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特開2024-79614筋力および/またはモータ力で動作可能な車両の駆動ユニットを動作させる方法
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  • 特開-筋力および/またはモータ力で動作可能な車両の駆動ユニットを動作させる方法 図1
  • 特開-筋力および/またはモータ力で動作可能な車両の駆動ユニットを動作させる方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079614
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】筋力および/またはモータ力で動作可能な車両の駆動ユニットを動作させる方法
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20240604BHJP
   B62M 6/55 20100101ALI20240604BHJP
【FI】
B62M6/45
B62M6/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023196922
(22)【出願日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】10 2022 212 728.5
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ライマン,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ガイアー,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】アンムス,ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】ベンツェル,ティモ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、筋力および/またはモータ力で動作可能な車両の駆動ユニットを動作させる方法、制御ユニット、および電気モータに関する。
【解決手段】本発明は、筋力および/またはモータ力で動作可能な車両(10)の電気モータ(2)と制御ユニットとを有する駆動ユニット(1)を動作させる方法に関し、駆動ユニット(1)のシステムスタートに応答して、電気モータ(2)は、電気モータ(2)が逆回転方向に回転するように始動電流で操作される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋力および/またはモータ力で動作可能な車両(10)の電気モータ(2)と制御ユニットとを有する駆動ユニット(1)を動作させる方法であって、前記駆動ユニット(1)のシステムスタートに応答して、前記電気モータ(2)は、前記電気モータ(2)が逆回転方向に回転するように始動電流で操作される、方法。
【請求項2】
前記電気モータ(2)は、予め定められた時間、前記始動電流で操作される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-前記始動電流での前記電気モータ(2)の操作中、前記車両(10)のモータセンサ系および/またはモータソフトウェアを初期化するステップ(43)をさらに包含する、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記モータセンサ系および/または前記モータソフトウェアを初期化することは、ロータ位置の較正を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
検知された運転者要求に応答して、前記電気モータ(2)が順回転方向に回転するように前記電気モータ(2)を操作するステップをさらに包含する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記車両(10)は、前記電気モータ(2)とドライブトレインとの間にフリーホイールを備え、特に前記フリーホイールは、順回転方向にロックし、逆回転方向に開く、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記駆動ユニット(1)の前記システムスタートは、特に入力装置を用いた手動のスタート操作に応答して開始される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記駆動ユニット(1)の前記システムスタートは、周辺に相対する前記車両(10)の動きに応答して開始される、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
特に前記始動電流での操作中、前記電気モータ(2)をトルク非発生方向のテスト電流で操作するステップ(21)をさらに包含する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電気モータ(2)の前記テスト電流での前記操作(21)中、前記電気モータ(2)の少なくとも1つのモータパラメータを推定するステップ(23)をさらに包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電気モータ(2)の前記テスト電流での前記操作(21)中、電気角の角度変化、前記トルク非発生方向のテスト電圧、および前記トルク非発生方向のテスト電流を検出するステップ(22)をさらに包含し、
前記少なくとも1つのモータパラメータの前記推定は、前記検出された角度変化および/または前記検出されたテスト電圧および/または前記検出されたテスト電流にもとづいて、前記電気モータ(2‘)の既知の機械モデルを計算することによって行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記機械モデルは、前記電気モータ(2)の電圧オフセットを未知の自由度として有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
電気モータ(2)の制御ユニットであって、前記電気モータ(2)を操作するように、かつ請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法を実行するように設定されている、制御ユニット。
【請求項14】
電気モータであって、請求項13に記載の制御ユニットを備える、電気モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋力および/またはモータ力で動作可能な車両の駆動ユニットを動作させる方法、制御ユニット、および電気モータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電動自転車用の電気モータの動作パラメータをセンサによって監視する手法が知られている。多くの場合、電気モータの動作のために動作パラメータの専門知識を必要とする。その場合、例えば始動過程でセンサ系と電気モータの制御とが初期化される。その際、通常、電気モータの関連するすべての特性を直接検出することはできない。
【発明の概要】
【0003】
これに対して、請求項1の特徴を有する本発明による方法は、駆動ユニットのシステムスタートを特に簡単かつ時間効率的に実行できることを特徴とし、特に短時間の後に完全なトルクの提供が特に可能になる。このことは、本発明によれば、筋力および/またはモータ力で動作可能な車両、殊に電動自転車の駆動ユニットを動作させる方法によって達成される。その場合、駆動ユニットは電気モータと制御ユニットとを有する。この方法では、駆動ユニットのシステムスタートに応答して、電気モータは、電気モータが逆回転方向に回転するように予め定められた始動電流で操作される。
【0004】
特に、電気モータと制御ユニットとを有する車両の駆動ユニットのスタートルーチンがシステムスタートと見なされ、このスタートルーチン内で、駆動ユニットが完全にスタンドバイモードもしくは走行可能状態に移行される。その場合、少なくとも電気モータおよび/または制御ユニットがスタンドバイモードもしくは走行可能状態に移行されることが好ましい。例えば、電気モータが、例えばそれまで電気モータの動作が行われなかったスイッチオフ状態にあった後の電気モータの始動過程をシステムスタートと見なすことができる。
【0005】
殊に、システムスタートは2秒の、特に好ましくは最大で1秒の最大持続時間を有する。これは、方法が、特にシステムスタートのこの時間内でだけ実行されることを意味する。
【0006】
殊に、システムスタートを対応するシステムスタート信号によって検知することができ、それにより、例えばシステムスタート信号の検知に応答して方法が実行される。
【0007】
始動電流は、好ましくは電気モータの逆回転方向の回転運動のみが開始され、特にその際に多大なトルク発生が行われないように形成されていてもよい。これは、殊に、電気モータを回転運動させるのに十分な小さい電流強度を有する始動電流を生成できることを意味する。
【0008】
換言すれば、方法では、駆動ユニットの始動過程において、電気モータは、電気モータ、特に電気モータのロータが逆回転方向に回転するように始動電流で操作される。その場合、特に電気モータの順回転方向とは逆の回転方向が逆回転方向とみなされ、電気モータの順回転方向では車両の前進のために利用できるトルクを生成することができる。
【0009】
これは、この方法では、電気モータは、システムスタート時に、殊にシステムスタートと直接同時に、電気モータが逆回転方向に回転するように短時間操作されることを意味する。それによって、システムスタート時に電気モータもしくは電気モータのロータの角度変化がもたらされる。それによって多数の利点が得られる。特に、それによって、例えばモータセンサ系および/またはモータソフトウェア全体の検査および初期化を、簡単かつ時間効率的に、電気モータのシステムスタート時に直接、特に電気モータの他の動作形式とは無関係に行うことができる。したがって、システムスタート後の特に短い時間の後に電気モータの完全な機能能力を自動的に提供することができる。特に、例えばトルクの提供を遅らせることになる初期化を電気モータの通常動作中に実行する必要がない。それに加えて、電気モータを逆回転方向に回転させることによって、例えば車両のドライブトレインへのトルク伝達を阻止できるという利点が得られ、それにより、この方法は、車両の走行動作または停止に影響を及ぼすことなくいつでも実行できる。
【0010】
従属請求項は、本発明の好ましい発展形態を内容とする。
【0011】
好ましくは、方法において、電気モータは、特に最大で予め定められた時間、始動電流で操作される。これは、認識されたシステムスタートに応答して、始動電流での電気モータの的確な短時間の操作が行われることを意味する。殊に、予め定められた時間は最大1秒、好ましくは最大0.5秒である。したがって、特に初期化措置によって、電気モータの特に時間効率的で他の動作を邪魔しない電気モータの動作開始を可能にすることができる。
【0012】
特に好ましくは、方法は、始動電流での電気モータの操作中、車両のモータセンサ系および/またはモータソフトウェアを初期化するステップをさらに包含する。特に、モータセンサ系および/またはモータソフトウェアが電気モータの通常動作のための初期化に続いて完全に動作可能状態となるようにモータセンサ系および/またはモータソフトウェアを準備することが初期化と見なされる。例えば、初期化は、モータセンサ系および/またはモータソフトウェアの少なくともいくつかの部分の較正および/または機能検査を含むことができる。その場合、逆回転方向での電気モータの回転によって、システムスタート時に初期化を自動的に、特に簡単かつ効率的に実行することができる。したがって、システムスタート後の特に短い時間内に電気モータをスタンドバイモードに移行させることができる。
【0013】
殊に、モータセンサ系および/またはモータソフトウェアの初期化は、電気モータのロータ位置較正を含む。特に電気モータのロータおよび/またはモータセンサ系の角度センサおよび/またはモータソフトウェアのロータ位置ソフトウェアの瞬時位置の較正がロータ位置較正と見なされる。システムスタート時に逆回転方向での電気モータの回転によって生成される電気モータのロータの角度変化によって、ロータ位置較正を特に簡単かつ効率的に行うことができる。
【0014】
さらに好ましくは、方法は、検知された運転者要求に応答して、電気モータが順回転方向に回転するように電気モータを操作するステップをさらに包含する。特に、運転者要求の検知は、運転者要求センサによって行われる。例えば、電動自転車では、電動自転車のクランク機構の操作を運転者要求と見なすことができ、特に運転者のペダルトルクを運転者要求センサによって検知することができる。特に、順回転方向では、電気モータ、殊にロータの回転が逆回転方向とは逆の回転方向で行われる。したがって、順回転方向では、車両の前進のために利用できるモータトルクを生成することができる。
【0015】
特に好ましくは、車両は、車両の電気モータとドライブトレインとの間にフリーホイールを備える。殊に、フリーホイールは、順回転方向にロックし、特にそれにより電気モータの順回転方向の回転時に電気モータからドライブトレインへのトルク伝達が可能である。さらに好ましくは、フリーホイールは逆回転方向に開き(oeffnen)、それにより電気モータの逆回転方向の回転時にドライブトレインへのトルク伝達が行われない。それによって、方法は特に簡単であるとともに、いつでも実行でき、それによって車両の動作形式に影響が及ぼされることはないことが可能である。したがって、例えば、車両の停止または瞬時移動に関係なく方法を実行することができる。
【0016】
好ましくは、駆動ユニットのシステムスタートは、特に入力装置を用いて入力可能な手動のスタート操作に応答して開始される。これは、電気モータのシステムスタートを車両のユーザによって、例えば入力装置を用いたボタン押しによって手動で開始できることを意味する。それによって、電気モータのスイッチオフ状態からスタンドバイモードへの的確な移行を特に簡単かつ効率的に可能にすることができる。
【0017】
さらに好ましくは、駆動ユニットのシステムスタートは、車両周辺に相対する車両の動きに応答して開始される。例えば、周辺に相対する動きを車両の慣性センサ系によって検出することができる。これは、例えば車両がユーザによって移動される、例えば押し動かされることが認識された場合、電気モータをスタンドバイモードに移行させるために電気モータのシステムスタートを自動的に開始できることを意味する。それによって、車両のユーザに特に高いユーザ快適性を提供することができる。
【0018】
殊に、方法は、殊に始動電流での電気モータの操作中、トルク非発生方向(nicht-drehmomentbildende Richtung)のテスト電流で電気モータを操作するステップをさらに包含する。トルク生成を行わない電気モータの操作電流がトルク非発生方向のテスト電流と見なされる。特に、テスト電流はステータ磁界がロータ磁場と平行に向くように生成される。それによって、ステータ磁界によって、駆動トルクを生成することになる磁力がロータに加えられない。特に、その代わりに、テスト電流によって、ロータには半径方向の磁力のみがもたらされる。それによって、簡単な手段で、特に追加のセンサなしに電気モータのソフトウェア診断を実行することができる。その場合、モータパラメータを高精度で検知できる。トルク非発生方向のテスト電流の印加によって、方法を簡単にいつでも、例えば、駆動ユニットのシステムスタート直後など、車両の停止時にも実行することができる。したがって、殊に電動自転車の走行開始前に、モータセンサ系および/またはモータソフトウェアの初期化を実行するために、ならびに好ましくは電気モータのモータパラメータを検知するために方法を実行することができる。殊に、それにもとづいて、電気モータの機能能力もしくは欠陥を決定することができる。特に、その場合、テスト電流での電気モータの操作は短時間のみ、殊に最大200ms、特に好ましくは100ms行われる。それによって、例えば車両の運転者に実質的に気づかれないシステムテストを実行することができる。
【0019】
殊に、テスト電流として比較的強い電流が生成される。特に、テスト電流は、少なくとも10A、好ましくは少なくとも20Aの電流強度を有する。
【0020】
好ましくは、電気モータは永久磁石同期機(略して:PMSM)である。したがって、電気モータを、特に少なくとも部分的にブラシレス直流モータとして形成することができる。このような電気モータは、例えば軽量で高出力であることを特徴とし、特に電動自転車に使用するのに適している。
【0021】
好ましくは、方法は、テスト電流での電気モータの操作中、電気モータの少なくとも1つのモータパラメータを推定するステップをさらに包含する。その場合、電気モータの多様なパラメータおよび/または、例えば電気的特性などの特性をモータパラメータとして推定できる。その場合、テスト電流の印加によって、モータパラメータの特に簡単かつ正確な推定を行うことができる。
【0022】
特に好ましくは、方法は、テスト電流での電気モータの操作中、電気モータの以下のパラメータ、すなわち電気角の角度変化、トルク非発生方向のテスト電圧、およびトルク非発生方向のテスト電流を検出するステップをさらに包含する。その場合、少なくとも1つのモータパラメータの推定は、以下のパラメータ、すなわち検出された角度変化、検出されたテスト電圧、および検出されたテスト電流にもとづいて電気モータの既知の機械モデルを計算することによって行われる。換言すれば、この方法では、トルク非発生方向のテスト電流での電気モータの操作中、簡単に検出される量、つまり電気角、テスト電圧、およびテスト電流が検出される。これらの量をもとにして、例えば電気モータの特性を電気モータに特徴的な数学式によって表す機械モデルを用いて、機械モデルを相応に計算することによってモータパラメータが推定される。それによって、駆動ユニットのシステムスタート時に様々なモータパラメータの特に正確な推定を簡単かつ効率的に行うことができる。
【0023】
殊に、機械モデルは、電気モータの電圧オフセットを未知の自由度として有する。したがって、計算を特に簡単に行うことができ、モータパラメータの推定時に高い精度を可能にすることができる。
【0024】
特に好ましくは、電気モータの少なくとも1つの線間抵抗(Strangwiderstand)がモータパラメータとして推定される。殊に、電気モータのすべての線間抵抗が推定される。特に、電気モータの異なった電気位相のそれぞれの電気抵抗が線間抵抗と見なされる。これらの線間抵抗はそれぞれ温度に依存し、それにより電気モータの状態を正確に知るために、線間抵抗の検知時に温度が有利に考慮される。その場合、方法は、特に、機械モデルの計算に使用される検出値も温度に依存するため、線間抵抗をこのように温度に依存して決定することを可能にする。例えば、その場合、スター結線の電気モータでは合計3つの電気位相、したがって合計3つの線間抵抗が存在する。
【0025】
好ましくは、線間抵抗の推定は、次式にもとづいて行われる。
【数1】
ここで、Idは、トルク非発生方向の電流であり、Iqは、トルク発生方向(drehmomentbildende Richtung)の電流である。殊に、Iqは、方法を実行するときにゼロに等しい。同様に、Udは、トルク非発生方向の電圧であり、Uqは、トルク発生方向の電圧である。電圧オフセットΔUd,offsetが追加的に考慮されるトルク非発生方向の電圧については、Iq=0の場合、次式が成り立つ。
【0026】
【数2】
R11、R12、R21およびR22は次式で表される。
【0027】
【数3】
ここで、Ra、RbおよびRcは、電気モータの線間抵抗であり、φは、電気角である。ここから次式が成り立ち、この式にもとづいて、推定のステップによって線間抵抗Ra、RbおよびRcを推定することができる。
【0028】
【数4】
好ましくは、電気モータの異なった位相の電流間の瞬時角度を電気角と見なすことができる。
【0029】
好ましくは、方法において、推定された線間抵抗の相互の比較がさらに行われる。推定された線間抵抗の比較にもとづいて、続いて、電気モータの欠陥が存在するかどうかの検知が行われる。その場合、特に、欠陥のない状態において電気モータのすべての線間抵抗が同じ温度で同じ抵抗値を有すると想定される。それにより、方法により正確に推定された線間抵抗を比較することによって、例えば少なくとも2つの線間抵抗間に著しい偏差がある場合に、電気モータの欠陥を簡単かつ確実に推察することができる。例えば、欠陥が認識された場合、車両の運転者に対応する適切な警告を発することができる。代替的または追加的に、欠陥の認識に応答して電気モータの動作、例えばトルク発生方向の電流の電流供給を阻止することができる。
【0030】
特に好ましくは、推定された複数の線間抵抗のうちの少なくとも2つの線間抵抗が予め定義された値の分だけ互いに異なる場合に電気モータに欠陥ありと認識される。換言すれば、少なくとも2つの線間抵抗が互いに著しく異なる場合に電気モータに欠陥ありと検知される。特に機能能力のある、もしくは欠陥のない電気モータでは、同じ温度で実質的に同じ線間抵抗が存在するため、それにより電気モータに欠陥があるかどうかを特に簡単に認識することができる。
【0031】
好ましくは、推定される線間抵抗のうちの少なくとも2つが少なくともファクタ1.5、特に好ましくは少なくともファクタ2の分だけ互いに異なる場合、電気モータの電気的接触障害および/または電気モータにおける部分短絡が認識される。換言すれば、推定される他の線間抵抗の少なくとも1.5倍、特に少なくとも2倍であると推定される線間抵抗は、電気的接触障害および/または部分短絡の形態の欠陥の示唆と見なされる。例えば、電気的接触障害は、電気モータの電力供給のためのコネクタが規定通りに接続されないことによって生じる可能性がある。この方法によって、このことを特に簡単かつ確実に認識することができる。
【0032】
特に好ましくは、線間抵抗の推定は、既知の機械モデル、特に上記の数式を計算することによって、高速DSFIアルゴリズム(Fast-DSFIアルゴリズムとも称される)を用いて実行される。それによって、検知される線間抵抗の特に高い精度を提供することができる。
【0033】
好ましくは、方法は、温度観察器(Temperatur-Beobachter)によって巻線温度を検知するステップをさらに包含する。その場合、温度観察器の入力量として、推定された線間抵抗、ならびに既知の較正線間抵抗および既知の較正巻線温度が使用される。その場合、特に、測定できない量を観察対象のシステムの既知の入力量と、例えばさらに出力量とから再構築する制御技術的なシステムが温度観察器と見なされる。詳細には、その場合、温度観察器によって、電気モータの巻線のうちの1つの瞬時温度もしくは位相に対応する電気モータの巻線温度が検知される。特に好ましくは、それぞれ、電気モータのすべての巻線の巻線温度もしくは位相が検知される。例えば電気モータの製造中の、例えば一回限りのテストプロセスにおいて測定され、殊に記憶された電気モータの線間抵抗もしくは巻線の温度が既知の較正線間抵抗および既知の較正巻線温度と見なされる。したがって、温度観察器は、特に、推定された瞬時に存在する線間抵抗をもとにして電気モータの瞬時の巻線温度を簡単な手段で正確に決定することができる。
【0034】
特に好ましくは、巻線温度θの検知は次式により行われる。
【数5】
ここでR(θ)は、それぞれの推定線間抵抗であり、R0(θ0)は、較正線間抵抗であり、θ0は較正巻線温度であり、α0は、電気モータの巻線の材料の熱伝達係数である。例えば、α0は、巻線が銅から形成される場合には銅の熱伝達係数である。
【0035】
さらに好ましくは、方法は、温度センサによる電気モータのセンサ温度の検出と同時に温度観察器による巻線温度を検知するステップをさらに包含する。その場合、検出されたセンサ温度は、温度観察器の別の入力量として使用される。特に、それによって、温度観察器によって検知された巻線温度の精度をさらに高めることができる。
【0036】
殊に、方法は、
-温度観察器によって観察器センサ温度を検知するステップであって、観察器センサ温度がセンサ温度を表す、検知するステップと、
-センサ温度と検知された観察器センサ温度を相互に比較するステップと、
-センサ温度と観察器センサ温度の比較にもとづいて温度観察器を修正するステップと、
さらに包含する。
換言すれば、温度観察器によって観察器センサ温度が追加的に検知され、その際、この観察器温度は、温度センサがセンサ温度を測定する点での温度に相当するように検知される。したがって、比較によって、温度観察器の推定エラーを検知することができ、かつこの推定エラーにもとづいて温度観察器を修正することができる。したがって、温度観察器の特に高い精度を提供することができる。
【0037】
好ましくは、方法において、電気モータの巻線ごとに別々にそれぞれ1つの巻線温度が検知される。それによって、電気モータの温度を特に正確に監視することができる。代替的に、好ましくは、電気モータのすべての巻線に対して共通の汎用巻線温度が検知される。それによって、方法の特に簡単かつ安価な実行を提供することができる。
【0038】
さらに好ましくは、方法は、
-特に車両の動作中に電気モータを操作する操作電流を検出するステップと、
-推定された線間抵抗にもとづいて、および検知された操作電流に追加的にもとづいて電気モータの巻線電力損失を検知するステップと、をさらに包含する。特に、巻線電力損失Plossの検知は、次式にもとづいて行われ得る。
【0039】
【数6】
ここで、R(θ)は、推定された線間抵抗であり、Iphaseは操作電流である。それによって、電気モータの別の特性を簡単な手段で正確に観察することができる。
【0040】
好ましくは、温度観察器の推定の質をさらに向上させるために、検知された巻線電力損失が使用される。例えば、その場合、検知された巻線電力損失は、温度観察器の追加の入力量として使用することができる。特に、その場合、巻線電力損失は、温度モデルを励起する熱流として作用する。それによって、温度観察器の特に高い精度を可能にすることができる。
【0041】
さらに、本発明は、電気モータの制御ユニットに至る。その場合、制御ユニットは、特に電気モータにトルク発生方向、およびトルク非発生方向に電流を供給するために、電気モータを操作するように設定されている。好ましくは電流は電気エネルギー貯蔵器によって提供される。その場合、制御ユニットは、上記の方法を実行するように設定されている。
【0042】
さらに、本発明は、上記の制御ユニットを備える電気モータに関する。殊に、電気モータは、車両、特に好ましくは電動自転車において使用するように企図されている。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の好ましい実施例による方法が実行される電動自転車の模式図である。
図2】本発明による方法の方法ステップの非常に簡略化された模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図と関連付けた実施例をもとにして本発明を説明する。図において、同じ機能の部品にはそれぞれ同じ参照符号が付されている。
【0045】
図1は、電動自転車10の簡略化された模式図を示す。電動自転車10は、電気モータ2を有する駆動システム1を備えている。電気モータ2は、電動自転車10のボトムブラケット7の領域に配置されており、ペダル4によって加えられる電動自転車10の運転者の人力の踏力を、電気モータにより生成されたトルクによって補助するために企図されている。
【0046】
さらに、駆動システム1は、電気モータ2に電気エネルギーを供給可能な電気エネルギー貯蔵器3を備えている。電気モータ2には制御ユニットがさらに組み込まれている。
【0047】
その場合、制御ユニットは、電気モータ2を動作させる方法20を実行するように設定されている。方法20によって、電気モータ2のシステムスタート時、および運転者の人力の踏力を補助するために電気モータによるトルクの生成が行われる通常動作の前に、電気モータ2、ならびにモータセンサ系およびモータソフトウェアの準備を実行することができる。
【0048】
さらに、方法によって、電気モータ2の電気巻線の線間抵抗を検知することができる。加えて、方法20によって電気モータ2の温度監視を実行することができる。
【0049】
方法20の流れが図2に非常に簡略化して模式的に示されている。
【0050】
方法20は、電気モータ2のシステムスタート時、好ましくは電動自転車10の停止時、および/または前記電動自転車20が運転者によって押し動かされる間に実行される。
【0051】
方法20において、まず電気モータ2のシステムスタートの認識41が行われる。システムスタートの認識41は、入力装置を用いた運転者の手動のスタート操作をもとにして、すなわち、例えばボタン押しによって行うことができる。代替的または追加的に、システムスタートの認識41を、周辺に相対する電動自転車10の動きのセンサベースの認識をもとにして行うことができる。
【0052】
電気モータ2のシステムスタートの認識41の直後に、予め定められた始動電流での電気モータ2の操作42が、例えば0.5秒の予め定められた時間で自動的に行われる。その場合、始動電流は、電気モータ2のロータが逆回転方向で回転されるように形成されている。その場合、逆回転方向は順回転方向とは逆であり、順回転方向では、電気モータ2のロータは、相応に電気モータ2によって生成されたトルクが電動自転車10のドライブトレインを介して電動自転車10の走行方向Aの前進をもたらすように回転する。
【0053】
その場合、電動自転車10は、電気モータ2とドライブトレインとの間にフリーホイールを有し、フリーホイールは、これが電気モータ2の順回転方向の回転時にロックする、すなわちトルク伝達をもたらすように形成されている。電気モータ2の逆回転方向の回転時に、フリーホイールは開き(oeffnen)、したがって、電気モータ2とドライブトレインとの間のトルク伝達を阻止する。それによって、電気モータ2は、始動電流による操作時に自由に回転することができ、これによって電動自転車10の動きはもたらされない。
【0054】
始動電流での電気モータ2の操作42中、同時に、モータセンサ系およびモータソフトウェアの初期化43が行われる。詳細には、その場合、とりわけ電気モータ2のロータ位置較正が実行される。
【0055】
その場合、初期化43は、始動電流での電気モータ2の操作42中に行われる。この過程の終了後、電気モータ2は、殊に、電気モータ2による通常のトルク生成をいつでも開始できるスタンドバイモードにある。特に、その場合、電気モータ2の通常動作において、検知された運転者要求に応答して、電気モータ2が順回転方向に回転してモータトルクを生成し、それにより電動自転車10が電気モータにより補助して駆動されるように電気モータ2の操作を行うことができる。
【0056】
始動電流での電気モータ2の操作42と同時に、または代替的に操作の後に、トルク非発生方向のテスト電流で、すなわちトルクが生成されないように電気モータ2の操作21を行うことができる。この操作21中に、電気角の角度変化、トルク非発生方向のテスト電圧、およびトルク非発生方向のテスト電流の検出22が行われる。
【0057】
続いて、検出22時に検出された値にもとづいて、電気モータ2のすべての個々の線間抵抗の推定23が行われる。推定23は、高速DSFIアルゴリズムを用いて既知の電気モータ2の機械モデルを計算することによって実行される。その場合、機械モデルは、これが電気モータ2の電圧オフセットを未知の自由度として有するように形成されている。
【0058】
したがって、方法20によって、電気モータ2の瞬時線間抵抗を簡単かつ安価に、特に追加のセンサを必要とせずに推定することができる。
【0059】
続いて、推定された線間抵抗をもとにして、電気モータ2の欠陥が存在するかどうかの検知25が行われる。これは、推定された線間抵抗の相互の比較24にもとづいて実行される。比較24の結果、推定された線間抵抗のうちの少なくとも2つがファクタ2以上異なる場合、すなわち2つの比較された線間抵抗のうちの1つが、他の線間抵抗の少なくとも2倍の大きさである場合、検知25において電気モータ2は「欠陥あり」と認識される。詳細には、これによって電気モータ2の電気的接触障害および/または電気モータ2における部分短絡を推察できる。
【0060】
方法は、電気モータ2の巻線温度を検知するステップ26をさらに包含する。好ましくは、検知26は、ステップ23と同時に、またはその直後に実行される。
【0061】
その場合、巻線温度の検知26は、推定23によって推定された線間抵抗、ならびに既知の較正線間抵抗および電気モータ2の既知の較正巻線温度を入力量として使用する温度観察器により行われる。較正線間抵抗および較正巻線温度は、殊に、例えば電気モータ2の製造プロセスにおいて、例えばいわゆるベルト末端(Bandende)で検知された既知のパラメータである。
【0062】
温度観察器を最適化するために、検知26と同時に、例えば電気モータ2内の温度を検出する温度センサによるセンサ温度の検出27が行われる。同時に、温度観察器による観察器センサ温度の検知28が行われ、すなわちステップ26において、観察器センサ温度が温度センサのセンサ温度を表すように行われる。続いて、検出されたセンサ温度および検知された観察器センサ温度の相互の比較29が行われる。この比較29にもとづいて、温度観察器の結果を向上させるために温度観察器の修正30が、特にステップ26において行われる。
【0063】
さらに、方法20は、好ましくは電動自転車10の走行動作中に、ステップ31および32を包含することができる。ステップ31において、電気モータ2を操作する、特にトルク発生方向の操作電流の検出31が行われる。同時に、ステップ23において推定された線間抵抗にもとづいて、および検知された操作電流に追加的にもとづいて電気モータ2の巻線電力損失の検知32が行われる。
【0064】
殊に、ステップ32において検知された巻線電力損失を、温度観察器の精度をさらに向上させるために、同様に温度観察器の入力量として使用することができる。その場合、巻線電力損失は熱流の形態で温度観察器を励起する。
【符号の説明】
【0065】
1 駆動システム
2 電気モータ
3 電気エネルギー貯蔵器
4 ペダル
7 ボトムブラケット
10 電動自転車
20 方法
21 操作
22 認識
23 推定
24 比較
26 検知
27 検出
28 検知
29 比較
30 補正
31 検出
32 検知
41 認識
42 操作
43 初期化
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋力および/またはモータ力で動作可能な車両(10)の電気モータ(2)と制御ユニットとを有する駆動ユニット(1)を動作させる方法であって、前記駆動ユニット(1)のシステムスタートに応答して、前記電気モータ(2)は、前記電気モータ(2)が逆回転方向に回転するように始動電流で操作される、方法。
【請求項2】
前記電気モータ(2)は、予め定められた時間、前記始動電流で操作される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-前記始動電流での前記電気モータ(2)の操作中、前記車両(10)のモータセンサ系および/またはモータソフトウェアを初期化するステップ(43)をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モータセンサ系および/または前記モータソフトウェアを初期化することは、ロータ位置の較正を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
検知された運転者要求に応答して、前記電気モータ(2)が順回転方向に回転するように前記電気モータ(2)を操作するステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記車両(10)は、前記電気モータ(2)とドライブトレインとの間にフリーホイールを備え、特に前記フリーホイールは、順回転方向にロックし、逆回転方向に開く、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記駆動ユニット(1)の前記システムスタートは、特に入力装置を用いた手動のスタート操作に応答して開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記駆動ユニット(1)の前記システムスタートは、周辺に相対する前記車両(10)の動きに応答して開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
特に前記始動電流での操作中、前記電気モータ(2)をトルク非発生方向のテスト電流で操作するステップ(21)をさらに包含する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電気モータ(2)の前記テスト電流での前記操作(21)中、前記電気モータ(2)の少なくとも1つのモータパラメータを推定するステップ(23)をさらに包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電気モータ(2)の前記テスト電流での前記操作(21)中、電気角の角度変化、前記トルク非発生方向のテスト電圧、および前記トルク非発生方向のテスト電流を検出するステップ(22)をさらに包含し、
前記少なくとも1つのモータパラメータの前記推定は、前記検出された角度変化および/または前記検出されたテスト電圧および/または前記検出されたテスト電流にもとづいて、前記電気モータ(2‘)の既知の機械モデルを計算することによって行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記機械モデルは、前記電気モータ(2)の電圧オフセットを未知の自由度として有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
電気モータ(2)の制御ユニットであって、前記電気モータ(2)を操作するように、かつ請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法を実行するように設定されている、制御ユニット。
【請求項14】
電気モータであって、請求項13に記載の制御ユニットを備える、電気モータ。
【外国語明細書】