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特開2024-79810キレート剤、浸透促進剤およびヒドロキシエチルセルロースを含む眼科疾患治療用製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079810
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】キレート剤、浸透促進剤およびヒドロキシエチルセルロースを含む眼科疾患治療用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20240604BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/663 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/4706 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/65 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/6615 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61K31/198
A61K47/38
A61K47/20
A61K31/194
A61K31/663
A61K31/19
A61K33/42
A61K31/4706
A61K31/65
A61K31/444
A61K31/6615
A61P27/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053723
(22)【出願日】2024-03-28
(62)【分割の表示】P 2019551639の分割
【原出願日】2019-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】519334410
【氏名又は名称】リビオネックス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】LIVIONEX, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ラジブ・ブシャン
(72)【発明者】
【氏名】ジェリー・ジン
(72)【発明者】
【氏名】アミット・ゴスワミー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】加齢に関連する有害な眼状態を含む眼科疾患の治療のための組成物を提供する。
【解決手段】キレート剤(例えば、EDTAおよびその塩)、および輸送促進剤(例えば、メチルスルホニルメタン;MSM)および有効量の粘弾性ポリマー(例えば、ヒドロキシメチルセルロース;HEC)を含む眼用製剤が提供される。一緒に、2つの物質の組合せは、予想外かつ有益に、粘弾性ポリマーを含まない製剤と比較して、キレート剤/輸送促進剤に関連する不快感を減少させ、それらの効果を高める。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害な眼状態の治療のための眼用製剤であって、
(a)キレート剤またはその塩;
(b)電荷マスキング剤である輸送促進剤;
(c)副作用の軽減および有効性の向上に十分な量の粘弾性材料である増粘剤の濃度;および
(d)薬学的に許容される不活性ビヒクル
を含む製剤であり、
キレート剤および輸送促進剤が、適用される眼における高分子凝集の有意な減少をもたらすのに有効な割合で存在し、
組成物中の、キレート剤のパーセンテージが約0.1重量%~15重量%であり、輸送のパーセンテージが約0.1重量%~40重量%である、
製剤。
【請求項2】
輸送促進剤がMSMである、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
MSMの量が5%未満である、請求項1記載の製剤。
【請求項4】
キレート剤対MSMの比率が約10:1~1:20の範囲である、請求項2記載の製剤。
【請求項5】
粘弾性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)およびポリビニルアルコールから選択される、請求項1記載の製剤。
【請求項6】
粘弾性ポリマーがヒドロキシエチルセルロース(HEC)である、請求項1記載の製剤。
【請求項7】
HECの濃度が0.5%~5.0%である、請求項6記載の製剤。
【請求項8】
HECの濃度が0.5%~1.0%である、請求項6記載の製剤。
【請求項9】
HECの濃度が0.8%~0.85%である、請求項6記載の製剤。
【請求項10】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ArPA)、クエン酸、酢酸およびそれらの許容される塩、ならびにそれらの組合せから選択される、請求項1記載の製剤。
【請求項11】
EDTA塩が、EDTA二アンモニウム、EDTA二ナトリウム、EDTA二カリウム、EDTA三アンモニウム、EDTA三ナトリウム、EDTA三カリウム、EDTA四ナトリウム、EDTA四カリウム、EDTA二ナトリウムカルシウム、およびそれらの組合せから選択される、請求項10記載の製剤。
【請求項12】
キレート剤が、リン酸塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩およびヘキサメタリン酸塩から選択される、請求項1記載の製剤。
【請求項13】
キレート剤が、キレート化抗生物質、クロロキンまたはテトラサイクリンである、請求項1記載の製剤。
【請求項14】
キレート剤が、イミノ基内または芳香環中に2個以上のキレート化窒素原子を含有する窒素含有キレート剤、ジイミンまたは2,2'-ビピリジンである、請求項1記載の製剤。
【請求項15】
キレート剤が、サイクラム(1,4,7,11-テトラアザシクロテトラデカン)、N-(C1~C30アルキル)置換サイクラム(例えば、ヘキサデサイクラム、テトラメチルヘキサデシルサイクラム)、ジエチレントリアミン(DETA)、スペルミン、ジエチルノルスペルミン(DENSPM)、ジエチルホモスペルミン(DEHOP)、デフェロキサミン(N'-{5-[アセチル(ヒドロキシ)アミノ]ペンチル}-N-[5-({4-[(5-アミノペンチル)(ヒドロキシ)アミノ]-4-オキソブタノイル}アミノ)ペンチル]-N-ヒドロキシサクシナミド、またはN'-[5-(アセチル-ヒドロキシ-アミノ)ペンチル]-N-[5-[3-(5-アミノペンチル-ヒドロキシ-カルバモイル)プロパノイルアミノ]ペンチル]-N-ヒドロキシ-ブタンジアミド)、デスフェリオキサミンB、デスフェロキサミンB、DFO-B、DFOA、DFB、デスフェラール、デフェリプロン、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン(PIH)、サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン(SIH)、エタン-1,2-ビス(N-1-アミノ-3-エチルブチル-3-チオール)から選択されるポリアミンである、請求項1記載の製剤。。
【請求項16】
キレート剤が、([2-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-エチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([3-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([4-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-ブチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-エチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([3-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([4-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-ブチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステルから選択されるEDTA-4-アミノキノリン抱合体である、請求項1記載の製剤。
【請求項17】
キレート剤が、クエン酸、フィチン酸、乳酸、酢酸およびそれらの塩、ならびにクルクミンから選択される天然キレート剤である、請求項1記載の製剤。
【請求項18】
ビヒクルが水性である、請求項1記載の製剤。
【請求項19】
製剤の投与が眼中の高分子凝集体を減少させる、請求項1記載の製剤。
【請求項20】
高分子凝集体がペプチジル化合物である、請求項19記載の製剤。
【請求項21】
高分子凝集体がタンパク質である、請求項19記載の製剤。
【請求項22】
高分子凝集体がリポタンパク質である、請求項19記載の製剤。
【請求項23】
製剤が眼挿入物を含む、請求項1記載の製剤。
【請求項24】
製剤が時限放出用である、請求項1記載の製剤。
【請求項25】
高分子凝集体が
である、請求項19記載の製剤。
【請求項26】
製剤が、MSM2.7%w/w;EDTA二ナトリウム1.3%w/w;およびHEC0.85%w/wを含む、請求項1記載の製剤。
【請求項27】
有害な眼症候群の徴候の軽減を必要とする対象体の眼に請求項1記載の製剤を投与することによる有害な眼症候群の徴候を軽減するための方法。
【請求項28】
有害な眼状態が眼における高分子凝集体の蓄積である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
製剤が、粘弾性ポリマーの非存在下での有効性と比較して、粘弾性ポリマーの存在下で有効であるとして少なくとも75%である量のキレート剤および浸透促進剤を含む、請求項27記載の方法。
【請求項30】
製剤が、浸透促進剤としてMSM、MSMおよび粘弾性ポリマーとしてHECを含む、請求項27記載の方法。
【請求項31】
使用される製剤が、MSM2.7%w/w;EDTA二ナトリウム1.3%w/w;およびHEC0.85%w/wを含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
製剤が、粘弾性ポリマーの非存在下での刺痛感と比較して、粘弾性ポリマーの存在下で対象体の眼における刺痛感を有意に減少させる量のキレート剤、浸透促進剤および粘弾性ポリマーを含む、請求項27記載の方法。
【請求項33】
製剤が、浸透促進剤としてMSM、MSMおよび粘弾性ポリマーとしてHECを含む、請求項27記載の方法。
【請求項34】
使用される製剤が、MSM2.7%w/w;EDTA二ナトリウム1.3%w/w;およびHEC0.85%w/wを含む、請求項30記載の方法。
【請求項35】
対象体における刺痛感を減少させながら有害な眼状態を治療するための製剤であって、
(a)キレート剤またはその塩;
(b)メチルスルホニルメタン(MSM)である電荷マスキング剤;
(c)0.5%~5.0%の濃度のヒドロキシエチルセルロース(HEC)である増粘剤;および
(d)薬学的に許容される不活性ビヒクル
を含む製剤であって、
HECの濃度が、眼におけるキレート剤/MSMの組合せの放出を減少させて、刺痛感が生じる濃度レベルよりも低い濃度レベルを維持するのに十分であり、
HECの濃度が、有害な眼状態の有意な減少をもたらすのに有効な期間、眼中にキレート剤/MSMを保持するのに十分であり、
組成物中の、キレート剤のパーセンテージが約0.1重量%~3.0重量%であり、輸送のパーセンテージが約0.1重量%~6.0重量%である、
製剤。
【請求項36】
有害な眼状態が高分子凝集によって引き起こされる、請求項35記載の製剤。
【請求項37】
有害な眼状態がドライアイ症候群によって引き起こされる、請求項35記載の製剤。
【請求項38】
ドライアイ症候群が炎症によって引き起こされる、請求項37記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、しばしば加齢に関連する有害な眼状態を含む眼科疾患の治療の分野に関する。より詳しくは、本発明は、眼の中に存在し得るような高分子凝集体の存在に関連する状態の治療に関する。特に、本発明は、輸送促進剤、キレート剤およびヒドロキシエチルセルロース(HEC)を含有する抗菌組成物に関する。一の例示的実施態様では、MSM、キレート剤およびHECを含有するこのような組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
正常な変化および病的変化を含む眼の進行性の加齢変化はヒトおよび他の哺乳動物における生活の不可避な部分である。これらの変化の多くは、眼の機能および美容上の外観の両方に深刻な影響を及ぼす。これらの変化としては、以下のものが挙げられる:白内障の発症;水晶体の硬化、混濁、柔軟性低下および黄変;角膜の黄変および混濁;老視;眼内圧上昇および緑内障の原因となる線維柱帯(trabeculum)の目詰まり;硝子体液中の浮遊物の増加;虹彩の硬化およびその拡張範囲の縮小;加齢黄斑変性(AMD);網膜動脈におけるアテローム硬化性沈着物の形成;ドライアイ症候群;ならびに網膜の杆体および錐体の感度および光レベル適応能力の低下。加齢関連の視力低下には、視力、視覚コントラスト、色覚および深視力、水晶体調節、光感受性、ならびに暗順応の喪失が含まれる。加齢変化には、虹彩の発色の変化、および老人環の形成も含まれる。
【0003】
本願発明者らは、以前に、キレート剤および浸透促進剤を含む眼科疾患治療用製剤を開示している。国際出願PCT/US2006/027686(国際公開第2007011875号)には、金属キレート剤、ならびにMSMおよびEDTAなどの電荷マスキング剤を含む製剤を用いて眼内の高分子凝集体を減少させるための製剤が開示されている。米国特許出願第20060177430号には、生体適合性キレート剤、メチルスルホニルメタン(MSM)のような眼浸透促進剤の有効な浸透促進量、抗AGE(終末糖化産物(advanced glycation endproducts))剤を含有する有害な眼状態治療用製剤が開示されている。
【0004】
しかしながら、キレート剤およびMSM(または同様の浸透促進剤)を含有する製剤の投与は、高分子凝集の治療に有効であるが、眼に顕著な刺痛感を示す患者に不快感をもたらし、したがって、患者に治療を中断させることが観察されている。これは、部分的には、製剤中のより高濃度のキレート剤および/または浸透剤によって引き起こされ得る。
【0005】
人工涙液は、特にカルボキシメチルセルロース、デキストラン、グリセリン、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール400(PEG400)、ポリソルベート、ポリビニルアルコール、ポビドン、またはプロピレングリコールを含む1種類以上の粘滑薬を使用することによって眼不快感を軽減するために使用される。FDAは、そのような使用のための成分および濃度を特定する眼不快感の治療における人工涙液の使用を承認した。(www.fda.gov/downloads/Drugs/DevelopmentApprovalProcess/DevelopmentResources/Over-the-CounterOTCDrugs/StatusofOTCRulemakings/ucm094081.pdfから入手可能な、Food and Drug Administration: “Ophthalmic Drug Products for Over-the-counter Human use; Final Monograph” 21 CFR Parts 349 and 369. Federal Register 1988, 53(43):7076-7093)。人工涙液に使用される他の成分としては、組織を柔らかくして保護し、ひび割れや乾燥を防ぐために使用される油性または脂肪ベースの薬剤である軟化剤が挙げられる。
【0006】
人工涙液で使用されるような標準的な濃度(約0.2%)の粘弾性ポリマー(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびポリビニルアルコール)を使用することによって問題を解決するための努力。使用されたこれらのポリマーおよび濃度は、常に、ポリマーを使用しない場合よりも、より長い時間、より多くの刺痛をもたらした。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)を著しく高い濃度(0.5~5.0%)で使用することにより刺痛の有意な減少があったという驚くべき観察に基づいている。
【0008】
理論に束縛されることなく、非常に高いHEC濃度ではEDTA/MSMの放出速度が劇的に低下して、刺痛が有意に減少すると仮定される。眼の粘膜は、特にほとんどの刺痛が生じる鼻の近くの眼の端では、低いレベルの粘弾性化合物で刺痛を引き起こしたキレート剤/MSMのレベルをもはや経験しない。
【0009】
いくつかの実施態様では、本発明は、高分子凝集により引き起こされる有害な眼状態を低減させるための、輸送促進剤(例えば、MSM)およびキレート剤(例えば、EDTA)ならびに0.5%~5%の濃度のHECおよび眼科的に許容される不活性担体を含む製剤の使用方法に関する。
【0010】
HECの濃度は、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.85%、0.9%、1.0%、1.5%、2.0%、5.0%、またはこれらの値により包含される範囲から選択され得る。特定の実施態様では、HECは、0.8%~1.0%である。一の実施態様では、濃度は、EDTA 1.3%、MSM 2.7%およびHEC 0.85%である。
【0011】
該方法は、対象体に、キレート剤の治療有効量および式(I):
【化1】
[式中、R1およびR2は、独立して、置換されていてもよい、C2~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、C6~C14アラルキルおよびC2~C12ヘテロアラルキルから選択され、QはSまたはPである]
を有する輸送促進剤の有効な輸送促進量から構成される製剤の有効量を投与することを含む。
【0012】
輸送促進剤は、例えば、メチルスルホニルメタン(MSM;メチルスルホン、ジメチルスルホンおよびDMSO2とも称される)であり得、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などであり得る。
【0013】
該製剤は、液体およびゲルベースの組成物を含む、眼科投与に好適な形態で投与され得る。加えて、好ましい実施態様では、該製剤は、天然に存在する成分および/または米国食品医薬品局によるGRAS(「一般的に安全であるとみなされた」)成分から完全に構成される。
【0014】
別の実施態様では、本発明は、眼におけるバイオフィルムの形成を阻害する方法であって、細菌を、輸送促進剤(例えば、MSM)、キレート剤(例えば、EDTA)および0.5%~5.0%のHECを含む製剤の有効量と接触させることを含み、それにより眼におけるバイオフィルムの形成が阻害される、方法を提供する。
【0015】
本発明のさらなる実施態様は、バイオフィルムの形成を阻害するための眼挿入物であって、該眼用製剤が輸送促進剤(例えば、MSM)、キレート剤(例えば、EDTA)および0.5%~5%のHECおよび薬剤的に許容されるビヒクルを含む製剤を含む、眼挿入物を提供する。
【0016】
本発明は、また、眼の酸化的損傷および/またはフリーラジカル損傷に関係するものを含み、高分子凝集体の形成または沈着に関連するものもある、有害な眼状態の予防および治療のための方法に関係する。該製剤は、眼科的に活性な薬剤の治療有効量、金属カチオンの捕捉剤(sequestrant)、例えば上記のようなキレート剤、および上記のような輸送促進剤を含有する。これらの有害な眼状態としては、例として、角膜、網膜、水晶体、強膜、ならびに前眼部および後眼部の状態、疾患または障害が挙げられる。本明細書で使用される場合の有害な眼状態は、老齢個体において頻繁に見られる「正常な」状態(例えば、視力およびコントラスト感度の低下)または老化過程に関連しているかもしくは関連していない病理学的状態であり得る。後者の有害な眼状態には、多種多様な眼の障害および疾患が含まれる。本発明の製剤を使用して予防および/または治療され得る加齢関連眼問題としては、混濁(角膜混濁および水晶体混濁の両方)、白内障形成(続発性白内障形成を含む)、および、脂質の沈着に関連する他の問題、視力低下、コントラスト感度の低下、羞明、グレア、ドライアイ、夜間視力の喪失、瞳孔の狭窄、老視、加齢黄斑変性、眼内圧上昇、緑内障、および老人環が挙げられるが、これらに限定されない。「加齢関連」とは、一般に高齢患者にはるかに頻繁に生じると認識されているが、若年者において生じる場合もある状態を意味する。該製剤は、典型的には粉塵、風または紫外線によって引き起こされるが老眼に関連する変性疾患の症状でもあり得る、瞼裂斑および翼状片などの眼表面増殖の治療にも使用され得る。一般に加齢関連とは見なされないが本製剤を使用して治療することができる別の有害な状態には、円錐角膜が含まれる。本製剤は、一般に、任意の哺乳動物個体において視力を改善するために有利に使用できることも強調されるべきである。すなわち、該製剤の眼内投与は、患者の年齢または有害な眼の状態の存在に関係なく、視力およびコントラスト感度、ならびに色覚および深視力を改善することができる。該製剤は、人間および動物の両方で有害な眼状態を治療するのに有用である。
【0017】
いくつかの実施態様では、該製剤は、ドライアイ症状、特に炎症に関連するドライアイを緩和するのに有効である。
【0018】
これらおよび他の態様は、以下の図面と併せて好ましい実施態様の以下の説明から明らかになるであろうが、その中の変更および修正は、本開示の新規概念の精神および範囲から逸脱することなく影響を受け得る。
【0019】
発明の詳細な説明
本明細書で使用される用語は、一般に、本発明の文脈内、および各用語が使用される特定の文脈において、当技術分野におけるそれらの通常の意味を有する。本発明を説明するために使用される特定の用語は、本発明の説明に関して実施者に追加のガイダンスを提供するために、以下または本明細書の他の場所で議論される。便宜上、例えば斜体および/または引用符などを使用して、特定の用語を強調表示する場合がある。強調表示の使用は、用語の範囲と意味には影響しない;用語の範囲と意味は、強調表示されているかどうかにかかわらず、同じ文脈では同じである。同じことが複数の方法で言えることは理解されるであろう。したがって、代替の言語や同義語は、本明細書で説明される用語のうち1つ以上の用語に使用され得、用語が詳しく説明または説明されているかどうかに関する特別な意味ではない。特定の用語の同義語が提供される。1つ以上の同義語の備考は、他の同義語の使用を除外しない。本明細書で説明されている用語の例を含む本明細書のどこかでの例の使用は、単なる例示であり、如何なる場合も本発明または例示された用語の範囲および意味を限定するものではない。同様に、本発明は、本明細書で与えられる様々な実施態様に限定されない。
【0020】
値の範囲が提供されている場合、その範囲の上限および下限とその指定された範囲内の他の値または中間値との間の、文脈で明確に指示されていない限り下限の10分の1の単位までの各中間値が本発明に含まれると解される。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立して、より小さな範囲に含まれてもよく、また、本発明の範囲内に包含され、記載された範囲内の具体的に除外された制限に従う。記載された範囲が制限の一方または両方を含む場合、それらの含まれた制限のいずれかまたは両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0021】
本願を通して、様々な刊行物、特許、および公開された特許出願が引用されている。本願で参照されるこれらの刊行物、特許および公開された特許出願の発明は、出典明示により本明細書の一部とする。本明細書における刊行物、特許、または公開された特許出願の引用は、その刊行物、特許、または公開された特許出願が先行技術であることを認めるものではない。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「and」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないと示さない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「輸送促進剤」は、複数の輸送促進剤および単一の輸送促進剤を包含する。「キレート剤」への言及は、2つ以上のキレート剤ならびに単一のキレート剤などへの言及を含む。本明細書およびそれに続く特許請求の範囲では、以下の意味を有すると定義される多くの用語について言及される。
【0023】
製剤成分に言及する場合、使用される用語、例えば、「薬剤」は、特定の分子実体だけでなく、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、抱合体、活性代謝物、および他のそのような誘導体、類似体、および関連化合物を含むがこれらに限定されないその薬学的に許容される類似体も包含することが意図される。
【0024】
本明細書で使用される用語「治療する」および「治療」とは、症状の重篤度および/または頻度の低下をもたらすため、症状および/またはその根本原因を排除するため、および/または損傷の改善または修復を促進するために、有害な状態、障害または疾患に苦しむ臨床症状のある個体への薬剤または製剤の投与を指す。用語「予防する」および「予防」とは、特定の有害な状態、障害、または疾患に罹りやすい臨床的に無症状の個体への薬剤または組成物の投与を指し、したがって、症状および/またはその根本原因の発生の予防に関係する。明示的または暗示的に、本明細書で別段の定めがない限り、用語「治療」(または「治療する」)が可能な予防に言及することなく使用されている場合、予防も含まれることが意図されており、「歯肉炎の治療方法」は、「歯肉炎の予防方法」を包含すると解釈される。
【0025】
「任意の置換基」または「存在していてもよい添加剤」の場合のような「任意の」または「存在していてもよい」とは、その後に記載される成分(例えば、置換基または添加剤)が存在してもしなくてもよいことを意味するので、該記載には、該成分が存在する場合と存在しない場合を含む。
【0026】
「薬学的に許容される」とは、生物学的にまたはその他の点で望ましくない物質を意味し、例えば、該物質は、望ましくない生物学的影響を引き起こすことなく、または投与剤形製剤の他の成分のいずれかと有害な相互作用を生じることなく、本発明の製剤に組み込むことができる。しかしながら、用語「薬学的に許容される」が医薬賦形剤に言及するために使用される場合、該賦形剤が毒性試験および製造試験の必要な基準を満たしていること、および/または、米国食品医薬品局によって作成されたInactive Ingredient Guideに含まれることを意味する。以下でさらに詳細に説明するように、「薬理学的に活性な」誘導体または類似体の場合のような「薬理学的に活性な」(または、単に「活性な」)とは、親薬剤と同じタイプの薬理学的活性を有する誘導体または類似体をいう。本明細書で使用される用語「治療する」および「治療」とは、症状の重症度および/または頻度の低減、症状および/または根本原因の排除、症状および/またはその根本原因の発生の予防、ならびに望ましくない状態または損傷の改善または治療をいう。したがって、例えば、対象体を「治療する」とは、罹患し易い個体における有害な状態の予防、ならびに該状態を抑制するかまたはその後退を引き起こすことによる臨床的に症状を有する個体の治療を含む。用語「キレート剤」(または「活性薬剤」)とは、生物学的状況下で、すなわち対象体に投与された場合またはインビトロで細胞または組織に導入された場合に、所望の効果を呈する化合物、複合体または組成物をいう。該用語には、本明細書に具体的に記載されるこれらの活性薬剤の薬学的に許容される誘導体が含まれ、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物活性代謝物、異性体、類似体、結晶体および水和物などが挙げられるが、これらに限定されない。用語「キレート剤」を使用する場合、または特定のキレート剤が具体的に同定されている場合、該薬剤自体だけではなく、該薬剤の薬学的に許容される塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物、異性体、類似体なども意図されると解されるべきである。
【0027】
活性薬剤の「有効な」量または「治療上有効な」量とは、非毒性であるが有益な効果を提供するのに十分な活性薬剤の量を意味する。「有効な」活性薬剤の量は、個体の年齢および全身状態、ならびに特定の活性薬剤などに応じて、対象体によって異なる。特に明記しない限り、本明細書で使用される「治療上有効な」量とは、有害な状態の治療に有効な量に加えて、有害な状態の予防および/または有害な状態の寛解に有効な量を包含することが意図される。
【0028】
用語「制御放出」とは、薬剤の放出が即時ではない薬剤含有製剤またはその画分をいい、すなわち、「制御放出」製剤による投与は該薬剤の吸収プールへの即時放出を引き起こさない。該用語は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Nineteenth Ed. (Easton, Pa.: Mack Publishing Company, 1995)で定義されている「非即時放出」と同じ意味で使用される。一般に、本明細書で使用される用語「制御放出」とは、「遅延放出」製剤ではなく「持続放出」製剤をいう。「持続放出」(「長期放出」と同義)は、長期間にわたる薬剤の徐放を提供する製剤をいうためにその従来の意味で使用される。
【0029】
「薬学的に許容される」または「眼科的に許容される」成分とは、生物学的にまたはその他の点で望ましくなくはない成分を意味し、すなわち、該成分は本発明の眼用製剤に組み込まれることができ、望ましくない生物学的影響を引き起こすことなく、または含有する製剤組成物の他の成分のいずれかと有害な相互作用を生じることなく、患者の眼に局所投与され得る。用語「薬学的に許容される」が薬理学的に活性な薬剤以外の成分に言及するために使用される場合、該成分が毒性試験および製造試験の必要な基準を満たしていること、または、米国食品医薬品局によって作成されたInactive Ingredient Guideに含まれることを意味する。
【0030】
用語「ペプチド」および「ペプチジル」とは、2種類以上のアミノ酸で構成される構造を含むことが意図されている。ペプチドの全体または一部を形成するアミノ酸は、20種類の慣用の天然アミノ酸、すなわち、アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)、トリプトファン(W)、およびチロシン(Y)のいずれであり得る。アミノ酸のいずれかは、例えば慣用のアミノ酸に異性体もしくは類似体(例えば、D-アミノ酸)、非タンパク質アミノ酸、翻訳後修飾アミノ酸、酵素学的修飾アミノ酸、またはアミノ酸を模倣するように設計された構築物もしくは構造などの非慣用的アミノ酸で置き換えられ得る。本明細書におけるペプチジル化合物としては、タンパク質、オリゴペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、グリコシル化ペプチドおよび糖タンパク質などが挙げられる。
【0031】
本発明を読んだ当業者には明らかであるように、本明細書に記載および例示された個体の実施態様の各々は、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、他のいくつかの実施態様のうちのいずれかの実施態様の特徴から容易に分離され得るかまたは該特徴と組み合わせ得る個別の要素および特徴を有する。記載された方法は、記載された事象の順序で、または論理的に可能な他の順序で行うことができる。
【0032】
特に明記しない限り、本発明は、特定の製剤成分、投与様式、キレート剤または製造方法などに限定されず、それ自体変化し得る。
【0033】
他の定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含む本書が優先される。
【0034】
眼科的な障害および有害な状態
角膜、強膜、線維柱帯、虹彩、水晶体、硝子体液および網膜を包含する眼の全ての部分は、以下で説明するように、老化過程により影響を受ける。
【0035】
角膜は眼の最外層である。それは眼の前面を覆う透明なドーム型の表面である。角膜は5つの層で構成されている。上皮は該表面を形成する細胞の層である。それはわずか約5~6細胞層厚であり、角膜が損傷した場合に素早く再生する。損傷がより深く角膜に侵入した場合、瘢痕が生じて混濁した領域が残ることがあり、角膜が透明度および光沢を失う原因となる。上皮の直下には非常に丈夫で侵入が困難な保護層であるボーマン膜がある。角膜の最も厚い層である角膜実質はボーマン膜のすぐ下にあり、角膜に透明性を提供する配置である平行に並んだ小さなコラーゲン線維で構成されている。デスメ膜が角膜実質の下にあり、内皮である最も内側の角膜層のすぐ上にある。内皮はわずか1細胞層の厚さであり、角膜から房水まで水を送り込み、それを透明に保つ役割を果たす。損傷するかまたは病気に罹った場合、これらの細胞は再生しない。
【0036】
眼が老化するにつれて、角膜は混濁していく可能性がある。混濁は様々な形態を取り得る。混濁の最も一般的な形態は角膜の周辺に影響を及ぼし、「老人環」または「弓」と称される。この種の混濁は最初にデスメ膜への脂質沈着を伴う。その後、脂質はボーマン膜に沈着し、おそらく角膜実質にも沈着する。老人環は、通常、視覚的に重要ではないが、外見上顕著な老化の徴候である。他の加齢関連の角膜混濁があるが、それはいくつかの視覚的な結果をもたらし得る。これらには、角膜実質中層に影響を及ぼすフランソアの中心混濁ジストロフィー(central cloudy dystrophy of Francois)、および後部角膜実質の中心混濁である後部クロコダイルシャグリーン(posterior crocodile shagreen)が含まれる。光を散乱させることによる混濁は、視覚コントラストおよび視力の進行性低下をもたらす。
【0037】
角膜の混濁は、例えば角膜構造の変性;メタロプロテイナーゼによるコラーゲンおよび他のタンパク質の架橋;紫外線(UV)損傷;酸化損傷;ならびに、カルシウム塩、タンパク質老廃物および過剰脂質などの物質の蓄積を含む、多くの原因の結果として発生する。
【0038】
外科的介入以外の角膜変化を遅延または逆転させるための確立した治療はない。例えば、まず上皮を取り除いた後に、ブラント器具(blunt instrument)で混濁構造体を削り取り、その後、レーザー光線で角膜表面を平滑化して形を整えることができる。角膜瘢痕および混濁の重症ケースでは、角膜移植が唯一の効果的なアプローチであった。
【0039】
角膜および他の眼内構造体に悪影響を及ぼす別の一般的な眼障害は、一般的に「ドライアイ症候群」または「ドライアイ」と称されている乾性角結膜炎である。ドライアイは、多くの原因から生じ得、高齢者にとってしばしば問題となっている。該障害は、チクチクする感覚、過剰な粘液分泌、灼熱感、光への感度亢進、および疼痛に関連している。ドライアイは、現在、低分子量ポリエチレングリコールのような滑沢剤を含有する市販の製品である「人工涙液」で治療されている。外科的治療も珍しくなく、通常、涙腺分泌物が眼に保持されるように眼に涙点プラグの挿入を伴う。しかしながら、どちらのタイプの治療にも問題がある:外科的治療は侵襲的であり、リスクを伴う可能性があるが、人口涙液製品は、非常に一時的であってしばしば不十分な救済を提供するだけである。
【0040】
強膜は白目である。若い個体では強膜は蒼白であるが、人々が歳を取るにつれて、結膜の加齢変化の結果として強膜は黄色くなる。経年的に、UVおよび粉塵曝露により、結膜組織に変化が生じ得、瞼裂斑および翼状片形成につながり得る。これらの眼の成長は、さらに、強膜組織および角膜組織の破壊を引き起こし得る。現在、結膜移植を含む手術は瞼裂斑および翼状片の唯一の承認された治療である。
【0041】
線維柱帯網とも称される線維柱帯は、前眼房の虹彩強膜境界にあるメッシュ様構造である。線維柱帯は房水を濾過する役割を果たし、前眼房からシュレム管へのその流れを制御する。眼が老化するにつれて、デブリおよびタンパク質-脂質老廃物が蓄積して線維柱帯を詰まらせることがあり、それは結果的に眼内の圧力の上昇を引き起こす問題であり、次に、緑内障、ならびに網膜、視神経および他の眼構造体への損傷につながる可能性がある。緑内障薬はこの圧力を低下させるのに役立つことができ、手術は人工的な開口を作って線維柱帯をバイパスすることができ、硝子体液および房水からの液体の流れを再確立することができる。しかしながら、線維柱帯内のデブリおよびタンパク質-脂質老廃物の蓄積を予防するための既知の方法はない。
【0042】
虹彩および瞳孔:年齢に伴い、照明の変化に応じた虹彩の拡張および収縮は遅くなり、その可動範囲は縮小する。また、瞳孔は年齢とともに次第に小さくなり、特に低光量条件下では、眼に入る光の量が大幅に制限される。経年的な、瞳孔の狭窄、ならびに虹彩の硬化、ゆっくりとした順応、および収縮は、高齢者が経験する夜間に見ることおよび照明の変化に順応することの困難さの主な原因である。虹彩の形状、硬度および順応性の変化は、一般に、線維化および構造タンパク質間の架橋に起因すると考えられる。経年的な虹彩上のタンパク質および脂質老廃物の沈着物は、また、その色を明るくし得る。虹彩上の明るい色の沈着物および瞳孔の狭窄はともに、個体に社会的な影響を与え得る非常に顕著な外見の年齢マーカーである。これらの変化のいずれか、または年齢に伴う虹彩の色の変化に対する標準的な治療はない。
【0043】
年齢に伴い、水晶体は黄色になり、より硬くなり、より堅くなり、柔軟さがなくなり、広汎にまたは特定の位置で混濁し得る。したがって、水晶体はあまり光を通さなくなり、視覚コントラストおよび視力が低下する。黄色化は、また、色覚に影響を及ぼす。水晶体が堅くなり、筋肉が水晶体を調節できなくなると、一般に老視として知られている状態になる。ほとんど常に中年以降に生じる老視は、眼が正しく焦点を合わせることができないことである。この加齢関連の眼の病理は、それ自体、調節能力の喪失として、すなわち、水晶体の形状を変化させてより球状(または凸状)にすることにより水晶体を介して近くのまたは遠くの物体に焦点を合わせる眼の能力の喪失として現れる。近視の個体および遠視の個体はともに、老視の影響を受ける。年齢関連の調節振幅喪失は進行性であり、老視はおそらく全ての眼の疾患の中で最も一般的なものであり、最終的には通常の人間の寿命の間に事実上すべての個体に影響を及ぼす。
【0044】
水晶体のこれらの変化は、コラーゲン線維間の糖化架橋、タンパク質複合体の蓄積、紫外線による構造劣化、酸化損傷、および老廃物タンパク質、脂質およびカルシウム塩の沈着物を包含する水晶体の構造の変性変化に起因すると考えられる。水晶体の弾性特性および粘性特性は、線維膜および細胞骨格クリスタリンの特性に依存する。水晶体線維膜は、極めて高いコレステロール対リン脂質比によって特徴付けられる。これらの成分の変化は該水晶体膜の変形能に影響を及ぼす。水晶体変形能の喪失は、該細胞膜への水晶体タンパク質の結合の増加に起因するものでもある。
【0045】
老視を緩和するための代償オプションとしては、現在、遠近両用読書用眼鏡および/またはコンタクトレンズ、モノビジョン眼内レンズ(IOL)および/またはコンタクトレンズ、多焦点IOL、放射状角膜切開術(RK)を用いるモノビジョンおよび屈折不同角膜屈折矯正手術法、フォトリフラクティブ角膜切削形成術(PRK)、およびレーザー角膜内切削形成術(LASIK)が挙げられる。現在、広く受け入れられている治療法または療法は老視に利用できない。
【0046】
水晶体に混濁により、一般的に白内障として知られている異常な状態が生じる。白内障は、進行性の眼疾患であり、その後、視力低下を引き起こす。この眼疾患のほとんどは、加齢関連の老人性白内障である。白内障形成の発生率は、60代の人の60~70%、80歳以上の人のほぼ100%であると考えられる。しかしながら、現時点では、白内障の発症を阻害することが明確に証明されている薬剤はない。したがって、有効な治療薬の開発が望まれていた。現在、白内障の治療は、眼鏡、コンタクトレンズ、または水晶体嚢外摘出手術後の水晶体嚢への眼内レンズの挿入などの外科手術を使用した視力矯正に依存している。
【0047】
白内障手術では、手術後の続発性白内障の発生が問題となっている。続発性白内障は、水晶体嚢外摘出手術後の残存する後嚢の表面に存在する混濁と同じである。続発性白内障のメカニズムは主に以下の通りである。水晶体上皮細胞(前嚢)を切除した後、続発性白内障は、水晶体皮質の摘出時に完全には除去されない残存水晶体上皮細胞が後嚢へ移動および増殖して後嚢混濁を引き起こすことにより生じる。白内障手術では、水晶体上皮細胞を完全に除去することは不可能であり、その結果、常に続発性白内障を予防することは困難である。上記後嚢混濁の発生率は、嚢内後眼房レンズインプラントを受けていない眼では40~50%、嚢内レンズインプラントを受けている眼では7~20%であると言われている。さらに、眼内炎として分類された眼感染症も白内障手術後に観察されている。
【0048】
硝子体液:浮遊物は、網膜上に影を投影することによりクリアな視界を妨げるデブリ粒子である。現在、浮遊物の減少または排除のための標準的な治療法はない。
【0049】
加齢に伴い、網膜には多くの変化が起こり得る。網膜動脈のアテローム性動脈硬化の蓄積および漏出は、黄斑変性、および周辺視野の縮小を引き起こし得る。杆体および錐体は、ゆっくりと色素を補充するので、経年的に感度が低下し得る。徐々に、これらすべての影響は視力を低下させ、最終的に部分的または完全な失明につながり得る。加齢黄斑変性などの網膜疾患は治療が困難である。現在の網膜治療としては、眼の血管の漏出を止めるためのレーザー手術が挙げられる。
【0050】
上記で示唆したように、加齢関連眼問題を含む多くの眼障害および眼疾患に取り組むための現在の治療の試みは、しばしば外科的介入を伴う。もちろん、外科的手技は侵襲的であり、さらに、しばしば、所望の治療目標を達成しない。さらに、手術は非常に費用がかかり得、重大な望ましくない後遺症をもたらし得る。例えば、白内障手術後に続発性白内障が発症し得、感染症が発生し得る。白内障手術後に眼内炎も観察されている。さらに、高度な外科技術は非常によく発達した医療基盤を必要とするため、普遍的に利用できるわけではない。したがって、手術の必要性を除去する簡単で効果的な薬理学的治療法を提供することは、大きな利点となる。
【0051】
特定の個々の加齢関連眼状態に取り組むために提案される製品がある。例えば、人工涙液および生薬製剤はドライアイ症候群の治療が示唆されており、他の点眼薬は、眼圧を下げ、不快感を和らげ、損傷後の治癒を促進し、炎症を軽減し、感染を防ぐために利用される。しかしながら、複数の製品を1日に数回自己投与することは不便であり、患者のコンプライアンスが低下する可能性があり(その結果、全体的な有効性が低下し)、また、製剤成分の有害な相互作用を含み得る。例えば、一般的な保存剤である塩化ベンザルコニウムは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの他の望ましい成分と反応する可能性がある。したがって、当技術分野では、多数の老化関連視力問題および関連する眼障害の予防、停止および/または逆転を行うことができる総合的な医薬製剤が必要とされている。
【0052】
多くの有害な眼状態は、眼における高分子凝集体の形成、存在および/または増殖に関連している。実際、多くの病状は、全身の、タンパク質、他のペプチジル種、リポタンパク質、脂質、ポリヌクレオチドおよび他の高分子の沈着および/または凝集に起因または関連している。例えば、終末糖化産物(AGEとも称される)は、非酵素的糖化として知られているプロセスによってグルコースまたは他の還元糖がタンパク質、リポタンパク質およびDNAに結合し、その後架橋することによって形成される。これらの架橋高分子は結合組織を硬化させ、腎臓、網膜、血管壁および神経の組織損傷を引き起こす。実際、AGEは、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー型関節炎および慢性関節リウマチなどのさまざまな衰弱性疾患の病因、ならびに通常の老化過程に関与している。ペプチジル沈着物は、アルツハイマー病、鎌状赤血球貧血、多発性骨髄腫およびプリオン病にも関連している。脂質、特にステロールおよびステロールエステルは、アテローム動脈硬化プラーク、胆石などを含む、インビボで病原性沈着物を形成する生体分子のさらなるのクラスを表す。現在まで、そのような複数の障害を治療することができると同定された単一の製剤はない。
【0053】
キレート剤(chelating agent/chelator)
キレート化は、金属が環の一部である錯体における金属との化合(chemical combination)である。有機配位子はキレート剤(chelator)またはキレート剤(chelating agent)と呼ばれ、キレートは金属錯体である。金属原子に対する閉環の数が多いほど、化合物はより安定する。キレートの安定性は、キレート環の原子数にも関連する。H2OやNH3のような1つの配位原子を持つ単座配位子は、他の化学プロセスによって容易に分解されるが、金属イオンへの複数の結合を提供する多座キレート剤は、より安定な錯体を提供する。緑の植物色素であるクロロフィルは、4つの複雑なキレート剤(ピロール環)と結合した中央のマグネシウム原子からなるキレートである。ヘムは、ポルフィリンの中心に鉄(II)イオンを含む鉄キレートである。キレート剤は、水系で金属イオンを制御するための幅広い捕捉剤を提供する。キレート剤は、多価金属イオンと安定な水溶性錯体を形成することにより、金属イオンの通常の反応性をブロックすることにより、望ましくない相互作用を防ぐ。EDTA(エチレンジアミン四酢酸)は、窒素原子および短鎖カルボキシル基を持つ一般的なキレート剤の良い例である。
【0054】
鉄およびカルシウムのキレート剤の例としては、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、1,3-プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)およびエチレングリコール四酢酸(EGTA)が挙げられるがこれらに限定されない。生物学的に安全で、鉄、カルシウムまたは他の金属をキレート化することができる当該技術分野で知られている好適なキレート剤は本発明に好適である。
【0055】
本明細書におけるキレート剤として有用な化合物としては、二価または多価金属陽イオンに配位するかまたはそれと錯体を形成し、したがってこのような陽イオンの捕捉剤として役立つ化合物が挙げられる。したがって、本明細書における用語「キレート剤」とは、二価および多価の配位子(典型的に「キレート剤」と称される)だけではなく、金属陽イオンに配位するかまたはそれと錯体を形成することができる一価の配位子も含む。
【0056】
本発明に関連して有用な好適な生体適合性キレート剤としては、EDTA、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATPA)、クエン酸、それらの薬学的に許容される塩、および前記のもののいずれかの組合せなどのモノマーポリ酸が挙げられるが、これらに限定されない。他の例示的なキレート剤としては、リン酸塩、例えば、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩およびヘキサメタリン酸塩が挙げられる。
【0057】
EDTAおよび眼科的に許容されるEDTA塩が特に好ましく、代表的な眼科的に許容されるEDTA塩は、典型的には、EDTA二アンモニウム、EDTA二ナトリウム、EDTA二カリウム、EDTA三アンモニウム、EDTA三ナトリウム、EDTA三カリウムおよびEDTA二ナトリウムカルシウムから選択される。
【0058】
EDTAは、生体組織および血液中の金属をキレート化するための薬剤として広く使用されており、様々な製剤への含有が示唆されている。例えば、Denick Jr. et al.の米国特許第6,348,508号は、金属イオンを結合する捕捉剤としてEDTAを記載している。キレート剤としてのその使用に加えて、EDTAはまた、例えばCastillo et al.の米国特許第6,211,238号に記載されているように、塩化ベンザルコニウムの代わりに保存剤としても広く使用されている。Bowman et al.の米国特許第6,265,444号には、保存剤および安定剤としてのEDTAの使用が開示されている。しかしながら、EDTAは、皮膚、細胞膜、および歯垢のようなバイオフィルムでさえ含まれる、生体膜およびバイオフィルムへの浸透が悪いため、一般的に、有意な濃度の製剤で局所的に適用されていない。
【0059】
記載され得る組成物に含むことができるキレート化/捕捉材料のうち、生体適合性キレート剤としては、EDTA、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATPA)、クエン酸、それらの薬学的に許容される塩、および上記のもののいずれかの組合せなどの単量体ポリ酸が挙げられるがこれらに限定されない。
【0060】
他の例示的なキレート剤としては、リン酸塩、例えば、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩およびヘキサメタリン酸塩が挙げられる。他の例示的なキレート剤としては、リン酸塩、例えば、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩およびヘキサメタリン酸塩;クロロキンおよびテトラサイクリンなどのキレート化抗生物質;イミノ基内または芳香環中に2個以上のキレート化窒素原子を含有する窒素含有キレート剤(例えば、ジイミン、2,2'-ビピリジンなど);ならびにポリアミン、例えば、サイクラム(1,4,7,11-テトラアザシクロテトラデカン)、N-(C1~C30アルキル)置換サイクラム(例えば、ヘキサデサイクラム、テトラメチルヘキサデシルサイクラム)、ジエチレントリアミン(DETA)、
スペルミン、ジエチルノルスペルミン(DENSPM)、ジエチルホモスペルミン(DEHOP)、デフェロキサミン(N'-{5-[アセチル(ヒドロキシ)アミノ]ペンチル}-N-[5-({4-[(5-アミノペンチル)(ヒドロキシ)アミノ]-4-オキソブタノイル}アミノ)ペンチル]-N-ヒドロキシサクシナミド、またはN'-[5-(アセチル-ヒドロキシ-アミノ)ペンチル]-N-[5-[3-(5-アミノペンチル-ヒドロキシ-カルバモイル)プロパノイルアミノ]ペンチル]-N-ヒドロキシ-ブタンジアミド;デスフェリオキサミンB、デスフェロキサミンB、DFO-B、DFOA、DFBまたはデスフェラールとしても知られている)、デフェリプロン、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン(PIH)、サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン(SIH)、エタン-1,2-ビス(N-1-アミノ-3-エチルブチル-3-チオール)が挙げられる。
【0061】
本開示の実施に有用であり得るさらなる好適な生体適合性キレート剤としては、Solomon et al., Med. Chem. 2: 133-138, 2006に記載されているような、([2-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-エチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([3-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([4-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-ブチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-エチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([3-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([4-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-ブチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステルなどのEDTA-4-アミノキノリン抱合体が挙げられる。
【0062】
さらに、クエン酸、フィチン酸、乳酸、酢酸およびそれらの塩を含むがこれらに限定されない天然キレート剤。クルクミン(ターメリック)(これに限定されない)などの他の天然キレート剤。
【0063】
いくつかの実施態様では、製剤に組み込まれるキレート剤はプロキレート剤(prochelator)である。プロキレート剤は、適切な化学的または物理的条件に曝されるとキレート剤に変換される分子である。例えば、BSIH(イソニコチン酸[2-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボロラン-2-イル)-ベンジリデン]-ヒドラジド)プロキレート剤は、過酸化水素により、鉄触媒ヒドロキシルラジカル生成を阻害するSIH(サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン)鉄-キレート剤へ変換される。
【0064】
不活性化された金属イオン捕捉剤は、本明細書では「プロキレート剤」と称されることがあるが、金属イオンの捕捉は、キレート化自体の範囲を超える捕捉および錯体化プロセスを含み得る。用語「プロキレート剤」とは、プロドラッグがインビボで活性化されるまで治療的に不活性な薬剤である限りにおいて用語「プロドラッグ」に類似しており、該プロキレート剤も同様に、インビボで活性になるまで金属を捕捉することができない。
【0065】
輸送促進剤:輸送促進剤は、身体の組織、細胞外マトリックスおよび/または細胞膜を通るキレート剤の輸送を促進するように選択される。輸送促進剤の「有効量」は、製剤内に輸送促進剤を含まない場合に比べて、本発明の製剤内の、対象体における1つ以上の部位を通るキレート剤の浸透の測定可能な増加を提供するのに十分な量および濃度を表す。
【0066】
特定の例において、輸送促進剤は、本発明の製剤中に、約0.01重量%以下から約30重量%以上の範囲の量、典型的には約0.1重量%~約20重量%の範囲、より典型的には約1重量%~約11重量%の範囲、最も典型的には約2重量%~約8重量%の範囲、例えば5重量%で存在し得る。
【0067】
輸送促進剤は、一般に、式(I)
【化2】
で示される。
【0068】
式中、R1およびR2は、独立して、置換されていてもよい、C2~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、C6~C14アラルキル、およびC2~C12ヘテロアラルキルから選択され、QはSまたはPである。QがSであり、R1およびR2がC1~C3アルキルである化合物が好ましく、メチルスルホニルメタン(MSM)が最適な輸送促進剤である。
【0069】
語句「式を有する」または「構造を有する」は、限定することを意図するものではなく、用語「含む」が一般的に使用されるのと同様に使用される。上記の構造に関して、用語「アルキル」とは、炭素原子1~6個を含有する、直鎖、分枝鎖または環状の飽和炭化水素基をいい、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどである。特に明記しない限り、用語「アルキル」は非置換アルキルおよび置換アルキルを包含し、該置換基は、例えば、ハロ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アルコキシ、アシルなどであり得る。用語「アルコキシ」は、単一の末端エーテル結合を介して結合したアルキル基を意図する;すなわち、「アルコキシ」基は、-O-アルキル(ここで、アルキルは上記で定義したとおりである)として表すことができる。用語「アリール」とは、単一の芳香環、または、一緒に縮合されているか、直接結合しているか、もしくは間接的に結合している(異なる芳香環がメチレン部分またはエチレン部分などの一般的な基と結合されるように)、複数の芳香環を含有する芳香族置換基をいう。好ましいアリール基は、炭素原子5~14個を含有する。例示的なアリール基は、1つの芳香環または2つの縮合もしくは結合した芳香環を含有し、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン、ベンゾフェノンなどである。「アリール」としては、非置換アリールおよび置換アリールが挙げられ、該置換基は、置換されていてもよい「アルキル」基に関して上記したとおりであり得る。用語「アラルキル」とは、アリール置換基を有するアルキル基をいい、ここで、「アリール」および「アルキル」は上記で定義したとおりである。好ましいアラルキル基は、炭素原子6~14個を含有しており、特に好ましいアラルキル基は、炭素原子6~8個を含有する。アラルキル基の例としては、ベンジル、2-フェニル-エチル、3-フェニル-プロピル、4-フェニル-ブチル、5-フェニル-ペンチル、4-フェニルシクロヘキシル、4-ベンジルシクロヘキシル、4-フェニルシクロヘキシルメチル、4-ベンジルシクロヘキシルメチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。用語「アシル」とは、式-(CO)-アルキル、-(CO)-アリール、または-(CO)-アラルキルを有する置換基をいい、ここで、「アルキル」、「アリール」および「アラルキル」は上記で定義したとおりである。用語「ヘテロアルキル」および「ヘテロアラルキル」は、それぞれ、ヘテロ原子含有アルキルおよびヘテロ原子含有アラルキル基、すなわち、1個以上の炭素原子が炭素以外の原子、例えば窒素、酸素、硫黄、リンまたはケイ素、典型的には窒素、酸素または硫黄と置き換えられているアルキル基およびアラルキル基をいうために使用される。
【0070】
次に、一の実施形態では、眼内の高分子凝集体を排除するかまたはそのサイズを低減させるための方法が提供される。該方法は、(a)少なくとも3つの負に荷電されたキレート原子を含有する非細胞毒性キレート剤、(b)少なくとも1つの極性基を含有する電荷マスキング剤および(c)0.5%を超える濃度のHEC、および眼科的に許容される不活性担体で構成される滅菌眼用製剤の治療有効量を患者の眼に投与することを含む。該電荷マスキング剤の極性基は、約3.00より大きいポーリング電気陰性度を有する少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのヘテロ原子を含有しており、ここで、該ヘテロ原子は好ましくは酸素原子である。電荷マスキング剤とキレート剤のモル比は、実質的にすべての負に荷電されたキレート原子が、電荷マスキング剤上の上記のヘテロ原子の少なくとも1つと関連付けられることを保証するのに十分である。該製剤は、眼薬物投与に好適な形態で、例えば、点眼剤または洗眼剤として投与するための溶液または懸濁液として、軟膏として、または結膜、強膜、毛様体扁平部、前眼部もしくは後眼部にインプラントされ得る眼挿入物において、眼に適用することができる。そのような挿入物は、眼表面への製剤の制御放出、典型的には長期間にわたる持続放出を提供する。
【0071】
電荷マスキング剤として使用される化合物、例えば、メチルスルホニルメタンが、皮膚を通して製剤の浸透を可能にする浸透促進剤としても機能する限り、製剤は、眼の周りの皮膚に浸透させるために該皮膚に適用することもできる。
【0072】
別の実施形態では、該製剤は、ドライアイ症状、特に炎症に関連するドライアイを軽減するのに有効であり、ドライアイを治療する方法に使用することができる。シェーグレン症候群の対象体などの極端なドライアイのある対象体は、眼が極端に乾いているために、なおもいくらかの刺痛感を経験する可能性がある。
【0073】
したがって、キレート剤は、保存剤および安定剤として機能することに加えて、該薬剤が望ましくないタンパク質またはペプチドを減少させ、ミネラル沈着物の形成を防止し、および/またはすでに形成されているミネラル沈着物を減少させ、石灰化を低減する役割を果たす限り、本発明の文脈において多機能である。
【0074】
該製剤はまた、細胞膜、組織および細胞外マトリックスを通過する製剤成分の浸透を促進する輸送促進剤の有効量を含む。輸送促進剤の「有効量」とは、今述べたように、膜、組織および細胞外マトリックスを通過する製剤成分のうち1つ以上の製剤成分の浸透の測定可能な増加を提供するのに十分な濃度を表す。好適な輸送促進剤としては、例として、メチルスルホニルメタン(MSM;メチルスルホンとも称される)、MSMとジメチルスルホキシド(DMSO)との組合せ、またはMSMと、あまり好ましくない実施形態ではDMSOとの組合せが含まれ、MSMが特に好ましい。
【0075】
MSMは、108~110℃の融点および94.1g/molの分子量を有する、無臭で非常に水溶性(79°Fで34%w/v)の白色結晶性化合物である。MSMは、細胞膜透過性を増加させるだけでなく眼への1つ以上の製剤成分の輸送を助ける「輸送促進剤」(TFA)としても機能する限り、本明細書の多機能剤として機能する。さらにまた、MSM自体は薬効を提供し、抗炎症剤および鎮痛剤として機能する。MSMはまた、生体組織における酸化的代謝を改善する働きもあり、瘢痕の軽減に役立つ有機硫黄の供給源でもある。MSMはさらに、上記のように水に可溶であるという点で独特で有益な可溶化特性を有するが、極性のS=O基および非極性のメチル基が存在するため、親水性と疎水性の両方の特性を示す。MSMの分子構造により、他の分子との水素結合、すなわち、各S=O基の酸素原子と他の分子の水素原子との間の水素結合、およびメチル基と他の分子の非極性部分(例えば、ヒドロカルビル)との間のファンデルワール会合の形成も可能になる。理想的には、本製剤中のMSMの濃度は、約0.1重量%~40重量%、または約1重量%~約4、5、6、7、8、10、15重量%、好ましくは約1.5重量%~8.0重量%の範囲である。
【0076】
本製剤中の他の任意の添加剤としては、第2の促進剤、すなわち1つ以上のさらなる輸送促進剤が挙げられる。例えば、本発明の製剤は、添加されたDMSOを含み得る。MSMはDMSOの代謝産物である(すなわち、DMSOはMSMに酵素的に変換される)ため、DMSOを本発明のMSM含有製剤に組み込むことにより、製剤中のMSMの割合が徐々に増加する傾向になる。DMSOはまた、フリーラジカルスカベンジャーとしても機能し、それにより、酸化的損傷の可能性を減少させる。DMSOが第2の促進剤として添加される場合、その量は好ましくは製剤の約1.0重量%~2.0重量%の範囲であり、MSM対DMSOの重量比は、典型的には、約1:50~約50:1の範囲である。
【0077】
ヒドロキシエチルセルロース(HEC、HESPAN;TYLOSE P;NATROSOL;HETASTARCHとしても知られており、入手可能)は、天然ポリマーセルロースを原材料として一連の化学プロセスを介して作製された非イオン性セルロースエーテルである。それは、白色~オフホワイト色の粉末または顆粒の形で、無臭、無味および無毒である。それは、水に溶解して透明な粘性溶液を形成することができる。HECの水への溶解度は20℃で≦5重量%である。HECのCASデータベースリファレンスは9004-62-0である。
【化3】
【0078】
ヒドロキシエチルセルロースは、熱水または冷水に可溶であり、加熱または沸騰により沈殿せず、広範囲の溶解度および粘度特性、ならびに非熱的ゲル化を可能にする。それは、非イオン性であり、広範囲の他の水溶性ポリマー、界面活性剤および塩と共存することができ、高濃度の電解質を含有する溶液の微細なコロイド状増粘剤である。ヒドロキシエチルセルロースは冷水に凝集することなく分散し得るが、溶解速度は遅く、一般に約30分を必要とする。加熱またはpH値を8~10に調整すると、迅速に溶解できる。
【0079】
製剤はまた、微小循環促進剤、すなわち毛細血管内の血流を促進するのに役立つ薬剤を含むことができる。微小循環エンハンサーは、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばI型PDE阻害剤であり得る。そのような化合物は、当業者によって理解されるように、サイクリックAMP(cAMP)の細胞内レベルを上昇させるように作用する。好ましい微小循環促進剤は、ビンポセチンであり、アポビンカミン-22-酸エチルとも称される。ビンカアルカロイドであるビンカミンの合成誘導体であるビンポセチンは、その抗酸化特性および細胞内の過剰なカルシウム蓄積に対する保護のため、本明細書において特に好ましい。ビンカミンはまた、ビンポセチン以外のビンカアルカロイドと同様に、本明細書において微小循環促進剤としても有用である。好ましくは、存在する微小循環エンハンサー、例えばビンポセチンは、製剤の約0.01重量%~約0.2重量%、好ましくは約0.02重量%~約0.1重量%の範囲に相当する。
【0080】
製剤
本発明の組成物を処方するために、様々な手段を使用することができる。製剤化および投与のための技術は、“Remington: The Science and Practice of Pharmacy,” Twentieth Edition, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA (1995)に見られる。ヒトまたは動物への投与では、製剤は、FDAが要求するものに匹敵する無菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準を満たす必要がある。医薬製剤の投与は、本明細書に記載されているように、様々な方法で行うことができる。
【0081】
少なくとも部分的に水性である製剤への組み込みのための他の可能な添加剤としては、増粘剤、等張剤、緩衝剤および保存剤が挙げられるがこれらに限定されず、ただし、このような賦形剤が製剤の他の成分のいずれかと有害に相互作用しないことを条件とする。また、保存剤は、選択されたキレート剤自体が保存剤として機能するという事実に照らして一般に必ずしも必要ではないことにも留意すべきである。好適な増粘剤は、製剤の技術分野の当業者に既知であり、例としては、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピル-メチルセルロース(HPMC)およびカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)などのセルロース系ポリマー、ならびに他の膨潤性親水性ポリマー(ポリビニルアルコール(PVA)、ヒアルロン酸またはその塩(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム))、および一般に「カルボマー」と称される架橋アクリル酸ポリマー(およびカルボポール(Carbopol)(登録商標)ポリマーとしてB.F. Goodrichから入手可能)が挙げられる。
【0082】
10,000cpsを超える粘度を有するゲルは、一般的に、快適さと眼上での製剤の保持の両方に最適と考えられるので、増粘剤の好ましい量は、10,000cpsを超える粘度が提供されるような量である。眼用製剤で一般的に使用される好適な等張剤および緩衝剤を使用することができ、ただし、製剤のpHは約4.5~約9.0の範囲、好ましくは約6.8~約7.8の範囲に維持され、最適には約7.4pHで維持されることを条件とする。好ましい緩衝剤としては、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムなどの炭酸塩が挙げられる。
【0083】
しかしながら、有効な増粘剤は、重度の刺痛などの眼に不快な症状を引き起こすことなく有意な効果を達成するために、低濃度のキレート剤/MSMの組合せの使用を可能にする重要な特性も示す量で使用されなければならない。
【0084】
本発明の製剤はまた、特定のタイプの製剤に依存する、薬学的に許容される眼科用担体またはビヒクルを含む。例えば、本発明の製剤は、眼科用溶液または懸濁液として提供することができ、その場合、担体は少なくとも部分的に水性である。理想的には、点眼剤として投与できる点眼液は水溶液である。製剤は軟膏であってもよく、その場合、薬学的に許容される担体は軟膏基剤で構成される。本明細書における好ましい軟膏基剤は、体温に近い融点または軟化点を有し、眼用製剤において一般に使用される軟膏基剤を有利に使用することができる。一般的な軟膏基剤としては、ワセリン、およびワセリンと鉱油の混合物が挙げられる。好適な医薬製剤および剤形は、医薬製剤の分野の者に知られており、関連するテキストおよび文献、例えば、本明細書において前記で引用したRemington: The Science and Practice of Pharmacyに記載されている慣用の方法を使用して調製できる。
【0085】
本発明の製剤はまた、ハイドロゲル、分散液、またはコロイド懸濁液として調製されてもよい。当該技術分野で「ハイドロゲル」と称される製剤が典型的には「増粘」溶液または懸濁液と称される製剤よりも粘度が高いということを除いては、ハイドロゲルは、好適な増粘剤(すなわち、MC、HEC、HPC、HPMC、NaCMC、PVAまたはヒアルロン酸もしくはその塩、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)として上記に示されるものなどの膨潤性ゲル形成ポリマーを組み込むことによって形成される。そのような予め形成されたハイドロゲルとは対照的に、製剤はまた、眼への適用後にインサイチュでハイドロゲルを形成するように調製することもできる。そのようなゲルは、室温では液体であるが、体液と接触して置かれる場合など、高温ではゲル化する(したがって、「熱可逆性」ハイドロゲルと呼ばれる)。この特性を与える生体適合性ポリマーとしては、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー、N-イソプロピルアクリルアミド誘導体、ならびにエチレンオキシドとプロピレンオキシドのABAブロックコポリマー(慣用的には「ポロキサマー」と称されており、BASF-Wyandotteからプルロニック(Pluronic)(登録商標)の商品名で入手可能)が挙げられる。製剤は、分散液またはコロイド懸濁液の形態で調製することもできる。好ましい分散液は、リポソームであり、その場合、製剤は、交互になった水性区画と脂質二重層とから構成される微視的な小胞である「リポソーム」内に封入される。コロイド懸濁液は、一般に、マイクロ粒子、すなわち、マイクロスフェア、ナノスフェア、マイクロカプセルまたはナノカプセルから形成され、ここで、マイクロスフェアおよびナノスフェアは、一般に、製剤を閉じ込めるか、吸着するか、またはその他の方法で含有するポリマーマトリックスのモノリシック粒子であり、マイクロカプセルおよびナノカプセルに関しては、製剤は実際にカプセル化されている。これらのマイクロ粒子のサイズの上限は、約5μ~約10μである。
【0086】
製剤はまた、無菌眼挿入物に組み込まれてもよく、該挿入物は、結膜、強膜もしくは毛様体扁平部への、または前眼部または後眼部への該挿入物のインプラントの後、長期にわたって、一般的には約12時間~60日間の範囲で、おそらく12か月以上まで製剤の制御放出を提供する。眼挿入物の1つのタイプは、拡散および/またはマトリックス分解を介して製剤を眼に徐々に放出するモノリシックポリマーマトリックスの形態のインプラントである。そのような挿入物に関して、該挿入物の除去が不必要となるように、ポリマーが完全に溶解性および/または生分解性である(すなわち、眼内で物理的または酵素的に損なわれる)ことが好ましい。これらのタイプの挿入物は、当該技術分野で周知であり、典型的には、コラーゲン、ポリビニルアルコールまたはセルロース系ポリマーなどの水膨潤性ゲル形成ポリマーで構成される。本製剤を送達するために使用できる別のタイプの挿入物は、製剤が、インプラントから製剤が徐々に拡散することを可能にする浸透性ポリマー膜内に囲まれた中央リザーバーに含有されている拡散インプラントである。浸透性挿入物、すなわち、眼への適用およびその後の涙液の吸収の後のインプラント内の浸透圧の増加の結果として製剤を放出するインプラントを使用することもできる。
【0087】
キレート剤は、必要に応じて、薬学的に許容されることを条件に、塩、エステル、結晶形、水和物などの形態で投与することができる。塩、エステルなどは、有機合成化学分野における当業者に既知であり、例えば、J. March, Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms and Structure, 4th Ed. (New York: Wiley- Interscience, 1992)に記載されている標準的な手順を使用して調製することができる。
【0088】
投与されるキレート剤の量は、多くの要因に依存し、対象ごとに異なり、特定のキレート剤、治療される特定の障害または状態、症状の重症度、対象体の年齢、体重および全身状態、ならびに処方医の判断に依存する。用語「剤形」とは、単回投与または複数回投与で治療効果を達成するのに十分な量のキレート剤および輸送促進剤を含有する医薬組成物の形態を意味する。過剰投与せずに効率的な方法で最も効果的な結果を提供する投与の頻度は、薬理学的特性および親水性などの物理的特性の両方を含む特定の活性薬剤の特性によって異なる。
【0089】
さらなる実施態様では、製剤は、例えば、フルオロキノロン系、例えばシプロフロキサシン、レボフロキサシン、ゲンタフロキサシン(gentafloxacin)、オフロキサシン、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシンおよびエリスロマイシンを包含する抗感染薬または抗生物質製剤;ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、フルオロメトロン、ベタメタゾンおよびトリアムシノロンなどの抗炎症剤;サリドマイド、VEGF阻害剤およびマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤などの抗血管新生薬;抗悪性腫瘍薬;ならびに、シクロスポリンやマイトマイシンなどのドライアイ薬から選択されるようなさらなる眼科的に活性な薬剤を含むことができる。本製剤に組み込むことができる眼科的に活性な薬剤のさらなる例としては、麻酔剤、鎮痛剤、細胞輸送/移動阻害剤;チモロール、ベタキソロール、アテノロールなどのβ遮断薬を含む抗緑内障薬;アセタゾラミド、メタゾラミド、ジクロルフェナミドおよびダイアモックスなどの炭酸脱水酵素阻害薬;ニモジピンおよび関連化合物などの神経保護剤;スルホンアミド、スルファセタミド、スルファメチゾールおよびスルフイソキサゾールなどの抗菌剤;フルコナゾール、ニトロフラゾン、アムホテリシンB、ケトコナゾール、および関連化合物などの抗真菌剤;トリフルオロチミジン、アシクロビル、ガンシクロビル、ジデオキシイノシン(DDI)、ジドブジン(AZT)、フォスカメット(foscamet)、ビダラビン、トリフルオロウリジン、イドクスウリジンおよびリバビリンなどの抗ウイルス剤;プロテアーゼ阻害剤および抗サイトメガロウイルス剤;メタピリリン(methapyriline)、クロルフェニラミン、ピリラミンおよびプロフェンピリダミンなどの抗アレルギー薬;ならびに、フェニレフリン、ナファゾリン、およびテトラヒドラゾリンなどの充血除去剤が挙げられる。
【0090】
本製剤に組み込むことができる典型的な眼科的に活性な薬剤としては、アセクリジン、アセタゾラミド、アネコルタブ、アプラクロニジン、アトロピン、アザペンタセン、アゼラスチン、バシトラシン、ベフノロール、ベタメタゾン、ベタキソロール、ビマトプロスト、ブリモニジン、ブリンゾラミド、カルバコール、カルテオロール、セレコキシブ、クロラムフェニコール、クロルテトラサイクリン、シプロフロキサシン、クロモグリケート、クロモリン、シクロペントレート、シクロスポリン、ダピプラゾール、デメカリウム、デキサメタゾン、ジクロフェナク、ジクロルフェナミド、ジピベフリン、ドルゾラミド、エコチオファート、エメダスチン、エピナスチン、エピネフリン、エリスロマイシン、エトキシゾラミド、ユーカトロピン、フルドロコルチゾン、フルオロメトロン、フルルビプロフェン、ホミビルセン、フラマイセチン、ガンシクロビル、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、ホマトロピン、ヒドロコルチゾン、イドクスウリジン、インドメタシン、イソフルロフェート、ケトロラク、ケトチフェン、ラタノプロスト、レボベタキソロール、レボブノロール、レボカバスチン、レボフロキサシン、ロドキサミド、ロテプレドノール、メドリゾン、メタゾラミド、メチプラノロール、モキシフロキサシン、ナファゾリン、ナタマイシン、ネドクロミル、ネオマイシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オロパタジン、オキシメタゾリン、ペミロラスト、ペガプタニブ、フェニレフリン、フィゾスチグミン、ピロカルピン、ピンドロール、ピレノキシン、ポリミキシンB、プレドニゾロン、プロパラカイン、ラニビズマブ、リメキソロン、スコポラミン、セゾラミド、スクアラミン、スルファセタミド、スプロフェン、テトラカイン、テトラサイクリン、テトラヒドロゾリン、テトリゾリン、チモロール、トブラマイシン、トラボプロスト、トリアムシヌロン(triamcinulone)、トリフルオロメタゾラミド、トリフルリジン、トリメトプリム、トロピカミド、ウノプロストン、ビダルビン(vidarbine)、キシロメタゾリン、その薬学的に許容される塩、または上記のもののいずれかの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
本発明の製剤はまた、ハイドロゲル、分散液、またはコロイド懸濁液として調製されてもよい。当該技術分野で「ハイドロゲル」と称される製剤が典型的には「増粘」溶液または懸濁液と称される製剤よりも粘度が高いということを除いては、ハイドロゲルは、好適な増粘剤(すなわち、MC、HEC、HPC、HPMC、NaCMC、PVAまたはヒアルロン酸もしくはその塩、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)として上記に示されるものなどの膨潤性ゲル形成ポリマーを組み込むことによって形成される。そのような予め形成されたハイドロゲルとは対照的に、製剤はまた、眼への適用後にインサイチュでハイドロゲルを形成するように調製することもできる。そのようなゲルは、室温では液体であるが、体液と接触して置かれる場合など、高温ではゲル化する(したがって、「熱可逆性」ハイドロゲルと呼ばれる)。この特性を与える生体適合性ポリマーとしては、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー、N-イソプロピルアクリルアミド誘導体、ならびにエチレンオキシドとプロピレンオキシドのABAブロックコポリマー(慣用的には「ポロキサマー」と称されており、BASF-Wyandotteからプルロニック(Pluronic)(登録商標)の商品名で入手可能)が挙げられる。製剤は、分散液またはコロイド懸濁液の形態で調製することもできる。好ましい分散液は、リポソームであり、その場合、製剤は、交互になった水性区画と脂質二重層とから構成される微視的な小胞である「リポソーム」内に封入される。コロイド懸濁液は、一般に、マイクロ粒子、すなわち、マイクロスフェア、ナノスフェア、マイクロカプセルまたはナノカプセルから形成され、ここで、マイクロスフェアおよびナノスフェアは、一般に、製剤を閉じ込めるか、吸着するか、またはその他の方法で含有するポリマーマトリックスのモノリシック粒子であり、マイクロカプセルおよびナノカプセルに関しては、製剤は実際にカプセル化されている。これらのマイクロ粒子のサイズの上限は、約5μm~約10μmである。
【0092】
本発明の製剤を使用する方法も企図される。本発明の製剤は、高分子凝集体の形成および/または沈着に関連する多種多様な状態を治療するのに有用である。多数の医学的病状は、結晶性凝集体、原線維性凝集体およびアモルファス凝集体を含む高分子凝集体のインビボ形成または沈着によって引き起こされるかまたは悪化する。選択されたオリゴペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質を含む特定のペプチジル化合物は、様々な病状、障害および疾患に関連する結晶および原線維を形成することが知られている。例えば、アミロイドペプチド、特にβ-アミロイドは、アルツハイマー病に関連する細胞外および脳血管老人斑を含む秩序化(ordered)原線維性凝集体を形成することが知られている。Han et al. (1995), “The Core Alzheimer's Peptide NAC Forms Amyloid Fibrils which Seed and are Seeded by .beta.-Amyloid: is NAC a Common Trigger or Target in Neurodegenerative Disease?” Chemistry and Biology 2:163-169;Serpell et al. (2000), “Molecular Structure of a Fibrillar Alzheimer's A.beta., ” Biochemistry 39:13269-13275;Jarrett and Lansbury (1992), “Amyloid Fibril Formation Requires a Chemically Discriminating Nucleation Event: Studies of an Amyloidogenic Sequence from the Bacterial Protein OsmB, ” Biochemistry 31(49):12345-12352;およびJarrett et al. (1993), “The Carboxy Terminus of the Beta Amyloid Protein is Critical for the Seeding of Amyloid Formation: Implications for the Pathogenesis of Alzheimer's Disease,” Biochemistry 32:4693-4697を参照。プリオン病、例えば伝達性海綿状脳症として知られている種類の疾患は、脳組織における異常なタンパク質沈着によっても特徴付けられ、該沈着物は主にプリオンタンパク質(PrP)から形成された原線維性アミロイドプラークで構成される。そのような疾患としては、動物におけるスクレイピー伝達性ミンク脳症、ミュールジカおよびエルク(elk)の慢性消耗性疾患、ネコの海綿状脳症およびウシの海綿状脳症(「狂牛病」)、ならびに、ヒトにおけるクールー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・シュトルスラー・シャインカー病(Gerstmann-Struessler-Scheinker disease)、および致死性家族性不眠症が挙げられる。15merのアミノ酸配列であるPrP96-111が、アミロイド線維形成の種子を提供することにより、インビボでのプリオン形成開始の原因となっていることが提案されている。Come et al. (1993), “A Kinetic Model for Amyloid Formation in the Prion Diseases: Importance of Seeding,” Proc Natl Acad Sc. USA 90:5959-5963を参照。マルタン病に関連するフィブリリンは、有害な病状を引き起こす秩序化原線維構造を形成するタンパク質の別の例である。様々なコラーゲンから形成される原線維性プラークは、特定の医学的病状、例えば、心臓病およびコラーゲン線維性糸球体症にも関連している;Rossi et al. (2001), “Connective Tissue Skeleton in the Normal Left Ventricle and in Hypertensive Left Ventricle Hypertrophy and Chronic Chagasic Monocarditis,” Med Sci Mon 7:820-832;Yasuda et al. (1999), “Collagenofibrotic Glomerulopathy: A Systemic Disease,” Am J Kidney Dis 33:123-127を参照。
【0093】
他の同様に問題のある生体分子、例えば、骨髄(くる病および滑膜炎に関連)、腎尿細管および胃腸管(シスチン尿症に関連)、ならびに腎臓、眼および甲状腺などの他のさまざまな体組織(重症型のシスチン症である腎症性シスチン症およびファンコニー症候群を含むシスチン症に関連)に結晶沈着物を形成するシスチンを治療することができる。
【0094】
いくつかの組成物では、EDTAとMSMの比率は約1:100~100:1の範囲であり、組成物中のEDTAおよびMSMの割合はそれぞれ約0.1重量%~15重量%および約0.1重量%~40重量%である。
【0095】
製剤はまた、低濃度のキレート剤/MSMの組合せの使用を可能にして、重度の刺痛などの眼に不快な症状を引き起こすことなく有意な効果を達成するという主要な特性も示す量で使用される有効な増粘剤を含有する。メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピル-メチルセルロース(HPMC)およびカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)などの膨潤性粘弾性セルロース系ポリマーが好ましい。0.5%~1.5%、具体的には0.8%~1.0%の濃度のHECが好ましい。
【0096】
以前に試験された眼用製剤を超える本明細書に開示された製剤の1つの主要な改善は、従来の製剤の使用に関連する不快感の有意な減少である。人工涙液に使用されているような標準濃度(約0.2%)の粘弾性ポリマー(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびポリビニルアルコールなど)を使用することによる刺痛などの不快感を軽減する試みは失敗した。使用されたこれらのポリマーおよび濃度は、常に、ポリマーが使用されなかった場合よりも長い時間、より刺痛をもたらした。HECの場合、より低い濃度(例えば、0.3%)で刺痛が生じた。
【0097】
驚くべきことに、HECの濃度が0.8~1%に大幅に増加すると、刺痛が有意に減少した。事実上、このような高濃度のHECの存在下で、眼の粘膜は、特にほとんどの刺痛が生じる鼻の近くの眼の端では、より低いレベルの粘弾性化合物で刺痛を引き起こしたキレート剤/MSMのレベルを経験していなかった。
【0098】
以前に使用された濃度、EDTA2.6%およびMSM5.4%では、最初の適用時に激しい刺痛感として現れる激しい不快感があった。刺痛感は経時的に消散し、この徐々に消散するキレート剤/MSMの組合せの濃度が低い場合には、刺痛感が生じなかったことを示唆している。
【0099】
2番目の驚くべき効果は、有効性に必要なキレート剤/MSMレベルの大幅な減少であった。粘性の高いHEC溶液からのEDTA/MSMの放出が遅いため、眼の房水(aqueous)および硝子体(vitreous)に入るEDTA/MSMの量が大幅に増加する。より高いHEC濃度の存在下では、HECがない場合と同じ臨床効果を得るためにEDTA/MSMの濃度の半分が必要であるだけであった。EDTA1.3%、MSM2.7%およびHEC0.8%は、EDTA2.6%およびMSM5.4%と同じくらい効果的である。
【実施例0100】
以下の実施例は、当業者に完全な発明および本発明による実施態様を作成および使用する方法の説明を提供するために提示されるのであって、発明者が彼らの発見と見なすものの範囲を限定するものではない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力が行われたが、多少の実験誤差および偏差を考慮する必要がある。特に明記しない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力は大気圧または大気圧に近い。
【0101】
実施例1: HECの濃度増加に伴うMSM/EDTA溶液の滞留時間の増加
様々な濃度のHECを用いてMSM/EDTA点眼剤を調製し、それらの滞留時間を推定するためにヒトの眼で試験した。滞留時間を評価するために点眼剤では、対象体は、点眼剤を適用してから数秒以内に鼻腔にEDTAの存在を感じることができる。点眼剤の適用とEDTAの存在の知覚との間の時間間隔は、眼中の滞留時間と同等であるとみなされた。HECの5つの点眼剤中濃度の結果を以下の表に示す。
【表1】
【0102】
低濃度では、刺痛感のため、対象体は、点眼剤が存在することに気付いている。それは低濃度でさらに刺痛を与える。より高い濃度(0.75および1%)では、刺痛感は著しく減少する。
【0103】
これは、点眼剤の粘度が増加すると、点眼剤が涙点を通って鼻腔に非線形的に移動するのにかかった時間が増加することを示した。実際の眼中滞留時間は、これらの数値よりも短い場合がある。
【0104】
実施例2: 水性媒体におけるヒドロキシエチルセルロースの使用を伴うEDTA鉄ナトリウムによる豚の腸膜の浸透促進
以下の実験溶液を調製した。対照: 蒸留水で調製した1%EDTA鉄ナトリウム。試験溶液: 蒸留水および1%、3%および5%ヒドロキシエチルセルロース(HEC)で調製した1%EDTA鉄ナトリウム
【表2】
【0105】
実施例3:本発明による例示的な点眼製剤
製剤Aを以下とおり調製した: 高純度の脱イオン(DI)水(500ml)を0.2マイクロメートルのフィルターで濾過した。濾過したDI水にMSM、EDTAおよびHECを添加し、溶解を示す視覚的な透明度が達成されるまで混合した。該混合物をドロッパーキャップ付きの10mLボトルに注いだ。重量パーセントベースで、点眼剤は以下の組成を有していた: MSM2.7%w/w;EDTA二ナトリウム1.3%w/w;HEC0.85%w/w。
【0106】
本明細書で引用されたすべての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が出典明示により本明細書の一部とすることが具体的かつ個別に示されているかのように、出典明示により本明細書の一部とする。
【0107】
上記の発明は、理解を明確にする目的で、例示および実施例としてある程度詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく特定の変更および修正を行うことができることは、本発明の教示に照らして、当業者には容易に明らかであろう。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載の発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0107
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0107】
上記の発明は、理解を明確にする目的で、例示および実施例としてある程度詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく特定の変更および修正を行うことができることは、本発明の教示に照らして、当業者には容易に明らかであろう。
本発明は、以下の態様および実施形態を含む。
[項1]
有害な眼状態の治療のための眼用製剤であって、
(a)キレート剤またはその塩;
(b)電荷マスキング剤である輸送促進剤;
(c)副作用の軽減および有効性の向上に十分な量の粘弾性材料である増粘剤の濃度;および
(d)薬学的に許容される不活性ビヒクル
を含む製剤であり、
キレート剤および輸送促進剤が、適用される眼における高分子凝集の有意な減少をもたらすのに有効な割合で存在し、
組成物中の、キレート剤のパーセンテージが約0.1重量%~15重量%であり、輸送のパーセンテージが約0.1重量%~40重量%である、
製剤。
[項2]
輸送促進剤がMSMである、項1記載の製剤。
[項3]
MSMの量が5%未満である、項1記載の製剤。
[項4]
キレート剤対MSMの比率が約10:1~1:20の範囲である、項2記載の製剤。
[項5]
粘弾性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)およびポリビニルアルコールから選択される、項1記載の製剤。
[項6]
粘弾性ポリマーがヒドロキシエチルセルロース(HEC)である、項1記載の製剤。
[項7]
HECの濃度が0.5%~5.0%である、項6記載の製剤。
[項8]
HECの濃度が0.5%~1.0%である、項6記載の製剤。
[項9]
HECの濃度が0.8%~0.85%である、項6記載の製剤。
[項10]
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ArPA)、クエン酸、酢酸およびそれらの許容される塩、ならびにそれらの組合せから選択される、項1記載の製剤。
[項11]
EDTA塩が、EDTA二アンモニウム、EDTA二ナトリウム、EDTA二カリウム、EDTA三アンモニウム、EDTA三ナトリウム、EDTA三カリウム、EDTA四ナトリウム、EDTA四カリウム、EDTA二ナトリウムカルシウム、およびそれらの組合せから選択される、項10記載の製剤。
[項12]
キレート剤が、リン酸塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩およびヘキサメタリン酸塩から選択される、項1記載の製剤。
[項13]
キレート剤が、キレート化抗生物質、クロロキンまたはテトラサイクリンである、項1記載の製剤。
[項14]
キレート剤が、イミノ基内または芳香環中に2個以上のキレート化窒素原子を含有する窒素含有キレート剤、ジイミンまたは2,2'-ビピリジンである、項1記載の製剤。
[項15]
キレート剤が、サイクラム(1,4,7,11-テトラアザシクロテトラデカン)、N-(C 1 ~C 30 アルキル)置換サイクラム(例えば、ヘキサデサイクラム、テトラメチルヘキサデシルサイクラム)、ジエチレントリアミン(DETA)、スペルミン、ジエチルノルスペルミン(DENSPM)、ジエチルホモスペルミン(DEHOP)、デフェロキサミン(N'-{5-[アセチル(ヒドロキシ)アミノ]ペンチル}-N-[5-({4-[(5-アミノペンチル)(ヒドロキシ)アミノ]-4-オキソブタノイル}アミノ)ペンチル]-N-ヒドロキシサクシナミド、またはN'-[5-(アセチル-ヒドロキシ-アミノ)ペンチル]-N-[5-[3-(5-アミノペンチル-ヒドロキシ-カルバモイル)プロパノイルアミノ]ペンチル]-N-ヒドロキシ-ブタンジアミド)、デスフェリオキサミンB、デスフェロキサミンB、DFO-B、DFOA、DFB、デスフェラール、デフェリプロン、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン(PIH)、サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン(SIH)、エタン-1,2-ビス(N-1-アミノ-3-エチルブチル-3-チオール)から選択されるポリアミンである、項1記載の製剤。。
[項16]
キレート剤が、([2-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-エチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([3-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([4-(ビス-エトキシカルボニルメチル-アミノ)-ブチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-エチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([2-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([3-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-プロピル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステル、([4-(ビス-エトキシメチル-アミノ)-ブチル]-{[2-(7-クロロ-キノリン-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-メチル}-アミノ)-酢酸エチルエステルから選択されるEDTA-4-アミノキノリン抱合体である、項1記載の製剤。
[項17]
キレート剤が、クエン酸、フィチン酸、乳酸、酢酸およびそれらの塩、ならびにクルクミンから選択される天然キレート剤である、項1記載の製剤。
[項18]
ビヒクルが水性である、項1記載の製剤。
[項19]
製剤の投与が眼中の高分子凝集体を減少させる、項1記載の製剤。
[項20]
高分子凝集体がペプチジル化合物である、項19記載の製剤。
[項21]
高分子凝集体がタンパク質である、項19記載の製剤。
[項22]
高分子凝集体がリポタンパク質である、項19記載の製剤。
[項23]
製剤が眼挿入物を含む、項1記載の製剤。
[項24]
製剤が時限放出用である、項1記載の製剤。
[項25]
高分子凝集体が
である、項19記載の製剤。
[項26]
製剤が、MSM2.7%w/w;EDTA二ナトリウム1.3%w/w;およびHEC0.85%w/wを含む、項1記載の製剤。
[項27]
有害な眼症候群の徴候の軽減を必要とする対象体の眼に項1記載の製剤を投与することによる有害な眼症候群の徴候を軽減するための方法。
[項28]
有害な眼状態が眼における高分子凝集体の蓄積である、項27記載の方法。
[項29]
製剤が、粘弾性ポリマーの非存在下での有効性と比較して、粘弾性ポリマーの存在下で有効であるとして少なくとも75%である量のキレート剤および浸透促進剤を含む、項27記載の方法。
[項30]
製剤が、浸透促進剤としてMSM、MSMおよび粘弾性ポリマーとしてHECを含む、項27記載の方法。
[項31]
使用される製剤が、MSM2.7%w/w;EDTA二ナトリウム1.3%w/w;およびHEC0.85%w/wを含む、項30記載の方法。
[項32]
製剤が、粘弾性ポリマーの非存在下での刺痛感と比較して、粘弾性ポリマーの存在下で対象体の眼における刺痛感を有意に減少させる量のキレート剤、浸透促進剤および粘弾性ポリマーを含む、項27記載の方法。
[項33]
製剤が、浸透促進剤としてMSM、MSMおよび粘弾性ポリマーとしてHECを含む、項27記載の方法。
[項34]
使用される製剤が、MSM2.7%w/w;EDTA二ナトリウム1.3%w/w;およびHEC0.85%w/wを含む、項30記載の方法。
[項35]
対象体における刺痛感を減少させながら有害な眼状態を治療するための製剤であって、
(a)キレート剤またはその塩;
(b)メチルスルホニルメタン(MSM)である電荷マスキング剤;
(c)0.5%~5.0%の濃度のヒドロキシエチルセルロース(HEC)である増粘剤;および
(d)薬学的に許容される不活性ビヒクル
を含む製剤であって、
HECの濃度が、眼におけるキレート剤/MSMの組合せの放出を減少させて、刺痛感が生じる濃度レベルよりも低い濃度レベルを維持するのに十分であり、
HECの濃度が、有害な眼状態の有意な減少をもたらすのに有効な期間、眼中にキレート剤/MSMを保持するのに十分であり、
組成物中の、キレート剤のパーセンテージが約0.1重量%~3.0重量%であり、輸送のパーセンテージが約0.1重量%~6.0重量%である、
製剤。
[項36]
有害な眼状態が高分子凝集によって引き起こされる、項35記載の製剤。
[項37]
有害な眼状態がドライアイ症候群によって引き起こされる、項35記載の製剤。
[項38]
ドライアイ症候群が炎症によって引き起こされる、項37記載の製剤。