高速演算処理が行えるサーボアンプ160に正逆送給指令の信号(送給速度指令信号Fw)を生成させることで高精度にワイヤの先端動作が把握できるようになる。
【0077】
サーボアンプ160から溶接電源140へ同期信号を出力し、同期信号に基づいて溶接電流などの溶接条件を制御することにより、より高度な制御が可能となる。
【0078】
従って、本開示の溶接システム50では、送給制御方法において、ワイヤの先端位置の動作精度が高く、ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて行う溶接電流波形制御などの制御を最適に実現することができる。
【0079】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0080】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0081】
(1) 溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給され、前記溶接ワイヤの先端位置および送給速度のうち少なくとも一つに基づいて、溶接条件のうち少なくとも一つを制御するための溶接システムであって、
前記溶接システムは少なくとも、溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを含み、
少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続され、
前記サーボアンプは、
前記デジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成する手段と、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力する手段と、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力する手段と、を有し、
前記溶接電源は、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する手段を有すること、
を特徴とする、溶接システム。
この溶接システムによれば、送給制御方法において、ワイヤの先端位置の動作精度が高く、ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて行う溶接条件の制御を最適に実現することができる。
【0082】
(2) 前記同期信号は、ワイヤ位置位相および送給速度の速度位相のうち、少なくとも一つの位相に基づくことを特徴とする、(1)に記載の溶接システム。
この溶接システムによれば、ワイヤ位置位相または送給速度の速度位相に基づいて、サーボモータと溶接電源との間で同期を取ることができる。
【0083】
(3) 前記サーボアンプは、
前記設定情報と前記サーボモータの動作信号を入力し、生成した前記送給指令と前記サーボモータの動作信号との差異を算出する手段を有し、
前記溶接電源は、
前記差異と前記同期信号に基づいて、前記溶接条件の制御を行う手段と、
を有すること
を特徴とする、(1)または(2)に記載の溶接システム。
この溶接システムによれば、サーボアンプは高速演算処理が可能であるため、設定情報に基づく送給指令と、実際のサーボモータの動作との間のズレを精度よく検知して、ズレの補正を高精度に行うことができる。
【0084】
(4) 前記溶接電源は、
前記設定情報と前記サーボモータの動作信号との差異を予め算出したデータを含むデータベースを有し、
前記データベースと前記同期信号に基づいて、前記溶接条件の制御を行う手段と、
を有すること
を特徴とする、(1)から(3)のうちいずれか一項に記載の溶接システム。
この溶接システムによれば、溶接電源が制御する溶接電流の波形制御のタイミングなどの溶接条件を、ワイヤの送給を制御するサーボモータと適切に同期させることができる。
【0085】
(5) 前記設定情報は、平均送給速度と、ワイヤ振幅と、ワイヤ正逆周波数と、ワイヤ正逆周期とのうち少なくとも一つの設定値を含むことを特徴とする、(1)から(4)のうちいずれか一項に記載の溶接システム。
この溶接システムによれば、サーボモータが上記の設定値に基づいて正送給または逆送給の送給指令を生成することができる。
【0086】
(6) 前記溶接電源と前記サーボアンプとの間が、少なくともアナログ入出力で接続され、
前記溶接電源には、前記サーボアンプから前記アナログ入出力を介して少なくとも前記同期信号が入力されること、
を特徴とする、(1)から(5)のうちいずれか一項に記載の溶接システム。
この溶接システムによれば、設定情報をデジタル通信で伝送する一方で、同期信号についてはアナログ通信で伝送することにより、デジタル通信とアナログ通信を用途に応じて効率的に使い分けることができる。
【0087】
(7) 前記溶接システムは、ワイヤバッファ装置とプッシュモータとを含み、
前記ワイヤバッファ装置は、ワイヤのバッファ量を検出するセンサを有し、
前記溶接電源は、入力した前記バッファ量に基づいて、前記プッシュモータの制御を行う手段を有すること
を特徴とする、(1)から(6)のうちいずれか一項に記載の溶接システム。
この溶接システムによれば、プッシュモータとサーボモータ間の送給経路でワイヤに大きな負荷がかからないようにすることができる。
【0088】
(8) 溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給され、前記溶接ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて溶接条件のうち少なくとも一つを制御しつつ溶接する、送給制御方法であって、
溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを少なくとも備える溶接システムにおいて、少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続されており、
前記サーボアンプが、
前記デジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成し、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力し、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力し、
前記溶接電源が、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する、
送給制御方法。
この送給制御方法によれば、送給制御方法において、ワイヤの先端位置の動作精度が高く、ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて行う溶接条件の制御を最適に実現することができる。
【0089】
(9) 溶接ワイヤの先端が、正送給期間と逆送給期間を1周期として、周期的に繰り返しながら母材に向けて送給されるように、少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置および送給速度のうち少なくとも一つに基づいて、溶接条件のうち少なくとも一つを制御する溶接システムを構成する機器間を通信するための通信接続方法であって、
前記溶接システムは少なくとも、溶接制御装置と、溶接電源と、サーボモータと、前記サーボモータを制御するサーボアンプとを含み、
少なくとも前記サーボアンプと前記溶接電源とがデジタル通信で直接的または間接的に接続されており、
前記サーボアンプが、
前期溶接システムを構成する機器のうち、前記サーボアンプ以外の機器からデジタル通信によって入力された設定情報に基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成し、
生成した前記送給指令に基づく制御信号を前記サーボモータに出力し、
生成した前記送給指令に係る同期信号を前記溶接電源に出力し、
前記溶接電源が、前記同期信号に基づいてワイヤ位置位相を算出する、
通信接続方法。
この通信接続方法によれば、送給制御方法において、ワイヤの先端位置の動作精度が高く、ワイヤの先端位置または送給速度のうち少なくとも一つに基づいて行う溶接条件の制御を最適に実現することができる。
【0090】
(10) 前記デジタル通信は、産業用のフィールドネットワークで接続されたデジタル通信であり、
前記サーボアンプ、前記溶接制御装置、前記溶接電源の順、または、前記サーボアンプ、前記溶接電源、前記溶接制御装置の順にライン型で接続されることを特徴とする、(9)に記載の通信接続方法。
この通信接続方法によれば、溶接システムを構成する機器同士の間で、産業用のフィールドネットワークを活用して設定情報を円滑に伝送することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 三相交流電源
2 1次側整流器
3 平滑コンデンサ
4 スイッチング素子
5 トランス
6 2次側整流器
7 リアクトル
30 インバータ駆動部
31 電流検出部
32 電圧検出部
33 離脱検出部
34 電流誤差増幅部
35 送給設定データ部
36 電流設定部
36A 目標電流設定部
36B ワイヤ先端位置変換部
36C 電圧設定部
37 波形制御テーブルリニア演算部
38 位相遅延補正部
39 プッシュフィーダ制御部
40 A/D入力部
41 電気角調整部
42 デジタル通信部
43 溶接シーケンス部
50 溶接システム
100 溶接ワイヤ
110 溶接ロボット
111 溶接トーチ
120 溶接制御装置
122 デジタル通信部
123 デジタル通信部
140 溶接電源
141 制御系部
150 コントローラ
160 サーボアンプ
161 正逆送給指令生成部
162 デジタル通信部
163 同期信号生成部
170 サーボモータ
180 プッシュモータ
190 ワイヤバッファ
191 シリアルアナログ変換部
200 ワーク
図1
図2
図3
図4