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特開2024-79515TGR5活性化作用を有する化合物及び該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079515
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】TGR5活性化作用を有する化合物及び該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/533 20060101AFI20240604BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240604BHJP
【FI】
C07C69/533 CSP
A61K31/215
A61P3/04
A61P3/10
A61K36/23
A61P43/00 111
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192498
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】千場 智尋
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌良
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 理恵
(72)【発明者】
【氏名】谷口 慈将
(72)【発明者】
【氏名】松本 理恵
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD54
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4C088AB40
4C088BA08
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA70
4C088ZC35
4C088ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206DB03
4C206DB56
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA70
4C206ZC35
4C206ZC41
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H006BJ10
4H006BN10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、TGR5活性化作用を有する化合物、該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、以下の式(1)で表されることを特徴とする新規な化合物が提供される。本発明によれば、TGR5活性化作用を有する新規化合物、該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤を提供することができる。
【化1】
【選択図】図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表されることを特徴とする、化合物。
【化1】
【請求項2】
以下の式(2)で表されることを特徴とする、化合物。
【化2】
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物を含有することを特徴とする、TGR5活性化剤。
【請求項4】
ニンジン抽出物に由来することを特徴とする、請求項3に記載のTGR5活性化剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の化合物を含有することを特徴とする、GLP分泌促進剤。
【請求項6】
ニンジン抽出物に由来することを特徴とする、請求項5に記載のGLP分泌促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TGR5活性化作用を有する化合物及び該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤に関する。より詳細には、TGR5活性化作用を有する化合物、及び該化合物を含有する、医薬品、飲料、化粧品、健康食品などの分野で用いるTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
TGR5(Transmembrane G protein-coupled Receptor-5:Gタンパク質共役型膜貫通型受容体-5)は胆汁酸を内因性のリガンドとする受容体タンパク質で、小腸、脂肪組織、骨格筋などのほぼすべての組織で発現しているタンパク質である。その中で、腸管L細胞に局在するTGR5は、胆汁酸などによって刺激されると、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンであるインクレチンの1種であるGLP-1(Glucagon-like peptide-1:グルカゴン様ペプチド-1)分泌を促進することが知られている。また、近年においては、骨格筋におけるTGR5の機能も明らかになりつつあり、その作用が注目されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、TGR5刺激がグルコース代謝や脂質代謝に影響を及ぼすことが記載されている。また、非特許文献2には、食事によるオバクノン(TGR5アゴニスト)の補給が、筋肥大を刺激し、TGR5及びPPARγ経路を介して高血糖症と肥満を抑制することが記載されている。また、非特許文献3には、骨格筋におけるTGR5の活性化が筋細胞の分化と筋肥大を促進することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Kim, et al.,Lab Anim Res. 2018;34(4):140-146.
【非特許文献2】Horiba T.,et al.,Biochem Biophys Res Commun. 2015;463(4):846-52.
【非特許文献3】Sasaki T. et al.,J Biol Chem. 2018 Jun 29;293(26):10322-10332.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにTGR5を活性化することにより高血糖症や肥満などの様々な症状に対して効果が得られ、また、GLP-1の分泌を促進できることから、TGR5を活性化する機能を有する物質又はこれらを含有する組成物などが求められている。
【0006】
本発明は、TGR5活性化作用を有する化合物及び該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、ニンジン抽出物が強いTGR5活性化作用を有することを見出した。さらに、これらニンジン抽出物の分析を進めた結果、ニンジン抽出物から単離した新規の化合物がTGR5活性化作用を有するという知見に至り、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
[1]以下の式(1)で表されることを特徴とする、化合物。
【化1】
本発明によれば、式(1)で表されるTGR5活性化作用を有する化合物を含有させることにより、該化合物を適用した様々な医薬、飲料、化粧品、健康食品などをより効率的に提供することができる。
[2]以下の式(2)で表されることを特徴とする、化合物。
【化2】
本発明によれば、式(2)で表されたTGR5活性化作用を有する化合物を含有させることにより、該化合物を適用した様々な医薬、飲料、化粧品、健康食品などをより効率的に提供することができる。
[3][1]又は[2]に記載の化合物を含有することを特徴とする、TGR5活性化剤。
この特徴によれば、式(1)又は(2)で表されたTGR5活性化作用を有する化合物を含有させることにより、応用範囲の広いTGR5活性化剤をより効率的に提供することができる。
[4]ニンジン抽出物に由来することを特徴とする、[3]に記載のTGR5活性化剤。
この特徴によれば、自然物であるニンジンからの精製などにより、式(1)又は(2)で表されたTGR5活性化作用を有する化合物を含有するTGR5活性化剤を容易に提供することができる。
[5][1]又は[2]に記載の化合物を含有することを特徴とする、GLP分泌促進剤。
この特徴によれば、式(1)又は(2)で表されたTGR5活性化作用を有する化合物を含有させることにより、TGR5の活性化を介してGLP分泌を促進可能なGLP分泌促進剤をより効率的に提供することができる。
[6]ニンジン抽出物に由来することを特徴とする、[5]に記載のGLP分泌促進剤。
この特徴によれば、自然物であるニンジンからの精製などにより、式(1)又は(2)で表されたTGR5活性化作用を有する化合物を含有するGLP分泌促進剤を容易に提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、TGR5活性化作用を有する新規化合物及び該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ノラニンジン種子抽出物における固相抽出後のHPLCクロマトグラムである。
図2】ノラニンジン種子抽出物における固相抽出後の分画物5の単離後のHPLCクロマトグラムである。
図3】化合物Iについて結晶スポンジ法による構造解析結果を示す図である。
図4】(A)結晶スポンジ法による化合物Iの構造解析結果と(B)対応する構造式とを示す図である。
図5】化合物IIついて結晶スポンジ法による構造解析結果を示す図である。
図6】(A)結晶スポンジ法による化合物IIの構造解析結果と(B)対応する構造式を示す図である。
図7】化合物IによるTGR5活性化作用の試験結果を示す図である。
図8】化合物IIによるTGR5活性化作用の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のTGR5活性化作用を有する新規な化合物及び該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤について説明する。
なお、実施形態に記載するTGR5活性化作用を有する化合物及び該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これに制限されるものではない。また、TGR5活性化剤について説明した実施態様はGLP分泌促進剤においても同様に本発明に含まれるものとする。
【0012】
[TGR活性化作用を有する化合物]
本発明のTGR5アゴニスト活性を有する化合物は、以下の式(1)又は(2)で表される新規な化合物である。
【化3】
【0013】
【化4】
本発明によれば、式(1)又は(2)で表されるTGR5活性化作用を有する新規化合物(以下、単に「新規化合物」と称することがある)を含有させることにより、該化合物を適用した様々な医薬、飲料、化粧品、健康食品などを効率的に提供することができる。
【0014】
本発明に使用できる新規化合物としては特に限定はされない。工業的に合成されるものであってもよいし、自然物から抽出、単離されるものであってもよい。新規化合物の由来物としては特に限定はされないが、安全性、入手の容易性の観点から、後述するニンジン抽出物に由来することが好ましい。また、TGR5を活性化する機能を有する限り、薬学的に許容される、新規化合物の誘導体、各種これらの塩類、これらの混合物なども本発明の範囲に含まれるものである。また、本発明の新規化合物は、シス体、トランス体などの幾何異性体やR体、S体などの光学異性体などの全ての立体異性体を包含し、当該異性体を任意の割合で含む混合物であってもよい。
【0015】
(ニンジン抽出物)
本発明のTGR5活性化剤を構成する新規化合物はニンジン抽出物に由来するものであってもよい。また、TGR5活性化剤の目的や用途に応じて、ニンジン抽出物を段階的に精製することができ、その精製手法の選択によってTGR5活性化剤に含有する新規化合物の含有量や純度を調整することができる。本発明に用いられるニンジン抽出物とは、セリ科ニンジン属の植物の植物体の抽出物である。本発明のニンジン抽出物に用いられる植物体とは、根、種子、葉、茎、花などが用いられる。新規化合物の収率やTGR5活性化の観点から、好ましくは根又は種子であり、より好ましくは種子である。
【0016】
本発明に用いられるセリ科ニンジン属の植物としては、特に制限されないが、例えば、ニンジン(栽培種、学名:Daucus carota subsp. sativus (Hoffm.) Arcang.)、ノラニンジン(野生種、学名:Daucus carota)、その他のニンジンなどが挙げられる。ニンジンとしては、西洋系品種、東洋系品種などが挙げられる。西洋系品種としては、例えば、フラッキー(Flakkee)ニンジン、ナンテス(Nantes)ニンジン、五寸ニンジン、子安三寸ニンジン、ミニキャロット、パリジャンキャロット、ホワイトニンジン(例えばWhite Belgian)、黄ニンジン(例えばYellow 、)、紫ニンジンなどが挙げられる。東洋系品種としては、例えば、金時ニンジン、熊本長ニンジン、(沖縄)島ニンジン、金美ニンジン、黒ニンジンなどが挙げられる。ノラニンジンとしては、ノラニンジン(Wild carrot)、ノラニンジン亜種(Wild D. carota subspecies)などが挙げられる。これらの中でも、新規化合物の収率やTGR5活性化の観点から、好ましくはフラッキー(Flakkee)ニンジン、ナンテスト(Nantes)ニンジン、ホワイトニンジン、黄ニンジン、島ニンジン、ノラニンジン、ノラニンジン亜種であり、より好ましくはノラニンジン、ノラニンジン亜種、島ニンジンである。さらに好ましくは、ノラニンジンである。
【0017】
本発明におけるニンジン抽出物としては、本発明の新規化合物を含有するものであれば、その手法は特に限定はされない。例えば、水又は各種の有機溶媒による抽出物、水蒸気蒸留により得られる蒸留物、二酸化炭素を用いた超臨界抽出物、乾燥粉末、すりおろしたものやすりおろしたものから絞ったジュースなどが挙げられる。好ましくは、新規化合物の収率やTGR5活性化の観点から、有機溶媒による抽出物、水蒸気蒸留物、二酸化炭素を用いた超臨界抽出物である。
【0018】
[TGR5活性化剤]
本発明のTGR5活性化剤は、前記の式(1)又は(2)で表されるTGR5活性化作用を有する新規な化合物を含有することを特徴とする。
【0019】
TGR5は、胆汁酸を内因性のリガンドとする受容体タンパク質であり、小腸、脂肪組織、骨格筋などのほぼすべての組織で発現しているタンパク質である。TGR5の活性化による代表的な効果としては、小腸においてGLP-1の分泌が促進され、その結果、糖代謝機能が促進される。また、褐色脂肪組織及び骨格筋においては、β酸化などのエネルギー代謝、熱産生、エネルギー産生、筋細胞の分化、筋肥大が促進される。更にTGR5の活性化は白色脂肪の褐色化を促し、ベージュ脂肪細胞として褐色脂肪細胞と類似の熱産生やエネルギー産生などを亢進させる。また、マクロファージに発現する炎症性サイトカインの減少なども確認されている。
【0020】
これらのことから、本発明のTGR5活性化剤により、糖代謝改善、血糖降下、糖化予防・改善、脂質代謝改善、肥満抑制、筋合成促進、フレイル予防、腸管吸収及び栄養素の同化の増大、抗炎症活性、消化管粘膜の治癒及び修復、及び腸透過性の向上などの効果を得ることができる。本発明のTGR5活性化剤は、特にGLP-1の分泌を介して、2型糖尿病改善への効果を得ることができる。
【0021】
<TGR5活性化剤の製造方法>
ニンジン抽出物を出発物質としたTGR5活性化剤の製造方法としては公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、以下に説明する工程を含む。なお、これらの工程を全て含むものであってもよいし、TGR5活性化剤の目的、用途に応じてこれら工程の一部を含むものであってもよい。
【0022】
(工程1)
工程1は、ニンジンを水又は有機溶媒によって抽出し、抽出物を得る工程である。
水又は各種の有機溶媒による抽出の方法としては、特に限定はされず、溶媒として水のほか、各種の有機溶媒又はそれらの混液を用い、公知の抽出方法で行うことができる。抽出操作を行う前に、原料をそのまま、又は粗く細断したものを、疎水性若しくは親水性溶媒単独又は混合有機溶媒で洗浄し、色素などの不要物を除去してもよい。疎水性溶媒としては、クロロホルム、エーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ジクロロメタン、石油エーテル及びベンゼンなどが挙げられ、親水性溶媒としては低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、イソブチル又はブチルアルコールなど)、酢酸エチル、アセトン及びアセトニトリルなどが挙げられる。所望により原料に水を適宜加え、原料を湿潤させてもよい。
【0023】
水で抽出を行う場合の溶媒量としては特に限定はされないが、例えば、原料1重量部(乾燥重量換算)に対し、水0.5~100重量部、好ましくは5~20重量部を加え、常温~120℃で、5分~1週間、好ましくは10分~72時間抽出を行うことができる。このとき、撹拌により抽出効率を高めることもできる。また、抽出は、冷浸、加熱還流、パーコレーション法などにより行うこともできる。抽出後、濾布、フィルター又はメッシュ金網などを用いて濾過又は圧搾を行う。この場合、加圧して作業効率を高めてもよい。また、別法として、遠心分離(例えば、1000~20000rpm)により抽出物を得ることもできる。回収率を高めるために、この抽出・濾過工程を1~5回繰り返すことができる。
【0024】
有機溶媒で抽出を行う場合の溶媒量としては特に限定はされないが、例えば、原料1重量部(乾燥重量換算)に対し、溶媒0.5~100重量部、好ましくは5~20重量部を加え、水での抽出と同様にして抽出物を得ることができる。用いる溶媒としては上記した疎水性、親水性溶媒を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができ、含水溶媒も使用できる。抽出に用いる溶媒としては、有機溶媒が好ましく使用できる。これらの有機溶媒としては上記と同様のものを例示できるが、新規化合物の収率などの観点から、ヘキサンが好ましく利用できる。溶媒の除去は、濾過、遠心分離、蒸留などの常法に従って行うことができる。
【0025】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた抽出物に抽出溶媒を加えて液液分配し、溶媒抽出を行う工程である。
液液分配による抽出を行う場合の手法としては特に限定されず、目的などに応じて適宜、具体的な手法や抽出溶媒を選択可能である。例えば、水又は種々の有機溶媒を添加後、振盪した後に遠心分離し、新規化合物の含有する有機溶媒層を分取するなどの手法が挙げられる。使用する抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール及びこれらの含水アルコール、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル-tert-ブチルメチルエーテル、ヘキサン、並びにこれら2種以上の混液などが挙げられる。なかでも、含水メタノールとヘキサンとの混液を使用することが好ましい。
【0026】
(工程3)
工程3は、工程2で分取した有機溶媒層から、固相抽出を用いて抽出物を得る工程である。
固相抽出による精製を行う場合の手法としては特に限定されず、目的などに応じて適宜、具体的な手法や溶出液を選択可能である。例えば、簡易カラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。固相抽出用のカラムとしては、例えば、ODS(C18)固相抽出カラム、逆相-陰イオン交換ミックスモードポリマーの固相抽出カラム、逆相-陽イオン交換ミックスモードポリマーの固相抽出カラム、順相固相抽出カラムなどが挙げられ、これらは市販されているものを使用することができる。充填剤の分離モードとしては特に限定されず、例えば、逆相、順相、分配、吸着、イオン交換、サイズ排除、アフィニティーなどが挙げられる。これらの分離モードは単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いることもできる。なかでも、逆相分離においてODS(C18)固相抽出カラムを用いることが好ましい。使用できる溶出液としては、固相抽出に一般的に用いることのできる溶媒を用いることができ、特に限定されないが、メタノール、エタノール、水又はその混液などが挙げられる。新規化合物の収率、純度などの観点からエタノール水又はメタノール水が好ましく、メタノール水がより好ましい。これら含水アルコールのアルコール濃度としては特に限定されないが、例えば、20~100質量%である。このアルコール濃度の下限値としては、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。このアルコール濃度の上限値としては、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。なお、溶出液を流す前に、カラムを湿らせ、活性化するためのコンディショニング液や夾雑物を洗い流すための洗浄液を適宜選択し、用いることができる。
【0027】
(工程4)
工程4は、工程3で得られた抽出物から液体クロマトグラフィーを用いて新規化合物を分離・精製する工程である。
さらに新規化合物の純度の高いTGR5活性化剤を精製する場合には、液体クロマトグラフィーを用いて分離・精製してもよい。この液体クロマトグラフィーによる精製を行う手法としては特に限定されず、所望の純度、目的などに応じて適宜、具体的な手法や移動相を選択することができる。用いるカラムの充填材としては、例えば、シリカゲルやポリマーゲルが挙げられる。シリカゲルとしては、オクタデシル化シリカゲル、オクチル化シリカゲル、フェニル化シリカゲル、ジオール化シリカゲル、アミノ化シリカゲル、シアノ化シリカゲルのシリカゲルなどが挙げられるが、なかでも、オクタデシルシリル化シリカゲルを充填剤とした、逆相ODS(C18)カラムが好ましく利用できる。用いる検出器としては特に限定されないが、例えば、紫外可視分光検出器又は多波長検出器が挙げられる。その場合の測定波長は特に限定されないが、195~210nmが好ましく使用できる。また、カラム温度は特に限定されないが、25~60℃付近の一定温度が好ましく、30~55℃付近の一定温度がより好ましい。さらに、用いられる移動相は特に限定されないが、アセトニトリル、ギ酸、メタノール、エタノール、水又はその混液などが挙げられる。なかでもギ酸とアセトニトリルの混液が好ましく使用できる。この場合の流量としては0.3~6.0mL/minが好ましく使用できる。また、移動相には必要に応じてグラジエントをかけてもよい。
【0028】
なお、本発明のTGR5活性化剤には、新規化合物の他、適宜、使用目的によりその他の成分が配合されていてもよい。例えば、その他の有効成分、賦形剤、結合剤、崩壊剤、着色剤、潤沢剤、懸濁剤、分散剤、乳化剤、希釈剤、還元剤、呈味料(甘味料、酸味料及び苦味料など)、保存料、増粘安定剤、発色剤、漂白剤、抗菌剤、防菌防黴剤、ガムベース、酵素、光沢剤、強化剤、香料などが挙げられる。
【0029】
本発明のTGR5活性化剤における新規化合物の含有量としては特に限定されず、TGR5活性化剤の用途、目的、剤型などによって変更可能であるが、例えば、0.0005~95重量%である。新規化合物の含有量の下限値としては、好ましくは0.001重量%以上であり、より好ましくは0.04重量%以上である。新規化合物の含有量の上限値としては、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下である。
【0030】
[GLP分泌促進剤]
本発明のGLP分泌促進剤は、TGR5活性化作用を有する、前記の新規化合物を含有することを特徴とする。
本発明によりTGR5の活性化を介してGLPの分泌を促進することができ、応用範囲の広い新規のGLPの分泌促進剤を効率的に提供することができる。なお、GLP分泌促進剤を構成する新規化合物及びこれら化合物関するニンジン抽出物、GLP分泌促進剤の製造方法などについては、上記本発明のTGR5と同様のものであってもよい。
【0031】
GLPは、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンであるインクレチンの1種であり、TGR5の活性化により小腸などにおいて分泌される。TGR5の活性化により分泌されるGLPとしては、GLP-1、GLP-2が挙げられる。GLP-1の機能としては、肥満抑制、糖代謝改善、血糖降下、糖化予防・改善などが挙げられる。GLP-2の機能としては、腸管機能の恒常性の維持、腸管吸収及び栄養素の同化の増大、抗炎症活性、消化管粘膜の治癒及び修復、腸透過性の低下、及び腸間膜血流の増大などが挙げられる。
これらのことから、本発明のGLP分泌促進剤により、糖代謝改善、血糖降下、糖化予防・改善、肥満抑制、腸管吸収及び栄養素の同化の増大、抗炎症活性、消化管粘膜の治癒及び修復、腸透過性の低下、及び腸間膜血流の増大などの効果を得ることができる。本発明のGLP分泌促進剤は、特にGLP-1の分泌を介して、2型糖尿病への効果を得ることができる。
【0032】
[TGR5活性化作用を有する化合物及びTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤の用途、剤型]
本発明のTGR5活性化作用を有する化合物及びTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤は、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に使用することができる。
【0033】
上記したように本発明のTGR5活性化作用を有する化合物及びTGR5活性化剤は、TGR5の活性化を介して、肥満抑制、糖代謝改善、血糖降下、糖化予防・改善、脂質代謝改善、筋合成促進、フレイル予防など、効果を発揮するため、TGR5活性化剤を含む製剤は、以下の用途の剤として用いることができる。
(a)肥満抑制剤:主に骨格筋におけるエネルギー産生を介して肥満を抑制する剤。
(b)血糖降下剤:糖の細胞内への取り込みを増加させ、血糖値を降下させる剤。
(c)糖代謝改善剤:糖の取り込み、骨格筋におけるエネルギー産生などを介して生体の糖代謝の恒常性を維持し改善するための剤。
(d)糖化予防・改善剤:生体内でタンパク質と余分な糖が結びついてタンパク質が変性、劣化して、老化物質であるAGEs(糖化最終生成物)を生成することを予防し、生体の環境を改善する剤。
(e)脂質代謝改善剤:骨格筋におけるβ酸化などの脂質代謝を改善する剤。
(f)筋合成促進剤:筋細胞の分化と筋肥大を促進する剤。
(g)フレイル予防剤:筋細胞の分化と筋肥大を促進することにより、高齢化などによる身体の虚弱(フレイル)を予防する剤。
(h)消化管粘膜の治癒及び修復剤とは、消化管の粘膜細胞の増殖を促進して粘膜の損傷を治癒、修復する剤である。
(i)腸透過性の改善剤:腸管の吸収能を改善する剤である。
【0034】
また、上記したように本発明のTGR5活性化作用を有する化合物及びGLP分泌促進剤は、GLPの分泌促進を介して、糖代謝改善、血糖降下、糖化予防・改善、肥満抑制、腸管吸収及び栄養素の同化の増大、抗炎症活性、消化管粘膜の治癒及び修復、腸透過性の低下、及び腸間膜血流の増大などの効果を発揮するため、TGR5活性化作用を有する化合物及びGLP分泌促進剤を含む製剤は、上記した肥満抑制剤、糖代謝改善剤、血糖降下剤、糖化予防・改善剤、消化管粘膜の治癒及び修復剤、及び腸透過性の改善剤などとして用いることができる。
【0035】
食品としては、通常の食品の他、栄養補助食品、機能性食品、健康食品、特定保健用食品などに上記の効果を目的として本発明のTGR5活性化作用を有する化合物及びTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤を添加して用いることができる。
【0036】
TGR5活性化作用を有する化合物及びTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤の形態は、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠、チュアブル錠などの錠剤、丸剤、散剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤などの液剤、トローチ剤、加工食品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品など)、サプリメント、病者向け食品(病院食、病人食、介護食など)、菓子、油脂類、乳製品、レトルト食品、レンジ食品、冷凍食品、調味料、健康補助食品、飲料、栄養ドリンクなどが挙げられる。
【実施例0037】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【0038】
実験1.TGR5活性化作用を有する化合物の同定及びTGR5活性化の確認
TGR5活性化作用を有する化合物の単離、同定及びTGR5の活性化を評価するために、以下の手順に従いTGR5活性化作用を有する化合物を単離・同定し、さらに、ルシフェラーゼレポーターアッセイを構築し、TGR5の活性化をルシフェラーゼ活性による発光を用いて評価した。
【0039】
<TGR5活性化作用を有する化合物の単離>
以下の手順によりノラニンジン種子抽出物よりTGR5活性化作用を有する化合物I、化合物IIを単離・精製しTGR5アゴニスト活性の評価に供した。
【0040】
野生種のニンジン種子(ノラニンジン)はエイチホルスタイン社より入手した。
ノラニンジン種子の粉砕物(ミキサーにて粉砕)100gをヘキサン1000mLに懸濁後、マグネットスターラーを用いて攪拌し、室温で3日間抽出を行った。その後、不溶物を濾紙にて吸引除去し、濾液はロータリーエバポレーターを用いて溶媒除去した。その結果、ノラニンジン種子抽出物として8gを得た。
【0041】
得られたノラニンジン種子抽出物8gに90%メタノール1000mL、ヘキサン1000mLを加えて液液分配を行った。TGR5アゴニスト活性が認められた90%メタノール層からロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、乾燥物1.33gの90%メタノール層画分を得た。得られた乾燥物1.33gのうち1gの90%メタノール層画分を固相抽出カートリッジ(Hypersep C18(10g):Thermo Fisher Scientific社製)に添加し、30%、40%、50%メタノール溶液を順次に流し洗浄後、60%メタノール溶液にて溶出させ、溶出液をロータリーエバポレーターにて溶媒除去し、乾燥物109.6mgを得た。次に、得られた溶出物を高速液体クロマトグラフィーにて以下の条件により、9画分を分取した。
【0042】
・分取HPLCの条件
移動相: A液0.1%ギ酸水溶液(48):B液アセトニトリル(52)
流速: 5mL/min
カラム: CapcellpakC18UG120 C18 10×150mm 5μm
カラム温度:40℃
検出: UV210nm(UV)
図1に得られたクロマトグラムを示した。
【0043】
次に、得られた9画分のうち、TGR5アゴニスト活性が認められた分画物5及び分画物8をロータリーエバポレーターにて溶媒除去し、それぞれ乾燥物14.3mg(分画物5)及び3.94mg(分画物8)を得た。この分画物5については単離するため、更に以下の条件にて分取した。
【0044】
・分取HPLCの条件
移動相: A液0.1%ギ酸水溶液(49):B液アセトニトリル(51)
流速: 5mL/min
カラム: CapcellpakC18UG120 C18 10×150mm 5μm
カラム温度:40℃
検出: UV210nm(UV)
図2に分画物5の単離後のクロマトグラムを示した。
分取した分画物をロータリーエバポレーターにて溶媒除去し、乾燥物5.2mgを得た。
単離した分画物5(化合物I)、分画物8(化合物II)について、以下の手法を用いてそれぞれ構造解析を実施した。
【0045】
<化合物I及び化合物IIの構造決定>
(1)使用装置
旋光度はP-2200旋光計(日本分光社製)を用いて測定した。NMRスペクトル(H、13C NMR、H―H COSY、HMQC、HMBC)は300 MHz Bruker Avance II NMR装置(ブルカー社製)により測定した。ケミカルシフトは溶媒シグナルをリファレンスとした(クロロホルム-d:δH/δC 7.26/77.0ppm)。高分解能マススペクトルはThermo Scientific LTQ Orbitrap XL質量分析装置(Thermo Fisher Scientific社製)により測定した。X線回折測定は単結晶X線回折装置(Synergy-R、線源:Cu-Kα□λ=1.5418Å、リガク社製)を使用し、100Kで測定を実施した。
(2)結晶スポンジ法による化合物I及び化合物IIの分析
Chem.Eur.J.2017,23,15035-15040に記載の方法に従って、塩化亜鉛(富士フイルム和光純薬社製)と2,4,6-tris(4-pyridyl)-1,3,5-triazine(tpt、東京化成工業社製)から結晶スポンジ([(ZnCl(tpt)X(n-hexane)])を作製した。結晶スポンジは使用前までn-ヘキサン中で保存し、使用直前にn-オクタンに溶媒置換してから実験に用いた。結晶スポンジをn-オクタン45μLとともにV底型マイクロバイアルに移し、そこに50μgの化合物Iを含む1,2―ジメトキシエタン溶液5μLを添加した。マイクロバイアルを密封し、100℃で6日間インキュベートした。その後、結晶スポンジをマイクロバイアルから取り出し、単結晶X線回折装置で分析した。化合物IIについても同様に分析した。得られた回折データの解析は、ソフトウェア(CrysAlisPro、リガク社製)を用いて積分及び吸収補正を行った後、SHELX T(Acta Crystallogr.Sect.A2015,71,3-8)により初期構造を取得し、SHELX L(Acta Crystallogr.Sect.A2015,71,3-8)を用いて精密化した。
【0046】
(2)解析結果
(化合物I)
化合物Iは無色オイル状で、負の旋光度を示した([α]20 -69.2(c0.3,CHCl))。高分解能マススペクトルデータから、分子式はC2438であると示唆された(HRESIMS(positive)m/z429.2621[M+Na](calcd for C2438Na,429.2611))。さらに、一次元及び二次元NMRスペクトルデータの解析及び後述する結晶スポンジ法による解析結果から、下記の通り平面構造を決定した。H及び13C NMRの帰属結果を表1に示す。
【0047】
【化5】
【0048】
【表1】
【0049】
化合物Iを結晶スポンジにソーキングしたところ、空間群がキラルな空間群であるC2へと変化し、非対称単位あたり2分子の化合物Iが観測された(図3)。結晶データを表2に示す。図4(A)には観測された化合物I(図3のゲスト1)のみピックアップして示した。図4(B)に示すように化合物Iは6,8,11―trihydroxygermacra―1(10)E,4E‐dieneの6位水酸基にisobutyryl基が、8位水酸基にtigloyl基がそれぞれエステル結合した構造であり、6位、7位、8位の絶対立体配置はそれぞれS、R、Sであることが明らかとなった。以上より、化合物Iを(6S,7R,8S)-6-O―isobutyryl-8-O―tigloyl―6,8,11-trihydroxygermacra‐1(10)E,4E‐dieneと同定した。この化合物Iは新規化合物であった。
【0050】
【表2】
【0051】
(化合物II)
化合物IIは無色オイル状で、負の旋光度を示した([α]20 -42.3(c0.4,CHCl))。高分解能マススペクトルデータから、分子式はC2540であると示唆された(HRESIMS(positive)m/z443.2782(M+Na)(calcd for C2540Na,443.2767))。さらに、一次元及び二次元NMRスペクトルデータの解析及び後述する結晶スポンジ法による解析結果から、以下に示す平面構造を決定した。H及び13C NMRの帰属結果を表3に示す。
【0052】
【化6】
【0053】
【表3】
【0054】
化合物IIを結晶スポンジにソーキングしたところ、空間群がキラルな空間群であるC2へと変化し、非対称単位あたり2分子の化合物IIが観測された(図5)。結晶データを表4に示す。図6(A)には観測された化合物II(図5のゲスト1)のみピックアップして示した。図6(B)に示すように化合物IIは6,8,11―trihydroxygermacra―1(10)E,4E‐dieneの6位水酸基に2-methylbutyryl基が、8位水酸基にtigloyl基がそれぞれエステル結合した構造であり、6位、7位、8位の絶対立体配置はそれぞれS、R、Sであることが明らかとなった。以上より、化合物IIを(6S,7R,8S)-6-O―2-methylbutyryl-8-O―tigloyl―6,8,11‐trihydroxygermacra―1(10)E,4E‐dieneと同定した。この化合物IIは新規化合物であった。
【0055】
【表4】
【0056】
<TGR5アゴニスト活性の評価>
以下の方法により、ノラニンジン種子抽出物から単離・同定した化合物I、化合物IIについてTGR5アゴニスト活性を評価した。
【0057】
(試薬、プラスミドベクターの入手)
ヒトTGR5のN末端にヘマグルチニン(HA)エピトープタグを3個連結して付与するよう設計されたcDNAを挿入したpcDNA3.1発現ベクター(pcDNA3.1 HA-TGR5)は、GenScrip社より入手した。cAMP応答配列(CRE)をプロモーター領域に連結するcAMP依存ルシフェラーゼレポーターベクター(pGL4.29)はプロメガ社より入手した。
【0058】
(ルシフェラーゼレポーターアッセイ系の構築)
以下の手順で、実験に使用するHEK/Luc安定発現細胞、及びHEK/HA-TGR5-Luc安定発現細胞を作製した。
10%FBS含有DMEM(gibco社製)にて培養したヒト腎臓由来HEK293細胞(ATCC)に、pGL4.29をFugene HD(プロメガ)を用いてトランスフェクションし、hygromycin B耐性を獲得した細胞をHEK/Luc安定発現細胞とした。次に、樹立したHEK/Luc安定発現細胞を用いてpcDNA3.1 HA-TGR5をトランスフェクションし、G418及びhygromycin B耐性となった細胞をHEK/HA-TGR5-Luc安定発現細胞として実験に供した。なお、抗生物質選択に用いたG418-sulfate、hygromycin Bは富士フイルム和光純薬より入手した。
【0059】
(cAMP依存ルシフェラーゼレポーターアッセイ)
透明底96ウェル白プレート(コーニング社製)に2×10細胞となるようHEK/HA-TGR5-Luc安定発現細胞を播種し、24時間後、化合物I及び化合物IIを各濃度にて添加した。被験物質の溶解に用いたDimethyl sulfoxide(DMSO)0.1%はコントロールに用いた。37℃、5時間、各被験物質を反応させた細胞は、Bright-Glo(登録商標)Luciferase Assay System(プロメガ社製)を用いて発光させ、その強度についてルミノメーター(テカン社製)を用いて検出し、ルシフェラーゼ活性とした。本アッセイは細胞内cAMP濃度の上昇をレポーター遺伝子であるルシフェラーゼの活性により評価する方法である。また、同様の操作をTGR5の発現がないHEK/Luc安定発現細胞でも行い、被験物質のTGR5受容体に対する反応特異性を検証した。実験の結果を化合物Iについては図7に、化合物IIについては図8示す。
【0060】
(実験結果)
ルシフェラーゼレポーターアッセイを実施した結果、新規な化合物である、化合物I及び化合物IIにTGR5アゴニスト活性を見出した。図7図8が示すように、化合物I及び化合物IIの添加により濃度依存的にルシフェラーゼ活性が高まることを示している。すなわち化合物I及び化合物IIの刺激によりHEK/HA-TGR5安定発現細胞においてcAMP濃度上昇が引き起こされていることを示している。
【0061】
また、これらの作用はTGR5を発現しないHEK/Luc安定発現細胞では見られなかったことから、TGR5受容体を介したアゴニスト作用であることが明らかとなった。
【0062】
さらに、これら化合物I及び化合物IIが有するTGR5受容体アゴニスト作用から、同時に化合物I及び化合物IIが、腸管L細胞からのGLP―1分泌を亢進させる作用を併せ持つことが容易に想定された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、TGR5活性化作用を有する新規化合物、これら新規化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤を提供できる。また、TGR5活性化作用を有する新規化合物、該化合物を含有するTGR5活性化剤、GLP分泌促進剤を適用した医薬品、医薬部外品、化粧品、化粧料、飲む化粧料、飲む化粧品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品など)、サプリメント、飼料などを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8