(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079806
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】γδ型T細胞への遺伝子導入方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240604BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240604BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20240604BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240604BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240604BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/86 Z
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024052940
(22)【出願日】2024-03-28
(62)【分割の表示】P 2019141009の分割
【原出願日】2019-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2018143207
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】珠玖 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮原 慶裕
(72)【発明者】
【氏名】奥村 悟司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】林 妙
(72)【発明者】
【氏名】田中 義正
(57)【要約】 (修正有)
【課題】γδ型T細胞を高純度で大量に調製し、得られたγδ型T細胞に、TCRまたはCARをコードする外来遺伝子を効率よく導入して、機能的なTCRまたはCARを発現させたγδ型T細胞集団を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、γδ型T細胞をビスホスホン酸エステル誘導体で刺激後、IL-7およびIL-15の存在下で培養し、続いて遺伝子導入することにより、外来遺伝子が導入されたγδ型T細胞を、高い効率で高純度に製造する方法を提供する。外来遺伝子としてT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を導入した場合、TCRおよびCARが機能的に発現したγδ型T細胞を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入遺伝子を発現するγδ型T細胞集団を製造する方法であって、
(工程1)γδ型T細胞を、2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(3-ブロモピリジン-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(5-フルオロピリジン-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(ピリミジン-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(7-アザインドール-1-イル)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(5-メチルチアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(4-フェニルチアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートおよび2-(ピリミジン-4-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートのテトラキスピバロイルオキシメチルエステル誘導体ならびにそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる1つ以上の化合物の存在下で培養する工程、
(工程2)工程1で培養したγδ型T細胞を、IL-7およびIL-15の存在下で培養する工程、および、
(工程3)工程2で培養したγδ型T細胞に遺伝子を導入する工程、
を含み、
前記遺伝子が、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする遺伝子であり、
前記T細胞受容体(TCR)が、NY-ESO-1p157-165/HLA-A2複合体特異的TCR、HTLV-1p40Taxp11-19/HLA-A2複合体特異的TCR、HTLV-1p40Taxp301-309/HLA-A24複合体特異的TCRおよびMAGE-A4p143-151/HLA-A24複合体特異的TCRからなる群より選ばれ、
前記キメラ抗原受容体(CAR)が、MAGE-A4p230-239/HLA-A2複合体特異的CAR、CEA特異的CAR、GD2特異的CARおよびCD19特異的CARからなる群より選ばれる、
方法。
【請求項2】
導入遺伝子を発現するγδ型T細胞集団を製造する方法であって、
(工程1)γδ型T細胞を、テトラキスピバロイルオキシメチル 2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートまたはその薬学的に許容される塩の存在下で培養する工程、
(工程2)工程1で培養したγδ型T細胞を、IL-7およびIL-15の存在下で培養する工程、および、
(工程3)工程2で培養したγδ型T細胞に遺伝子を導入する工程、
を含む、方法。
【請求項3】
工程1におけるテトラキスピバロイルオキシメチル 2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートまたはその薬学的に許容される塩の濃度が0.01~1μMである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記γδ型T細胞が、哺乳動物に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物が、がん患者または非がん患者である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記がんが、乳がん、肺がん、肝がん、口腔がん、上咽頭がん、頭頸部がん、胃がん、食道がん、大腸がん、皮膚がん、悪性黒色腫、腎がん、膵がん、脳腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、膀胱がん、滑膜肉腫、脂肪肉腫、白血病、悪性リンパ腫および多発性骨髄腫からなる群より選ばれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程3における遺伝子を導入する工程が、DNAベクターまたはRNAベクターを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
工程3における遺伝子を導入する工程が、プラスミドベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスおよびレトロウイルスベクターからなる群より選ばれるベクターを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
工程3における遺伝子を導入する工程が、レトロウイルスベクターを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法により得られた遺伝子改変γδ型T細胞集団。
【請求項11】
下記の特徴を有する、T細胞受容体(TCR)をコードする遺伝子が導入された遺伝子改変γδ型T細胞集団:
(i)NY-ESO-1p157-165/HLA-A2複合体、HTLV-1p40Taxp11-19/HLA-A2複合体、HTLV-1p40Taxp301-309/HLA-A24複合体またはMAGE-A4p143-151/HLA-A24複合体を特異的に認識するTCRを発現する、
(ii)CD3およびNKG2Dが陽性である、
(iii)IFN-γおよびTNFαを含むサイトカインおよびケモカインを産生する、ならびに
(iv)細胞傷害活性を有する。
【請求項12】
下記の特徴を有する、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする遺伝子が導入された遺伝子改変γδ型T細胞集団:
(i)MAGE-A4p230-239/HLA-A2複合体、CEA、GD2またはCD19を特異的に認識するCARを発現する、
(ii)CD3およびNKG2Dが陽性である、
(iii)IFN-γおよびTNFαを含むサイトカインおよびケモカインを産生する、ならびに
(iv)細胞傷害活性を有する。
【請求項13】
がん患者を治療するための、請求項10~12のいずれか1項に記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来遺伝子が導入されたγδ型T細胞を、高い効率で高純度に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんに対する治療方法として、がん患者に対して、T細胞受容体(T cell receptor:TCR)またはキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)をコードする外来遺伝子を導入し、新たにがん抗原特異性を付与したT細胞を移入するT細胞輸注療法が注目されている。実際に、がん抗原であるMAGE-A4を認識するTCR遺伝子を導入し、このTCRを発現させたTCR遺伝子改変T細胞を、食道がん患者に投与する臨床試験が行われている(非特許文献1)。また、リガンド結合ドメインに、CD19に結合する一本鎖抗体(single chain variable fragment:scFv)を組み込んだCAR遺伝子を導入し、このCAR遺伝子を発現させたCAR遺伝子改変T細胞を、再発性・難治性急性リンパ性白血病患者に投与する臨床試験が行われている(非特許文献2)。
【0003】
外来遺伝子を導入する標的となる細胞として、一般的にαβ型TCRを有するT細胞(αβ型T細胞)が使用されてきた。その理由は次の通りである。すなわち、外来遺伝子を導入するためには主にウイルスベクターが使用されるが、その際に、通常では標的細胞を増殖刺激することが必要である。そして、標的細胞としてαβ型T細胞を使用して遺伝子導入する場合には、抗CD3抗体および抗CD28抗体を用いることにより、容易に標的細胞の増殖刺激を行うことができるためである。
【0004】
γδ型TCRを有するT細胞(γδ型T細胞)は、従来からウイルス感染細胞やがん細胞を傷害することが示されており、抗原特異性を付与したγδ型T細胞を患者に輸注する治療法は、αβ型T細胞を使用する場合よりも効果が高いことが期待されており、実際にγδ型T細胞輸注療法が試みられている(非特許文献3)。しかしながら、γδ型T細胞の細胞機能などの細胞学的特性の解析は十分ではない。その理由として、γδ型T細胞の存在量が末梢血T細胞の約5%と少量であり(非特許文献4)、細胞の解析に必要な細胞数を確保することが困難であることが挙げられている。γδ型T細胞は、αβ型T細胞とは異なり、抗CD3抗体および抗CD28抗体では十分に増殖させることができない。そのため、骨吸収抑制剤として使用されるビスホスホン酸誘導体であるゾレドロン酸(zoledronate)およびインターロイキン-2(IL-2)を用いて、γδ型T細胞を増殖させることが試みられてきた(非特許文献5および6)。しかしながら、ゾレドロン酸およびIL-2を用いた場合であっても、拡大培養されて得られるγδ型T細胞の純度が低いことが問題点であった。
【0005】
ヒト末梢血から得られた単核球を、ビスホスホン酸エステル誘導体であるテトラキスピバロイルオキシメチル 2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートの存在下で培養し、そこへさらにIL-2を添加することにより、γδ型T細胞を高純度で増殖させる方法が報告されている(特許文献1および非特許文献7)。一方で、γδ型T細胞輸注療法を効果的に行うためには、高純度のγδ型T細胞を大量に調製し、同時に、得られたγδ型T細胞に、TCRまたはCARをコードする外来遺伝子を効率よく導入することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kageyama S, et al. Adoptive transfer of MAGE-A4 T-cell receptor gene-transduced lymphocytes in patients with recurrent esophageal cancer. Clin Cancer Res. 2015 May 15;21(10):2268-2277.
【非特許文献2】Maude SL, et al. Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia. N Engl J Med. 2014 Oct 16;371(16):1507-1517.
【非特許文献3】Kobayashi H, et al. Safety profile and anti-tumor effects of adoptive immunotherapy using gamma-delta T cells against advanced renal cell carcinoma: a pilot study. Cancer Immunol Immunother. 2007 Apr;56(4):469-476.
【非特許文献4】Carding SR and Egan PJ. Gammadelta T cells: functional plasticity and heterogeneity. Nat Rev Immunol. 2002 May;2(5):336-345.
【非特許文献5】Nicol AJ, et al. Clinical evaluation of autologous gamma delta T cell-based immunotherapy for metastatic solid tumours. Br J Cancer. 2011 Sep 6;105(6):778-786.
【非特許文献6】Kobayashi H, et al. Phase I/II study of adoptive transfer of γδ T cells in combination with zoledronic acid and IL-2 to patients with advanced renal cell carcinoma. Cancer Immunol Immunother. 2011 Aug;60(8):1075-1084.
【非特許文献7】Tanaka Y, et al. Expansion of human γδ T cells for adoptive immunotherapy using a bisphosphonate prodrug. Cancer Sci. 2018 Mar;109(3):587-599.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、γδ型T細胞を高純度で大量に調製し、得られたγδ型T細胞に、TCRまたはCARをコードする外来遺伝子を効率よく導入して、機能的なTCRまたはCARを発現させたγδ型T細胞集団を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、以下の発明により達成される。
(1)導入遺伝子を発現するγδ型T細胞集団を製造する方法であって、
(工程1)γδ型T細胞を、2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(3-ブロモピリジン-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(5-フルオロピリジン-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(ピリミジン-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(7-アザインドール-1-イル)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(5-メチルチアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート、2-(4-フェニルチアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートおよび2-(ピリミジン-4-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートのテトラキスピバロイルオキシメチルエステル誘導体ならびにそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる1つ以上の化合物の存在下で培養する工程、
(工程2)工程1で培養したγδ型T細胞を、IL-7およびIL-15の存在下で培養する工程、および、
(工程3)工程2で培養したγδ型T細胞に遺伝子を導入する工程、
を含む、方法。
(2)導入遺伝子を発現するγδ型T細胞集団を製造する方法であって、
(工程1)γδ型T細胞を、テトラキスピバロイルオキシメチル 2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートまたはその薬学的に許容される塩の存在下で培養する工程、
(工程2)工程1で培養したγδ型T細胞を、IL-7およびIL-15の存在下で培養する工程、および、
(工程3)工程2で培養したγδ型T細胞に遺伝子を導入する工程、
を含む、方法。
(3)工程1におけるテトラキスピバロイルオキシメチル 2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネートまたはその薬学的に許容される塩の濃度が0.01~1μMである、(2)に記載の方法。
(4)前記γδ型T細胞が、哺乳動物に由来する、(1)または(2)に記載の方法。
(5)前記哺乳動物が、がん患者または非がん患者である、(4)に記載の方法。
(6)前記がんが、乳がん、肺がん、肝がん、口腔がん、上咽頭がん、頭頸部がん、胃がん、食道がん、大腸がん、皮膚がん、悪性黒色腫、腎がん、膵がん、胆管がん、脳腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、膀胱がん、滑膜肉腫、白血病、悪性リンパ腫および多発性骨髄腫からなる群より選ばれる、(5)に記載の方法。
(7)工程3における遺伝子を導入する工程が、DNAベクターまたはRNAベクターを用いることを特徴とする、(1)または(2)に記載の方法。
(8)工程3における遺伝子を導入する工程が、プラスミドベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスおよびレトロウイルスベクターからなる群より選ばれるベクターを用いることを特徴とする、(1)または(2)に記載の方法。
(9)工程3における遺伝子を導入する工程が、レトロウイルスベクターを用いることを特徴とする、(1)または(2)に記載の方法。
(10)前記遺伝子が、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする遺伝子である、(1)または(2)に記載の方法。
(11)前記T細胞受容体(TCR)が、NY-ESO-1p157-165/HLA-A2複合体特異的TCR、HTLV-1p40Taxp11-19/HLA-A2複合体特異的TCR、HTLV-1p40Taxp301-309/HLA-A24複合体特異的TCRおよびMAGE-A4p143-151/HLA-A24複合体特異的TCRからなる群より選ばれる、((10)に記載の方法。
(12)前記キメラ抗原受容体(CAR)が、MAGE-A4p230-239/HLA-A2複合体特異的CAR、CEA特異的CAR、GD2特異的CARおよびCD19特異的CARからなる群より選ばれる、(10)に記載の方法。
(13)(1)~(12)のいずれかに記載の方法により得られる遺伝子改変γδ型T細胞集団。
(14)(13)に記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団と薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物。
(15)自家的または同種的な移植によりがん治療対象を処置するための、(14)に記載の医薬組成物。
(16)下記の特徴を有する、遺伝子改変γδ型T細胞集団。
(i)NY-ESO-1p157-165/HLA-A2複合体、HTLV-1p40Taxp11-19/HLA-A2複合体、HTLV-1p40Taxp301-309/HLA-A24複合体またはMAGE-A4p143-151/HLA-A24複合体を特異的に認識するTCRを発現する、
(ii)CD3およびNKG2Dが陽性である、
(iii)IFN-γおよびTNFαを含むサイトカインおよびケモカインを産生する、ならびに
(iv)細胞傷害活性を有する。
(17)下記の特徴を有する、遺伝子改変γδ型T細胞集団。
(i)MAGE-A4p230-239/HLA-A2複合体、CEA、GD2またはCD19を特異的に認識するCARを発現する、
(ii)CD3およびNKG2Dが陽性である、
(iii)IFN-γおよびTNFαを含むサイトカインおよびケモカインを産生する、ならびに
(iv)細胞傷害活性を有する。
(18)前記遺伝子改変γδ型T細胞集団が、DNAベクターまたはRNAベクターを用いて遺伝子が導入されたγδ型T細胞集団であることを特徴とする、(16)または(17)に記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団。
(19)前記遺伝子改変γδ型T細胞集団が、プラスミドベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスおよびレトロウイルスベクターからなる群より選ばれるベクターを用いて遺伝子が導入されたγδ型T細胞集団であることを特徴とする、(16)または(17)に記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団。
(20)前記遺伝子改変γδ型T細胞集団が、レトロウイルスベクターを用いて遺伝子が導入されたγδ型T細胞集団であることを特徴とする、(16)または(17)に記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団。
(21)前記遺伝子が、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする遺伝子である、(16)または(17)に記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団。
(22)(16)~(21)のいずれかに記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団を含む医薬組成物。
(23)(16)~(21)のいずれかに記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団を含む細胞製剤。
(24)がん患者を治療するための、(16)~(21)のいずれかに記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団。
(25)(16)~(21)のいずれかに記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団を含む抗がん剤。
(26)(16)~(21)のいずれかに記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団を用いることを特徴とする、がん治療方法。
(27)(16)~(21)のいずれかに記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団を含む感染症治療剤。
(28)(16)~(21)のいずれかに記載の遺伝子改変γδ型T細胞集団を用いることを特徴とする、感染症治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、末梢血から得られた単核球をビスホスホン酸エステル誘導体で刺激後、IL-7およびIL-15の存在下で培養することにより、IL-2の存在下で培養する従来法に比較して、多数の高純度のγδ型T細胞を製造することが可能である。さらに、ビスホスホン酸エステル誘導体の刺激により増殖するγδ型T細胞に対し、例えばレトロウイルスベクターを用いることにより、効率よく外来遺伝子を導入することができる。外来遺伝子としてTCRおよびCARを導入した場合、TCRおよびCARが機能的に発現したγδ型T細胞を得ることができる。
【0011】
本発明により、採血量が少量であっても、採取した血液から多数のγδ型T細胞を取得することが可能となり、採血を必要とする被験者の負担が軽減される。さらに、遺伝子改変により抗原特異性を有するγδ型T細胞を、短期の培養期間で十分量調製することができる。得られた遺伝子改変γδ型T細胞は、強い抗腫瘍効果を示し、また凍結融解による機能低下を示さないため、凍結保存が可能である。このため、有効な遺伝子改変γδ型T細胞輸注療法の実施が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】健常人2例(HD1およびHD2)の末梢血単核球を、それぞれテトラキスピバロイルオキシメチル 2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート(化合物7)(1μM)、IL-7(25 ng/mL)およびIL-15(25 ng/mL)の存在下で11日間培養した場合の、γδ型T細胞の増殖を示す図である。(A)は、培養開始時(Day 0)および11日間培養した後(Day 11)のそれぞれの細胞集団についてフローサイトメトリーで解析を行い、培養前は末梢血単核球中の数%程度であったγδ型T細胞が、培養後には高純度に増殖している結果を示す。(B)は、3×10
6個の末梢血単核球から培養を開始し、細胞数を経時的に測定した結果を示す。比較として、L-7およびIL-15に代えて、IL-2(100 IU/mLまたは300 IU/mL)を添加して培養した。
【
図2】健常人2例(HD1およびHD2)の末梢血単核球を、それぞれDay 0に化合物7(1μM)により刺激し、次にDay 4および5にレトロウイルスベクターを用いて、HLA-A2とNY-ESO-1
p157-165ペプチド(SLLMWITQC)との複合体を特異的に認識するNY-ESO-1特異的TCR導入を行い、IL-7(25 ng/mL)およびIL-15(25 ng/mL)の存在下で11日間培養した。本図は、得られたγδ型T細胞における導入TCRの発現率を、特異的テトラマーを用いてフローサイトメトリーで解析した結果を示す。
【
図3】NY-ESO-1特異的TCRが導入されたγδ型T細胞によるサイトカイン(IFN-γおよびTNFα)産生およびCD107a発現を測定した結果を示す図である。標的細胞としてHLA-A2陽性T2細胞株にNY-ESO-1
p157-165ペプチドを添加した細胞を用いた。TCRを導入したγδ型T細胞は抗原特異的にIFN-γ、TNFα及びCD107aを発現する結果を示す。
【
図4】HLA-A2とNY-ESO-1
p157-165ペプチドとの複合体を特異的に認識するNY-ESO-1特異的TCRが導入されたγδ型T細胞は、HLA-A2陽性NY-ESO-1抗原陽性細胞株SK-MEL-37を認識し、サイトカインIFN-γを産生する結果を示す図である。比較としてのHLA-A2陽性NY-ESO-1抗原陰性細胞株MEL72は、サイトカインを産生しなかった。
【
図5A】HLA-A24とHTLV-1ウイルス抗原p40Tax由来ペプチド(SFHSLHLLF)との複合体(HTLV-1p40Tax
p301-309/HLA-A24複合体)を特異的に認識するTCRが導入されたγδT細胞は、HLA-A24陰性HTLV-1陽性細胞株ILT-#37を認識せず、HLA-A24陽性HTLV-1陽性細胞株ILT-Hodを特異的に認識することを示す図である。
図5Aは、IFN-γ産生量を測定した結果を示す図である。陽性コントロールとして、p40Tax由来ペプチドを添加したHLA-A24陽性細胞株T2A24(T2A24-p40)を、また陰性コントロールとして、NY-ESO-1
p157-165ペプチドを添加したT2A24細胞株(T2A24-ESO)を用いた。
【
図5B】HLA-A24とHTLV-1ウイルス抗原p40Tax由来ペプチド(SFHSLHLLF)との複合体(HTLV-1p40Tax
p301-309/HLA-A24複合体)を特異的に認識するTCRが導入されたγδT細胞は、HLA-A24陰性HTLV-1陽性細胞株ILT-#37を認識せず、HLA-A24陽性HTLV-1陽性細胞株ILT-Hodを特異的に認識することを示す図である。
図5Bは、細胞傷害性を測定した結果を示す図である。標的であるILT-Hod細胞株またはILT-#37細胞株1×10
4個に対して、TCR導入γδT細胞を1×10
5個、3×10
4個、1×10
4個または3.3×10
3個(E/T ratioは、それぞれ、10:1、3:1、1:1または0.3:1)を加えて共培養した。
【
図6】健常人末梢血単核球を、Day 0に化合物7(1μM)により刺激し、次にDay 4および5にレトロウイルスベクターを用いて、HLA-A2とMAGE-A4
p230-239ペプチド(GVYDGREHTV)との複合体を特異的に認識するCAR導入を行い、IL-7(25 ng/mL)およびIL-15(25 ng/mL)の存在下で11日間培養した。本図は、得られたγδ型T細胞における導入されたCARの発現率を、特異的テトラマーを用いてフローサイトメトリーで解析した結果を示す。
【
図7】健常人末梢血単核球を、Day 0に化合物7(1μM)により刺激し、次にDay 4および5にレトロウイルスベクターを用いて、GD2(disialoganglioside2)を特異的に認識するCAR導入を行い、IL-7(25 ng/mL)およびIL-15(25 ng/mL)の存在下で11日間培養した。本図は、得られたγδ型T細胞における導入されたCARの発現率を、特異的テトラマーを用いてフローサイトメトリーにより解析した結果、およびGD2特異的CAR遺伝子が導入されたγδ型T細胞を、GD2陽性の標的腫瘍細胞株ASと共培養し、IFN-γ産生を解析した結果を示す。本図の上図は、対照γδ型T細胞についての結果を示し、本図の下図は、GD2特異的CAR遺伝子が導入されたγδ型T細胞についての結果を示す。
【
図8】健常人末梢血単核球を、Day 0に化合物7(1μM)により刺激し、次にDay 4および5にレトロウイルスベクターを用いて、CD19を特異的に認識するCAR導入を行い、IL-7(25 ng/mL)およびIL-15(25 ng/mL)の存在下で11日間培養した。本図は、得られたγδ型T細胞における導入されたCARの発現率を、特異的テトラマーを用いてフローサイトメトリーにより解析した結果、およびCD19特異的CAR遺伝子が導入されたγδ型T細胞を、CD19陽性腫瘍細胞(NALM6)と共培養し、IFN-γ産生を解析した結果を示す。本図の上図は、対照γδ型T細胞についての結果を示し、本図の下図は、GD2特異的CAR遺伝子が導入されたγδ型T細胞についての結果を示す。
【
図9】HLA-A2とMAGE-A4
p230-239ペプチド(GVYDGREHTV)との複合体を特異的に認識するCARが導入されたγδ型T細胞は、抗原特異的に腫瘍細胞株を認識することを示す図である。HLA-A2陽性MAGE-A4陽性細胞株(SK-MEL-37およびNW-MEL-38)を特異的に認識することを示す図である。陽性コントロールとして、MAGE-A4
p230-239ペプチドを添加したHLA-A2陽性T2細胞株(T2-MAGE)を、また陰性コントロールとして、NY-ESO-1
p157-165ペプチドを添加したT2細胞株(T2-ESO1)を用いた。
【
図10A】腫瘍特異的TCRおよびCD8αβを同時発現したγδ型T細胞による腫瘍抑制作用を示す図である。
図10Aは、γδ型T細胞を腫瘍細胞と一晩共培養し、IFN-γおよびCD107a産生を、細胞内染色(intracellular staining, ICS)により測定した結果を示す図である。(B)は、腫瘍細胞を移植したNOGマウスにおいて、腫瘍特異的TCRおよびCD8αβを同時発現したγδ型T細胞の輸注による腫瘍抑制効果を、腫瘍体積として測定した結果を示す図である。
【
図10B】腫瘍特異的TCRおよびCD8αβを同時発現したγδ型T細胞による腫瘍抑制作用を示す図である。
図10Bは、腫瘍細胞を移植したNOGマウスにおいて、腫瘍特異的TCRおよびCD8αβを同時発現したγδ型T細胞の輸注による腫瘍抑制効果を、腫瘍体積として測定した結果を示す図である。
【
図11A】腫瘍特異的TCRを導入したγδ型T細胞による腫瘍抑制作用を示す図である。
図11Aは、NOGマウスにおける腫瘍形成を、バイオイメージングにより可視化した結果を示す図である。
【
図11B】腫瘍特異的TCRを導入したγδ型T細胞による腫瘍抑制作用を示す図である。
図11Bは、NOGマウスにおける腫瘍形成を、平均放射輝度で示す図である。
【
図12】化合物7で刺激した遺伝子改変γδ型T細胞の機能に対する凍結融解の影響を解析した結果を示す図である。(A)は、凍結しない細胞における結果を示す図である。(B)は、凍結融解した細胞における結果を示す図である。
【
図13A】γδ型T細胞の増殖に対する化合物7の作用を、ゾレドロン酸と比較した結果を示す図である。
図13Aは、それぞれの被験者から得られた末梢血単核球に対する作用を示す図である。
【
図13B】γδ型T細胞の増殖に対する化合物7の作用を、ゾレドロン酸と比較した結果を示す図である。
図13Bは平均値を示す図である。
【
図14】γδ型T細胞の純度に対する化合物7の作用を、ゾレドロン酸と比較した結果を示す図である。(A)は、CD3陽性細胞中のγδ型T細胞頻度(Vd2/CD3)を示す図である。(B)は、リンパ球分画(P1)におけるγδ型T細胞頻度(Vd2/P1)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔ビスホスホン酸エステル誘導体〕
ビスホスホン酸は二リン酸の類似体であり、二リン酸骨格P-O-Pの中のO(酸素原子)がC(炭素原子)で置換された化合物(P-C-P)である。窒素含有ビスホスホン酸は、ビスホスホン酸分子中にN(窒素原子)を有する化合物である。本発明で用いられるビスホスホン酸エステル誘導体は、表1に記載される窒素含有ビスホスホン酸のピバロイルオキシメチル(pivaloyloxymethyl、POM)エステル、または、それらの薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物である。これらの化合物は、特許文献1(WO2016/098904)に記載されており、その記載に基づいて製造することができるが、その他に、当業者に周知の合成方法を使用して合成することもできる。
【0014】
【0015】
γδ型T細胞は、表1に記載された窒素含有ビスホスホン酸ピバロイルオキシメチルエステルのうち、1つ以上の化合物の存在下で培養することができるが、テトラキスピバロイルオキシメチル 2-(チアゾール-2-イルアミノ)エチリデン-1,1-ビスホスホネート(化合物7)またはその薬学的に許容される塩を用いることが好ましい。薬学的に許容される塩とは、薬理学的及び製剤学的に許容される一般的な塩であり、細胞の培養液に添加された場合であっても、細胞に毒性を示さない塩である。
【0016】
骨吸収抑制剤として使用されるゾレドロン酸(zoledronic acid)などの窒素含有ビスホスホン酸は、細胞内でファルネシル二リン酸シンターゼ(farnesyl diphosphate synthase、FDPS)を阻害する(van Beek E, et al. Biochem Biophys Res Commun. 1999 Oct 14;264(1):108-111)。窒素含有ビスホスホン酸によるFDPSの阻害は、生合成経路におけるFDPSの上流の代謝物であるイソペンテニル二リン酸のレベルを上昇させ、その結果として、γδ型T細胞を刺激する(Wang H, J Immunol. 2011 Nov 15;187(10):5099-5113およびTanaka Y, Sci Rep. 2017 Jul 20;7(1):5987)。本明細書の表1に記載の化合物は、細胞に取り込まれると、細胞内のエステラーゼによりピバロイルオキシメチル基が加水分解を受けて脱離し、遊離酸となる。この遊離酸は、γδ型T細胞内においてFDPSを阻害し、その結果としてγδ型T細胞を刺激する(特許文献1、非特許文献7およびTanaka Y, Sci Rep. 2017 Jul 20;7(1):5987)。
【0017】
窒素含有ビスホスホン酸は、遊離酸の状態では細胞内への透過性が低い。本明細書の表1に記載の化合物は、ピバロイルオキシメチル(POM)エステルであり、細胞への透過性が付与されている。表1に記載の化合物は、1分子当たり4個のPOM基で置換されていることが好ましいが、細胞内への透過性が維持される限り、窒素含有ビスホスホン酸1分子当たり1~3個のPOM基であってもよい。さらに、細胞への透過性が維持され、かつ、細胞内のエステラーゼで加水分解される限り、他のエステルであってもよい。例えば、n-ブチルオキシメチルエステル誘導体およびn-ヘプチルオキシメチルエステル誘導体が挙げられる。これらの窒素含有ビスホスホン酸エステル誘導体についても、1分子当たり1~4個のエステル基を有すればよいが、4個のエステル基を有することが好ましい。
【0018】
〔γδ型T細胞の培養〕
本発明で用いられるγδ型T細胞は、哺乳動物、特にがん患者または非がん患者の末梢血、臍帯血またはがん組織の生検組織から分離された単核球に由来する。γδ型T細胞は、好ましくは、当業者に周知である密度遠心分離法により全血から得ることができる。密度遠心分離法としては、フィコール(Ficoll)、リンホプレップ(Lymphoprep、登録商標)などのリンパ球分離溶液を用いる方法が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。さらに、FACS(fluorescence-activated cell sorting)法またはMACS(magnetic-activated cell sorting)法により細胞を分離してもよい。
【0019】
単核球を採取する対象となるがん患者のがん種としては、乳がん、肺がん、肝がん、口腔がん、上咽頭がん、頭頸部がん、胃がん、食道がん、大腸がん、皮膚がん、悪性黒色腫、腎がん、膵がん、脳腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、膀胱がん、滑膜肉腫、脂肪肉腫、白血病、悪性リンパ腫および多発性骨髄腫が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0020】
γδ型T細胞は、本明細書の表1に記載の窒素含有ビスホスホン酸POMエステル化合物、ならびにIL-7およびIL-15が存在する細胞培養液を用いて培養することにより、末梢血単核球、臍帯血単核球または組織由来単核球から増殖させることができる。IL-7およびIL-15は、それぞれの変異体またはフラグメントであって、それぞれの受容体に結合し、生物活性を発揮するものであれば、本発明の範囲に含まれる。細胞培養液としては、RPMI 1640培養液、Ysselの培養液などが挙げられるが、これらに限定されない。細胞培養液には、例えば、ウシ胎児血清、ヒトAB血清、自家血漿、ヒトアルブミン、血清代替品を、0.1~20%(v/v)の量で添加することができる。前記窒素含有ビスホスホン酸POMエステルは、細胞培養液に0.01~1μMの濃度で添加することができる。IL-7およびIL-15は、使用するロットの比活性に応じて細胞培養液に添加する濃度を変えることができるが、いずれのサイトカインとも、5~100 ng/mLの濃度で添加することができる。
【0021】
γδ型T細胞は、前記窒素含有ビスホスホン酸POMエステル存在下、5%CO2、37℃環境下で1~7日間培養することにより刺激される。IL-7およびIL-15は、前記窒素含有ビスホスホン酸POMエステルと同時に培養液に添加してもよく、またはビスホスホン酸POMエステル添加後1~5日に添加してもよい。
【0022】
〔γδ型T細胞への遺伝子導入〕
末梢血または組織由来の単核球を、前記窒素含有ビスホスホン酸POMエステル、IL-7およびIL-15存在下で培養し、得られたγδ型T細胞には、当業者に周知の遺伝子導入法を用いて遺伝子を導入することができる。遺伝子導入は、γδ型T細胞の培養期間の任意の時点で行うことができるが、培養開始後翌日~14日で行うことが好ましい。γδ型T細胞に遺伝子を導入する方法としては、リポフェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、プラスミドベクター法、ウイルスベクター法等を挙げることができる。ベクターとしては、DNAベクターまたはRNAベクターが用いられる。ウイルスベクターとしては、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスおよびレトロウイルスベクターが挙げられるが、レトロウイルスベクターが好ましい。
【0023】
ウイルスベクターを用いてγδ型T細胞に遺伝子導入する場合、ウイルス感染効率を向上させる機能性物質を使用することができる。例えば、フィブロネクチン、フィブロネクチンフラグメント、ポリペプチド等のウイルスベクターに結合する活性を有する機能性物質が挙げられる。特にレトロウイルスベクターの場合、ヘパリン結合部位を有するフィブロネクチンフラグメントであるレトロネクチン(登録商標)またはVecofusin-1(登録商標)を用いるのが好ましい。これらの機能性物質は、適切な固相(例えば、プレート、シャーレ、コニカルチューブ、マイクロチューブ等)又は担体(マイクロビーズ等)に固定化された状態で使用することができる。
【0024】
γδ型T細胞に導入する遺伝子としては、NY-ESO-1特異的TCR、HTLV-1 Tax特異的TCR、MAGE-A4特異的TCR、MAGE-A4特異的CAR、CEA特異的CAR、GD2特異的CAR、CD19特異的CAR、等が挙げられるが、これらに限定されない。TCR発現用レトロウイルスベクター構造は、エンハンサー、プロモーターを含む両端のLTR(Long Terminal Repeat)の間に、それぞれの特異的TCRのα鎖遺伝子とβ鎖遺伝子が組み込まれた構造である。CAR発現用レトロウイルスベクター構造は、エンハンサー、プロモーターを含む両端のLTRの間に、リーダー配列に続いて、HLA-A2とMAGE-A4p230-239ペプチドとの複合体を特異的に認識する抗体の成分であるVHおよびVLが続き、その後にCL、CD28TMおよび細胞内ドメインが組み込まれた構造である。個々のTCRおよびCARを発現導入するためには、他の手段、例えばレンチウイルスベクターを用いて該当するTCRおよびCARを発現導入してもよい。
【0025】
ベクターを用いて遺伝子をγδ型T細胞に導入した後、当該細胞の遺伝子発現は、フローサイトメトリー、RT-PCR、ノーザンブロッティング、ウエスタンブロッティング、ELISA、蛍光免疫染色等の、当業者に公知の方法により確認することができる。
【0026】
TCR遺伝子またはCAR遺伝子を導入したγδ型T細胞は、対応するTCRまたはCARを細胞膜上に発現する。これらのTCRおよびCARが認識する特異的抗原が、それぞれTCRおよびCARに結合すると、遺伝子改変γδ型T細胞が活性化され、インターフェロン-γ(IFN-γ)や腫瘍壊死因子α(TNFα)などのサイトカイン産生や、CD107aなどの細胞傷害活性分子の発現が観察される。
【0027】
上記のようにして得られた遺伝子改変γδ型T細胞は、該細胞が発現するTCRまたはCARに特異的に認識される抗原を発現する細胞に対して特異的な細胞傷害性を示す。このため、遺伝子改変γδ型T細胞集団は、前記抗原を発現する細胞が関与する疾患、例えば、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、原虫感染症、またはがん等の疾患の治療または予防のために、患者に投与することが可能である。患者への投与は、注射または輸注が好ましい。投与経路としては、静脈内投与が好ましいが、生体組織内への直接注射により投与してもよい。また、GVHD(graft-versus-host disease:移植片対宿主病)を誘導しないため、自家的な移植に限らず、同種的な移植も可能である。
【0028】
前記抗原が、がん特異的抗原である場合、本発明の遺伝子改変γδ型T細胞集団を含む細胞製剤または医薬組成物は、抗がん剤として使用することができる。がん特異的抗原としては、NY-ESO-1、MAGE-A4、CEA(がん胎児性抗原)などが挙げられる。これらのがん特異的抗原を発現するがん種としては、例えば、乳がん、肺がん、胃がん、食道がん、胆管がん、悪性黒色腫、前立腺がん、卵巣がん、滑膜肉腫、脂肪肉腫、多発性骨髄腫が挙げられる。B細胞に発現するCD19を抗原とし、B細胞性腫瘍に対する抗がん剤とすることもできる。がん特異的抗原として、GD2(disialoganglioside2)を挙げることができる。神経芽腫に発現するGD2は、神経芽腫のみならず、脳腫瘍、網膜芽細胞腫、肺小細胞がん、悪性黒色腫など他の神経外胚葉に起源を有する悪性腫瘍にも広範囲に発現する。本願発明の医薬組成物は、これらのがんの治療または予防のために使用することができる。前記抗原が、感染症特異的抗原である場合、本発明の遺伝子改変γδ型T細胞集団を含む細胞製剤または医薬組成物は、感染症に起因する腫瘍性疾患あるいは感染症治療剤として使用することができる。感染症特異的抗原としては、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)由来抗原Taxなどが挙げられる。これらの感染症特異的抗原を発現する感染症または腫瘍性疾患としては、例えば、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎、ATL(成人T細胞白血病リンパ腫)が挙げられる。本願発明の医薬組成物は、これらの感染症治療または予防のために使用することができる。
【0029】
本発明の細胞製剤または医薬組成物は、薬学的に許容される添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、例えば、細胞培養液、リン酸緩衝食塩水などが挙げられる。
【実施例0030】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。