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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079580
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
   D01D 7/00 20060101AFI20240604BHJP
   B65H 57/16 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
D01D7/00 C
D01D7/00 Z
B65H57/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176877
(22)【出願日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2022191951
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】荒木 峻平
(72)【発明者】
【氏名】松井 崇倫
【テーマコード(参考)】
3F110
4L045
【Fターム(参考)】
3F110AA02
3F110CA04
3F110DA02
3F110DB11
3F110DB12
3F110DB16
4L045AA05
4L045BA03
4L045DB14
4L045DB17
4L045DC32
(57)【要約】
【課題】糸掛部材から複数の支点ガイドへの糸掛けを適切に行う。
【解決手段】紡糸引取機1は、サクションガン80によって吸引保持された複数の糸Yを糸掛部材30によって保持させた状態で、糸掛部材30を複数の支点ガイド20に対して移動させることで、複数の支点ガイド20への糸掛けが行われる紡糸引取機1である。紡糸引取機1は、糸掛部材30とサクションガン80の間を走行する複数の糸Yが接触可能な位置に配置された糸接触部51を含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の配列方向に沿って複数のボビンが装着されたボビンホルダと、
前記配列方向に並べて配置され、前記複数のボビンに巻き取られる複数の糸に対応して設けられ、前記複数の糸が綾振りされる際の支点となる複数の支点ガイドと、
前記複数の糸を互いに分けて保持した状態で移動可能な糸掛部材と、
を備え、糸を吸引保持する吸引保持部材によって吸引保持された前記複数の糸を前記糸掛部材によって保持させた状態で、前記糸掛部材を前記複数の支点ガイドに対して移動させることで、前記複数の支点ガイドへの糸掛けが行われる糸巻取機であって、
前記糸掛部材と前記吸引保持部材の間を走行する前記複数の糸が接触可能な位置に配置された糸接触部をさらに備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
前記複数の支点ガイドへの糸掛けは、前記配列方向における一方側から他方側の順に行われており、
前記糸接触部は、前記配列方向における最も他方側にある前記支点ガイドよりもさらに他方側にあることを特徴とする請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記糸接触部は、所定の延在方向に延びる形状を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記糸接触部の前記延在方向における一方側の端部が他方側の端部よりも下方となるように傾斜している又は湾曲していることを特徴とする請求項3に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記ボビンホルダは、前記延在方向において前記糸接触部よりも前記一方側に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記複数の糸は、前記糸接触部と接触しながら、前記延在方向における前記糸接触部の一方側の端部に向かって移動するものであって、
前記延在方向における前記糸接触部の他方側の端部から前記複数の糸が脱落することを防止する脱落防止部をさらに備えることを特徴とする請求項3~5の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項7】
前記糸掛部材は、前記複数の糸を1本ずつ保持する複数の保持溝を有し、
前記複数の保持溝は、前記延在方向と平行な方向に沿って並べて配置されることを特徴とする請求項3~6の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項8】
前記糸接触部は、前記糸掛部材から前記複数の支点ガイドへの糸掛けが行われている間中、前記複数の糸が接触可能な形状を有することを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項9】
前記糸接触部は、前記複数の糸が面接触可能な接触面であることを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項10】
前記複数の支点ガイドに掛けられた前記複数の糸を、前記ボビンホルダに装着された前記複数のボビンに前記複数の糸を巻き掛けるための巻掛位置に案内するための巻掛ガイドをさらに備え、
前記糸接触部は前記巻掛ガイドと一体的に形成されていることを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項11】
前記糸接触部の下方に前記巻掛ガイドが配置されており、
鉛直方向に沿って延び、前記糸接触部から前記巻掛ガイドに前記複数の糸を案内するための案内部をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の糸巻取機。
【請求項12】
前記糸掛部材を、前記複数の支点ガイドへの糸掛けを開始する糸掛開始位置と、前記複数の支点ガイドへの糸掛けが完了したときの糸掛完了位置との間で移動させる駆動機構をさらに備えることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の糸巻取機。
【請求項13】
オペレータが前記吸引保持部材を操作して前記複数の支点ガイドへの糸掛けを行う作業空間が、前記ボビンホルダよりも前記配列方向における一方側又は他方側のうちの、前記配列方向において前記糸接触部に近い側に位置していることを特徴とする請求項1~12の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項14】
前記糸掛部材は、前記複数の糸が走行する糸走行方向において、前記複数の支点ガイドの下流側に配置されていることを特徴とする請求項1~13の何れか1項に記載の糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紡糸装置から紡出される複数の糸を巻き取る巻取部(特許文献1の巻取ユニット)を備える糸巻取機(特許文献1の紡糸巻取機)が開示されている。詳しく説明すると、巻取部は、複数の糸をそれぞれ巻き取る複数のボビンが所定の配列方向に沿って装着されたボビンホルダと、配列方向に並べて配置され、複数の糸がそれぞれ綾振りされる際の支点となる複数の支点ガイドとを有する。さらに、特許文献1の糸巻取機は、複数の糸を複数の支点ガイドに掛けるための糸掛部材(特許文献1の糸掛けガイド)を有する。糸掛部材には、複数の支点ガイドの数に対応して等間隔に並んだ複数の溝が形成されている。
【0003】
オペレータは、走行している複数の糸を各支点ガイドに掛ける際、糸掛部材の複数の溝に複数の糸を保持させる。その後、糸掛部材は、配列方向に並んだ複数の支点ガイドを斜めに横切る方向に移動する。これにより、複数の糸が糸掛部材から複数の支点ガイドに順次掛けられる。
【0004】
特許文献1のような糸巻取機において、紡糸装置から紡出される複数の糸を複数の支点ガイドに掛ける際には、複数の糸を纏めて吸引するサクションガン(吸引保持部材)が用いられる。具体的には、サクションガンによって複数の糸を纏めて吸引させた状態で、複数の糸が糸掛部材の複数の溝に掛けられる。さらに、サクションガンによって複数の糸を吸引させた状態を維持したまま、糸掛部材を移動させることで、糸掛部材から複数の支点ガイドへの糸掛けが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-188784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、サクションガンの糸を吸引する吸引口で発生した気流によって引き起こされた糸揺れが、糸走行方向における糸掛部材の上流側を走行する複数の糸に伝播すると、近接する糸同士が絡まったり、糸掛部材に保持された糸の位置が定まらない等といった問題が生じる。そうすると、糸掛部材から各支点ガイドへの糸の受け渡しが適切に行えなくなるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、糸掛部材から複数の支点ガイドへの糸掛けを適切に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の糸巻取機は、所定の配列方向に沿って複数のボビンが装着されたボビンホルダと、前記配列方向に並べて配置され、前記複数のボビンに巻き取られる複数の糸に対応して設けられ、前記複数の糸が綾振りされる際の支点となる複数の支点ガイドと、前記複数の糸を互いに分けて保持した状態で移動可能な糸掛部材と、を備え、糸を吸引保持する吸引保持部材によって吸引保持された前記複数の糸を前記糸掛部材によって保持させた状態で、前記糸掛部材を前記複数の支点ガイドに対して移動させることで、前記複数の支点ガイドへの糸掛けが行われる糸巻取機であって、前記糸掛部材と前記吸引保持部材の間を走行する前記複数の糸が接触可能な位置に配置された糸接触部をさらに備えることを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、吸引保持部材によって吸引されている複数の糸を、吸引保持部材と糸掛部材との間で糸接触部に接触させることによって、吸引保持部材で生じた気流によって引き起こされた糸揺れが糸掛部材まで伝播することを抑制できる。このため、糸掛部材に保持された複数の糸を、糸揺れが抑制された状態で各支点ガイドに受け渡すことができる。よって、糸掛部材から複数の支点ガイドへの糸掛けを適切に行うことができる。
【0010】
本発明の糸巻取機において、前記複数の支点ガイドへの糸掛けは、前記配列方向における一方側から他方側の順に行われており、前記糸接触部は、前記配列方向における最も他方側にある前記支点ガイドよりもさらに他方側にあることが好ましい。
【0011】
仮に、糸掛部材が、複数の支点ガイドへの糸掛けの途中で、配列方向において糸接触部を越えてしまうと、糸接触部と吸引保持部材の位置関係によっては糸接触部から複数の糸が外れてしまうおそれがある。これを防ぐために吸引保持部材の位置を調整する必要があるが、装置の構成によっては、他の部品等の存在によって吸引保持部材を置くことができる位置が制限されることがある。本発明によれば、糸接触部と吸引保持部材の位置関係にかかわらず、糸掛部材が、複数の支点ガイドへの糸掛けの途中で、配列方向において糸接触部を越えることがない。よって、複数の支点ガイドへの糸掛けの途中で複数の糸が糸接触部から外れてしまうことを抑制できる。
【0012】
本発明の糸巻取機において、前記糸接触部は、所定の延在方向に延びる形状を有していることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、延在方向に延びる糸接触部に対して複数の糸を接触させ易くなる。
【0014】
本発明の糸巻取機において、前記糸接触部の前記延在方向における一方側の端部が他方側の端部よりも下方となるように傾斜している又は湾曲していることが好ましい。
【0015】
糸掛部材から各支点ガイドへの複数の糸の受け渡しが完了した後、各糸をボビンホルダに装着されたボビンに巻き取らせる工程に移行するために、複数の糸を糸接触部から離隔させる動作が行われる。本発明によれば、複数の糸を、延在方向における糸接触部の他方側の端部から一方側の端部に向かう方向に沿って、重力の作用を利用して糸接触部上を滑らせるように移動させることができる。これにより、複数の糸を移動させるために必要な力を低減することができ、複数の糸を糸接触部からスムーズに離隔させることができる。
【0016】
本発明の糸巻取機において、前記ボビンホルダは、前記延在方向において前記糸接触部よりも前記一方側に配置されていることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、ボビンホルダは延在方向において糸接触部よりも一方側に配置されている。このため、複数の糸を、糸接触部に沿って下方に移動させ、延在方向において糸接触部よりも一方側で糸接触部から離隔させたとき、複数の糸は糸接触部よりもボビンホルダに近い箇所に位置することになる。そうすると、糸接触部から離隔させた複数の糸を、延在方向において糸接触部を越えさせることなく、そのままボビンホルダがある位置まで移動させることができる。これにより、糸掛部材から各支点ガイドへの複数の糸の受け渡しが完了した後に、各糸をボビンホルダに装着されたボビンに巻き取らせる工程にスムーズに移行することができる。
【0018】
本発明の糸巻取機において、前記複数の糸は、前記糸接触部と接触しながら、前記延在方向における前記糸接触部の一方側の端部に向かって移動するものであって、前記延在方向における前記糸接触部の他方側の端部から前記複数の糸が脱落することを防止する脱落防止部をさらに備えることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、糸接触部に接触させた複数の糸が、糸接触部の他方側の端部から意図せずに、脱落してしまうことを防ぐことができる。
【0020】
本発明糸巻取機において、前記糸掛部材は、前記複数の糸を1本ずつ保持する複数の保持溝を有し、前記複数の保持溝は、前記延在方向と平行な方向に沿って並べて配置されることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、糸掛部材の複数の保持溝に掛けられた複数の糸が糸接触部に至るまでにおいて、各糸の糸道を通る糸の走行面は、延在方向と平行な状態を保ったままとなる。言い換えれば、複数の保持溝と糸接触部との間を走行する複数の糸の走行面は、ねじられることがない。このため、糸接触部に接触する複数の糸の屈曲角度が各糸の間で均一となり、屈曲角度の影響を受ける糸品質を各糸の間で均質にすることができる。
【0022】
本発明の糸巻取機において、前記糸接触部は、前記糸掛部材から前記複数の支点ガイドへの糸掛けが行われている間中、前記複数の糸が接触可能な形状を有することが好ましい。
【0023】
本発明によれば、糸掛部材から各支点ガイドへの糸掛けの間中、複数の糸を糸接触部に接触させ続けることが可能である。すなわち、糸掛部材から各支点ガイドへの糸掛けの途中で、複数の糸のうちの一部又は全部が糸接触部から外れてしまうことを回避できる。このため、糸掛部材に保持された複数の糸は糸揺れが確実に抑制された状態で支点ガイドに受け渡される。これにより、糸掛部材から複数の支点ガイドへの糸掛けをさらに適切に行うことができる。
【0024】
本発明の糸巻取機において、前記糸接触部は、前記複数の糸が面接触可能な接触面であることが好ましい。
【0025】
複数の糸と糸接触部との接触面積が大きいほど、各糸が糸接触部から受ける負荷は少なくなる。本発明によれば、複数の糸を糸接触部と面接触させることによって、各糸と糸接触部との接触面積が増える。このため、複数の糸をエッジ形状である糸接触部と接触させる場合、すなわち、複数の糸を糸接触部と点接触させる場合と比較して、複数の糸が受ける負荷を低減できる。これにより、複数の糸と糸接触部との接触に起因して複数の糸の糸切れや撓みが生じることを抑制することができる。
【0026】
本発明の糸巻取機において、前記複数の支点ガイドに掛けられた前記複数の糸を、前記ボビンホルダに装着された前記複数のボビンに前記複数の糸を巻き掛けるための巻掛位置に案内するための巻掛ガイドをさらに備え、前記糸接触部は前記巻掛ガイドと一体的に形成されていることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、糸掛部材から各支点ガイドへの複数の糸の受け渡しが完了した後、糸接触部から離間させる複数の糸を、糸接触部と一体的に形成された巻掛ガイドにそのまま掛けることができる。このため、各糸をボビンホルダに装着されたボビンに巻き取らせる工程にスムーズに移行することができる。
【0028】
本発明の糸巻取機において、前記糸接触部の下方に前記巻掛ガイドが配置されており、鉛直方向に沿って延び、前記糸接触部から前記巻掛ガイドに前記複数の糸を案内するための案内部をさらに備えることが好ましい。
【0029】
糸接触部から離間させる複数の糸を、案内部によって巻掛ガイドまでスムーズに案内することできる。このため、糸掛部材から各支点ガイドへの複数の糸の受け渡しが完了した後、各糸をボビンホルダに装着されたボビンに巻き取らせる工程にさらにスムーズに移行することができる。
【0030】
本発明の糸巻取機において、前記糸掛部材を、前記複数の支点ガイドへの糸掛けを開始する糸掛開始位置と、前記複数の支点ガイドへの糸掛けが完了したときの糸掛完了位置との間で移動させる駆動機構をさらに備えることが好ましい。
【0031】
駆動機構によって糸掛部材を移動させる構成では、糸掛部材に保持された複数の糸の糸揺れが発生した場合に、糸掛部材の位置を微調整して支点ガイドに受け渡す糸の位置を補正することができない。このような構成において、本発明の糸接触部を設けることはより効果的である。
【0032】
本発明の糸巻取機において、オペレータが前記吸引保持部材を操作して前記複数の支点ガイドへの糸掛けを行う作業空間が、前記ボビンホルダよりも前記配列方向における一方側又は他方側のうちの、前記配列方向において前記糸接触部に近い側に位置していることが好ましい。
【0033】
本発明によれば、オペレータが、周囲にボビンホルダや支点ガイドが配置されていない広いスペースで作業することができる。
【0034】
本発明の糸巻取機において、前記糸掛部材は、前記複数の糸が走行する糸走行方向において、前記複数の支点ガイドの下流側に配置されていることが好ましい。
【0035】
吸引保持部材に吸引される複数の糸は、吸引保持部材に集束する。すなわち、糸掛部材に保持された複数の糸のピッチは、糸掛部材の下流側にある吸引保持部材に向かうにつれて狭くなる。この点、本発明では、糸掛部材が糸走行方向において支点ガイドの下流側に配置されている。このため、糸掛部材の下流側でピッチが狭くなる複数の糸を支点ガイドに掛けるのではなく、ピッチが揃った状態の複数の糸を支点ガイドに掛けることができる。よって、本発明の構成では、糸掛部材が支点ガイドの上流側に配置されている場合と比べて、支点ガイドへの糸掛けがし易い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本実施形態に係る紡糸引取機の側面図である。
図2】巻取部の正面図である。
図3】複数の支点ガイドの移動を示す説明図である。
図4】糸掛部材の拡大図である。
図5】糸掛開始位置から糸掛け完了位置まで移動する糸掛部材を示す図である。
図6】板金部材の拡大正面図である。
図7】糸掛部材とサクションガンの間を走行する複数の糸が糸接触部に接触しているときの様子を示す上面図である。
図8】糸掛部材とサクションガンの間を走行する複数の糸が糸接触部に接触しているときの板金部材の拡大斜視図である。
図9】第1セパレータ及び第2セパレータを示す正面図である。
図10】第1セパレータに複数の糸が掛けられたときの様子を上から見た平面図である。
図11】第1セパレータから第2セパレータに糸が受け渡されるときの様子を示す正面図である。
図12】第2セパレータを糸巻掛位置に移動させたときの様子を示す正面図である。
図13】第2セパレータから各ボビンに糸が巻き掛けられるときの様子を示す正面図である。
図14】変形例に係る糸掛部材の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の実施の形態について説明する。説明の便宜上、図1及び図2に示す方向を上下方向、左右方向及び前後方向とする。上下方向は、重力が作用する鉛直方向である。左右方向は、上下方向と直交する方向である。前後方向(本発明の配列方向)は、上下方向及び左右方向の両方と直交する方向であり、複数のボビンB(後述)が並べて配置される方向である。また、糸Y(後述)が走行する方向を糸走行方向とする。
【0038】
(紡糸引取機1)
本実施形態に係る紡糸引取機1(本発明の糸巻取機)の概略について、図1を参照しつつ説明する。図1は、紡糸引取機1の側面図である。図1の紙面手前側が右側である。
【0039】
紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出される複数(例えば、本実施形態では32本)の糸Yを引き取って複数のボビンBにそれぞれ巻き取り、複数のパッケージPを同時に形成するように構成されている。本実施形態の紡糸引取機1は、例えば、紡糸装置2から紡出される32本の糸を、一対の巻取部5(後述)によって16本ずつ巻き取るように構成されている。各糸Yは、複数のフィラメント(不図示)を有するマルチフィラメント糸である。各フィラメントは、例えばポリエステルからなる合成繊維である。
【0040】
紡糸引取機1は、例えば、第1ゴデットローラ3と、第2ゴデットローラ4と、一対の巻取部5と、制御装置6と、糸掛部材30(図4参照)と、板金部材50(図2参照)とを備える。第1ゴデットローラ3及び第2ゴデットローラ4は、複数の糸Yを引き取って糸走行方向における下流側へ送るように構成されている。第1ゴデットローラ3及び第2ゴデットローラ4は、一対の巻取部5の前端部の上側の位置から斜め後ろ上側へ延びた長尺の支持体7に支持されている。なお、図1では、一対の巻取部5のうちの一方が図示されている。また、図1において、糸掛部材30の記載は省略している。
【0041】
第1ゴデットローラ3は、回転軸方向が左右方向と略平行なローラである。第1ゴデットローラ3は、支持体7の前端部に取り付けられている。第1ゴデットローラ3は、不図示のモータによって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、左右方向に並べて第1ゴデットローラ3に巻きかけられた状態で第2ゴデットローラ4へ送られる。
【0042】
第2ゴデットローラ4は、回転軸方向が左右方向と略平行なローラである。第2ゴデットローラ4は、第1ゴデットローラ3の上側且つ後側に配置されている。第2ゴデットローラ4は、不図示のモータによって回転駆動される。第2ゴデットローラ4は、第1ゴデットローラ3の斜め後ろ上側に配置され、支持体7に取り付けられている。第2ゴデットローラ4は、支持体7の延在方向に沿って移動可能に構成されている。第2ゴデットローラ4は、例えば、不図示のモータ、複数のプーリ及び無端ベルトを有するローラ移動機構9によって、図1の二点鎖線で示された前側位置と実線で示された後側位置との間で移動することが可能である。前側位置は、後側位置よりも前側且つ下側の位置であり、後側位置よりも第1ゴデットローラ3に近接する位置である。前側位置は、第2ゴデットローラ4への糸掛けが行われるときの位置である。後側位置は、ボビンホルダ13に装着されたボビンBに糸Yが巻き取られる巻取動作が行われるときの位置である。また、後側位置は、後述する複数の支点ガイド20への糸掛けが行われるときの位置でもある。
【0043】
複数の糸Yの各々は、第1ゴデットローラ3から第2ゴデットローラ4に送られ、さらに、一対の巻取部5のいずれかへ送られる。複数の糸Yのうち半分は一方の巻取部5へ送られ、残り半分は他方の巻取部5へ送られる。第1ゴデットローラ3から第2ゴデットローラ4へ走行する糸Yが通る糸道は、斜め後ろ上側へ延びている。
【0044】
糸走行方向において、第1ゴデットローラ3と第2ゴデットローラ4との間には、規制ガイド8が設けられている。規制ガイド8は、複数の糸Yを左右方向に並べて保持し、複数の糸Yの左右方向における間隔を所定間隔に規定するガイドである。
【0045】
一対の巻取部5の各々は、複数の糸Yを複数のボビンBにそれぞれ巻き取って、複数のパッケージPを同時に形成するように構成されている。一対の巻取部5は、第1ゴデットローラ3及び第2ゴデットローラ4の下側に配置されている。一対の巻取部5は、互いに左右対称(面対称)となるように配置されている。より詳しくは、左側に配置された巻取部5と右側に配置された巻取部5は、左右方向において第2ゴデットローラ4の両側に配置され、第2ゴデットローラ4から送られる複数の糸Yの糸道を隔てて互いに向かい合うように配置されている。一対の巻取部5の各々は、第2ゴデットローラ4から送られる複数の糸を半分ずつ(例えば、本実施形態では16本ずつ)巻き取るように構成されている。
【0046】
制御装置6は、例えば一般的なコンピュータ装置であり、紡糸引取機1全体を制御するように構成されている。制御装置6は、紡糸引取機1の各部と電気的に接続されており、所定のプログラムに従って各部を制御する。制御装置6は、オペレータによる入力操作が行われることが可能な不図示の入力部を有する。
【0047】
(巻取部5の構成)
巻取部5の詳細な構成について、図1図3を参照しつつ以下に説明する。図2は、巻取部5の正面図である。図2の紙面手前側が前側である。図3は、後述する複数の支点ガイド20の移動を示す説明図である。なお、以下において、一対の巻取部5のうちの左側に配置された巻取部5の詳細な構成についての説明を行う。上述したように各巻取部5は左右対称に構成されている。すなわち、右側に配置された巻取部5の構成は左側に配置された巻取部5の構成と同様であるため、説明を省略する。図2に示すように、巻取部5は、支持フレーム11と、ターレット12と、2つのボビンホルダ13とを備える。
【0048】
支持フレーム11は、前後方向に延びた部材である。支持フレーム11は、立設された機台14に片持ち支持されて前方へ突出している(図1参照)。ターレット12は、回転軸方向が前後方向と略平行な円板状の部材である。ターレット12は、機台14に回転可能に支持されている。ターレット12は、不図示のターレットモータによって回転駆動される。2本のボビンホルダ13の各々は、ターレット12に回転自在に支持されており、ターレット12の前面から前側に延びている。各ボビンホルダ13の回転軸方向は、前後方向と略平行である。前後方向から見たときに、2本のボビンホルダ13は、ターレット12の中心点を対称点として点対称に配置されている(図1参照)。各ボビンホルダ13には、複数の糸Yにそれぞれ対応する複数のボビンBが前後方向に並べて装着されている。複数のボビンBは、ボビンホルダ13に回転可能に支持されている。2つのボビンホルダ13の各々は、不図示の巻取モータによって個別に回転駆動される。
【0049】
さらに、巻取部5は、複数のガイドユニット15と、複数のトラバースガイド16と、コンタクトローラ17とを備える。より詳しくは、支持フレーム11の上側に、前後方向に延びたガイド支持体18が設けられている(図1参照)。複数のガイドユニット15は、ガイド支持体18に装着され、前後方向に沿って移動可能に構成されている。複数のガイドユニット15は、複数のボビンBにそれぞれ対応して設けられ、前後方向に沿って配列されている。複数のガイドユニット15の各々は、本体19と、支点ガイド20とを有する。本体19は、ガイド支持体18に移動可能に取り付けられている。支点ガイド20は、本体19に固定されており、糸Yが各トラバースガイド16によって綾振りされる際の支点となる。
【0050】
複数のガイドユニット15(すなわち、複数の支点ガイド20)は、糸YがボビンBに巻き取られるときの離隔位置(図1参照)と、離隔位置と比べて前後方向において互いに近接した近接位置(図3参照)との間で移動可能に構成されている。より具体的には、例えば、前後方向において互いに隣接するガイドユニット15は、不図示のベルトによって互いに連結されている。最も後側のガイドユニット15は、例えば不図示のリニアスライダによって前後方向に移動可能となっている。リニアスライダが動作することにより、複数のガイドユニット15は、互いに離隔した離隔位置と、離隔位置と比べて前側に集合した近接位置との間で移動可能である。後述するように、複数の支点ガイド20への糸掛けは、複数の支点ガイド20が近接位置に位置しているときに行われる。
【0051】
複数のトラバースガイド16は、前後方向に並べて配置されている。複数のトラバースガイド16の各々は、例えば不図示のトラバースモータによって駆動され、対応する糸Yを前後方向に綾振りする。コンタクトローラ17は、回転軸方向が前後方向と略平行なローラであり、上側のボビンホルダ13のすぐ上方に配置されている。コンタクトローラ17は、上側のボビンホルダ13に支持された複数のパッケージPの表面に接触することで、各パッケージPの表面に接圧を付与して各パッケージPの形状を整える。
【0052】
以上の構成を有する巻取部5において、上側のボビンホルダ13が回転駆動されると、トラバースガイド16によって綾振りされた糸YがボビンBに巻き取られて、パッケージPが形成される。また、パッケージPが満巻きになった場合、ターレット12が回転させられることにより、2本のボビンホルダ13の上下の位置が入れ換わる。これにより、下側に位置していたボビンホルダ13が上側に移動し、このボビンホルダ13に装着されたボビンBに糸Yを巻き取って再びパッケージPを形成することができる。また、満巻になったパッケージPが装着されたボビンホルダ13は下側に移動する。満巻になったパッケージPは、例えば不図示のパッケージ回収装置によって回収される。
【0053】
(糸掛部材30)
次に、糸掛部材30について、図2図4及び図5を参照しつつ説明する。糸掛部材30は、複数の糸Yを複数の支点ガイド20に掛けるためのものである。図2に示すように、糸掛部材30は、糸走行方向において複数の支点ガイド20の下流側に配置されている。糸掛部材30は、各巻取部5に対応して設けられている。すなわち、本実施形態では、一対の糸掛部材30が設けられている。一対の糸掛部材30は、互いにほぼ左右対称に構成されており、その構成は同様である。以下、一対の巻取部5のうちの左側に配置された巻取部5に対応して設けられた糸掛部材30について説明し、右側に配置された巻取部5に対応して設けられた糸掛部材30の説明は省略する。
【0054】
糸掛部材30は、概ね櫛状の平板部材である。図4に示すように、糸掛部材30は、複数の糸Yを1本ずつ保持する複数の保持溝31が形成されている。複数の保持溝31は、少なくとも左右方向に並べて配置されている。複数の保持溝31は、後述の糸接触部51の延在方向と平行な方向に沿って並べて配置される。各保持溝31の入口は、糸掛部材30の後部分に形成されている。複数の保持溝31のピッチは、規制ガイド8によって規定される複数の糸Yの左右方向におけるピッチと略等しい。なお、複数の保持溝31のピッチとは、隣接する保持溝31の中心間の距離である。糸掛部材30は、複数の保持溝31に複数の糸Yが掛けられることによって、複数の糸Yを互いに分けて保持する。なお、本実施形態の糸掛部材30では、図4に示すように、複数の保持溝31の入口のピッチと、溝の底部分のピッチとは略同じである。しかしながら、図14に示すように、例えば、糸掛部材30は、複数の保持溝31の入口のピッチよりも、溝の底部分のピッチの方が広くなるように構成されていてもよい。具体的には、保持溝31の入口から底部分に向かう溝の深さ方向を、各保持溝31の間で互いに異なるものとすることで、複数の保持溝31の入口のピッチよりも底部分のピッチを広くなる。これにより、糸掛部材30に掛けられた糸のピッチは広がるので、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けがし易くなる。この場合において、複数の保持溝31の入口のピッチは、規制ガイド8によって規定される複数の糸Yの左右方向におけるピッチと略等しい。
【0055】
糸掛部材30は、駆動機構40を介して巻取部5に取り付けられている。より具体的には、上下方向において、巻取部5の支持フレーム11とガイド支持体18との間に、位置が固定された支持部材35(図3及び図5参照)が設けられている。支持部材35は、例えば、前後方向に延びた部材である。駆動機構40は巻取部5の支持部材35に取り付けられている。さらに、糸掛部材30は、概ねL字型の介在部材(図5参照)を介して駆動機構40に取り付けられている。すなわち、糸掛部材30は、駆動機構40を介して巻取部5の支持部材35に取り付けられている。
【0056】
(駆動機構40)
本実施形態の紡糸引取機1は、糸掛部材30を移動駆動するように構成された駆動機構40をさらに含む。駆動機構40は、各巻取部5に対応して設けられている。すなわち、本実施形態では、一対の駆動機構40が設けられている。一対の駆動機構40は、互いにほぼ左右対称に構成されており、その構成は同様である。以下、一対の巻取部5のうちの左側に配置された巻取部5に対応して設けられた駆動機構40について説明し、右側に配置された巻取部5に対応して設けられた駆動機構40の説明は省略する。
【0057】
駆動機構40は、糸掛部材30を、複数の支点ガイド20への糸掛けを開始する糸掛開始位置と、複数の支点ガイド20への糸掛けが完了したときの糸掛完了位置との間で移動させる。糸掛開始位置は、近接位置にある複数の支点ガイド20のうちの最も後端にある支点ガイド20付近の位置である(図5の二点鎖線を参照)。糸掛完了位置は、複数の支点ガイド20のうちの最も前端にある支点ガイド20よりもさらに前側の位置である(図5の実線を参照)。また、左右方向において、糸掛開始位置は、糸掛完了位置よりも右側にある。糸掛開始位置にある糸掛部材30は、左斜め前に向かって移動することによって糸掛完了位置に移動する。
【0058】
駆動機構40は、巻取部5の支持部材35に取り付けられている。図5に示すように、駆動機構40は、支持アーム61と、案内レール62と、揺動アーム63と、リニアスライダ64と、エアシリンダ(不図示)とを有する。概要として、介在部材42を介して糸掛部材30が取り付けられた支持アーム61が、リニアスライダ64の動作によって、案内レール62に沿って少なくとも前後方向に移動する。案内レール62は、エアシリンダ(不図示)の動作によって揺動アーム63と一体的に揺動することにより、支持アーム61及び糸掛部材30が移動する方向を切り換えることが可能である。
【0059】
支持アーム61は、少なくとも前後方向に延びた長尺部材である。支持アーム61の前端部には、介在部材42を介して糸掛部材30が固定されている。案内レール62は、少なくとも前後方向に延びた略直線状のレールである。案内レール62は、支持アーム61を少なくとも前後方向に案内するように配置されている。
【0060】
揺動アーム63は、例えば、少なくとも前後方向に延びた板状のアームである。揺動アーム63は、例えば、図5に示すように、駆動機構40の前側部分に配置されている。揺動アーム63の後端部は、上下方向を軸方向とした揺動軸75を介して支持部材35に接続されている。これにより、揺動アーム63は、案内レール62と一体的に揺動可能である。揺動アーム63が、揺動軸75を中心に揺動することで、案内レール62の延びる方向が変更される。これにより、支持アーム61及び糸掛部材30が移動する方向が切り換わる。
【0061】
リニアスライダ64は、支持アーム61を前後方向に移動させるための装置である。リニアスライダ64は、例えば圧縮空気によって動作する公知のロッドレスシリンダである。リニアスライダ64は、シリンダ本体81と、スライダ82とを有する。シリンダ本体81は、前後方向に延びている。シリンダ本体81は、例えば不図示の固定具によって支持部材35の後側部分に固定されている。つまり、シリンダ本体81は、支持部材35と一体的に設けられている。或いは、シリンダ本体81は、例えば支持部材35に溶接されていても良い。スライダ82は、シリンダ本体81に沿って前後方向にスライド可能に構成されている。スライダ82には、支持アーム61が揺動可能に取り付けられている。スライダ82は、シリンダ本体81への圧縮空気の供給及びシリンダ本体81からの圧縮空気の排出によって、シリンダ本体81の前端部近傍と後端部近傍との間で移動することが可能である。
【0062】
不図示のエアシリンダは、揺動アーム63及び案内レール62を揺動させるための装置である。なお、エアシリンダの代わりに、流体によって駆動される他のシリンダ機構、又は電動式の駆動機構(例えばボールねじ機構又はラックアンドピニオン機構など)が設けられていても良い。
【0063】
以上に説明した駆動機構40が、複数の糸Yを互いに分けて保持した状態の糸掛部材30を移動させることによって、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けが行われる。本実施形態において、糸掛部材30による複数の支点ガイド20への糸掛けは、前後方向の後側から前側の順に行われている。前後方向における後側が、本発明の配列方向における一方側に相当する。また、前後方向における前側が、本発明の配列方向における他方側に相当する。
【0064】
ここで、一般的に、紡糸装置2から紡出される複数の糸Yを複数の支点ガイド20に掛ける際には、複数の糸Yを纏めて吸引するサクションガン80(本発明の吸引保持部材、図7参照)が用いられる。具体的には、サクションガン80によって複数の糸Yを纏めて吸引させた状態で、複数の糸Yが糸掛部材30の複数の保持溝31に掛けられる。さらに、サクションガン80によって複数の糸Yを吸引させた状態を維持したまま、駆動機構40によって糸掛部材30を移動させることで、糸掛部材30から複数の支点ガイドへの糸掛けが行われる。しかし、サクションガン80の糸Yを吸引する吸引口80aで発生した気流によって引き起こされた糸揺れが、糸走行方向における糸掛部材30の上流側を走行する複数の糸Yに伝播すると、近接する糸Y同士が絡まったり、糸掛部材30に保持された糸Yの位置が定まらない等といった問題が生じる。そうすると、糸掛部材30から各支点ガイド20への糸Yの受け渡しが適切に行えなくなるおそれがある。そこで、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けを適切に行うことために、本実施形態の紡糸引取機1は、糸接触部51を含む構成となっている。
【0065】
(板金部材50)
以下、糸接触部51を含む板金部材50について図2図6及び図7を参照しつつ説明する。板金部材50は、各巻取部5に対応して設けられている。すなわち、本実施形態では、一対の板金部材50が設けられている。一対の板金部材50は、互いにほぼ左右対称に構成されており、その構成は同様である。以下、一対の巻取部5のうちの左側に配置された巻取部5に対応して設けられた板金部材50について説明し、右側に配置された巻取部5に対応して設けられた板金部材50の説明は省略する。
【0066】
図2に示すように、板金部材50は、巻取部5の右側部分に配置されている。板金部材50は、脚部材60を介して床面に設置されている。脚部材60は、板金部材50の後側において、板金部材50の上端付近まで延びている(図6参照)。板金部材50は、左右方向及び上下方向に延びる金属製の板状部材である。前後方向から見たとき、板金部材50は、概ね台形形状である。前後方向から見たときにおいて、板金部材50の左上の角及び左下の角はR加工されている。
【0067】
図2に示すように、上下方向において、板金部材50の上面は支点ガイド20よりも下方となる位置にある。但し、板金部材50の上面は支点ガイド20よりも上方となる位置にあってもよい。
【0068】
図6に示すように、板金部材50の上面には、複数の糸Yと接触可能な糸接触部51が形成されている。板金部材50の上面は、左端が右端よりも下方となるように傾斜している。言い換えれば、糸接触部51の延びる延在方向は、左下から右上に向かって斜めに延びる方向である。さらに言い換えると、糸接触部51は、延在方向における左側(一方側)の端部が右側(他方側)の端部よりも下方となるように傾斜している。本実施形態において、上下方向から見たとき左右方向と延在方向とは平行である。前後方向から見たとき延在方向は左右方向に対して傾いている。前後方向から見たときにおける延在方向の左右方向に対する傾きは、例えば10度であるが、これに限られない。
【0069】
図7に示すように、板金部材50は、糸接触部51が糸掛部材30とサクションガン80の間を走行する複数の糸Yと接触可能な位置に配置されている。さらに具体的には、板金部材50は、前後方向の最も前側にある支点ガイド20よりもさらに前側に配置されている。すなわち、糸接触部51は、前後方向の最も前側にある支点ガイド20よりもさらに前側にある。
【0070】
さらに、糸接触部51は、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けが行われている間中、複数の糸Yが接触可能な形状を有している。具体的に説明すると以下の通りである。糸接触部51と接触している複数の糸Yは、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けに伴って、糸接触部51の左側の端部に向かって左斜め下に移動する。糸接触部51の延在方向における長さは、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けが行われている間中、糸掛けに伴って移動する複数の糸Yが糸接触部51の左側の端部から脱落しない程度に十分な長さである。
【0071】
また、図2に示すように、板金部材50は、左右方向においてボビンホルダ13よりも右側にある。言い換えれば、ボビンホルダ13は、左右方向(または延在方向)において糸接触部51よりも左側(一方側)にある。より詳細には、ボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPを形成する巻取位置にあるボビンホルダ13は、左右方向(または延在方向)において糸接触部51よりも左側(一方側)にある。
【0072】
糸接触部51は、複数の糸Yが面接触可能な接触面であることが好ましい。例えば、糸接触部51は、左右方向から見たときに、R加工された接触面を有する。
【0073】
図6に示すように、板金部材50の上面には、左右方向(または延在方向)における糸接触部51の右側(他方側)の端部から複数の糸Yが脱落することを防止する脱落防止部52が形成されている。脱落防止部52は、板金部材50の上面の右端部に形成された突起部分である。脱落防止部52の上端は、糸接触部51の右端部よりも上方に位置している。
【0074】
図6に示すように、脚部材60には、ラムダガイド53(本発明の巻掛ガイド)が取り付けられている。ラムダガイド53は、糸掛部材30によって複数の支点ガイド20に掛けられた複数の糸Yを、巻取位置にあるボビンホルダ13に装着された複数のボビンBに複数の糸Yを巻き掛けるための巻掛位置に案内するためのガイドである。ラムダガイド53は、糸接触部51の下方に配置されている。ラムダガイド53は、待機位置(図6参照)と、揺動位置(図11参照)との間で移動可能である。より詳細には、ラムダガイド53は、例えば、不図示のエアシリンダによって駆動されることで、前後方向に延びる回転軸53aを中心に左側に揺動することで、待機位置から揺動位置に移動可能である(図6の実線矢印参照)。複数の糸Yは、ラムダガイド53に掛けられるのに伴って、後述の第1セパレータ91に掛けられる。第1セパレータ91に掛けられた複数の糸Yは、さらに第2セパレータ92(後述)に捕捉された後、複数のボビンBごとに定められた各巻掛位置に案内される。ラムダガイド53から第1セパレータ91及び第2セパレータ92を経て各巻掛位置に案内されるまでの動作手順は、後述にて詳しく説明する。
【0075】
本実施形態において、板金部材50には、糸接触部51と脱落防止部52が形成されている。また、ラムダガイド53は脚部材60に取り付けられている。そして、板金部材50と脚部材60とは接続されている。すなわち、糸接触部51と脱落防止部52とラムダガイド53とは、一体的に形成されている。
【0076】
また、図6に示すように、板金部材50の左側の側面には、案内部54が形成されている。案内部54は、糸接触部51からラムダガイド53に複数の糸Yを案内するためのものである。案内部54は、上下方向に沿って延びる。本実施形態において、案内部54は、糸接触部51の左端部からラムダガイド53に至る板金部材50の側面である。
【0077】
さらに、図9に示すように、本実施形態の紡糸引取機1は、第1セパレータ91と、第2セパレータ92とを有する。以下、一対の巻取部5のうちの左側に配置された巻取部5に対応して設けられた第1セパレータ91及び第2セパレータ92について説明し、右側に配置された第1セパレータ91及び第2セパレータ92の説明は省略する。なお、図1及び図2では、第1セパレータ91及び第2セパレータ92の記載は省略していることに留意されたい。また、図9では、説明のため、ターレット12等の各部の記載を適宜省略している。
【0078】
第1セパレータ91は、ラムダガイド53に掛けられた複数の糸Yを一旦保持し、その後、第2セパレータ92に受け渡すためのものである。第1セパレータ91は、例えば脚部材60に取り付けられている。なお、第1セパレータ91は、脚部材60以外の部材に取り付けられていてもよい。図9に示すように、第1セパレータ91は、複数の第1セパレータガイド91aと、回転軸91bとを含む。
【0079】
複数の第1セパレータガイド91aは、前後方向に沿って配列されている(図10参照)。複数の第1セパレータガイド91aは、糸YがボビンBに巻き取られるときの離隔位置と、離隔位置と比べて前後方向において互いに近接した近接位置(図10参照)との間で移動可能に構成されている。複数の第1セパレータガイド91aは、例えば、不図示のリニアスライダによって、離隔位置と近接位置との間で移動可能である。各第1セパレータガイド91aが離隔位置にあるときの隣接する第1セパレータガイド91a同士の前後方向におけるピッチは、離隔位置にある複数の支点ガイド20の隣接する支点ガイド20同士の前後方向におけるピッチと略同じである。なお、隣接する第1セパレータガイド91a同士の前後方向におけるピッチとは、第1セパレータガイド91aと糸Yとが接触する箇所を接触点としたとき、隣接する第1セパレータガイド91aの接触点同士の前後方向における距離である。また、隣接する支点ガイド20同士の前後方向におけるピッチとは、支点ガイド20と糸Yとが接触する箇所を接触点としたとき、隣接する支点ガイド20の接触点同士の前後方向における距離である。
【0080】
各第1セパレータガイド91aは、ラムダガイド53の糸走行方向における上流側且つ各支点ガイド20の糸走行方向における下流側で、揺動位置にあるラムダガイド53に掛けられた複数の糸Yが掛けられるガイドである。各第1セパレータガイド91aは、例えば、水平面と略平行な面を有する板状部材である。各第1セパレータガイド91aは、後側に向かって開口した凹形状となっている。
【0081】
回転軸91bは、前後方向に延びている。第1セパレータ91は、回転軸91bを中心に回転することで、待機位置(図9参照)と、受け渡し位置(図11参照)との間で揺動可能である。第1セパレータ91は、例えば、不図示のエアシリンダなどによって駆動されることで揺動する。
【0082】
第2セパレータ92は、第1セパレータ91から受け渡された複数の糸YをボビンBに巻き掛けるための巻掛位置に移動させるためのものである。第2セパレータ92は、例えば、機台14に取り付けられている。なお、第2セパレータ92は、機台14以外の部材に取り付けられていてもよい。図9に示すように、第2セパレータ92は、複数の第2セパレータガイド92aと、回転軸92bと、駆動機構92cとを含む。
【0083】
複数の第2セパレータガイド92aは、前後方向に沿って配列されている(不図示)。隣接する第2セパレータガイド92a同士の前後方向におけるピッチは、隣接する第1セパレータガイド91a同士の前後方向におけるピッチと略同じである。なお、隣接する第2セパレータガイド92a同士の前後方向におけるピッチとは、第2セパレータガイド92aと糸Yとが接触する箇所を接触点としたとき、隣接する第2セパレータガイド92aの接触点同士の前後方向における距離である。
【0084】
各第2セパレータガイド92aは、例えば、水平面と交差する面を有する板状部材である。各第2セパレータガイド92aは、後側に向かって開口した凹形状となっている。
【0085】
回転軸92bは、前後方向に延びている。第2セパレータ92は、回転軸92bを中心に回転することで、待機位置(図9参照)と、受け渡し位置(図11参照)と、糸巻掛位置(図13参照)との間で揺動可能である。第2セパレータガイド92aは、駆動機構92cによって駆動されることで揺動する。駆動機構92cは、例えばエアシリンダとピストンとを含む。
【0086】
(糸掛け手順)
次に、上述した糸掛部材30を用いて複数の支点ガイド20に糸Yを掛ける際の手順について、以下に説明する。なお、以下の説明において、オペレータが、サクションガン80を操作して、紡糸装置2から紡出された複数の糸Yを、第1ゴデットローラ3及び第2ゴデットローラ4に掛ける手順については省略する。なお、本実施形態では、オペレータがサクションガン80を操作して複数の支点ガイド20への糸掛けを行う作業空間Wは、ボビンホルダ13よりも前後方向における前側に位置している(図1参照)。言い換えれば、作業空間Wは、ボビンホルダ13よりも前後方向における前側と後側のうちの、前後方向において糸接触部51に近い側に位置している。
【0087】
まず、支点ガイド20への糸掛けを行う前に、制御装置6は、複数の支点ガイド20を近接位置(図3参照)に移動させる。また、駆動機構40は、糸掛部材30を、最も前側にある支点ガイド20よりもさらに前側の位置であって且つ複数の支点ガイド20よりも右側の位置である糸掛位置(不図示)に移動させる。次にオペレータは、サクションガン80を操作して、後側位置にある第2ゴデットローラ4に掛けられた状態の複数の糸Yを、糸掛位置にある糸掛部材30の複数の保持溝31に掛ける。
【0088】
次に、駆動機構40は、糸掛部材30を糸掛開始位置(図5の二点鎖線を参照)に移動させる。続いて、図8に示すように、オペレータは、サクションガン80を板金部材50の前側且つ糸接触部51よりも下方となる位置に移動させ、サクションガン80によって吸引保持される複数の糸Yを糸接触部51に接触させる。このとき、複数の糸Yは、糸接触部51の略中央部分よりも右側の位置に接触させることが好ましい。
【0089】
サクションガン80に吸引保持された複数の糸Yを糸接触部51に接触させた状態で、駆動機構40は、糸掛部材30を糸掛開始位置から糸掛完了位置(図5の実線を参照)に移動させる。これによって、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への複数の糸Yの受け渡しが完了する。すなわち、複数の支点ガイド20への糸掛けが完了する。
【0090】
糸掛部材30から複数の支点ガイド20への複数の糸Yの受け渡しが完了した後、オペレータは、サクションガン80を操作して、複数の糸Yを糸接触部51から離隔させる。具体的には、オペレータは、板金部材50の前側且つ糸接触部51よりも下方となる位置にあるサクションガン80をさらに左側に移動させ、複数の糸Yを糸接触部51の左側の端部から離隔させる。
【0091】
サクションガン80を移動させることによって複数の糸Yが糸接触部51の左側の端部から離隔すると、オペレータは、サクションガン80の左右方向の左向きの移動を停止させる。オペレータは、サクションガン80の左右方向への移動を停止させるのとほぼ同時に、サクションガン80を下方に移動させ、複数の糸Yを板金部材50の左側面に形成された案内部54に沿って下方に移動させる。
【0092】
なお、本実施形態の構成であれば、オペレータは、サクションガン80を単に上下方向の下側に移動させるだけでも、複数の糸Yを糸接触部51から隔離させ、下方まで移動させることが可能である。詳しく説明すると、サクションガン80を下に移動させることで糸Yが糸接触部51の傾斜に沿って勝手に滑り落ち、板金部材50の左側面の案内部54に沿ってそのままラムダガイド53のある下方へ導かれる。さらに補足的に説明すると、本実施形態では、上面に形成された糸接触部51が傾斜した板金部材50が左右対称に配置されている。このため、例えば、オペレータは、一対の巻取部5のそれぞれに巻き取られる複数の糸Yをまとめて吸引保持させたサクションガン80を下側に移動させることで、複数の糸Yを一対の板金部材50のそれぞれの糸接触部51から同時に隔離させることができる。具体的に説明すると、まず、オペレータは、左右対称に配置された一対の板金部材50のそれぞれの糸接触部51に各糸Yを接触させた後、左右対称に配置された一対の巻取部5の左右方向における略中央となる位置にサクションガン80を配置する。この状態で、サクションガン80をそのまま下に降ろすことで左右の糸接触部51から同時に糸Yを離隔させることが可能となる。
【0093】
続いて、オペレータは、板金部材50の左側面の案内部54に沿って下方に移動した複数の糸Yを、板金部材50の下部に取り付けられたラムダガイド53に掛ける。複数の糸Yは、ラムダガイド53に掛けられるのに伴って第1セパレータ91に掛けられる。その後、制御装置6は、不図示の揺動機構の駆動を制御することによってラムダガイド53を揺動させるとともに、第1セパレータ91及び第2セパレータ92を適宜揺動させることによって、複数の糸Yを各巻掛位置に案内する。そして、複数の糸Yは、ボビンホルダ13に装着された各ボビンBに巻き掛けられ、続く巻取動作が行われる。
【0094】
以下、複数の糸Yが、ラムダガイド53に掛けられてから、各巻掛位置に案内されてボビンBに巻き掛けられるまでの動作手順について説明する。なお、複数の第1セパレータガイド91aは、例えば、各支点ガイド20への糸掛けを行う前に、予め近接位置に移動させておく。
【0095】
複数の糸Yは、ラムダガイド53に掛けられるのに伴って、第1セパレータ91の複数の第1セパレータガイド91aに掛けられる。詳しく説明すると、ラムダガイド53に掛けられた複数の糸Yは、ラムダガイド53よりも糸走行方向の上流側において、既に複数の支点ガイド20に掛けられた状態となっている。ラムダガイド53と各支点ガイド20との間を走行する各糸Yは、ラムダガイド53と各支点ガイド20との間で、近接位置にある各第1セパレータガイド91aに掛けられる(図10参照)。各第1セパレータガイド91aに複数の糸Yが掛けられると、不図示のリニアスライダによって複数の第1セパレータガイド91aを離隔位置に移動させる。
【0096】
続いて、制御装置6は、不図示の揺動機構の駆動を制御することによって、回転軸53aを中心にラムダガイド53を揺動位置まで揺動させる(図11参照)。さらに、制御装置6は、不図示のエアシリンダの駆動を制御して、第1セパレータ91を待機位置から受け渡し位置まで揺動させる(図11参照)。また、制御装置6は、駆動機構92cの駆動を制御して、第2セパレータ92を待機位置から受け渡し位置まで揺動させる(図11参照)。なお、第1セパレータ91は、ストロークを2段階に切り替え可能に構成されたエアシリンダ(不図示)によって駆動されることで、待機位置と受け渡し位置との何れか一方を取るように揺動する。すなわち、第1セパレータ91は、受け渡し位置を越えて揺動することが規制されている。また、第2セパレータ92は、不図示のストッパーによって、受け渡し位置を越えて揺動することが規制されている。
【0097】
第1セパレータ91が受け渡し位置まで揺動し、第2セパレータ92が受け渡し位置まで揺動すると、各第1セパレータガイド91aから各第2セパレータガイド92aへの各糸Yの受け渡しが行われる。詳しく説明すると、第1セパレータ91が受け渡し位置まで揺動し、第2セパレータ92が受け渡し位置まで揺動すると、各糸Yは、一旦、第1セパレータガイド91a及び第2セパレータガイド92aの両方に掛けられた状態となる。この状態で、第1セパレータ91を待機位置に戻すことで、各糸Yは、各第1セパレータガイド91aから外れ、各第2セパレータガイド92aだけに掛けられた状態となる。以上によって、第1セパレータ91から第2セパレータ92への複数の糸Yの受け渡しが完了する。なお、ボビンホルダ13に装着されたボビンBに糸Yが巻き取られる巻取動作が行われるまでの間、ラムダガイド53は揺動位置を取り続ける。
【0098】
次に、制御装置6は、駆動機構92cの駆動を制御して、第2セパレータ92を待機位置と受け渡し位置との間の所定の位置に移動させる(図12参照)。より詳しくは、制御装置6は、第2セパレータ92を待機位置と糸巻掛位置との間の位置であって、ターレット12の回転中心付近の位置に移動させる(図12参照)。続いて、制御装置6は、ターレット12を回転させて、糸Yが巻き掛けられていない複数のボビンBが装着されたボビンホルダ13を巻取位置に移動させる(図12の実線矢印参照)。このとき、
第2セパレータ92が上記所定の位置にあり、ラムダガイド53が揺動位置にある。このため、第2セパレータ92とラムダガイド53との間を走行する複数の糸Yは、ターレット12の回転中心付近、すなわち、2本のボビンホルダ13の回転軌道の中心付近に位置することとなる。これによって、回転移動するボビンホルダ13と複数の糸Yとが接触することを回避することができる。
【0099】
そして、ボビンホルダ13が巻取位置に到達すると、制御装置6は、駆動機構92cの駆動を制御して、第2セパレータ92を糸巻掛位置に移動させる(図13参照)。なお、ボビンホルダ13が巻取位置に到達すると、ボビンホルダ13に由来する不図示のストッパーによって、糸巻掛位置を越えて揺動することが規制される。これによって、各第2セパレータガイド92aに掛けられた複数の糸Yは、複数のボビンBごとに定められた各巻掛位置に案内される。各巻掛位置に案内された各糸Yは、各ボビンBに巻き掛けられる。詳しく説明すると、各ボビンBの端部には周面に沿った溝及びフックが形成されており、巻掛位置に案内された糸Yは、回転するボビンBとの接触に伴って、フックに掛けられる。これによって、各糸Yは各ボビンBに巻き掛けられる。
【0100】
(効果)
本実施形態の紡糸引取機1は、サクションガン80によって吸引保持された複数の糸Yを糸掛部材30によって保持させた状態で、糸掛部材30を複数の支点ガイド20に対して移動させることで、複数の支点ガイド20への糸掛けが行われる紡糸引取機1であって、糸掛部材30とサクションガン80の間を走行する複数の糸Yが接触可能な位置に配置された糸接触部51を含む。本実施形態によれば、サクションガン80によって吸引されている複数の糸Yを、サクションガン80と糸掛部材30との間で糸接触部51に接触させることによって、サクションガン80で生じた気流によって引き起こされた糸揺れが糸掛部材30まで伝播することを抑制できる。このため、糸掛部材30に保持された複数の糸Yを、糸揺れが抑制された状態で各支点ガイド20に受け渡すことができる。よって、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けを適切に行うことができる。
【0101】
また、本実施形態では、複数の支点ガイド20への糸掛けは、前後方向(配列方向)における後側(一方側)から前側(他方側)の順に行われており、糸接触部51は、前後方向(配列方向)における最も前側(他方側)にある支点ガイド20よりもさらに他方側にある。仮に、糸掛部材30が、複数の支点ガイド20への糸掛けの途中で、前後方向(配列方向)において糸接触部51を越えてしまうと、糸接触部51とサクションガン80の位置関係によっては糸接触部51から複数の糸Yが外れてしまうおそれがある。これを防ぐためにサクションガン80の位置を調整する必要があるが、装置の構成によっては、他の部品等の存在によってサクションガン80を置くことができる位置が制限されることがある。本実施形態によれば、糸接触部51とサクションガン80の位置関係にかかわらず、糸掛部材30が、複数の支点ガイド20への糸掛けの途中で、前後方向(配列方向)において糸接触部51を越えることがない。よって、複数の支点ガイド20への糸掛けの途中で複数の糸Yが糸接触部51から外れてしまうことを抑制できる。
【0102】
また、本実施形態では、糸接触部51は、延在方向に延びる形状を有している。このため、延在方向に延びる糸接触部51に対して複数の糸Yを接触させ易くなる。加えて、本実施形態では、糸接触部51の延在方向における左側(一方側)の端部が右側(他方側)の端部よりも下方となるように傾斜している。糸掛部材30から各支点ガイド20への複数の糸Yの受け渡しが完了した後、各糸Yをボビンホルダ13に装着されたボビンBに巻き取らせる工程に移行するために、複数の糸Yを糸接触部51から離隔させる動作が行われる。本実施形態によれば、複数の糸Yを、延在方向における糸接触部51の右側(他方側)の端部から左側(一方側)の端部に向かう方向に沿って、重力の作用を利用して糸接触部51上を滑らせるように移動させることができる。これにより、複数の糸Yを移動させるために必要な力を低減することができ、複数の糸Yを糸接触部51からスムーズに離隔させることができる。
【0103】
さらに、本実施形態では、ボビンホルダ13は、左右方向(糸接触部51の延在方向)において糸接触部51よりも左側(一方側)に配置されている。本実施形態によれば、複数の糸Yを、糸接触部51に沿って下方に移動させ、左右方向において糸接触部51よりも左側で糸接触部51から離隔させたとき、複数の糸Yは糸接触部51よりもボビンホルダ13に近い箇所に位置することになる。そうすると、糸接触部51から離隔させた複数の糸Yを、左右方向において糸接触部51を越えさせることなく、そのままボビンホルダ13がある位置まで移動させることができる。これにより、糸掛部材30から各支点ガイド20への複数の糸Yの受け渡しが完了した後に、各糸Yをボビンホルダ13に装着されたボビンBに巻き取らせる工程にスムーズに移行することができる。
【0104】
また、本実施形態では、複数の糸Yは、糸接触部51と接触しながら、延在方向における糸接触部51の左側(一方側)の端部に向かって移動するものである。そして、本実施形態の紡糸引取機1は、延在方向における糸接触部51の右側の端部から複数の糸Yが脱落することを防止する脱落防止部52を含む。本実施形態によれば、糸接触部51に接触させた複数の糸Yが、糸接触部51の右側の端部から意図せずに脱落してしまうことを防ぐことができる。
【0105】
また、本実施形態では、糸接触部51は、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けが行われている間中、複数の糸Yが接触可能な形状を有している。本実施形態によれば、糸掛部材30から各支点ガイド20への糸掛けの間中、複数の糸Yを糸接触部51に接触させ続けることが可能である。すなわち、糸掛部材30から各支点ガイド20への糸掛けの途中で、複数の糸Yのうちの一部又は全部が糸接触部51から外れてしまうことを回避できる。このため、糸掛部材30に保持された複数の糸Yは糸揺れが確実に抑制された状態で支点ガイド20に受け渡される。これにより、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けをさらに適切に行うことができる。
【0106】
また、本実施形態では、糸接触部51は、複数の糸Yが面接触可能な接触面である。複数の糸Yと糸接触部51との接触面積が大きいほど、各糸Yが糸接触部51から受ける負荷は少なくなる。本実施形態によれば、複数の糸Yを糸接触部51と面接触させることによって、各糸Yと糸接触部51との接触面積が増える。このため、複数の糸Yをエッジ形状である糸接触部51と接触させる場合、すなわち、複数の糸Yを糸接触部51と点接触させる場合と比較して、複数の糸Yが受ける負荷を低減できる。これにより、複数の糸Yと糸接触部51との接触に起因して複数の糸Yの糸切れや撓みが生じることを抑制することができる。
【0107】
さらに、本実施形態では、複数の支点ガイド20に掛けられた複数の糸Yを、ボビンホルダ13に装着された複数のボビンBに複数の糸Yを巻き掛けるための巻掛位置に案内するためのラムダガイド53(巻掛)ガイドを含む。糸接触部51はラムダガイド53と一体的に形成されている。本実施形態によれば、糸掛部材30から各支点ガイド20への複数の糸Yの受け渡しが完了した後、糸接触部51から離間させる複数の糸Yを、糸接触部51と一体的に形成されたラムダガイド53にそのまま掛けることができる。このため、各糸Yをボビンホルダ13に装着されたボビンBに巻き取らせる工程にスムーズに移行することができる。
【0108】
また、本実施形態では、糸接触部51の下方にラムダガイド53が配置されている。そして、本実施形態の紡糸引取機1は、上下方向に沿って延び、糸接触部51からラムダガイド53に複数の糸Yを案内するための案内部54をさらに含む。糸接触部51から離間させる複数の糸Yを、案内部54によってラムダガイド53までスムーズに案内することできる。このため、糸掛部材30から各支点ガイド20への複数の糸Yの受け渡しが完了した後、各糸Yをボビンホルダ13に装着されたボビンBに巻き取らせる工程にさらにスムーズに移行することができる。
【0109】
また、本実施形態では、糸掛部材30を、複数の支点ガイド20への糸掛けを開始する糸掛開始位置と、複数の支点ガイド20への糸掛けが完了したときの糸掛完了位置との間で移動させる駆動機構40を含む。駆動機構40によって糸掛部材30を移動させる構成では、糸掛部材30に保持された複数の糸Yの糸揺れが発生した場合に、糸掛部材30の位置を微調整して支点ガイド20に受け渡す糸Yの位置を補正することができない。このような構成において、糸接触部51を設けることはより効果的である。
【0110】
また、本実施形態では、オペレータがサクションガン80を操作して複数の支点ガイド20への糸掛けを行う作業空間Wが、ボビンホルダ13よりも前後方向(配列方向)における前側(他方側)と後側(一方側)のうちの、前後方向(配列方向)において糸接触部51に近い側に位置している。本実施形態によれば、オペレータが、周囲にボビンホルダ13や支点ガイド20が配置されていない広いスペースで作業することができる。
【0111】
さらに、本実施形態では、糸掛部材30は、複数の糸Yを1本ずつ保持する複数の保持溝31を有し、複数の保持溝31は、延在方向と平行な方向に沿って並べて配置される。本実施形態によれば、糸掛部材30の複数の保持溝31に掛けられた複数の糸Yが糸接触部51に至るまでにおいて、各糸Yの糸道を通る糸Yの走行面は、延在方向と平行な状態を保ったままとなる。言い換えれば、複数の保持溝31と糸接触部51との間を走行する複数の糸Yの走行面は、ねじられることがない。このため、糸接触部51に接触する複数の糸Yの屈曲角度が各糸Yの間で均一となり、屈曲角度の影響を受ける糸品質を各糸Yの間で均質にすることができる。
【0112】
また、本実施形態では、糸掛部材30は、糸走行方向において、複数の支点ガイド20の下流側に配置されている。サクションガン80に吸引される複数の糸Yは、サクションガン80に集束する。すなわち、糸掛部材30に保持された複数の糸Yのピッチは、糸掛部材30の下流側にあるサクションガン80に向かうにつれて狭くなる。この点、本実施形態では、糸掛部材30が糸走行方向において支点ガイド20の下流側に配置されている。このため、糸掛部材30の下流側でピッチが狭くなる複数の糸Yを支点ガイド20に掛けるのではなく、ピッチが揃った状態の複数の糸Yを支点ガイド20に掛けることができる。よって、本実施形態の構成では、糸掛部材30が支点ガイド20の上流側に配置されている場合と比べて、支点ガイド20への糸掛けがし易い。
【0113】
(変形例)
以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0114】
上記実施形態では、上下方向から見たとき、糸接触部51の延在方向と左右方向とは平行である。しかしながら、上下方向から見たとき、糸接触部51の延在方向は、左右方向と交差する方向でもよい。
【0115】
上記実施形態では、糸接触部51は、延在方向における左側(一方側)の端部が右側(他方側)の端部よりも下方となるように傾斜している。しかしながら、糸接触部51は、延在方向における左側(一方側)の端部が右側(他方側)の端部よりも下方となるように湾曲していてもよい。但し、糸接触部51が湾曲している構成において、糸接触部51の左側の端部と右側の端部の間の部分が、両端部よりも下方となるように凹んでいるものは含まない。また、糸接触部51は、水平方向に沿って延びるものでもよい。
【0116】
上記実施形態では、脱落防止部52は、延在方向における左側(一方側)の端部が右側(他方側)の端部よりも下方となるように傾斜した糸接触部51の右側(他方側)の端部から複数の糸Yが脱落することを防止するものである。しかしながら、脱落防止部52は、水平方向に沿って延びる糸接触部51の右側(他方側)の端部から複数の糸Yが脱落することを防止するものでもよい。この場合において、複数の糸Yは、糸接触部51と接触しながら、延在方向における糸接触部51の左側(一方側)の端部に向かって移動するものである。また、脱落防止部52は、形成されていなくてもよい。
【0117】
上記実施形態では、ボビンホルダ13は、左右方向(または延在方向)において糸接触部51よりも左側(一方側)にある。しかしながら、ボビンホルダ13は、左右方向(または延在方向)において、延在方向における左側(一方側)の端部が右側(他方側)の端部よりも下方となるように傾斜した糸接触部51よりも左側(一方側)にあってもよい。
【0118】
上記実施形態では、糸接触部51及び脱落防止部52は、板金部材50に形成されたものである。しかしながら、糸接触部51及び脱落防止部52は、板金部材50と別部材でもよい。また、上記実施形態では、糸接触部51とラムダガイド53とは、一体的に形成されている。しかしながら、糸接触部51とラムダガイド53とは、一体的に形成されていなくてもよい。すなわち、糸接触部51とラムダガイド53とは、離間して配置されていてもよい。
【0119】
上記実施形態では、糸接触部51は板金部材50の上面に形成されたものである。そして、糸接触部51は、左右方向から見たときに、R加工された接触面を有する。しかしながら、糸接触部は、例えば、所定の延在方向に延びる棒状部材の上側周面に形成されたものでもよい。この場合、糸接触部である棒状部材の上側周面が、複数の糸Yが面接触可能な接触面である。
【0120】
上記実施形態では、糸接触部51は、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けが行われている間中、複数の糸Yが接触可能な形状として、以下の形状を有する。すなわち、糸接触部51の延在方向における長さは、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けが行われている間中、糸掛けに伴って移動する複数の糸Yが糸接触部51の左側の端部から脱落しない程度に十分な長さである。しかしながら、糸接触部51は、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けが行われている間中、複数の糸Yが接触可能な形状として、上記実施形態とは異なる形状を有していてもよい。例えば、板金部材50の上面に、左右方向における糸接触部51の左側の端部から複数の糸Yが脱落することを防止する第2脱落防止部が形成されていてもよい。これにより、糸接触部51は、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けが行われている間中、複数の糸Yが接触可能な形状を有することとなる。第2脱落防止部は、例えば、上記実施形態の脱落防止部51と同様の構成である。この場合、第2脱落防止部は、板金部材50の上面に着脱可能に形成されていることが好ましい。これにより、第2脱落防止部を外すことで、複数の糸Yを糸接触部51から隔離させてラムダガイド53がある位置まで案内するときに、第2脱落防止部が邪魔にならない。
【0121】
上記実施形態では、糸掛位置にある糸掛部材30に複数の糸Yを掛ける際には、複数の糸Yを糸接触部51に接触させていない。しかしながら、糸掛位置にある糸掛部材30に複数の糸Yを掛ける際に、複数の糸Yを糸接触部51に接触させてもよい。これにより、糸掛部材30に糸Yを掛ける際に、糸揺れを抑制できる。
【0122】
上記実施形態では、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けの際、駆動機構40が糸掛部材30を移動させる構成である。しかしながら、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への糸掛けの際、オペレータが手動で糸掛部材30を移動させる構成でもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、糸掛部材30が糸掛開始位置から糸掛完了位置に移動することによって、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への複数の糸Yの受け渡しが行われる。しかしながら、例えば、複数の支点ガイド20が前後方向(配列方向)の前から後に移動することによって、糸掛部材30から複数の支点ガイド20への複数の糸Yの受け渡しが行われるものでもよい。この場合においても、上記実施形態と同様に、複数の支点ガイド20への糸掛けは、前後方向(配列方向)における後側(一方側)から前側(他方側)の順に行われる。また、この場合、糸接触部51は、前後方向(配列方向)における最も前側(他方側)にある支点ガイド20よりもさらに前側(他方側)に配置されるものでなくてもよい。なお、本発明の「糸掛部材30を複数の支点ガイド20に対して移動させる」には、糸掛部材30自体を移動させる構成の他、複数の支点ガイド20を移動させることによって糸掛部材30を複数の支点ガイド20に対して相対的に移動させる構成も含まれる。
【0124】
上記実施形態では、案内部54は鉛直方向に沿って延びている。しかしながら、案内部54は、鉛直方向から傾いた方向に沿って延びていてもよい。また、紡糸引取機1は、案内部54を有していなくてもよい。
【0125】
上記実施形態では、複数の保持溝31は、糸接触部51の延在方向と平行な方向に沿って並べて配置される。しかしながら、複数の保持溝31は、糸接触部51の延在方向と平行な方向に沿って並べて配置されていなくてもよい。
【0126】
上記実施形態では紡糸引取機1は、一対の巻取部5を備えるものとしたが、これには限られない。紡糸引取機1は、例えば、一対の巻取部5のうちの片方の巻取部5のみを備えていても良い。
【0127】
本発明は、紡糸引取機1に限られず、複数の糸Yを巻き取るように構成された様々な糸巻取機に適用されることが可能である。
【0128】
上記実施形態では、糸掛部材30は、糸走行方向において複数の支点ガイド20の下流側に配置されている。しかしながら、糸掛部材30は、糸走行方向において複数の支点ガイド20の上流側に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0129】
1 紡糸引取機(糸巻取機)
2 紡糸装置
13 ボビンホルダ
20 支点ガイド
30 糸掛部材
51 糸接触部
52 脱落防止部
53 ラムダガイド(巻掛ガイド)
54 案内部
80 サクションガン
80a 吸引口
B ボビン
Y 糸
W 作業空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14