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特開2024-79550パネル部品用接合構造、及びパネル部品の取付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079550
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】パネル部品用接合構造、及びパネル部品の取付け方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106489
(22)【出願日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2022191296
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩間 隆史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040JA05
4J040MA02
4J040NA16
(57)【要約】
【課題】マスチック接着剤の収縮時に発生するパネル部品接着面における応力を、簡易に且つ安定して低減し、パネル部品の面ひけの抑制が可能な手段を提供する。
【解決手段】間を開けて対向する金属製のパネル部品1の裏面1aと他の金属部品である補強部品2とを、マスチック接着剤3で接合する、パネル部品用接合構造であって、上記接合に用いるマスチック接着剤3に金属板4を埋設した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間を開けて対向する金属製のパネル部品の裏面と他の金属部品とを、マスチック接着剤で接合する、パネル部品用接合構造であって、
上記マスチック接着剤に金属板を埋設した、
ことを特徴とするパネル部品用接合構造。
【請求項2】
上記金属板は、上記パネル部品の裏面又は上記他の金属部品と接触している、
ことを特徴とする請求項1に記載したパネル部品用接合構造。
【請求項3】
上記埋設される金属板は2枚以上有し、各金属板は、上記パネル部品と上記他の金属部品との対向方向からみて、互いに重なっていない、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したパネル部品用接合構造。
【請求項4】
上記パネル部品は、自動車用パネル部品である、
ことを特徴とする請求項1に記載したパネル部品用接合構造。
【請求項5】
金属製のパネル部品の裏面を、間を開けて対向する他の金属部品に、マスチック接着剤によって接合する、パネル部品の取付け方法であって、
上記マスチック接着剤に金属板を埋設する、
ことを特徴とするパネル部品の取付け方法。
【請求項6】
上記金属板を、上記パネル部品の裏面又は上記他の金属部品と接触させた状態で、上記マスチック接着剤に埋設する、
ことを特徴とする請求項5に記載したパネル部品の取付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル部品を、補強部品その他の金属部品に対しマスチック接着剤で接合するパネル部品用接合構造、及びパネル部品の取付け方法に関する技術である。本発明は、特に、外観不良を抑制する観点から、自動車用パネル部品(特にアウターパネル)に対し好適な技術である。
自動車用パネル部品、例えばドアパネルや屋根パネルなどのアウターパネルに対する外観不良の一つに面ひけがある。この面ひけは、マスチック接着剤の収縮に伴うアウターパネルの局所的な面外変形によって発生する。本発明は、この面ひけを、簡便に回避するための好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
自動車用パネル部品は、アウターパネルと呼ばれる外板部品、及び、フロアやダッシュロアなどの内板部品のことである。このパネル部品は、投影面積が広い部品である。このため、自動車の構成部品において、パネル部品は、板厚の低減による軽量化の効果が、他の骨格系部品(構造部品)と比較しても格段に大きい。
パネル部品は、一般に緩く広い曲面を持つ外板で構成される。そのパネル部品は、その裏側(内側)に当該パネル部品を補強する補強部品が配置される。そして、パネル部品は、補強部品に対し、マスチック接着剤と呼ばれる接着剤で接着(接合)されることで、補強された構造となる。
【0003】
マスチック接着剤は、施工前は半凝固状の物質である。しかし、マスチック接着剤は、パネル部品と補強部品との間を接着した後に、後工程の塗装ラインでの焼付熱などの加熱処理により発泡(膨張)し、その後の冷却により硬化(収縮)する。このような工程を経ることで、マスチック接着剤は、最終的にはゴム状の性質を持つ。そして、接合に用いられたマスチック接着剤は、パネル部品が外力を受けた時の支持点になり、また、パネル部品の振動を抑制するなど、重要な役割を持っている。
ここで、外板部品(アウターパネル)は、ユーザーの目にさらされるため、表面の外観品質については高いレベルが要求される。
【0004】
しかし、車体軽量化のために、アウターパネルが薄板化されると、アウターパネルは、張り剛性と呼ばれるパネル部品の面剛性が低下する。パネル部品の面剛性が低下するほど、パネル部品は、塗装後の冷却過程で発生するマスチック接着剤の収縮力に負けて、面外変形を起こしやすくなる。
この面外変形が発生した変形箇所は、周りの緩曲面と比較し急峻な面変化となるため、人目につきやすい。この外観不良は、上述の通り面ひけと呼ばれており、アウターパネルの薄板化を進める上で課題の一つとなっている。
【0005】
従来、自動車のパネル部品の面ひけ対策として、特許文献1~3の記載の技術がある。
特許文献1には、接合するマスチック接着剤の内部に空洞を設けることが記載されている。特許文献2には、使用するマスチック接着剤に、平均粒径の異なる2種類の樹脂製中空体を複数含有させることが記載されている。特許文献3には、マスチック接着剤に複数の熱膨張性フィラーを含有させることが記載されている。
これら特許文献に記載される技術は、マスチック接着剤および構造接着剤が硬化、収縮する際に内部応力を緩和させることを目的に配され、その結果アウターパネルのひけを抑制できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2018-193706号
【特許文献2】特開2012-067191号公報
【特許文献3】特開平6-57224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
面ひけの発生を抑制するためには、マスチック接着剤の収縮時に発生するパネル接着面における応力を低減することが必要である。
しかし、特許文献1に記載の方法は、マスチック接着剤の硬化、収縮の過程の中で内部に空洞を安定的に配することがかなり難しい。このため、マスチック接着剤の量産の中でばらつきが生じるなどの課題が考えられる。また、マスチック接着剤内に空洞を設けるにコストも掛かるという課題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術は、マスチック接着剤の中に作製した多数の樹脂製球体を混合する必要がある。このため、材料のコストアップとともに、マスチック接着剤材質と球を構成する樹脂の物性バランスが変化すると、安定した効果が得られないと考えられる。
また、特許文献3に記載の技術は、構造用接着剤の中に熱膨張性のフィラーを追加することでコストアップにつながる。また、フィラーの温度感受性が高いことから量産時の温度変動による影響が大きいことが考えられる。このため、温度管理厳格化が必要となり、それによるコストアップが考えられる。
【0009】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、マスチック接着剤の収縮時に発生するパネル接着面における応力を、簡易に且つ安定して低減し、パネル部品の面ひけの抑制が可能な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、マスチック接着剤の収縮時に発生するパネル接着面における応力低減について種々検討した。そして、発明者は、マスチック接着剤内に金属板を含有させることで、マスチック接着剤が収縮する際にマスチック接着剤内の金属板全面に引張応力を発生させることができると考えた。そして、それにより、パネル部品に働く引張応力を低減し、面ひけの抑制が可能であることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0011】
そして、課題解決のために、本発明の一態様は、間を開けて対向する金属製のパネル部品の裏面と他の金属部品とを、マスチック接着剤で接合する、パネル部品用接合構造であって、上記マスチック接着剤に金属板を埋設した、パネル部品用接合構造である。
他の金属部品は、例えば補強部品(レインフォース)である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、マスチック接着剤内に金属板を含有させるという簡易な手段によって、マスチック接着剤が収縮する際にパネル部品に働く引張応力を低減することが可能となる。その結果、本発明の態様によれば、マスチック接着剤の収縮時に発生するパネル接着面における応力を、簡易に且つ安定して低減し、パネル部品の面ひけの抑制が可能な手段を提供することが可能となる。
例えば、本発明の態様によれば、自動車の製造ラインを変えることなく、マスチック接着剤の接着方法を変えることでパネル部品の面ひけを抑制し、安定した品質による生産が可能になる。また、パネル部品の薄板化による面ひけ発生の課題解決にもつながり、自動車車体の軽量化への貢献が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に基づく実施形態に係るパネル部品用接合構造の例を示す図である。(a)は厚さ方向で切断した断面図で、(b)は(a)におけるX-X線での断面図である。
図2】パネル部品用接合構造の他の例を示す図である。(a)は厚さ方向で切断した断面図で、(b)は(a)におけるX-X線での断面図である。
図3】パネル部品用接合構造の他の例を示す図である。(a)は厚さ方向で切断した断面図で、(b)は(a)におけるX-X線での断面図である。
図4】マスチック接着剤に埋設する金属板の配置の他の例を示す断面図である。
図5】実施例における、試験治具を説明する図である。
図6】実施例における、各マスチック接着剤の構造を示す図である。
図7】発明例における熱処理後のパネル面の測定結果を示す図である。
図8】比較例1における熱処理後のパネル面の測定結果を示す図である。
図9】比較例2における熱処理後のパネル面の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、自動車への適用を考え、他の金属部品として、補強部品を例に挙げて説明する。
【0015】
(構成)
本実施形態のパネル部品用接合構造は、図1に示すように、所定間隔を開けて対向配置する補強部品2とパネル部品1の裏面1aとを接合する接合部の構造である。その補強部品2とパネル部品1との接合(接着)にマスチック接着剤3が用いられる。なお、補強部品2とパネル部品1とは、鋼製など金属製である。
ここで、本実施形態は、自動車のアウターパネルと呼ばれる外板部品(ドアパネルやルーフパネルなど)や、フロアやダッシュロアなどの内板部品などの自動車用パネル部品と、補強部品とのマスチック接着剤により接着する接合構造に好適な技術である。但し、本実施形態のパネル部品用接合部の構造は、他の用途のパネル部品を他の金属板に対しマスチック接着剤で接合する場合であっても適用可能である。
【0016】
ここで、自動車用のパネル部品1は、緩い曲率の広い曲面を持つ板形状に形成される場合が多く、相対的に面外方向への剛性が低くなる傾向にある。このため、パネル部品1の裏側(内面側)には、パネル部品を補強する補強部品2が配置されて、パネル部品1を補強する。
このとき、パネル部品1の裏面1aと補強部品2の面2aとの間に隙間が形成される。このため、その隙間に対し部分的にマスチック接着剤3を介在させ、当該マスチック接着剤3で、パネル部品1と補強部品2との間を接合する。そして、そのマスチック接着剤3による接合によってパネル部品1は補強部品2に拘束される。なお、パネル部品1の裏面1aへの接着面の外周輪郭形状は、円弧の連続で形成することが好ましい。図1では、円形の場合を例示している。パネル部品1の接着面の輪郭形状が、例えば断面矩形形状などの角部を有する場合は、収縮した場合に角部の引込みが局所的に厳しくなり、実際とは異なる挙動を示すおそれがある。
【0017】
一般に、マスチック接着剤3によるパネル部品1と補強部品2との接合は、マスチック接着剤3の点付けによって実施されることが多い。
これに対し、本実施形態では、パネル部品1と補強部品2との間に介在させるマスチック接着剤3に対し、図1に示すように、金属板4を埋設する。なお、金属板4を単純に埋設するだけであるので、多数の粒子を均等に分散配合するよりも大幅に手間が簡易となる。
【0018】
ここで、金属板4は、完全にマスチック接着剤3で覆われるように埋入していなくても良い。すなわち、埋設した金属板4の一部が、マスチック接着剤3から露出していてもよい。もっとも、図1に示すように、金属板4の外周部が完全にマスチック接着剤3で覆われていることが好ましい。すなわち、図1(a)及び(b)に示すように、金属板4の外周全周にマスチック接着剤3が存在することが好ましい。これによって、車体振動時に、金属板4の露出した外周部が、パネル部品1や補強部材に直接当たることが回避される。
【0019】
金属板4の形状は、図1(b)のように、マスチック接着剤3の外周輪郭形状と異なっていてもよい。図1では、板厚方向からみて(平面視で)、金属板4の重心とマスチック接着剤3の重心が一致若しくは略一致するように配置している。
また、平面視における、マスチック接着剤3の外周輪郭形状で規定される面積に対する、金属板4の面積の割合は、特に限定はないが、例えば0.3以上0.9以下とする。この割合が小さすぎると、その分、金属板4表面に発生する引張応力が小さくなる。また、上記割合が大きすぎると、金属板4の外周部がマスチック接着剤3から露出しやすくなる。
【0020】
また、金属板4の厚さは、マスチック接着剤3で接着する位置における、パネル部品1と補強部品2との間の間隔、つまりマスチック接着剤3の厚さより薄ければよい。金属板4の厚さは、例えば、上記間隔の0.1倍以上0.9倍以下とする。0.1倍未満では所望の効果は得られない可能性がある。一方、0.9部超ではマスチック接着剤に要求される減衰性および接着性が十分得られない可能性がある。
ここで、マスチック接着剤3が収縮する際にマスチック接着剤3内の金属板4の全面に引張応力が発生する。このため、金属板4の厚さは、上記の引張応力で、金属板4が折れ曲がらないだけの強度を有するだけの厚さとすることが好ましい。
【0021】
また、図1(a)では、金属板4を、パネル部品1や補強部品2と非接触状態として埋設する場合を例示しているが、これに限定されない。例えば、図2図3に示すように、金属板4が、パネル部品1又は補強部品2の一方と接触するように配置されていても良い。なお、金属板4における、パネル部品1又は補強部品2への接触は、金属板4の辺部分だけが接触するような配置でもよい。
また、対向するパネル部品1や補強部品2の面に対し、金属板4が傾いて配置されていても良い。ただし、金属板4は、対向するパネル部品1又は補強部品2の面と平行又は略平行な姿勢で配置されていることが好ましい。金属板4を傾かせる場合は、上記の平行な面に対し30度未満が好ましい。
【0022】
また、金属板4は、図4のように、平面視において、複数に分割されていても良い。分割された金属板4の形状は同じでなくても良いが、分割された金属板4の間隙にもマスチック接着剤3が介在されるようにする。余り分割数を多くすると、本発明の効果が小さくなると共に施工が面倒となるため、分割する場合、2枚以上4枚以下が好ましい。
なお、本実施形態では、金属板4が平坦な平板形状の場合を例示したが、金属板4が湾曲していたり、その表面に凹凸を有していたりしていても良い。また金属板4の表面を粗面として、マスチック接着剤との密着性を良好としても良い。
また、金属板4における板形状は、表面の面積を正方形形状に換算したとき、正方形形状の辺の長さが、厚さよりも長い形状である。
【0023】
(接合方法の例)
[第1の施工例]
マスチック接着剤3を部品に塗布して接合部を形成する際に、例えば、金属板4を予めマスチック接着剤3の接着部に配置してから、当該マスチック接着剤3を塗布する。
この場合、金属板4は図2図3のような配置構成となる。
[第2の施工例]
一方の部品の面に、マスチック接着剤3を半量塗布後に金属板4を配置する。更に、金属板4を覆うようにして、マスチック接着剤3を半量塗布する。この塗布によって、金属板4をマスチック接着剤3に埋入した状態とする。この場合、金属板4は図1のような配置構成となる。
【0024】
ここで、接合部形成の際に、金属板4の配置は人手でも可能である。しかし、タクトタイムなどを考慮すると、金属板4の配置はロボットで行うのが望ましい。金属板4として、プレスブランクのトリム後の端材などを使用すれば、コスト低減につなげることも可能である。もっとも、金属板4を新規の材料で準備しても構わない。
金属板4の金属種は特に限定されない。ただし、金属板4の金属種は、入手の容易性、コストを考慮すると鉄が望ましい。また、金属板4は、アルミ合金などの金属材料であってもよい。
本実施形態の接合構造を採用する場合、アッセンブリーや塗装工程は、既存の設備と同じ仕様で構わない。このため、金属板4の配置のためのコストは掛かるが、最低限の投資のみで、面ひけによる車両不具合削減、車体軽量化の達成が可能となる。
【0025】
<作用その他>
本実施形態によれば、マスチック接着剤3内に金属板4を含有させる。この結果、本実施形態によれば、マスチック接着剤3が収縮する際に、マスチック接着剤3内の金属板4の全面に引張応力を発生させる。これによって、本実施形態によれば、パネル部品1に働く引張応力を低減し、面ひけの抑制が可能となる。
このように、本実施形態では、マスチック接着剤3に金属板4を埋設するという簡単な手段を用いて接合部を形成できる。このため、コストをかけずに且つ簡便に、マスチック接着剤3が収縮する時に、パネル部品1の面に負荷される応力を緩和することができる。この結果、本実施形態では、簡便に、パネル部品1をマスチック接着剤3で接着することによる面ひけの発生を抑制することが可能となる。
【0026】
そして、後述の実施例の通り、同じ板厚のパネル部品1に対し、従来に比べより面ひけを抑制できることが分かった。すなわち、本実施形態の接合部構造は、中実タイプや中空タイプのマスチック接着剤からなる接合部と同品質に設計する場合、パネル部品1の薄板化を更に行うことが可能となる。
ここで、マスチック接着剤3に埋設する板材を金属製の板としたのは、次の理由による。すなわち、板材を金属製とすることで、マスチック接着剤3と比較して線膨張係数が小さく、その膨張差により引張応力をより大きく生じさせることができる。また、金属製の板材は、塗装焼付けの温度域では自身の変質(溶解、揮発など)が無く安定している。更に、金属板は、容易に入手可能な材料であるため、材料コストも安価にできる。
【0027】
そして、本発明を、例えば、自動車用パネル部品に適用した場合には、自動車の製造ラインを変えることなく、マスチック接着剤3の接着方法を変えることでパネル部品1の面ひけを抑制できる。この結果、外観が安定した品質で生産が可能になる。また、パネル部品1の薄板化による面ひけ発生の課題解決にもつながり、自動車車体の軽量化への貢献が可能となる。
【0028】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)間を開けて対向する金属製のパネル部品の裏面と他の金属部品とを、マスチック接着剤で接合する、パネル部品用接合構造であって、
上記マスチック接着剤に金属板を埋設する。
(2)上記金属板は、上記パネル部品の裏面又は上記他の金属部品と接触している。
(3)上記埋設される金属板は2枚以上有し、各金属板は、上記パネル部品と上位他の金属部品との対向方向からみて、すなわち平面視で、互いに重なっていない。
(4)上記パネル部品は、自動車用パネル部品である。
(5)金属製のパネル部品の裏面を、間を開けて対向する他の金属部品に、マスチック接着剤よって接合する、パネル部品の取付け方法であって、
上記マスチック接着剤に金属板を埋設する。
(6)上記金属板を、上記パネル部品の裏面又は上記他の金属部品と接触させた状態で、上記マスチック接着剤に埋設する。
【実施例0029】
次に、本実施形態に基づく実施例について説明する。
(実験条件)
図5に、本実施例で使用した試験治具の概念図を示す。
本実施例の試験治具は、図5に示すように、パネル部品a、固定枠b、補強部品c、及びパネル部品aと補強部品cを接合する接合部と、を備える。
パネル部品aは、300mm×310mmの矩形状で、引張強度が270MPa級の鋼板製の平板をプレス成形で湾曲させてなる、カマボコ形状のパネル部品である。このパネル部品aは、自動車のルーフパネル部品(アウターパネル部品)を想定した。そして、パネル部品aは、曲率半径5000mmの湾曲(曲率)を一方向(短辺方向)に沿って設け、その湾曲の方向に直交する方向(長辺方向)への面形状を平坦になるように製造されている。また、パネル部品aの板厚は、0.7mmとした。なお、パネル部品aの外周には矩形の支持枠を装着した。
【0030】
固定枠bは、パネル部品aの外周に設けた支持枠と対向し、パネル部品aの外周部全周を固定するための枠部品である。なお、固定枠bへのパネル部品aの外周部への取り付けは、ネジ締結とした。本実施例の固定枠bは、厚さ12mmの厚板で構成され、矩形の枠形状の部品であって、所要の剛性を有して、補強部品c及びパネル部品aを拘束する。
補強部品cは、外板部品の補強部品を模擬した部品で、幅50mm、長さ310mm、厚さ1.8mmの直方体形状で、引張強度が590MPa級の鋼板を採用した。そして、補強部品2の長手方向両端部をそれぞれ固定枠bに固定した。なお、補強部品cの延在方向は、上記パネル部品aの湾曲方向に直交する方向であり、平面視で、パネル部品aの湾曲の中央に位置する。
【0031】
そして、補強部品cの上面の長手方向中央部と、それに対向するパネル部品aの裏面(下面)とを接着剤で接着して接合部を構成した。ここで、接合部位置において、パネル部品aと補強部品cの面間距離(上下方向の隙間)を3mmとした。
接合部における接着に用いる接着剤としては、ゴム系で発泡硬化タイプのマスチック接着剤dを使用し、その塗布量を3gとした。そして、マスチック接着剤dを補強部品c側に塗布した後、パネル部品aと補強部品cを接着し、パネル部品aの外周部を固定枠bに固定した。
本実施例では、接合部構造として、発明例、比較例1、及び比較例3の3種類の場合でそれぞれ実行した。なお、マスチック接着剤dの塗布量は同量である。
【0032】
<発明例>
発明例は、図6(a)に示すように、接合部を構成するマスチック接着剤dに対し、金属板eを中央に埋設した場合の例である。金属板eには、一辺が1.5mmの正方形形状(厚さが1.8mm)で、引張強度が440MPa級の鋼板を用いた。
【0033】
<比較例1>
比較例1は、図6(b)に示すように、接合部を構成するマスチック接着剤dを、中実の円柱状に塗布した場合である。すなわち、通常の中実塗布で形成したものである。
<比較例2>
比較例2は、図6(c)に示すように、接合部を構成するマスチック接着剤dを、ドーナツ形状に塗布した場合である。すなわち、塗布したマスチック接着剤dの真ん中に空洞を設けた場合である。
なお、いずれの塗布条件の場合も、塗布作業を手作業で実行したため、塗布後のマスチック接着剤dの外周形状は滑らかな真円の面形状ではなく、若干凸凹になっていた。
【0034】
<熱処理>
上記の各塗布条件毎に、試験治具を加熱炉に装入し加熱した。加熱温度は、自動車の塗装焼付温度の170℃で実施した。具体的には、本実施形態の加熱処理は、外気温(約20℃)から速度10℃/minで昇温し、炉温が170℃に到達した時点から20min、炉温を保持する。その後、炉から各試験治具を取り出し冷却処理を施した。冷却処理は、具体的には、各試験治具に微風を当てて、80℃となるまで冷却速度20℃/minとなるように冷却を制御し、80℃以降は、各試験治具を放冷により自然冷却した。
【0035】
(評価)
<面ひけの評価>
各試験治具について、パネル部品aの中央部のひけ(歪)を歪測定装置で測定した。すなわち、歪測定装置で、測定対象部の面の傾きを測定した。その測定した数値を曲線近似後、微分した結果得られる2次微分値により数値化した。
そして、ひけ発生部断面の二次微分の変動(振幅)が大きいほど、ひけが大きく見えることは一般に知られている。本実施例でもその評価指標により実施した。
【0036】
図7図9に、歪測定装置による評価結果を示す。
図7は、本発明例の場合の評価結果である。図8は、比較例1の場合の評価結果である。図9は、比較例2の場合の評価結果である。ここで、各図における(a)は、パネル部品1表面に生じたゼブラパターンで示したものである。図8及び図9の矢印の位置が、面ひけが発生している位置を示す。
図8に示すように、比較例1である、通常塗布の条件では、パネル部品1の中央部に面ひけが発生している。また、図9に示すように、比較例2である、ドーナツ形状の塗布条件では、比較例1よりも更にひけが大きくなっている。
これに対し、本発明に基づき、金属板eを挿入した本発明例の塗布条件では、図7に示すように、ひけは全く認められなかった。
【0037】
以上のように、本発明によれば、現行の中実タイプ(比較例1相当)のマスチック接着剤dだけによる接着よりも、面ひけを抑制することが可能であることが示唆された。
【符号の説明】
【0038】
1 パネル部品
1a 裏面
2 補強部品
3 マスチック接着剤
4 金属板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9