(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079609
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用重合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240604BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20240604BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240604BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240604BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240604BHJP
C08F 20/56 20060101ALI20240604BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20240604BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20240604BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/1395
H01M4/134
H01M4/139
H01M4/13
C08F20/56
H01G11/06
H01G11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023194655
(22)【出願日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2022191648
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川向 裕志
(72)【発明者】
【氏名】隠岐 一雄
(72)【発明者】
【氏名】上村 茂久
【テーマコード(参考)】
4J100
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AM19Q
4J100AM21P
4J100AM21R
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4J100BA14R
4J100CA01
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5E078AA01
5E078AA02
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5H050AA02
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5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】一態様において、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性および高速放電容量維持率を向上できる蓄電デバイス用重合体の提供。
【解決手段】本開示は、一態様において、下記式(I)で表される構成単位を含み、下記式(I)で表される構成単位の含有量が95質量%超の、蓄電デバイス用重合体に関する。下記式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、R
2は、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
3は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖又は分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される構成単位を含み、
下記式(I)で表される構成単位の含有量が95質量%超の、蓄電デバイス用重合体。
【化1】
前記式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、R
2は、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
3は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖又は分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基である。
【請求項2】
前記(I)で表される構成単位の含有量が100質量%である、請求項1に記載の蓄電デバイス用重合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用重合体を含む、蓄電デバイス用バインダー組成物。
【請求項4】
シリコン系負極活物質、及び、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用重合体を含む、蓄電デバイス負極用ペースト。
【請求項5】
集電体、及び前記集電体上に形成された合材層を含む蓄電デバイス用負極であって、
前記合材層が、シリコン系負極活物質、及び、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用重合体を含む、蓄電デバイス用負極。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電デバイス用負極を備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電デバイス用重合体、バインダー組成物、蓄電デバイス負極用ペースト、蓄電デバイス用負極、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォンの普及や自動車市場でのゼロエミッション規制、さらには自然エネルギー活用の拡大等により、蓄電デバイスの需要は大きくなってきている。そのため、蓄電デバイスには、小型、軽量、大容量化が望まれ、自動車等においてはさらに高出力、高エネルギー密度を求める声が大きくなっている。このような要求において、リチウムイオン二次電池やアルカリイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの開発が進められている。
【0003】
このような蓄電デバイスは、一般的に金属箔上に活物質等を含む合材層が塗布された電極を備えており、合材層の剥落を防止するために蓄電デバイス電極用バインダーが合材層に添加されている。
蓄電デバイス負極用バインダーとしてもっとも広く使用されているのは、スチレン/ブタジエンラバー(SBR)であるが、近年、蓄電デバイスの更なる性能向上を目的として、合材層の形成に用いられるバインダーの開発が進められている。
例えば、特許文献1には、ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を所定の割合で含有し、かつ重量平均分子量が所定の範囲内である幹重合体に対して水可溶性単量体単位を含む枝重合体が結合した構造を有するグラフト共重合体を含むバインダー組成物が提案されている。
特許文献2には、(メタ)アクリルアミド単量体単位を含有する水溶性重合体およびアミン化合物を含むバインダー組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/159706号
【特許文献2】国際公開第2017/130910号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電デバイスの負極活物質には黒鉛系負極活物質が広く用いられているが、高容量化の点からシリコン系負極活物質が着目されている。
しかし、シリコン系負極活物質は充放電に伴う膨張及び収縮の体積変化が著しく大きく、従来のバインダー組成物を用いた電極(負極)では、蓄電デバイスの充放電サイクル特性を十分に高めることができないという問題が認識されている。
また、シリコン系負極活物質と従来のバインダー組成物とを用いて作製された電極(負極)では、蓄電デバイスの大電流での充電や放電時の放電容量(高速放電容量)や高速放電容量維持率(低速放電時と高速放電時の放電容量比)を十分に高めることができないという問題も認識されている。高速放電容量維持率とは、低速放電時と高速放電時の放電容量比であり、高い高速放電容量維持率は、大電流での充電や放電が必要な蓄電デバイスに求められる特性である。
すなわち、従来のバインダー組成物には、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスに優れた充放電サイクル特性および高い高速放電容量維持率を発揮させるという点において、未だ改善の余地があった。
【0006】
そこで、本開示は、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性および高速放電容量維持率を向上できる蓄電デバイス用重合体、並びにこれを用いた蓄電デバイス用バインダー組成物、蓄電デバイス負極用スラリー組成物、蓄電デバイス用負極及び蓄電デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、下記式(I)で表される構成単位を含み、下記式(I)で表される構成単位の含有量が95質量%超の、蓄電デバイス用重合体に関する。
【化1】
前記式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、R
2は、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
3は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖又は分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基である。
【0008】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用重合体を含む、蓄電デバイス用バインダー組成物に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、シリコン系負極活物質、及び、本開示の蓄電デバイス用重合体、を含む、蓄電デバイス負極用ペーストに関する。
【0010】
本開示は、一態様において、集電体、及び前記集電体上に形成された合材層を含む蓄電デバイス用負極であって、前記合材層が、シリコン系負極活物質、及び、本開示の蓄電デバイス用重合体、を含む、蓄電デバイス用負極に関する。
【0011】
本開示は、本開示の蓄電デバイス用負極を備える、蓄電デバイスに関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、一態様において、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性および高速放電容量維持率を向上できる蓄電デバイス用重合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[蓄電デバイス用重合体]
本開示は、特定の重合体を、一又は複数の実施形態において、蓄電デバイス用バインダーとして使用すれば、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電の繰り返しに伴う負極の膨れを抑制して、蓄電デバイスの電池特性を向上できるという知見に基づく。
すなわち、本開示は、一態様において、上記式(I)で表される構成単位(以下、「構成単位I」ともいう)を含み、上記式(I)で表される構成単位の含有量が95質量%超の、蓄電デバイス用重合体(以下、「本開示の重合体」ともいう)に関する。本開示の重合体は、一又は複数の実施形態において、構成単位Iを含み構成単位Iの含有量が95質量%超の重合体を含む蓄電デバイス用重合体組成物である。
本開示の重合体によれば、一又は複数の実施形態において、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性を向上できる。
【0014】
本開示の効果発現のメカニズムについては明らかではないが、以下のように推定される。
シリコン系負極活物質は、充放電にともなって膨張・収縮し、体積変化の理論値は300%を超える。この体積変化によって、シリコン系負極活物質の亀裂・粉砕、及びシリコン系負極活物質表面に形成される被膜(SEI)の脱落をもたらすと考えられる。
本開示の重合体は、上記式(I)で表される構成単位Iを含有することで、シリコン系負極活物質への高い吸着性を発揮し、充放電にともなうシリコン系負極活物質の亀裂・粉砕、及びSEIの脱落を抑制できると考えられる。
また、本開示の重合体は、負極層(合材層)と集電体との密着性、及び、シリコン系負極活物質同士の密着性を向上させ、電極(シリコン系負極)の強度を向上できると考えられる。
さらに、本開示の重合体の全構成単位中の構成単位Iの含有量が所定量(95質量%)を超えることで、上述した密着性が十分に確保され、充放電サイクル試験結果も良好なものとなると考えられる。これは、構成単位Iが水酸基及びアミド結合を有することで、シリコン系負極活物質との親和性が高くなり、負極層(合材層)と集電体の密着性、及び、シリコン系負極活物質同士の密着性に優れることによるものであると推定される。
また、本開示の重合体を用いた蓄電デバイスでは、高速で充放電するサイクル試験においても放電容量は良好であるので高速放電容量維持率が高く、本開示の重合体は、例えば、電気自動車の急加速を可能とし、パワーツール等への適用が期待できる。これは、上記親和性の向上および密着性の向上に加え、炭化水素基や水酸基が同一分子内に存在する状態で形成されるアミド基の相互ネットワークがLi+の移動を促進して内部抵抗の低下に寄与すること、によるものと推察される。
ただし、これらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
<式(I)で表される構成単位(構成単位I)>
本開示の重合体は、下記式(I)で表される構成単位(構成単位I)を含む。構成単位Iは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【化2】
【0016】
前記式(I)中、R1は、水素原子又はメチル基であり、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性の向上の観点から、水素原子が好ましい。
R2は、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性の向上の観点から、水素原子が好ましい。
R3は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖又は分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性の向上の観点から、1個の水酸基を有する直鎖又は分岐鎖の炭素数2以上3以下の炭化水素基が好ましく、1個の水酸基を有する直鎖の炭素数2の炭化水素基がより好ましい。
【0017】
本開示の重合体の全構成単位中の構成単位Iの含有量は、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性の向上の観点から、95質量%を超え、98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0018】
構成単位Iを形成するモノマーとしては、例えば、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、及びN-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミドから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性の向上の観点から、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド及びN-(2-ヒドロキシプロピル)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1種が好ましく、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドがより好ましい。
【0019】
<他の構成単位(構成単位II)>
本開示の重合体は、構成単位I以外の他の構成単位(以下、「構成単位II」ともいう)をさらに含んでもよい。本開示の重合体の全構成単位中の構成単位IIの含有量は、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性の向上の観点から、5質量%を下回り、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0質量%である。
構成単位IIを形成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸などの酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルのモノマー、構成単位Iを形成するモノマー以外の(メタ)アクリルアミドモノマー等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルのモノマーとしては、例えばポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、炭素数12以下のアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。構成単位Iを形成するモノマー以外の(メタ)アクリルアミドモノマーとしては、例えばジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、tert-ブチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0020】
本開示の重合体としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド重合体、ヒドロキシエチルアクリルアミド/ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、及び、ヒドロキシエチルアクリルアミド/アクリル酸共重合体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
本開示の重合体は、例えば、構成単位Iを形成するモノマー及び必要に応じて構成単位IIを形成するモノマーを重合させることによって製造できる。重合法としては、例えば、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の公知の重合法が挙げられる。
【0022】
本開示の重合体の重量平均分子量は、シリコン系負極活物質と集電体との密着性の観点から、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上、更に好ましくは30万以上、更に好ましくは50万以上であり、そして、負極ペーストのハンドリング性の観点から、好ましくは300万以下、より好ましく200万以下、更に好ましくは100万以下である。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した値であり、測定条件の詳細は実施例に示すとおりである。
【0023】
本開示の重合体は、一又は複数の実施形態において、蓄電デバイスの負極用バインダーとして使用することができる。すなわち、本開示は、一態様において、本開示の重合体の、蓄電デバイス負極用バインダーとしての使用に関する。
【0024】
[蓄電デバイス用バインダー組成物]
本開示は、一態様において、本開示の重合体を含む、蓄電デバイス用バインダー組成物(以下、「本開示のバインダー組成物」ともいう)に関する。本開示のバインダー組成物によれば、一又は複数の実施形態において、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性を向上できる。
【0025】
<重合体>
本開示のバインダー組成物に含まれる本開示の重合体は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
本開示のバインダー組成物中の本開示の重合体の含有量は、電極作成時の配合性の観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、そして、粘度が増加してハンドリング性が低下するのを抑制する観点から、50質量%以下が好ましく、45質量以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。本開示の重合体が2種以上の組合せである場合、本開示の重合体の含有量はそれらの合計含有量である。
【0026】
<溶媒>
本開示のバインダー組成物は、一又は複数の実施形態において、本開示の重合体を含む溶液であり、溶媒を含有する。溶媒としては、水が挙げられる。
【0027】
<その他の成分>
本開示のバインダー組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、本開示の重合体及び溶媒以外にその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、分散剤、防腐剤、及び中和剤から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0028】
本開示のバインダー組成物は、例えば、溶媒中で、本開示の重合体及び必要に応じて上述したその他の成分を、公知の方法で混合することにより調製することができる。混合方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、超音波分散機等が挙げられる。
【0029】
[蓄電デバイス負極用ペースト]
本開示の重合体及び本開示のバインダー組成物は、蓄電デバイス負極用ペーストの調製に用いることができる。すなわち、本開示は、一態様において、シリコン系負極活物質、及び、本開示の重合体を含む、蓄電デバイス負極用ペースト(以下、「本開示の負極ペースト」ともいう)に関する。本開示の負極ペーストは、一又は複数の実施形態において、シリコン系負極活物質、及び、本開示のバインダー組成物を含むものである。本開示の負極ペーストは、一又は複数の実施形態において、蓄電池用シリコン系負極ペースト(シリコン系負極ペースト)である。本開示の負極ペーストによれば、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性を向上できる。
【0030】
<シリコン系負極活物質>
シリコン系負極活物質としては、一又は複数の実施形態において、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、あるいは、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化されたSi含有材料等が挙げられる。シリコン系負極活物質は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
シリコン系負極活物質の平均粒径は、蓄電デバイスの充放電サイクル特性向上の観点から、0.01μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの充放電サイクル特性向上の観点から、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が更に好ましい。シリコン系負極活物質の平均粒径は、レーザー回折散乱法によって測定される体積平均粒径(D50)であり、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において、小粒径側からの累積体積が50%となる点の粒子径を意味する。体積平均粒径(D50)は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
本開示の負極ペースト中のシリコン系負極活物質の含有量は、蓄電デバイスの高容量化の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの充放電サイクル特性向上の観点から、70質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。本開示のシリコン系負極活物質が2種以上の組合せである場合、本開示の負極ペースト中のシリコン系負極活物質の含有量はそれらの合計含有量である。
【0031】
<重合体>
本開示の負極ペーストに含まれる本開示の重合体は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
本開示の負極ペースト中の本開示の重合体の含有量は、重合体と集電体との密着性の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。本開示の重合体が2種以上の組合せである場合、本開示の負極ペースト中の本開示の重合体の含有量はそれらの合計含有量である。
本開示の負極ペースト中における、シリコン系負極活物質と本開示の重合体との含有比としては、本開示の重合体の含有量が、シリコン系負極活物質100質量部に対して、シリコン系負極活物質と集電体との密着性の観点から、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、200質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましい。
【0032】
<分散媒>
本開示の負極ペーストは、一又は複数の実施形態において、分散媒を含む。分散媒としては、例えば、水が挙げられる。
【0033】
<その他の成分>
本開示の負極ペーストは、上述した成分以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、一又は複数の実施形態において、シリコン系負極活物質以外の負極活物質、導電材、増粘剤等が挙げられる。
シリコン系負極活物質以外の負極活物質としては、グラファイト等の黒鉛系負極活物質が挙げられる。本開示の負極ペーストが黒鉛系負極活物質を含む場合、本開示の負極ペースト中の黒鉛系負極活物質の含有量は、蓄電デバイスの充放電サイクル特性向上の観点から、0.5質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。黒鉛系負極活物質が2種以上の組合せである場合、本開示の負極ペースト中の黒鉛系負極活物質の含有量はそれらの合計含有量である。
導電材としては、蓄電デバイスに使用可能な公知の導電材であればよく、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。本開示の負極ペーストが導電材を含む場合、本開示の負極ペースト中の導電材の含有量は、蓄電デバイスの抵抗性の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。導電材が2種以上の組合せである場合、本開示の負極ペースト中の導電材の含有量はそれらの合計含有量である。
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。本開示の負極ペーストが増粘剤を含む場合、本開示の負極ペースト中の増粘剤の含有量は、負極ペーストの塗工性の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。増粘剤が2種以上の組合せである場合、本開示の負極ペースト中の増粘剤の含有量はそれらの合計含有量である。
【0034】
本開示の負極ペースト中の固形分濃度は、蓄電デバイスの生産性の観点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上が更に好ましく、そして、負極ペーストのハンドリング性の観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましい。
【0035】
<本開示の負極ペーストの調製方法>
本開示の負極ペーストは、シリコン系負極活物質、本開示の重合体、分散媒、及び必要に応じてその他の成分を混合することにより調製できる。混合方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、超音波分散機等を用いる方法が挙げられる。
【0036】
[蓄電デバイス用負極]
本開示の重合体、本開示のバインダー組成物、及び本開示の負極ペーストは、蓄電デバイス用電極(負極)の合材層の作製に使用することができる。
すなわち、本開示は、一態様において、集電体、及び前記集電体上に形成された合材層を含む蓄電デバイス用負極であって、前記合材層が、シリコン系負極活物質及び本開示の重合体を含む、蓄電デバイス用負極(以下、「本開示の負極」ともいう)に関する。本開示の負極における前記合材層は、一又は複数の実施形態において、シリコン系負極活物質及び本開示のバインダー組成物を含むものである。本開示の負極によれば、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性を向上できる。
【0037】
<集電体>
前記集電体としては、導電性を有する材料から選ぶことができ、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔等の金属箔が挙げられる。
【0038】
<合材層>
前記合材層は、例えば、シリコン系負極活物質及び本開示の重合体を含む本開示の負極ペーストを集電体上に塗布し、前記負極ペースト中の溶媒を乾燥除去することにより得ることができる。
負極ペースト(スラリー)を集電体に塗布する方法としては、公知の塗布方法を用いることができ、例えば、グラビア法、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法等が挙げられる。
負極ペーストは集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗膜の厚みは、乾燥後に得られる合材層の厚みに応じて適宜設定できる。
負極ペーストを乾燥する方法としては、公知の乾燥方法を用いることができ、例えば、温風等による乾燥法、真空乾燥法、赤外線照射等による乾燥法が挙げられる。
前記合材層は、一又は複数の実施形態において、シリコン系負極活物質、本開示の重合体、必要に応じてその他の成分を含む。その他の成分としては、上述した本開示の負極ペーストのその他の成分と同じものが挙げられる。
(シリコン系負極活物質)
前記合材層中のシリコン系負極活物質の含有量は、電池エネルギー密度の確保の観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、そして、シリコン系負極活物質の膨張収縮による負極の劣化抑制の観点から、99.8質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が更に好ましい。シリコン系負極活物質が2種以上の組合せである場合、合材層中のシリコン系負極活物質の含有量はそれらの合計含有量である。
(重合体)
前記合材層中の本開示の重合体の含有量は、シリコン系負極活物質と集電体との密着性の観点から、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。本開示の重合体が2種以上の組合せである場合、合材層中の本開示の重合体の含有量はそれらの合計含有量である。
前記合材層中におけるシリコン系負極活物質と本開示の重合体の含有比としては、本開示の重合体の含有量が、シリコン系負極活物質100質量部に対して、シリコン系負極活物質同士の密着性の観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
(その他の成分)
本開示の合材層が黒鉛系負極活物質を含む場合、前記合材層中の黒鉛系負極活物質の含有量は、蓄電デバイスの充放電サイクル特性向上の観点から、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、98.8質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下が更に好ましい。本開示の黒鉛系負極活物質が2種以上の組合せである場合、合材層中の黒鉛系負極活物質の含有量はそれらの合計含有量である。
本開示の合材層が導電材を含む場合、前記合材層中の導電材の含有量は、蓄電デバイスの抵抗性の観点から、0.02質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、3質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。本開示の黒鉛系負極活物質が2種以上の組合せである場合、合材層中の導電材の含有量はそれらの合計含有量である。
本開示の合材層が増粘剤を含む場合、前記合材層中の増粘剤の含有量は、負極ペーストの塗工性の観点から、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、そして、蓄電デバイスの高容量化の観点から、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。本開示の増粘剤が2種以上の組合せである場合、合材層中の増粘剤の含有量はそれらの合計含有量である。
【0039】
[蓄電デバイス]
本開示は、一態様において、本開示の負極を備える蓄電デバイス(以下、「本開示の蓄電デバイス」ともいう)に関する。本開示によれば、優れた充放電サイクル特性を有する蓄電デバイスを提供できる。
本開示の蓄電デバイスとしては、一又は複数の実施形態において、リチウムイオン二次電池、リチウム空気二次電池、リチウム-硫黄二次電池、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウム-硫黄二次電池、ナトリウム-塩化ニッケル二次電池、有機ラジカル電池、亜鉛-空気二次電池、全固体電池等が挙げられる。
【0040】
本開示の蓄電デバイスは、一又は複数の実施形態は、本開示の負極、及び、電解液を含む蓄電デバイスである。電解液としては、溶媒と電解質を含むものが挙げられ、溶媒として、例えば、水、イオン液体、あるいは、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が挙げられ、電解質としては、金属塩が挙げられ、例えば、LiPF6などのリチウム塩が挙げられる。
本開示の蓄電デバイスは、例えば、公知の蓄電デバイス製造方法により製造できる。蓄電デバイスの製造方法としては、例えば、2つの電極(正極及び負極)を、セパレータを介して重ね合わせ、電池形状に捲回あるいは積層させて、電池容器あるいはラミネート容器に入れ、容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。
【0041】
本願は、さらに以下の蓄電デバイス用重合体、蓄電デバイス用バインダー組成物、および蓄電デバイス負極用ペースト等を開示する。
【0042】
[1] 下記式(I)で表される構成単位を含み、
下記式(I)で表される構成単位の含有量が95質量%超の、蓄電デバイス用重合体。
【化3】
前記式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、R
2は、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
3は、1個以上3個以下の水酸基を有する直鎖又は分岐鎖の炭素数1以上4以下の炭化水素基である。
[2] R
1が、水素原子である、前記[1]に記載の蓄電デバイス用重合体。
[3] R
2が、水素原子である、前記[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス用重合体。
[4] R
3が、1個の水酸基を有する直鎖の炭素数2の炭化水素基である、前記[1]から[3]のいずれかに記載の蓄電デバイス用重合体。
[5] 重量平均分子量が、5万以上300万以上である、前記[1]から[4]のいずれかに記載の蓄電デバイス用重合体。
[6] 前記(I)で表される構成単位の含有量が100質量%である、前記[1]から[5]のいずれかに記載の蓄電デバイス用重合体。
[7] 前記[1]から[6]のいずれかに記載の蓄電デバイス用重合体と溶媒とを含む、蓄電デバイス用バインダー組成物。
[8] シリコン系負極活物質と、前記[1]から[6]のいずれかに記載の蓄電デバイス用重合体とを含む、蓄電デバイス負極用ペースト。
[9] 集電体と、前記集電体上に形成された合材層とを含む蓄電デバイス用負極であって、
前記合材層が、シリコン系負極活物質、及び、前記[1]から[6]のいずれかに記載の蓄電デバイス用重合体を含む、蓄電デバイス用負極。
[10] 前記[9]に記載の蓄電デバイス用負極を備える、蓄電デバイス。
[11] 蓄電デバイス用バインダー組成物の製造のための前記[1]から[6]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用重合体の使用。
[12] 蓄電デバイス負極用ペーストの製造のための前記[1]から[6]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用重合体の使用。
[13] 蓄電デバイス用負極の製造のための前記[1]から[6]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用重合体の使用。
【実施例0043】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0044】
1.蓄電デバイス用重合体A1~A3の合成
[製造例1:重合体A1の合成]
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、イオン交換水363gを仕込み、窒素雰囲気下で0.5時間攪拌した。フラスコ内の溶液を75℃に昇温し、フラスコ内にN-ヒドロキシエチルアクリルアミド(KJケミカルス社製)50.0gの60質量%水溶液83g、および2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フイルム和光純薬社製)0.6gの1質量%水溶液60gを1時間かけて滴下した。その後、フラスコ内の溶液を75℃でさらに4時間保持することで、製造例1のポリマー溶液(重合体A1)を得た。ポリマー溶液中の重合体濃度は、10質量%であった。重合体1の重量平均分子量は75万であった(表1)。
[製造例2~3:重合体A2~A3の合成]
製造例1の方法に従って、一般式(1)の構成単位を形成する重合性単量体と、表1に記載の残りの構成単位IIを形成する重合性単量体(PEG10-A:ポリエチレングリコールアクリレート、EO付加モル数10、日油社製の"AE-400")とを共重合して、製造例2~3のポリマー溶液(重合体A2~A3)を得た。ポリマー溶液中の重合体A2~A3の濃度はそれぞれ、10質量%であった。重合体A2~A3の重量平均分子量は表1に示した。
【0045】
【0046】
[重量平均分子量の測定]
蓄電デバイス用重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した。詳細な条件を下記に示す。
<測定条件>
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:GMPWXL+GMPWXL(アニオン、東ソー社製)
溶離液:0.2モル濃度のリン酸バッファー/アセトニトリル(=9/1)
流量:0.5mL/分
カラム温度:40℃
検出器:RI 検出器
標準物質:ポリエチレンオキサイド
【0047】
2.シリコン系負極ペーストの調製
(実施例1)
導電材(アセチレンブラック、デンカ社製、「Li-100」) 0.16gと1.5質量%の増粘剤(カルボキシメチルセルロースナトリウム、富士フイルム和光純薬社製)水溶液 5.5gと黒鉛系負極活物質(グラファイト、昭和電工社製「MCMG-CF-C」)7.88gとシリコン系負極活物質(一酸化シリコン、富士フイルム和光純薬社製)0.88gを混合して、スラリー[1]を調製した。
次いで、スラリー[1]に、1.5質量%の増粘剤(カルボキシメチルセルロースナトリウム、富士フイルム和光純薬社製)水溶液 3.73gおよびイオン交換水 0.53g入れて混合して、スラリー[2]を調製した。
次に、調製した製造例1の10質量%の重合体A1水溶液1.85gを添加し、実施例1のシリコン系負極ペーストの調製を行った。各成分の混合には、「あわとり練太郎(ARV-310)」を用いた。シリコン系負極ペースト中の各成分の含有量は、重合体:0.9質量%、シリコン系負極活物質:4.3質量%、黒鉛系負極活物質:38.4質量%、導電材:0.8質量%、増粘剤:0.67質量%であった。シリコン系負極ペースト中の重合体の含有量は、シリコン系負極活物質100質量部に対して21質量部であった。シリコン系負極ペーストの固形分濃度は45質量%であった。
(比較例1~2)
実施例1のシリコン系負極ペーストの調製方法と同様にして、比較例1~2のシリコン系負極ペーストを調製した。配合組成は実施例1と同じで、使用した重合体の種類のみを変更した。
【0048】
3.シリコン系負極の作製1
厚さ20μmの銅箔上に、負極容量密度が6mAh/cm2となるように、シリコン系負極ペーストを塗工し、塗膜(厚さ380μm)を、真空乾燥器を用いて100℃で12時間乾燥した。これにより、集電体上に合材層(厚さ120μm)が形成されたシリコン系負極(負極合剤層を有するシリコン系負極)を作製した。これをプレス機でプレスして、集電体上に合材層(100μm)が形成されたシリコン系負極(負極合剤層を有するシリコン系負極)とした。電極(負極)組成としては、グラファイト85.3質量%、SiO(平均粒径:1μm)9.5質量%、導電材:1.7質量%、増粘剤:1.5質量%、重合体:2.0質量%となるように作製した。
[シリコン系負極活物質の平均粒径の測定]
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-920(堀場製作所製)を用いて体積平均粒径(D50)を測定した。
【0049】
4.負極性能の評価
実施例1及び比較例1~2のシリコン系負極を用い下記のようにして作製した蓄電デバイスの充放電特性を、下記充放電サイクル試験により負極性能を評価した。
[コインセル(蓄電デバイス)の作製]
シリコン系負極をそれぞれ直径14mmに打ち抜きプレスした。そして、プレスしたシリコン系負極上に、直径19mmのセパレータ[宝泉社製]、直径15mm、厚さ0.5mmのコイン状の金属リチウム箔を対極として配置し、2032型コインハーフセルを作製した。電解液には、1M LiPF6 EC/DEC(体積比)=3/7を用いた。
[充放電サイクル試験]
作製したコインセルを、エレクトロフィールド社製充放電試験機(ABE1024)を用いて、45℃の環境下、充放電サイクル試験を行った。充電は、OCVから0Vまで0.1Cで定電流充電をした後、10分間定電圧充電することとした。放電は、1.2Vまで0.1Cで定電流放電することとした。この充放電を50サイクル繰り返した。尚、本セルの充電とは、リチウム金属からシリコン系負極へのリチウムイオン挿入過程をいい、放電はその逆反応をいう。
[容量維持率]
作製したコインセル(蓄電デバイス)を用いて上記充放電サイクル試験を行い、下記式により容量維持率を求めた。結果を表2に示す。
容量維持率=(50サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)
【0050】
【0051】
表2に示されるように、構成単位Iの含有量が95質量%超の重合体A1を用いた実施例1では、構成単位Iの含有量が95質量%以下である重合体A2及びA3を用いた比較例1~2に比べて、充放電サイクルでの容量維持率が高く、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの充放電サイクル特性が向上できることがわかった。
【0052】
5.シリコン系負極の作製2(フルセル用負極)
厚さ20μmの銅箔上に、負極容量密度が2.1mAh/cm2となるように、シリコン系負極ペーストを塗工し、塗膜(厚さ130μm)を、真空乾燥器を用いて100℃で12時間乾燥した。これにより、集電体上に合材層(厚さ45μm)が形成されたシリコン系負極(負極合剤層を有するシリコン系負極)を作製した。これをプレス機でプレスして、集電体上に合材層(35μm)が形成されたシリコン系負極(負極合剤層を有するシリコン系負極)とした。電極(負極)組成としては、グラファイト85.3質量%、SiO(平均粒径:1μm)9.5質量%、導電材:1.7質量%、増粘剤:1.5質量%、重合体
:2.0質量%となるように作製した。
【0053】
6.フルセル用正極の作製
正極活物質(日本化学工業社製、NCM523)15g、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)のn-メチルピロリドン(NMP)溶液(固形分8% KFポリマーL#7208、株式会社クレハ製、バインダー溶液)5.98g、導電材(アセチレンブラック、デンカ社製、「Li-100」) 0.48gと溶媒(NMP)12.97gを自転公転ミキサー(AR-100 株式会社 シンキー製)にて、10分間混合して、固形分46質量%の正極ペーストを作製した。これを厚さ20μmのアルミホイルに塗布して、100℃で乾燥させることによって正極容量密度が2.0mAh/cm2正極を製造した。
【0054】
[コインセル(蓄電デバイス)の作製(フルセル)]
正極を直径13mm、シリコン系負極を直径14mmに打ち抜き、正極上に、直径19mmのセパレータ[宝泉社製]、その後にシリコン系負極を対極として配置し、2032型コインセル(フルセル)を作製した。電解液には、1M LiPF6 EC/DEC(体積比)=3/7を用いた。
【0055】
[フルセルの評価]
得られたフルセルを用いて、電池特性(レート特性5C)を測定した。具体的には、電池を25℃の環境下で下記の条件に従い0.1Cで4.2Vまで充電し、その後0.1Cで3Vになるまで放電し放電容量を求めた。次いで5Cの放電容量を同様にして求め、0.1Cの放電容量を基準に5Cの放電容量維持率を求めた。
(充電条件) 0.1C CC―CV4.2V(0.02C Cut off)
(放電条件) 0.1Cもしくは5C CC(3V Cut off)
高速放電容量維持率(%)=(5Cの放電容量/0.1Cの放電容量)×100
【0056】
【0057】
表3に示されるように、構成単位Iの含有量が95質量%超の重合体A1を用いた実施例1では、構成単位Iの含有量が95質量%以下である重合体A2及びA3を用いた比較例1~2に比べて高速放電容量維持率が高く、シリコン系負極活物質を用いた負極を備える蓄電デバイスの高速放電容量維持率の特性が向上できることがわかった。