(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079634
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物及び徐溶性農業用薬剤
(51)【国際特許分類】
C05G 5/30 20200101AFI20240604BHJP
【FI】
C05G5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201241
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022191241
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】喜多 藍
(72)【発明者】
【氏名】和田 全展
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智恵
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061BB15
4H061DD06
4H061DD18
4H061EE25
4H061EE27
4H061EE35
4H061EE43
4H061FF15
4H061GG15
4H061GG18
4H061GG19
4H061GG20
4H061GG28
4H061GG43
4H061GG46
4H061HH03
4H061LL02
4H061LL26
4H061LL30
(57)【要約】
【課題】被覆層の生分解性と薬剤の徐溶性のコントロールを高いレベルで両立し、かつ優れた耐衝撃性、固着防止性及び流動性を有する徐溶性農業用薬剤を与えることができる徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物を提供すること。
【解決手段】
エステル基含有熱可塑性樹脂(A)と添加剤(B)とを含有する徐溶性肥料用被覆材組成物であり、(B)がエステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)とカルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)とを含有し、(B)における(B1)と(B2)の合計重量に対する(B2)の含有量[(B2)/{(B1)+(B2)}]が0.05~98重量%であり、(B)が更に徐溶性調整剤(B3)を含有し、(B)における(B1)と(B2)の合計重量と(B3)との重量比[{(B1)+(B2)}/(B3)]が2/98~80/20である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル基含有熱可塑性樹脂(A)と添加剤(B)とを含有する徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物であり、下記(1)~(8)のすべてを満たす徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物:
(1)前記被覆材組成物中の前記(A)と前記(B)の重量比[(A)/(B)]が30/70~90/10である;
(2)前記(A)のガラス転移温度が-70℃を超え70℃未満である;
(3)前記(A)が、相対結晶化度が40%未満の樹脂、又は相対結晶化度が40%以上かつ結晶化温度が110℃以下の樹脂である;
(4)前記(A)の溶解性パラメータ(SPA)が9.1~11.5(cal/cm3)1/2である;
(5)前記(B)がエステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)とカルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)とを含有し、前記(B)における前記(B1)と(B2)の合計重量に対する(B2)の含有量[(B2)/{(B1)+(B2)}]が0.05~98重量%である;
(6)前記(B1)の溶解性パラメータ(SPB1)と前記(B2)の溶解性パラメータ(SPB2)の加重平均値(SPB1B2)が8.5~10.5(cal/cm3)1/2である;
(7)前記(B)が更に徐溶性調整剤(B3)を含有し、前記(B)における前記(B1)と(B2)の合計重量と前記(B3)との重量比[{(B1)+(B2)}/(B3)]が2/98~80/20である;
(8)前記(B3)が、クレイの層間陽イオンを有機オニウムイオンでイオン交換されてなる有機化クレイである。
【請求項2】
前記(A)の溶解性パラメータ(SPA)と前記加重平均値(SPB1B2)の差[SPA-SPB1B2]が0~2.5(cal/cm3)1/2である請求項1に記載の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物。
【請求項3】
前記分散剤(B1)の融点が60~100℃である請求項1に記載の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物。
【請求項4】
1以上の被覆層で農業用薬剤(C)の表面の少なくとも一部が被覆されてなる徐溶性農業用薬剤であり、前記1以上の被覆層に、請求項1~3のいずれか1項に記載の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物からなる被覆層(L)が少なくとも1層含まれる徐溶性農業用薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物及び徐溶性農業用薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、農業、食品添加物、化粧品、衛生用品等の分野において、有効成分を徐放する徐溶性薬剤は省力化や効果の持続性の観点から非常に有用であり、幅広く使用されている。その中で、徐溶性農業用薬剤(徐溶性を有する肥料、農薬及び害生物防除剤等)としては、農業用薬剤にコーティングを施すことにより徐溶性をもたせたものが多く提案・使用されている。徐溶性農業用薬剤に使用されるコーティング剤としては、薬剤の徐溶性のコントロールと機械的強度を両立すべく熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とタルク等の無機フィラーとを含有するものが提案されてきた。さらに近年、有効成分が放出された後の被膜殻が河川や海洋等に流出してプラスチックゴミになることが問題視され、環境保護の観点から、コーティング剤(被膜、あるいは被覆層ともいう)への生分解性付与が求められるようになっている。
【0003】
徐溶性農業用薬剤の被覆層に生分解性を付与する方法としては、ポリオレフィン樹脂に光分解性を有する金属錯体を添加する方法(特許文献1)、ポリオレフィン樹脂に炭素-炭素二重結合を少なくとも1個有する自動酸化性化合物と糖重合体等の生分解性粉体とを添加する方法(特許文献2)等が提案されている。しかしながら、これらの方法では被覆層の崩壊は促進されるものの、ポリオレフィン樹脂自体が生分解するわけではなく環境中に残存し続けるという問題があった。
生分解性が高い徐溶性農業用薬剤の被覆層として、天然ゴムや生分解性ポリエステル等の生分解性材料を主成分とする被覆層も提案されているが(例えば特許文献3、4及び5)、生分解性材料を主成分とする被覆層では薬剤の徐溶性のコントロールが難しく、薬剤の溶出が速くなりすぎるという問題があり、得られる徐溶性農業用薬剤粒子の耐衝撃性についても十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-201786号公報
【特許文献2】特許第3309325号
【特許文献3】特公平2-23517号公報
【特許文献4】特開平7-33577号公報
【特許文献5】特開2002-284594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願出願人は、従来技術における課題であった被覆層の生分解性と薬剤の徐溶性のコントロールを高いレベルで両立し、かつ優れた耐衝撃性を有する徐溶性農業用薬剤を与えることができる徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物を検討したところ、これらの課題の解決を試みた場合に、徐溶性農業用薬剤の保管時等に固着が発生したり、流動性の低下によるハンドリング性(施薬性等)の悪化が起こることがあるという新たな課題を見出した。
よって、本発明の課題は、被覆層の生分解性と薬剤の徐溶性のコントロールを高いレベルで両立し、かつ優れた耐衝撃性、固着防止性及び流動性を有する徐溶性農業用薬剤を与えることができる徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、エステル基含有熱可塑性樹脂(A)と添加剤(B)とを含有する徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物であり、下記(1)~(8)のすべてを満たす徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物である。
(1)前記被覆材組成物中の前記(A)と前記(B)の重量比[(A)/(B)]が30/70~90/10である;
(2)前記(A)のガラス転移温度が-70℃を超え70℃未満である;
(3)前記(A)が、相対結晶化度が40%未満の樹脂、又は相対結晶化度が40%以上かつ結晶化温度が110℃以下の樹脂である;
(4)前記(A)の溶解性パラメータ(SPA)が9.1~11.5(cal/cm3)1/2である;
(5)前記(B)がエステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)とカルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)とを含有し、前記(B)における前記(B1)と(B2)の合計重量に対する(B2)の含有量[(B2)/{(B1)+(B2)}]が0.05~98重量%である;
(6)前記(B1)の溶解性パラメータ(SPB1)と前記(B2)の溶解性パラメータ(SPB2)の加重平均値(SPB1B2)が8.5~10.5(cal/cm3)1/2である;
(7)前記(B)が更に徐溶性調整剤(B3)を含有し、前記(B)における前記(B1)と(B2)の合計重量と前記(B3)との重量比[{(B1)+(B2)}/(B3)]が2/98~80/20である;
(8)前記(B3)が、クレイの層間陽イオンを有機オニウムイオンでイオン交換されてなる有機化クレイである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、被覆層の生分解性と薬剤の徐溶性のコントロールを高いレベルで両立し、かつ優れた耐衝撃性、固着防止性及び流動性を有する徐溶性農業用薬剤を与えることができるという効果を奏する。
なお、本発明において「薬剤の徐溶性のコントロールに優れる」とは、薬剤の溶出速度を所望の範囲に調整可能であることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、エステル基含有熱可塑性樹脂(A)と添加剤(B)とを含有する徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物であり、添加剤(B)がエステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)、カルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)及び徐溶性調整剤(B3)を含有し、かつ上記(1)~(8)をすべて満たす。エステル基含有熱可塑性樹脂(A)、添加剤(B)、分散剤(B1)、生分解性調整剤(B2)、徐溶性調整剤(B3)及び本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物について順に説明する。
【0009】
<エステル基含有熱可塑性樹脂(A)>
エステル基含有熱可塑性樹脂(A)は、分子内に1つ以上のエステル基を有する熱可塑性樹脂であり、被覆層の生分解性の観点から、脂肪族ポリエステル樹脂(A1)及び脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(A2)が好適に使用できる。
なお、例示した(A1)及び(A2)のすべてが本発明におけるエステル基含有熱可塑性樹脂(A)として使用できるわけでなく、別途後述のガラス転移温度、相対結晶化度及び必要により結晶化温度、並びに溶解性パラメータ(SPA)の要件を満たす必要がある。ただし、(A)は1種単独で用いても2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、混合物として各要件を満たしていればよい。
【0010】
脂肪族ポリエステル樹脂(A1)としては、ポリヒドロキシアルカン酸(A11)、ロジンエステル樹脂(A12)及び脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸類の重縮合体(A13)等が挙げられる。
【0011】
ポリヒドロキシアルカン酸(A11)としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)及びポリカプロラクトン(PCL)等が挙げられる。
ロジンエステル樹脂(A12)としては、ロジン類をエステル化したロジンエステル及びロジン類に水素添加しエステル化した水素化ロジンエステル等が挙げられる。
【0012】
脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸類の重縮合体(A13)としては、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)や、炭素数2~6の脂肪族ジオールと炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)3~8の脂肪族ジカルボン酸及びこれらのエステル形成性誘導体(酸無水物、低級アルキルエステル、酸ハライド等)との重縮合体等が挙げられる。
炭素数2~6の脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ジメチルプロパンジオール、ペンタンジオール及びヘキサンジオール等が挙げられる。
炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)3~8の脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。
【0013】
脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(A2)としては、上記脂肪族ポリエステル樹脂(A1)の原料の一部が芳香族化合物に置き換えられたものであり、好ましくは上記脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸類の重縮合体(A13)の脂肪族ジカルボン酸類の一部が芳香族ジカルボン酸類に置き換えられた、脂肪族ポリオールと芳香族ジカルボン酸類と脂肪族ジカルボン酸類とを構成単位とするポリエステル樹脂である。
芳香族ジカルボン酸としては、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)8~10の芳香族ジカルボン酸(例えばフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、ジメチルイソフタル酸、テレフタル酸及びジメチルテレフタル酸)等が挙げられる。
(A2)の具体例としては、ポリブチレンアジペート/テレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート(PBST)、及びポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)等が挙げられる。
【0014】
本発明におけるエステル基含有熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度は、-70℃を超え70℃未満である。-70℃以下であると成形性及び固着防止性が悪くなり、70℃以上であると被覆材組成物の生分解性が悪くなる。ガラス転移温度は、-70℃を超え25℃以下であることが好ましく、-70℃を超え10℃以下であることが更に好ましい。
なお、本発明における(A)のガラス転移温度(℃)は、下記方法で測定・算出した値である。
【0015】
<ガラス転移温度の測定・算出方法>
DSC測定装置を用いて、JIS K7121に準拠して、試料(A)約10mgを、窒素ガス流量50mL/分の条件下、20℃から20℃/分の速度で200℃まで昇温[1次昇温]し、200℃に到達後3分間保持した後、20℃/分の速度で-100℃まで降温する。次いで、-100℃から20℃/分の速度で200℃まで昇温[2次昇温]を行なう。2次昇温時に描かれたDSC曲線の低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である補外ガラス転移開始温度(Tig)(℃)を、本発明におけるガラス転移温度(℃)とする。
【0016】
本発明におけるエステル基含有熱可塑性樹脂(A)は、相対結晶化度が40%未満の樹脂、又は相対結晶化度が40%以上かつ結晶化温度110℃以下の樹脂である。相対結晶化度40%以上かつ結晶化温度が110℃超の樹脂であると、被覆層の生分解性が悪化する。(A)の相対結晶化度が40%以上である場合、被覆材組成物の生分解性の観点から、(A)の結晶化温度は90℃以下であることが好ましく、75℃以下であることが更に好ましい。
なお、本発明における(A)の相対結晶化度(%)とは、樹脂全体の重量に対する結晶部分の重量が占める割合を意味し、下記方法で測定・算出した値である。
また、本発明における(A)の結晶化温度(℃)は下記方法で測定した値である。
【0017】
<相対結晶化度の測定・算出方法>
DSC測定装置を用いて、試料(A)約10mgを、窒素ガス流量50mL/分の条件下、20℃から10℃/分の速度で210℃まで昇温[1次昇温]し、210℃に到達後3分間保持した後、20℃/分の速度で-100℃まで降温する。次いで、-100℃から10℃/分の速度で200℃まで昇温[2次昇温]を行なう。降温時に描かれたDSC曲線における樹脂の結晶化時の発熱ピーク面積と2次昇温時に描かれたDSC曲線における樹脂の結晶融解時の吸熱ピーク面積から、それぞれ結晶化熱量ΔHcと結晶融解熱量ΔHmを得る。ΔHcの絶対値とΔHmの絶対値を用いて、次式から相対結晶化度(%)を算出する。
相対結晶化度(%)={(|ΔHm|-|ΔHc|)/ΔHm}×100
【0018】
<結晶化温度の測定方法>
DSC測定装置を用いて、JIS K7121に準拠して、試料(A)10mgを、窒素ガス流量50mL/分の条件下、30℃から20℃/分の昇温速度で200℃まで昇温し、200℃に到達後3分間保持した後、200℃から20℃/分の降温速度で30℃まで降温したときの、結晶化ピークの頂点の温度である結晶化ピーク温度(Tpc)を、本発明における結晶化温度(℃)とする。
【0019】
本発明におけるエステル基含有熱可塑性樹脂(A)溶解性パラメータ(SPA)は、9.1~11.5(cal/cm3)1/2であり、好ましくは9.1~11.1(cal/cm3)1/2である。9.1(cal/cm3)1/2未満又は11.5(cal/cm3)1/2超であると、(A)中での添加剤(B)の分散性が悪化し、徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物及び徐溶性農業用薬剤の各種物性が低下する。
なお、本発明における溶解性パラメータ{後述する(A)以外の成分の溶解性パラメータ(SP値ともいう)も同様}は、Fedorsによる方法[Polymer Engineering and Science,February,1974,Vol.14、No.2、P147~154]の152頁(Table.5)に記載の数値(原子又は官能基の25℃における蒸発熱及びモル体積)を用いて、同153頁の数式(28)により算出される値を意味する。
【0020】
本発明におけるエステル基含有熱可塑性樹脂(A)のエステル基濃度は、被覆材組成物の生分解性及び透湿度等の観点から、(A)の重量に基づいて0.1g/g以上0.6g/g以下であることが好ましい。
なお、(A)のエステル基濃度(g/g)は、(A)中のエステル基[-C(=O)O-]の数から算出することができ、(A)1g中に存在するエステル基の重量(g)と定義される。実際のエステル基濃度(g/g)は、(A)の赤外線分光分析(IR)を測定し、エステル基に由来するピークの強度と、エステル基濃度が既知のサンプルを用いて作成した検量線(ピーク強度とエステル基濃度との関係をプロットしたもの)を用いて算出することができる。あるいは、(A)及び(A)と同重量程度のイオン交換水をオートクレーブに入れ、180℃で6時間反応させて(A)中のエステル基を加水分解させた後、反応後の(A)の酸価と水酸基価を測定して、酸価と水酸基価をもとに(A)中のエステル基濃度を算出する方法で求めることもできる。また、(A)の製造に供した原料の量比から(A)中に存在するエステル基[-C(=O)O-]の数を求めて、(A)のエステル基濃度(g/g)を算出してもよい。
【0021】
本発明におけるエステル基含有熱可塑性樹脂(A)は生分解性を有する樹脂であり、環境中の水分により分子中のエステル結合が加水分解され低分子化した後、更に微生物分解、酵素分解又は生物による摂食が可能な樹脂であり、最終的に水と二酸化炭素とに分解可能な樹脂であることが好ましい。
【0022】
<添加剤(B)>
本発明における添加剤(B)は、エステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)と、カルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)と、徐溶性調整剤(B3)とを必須成分として含有する。
【0023】
エステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)としては、エステル化合物(B11)、ウレタン化合物(B12)及びアミド化合物(B13)が挙げられる。
【0024】
エステル化合物(B11)としては、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)2~34のカルボン酸と炭素数1~36のアルコールとの1価又は多価(2~4価)のエステル化合物が好ましい。
炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)2~34のカルボン酸としては、特に炭素数10~28の脂肪酸が好ましく、具体例としてはカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、セバシン酸及びモンタン酸等が挙げられる。
芳香族カルボン酸としては、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)7~10の芳香族カルボン酸が好ましく、具体的には安息香酸、フタル酸、テレフタル酸及びサリチル酸等が挙げられる。
炭素数1~36のアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ゲジルアルコール、オレイルアルコール等の1価の脂肪族アルコール;グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ドデカンジオール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価の脂肪族アルコール等が挙げられる。
(B11)のうち、被覆材組成物の生分解性の観点から、脂肪酸と脂肪族アルコールのエステルが好ましい。
【0025】
ウレタン化合物(B12)としては、炭素数(イソシアネート基の炭素を含む)4~22のイソシアネート化合物と炭素数1~50のアルコールとの1価または多価(2~4価)の反応物であるウレタン化合物が好ましい。
炭素数(イソシアネート基の炭素を含む)4~22のイソシアネート化合物としては、シクロヘキシルイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート又はこれらの混合物(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)(H12MDI)等が挙げられる。これらのうち、生分解性及び取り扱い性の観点から好ましいのは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)である。
炭素数1~50のアルコールとしては、炭素数5~36のものが好ましく、具体例としては、ペンチルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ゲジルアルコール、オレイルアルコール等の1価の脂肪族アルコール;グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ドデカンジオール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価の脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0026】
アミド化合物(B13)としては、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)2~34のカルボン酸と炭素数1~34のアミン化合物との1価または多価(2~4価)の反応物であるアミド化合物が好ましい。
炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)2~34のカルボン酸としては、特に炭素数10~24の脂肪酸が好ましく、ベヘン酸、デカン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸及び1,18-オクタデカンジカルボン酸)}などが挙げられる。
炭素数1~34のアミン化合物としては、炭素数4~20の脂肪族ジアミンが好ましく、ヘキサメチレンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられる。また、脂肪族アミド化合物の混合物及び動植物油脂脂肪酸アミド等を用いてもよい。
これらの分散剤(B1)は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。被覆材組成物の生分解性の観点から好ましいのは、エステル化合物(B11)である。
【0027】
分散剤(B1)の融点は、後述の徐溶性調整剤(B3)の(A)中での分散性向上による被覆材組成物の透湿度低減、徐溶性農業用薬剤の固着防止性及び流動性向上の観点から、60~100℃であることが好ましい。
なお(B1)を、(B1)と(B2)を含む混合物である後述の脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)として含有してもよい。脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)を使用する場合、(B1)のみでの融点は測定できないが、脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)の融点が後述の好ましい範囲内であると、同様に好ましい。
なお、本発明における(B1)の融点(℃)は、DSC測定装置を用いて、JIS K7121に準拠して、試料(A)約10mgを、窒素ガス流量50mL/分の条件下、20℃から20℃/分の速度で200℃まで昇温[1次昇温]し、200℃に到達後3分間保持した後、20℃/分の速度で-100℃まで降温する。次いで、-100℃から20℃/分の速度で200℃まで昇温[2次昇温]を行なう。2次昇温時の溶融ピークの頂点の温度である融解ピーク温度(Tpm)を、本発明における(B1)の融点(℃)とする。後述の(B2)及び(B4)の融点(℃)も同様に測定できる。
【0028】
分散剤(B1)の溶解性パラメータ(SPB1)は、被覆材組成物の生分解性の観点から、8.5~10.5(cal/cm3)1/2であることが好ましく、8.6~10.0(cal/cm3)1/2であることが更に好ましい。
【0029】
分散剤(B1)の数平均分子量(Mn)は、固着防止性及び薬剤の徐溶性コントロールの観点から400~1500であることが好ましく、更に好ましくは450~1450である。
上述のとおり、(B1)は(B1)と(B2)を含む混合物である後述の脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)として添加してもよい。脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)を使用する場合、(B4)のMnが400~1500であることが好ましく、更に好ましくは450~1450である。
ここで分散剤(B1)の数平均分子量(Mn)について、例えば、製造例2に記載のベヘニルアルコール及びセバシン酸を原料とする分散剤は分子量を理論上は計算することもできるが、実際は原料の炭素数に若干分布があったり、若干のモノエステルが生成したりすることも考えられる、つまり、単一化合物でなく混合物の可能性もある。そのため、分子量を理論上計算することができる場合も、数平均分子量を採用している。ただし、数平均分子量を分子量と読み替えることを制限するものではない。
【0030】
なお、本発明における数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、例えば以下の条件で測定することができる。
装置:「HLC-8120GPC」[東ソー(株)製]
カラム:「Guardcolumn HXL-H」(1本)、「TSKgel GMHXL」(2本)[いずれも東ソー(株)製]
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:100μL
流量:1mL/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン
【0031】
本発明においてカルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)は、前記(A)の加水分解を促進し、被覆材組成物の生分解性を向上させる目的で含有される。
カルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)としては、カルボキシル基を有する化合物であれば特に限定されないが、高級脂肪酸が好適に使用できる。
高級脂肪酸としては、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)10~34、更に好ましくは炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)10~28の飽和又は不飽和脂肪酸であり、具体例としては、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸及びリグノセリン酸等の飽和脂肪酸や、リンデル酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸及びモンタン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。高級脂肪酸は、牛脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、ひまし硬化脂肪酸等の混合脂肪酸である天然油脂脂肪酸であってもよい。
(B2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
カルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)の溶解性パラメータ(SPB2)は、被覆材組成物の生分解性の観点から、8.5~9.6(cal/cm3)1/2であることが好ましい。
【0033】
前記(B1)の溶解性パラメータ(SPB1)と前記(B2)の溶解性パラメータ(SPB2)の加重平均値(SPB1B2)は、8.5~10.5(cal/cm3)1/2であり、8.6~10.0(cal/cm3)1/2の範囲であることが好ましい。8.5(cal/cm3)1/2未満又は10.5(cal/cm3)1/2超であると、後述の徐溶性調整剤(B3)の(A)中での分散性が低下し、被覆材組成物の透湿度、徐溶性農業用薬剤の固着防止性及び流動性が悪化することがある。
また、徐溶性調整剤(B3)の(A)中での分散性の観点からは、前記(A)の溶解性パラメータ(SPA)と前記加重平均値(SPB1B2)の差[SPA-SPB1B2]が0~2.5(cal/cm3)1/2であることが好ましい。
前記(B1)の溶解性パラメータ(SPB1)と前記(B2)の溶解性パラメータ(SPB2)の加重平均値(SPB1B2)とは、(B1)の溶解性パラメータ(SPB1)と(B2)の溶解性パラメータ(SPB2)を、(B)中の(B1)と(B2)の重量比率に基づいて加重平均した値である。
上述のとおり、(B1)は、(B1)と(B2)の混合物である後述の脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)として添加してもよい。脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)を使用する場合、(B4)の組成情報又はガスクロマトグラフィー分析等により求めた(B4)に含まれる(B1)及び(B2)の重量比率を用いて、前記加重平均値(SPB1B2)を算出できる。
【0034】
カルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)の融点は、被覆材組成物の溶融粘度あるいは溶液粘度を適度に調整し、後述の徐溶性調整剤(B3)の(A)中での分散性向上及び(B3)による被覆材組成物の透湿度低減、徐溶性農業用薬剤の固着防止性及び流動性等の効果を向上させる観点から、100℃以下であることが好ましい。
なお(B2)は、(B1)と(B2)の混合物である後述の脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)として添加してもよい。脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)を使用する場合、(B2)のみでの融点は測定できないが、脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)の融点が後述の好ましい範囲内であると、同様に好ましい。
なお、本発明における(B2)及び(B4)の融点(℃)は、上記(B1)と同様に測定した値である。
【0035】
前記(B)における前記(B1)と(B2)の合計重量に対する(B2)の含有量[(B2)/{(B1)+(B2)}]は、0.05~98重量%であり、好ましくは2~15重量%である。[(B2)/{(B1)+(B2)}]が0.05重量%未満であると生分解性が不足する傾向があり、98重量%超であると薬剤の徐溶性コントロールが難しくなる傾向がある。
上述のように、(B1)及び(B2)は、(B1)と(B2)の混合物である後述の脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)として添加してもよい。脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)を使用する場合、(B4)の組成情報又はガスクロマトグラフィー分析等により求めた(B4)に含まれる(B1)及び(B2)の含有量を、ぞれぞれ(B)における(B1)と(B2)の含有量に含める。
【0036】
本発明において徐溶性調整剤(B3)は、被覆材組成物の透湿度を低減し、薬剤の徐溶性コントロール幅を広くする(主に溶出速度を遅くする)目的で含有される。
徐溶性調整剤(B3)としては、クレイの層間陽イオンを有機オニウムイオンでイオン交換されてなる有機化クレイである。
【0037】
クレイ(層状珪酸塩)としては、スメクタイト系鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト及びサポナイト等)、雲母(マイカ)、バーミキュライト及び脆雲母等が挙げられる。
【0038】
有機オニウムイオンとしては、特に種類は限定されないが、1級アンモニウムイオン、2級アンモニウムイオン、3級アンモニウムイオン、アミノ酸誘導体、4級アンモニウムイオン、有機ホスホニウムイオン、有機ピリジニウムイオン及び有機スルホニウムイオン等が挙げられる。
【0039】
上記1級アンモニウムイオンとしてはオクチルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、テトラデシルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、ステアリルアンモニウムイオン、オレイルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、アニリニウムイオン等が挙げられる。
2級アンモニウムイオンとしてはジラウリルアンモニウムイオン、ジテトラデシルアンモニウムイオン、ジヘキサデシルアンモニウムイオン、ジステアリルアンモニウムイオン、N-メチルアニリニウムイオン等が挙げられる。
3級アンモニウムイオンとしてはジメチルオクチルアンモニウムイオン、ジメチルデシルアンモニウムイオン、ジメチルラウリルアンモニウムイオン、ジメチルミリスチルアンモニウムイオン、ジメチルパルミチルアンモニウムイオン、ジメチルステアリルアンモニウムイオン、ジラウリルモノメチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、N,N-ジメチルアニリニウムイオン等が挙げられる。
アミノ酸誘導体としては、12-アミノラウリルカルボン酸のアンモニウムイオン、N,N-ジメチル-6-アミノヘキシルカルボン酸のアンモニウムイオン、N-n-ドデシル-N,N-ジメチル10-アミノデシルカルボン酸のアンモニウムイオン、ジメチル-N-12アミノラウリルカルボン酸のアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0040】
4級アンモニウムイオンの具体例としては、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ジメチルジステアリルアンモニウムイオン、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムイオン、ジアルキルジメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0041】
ホスホニウム塩としては、上記アンモニウムイオンの窒素原子がリン原子に置き換わったホスホニウムイオンが挙げられる。
【0042】
上記有機オニウムイオンは1種単独であっても2種以上の混合物であってもよい。有機オニウムイオンとしては、徐溶性調整剤(B3)の(A)中での分散性及び薬剤の徐溶性の観点から、炭素数6以上のアルキル基を有する有機オニウムイオンが好ましく、かつ溶解性パラメータが8~10.5(cal/cm3)1/2であることが更に好ましく、炭素数6以上のアルキル基を有しかつ溶解性パラメータが8~10.5(cal/cm3)1/2である4級アンモニウムイオンが特に好ましい。
【0043】
上記有機オニウムイオンの対イオン(アニオン)としては、特に限定されないが、環境への影響を低減する観点からは塩化物イオン、臭化物イオン及び酢酸イオン等が好ましい。
【0044】
クレイの層間陽イオンを有機オニウムイオンでイオン交換して前記有機クレイである(B3)を得る方法は、特に限定されず、公知の方法で得ることができる。例えば、水、有機溶媒あるいは水と有機溶媒の混合溶媒中にクレイを浸漬した後、有機オニウムイオンと対イオンとからなる有機オニウム化合物を添加・撹拌して一定時間静置後、ろ過して得られた固体を洗浄・乾燥することにより得ることができる。なお、上記有機オニウム化合物(有機オニウムイオン)は系中で発生させてもよく、例えば1級アミンと塩酸を添加して系中で1級アンモニウムイオンと塩化物イオンとからなる有機オニウム化合物を発生させてもよい。
また、有機クレイは、市場から入手したものを使用してもよい。
【0045】
(B3)における前記有機オニウムイオンの溶解性パラメータ(SP値)は、(B3)の(A)中での分散性、被覆材組成物の透湿度、徐溶性農業用薬剤の固着防止性及び流動性の観点から、8~10.5(cal/cm3)1/2であることが好ましく、更に好ましくは8~9(cal/cm3)1/2である。
【0046】
層状ケイ酸塩の層間陽イオンを有機オニウムイオンでイオン交換されてなる有機クレイである(B3)における修飾率(%)は、被覆材組成物の透湿度及び農業用薬剤の徐溶性の観点から好ましくは0.1~45%、更に好ましくは1~40%である。
なお、上記修飾率(%)とは、(B3)における層状ケイ酸塩の表面の有機化された比率、すなわち層状ケイ酸塩の面積に対する有機基で修飾(被覆)された面積の百分率を意味し、下記方法で測定・算出した値である。
【0047】
<(B3)の修飾率(%)の測定・算出方法>
(B3)をトルエンに1.0×10-3質量%の濃度で分散させ、マイカ基盤上にスピンキャストさせ乾燥させた試料を原子間力顕微鏡(セイコーインスツル(株)社製、SPA-300)にてTapping mode AFM観察を行った。得られた画像から層状ケイ酸塩表面の有機基で修飾(被覆)された面積を解析し、下記式により修飾率(%)を算出した。
修飾率(%)=有機基で修飾(被覆)された面積/層状ケイ酸塩の面積×100
【0048】
有機基による修飾状態の判断は、層状ケイ酸塩の表面より有意に(1nm以上)高さ(厚み)の見られる部位に関して有機基で修飾されているとして行うことができる。
具体的に修飾率の算定は以下のようにして行うことができる。層状ケイ酸塩の高さと面積は原子間力顕微鏡内の解析ツールであるGrain Sizeを用いて判別する。層状ケイ酸塩全体の面積を算定した後に、層状ケイ酸塩の表面の高さより有意に高い部分を有機基で修飾(被覆)された部分とみなし、有機基で修飾(被覆)された面積を算定する。これらを上記式に代入することにより修飾率(%)を算出する。
【0049】
なお、層状ケイ酸塩の層間陽イオンを有機オニウムイオンでイオン交換されてなる有機クレイである(B3)は、更に反応性官能基を有するカップリング剤で表面修飾されていてもよい。反応性官能基を有するカップリング剤で表面修飾することにより、農業用薬剤の徐溶性の制御がしやすくなることがある。反応性官能基を有するカップリング剤としては、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物及びエポキシ化合物等が挙げられる。
これらのうち、層状ケイ酸塩との反応性の観点などから特に好ましいのは、有機シラン系化合物であり、その具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等の炭素-炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられ、最も好ましいのは炭素-炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物である。
【0050】
上記(B3)又は層状ケイ酸塩を反応性官能基を有するカップリング剤で表面修飾する方法は、特に限定されないが、1)水、メタノール、エタノール及びこれらの混合溶媒等の極性溶媒中で上記カップリング剤を層状ケイ酸塩に吸着させる方法、2)ヘンシェルミキサー等の高速撹拌混合機の中に層状ケイ酸塩を添加し、撹拌しながら上記カップリング剤あるいはカップリングの溶液(水溶液あるいは水と有機溶媒の混合溶液)を滴下して吸着させる方法、3)層状ケイ酸塩に直接上記カップリング剤を添加して、乳鉢等で混合して吸着させる方法、等が挙げられる。層状ケイ酸塩をカップリング剤と反応させる際、カップリング剤のアルコキシ基の加水分解を促進するために水、酸性水、アルカリ性水等を同時に混合するのが好ましい。また、カップリング剤の反応効率を高めるため、水のほかにメタノールやエタノール等の水、カップリング剤両方を溶解する有機溶媒を混合してもかまわない。このようなカップリング剤で処理した層状ケイ酸塩を熱処理することによってさらに反応を促進させることも可能である。
なお、層状ケイ酸塩とカップリング剤との反応をあらかじめ行わずに、層状ケイ酸塩とエステル基含有熱可塑性樹脂(A)等を溶融混練する際に、これらのカップリング剤を併せて添加する方法、いわゆるインテグラルブレンド法を用いてもよい。
【0051】
上記有機化クレイ(B3)のメジアン径は、被覆材組成物の透湿度及び薬剤の徐溶性の調整しやすさの観点から、0.01~40μmであることが好ましい。
なお、本発明におけるメジアン径(μm)は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-300、堀場製作所社製)を用い、トリクロロエチレンを分散媒として超音波非照射下で測定された値である。
なお、後述の徐溶性農業用薬剤の被覆層中の有機クレイのメジアン径は、例えば以下のように測定してもよい。すなわち、徐溶性農業用薬剤に穴をあけて中の農業用薬剤を抜く。被覆殻のみを良溶媒(例えばDMF又は塩素系溶剤等(例えばトリクロロエチレン))に溶解し、遠沈により無機物を回収する。この時点ではクレイと有機化クレイが含有されている。無機物を塩素系溶剤(例えばトリクロロエチレン)に溶解・分散させて、上澄みを回収する。クレイは塩素系溶剤(例えばトリクロロエチレン)には分散しないので、有機化クレイのみを回収する。回収した有機化クレイを上記と同様にトリクロロエチレンを分散媒として分散させ上述のとおり測定することができる。
【0052】
前記(B)における前記(B1)と(B2)の合計重量と前記(B3)との重量比[{(B1)+(B2)}/(B3)]は、2/98~80/20である。[{(B1)+(B2)}/(B3)]が上記範囲外であると、被覆材組成物の透湿度及び徐溶性農業用薬剤の徐溶性と耐衝撃性の両立が困難となる。
【0053】
上述のように、前記(B1)及び(B2)は、(B1)と(B2)の混合物である脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)として添加してもよい。脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)としては、特に限定されないが、(B4)の重量に基づいて前記(B1)5~98重量%と(B2)2~95重量%を含有するものが好適に使用できる。(B1)と(B2)以外の成分として、炭化水素や遊離アルコールが(B4)の重量に基づいて合計15重量%以下の割合で含まれていてもよい。
脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)としては、天然油脂(B41)及びエステルワックス(B42)が挙げられる。
【0054】
天然油脂(B41)としては、前記エステル化合物(B11)のうち脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物と、前記(B2)とを含有するものであり、具体例としては、ホホバ硬化油、カスターワックス(ヒマシ硬化油)、米硬化油、ヤシ硬化油、大豆硬化油、菜種硬化油、パーム硬化油、牛脂硬化油及び豚脂硬化油等が挙げられる。
(B41)としては、カスターワックスが、適度な生分解性を有し、かつ前記(A)中に分散することで湿度を効果的に低減させることから特に好ましい。
【0055】
エステルワックス(B42)としては、前記エステル化合物(B11)のうち脂肪酸とグリセリン以外のアルコールとのエステル化合物と、前記(B2)とを含有するものであり、具体例としては、植物系天然ロウ{キャンデリラロウ(キャンデリラワックス)、カルナウバロウ(カウナウバワックス)、米ぬかロウ(ライスワックス)、木蝋等}、動物系天然ロウ{蜜蝋、セラックワックス、ラノリンワックス及び鯨ロウ等}、鉱物系天然ロウ{モンタンワックス、オゾケライト及びセレシン等}、及びこれらの精製物、並びに炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)2~34のカルボン酸と炭素数1~36のアルコールとから合成したもの等が挙げられる。
(B42)としては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス(カルナバワックス)、ライスワックス及び蜜蝋が、適度な生分解性を有し、かつ前記(A)中に分散することで透湿度を効果的に低減させることから特に好ましい。
【0056】
本発明の被覆材組成物が脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)を含有する場合、(B4)の融点は、被覆材組成物の溶融粘度あるいは溶液粘度を適度にし、後述の徐溶性調整剤(B3)の(A)中での分散性向上及び(B3)による被覆材組成物の透湿度低減、徐溶性農業用薬剤の固着防止性及び流動性等の効果を向上させる観点から、90℃以下であることが好ましい。
さらに、徐溶性農業用薬剤の表面に(B4)がブリードアウトして表面のべたつき及び固着が発生するのを防止する観点から、(B4)の融点は40℃以上であることが好ましい。すなわち、(B4)の融点は40~90℃であることが好ましい。
【0057】
<徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物>
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、前記エステル基含有熱可塑性樹脂(A)と前記添加剤(B)とを含有する徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物であり、前記被覆材組成物中の前記(A)と前記(B)の重量比[(A)/(B)]が30/70~90/10である。重量比[(A)/(B)]が上記範囲外であると、被覆材組成物の生分解性と薬剤の徐溶性の両立が困難になる。
【0058】
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で必要により、その他の添加剤(G)を含有してもよい。その他の添加剤としては、前記有機化クレイ以外の徐溶性調整剤(G1)、有機フィラー(G2)、無機フィラー、吸水性樹脂粒子、滑剤、可塑剤、チクソ性付与剤、発泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗酸化剤、着色剤、難燃剤、防黴剤、沈降防止剤及び消泡剤等が挙げられる。
【0059】
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、被覆材組成物の透湿度を下げ、薬剤の徐溶性を調整する(徐溶日数を長くする)目的で、必要により前記有機化クレイ以外の徐溶性調整剤(G1)を含有してもよい。前記有機化クレイ以外の徐溶性調整剤(G1)の具体例としては、疎水性ワックス、疎水性可塑剤、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物及びエポキシ化合物等が挙げられる。
【0060】
疎水性ワックスとしては、数平均分子量が300~2000の炭化水素化合物及び金属石鹸(ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム等)等が挙げられる。
数平均分子量が300~2000の炭化水素化合物の具体例としては、パラフィン(エイコサン、ヘンイコサン、テトラコサン、トリアコンタン等を含む)、多環芳香族炭化水素(ベンゾピレン、ポリアセン等を含む)及び低分子量ポリオレフィン(低分子量ポリエチレン等)等が挙げられる。また、炭化水素化合物を主成分とする石油ワックス(パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等を含む)も用いることができる。本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物が、数平均分子量が300~2000の炭化水素化合物を含有すると、薬剤の徐溶性の調整がしやすくなる(徐溶日数を長くしやすい)効果に加え、徐溶性農業用薬剤の固着防止性及び流動性を向上させやすくなり、好ましい。さらに、数平均分子量が300~1500の炭化水素化合物であると、生分解性の観点からも良好である。
疎水性可塑剤としては、重量平均分子量2万以下の低分子量脂肪族ポリエステル{コハク酸とエチレングリコール/プロピレングリコール縮合体(例えば、商品名「ポリサイザー」、大日本インキ(株)製)等、ただし、上記(A)に該当するものを除く}及び上記(B4)に該当しない油脂等が挙げられる。
カルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等が挙げられる。カルボジイミド化合物としては、ラインケミー社製の「スタバクゾール」、日清紡(株)製の「カルボジライト」等を、商業的に入手することができる。
オキサゾリン化合物としては、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-フェニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2,4-ジメチル-2-オキサゾリンのようなモノオキサゾリン化合物や;2,2’-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)のようなビスオキサゾリン化合物や;オキサゾリン基を側鎖に有するポリマー等が挙げられる。
イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート及びジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、N-グリシジルフタルイミド、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェニル(ポリエチレングリコール)グリシジルエーテル、フェニル(ポリプロピレングリコール)グリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジグリシジル-o-フタレート、ジグリシジルテレフタレート、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、エポキシ化植物油、及びグリシジル基を側鎖に有するポリマー等が挙げられる。
【0061】
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、被覆材組成物の生分解性を向上させ、薬剤の徐溶性を調整する(徐溶日数を短くする)目的で、必要により有機フィラー(G2)を含有してもよい。有機フィラー(G2)の具体例としては、コーンスターチなどの澱粉、変性澱粉、寒天、キサントンなどが挙げられる。
その他の添加剤(G)の合計含有量は、(A)と(B)との合計重量に基づいて、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは15重量%以下である。
【0062】
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物の製造方法は、特に限定されないが、前記(A)、(B1)、(B2)、(B3)及び必要によりその他の添加剤(G)を、溶媒の存在下あるいは非存在下で混合することにより得られる。
溶媒の存在下で混合する場合、溶媒は有機溶媒であることが好ましく、有機溶媒としては、塩素系溶剤(例えばトリクロロエチレン、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエチレン及びクロロホルム等)、ケトン系溶剤(メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等)、芳香族系溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン及びオルトジクロロベンゼン等)、アミド系溶剤(N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルホルムアミド)及びこれらの混合物等が好適に使用できる。溶媒の使用量は特に限定されないが、(A)と(B)との合計重量100gに対して0.6~1.4L、0.7~1.3L、あるいは、0.8~1.2L使用される。
溶媒の非存在下で混合する場合、例えば前記(A)が溶融する温度に加熱し混練装置等で混練する方法が挙げられる。なお、混練装置等で混練する際に、溶媒を存在させてもよい。
【0063】
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、前記(A)、(B1)、(B2)、(B3)及び必要によりその他の添加剤(G)を溶媒の存在下で混合されることにより得られた溶液又は分散液、あるいは溶液又は分散液を必要に応じて乾燥を行うことにより得られた固体の成形体の形態である。前記成形体は、フィルム状、粒状でありうる。フィルム状にするには溶液または分散液をキャストしてから溶剤を乾燥させる方法がある。粒状にするには溶液または分散液をスプレードライで噴霧乾燥させる方法がある。あるいは、上述のとおり、徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は溶媒の非存在下で混合して得ることもでき、その場合、徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は粒状の成形体(ペレット)となる。なお、粒状の成形体からフィルム状の成形体を得るには、粒状の成形体(ペレット)をヒートプレス等する方法がある。ヒートプレス等の条件には特に制限はないが、例えば180℃程度で、1分程度が好適である。
【0064】
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、農業用薬剤用途、特に田畑及び水田等に散布する農業用薬剤の被覆層として有用である。
【0065】
<徐溶性農業用薬剤>
本発明の徐溶性農業用薬剤は、1以上の被覆層で農業用薬剤(C)の表面の少なくとも一部が被覆されてなる徐溶性農業用薬剤であり、前記1以上の被覆層に、上記の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物からなる被覆層(L)が少なくとも1層含まれる徐溶性農業用薬剤である。農業用薬剤(C)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本明細書において、「被覆層で農業用薬剤(C)の表面の少なくとも一部が被覆されてなる」とは、被覆層が農業用薬剤(C)の表面を直接被覆することのみならず、保護層等の別の層を介在して被覆することを含む。
【0066】
上記被覆層(L)の平均膜厚(μm)は、徐溶性コントロール、生産性とコスト、及び被覆層の剥離防止の観点から、10~150μmが好ましく、10~130μmが特に好ましい。
なお、本発明における被覆層(L)の平均膜厚(μm)は、下記の方法で測定することができる。
【0067】
<被覆層(L)の平均膜厚の測定方法>
本発明の徐溶性農業用薬剤の重心を通るようにカミソリで2分割に切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影し、任意の1か所の被覆層(L)の厚み(μm)を計測する。5つの粒子をランダムに選択し上記のように切断・被覆層(L)の厚みを計測し、5つの粒子の被覆層(L)の厚みの平均値を被覆層(L)の平均膜厚(μm)とする。
【0068】
本発明の徐溶性農業用薬剤において、前記徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物100重量部に対する農業用薬剤(C)の重量部は、徐溶性コントロール及び生産性とコストの観点から、300重量部以上900重量部以下であることが好ましく、より好ましくは380重量部以上900重量部以下であり、より好ましくは500重量部以上900重量部以下であり、より好ましくは750重量部以上900重量部以下であり、より好ましくは780重量部以上850重量部以下である。なお表面に保護層を有する農業用薬剤(C)の重量は、保護層の重量を除外して計算する。本発明の一実施形態において、農業用薬剤(C)の重量に対する保護層の重量は、0.5~18.8重量%、あるいは、1.1~13.3重量%が好適である。
【0069】
<農業用薬剤(C)>
農業用薬剤(C)としては、肥料、農薬(殺菌剤、除草剤及び植物成長調整剤等)、害生物防除剤(忌避剤、殺虫剤、殺ダニ剤及び殺そ剤等)等が挙げられる。
肥料としては、公知の粒状化学肥料を用いることができる。具体例としては、窒素肥料、リン酸肥料、カリ肥料、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩及びこれらを二つ以上複合したもの等が挙げられる。また、上記農業用薬剤(C)の表面にワックス類(パラフィンワックス、ライスワックス及びエステルワックス等の少なくとも1種)等からなる保護層を有する肥料も用いることができる。
仮に、上記表面に存在する保護層に含まれる成分あるいは保護層全体が、上記エステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)又はカルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)に該当する場合は、当該成分および当該保護層全体は、徐溶性農業用薬剤においては、分散剤(B1)又はカルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)の範疇とみなす。本発明の一実施形態において、保護層に含まれる成分あるいは保護層全体は、エステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有さず、カルボキシル基を有さない。
保護層の膜厚は、徐溶性コントロール及び生産性とコストの観点から、3~100μmが好ましく、5~70μmが特に好ましい。膜厚の測定方法は、被覆層(L)の膜厚の測定方法と同様である。
保護層の作製は、保護層を形成する成分を有機溶媒に溶解または分散させ、肥料に噴霧し、その後乾燥することによってなしうる。これに、被覆層(L)を形成することで、本発明の徐溶性農業用薬剤となる。
【0070】
窒素肥料は主成分として含窒素化合物を含有する肥料であり、特に限定されないが、尿素、ホルムアルデヒド縮合尿素やイソブチルアルデヒド縮合尿素等のアルデヒド縮合尿素類、硫酸グアニル尿素類、石灰窒素、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。
リン酸肥料としては、特に限定されないが、リン酸二水素アンモニウム、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、熔成リン肥及び焼成リン肥料等が挙げられる。
カリ肥料はカリウムを主成分とする肥料であり、特に限定されないが、硝酸カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム及びケイ酸カリウム等が挙げられる。
カルシウム塩としては、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム及び塩化カルシウム等が挙げられる。マグネシウム塩としては、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム及びリン酸マグネシウム等が挙げられる。鉄塩としては、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩酸第一鉄及び塩酸第二鉄等が挙げられる。
【0071】
農業用薬剤(C)としては、粒状のものが好ましい。その場合、重量平均粒子径は、好ましくは1mm~20mm、さらに好ましくは2mm~10mmである。
また、農業用薬剤(C)を保持する担体を用いてもよく、担体としては、カオリナイト等のカオリン鉱物;モンモリロナイト、スメクタイト、タルク、蝋石、シリカ、含水珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ゼオライト等の鉱物質担体;セルロース、澱粉、大豆粉等の植物質担体;乳糖、蔗糖、デキストリン等の水溶性担体が挙げられる。
【0072】
本発明の徐溶性農業用薬剤の被覆層、及び徐溶性農業用薬剤の製造は、公知の方法を組み合わせることで実施可能である。例えば、上述の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物の製造の際に、前記(A)、(B1)、(B2)、(B3)及び必要によりその他の添加剤(G)を溶媒の存在下で混合されることにより得られた溶液又は分散液を、そのまま既知のコーティング装置を用いて、農業用薬剤(C)の表面に噴霧等により適用した後、乾燥する方法等がある。徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物を溶媒の非存在下で混合して得た場合、固体の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物を必要により溶媒に溶解又は分散させたものを、既知のコーティング装置を用いて、農業用薬剤(C)の表面に噴霧等により適用した後、乾燥する方法等がある。
本発明の徐溶性農業用薬剤の製造において、農業用薬剤(C)を予備加熱しておいてもよい。農業用薬剤の予熱温度は、35~60℃、あるいは、38~50℃程度がよい。
本発明の徐溶性農業用薬剤の製造において、噴霧する際の給気温度の温度を調整することもできる。給気温度は、例えば、35~60℃、あるいは、38~50℃程度がよい。
本発明の徐溶性農業用薬剤の製造において、噴霧時のパルス圧は、0.2~0.5MPa程度が好適である。
本発明の徐溶性農業用薬剤の製造において、噴霧後の乾燥温度は、10~120℃程度がよい。
【0073】
本発明の徐溶性農業用薬剤は、特に田畑及び水田等に散布する農業用薬剤として有用である。
【0074】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0075】
本開示(1)は、エステル基含有熱可塑性樹脂(A)と添加剤(B)とを含有する徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物であり、下記(1)~(8)のすべてを満たす徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物である。
(1)前記被覆材組成物中の前記(A)と前記(B)の重量比[(A)/(B)]が30/70~90/10である;
(2)前記(A)のガラス転移温度が-70℃を超え70℃未満である;
(3)前記(A)が、相対結晶化度が40%未満の樹脂、又は相対結晶化度が40%以上かつ結晶化温度が110℃以下の樹脂である;
(4)前記(A)の溶解性パラメータ(SPA)が9.1~11.5(cal/cm3)1/2である;
(5)前記(B)がエステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)とカルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)とを含有し、前記(B)における前記(B1)と(B2)の合計重量に対する(B2)の含有量[(B2)/{(B1)+(B2)}]が0.05~98重量%である;
(6)前記(B1)の溶解性パラメータ(SPB1)と前記(B2)の溶解性パラメータ(SPB2)の加重平均値(SPB1B2)が8.5~10.5(cal/cm3)1/2である;
(7)前記(B)が更に徐溶性調整剤(B3)を含有し、前記(B)における前記(B1)と(B2)の合計重量と前記(B3)との重量比[{(B1)+(B2)}/(B3)]が2/98~80/20である;
(8)前記(B3)が、クレイの層間陽イオンを有機オニウムイオンでイオン交換されてなる有機化クレイである。
【0076】
本開示(2)は、前記(A)の溶解性パラメータ(SPA)と前記加重平均値(SPB1B2)の差[SPA-SPB1B2]が0~2.5(cal/cm3)1/2である、本開示(1)に記載の徐溶性農業薬剤用被覆材組成物である。
【0077】
本開示(3)は、前記分散剤(B1)の融点が60~100℃である、本開示(1)又は(2)に記載の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物である。
【0078】
本開示(4)は、1以上の被覆層で農業用薬剤(C)の表面の少なくとも一部が被覆されてなる徐溶性農業用薬剤であり、前記1以上の被覆層に、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物からなる被覆層(L)が少なくとも1層含まれる徐溶性農業用薬剤である。
【実施例0079】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、部は重量部を示す。
【0080】
実施例および比較例に使用した原料の組成、記号等は次の通りである。
<エステル基含有熱可塑性樹脂(A)>
(A-1):ポリブチレンサクシネート [ビオノーレ1001、昭和高分子社製、エステル基濃度0.50g/g、相対結晶化度45%、結晶化温度75℃、SPA10.9(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度-32℃]
(A-2):ポリブチレンアジペートテレフタレート [Ecoflex(登録商標)F Blend C1200、BASF社製、エステル基濃度0.42g/g、相対結晶化度30%、SPA11.1(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度-45℃]
(A-3):ポリカプロラクトン [CAPA(登録商標)6500、Perstorp社製、エステル基濃度0.38g/g、相対結晶化度25%、SPA10.2(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度-60℃]
(A-4):ポリ乳酸[Luminy(登録商標)L130、トタルコービオンPLA社製、エステル基濃度0.60g/g、相対結晶化度50%、結晶化温度110℃、SPA11.1(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度60℃]
(A-5):水素化ロジンエステル[エステルガム-H、荒川化学社製、エステル基濃度0.13g/g、相対結晶化度20%、SPA9.1(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度10℃]
(A-6):ポリブチレンサクシネート[BioPBS FZ91、三菱ケミカル(株)製、エステル基濃度0.50g/g、相対結晶化度22%、SPA10.9(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度-22℃]
(A-7):ポリブチレンサクシネートアジペート[BioPBS FD92、三菱ケミカル(株)製、エステル基濃度0.47g/g、相対結晶化度4%、SPA10.7(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度-40℃]
(A-8):ポリブチレンサクシネートテレフタレート(製造例1で製造したもの)[エステル基濃度0.52g/g、相対結晶化度2%、SPA10.9(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度-30℃]
<比較用の熱可塑性樹脂(比A)>
(比A-1):低密度ポリエチレン[サンテック-LD M2270、旭化成ケミカルズ社製、エステル基濃度0、相対結晶化度55%、結晶化温度80℃、SP値7.9(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度-125℃]
(比A-2):ポリエチレンテレフタラート[NES-2040、ユニチカ社製、エステル基濃度0.45g/g、相対結晶化度70%、結晶化温度130℃、SP値10.7(cal/cm3)1/2、ガラス転移温度75℃]
【0081】
<添加剤(B)>
<エステル基、ウレタン基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤(B1)>
(B1-1):製造例2で製造した化合物
(B1-2):製造例3で製造した化合物
(B1-3):製造例4で製造した化合物
(B1-4):製造例5で製造した化合物
(B1-5):モンタン酸エチレングリコールエステル[商品名「WARADUR E」、 MP五協フード&ケミカル(株)製、数平均分子量870、融点83℃、SPB18.8(cal/cm3)1/2]
(B1-6):N,N’-エチレンビスオレイルアミド[商品名「ITOHWAX J-500」、山桂産業(株)製、数平均分子量589、融点114℃、SPB18.6(cal/cm3)1/2]
<カルボキシル基を有する生分解性調整剤(B2)>
(B2-1):パルミチン酸[富士フィルム和光純薬社製、融点63℃、SPB29.2(cal/cm3)1/2]
(B2-2):リノール酸[富士フィルム和光純薬社製、融点-5℃、SPB29.2(cal/cm3)1/2]
(B2-3):ベヘン酸[東京化成工業社製、融点75℃、SPB29.0(cal/cm3)1/2]
(B2-4):リグノセリン酸[東京化成工業社製、融点80℃、SPB28.9(cal/cm3)1/2]
(B2-5):カプリン酸[東京化成工業社製、融点31℃、SPB29.5(cal/cm3)1/2]
(B2-6):
C28-32直鎖モンタン酸[商品名「WARADUR S」、MP五協フード&ケミカル(株)製、数平均分子量480、融点83℃、SPB28.9(cal/cm3)1/2]
(B2-7):ステアリン酸[東京化成工業社製、数平均分子量284、融点70℃、SPB29.1(cal/cm3)1/2]
<徐溶性調整剤(B3)>
(B3-1):有機化ベントナイト[「クニビス(登録商標)217」、クニミネ工業社製、メジアン径10~20μm、有機オニウムイオン:ジメチルジステアリルアンモニウム(炭素数38)、有機オニウムイオンのSP値8.2(cal/cm3)1/2]
(B3-2):有機化ベントナイト[「クニビス(登録商標)127」、クニミネ工業社製、メジアン径10~20μm、有機オニウムイオン:ベンジルジメチルステアリルアンモニウム(炭素数27)、有機オニウムイオンのSP値8.5(cal/cm3)1/2]
(B3-3):有機化ベントナイト[「ソマシフMAE」、片倉コープアグリ社製、メジアン径10~20μm、有機オニウムイオン:ジメチルジステアリルアンモニウム(炭素数27)、有機オニウムイオンのSP値8.2(cal/cm3)1/2]
(B3-4):有機化ベントナイト(製造例6で製造した化合物)[メジアン径10~20μm、有機オニウムイオン:デシルアンモニウム(炭素数10)、有機オニウムイオンのSP値8.6(cal/cm3)1/2]
(B3-5):有機化ベントナイト(製造例7で製造した化合物)[メジアン径10~20μm、有機オニウムイオン:テトラブチルホスホニウム(炭素数16)、有機オニウムイオンのSP値8.0(cal/cm3)1/2]
(B3-6):表面処理有機化ベントナイト(製造例8で製造した化合物)[メジアン径10~20μm、有機オニウムイオン:ジメチルジステアリルアンモニウム(炭素数38)、有機オニウムイオンのSP値8.2(cal/cm3)1/2)
(B3-7):有機化ベントナイト[「エスベンNX」、株式会社ホージュン製、メジアン径20μm、有機オニウムイオン:ジメチルジステアリルアンモニウム(炭素数38)、有機オニウムイオンのSP値8.2(cal/cm3)1/2]
<脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)>
脂肪酸と脂肪酸エステルを含有するワックス(B4)は(B1)と(B2)とを含む。
(B4-1):ライスワックス[「ライスブランワックス XECO-0002B」、日本精蝋社製、SPB1B28.6(cal/cm3)1/2、融点87℃;(B1)約95%及び(B2)約2%を含有する。]
(B4-2):カルナバワックス[精製カルナバワックス1号粉末、日本ワックス社製、SPB1B28.6(cal/cm3)1/2、融点80~85℃;(B1)約85%及び(B2)約5%を含有する。]
(B4-3):ベヘン酸ベヘニルとベヘン酸の混合物[「ユニスターM222SL」、日油株式会社製、SPB1B28.9(cal/cm3)1/2、融点70℃;(B1)約99.95%及び(B2)約0.05%を含有する。]
<農業用薬剤(C)>
(C-1):尿素[粒子径2.0~4.0mm、重量平均粒子径3.3mm、円形度係数0.9]
(C-2):製造例9で製造した化合物[粒子径2.0~4.0mm、重量平均粒子径3.3mm、円形度係数0.9]
(C-3):製造例10で製造した化合物[粒子径2.0~4.0mm、重量平均粒子径3.3mm、円形度係数0.9]
<有機化クレイ以外の徐溶性調整剤(G1)>
(G1-1):パラフィンワックス[「Paraffin Wax-145」、日本精蝋(株)製、融点63℃、数平均分子量550]
(G1-2):パラフィンワックス[「HNP-9」、日本精蝋(株)製、融点75℃、平均分子量500]
(G1-3):マイクロクリスタリンワックス[「Hi-Mic-1090」、日本精蝋社製、融点88℃、数平均分子量800]
【0082】
製造例1[熱可塑性樹脂(A-8)の製造]
攪拌翼、減圧口、窒素導入口を備えたガラス重合管に1,4-ブタンジオール49.2部、コハク酸28.1部、ジメチルテレフタレート46.2部を仕込み、窒素-減圧置換によって系内を窒素雰囲気にした。次に系内を撹拌しながら185℃に昇温し、30分保持した。その後、1時間30分かけて220℃まで昇温し、反応により生成した水を留去し、エステル化反応を行った。ここで、触媒としてテトラブチルチタネート0.071gと酢酸マグネシウム4水和物0.045gを1,4-ブタンジオールに溶解し、系内に添加した。次に、1時間かけて230℃まで昇温し、同時に1時間30分かけて0.5mmHgになるように徐々に減圧を行った。230℃に到達してから4時間反応を行うことにより、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(A-8)を得た。
【0083】
製造例2[分散剤(B1-1)の製造]
簡易加圧反応装置にベヘニルアルコール100部、セバシン酸31部を仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下で徐々に230℃まで昇温した後、230℃にて10時間反応させた。次に、同温度で徐々に減圧し760~40mmHgにて10時間反応させることにより、エステル基を有する徐溶性調整剤(B1-1)[数平均分子量790、融点78℃、SPB18.8]を得た。
【0084】
製造例3[分散剤(B1-2)の製造]
簡易加圧反応装置にゲジルアルコール100部、ドデカンジオール23部及びセバシン酸46部を仕込み、製造例1と同様の条件で反応させることにより、エステル基を有する徐溶性調整剤(B1-2)[数平均分子量1470、融点88℃、SPB18.9]を得た。
【0085】
製造例4[分散剤(B1-3)の製造]
簡易反応装置にベヘニルアルコール100部を仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下で徐々に80℃まで昇温した。そこに、ヘキサメチレンジイソシアネート18部を仕込み、80℃にて約10時間反応させることにより、ウレタン基を有する徐溶性調整剤(B1-3)[数平均分子量820、融点75℃、SPB19.0]を得た。
【0086】
製造例5[分散剤(B1-4)の製造]
簡易反応装置にデカン酸100部、ヘキサメチレンジアミン135部を仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下で徐々に150℃まで昇温した後、150℃にて5時間反応させた。次に、210℃に昇温して5時間反応させることにより、アミド基を有する徐溶性調整剤(B1-4)[数平均分子量420、融点98℃、SPB110.0]を得た。
【0087】
製造例6[有機化クレイ(B3-4)の製造]
ナトリウムモンモリロナイト[「クニピア(登録商標)-F」、クニミネ工業(株)製]80gを80℃の水5000mlに分散させてモンモリロナイトの水分散液を得た。デシルアミン17.9g、濃塩酸4.2gを80℃の水2000mlに溶解し、この溶液を先のモンモリロナイトの水分散液中に加え、沈殿物を得た。この沈殿物をメンブレンフィルター(孔径0.8μm)を用いたろ過で回収し、80℃の水で3回洗浄後、小型凍結乾燥機[「FDS-2000」、EYELA製]を用いて、トラップ冷却温度-80℃、真空ポンプ110L/min、乾燥時間24時間の条件で凍結乾燥することにより、層間陽イオンがデシルアンモニウムイオン(炭素数10)でイオン交換されてなる有機化クレイ(B3-4)を得た。[メジアン径10~20μm、有機オニウムイオンのSP値8.6]
【0088】
製造例7[有機化クレイ(B3-5)の製造]
ナトリウムモンモリロナイト[「クニピア(登録商標)-F」、クニミネ工業(株)製]80gを80℃の水5000mlに分散させ、モンモリロナイトの水分散液を得た。テトラブチルホスホニウムブロミド39gを80℃の水2000mlに溶解し、この溶液を先のモンモリロナイトの水分散液中に加え、沈殿物を得た。この沈殿物をメンブレンフィルター(孔径0.8μm)を用いたろ過で回収し、80℃の水で3回洗浄後、小型凍結乾燥機[「FDS-2000」、EYELA製]を用いて、トラップ冷却温度-80℃、真空ポンプ110L/min、乾燥時間24時間の条件で凍結乾燥することにより、層間陽イオンがテトラブチルホスホニウムイオン(炭素数16)でイオン交換されてなる有機化クレイ(B3-5)を得た。[メジアン径10~20μm、有機オニウムイオンのSP値8.6]
【0089】
製造例8[有機化クレイ(B3-6)の製造]
有機化クレイ(B3-1)[クニビス(登録商標)217、クニミネ工業社製]100部、トリメチルメトキシシラン132部、酢酸14部をトルエン500部に添加して混合した後、55℃で8時間加熱した。トルエンを減圧留去し、得られた固体を酢酸エチルで3回洗浄後、小型凍結乾燥機[「FDS-2000」、EYELA製]を用いて、トラップ冷却温度-80℃、真空ポンプ110L/min、乾燥時間24時間の条件で凍結乾燥させることにより、層間陽イオンがジメチルジステアリルアンモニウム(炭素数38)でイオン交換され、更にシランカップリング剤による表面処理でシメチルメトキシシラン基が導入された有機化クレイ(B3-6)を得た。
【0090】
製造例9[農業用薬剤(C-2)の製造]
添加剤(B4-1)50gを、0.5Lのトリクロロエチレンに溶解もしくは分散させた。その後、噴流層による流動コーティング装置[スパイラフローSFC-LABO、フロイント社製]を用いて、尿素(C-1)800gに下記条件で噴霧、乾燥することにより、徐溶性農業用薬剤(Y-1)を得た。
農業用薬剤(C)予熱温度:40℃
給気温度:50℃
パルス圧:0.3MPa
【0091】
製造例10[農業用薬剤(C-3)の製造]
添加剤(B5-1)50gを、0.5Lのトリクロロエチレンに溶解もしくは分散させた。その後、噴流層による流動コーティング装置[スパイラフローSFC-LABO、フロイント社製]を用いて、尿素(C-1)800gに下記条件で噴霧、乾燥することにより、徐溶性農業用薬剤(Y-1)を得た。
農業用薬剤(C)予熱温度:40℃
給気温度:50℃
パルス圧:0.3MPa
なお、農業用薬剤(C-2)と(C-3)は、農業用薬剤(C-1)(尿素)の表面に保護層を設けることによってそれぞれ形成されており、表4及び表5に示されている農業用薬剤(C-2)と(C-3)の部数はあくまで、(C-2)及び(C-3)中の農業用薬剤(C-1)に相当する部数である。
【0092】
実施例1[徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物(X-1)の製造]
(A-1)40部、(B1-1)28部、(B2-1)2部及び(B3-1)30部を合計100gとなるよう、1Lのトリクロロエチレンにスターラーを用いて溶解もしくは分散させた。その後、50℃に保温したホットプレートの上に20cm×20cm×0.5cmのガラス板を乗せ、そのガラス板上面の両端に厚み50μmの養生テープを貼った。45℃の熱風をガラス板と平行になるような風向きでガラスから5cm離れたところに吸気しながら、ガラス板の両端に貼った養生テープの間に上記溶液を5g流し込み、ガラス棒を用いて均した。その後、残留している溶剤を揮発させる目的で10分静置することにより、キャスト膜状の農業用薬剤用被覆材組成物(X-1)を得た。
【0093】
実施例2~26及び比較例1~9[徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物(X-2)~(X-26)及び比較用の被覆材組成物(比X-1)~(比X-9)の製造]
それぞれ表1又は表2に示す原料(部)を合計100gとなるよう用いる以外は実施例1と同様にして、キャスト膜状の農業用薬剤用被覆材組成物(X-2)~(X-26)及び比較用の被覆材組成物(比X-1)~(比X-9)を得た。ただし、比較例3の(比X-3)は被膜形成性が悪く、キャスト膜を形成することができなかった。
【0094】
【0095】
【0096】
実施例及び比較例で得られた各(X)及び(比X)における(A)のガラス転移温度、(A)の相対結晶化度、(A)の結晶化温度、(A)と(B)の重量比[(A)/(B)]、(B1)と(B2)の合計重量に対する(B2)の含有量[(B2)/{(B1)+(B2)}]、(B1)と(B2)の合計重量と前記(B3)との重量比[{(B1)+(B2)}/(B3)]、(A)の溶解性パラメータ(SPA)、(B1)の溶解性パラメータ(SPB1)、溶解性パラメータの差[SPA-SPB1]又は[SPA-SPB4]、(B1)の融点、(B2)の溶解性パラメータ(SPB2)、(B2)の融点、(B4)の融点及び(B3)の4級アンモニウムイオンの溶解性パラメータを表1又は表2に示した。また、下記の方法で透湿度及び生分解性(崩壊度)を測定・評価した結果を表1又は表2に示す。ただし、キャスト膜を形成することができなかった比較例3については、透湿度及び生分解性(崩壊度)の評価ができなかった。
なお、透湿度及び生分解性(崩壊度)については被覆材組成物に対して行い、残りの評価は徐溶性農業用薬剤に対して行う。被覆材組成物の生分解性が、ほぼそのまま徐溶性農業用薬剤の被覆層(L)の生分解性に反映される。
【0097】
(1)被覆材組成物の透湿度
実施例及び比較例で得られた各被覆材組成物のフィルムを測定用試料とし、透湿度カップ法(JIS Z0208-1976)に準じて、透湿度(単位:g/m2・24hr)を測定した。
【0098】
(2)被覆材組成物の生分解性(崩壊度)
実施例及び比較例で得られた各被覆材組成物のフィルムを15mm×15mm×各膜厚の厚さにせん断したのち、JIS K6954に準じて、崩壊度(%)を測定した。60℃、30日後の崩壊度(重量減少率)(%)を下記基準で評価した。
<評価基準>
◎:80%以上
〇:60%以上80%未満
△:10%以上60%未満
×:10%未満
【0099】
実施例27[徐溶性農業用薬剤(Y-1)の製造]
徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物(X-1)100gを、1Lのトリクロロエチレンに溶解もしくは分散させた。その後、噴流層による流動コーティング装置[スパイラフローSFC-LABO、フロイント社製]を用いて、尿素(C-1)800gに下記条件で噴霧、乾燥することにより、徐溶性農業用薬剤(Y-1)を得た。
農業用薬剤(C)予熱温度:40℃
給気温度:50℃
パルス圧:0.3MPa
【0100】
実施例28~57及び比較例10~18[徐溶性農業用薬剤(Y-2)~(Y-31)及び比較用の徐溶性農業用薬剤(比Y-1)~(比Y-9)の製造]
それぞれ表3、表4又は表5に示す原料(g)を用いる以外は実施例28と同様にして、徐溶性農業用薬剤(Y-2)~(Y-31)及び比較用の徐溶性農業用薬剤(比Y-1)~(比Y-9)を得た。ただし、比較例12については被膜形成性が悪く、(C)の表面に被覆層を形成することができなかった。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
実施例及び比較例で得られた各(Y)及び(比Y)について、下記の方法で薬剤の徐溶性(初期溶出率及び80%溶出日数)、耐衝撃性、固着防止性及び流動性を測定・評価した結果を表3、表4又は表5に示す。ただし、被覆層を形成することができなかった比較例12については、評価できなかった。
【0105】
(3)薬剤の徐溶性
各(Y)又は(比Y)50gとイオン交換水100gを密閉できるガラス製広口サンプル瓶容器に入れ加え、25℃の恒温槽内で保管し、一定期間ごとに液を撹拌し、1g程度サンプリングし、サンプリング液中に含まれる農業用薬剤(C)を液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)で定量した。
<測定条件>
装置:LCMS-8030((株)島津製作所製)
カラム:Inert Sustain C18(シリカゲル粒子径2μm、内径2.1mm、長さ100mm)
カラム温度:40℃
移動相A:10mM酢酸アンモニウム水溶液/メタノール=80/20
移動相B:メタノール
流量:0.2ml/min
<評価方法>
<1>初期溶出率(%):25℃の恒温槽内で試験5日保管後の溶出率とする。
下記式により初期溶出率(%)を求め、下記基準で評価した。
初期溶出率(%)={25℃の恒温槽内で5日保管後のサンプリング液中の尿素の重量分率/徐溶性農業用薬剤(Y)中に含まれる尿素が全量溶出した場合のサンプリング液中の重量分率}×100
[評価基準]
◎:5%以下
〇:5%超20%以下
△:20%超50%以下
×:50%超
<2>80%溶出日数(日):試験前の各(Y)又は(比Y)中に含まれる尿素(C-1)の80重量%が溶出するまでの日数を下記基準で判定した。
[評価基準]
◎:60日以上
〇:40日以上59日以下
△:30日以上39日以下
×:29日以下
【0106】
(4)耐衝撃性
各(Y)又は(比Y)500gを、肩掛け式電動散粒機(商品名「ブロキャスJr」、向井工業(株)製)を用いて地上100cmの高さからコンクリート地面上に散布した。散布された該(Y)50gをサンプルとして、上記(1)<1>と同様に初期溶出率(%)を測定、算出した。コンクリート地面上への散布時の衝撃により被覆層にひび割れや欠け等が生じた場合、初期溶出率は(1)<1>よりも大きくなるため、散布前後の初期溶出率の差ΔAを下記式により求め、下記基準で耐衝撃性を評価した。
ΔA(%)={散布後の(Y)の初期溶出率(%)}-{散布前(上記(3)<1>)の(Y)の初期溶出率(%)}
[評価基準]
◎:5%以下
○:5%超10%以下
△:10%超20%以下
×:20%超
【0107】
(5)固着防止性
農業用薬剤の固着とは、農業用薬剤の粒どうしが接触部分で合着して塊になる現象であり、施薬性(散布性)を悪化させる。また均一に散布できなかった場合には、薬効にバラつきが生じる等の悪影響を与えることがある。本発明において、固着防止性は、下記方法で求めた固着率(%)に基づいて評価する。
ポリ袋に各(Y)又は(比Y)100gを充填したものを3袋作成した。3袋を重ねて置き、一番上の袋の上に木製板を置き、更に木製板の上に3kgの錘を載せて荷重し、温度25℃、湿度50%の条件で1か月間静置した。1ヶ月後、3袋のうち真ん中に積んでいた袋の中から(Y)又は(比Y)を取り出し、3粒以上が合着している合着粒子の合計重量(g)を測定した。固着率(%)を下記式で算出し、下記基準で固着防止性を評価した。
固着率(%)={(1ヶ月後の合着粒子の合計重量[g])/100[g]}×100
[評価基準]
◎:20%以下
○:20%超40%以下
△:40%超60%以下
×:60%超
【0108】
(6)流動性
JIS Z2502(金属粉-流動度測定方法)を参考に、漏斗状オリフィス管を用いて各(Y)及び(比Y)の流動性を測定した。流動性が高いほど、農業用薬剤のハンドリング性(施薬性等)が向上する傾向がある。
オリフィスの口径12mmφ、オリフィス長さ55mm、漏斗状部の上端部の口径75mmφ、漏斗状部の長さ50mmである、漏斗状オリフィス管を用意し、垂直となるように支持台を用いて固定する。オリフィスをふさいだまま、(Y)又は(比Y)50gを漏斗状部に入れる。オリフィスを開けると同時にストップウォッチを作動させ、全量がオリフィス管から出るまでの時間(秒)を測定して、単位重量あたりの粒子の落下時間を流動度(秒/g)として算出する。各(Y)及び(比Y)について、3度の測定を行い、その算術平均値を算出し、下記基準で流動性を評価した。
[評価基準]
◎:1.0秒/g以下
○:1.0秒/g超1.5秒/g以下
△:1.5秒/g超2.0秒/g以下
×:2.0秒/g超
本発明の徐溶性農業用薬剤用被覆材組成物は、被覆層の生分解性と薬剤の徐溶性のコントロールを高いレベルで両立し、かつ優れた耐衝撃性、固着防止性及び流動性を有する徐溶性農業用薬剤を与えることができるため、農業用薬剤(肥料、農薬及び害生物防除剤等)、とりわけ田畑及び水田等に散布する農業用薬剤の被覆層として好適に使用でき、有用である。