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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079625
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 4/02 20060101AFI20240604BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C03C4/02
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023199278
(22)【出願日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2022192109
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 奈緒美
(72)【発明者】
【氏名】池西 幹男
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB01
4G062DA04
4G062DA05
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB01
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4G062DC03
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4G062DC05
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4G062EA10
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4G062FE02
4G062FF01
4G062FG01
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4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062FL02
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
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4G062GE01
4G062HH01
4G062HH04
4G062HH05
4G062HH07
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4G062HH15
4G062HH17
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4G062JJ05
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4G062JJ10
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4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM02
4G062NN05
(57)【要約】
【課題】 着色層を有するガラスを提供すること。
【解決手段】 着色層を有し、上記着色層は、ガラス成分としてAgを含み、上記着色層の可視光領域での透過率の最大値が20%以下である、ガラス。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色層を有し、
上記着色層は、ガラス成分としてAgを含み、
上記着色層の可視光領域での透過率の最大値が20%以下である、ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載のガラスを含む光学ガラス。
【請求項3】
請求項1に記載のガラスを含む光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色層を有するガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスに着色した部分を有するガラスは、日用品、仏具、装飾品、宝飾品、芸術品、小型電子機器の外装等のガラス物品、レンズ、カバーガラス、エンコーダー等の光学素子といった、さまざまな用途に用いることができる。そして、このようなガラスでは、着色されていない部分が十分な透明性を有しながら、着色した部分の透過率が十分に低減されていることが求められることがある。
【0003】
ガラスを着色する方法として、ステンドグラスのようなカラーガラスでは、ガラスにAg(銀)を導入してガラスを部分的に黄色に着色する方法が知られている。特許文献1には、溶融塩を用いてAg(銀)が導入された、ディスプレイ装置のカバーガラスが開示されている。特許文献1では、Ag(銀)を導入することでガラスに抗菌性を付与している。しかしながら、特許文献1では、高い透明性と可視透過率とを備えたカバーガラスを得ることを目的としており、着色した部分、すなわち透過率が十分に低減された部分を有するガラスは得られていない。
【0004】
特許文献2には、着色層を有するガラスが開示されている。しかしながら、特許文献2のガラスでは、ガラス成分としてTiイオン、Nbイオン、Wイオン、およびBiイオンのいずれかを含むため、着色されていない部分について十分な透明性が得られないことがあった。また、特許文献2のガラスでは、着色層を形成するためには、ガラス成分としてTiイオン等を含む必要があるため、屈折率の低いガラスの製造において特許文献2の技術を適用できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-133800
【特許文献2】特開2022-40936
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、着色層を有するガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 着色層を有し、
上記着色層は、ガラス成分としてAgを含み、
上記着色層の可視光領域での透過率の最大値が20%以下である、ガラス。
【0008】
(2) 上記(1)に記載のガラスを含む光学ガラス。
【0009】
(3) 上記(1)に記載のガラスを含む光学素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、着色層を有するガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】片面に着色層を形成した板状ガラスの模式図である。
図2】両面に着色層を形成した板状ガラスの模式図である。
図3】実施例1-1で得られた組成Iを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図4(1)】実施例1-2で得られた組成Iを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図4(2)】実施例1-2で得られた組成Iを有するガラスサンプルについて、非着色部の透過率を示したグラフである。
図5(1)】実施例2-1で得られた組成IIを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図5(2)】実施例2-1で得られた組成IIを有するガラスサンプルについて、着色層の厚さ方向でのAg量の変化を示したグラフである。グラフの右端がガラスサンプルの表面であり、グラフで左に進むにしたがって(すなわち、矢印の方向に進むにしたがって)ガラスサンプルの厚さ方向への深度が大きくなる。
図5(3)】実施例2-1で得られた組成IIを有するガラスサンプルの断面のSEM画像である。ガラスサンプルは白色から灰色に写っており、着色層はより白く観察される。
図6(1)】実施例2-2で得られた組成IIを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図6(2)】実施例2-2で得られた組成IIを有するガラスサンプルについて、着色層の厚さ方向でのAg量の変化を示したグラフである。グラフの右端がガラスサンプルの表面であり、グラフで左に進むにしたがって(すなわち、矢印の方向に進むにしたがって)ガラスサンプルの厚さ方向への深度が大きくなる。
図6(3)】実施例2-2で得られた組成IIを有するガラスサンプルの断面のSEM画像である。ガラスサンプルは白色から灰色に写っており、着色層は白く観察される。
図7(1)】実施例2-3で得られた組成IIを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図7(2)】実施例2-3で得られた組成IIを有するガラスサンプルについて、非着色部の透過率を示したグラフである。
図8(1)】実施例2-4で得られた組成IIを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図8(2)】実施例2-4で得られた組成IIを有するガラスサンプルについて、非着色部の透過率を示したグラフである。
図9】実施例3-1で得られた組成IIIを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図10(1)】実施例3-2で得られた組成IIIを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図10(2)】実施例3-2で得られた組成IIIを有するガラスサンプルについて、着色層の厚さ方向でのAg量の変化を示したグラフである。グラフの右端がガラスサンプルの表面であり、グラフで左に進むにしたがって(すなわち、矢印の方向に進むにしたがって)ガラスサンプルの厚さ方向への深度が大きくなる。
図11(1)】実施例3-3で得られた組成IIIを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図11(2)】実施例3-3で得られた組成IIIを有するガラスサンプルについて、着色層の厚さ方向でのAg量の変化を示したグラフである。グラフの右端がガラスサンプルの表面であり、グラフで左に進むにしたがって(すなわち、矢印の方向に進むにしたがって)ガラスサンプルの厚さ方向への深度が大きくなる。
図11(3)】実施例3-3で得られた組成IIIを有するガラスサンプルの断面のSEM画像である。ガラスサンプルは白色から灰色に写っており、着色層は白く観察される。
図12(1)】実施例4で得られた組成IVを有するガラスサンプルについて、着色層を有する部分の透過率を示したグラフである。
図12(2)】実施例4で得られた組成IVを有するガラスサンプルについて、非着色部の透過率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態では、カチオン%表示での各成分の含有比率に基づいて本発明に係るガラスを説明する。したがって、以下、各含有量について、特記しない限り、「%」は「カチオン%」を意味する。カチオン%表示とは、全てのカチオン成分の含有量の合計を100%としたときのモル百分率をいう。また、合計含有量とは、複数種のカチオン成分の含有量(含有量が0%である場合も含む)の合計量をいう。
【0013】
ガラス成分の含有量は、公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の方法で定量することができる。なお、着色層におけるAg(銀)の含有量は、走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)や蛍光X線分析(XRF)等により定量できる。本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%とは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、該成分が不可避的不純物レベルで含まれることを許容する。
【0014】
また、本明細書では、屈折率は、特記しない限り、ヘリウムのd線(波長587.56nm)における屈折率ndをいう。
【0015】
アッベ数νdは、分散に関する性質を表す値として用いられるものであり、下式で表される。ここで、nFは青色水素のF線(波長486.13nm)における屈折率、nCは赤色水素のC線(656.27nm)における屈折率である。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0017】
本実施形態に係るガラスは、着色層を有する。着色層は、ガラスが着色された部分であり、好ましくはガラス表面から内に向かって層状に存在する。
【0018】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層は、ガラス表面の全てを覆うように(ガラスの全表面に)存在してもよく、ガラス表面の一部を覆うように(ガラス表面の一部に)存在してもよい。
【0019】
着色層はガラスに入射する光に関し透過率の小さい部分である。したがって、本実施形態に係るガラスにおいて、ガラスに入射する光のうち、着色層に入射する光は一部または全部が吸収され、着色層に入射しない光に比べて透過光の強度が減衰する。すなわち、本実施形態に係るガラスは、透過率が小さい部分と大きい部分を有することができる。
【0020】
また、本実施形態に係るガラスでは、着色層は、研削または研磨により除去できる。本実施形態に係るガラスでは、着色層を除去した後のガラスの透過率は、着色層を除去する前の透過率よりも大きくなる。
【0021】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層はガラス成分としてAgを含む。Agを含むことで、着色層は着色される。着色層のおけるAgの含有量が多いほど着色層は濃く着色するが、着色の程度は、ガラスの組成や着色層の形成条件等によって異なる。したがって、着色層におけるAgの含有量が同じでも、ガラスの組成や着色層の形成条件等によって、着色の程度は異なる場合がある。着色の程度は透過率またはOD(optical density)で評価できる。Agの含有量が一定量を超えると、着色層は濃く着色して、着色層における透過率が0%に近くなることがあり、Agの含有量をそれ以上増加させても着色の程度が透過率では評価できないことがある。なお、着色層を形成していない部分(以下、非着色部と称することがある。)は、実質的にAgを含有しないことが好ましい。
【0022】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層がAgを含むか否かは、走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)や蛍光X線分析(XRF)等により評価できる。着色層におけるAgの濃度は特に限定はされず、0.01質量%以上であることが好ましく、さらには、Ag濃度の下限は、0.03質量%、0.05質量%、0.08質量%、0.10質量%、0.30質量%、0.50質量%、0.80質量%であってもよい。
【0023】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層の可視光領域での透過率の最大値は20%以下である。着色層の可視光領域での透過率の最大値は、好ましくは15%以下であり、さらには10%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下の順により好ましい。着色層を濃く着色することで透過率は低減できる。一方、非着色の可視光領域での透過率の最大値は、特に制限されないが、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。ここで、可視光領域とは380nm~780nmの波長域とする。
【0024】
本実施形態に係るガラスが、着色層と、可視光領域の透過率の大きい非着色部とからなる場合、着色層の透過率は小さい一方で、非着色部の透過率は大きくなる。透過率の測定において、測定光が着色層と非着色部との両方を通過する場合、非着色部の透過率は十分大きいので、着色層の透過率が支配的となる。
【0025】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層の厚みは、特に制限されないが、0.1μm~150μmとすることが可能である。また、ガラスの上面視において、着色層の幅は、特に制限されないが、0.1μm~100μmとすることが可能である。着色層の厚みおよび幅を上記範囲とすることで、着色層の形状の鮮明さを向上できる。
【0026】
(OD)
OD(optical density)とは、光学密度または光学濃度であり、下記式で示すように、入射光強度I0と透過光強度Iの比の常用対数に負号(マイナス)を付けた数値として表される。
OD=-log10(I/Io
【0027】
本実施形態に係るガラスが、着色層と、可視光領域の透過率の大きい非着色部とからなる場合、着色層のODは大きい一方で、非着色部のODは小さくなる。ODの測定において、測定光が着色層と非着色部との両方を通過する場合、非着色部のODは十分小さいので、着色層のODが支配的となる。
【0028】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層を有する部分の波長780nmにおけるODは、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.75以上であり、さらに好ましくは1.0以上である。一方、非着色部の波長780nmにおけるODは、好ましくは0.2以下であり、より好ましくは0.15以下であり、さらに好ましくは0.1以下である。
【0029】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層を有する部分の波長1100nmにおけるODは、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.75以上であり、さらに好ましくは0.9以上である。一方、非着色部の波長1100nmにおけるODは、好ましくは0.2以下であり、より好ましくは0.15以下であり、さらに好ましくは0.1以下である。
【0030】
なお、向かい合う2つの面を有するガラスにおいて、着色層をその両面に設ける場合のODは、同じ着色層を片面のみに設ける場合の約2倍となる。
【0031】
また、本実施形態に係るガラスでは、可視光領域から近赤外域にかけての波長域において、波長の増加とともにODは減少する。そのため、着色層を有する部分において、たとえば波長780nmにおけるODは、波長1100nmにおけるODよりも大きくなる。
【0032】
したがって、遮光したい波長領域がある場合には、その波長領域における長波長側の波長でのODが高くなるように設計する。可視光のみを遮光するガラスを設計する場合は、可視光領域の長波長側(例えば、780nm)においてODが高くなるように設定すればよい。可視光領域の長波長側(例えば、780nm)においてODが高くなるように設定するには、例えば、Agの含有量を調整する、後述する還元雰囲気での熱処理において水素濃度、熱処理温度、熱処理時間を調整すればよい。また、可視光領域から近赤外域を遮光するガラスを設計する場合には、近赤外域の波長(例えば波長1100nm)においてODが高くなるように設定すればよい。近赤外域の波長(例えば波長1100nm)においてODが高くなるように設定するには、上記と同様に、例えば、Agの含有量を調整する、後述する還元雰囲気での熱処理において水素濃度、熱処理温度、熱処理時間を調整すればよい。
【0033】
(屈折率)
本実施形態に係るガラスにおいて、屈折率ndは特に制限されない。本実施形態では、用途に応じた屈折率ndを有するガラスを用いることができる。例えば、屈折率ndは1.4~2.15とすることができ、好ましくは1.5~1.85である。
【0034】
本実施形態に係るガラスでは、着色層を形成していない部分がスリットとして機能するように、ガラス両面の相対する部分にそれぞれ所定の間隔で複数の厚みの小さい着色層を設けることもできる。このとき、ガラスの屈折率を調整することで、スリット部分に入射する光線の入射角が大きい(光線が浅い角度で入射する)場合でも、ガラスの裏面に形成された着色層により光線が吸収されて光線が隣のスリットを透過しないようにでき、着色層をガラスの厚み方向全体に設けた場合と同じ効果を得ることができ、またスリットの間隔を狭くすることができる。なお、ガラスの屈折率が低すぎると、スリット部分に入射する光線の入射角が大きい場合に、光線が隣のスリットを透過して、着色層をガラスの厚み方向全体に設けた場合と同じ効果が得られないおそれがある。
【0035】
(アッベ数)
本実施形態に係るガラスにおいて、アッベ数νdは特に制限されない。本実施形態では、用途に応じたアッベ数νdを有するガラスを用いることができる。例えば、アッベ数νdは15~95とすることができ、好ましくは20~65である。
【0036】
(ガラス組成)
本実施形態に係るガラスの組成は、着色層がガラス成分としてAgを含む他は、特に制限されない。着色層は、後述する方法でガラスにAgを添加することで着色される。Agが添加される前の着色層となり得る部分(着色後は着色層となる部分)と非着色部とでは、ガラス組成は同じである。すなわち、着色層と非着色部とではAgの含有量が異なる。また、イオン交換によりガラスにAgを添加する場合には、Li、Na、およびKといったアルカリ金属の含有量も、着色層と非着色部とで異なる場合がある。
【0037】
着色層を形成する前のガラスは、Agの導入が容易な組成であることが好ましい。本実施形態において好ましいガラス組成をカチオン%基準で説明する。なお、着色層を形成する前のガラスとは、着色層を有するガラスにおいて、非着色部のガラスと同じ組成を有する。
【0038】
好ましいガラス組成において、Si4+の含有量の下限は、好ましくは10.0%であり、さらに13.0%、15.0%、18.0%、20.0%、25.0%、30.0%であってもよい。また、Si4+の含有量の上限は、好ましくは90.0%であり、さらに80.0%、70.0%、65.0%、60.0%であってもよい。ガラスネットワークフォーマーとして、比較的多量のSi4+を含むことで、ガラスへのAgの導入が容易になり、効率よく着色できる。
【0039】
したがって、好ましいガラス組成では、ネットワークフォーマーであるSi4+、B3+、P5+の合計含有量に対するSi4+の含有量の比[Si4+/(Si4++B3++P5+)]の下限は、好ましくは0.30であり、さらに0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.85であってもよい。
【0040】
ガラスがアルカリ金属イオンを含むことで、溶融塩イオン交換が容易になる。したがって、好ましいガラス組成において、Li+、Na+、K+の合計含有量(Li++Na++K+)の下限は、好ましくは5.0%であり、さらに10.0%、15.0%、20.0%、25.0%であってもよい。合計含有量(Li++Na++K+)の上限は、好ましくは50.0%であり、さらに好ましくは45.0%であってもよい。これらの金属イオンを含むことで、溶融塩イオン交換によるAgの導入が効率よく行われる。
【0041】
アルカリ金属イオンの中でも特にLi+、Na+を含むことで、溶融塩イオン交換が容易になる。したがって、好ましいガラス組成において、Li+、Na+の合計含有量(Li++Na+)の下限は、好ましくは5.0%であり、さらに10.0%、15.0%、20.0%、25.0%であってもよい。合計含有量(Li++Na+)の上限は、好ましくは50.0%であり、さらに好ましくは45.0%であってもよい。これらの金属イオンを含むことで、溶融塩イオン交換によるAgの導入が効率よく行われる。
【0042】
本実施形態では、ガラスは化学強化されていてもよい。ガラスを化学強化する場合には、ガラスは、ガラス成分として、アルカリ金属元素を含むことが好ましく、Li(リチウム)およびNa(ナトリウム)のいずれか一方または両方を含むことがより好ましい。
【0043】
化学強化の処理は、後述する着色層の形成と同時に行ってもよい。化学強化の方法は、特に制限されないが、例えばガラスを溶融塩に接触させる方法が挙げられる。ガラス転移温度Tgを超えない温度領域でイオン交換を行う、低温型イオン交換法により化学強化を行うことが好ましい。化学強化とは、溶融させた化学強化塩とガラスとを接触させることにより、化学強化塩中の相対的に大きな原子半径を有するアルカリ金属元素と、ガラス中の相対的に小さな原子半径を有するアルカリ金属元素とをイオン交換し、ガラスの表層に原子半径の大きなアルカリ金属元素を浸透させ、ガラスの表面に圧縮応力を生じさせる処理のことである。
【0044】
例えば、ガラス成分としてナトリウム(Na)を含むガラスを、加熱した硝酸カリウム(KNO3)の溶融塩中に浸漬すると、ガラスに含まれるナトリウムイオン(Na+)と、カリウムイオン(K+)とのイオン交換が起きる。
【0045】
カリウムイオン(K+)の大きさは、ナトリウムイオン(Na+)の大きさよりも大きい。そのため、イオン交換によってガラスの表面近傍には、圧縮応力が掛かった圧縮応力層が形成される。このように、表面近傍に圧縮応力層が形成される結果、ガラスの強度が増す。
【0046】
また例えば、ガラス成分としてリチウム(Li)を含むガラスの場合には、ガラスを硝酸ナトリウム(NaNO3)と硝酸カリウム(KNO3)との混合塩からなる溶融塩に浸漬することができる。この場合、ガラスの表面近傍のリチウムイオン(Li+)は、大きさがリチウムイオン(Li+)よりも大きいナトリウムイオン(Na+)およびカリウムイオン(K+)のいずれでイオン交換されてもよい。
【0047】
さらに、後述する着色層の形成においてガラスにAgを添加するときに、ガラスを硝酸銀(AgNO3)の溶融塩または硝酸銀(AgNO3)を含む混合塩からなる溶融塩に接触させる場合には、ガラスの表面近傍のリチウムイオン(Li+)が、大きさがリチウムイオン(Li+)よりも大きい銀イオン(Ag+)とイオン交換されてもよい。その結果、ガラスの表面近傍に圧縮応力層が形成されて、化学強化され得る。
【0048】
本実施形態に係るガラスは、Sbイオン、Asイオン、Snイオン、およびCeイオンからなる群から選択される1以上のガラス成分を含んでもよい。Sbイオン、Asイオン、Snイオン、およびCeイオンの合計含有量は、例えば0~1.00モル%とすることができる。ガラスがこれらのイオンを含むことで、ガラス全体に微細な気泡が残るのを防ぐことができる。
【0049】
なお、本実施形態において、Sbイオンとは、Sb3+の他、価数の異なる全てのSbイオンを含むものとする。Asイオンとは、As3+、As5+の他、価数の異なる全てのAsイオンを含むものとする。Snイオンとは、Sn4+の他、価数の異なる全てのSnイオンを含むものとする。Ceイオンとは、Ce4+の他、価数の異なる全てのCeイオンを含むものとする。
【0050】
(ガラスの製造)
本実施形態に係るガラスは、着色の無いガラスを調製し、そこに着色層を形成することで得られる。着色の無いガラスは、公知のガラス製造方法に従って作製すればよい。例えば、複数種の化合物を調合し、十分混合してバッチ原料とし、バッチ原料を熔融容器中に入れて熔融ガラスとし、この熔融ガラスを清澄、均質化した後に成形し、徐冷してガラスを得る。あるいは、バッチ原料を熔融容器中に入れて粗熔解(ラフメルト)する。粗熔解によって得られた熔融物を急冷、粉砕してカレットを作製する。さらにカレットを熔融容器中に入れて加熱、再熔融(リメルト)して熔融ガラスとし、この熔融ガラスを清澄、均質化した後に成形し、徐冷してガラスを得ることもできる。熔融ガラスの成形、徐冷には、公知の方法を適用すればよい。
【0051】
(着色層の形成)
着色層は、上記のようにして得られたガラスの着色層を形成したい部分にAgを添加し、ガラスを還元雰囲気において熱処理することで形成できる。
【0052】
ガラスの着色層を形成したい部分にAgを添加する方法は、特に制限されないが、例えばガラスを溶融塩に接触させる方法が挙げられる。溶融塩に接触させる際には、ガラス転移温度Tgを超えない温度領域でイオン交換を行う、低温型イオン交換法を採用することが好ましい。
【0053】
ガラスを溶融塩に接触させる方法として、以下に、ガラスを加熱した溶融塩に浸漬する方法を具体的に例示する。加熱した溶融塩には、硝酸銀(AgNO3)の溶融塩と、さらに硝酸カリウム(KNO3)および硝酸ナトリウム(NaNO3)のいずれか一方または両方の溶融塩とが含まれてよい。加熱した溶融塩における硝酸銀(AgNO3)の濃度は、好ましくは0.01~100モル%であり、より好ましくは0.03~100モル%であり、さらに好ましくは0.05~100モル%である。また、加熱した溶融塩において、硝酸カリウム(KNO3)の濃度は好ましくは0~99.99モル%であり、硝酸ナトリウム(NaNO3)の濃度は好ましくは0~99.99モル%である。
【0054】
上述のように、ガラスを加熱した溶融塩に接触させて着色層を形成する場合には、溶融塩に接触させるガラスはアルカリ金属を含むことが好ましい。溶融塩に含まれるAgは、ガラスに含まれるアルカリ金属とイオン交換されて、ガラス内に取り込まれる。したがって、溶融塩に接触させる前のガラスにおいて、アルカリ金属の含有量は10~40カチオン%であることが好ましい。アルカリ金属としては、Li+、Na+、およびK+が例示できる。
【0055】
溶融塩の温度は、特に制限されないが、ガラス転移温度Tgを超えない温度が好ましい。ガラスを溶融塩に接触させる時間も、特に制限されず、目的とする着色の程度、着色層の範囲、着色層の厚み等によって適宜調整できる。
【0056】
ガラスの着色層を形成したい部分にAgを添加する方法としては、上記溶融塩を用いる方法の他に、例えば、ガラスにAgを含むペーストを塗布する方法、ガラスにAgを含む薄膜を接触させる方法等が挙げられる。Agを含むペーストや薄膜を使用する場合には、必要に応じて熱処理をし、ガラスにAgを添加する。
【0057】
次に、上述のとおり着色層を形成したい部分にAgを添加したガラスを還元雰囲気において熱処理する。還元雰囲気は、還元力を有するガスを含んでいればよい。還元力を有するガスとしては、例えば水素が挙げられる。よって、還元雰囲気として純水素ガスまたは水素含有ガスを用いることが好ましく、水素を含有するフォーミングガスを用いてもよい。フォーミングガスとは、水素と窒素とからなる混合ガスであり、通常、水素を3~5体積%程度含む。
【0058】
熱処理では、ガラス転移温度Tgより300℃低い温度(Tg-300)以上、軟化点温度以下で加熱する。熱処理時間は、目的とする着色の程度、着色層の範囲、着色層の厚み等によって適宜調整できる。
【0059】
ガラスを還元雰囲気において熱処理することで、ガラス内のAgが存在する部分で優先的にガラス成分の還元反応が進行し、着色層が形成される。本実施形態によれば、Agの添加方法や還元雰囲気での熱処理条件を調整することで、ガラス表面から観察した場合に、ガラスのAgが添加された部分の形状と略同形状の着色層を形成できる。一方、Agが存在しない部分では、Agが存在する部分と比較して還元反応が進行しにくいので、着色が抑制される。その結果、Agが存在しない部分は、着色層を形成していない部分(非着色部)として、十分な透明性を有することができる。したがって、着色層と非着色部との透過率の差を十分に確保できる。
【0060】
上述のとおり、ガラスにAgを添加し、ガラスを還元雰囲気において熱処理して着色層を形成する場合には、着色層はガラス表面から内に向かって層状に形成される。例えば、板状のガラスの片面に着色層を形成した場合には、図1のように、着色層11と非着色部12とからなるガラス10が得られる。また、板状のガラスの両面に着色層を形成した場合には、図2のように、2つの着色層11に挟まれるように非着色部12を有するガラス10が得られる。
【0061】
(光学素子等の製造)
本実施形態に係るガラスは、そのまま光学ガラスとして用いることができる。そして、本実施形態に係る光学素子は、着色の無い光学素子を調製し、そこに着色層を形成することで得られる。着色の無い光学素子は、公知の製造方法に従って作製すればよい。例えば、熔融ガラスを鋳型に流し込んで板状に成形し、ガラス素材を作製する。得られたガラス素材を適宜、切断、研削、研磨し、プレス成形に適した大きさ、形状のカットピースを作製する。カットピースを加熱、軟化して、公知の方法でプレス成形(リヒートプレス)し、光学素子の形状に近似する光学素子ブランクを作製する。光学素子ブランクをアニールし、公知の方法で研削、研磨して光学素子を作製する。
【0062】
作成した光学素子に、上記方法により着色層を形成できる。また、光学素子を作製する途中の段階で着色層を形成してもよい。
【0063】
作製した光学素子の光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしてもよい。
【0064】
(用途)
本発明の一態様によれば、上記ガラスを含む光学素子を提供することができる。光学素子の種類としては、球面レンズ、非球面レンズ等のレンズ、プリズム等を例示することができる。レンズの形状としては、両凸レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、ロッドレンズ等の諸形状を例示することができる。光学素子は、上記ガラスから成形されたガラス成形体を加工する工程を含む方法により製造することができる。加工としては、切断、切削、粗研削、精研削、研磨等を例示することができる。
【0065】
光学素子の一例として、CCDやC-MOSセンサーのようなイメージセンサーの受光面に斜入射する光を遮光するための光学素子も示すことができる。従来、イメージセンサーの受光面に斜入射光を遮断するために、イメージセンサーのカバーガラス表面の斜入射光を遮断したい部分に黒色インクを塗布し、遮光性を持たせる方法が用いられている。この方法では、黒色インクが塗布されている部分と黒色インクが塗布されていない部分の境界において、黒色インクの表面で光の反射が生じ、迷光となってイメージセンサーの画質が低下するという問題がある。また、インクは温度が上昇すると脱ガスを生じ、カバーガラス表面の曇りの原因となる。これに対し、本実施形態のガラスを用い、斜入射光を遮りたい箇所に着色層を設け、カバーガラスとすることにより、迷光の問題や脱ガスによる曇りの問題を解消することができる。
【0066】
また、本実施形態に係るガラスは、カバーガラスに限定されず、着色層の形状によって光学センサー等の窓としての機能を有することも可能である。その他の光学素子の一例として、レンズの側面に着色層を設けた墨塗りレンズ、ガラス表面に精密な形状の着色層を施したガラス製エンコーダー、部分的透過性を有するスクリーンも挙げられる。ここで、ガラス製エンコーダーとは、光学式ロータリーエンコーダーの回転スリット板に代えて使用可能な円盤状のガラス板であり、回転スリット板のスリットに相当する箇所を非着色部、シャッタに相当する箇所を着色層とすることができる。すなわち、ガラス製エンコーダーでは、スリットに相当する非着色部とシャッタに相当する着色層との境界において、ODが連続的、段階的に変化する領域を有する。そのため、ガラス製エンコーダーに入射した光が、回折してスリットとシャッタとの境界にまで伝播したとしても、光はその境界で減衰される。その結果、回折した光が光学式ロータリーエンコーダーの光センサーに入射することが抑制され、エンコーダーの誤動作を防ぐことができる。なお、上記のような、着色層と非着色部との境界において光が減衰することにより得られる効果は、着色層がガラス表面から内に向かって層状に存在していれば得られる。
【0067】
本実施形態において、特に、ガラス製エンコーダーや部分的透過性を有するスクリーンを形成する場合、およびウェハ上に複数のレンズを形成する場合には、ガラスの所望の箇所にAgが存在するようにAgを添加すれば、還元雰囲気での熱処理で一括して着色層を形成し、その所望の箇所に遮光性を持たせることができる。
【0068】
本実施形態に係るガラスは、そのまま光学ガラスとして用いることができるが、本発明は光学ガラスに限定されるものではない。本発明の一態様によれば、着色層を任意の位置に形成できるから、着色層による装飾性を活かして、上記ガラスを含むガラス物品を提供することができる。ガラス物品としては、特に限定されないが、食器や文房具等の日用品、仏具、装飾品、宝飾品、芸術品、小型電子機器の外装等が例示できる。本実施形態に係るガラス物品は、着色層により、所望の図、文字、絵柄、および模様を有することができる。ここで、従来の場合、すなわち、物品表面に膜を形成して、所望の形状の絵柄等を施す場合には、物品表面の膜が剥離する、膜の色みが変化するといった問題が生じやすい。一方、本実施形態において、着色層はガラスの表面から内に向かって層状に存在する。つまり、ガラス自体が着色する。そのため、着色層は剥離することはなく、また着色層の色みは変化しにくい。すなわち、本実施形態によれば、絵柄等の剥離や色みの変化といった問題の生じない、ガラス物品を提供することができる。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
表1に示すガラス組成I、組成II、組成III、組成IVを有するガラスサンプルを以下の手順で作製し、各種評価を行った。
【0071】
【表1】
【0072】
[ガラスの製造]
ガラスの構成成分に対応する酸化物、水酸化物、炭酸塩、および硝酸塩を原材料として準備し、得られるガラスの組成が、表1に示す各組成となるように上記原材料を秤量、調合して、原材料を十分に混合した。得られた調合原料(バッチ原料)を、白金坩堝に投入し、1000~1550℃で2~3時間加熱して熔融ガラスとした。熔融ガラスを攪拌して均質化を図り、清澄してから、熔融ガラスを適当な温度に予熱した金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを、ガラス転移温度Tg付近で1時間程度熱処理し、炉内で室温まで放冷した。組成I、組成IIおよび組成IVを有するガラスは厚さ1.0mmの板状に加工し、組成IIIを有するガラスは厚さ3.0mmの板状に加工して、いずれも2つ面を精密研磨(光学研磨)し、ガラスサンプルを得た。
【0073】
[ガラス成分組成の確認]
得られたガラスサンプルについて、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で各ガラス成分の含有量を測定し、表1に示す各組成のとおりであることを確認した。
【0074】
[光学特性の測定]
得られたガラスサンプルについて、屈折率nd、アッベ数νd、ガラス転移温度Tg、および比重を測定した。結果を表1に示す。なお、ガラスサンプルの屈折率nd、アッベ数νd、ガラス転移温度Tg、および比重は、いずれも着色層の形成後の数値と同程度であり、表1に示す有効数字で示される数値の範囲内であった。
【0075】
(i)屈折率ndおよびアッベ数νd
JIS規格 JIS B 7071-1の屈折率測定法により、屈折率nd、ng、nF、nCを測定し、式(1)に基づきアッベ数νdを算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC) ・・・(1)
【0076】
(ii)ガラス転移温度Tg
ガラス転移温度Tgは、MACサイエンス社製の熱機械分析装置(TMA4000S)を使用し、昇温速度4℃/分にて測定した。
【0077】
(iii)比重
比重は、アルキメデス法により測定した。
【0078】
(実施例1-1)
[着色層の形成]
組成Iを有するガラスサンプルを、溶融塩に400℃で4時間浸漬した。各実施例で使用した溶融塩における、硝酸銀(AgNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、および硝酸ナトリウム(NaNO3)の各濃度は、表2に示すとおりである。なお、実施例2-3では銀ペーストにより着色層を形成した。
【0079】
【表2】
【0080】
上記溶融塩に浸漬したガラスサンプルを、還元雰囲気として純水素雰囲気で、450℃で5時間熱処理した。
【0081】
ガラスサンプルの溶融塩に接触させた部分に着色層が形成された。すなわち、ガラスサンプルの外縁に着色層を有し、その内側に非着色部を有するガラスサンプルを得た。
【0082】
[着色層におけるAgの確認]
得られたガラスサンプルの着色層について、走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)により、着色層表面からAgの有無を調べた。その結果、得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれることが確認された。
【0083】
[着色層のAg量]
得られたガラスサンプルについて、走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)により、着色層の厚さ方向でのAg量の変化を調べた。結果を図5(2)に示す。図5(2)では、グラフの右端がガラスサンプルの表面であり、グラフで左に進むにしたがって(すなわち、矢印の方向に進むにしたがって)ガラスサンプルの厚さ方向への深度が大きくなる。得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれること、および着色層の厚さ方向でAg量が変化することが確認された。また、得られたガラスサンプルの断面のSEM画像を図5(3)に示す。図5(3)では、ガラスサンプルは白色から灰色に写っている。図5(3)において、着色層はAgを含みガラス内部の非着色部よりも比重が大きいため、より白く観察される。
【0084】
また、得られたサンプルについて、リガク製蛍光X線分析(XRF)装置(ZSX Primus)を使用して、ファンダメンタルパラメーター法にて着色層のAg濃度を測定した。LiとBを含むガラスに関してはLi2OとB23量を仕込み量と見なして計算している。結果を表3に示す。
【0085】
[透過率の測定]
ガラスサンプルの着色層を有する部分について、波長300nm~1500nmの範囲における外部透過率を測定した。外部透過率は、ガラスサンプルの厚み方向に光を入射したときの、入射光強度に対する透過光強度の百分率[透過光強度/入射光強度×100]で定義される。なお、外部透過率には試料表面における光線の反射損失も含まれる。着色層を有する部分についての透過率を図3に示す。また、表3に可視光領域での透過率の最大値をまとめた。
【0086】
[ODの測定]
ガラスサンプルの着色層を有する部分について、波長780nmおよび1100nmにおける入射光強度I0および透過光強度Iを測定し、下記式によりOD(光学密度)を算出した。結果を表3に示す。
OD=-log10(I/I0
【0087】
(実施例1-2)
溶融塩に浸漬したガラスサンプルを、還元雰囲気としてフォーミングガス(水素3体積%、窒素97体積%)を30mL/minの流量で供給しながら450℃で5時間熱処理した以外は、実施例1-1と同様に着色層を形成し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。実施例1-1と同様に、着色層におけるAgの有無を確認し、得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれることが確認された。また、実施例1-1と同様に、透過率およびODを測定した。着色層を有する部分についての透過率を図4(1)に示し、非着色部についての透過率を図4(2)に示す。OD、可視光領域での透過率の最大値および着色層のAg濃度を表3に示す。
【0088】
(実施例2-1)
組成IIを有するガラスサンプルを、硝酸銀(AgNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、および硝酸ナトリウム(NaNO3)の各濃度が表2に示すとおりである溶融塩に浸漬し、還元雰囲気として純水素雰囲気で、470℃で5時間熱処理した以外は、実施例1-1と同様に着色層を形成し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。実施例1-1と同様に、透過率およびODを測定した。着色層を有する部分についての透過率を図5(1)に示す。OD、可視光領域での透過率の最大値および着色層のAg濃度を表3に示す。
【0089】
(実施例2-2)
組成IIを有するガラスサンプルを、硝酸銀(AgNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、および硝酸ナトリウム(NaNO3)の各濃度が表2に示すとおりである溶融塩に浸漬した以外は、実施例2-1と同様に着色層を形成し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。実施例2-1と同様に、着色層のAg量、透過率およびODを測定した。着色層を有する部分についての透過率を図6(1)に示す。OD、可視光領域での透過率の最大値および着色層のAg濃度を表3に示す。着色層の厚さ方向でのAg量の変化を図6(2)に示す。得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれること、および着色層の厚さ方向でAg量が変化することが確認された。また、得られたガラスサンプルの断面のSEM画像を図6(3)に示す。
【0090】
(実施例2-3)
組成IIを有するガラスサンプルの表面の一部に銀ペーストを塗布し、真空下400で12時間熱処理し、サンプル中にAgを導入した。次いでガラスサンプルを、還元雰囲気として純水素雰囲気で、471℃で5時間熱処理し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。実施例1-1と同様に、着色層におけるAgの有無を確認し、得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれることが確認された。着色層を有する部分についての透過率を図7(1)に示す。非着色部の透過率を図7(2)に示す。OD、可視光領域での透過率の最大値および着色層のAg濃度を表3に示す。
【0091】
(実施例2-4)
組成IIを有するガラスサンプルを、硝酸銀(AgNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、および硝酸ナトリウム(NaNO3)の各濃度が表2に示すとおりである溶融塩に400℃で4時間浸漬し、サンプル中にAgを導入した。次いでガラスサンプルを、還元雰囲気として純水素雰囲気で、471℃で5時間熱処理し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。実施例1-1と同様に、着色層におけるAgの有無を確認し、得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれることが確認された。着色層を有する部分についての透過率を図8(1)に示す。非着色部の透過率を図8(2)に示す。OD、可視光領域での透過率の最大値および着色層のAg濃度を表3に示す。
【0092】
(実施例3-1)
組成IIIを有するガラスサンプルを、硝酸銀(AgNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、および硝酸ナトリウム(NaNO3)の各濃度が表2に示すとおりである溶融塩に浸漬し、還元雰囲気として純水素雰囲気で、500℃で5時間熱処理した以外は、実施例1-1と同様に着色層を形成し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。実施例1-1と同様に、着色層におけるAgの有無を確認し、得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれることが確認された。また、実施例1-1と同様に、透過率およびODを測定した。着色層を有する部分についての透過率を図9に示す。OD、可視光領域での透過率の最大値および着色層のAg濃度を表3に示す。
【0093】
(実施例3-2)
組成IIIを有するガラスサンプルを、硝酸銀(AgNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、および硝酸ナトリウム(NaNO3)の各濃度が表2に示すとおりである溶融塩に浸漬した以外は、実施例3-1と同様に着色層を形成し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。実施例2-1と同様に、着色層のAg量、透過率およびODを測定した。着色層を有する部分についての透過率を図10(1)に示す。OD、可視光領域での透過率の最大値および着色層のAg濃度を表3に示す。着色層の厚さ方向でのAg量の変化を図10(2)に示す。得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれること、および着色層の厚さ方向でAg量が変化することが確認された。
【0094】
(実施例3-3)
組成IIIを有するガラスサンプルを、硝酸銀(AgNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、および硝酸ナトリウム(NaNO3)の各濃度が表2に示すとおりである溶融塩に浸漬した以外は、実施例3-1と同様に着色層を形成し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。実施例2-1と同様に、着色層のAg量および透過率を測定した。着色層を有する部分についての透過率を図11(1)に示す。着色層の厚さ方向でのAg量の変化を図11(2)に示す。得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれること、および着色層の厚さ方向でAg量が変化することが確認された。また、得られたガラスサンプルの断面のSEM画像を図11(3)に示す。
【0095】
(実施例4)
組成IVを有するガラスサンプルを、硝酸銀(AgNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、および硝酸ナトリウム(NaNO3)の各濃度が表2に示すとおりである溶融塩に400℃で4時間浸漬し、サンプル中にAgを導入した。実施例1-1と同様に、着色層におけるAgの有無を確認し、得られたガラスサンプルの着色層にはAgが含まれることが確認された。次いでガラスサンプルを、還元雰囲気として純水素雰囲気で、591℃で5時間熱処理し、着色層および非着色部を有するガラスサンプルを得た。着色層を有する部分についての透過率を図12(1)に示す。非着色部の透過率を図12(2)に示す。OD、可視光領域での透過率の最大値および着色層のAg濃度を表3に示す。
【0096】
【表3】
図1
図2
図3
図4(1)】
図4(2)】
図5(1)】
図5(2)】
図5(3)】
図6(1)】
図6(2)】
図6(3)】
図7(1)】
図7(2)】
図8(1)】
図8(2)】
図9
図10(1)】
図10(2)】
図11(1)】
図11(2)】
図11(3)】
図12(1)】
図12(2)】