(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079509
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】耐熱粘土原料および耐熱陶磁器
(51)【国際特許分類】
C04B 33/13 20060101AFI20240604BHJP
C04B 33/16 20060101ALI20240604BHJP
C04B 33/24 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C04B33/13 A
C04B33/16
C04B33/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192490
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】523222378
【氏名又は名称】株式会社ウイテン
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】内山 祐吉
(72)【発明者】
【氏名】内山 貴文
(57)【要約】
【課題】実用上十分な耐久性を備える耐熱陶磁器の原料となる耐熱粘土原料、および、この耐熱粘土原料の焼成体として得られる耐熱陶磁器を提供する。
【解決手段】耐熱粘土原料は、粘土、溶融石英、および強度向上材を含み、強度向上材は、鉄供給源となる物質およびマグネシウム供給源となる物質の少なくともいずれかであり、耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度が、強度向上材を含まないこと以外は同じ構成の耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度よりも10%以上大きく、耐熱粘土原料は、強度向上材を耐熱粘土原料全体に対して0.1~80質量%含み、耐熱粘土原料の焼成体は、室温から700℃における線膨張係数が0.1~5.0×10-6/Kである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土、溶融石英、および強度向上材を含む耐熱粘土原料であって、
前記強度向上材は、鉄供給源となる物質およびマグネシウム供給源となる物質の少なくともいずれかであり、
前記耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度が、前記強度向上材を含まないこと以外は同じ構成の前記耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度よりも10%以上大きいことを特徴とする耐熱粘土原料。
【請求項2】
前記耐熱粘土原料は、前記強度向上材を前記耐熱粘土原料全体に対して0.1~80質量%含むことを特徴とする請求項1記載の耐熱粘土原料。
【請求項3】
前記耐熱粘土原料は、前記鉄供給源となる物質として酸化鉄を前記耐熱粘土原料全体に対して0.1~30質量%含むことを特徴とする請求項1記載の耐熱粘土原料。
【請求項4】
前記耐熱粘土原料の焼成体は、室温から700℃における線膨張係数が0.1~5.0×10-6/Kであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の耐熱粘土原料。
【請求項5】
前記溶融石英の粒子径が、0.01~5.00mmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の耐熱粘土原料。
【請求項6】
耐熱粘土原料の焼成体である耐熱陶磁器であって、
前記耐熱粘土原料が、請求項1または請求項2記載の耐熱粘土原料であることを特徴とする耐熱陶磁器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れる工業素材や家庭用素材などの原料として用いられる耐熱粘土原料に関するものである。特に、直火用などの食器または調理器として使用可能な耐熱陶磁器に用いられる耐熱粘土原料に関する。
【背景技術】
【0002】
コージライトや、ペタライト、アルミナ、ユークリプタイトを用いた低膨張のセラミックス焼結体は、陶磁器製品や低膨張を特徴とするセラミックとして工業的に利用されている。これらは、曲げ強度などの機械的強度に優れるとともに、線膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れていることが知られている。
【0003】
従来の直火用の耐熱素材は、土鍋のような耐熱陶器製調理器や食器に使用されてきた。他にも瓦やレンガなどの低膨張性能を必要としている製品にも含まれている。日本国内での直火用の耐熱素材は、主流は、低膨張のセラミックス原料であった。陶磁器などが熱衝撃により割れる理由は、機械的強度不足や、加熱・冷却に伴う体積変化による破壊である。低膨張のセラミックス原料を粘土と混合することにより、耐熱性能を向上させることができる。
【0004】
このように、低膨張のセラミックス原料は粘土と混合した混合粘土として利用され、この混合粘土を焼結したものは耐熱陶磁器として広く普及している。例えば、特許文献1では、粘土を20~80重量%、所定メッシュサイズのペタライトを80~20重量%の割合で混練した混錬体とし、これを炭素粒子と珪酸化合物の混練体と混練した後、所定の温度で焼成することを特徴とする耐熱材の製造方法が提案されている。
【0005】
ここで、ペタライトなどの鉱物は多くを輸入に頼っていることから、資源情勢などの変化により入手が困難となるおそれがある。そのため、安定的に入手可能な原料を用いた耐熱陶磁器用の新たな組成の開発が行われている。
【0006】
例えば、特許文献2には、粘土および溶融石英を主成分とする耐熱粘土原料が記載されている。特許文献2に記載の耐熱粘土原料は、ペタライトに依存することなく低コストで製造可能であり、かつ、焼成条件に関わらず低膨張で高い耐熱性を備える耐熱陶磁器の原料となる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-57517号公報
【特許文献2】特開2019-137605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の耐熱粘土原料を用いた耐熱陶磁器の場合、高い耐熱衝撃耐性を備えるものの、用途や形状によっては物理的な衝撃に対する強さ(特に、靭性など機械的強度)が求められる。用途や市場拡大のためには、薄厚の製品や、荷重のかかる大型の製品に適用しても割れないように、実用上十分に高い耐久性を有することが望ましい。
【0009】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、実用上十分な耐久性を備える耐熱陶磁器の原料となる耐熱粘土原料、および、この耐熱粘土原料の焼成体として得られる耐熱陶磁器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の耐熱粘土原料は、粘土、溶融石英、および強度向上材を含む耐熱粘土原料であって、上記強度向上材は、鉄供給源となる物質およびマグネシウム供給源となる物質の少なくともいずれかであり、上記耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度が、上記強度向上材を含まないこと以外は同じ構成の上記耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度よりも10%以上大きいことを特徴とする。
【0011】
上記耐熱粘土原料は、上記強度向上材を上記耐熱粘土原料全体に対して0.1~80質量%含むことを特徴とする。
【0012】
上記耐熱粘土原料は、上記鉄供給源となる物質として酸化鉄を上記耐熱粘土原料全体に対して0.1~30質量%含むことを特徴とする。
【0013】
上記耐熱粘土原料の焼成体は、室温から700℃における線膨張係数が0.1~5.0×10-6/Kであることを特徴とする。
【0014】
上記溶融石英の粒子径が、0.01~5.00mmであることを特徴とする。
【0015】
本発明の耐熱陶磁器は、耐熱粘土原料の焼成体である耐熱陶磁器であって、該耐熱粘土原料が、上述の耐熱粘土原料であることを特徴とする。
【0016】
耐熱陶磁器の焼成温度は900℃~1400℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐熱粘土原料は、粘土、溶融石英、および強度向上材を含む耐熱粘土原料であって、この強度向上材は、鉄供給源となる物質およびマグネシウム供給源となる物質の少なくともいずれかであり、耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度が、強度向上材を含まないこと以外は同じ構成の耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度よりも10%以上大きいので、衝撃や荷重を受けても割れにくく、実用上十分な耐久性を備える耐熱陶磁器の原料として好適となる。
【0018】
耐熱粘土原料は、強度向上材を耐熱粘土原料全体に対して0.1~80質量%含むので、曲げ強度がより向上し、耐久性にさらに優れる。
【0019】
耐熱粘土原料は、鉄供給源となる物質として酸化鉄を耐熱粘土原料全体に対して0.1~30質量%含むので、耐熱陶磁器製調理器とした際の外観性にも優れる。
【0020】
耐熱粘土原料の焼成体は、室温から700℃における線膨張係数が0.1~5.0×10-6/Kであるので、曲げ強度と耐熱衝撃性の両方に優れ、耐久性に一層優れる。
【0021】
溶融石英の粒子径は0.01~5.00mmのものが製造上望ましい。溶融石英粉末は溶融石英のバルクを粉砕して作るため、粒子径が上記範囲外のものも存在する。
【0022】
本発明の耐熱陶磁器は、上述の本発明の耐熱粘土原料の焼成体であるので、衝撃や荷重を受けても割れにくく、生活や機能部材での実用上十分な耐久性を備える。このため、例えば、直火用などの食器または調理器として好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の耐熱粘土原料は、粘土、溶融石英、および強度向上材を含む。強度向上材は、粘土、溶融石英に配合される物質であり、粘土、溶融石英以外の物質を意味する。強度向上材は、鉄供給源となる物質およびマグネシウム供給源となる物質の少なくともいずれかである。粘土、溶融石英、および強度向上材の合計の、耐熱粘土原料全体に対する含有割合は、50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。また、耐熱粘土原料全体に対する各成分の含有割合としては、例えば、粘土が20質量%以上70質量%未満、溶融石英が5質量%以上80質量%未満、強度向上材が0.1質量%以上50質量%未満である。
【0024】
耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度は、強度向上材を含まないこと以外は同じ構成の耐熱粘土原料の焼成体の曲げ強度よりも10%以上大きいので、本発明の耐熱粘土原料の焼成体として得られる耐熱陶磁器は溶融石英を主成分として含む耐熱陶磁器対比で優れた耐久性を備える。ここで、「強度向上材を含まないこと以外は同じ構成の耐熱粘土原料」とは、強度向上材を含む耐熱粘土原料に対し、除かれる強度向上材と同じ質量分の粘土または溶融石英で置き換えたものを意味する。なお、本発明における「曲げ強度」は、JIS R-1601に準拠して測定される温度25℃での曲げ強度である。
【0025】
本発明で用いる粘土としては、カオリン鉱物群を含む粘土類(蛙目粘土、木節粘土、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、ニュージランドカオリン、朝鮮カオリン、河東カオリンなどのカオリン)、セリサイトなどが挙げられる。
【0026】
粘土は、耐熱粘土原料全体に対する含有割合が、好ましくは30~70質量%であり、より好ましくは35~60質量%であり、さらに好ましくは40~50質量%である。粘土が、20質量%未満であると製品形状への成形が困難となるおそれがあり、80質量%をこえると、粘土の高い線膨張係数により十分な耐熱性が得られなくなるおそれがある。
【0027】
本発明で用いる溶融石英は、結晶質の石英、水晶と異なり、線膨張係数の低い石英である。本発明で使用できる溶融石英(石英ガラス、溶融シリカ、シリカガラスとも呼ばれる)としては、水晶、石英を酸水素炎、電気、プラズマアークなどにより高温で溶融したものを急冷固化し、これを粉砕した粉末や、化学気相蒸着法、ゾル-ゲル法により得られたものなどが挙げられる。このように、溶融石英は、人工的に製造されるため、安定した入手が可能である。この結果、本発明の耐熱粘土原料と耐熱陶磁器の安定供給が可能となる。
【0028】
また、天然原料を多く含む耐熱粘土原料は、天然原料に起因する成分バラツキが起こるおそれがある。そのため、耐熱陶磁器の品質安定性の観点からも、人工的に製造されて成分バラツキが少ない溶融石英を用いて従来品と同等以上の耐久性や外観性を発現できることが望まれる。
【0029】
ここで、水晶などを電気により高温で溶融する方法(以下、「電気溶融法」という)で作られた溶融石英の特徴は、内部に耐熱性を低下させる作用を持つOH基(水酸基)をほとんど含まない。これにより、電気溶融法で作られた溶融石英は、他の製法で得られる溶融石英に比べて最も耐熱性に優れる。
【0030】
石英は、長石原料などに含まれており、陶磁器原料として広く使用されている。しかし、陶磁器に使用される石英は多くが結晶質のものである。粘土や釉に石英を混ぜる理由としては、焼成後の陶磁器強度の向上や光沢のために添加されることが多いが、線膨張係数が増加する。耐熱陶磁器は、焼成温度を調整(1400℃以下)することで、陶磁器中のSiO2を完全に溶融させずに焼結させることができる。これにより、ペタライトの様な低膨張の結晶の性能を維持したままの陶磁器を生産できる。溶融石英は非晶質であり、上述のように線膨張係数の低い原料である。自然界にある石英は、ほとんどが結晶質であり、高い線膨張係数の理由となる。
【0031】
本発明では、粘土、溶融石英、および強度向上材を含む耐熱粘土原料とし、この耐熱粘土原料の焼成時に、溶融石英粒子の表面近傍は溶融させつつ、中心部は溶融させないで焼結させることなどにより、曲げ強度に優れる耐熱陶磁器を実現できる。この場合、焼成時に溶融石英の少なくとも一部が溶融せずに維持されることとなり、耐熱衝撃性の向上に寄与する。特に、電気溶融法で作られた溶融石英を用いた場合、溶融石英の一部が溶融せずに維持されやすくなるため、曲げ強度向上の観点から特に好ましい。
【0032】
次に溶融石英の粒径について説明する。溶融石英の粒子径は、例えば、0.01~5.00mmとできる。溶融石英の粒子径が上記範囲の場合、耐熱粘土原料の焼成時に粒子表面近傍の溶融と粒子中心部の非溶融のバランスが良好となり、耐熱陶磁器の耐熱衝撃性と靭性が向上しやすく曲げ強度向上につながる。ここで、ペタライトは、200メッシュ(最大粒径約0.08mm)~80メッシュ(最大粒径約0.18mm)のものが従来多用される。本発明で用いる溶融石英は、比較的大きいことから、焼成時に一部が溶融しないまま維持されやすい。なお、粒子径や分布割合はレーザー回析・散乱法で測定される値である。
【0033】
本発明において、強度向上材は、粘土と溶融石英を含む組成に配合した結果として、焼成体の曲げ強度を向上させるものである。耐熱粘土原料は、強度向上材を、耐熱粘土原料全体に対して、例えば、0.1~80質量%含むことができる。耐熱粘土原料中の強度向上材の含有割合は、耐久性の観点から、0.1~30質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましく、0.1~10質量%がさらに好ましく、0.1~6質量%が一層好ましい。強度向上材が、耐熱粘土原料全体に対して0.1~10質量%の範囲である場合、耐熱衝撃性と曲げ強度という通常トレードオフの関係にある両特性を特に高いレベルで満たすことができる。具体的には、強度向上材が、耐熱粘土原料全体に対して0.1質量%以上の場合、曲げ強度に特に優れ、10質量%以下の場合、耐熱衝撃性に特に優れる。また、強度向上材が、0.1~5質量%の範囲(触媒量)である場合、特に幅広い温度範囲で使用可能な耐熱陶磁器が得られる。
【0034】
鉄供給源となる物質としては、ヘマタイト、リモナイト、マグネタイト、ウスタイト、マグヘマイトなどの含鉄土石類、フェライト、酸化鉄などの鉄元素を含む物質が挙げられる。酸化鉄としては、酸化第一鉄(FeO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、四酸化三鉄(Fe3O4)などが挙げられる。酸化第二鉄としては、例えば、NAT酸化鉄、HRT酸化鉄、NSK酸化鉄、弁柄などが挙げられる。なお、粘土および溶融石英に対して酸化鉄などの鉄元素を含む物質を顔料(着色剤)として配合する場合であっても、焼成体の曲げ強度を向上させている場合には、強度向上剤に該当する。
【0035】
鉄供給源となる物質としては、フェライトや酸化鉄が好ましく、特に酸化鉄が好ましい。従来、酸化鉄は、発色性を利用して色付けなどに使用される場合が多いが、酸化鉄を、粘土および溶融石英と共存させることで、低膨張性を維持しつつ高い機械的強度を発現できる。特に、機械的強度の向上に、非晶質な溶融石英と酸化鉄の組み合わせが大きく寄与するものと考えられる。
【0036】
本発明の耐熱粘土原料を用いて土鍋などの耐熱陶磁器製調理器や食器を製造する場合、耐久性とともに色目(外観性)も重要な品質の要素となる。例えば、三島土鍋の場合、耐熱粘土原料からなる陶土によって形成される素地の上に透明釉薬層が形成されることで、独特の風合いを有した灰色の色目となり消費者の購買意欲を喚起する。本発明の耐熱粘土原料は、粘土、溶融石英とともに酸化鉄を所定量含むことにより、外観性に優れた耐熱陶磁器が得られる。
【0037】
酸化鉄の含有割合が0.1~10質量%の範囲である場合、土鍋などの耐熱陶磁器製調理器とした際の外観性にも優れる。耐熱陶磁器製調理器の場合、温度変化だけでなく大きな荷重や衝撃が掛かりやすいため、耐熱衝撃性、機械的強度、外観性の全てを高いレベルで満たすことが求められる。酸化鉄の含有割合が0.1~6質量%の範囲である場合、耐熱衝撃性、機械的強度、および外観性のバランスに特に優れる。
【0038】
マグネシウム供給源となる物質としては、マグネサイト、ドロマイト、モンモリロナイトなどの含マグネシウム土石類、マグネシア(酸化マグネシウム)、にがり、ロウ石、滑石などのマグネシウム元素を含む物質が挙げられる。なお、にがりは分散剤としても使用できる。
【0039】
マグネシウム供給源となる物質としては、マグネサイトが好ましい。マグネサイトを組成中に多く配合することは、焼成体中のクリストバライト量の増大に繋がりやすく、焼成工程での割れやすさに繋がりうるが、本発明では、粘土と、溶融石英と、所定量のマグネサイトとを共存させることで、低膨張性を低く抑えつつ高い機械的強度を実現できる。特に、マグネサイトの含有割合が0.1~10質量%の範囲である場合、焼成工程での割れにくさと高機械的強度の両立を図ることができる。
【0040】
本発明の耐熱粘土原料は、低膨張材として、ペタライトやコージライトを用いてもよい。ペタライトは、リチウム含有のケイ酸塩鉱物である。コージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)は、マグネシウム含有のケイ酸塩鉱物である。低膨張材は、耐熱粘土原料全体に対する含有割合が、例えば、5~20質量%とできる。低膨張材の含有割合としては、(溶融石英:低膨張材)=(4:1)~(1:1)とすることが好ましい。
【0041】
本発明では、上記低膨張材以外に、添加材として他の低膨張な原料を含有してもよい。例えば、β-スポジュメン(Li2O・Al2O3・4SiO2)、β-ユークリプタイト(Li2O・Al2O3・2SiO2)などのリチウム系鉱物、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、ジルコン(ZrO2・SiO2)、ホウケイ酸ガラス(Na2O-B2O3-SiO2)などが挙げられる。
【0042】
耐熱粘土原料には、添加材として、一般の耐熱陶磁器原料において公知の添加材を添加してもよい。添加材としては、例えば、蝋石、長石、シャモット、カオリン、石灰、タルク、アルミナ、バリウム化合物、ストロンチウム化合物、ベントナイト、ケイ酸ソーダなどが挙げられる。これらの中でも、蝋石、長石、シャモットを添加することが好ましい。蝋石は滑材として使用され、長石は光沢出しなどに使用され、シャモットは焼き締まり時のクッション材などに使用される。
【0043】
また、添加材として、ケイ酸ソーダ、ベントナイトを添加することも好ましい。ベントナイトやケイ酸ソーダは粘度向上剤として使用され、素地を成形して乾燥する際の亀裂抑制に効果的である。特に、ベントナイトは、少量の添加でも粘度向上に効果的であり、例えば、耐熱粘土原料全体に対する含有割合が1質量%でも大幅に粘度向上できる。なお、上述した添加材は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0044】
添加材の耐熱粘土原料全体に対する含有割合は、例えば合計で0.1~30質量%とできる。好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%である。
【0045】
本発明の耐熱陶磁器は、本発明の耐熱粘土原料の焼成体である。耐熱陶磁器は、大きく分けて(A)耐熱粘土原料からなる陶土を成形する、(B)必要に応じて陶土の成形体の表面に施釉する、(C)焼成炉にて焼成し、その後炉冷する、の工程により製造される。
【0046】
(A)の成形工程では、耐熱粘土原料を構成する各鉱物などを所定量混合する。この混合は公知の湿式または乾式法いずれの方法であっても使用できる。湿式法で混合した場合は混合物(泥漿)を脱水、ケーキ化して成形用の陶土とする。材料は、混練後に成形される。成形方法としては、ローラーマシーン成形、プレス成形、圧力鋳込(圧搾)成形、鋳込成形、水コテ成形、手練、たたらなどを利用でき、土鍋や皿など所定の形状に成形される。なお、耐熱粘土原料は赤土、白土のいずれでもよい。
【0047】
(B)の施釉工程は、必要に応じて実施される。この工程では、(A)の工程で成形された成形体の表面に施釉する。釉薬は、ガラス質の釉層を形成できるものであれば使用できる。施釉の方法としては、ディッピング、スプレー掛けなどを利用でき、成形体の表面に施釉される。
【0048】
(C)の焼成工程では、上記で得られた成形体をガス窯や電気窯内に入れ、これを例えば500~1400℃の温度で焼成する。焼成時間は1~24時間程度である。1400℃以下で焼成することで、上述のように溶融石英を完全に溶融させずに焼結できる。ここで、焼成条件として、酸化焼成と還元焼成とがあり、いずれの条件としてもよい。酸化焼成は、窯内に多量の空気(酸素)を供給し、十分に酸素が存在する条件下で焼成する方法である。還元焼成は、例えば窯内に木や石炭、ガスなどを不完全燃焼を起こす程度に投入して焼成する方法である。
【0049】
本発明の耐熱陶磁器は、直火に掛けた場合、経済産業省認定工場のための工業標準化法に基づいたJIS S 2400で規定されている温度差350℃以上の基準を満たすものとして製造可能である。また、粘土と溶融石英のみの調合だけではなく、添加材(溶融鉱物)として、強度向上材の他に蝋石やカオリン、長石などを添加することで、より焼き締り、低膨張のまま高強度が得られる。溶融石英および強度向上材の使用により、直火に強く機械的強度にも優れる、実用上十分な耐久性を備えた耐熱陶磁器が製造できる。
【0050】
陶磁器が熱衝撃により割れる理由は、加熱・冷却に伴う体積変化による破壊である。ペタライトやコージライトは低い熱膨張の素材であり、従来は、これを粘土と混合することにより、耐熱陶磁器用の原料の生産を行っている。溶融石英も低い熱膨張を持つ素材であり、本発明ではこれを採用するとともに、強度向上材を配合することで新たな耐熱陶磁器用の粘土材料を得ている。
【0051】
このように、溶融石英は低膨張であるため、粘土など線膨張係数の高い鉱物と混ぜ合わせることにより、低膨張の耐熱粘土原料が実現できると考えた。しかし、粘土とペタライトを使用する場合と比較すれば、粘土と溶融石英のみでは機械的強度が不十分な場合がある。このため、上述のように強度向上材を使用することで、実用上十分な機械的強度を実現できる。
【0052】
耐熱粘土原料の焼成体は、室温から700℃における線膨張係数が0.1~5.0×10-6/Kであることが好ましい。より好ましくは0.1~3.0×10-6/Kであり、さらに好ましくは0.1~2.5×10-6/Kであり、一層好ましくは0.1~2.0×10-6/Kである。線膨張係数が5.0×10-6/Kをこえる場合、用途によっては十分な耐熱性が得られないおそれがある。
【0053】
また、還元焼成と酸化焼成の場合における同温度条件で測定した線膨張係数の差が、-1.0~1.0×10-6/Kであることが好ましい。より好ましくは-0.8~0.8×10-6/Kであり、さらに好ましくは-0.5~0.5×10-6/Kである。線膨張係数の差が、±1.0×10-6/K範囲内とすることで、焼成条件に関わらず、十分な低膨張性(耐熱性)が得られる。なお、ペタライトを耐熱粘土原料の主成分として用いた場合、還元焼成での焼結体の線膨張係数は、酸化焼成での焼結体の線膨張係数よりも1.0×10-6/K以上大きくなりやすいため、還元焼成は適用されにくい。
【0054】
本発明の耐熱陶磁器は、後述の実施例に示すように、耐熱粘土原料の組成によっては、ペタライト製の直火用耐熱調理器や食器の線膨張係数の標準値であった線膨張係数2.0×10-6/K以下の低膨張性(耐熱性)をも実現できる。
【実施例0055】
実施例1、比較例1~2
表1に示す組成の耐熱粘土原料を調製し、これを用いて所定の試験片を成形し、酸化雰囲気において1200℃で20時間焼成して、試験片を制作した。粘土として蛙目粘土を用い、強度向上材としてNAT酸化鉄を用いた。また、溶融石英として市販の溶融石英(粒子径0.01~5.00mm)を用いた。この試験片の線膨張係数を、熱機械分析装置を用い、昇温速度を7℃/分として室温(25℃)から700℃まで加熱して測定した。結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
表1に示すように、試験に用いた全サンプルにおいて、線膨張係数が2.0×10-6/K以下であり、耐熱性に優れることが確認された。これは土鍋や耐熱食器では十分通用する値である。また、JIS S 2400陶磁器製耐熱食器の耐熱検査350℃以上に耐えうるものである。
【0058】
次に、本発明の耐熱陶磁器の物性測定を行った。
実施例1および比較例1~2の耐熱粘土原料を用いて所定のサイズの試験片を成形し、酸化焼成雰囲気において1200℃で20時間焼成して、試験片を制作した。この試験片について、JIS A 1509-4 陶磁器タイル試験方法を準用して、曲げ強度を測定した。試験片サイズおよび曲げ強度の試験結果を表2に示す。
【0059】
【0060】
表2に示すように、酸化鉄を3質量%以上含む実施例1は、溶融石英と粘土の単味の調合の比較例1に対して、曲げ強度が約23%向上した。また、実施例1は、酸化鉄の代わりに同量の釜戸長石を含む比較例2に対して、曲げ強度が約33%向上した。上述のように、耐熱粘土原料として粘土とともに溶融石英と酸化鉄のような強度向上材を併用することは、焼成体の線膨張係数を低いまま維持しつつ機械的強度を向上できる、実用上十分な耐久性を備える耐熱陶磁器に好適な組み合わせであることを見出した。
本発明の耐熱粘土原料は、安定的に入手可能であるとともに品質安定性にも優れる溶融石英を用いて、実用上十分な耐久性を備える耐熱陶磁器の原料となるので、低線膨張係数とともに高い機械的強度、品質安定性が要求される工業素材や家庭用素材などの原料として広く利用できる。特に、直火用などの食器または調理器である耐熱陶磁器として好適に利用できる。
耐熱陶磁器原料の主要原料であったペタライトはリチウムイオン電池への加工技術が開発され、日本国内への輸入が困難な環境に変化した。国内の耐熱陶器産業の保護のためにも必要な技術開発である。ペタライトは加工のない天然原料であるため、ジンバブエ共和国や中華人民共和国の指針により、禁輸される可能性がある。国内での希少性も増し、大量に消費できる価格では無くなった。日本企業が主導して新たな原料を開発することに国内技術の発展と産業保護の可能性がある。