(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007962
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】骨固定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/78 20060101AFI20240112BHJP
A61B 17/72 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A61B17/78
A61B17/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109423
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】393024186
【氏名又は名称】株式会社ホムズ技研
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】堀江 誠
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL27
4C160LL44
4C160LL56
(57)【要約】
【課題】内部機構の複雑化や大型化を招くことなく手術後における骨固定具の後方逸脱を確実に防止する。
【解決手段】骨固定装置10では、係合部材16Bは、駆動部材18の軸孔18a内における係合部材16Aよりも基端側にある位置から先端側へ出て係合部材16Aの軸孔16Aa内を経て横断孔13に到達する移動範囲において軸線11xに沿った方向に移動可能に配置されるとともに、骨固定具23を保持するために係合する係合部16Bsを備え、当該係合部16Bsが骨固定具23を保持しない非保持配置と骨固定具23に係合して保持する保持配置との間を移動可能に構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ骨に導入される第1の骨固定具及び第2の骨固定具と、
インプラント本体の軸線に沿った方向の先端側に設けられ前記第1の骨固定具が挿通される第1の横断孔、及び、前記軸線に沿った方向の基端側に設けられ前記第2の骨固定具が挿通される第2の横断孔、を備え、骨の内部に配置される前記インプラント本体と、
前記インプラント本体の軸線に沿った方向に移動可能に構成され、前記第1の横断孔に挿通された前記第1の骨固定具を前記インプラント本体に対して保持する第1の係合部材と、
前記第1の係合部材を前記軸線に沿った方向に駆動することによって前記第1の係合部材を前記第1の骨固定具に係合させる第1の駆動部材と、
前記軸線に沿った方向に移動可能に構成され、前記第2の横断孔に挿通された前記第2の骨固定具を前記インプラント本体に対して保持する第2の係合部材と、を具備し、
前記第1の係合部材及び前記第1の駆動部材はそれぞれ軸穴を備え、
前記第2の係合部材は、前記第1の駆動部材の軸穴内における前記第1の係合部材よりも前記基端側にある位置から前記先端側へ出て前記第1の係合部材の軸穴内を経て前記第2の横断孔に到達する移動範囲において前記軸線に沿った方向に移動可能に配置されるとともに、前記第2の骨固定具を保持するために係合する係合部を備え、当該係合部が前記第2の骨固定具を保持しない非保持配置と前記第2の骨固定具に係合して保持する保持配置との間を移動可能に構成される、
骨固定装置。
【請求項2】
前記非保持配置にある前記第2の係合部材の基端は、前記第1の係合部材の基端に対して前記基端側に配置され、前記第2の係合部材が前記保持配置に向けて移動すると、前記第2の係合部材の基端と前記第1の係合部材の基端との間の位置ずれが減殺される、
請求項1に記載の骨固定装置。
【請求項3】
前記第1の駆動部材は、
前記基端側に形成されて前記第1の係合部材を駆動するための操作が実現可能に構成される操作部と、
前記第1の係合部材の前記軸穴と連通する前記第1の駆動部材の前記軸穴を構成する、前記先端側に開口して前記第2の係合部材の少なくとも前記基端側の部分を収容可能な収容部と、
を有する、
請求項1又は2に記載の骨固定装置。
【請求項4】
前記第1の駆動部材の前記軸穴は前記軸線に沿った方向に貫通し、
前記操作部及び前記収容部は、前記第1の駆動部材の前記軸穴によって形成される、
請求項3に記載の骨固定装置。
【請求項5】
前記第2の係合部材は、前記第1の駆動部材に設けられた規制部により前記基端側への移動が規制されることによって位置決めされる、
請求項1又は2に記載の骨固定装置。
【請求項6】
前記第1の駆動部材は、前記第1の係合部材に係合して駆動する係合駆動部を有し、
前記第1の駆動部材の前記規制部は、前記係合駆動部よりも基端側に設定される、
請求項5に記載の骨固定装置。
【請求項7】
前記基端側に向けた弾性力により前記第2の係合部材を支持する第2の弾性部材をさらに備える、
請求項5に記載の骨固定装置。
【請求項8】
前記第1の駆動部材は、前記第1の係合部材に対して前記第2の係合部材の外周側において当接することにより駆動する係合駆動部を備える、
請求項1又は2に記載の骨固定装置。
【請求項9】
前記係合駆動部と前記第1の係合部材の当接範囲が環状に構成される、
請求項8に記載の骨固定装置。
【請求項10】
前記第1の駆動部材は、前記インプラント本体の内部において回転可能に配置され、回転操作によって回転されることで前記第1の係合部材を前記先端側に駆動可能となるように構成される、
請求項1又は2に記載の骨固定装置。
【請求項11】
前記第1の駆動部材は、前記回転操作を受けることによって前記軸線に沿った方向に移動可能に構成され、前記先端側に移動したときに、前記第1の係合部材を前記骨固定具に対して押し付ける、
請求項10に記載の骨固定装置。
【請求項12】
前記第2の係合部材を駆動することによって前記第2の係合部材を前記第2の骨固定具に係合させる第2の駆動部材をさらに具備する、
請求項1又は2に記載の骨固定装置。
【請求項13】
前記第2の駆動部材は、前記インプラント本体の基端部に装着されることにより、前記第2の係合部材を駆動する、
請求項12に記載の骨固定装置。
【請求項14】
前記第2の係合部材を駆動することによって前記第2の係合部材を前記第2の骨固定具に係合させる第2の駆動部材をさらに具備し、
前記第2の駆動部材は、前記第1の駆動部材の前記軸穴を通して前記第2の係合部材を係合駆動する、
請求項4に記載の骨固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は骨を固定するために用いられる骨固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、骨を固定するために用いられる各種の骨固定装置が知られている。このような骨固定装置としては、ねじ、釘、ピンなどの骨と係合する骨係合部を備えた骨固定具が単独で用いられる場合があるが、このような骨固定具と、この骨固定具を挿通するように構成され、骨に対して所定の位置に配置されるインプラント本体とを備えたものが多く用いられている。例えば、大腿骨近位部の骨折治療に用いられる骨固定装置を例として述べると、上記インプラント本体に相当する髄内釘本体を大腿骨の髄腔に挿入し、髄内釘本体に設けられた横断孔に上記骨固定具に相当するラグスクリュー(ねじ)を挿通することにより、大腿骨近位部の骨折箇所を固定するように用いられる骨固定装置が知られている(例えば、以下の特許文献1及び2を参照)。
【0003】
上記の骨固定装置においては、大腿骨の髄腔内に配置される髄内釘本体の横断孔にラグスクリューなどの骨固定具を挿通し、大腿骨の骨頭部に向けてねじ込むことにより、近位部の骨折箇所よりも骨頭部の側に当該骨固定具の先端部を係合させるとともに、髄内釘本体の軸孔にねじ結合などで配置された係合部材の先端部を上記骨固定具の外周面に係合させることにより、骨固定具を髄内釘本体に対して所定の態様で保持することができる。この場合に、髄内釘本体に複数の横断孔を設けて、これらの横断孔に挿通される複数の骨固定具を保持することが要求されることがある。例えば、大腿骨近位部の骨折においては、大腿骨の骨幹部に対して大腿骨頭部が回旋することを防止するために、複数の骨固定具を骨幹部の外側(がいそく)から髄内釘本体を通して大腿骨頭部へ導入する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6058958号公報
【特許文献2】特許第6510297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記骨固定装置においては、特許文献1及び2に記載されているように、髄内釘本体に設けた複数の横断孔にそれぞれ挿通された複数の骨固定具を保持するために、当該骨固定具の外周部にそれぞれ係合する複数の係合部材が内蔵されるとともに、これらの複数の係合部材をそれぞれ位置決めする手段が必要とされる。しかしながら、髄腔に挿入される髄内釘本体の直径は小さいことから、複数の係合部材を内蔵した上で、これらの複数の係合部材をそれぞれ位置決めする手段を複雑化や大型化を招くことなく確実に動作するように設けることは難しい。このため、複数の骨固定具のうちの一部の骨固定具を全く保持固定することができず、或いは、当該一部の骨固定具に十分な保持力を与えることができず、手術後において骨固定具が大腿骨頭部内から外側(がいそく)へ落下してしまうこと(後方逸脱若しくはバックアウト)が生ずるといった問題があった。
【0006】
具体的には、複数の骨固定具に対して同一又は異なる係合態様で保持することが要求されるが、各骨固定具のそれぞれに適した係合態様とすることは、構造や寸法上の制約により、困難である。実際、髄内釘本体に内蔵されたいずれかの係合部材の軸線方向の長さや作動ストロークが不足する、係合部材の係合箇所の軸芯ずれにより作動バランスが悪化する、などの理由で、当該係合部材に対応する骨固定具の保持の確実性が損なわれて、後方逸脱しやすくなる傾向がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題を解決するものであり、その課題は、内部機構の複雑化や大型化を招くことなく手術後における骨固定具の後方逸脱(バックアウト)を確実に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の骨固定装置は、それぞれ骨に導入される第1の骨固定具及び第2の骨固定具と、インプラント本体の軸線に沿った方向の先端側に設けられ前記第1の骨固定具が挿通される第1の横断孔、及び、前記軸線に沿った方向の基端側に設けられ前記第2の骨固定具が挿通される第2の横断孔、を備え、骨の内部に配置される前記インプラント本体と、前記軸線に沿った方向に移動可能に構成され、前記第1の横断孔に挿通された前記第1の骨固定具を前記インプラント本体に対して保持する第1の係合部材と、前記第1の係合部材を前記軸線に沿った方向に駆動することによって前記第1の係合部材を前記第1の骨固定具に係合させる第1の駆動部材と、前記軸線に沿った方向に移動可能に構成され、前記第2の横断孔に挿通された前記第2の骨固定具を前記インプラント本体に対して保持する第2の係合部材と、を具備する。ここで、前記第1の係合部材及び前記第1の駆動部材はそれぞれ軸穴を備え、前記第2の係合部材は、前記第1の駆動部材の前記軸穴内における前記第1の係合部材よりも前記基端側にある位置から前記先端側へ出て前記第1の係合部材の前記軸穴内を経て前記第2の横断孔に到達する移動範囲において前記軸線に沿った方向に移動可能に配置されるとともに、前記第2の骨固定具を保持するために係合する係合部を備え、当該係合部が前記第2の骨固定具を保持しない非保持配置と前記第2の骨固定具に係合して保持する保持配置との間を移動可能に構成される。
【0009】
本発明によれば、第2の係合部材は、第1の駆動部材の軸穴内における前記第1の係合部材よりも前記基端側にある位置から先端側へ出て前記第1の係合部材の軸穴内を経て前記第2の横断孔に到達する移動範囲において移動可能に構成されるため、第1の係合部材と第2の係合部材で軸線に沿った方向の移動範囲が互いに半径方向内外に重なるとともに、第2の係合部材は、第1の係合部材よりもさらに基端側に延在する移動範囲を有し、しかも、当該移動範囲は、第1の駆動部材に対しても半径方向内外で重なるように構成される。その結果、内部機構における前記軸線に沿った方向や半径方向の構造を複雑化したり大型化したりせずに、第2の係合部材の前記軸線に沿った方向の長さや作動ストローク(移動範囲)を大きく確保することが可能になる。したがって、非保持配置では第2の係合部材を第2の横断孔から退避させたり第2の横断孔から大きく突出しないようにして第2の骨固定具を挿通しやすくすることが可能であり、また、保持配置では上記軸線に沿った方向の係合余裕が得られるため、第2の骨固定具の係合保持を確実に行うことが可能になる。さらに、半径方向内外の係合構造の重なりにより、保持作用の偏在も抑制される。
【0010】
本発明において、前記非保持配置にある前記第2の係合部材の基端は、前記第1の係合部材の基端に対して前記基端側に配置され、前記第2の係合部材が前記保持配置に向けて移動すると、前記第2の係合部材の基端と前記第1の係合部材の基端との間の前記軸線に沿った方向の位置ずれが減殺されることが好ましい。これによれば、非保持配置にある第2の係合部材の基端が第1の係合部材の基端よりも基端側に配置され、第2の係合部材が保持配置に向けて移動すると、位置ずれが減殺されることにより、非保持配置にある第2の係合部材が第1の係合部材と同じ位置若しくはそれよりも先端側にある場合に比べると、第2の係合部材の長さや作動ストロークをさらに増大させることができるので、軸線に沿った方向の内部機構のコンパクト性を確保しつつ、第2の係合部材による第2の骨固定具に対する保持性能をさらに高めることが可能になる。
【0011】
本発明において、前記第1の駆動部材は、前記基端側に形成されて前記第1の係合部材を駆動するための操作が実現可能に構成される操作部と、前記第1の係合部材の前記軸穴と連通する前記第1の駆動部材の前記軸穴を構成する、前記先端側に開口して前記第2の係合部材の少なくとも前記基端側の部分を収容可能な収容部と、を有することが好ましい。これによれば、第1の駆動部材に対して、基端側から操作部にアクセスして操作を容易に行うことができるとともに、先端側からは第2の係合部材の少なくとも基端側の部分を収容部に収容することによって、第2の係合部材の移動範囲を広く確保することができる。この場合において、前記第1の駆動部材の前記軸穴は前記軸線に沿った方向に貫通し、前記操作部及び前記収容部は、前記第1の駆動部材の前記軸穴によって形成されることが望ましい。
【0012】
本発明において、前記第2の係合部材は、前記第1の駆動部材に設けられた規制部により前記基端側への移動が規制されることによって位置決めされることが好ましい。第1の駆動部材に設けられた規制部によって第2の係合部材が位置決めされることにより、第2の係合部材は、第1の駆動部材を基準として、移動範囲の基端側において確実に位置決めされる。ここで、前記第1の駆動部材の前記規制部は、前記第1の駆動部材の前記第1の係合部材に係合して駆動する係合駆動部よりも基端側に設定されることが望ましい。このようにすると、第1の駆動部材の形状によって第1の係合部材と第2の係合部材の間の位置関係を容易に設定することができる。このとき、前記基端側に向けた弾性力により前記第2の係合部材を支持する第2の弾性部材を備えることがさらに望ましい。これによれば、上記弾性力によって第2の係合部材を支持することにより、第2の係合部材を上記規制部によって規制された位置に確実に保持することができる。
【0013】
本発明において、前記第1の駆動部材は、前記第1の係合部材に対して前記第2の係合部材の外周側において当接することにより駆動する係合駆動部を備えることが好ましい。これによれば、第1の駆動部材の係合駆動部が前記第2の係合部材の外周側において前記第1の係合部材に当接して駆動することにより、半径方向の寸法を増大させなくても、第1の駆動部材による第1の係合部材の駆動を確実に行うことが可能になる。特に、インプラント本体が髄内釘本体である場合には、予め導入されたガイドピンに沿って髄腔への挿入が行われる場合があるので、当該ガイドピンが導入される軸穴の外周に第2の係合部材が配置される上に、更にその外周側に第1の駆動部材の係合駆動部と第1の係合部材との当接箇所があればよいことから、半径方向の二重構造で足りることとなるので、軸線周りの半径方向の厚みを低減しやすくなるため、複雑化、大型化することなしに、第2の骨固定具を確実に保持することが可能になる。ここで、前記係合駆動部と前記第1の係合部材の当接範囲が環状に構成されることが望ましい。これにより、第1の駆動部材と第1の係合部材の間の当接範囲(面積)が増大するため、さらに確実な駆動が可能になる。この場合、例えば、前記第1の駆動部材の前記係合駆動部は筒状若しくは環状に構成され、前記第1の係合部材の前記係合駆動部に対する当接箇所も筒状若しくは環状に構成される。
【0014】
本発明において、前記第1の駆動部材は、前記インプラント本体の内部において回転可能に配置され、回転操作を受けることによって前記第1の係合部材を前記先端側に駆動可能となるように構成されることが好ましい。これによれば、第1の駆動部材がインプラント本体に内蔵されているので、操作工具をインプラント本体の内部に挿入することによって第1の駆動部材を容易に操作することができる。例えば、インプラント本体の基端部に接続されるターゲット装置を用いる場合において、当該ターゲット装置が第1の駆動部材を回転操作するための回転操作工具をインプラント本体の内部に挿入可能な構造であればよいため、インプラント本体に上記ターゲット装置を接続した状態で第1の駆動部材を容易に操作可能とすることができる。
【0015】
この場合において、前記第1の駆動部材は、前記回転操作を受けることによって前記軸線に沿った方向に移動可能に構成され、前記先端側に移動したときに、前記第1の係合部材を前記骨固定具に対して押し付けることが好ましい。ここで、前記第1の駆動部材は、前記インプラント本体の内部において螺合し、螺合深さの変化に応じて前記軸線に沿った方向に移動することが望ましい。これにより、第1の駆動部材自体の移動によって第1の係合部材を駆動するので、内部機構の簡易化を図ることができる。このとき、前記インプラント本体の内部において前記第1の駆動部材を保持する保持部材を有し、前記第1の駆動部材は、前記保持部材によって前記基端側の移動が規制されることが望ましい。この場合にはさらに、前記第1の駆動部材は、前記保持部材に螺合することにより前記軸線に沿った方向に移動可能に構成されることが望ましい。
【0016】
本発明において、前記第1の係合部材は、前記第1の骨固定具から離間する離隔配置と、前記第1の骨固定具に係合する係合配置との間で、前記軸線に沿った方向に移動可能に構成されることが好ましい。また、第1の係合部材は、前記軸線の周りに回転しないように規制される。さらに、第1の係合部材は、前記第1の骨固定具に係合する先端部と、前記第1の駆動部材に係合する基端部との間に、前記第2の横断孔に導入される前記第2の骨固定具を挿通可能とする挿通空間(挿通孔)を備えることが望ましい。また、前記第1の係合部材を前記基端側に向けた弾性力により支持する第1の弾性部材を備えることが好ましい。ここで、前記第1の係合部材は、前記インプラント本体に設けられた規制部により前記基端側への移動が規制されることが望ましい。前記規制部は、前記インプラント本体の内部において前記第1の係合部材を保持する保持部材によって構成されることが望ましい。
【0017】
本発明において、前記第2の係合部材を駆動することによって前記第2の係合部材を前記第2の骨固定具に係合させる第2の駆動部材をさらに具備することが好ましい。ここで、前記第2の駆動部材は、前記インプラント本体の基端部に装着されることにより、前記第2の係合部材を駆動することが望ましい。このとき、第2の駆動部材としては、インプラント本体の基端部に装着される(基端開口を閉鎖する)エンドキャップとすることができる。これらの場合においては、前記第2の駆動部材は、前記第1の駆動部材の前記軸穴を通して前記第2の係合部材を駆動することがさらに望ましい。
【0018】
本発明において、前記インプラント本体は、基端開口を備え、前記第1の横断孔及び前記第2の横断孔と交差して連通する前記軸線に沿った操作穴を有し、前記第1の係合部材及び前記第2の係合部材は、前記操作穴の内部で前記軸線に沿った方向に移動可能に配置されるとともに前記軸線に沿った方向に位置決め可能に構成されることが好ましい。
【0019】
本発明において、前記第1の係合部材は、前記第1の駆動部材による前記操作穴の内部で生ずる駆動作用により前記所定位置に位置決め可能に構成されることが好ましい。この場合において、前記インプラント本体は、前記操作穴の内部において前記第2の係合部材を直接若しくは間接的に固定する固定部材を前記第2の駆動部材として含むことが望ましい。この固定部材は、例えば、前記インプラント本体の前記操作穴の前記基端側に設けられる基端開口を密閉するエンドキャップとして構成することができる。
【0020】
本発明において、前記第1の駆動部材は、前記操作穴の内部に配置され、前記第1の係合部材と係合し、前記第1の係合部材を前記軸線に沿った方向に駆動可能に構成されることが好ましい。この場合において、前記操作穴の内部において前記第1の駆動部材を前記基端側から保持するとともに、前記第1の駆動部材に対して前記端部開口の側からアクセス可能とする開口部を備えた保持部材をさらに含むことが望ましい。前記保持部材は、上記の前記第1の駆動部材に対する機能に加えて、或いは、前記第1の駆動部材に対する機能に代えて、第1の係合部材を前記基端側から保持するように構成することもできる。
【0021】
本発明において、前記第2の駆動部材は、前記操作穴に装着されることにより前記第2の係合部材に係合し、前記第2の係合部材を前記軸線に沿った方向に駆動可能に構成されることが好ましい。この場合において、前記操作穴の内部に配置された前記第1の駆動部材には前記軸線に沿った方向に貫通する軸穴が設けられ、前記第1の駆動部材の前記軸穴を通して前記第2の駆動部材が前記第2の係合部材を駆動することが望ましい。なお、第1の駆動部材及び/又は第1の係合部材を保持する保持部材が設けられている場合には、当該保持部材に前記軸線に沿った方向に貫通する開口部が設けられ、前記第2の駆動部材は前記開口部を通して前記第2の係合部材を駆動する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、内部機構の複雑化や大型化を招くことなく手術後における骨固定具の後方逸脱(バックアウト)を確実に防止することができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態の骨固定装置のインプラント本体を示す正面図(a)及び側面図(b)である。
【
図2】同実施形態の骨固定具15の側面図及び両端面図(a)、縦断面図及び横断面図(b)、横断面を拡大した拡大横断面図(c)、並びに、骨固定具23の側面図(d)である。
【
図3】同実施形態の主要部の内部構造を示す部分縦断面図(a)、及び、B-B横断面図(b)である。
【
図4】骨固定具15(ラグスクリュー)に対するスライドフリー状態において、骨固定具23(エクストラスクリュー)がオフ状態にあるときの主要構造部分を示す縦断面図(a)、骨固定具23がロックS状態にあるときの主要構造部分を示す縦断面図(b)、及び、骨固定具23の軸線に沿った係合部材16Bとの間の位置関係を示す説明図(c)である。
【
図5】骨固定具15(ラグスクリュー)に対するスライドロック状態において、エクストラスクリューがオフ状態にあるときの主要構造部分を示す縦断面図(a)、骨固定具23(エクストラスクリュー)がロックL状態にあるときの主要構造部分を示す縦断面図(b)、及び、骨固定具23の軸線に沿った係合部材16Bとの間の位置関係を示す説明図(c)である。
【
図6】骨固定具15がオフ状態、骨固定具23がオフ状態にあるときの、係合保持状態を示す説明図(a)、骨固定具15がスライドフリー状態、骨固定具23がオフ状態にあるときの、係合保持状態を示す説明図(b)、及び、骨固定具15がスライドロック状態、骨固定具23がオフ状態にあるときの、係合保持状態を示す説明図(c)である。
【
図7】骨固定具15がオフ状態、骨固定具23がオフ状態にあるときの、係合保持状態を示す説明図(a)、骨固定具15がスライドフリー状態、骨固定具23がロックL状態にあるときの、係合保持状態を示す説明図(b)、及び、骨固定具15がスライドロック状態、骨固定具23がロックS状態にあるときの、係合保持状態を示す説明図(c)である。
【
図8】係合部材16A,16B、駆動部材18及び保持部材19の組立構造を拡大して示す縦断面図である。
【
図9】エンドキャップ21Aの拡大縦断面図(a)及びエンドキャップ21Bの拡大縦断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、
図1乃至
図3を参照して、本発明に係る骨固定装置の実施形態の概略構成について説明する。
【0025】
図1は、本実施形態の上記骨固定装置である髄内固定装置のインプラント本体11を示す正面図(a)及び側面図(b)である。このインプラント本体11は、図示例では、長管骨の髄腔に挿入された状態で用いられる髄内釘である。なお、インプラント本体11において、正面とは患者に装着したときに患者の正面に向く面を示し、側面とは患者の側面に向く面を示す。インプラント本体11は、軸線11xに沿って延長された形状を有する。インプラント本体11は、この軸線11xが骨の髄腔内に挿入された姿勢で用いられる。インプラント本体11は、基端側領域11Aと先端側領域11Bを有し、軸線11xは基端側領域11Aと先端側領域11Bとの間で僅かに屈折している。
【0026】
基端側領域11Aには、横断孔12,13が形成され、先端側領域11Bには、横断孔14A,14Bが形成される。また、基端側領域11Aには、基端開口11bから軸線11xに沿って形成された上記操作穴に相当する軸穴11aが形成される。この軸穴11aは、上記横断孔12,13と交差し、かつ、連通する。なお、軸穴11aは、本実施形態では、先端側領域11Bにも連続して形成され、先端側開口をも備える貫通孔となっている。軸穴11aの基端開口11bにはキー溝11cが設けられる。キー溝11cは、インプラント本体11を骨内に導入する際に用いる図示しない挿入器具のキー付きの端部と嵌合し、インプラント本体11と挿入器具を既定の姿勢関係でのみ接続可能とする。
【0027】
本実施形態では、上記横断孔12,13は、軸線11xに対して斜めに交差する軸線12x、13xを備える。ここで、横断孔12は先端側に設けられる第1の横断孔に相当し、横断孔13は基端側に設けられる第2の横断孔に相当する。図示例において、軸線12xと13xは相互に平行である。また、上記横断孔14A,14Bは、軸線11xに対して直交する軸線14ax,14bx,14byを備える。横断孔14A,14Bは、図示しない横止め用のコーティカルスクリュー(皮質ねじ)を挿通するための孔である。
【0028】
本実施形態の骨固定装置10は、
図1に示す上記のインプラント本体11の横断孔12に対して、
図2(a)及び(b)に示す上記骨固定具15を挿通した状態で用いる。この骨固定具15は、軸線15xに沿って先端部から基端部へ向けて延長した形状を有する。骨固定具15は、ガイドピンなどの案内具を挿通可能とするために貫通した軸孔15aを備える。また、骨固定具15は、先端部に骨に係合する骨係合部15sを含む。図示例では、骨固定具15はラグスクリューであり、骨係合部15sは骨にねじ込まれるタッピングスクリューにより構成される。一般的には、骨固定具15はラグスクリューなどの骨ねじに限らず、骨内に打ち込まれる釘、骨内に食い込むフック、骨内に圧入されるピンなどで構成され得る。したがって、上記の骨係合部15sも、刃形状を備える刃状部、操作により骨内で拡大するように形成された拡大部、操作により骨内に突出するフック部、骨に食い込む尖鋭形状を備えた尖端部、ピンの単なる先端部などにより構成され得る。
【0029】
また、骨固定具15は、基端部に図示しない工具が係合し、器具が連結する接続部15bを含む。この接続部15bは、図示例では、レンチなどの工具に係合する工具係合構造15gと、手術中において骨固定具15の挿入時や牽引時などに用いる各種器具の先端部に連結されるねじ構造(雌ねじ)等からなる器具連結構造15hとを備える。接続部15bは、工具や器具との接続時において軸線周りの姿勢を規定する機能を備えることが好ましい。図示例では、上記工具係合構造15gがキー溝15k付きの六角穴で構成され、これに図示しないキー付き六角レンチからなる工具を、上記キー溝にキーが嵌合する回転姿勢で係合させることにより、骨固定具15に対する工具の軸線周りの相対姿勢が規定される。
【0030】
上記の工具係合構造15gに工具や器具を接続すると、当該工具や器具の手元部分(例えば、レンチのT型ハンドル部)の角度姿勢がそのまま骨固定具15の角度姿勢を示すこととなるため、骨固定具15の角度姿勢が体外において確認可能となる。例えば、手術者がインプラント本体11に対して既定の角度姿勢の関係が確立されたスリーブなどの基準器具の内部に上記工具を通した状態で、工具の先端に接続された骨固定具15を骨内へ導入する場合には、当該手術者は、上記基準器具に対する上記工具の角度姿勢により骨固定具15の角度姿勢を手元で知ることができる。
【0031】
骨固定具15は、上記先端部と上記基端部の間にシャフト状の軸部を備える。この軸部の外面には係合部15c、15dが形成されている。係合部15c、15dは、図示例の場合、それぞれが軸線15xに沿った方向に延長された形状を有する凹溝である。ここで、図示例の場合、係合部15cは相対的に浅く、係合部15dは相対的に深い溝形状を備える。なお、
図2(c)の係合部15dの内部に記載された二点鎖線は、凹溝の深さの差を示すために、係合部15cの内底面の輪郭の位置及び形状を示す。係合部15c、15dの内底面は、幅方向に見て円弧状の輪郭を備えている。図示例の場合、係合部15c、15dはそれぞれ二つずつ、軸線15xの周りに90度間隔で交互に配置される態様で形成される。図示例の場合、係合部15cと15dは、軸線15xに沿った方向の形成範囲が相互に共通かつ同一(完全に一致した範囲)に構成される。
【0032】
図2(d)には、上記横断孔13に挿通される第2の骨固定具に相当する骨固定具23が示される。この骨固定具23は、軸線23xに沿って貫通する軸穴23aを備えるとともに、先端に骨係合部23sを有し、骨係合部23sから軸部23bが延在し、この軸部23bの基端に頭部23cを有する。頭部23cは、軸部23bより拡大された形状を備える。この骨固定具23は、骨固定具15によって骨幹部に保持された骨端部(例えば、大腿骨頭部)の回旋を防止するための回旋防止用のスクリュー、ピン、ロッドなどに対応する。このため、一般的に、骨固定具23は、図示のように、骨固定具15よりも細く、やや短く形成される。これは、骨固定具15が大腿骨頚部のほぼ中心に導入される一方で、骨頭部の回旋防止用の骨固定具23が支障なく大腿骨頚部内を通過できるようにするため、並びに、骨固定具23の軸部23bの外径が増大することによりインプラント本体11の剛性が低下して折損するといった可能性を低減するためである。骨固定具23は、上述のように細く形成されるため、通常、軸部23bの外周面は平滑に構成される。このため、平滑な軸部23bに係合して骨固定具23を保持するためには、十分な保持力や安定した係合状態が必要であり、したがって、係合部材16Bによる保持機能は極めて重要である。
【0033】
図3(a)に示すように、インプラント本体11の上記軸穴11a内には、骨固定具15と係合する係合部16sを備える係合部材16A(第1の係合部材)が内蔵される。なお、係合部材16Aのより詳細な構造は
図8に示される。係合部材16Aは、インプラント本体11の軸線11xに沿って貫通する軸孔16Aaを備える。また、係合部材16Aの基端部16Abは、周囲に張り出したフランジ状に形成される。基端部16Abは、軸穴11a内に形成されたインプラント本体11の内面段差との間に収納されたコイルばね等からなる弾性部材17A(第1の弾性部材)によって先端側から支持され、インプラント本体11の基端側へ付勢される。係合部材16Aは、軸穴11aの内部において軸線11xに沿って移動可能に配置される。このとき、係合部材16Aは、
図3に示す初期位置(上記離隔配置)では、上記弾性部材17Aによって係合部16Asが横断孔12の内部に突出しない。実際には図示例のように係合部16Asは横断孔12から軸穴11a内に僅かに退避した位置に配置される。このため、骨固定具15は、係合部16Asに干渉されずに横断孔12に容易に挿入できる。この離隔配置では、係合部材16Aは、後述する保持部材19の先端部19cにより基端側から規制された状態とされる。
【0034】
また、係合部材16Aは、
図3(b)に示すように、6角柱状の断面部で構成される被回転規制部16Aeを備え、この被回転規制部16Aeは、軸穴11aの軸線11x方向の一部内面に構成された6角孔状の回転規制部11eに嵌合する。なお、回転規制部11e以外の上記軸穴11aの内面形状は、被回転規制部16Aeを収容可能となるように、例えば、6角断面の内接円状に構成される。これにより、係合部材16Aは、軸線11xに沿って移動可能ではあるが、回転規制部11eにより軸線11xの周りに回転しないように規制され、その角度姿勢は一定に保たれる。なお、係合部材16Aの軸線11x周りの回転を規制する構成としては、上記構造に限定されず、規制ピンを用いる構造であってもよいなど、結果として係合部材16Aの軸線周りの回転が何らかの規制部により妨げられればよい。また、当該係合部材16Aや以下に説明する係合部材16B、弾性部材17A,17B、駆動部材18、及び、保持部材19については、
図3(a)の一部を拡大して示す
図8をも参照されたい。
【0035】
上記係合部16Asは、係合部材16Aの先端部(図示下端)において、横断孔12の軸線12xに沿った軸孔16Aaの両側にそれぞれ設けられる。係合部16Asの先端は、軸線12xと直交する平面に沿って(幅方向に)円弧状の輪郭を備える。この係合部16sの先端の円弧状の輪郭は、上記骨固定具15の係合部15cの内底面の軸線15xと直交する平面に沿った円弧状の輪郭と整合する。この様子は、骨固定具15を描く
図2(c)にも二点鎖線で示されている。その結果、係合部16Asが側係合部15cの内底面に嵌合したとき、両者の接触面積を増大させることができる。これにより、骨固定具15の軸線15xに沿った方向のスライド動作に対する抵抗を大きくすることができるため、スライドロック状態のスライド動作に対する規制力を高めることができるから、確実なロック状態を実現できる。
【0036】
本実施形態の上記横断孔13には、前述のように、上記骨固定具15とは異なるねじ、ピン、釘などの骨固定具23(
図2(d)参照)を挿入することができる。係合部材16Aには、上記横断孔13に挿通される骨固定具23を挿通可能にするための挿通孔16Acが形成される。この挿通孔16Acは、係合部材16Aの上記軸線11xに沿った方向の動作範囲Ld内で少なくとも横断孔13に挿通される上記骨固定具23の挿入を可能にすることができるように、軸線11xに沿った方向に延長された形状(図示例では長円状若しくは楕円状)に形成されている。ここで、上記動作範囲Ldは、例えば、係合部16Asが横断孔12の内部に突出しない位置(例えば、
図3(a)に示すようにやや引っ込んだ位置、上記の離隔配置に相当する。)から、
図4に示すスライドフリー状態を実現するときの横断孔12内に最も突出した位置(上記の係合配置に相当する。)までの範囲である。図示例では、係合部材16Aについては、基端部16Abが保持部材19の先端部19cに当接する位置で動作範囲Ldの基端側の移動限界位置が設定され、また、係合部材16Aの異形(図示六角)断面の軸線11xに沿った方向の範囲(被回転規制部16Aeの軸線11xに沿った方向の形成範囲)と、インプラント本体11の軸孔11aの内面の異形(図示六角)断面の軸線11xに沿った方向の範囲(回転規制部11eの軸線11xに沿った方向の形成範囲)との関係により、図示の動作範囲Ldの先端側の移動限界位置が設定されている。これは、係合部材16Aの被回転規制部16Aeの上方に隣接する円筒部分が軸穴11aの回転規制部11e内に達することによる規制によって設定される移動限界位置である。ただし、図示例とは異なり、段差部などによる他の規制構造によって動作範囲Ldが制限されていてもよい。図示例の動作範囲Ldは1.9mmである。
【0037】
係合部材16Aの基端部16Abには、軸線11xの基端側(図示上方)から駆動部材18の係合駆動部18hが当接し、先端側(図示下方)から弾性部材17Aが弾性力により付勢する。これにより、係合部材16Aは、弾性部材17Aと駆動部材18によって挟持された状態に保持される。駆動部材18は、軸線に沿って貫通する軸孔18aを備えるとともに、この軸孔18aの開口縁が基端部18bとなっている。この基端部18bの内側にある上記軸孔18aの基端側の内面には六角穴等の工具係合部18cが形成される。駆動部材18は、外周に雄ねじ18dを備え、この雄ねじ18dが保持部材19の開口部19aの内面に形成された雌ねじ19eに螺合する。このため、上記工具係合部18cを図示しない工具等により操作することによって駆動部材18を回転させると、駆動部材18は軸線11xの方向に移動する。保持部材19の外周に設けられた雄ねじ19dは、軸穴11aの内面に形成された雌ねじ11dに螺合し、しかも、軸穴11aの内面段差に当接することによって軸線11xの先端側に移動できないように規制され、これにより保持部材19は軸線11xに沿った方向に位置決めされた状態で保持される。なお、保持部材19の開口部19aの内面は、図示例では、駆動部材18が
図3(a)に示す位置よりも基端側(図示上方)へは移動できないように、基端側が小径となっている。具体的には、駆動部材18は、先端側部分に設けられた雌ねじ19eに螺合するが、より限定された断面を備える工具係合部19bへ移動することはできないように構成される。すなわち、保持部材19は、駆動部材18を基端側から規制することによって保持する機能を備える。
【0038】
駆動部材18には、上記軸孔18aの先端側にある部分が収容部18eとなっている。この収容部18eは、先端側に開口し、係合部材16Aの軸孔16Aaと連通している。駆動部材18の収容部18eと係合部材16Aの軸孔16Aaの内部には、第2の係合部材に相当する係合部材16Bが配置されている。係合部材16Bは、軸線方向に貫通する軸孔16Baと、先端に設けられた係合部16Bsと、基端に設けられた基端部16Bbとを有する。また、係合部材16Bは、基端側の一部を除く先端側の部分が螺旋状のスリットを備えることによって軸線11xに沿った方向に伸縮可能な弾性部16Bcとなっている。これによって、係合部材16Bが先端側に移動して、その係合部16Bsが第2の骨固定具である骨固定具23の軸部23bに当接すると、弾性部16Bcの弾性変形量に応じた保持力で骨固定具23が保持される。係合部材16Bは、係合部材16Aの内側において規制ピン22を介して軸線11xの周りの角度姿勢が係合部材16Aにより規制された状態で、すなわち、軸線11xの周りに回転しない状態で、軸線11xに沿った方向に移動可能に配置される。
【0039】
軸孔18aの収容部18eと軸孔16Aaは、実質的に同一のサイズ(内径若しくは内寸法)を備え、係合部材16Bに対する連続する案内通路を構成する。この案内通路は、図示例では柱状(好ましくは円柱状)である。そして、具体的には、係合部材16Bは、駆動部材18の軸孔18aの内側から、先端側へ出て、係合部材16Aの軸穴16Aaの内側を経て、横断孔13に到達する移動範囲を軸線11xに沿った方向に移動可能となるように構成される。図示例では、係合部材16Bは、収容部18e及び軸孔16Aaによって軸線11xに沿った方向に案内されるように、収容部18e及び軸孔16Aaの内周面とほぼ対応する半径寸法の外周面を備えている。このため、係合部材16Bは、上記案内通路内で軸線11xに沿った方向に案内される。上記案内通路は、係合部材16Bの移動範囲を、係合部材16Aよりも基端側にある位置から、横断孔13に到達する位置までとする。ここで、係合部材16Bが係合部材16Aよりも基端側にある位置は、係合部材16Aの基端部16Abが保持部材19の先端部19cに当接することにより基端側に規制されるため、基端部16Bbが先端部19cよりも基端側に配置され得る収容部18e内に係合部材16Bが配置される位置である。また、係合部材16Bは、係合部材16Aとの間に配置された弾性部材17Bにより、係合部材16Aに対して軸線11xに沿った方向の基端側に付勢された状態で支持される。なお、本明細書で軸孔という用語は、軸線方向に沿った貫通孔の意味で用いるが、いずれの軸孔も、軸線方向に沿って貫通していない、いわゆる軸穴として形成されていてもよい場合がある。また、本明細書で軸穴という用語は、貫通した孔と貫通していない穴の双方を含む意味で用いる。
【0040】
図3(a)に示す状態では、駆動部材18が最も基端側に配置されていることにより、係合部材16Aも保持部材19の先端部19cに当接することによってそれ以上基端側に移動できない隔離配置とされている。このとき、駆動部材18の係合駆動部18hは、上記先端部19cとほぼ対応する位置にあるため、係合部材16Aの基端部16Abの位置に影響を与えない。また、係合部材16Bの基端部16Bbは、駆動部材18の収容部18e内に配置される。より詳細には、係合部材16Bは、駆動部材18の収容部18eの基端側の開口部18fの開口縁が基端部16Bbに当接する規制部18gとなり、当該開口縁によってそれ以上の基端側への移動が規制された状態とされる。このとき、係合部材16Bの基端部16Bbは、駆動部材18の開口部18fと係合駆動部18hとの間の軸線11xに沿った方向の距離である基端差Leだけ、係合部材16Aの基端部16Abよりも基端側に配置される。
【0041】
駆動部材18の開口部18fは保持部材19の開口部19a内において基端側に露出するため、保持部材19の開口部19a内に露出する駆動部材18の工具係合部18cに外部からアクセス可能に構成される。すなわち、手術者は、開口部19aを通して駆動部材18の上記工具係合部18cに図示しない工具(例えば、六角レンチ等)を係合し、駆動部材18を回転操作することができる。なお、インプラント本体11の雌ねじ11dに螺合させて保持部材19を既定の位置に装着するために、保持部材19の開口部19aの内面にも六角穴などの工具係合部19bが形成される。また、上記係合部材16Bの基端部16Bbの内縁(上記軸孔16Baの開口縁)は、駆動部材18の開口部18fよりも内周側に配置される。これにより、後述するエンドキャップ21A,21Bの先端部21Aa,21Baに設けられた段差部21Af,21Bfが軸孔18a(開口部18f)を通して基端側から係合部材16Bの基端部16Bbの内縁に係合可能となる。
【0042】
手術者が図示しない工具により工具係合部18cを介して駆動部材18を回転操作すると、駆動部材18は、上記雄ねじ18dと上記雌ねじ19eの螺合深さの変化により、軸線11xに沿った方向に移動する。
図3(a)に示す状態から駆動部材18が先端側へ移動すると、係合駆動部18hによって係合部材16Aも先端側へ移動する。ただし、上述のように係合部材16Aは回転規制されているため、駆動部材18は回転するが、係合部材16は回転せずに軸穴11aの内部で軸線11xに沿って下方へ移動する。この係合部材16Aの移動により、係合部16Asを横断孔12の内部に突出させることができ、また、その突出量を変化させることもできる。なお、駆動部材18が先端側へ移動していくと、係合部材16Bも規制部18g(開口部18fの開口縁)に基端部16Bbが当接した状態で先端側へ移動するが、規制部18gによる規制位置と係合駆動部18hによる当接位置との間の軸線11xに沿った方向の距離により、基端部16Bbは、係合部材16Aの基端部16Abに対して上記基端差Leだけ基端側に配置された状態に維持される。
【0043】
本実施形態の場合には、骨固定具15の係合部15dが係合部材16Aの係合部16Asと対向する位置に配置される場合には、手術者は、駆動部材18を回転操作することにより、上記動作範囲Ldの先端側の移動限界位置まで、係合部材16Aを図示下方へ移動させることができる。このとき、係合部16Asの先端は、係合部15dの凹溝内において、
図4に示すフリーラインFL上に位置する。しかし、上記移動限界位置の設定により、係合部16Asの先端は係合部15dの凹溝の内底面には接触しない。したがって、骨固定具15は、軸線15xの周りの回転が規制されるものの、インプラント本体11に対して軸線15xに沿って移動可能なスライドフリー状態とされる。ここで、係合部材16Aが動作範囲Ldの移動限界位置に到達することにより駆動部材18の雄ねじ18dと保持部材19の雌ねじ19eの間の螺合構造に軸線11xに沿った方向の軸力が与えられる。この軸力は、駆動部材18と保持部材19の間の螺合構造の緩みを抑制する。
【0044】
一方、係合部16Asに係合部15cを対向配置させた場合には、手術者が上記操作により係合部材16Aを図示下方へ移動させると、上記動作範囲Ldの移動限界位置に突き当たる前に、係合部16Asの先端が係合部15cの凹溝の内底面に突き当たる。このとき、係合部16Asの先端は、
図5に示すロックラインLL上に位置する。これにより、骨固定具15は、軸線15xの周りの回転が規制されるだけでなく、軸線15xに沿った方向の移動も規制されるスライドロック状態とされる。ここで、係合部16Asが係合部15cの内底面に突き当たることにより係合部材16Aを介して駆動部材18と保持部材19の間の螺合構造に軸線11xに沿った方向の軸力が与えられる。この軸力は、駆動部材18と保持部材19の間の螺合構造の緩みを抑制する。
【0045】
図示例の骨固定具15では、骨固定具15の係合部15c、15dが凹溝として形成され、骨固定具側係合部15cよりも骨係合部15dが深く形成される。これにより、インプラント本体11において軸線11xに沿った方向の特定の位置(上記の係合配置に相当する。)に位置決めされる係合部材16Aの係合部16Asが係合部15dに係合することにより、インプラント本体11に対して骨固定具15がスライドフリー状態となる。また、インプラント本体11において軸線11xに沿った方向の特定の位置(上記の係合配置に相当する。)に位置決めされる係合部材16Aの係合部16Asが係合部15cに係合することにより、インプラント本体11に対して骨固定具15がスライドロック状態となる。
【0046】
本実施形態では、係合部材16Aは弾性部材17Aにより常に基端側に付勢されるため、駆動部材18の軸線11xに沿った方向の位置を基端側へ移動させても、係合部材16Aの基端側の規制位置は、保持部材19の先端部19cに対する当接によって規定されるため、
図3(a)に示す位置となる。このとき、駆動部材18の基端部18bも、前述のように保持部材19によって基端側に規制されるため、その基端側の規制位置は、
図3(a)に示す位置となる。その結果、弾性部材17Bによって基端側へ付勢されている係合部材16Bの基端側の規制位置は、駆動部材18が基端側の規制位置にあるときの収容部18eの最奥部にある規制部18gによって決められる。したがって、係合部材16Aの上記規制位置を、係合部16Asが横断孔12へ突出しない離隔配置とし、また、係合部材16Bの上記規制位置を、係合部16Bsが横断孔13へ突出しない非保持配置とすることができる。ここで、係合部材16Bについて非保持配置としたのは、係合部材16Bが弾性部16Bcを有することにより軸線11xに沿った方向に伸縮する特性を備えているため、係合部16Bsが横断孔13に対して僅かに突出している場合でも、骨固定具23を支障なく横断孔13に挿通させることが可能である反面、このような場合には、骨固定具23の保持機能を実質的に発揮することができないため、離隔配置の代わりに非保持配置という用語を用いている。ただし、係合部材16Bについても、
図3(a)及び
図8に示すオフ状態では、骨固定具23に抵触(干渉)しないように、係合部16Bsが横断孔13内に突出せず、基端側に没するように配置されることが望ましいことはもちろんである。
【0047】
図4(a)は、駆動部材18の工具係合部18cを操作して係合部材16Aにより骨固定具15がスライドフリー状態となる場合において、係合部材16Bが基端側の規制位置(非保持配置)にあるときを示す。このとき、駆動部材18は、基端側の規制位置より先端側へ移動し、その結果、係合配置の係合部材16Aの係合部16Asが骨固定具15の係合部15dの凹溝内でスライドフリー状態を実現するフリーラインFLに設定される。また、係合部材16Bは、やや先端側へ移動した駆動部材18の規制部18gによって規制された位置に配置されるので、係合部材16Bの基端部16Bbは、係合部材16Aの基端部16Abよりも基端差Leだけ基端側に配置されている。なお、この場合には、
図4(c)に示すように、非保持配置の係合部材16Bの係合部16Bsはほぼ骨固定具23の軸部23bの外周面に接触するか否かのぎりぎりの位置にあるが、骨固定具23の横断孔13への挿入には支障がない代わりに、横断孔13に挿通された骨固定具23の保持機能を発揮することはできない。
【0048】
図4(b)は、駆動部材18の工具係合部18cを操作して係合部材16Aにより骨固定具15がスライドフリー状態となる場合において、エンドキャップ21Aをインプラント本体11の基端開口11bから軸穴11a内に導入し、エンドキャップ21Aの雄ねじ21Acを雌ねじ11dに所定深さまで螺合させることによって装着し、これによって先端部21Aa側の段差部21Afを駆動部材18の軸孔18aを通して開口部18fから係合部材16Bの基端部16Bbに係合させることによって、係合部材16Bが押し下げられた状態(保持配置)にあるときを示す。このとき、駆動部材18によって押し下げられた係合部材16Aの係合部16Asは、前述と同様に、フリーラインFLに設定される。ここで、係合部材16Aの係合部16AsがフリーラインFLに設定される場合、係合部材16Aの先端部16Asと骨固定具15の係合部15cの内底面との間には僅かな隙間が存在する。一方、係合部材16Bは、
図9(a)に示すように、エンドキャップ21Aの先端部21Aaの側にある段差部21Afによる押し下げによって先端側に移動して、保持配置とされる。このとき、係合部材16Bの係合部16Bsが骨固定具23の軸部23bの外周面に押し付けられることによって、骨固定具23は、弾性部16Bcの弾性復元力によって保持された状態とされる。
【0049】
このときの上記保持配置は、
図9(a)に示すように、保持部材19の先端部19cを基準とした段差部21Afの相対位置ΔSにより、ロックS(弱いロック)状態とされ、弾性部16Bcがより小さく圧縮されることで、後述するロックL状態よりも弱い弾性力が骨固定具23に及ぼされる結果、インプラント本体11による骨固定具23の保持力も小さくなる。これは、骨固定具23自体は係合部材16Bによって保持されるものの、骨固定具15がスライドフリー状態であるから、これに合わせて、骨固定具23もスライド可能に構成するためである。ただし、本実施形態とは異なり、骨固定具23の保持の有無だけが選択可能であり、保持力の差異を付けないようにしても構わない。この場合には、係合部材16Bを保持配置にすることにより骨固定具23が既定の保持力で保持される。
【0050】
図9(a)に示すように、エンドキャップ21Aは、上記駆動部材18の軸孔18aに挿入可能な先端部21Aaと、基端部に設けられた六角穴などの工具係合部21Abと、インプラント本体11の上記軸穴11aの雌ねじ11dに螺合する雄ねじ21Acと、図示例では同芯状に形成される環状の段差部21Ad、21Ae、21Afとを備える。手術者がエンドキャップ21Aを軸穴11a内に挿入し、雄ねじ21Acを雌ねじ11dに螺合させ、ねじ込んでいくと、やがて、段差部21Adが保持部材19の基端に当接することによりエンドキャップ21Aは位置決めされる。このとき、エンドキャップ21Aを装着することにより、段差部21Adが保持部材19の基端に当接するため、保持部材19が図示上方より抑えられてその螺合部分が緩み止めされるとともに、保持部材19との間に生ずる軸力によりエンドキャップ21Aの緩み止め効果を得ることもできる。これによって、係合部材16A、16Bや駆動部材18の上下位置も間接的に規制されるため、インプラント本体11に対する骨固定具15の保持状態が安定する。なお、前述のように、係合部材16Aの係合部16Asと骨固定具15の間には僅かな隙間が存在するため、手術後のリハビリ時の歩行動作などによって骨固定具15への荷重負荷が生じても、係合部材16Aは力を受けにくいため、駆動部材18のねじも緩みにくいことから、エンドキャップ21Aは駆動部材18とは非接触状態とされる。ただし、後述するエンドキャップ21Bと同様に、エンドキャップ21Aを装着したときに駆動部材18に当接するようにしてもよい。
【0051】
図5(a)は、駆動部材18の工具係合部18cを操作して係合部材16Aを骨固定具15がスライドロック状態となる位置に配置した場合において、係合部材16Bが基端側の規制位置にあるときを示す。このとき、駆動部材18は、基端側の規制位置より先端側へ移動し、その結果、係合配置の係合部材16Aの係合部16Asが骨固定具15のスライドロック状態を実現するロッキングラインLLに設定される。また、係合部材16Bは、やや先端側へ移動した駆動部材18の規制部18gによって規制された位置に配置されるので、係合部材16Bの基端部16Bbは、係合部材16Aの基端部16Abよりも基端差Leだけ基端側に配置されている。なお、この場合には、
図5(c)に示すように、非保持配置の係合部材16Bの係合部16Bsはほぼ骨固定具23の軸部23bの外周面に接触するか否かのぎりぎりの位置にあるが、骨固定具23の横断孔13への挿入には支障がない代わりに、横断孔13に挿通された骨固定具23の保持機能を発揮することはできない。
【0052】
図5(b)は、駆動部材18の工具係合部18cを操作して係合部材16Aにより骨固定具15がスライドロック状態となる場合において、エンドキャップ21Bをインプラント本体11の基端開口11bから軸穴11a内に導入し、エンドキャップ21Bの雄ねじ21Bcを雌ねじ11dに所定深さまで螺合させることによって装着し、これによって先端部21Ba側の段差部21Bfを駆動部材18の軸孔18aを通して開口部18fから係合部材16Bの基端部16Bbに係合させることによって、係合部材16Bが押し下げられた状態にあるときを示す。このとき、駆動部材18によって押し下げられた係合部材16Aの係合部16Asは、前述と同様に、ロッキングラインLLに設定される。ここで、係合部材16Aの係合部16AsがロッキングラインLLに設定される場合、係合部材16Aの先端部16Asと骨固定具15は当接している。一方、係合部材16Bは、エンドキャップ21Aの先端部21Aaの側にある段差部21Bfによる押し下げによって先端側に移動して、保持配置とされる。このとき、係合部材16Bの係合部16Bsが骨固定具23の軸部23bの外周面に押し付けられることによって、骨固定具23は、弾性部16Bcの弾性復元力によって保持された状態とされる。
【0053】
このときの上記保持配置は、
図9(b)に示すように、保持部材19の先端部19cを基準とした段差部21Bfの相対位置ΔLにより、ロックL(強いロック)状態とされ、弾性部16Bcがより大きく圧縮されることで、前述のロックS状態よりも強い弾性力が骨固定具23に及ぼされる結果、インプラント本体11による骨固定具23の保持力も大きくなる。これは、骨固定具23自体は係合部材16Bによって保持されるものの、骨固定具15がスライドロック状態であるから、これに合わせて、骨固定具23もスライドしにくいように構成するためである。ただし、本実施形態とは異なり、骨固定具23の保持の有無だけが選択可能であり、保持力の差異を付けないようにしても構わない。この場合には、係合部材16Bを保持配置にすることにより骨固定具23が既定の保持力で保持される。
【0054】
図9(b)に示すように、エンドキャップ21Bは、上記駆動部材18の軸孔18aに挿入可能な先端部21Baと、基端部に設けられた六角穴などの工具係合部21Bbと、インプラント本体11の上記軸穴11aの雌ねじ11dに螺合する雄ねじ21Bcと、図示例では同芯状に形成される環状の段差部21Bd、21Be、21Bfとを備える。手術者がエンドキャップ21Bを軸穴11a内に挿入し、雄ねじ21Bcを雌ねじ11dに螺合させ、ねじ込んでいくと、やがて、段差部21Beが駆動部材18の基端部18bに当接することによりエンドキャップ21Bは位置決めされる。このとき、エンドキャップ21Bを装着することにより、段差部21Beが駆動部材18の基端部18bに当接するため、駆動部材18が図示上方より抑えられてその螺合部分が緩み止めされるとともに、駆動部材18との間に生ずる軸力によりエンドキャップ21Bの緩み止め効果を得ることもできる。これによって、係合部材16A、16Bや駆動部材18の上下位置も間接的に規制されるため、インプラント本体11に対する骨固定具15の保持状態が安定する。なお、前述のように、係合部材16Aの先端部16Asと骨固定具15は当接しているため、手術後の歩行動作などによって骨固定具15への荷重負荷によって係合部材16Aや駆動部材18が力を受けるものの、エンドキャップ21Bによって駆動部材18が押圧されているため、駆動部材18のねじの緩みは防止される。
【0055】
図9では、説明の便宜上、上記段差部16Ad-16Af及び16Bd-16Bfについては、各段差部の軸線11xに沿った方向の位置を示す一点鎖線に符号を付していることに注意されたい。各段差部の位置は、エンドキャップ21A,21Bの位置決めや係合部材16Bの駆動状態を好適に実現するために、それぞれ任意に設定され得る。
【0056】
上記のように構成した結果、
図6に示すように、駆動部材18の工具係合部18cへの操作(回転操作)によって、骨固定具15(ラグスクリュー)を、係合部材16A(離隔配置)の係合部16Asに係合されないオフ状態(
図6(a)参照)、係合部材16A(係合配置)の係合部16Asの溝内配置により、回転規制されるがスライド可能なスライドフリー状態(
図6(b)参照)、係合部材16A(係合配置)の係合部16Asの当接により、回転もスライドも規制されるスライドロック状態(
図6(c)参照)のいずれかにすることができる。一方、エンドキャップ21A又は21Bの代わりに、段差部21Af,21Bfのないエンドキャップを装着することによって、上記のいずれの場合でも、骨固定具23(エクストラスクリュー)を、係合部材16B(非保持配置)の係合部16Bsに係合されないオフ状態とすることができる。
【0057】
一方、
図7に示すように、骨固定具15(ラグスクリュー)がいずれの状態にあるときでも、エンドキャップ21A又は21Bを装着することにより、係合部材16B(保持配置)の係合部16Bsにより保持されるロックL状態(
図7(b)参照)若しくはロックS状態(
図7(c)参照)とすることができる。エンドキャップ21A,21Bは、いずれも、段差部21Ad,21Beが保持部材19や駆動部材18に当接することにより位置決めされるため、取付作業において取付位置の調整が不要であることから、作業が容易化されるとともに、係合部材16Bに対する駆動精度の向上を図ることが可能になる。
【0058】
以上説明した実施形態では、以下の効果を奏する。まず、係合部材16B(第2の係合部材)は、係合部材16A(第1の係合部材)を駆動する駆動部材18(第1の駆動部材)に設けられた軸孔18aの収容部18e内における係合部材16Aよりも基端側にある位置から先端側へ出て係合部材16Aに設けられた軸孔16Aa内を経て横断孔13(第2の横断孔)に到達する移動範囲において移動可能に構成される。これにより、係合部材16Aと係合部材16Bで軸線11xに沿った方向の移動範囲が互いに半径方向内外に重なるとともに、係合部材16Bは、係合部材16Aよりもさらに基端側に延在する移動範囲を有し、しかも、当該移動範囲は、駆動部材18に対しても半径方向内外で重なるように構成される。その結果、内部機構における軸線11xに沿った方向や半径方向の構造を複雑化したり大型化したりせずに、係合部材16Bの軸線11xに沿った方向の長さや作動ストローク(移動範囲)を大きく確保することが可能になる。したがって、非保持配置では係合部材16Bを横断孔13から退避させたり横断孔13から大きく突出しないようにして骨固定具23を挿通しやすくすることが可能であり、また、保持配置では軸線11xに沿った方向の係合余裕が得られるため、骨固定具23の係合保持を確実に行うことが可能になる。さらに、半径方向内外の係合構造の重なりにより、骨固定具15や23に対する保持作用の偏在も抑制される。
【0059】
本実施形態では、特に、非保持配置にある係合部材16Bの基端部16Bbは、係合部材16Aの基端部16Abに対して基端側に配置され、係合部材16Bが保持配置に向けて移動すると、係合部材16Bの基端部16Bbと係合部材16Aの基端部16Abとの間の軸線11xに沿った方向の位置ずれが減殺される。これによれば、内部機構の軸線11xに沿った方向の範囲を増大させずに、係合部材16Bの長さや作動ストロークを増大させることができるため、軸線11xに沿った方向の内部機構のコンパクト性を確保しつつ、係合部材16Bによる骨固定具23に対する保持性能をさらに高めることが可能になる。
【0060】
また、駆動部材18は、基端側に形成されて係合部材16Aを駆動するための操作が実現可能に構成される操作部である工具係合部18cと、係合部材16Aの軸孔16Aaと連通する駆動部材18の軸孔18aを構成する、先端側に開口して係合部材16Bの少なくとも基端側の部分を収容可能な収容部18eと、を有する。これにより、基端側からの駆動部材18に対する操作を可能にしつつ、先端側からの係合部材16Bの収容が可能になるので、駆動部材18を中心とした構造の複雑化や大型化を回避しつつ、前述の効果を確保することができる。
【0061】
また、駆動部材18の軸孔18aは軸線11xに沿った方向に貫通し、操作部である工具係合部18c及び収容部18eは、駆動部材18の軸孔18aによって形成される。これにより、駆動部材18の構造をさらに簡易なものとしつつ、基端側外部からの係合部材16Bに対するアクセスを可能に構成することができる。
【0062】
さらに、係合部材16Bは、第1の駆動部材に相当する駆動部材18に設けられた規制部18gにより基端側への移動が規制されることによって位置決めされる。これにより、係合部材16Bの非保持配置における基準位置が定まることから、骨固定具23の横断孔13への挿入時において係合部16Bsに抵触することを確実に防止できるとともに、係合部材16Bの保持配置における係合部16Bsの係合状態の安定化や保持状態の確実化を図ることができる。
【0063】
また、駆動部材18は、係合部材16Aに係合して駆動する係合駆動部18hを有し、駆動部材18の規制部18gは、係合駆動部18hよりも基端側に設定される。これにより、規制部18gによって規制される係合部材16Bを係合駆動部18hによって駆動される係合部材16Aよりも基端側に配置することが可能になるとともに、係合部材16Aと16Bの位置関係を駆動部材18の形状や構造だけで規定することが可能になるので、構造の簡易化や小型化を図ることができる。
【0064】
さらに、基端側に向けた弾性力により係合部材16Bを支持する第2の弾性部材である弾性部材17Bをさらに備える。これにより、外力を加えない限り、係合部材16Bを基端側に付勢して非保持配置を維持できるとともに、骨固定具23の横断孔13への挿入が容易化される。
【0065】
また、駆動部材18は、係合部材16Aに対して係合部材16Bの外周側において当接することにより駆動する係合駆動部18hを備える。これにより、駆動部材18は、係合歩合16Bの外周側において当接することにより係合部材16Aを駆動するように構成されるので、内部機構の複雑化を招くことなしに構成できるとともに、内部機構の大型化も抑制できる。
【0066】
さらに、上記の場合において、係合駆動部18hと係合部材16Aの当接範囲が環状に構成されることにより、内部機構の複雑化や大型化を回避しつつ、高精度かつ確実な動作を実現できる。
【0067】
また、駆動部材18は、インプラント本体11の内部において回転可能に配置され、回転操作によって回転されることで係合部材16Aを先端側に駆動可能となるように構成されることにより、操作性を良好に保ちつつ、高精度かつ確実な動作を実現できる。
【0068】
さらに、駆動部材18は、前記回転操作を受けることによって軸線11xに沿った方向に移動可能に構成され、先端側に移動したときに、係合部材16Aを骨固定具15に対して押し付ける。これにより、内部機構をさらに簡易かつコンパクトに構成できる。
【0069】
また、係合部材16Bを軸線11xに沿った方向の先端側に駆動することによって係合部材16Bを骨固定具23に係合させる第2の駆動部材であるエンドキャップ21A,21Bをさらに具備することにより、操作性良好に骨固定具23の保持動作を実現できる。
【0070】
この場合において、第2の駆動部材であるエンドキャップ21A,21Bは、インプラント本体11の基端部に装着されることにより、係合部材16Bを駆動する。これにより、通常のエンドキャップの装着作業と同じ作業により骨固定具23の保持操作が実現できる。
【0071】
係合部材16Bを軸線11xに沿った方向の先端側に駆動することによって係合部材16Bを骨固定具23に係合させる第2の駆動部材であるエンドキャップ21A、21Bをさらに具備し、このエンドキャップ21A,21Bは、駆動部材18の軸孔18aを通して係合部材16Bを係合駆動する。これにより、エンドキャップ21A,21Bを装着するだけで、駆動部材18が障害にならずに係合部材16Bを非保持配置から保持配置とし、骨固定具23を保持することができるので、内部機構の複雑化や大型化を回避しつつ、骨固定具23の保持のための操作を極めて容易に構成できる。
【0072】
この場合において、エンドキャップ21A,21Bで構成される第2の駆動部材は、インプラント本体11の内部機構の一部(駆動部材18や保持部材19)に当接して位置決めされる。これにより、第2の駆動部材の装着が容易になるとともにその作用も正確かつ確実とされ、しかも、前述のように内部機構の一部を押さえることによるねじの緩みや変形等に起因する術後の不具合を防止できる。
【0073】
以上説明した実施形態の骨固定装置10は、以下のようにして患者の体内に設置される。まず、図示しないターゲット装置をインプラント本体11の基端開口11bに接続した状態で、患者の大腿骨等の近位部から予めリーマー等により開窓した骨髄内に導入する。次に、ターゲット装置の案内機能を用いて挿入器具を取り付け、穿孔後にねじ込み作業により骨固定具15を導入する。その後、骨折部(骨頭部)を整復状態に保持し、駆動部材18を操作して係合部材16Aを介して骨固定具15を保持する。続いて、上記挿入器具を用いて横断孔13に対応する穿孔後にねじ込み作業を行うことにより骨固定具23を大腿骨頚部へ導入し、これにより骨折部が回旋しないようにし、上記ターゲット装置及び挿入器具を取り外す。しかる後に、エンドキャップ21A又は21Bを軸穴11a内に装着し、係合部材16Bを介して骨固定具23を保持する。
【0074】
上記のような手術作業では、係合部材16A,16B、駆動部材18、保持部材19からなる内部機構を簡易かつ小型に構成することによって、十分な剛性を確保しつつ、インプラント本体11(髄内釘)をコンパクト化できるため、患者の負担を軽減することができる。特に、係合部材16Aを離隔配置とし、先端側の横断孔12に骨固定具15を挿通させて骨折部の大腿骨骨頭部内へ導入した後に、骨折部を確実に整復状態に保持するためには、まず、骨固定具15をインプラント本体11に対して或る程度保持し、例えば、骨固定具15を牽引して骨折部の姿勢を骨幹部に対して調整し、整復状態とする作業が必要とされる。このため、骨固定具15で骨折部を保持するために、駆動部材18を操作して係合部材16Aを係合配置に設定する。この時点では、その後、骨折部の回旋を防止するための骨固定具23の導入のために、ガイドピン刺入作業と穿孔作業を実施し、骨固定具23の横断孔13への挿通と大腿骨頚部への導入作業が行われることから、係合部材16Aが係合配置にあっても、係合部材16Bが非保持配置にあることが重要である。本実施形態の内部機構は、係合部材16Bへの制約を課すことなしに、上記のことを好適に実現する。骨固定具23が導入されると、上記ターゲット装置及び挿入器具は取り外され、最後に、エンドキャップ21A又は21Bが選択され、インプラント本体11の基端開口11bに装着される。このとき、骨固定具23の保持態様は、本実施形態の前述の内部機構の特徴により、内部機構の複雑化や大型化を回避しつつ、係合部材16Bの長さや移動範囲の確保によって、上記のロックLとロックSの二種に限らず、種々の要請に応じて広範囲に実現可能である。
【0075】
なお、本発明の骨固定装置は、上記各実施形態に限らず、本発明の範囲に包含される種々の改変を施すことができる。例えば、上記実施形態では、第2の駆動部材としてエンドキャップを用いるようにしているが、第1の駆動部材と同様に、インプラント本体の内部において操作可能に内蔵された駆動部材を用いることも可能である。例えば、回転操作可能な構造を有するとともに、雌ねじ11dや19eに螺合し、軸線11xに沿った方向に移動可能に構成され、駆動部材18を通して係合部材16Bに係合可能な別の駆動部材を設けることが可能である。
【0076】
また、上記実施形態では、係合部材16Aと骨固定具15の係合態様として、骨固定具15に設けた複数の係合部15c、15dに対して異なる保持態様が生ずるように構成されているが、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、単一の保持態様のみが可能な構造に適用されるものでもよく、或いは、実施形態で説明する保持態様とは異なる別の保持態様が可能な構造に適用されるものであっても構わない。
【符号の説明】
【0077】
10,30…骨固定装置、11,31…インプラント本体(髄内釘本体)、11x…軸線、11A…基端側領域、11B…先端側領域、11a…軸穴、11b…基端開口、11c…キー溝、11d…雌ねじ、11e…回転規制部、12,13,14A,14B…横断孔、12x,13x,14ax,14bx,14by…軸線、15,23…骨固定具、15a,23a…軸孔、15x,23x…軸線、15s,23s…骨係合部、15b…接続部、15c,15d…係合部、15k…キー溝、16A…係合部材、16Aa…軸孔(軸穴)、16As…係合部、16Ab…基端部、16Ac…挿通孔、16Ae…被回転規制部、16B…係合部材、16Ba…軸孔(軸穴)、16Bs…係合部、16Bb…基端部、16Bc…弾性部、17A…弾性部材、17B…弾性部材、18…駆動部材、18a…軸孔(軸穴)、18b…基端部、18c…工具係合部、18d…雄ねじ、18e…収容部、18f…開口部、18g…規制部、18h…係合駆動部、19…保持部材、19a…開口部、19b…工具係合部、19c…先端部、19d…雄ねじ、19e…雌ねじ、21A,21B…エンドキャップ、21Aa,21Ba…先端部、21Ab,21Bb…工具係合部、21Ac,21Bc…雄ねじ、21Ad,21Ae,21Af,21Bd,21Be,21Bf…段差部、LL…ロックライン、FL…フリーライン、23b…軸部、23c…頭部、Ld…動作範囲、Le…基端差、ΔL,ΔS…段差部21Af,21Bfの相対位置