(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079775
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】清掃装置
(51)【国際特許分類】
G06T 19/00 20110101AFI20240604BHJP
A47L 11/29 20060101ALI20240604BHJP
A47L 11/282 20060101ALI20240604BHJP
A47L 9/28 20060101ALI20240604BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240604BHJP
G05D 1/648 20240101ALI20240604BHJP
G05D 1/224 20240101ALN20240604BHJP
【FI】
G06T19/00 600
A47L11/29
A47L11/282
A47L9/28 E
A47L9/28 K
A47L9/28 L
G05D1/43
G05D1/648
G05D1/224
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024047979
(22)【出願日】2024-03-25
(62)【分割の表示】P 2020097351の分割
【原出願日】2020-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000101617
【氏名又は名称】アマノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】仲野 綾華
(72)【発明者】
【氏名】下郡 祐美子
(57)【要約】
【課題】清掃作業の作業性を向上させて、質の高い清掃を効率的に実施する。
【解決手段】手動操作によって清掃部材(16)を移動させながら被清掃面を清掃する清掃装置(1)は、清掃中に被清掃面を撮像部(61)によって撮像し、清掃部材の現在位置を推定し、清掃部材の現在位置までの移動軌跡に基づいて既清掃領域を作成し、清掃部材の現在位置からの移動方向に基づいて将来清掃領域を作成し、表示部(63)によって自装置の現在位置を基準に、既清掃領域及び将来清掃領域を撮像画像内にAR表示する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動操作によって清掃部材を移動させながら被清掃面を清掃する清掃装置であって、
清掃中に被清掃面を撮像する撮像部と、
前記撮像部の撮像画像を表示する表示部と、
前記清掃部材の現在位置を推定する推定部と、
前記清掃部材の現在位置までの移動軌跡に基づいて既清掃領域を作成する第1の作成部と、
前記清掃部材の現在位置からの移動方向に基づいて将来清掃領域を作成する第2の作成部と、を備え、
前記表示部は、自装置の現在位置を基準に、既清掃領域及び将来清掃領域を撮像画像内にAR表示することを特徴とする清掃装置。
【請求項2】
手動操作によって清掃部材を移動させながら被清掃面を清掃する清掃装置であって、
清掃中に被清掃面を撮像する撮像部と、
前記撮像部の撮像画像を表示する表示部と、
前記清掃部材の現在位置を推定する推定部と、
前記清掃部材の現在位置までの移動軌跡に基づいて既清掃領域を作成する第1の作成部と、
前記清掃部材の現在位置からの移動方向に基づいて将来清掃領域を作成する第2の作成部と、を備え、
前記表示部は、障害物までの距離、既清掃領域同士の重なり幅、既清掃領域と将来清掃領域の重なり幅の少なくとも1つを撮像画像内にAR表示することを特徴とする清掃装置。
【請求項3】
学習モードにて手動操作によって前記清掃部材を移動させながら清掃プランを作成し、再現モードにて清掃プランを再現して被清掃面を自律走行清掃しており、
前記表示部は、学習モードにて既清掃領域及び将来清掃領域を撮像画像内にAR表示することを特徴とする請求項1に記載の清掃装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記清掃部材の移動方向、前記清掃部材の周辺の障害物、既清掃領域同士の重なり、既清掃領域と将来清掃領域の重なり、未清掃領域及び移動禁止区域の少なくとも1つを撮像画像内にAR表示することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の清掃装置。
【請求項5】
前記表示部は、既清掃領域と将来清掃領域のAR表示だけが有効な状態と、既清掃領域と将来清掃領域に加えて、前記清掃部材の移動方向、前記清掃部材の移動方向、前記清掃部材の周辺の障害物、既清掃領域同士の重なり、既清掃領域と将来清掃領域の重なり、未清掃領域及び移動禁止区域の少なくとも1つのAR表示が有効な状態と、に切替可能であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の清掃装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清掃装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、清掃済みエリアの清掃度合いをディスプレイに表示する電気掃除機が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の電気掃除機は、掃除機本体から延びる吸引ホースにハンドルが接続され、ハンドルに延長パイプを介して清掃ヘッドが装着されている。清掃ヘッドにはカメラと位置センサが設けられており、ハンドルにはディスプレイが設けられている。清掃中に位置センサの検出結果から清掃済みエリアが特定され、カメラの撮像画像から清掃度合いが求められて、清掃済みエリアが清掃度合いに応じて色分けされてディスプレイに表示される。
【0003】
また、清掃エリアの清掃状態を可視化する自律走行式の清掃装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の清掃装置は携帯端末に通信可能に接続されており、清掃装置にはゴミ検出センサが設けられ、携帯端末にはカメラが設けられている。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)等によって清掃エリアのマップが作成され、ゴミ検出センサの検出結果がマップに付加される。そして、清掃装置から携帯端末に清掃状態が反映されたマップが送信され、このマップがカメラの撮像画像に重ねられて携帯端末のディスプレイに表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-027345号公報
【特許文献2】特開2019-082807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電気掃除機では、清掃済みエリアが清掃度合いに応じて色分けされるため、清掃が途中で中断されても未清掃エリアを把握して清掃を再開することができる。しかしながら、実物と画面を見比べながら清掃しなければならず、作業者にとって煩わしい清掃作業になっていた。特許文献2に記載の清掃装置では、清掃後に撮像画像上に清掃状態が重ねられるため、作業者に清掃不足箇所を認識させて仕上げの清掃作業を促すことができる。しかしながら、清掃中に清掃不足箇所が表示されないため、作業者による清掃作業の効率を向上させることまでは難しい。
【0006】
そこで、本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、清掃作業の作業性を向上させて、質の高い清掃を効率的に実施することができる清掃装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の清掃装置は、手動操作によって清掃部材を移動させながら被清掃面を清掃する清掃装置であって、清掃中に被清掃面を撮像する撮像部と、前記撮像部の撮像画像を表示する表示部と、前記清掃部材の現在位置を推定する推定部と、前記清掃部材の現在位置までの移動軌跡に基づいて既清掃領域を作成する第1の作成部と、前記清掃部材の現在位置からの移動方向に基づいて将来清掃領域を作成する第2の作成部と、を備え、前記表示部は、自装置の現在位置を基準に、既清掃領域及び将来清掃領域を撮像画像内にAR表示する。
【0008】
この構成によれば、清掃中に撮像画像内の被清掃面に既清掃領域と将来清掃領域が自装置の現在位置を基準にして表示部にAR表示され、実際の被清掃面と清掃済みの既清掃領域と清掃予定の将来清掃領域を表示部の同じ画面で視認することができる。このとき、既清掃領域と将来清掃領域を部分的に重ねるように清掃部材を手動操作することで、未清掃領域を生じさせることなく被清掃面を清掃部材によって清掃することができる。よって、清掃作業の作業性を向上させて、質の高い清掃を効率的に実施することができる。
【0009】
本発明の清掃装置は、手動操作によって清掃部材を移動させながら被清掃面を清掃する清掃装置であって、清掃中に被清掃面を撮像する撮像部と、前記撮像部の撮像画像を表示する表示部と、前記清掃部材の現在位置を推定する推定部と、前記清掃部材の現在位置までの移動軌跡に基づいて既清掃領域を作成する第1の作成部と、前記清掃部材の現在位置からの移動方向に基づいて将来清掃領域を作成する第2の作成部と、を備え、前記表示部は、障害物までの距離、既清掃領域同士の重なり幅、既清掃領域と将来清掃領域の重なり幅の少なくとも1つを撮像画像内にAR表示する。この構成によれば、障害物までの距離、既清掃領域同士の重なり幅、既清掃領域と将来清掃領域の重なり幅の少なくとも1つを、より具体的な補助情報として作業者に認識させることができる。
【0010】
本発明の清掃装置において、学習モードにて手動操作によって前記清掃部材を移動させながら清掃プランを作成し、再現モードにて清掃プランを再現して被清掃面を自律走行清掃しており、前記表示部は、学習モードにて既清掃領域及び将来清掃領域を撮像画像内にAR表示してもよい。この構成によれば、学習モードにて質が高く効率的な清掃プランを作成することができる。
【0011】
本発明の清掃装置において、前記表示部は、前記清掃部材の移動方向、前記清掃部材の周辺の障害物、既清掃領域同士の重なり、既清掃領域と将来清掃領域の重なり、未清掃領域及び移動禁止区域の少なくとも1つを撮像画像内にAR表示してもよい。この構成によれば、清掃部材の移動方向、周辺の障害物、既清掃領域同士の重なり、既清掃領域と将来清掃領域の重なり、未清掃領域及び移動禁止区域の少なくとも1つを、補助情報として作業者に認識させることができる。
【0012】
本発明の清掃装置において、前記表示部は、既清掃領域と将来清掃領域のAR表示だけが有効な状態と、既清掃領域と将来清掃領域に加えて、前記清掃部材の移動方向、前記清掃部材の移動方向、前記清掃部材の周辺の障害物、既清掃領域同士の重なり、既清掃領域と将来清掃領域の重なり、未清掃領域及び移動禁止区域の少なくとも1つのAR表示が有効な状態と、に切替可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、清掃作業の作業性を向上させて、質の高い清掃を効率的に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】第1の実施形態の装置本体の制御ブロック図である。
【
図4A】AR表示を無効にした表示画面の一例である。
【
図4B】清掃領域をAR表示した表示画面の一例である。
【
図4C】清掃領域をAR表示した表示画面の一例である。
【
図5A】警告表示をAR表示した表示画面の一例である。
【
図5B】タグ表示をAR表示した表示画面の一例である。
【
図6】第1の実施形態のAR表示処理のフローチャートの一例である。
【
図7】第1の実施形態の凝視警告処理のフローチャートの一例である。
【
図9】第2の実施形態の表示端末の制御ブロック図である。
【
図10】第2の実施形態の追加清掃のフローチャートの一例である。
【
図11A】未清掃領域をAR表示した表示画面の一例である。
【
図11B】追加清掃領域をAR表示した表示画面の一例である。
【
図12】ウェアラブル型表示端末を用いた追加清掃の作業例を示している。
【
図13】第2の実施形態の手動清掃のフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しつつ、第1の実施形態の清掃装置について説明する。
図1は、第1の実施形態の清掃装置の斜視図である。
図2は、第1の実施形態の清掃装置の模式図である。なお、本実施形態では、清掃装置として、自律走行式の清掃装置を例示して説明するが、清掃装置は、手押し式の清掃装置、搭乗式の清掃装置、手持ち式の清掃装置でもよい。
【0016】
図1に示すように、清掃装置1は、商業施設、製造施設、コンコース等の床面(被清掃面)Fを自動運転で清掃可能に構成されている。清掃装置1の装置本体10の下部には、駆動輪としての前輪12と補助輪としての後輪13が設けられている。前輪12と後輪13の間に洗浄パッドや洗浄ブラシ等の清掃部材16が設けられ、清掃部材16の後側にはスキージ17が設けられている。装置本体10の上部後側にはハンドル26が設けられ、ハンドル26の前側には表示端末60が着脱可能にセットされている。装置本体10の前部の窪みには、障害物センサ24が設けられている。
【0017】
図2に示すように、装置本体10には、走行部11、清掃部15、無線通信部21、計測部23、操作部25、記憶部50、電源部29、制御部30が設けられており、表示端末60には前カメラ61、後カメラ62、操作表示部63が設けられている。走行部11は、上記した前輪12、後輪13、走行モータ(不図示)、エンコーダ(不図示)等によって構成されている。走行部11は、走行モータによって前輪12を駆動させて清掃装置1を走行させている。なお、本実施形態には前輪駆動の清掃装置1を例示しているが、走行部11によって後輪13が駆動されてもよいし、走行部11によって両輪が駆動されてもよい。
【0018】
清掃部15は、例えば、湿式清掃によって床面Fを清掃するものであり、上記した清掃部材16及びスキージ17、洗浄モータ(不図示)、アクチュエータ(不図示)、洗浄液供給部(不図示)、汚水回収部(不図示)等によって構成されている。清掃部15は、アクチュエータによって清掃部材16を床面Fに押し付けて、清掃モータによって床面Fに対して清掃部材16を回転させている。このとき、洗浄液供給部によって洗浄液タンクから床面Fに洗浄液が散布されて、スキージ17に集められた汚水が汚水回収部によって汚水タンクに回収される。
【0019】
無線通信部21は、装置本体10と管理端末(不図示)を無線通信によって接続し、装置本体10と表示端末60を無線通信によって接続している。例えば、装置本体10と管理端末はWiFi(登録商標)等の無線LANによって接続され、装置本体10と表示端末60はBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信によって接続されている。管理端末や表示端末60によって装置本体10の遠隔操作が可能になっている。なお、装置本体10と表示端末60は無線通信によって接続される構成に限らず、装置本体10と表示端末60は有線接続されていてもよい。
【0020】
計測部23は、上記した障害物センサ24を備えている。障害物センサ24は、例えば、障害物や壁面からの距離及び角度を計測するLRF(Laser Range Finder)によって構成されている。障害物センサ24から周囲にレーザー光が出射され、物体からの反射光を受光することで周辺の障害物センサ24から障害物までの距離及び角度が計測されて、清掃装置1の周辺環境を認識することが可能になっている。また、障害物センサ24は、レーザー光を用いた障害物検出の代わりに、周辺環境の撮像画像を用いた障害物検出を実施可能に構成されてもよい。
【0021】
操作部25は、自動運転のためのティーチング作業等を実施する際に、作業員による手動操作を受け付けるものであり、上記したハンドル26(
図1参照)、スロットル等によって構成されている。操作部25は、ハンドル26の操舵量やスロットルの捻り量を電気信号に変換して、装置本体10の走行モータの制御基板に出力して走行モータを駆動させる。操作部25の操作によって、装置本体10の走行速度の調整、左旋回、右旋回が実施される。また、装置本体10には、操作部25付近に電源スイッチ(不図示)、緊急停止スイッチ(不図示)が設けられている。
【0022】
記憶部50は、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の一つ又は複数の記憶媒体によって構成されている。ROMには、例えば、清掃装置1を制御するためのプログラムが記憶されている。HDDやフラッシュメモリには、例えば、自動運転の走行経路、走行速度、洗浄液の散布量、清掃部材16の接触圧等を各種清掃条件が設定された清掃プランや、その他のパラメータが記憶されている。電源部29は、バッテリ(不図示)及び充電回路等によって構成されている。電源部29から装置各部に電力が供給されている。
【0023】
制御部30は、装置各部を統括制御している。制御部30の各種処理は、プロセッサを用いてソフトウェアによって実現されてもよいし、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよい。プロセッサを用いる場合には、プロセッサが記憶部50に記憶されているプログラムを読み出して実行することで各種処理が実施される。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)が使用される。なお、制御部30及び記憶部50の制御ブロックの詳細については後述する。
【0024】
表示端末60は、タッチパネル式の表示画面を有するタブレット型の表示端末である。表示端末60の前面には、清掃中に床面Fを撮像する前カメラ(撮像部)61が設けられている。表示画面の後面には清掃中に作業者を撮像する後カメラ(他の撮像部)62が設けられている。表示端末60の後面に設けられた操作表示部(表示部、操作部)63は、上記のタッチパネル式の表示画面によって構成されている。操作表示部63は、前カメラ61によって撮像された撮像画像(室内画像)を表示すると共に、各種情報の入力を受け付けている。
【0025】
また、表示端末60は装置本体10に対して電気的に接続されている。装置本体10が起動すると、装置本体10から表示端末60にも電力が供給されて表示端末60が起動する。表示端末60の起動と同時に、表示端末60の前カメラ61及び後カメラ62が撮像を開始して、前カメラ61に撮像された撮像画像が表示画面に表示される。表示端末60にはバッテリが内蔵されているため、装置本体10から表示端末60を分離して、表示端末60を独立して起動させることができる。
【0026】
表示端末60の各種処理は、プロセッサを用いてソフトウェアによって実現されてもよいし、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよい。プロセッサを用いる場合には、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムを読み出して実行することで各種処理が実施される。プロセッサとしては、例えば、CPU、GPUが使用される。また、メモリは、用途に応じてROM、RAM、HDD、フラッシュメモリ等の一つ又は複数の記憶媒体によって構成されている。ROMには、例えば、表示端末60を制御するためのプログラムが記憶されている。
【0027】
このような清掃装置1は、手動モード、学習モード、再現モードの3つの動作モードで動作する。手動モードは、手動操作によって清掃装置1を走行させて、清掃部材16を移動させながら床面Fを清掃するモードである。学習モードは、手動操作によって清掃装置1を走行させて、清掃部材16を移動させながら清掃プラン及び環境地図を作成するモードである。再現モードは、清掃プランを再現するように床面Fを自律走行清掃するモードである。手動モード及び学習モードでは、清掃装置1が手動操作されるため、高い作業性が求められている。
【0028】
そこで、本実施形態の清掃装置1が手動モード又は学習モードで動作する際に、表示端末60に映された撮像画像内の床面Fに、清掃済みの既清掃領域A1と清掃予定の将来清掃領域A2が重ねられる(
図4B参照)。既清掃領域A1は清掃装置1が通過した床面F上の領域を示しており、将来清掃領域A2はこれから清掃装置1が通過する床面F上の領域を示している。このため、表示端末60の表示画面を視認しながら、撮像画像内の床面Fを既清掃領域A1で塗り潰すように清掃装置1を動かすことで、高い質を維持しつつ床面Fを清掃装置1によって効率的に清掃することができる。
【0029】
以下、装置本体の制御部及び記憶部の詳細構成について説明する。
図3は、第1の実施形態の装置本体の制御ブロック図である。なお、ここでは、説明の便宜上、学習モード及び再現モードで清掃装置が動作する際の制御ブロックを示している。
【0030】
図3に示すように、制御部30には、学習清掃制御部31、学習走行制御部32、SLAM制御部33、走行経路作成部34、環境地図作成部35、清掃プラン作成部36、再現清掃制御部37、再現走行制御部38、既清掃領域作成部39、将来清掃領域作成部41、AR表示制御部42、既清掃領域判定部43、将来清掃領域判定部44、未清掃領域判定部45、顔認識部46、凝視警告部47、タグ付与部48が設けられている。記憶部50には、走行経路記憶部51、環境地図記憶部52、清掃プラン記憶部53、清掃領域記憶部54、タグ記憶部55、装置設定記憶部56が設けられている。
【0031】
学習清掃制御部31は、学習モード中に作業者の操作に従った清掃装置1の手動清掃を制御している。学習清掃制御部31による制御内容は、ティーチングデータとして清掃プラン作成部36に出力される。このティーチングデータには、例えば洗浄液の散布量、清掃部材16の接触圧、汚水の吸引力が含まれている。学習走行制御部32は、学習モード中に作業者の操作に従った清掃装置1の手動走行を制御している。学習走行制御部32による制御内容は、ティーチングデータとして清掃プラン作成部36に出力される。このティーチングデータには、例えば走行速度が含まれている。
【0032】
SLAM制御部(推定部)33は、学習モード中にリアルタイムでSLAMを実行して、計測部23に計測された清掃装置1の周囲の障害物からの距離及び角度に基づいて、清掃装置1の自己位置(現在位置)を推定すると共に局所地図を作成する。走行経路作成部34は、学習モード中に時系列に並んだ複数の自己位置を繋ぎ合わせて清掃装置1の走行経路を作成する。環境地図作成部35は、学習モード中に時系列に並んだ複数の局所地図を繋ぎ合わせて環境地図を作成する。走行経路はティーチングデータとして走行経路記憶部51に記憶され、環境地図は環境地図記憶部52に記憶される。
【0033】
なお、計測部23には、障害物センサ24として2次元タイプのLRFが用いられてもよいし、3次元タイプのLRFが用いられてもよい。2次元タイプのLRFによって2次元データが取得されてもよいし、3次元タイプのLRF又は2次元タイプのLRFの揺動によって3次元データが取得されてもよい。すなわち、走行経路作成部34によって2次元の走行経路が作成されてもよいし、3次元の走行経路が作成されてもよい。また、環境地図作成部35によって2次元の環境地図が作成されてもよいし、3次元の環境地図が作成されてもよい。
【0034】
清掃プラン作成部36は、各種ティーチングデータを学習モードの開始から終了までの所定時間間隔のステップ毎に関連付けて清掃プランを作成する。この場合、環境地図に清掃装置1の走行経路が反映されて、走行経路の開始地点から終了地点までの各地点における洗浄液の散布量、清掃部材16の接触圧、汚水の吸引力、走行速度が設定されて清掃プランが作成される。清掃プランは清掃プラン記憶部53に記憶されて、再現モード中に使用される。清掃プラン記憶部53には複数の清掃プランが記憶されており、清掃プランを適宜選択することができる。
【0035】
再現清掃制御部37は、再現モード中に清掃プラン記憶部53から清掃プランを読み込み、清掃プランに従って清掃装置1の自動清掃を制御している。再現走行制御部38は、再現モード中に清掃プラン記憶部53から清掃プランを読み込み、清掃プランに従って清掃装置1の自律走行を制御している。清掃装置1が走行経路に沿って自律走行しながら、洗浄液を床面Fに散布して清掃部材16によって床面Fを洗浄している。このようにして、学習モード中に清掃装置1に対してティーチングされた清掃プランが、再現モード中に清掃装置1によって再現される。
【0036】
既清掃領域作成部(第1の作成部)39は、学習モード中に清掃装置1(清掃部材16)の現在位置までの走行経路(移動軌跡)に基づいて既清掃領域A1(
図4B参照)を作成する。この場合、既清掃領域作成部39によって走行経路記憶部51から走行経路が読み込まれると共に、装置設定記憶部56から清掃部材16の幅が読み込まれる。そして、既清掃領域作成部39によって現在位置までの走行経路と清掃部材16の幅が組み合わせられて、清掃部材16が床面Fを通過した清掃軌跡を示す清掃済みの既清掃領域A1が作成される。既清掃領域A1は清掃領域記憶部54に記憶される。
【0037】
将来清掃領域作成部(第2の作成部)41は、学習モード中に清掃装置1(清掃部材16)の現在位置からの移動方向に基づいて将来清掃領域A2(
図4B参照)を作成する。この場合、将来清掃領域作成部41によって現在位置からの移動方向から走行予定の走行経路が予測されると共に、装置設定記憶部56から清掃部材16の幅が読み込まれる。そして、将来清掃領域作成部41によって走行予定の走行経路と清掃部材16の幅が組み合わせられて、清掃部材16が床面Fを通過する将来の清掃軌跡を示す清掃予定の将来清掃領域A2が作成される。将来清掃領域A2は清掃領域記憶部54に記憶される。なお、現在位置からの移動方向はハンドルの操舵角によって求められる。また、将来清掃領域A2は直線に限られず、旋回時にはハンドル操作に応じて円弧状に作成されてもよい。
【0038】
AR表示制御部42は、表示端末60の前カメラ61から入力された撮像画像に既清掃領域A1及び将来清掃領域A2を重ね合わせて表示端末60にAR表示させる。例えば、環境地図の特徴点と撮像画像の特徴点がマッチングされて、撮像画像の撮像座標系(カメラ座標系)における清掃装置1の現在位置が特定される。この清掃装置1の現在位置を基準にした既清掃領域A1と将来清掃領域A2が撮像画像内の床面Fに重ねられる。既清掃領域A1と将来清掃領域A2は色付けされた仮想領域で表され、各仮想領域がそれぞれ異なる表示色で表されていてもよい。
【0039】
既清掃領域判定部43は既清掃領域A1同士の重なりを判定し、将来清掃領域判定部44は既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なりを判定する。重なり箇所は、既清掃領域A1及び将来清掃領域A2とは異なる表示色で表されてもよいし、既清掃領域A1及び将来清掃領域A2よりも濃い表示色で表されてもよい。既清掃領域判定部43は既清掃領域A1同士の重なり幅を算出してもよいし、将来清掃領域判定部44は既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なり幅を算出してもよい。重なり幅は、例えば、既清掃領域A1と将来清掃領域A2を含む撮像画像に既知の画像処理が施されることで求められてもよい。
【0040】
未清掃領域判定部45は、既清掃領域A1同士の隙間を未清掃領域A3(
図11A参照)として判定する。未清掃領域A3は、既清掃領域A1及び将来清掃領域A2とは異なる表示色で表されてもよい。さらに、撮像画像には、清掃動作のスタート位置、清掃装置1から障害物までの距離、清掃部材16の移動方向、走行禁止区域がAR表示されてもよい。清掃動作のスタート位置は、手動操作の開始直後に実行されたSLAMによって求められる。清掃装置1から障害物までの距離は、SLAMの実行時に計測部23によって計測される。移動方向はハンドル26の操舵角によって求められ、走行禁止区域は手動によって予め設定される。
【0041】
AR表示については、手動操作の開始直後から自動的に有効にされていてもよいし、作業者の選択に応じて任意に有効にされてもよい。例えば、表示端末60の操作表示部63にAR表示用のアプリケーションを表示し、このアプリケーションの起動によってAR表示が有効にされてもよい。また、既清掃領域A1と将来清掃領域A2のAR表示だけが有効にされてもよいし、上記全ての情報のAR表示が有効にされてもよい。また、AR表示された既清掃領域A1をオフセットできる補正部が設けられていてもよい。これにより、未清掃領域A3が無くなるように、表示端末60を見ながら清掃プランを修正することができる。
【0042】
既清掃領域A1と将来清掃領域A2のAR表示を作業者が凝視し続けると前方不注意になる恐れがある。このため、清掃装置1には顔認識部(認識部)46及び凝視警告部(警告部)47による凝視警告機能が実装されている。顔認識部46には、表示端末60の後カメラ62から表示端末60を視認した作業者の撮像画像が入力される。顔認識部46は、公知の顔認識処理によって撮像画像が解析されて作業者の顔を認識する。通常、顔認識処理では、顔の輪郭、目、鼻、口、眉毛等の特徴部分が認識されるが、本実施形態の顔認識処理では、目の瞳孔が認識されたときに作業者が表示端末60を視認したと認識される。
【0043】
凝視警告部47は、一定時間以上継続して作業者の顔が認識された場合に、作業者が表示端末60を凝視し続けていると判定する。そして、凝視警告部47は、音声警告、発光警告、表示警告又はこれらの組み合わせによって警告する。例えば、凝視警告部47は、音声メッセージやビープ音等によって音声警告してもよいし、表示画面の明滅によって発光警告してもよいし、警告メッセージのAR表示によって表示警告してもよい。また、凝視警告部47による警告後にも作業者の顔が認識され続けた場合に、清掃装置1の走行動作が緊急停止されてもよい。
【0044】
清掃中には特別な指示や注意点のメモ書きをAR表示させたいという要望がある。このため、清掃装置1には、タグ付与部(付与部)48、操作表示部63、タグ記憶部(記憶部)55によって撮像画面に対するメモ書き機能が実装されている。タグ付与部48は、作業者の入力操作に応じて撮像画像にタグT(
図5B参照)を付与する。タグTの付与時には、SLAMが実行されて清掃装置1の自己位置が推定され、この自己位置を基準にした所定座標にタグTが付与される。なお、V-SLAMによって推定された清掃装置1の自己位置を基準にしてタグTが付与されてもよい。
【0045】
タグTには表示端末60の操作表示部63によってメモが入力される。操作表示部63によってタグTの保存操作が実行されると、タグTの付与座標(付与位置)とタグTへの入力内容が関連付けられてタグ記憶部55に記憶される。なお、タグ記憶部55には、例えばワールド座標系を基準にしたタグTの付与座標が記憶される。これにより、再び学習モードで同じエリアを清掃する際に、表示端末60を通してタグTに記載されたメモを視認することができる。また、清掃装置1から表示端末60を取り外して、表示端末60を通して遠隔からでもタグTに記載されたメモを確認することができる。
【0046】
ここで、清掃中の表示画面について説明する。
図4Aは、AR表示を無効にした表示画面の一例である。
図4Bは、清掃領域をAR表示した表示画面の一例である。
図4Cは、清掃領域をAR表示した表示画面の一例である。
図5Aは、警告表示をAR表示した表示画面の一例である。
図5Bは、タグ表示をAR表示した表示画面の一例である。なお、ここでは、
図2及び
図3の符号を適宜使用して説明する。
【0047】
図4Aに示すように、AR表示が無効な場合には、前カメラ61に撮像された清掃装置1の前方の室内画像だけが表示端末60の表示画面に表示される。作業者は清掃装置1の現在位置までの清掃軌跡を認識することができず、清掃済みの床面Fを視認しながら清掃作業を実施することができない。このため、学習モード中に床面Fを手動清掃する際には、床面Fに清掃箇所の抜けが発生するおそれがある。学習モード中に手動操作によって清掃装置1に効果的なティーチングができないため、再現モード中に自動運転によって清掃装置1に質が高い清掃作業を再現させることができない。
【0048】
図4Bに示すように、AR表示が有効になると、前カメラ61に撮像された室内画像上に各種情報が表示端末60の表示画面にAR表示される。床面Fには清掃済みの既清掃領域A1と清掃予定の将来清掃領域A2がAR表示されている。このため、既清掃領域A1と将来清掃領域A2を部分的に重ねるように清掃装置1を動かすことで、清掃箇所の抜けを発生させることなく床面Fを清掃することができる。学習モード中に手動操作によって清掃装置1に効果的なティーチングができるため、再現モード中に自動運転によって清掃装置1に質が高い清掃作業を再現させることができる。
【0049】
また、室内画像上には、清掃装置1の周辺の障害物、既清掃領域A1同士の重なり、既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なり、走行禁止区域、清掃動作のスタート位置等を示す情報がAR表示されている。さらに、室内画像上には、清掃装置1から障害物までの距離、清掃装置1の現在位置における既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なり幅等の数値情報がAR表示されている。既清掃領域A1及び将来清掃領域A2に加えて、これらの補助情報が作業者に認識されることで、手動操作によって床面Fに対して質の高い清掃を実施することができる。
【0050】
図4Cに示すように、既清掃領域A1から将来清掃領域A2が完全に外れる方向に清掃装置1が傾くと、清掃装置1の現在位置で既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なり幅が小さくなる。このため、既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なり幅が所定値以下になったときに、室内画像上に清掃装置1の軌道修正を促す警告メッセージM1がAR表示されてもよい。既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なり幅を略一定に維持した状態で清掃装置1を動かすことができる。作業者の技量に関わらず、清掃箇所の抜けを抑えて、より質の高い清掃作業を清掃装置1に実施させることができる。
【0051】
図5Aに示すように、作業者が表示画面を凝視している場合には、室内画像上に注意を促す警告メッセージM2がAR表示されてもよい。上記したように、表示画面を視認する作業者の顔が後カメラ62によって撮像され、一定時間にわたって作業者の顔が認識され続けた場合に室内画像上に警告メッセージが表示される。作業者に警告メッセージM2を視認させて、清掃中に作業者に注意を促すことができる。また、
図5Bに示すように、以前の学習モード中に付与されたタグTが室内画像上に表示されてもよい。タグTに入力されたメモを作業者に確認させることができる。
【0052】
清掃装置の処理動作について説明する。
図6は、第1の実施形態のAR表示処理のフローチャートの一例である。
図7は、第1の実施形態の凝視警告処理のフローチャートの一例である。なお、ここでは、
図2及び
図3の符号を適宜使用して説明する。
【0053】
図6に示すように、学習モード中には、表示端末60の前カメラ61による撮像処理と装置本体10のSLAM制御部33によるSLAMが並列に実行される。前カメラ61によって装置前方が撮像され、前カメラ61から装置本体10のAR表示制御部42に撮像画像が出力される(ステップS01)。撮像画像には被清掃面となる床面Fが含まれている。同時に、SLAM制御部33によってSLAMが実行され(ステップS02)、計測部23によって清掃装置1から周辺の障害物までの距離と角度が計測されて、清掃装置1の自己位置(現在位置)が推定されると共に環境地図が作成される(ステップS03)。
【0054】
次に、既清掃領域作成部39によって清掃装置1の自己位置までの走行経路と清掃部材16の幅から既清掃領域A1が作成され、既清掃領域作成部39からAR表示制御部42に既清掃領域A1が出力される(ステップS04)。将来清掃領域作成部41によって清掃装置1の自己位置からの移動方向と清掃部材16の幅から将来清掃領域A2が作成され、将来清掃領域作成部41からAR表示制御部42に将来清掃領域A2が出力される(ステップS05)。次に、AR表示制御部42によって表示端末60が制御されて、撮像画像内の床面F上に既清掃領域A1及び将来清掃領域A2がAR表示される(ステップS06)。
【0055】
このとき、撮像画像上には、清掃装置1の周辺の障害物、既清掃領域A1同士の重なり、既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なり、走行禁止区域、清掃動作のスタート位置等を示す情報がAR表示されてもよい。また、撮像画像上には、清掃装置1の軌道修正を促す警告メッセージM1や、表示画面の凝視を注意する警告メッセージM2がAR表示されてもよい。さらに、撮像画像上には、メモが入力されたタグTがAR表示されてもよい。そして、清掃装置1による清掃作業が終了するまで、ステップS01からステップS06までの処理が繰り返される(ステップS07)。
【0056】
また、
図7に示すように、学習モード中には、表示端末60の後カメラ62によって作業者が撮像されて、後カメラ62から装置本体10の顔認識部46に撮像画像が出力される(ステップS11)。次に、顔認識部46によって撮像画像に対して作業者の顔認識処理が実行される(ステップS12)。顔認識処理では目の瞳孔によって作業者の顔が認識される。撮像画像から作業者の顔が認識されない場合(ステップS12でNo)、作業者が表示端末60を視認していないため、作業者に対して警告処理が実施されることなくステップS15に処理が移行する。
【0057】
撮像画像から作業者の顔が認識された場合(ステップS12でYes)、凝視警告部47によって一定時間以上継続して作業者の顔が認識されたか否かが判定される(ステップS13)。一定時間継続して作業者の顔が認識されない場合(ステップS13でNo)、作業者が表示端末60を凝視していないため、作業者に対して警告処理が実施されることなくステップS15に処理が移行する。なお、作業者の瞬き等によって瞬間的に瞳孔が認識されない場合であっても、凝視警告部47によって作業者の顔が認識され続けていると判定される。
【0058】
一定時間継続して作業者の顔が認識された場合(ステップS13でYes)、作業者が表示端末60を凝視し続けているため、凝視警告部47によって表示端末60の表示画面に警告メッセージM2がAR表示される(ステップS14)。これにより、清掃中に表示端末60を凝視する作業者に対して注意が促される。なお、表示画面の明滅や音声メッセージの出力によって作業者に対して警告されてもよい。そして、清掃装置1による清掃作業が終了するまで、ステップS11からステップS14までの処理が繰り返される(ステップS15)。
【0059】
以上、第1の実施形態によれば、清掃中に撮像画像内の床面Fに既清掃領域A1と将来清掃領域A2が重ねられて表示端末60に表示され、実際の床面Fと清掃済みの既清掃領域A1と清掃予定の将来清掃領域A2を表示端末60の同じ画面で視認することができる。このとき、既清掃領域A1と将来清掃領域A2を部分的に重ねるように清掃部材16を手動操作することで、未清掃領域を生じさせることなく床面Fを清掃部材16によって清掃することができる。よって、清掃作業の作業性を向上させて、質の高い清掃を効率的に実施することができる。
【0060】
<第2の実施形態>
続いて、第2の実施形態の表示端末について説明する。第2の実施形態は、表示端末によって清掃作業の作業性を向上させることができる点で第1の実施形態と相違している。
図8は、第2の実施形態の表示端末の模式図である。
図9は、第2の実施形態の表示端末の制御ブロック図である。
【0061】
図8に示すように、表示端末70には、前カメラ71、後カメラ72、操作表示部73、無線通信部74、電源部75、Gセンサ76、ビーコン受信部77、制御部80、記憶部90が設けられている。第2の実施形態の前カメラ71、後カメラ72、操作表示部73は、第1の実施形態の前カメラ61、後カメラ62、操作表示部63と略同様に構成されている。無線通信部74は、表示端末70と装置本体10(
図2参照)を無線通信によって接続している。電源部75は、端末各部に電力を供給しており、バッテリ(不図示)及び充電回路等によって構成されている。
【0062】
Gセンサ76は表示端末70の前後、左右、上下に取り付けられており、これらの方向に加速度や減速度がかかったときに、加速度及び減速度の大きさに応じた電気信号を出力する。この電気信号によって表示端末70の姿勢変化(傾き)が求められる。Gセンサ76から検出値が出力される度に検出値が足されることで、オドメトリによって表示端末70の移動量が把握される。ただし、Gセンサ76によるオドメトリは誤差が大きいため、清掃エリアにビーコンが設置されており、ビーコン受信部77によってビーコンからの信号が受信されることで、ビーコンの設置位置を基準にして移動量が求められる。
【0063】
制御部80は、装置各部を統括制御している。制御部80の各種処理は、プロセッサを用いてソフトウェアによって実現されてもよいし、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよい。プロセッサを用いる場合には、プロセッサが記憶部90に記憶されているプログラムを読み出して実行することで各種処理が実施される。記憶部90は、用途に応じてROM、RAM、フラッシュメモリ等の一つ又は複数の記憶媒体によって構成されている。ROMには、例えば、表示端末70を制御するためのプログラムが記憶されている。プロセッサとしては、例えば、CPU、GPUが使用される。
【0064】
図9に示すように、制御部80には、V-SLAM制御部81、移動経路作成部82、環境地図作成部83、既清掃領域作成部84、将来清掃領域作成部85、AR表示制御部86、既清掃領域判定部87、将来清掃領域判定部88、未清掃領域判定部89が設けられている。記憶部90には、移動経路記憶部91、環境地図記憶部92、清掃領域記憶部93、装置設定記憶部94が設けられている。V-SLAM制御部81以外の各制御ブロックについては、第1の実施形態の装置本体10(
図2参照)の各制御ブロックと略同一の構成である。このため、V-SLAM制御部81以外の各制御ブロックの説明を省略する。
【0065】
V-SLAM制御部(推定部)81は、リアルタイムでV-SLAMを実行して、前カメラ71から取得した撮像画像に基づいて、表示端末70の自己位置(現在位置)を推定すると共に局所地図を作成する。V-SLAMでは、前カメラ71(
図8参照)から逐次入力される撮像画像がスキャンされて特徴点が抽出され、この時間と共に変化する特徴点によって自己位置が推定される。また、既に環境地図が作成されている場合には、V-SLAMによって撮像画像から求めた特徴点を環境地図の特徴点にマッチングすることによって、表示端末70の自己位置を推定することも可能である。
【0066】
次に、第2の実施形態の表示端末を用いた作業例について説明する。本作業例は、自律走行式の清掃装置によって手動モードで清掃した後に、この清掃装置から表示端末を分離して、清掃抜けが生じた箇所について手動式の他の清掃装置を用いて追加清掃する一例である。
図10は、第2の実施形態の追加清掃のフローチャートの一例である。
図11Aは、未清掃領域をAR表示した表示画面の一例である。
図11Bは、追加清掃領域をAR表示した表示画面の一例である。
図12は、ウェアラブル型表示端末を用いた追加清掃の作業例を示している。なお、ここでは、
図8及び
図9の符号を適宜使用して説明する。
【0067】
図10に示すように、清掃装置1の手動モードによる清掃が終了して、手動式の他の清掃装置100(
図12参照)による追加清掃が開始されると、表示端末70には装置本体10(
図2参照)から移動経路、環境地図、既清掃領域A1が入力される(ステップS21)。なお、清掃装置1は手動モードであっても、バックグラウンドで移動経路、環境地図、既清掃領域A1が作成されてもよい。移動経路、環境地図、既清掃領域A1は、それぞれ表示端末70の移動経路記憶部91、環境地図記憶部92、清掃領域記憶部93に記憶される。次に、表示端末70の前カメラ71によってカメラ前方が撮像されて、V-SLAM制御部81によって撮像画像に基づいてV-SLAMが実行される(ステップS22)。
【0068】
次に、V-SLAMによって撮像画像の特徴点が抽出され、環境地図記憶部92に記憶された環境地図の特徴点と撮像画像の特徴点がマッチングされて表示端末70の現在位置が推定される(ステップS23)。次に、AR表示制御部86によって表示端末70の現在位置を基準にして撮像画像内の床面F上に既清掃領域A1がAR表示される(ステップS24)。次に、未清掃領域判定部89によって既清掃領域A1の重なり状況から未清掃領域A3の有無が判定される(ステップS25)。未清掃領域A3が無い場合(ステップS25でNo)、追加清掃されることなく処理が終了する。
【0069】
一方、未清掃領域A3がある場合(ステップS25でYes)、表示端末60の表示画面を確認しながら、手動式の他の清掃装置100によって追加清掃が実施される(ステップS26)。このとき、
図11Aに示すように、未清掃領域A3がある場合には、AR表示制御部42によって撮像画像上に警告メッセージM3がAR表示されてもよい。これにより、未清掃領域A3の追加清掃を作業者に対して促すことができる。なお、表示画面の明滅や音声メッセージの出力によって作業者に対して警告されてもよい。
【0070】
また、
図11Bに示すように、追加清掃済みの追加清掃領域A4が撮像画像上にAR表示されてもよい。例えば、V-SLAM制御部81によって追加清掃中にリアルタイムでV-SLAMが実行されて他の清掃装置100の自己位置が推定される。移動経路作成部82によって時系列に並んだ自己位置が繋ぎ合わされて他の清掃装置100の移動経路が作成される。装置設定記憶部94に記憶された清掃部材(不図示)の幅と移動経路が組み合わされて追加清掃領域A4が作成される。そして、撮像画像上に追加清掃済みの追加清掃領域A4がAR表示される。なお、追加清掃時の移動経路は移動経路記憶部91に記憶され、追加清掃領域A4は清掃領域記憶部93に記憶されてもよい。
【0071】
図12に示すように、本作業例では表示端末70としてタブレット型の表示端末70aの他に、ウェアラブル型の表示端末70bを用いることも可能である。特に、ウェアラブル型の表示端末70bとしてゴーグル型の表示端末を用いることで、作業者の両手が自由になるため追加清掃の作業性を向上させることができる。
【0072】
次に、第2の実施形態の表示端末を用いた他の作業例について説明する。他の作業例は、自律走行式の清掃装置1から表示端末を分離して、他の清掃装置(不図示)に表示端末を取り付けて手動清掃する場合について説明する。
図13は、第2の実施形態の手動清掃のフローチャートの一例である。なお、ここでは、
図8及び
図9の符号を適宜使用して説明する。
【0073】
図13に示すように、他の清掃装置による手動清掃が開始されると、表示端末70の前カメラ71によってカメラ前方が撮像されて、V-SLAM制御部81によって撮像画像に基づいてV-SLAMが実行される(ステップS31)。次に、前カメラ71から逐次入力される撮像画像の特徴点が抽出され、各撮像画像の特徴点のマッチングによって表示端末70の自己位置が推定される(ステップS32)。このとき、Gセンサ76の検出値とビーコンからの信号によって表示端末70の移動量が求められ(ステップS33)、表示端末70の自己位置が移動量によって補正される(ステップS34)。
【0074】
次に、既清掃領域作成部84によって表示端末70の自己位置までの走行経路と清掃部材の幅から既清掃領域A1が作成され、既清掃領域作成部84からAR表示制御部86に既清掃領域A1が出力される(ステップS35)。将来清掃領域作成部85によって表示端末70の自己位置からの移動方向と清掃部材の幅から将来清掃領域A2が作成され、将来清掃領域作成部85からAR表示制御部86に将来清掃領域A2が出力される(ステップS36)。次に、AR表示制御部86によって撮像画像内の床面F上に既清掃領域A1及び将来清掃領域A2がAR表示される(ステップS37)。
【0075】
このとき、撮像画像上には、清掃装置1の周辺の障害物、既清掃領域A1同士の重なり、既清掃領域A1と将来清掃領域A2の重なり、走行禁止区域、清掃動作のスタート位置等を示す情報がAR表示されてもよい。また、撮像画像上には、清掃装置1の軌道修正を促す警告メッセージM1や、表示画面の凝視を注意する警告メッセージM2がAR表示されてもよい。さらに、撮像画像上には、メモが入力されたタグTがAR表示されてもよい。そして、清掃装置1による清掃作業が終了するまで、ステップS31からステップS37までの処理が繰り返される(ステップS38)。
【0076】
以上、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、清掃作業の作業性を向上させて、質の高い清掃を効率的に実施することができる。また、自律走行式の清掃装置1(
図1参照)から表示端末70を分離させて、他の清掃装置を用いた手動清掃に表示端末70を利用することができる。この表示端末70を用いることで、専用の清掃装置を開発する必要がなく、既存の清掃装置の作業性を向上させることができる。
【0077】
なお、各実施形態の清掃作業は、湿式の洗浄作業、乾式の掃除作業、研磨作業、艶出し作業を含んでいる。したがって、清掃部材は、被清掃面に対して清掃作業を実施可能な部材であればよく、例えば洗浄ブラシ、洗浄パッド、掃除ブラシ、研磨ブラシ、艶出しブラシでもよい。
【0078】
また、各実施形態では、作業者が清掃装置のハンドルを持って手動操作しているが、作業者が表示端末によって清掃装置を遠隔手動操作してもよい。
【0079】
また、各実施形態では、表示端末としてタブレット型、スマートフォン型、ウェアラブル型のいずれの表示端末が使用されてもよい。
【0080】
また、各実施形態では、床面清掃用の清掃装置及び表示端末のAR表示処理について説明したが、当該AR表示処理は壁面、天井面、窓面、鏡面等の清掃に用いられる清掃装置及び表示端末に適用することもできる。すなわち、被清掃面とは、壁面、天井面、窓面、鏡面等を含んでいる。
【0081】
また、第1の実施形態の障害物センサはLRFによって構成されたが、障害物センサは障害物を検出可能な構成であればよい。例えば、障害物センサは、V-SLAMで用いるカメラやLiDAR-SLAMで用いるLiDAR(Light Detection and Ranging)によって構成されてもよい。
【0082】
また、第1の実施形態の清掃装置には表示端末が着脱可能にセットされているが、装置端末に表示端末が一体的に設けられていてもよい。
【0083】
また、第1の実施形態の清掃装置には、推定部としてSLAM制御部が設けられているが、推定部は清掃装置の自己位置を推定可能な構成であればよい。例えば、清掃装置にGPS(Global Positioning System)センサが設けられており、GPS信号によって清掃装置の自己位置が推定されてもよい。
【0084】
また、第1の実施形態では、学習モード中のAR表示処理について説明したが、当該AR表示処理は手動モードにも適用することができる。手動モードであっても、学習モードと同様に、清掃作業の作業性を向上させて、質の高い清掃を効率的に実施することができる。
【0085】
また、第2の実施形態では、自律走行式の清掃装置から分離された表示端末が、他の清掃装置に用いられているが、表示端末は駆動機構を持たないモップやワイパー等の他の清掃用具に用いられてもよい。
【0086】
また、第2の実施形態の表示端末には、推定部としてV-SLAM制御部が設けられているが、推定部は表示端末の自己位置を推定可能な構成であればよい。例えば、表示端末にGPSセンサが設けられており、GPS信号によって表示端末の自己位置が推定されてもよい。
【0087】
また、清掃装置は、被清掃面を清掃可能な装置であればく、例えば、ロボット清掃機、洗浄機、ポリッシャー、路面清掃機、掃除機、バフィングマシンでもよい。
【0088】
また、各実施形態では、既清掃領域及び将来清掃領域が撮像画像内の被清掃面に重ねて表示されたが、既清掃領域又は将来清掃領域が撮像画像内の被清掃面に重ねて表示されてもよい。既清掃領域又は将来清掃領域を参照しながら清掃作業の作業性を向上することができる。
【0089】
また、上記した各実施形態及び変形例において、清掃装置又は表示端末にプログラムをインストールすることによって、清掃装置又は表示端末に撮像画像内の被清掃面に既清掃領域と将来清掃領域を重ねて表示させる機能を追加されてもよい。このプログラムは記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は特に限定されないが、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等の非一過性の記憶媒体であってもよい。
【0090】
なお、本実施形態を説明したが、他の実施形態として、上記実施形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0091】
また、本発明の技術は上記の実施形態に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方によって実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、自律走行式の洗浄装置等の作業エリアの自動作業に好適な産業用ロボットに有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 :清掃装置
16 :清掃部材
33 :SLAM制御部(推定部)
39、84:既清掃領域作成部(第1の作成部)
41、85:将来清掃領域作成部(第2の作成部)
46 :顔認識部(認識部)
47 :凝視警告部(警告部)
48 :タグ付与部(付与部)
55 :タグ記憶部(記憶部)
60、70:表示端末
61、71:前カメラ(撮像部)
62、72:後カメラ(他の撮像部)
63、73:操作表示部(表示部、操作部)
81 :V-SLAM制御部(推定部)
A1 :既清掃領域
A2 :将来清掃領域
F :床面(被清掃面)
T :タグ