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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079477
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20240604BHJP
   B25B 23/14 20060101ALI20240604BHJP
   B25B 23/147 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B25B21/02 F
B25B23/14 640L
B25B23/147
B25B23/14 610L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192451
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(72)【発明者】
【氏名】三邊 拓実
(72)【発明者】
【氏名】新戸 俊哉
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038AA01
3C038BC04
3C038CA01
3C038CA10
3C038CB01
3C038CC04
3C038CC05
3C038EA02
(57)【要約】
【課題】ボルトやナットの緩みを適切に検出可能な作業機を提供する。
【解決手段】演算部42は、緩め作業用オートストップモードにおいて、トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われてからホールIC43の出力信号レベルの切り替わりがN回に達するまでの期間である第1期間にモータ3の回転数の低下が所定回数発生しなかった場合に、トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われていてもモータ3を減速または停止させる。演算部42は、第1期間に回転数の低下が所定回数発生した場合、トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われていればモータ3を減速および停止させない。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結部材の緩め作業が可能な作業機であって、
モータと、
前記モータの駆動、停止を指示する操作部と、
先端工具を保持する先端工具装着部と、
前記モータにより駆動されて前記先端工具装着部を回転打撃する回転打撃機構と、
前記モータの回転に応じてレベルが切り替わる回転検出信号を出力する回転検出部と、
前記モータを制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記操作部にモータ駆動操作が行われてから前記回転検出信号のレベルの切り替わりがN回に達するまでの期間である第1期間に前記回転数の低下が所定回数発生しなかった場合に、前記操作部に前記モータ駆動操作が行われていても前記モータを減速または停止させる第1モードを有する、
ことを特徴とする作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機であって、
前記制御部は、前記第1モードにおいて、前記第1期間に前記回転数の低下が前記所定回数発生した場合、前記操作部に前記モータ駆動操作が行われていれば前記モータ駆動操作に応じた前記モータの駆動を継続するよう構成される、
ことを特徴とする作業機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作業機であって、
前記制御部は、前記第1期間に前記回転数の低下が前記所定回数発生しなくても、前記操作部に前記モータ駆動操作が行われていれば前記モータ駆動操作に応じた前記モータの駆動を継続する第2モードを有する、
ことを特徴とする作業機。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の作業機であって、
前記第1モードは、締結部材の緩め作業用のオートストップモードである、
ことを特徴とする作業機。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の作業機であって、
前記制御部は、前記第1モードにおいて、前記第1期間に前記回転数の低下が前記所定回数発生した場合、所定時間内における前記回転数の変動幅が所定値を超えると前記操作部に前記モータ駆動操作が行われていても前記モータを減速または停止させるよう構成される、
ことを特徴とする作業機。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の作業機であって、
前記制御部は、前記操作部の操作量が大きいほど前記モータの回転数を高めるよう構成され、前記操作量が安定しているタイミングで前記回転数の低下が発生するか否かを判断する、
ことを特徴とする作業機。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の作業機であって、
前記制御部は、前記操作部の操作量が大きいほど前記モータの回転数を高めるよう構成され、
前記N回は、前記操作部の操作量に関わらず一定である、
ことを特徴とする作業機。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の作業機であって、
前記N回は、前記回転打撃機構による打撃が2回行われる回数であり、
前記所定回数は2回である、
ことを特徴とする作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、ボルトやナットの着脱に使用する作業機を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-067910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような作業機を元から緩んでいるボルトやナットに対して使用する場合、ボルトやナットの落下防止のためトリガ操作直後にモータを減速または停止させることが望ましく、そのためにはトリガ操作直後にボルトやナットの緩み検出を行う必要がある。ここで、本発明者は、トリガ操作から所定時間内におけるモータの回転数の増減の有無を判断基準にすると、ボルトやナットの緩みを適切に検出できない場合があることを見出した。
【0005】
本発明の目的は、ボルトやナットの緩みを適切に検出可能な作業機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、締結部材の緩め作業が可能な作業機であって、
モータと、
前記モータの駆動、停止を指示する操作部と、
先端工具を保持する先端工具装着部と、
前記モータにより駆動されて前記先端工具装着部を回転打撃する回転打撃機構と、
前記モータの回転に応じてレベルが切り替わる回転検出信号を出力する回転検出部と、
前記モータを制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記操作部にモータ駆動操作が行われてから前記回転検出信号のレベルの切り替わりがN回に達するまでの期間である第1期間に前記回転数の低下が所定回数発生しなかった場合に、前記操作部に前記モータ駆動操作が行われていても前記モータを減速または停止させる第1モードを有する。
【0007】
本発明は「電動作業機」や「電動工具」、「電気機器」等と表現されてもよく、そのように表現されたものも本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ボルトやナットの緩みを適切に検出可能な作業機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る作業機1の側断面図。
図2】作業機1のモータ3の断面図。
図3】作業機1の回路ブロック図。
図4】緩んでいないナットを作業機1により通常モードで緩めた場合のモータ3の回転数の波形図。
図5】緩んでいるナットを作業機1により通常モードで更に緩めた場合のモータ3の回転数の波形図。
図6】作業機1の制御フローチャート(前半)。
図7】作業機1の制御フローチャート(後半)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の実施の形態に係る作業機1の側断面図である。図1により、作業機1における互いに直交する前後、上下方向を定義する。前後方向は、作業機1のモータ軸3aと平行な方向である。
【0011】
作業機1は、締結工具であり、具体的にはインパクトレンチである。作業機1は、ハウジング2を有する。ハウジング2は、胴体部2a、ハンドル部2b、及び電池パック装着部2cを含む。
【0012】
胴体部2aは、中心軸が前後方向と略平行な筒状部である。ハウジング2は、胴体部2aの前部に接続される例えば金属製のハンマケース11を備える。ハンマケース11の前部表面は、エラストマ等の保護部材であるフロントキャップ12に被覆される。作業機1は、胴体部2aの下部に、作業箇所を照らす照明LED16を備える。
【0013】
ハンドル部2bは、上端が胴体部2aの前後方向の中間部に接続されて前記中間部から下方に延びる。作業機1は、ハンドル部2bの上端部に、トリガスイッチ6及び正逆切替レバー13(正逆切替ボタン)を有する。トリガスイッチ6は、ユーザがモータ3の駆動、停止(モータ3の駆動状態)を切替え可能な操作部である。トリガスイッチ6は、無段変速スイッチである。正逆切替レバー13は、ユーザがモータ3の正転と逆転、すなわち後述のアンビル10の正転と逆転を切替え可能な回転方向切替部である。
【0014】
電池パック装着部2cは、ハンドル部2bの下端に設けられ、電池パック7を着脱可能に装着できる。作業機1は、電池パック7の電力で動作する。作業機1は、電池パック装着部2cの前部上面に操作パネル20を有する。作業機1は、電池パック装着部2cの内部に制御基板30を有する。
【0015】
操作パネル20は、作業者の操作により作業機1の駆動モードを切替可能なモード切替部(モード選択部)であり、また選択されている駆動モードを表示するモード表示部である。駆動モードについては後述する。さらに、操作パネル20は、モータ3の無負荷時における最高回転数(以下「設定回転数」)を複数段階から選択する回転数設定部であり、また現在の設定回転数を表示する設定回転数表示部である。
【0016】
作業機1は、胴体部2a及びハンマケース11内に、モータ3、減速機構4、スピンドル5、ハンマ8、スプリング9、及び先端工具装着部としてのアンビル10を有する。減速機構4、スピンドル5、ハンマ8、及びスプリング9は、モータ3の駆動力(回転力)を回転打撃力に変換してアンビル10に作用させる回転打撃機構を構成する。
【0017】
モータ3は、モータ軸3a、ロータ3b、ステータ3cを有する。図2に示すように、モータ3は、4極6スロットのインナーロータ型のブラシレスモータである。減速機構4は、モータ3の回転を減速してスピンドル5に伝達する。スピンドル5はハンマ8を回転駆動する。スプリング9は、ハンマ8を前方に付勢する。ハンマ8は、アンビル10を回転ないし回転打撃する。すなわち、アンビル10は、モータ3の駆動力で駆動される。アンビル10は、ハンマケース11に回転可能に支持される。
【0018】
作業機1は、胴体部2a内の後部に、センサ・インバータ基板15を有する。センサ・インバータ基板15は、図3に示す温度センサ14やホールIC43、インバータ回路45を搭載する。センサ・インバータ基板15は、モータ3の本体部(モータ3のうちモータ軸3aを除く部分)の後方においてモータ軸3aと略垂直な姿勢で支持される。
【0019】
図3は、作業機1の回路ブロック図である。コンデンサCは、雑音防止用であり、電池パック7の出力端子間に設けられる。抵抗Rは、電流検出用ないし負荷検出用であって、モータ3に流れる電流(以下「モータ電流」)の経路に設けられる。ホールIC43(磁気センサ)は、モータ3の回転に応じてレベルが切り替わる回転検出信号を出力する回転検出部である。図2に示すように、3つのホールIC43がモータ3の周方向に60°間隔で配置される。
【0020】
インバータ回路45は、電池パック7の出力する直流電力をブラシレスモータ6の駆動電力に変換し、ブラシレスモータ6に供給する。インバータ回路45は、三相ブリッジ接続されたスイッチング素子Q1~Q6を含む。温度センサ14は、インバータ回路45の温度検出用であり、スイッチング素子Q1~Q6の近傍に設けられる。
【0021】
作業機1は、制御基板30に、電流検出回路31、電圧検出回路32、スイッチ操作検出回路33、回転方向設定回路34、温度検出回路35、制御電源回路36、制御信号出力回路37、回転位置検出回路38、回転数検出回路39、パネル操作検出回路40、演算部42を有する。
【0022】
電流検出回路31は、抵抗Rの両端子間の電圧によりモータ電流を検出し、演算部42に送信する。演算部42は、モータ電流により、モータ3にかかる負荷を検出できる。電圧検出回路32は、電池パック7の出力電圧を検出し、演算部42に送信する。
【0023】
スイッチ操作検出回路33は、トリガスイッチ6のオンオフ及び操作量(引き量)を検出し、演算部42に送信する。回転方向設定回路34は、正逆切替レバー13の指示する回転方向を検出し、演算部42に送信する。
【0024】
温度検出回路35は、温度センサ14の出力信号によりインバータ回路45の温度を検出し、演算部42に送信する。制御電源回路36は、電池パック7の出力電圧を演算部42等の電源電圧に変換し、演算部42等に供給する。
【0025】
制御信号出力回路37は、演算部42の制御に従いスイッチング素子Q1~Q6の各制御端子(各ゲート)に信号、例えばPWM(Pulse Width Modulation)信号を印加する。回転位置検出回路38は、ホールIC43の出力信号によりモータ3の回転位置(以下「モータ回転位置」)を検出し、演算部42に送信する。回転数検出回路39は、回転位置検出回路38の出力信号によりモータ3の回転数(以下「モータ回転数」)を検出し、演算部42に送信する。モータ回転数は、単位時間当たりのモータ3の回転数である。
【0026】
パネル操作検出回路40は、操作パネル20に対するモード切替操作(モード選択操作)を検出して演算部42に送信する駆動モード検出部であり、また操作パネル20に対する回転数設定操作を検出して演算部42に送信する設定回転数検出部である。照明LED駆動回路44は、演算部42の制御に従い、照明LED16を駆動する。
【0027】
演算部42は、作業機1の全体の動作を制御する制御部を構成する。制御部は、演算部42だけでなく、図3において制御基板30を示す破線の内部にある構成全体を含んでもよい。また制御部は、ホールIC43やインバータ回路45を含んでもよい。
【0028】
演算部42は、トリガスイッチ6の操作、正逆切替レバー13で指示(選択)された回転方向(以下「回転指示方向」)、操作パネル20により選択された駆動モード及び設定回転数に応じて、モータ3の駆動を制御する。演算部42は、トリガスイッチ6の操作量が大きいほどモータ3の回転数を高めるよう制御する。演算部42は、モータ電流、モータ回転位置、及びモータ回転数のフィードバックを受けて、モータ3の駆動を制御する。演算部42は、操作パネル20による選択に応じた駆動モードを実行可能に構成される。
【0029】
演算部42は、モータ3の駆動モードとして、複数の駆動モードを有する。複数の駆動モードは、以下の駆動モードを含む。
【0030】
・締付作業用オートストップモード…ナット等の締結部材(以下「ナット等」)を締め付ける作業におけるナット等の締め過ぎを防止する駆動モード。
【0031】
・緩め作業用オートストップモード…ナット等を緩める作業におけるナット等の脱落を防止する駆動モード。本発明における第1モードの例示。
【0032】
・通常モード…異常発生時を除きトリガスイッチ6の操作に応じたモータ3の駆動を継続する駆動モード。本発明における第2モードの例示。
【0033】
締付作業用オートストップモードにおける締め過ぎ防止の方法としては、予め設定された打撃動作を実行することにより締め付け作業を行ったことを検知すると、モータ3を停止させる。具体的には、ハンマ8によるアンビル10の打撃(以下「打撃」)開始から設定時間が経過するとトリガスイッチ6がオン状態でもモータ3を停止させたり、打撃回数が所定回数に達するとトリガスイッチ6がオン状態でもモータ3を停止させたり、トリガスイッチ6の操作量が一定でも打撃直前にモータ3への印加電圧の実効値を低下させたりする等、様々な公知技術を利用できる。
【0034】
作業機1は、緩め作業用オートストップモードにおける次の制御に特徴を有する。
【0035】
・制御1…演算部42は、トリガスイッチ6にモータ駆動操作(オン操作)が行われてから回転検出信号(ホールIC43の出力信号)のレベルの切り替わりがN回に達するまでの期間である第1期間にモータ回転数の低下が所定回数発生しなかった場合に、トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われていてもモータ3を減速または停止させる。なお、N回は、トリガスイッチ6の操作量に関わらず一定である。演算部42は、トリガスイッチ6の操作量が安定しているタイミングでモータ回転数の低下が発生するか否かを判断してもよい。
【0036】
・制御2…演算部42は、第1期間に回転数の低下が所定回数発生した場合、トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われていれば、トリガスイッチ6の操作に応じたモータ回転数に対してモータ3を減速させる制御を行わない(トリガスイッチ6の操作に応じたモータ3の駆動を継続する)。なお、制御2においても、トリガスイッチ6の操作量が減ったり負荷が大きくなったりした場合にモータ3が減速することはある。
【0037】
・制御3…演算部42は、第1期間に回転数の低下が所定回数発生した場合、所定時間内における回転数の変動幅が所定値を超えるとトリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われていてもモータ3を減速または停止させる。
【0038】
なお、演算部42は、通常モードでは、第1期間に回転数の低下が所定回数発生しなくても、トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われていれば、トリガスイッチ6の操作に応じたモータ回転数に対してモータ3を減速させる制御を行わない(トリガスイッチ6の操作に応じたモータ3の駆動を継続する)。なお、通常モードにおいても、トリガスイッチ6の操作量が減ったり負荷が大きくなったりした場合にモータ3が減速することはある。
【0039】
図4は、緩んでいないナットを作業機1により通常モードで緩めた場合のモータ3の回転数の波形図である。図5は、緩んでいるナットを作業機1により通常モードで更に緩めた場合のモータ3の回転数の波形図である。図4及び図5において、横軸はホールIC43の出力信号レベルの切り替わり回数としている。
【0040】
図4から明らかなように、緩んでいないナットを作業機1により通常モードで緩める場合、モータ3の起動直後(トリガスイッチ6に対するモータ駆動操作の直後)のモータ回転数上昇期間に、モータ回転数の一時的な落ち込みがある。また、ナットが緩んで回転打撃機構によるアンビル10の打撃が終了すると、モータ回転数が急激に上昇する(所定時間内のモータ回転数の変動幅が所定値以上となる)。
【0041】
一方、図5から明らかなように、緩んでいるナットを作業機1により通常モードで更に緩める場合、モータ3の起動直後のモータ回転数上昇期間に、モータ回転数の一時的な落ち込みがない。また、最初からナットが緩んでいて回転打撃機構によるアンビル10の打撃が無いため、途中で打撃が終了することによるモータ回転数の急激な上昇は無い。
【0042】
上記制御1、2は、モータ3の起動直後のモータ回転数上昇期間にモータ回転数の一時的な落ち込みがあるか否かにより、モータ3の起動直後にナット等が緩んでいるか否かを検出し、緩んでいればモータ3を減速または停止させ、緩んでいなければモータ3を減速および停止させないものである。
【0043】
上記制御3は、回転打撃機構によるアンビル10の打撃が途中で無くなったことによるモータ回転数の急上昇を検出するとナットが緩んだと判断し、モータ3を減速または停止させるものである。
【0044】
図6図7は、作業機1の制御フローチャートである。演算部42は、トリガスイッチ6がオンの場合(S1のYes)、モータ3を駆動する(S3)。
【0045】
演算部42は、ホールIC43の出力信号レベルが切り替わっていない場合(S5のNo)、又は駆動モードが緩め作業用オートストップモードでない場合(S7のNo)、S1に戻る。
【0046】
演算部42は、ホールIC43の出力信号レベルが切り替わり(S5のYes)、かつ駆動モードが緩め作業用オートストップモードの場合(S7のYes)、S9に進む。
【0047】
演算部42は、モータ3の起動(トリガスイッチ6に対するモータ駆動操作)からのホールIC43の出力信号レベルの切り替わり回数が100回以上でない場合(S9のNo)、現在のモータ回転数を計算する(S11)。100回は、N回の一例である。
【0048】
演算部42は、現在の回転数が過去の回転数(前回のS11で計算したモータ回転数)よりも低い場合(S13のYes)、回転数低下カウントをカウントアップし(S15)、現在の回転数と過去の回転数をリセットし(S17)、S1に戻る。
【0049】
演算部42は、現在の回転数が過去の回転数(前回のS11で計算したモータ回転数)よりも低くない場合(S13のNo)、現在の回転数を過去の回転数に代入し(S19)、S1に戻る。
【0050】
演算部42は、S9においてホールIC43の出力信号レベルの切り替わり回数が100回以上(S9のYes)、かつ回転数低下カウントが2以上でない場合(S21のNo)、モータ3を減速または停止させるオートストップ&スロー動作へ移行する(S23)。S21は、モータ回転数の低下に関する所定回数が2回である例に対応する。演算部42は、その後トリガスイッチ6が一旦オフにならない限りモータ3を駆動しない(S25のNo)。
【0051】
演算部42は、その後トリガスイッチ6がオフになると(S25のYes)、モータ3を停止すると共に初期化処理を行い(S27)、S1に戻る。なお、S27の処理の開始時に既にモータ3が停止していることもある。S27での初期化処理は、回転数低下カウント、現在の回転数、及び過去の回転数のリセット、及びオートストップ&スロー動作の解除を含む。
【0052】
演算部42は、S21において回転数低下カウントが2以上の場合(S21のYes)、直近100msのモータ回転数を1ms周期で取得し(S41)、直近100msのモータ回転数の変動幅(最大値と最小値の差)を算出する(S43)。100msは所定時間の例示である。
【0053】
演算部42は、S43で算出した変動幅が500rpm以上でない場合(S45のNo)、又はS43で算出した変動幅が1500rpm以下でない場合(S47のNo)、モータ3を減速または停止させるオートストップ&スロー動作へ移行する(S53)。1500rpmは、変動幅に関する所定値の例示である。演算部42は、その後トリガスイッチ6が一旦オフにならない限りモータ3を駆動しない(S55のNo)。
【0054】
演算部42は、その後トリガスイッチ6がオフになると(S55のYes)、モータ3を停止すると共に初期化処理を行い(S57)、S1に戻る。なお、S57の処理の開始時に既にモータ3が停止していることもある。S57での初期化処理は、S27での初期化処理に加え、直近100msのモータ回転数及びその変動幅のリセットを含む。
【0055】
演算部42は、S43で算出した変動幅が500rpm以上(S45のYes)かつ1500rpm以下の場合(S47のYes)、S1に戻る。
【0056】
演算部42は、S1においてトリガスイッチ6がオフの場合、モータ3を停止すると共に初期化処理を行い(S29)、S1に戻る。S29での初期化処理は、S57での初期化処理と同様である。
【0057】
演算部42は、1度のモータ回転数の低下で回転数低下カウントを2回以上カウントアップしないように、回転数低下カウントのカウントアップ(S15)の後、モータ回転数の上昇を確認することを、次の回転数低下カウントのカウントアップに必要な条件としてもよい。
【0058】
本実施の形態は、下記の作用効果を奏する。
【0059】
(1) 演算部42は、緩め作業用オートストップモードにおいて、トリガスイッチ6にモータ駆動操作(オン操作)が行われてから回転検出信号(ホールIC43の出力信号)のレベルの切り替わりがN回に達するまでの期間である第1期間にモータ回転数の低下が所定回数発生しなかった場合に、トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われていてもモータ3を減速または停止させる。このため、モータ3の起動直後にナット等が緩みを検出してモータ3を減速または停止させることができ、緩んでいるナット等に対して緩め作業を行った場合のナット等の脱落を好適に抑制できる。
【0060】
ここで、比較例としてモータ3の起動からの所定時間内にモータ回転数の低下があるか否かによりナット等の緩みを検出する場合を検討する。この比較例では、トリガスイッチ6の操作量が小さくモータ回転数が低い場合においてナット等が緩んでいない場合、所定時間が過ぎてからの打撃開始となり、所定時間内に打撃によるモータ回転数の低下を検出できず、ナット等が緩んでいると誤検出するリスクがある。このリスクへの対策として所定時間を長く設定すると、ナット等が緩んでいる場合、所定時間が経過してからのモータ3の減速または停止となり、特にトリガスイッチ6の操作量が大きくモータ回転数が高い場合には所定時間のうちにナット等が脱落してしまうリスクがある。すなわち、比較例のようにモータ回転数の低下有無の検出期間を一律に時間で規定すると、トリガスイッチ6の操作量によっては誤検出やナット等の脱落のリスクが高くなり、緩め作業用のオートストップとしての精度や信頼性が高くない。また、ナット等が緩んでいると誤検出するリスクは、先端工具が重い場合においてナット等が緩んでいない場合においても存在する。
【0061】
これに対し本実施の形態では、モータ回転数の低下が所定回数発生したか否かを検出する期間を、一律の時間ではなく、トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われてから回転検出信号のレベルの切り替わりがN回に達するまでの期間である第1期間としている。第1期間の時間的な長さは、トリガスイッチ6の操作量によって異なる動的なものである。モータ3の構成や減速機構4の減速比、ハンマ8とアンビル10の構成により、回転検出信号のレベルの切り替わりが何回であれば、ナット等が緩んでいない場合に何回の打撃が発生するかが決まる。よって、N回として少なくとも1回の打撃が発生する回数を設定することで、ナット等が緩んでいない場合に、トリガスイッチ6の操作量に関わらず、第1期間のうちに打撃によるモータ回転数の低下を検出でき、誤検出を抑制できる。また、N回として打撃回数がX回未満になる回数を設定することで、ナット等が緩んでいる場合に第1期間のうちにナット等が脱落してしまうリスクを抑制できる。ここで、Xは、ボルトの山の数(ボルトの長さ)に応じて変わるものであり、例えば、山数が10のボルトであれば、X=20で、N回は960回未満となる。山数が10のボルトからナットを外すには10回転が必要である。10回転に対応する回転検出信号のレベルの切り替わり回数は、減速比が8の場合、960回となる。なお、モータ3の1回転につき回転検出信号のレベルの切り替わりは12回発生する。すなわち、10×8×12=960回と計算される。ボルトとナットが完全に固定された状態であれば、アンビル10の1回転につき打撃は2回起きるため、ナットをボルトから外すのに必要な10回転は、打撃回数に換算すると20回となる。つまり、山数が10のボルトを狙った制御とするには、回転検出信号のレベルの切り替わり回数は960回未満として、打撃回数を19回以内に設定すればよい。
【0062】
(2) 図6のS9でN回の例として挙げた100回は、ナット等が緩んでいない場合に打撃が2回発生する回数である。そしてS21では、モータ回転数の低下に関する所定回数として2回を例示した。この場合、演算部42は、ナット等が緩んでいない場合に打撃が2回発生する期間にモータ回転数の低下が2回以上発生するか否かによりナット等が緩んでいるか否かを判断することになる。これによれば、例えばハンマ8がアンビル10に乗り上げた状態でモータ3が起動して、ナット等が緩んでいるのに起動直後に一度だけモータ回転数の低下が発生したような場合に、ナット等が緩んでいないと誤検出するリスクを抑制できる。
【0063】
(3) 演算部42は、緩め作業用オートストップモードにおいて、第1期間に回転数の低下が所定回数発生した場合、所定時間内における回転数の変動幅が所定値を超えるとトリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われていてもモータ3を減速または停止させる。このため、打撃が無くなったことによるモータ回転数の急上昇によりナット等の緩みを検出して迅速にモータ3を減速または停止させることができる。ここで、比較例として、打撃が終了してモータ回転数の変動幅が小さくなったことによりナット等の緩みを検出する場合、モータ回転数が上がりきってからのモータ3の減速または停止となり、ナット等の脱落リスクが高い。本実施の形態は、そうしたリスクを好適に抑制するものである。
【0064】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、本発明は実施の形態に限定されない。実施の形態で具体的に説明した各事項には請求項に記載の範囲で種々の変形が可能である。
【0065】
実施の形態で具体的な数値として例示したモータ回転数、時間、ホールIC43の出力信号レベルの切り替わり回数、緩み検出に必要なモータ回転数の低下の回数等は、発明の範囲を何ら限定するものではなく、要求される仕様に合わせて任意に変更できる。作業機1は、インパクトレンチに限定されず、インパクトドライバ等の他の種類のものであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…作業機、2…ハウジング、2a…胴体部、2b…ハンドル部、2c…電池パック装着部、3…モータ、3a…モータ軸、3b…ロータ、3c…ステータ、4…減速機構、5…スピンドル、6…トリガスイッチ(操作部)、7…電池パック、8…ハンマ、9…スプリング、10…アンビル(先端工具装着部)、11…ハンマケース、12…フロントキャップ(保護部材)、13…正逆切替レバー(回転方向切替部)、14…温度センサ、15…センサ・インバータ基板、16…照明LED、20…操作パネル(モード切替部)、30…制御基板、31…電流検出回路、32…電圧検出回路、33…スイッチ操作検出回路、34…回転方向設定回路、35…温度検出回路、36…制御電源回路、37…制御信号出力回路、38…回転位置検出回路、39…回転数検出回路、40…パネル操作検出回路、42…演算部(制御部)、43…ホールIC(磁気センサ)、44…照明LED駆動回路、45…インバータ回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7