(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079668
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】パターン膜及び物品
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240604BHJP
C08F 20/20 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
C08F20/20
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017256
(22)【出願日】2024-02-07
(62)【分割の表示】P 2019193248の分割
【原出願日】2019-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 喜己
(57)【要約】
【課題】特殊な構造を有しているパターン膜を提供する。
【解決手段】本発明のパターン膜2は、パターン密度が異なる複数の部分を含み、前記複数の部分のうちの1以上は多孔質であり、多孔質である前記1以上の部分の1つと比較して、前記複数の部分の他の1以上は、パターン密度及び多孔度がより低い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン密度が異なる複数の部分を含み、前記複数の部分のうちの1以上は多孔質であり、多孔質である前記1以上の部分の1つと比較して、前記複数の部分の他の1以上は、パターン密度及び多孔度がより低いパターン膜。
【請求項2】
前記複数の部分のうち、パターン密度がより低いものは、パターン密度がより高いものと同等以下の多孔度を有している請求項1に記載のパターン膜。
【請求項3】
前記複数の部分の1以上は非多孔質である請求項1又は2に記載のパターン膜。
【請求項4】
線幅が10μm乃至5mmの範囲内にある請求項1乃至3の何れか1項に記載のパターン膜。
【請求項5】
高低差が10μm乃至2mmの範囲内にある請求項1乃至4の何れか1項に記載のパターン膜。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のパターン膜と、前記パターン膜を支持した基材とを備えた物品。
【請求項7】
前記パターン膜を間に挟んで前記基材に貼り付けられた層を更に備えた請求項6に記載の物品。
【請求項8】
前記パターン膜に担持された色材を更に備えた請求項6又は7に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン膜に関する。
【背景技術】
【0002】
パターン膜の形成方法として、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射を利用する方法やブロック共重合体などの自己組織化材料を用いる方法など様々な方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-260330号公報
【特許文献2】特開2016-197176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特殊な構造を有しているパターン膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面によると、パターン密度が異なる複数の部分を含み、前記複数の部分のうちの1以上は多孔質であり、多孔質である前記1以上の部分の1つと比較して、前記複数の部分の他の1以上は、パターン密度及び多孔度がより低いパターン膜が提供される。
【0006】
本発明の第2側面によると、第1側面に係るパターン膜と、前記パターン膜を支持した基材とを備えた物品が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特殊な構造を有しているパターン膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る物品の一部を概略的に示す断面図。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る物品の他の部分を概略的に示す断面図。
【
図3】エマルジョンからなる膜が基材上に形成された状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図4】紫外線のパターン照射により、紫外線を照射した領域に、分散粒子の硬化物からなる粒状層が形成された状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図5】膜からの第2液体の除去を開始することにより、非照射領域において分散粒子の合一が起こった状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図6】非照射領域において分散粒子の合一が更に進行し、分散粒子の合一体が、分散粒子の硬化物からなる粒状層に浸透し、拡散していく状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図7】第2液体の除去が完了し、分散粒子の合一体が粒状層に完全に移動した状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図8】紫外線の全面照射により、未硬化の第1液体を硬化させた状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る物品の一部を概略的に示す断面図。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る物品の他の部分を概略的に示す断面図。
【
図11】本発明の第3実施形態に係る物品の一部を概略的に示す断面図。
【
図12】本発明の第3実施形態に係る物品の他の部分を概略的に示す断面図。
【
図13】実施例で調製した第1乃至第3エマルジョンの粒度分布を示すグラフ。
【
図14】第1エマルジョンを使用し、ライン幅とスペース幅とを変更して形成したラインアンドスペースパターンの断面を示す走査電子顕微鏡写真。
【
図15】第2エマルジョンを使用し、ライン幅とスペース幅とを変更して形成したラインアンドスペースパターンの断面を示す走査電子顕微鏡写真。
【
図16】第3エマルジョンを使用し、ライン幅とスペース幅とを変更して形成したラインアンドスペースパターンの断面を示す走査電子顕微鏡写真。
【
図17】
図15の写真の一部を画像解析することにより得られた濃度分布を示すグラフ。
【
図18】
図14乃至
図16の写真を画像解析することにより得られた濃度分布の標準偏差にライン幅とスペース幅との比が及ぼす影響を示すグラフ。
【
図19】第1乃至第3エマルジョンを使用し、ライン幅とスペース幅とを変更して形成したラインアンドスペースパターンのライン部上面を示す光学顕微鏡写真。
【
図20】
図19の写真を画像解析することにより得られた濃度の平均値にライン幅とスペース幅との比が及ぼす影響を示すグラフ。
【
図21】
図14乃至
図16の写真を画像解析することにより得られた濃度分布の標準偏差と、
図19の写真を画像解析することにより得られた濃度の平均値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る物品の一部を概略的に示す断面図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係る物品の他の部分を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1及び
図2に示す物品は、基材1とパターン膜2とを含んでいる。
基材1の材質及び形状は任意である。基材1は、滑らかな表面を有していることが望ましい。基材1としては、例えばフィルムやシートを使用することができる。
【0012】
パターン膜2は、基材1によって支持されている。
図1及び
図2に示す例では、パターン膜2は、ラインアンドスペースパターンを形成している。パターン膜2は、ラインアンドスペースパターン以外のパターンを形成していてもよい。
【0013】
パターン膜2は、パターン密度が異なる複数の部分を含んでいる。ここで、用語「パターン密度」は、パターン膜2とその開口部とが位置した領域の面積に占めるパターン膜2が位置した領域の面積の割合を意味している。例えば、パターン膜2がラインアンドスペースパターンを形成している場合、或る部分のパターン密度は、この部分における、ライン部の幅WLとスペース部の幅WSとの和WL+WSに対するライン部の幅WLの比WL/(WL+WS)である。
【0014】
パターン膜2が含んでいる複数の部分のうち、1以上は多孔質である。
図2には、そのような部分の一例を描いている。
図2の部分は、
図1の部分と比較して、比W
L/(W
L+W
S)がより大きい。即ち、
図2の部分は、
図1の部分と比較して、パターン密度がより高い。
【0015】
パターン膜2が含んでいる複数の部分のうち、他の1以上は、多孔質である上記1以上の部分の1つと比較して、パターン密度及び多孔度がより低い。そのような部分は、多孔質であってもよく、非多孔質であってもよい。
図1には、非多孔質の部分の一例を描いている。
【0016】
パターン膜2は、パターン密度が異なる3以上の部分を含むことができる。この場合、1以上の部分が多孔質であり且つ2以上の部分が非多孔質であってもよい。或いは、2以上の部分が多孔質であり且つ1以上の部分が非多孔質であってもよい。この場合、これら3以上の部分のうち、パターン密度がより低いものは、パターン密度がより高いものと同等以下の多孔度を有していることが好ましい。一例によれば、パターン密度が0.5以下の部分は非多孔質であり、パターン密度が0.6以上の部分は多孔質である。
【0017】
この多孔度は、パターン膜2の断面の画像解析によって得られる濃度分布の標準偏差と相関している。パターン膜2のうちパターン密度が0.6以上の部分の断面の画像解析によって得られる濃度分布の標準偏差は、好ましくは5以上であり、より好ましくは10以上である。
【0018】
パターン密度が異なる複数の部分について得られる上記標準偏差の最大値と最小値との比は、4.3以上であることが好ましく、20.3以上であることがより好ましい。この比が小さい場合、多孔度の相違も小さい。なお、この比に上限はないが、通常は30.0以下である。
【0019】
この画像解析には、画像処理ソフトウェアImage Jを使用する。具体的には、パターン膜断面の各画像において、破断部などのコントラストノイズとなる部分を含まない領域を選択する。そして、選択した各領域について、256諧調のグレースケールにおける濃度分布の標準偏差を特徴として抽出する。選択した領域に空孔(粒子間の隙間)がない場合には標準偏差は小さく、空孔が多くなるほど、即ち、多孔度が高くなるほど、標準偏差は大きくなる。従って、上記の比は、多孔度の比の指標となる。
【0020】
パターン膜2の各部分の多孔度は、その部分の光散乱性とも相関している。また、パターン膜2の各部分の多孔度は、その部分のパターン密度と相関している。それ故、パターン膜2の各部分の光散乱性は、その部分のパターン密度と相関している。具体的には、パターン密度が異なる複数の部分について、それらの表面の画像解析によって得られる濃度分布の平均値は、それら部分のパターン密度と正の相関を有している。なお、この画像解析は、上記と同様の方法により行う。
【0021】
パターン密度が異なる複数の部分について、それらの表面の画像解析によって得られる濃度分布の平均値は、それら部分の光散乱性と正の相関を有している。そして、パターン膜2の各部分の光散乱性は、その部分の多孔度と正の相関を有している。それ故、パターン密度が異なる複数の部分について、それらの断面の画像解析によって得られる濃度分布の標準偏差は、それらの表面の画像解析によって得られる濃度分布の平均値と正の相関を有している。なお、この画像解析は、上記と同様の方法により行う。
【0022】
パターン膜2は、後述する分散粒子の硬化物21b1と、重合相21b2とを含んでいる。
【0023】
分散粒子の硬化物21b1は、粒状層21bを形成している。粒状層21bは、多孔質層である。
【0024】
重合相21b2は、粒状層21bが含んでいる粒子間の隙間に位置している。パターン膜2のうち、パターン密度がより低い部分では、パターン密度がより高い部分と比較して、これら隙間のより多くが、重合相21b2によって埋め込まれている。他方、パターン膜2のうち、パターン密度がより高い部分では、パターン密度がより低い部分と比較して、これら隙間のより多くが、重合相21b2によって埋め込まれずに残されている。その結果、上述した多孔度の相違を生じている。
【0025】
パターン膜2は、例えば、高分子材料からなる。また、パターン膜2は、例えば、その全体が同一の材料からなる。一例によれば、硬化物21b1と重合相21b2とは、同一の高分子材料からなる。この場合、硬化物21b1と重合相21b2とは、重合度が等しくてもよく、異なっていてもよい。後者の場合、硬化物21b1は、重合相21b2と比較して、より高い重合度を有していてもよい。
【0026】
なお、
図1及び
図2には、粒状層21bからなるパターンの開口部に重合相21b2は存在していない。粒状層21bからなるパターンの開口部には、重合相21b2が、粒状層21bよりも薄い層の形態で存在していてもよい。
【0027】
このパターン膜2は、例えば、以下に説明する方法(エマルジョン形質変化型パターニング技術又はEmulsion Transforming Method for Patterning; ET法と称する)により形成することができる。
<エマルジョンの調製>
先ず、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンを調製する。
【0028】
エマルジョンは、水中油型(O/W型)エマルジョンであってもよいし、油中水型(W/O型)エマルジョンであってもよい。
【0029】
分散粒子は、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む。活性エネルギー線としては、例えば、可視光、紫外線、電子線、及びX線が挙げられる。第1液体としては、例えば、アクリル系モノマー若しくはオリゴマー、メタクリル系モノマー若しくはオリゴマー、エポキシ系モノマー若しくはオリゴマー、又はそれらの1以上を含んだ混合物を用いることができる。第1液体としては、選択肢が広いことや物性調整の自由度が大きいことなどの利点から、アクリル系モノマー若しくはオリゴマー、又は、メタクリル系モノマー若しくはオリゴマーを用いることが好適である。第1液体としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレートなどを用いることができる。第1液体中にモノマー及びオリゴマーが占める割合は、例えば30乃至100質量%である。
【0030】
なお、活性エネルギー線の照射により硬化する液体は、親油性であるもののほうが、親水性であるものよりも種類が多い。従って、O/W型エマルジョンのほうが、W/O型エマルジョンよりも材料選択の自由度が高い。
【0031】
分散媒は、活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む。第1液体が親油性である場合、第2液体は、親水性液体、例えば水、メタノールやエタノールなどの低級アルコール、又はそれらの混合物とすることができる。他方、第1液体が親水性液体である場合、第2液体は、親油性液体、例えばイソパラフィン系溶剤やミネラルスピリットなどとすることができる。
【0032】
分散粒子のサイズは、形成すべきパターンサイズにも依存するが、0.5μm乃至0.5mmの平均粒径を有することが好ましい。ここで、「平均粒径」は、レーザー回折・散乱法に従った粒度分布測定によって得られる重量平均径である。分散粒子が上記サイズを有すると、後の工程で、未硬化の第1液体を粒子間の隙間へ効率良く浸透させることができる。
【0033】
また、エマルジョン中に分散粒子が占める割合は、好ましくは25質量%以上である。分散粒子がエマルジョン中で上記割合を占めると、活性エネルギー線を照射した領域の温度を、重合熱を有効に利用して上昇させることによって、第1液体を含む分散粒子の分散状態を不安定化させると同時に凝集層を形成させることができる。また、エマルジョン中に分散粒子が占める割合の上限は、エマルジョンの転相が生じない範囲であればよく、特に限定するものではない。一例によれば、この割合は70~80質量%以下である。
【0034】
第1液体は、光重合開始剤を更に含んでいてもよい。光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤を用いることができる。アルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。第1液体は、光重合開始剤を、モノマー及びオリゴマーの合計量100質量部に対して、例えば0.1乃至10質量部の量で含むことができる。
【0035】
エマルジョンが例えばO/W型である場合、分散粒子は、第1液体に加えて、ハイドロホーブを含んでいてもよい。ハイドロホーブとしては、例えば、セチルアルコールなど水への溶解性が低い高級アルコール、ヘキサデカン、炭化水素鎖の分子量が比較的大きいラウリルメタクリレートやステアリルメタクリレートなどの重合性モノマー、疎水性色素、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンなどの高分子等が挙げられる。ハイドロホーブは、エマルジョンを安定化する役割を果たす。ハイドロホーブは、100質量部の第1液体に対して、例えば0.1乃至10質量部の量で含むことができる。
【0036】
分散媒は、界面活性剤を更に含んでいてもよい。界面活性剤としては、例えば、乳化重合の用途で市販されているものを使用することができる。界面活性剤としては、例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホサクシネート型界面活性剤を使用することができる。エマルジョンは、界面活性剤を、エマルジョンの総質量に対して、例えば0.1乃至5.0質量%の量で含むことができる。
【0037】
O/W型エマルジョンの場合、エマルジョン化と分散粒子の安定性とを確保するために、分散媒は、界面活性剤を含むことが一般的である。また、O/W型エマルジョンは、エマルジョンの長期保存安定性を改善するために、分散媒中に水溶性の高分子やセルロースナノファイバ等を含むこともできる。更に必要に応じて、O/W型エマルジョンは、分散媒中に粘度調整剤や消泡剤を含むこともできる。
【0038】
一方、W/O型エマルジョンの場合、安定なエマルジョンを調製するために、分散媒は、適した親水親油バランス(HLB)価を有するノニオン系界面活性剤や高分子系の分散安定剤を含むことができる。必要に応じて、W/O型エマルジョンは、分散媒中にイオン性の界面活性剤を含むことも有効である。
【0039】
エマルジョンは、公知の乳化・分散技術、例えば、ペイントシェイカ、超音波ホモジナイザ、コロイドミル、ホモジナイザ、及び膜乳化法などを利用することで調製することができる。
【0040】
<膜の形成>
次に、上記エマルジョンからなる膜を基材上に形成する。以下、「エマルジョンからなる膜」を液膜ともいう。具体的には、上記エマルジョンを基材上に塗布することにより液膜を基材上に形成することができる。基材としては、任意の基材を使用することができ、例えばフィルムやシートなどを使用することができる。
【0041】
塗布方法は、特に限定されないが、液膜の厚みに応じて適切な塗布方法、例えば、ダイコート、コンマコート、又はカーテンコートなどを選択することができる。液膜の厚みは、例えば10乃至3000μmとすることができる。また、少量のエマルジョンを塗布して小さい面積の液膜を形成する場合には、必要に応じてディスペンサなどを利用することもできる。
【0042】
図3は、エマルジョンからなる膜が基材上に形成された状態の一例を概略的に示している。
図3において、基材1の上に、分散粒子21aと分散媒22とから構成されるエマルジョンからなる膜2aが形成されている。
【0043】
<活性エネルギー線の照射>
次に、形成された膜に活性エネルギー線をパターン状に照射する。活性エネルギー線の照射は、最終的に得られるパターン膜2が、パターン密度が異なる複数の部分を含むように行う。
【0044】
活性エネルギー線としては、上記の通り、例えば、紫外線、電子線、X線などが挙げられる。パターン照射は、例えば、マスクなどを介して活性エネルギー線を場所選択的に照射することや、レーザー光を位置選択的に照射することにより実施することができる。
【0045】
活性エネルギー線のパターン照射により、活性エネルギー線が照射された領域(以下、照射領域ともいう)では、分散粒子に含まれる第1液体が重合により硬化する。これにより、分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成することができる。
【0046】
図4は、紫外線のパターン照射により、紫外線を照射した領域に、分散粒子の硬化物からなる粒状層が形成された状態の一例を概略的に示している。
【0047】
図4に示すように、紫外線が照射された領域では、分散粒子21aに含まれる第1液体が重合により硬化して、分散粒子21aは、分散粒子の硬化物21b1になる。分散粒子の硬化物21b1は凝集して積層し、結果として、分散粒子の硬化物21b1からなる粒状層21bが形成される。この粒状層21bからなるパターンは、最終的に得られるパターン膜2と同様に、パターン密度が異なる複数の部分を含んでいる。
【0048】
紫外線が照射された領域において、分散媒22に含まれる第2液体は硬化しないため、分散媒22は粒状層21b内に、具体的には、硬化物21b1間の隙間に存在する。一方、
図4において、紫外線が照射されなかった領域(以下、非照射領域ともいう)において、分散粒子21aに含まれる第1液体は未硬化のままである。
【0049】
照射領域における硬化物21b1の凝集メカニズムについて、本発明者は、この理由を以下のように考えている。
【0050】
活性エネルギー線の照射により、分散粒子21aは重合発熱し、これにより照射領域の温度が上昇する。この温度上昇により、分散粒子21a表面に吸着して分散粒子21aを分散安定化させていた界面活性剤が脱着する。これにより、重合が進行した分散粒子21aの表面電位が低下する。その結果、分散粒子21a又はその硬化物21b1の分散が不安定となり、粒子の凝集が促進される。また、粒子が凝集し、粒子同士が接触する過程において、粒子間で重合架橋を生じる可能性もある。
【0051】
また、この凝集は、重合発熱による温度上昇によって脱離した界面活性剤が粒子に再吸着する前に完了する。これにより、凝集した粒子は、再分散されずにその凝集状態を維持する。
【0052】
照射領域における硬化物21b1の凝集は、予め分散媒中に架橋剤を配合しておくことで促進してもよい。こうすると、活性エネルギー線照射時に、粒子間での架橋形成を生じ易くなり、その結果、粒子の凝集が促進される。
【0053】
<第2液体の除去>
活性エネルギー線の照射後に、膜から第2液体の少なくとも一部を除去する。この工程では、第2液体の少なくとも一部を除去すればよいが、第2液体の全てを除去してもよい。第2液体の除去は、例えば、膜を乾燥させることにより実施することができる。乾燥は、第2液体が、液膜を形成した直後の第2液体の量の30質量%以下の量になるまで行うことが好ましく、5質量%以下の量になるまで行うことがより好ましい。第2液体の除去は、膜を室温に放置することにより実施してもよいが、膜を加熱乾燥させることにより実施することが好ましい。加熱乾燥は、例えば、膜を40乃至100℃の範囲内の温度で0.1乃至1時間に亘って加熱することにより行うことができる。第2液体の除去により、未硬化の第1液体の少なくとも一部を、活性エネルギー線を照射していない領域から、分散粒子の硬化物からなる粒状層へと移動させることができる。
【0054】
この工程では、第2液体の除去により、未硬化の第1液体の少なくとも一部を、非照射領域から分散粒子の硬化物からなる粒状層へと移動させる。非照射領域から粒状層への未硬化の第1液体の移動は、その全てが粒状層へと移動するように行ってもよく、その一部のみが粒状層へ移動するように行ってもよい。
【0055】
なお、この方法では、活性エネルギー線の照射後に現像工程、即ち、未硬化の第1液体の現像液を用いた除去は行う必要はない。
【0056】
図5乃至
図7は、第2液体の除去により起こる膜の状態変化の一例を概略的に示している。
図5は、膜からの第2液体の除去を開始することにより、非照射領域において分散粒子の合一が起こった状態の一例を概略的に示している。
図6は、非照射領域において分散粒子の合一が更に進行し、分散粒子の合一体が、分散粒子の硬化物からなる粒状層に浸透し、拡散していく状態の一例を概略的に示している。
図7は、第2液体の除去が完了し、分散粒子の合一体が粒状層に完全に移動した状態の一例を概略的に示している。
【0057】
分散媒22に含まれる第2液体の一部を膜2aから除去すると、
図5に示すように、照射領域では、粒状層21b内の粒子間の隙間を満たしていた第2液体が減少し、非照射領域では、第2液体が減少するとともに、分散粒子21aの合一が起こり、それらの合一体21a’が形成される。そして、
図6に示すように、これら合一体21a’を形成している未硬化の第1液体は、粒状層21b内の隙間へ浸透し、粒状層21b内へ拡散する。この浸透及び拡散は、毛細管力により進行すると考えられる。
【0058】
第2液体の除去が完了すると、非照射領域から粒状層21bへの未硬化の第1液体の移動は完了する。その結果、例えば、
図7に示す構造が得られる。なお、膜から第2液体を完全に除去すると、膜中に残留している液体は、例えば、分散粒子21a又はそれらの合一体21a’を構成している液体のみになる。
【0059】
上記の通り、粒状層21bからなるパターンは、最終的に得られるパターン膜2と同様に、パターン密度が異なる複数の部分を含んでいる。以下に説明するように、粒状層21b内の隙間へ浸透する第1液体の量は、パターン密度がより低い部分と、パターン密度がより高い部分とで異なる。
【0060】
即ち、パターン密度がより低い部分の周囲には、より広い非照射領域が存在し、それ故、より多量の第1液体が存在する。他方、パターン密度がより高い部分の周囲には、より狭い非照射領域が存在し、それ故、より少量の第1液体が存在する。
【0061】
その結果、パターン密度がより低い部分では、粒状層21b内の隙間に、より多量の第1液体が浸透する。例えば、隙間の全体が第1液体で満たされる。
【0062】
他方、パターン密度がより高い部分では、粒状層21b内の隙間に、より少量の第1液体が浸透する。例えば、隙間の一部のみが第1液体で満たされる。
【0063】
<パターンの定着>
最後に、第2液体を除去した膜が含んでいる未硬化の第1液体を硬化させる。未硬化の第1液体の硬化は、例えば、活性エネルギー線を膜全体に照射することにより行うことができる。これにより、パターン膜が形成される。
【0064】
図8は、紫外線の全面照射により、未硬化の第1液体を硬化させた状態の一例を概略的に示している。
図8に示すように、紫外線を膜全体に照射すると、未硬化の第1液体は、重合により硬化する。その結果、重合相21b2が形成される。また、粒状層21bを構成している硬化物21b1では、紫外線照射により更なる重合が進行する。これにより、分散粒子の硬化物21b1と重合相21b2とからなるパターン膜2が形成される。
【0065】
上記の通り、紫外線の全面照射前において、粒状層21bのうち、パターン密度がより低い部分は、その隙間の全体が第1液体で満たされており、パターン密度がより高い部分では、その隙間の一部のみが第1液体で満たされている。従って、紫外線の全面照射を行うことによって得られるパターン膜2では、パターン密度がより高い部分は、パターン密度がより低い部分と比較して、より高い多孔度を有している。
【0066】
なお、未硬化の第1液体の硬化は、上述の通り、非照射領域に存在している未硬化の第1液体の全てが、この領域から粒状層へと移動した後に行うことができる。或いは、未硬化の第1液体の硬化は、非照射領域に存在している未硬化の第1液体の一部のみが、この領域から粒状層へと移動したときに行うこともできる。例えば、活性エネルギー線の膜全体への照射を、膜から第2液体を完全に除去する前(即ち、非照射領域の第1液体が粒状層に浸透し、粒状層内へと拡散していく途中の段階)、例えば
図6の段階で行ってもよい。こうすると、非照射領域に厚さを有し、照射領域が非照射領域よりも厚いパターン膜を得ることができる。
【0067】
<効果>
上記の通り、このパターン膜2は、パターン密度が異なる複数の部分を含んでいる。これら複数の部分のうち、1以上は多孔質であり、他の1以上は、パターン密度及び多孔度がより低い。それ故、このパターン膜2を備えた物品では、パターン密度がより高い部分に対応した領域は、パターン密度がより低い部分に対応した領域と比較して、光散乱性がより高い。従って、この物品は、光散乱性の相違を利用して、例えば、画像や模様等を表示することが可能である。
【0068】
また、このパターン膜2は、エマルジョンの膜に対して、活性エネルギー線をパターン照射し、その後、第2液体を除去するだけで、自己組織化的に形成することができる。この方法では、ガイドパターンを予め基材上に設ける必要はないし、現像工程も必要としない。従って、このパターン膜2は、簡便な方法で製造することができる。
【0069】
また、従来技術により実現できるパターンサイズは、例えば、数nm乃至数百μmの線幅や数nm乃至数百μmの高低差であったところ、上記方法によれば、幅広い範囲のパターンサイズを実現可能である。例えば、上記方法によると、線幅や高低差が大きいパターン膜、例えば、マイクロオーダーからミリオーダーまでの線幅やマイクロオーダーからミリオーダーまでの高低差を有するパターン膜を形成することが可能である。一例によれば、上記方法によると、線幅が10μm乃至5mmの範囲内にあるパターン膜や高低差が10μm乃至2mmの範囲内にあるパターン膜を形成することができる。
【0070】
更に、上記方法は、パターンの形やサイズの制御性に優れており、種々の形やサイズのパターン膜を形成することが可能である。
【0071】
[第2実施形態]
図9は、本発明の第2実施形態に係る物品の一部を概略的に示す断面図である。
図10は、本発明の第2実施形態に係る物品の他の部分を概略的に示す断面図である。
【0072】
第2実施形態に係る物品は、以下の点を除き、第1実施形態に係る物品と同様である。即ち、第2実施形態に係る物品は、
図9及び
図10に示すように、パターン膜2を間に挟んで基材1に貼り付けられた層3を更に備えている。層3は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。一例によれば、層3は、パターン膜2を損傷から保護する保護層としての役割を果たす。
【0073】
層3は、接着層4によって、基材1及びパターン膜2に貼り付けられている。接着層4は、接着剤又は粘着剤からなる。接着層4は、パターン膜2の隙間を埋め込んでいる。通常、接着層4はパターン膜2とは屈折率が異なっているので、この物品も、第1実施形態に係る物品と同様の光学的効果を奏する。
【0074】
接着層4は、パターン膜2の隙間を埋め込んでいなくてもよい。このような構造を有している物品も、第1実施形態に係る物品と同様の光学的効果を奏する。
【0075】
また、この物品では、パターン密度がより高い部分に対応した位置と、パターン密度がより低い部分に対応した位置とで、層3の剥がれ易さが相違し得る。例えば、パターン密度がより高い部分と、パターン密度がより低い部分とは、それらの構造の相違に起因して、層3に対する接着力が相違し得る。また、パターン密度がより高い部分と、パターン密度がより低い部分とは、それらの構造の相違に起因して、脆性破壊の生じ易さが相違し得る。従って、この物品は、例えば、これが貼り付けられた他の物品から剥がそうとすると何れかの層が脆性破壊する脆性ラベルとしても使用することができる。
【0076】
なお、接着層4を介して層3を貼り付ける代わりに、基材1及びパターン膜2上に塗工液を塗布し、この塗膜を硬化させてもよい。このようにして得られる層も、例えば、保護層として使用することができる。
【0077】
[第3実施形態]
図11は、本発明の第3実施形態に係る物品の一部を概略的に示す断面図である。
図12は、本発明の第3実施形態に係る物品の他の部分を概略的に示す断面図である。
【0078】
第3実施形態に係る物品は、以下の点を除き、第1実施形態に係る物品と同様である。即ち、第3実施形態に係る物品は、
図11及び
図12に示すように、パターン膜2に担持された色材5を更に備えている。色材5は、例えば、染料、顔料又はそれらの組み合わせである。
【0079】
パターン膜2のうち、パターン密度がより高い部分は、パターン密度がより低い部分と比較して、より多量の色材5を担持している。それ故、この物品では、パターン密度がより高い部分に対応した領域は、パターン密度がより低い部分に対応した領域と比較して、より強く着色している。従って、この物品には、例えば、着色画像や、木目調の模様などの着色模様を表示させることができる。なお、基材1の表面は、色材5を担持していてもよく、担持していなくてもよい。
【0080】
この物品は、例えば、以下の方法により製造する。
先ず、第1実施形態に係る物品を製造する。次に、この物品へ色材5を供給し、余剰の色材5を除去する。或いは、この物品へ、色材5を含んだ溶液又は分散液を供給し、溶媒又は分散媒を除去する。
【0081】
上記の通り、パターン膜2のうち、パターン密度がより高い部分は、パターン密度がより低い部分と比較して、より高い多孔度を有している。それ故、前者は、後者と比較して、より高い吸着能を有している。従って、この方法によると、パターン密度がより高い部分と、パターン密度がより低い部分とで、色材5の担持量が異なる物品を得ることができる。
【0082】
[第4実施形態]
第3実施形態において説明した着色法は、以下に説明するように、例えば、セキュリティ技術へ応用することも可能である。
【0083】
第1実施形態に係る物品では、パターン密度がより高い部分に対応した領域は、パターン密度がより低い部分に対応した領域と比較して、光散乱性がより高い。それ故、基材1が着色している場合には、パターン密度がより高い部分に対応した領域は、例えば白色に見え、パターン密度がより低い部分に対応した領域は、基材1の色又はそれにより近い色に見え、パターン膜2の開口部に対応した領域は基材1の色に見える。また、基材1が無色透明であり、物品の背景が着色している場合、パターン密度がより高い部分に対応した領域は、例えば白色に見え、パターン密度がより低い部分に対応した領域は、背景の色又はそれにより近い色に見え、パターン膜2の開口部に対応した領域は背景の色に見える。
【0084】
これに対し、基材1が白色であるか、又は、基材1が無色透明であり且つその背景が白色である場合、パターン密度がより高い部分に対応した領域、パターン密度がより低い部分に対応した領域、パターン膜2の開口部に対応した領域の何れも白色に見える。即ち、この場合、パターン膜2は、第3実施形態において説明した方法で着色することにより顕像化する潜像を構成する。従って、この物品を潜像が記録されたセキュリティ素子として使用した場合、第3実施形態において説明した着色法で潜像を顕像化し、この顕像を確認することにより、真偽判定を行うことができる。
【実施例0085】
<第1エマルジョンの調製>
以下の材料を用いてO/W型エマルジョンを調製した。
モノマー又はオリゴマー:トリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学社製ライトアクリレート(登録商標)TMP-A)
光重合開始剤:1-ベンゾイルシクロヘキサノール(DKSHジャパン社から市販されているLunacure(登録商標)200)
界面活性剤:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(三洋化成工業社製サンモリン(登録商標)OT-70)
第2液体:蒸留水
先ず、容量が50mLの褐色バイアル瓶に、0.375gのLunacure(登録商標)200、0.259gのサンモリン(登録商標)OT-70、及び7.5gのライトアクリレート(登録商標)TMP-Aをこの順に投入し、これをボールミルロール上での回転混合処理に供した。次に、このバイアル瓶に9gの蒸留水を更に投入し、これを乳化分散処理に供した。乳化分散処理は、プロペラ撹拌により行った。プロペラの回転数は738rpmとし、撹拌時間は10分間とした。その後、バイアル瓶を2時間の回転混合に供した。以上のようにして、第1エマルジョンを調製した。
【0086】
<第2エマルジョンの調製>
乳化分散処理を、ペイントシェイカを用いて行ったこと以外は、第1エマルジョンについて上述したのと同様の方法により、第2エマルジョンを調製した。ここでは、浅田鉄工社製ペイントシェイカPC1171を使用し、ペイントシェイカによる振とうは30秒間行った。
【0087】
<第3エマルジョンの調製>
乳化分散処理をハンドシェイクによって行ったこと以外は、第1エマルジョンについて上述したのと同様の方法により、第3エマルジョンを調製した。ここでは、ハンドシェイクによる振とうは10回行った。
【0088】
<粒度分布の測定>
第1乃至第3エマルジョンの各々について、粒度分布及び平均粒径を測定した。この測定には、日機装社製の粒度分布計測装置Microtrac MT3300EXIIに、日機装社製の液循環ポンプMicrotrac USVRを装着した計測システムを使用し、平均粒径としては重量平均径を求めた。なお、得られたエマルジョンは、第1液体を含む分散粒子(以下、エマルジョン液滴ともいう)と、第2液体を含む分散媒とから構成される。第1乃至第3エマルジョンの平均粒径を、以下の表1に纏める。また、第1乃至第3エマルジョンの粒度分布を
図13に示す。
【0089】
【0090】
<膜の形成>
第1乃至第3エマルジョンの各々を用いて、以下の方法により複数の膜を形成した。 先ず、顕微鏡用スライドグラスの表面に、幅が20mmであり、厚みが80μmのスリーエム社製マスキングテープを5層貼り付けた。この5層の積層体の中心部を長方形状に切り抜き、これにより、深さが400μmであり、開口部の寸法が10mm×30mmである液溜めを有するセル(以下、液溜めセルという)を作製した。
【0091】
次に、マイクロピペットによって112μLのエマルジョンを採取し、これを液溜めセルに展開、充填することで、比重を考慮した計算値としての厚みが約375μmのエマルジョンからなる膜(即ち液膜)を形成した。
【0092】
<紫外線の照射>
上記液膜上に、ストライプ状開口を有する厚みが0.25mmの銅製マスクを、厚みが1mmのアルミ製スペーサを介して液面と接触しないように設置した。ここでは、銅製マスクとして、ラインアンドスペースパターンに対応したストライプ状の開口部を各々が有し、ライン部及びスペース部の幅が異なる複数のマスクを使用した。
【0093】
次に、UV平行光露光機(SAN-EI ELECTRONIC社製 UVC-2502S)を使用して、照度4.6mW/cm2の紫外線をマスク上から8秒間照射することで、各液膜に積算光量36.8mJ/cm2の露光を与えた。これにより、紫外線を照射した領域で、第1液体を重合させて、分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成した。
【0094】
<膜の乾燥>
次いで、紫外線露光後の膜に対して、室温下で90分間の自然乾燥(22℃、49%RH)を行った。これにより、膜から水を除去した。
【0095】
<パターンの定着>
最後に、乾燥後の膜に対して、積算光量414mJ/cm2(=4.6mW/cm2×90秒)の紫外線を全面露光した。これによりパターンを定着させた。以上のようにして、パターン膜を形成した。
【0096】
<パターン膜表面の撮像>
ズームレンズ(HOZAN社製L-815)を装着したデジタルカメラ(HOZAN社製L-835)を用いて、各パターン膜の表面を撮影した。このようにして得られた画像の一部を
図19に示す。尚、パターン膜の撮影は、パターンを形成したスライドグラスの背面に黒色紙を置いて実施した。
【0097】
<パターン膜断面の撮像>
先ず、ピンセットを用いて、各パターン膜をスライドグラスから剥離した。次に、各パターン膜を折り、破断面を生じさせた。なお、高い多孔度を有し、脆いパターン膜については、剃刀を用いて断面を形成した。次いで、断面を形成した各パターン膜を断面観察用試料台にカーボン両面導電テープで固定し、その上に金をスパッタリングした。以上のようにして、走査電子顕微鏡(SEM)による観察用の試料を作成した。そして、各試料の断面をSEMで撮影した。このようにして得られた画像を
図14乃至
図16に示す。
【0098】
なお、
図14は、第1エマルジョンを使用し、ライン幅とスペース幅とを変更して形成したラインアンドスペースパターンの断面を示す走査電子顕微鏡写真である。
図15は、第2エマルジョンを使用し、ライン幅とスペース幅とを変更して形成したラインアンドスペースパターンの断面を示す走査電子顕微鏡写真である。
図16は、第3エマルジョンを使用し、ライン幅とスペース幅とを変更して形成したラインアンドスペースパターンの断面を示す走査電子顕微鏡写真である。
【0099】
<画像解析>
画像処理ソフトウェアImage Jを使用して、画像解析を行った。
具体的には、パターン膜断面の各画像において、破断部などのコントラストノイズとなる部分を含まない領域を選択した。そして、選択した各領域について、256諧調のグレースケールにおける濃度分布の標準偏差を特徴として抽出した。なお、選択した領域に空孔(粒子間の隙間)がない場合には標準偏差は小さく、空孔が多くなるほど、即ち、多孔度が高くなるほど、標準偏差は大きくなる。
【0100】
また、パターン膜表面の各画像についても、上記と同様の方法により、256諧調のグレースケールにおける濃度分布の標準偏差を求めた。更に、この濃度分布から濃度の平均値を算出し、これをパターン膜表面の白さの指標とした。
【0101】
<結果1>
図14乃至
図16を参照すると、ライン幅とスペース幅との比(L/S比)を1乃至1.5以上とした場合に、パターン膜は多孔質になっている。この傾向は、エマルジョンの平均粒径に依存していない。
【0102】
図17に、
図15の写真の一部を画像解析することにより得られた濃度分布を示す。
図17に示すように、ライン幅とスペース幅との比が小さい場合(L/S比=1)、パターン膜断面の画像の濃度、即ち明るさは、比較的狭い範囲で分布している。これに対し、ライン幅とスペース幅との比が大きい場合(L/S比=3)、パターン膜断面の画像の濃度は、比較的広い範囲で分布している。
【0103】
表2に、
図14乃至
図16の写真を画像解析することにより得られた濃度分布の標準偏差を示す。また、
図18に、
図14乃至
図16の写真を画像解析することにより得られた濃度分布の標準偏差にライン幅とスペース幅との比が及ぼす影響を示す。
【0104】
【0105】
表2及び
図18に示すように、第1乃至第3エマルジョンの何れを使用した場合でも、ライン幅とスペース幅との比(L/S比)が大きくなるほど、パターン膜断面の画像について得られる濃度分布の標準偏差は大きくなる。また、エマルジョンの平均粒径が小さいほど、L/S比が標準偏差へ及ぼす影響は大きくなる。
【0106】
そして、
図14乃至
図16と
図18とを対比すると、パターン膜の多孔度と、パターン膜断面の画像について得られる濃度分布の標準偏差とは、正の相関を有していることが分かる。以上から、パターン膜断面の画像について得られる濃度分布の標準偏差は、パターン膜の多孔度の間接的な指標となり得ることが分かる。
【0107】
<結果2>
表3に、
図19の写真を画像解析することにより得られた濃度の平均値を示す。また、
図20に、
図19の写真を画像解析することにより得られた濃度の平均値にライン幅とスペース幅との比が及ぼす影響を示す。
【0108】
【0109】
表3及び
図20に示すように、第1乃至第3エマルジョンの何れを使用した場合でも、ライン幅とスペース幅との比(L/S比)が大きくなるほど、パターン膜表面の画像について得られる濃度の平均値は大きくなる。即ち、L/S比が大きくなるほど、パターン膜の光散乱性は高くなる。また、エマルジョンの平均粒径が小さいほど、パターン膜表面の画像について得られる濃度の平均値は大きくなる。
【0110】
そして、
図19と
図20とを対比すると、パターン膜の白さと、パターン膜表面の画像について得られる濃度の平均値とは、正の相関を有していることが分かる。
【0111】
表4乃至表6に、
図14乃至
図16の写真を画像解析することにより得られた濃度分布の標準偏差と、
図19の写真を画像解析することにより得られた濃度の平均値とを示す。また、
図21に、
図14乃至
図16の写真を画像解析することにより得られた濃度分布の標準偏差と、
図19の写真を画像解析することにより得られた濃度の平均値との関係を示す。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
表4乃至表6及び
図21に示すように、パターン膜断面の画像について得られる濃度分布の標準偏差と、パターン膜表面の画像について得られる濃度の平均値とは、正の相関を有している。
1…基材、2…パターン膜、2a…エマルジョンからなる膜、3…層、4…接着層、5…色材、21a…分散粒子、21a’…合一体、21b…粒状層、21b1…分散粒子の硬化物、21b2…重合相、22…分散媒。