(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079518
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】耐蝕性部材および耐蝕性部材構造ならびにそれらを用いた二酸化炭素回収方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20240604BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20240604BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20240604BHJP
C23F 13/16 20060101ALI20240604BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20240604BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240604BHJP
E01B 5/02 20060101ALI20240604BHJP
E01B 19/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C23F11/00 H
C23F11/00 A
C23F13/02 A
C23F13/02 L
C23F13/02 K
C23F13/16
B32B15/01 C
B32B15/01 B
B01D53/14 100
E01B5/02
E01B19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022201633
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】517337002
【氏名又は名称】CIMSジャパン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】千々松 芳弘
【テーマコード(参考)】
4D020
4F100
4K044
4K060
4K062
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA02
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4K062CA07
4K062FA02
4K062FA04
4K062FA08
4K062FA18
(57)【要約】
【課題】鉄鋼製の母材に対して溶射皮膜を形成して構成された各種耐蝕性部材のさらなる耐蝕性の向上を図ることができ、ひいては二酸化炭素削減、地球の環境改善に貢献することができる耐蝕性部材および耐蝕性部材構造を提供する。
【解決手段】
鉄鋼製の母材11の表面の少なくとも一部分に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛から選択される1種以上の溶射皮膜12が形成されてなり、前記溶射皮膜12のさらに表面に、バサルト層15が設けられてなる耐蝕性部材1である。バサルト層15のさらに表面に、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含む緩衝皮膜16が設けられてなる耐蝕性部材1であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼製の母材の表面の少なくとも一部分に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛から選択される1種以上の溶射金属が溶射され、当該溶射金属の空隙に封孔剤を充填して溶射皮膜が形成されてなり、
前記溶射皮膜のさらに表面に、バサルト層が設けられてなることを特徴とする耐蝕性部材。
【請求項2】
バサルト層は、溶射金属の空隙に充填される封孔剤を介して接着されてなる請求項1に記載の耐蝕性部材。
【請求項3】
バサルト層は、繊維状に形成されてなり、少なくとも溶射皮膜と接する部分が溶射皮膜の表面に接着されてなる接着部分と、繊維状のままの非接着部分とからなる請求項1に記載の耐蝕性部材。
【請求項4】
バサルト層は、溶射皮膜の表面の一部分に設けられたものである請求項1に記載の耐蝕性部材。
【請求項5】
バサルト層のさらに表面に、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含む緩衝皮膜が設けられてなる請求項1に記載の耐蝕性部材。
【請求項6】
金属製の母材の表面に、バサルト層が設けられ、このバサルト層のさらに表面に、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含む緩衝皮膜が設けられてなることを特徴とする耐蝕性部材。
【請求項7】
緩衝皮膜は、少なくとも水酸化カルシウムを含む漆喰を塗布して形成されたものである請求項5または6に記載の耐蝕性部材。
【請求項8】
緩衝皮膜は、炭酸カルシウムの原料を、再生可能エネルギーを使用して焼成することで酸化カルシウムを製造し、この焼成の際に放出される二酸化炭素を回収または使用するとともに、この焼成によって得られた酸化カルシウムを消化して水酸化カルシウムを得、当該水酸化カルシウムを、大気中で暴露して二酸化炭素を吸収させ、これによって再度、炭酸カルシウムを得、このようにして得た水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを用いたものである請求項5または6に記載の耐蝕性部材。
【請求項9】
緩衝皮膜は、酸化チタンを含むものである請求項7に記載の耐蝕性部材。
【請求項10】
緩衝皮膜は、バサルト層の表面の一部分に設けられたものである請求項5または6に記載の耐蝕性部材。
【請求項11】
母材が鉄道レールとなされ、鉄道車両の車輪と接触する接触部を除く、当該鉄道レールの非接触部に溶射皮膜が形成されてなる請求項1ないし6の何れか一に記載の耐蝕性部材。
【請求項12】
母材が鋼製の構造材となされた請求項1ないし6の何れか一に記載の耐蝕性部材。
【請求項13】
母材が鋼製の管となされた請求項1ないし6の何れか一に記載の耐蝕性部材。
【請求項14】
母材が鋼製の板となされた請求項1ないし6の何れか一に記載の耐蝕性部材。
【請求項15】
母材がコンクリート中の配筋を構成するための鉄筋となされた請求項1ないし4の何れか一に記載の耐蝕性部材。
【請求項16】
路線上の道床に敷設されたバラスト上に枕木が並べられ、当該枕木上に、請求項11に記載の耐蝕性部材が固定されてなる耐蝕性部材構造。
【請求項17】
大気中、海中、水中に暴露するようになされた構造物において、当該構造物を構成する構造材として、請求項12に記載の耐蝕性部材を用いて構成されてなる耐蝕性部材構造。
【請求項18】
流体を流す配管を構成する配管構造において、当該配管として、請求項13に記載の耐蝕性部材を用いて構成されてなる耐蝕性部材構造。
【請求項19】
被貯蔵物を貯蔵するタンクを構成するタンク構造において、当該タンクとして、請求項14に記載の耐蝕性部材を用いて構成されてなる耐蝕性部材構造。
【請求項20】
鉄筋コンクリート構造の構造物において、当該構造物のコンクリート中の配筋として、請求項15に記載の耐蝕性部材を用いて構成されてなる耐蝕性部材構造。
【請求項21】
請求項5または6に記載の耐蝕性部材を、当該耐蝕性部材の調製皮膜が降雨時に濡れるように屋外に設け、大気中、および降雨時の雨水に含まれる二酸化炭素を、緩衝皮膜の水酸化カルシウムで吸収して炭酸カルシウムに変換するとともに、同雨水に含まれる二酸化炭素を緩衝皮膜の炭酸カルシウムで吸収して炭酸水素カルシウムに変換し、この炭酸水素カルシウムを地盤または海中に浸透吸収させさる二酸化炭素回収方法。
【請求項22】
請求項1ないし6の何れか一に記載の耐蝕性部材を、当該耐蝕性部材が降雨時に濡れるように屋外に設けるとともに、その周囲に水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを設け、大気中、および降雨時の雨水に含まれる二酸化炭素を、緩衝皮膜の水酸化カルシウムおよび/または耐蝕性部材の周囲に設けた水酸化カルシウムで吸収して炭酸カルシウムに変換するとともに、同雨水に含まれる二酸化炭素を、調整皮膜の炭酸カルシウムおよび/または耐蝕性部材の周囲に設けた炭酸カルシウムで吸収して炭酸水素カルシウムに変換し、この炭酸水素カルシウムを地盤または海中に浸透吸収させさる二酸化炭素回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製の母材によって構成された耐蝕性部材と、当該耐蝕性部材による耐蝕性部材構造と、それらを用いた二酸化炭素回収方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道レールは、鉄鋼材で構成されており、屋外の風雨に暴露された状態で敷設されているため、錆びやすくなっている。特に、車輪と接することのない鉄道レールの底部および腹部は錆びの進行が早くなっている。
【0003】
そこで、従来より、このような鉄道レールの錆びの進行を遅くするための技術として、車輪と接することのない鉄道レールの底部および腹部の表面に、鉄道レールの鉄鋼材を構成する鉄よりもイオン化傾向の高いアルミニウム、マグネシウム、亜鉛などの金属を溶射して溶射皮膜を形成することで、これら溶射皮膜による犠牲防蝕効果によって、鉄の耐蝕性を高めることが行われていた(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
このような溶射皮膜の形成によって、鉄鋼製の母材の耐蝕性を高めた耐蝕性部材は、鉄道レールに限ったものではなく、社会的基盤を支えるインフラストラクチャー施設(以下「インフラ施設」という。)である橋梁、橋脚、鉄塔、鉄柱、配管、タンクなどの各種の鋼製の母材に対しても溶射皮膜を形成することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-100801号公報
【特許文献2】特許第5725497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の鉄道レールのように、鉄道レールの底部および腹部の表面に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛などの溶射皮膜を形成しても、腐蝕の進行が完全に止まったわけではなく、溶射皮膜の腐蝕は経時的に進むこととなる。特に、トンネル内等のように、風通しが悪く、日光の照射も得られず、雨水によって湿潤状態になってしまった場合に乾き難くなるような場所の鉄道レールは、溶射皮膜自体の腐蝕の進行が早くなり易いため、完全にメンテナンスフリーというわけにはいかない。したがって、定期的に鉄道レールの交換作業が必要となるが、このような交換作業は、終電から始発までの極限られた時間での深夜作業となるため、人件費が嵩むこととなる。
【0007】
また、鉄道が電車の場合、鉄道レール上に高い電場があり、鉄道レールが敷設された地面との間の電位差が大きくなり腐蝕が進行し易い環境が形成されているため、溶射皮膜を形成したとしても腐蝕を止めることはできない。特に近年では二酸化炭素排出量の増大で雨水に溶け込んだ二酸化炭素の量が増えて雨水の酸性度が上昇していることからも、さらに腐蝕が進行し易い環境となってしまう。
【0008】
さらに、鉄道が機関車の場合、機関から排気される排気ガスにより鉄道レールが敷設された地面の酸性度を上昇させてしまうこととなるため、やはり腐蝕が進行し易い環境を作ってしまうこととなる。
【0009】
このような腐蝕が進行し易い環境の課題は、上記した鉄鋼製の鉄道レールに限られたものではなく、例えば、配管や橋梁や橋脚や鉄塔など、屋外に設置される耐蝕性部材の場合のように、他のインフラ施設に採用されている鋼製の母材に対して溶射皮膜を形成した耐蝕性部材でも同様である。これらの中でも特に、鋼製の母材が配管の場合、配管内を流れる流体と配管外との間に温度差や温度変化を生じたりするので、電位差を生じ易く、腐蝕が進行し易い環境が作られてしまう。また、海中や水中に暴露するような屋外構造物の場合も、海水や水の影響を受けるので腐蝕が進行し易い環境が作られてしまう。大気中に暴露するような屋外構造物であっても、海上や水上であったり、海辺や水辺に近い屋外構造物であったりする場合には、同様に腐蝕が進行し易い環境が作られてしまう。高い電場がある電力管理塔や、アルカリ性であるコンクリート中に埋設される配筋なども同様に腐蝕が進行し易い環境が作られてしまう。
【0010】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、鋼製の母材によって構成された各種耐蝕性部材のさらなる耐蝕性の向上を図ることができ、ひいては二酸化炭素削減、地球の環境改善に貢献することができる耐蝕性部材および耐蝕性部材構造ならびにこれらを用いた二酸化炭素回収方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の耐蝕性部材は、鉄鋼製の母材の表面の少なくとも一部分に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛から選択される1種以上の溶射金属が溶射され、当該溶射金属の空隙に封孔剤を充填して溶射皮膜が形成されてなり、前記溶射皮膜のさらに表面に、バサルト層が設けられてなるものである。
【0012】
上記耐蝕性部材において、バサルト層は、溶射金属の空隙に充填される封孔剤を介して接着されてなるものであってもよい。
【0013】
上記耐蝕性部材において、バサルト層は、繊維状に形成されてなり、少なくとも溶射皮膜と接する部分が溶射皮膜の表面に接着されてなる接着部分と、繊維状のままの非接着部分とからなるものであってもよい。
【0014】
上記耐蝕性部材において、バサルト層は、溶射皮膜の表面の一部分に設けられたものであってもよい。
【0015】
上記耐蝕性部材において、バサルト層のさらに表面に、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含む緩衝皮膜が設けられてなるものであってもよい。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の耐蝕性部材は、金属製の母材の表面に、バサルト層が設けられ、このバサルト層のさらに表面に、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含む緩衝皮膜が設けられてなるものである。
【0017】
上記耐蝕性部材において、緩衝皮膜は、少なくとも水酸化カルシウムを含む漆喰を塗布して形成されたものであってもよい。
【0018】
上記耐蝕性部材において、緩衝皮膜は、炭酸カルシウムの原料を、再生可能エネルギーを使用して焼成することで酸化カルシウムを製造し、この焼成の際に放出される二酸化炭素を回収または使用するとともに、この焼成によって得られた酸化カルシウムを消化して水酸化カルシウムを得、当該水酸化カルシウムを、大気中で暴露して二酸化炭素を吸収させ、これによって再度、炭酸カルシウムを得、このようにして得た水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを用いたものであってもよい。
【0019】
上記耐蝕性部材において、緩衝皮膜は、酸化チタンを含むものであってもよい。
【0020】
上記耐蝕性部材において、緩衝皮膜は、バサルト層の表面の一部分に設けられたものであってもよい。
【0021】
上記耐蝕性部材は、母材が鉄道レールとなされ、鉄道車両の車輪と接触する接触部を除く、当該鉄道レールの非接触部に溶射皮膜が形成されてなるもであってもよい。
【0022】
上記耐蝕性部材は、母材が鋼製の構造材となされたものであってもよい。
【0023】
上記耐蝕性部材は、母材が鋼製の管となされたものであってもよい。
【0024】
上記耐蝕性部材は、母材が鋼製の板となされたものであってもよい。
【0025】
上記耐蝕性部材は、母材がコンクリート中の配筋を構成するための鉄筋となされたものであってもよい。
【0026】
上記課題を解決するための本発明の耐蝕性部材構造は、路線上の道床に敷設されたバラスト上に枕木が並べられ、当該枕木上に、上記の母材を鉄道レールとした耐蝕性部材が固定されてなるものである。
【0027】
上記課題を解決するための本発明の耐蝕性部材構造は、大気中、海中、水中に暴露するようになされた構造物において、当該構造物を構成する構造材として、上記の耐蝕性部材を用いて構成されてなるものである。
【0028】
上記課題を解決するための本発明の耐蝕性部材構造は、流体を流す配管を構成する配管構造において、当該配管として、上記の耐蝕性部材を用いてなるものである。
【0029】
上記課題を解決するための本発明の耐蝕性部材構造は、被貯蔵物を貯蔵するタンクを構成するタンク構造において、当該タンクとして、上記の耐蝕性部材を用いてなるものである。
【0030】
上記課題を解決するための本発明の耐蝕性部材構造は、鉄筋コンクリート構造の構造物において、当該構造物のコンクリート中の配筋として、上記の母材を鉄筋とした耐蝕性部材を用いてなるものである。
【0031】
上記課題を解決するための本発明の二酸化炭素回収方法は、上記耐蝕性部材を、当該耐蝕性部材の調製皮膜が降雨時に濡れるように屋外に設け、大気中、および降雨時の雨水に含まれる二酸化炭素を、緩衝皮膜の水酸化カルシウムで吸収して炭酸カルシウムに変換するとともに、同雨水に含まれる二酸化炭素を緩衝皮膜の炭酸カルシウムで吸収して炭酸水素カルシウムに変換し、この炭酸水素カルシウムを地盤または海中に浸透吸収させるものである。
【0032】
上記課題を解決するための本発明の二酸化炭素回収方法は、上記耐蝕性部材を、当該耐蝕性部材が降雨時に濡れるように屋外に設けるとともに、その周囲に水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを設け、大気中、および降雨時の雨水に含まれる二酸化炭素を、緩衝皮膜の水酸化カルシウムおよび/または耐蝕性部材の周囲に設けた水酸化カルシウムで吸収して炭酸カルシウムに変換するとともに、同雨水に含まれる二酸化炭素を、調整皮膜の炭酸カルシウムおよび/または耐蝕性部材の周囲に設けた炭酸カルシウムで吸収して炭酸水素カルシウムに変換し、この炭酸水素カルシウムを地盤または海中に浸透吸収させさるものである。
【発明の効果】
【0033】
以上述べたように、本発明によると、鉄鋼製の母材の表面の少なくとも一部分に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛から選択される1種以上の溶射金属を溶射し、当該溶射金属の空隙に封孔剤を充填して溶射皮膜を形成し、前記溶射皮膜のさらに表面に、バサルト層を設けているので、バサルト層による絶縁性、耐酸性、耐アルカリ性により、酸環境下やアルカリ環境下においても、優れた耐蝕性能を発揮することができる。万が一、バサルト層が破壊されても、その次に溶射皮膜による犠牲防蝕効果が発揮され始めることとなるため、何れにせよ優れた長期防蝕効果を発揮させることができることとなる。また、バサルト層を設けたことにより、バサルト層のさらに表面に、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含む緩衝皮膜を設けることができることとなる。この緩衝皮膜は、空気中の二酸化炭素や近年の二酸化炭素を含んだ酸性雨に対する緩衝作用を発揮して、これらの二酸化炭素を吸収して炭酸水素カルシウムに変換し、この炭酸水素カルシウムを地盤または海中に浸透吸収させさることで、吸収した二酸化炭素を鉱物化して地殻や海に固定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】 本発明に係る耐蝕性部材の全体構成の概略を示す部分拡大断面図である。
【
図2】 本発明に係る他の耐蝕性部材の全体構成の概略を示す部分拡大断面図である。
【
図3】 本発明に係るさらに他の耐蝕性部材の全体構成の概略を示す部分拡大断面図である。
【
図4】 (a)は本発明に係る耐蝕性部材構造である鉄道レール構造を示す断面図、(b)は同鉄道レール構造に使用する耐蝕性部材である鉄道レールを示す断面図である。
【
図5】 (a)は本発明に係る耐蝕性部材構造である鉄塔を示す斜視図、(b)は同鉄塔のコンクリート製基礎で固めた基端部を示す部分拡大図、(c)は同基端部の部分断面図である。
【
図6】 本発明に係る耐蝕性部材構造であるタンク構造および配管構造を示す側面図である。
【
図7】 本発明に係る耐蝕性部材構造である鉄筋コンクリート構造を示す部分破断斜視図である。
【
図8】 本発明に係る耐蝕性部材に使用される水酸化カルシウムおよび/または炭酸水素カルシウムを製造する際に使用する焼成装置の全体構成の概略を示す構成図である。
【
図9】 本発明に係る耐蝕性部材に使用される水酸化カルシウムおよび/または炭酸水素カルシウムを製造する際に使用する他の焼成装置の全体構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0036】
図1ないし
図3は、本発明に係る耐蝕性部材1を示し、
図4ないし
図7は同耐蝕性部材1を用いた耐蝕性部材構造を示している。この耐蝕性部材1は、金属製の母材11の表面の少なくとも一部分に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛から選択される1種以上の溶射金属13が溶射され、当該溶射金属13の空隙に封孔剤14を充填して溶射皮膜12が形成されてなり、前記溶射皮膜12のさらに表面に、バサルト層15が設けられてなるものである。
【0037】
図1に示すように、前記耐蝕性部材1に用いる前記母材11としては、金属製のものが用いられる。中でも、溶射に一般的に使用される、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛から選択される1種以上の金属13を溶射可能で、かつ、これら金属13よりもイオン化傾向が低く、溶射後にこれら溶射した金属13による犠牲防錆効果を母材11が得ることができる金属素材のものであれば、特に限定されるものではなく、好適には鉄鋼製のものが使用される。この母材11としては、構造物の荷重を支持するための鋼材や鋼管等の構造材であってもよいし、流体を流す配管を構成するための鋼管であってもよいし、タンクなどの構造物の壁面を構成するための鋼板であってもよいし、コンクリート中の骨組みを構成するための配筋であってもよいし、これら各種インフラ施設に使用する金属材料を、さらに好適に使用することができる。
【0038】
前記溶射皮膜12としては、前記した母材11の表面11aに、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛から選択される1種以上の金属13を溶射して構成される。具体的な溶射としては、亜鉛溶射、アルミニウム溶射、亜鉛・アルミニウム合金溶射、アルミニウム・マグネシウム合金溶射が挙げられる。溶射する金属13は、母材11の金属よりもイオン化傾向が高いものが選択される。溶射する母材11の表面11aは、溶射皮膜12の密着力強化のために、あらかじめブラスト処理されていることが好ましい。溶射皮膜12は、上記した金属13をさまざまな熱源により溶融軟化させ、この溶融軟化させた金属13の粒子を、母材11の表面11aに吹きつけて構成される。この吹きつけられた金属13の粒子は、瞬時に冷却されて固化し、溶射皮膜12となるが、固化した金属13の粒子が堆積することとなるので、溶射皮膜12中には、多くの空隙が形成されてしまう。したがって、溶射後に、この空隙を埋めるために封孔処理が行われる。この封孔処理は、溶射皮膜12の空隙に封孔剤14を充填し、硬化させることによって行われる。
【0039】
前記封孔剤14としては、溶射皮膜12の封孔処理に使用されている一般的な封孔剤14であれば特に限定されることなく使用することができる。その中でも、接着強度や機械的強度が高い点から、エポキシ樹脂系の封孔剤14を使用することが好ましい。この封孔剤14による封孔処理は、通常の封孔処理と同じように、溶射皮膜12の金属13の空隙に封孔剤14を充填するように塗り込むことによって行われる。このようにして構成される溶射皮膜12は、母材11の表面11aの全体を被覆するように構成されたものであってもよいし、鉄道レール2a(
図4参照)のように、車輪との接触があるような場合には、その接触箇所を除く一部分に構成されたものであってもよい。
【0040】
前記バサルト層15としては、前記した溶射皮膜12の表面に設けられる。このバサルト層15は、バサルトファイバー製の織布、不織布、チョップドストランド、またはバサルトファイバーの原料である玄武岩の粉体を、溶射皮膜12の表面に設けて構成される。この際、バサルト層15は、接着剤(図示省略)を介して溶射皮膜12の表面に貼設するものであってもよいし、溶射皮膜12を封孔処理する際の封孔剤14を余剰に塗布しておき、この封孔剤14を介して溶射皮膜12の表面に貼設するものであってもよいし、玄武岩の粉体を溶射して設けるものであってもよい。封孔剤14を利用してバサルト層15を貼設する場合、封孔剤14の乾燥時間とバサルト層15の貼設乾燥時間とを兼用することができることとなるため、効率的にバサルト層15を形成することができる。接着剤を介してバサルト層15を貼設する場合、接着剤としては、UV硬化型の接着剤を使用するものであってもよい。また、バサルト層15としてバサルトファイバーのチョップドストランドまたは粉体を使用する場合、接着剤と練り合わせてペースト状にしておき、このペーストを塗布乾燥させることによってバサルト層15を形成するものであってもよいし、封孔剤14にバサルトファイバーのチョップドストランドまたは粉体を練り合わせてペースト状にしておき、このペーストを塗布することによって、溶射皮膜12の封孔剤14の形成とバサルト層15の形成とを行うものであってもよい。
図1に示すように、このバサルト層15は、溶射皮膜12の空隙を埋める封孔剤14と同様に、バサルトファイバーの間隙を封孔剤14によって完全に埋めるように封孔処理するものであってもよいし、
図2に示すように、溶射皮膜12と接している部分のバサルト層15の部分のみを接着しておき、残りのバサルトファイバーの非接着部分15aがフリーの状態となるようにしたものであってもよい。フリーの状態となる非接着部分15aを形成した場合、このバサルト層15の上から設けられる他の層と、非接着部分15aとが絡みやすくなり、密着強度が得られることとなる。なお、フリーの状態となった非接着部分15aは、色々なバリエーションが考えられ、ブラシのように毛束が形成されたものであってもよいし、ループ状の編地が形成されたものであってもよいし、不織布のような不特定な絡み合った短繊維を毛羽立たせたものであってもよい。このバサルト層15の厚みとしては、特に限定されるものではないが、薄すぎると、バサルトファイバーによる耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等の各種効果がえられず、厚すぎると、効果が飽和して不経済になる。したがって、バサルト層15は、用途に応じて適宜決定した厚みで設けられる。
【0041】
このバサルト層15は、母材11に形成した溶射皮膜12の表面全体に形成するものであってもよいし、当該溶射皮膜12の一部分に形成するものであってもよい。例えば、母材11の表面全体に溶射皮膜12を形成しているような場合、バサルト層15は、溶射皮膜12を完全に被覆してしまって良い。この場合、バサルト層15は、その絶縁性によって、バサルト層15よりも外側と溶射皮膜12との間による電子のやり取りを完全に出来なくしてしまい、当該溶射皮膜12による犠牲防蝕効果を発揮できなくしてしまうが、さらにその内側に母材11が封鎖されているため、母材11が腐蝕することはない。万が一、バサルト層15が破壊されても、その次に溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が発揮され始めることとなるため、何れにせよ長期防蝕効果を発揮させることができることとなる。また、バサルト層15によって外部との間が絶縁されていてもその内側では母材11に対して溶射皮膜12の犠牲防蝕効果は発揮されているので、母材11が腐蝕することにはならない。
【0042】
また、母材11の表面に形成した溶射皮膜12が場所によって、当該溶射皮膜12の消耗に差を生じるような場合、具体的には溶射皮膜12の一部分に、水が浸かっているような場所、酸素と触れやすいような場所、電位差を生じ易いような場所、が存在するような場合、このような一部分に、部分的にバサルト層15を形成する、または、このような箇所のバサルト層15を、それ以外の箇所のバサルト層15よりも厚く形成する、ものであってもよい。すなわち、母材11だけであっても、当該母材11が錆びる場合は、全体が一斉に錆び始めるわけではなく、錆びやすい箇所から錆び始めることとなる。これは、母材11の表面に溶射皮膜12を形成した場合でも同じであるから、このような箇所にバサルト層15を設けておく、またはこのような箇所のバサルト層15を他の箇所のバサルト層15よりも厚く形成しておくことによって、溶射皮膜12の消耗が偏るのを防止して長期間の犠牲防蝕効果が得られることとなる。
【0043】
このようにして構成される耐蝕性部材1は、溶射皮膜12の表面に耐酸性および耐アルカリ性に優れているバサルト層15を設けているので、今まで溶射皮膜12を形成して使用していた環境下だけでなく、酸環境下やアルカリ環境下においても、溶射皮膜12が腐蝕することを防止でき、優れた防蝕効果を得ることができる。万が一、バサルト層15が破壊されたとしても、当該バサルト層15を接着した際の接着剤の層や、封孔剤14の層によって防蝕効果がえられるとともに、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が発揮されるので、母材11が腐蝕されることが防止される。したがって、通常の溶射皮膜12を形成した耐蝕性部材よりもさらに優れた防蝕効果が得られることとなる。
【0044】
なお、
図3に示すように、耐蝕性部材1は、バサルト層15のさらに外側に水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含む緩衝皮膜16が設けられていてもよい。水酸化カルシウム、炭酸カルシウムの何れかを設けた場合、例えば、アルミニウムからなる溶射皮膜12の表面に直接設けると、溶射皮膜12が反応して発熱してしまう。しかし、バサルト層15や封孔剤14が介在しているので、溶射皮膜12が反応してしまうことにはならず、緩衝皮膜16を形成できることとなる。したがって、例えば、水酸化カルシウムを水に分散させてペースト状にしたものをバサルト層15のさらに外表面に塗布して緩衝皮膜16を設けた場合、乾燥硬化した水酸化カルシウムの層は、空気中の二酸化酸素を吸収して炭酸カルシウムを含んだ層となる。この炭酸カルシウムは、水に略溶解しないので、防水効果を発揮することとなるが、近年の雨は二酸化酸素を含んだpH5~6の酸性雨であることが多い。このような酸性雨が降った場合、炭酸カルシウムは、この酸性雨に対する緩衝作用を発揮し、水と二酸化炭素を吸収し、炭酸水素カルシウムに変化して溶ける。この炭酸水素カルシウムは液体であるため、酸性雨とともに、バサルト層15の表面から緩衝皮膜16が溶けて洗い流されることとなる。炭酸水素カルシウムとなって洗い流された緩衝皮膜16は、地殻に吸収され、気温が上昇すると水分が蒸発するとともに再度二酸化炭素を放出して炭酸カルシウムに戻るが、再度、酸性雨が降ったり、気温が低下したりすると、炭酸水素カルシウムに変化し、最終的には地殻深くに鉱物化して固定化することができ、二酸化炭素削減による地球温暖化防止に貢献できることとなる。この過程で、バサルト層15の表面は、緩衝皮膜16の緩衝作用が働いて、水酸化カルシウムから炭酸カルシウムに変化したり、炭酸カルシウムから炭酸水素カルシウムに変化したりする際、アルカリ性を呈することとなり、その後、緩衝皮膜16が洗い流されて消耗してしまい、酸性雨に曝された際には酸性を呈することとなるが、バサルト層15自体が、耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等に優れているため、溶射皮膜12が消耗されることも無く、耐久性に優れた防蝕効果が得られることとなる。したがって、炭酸水素カルシウムが洗い流されて緩衝皮膜16が無くなってしまったとしても、バサルト層15による防蝕効果が得られることとなる。そのため、緩衝皮膜16が長期の酸性雨に曝されて無くなってしまっても防蝕効果を維持することができるが、この洗い流されて減少する緩衝皮膜16を補充するように、水酸化カルシウムを定期的に上塗りするようにしてもよい。水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムからなる緩衝皮膜16を定期的に上塗りしていけば、空気中の二酸化酸素を吸収しながら、鉱物化して地殻や海に二酸化炭素を固定化し続けることができる。また、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムによって構成された緩衝皮膜16は、遮熱断熱効果にも優れているため、夏場の耐蝕性部材1の熱膨張や冬場の耐蝕性部材1の熱収縮を防止する効果を発揮することができる。
【0045】
また、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムは、糊やスサを入れて構成した漆喰を用いるものであってもよい。塗布乾燥した漆喰は、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムのそれぞれが水を略吸収しないので、降雨時には、防水効果が得られる。二酸化炭素が含まれてpHが低下した近年の酸性雨に対しては、緩衝皮膜16が緩衝作用を発揮して溶解し、水酸化カルシウムは炭酸カルシウムに変化し、炭酸カルシウムは、液体の炭酸水素カルシウムに変化するが、漆喰には糊やスサが含まれているため、これら糊やスサに吸収され、そのまま雨によって洗い流され難くなっており、雨が上がって乾燥すると、元の漆喰による緩衝皮膜16に戻る。つまり、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムに対して、これらに糊やスサを含んだ漆喰の場合、酸性雨に対して、緩衝皮膜16が緩衝作用を発揮する際、当該漆喰に含まれた糊やスサによって、緩衝皮膜16が溶けて流れ落ち難くなっているので、緩衝皮膜16の消耗を避けることができ、酸性雨に対する緩衝作用を長期間に渡って発揮することができることとなる。したがって、頻繁に緩衝皮膜16を上塗りできない高所などには糊やスサを含んだ漆喰による緩衝皮膜16を設けて緩衝作用を長期間に渡って発揮させ、頻繁に緩衝皮膜16を上塗りできる箇所には、糊やスサを含まないペースト状の水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムによる緩衝皮膜16を設けて緩衝作用によって吸収した二酸化炭素を地殻へと誘導することによって二酸化炭素の低減を図るといった具合に使い分けるものであってもよい。
【0046】
以下、本発明に係る耐蝕性部材1の具体的構造について説明する。
【0047】
図4は、耐蝕性部材1の使用例である鉄道レール構造を示している。
【0048】
鉄道レール2は、路線21上の道床22に敷設されたバラスト23上に枕木24が並べられ、当該枕木24上にレールクリップ25を介してボルト26で固定して形成される。鉄道レール2は、断面が略逆T字状の長尺の鉄鋼材によって形成されており、鉄道車両の車輪と接することとなる接触部2aは、鉄道レール2の母材11を構成する鉄がむき出しとなっている。この接触部2aを除く非接触部2bは、立ち上がり部側面2cと下フランジ部2dの上面2eおよび底面2fの全体にわたって溶射皮膜12が形成されている。溶射皮膜12は、アルミニウム・マグネシウム合金を溶射してラメラ構造の金属13を構成した後、当該金属13の間隙にエポキシ樹脂からなる封孔剤14を充填して構成される。この封孔剤14を充填した際に溶射皮膜12の表面に溢れた封孔剤14を介して、当該溶射皮膜14の表面にバサルト層15が形成される。このバサルト層15は、バサルトファイバーのチョップドストランドを溶射皮膜12の表面に溢れたエポキシ樹脂にまぶすことによって形成することができる。このようにして形成されたバサルト層15の表面には、水酸化カルシウムに水と糊とを入れて練り上げた漆喰を塗布して緩衝皮膜16が形成される。この漆喰には、その他に、炭酸カルシウムや、各種の骨材やスサなどが添加されていてもよい。糊としては、漆喰で一般的に使用されている海草由来の天然の糊であってもよいし、水性アクリル樹脂などの合成糊であってもよい。また、スサと糊とを兼用することができるように、スサや糊に替えて、ナノファイバーを使用してもよい。また、天然の糊やスサを使用したことによるカビの発生を防止するために、光触媒である酸化チタンの粉末を添加してもよい。
【0049】
なお、この漆喰による緩衝皮膜16の他に替わるものとして、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムと熱可塑性樹脂とによってフィルム状に形成したものを、緩衝皮膜16として用いても良い。
【0050】
このようにして構成される鉄道レール2は、当該鉄道レール2上を通過する鉄道が電車の場合には、近くに高い電場が常に存在することとなり、鉄道レール2が敷設された地面との間の電位差が大きくなり腐蝕が進行し易い環境が形成され易い。また、当該鉄道レール2上を通過する鉄道が機関車の場合には、排出ガスによる酸化環境で腐蝕が進行し易い環境が形成され易い。
【0051】
しかし、上記した鉄道レール2は、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が得られ、溶射皮膜12の表面に設けたバサルト層15による耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等の防蝕効果が得られ、バサルト層15の表面に設けた緩衝皮膜16による二酸化炭素回収効果や防水効果や、遮熱断熱効果や、酸性雨緩衝効果が得られる。すなわち、緩衝皮膜16は、水酸化カルシウムを含んでいる場合、空気中の二酸化酸素を吸収して乾燥しながら硬化して炭酸カルシウムとなる。この炭酸カルシウムは、水に略溶解しないので、防水効果を発揮することとなるが、通常の雨水は、二酸化炭素を含んで酸性になっている。したがって、炭酸カルシウムは、酸性雨の水および二酸化炭素を吸収して液体の炭酸水素カルシウムとなり、酸性雨に対して緩衝効果を発揮することとなる。この炭酸水素カルシウムは、雨天後、気温上昇すると水と二酸化炭素を排出して再度炭酸カルシウムに戻るが、再度、雨が降ると酸性雨に対する緩衝効果を発揮して液体の炭酸水素カルシウムとなり、これを反復して繰り返しながら、最終的には鉄道レール2を敷設したバラスト23に固定化され、このバラスト23からさらに地殻へと浸透して二酸化炭素を封じ込めることができる。また、バラスト23は、空隙が多いので、炭酸水素カルシウムから二酸化炭素が排出されて再度炭酸カルシウムに戻ったとしても、その二酸化炭素は、バラスト23の空隙に溜まり易く、しかも二酸化炭素は、その分子量が44gと、空気を構成する酸素や窒素よりも分子量が重いので、炭酸水素カルシウムから二酸化炭素が排出されたとしても、バラスト23の空隙から抜け難くなる。したがって、炭酸水素カルシウムから二酸化炭素が抜けて炭酸カルシウムに戻っていた当該炭酸カルシウムは、再度雨が降ると、酸性雨を中和するとともに、バラスト23の空隙に停留した二酸化炭素を、再度吸収して液体の炭酸水素カルシウムになり易くなる。このように、緩衝皮膜16は、酸性雨に対する緩衝効果を発揮して防蝕効果の持続性の向上を図ることができるとともに、酸性雨中の二酸化炭素を吸収して地殻へと封じ込めることができるので、地球温暖化対策にも貢献できることとなる。ただし、漆喰に糊やスサを入れすぎると、保水性が良くなってしまい、水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化し難くなり、かつ、炭酸カルシウムが二酸化炭素を吸収して炭酸水素カルシウムの液体となっても、この炭酸水素カルシウムが緩衝皮膜16から流れ落とされ地殻へと浸透し難くなり、雨天後に、再度二酸化炭素を放出して炭酸カルシウムに戻ってしまうこととなるので、炭酸水素カルシウムを緩衝皮膜16から流れ落として地殻へと浸透させて吸収した二酸化炭素を封じ込めることを考えた場合には、糊やスサの使用を無くすか最小限にすることが好ましい。
【0052】
また、鉄道レール2のバラスト23は、玄武岩を用いている場合が多く、この玄武岩のバラスト23は、含浸する炭酸水素カルシウムを炭酸カルシウムの形で固定化し、固定化できなかった余剰の炭酸水素カルシウムはさらに地殻に浸透していくこととなる。したがって、この鉄道レール2を使用してしばらく経過し、二酸化炭素が固定化されたバラスト23は、新たなバラスト23と入れ換えてもよい。古いバラスト23は、二酸化炭素を消耗するような、光合成による植物の育成や菌の培養などに利用すれば、固定化された二酸化炭素が消耗され、再度バラスト23をリフレッシュさせることができる。また、古いバラスト23は、河川の河口付近に袋詰めして一定期間、堰として設けておけば、降雨時などに河川を流れる酸性雨によって、この古いバラスト23に固定化された炭酸カルシウムが炭酸水素カルシウムとなって溶け、海水のpH低下防止に貢献できることとなる。この際、海中に流れる炭酸水素カルシウムは、再度、二酸化炭素と炭酸カルシウムとに分解され易くなるが、二酸化炭素は海藻類などの光合成に利用され易くなり、炭酸カルシウムは稚貝の骨格を形成する炭酸カルシウムとして利用され易くなる。炭酸カルシウムが抜け出たバラスト23は、再度、古いバラスト23と入れ換えで新たなバラスト23として使用することができる。また、鉄道レール1がコンクリート製の高架橋の上に設けられているような場合、酸性雨が降った場合、コンクリート製の高架橋自体が酸性雨に対する緩衝作用を発揮することとなるが、緩衝皮膜16を設けて、この緩衝皮膜16が酸性雨に対する緩衝作用を発揮することで、高架橋自体が緩衝作用を起こすことをできるだけ防止することができ、当該高架橋を構成するコンクリートの中性化を防止することができる。
【0053】
なお、緩衝皮膜16は、水酸化カルシウムから炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムへと分解されていく過程を経る中で硬化したり、液化したりして脆くなっていくため、鉄道レール2が鉄道通過等の振動を受けた場合に、割れてしまうことが懸念される。しかし、このような場合であっても、緩衝皮膜16に、水溶性樹脂、バサルトファイバー、ナノファイバーなどを添加したものを使用することで、割れを防止して強度を確保することができる。特に、水溶性樹脂やナノファイバーを添加したものを使用することで、耐衝撃性の向上を図ることができる。また、バサルトファイバーを添加したものを使用することで、耐衝撃性だけでなく、耐酸性、耐アルカリ性に優れたものとすることができる。ただし、ナノファイバーは保水性に優れているため、酸性雨から二酸化炭素を吸収して炭酸水素カルシウムに変化しても、緩衝皮膜16から流れ落とされ難くなってしまい、雨が上がった後に、再度、二酸化炭素を放出して炭酸カルシウムに戻ってしまうので、その点を考慮して使用量を決定しなければならない。仮に、保水性が高いために緩衝皮膜16が二酸化炭素の回収効果が劣るようなことになったとしても、このような緩衝皮膜16は、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムによる、遮熱断熱効果に優れたものとなるため、夏場の鉄道レール2の熱膨張や冬場の鉄道レール2の熱収縮を防止するといった意味では、優れた効果を発揮することができる。また、保水性が高いために緩衝皮膜16が二酸化炭素の回収効果が劣るといっても、二酸化炭素を回収したことによって緩衝皮膜16が溶けて流れ落ちないだけで、緩衝皮膜16自体は、二酸化炭素を含んだ酸性雨に対する緩衝作用を発揮するので、酸性雨に対する耐蝕性は向上することとなる。
【0054】
また、緩衝皮膜16は、バサルト層15を介して鉄道レール2の溶射皮膜12に設けられているので、バサルト層15を構成するチョップドストランドが緩衝皮膜16と絡み合い、ひび割れを防止することができることとなる。さらに、仮に、地震等の想定外の衝撃によって緩衝皮膜16が割れるようなことがあったとしても、当該緩衝皮膜16の下には、バサルト層15を設けているので、このバサルト層15による耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等が発揮され、優れた防蝕効果が得られる。このバサルト層15が破壊されることは無いと考えられるが、仮にこのバサルト層15が破壊されるようなことがあったとしても、溶射皮膜12が設けられているので、鉄道レール2は、この溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が得られることとなる。また、鉄道レール2から緩衝皮膜16が割れたり、剥がれたりしてしまうようなことになったとしても、この緩衝皮膜16は、割れたり、剥がれ落ちたバラスト23の上で、酸性雨から二酸化炭素を吸収して、当該酸性雨に対する緩衝作用を発揮することができるし、酸性雨から二酸化炭素を吸収して炭酸水素カルシウムとなり、バラスト23から地殻へと浸透して行くこととなるので、剥がれ落ちた状態のまま、バラスト23の上に放置しておけばよい。
【0055】
なお、鉄道レール2の場合、上記した溶射皮膜12、バサルト層15、緩衝皮膜16が設けられず、鉄がむき出しの部分が形成されているが、この部分は、車両が通行して常に使用されているので、この部分の腐蝕が進行することは無い。しばらく使用されず、むき出しの鉄の部分が腐蝕することが懸念されるような場合であっても、この鉄道レール2は、溶射皮膜12が形成されているため、鉄のむき出しの部分は、電子を失い難く、通常の鉄製の鉄道レール2よりも腐蝕し難いこととなる。また、鉄道レール2は、鉄道の車輪と接触する接触部分2aに溶射皮膜12を形成せずに鉄をむき出しの状態とし、鉄道の車輪と接触しない非接触部分2bに溶射皮膜12を形成しているが、厳密に鉄道の車輪と接触する接触部分2aのみに溶射皮膜12を形成しないようにすることはかなり難しいので、鉄道の車輪と接触しない非接触部2bの一部に溶射皮膜12が形成されない箇所ができても良い。このような場合であっても、母材11の鉄がむき出しとなった箇所よりも溶射皮膜12を形成した箇所が犠牲防蝕効果によって先に溶射皮膜12を消耗することとなり、むきだしとなった鉄の母材11の腐蝕は防止される。
【0056】
また、上記の実施の形態において鉄道レール2は、
図3に示す耐蝕性部材1と同じように緩衝皮膜16を設けた構成となっているが、
図1に示す耐蝕性部材1のように緩衝皮膜16を省いた構成の鉄道レール2としてもよい。この場合、緩衝皮膜16による二酸化炭素回収効果、防水効果、遮熱断熱効果、酸性雨緩衝効果は得られないが、鉄道レール2は、バサルト層15による耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等が発揮され、優れた防蝕効果が得られるとともに、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が得られることとなる。また、
図1に示す耐蝕性部材1のように緩衝皮膜16を省いた鉄道レール2とし、その周囲のバラスト23や枕木24の上に水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを散布してもよい。この場合、散布した水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムが、酸性雨に対する緩衝効果を発揮するとともに、酸性雨から二酸化炭素を吸収して炭酸水素カルシウムとなり、バラスト23から地殻へと浸透して行くこととなり、緩衝皮膜16と同等の二酸化炭素回収効果を果たすこととなる。ただし、この場合、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムは、鉄道レール2のようにバサルト層15の表面に設けただけでなく、その周囲のバラスト23や枕木24の上に散布されるので、レールクリップ25やボルト26についても、溶射皮膜12および/またはバサルト層15を設けたものを使用することが好ましい。もちろん、緩衝皮膜16を設けた耐蝕性部材1によって構成した鉄道レール2の場合であっても、その周囲のバラスト23や枕木24の上に水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを散布してもよい。
【0057】
図5は、耐蝕性部材の他の使用例である屋外構造物の鉄塔30を示している。具体的な構成は、上記した鉄道レール構造2と同じ部分については説明を省略する。
【0058】
上記した鉄道レール2では鉄道が通過することとなる当該鉄道レール2との接触部2aは、鉄がむき出しの状態となっているが、この鉄塔30において、鉄塔30を構成する各鋼材3は、母材11の外表面全部に溶射皮膜12が形成され、当該溶射皮膜12の表面にバサルト層15を介して緩衝皮膜16が形成されている。
【0059】
このようにして構成される鉄塔30は、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が得られ、溶射皮膜12の表面に設けたバサルト層15による耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等の防蝕効果が得られ、バサルト層15の表面に設けた緩衝皮膜16による二酸化炭素削減効果や防水効果や酸性雨緩衝効果や遮熱断熱効果が得られる。特に、鉄塔30は、屋外に暴露されているため、気候の影響を受け易い。したがって、晴天時は、緩衝皮膜16中の水酸化カルシウムが大気中の二酸化炭素を吸収するとともに乾燥して炭酸カルシウムとなる。また、炭酸カルシウムに変化しても、当該炭酸カルシウムは、水にほとんど溶けないが、大気中の二酸化酸素濃度は上昇しており、雨水のpHは5~6といった酸性になっているので、この酸性雨に曝されると緩衝効果を発揮し、当該雨水中の水と二酸化炭素とを吸収して炭酸水素カルシウムとなって緩衝皮膜16が消耗されることとなる。この炭酸水素カルシウムは、液体であるため、雨水とともに鉄塔30から洗い流されて地殻や海中に浸透する。浸透した炭酸水素カルシウムは、気温が上昇すると再度二酸化炭素を排出して炭酸カルシウムに戻るが、再度、雨が降ると、炭酸水素カルシウムとなり、これを反復して繰り返しながら地殻に浸透して固定化されることとなり、防蝕効果の持続性の向上、酸性雨中の二酸化炭素の吸収による地球温暖化防止に貢献できることとなる。
【0060】
炭酸カルシウムが炭酸水素カルシウムとなって洗い流されたとしても再度、水酸化カルシウムを上塗りすることができるし、万が一洗い流されてバサルト層15が露出して放置しても、バサルト層15による耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等の防蝕効果が得られる。バサルト層15が破壊されても、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が発揮される。したがって、二酸化炭素削減による地球温暖化防止効果や防水効果を発揮しながら、長期に渡って防蝕効果が得られる。なお、
図5(b)に示すように、このような鉄塔30において、鋼材3は、その基端部がコンクリート製の基礎31で固められている場合が常であるが、この基礎31によって固められている部分に緩衝皮膜16を設けた場合、酸性雨によって緩衝皮膜16が消耗し、鋼材3と基礎31との接着強度を確保できなくなるので、
図5(c)に示すように、鋼材3を構成する耐蝕性部材1と基礎31との接触部分は、耐蝕性部材1のバサルト層15が基礎31と直接的に接触するように構成される。この際、バサルト層15は、非接着部分15aを有するものを使用すれば、当該非接着部分15aは、後に打設されるコンクリート製の基礎31と良く絡んで優れた引っ張り強度が得られることとなる。
【0061】
この構成によると、酸性雨が降った場合、鉄塔30を伝って流れ落ちた酸性雨に対して、このコンクリート製の基礎31自体が緩衝作用を発揮することとなって中性化して劣化してしまうが、緩衝皮膜16を設けて、この緩衝皮膜16が酸性雨に対する緩衝作用を発揮することで、基礎31自体が緩衝作用を起こすことをできるだけ防止することができ、当該基礎31を構成するコンクリートの中性化による劣化を防止することができる。また、このようなコンクリート製の基礎31と、当該コンクリート製基礎31によって固められた鋼材3の基端部との間に、鋼材3から基礎31の外周縁に向かって下り勾配となる極厚の緩衝皮膜16aを設けることで、鋼材3を伝って流れ落ちてくる酸性雨が溜まらないようにして流し、かつ、基礎31の中性化による劣化をより防止することができる。
【0062】
なお、
図5に示す鉄塔30は、送電線32を有しているため、電位差を生じ易い環境、すなわち、腐蝕が進行し易い環境となるため、特に本発明が有効となるが、このような送電用の鉄塔30に限定されるものではなく、例えば、橋梁、橋脚、門、柵、倉庫、屋外階段、屋根、壁、手摺り、その他、各種の鋼材3で構成された構造物、特に屋外の構造物においても本発明は有効となる。
【0063】
また、上記の実施の形態において鉄塔30は、
図3に示す耐蝕性部材1と同じように緩衝皮膜16を設けた構成となっている鋼材3を使用しているが、
図1に示す耐蝕性部材1のように緩衝皮膜16を省いた構成としてもよいし、コンクリート製の基礎31の基端部のみに緩衝皮膜16aを形成するといった具合に部分的に緩衝皮膜16を設けた構成としてもよい。この場合であっても、鉄塔30を構成する各鋼材3は、バサルト層15による耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等が発揮され、優れた防蝕効果が得られるとともに、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が得られることとなる。
【0064】
図6は、耐蝕性部材1のさらに他の使用例であるタンク4および配管5を示している。具体的な構成は、上記した鉄道レール2や鉄塔3と同じ部分については説明を省略する。
【0065】
このタンク4および配管5は、当該タンク4および配管5を構成する耐蝕性部材1の母材11の表面全体に溶射皮膜12が形成され、当該溶射皮膜12の外表面にバサルト層15を介して緩衝皮膜16が形成されている。
【0066】
このようにして構成されるタンク4および配管5の構造は、屋外の気温の変化のみならず、タンク4に貯蔵している流体の温度変化や、配管5内を流れる流体の温度の変化などもあり、タンク4や配管5自身の温度変化を生じ易いので、電位差を生じ易い環境となり、腐蝕が進行し易い環境となるが、上記構成のタンク4や配管5は、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が得られ、溶射皮膜12の表面に設けたバサルト層15による耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等の防蝕効果が得られ、バサルト層15の表面に設けた緩衝皮膜16による二酸化炭素削減効果や防水効果や酸性雨緩衝効果や遮熱断熱効果が得られることとなるので、温度変化生じ易いタンク4や配管5においても、優れた効果を発揮できる。
【0067】
なお、上記の実施の形態においてタンク4および配管5は、
図3に示す耐蝕性部材1と同じように緩衝皮膜16を設けた構成となっているタンク4および配管5を使用しているが、
図1に示す耐蝕性部材1のように緩衝皮膜16を省いた構成としてもよい。この場合であっても、タンク4および配管5は、バサルト層15による耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等が発揮され、優れた防蝕効果が得られるとともに、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が得られることとなる。
【0068】
図7は、耐蝕性部材1のさらに他の使用例である鉄筋コンクリート60の配筋6を示している。
【0069】
この配筋6は、上記した鉄塔3やタンク4や配管5のように緩衝皮膜16を設けず、配筋6の母材11の外側に溶射皮膜12を形成するとともにバサルト層15を形成して構成されている。
【0070】
バサルト層15は、コンクリート61と良くなじんで優れた引っ張り強度が得られるように、
図2に示すように、溶射皮膜12にエポキシ樹脂の封孔剤14で封孔処理する際に、この封孔剤14で、チョップドストランドの一部を接着するようにして構成されている。これにより、バサルト層15を構成するチョップドストランドのフリーとなった非接着部分15aは、後に打設されるコンクリート61と良く絡んで優れた引っ張り強度が得られることとなる。
【0071】
この配筋6は、コンクリート61を打設した際に当該コンクリート61に接することとなり、アルカリに曝されることとなるが、バサルト層15による優れた耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性、等の防蝕効果が得られるので、溶射皮膜12が消耗されることにはならない。仮にバサルト層15が破壊されても封孔剤14にエポキシ樹脂を使用しているので、溶射皮膜12による犠牲防蝕効果が徐々に発揮されることとなる。したがって、配筋6の母材11が腐蝕され難く、非常に優れた防蝕効果のある配筋6となる。
【0072】
なお、
図2に示すバサルト層15を構成する場合、フリーとなった非接着部分15aがコンクリート61と良くなじんで優れた引っ張り強度が得られるが、
図1に示す通常のバサルト層15を形成したものであっても十分な引っ張り強度が得られるので、この使用を否定するものではない。また、玄武岩の粉体を接着剤または封孔剤14と練り合わせてそれを塗布することによってバサルト層15を形成した場合も、粒度の粗い粉体を混ぜて表面がサンドペーパーのように凹凸となったバサルト層15を形成することができるので、十分な引っ張り強度を得ることができる。
【0073】
このように構成される上記した各種耐蝕性部材1は、上記したような各インフラ施設で使用されるものに限定されるものではなく、屋外に暴露される環境で使用されるもの、電位差を生じやすい環境で使用されるもの、に適用する場合は、特に、今までの耐蝕性部材と比較して耐蝕性能に優位性を発揮することができる。したがって、耐蝕性部材1は、インフラ施設における固定構造物に限定されるものではなく、陸、海、空、それぞれの輸送に使用される輸送機器類の一部に使用されるものであってもよい。
【0074】
また、本発明において、耐蝕性部材1は、母材11の表面に溶射皮膜12を形成した後、バサルト層15や緩衝皮膜16を形成しているが、溶射皮膜12を形成せずに母材11に直接バサルト層15や、バサルト層15および調製皮膜16を形成するものであってもよい。また、母材11が既に耐蝕性に優れた、黒皮鋼板、溶融亜鉛鋼板、亜鉛メッキその他各種メッキ鋼板のように、耐蝕性に優れた母材11の場合、溶射皮膜12を形成する意味があまり無いので、溶射皮膜12を省いて、バサルト層15だけを形成して耐蝕性部材1としてもよいし、このバサルト層15の表面に緩衝皮膜16を形成して耐蝕性部材1としてもよい。これらの場合、バサルト層15は、溶射皮膜12を形成する際に使用する封孔剤14を利用して母材11の表面に貼り付けることができるし、専用の接着剤を使用して母材11の表面に貼り付けることができる。特に、封孔剤14として使用するエポキシ樹脂は、機械的強度が高く防蝕性も高いので、バサルト層15の形成に好ましい。この際、母材11は、ブラスト処理しておけば、接着強度を高めることができるが、ブラストによる凹凸に気泡が入り込んでボイドが発生してしまうことが懸念されるため、ボイドの除去処理ができないような場合には、ブラスト処理なしでバサルト層15を形成することが好ましい。また、ボイドの発生を少なくするために、バサルトファイバーのチョップドストランドまたはバサルトの原料である玄武岩の粉体をエポキシ樹脂と混練して形成したペーストを塗布乾燥させてバサルト層15を形成したものであってもよい。
【0075】
さらに、本発明において、耐蝕性部材1は、バサルト層15を設けているが、このバサルト層15としては、バサルトファイバー製の織布、不織布、チョップドストランド、粉体から構成されているが、100%バサルトファイバーでなくても、ガラス繊維、鉱物繊維、岩石繊維、人造鉱物繊維、セラミックス繊維などの他の無機繊維および/またはそれらの粉体と混合されたものであってもよい。また、耐蝕性部材1のバサルト層15としては、バサルトファイバーで構成したバサルト層15と同等の耐酸性、耐アルカリ性、絶縁性を発揮することができるように、これら無機繊維の中から選択される少なくとも1種以上によって構成されたものであってもよい。
【0076】
なお、緩衝皮膜16を形成する場合、その原料となる水酸化カルシウムは、石灰石または貝殻を焼成して得られる酸化カルシウムに水を加えて消化することによって得られ、炭酸カルシウムは、当該水酸化カルシウムが二酸化炭素を吸収することによって得られるが、この石灰石または貝殻を焼成する際に発生する二酸化炭素を補集しなかったり、化石燃料を使用して焼成してしまったりすると、二酸化炭素が発生してしまうので、せっかくの水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムによる二酸化炭素削減効果が無駄になってしまう。したがって、
図8に示すように、水酸化カルシウムを製造する際は、太陽光発電などの再生可能エネルギーによって発電した電気エネルギーを充電し、当該電気エネルギーを使用した電気加熱によって焼成するように構成された焼成装置7を使用して水酸化カルシウムを製造することが好ましい。この焼成装置7は、密閉系の反応釜71に設けられた配管72が二つに分岐しており、それぞれに開閉弁73が設けられており、この開閉弁73の切替で、真空ポンプ74で反応釜71を真空吸引したり、または二酸化炭素吸収装置75に、この反応釜71で発生した二酸化炭素を送ったりすることができるようになされている。反応釜71には、太陽光パネル700からバッテリー710に充電した電気エネルギーを使用して加熱するヒーター71aが設けられており、このヒーター71aによって800~900℃で反応釜71内を加熱できるようになされている。反応釜71で発生する熱を利用できるようにヒートポンプ76の熱交換器76aが接続されており、このヒートポンプ76で発生した冷熱熱交換器76bで二酸化炭素吸収装置75の水cを冷却して冷却水を製造するようになされている。この水は、ポンプ78から分岐した供給経路77を介して反応釜71と二酸化炭素吸収装置75とに接続されており、それぞれに開閉弁79が設けられている。ポンプ78からの水cは、開閉弁79の切り替えで、供給経路77を介して二酸化炭素吸収装置75に供給したり、反応釜71に供給したりすることができるようになされている。反応釜71では、上記した800~900℃の加熱で生成した酸化カルシウムに水を加えて消化することで、当該酸化カルシウムを水酸化カルシウムにすることができるようになされている。
【0077】
焼成装置7は、反応釜71の容量に応じた炭酸カルシウムを処理するのに充分な電気エネルギーが太陽光パネル700からバッテリー710への充電によって得られたら処理開始できるようになされた制御部720を具備しており、1回の処理に必要な充電量が充電されたら運転開始するバッジ式の処理ができるように構成されている。この焼成装置7は、まず、反応釜71に炭酸カルシウムの原料を投入して反応釜71を閉じ、真空ポンプ74で減圧した後、ヒーター71aで800~900℃で加熱する。炭酸カルシウムが酸化カルシウムと二酸化炭素に分解して二酸化炭素が発生するので、この発生した二酸化炭素を配管72から二酸化炭素吸収装置75の水に供給して当該水に二酸化炭素を吸収させ炭酸水とする。この二酸化炭素の供給で二酸化炭素吸収装置75に供給された水は高温となるが、当該二酸化炭素吸収装置75においてヒートポンプ76により当該水の冷却を行うことで十分な二酸化炭素を吸収させた炭酸水を得ることができる。反応釜71に投入した炭酸カルシウムの原料から、発生する二酸化炭素の量が計算できるので、所定の二酸化炭素を二酸化炭素吸収装置75に送った時点で経路を閉じ、反応釜71に生成した酸化カルシウムに水を加えて消化し、水酸化カルシウムを得ることができる。このようにして得られる水酸化カルシウムは、化石燃料を使用しないので、実質的に二酸化炭素を放出せずに得ることができることとなる。なお、この焼成装置7は、水酸化カルシウムの製造時に、炭酸水が得られるが、この炭酸水は、例えば、温室で使用される二酸化炭素ガスの替わりに、当該温室内で農作物および土壌に散水して農作物の栽培に使用しても良いし、水耕栽培用の水槽に入れて農作物の水耕栽培の培養液として使用してもよいし、農作物以外にも、光合成で増殖する各種植物の培養液として使用してもよい。具体的にはミドリムシを増殖させるための培養液として使用することができる。また、炭酸水は、アルコール等の合成燃料を合成する際の原料に用いるものであってもよい。
【0078】
なお、上記焼成装置7は、焼成時の熱エネルギーをヒートポンプ76によって冷熱に変換し、この冷熱によって得られた冷却水に二酸化炭素を吸収させて炭酸水にしているが、このような構成の装置に限定されるものではなく、二酸化炭素吸収装置75およびヒートポンプ76に替えて、
図9に示すように、焼成時の熱エネルギーを利用して温水を貯湯する温水器8を備えた焼成装置7にしてもよい。
図8に示す焼成装置7との相違点について述べると、反応釜71に設けられた熱交換器81によって、反応釜71で得られる熱の一部を利用することで、温水器8に溜められた水を加熱して温水を調製することができるようになされており、水はポンプ82および吸水弁83を介して吸水経路84から温水器8に供給される。温水器8で加熱された温水は、通常の温水器8と同じように給湯に利用可能となっており、また、その温水は、ポンプ85および開閉弁86が設けられた供給経路87を介して反応釜71に供給できるように構成されており、当該反応釜71で焼成して得られた酸化カルシウムbに温水または水蒸気を供給して消化できるようになされている。なお、温水や水蒸気ではなく、水で消化する場合は、ポンプ85を省略し、ポンプ82の下流の給水経路84を分岐させて反応釜11に開閉弁86を介した供給経路87を設けるものであってもよい。この温水器8の温水によって得られる熱の一部を温室の調温に使用するものであってもよいし、熱交換器81から得られる熱を直接温室に放出して当該温室の温度調節を行うものであってもよい。
【0079】
一方、焼成時に発生する二酸化炭素は、
図8に示す焼成装置7の場合、冷却水に吸収させて炭酸水にする二酸化炭素吸収装置75およびヒートポンプ76が設けられているが、
図9に示す焼成装置1では、焼成によって得られた二酸化炭素を、そのまま地盤に浸透させて鉱物化して固定するものであってもよい。この際、二酸化炭素を浸透させる地盤としては、森林や農地などの光合成で二酸化炭素を消耗する土地の直下の地盤が好ましい。すなわち、森林や農地などの場合、当該森林や農地の直下の地盤に、雨などが降った際に十分な水分を溜め込んでおり、この地盤の水分は二酸化炭素が溶け込む溶媒となり易い。したがって、地盤に浸透した二酸化炭素は、地殻を構成する玄武岩の層まで浸透すると、炭酸カルシウムとして鉱物化して固定されることとなる。また、地盤に浸透させた二酸化炭素が飽和しても、森林や農地の植物が光合成で二酸化炭素を消耗するため、地盤に浸透させた二酸化炭素が再び大気中に拡散され難くすることができる。しかも、地盤は、地域によって差があるものの、ある一定の深さ8m~10m以上になると年間を通して温度が約10℃~17℃で安定しているので、季節に関係なく浸透させた二酸化炭素を安定して吸収することができる。二酸化炭素の地盤への浸透は、発生した二酸化炭素を、配管などを介して地盤の適宜の深さ、好ましくは8~10mまで導いて地盤に直接供給することによって行うことができる。地盤での吸収溶媒となる水が不足する場合は、二酸化炭素の供給に併せて、吸収溶媒となる水を供給してもよい。水を吸収溶媒として地盤に供給した場合、二酸化炭素を吸収して炭酸水となるが、この炭酸水は、くみ出して利用するものであってもよい。また、他の吸収溶媒として炭酸カルシウムを加えておいてもよい。炭酸カルシウムの場合は、微量の二酸化炭素を吸収して液体の炭酸水素カルシウムとなるため、地殻のさらなる深みに浸透し易くなる。
【0080】
なお、焼成によって発生する二酸化炭素は、その他にも、固体アミン等のアンモニア系、多孔質系、その他の二酸化炭素吸着剤に吸着させて回収するものであってもよい。
【0081】
また、焼成によって発生する二酸化炭素は、温室内等の密閉空間内に放出して農作物の製造に使用する二酸化炭素として利用するものであってもよい。上記したように二酸化炭素を、炭酸水にしたり、地盤に吸収させたり、二酸化炭素吸着剤に吸着させたり、温室内に放出して農作物の製造に使用したりする技術は、複数を併用するものであってもよい。
【0082】
さらに、上記焼成装置7は、太陽光パネル700からバッテリー710への充電を行って、1回の処理に必要な充電量が充電されたら運転開始するバッジ式の処理ができるように構成されているが、バッテリー710をなくして太陽光パネル700のみで使用するものであってもよい。この場合、焼成は、日中の太陽光パネル700によって得られる電気エネルギーに依存するので、太陽光パネル700によって得られる電気エネルギーから逆算して一回に処理することができる炭酸カルシウムの量を決めておくものであってもよいし、数日に分けて昇温して焼成するものであってもよい。
【0083】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0084】
1 耐蝕性部材
11 母材
12 溶射皮膜
14 封孔剤
15 バサルト層
16 緩衝皮膜
2 鉄道レール(耐蝕性部材)
2a 接触部
2b 非接触部
21 路線
22 道床
23 バラスト
24 枕木
3 鋼材(耐蝕性部材)
4 タンク(耐蝕性部材)
5 配管(耐蝕性部材)
6 配筋(耐蝕性部材)