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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079859
(43)【公開日】2024-06-12
(54)【発明の名称】放熱モジュール
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/04 20060101AFI20240605BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
F28D15/04 G
F28D15/02 102A
F28D15/02 102H
F28D15/02 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055457
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】萩野 春俊
(72)【発明者】
【氏名】川原 洋司
(57)【要約】
【課題】熱輸送能力を向上させた放熱モジュールを提供する。
【解決手段】放熱モジュールは、作動流体が封入されたコンテナと、前記コンテナ内に収容された少なくとも2枚の多孔質シートと、を備え、前記コンテナ内には蒸気流路が形成され、前記多孔質シート同士の間には、前記作動流体に毛管力を生じさせる隙間が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されたコンテナと、
前記コンテナ内に収容された少なくとも2枚の多孔質シートと、を備え、
前記コンテナ内には蒸気流路が形成され、
前記多孔質シート同士の間には、前記作動流体に毛管力を生じさせる隙間が形成されている、放熱モジュール。
【請求項2】
前記多孔質シートは、粉体の焼結体である、請求項1に記載の放熱モジュール。
【請求項3】
前記2枚の多孔質シートは相対移動可能である、請求項1または2に記載の放熱モジュール。
【請求項4】
前記コンテナは、互いに接合されたトッププレートおよびボトムプレートを有し、
前記トッププレートは、上板と、前記上板から前記ボトムプレートに向けて突出する複数のピラーを有し、
前記ピラー同士の間の隙間が前記蒸気流路であり、
前記多孔質シートの一部が前記ピラーによって圧縮されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の放熱モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ベーパーチャンバー等の放熱モジュールは、作動流体が封入されたコンテナと、コンテナ内に配置されたウィックとを備える。コンテナの高温側で作動流体が加熱され、蒸発すると、蒸発した作動流体(蒸気)は蒸気流路を通って低温側に移動して凝縮する。凝縮した作動流体(液体)は、ウィックの毛管力によって高温側に戻る。これら蒸発および凝縮の繰返しにより、高温側から低温側へと熱が輸送される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6623296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウィックの材質としては、例えばメッシュや粉体の焼結体が挙げられる。しかしながら、メッシュにより形成されたウィックは毛管力が弱いために液体を効率的に輸送できず、ベーパーチャンバーの熱輸送能力が低くなるという課題があった。また、粉体の焼結体により形成されたウィックは高い毛管力を生じさせるものの、液体がウィック内の粒子間をランダムな経路で動くために液体流路が長くなり、結果として熱輸送能力が低くなるという課題があった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、熱輸送能力を向上させた放熱モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る放熱モジュールは、作動流体が封入されたコンテナと、前記コンテナ内に収容された少なくとも2枚の多孔質シートと、を備え、前記コンテナ内には蒸気流路が形成され、前記多孔質シート同士の間には、前記作動流体に毛管力を生じさせる隙間が形成されている。
【0007】
上記態様の放熱モジュールによれば、低温側において液体となった作動流体が、多孔質シートが有する細孔を通じて、多孔質シート同士の間の隙間に流入する。多孔質シート同士の間の隙間は毛管力を生じさせる。この隙間を液体流路として用いることで、低温側から高温側に至る液体流路の長さを短くすることができる。したがって、液体が効率的に高温側へ輸送され、放熱モジュールの熱輸送能力を向上させることができる。
【0008】
ここで、前記多孔質シートは、粉体の焼結体であってもよい。
【0009】
また、前記複数の多孔質シートのそれぞれは、互いに相対移動可能であってもよい。
【0010】
また、前記コンテナは、互いに接合されたトッププレートおよびボトムプレートを有し、前記トッププレートは、上板と、前記上板から前記ボトムプレートに向けて突出する複数のピラーを有し、前記ピラー同士の間の隙間が前記蒸気流路であり、前記多孔質シートの一部が前記ピラーによって圧縮されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記態様によれば、熱輸送能力を向上させた放熱モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係るベーパーチャンバーの注液後における断面図である。
図2】第1実施形態に係るベーパーチャンバーの注液前における断面図である。
図3】第2実施形態に係るベーパーチャンバーの加熱接合前における断面図である。
図4】第2実施形態に係るベーパーチャンバーの加熱接合後における断面図である。
図5】実施例および比較例に係るベーパーチャンバーの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態のベーパーチャンバー(放熱モジュール)について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ベーパーチャンバー1Aは、作動流体Wが封入されたコンテナ10と、コンテナ10内に収容されたウィック20と、を備える。コンテナ10は、互いに接合されたトッププレート11およびボトムプレート12を有する。ボトムプレート12の外面には、熱源Hが接している。
【0014】
(方向定義)
ここで本実施形態では、XYZ直交座標系を設定して各構成の位置関係を説明する。トッププレート11およびボトムプレート12が対向する方向を厚さ方向Zという。厚さ方向Zにおけるトッププレート11側(+Z側)を上方、ボトムプレート12側(-Z側)を下方という。厚さ方向Zに直交する一方向を第1方向Xといい、第1方向Xおよび厚さ方向Zの双方に直交する方向を第2方向Yという。本実施形態では、理解を容易にするために、熱が第1方向Xに輸送されるものとして説明する。ただし、熱は第2方向Yに輸送されてもよい。第1方向Xにおける熱源H側(+X側)を高温側、他方側(-X側)を低温側という。
【0015】
作動流体Wは、相変化する周知の物質であって、コンテナ10内部で気相と液相とに相変化する。例えば、作動流体Wとして、水(純水)、アルコール、アンモニア等を採用できる。本明細書では、気相の作動流体を「蒸気W1」、液相の作動流体を「液体W2」と呼ぶことがある。また、気相と液相とを特に区別しない場合には単に作動流体Wと呼ぶことがある。
【0016】
コンテナ10は、密閉された中空容器である。トッププレート11およびボトムプレート12の材質としては、例えば銅などの熱伝導率が高い素材が望ましいが、銅以外の素材であってもよい。トッププレート11は、上板11aと、複数のピラー11bと、上側側壁部11cと、を有する。上側側壁部11cは、上板11aの外周縁から下方に突出している。複数のピラー11bは、上板11aから下方に突出し、上側側壁部11cによって囲まれている。複数のピラー11b同士の間の隙間には、蒸気流路Gが形成されている。図示は省略するが、蒸気流路Gは、蒸気W1が第1方向Xに流動できるように形成されている。例えば、複数の円柱状あるいは角柱状のピラー11bが、第1方向Xおよび第2方向Yの双方に並べて配置されていてもよい。あるいは、厚さ方向Zから見て、各ピラー11bが熱源Hを中心として放射状に延びていてもよい。
【0017】
ボトムプレート12は、底板12aと、下側側壁部12bと、を有する。下側側壁部12bは、底板12aの外周縁から上方に突出している。トッププレート11およびボトムプレート12は、例えば銅板にエッチング加工を施すことによって形成できるが、エッチング加工以外の手法によって形成されていてもよい。トッププレート11およびボトムプレート12は、上側側壁部11cと下側側壁部12bとが接合部13を介して接合されることにより、互いに接合されている。本実施形態においては、接合部13の材質はロウ材(BAg-8)であり、コンテナ10を窒素雰囲気中で850℃に加熱することにより接合を行っている。なお、接合部13の材質はロウ材でなくてもよく、例えばはんだ合金や接着剤等であってもよい。あるいは、接合部13を設けずに、例えばレーザー接合や超音波接合等によって上側側壁部11cと下側側壁部12bとが直接接合される構成を採用してもよい。
【0018】
ウィック20は、2つの多孔質シート21と、2つの多孔質シート21同士の間に形成される隙間22と、を有する。本明細書では、説明を容易とするために各多孔質シート21を上方から順に「第1シート21A」「第2シート21B」と呼ぶ場合がある。第1シート21Aと第2シート21Bとは、互いに相対移動可能な状態で上下に重ねられている。ここで、第2シート21Bは、ボトムプレート12に固定されてもよいし、固定されていなくてもよい。また、多孔質シート21の数は、3枚以上であってもよい。
【0019】
本実施形態において、多孔質シート21は、銅などの金属粉をシート状に焼結させた焼結体である。金属粉としては、例えば、いわゆるアトマイズ法によって製造されたアトマイズ粉を用いることができる。蒸気流路Gで凝縮した作動流体W(液体W2)は、多孔質シート21が有する細孔を通じて、隙間22に流入する。
なお、多孔質シート21は、粉体を焼結させた焼結体でなくてもよく、例えばポーラス金属体(発泡金属ともいう)によって形成されたシート等であってもよい。
【0020】
隙間22は、液体W2が輸送される液体流路として利用される。液体W2は、隙間22で起こる毛細管現象によって、第1方向Xに沿って輸送される。言い換えれば、液体W2は、隙間22の毛管力によって、第1方向Xに沿って輸送される。ここで、多孔質シート21は粉体の焼結体であるゆえに高い濡れ性を有するため、隙間22は高い毛管力を生じさせる。また、液体W2が多孔質シート21内の粒子間をランダムな経路で輸送される場合と比べて、液体流路の長さを短くすることができる。
【0021】
ベーパーチャンバー1Aの製造は、トッププレート11とボトムプレート12とを接合してコンテナ10を形成する加熱接合工程と、コンテナ10内部を真空とする脱気工程と、コンテナ10内部に作動流体Wの注液を行う注液工程と、の3つの工程を経て行われる。ここで、コンテナ10には、注液孔(不図示)が形成されており、脱気および注液は当該注液孔を介して行われる。また、注液工程の後で注液孔は閉塞される。
なお、ベーパーチャンバー1Aの製造には上記の3工程以外の工程が含まれていてもよい。
【0022】
加熱接合工程において、本実施形態に係るコンテナ10は、トッププレート11をボトムプレート12に向けて押し付けながら、コンテナ10全体を加熱し接合部13をロウ付けすることによって形成される。
加熱接合工程が行われた後に、脱気工程が行われる。
【0023】
脱気工程に次いで、注液工程が行われる。図2に示すように、注液工程開始直前の状態において、第1シート21Aと第2シート21Bとは、互いに接するように厚さ方向Zに重ねられている。つまり、第1シート21Aの下面と、第2シート21Bの上面とが、互いに接している。ここで、第1シート21Aの厚みと第2シート21Bの厚みの合計をD1、各ピラー11bの下面から底板12aまでの厚さ方向Zにおける距離をD2とする。このとき、D2―D1>0が成立する。言い換えれば、ウィック20(第1シート21A)の上面は、ピラー11bの下面と接していない。コンテナ10に作動流体Wが注液されると、液体W2の表面張力によって、第1シート21Aは上方に移動してピラー11bに当接する。注液前の状態において第2シート21Bが底板12aに接していない場合、第2シート21Bも液体W2の表面張力によって下方に移動し、底板12aに当接してもよい。
【0024】
つまり、コンテナ10に作動流体Wを注液することで、図1に示すように隙間22が厚さ方向Zに広がる。注液後の隙間22の厚さ方向Zにおける寸法は、先述のD2-D1の値と略等しくなる。隙間22が生じさせる毛管力、隙間22の流路抵抗、およびコンテナ10と多孔質シート21の製造難度等を加味すると、隙間22の厚さ方向Zにおける寸法は、例えば10~15μmとすることが望ましい。
【0025】
次に、以上のように構成されたベーパーチャンバー1Aの作用について説明する。
【0026】
ベーパーチャンバー1Aは、熱源Hから熱を受け取り、受け取った熱を外部に放出する放熱モジュールである。
図1に示すように、ウィック20の高温側に浸透している液体W2は、熱源Hから受け取った熱によって蒸発し、蒸気W1へと相変化して蒸気流路Gに向かう(S1)。蒸気W1は、高温側よりも圧力および温度が低い低温側へ向けて蒸気流路Gを流動する(S2)。蒸気W1は、低温側へ流動するにしたがってコンテナ10に熱を奪われて温度が低下し、やがて凝縮して液体W2へと相変化する。液体W2はウィック20に浸透し、隙間22に吸収される(S3)。隙間22に吸収された液体W2は、隙間22の毛管力によって高温側に還流する(S4)。S1~S4のサイクルを繰り返すことにより、ベーパーチャンバー1Aは熱源Hから熱を吸収し続け、吸収した熱を外部へ放出し続けることができる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態のベーパーチャンバー1Aは、作動流体Wが封入されたコンテナ10と、コンテナ10内に収容された少なくとも2枚の多孔質シート21と、を備え、コンテナ10内には蒸気流路Gが形成され、多孔質シート21同士の間には、液体W2に毛管力を生じさせる隙間22が形成されている。
【0028】
この構成によれば、低温側において液体W2となった作動流体Wが、多孔質シート21が有する細孔を通じて、多孔質シート21同士の間の隙間22に流入する。多孔質シート21同士の間の隙間22は毛管力を生じさせる。この隙間22を液体流路として用いることで、低温側から高温側に至る液体流路の長さを短くすることができる。したがって、液体W2が効率的に高温側へ輸送され、ベーパーチャンバー1Aの熱輸送能力を向上させることができる。
【0029】
また、本実施形態の多孔質シート21は、粉体の焼結体である。この構成によれば、多孔質シート21の濡れ性が高くなるため、隙間22が生じさせる毛管力を向上させることができる。したがって、液体W2がより効率的に輸送され、ベーパーチャンバー1Aの熱輸送能力をより向上させることができる。
【0030】
また、本実施形態の2枚の多孔質シート21は、相対移動可能である。これにより、液体W2の表面張力によって多孔質シート21同士の間の隙間22が広がる。隙間22のサイズは、先述の寸法D1、D2によって定めることができる。2枚の多孔質シート21を、隙間22が形成されるようにそれぞれコンテナ10に固定する場合と比較して、隙間22のサイズをより容易に小さくすることが可能である。隙間22のサイズを小さくすることで、毛管力をより大きくすることができる。したがって、液体W2がより効率的に輸送され、ベーパーチャンバー1Aの熱輸送能力をより向上させることができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図3は、第2実施形態に係るベーパーチャンバー1Bの製造過程を示す図である。具体的には、先述の加熱接合工程直前のベーパーチャンバー1Bの断面図である。図3に示すように、本実施形態では、各多孔質シート21の厚みの合計D1およびピラー11bと底板12aの距離D2について、D2-D1≦0が成立する。例えば、D2-D1の値は、-10~0μmであってもよい。
【0032】
ベーパーチャンバー1Aと同様に、ベーパーチャンバー1Bの製造は、加熱接合工程と、脱気工程と、注液工程と、の3つの工程を経て行われる。本実施形態のベーパーチャンバー1Bにおいて、先述の通りD2-D1≦0であるから、加熱接合工程は、第1シート21A(ウィック20)の上面がピラー11bと接した状態で開始される。加熱接合工程が開始されると、図4に示すように、トッププレート11には下向きの圧力がかかる。この圧力は、上側側壁部11cおよび下側側壁部12bによって受け止められる。したがって、上側側壁部11cには厚さ方向Zの圧力が作用するが、ピラー11bにはこのような圧力が作用しない。このため、厚さ方向Zにおけるピラー11bの熱膨張量は、上側側壁部11cの熱膨張量よりも大きくなる。
【0033】
また、各多孔質シート21も熱膨張する。このように、ピラー11bの熱膨張量が上側側壁部11cの熱膨張量よりも大きく、各多孔質シート21も熱膨張することにより、ピラー11bが第1シート21Aを下方に押し潰す。言い換えると、第1シート21A(ウィック20)のうちピラー11bに接している部分のみが下方に向けて圧縮される。第1シート21Aの圧縮された箇所には曲げモーメントが生じるため、第1シート21Aの一部(圧縮された箇所の周囲)が上方に隆起して隙間22が形成される。第1実施形態同様、隙間22は液体流路として利用される。
【0034】
脱気工程ではコンテナ10の内部の気圧が低下するため、コンテナ10には外気圧による圧縮力が生じる。本実施形態のベーパーチャンバー1Bにおいて、第1シート21A(ウィック20)はピラー11bによって圧縮されているため、ウィック20がピラー11bを介して上記の圧縮力を受けることにより、コンテナ10の変形を防止することができる。
【0035】
脱気工程に次いで、注液工程が行われる。ここで、本実施形態のベーパーチャンバー1Bは、D2-D1≦0であるから、各多孔質シート21の厚みの合計であるD1の値を大きくとることができる。D1の値を大きくすることで、注液工程においてウィック20が保持できる液体W2の量を多くすることができる。また、ベーパーチャンバーが吸収・排出できる熱量はコンテナ10内部に注液された作動流体Wの物質量に依存する。したがって、D1の値を大きくすることで、コンテナ10内部に注液可能な作動流体Wの物質量を増やすことができ、これによりベーパーチャンバー1Bの許容熱量をより高めることができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態のベーパーチャンバー1Bにおいて、コンテナ10は、互いに接合されたトッププレート11およびボトムプレート12を有し、トッププレート11は、上板11aと、上板11aからボトムプレート12に向けて突出する複数のピラー11bを有し、ピラー11b同士の間の隙間が蒸気流路Gであり、多孔質シート21の一部がピラー11bによって圧縮されている。この構成によれば、コンテナ10にかかる圧縮力を多孔質シート21が受けることによって、コンテナ10が外気圧によって変形するのを防止できる。
【実施例0037】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0038】
(比較例)
第1方向Xにおける寸法は90mm、第2方向Yにおける寸法は56mm、厚さ方向Zにおける寸法は0.3mmのベーパーチャンバーを用意した。ウィック20として、Φ5μmの銅粉を焼結させた厚み80μmの多孔質シート21を、1枚用いた。
【0039】
(実施例)
第1実施形態のベーパーチャンバー1Aを用意した。各寸法は比較例と同一とした。ウィック20として、Φ5μmの銅粉を焼結させた厚み35μmの多孔質シート21を2枚用いた。多孔質シート21同士の間に、液体W2の表面張力によって隙間22が形成された。
【0040】
表1は、比較例および実施例のそれぞれに熱源Hを接し(図1参照)、測定点P1~P4におけるトッププレート11の温度を測定した結果である(図5参照)。測定点P1~P4は、第2方向Yにおけるコンテナ10の中央に配置した。また、第1方向Xにおいて隣り合う測定点同士の間の間隔は、20mmとした。
【0041】
【表1】
【0042】
P1の温度と外気温の差が小さいことは、ベーパーチャンバーが、熱源Hから受け取った熱を低温側(P2~P4側)へと効率よく輸送できていることを意味する。言い換えれば、ベーパーチャンバーが高い熱輸送能力を有することを意味する。同様に、P1の温度とP4の温度の差が小さいことは、ベーパーチャンバーの温度勾配が小さく、ベーパーチャンバーの熱輸送能力が高いことを意味する。表1から、熱源Hの出力の大小や熱源Hの温度の高低に関わらず、比較例よりも実施例のほうが高い熱輸送能力を発揮できていることが確認できる。このように、ウィック20に複数の多孔質シート21を設け、多孔質シート21同士の間の隙間22を液体流路とすることによって、ベーパーチャンバーの熱輸送能力を向上させることができる。
【0043】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0044】
例えば、前記実施形態においてコンテナ10は全体として直方体状に形成されていたが、例えば長円盤状であってもよいし、その他の形状であってもよい。
また、前記実施形態の放熱モジュールはベーパーチャンバーであったが、その他の種類の放熱モジュールに対して前記実施形態を適用してもよい。具体的には、放熱モジュールは、コンテナ10としてパイプ(例えば銅管)を用いたヒートパイプであってもよい。この場合、パイプの内側に2枚以上の多孔質シート21を配置し、多孔質シート21同士の間に隙間22を形成することで、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。あるいは、放熱モジュールは、いわゆるループヒートパイプ等であってもよい。
【0045】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1A、1B…ベーパーチャンバー(放熱モジュール) 10…コンテナ 11…トッププレート 11a…上板 11b…ピラー 12…ボトムプレート 21…多孔質シート 22…隙間 G…蒸気流路 W…作動流体
図1
図2
図3
図4
図5