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特開2024-79591生分解性ポリエステル重合体およびそれを含む生分解性フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079591
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】生分解性ポリエステル重合体およびそれを含む生分解性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/127 20060101AFI20240604BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C08G63/127
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185405
(22)【出願日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】10-2022-0164776
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0137531
(32)【優先日】2023-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】515172751
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョン スン
(72)【発明者】
【氏名】イム ス ジン
(72)【発明者】
【氏名】イ スン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム キ ユプ
(72)【発明者】
【氏名】キム ド ユン
(72)【発明者】
【氏名】ナム ジョ ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジ ヘ
【テーマコード(参考)】
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J029AA01
4J029AB01
4J029AD01
4J029AE03
4J029BA01
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BA08
4J029BA10
4J029CA01
4J029CA02
4J029CA03
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB04A
4J029CB04B
4J029CB05A
4J029CB05B
4J029CB06A
4J029CB06B
4J029EA01
4J029ED04
4J029FC02
4J029FC03
4J029FC04
4J029FC05
4J029FC08
4J029FC35
4J029FC36
4J029HB03A
4J029JB131
4J029JB171
4J029JF321
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J200AA02
4J200BA09
4J200CA01
4J200EA04
4J200EA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた機械的物性を有するとともに引裂性が卓越した生分解性ポリエステル重合体を用いて、効果的に包装内部の製品を保護するとともに、過度な力を加えることなく制御された方式で容易に開封可能な生分解性フィルムを提供する。
【解決手段】脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、および分岐剤を含む重合性組成物から製造され、下記式1を満たす、生分解性ポリエステル重合体、該重合体を含む生分解性フィルムとする。
[式1]2<Mz/Mw
(前記式1中、Mzは、z-平均分子量であり、Mwは、重量平均分子量である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、および分岐剤を含む重合性組成物から製造され、
下記式1を満たす、生分解性ポリエステル重合体。
[式1]
2<Mz/Mw
(前記式1中、
Mzは、z-平均分子量であり、Mwは、重量平均分子量である。)
【請求項2】
前記生分解性ポリエステル重合体の多分散性指数(PDI、Mw/Mn)は2.5以上である、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
【請求項3】
前記脂肪族ジカルボン酸は、C2-20の脂肪族ジカルボン酸である、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
【請求項4】
前記芳香族ジカルボン酸は、C6-30の芳香族ジカルボン酸である、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
【請求項5】
前記脂肪族ジオールは、C2-20の脂肪族ジオールである、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
【請求項6】
前記分岐剤は、3個以上の官能基を有するポリオール化合物である、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
【請求項7】
下記式2を満たす、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
[式2]
2<Mz/Mw<15
(前記式2中、
Mzは、z-平均分子量であり、Mwは、重量平均分子量である。)
【請求項8】
z-平均分子量が200,000~1,000,000g/molである、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
【請求項9】
数平均分子量(Mn)が55,000g/mol以下であり、重量平均分子量(Mw)が110,000g/mol以上である、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
【請求項10】
ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネートブチレンテレフタレート(PBAST)、またはポリブチレンセバケートテレフタレート(PBSeT)である、請求項1に記載の生分解性ポリエステル重合体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステル重合体を含む生分解性フィルム。
【請求項12】
50μmの厚さ条件でMD方向の引裂強度が2.5g/μm以下である、請求項11に記載の生分解性フィルム。
【請求項13】
前記生分解性フィルムのTD方向の引裂強度は、MD方向の引裂強度の5倍以上である、請求項11に記載の生分解性フィルム。
【請求項14】
薬品包装材、食品包装材、製品保護用包装フィルム、マルチングフィルム、または収縮フィルムの用途である、請求項11に記載の生分解性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生分解性ポリエステル重合体およびそれを含む生分解性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
包装材は、基本的に、その内部の製品を保護する目的を有するため、瞬間的な衝撃に対しても容易に破損または引き裂かれないほど十分な強度が必要である。この点で丈夫なフィルムは優れた物性を有するといえるが、食品用包装材フィルムや製品の外部に囲まれ、使用前に必須的に除去しなければならない保護フィルムのような包装用フィルムが強い物性を有すると、製品の開封のためにフィルムを引き裂く場合、過度な力が必要となり、消費者に大きな不便を与える問題が生じ得る。
【0003】
このような問題を解決するために、耐引裂性に優れるフィルムと、耐引裂性が不十分なフィルムとを積層した多層フィルムを製造することでフィルムに引裂性を与えようとしたが、耐引裂性に優れるフィルムをいくら薄くしても、全体的な多層フィルムの耐引裂性が低下しないため、目的とする引裂性の向上効果が不十分であり、また、多層フィルムの厚さが大幅に厚くなるため、実質的に製品に適用することが難しいという欠点がある。
【0004】
一方、従来、包装材フィルムは、回収が難しく、低いリサイクル効率を示し、無分別な(indiscreet)使用により環境を汚染させる原因として認識されてきた。このような問題を解決するために、多くの企業は、包装材フィルムを従来の一般の高分子ではなく、生分解性高分子に代替して用いることで、環境への負担を下げる方向に研究開発が進んでいる。
【0005】
したがって、優れた機械的物性を有して効果的に包装内部の製品を保護するとともに、過度な力を加えることなく制御された方式で容易に開封可能な生分解性フィルムに関する研究開発が必要な状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記の問題を解決するために、優れた機械的物性を有するとともに引裂性が卓越した生分解性ポリエステル重合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本開示の他の目的は、上述の生分解性ポリエステル重合体を用いて製造された生分解性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、優れた機械的物性を有するとともに引裂性が卓越した生分解性フィルムを製造するために研究を重ねた結果、重量平均分子量(Mw)およびz-平均分子量(Mz)が特定の比を満たす場合、一方向への引裂性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本開示は、上記の目的を達成するために、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、および分岐剤を含む重合性組成物から製造され、下記式1を満たす、生分解性ポリエステル重合体を提供する。
【0010】
[式1]
2<Mz/Mw
(前記式1中、Mzは、z-平均分子量であり、Mwは、重量平均分子量である。)
【0011】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記生分解性ポリエステル重合体の多分散性指数(PDI、Mw/Mn)は2.5以上であることが好ましい。
【0012】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記脂肪族ジカルボン酸は、C2-20の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記芳香族ジカルボン酸は、C6-30の芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。
【0013】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記脂肪族ジオールは、C2-20の脂肪族ジオールであることが好ましい。
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記分岐剤は、3個以上の官能基を有するポリオール化合物であることが好ましい。
【0014】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記生分解性ポリエステル重合体は、下記式2を満たすことが好ましい。
【0015】
[式2]
2<Mz/Mw<15
(前記式2中、Mzは、z-平均分子量であり、Mwは、重量平均分子量である。)
【0016】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記生分解性ポリエステル重合体は、z-平均分子量が200,000~1,000,000g/molであることが好ましい。
【0017】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記生分解性ポリエステル重合体は、数平均分子量(Mn)が55,000g/mol以下であり、重量平均分子量(Mw)が110,000g/mol以上であることが好ましい。
【0018】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記生分解性ポリエステル重合体は、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネートブチレンテレフタレート(PBAST)、またはポリブチレンセバケートテレフタレート(PBSeT)であることが好ましい。
【0019】
本開示は、上述の生分解性ポリエステル重合体を含む生分解性フィルムを提供することができる。
一実施形態に係る生分解性フィルムにおいて、前記生分解性フィルムは、50μmの厚さ条件でMD方向の引裂強度が2.5g/μm以下であることが好ましい。
【0020】
一実施形態に係る生分解性フィルムにおいて、前記生分解性フィルムのTD方向の引裂強度は、MD方向の引裂強度の5倍以上であることが好ましい。
一実施形態に係る生分解性フィルムにおいて、前記生分解性フィルムは、薬品包装材、食品包装材、製品保護用包装フィルム、マルチングフィルム、または収縮フィルムの用途として用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示は、優れた機械的物性を有するとともに一方向への引裂性が卓越した生分解性ポリエステル重合体およびそれを用いた生分解性フィルムに関する。前記生分解性ポリエステル重合体は、TD引裂強度がMD引裂強度の5倍以上であるため、一方向には優れた耐引裂性を、他方向には優れた引裂性を示すことができる。また、それを用いて製造された生分解性フィルムは、包装内部の製品を効果的に保護するとともに、過度な力を加えることなく制御された方式で容易に開封可能であるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例または実施形態は、本開示を詳細に説明するための1つの参照にすぎず、本開示は、これに限定されず、種々の形態で実現されてもよい。
【0023】
また、特に定義しない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、本開示が属する当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。
本明細書における説明で用いられる用語は、単に特定の実施形態を効果的に記述するためのものであって、本開示を限定するためのものではない。
【0024】
また、明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数の形態は、文脈上、特に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図し得る。
また、本明細書において、特に言及せずに用いられた単位は、重量を基準とし、一例として、%または比の単位は、重量%または重量比を意味し、重量%は、他に定義しない限り、全組成物のいずれか1つの成分が組成物中に占める重量%を意味する。
【0025】
また、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0026】
また、本明細書で用いられる数値範囲は、下限値と上限値、その範囲内での全ての値、定義される範囲の形態と幅から論理的に誘導される増分、そのうち限定された全ての値および互いに異なる形態に限定された数値範囲の上限および下限の全ての可能な組み合わせを含んでもよい。本発明の明細書において、特に定義しない限り、実験誤差または値の四捨五入により発生し得る数値範囲外の値も定義された数値範囲に含まれる。
【0027】
以下、本開示についてより具体的に説明する。
本開示は、上記の目的を達成するために、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、および分岐剤を含む重合性組成物から製造され、下記式1を満たす、生分解性ポリエステル重合体を提供する。また、前記生分解性ポリエステル重合体は、下記式2を満たすことが好ましく、下記式3を満たすことがより好ましく、下記式4を満たすことがさらに好ましい。
【0028】
[式1]
2<Mz/Mw
【0029】
[式2]
2<Mz/Mw<15
【0030】
[式3]
2<Mz/Mw<5
【0031】
[式4]
2.5<Mz/Mw<4
【0032】
(前記式1~4中、Mzは、z-平均分子量であり、Mwは、重量平均分子量である。)
【0033】
前記式1、具体的に、式2、式3、または式4を満たす生分解性ポリエステル重合体は、フィルムやシートに成形される場合、一方向の引裂強度が他方向の引裂強度に比べて著しく低いため、一側方向に容易に引き裂き(tearing)が可能であり、このような特性を用いて易引裂性(easy-tearing)包装材に適用することができる。
【0034】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記生分解性ポリエステル重合体は、脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸化合物と、脂肪族ジオールと、分岐剤と、を含む重合性組成物から通常または公知のポリエステルの重合方法により製造された重合体であってもよく、さらに、連続式またはバッチ式重合方法などの公知の重合方法から限定なく選択して製造されてもよい。
【0035】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、脂肪族ジカルボン酸は、C2-40の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、より好ましくはC2-20の脂肪族ジカルボン酸である。脂肪族ジカルボン酸は、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、フマル酸、アゼライン酸、イタコン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、二量体脂肪酸、およびその無水物誘導体からなる群から選択される1つまたは2つ以上の組み合わせであることが好適であり、特にコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、またはこれらの混合物であることがより好適である。
【0036】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、芳香族ジカルボン酸は、C6-50の芳香族ジカルボン酸であることが好ましく、より好ましくは、C6-30の芳香族ジカルボン酸である。芳香族ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジメチルイソフタレート、ジエチルイソフタレート、ジメチルテレフタレート、およびジエチルテレフタレートからなる群から選択される1つまたは2つ以上の組み合わせであることが好適である。
【0037】
また、ジカルボン酸化合物において、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸は1~9:9~1のモル比であることが好ましく、より好ましくは3~7:7~3のモル比であるが、これに限定されない。
【0038】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、脂肪族ジオールは、C2-20の脂肪族ジオールであることが好ましく、より好ましくは、C2-15の脂肪族ジオールである。脂肪族ジオールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,6-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、および1,10-デカンジオールからなる群から選択される1つまたは2つ以上の組み合わせであることが好適であり、より好適には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、および1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される1つまたは2つ以上の組み合わせである。
また、脂肪族ジオールとジカルボン酸化合物は1~3:1のモル比であることが好ましく、より好ましくは1.2~2.5:1のモル比である。
【0039】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記分岐剤(branching agent)は、本発明の一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体の分子量分布を広く調節する役割を果たすことができ、特に、Mzを上述の式1を満たすように調節することができる。前記分岐剤は、3個以上の官能基を有することが好ましく、より好ましくは3個以上のヒドロキシ基を有するポリオール化合物であり、さらに好ましくは4個以上のヒドロキシ基を有するポリオール化合物である。分岐剤は、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリエーテルトリオール、グリセロール、トリメシン酸(trimesic acid)、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸、およびピロメリット酸二無水物からなる群から選択される1つまたは2つ以上の組み合わせであることが好適であり、より好適には、グリセロールまたはペンタエリスリトールである。
【0040】
また、分岐剤の含有量は、重合性組成物に対して0.01~2重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05~1重量%、さらに好ましくは0.1~0.5重量%である。
【0041】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、生分解性ポリエステル重合体は、数平均分子量(Mn)が100,000g/mol以下であることが好ましく、より好ましくは55,000g/mol以下、さらに好ましくは30,000~55,000g/molである。
【0042】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、生分解性ポリエステル重合体は、重量平均分子量(Mw)が100,000g/mol以上であることが好ましく、より好ましくは110,000g/mol以上、さらに好ましくは120,000~200,000g/molである。
【0043】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、生分解性ポリエステル重合体は、z-平均分子量(Mz)が300,000~5,000,000g/molであることが好ましく、より好ましくは250,000~1,000,000g/mol、さらに好ましくは200,000~800,000g/molである。
【0044】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、生分解性ポリエステル重合体の多分散性指数(PDI、Mw/Mn)は2.2以上であることが好ましく、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは2.5~10、より好適には2.5~7である。
【0045】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体が上述の範囲を満たす場合、TDとMD方向の引裂強度の著しい差を有する生分解性フィルムを製造することができ、それを用いて易引裂性包装材分野に幅広く応用することができる。
【0046】
一実施形態に係る生分解性ポリエステル重合体において、前記生分解性ポリエステル重合体は、上述の重合性組成物から製造された重合体であってもよく、具体的に、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネートブチレンテレフタレート(PBAST)、またはポリブチレンセバケートテレフタレート(PBSeT)であってもよい。
【0047】
本開示は、上述の生分解性ポリエステル重合体を含む生分解性フィルムを提供することができる。前記フィルムは、厚さが1~500μmであることが好ましく、より好ましくは10~200μmであるが、これに限定されず、適用しようとする用途に適した厚さに調節することができる。また、前記生分解性フィルムは、フィルム加工に用いられる通常かつ公知の加工方法により加工することができ、一例として、キャスト工程、押出工程、バブルブロー工程、カレンダー工程、または焼結(sintering)工程などによりフィルム化することができる。前記フィルム加工過程で一方向に延伸することができ、延伸される方向を長さ方向または機械方向(MD:Machine Direction)といい、それに垂直な方向を幅方向(TD;Transverse Direction)といい、前記生分解性フィルムのTD方向とMD方向に測定した引張強度、引裂強度などの機械的物性が互いに異なってもよい。具体的に、TD方向の機械的物性がMD方向よりも優れた値を示すことができ、より具体的に、2倍、3倍、4倍、5倍以上優れた値を示すことができる。
【0048】
一実施形態に係る生分解性フィルムにおいて、前記フィルム加工過程におけるフィルムの延伸比は、1~30倍であることが好ましく、より好ましくは1.1~20倍、さらに好ましくは2~15倍であるが、これに限定されない。
【0049】
一実施形態に係る生分解性フィルムにおいて、生分解性フィルムは、50±2μmの厚さ条件でMD方向の引裂強度が、3.0g/μm以下であることが好ましく、より好ましくは2.5g/μm以下、さらに好ましくは0.2~1.5g/μmである。また、TD方向の引裂強度が、5.0g/μm以上であることが好ましく、より好ましくは8.0g/μm以上、さらに好ましくは9.0~25.0g/μmである。
【0050】
一実施形態に係る生分解性フィルムにおいて、生分解性フィルムのTD方向の引裂強度は、MD方向の引裂強度の5倍以上であることが好ましく、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは12倍以上であり、また、上限は30倍以下であることが好ましいが、これに限定されない。生分解性フィルムは、方向に応じた引裂強度の著しい差により易引裂特性を効果的に実現することができる。
【0051】
一実施形態に係る生分解性フィルムにおいて、生分解性フィルムは、包装材の用途として幅広く用いることができ、具体的に、薬品包装材、食品包装材、製品保護用包装フィルム、マルチングフィルム、または収縮フィルムの用途として用いることができる。
【0052】
以下、実施例および比較例に基づいて本開示をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例および比較例は、本開示をより詳細に説明するための1つの例示にすぎず、下記の実施例および比較例に限定されるものではない。
下記の実施例および比較例の物性は、次のような方法で測定した。
【0053】
[物性の評価方法]
1.分子量(Mw、Mn、Mz)[g/mol]:GPC(Alliance HPLC、Waters)を用いて、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、およびz-平均分子量(Mz)を測定した。溶剤としてはテトラヒドロフランを用い、標準物としてはポリスチレン(EasiCal Polystyrene、Pre-prepared Calibration Kits)を用い、35℃のoperating温度、1mL/分のflow rateで分析した。また、前記Mw、Mnから多分散性指数(PDI)値を計算し、具体的に、Mn、Mw、およびMzは下記のように定義される。
【0054】
【数1】
(ここで、Mは、分子の分子量であり、Nは、分子量がMである分子の数を意味する。)
【0055】
以外の分子量を測定するための具体的な条件は下記のとおりである。
- 分析機器:カラム(モデル名:Agilent社製のPLGEL MIXED-C 7.5×300mm、5μm)を2つ連結し、GPC流量が1ml/minに設定され、屈折率検出器(Refractive Index Detector)が連結されたGPCシステム(モデル名:Agilent社製の1260 Infinity II High-Temperature GPC System)を用いた。
【0056】
- 試料の準備:バイアルに1.5mgの重合体サンプルとテトラヒドロフラン1mlを投入した後、常温で1時間以上Shaking Mixerで撹拌して溶解させた。製造された溶液を前記GPCに100μL注入した。
【0057】
2.引裂強度
製造された生分解性ポリエステル重合体を厚さ50μmのフィルムに製造し、ASTM D1922に準じてElmendorf引裂強度を測定した。具体的に、23℃の温度、50%の相対湿度の条件下で行い、フィルムの長さ方向の引裂強度をMD引裂強度とし、幅方向の引裂強度をTD引裂強度とし、下記表2に示した。
【0058】
[実施例1~6および比較例1および比較例2]
1,4-ブタンジオール6780g、テレフタル酸3950g、およびアジピン酸3850gを投入し、クエン酸キレート型チタン化合物の水溶液を16g投入した。反応温度(1)を230℃まで昇温し、リン系安定剤として亜リン酸を6.0g投入した。反応管を常圧に維持し、水を精留塔で除去しながら3時間反応させ、オリゴマーを製造した。
【0059】
その後、下記表1に記載された種類および含量に従って分岐剤を投入し、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを10g投入した。反応温度(2)を240℃に1時間上昇させ、反応管内の圧力を1Torr以下に段階的に下げ、過剰の1,4-ブタンジオールを蒸留により除去した。吐出負荷に達すると反応を終了し、次いで、水中ペレタイザーを用いてポリエステルをペレット化し、それを乾燥させることで、最終的に生分解性ポリエステル重合体を得た。得られた生分解性ポリエステル重合体のMn、Mw、およびMzを測定し、下記表1に示した。
【0060】
得られた生分解性ポリエステル重合体を150~200℃の温度でバブルブロー工程により50μmのフィルムを製造した。製造されたフィルムの物性を測定し、下記表2に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
前記表1および表2に示すように、実施例5の生分解性ポリエステル重合体は、Mz/Mwが3.5を示し、MD引裂強度が0.9g/μm、TD引裂強度が11.1g/μmと測定された。これにより、TD引裂強度が、MD引裂強度よりも約12倍高いことで、一方向に引裂かれやすい特性である易引裂性(easy-tearing)を効果的に実現できることを確認した。これに対し、比較例1および比較例2の場合、Mz/Mwがいずれも2.0以下であった。これにより、TD引裂強度が、MD引裂強度に対し、比較例1は3.9倍、比較例2は4.5倍であり、いずれも5倍未満であることを確認した。
【0064】
以上、特定の事項と限定された実施例により本発明を説明したが、これは本発明のより全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本発明は上記の実施例に限定されない。本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、このような記載から多様な修正および変形が可能である。
【0065】
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定的に解釈されるべきではなく、後述の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的変形を有するものは、いずれも本発明の思想の範囲に属するといえる。