(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079860
(43)【公開日】2024-06-12
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20240605BHJP
【FI】
E02F9/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056127
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】古堅 椋太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】別府 充心
(72)【発明者】
【氏名】白川 賀裕
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB01
2D003BA01
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB02
(57)【要約】
【課題】発進時のショックの発生を防止し、旋回走行から直進走行に移行するための操作が行われたときの作業機械の動きとオペレータの操作感覚のずれを抑制する。
【解決手段】作業機械は、右走行モータに作動油を供給する第1油圧ポンプと、左走行モータに作動油を供給する第2油圧ポンプと、第1油圧ポンプの容積を制御するための制御圧を出力する第1レギュレータと、第2油圧ポンプの容積を制御するための制御圧を出力する第2レギュレータと、第1及び第2レギュレータを制御するコントローラと、を備える。コントローラは、左右の走行操作装置の操作量の差を演算し、操作量の差が閾値未満の場合には、左右の走行操作装置の操作量に応じたレギュレータ制御信号を補正し、補正されたレギュレータ制御信号により第1レギュレータ及び第2レギュレータが出力する目標とする制御圧に到達する時間を、上記操作量の差が閾値以上の場合に比べて遅延させる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
右クローラ及び左クローラを有する走行体と、
前記走行体上に取り付けられた車体と、
前記車体に取り付けられた作業装置と、
前記右クローラを駆動する右走行モータと、
前記左クローラを駆動する左走行モータと、
前記右走行モータに作動油を供給する第1油圧ポンプと、
前記左走行モータに作動油を供給する第2油圧ポンプと、
前記第1油圧ポンプ及び前記第2油圧ポンプを駆動する動力源と、
前記右走行モータを操作するための右走行操作装置と、
前記左走行モータを操作するための左走行操作装置と、
センタバイパス通路部を有し、前記右走行操作装置の操作に応じて駆動され、前記第1油圧ポンプから前記右走行モータへ供給される作動油の流量を制御する右走行モータ用の流量制御弁と、
センタバイパス通路部を有し、前記左走行操作装置の操作に応じて駆動され、前記第2油圧ポンプから前記左走行モータへ供給される作動油の流量を制御する左走行モータ用の流量制御弁と、
前記右走行操作装置の操作量に関する情報を検出する右走行操作量検出装置と、
前記左走行操作装置の操作量に関する情報を検出する左走行操作量検出装置と、
前記第1油圧ポンプの容積を制御するための制御圧を出力する第1レギュレータと、
前記第2油圧ポンプの容積を制御するための制御圧を出力する第2レギュレータと、
前記右走行操作量検出装置の検出結果に基づいて前記第1レギュレータを制御し、前記左走行操作量検出装置の検出結果に基づいて前記第2レギュレータを制御するコントローラと、を備えた作業機械において、
前記コントローラは、
前記右走行操作量検出装置と前記左走行操作量検出装置の検出結果に基づいて前記右走行操作装置の操作量と前記左走行操作装置の操作量との操作量の差を演算し、
演算された前記操作量の差が予め定められた閾値未満の場合には、前記右走行操作装置及び前記左走行操作装置の操作量に応じたレギュレータ制御信号を補正し、補正された前記レギュレータ制御信号により前記第1レギュレータ及び前記第2レギュレータが出力する目標とする制御圧に到達する時間を、演算された前記操作量の差が前記閾値以上の場合に比べて遅延させる
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記作業装置を操作する作業装置操作装置と、
前記作業装置操作装置による操作量を検出する作業装置用の操作量検出装置と、を備え、
前記コントローラは、
前記作業装置用の操作量検出装置により検出された操作量に基づき前記作業装置の操作が行われているか否かを判定し、
前記作業装置の操作が行われていない場合には、前記右走行操作装置及び前記左走行操作装置の操作量に応じた前記レギュレータ制御信号に対して遅れ処理を実行し、
前記作業装置の操作が行われている場合には、前記遅れ処理を実行しない
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械において、
前記遅れ処理に用いられる第1遅れ係数及び第2遅れ係数が記憶された記憶装置を備え、
前記記憶装置には前記第1遅れ係数に対し前記第2遅れ係数の値が大きく設定され、
前記コントローラは、
前記操作量の差が前記閾値以上の場合には、前記第1遅れ係数を用いて前記遅れ処理を実行し、
前記操作量の差が前記閾値未満の場合には、前記第2遅れ係数を用いて前記遅れ処理を実行する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記第1レギュレータは、第1レギュレータ制御圧を生成する第1電磁比例弁と、前記第1レギュレータ制御圧に応じて前記第1油圧ポンプの容積を調整する第1調整アクチュエータと、前記第1レギュレータ制御圧を検出する第1制御圧センサと、を有し、
前記第2レギュレータは、第2レギュレータ制御圧を生成する第2電磁比例弁と、前記第2レギュレータ制御圧に応じて前記第2油圧ポンプの容積を調整する第2調整アクチュエータと、前記第2レギュレータ制御圧を検出する第2制御圧センサと、を有し、
前記コントローラは、
前記第1制御圧センサにより検出された前記第1レギュレータ制御圧と、前記第2制御圧センサにより検出された前記第2レギュレータ制御圧との圧力差を、前記右走行操作装置の操作量と前記左走行操作装置の操作量との操作量の差として演算する
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧モータにより走行駆動するクローラを備えた油圧ショベル等の作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械は、油圧アクチュエータと、油圧アクチュエータに供給される作動油の方向と流量を制御する方向切替弁と、方向切替弁を操作するための操作レバーとを備えている。特許文献1には、作業機の急操作時に発生する機械的ショックを防止するために、操作レバーの操作量を検知した制御信号に遅れ補正処理を施した補正信号によって方向切替弁を制御する制御装置を備えた作業機械が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左右一対のクローラを有する走行体を備えた作業機械において、走行操作の信号に対して遅れ処理を実行する場合、旋回走行から直進走行に移行するための操作が行われたときに、作業機械の動きとオペレータの操作感覚との間にずれが生じるおそれがある。例えば、左旋回走行から直進走行に移行するための操作が行われたときに、直進走行させようとするオペレータの意図に反して意図する進路よりも左方へ走行体が向いてしまうおそれがある。この場合、走行体の向きを調整する操作が余計に必要になり、作業効率が低下してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、発進時のショックの発生を防止し、旋回走行から直進走行に移行するための操作が行われたときの作業機械の動きとオペレータの操作感覚のずれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による作業機械は、右クローラ及び左クローラを有する走行体と、前記走行体上に取り付けられた車体と、前記車体に取り付けられた作業装置と、前記右クローラを駆動する右走行モータと、前記左クローラを駆動する左走行モータと、前記右走行モータに作動油を供給する第1油圧ポンプと、前記左走行モータに作動油を供給する第2油圧ポンプと、前記第1油圧ポンプ及び前記第2油圧ポンプを駆動する動力源と、前記右走行モータを操作するための右走行操作装置と、前記左走行モータを操作するための左走行操作装置と、センタバイパス通路部を有し、前記右走行操作装置の操作に応じて駆動され、前記第1油圧ポンプから前記右走行モータへ供給される作動油の流量を制御する右走行モータ用の流量制御弁と、センタバイパス通路部を有し、前記左走行操作装置の操作に応じて駆動され、前記第2油圧ポンプから前記左走行モータへ供給される作動油の流量を制御する左走行モータ用の流量制御弁と、前記右走行操作装置の操作量に関する情報を検出する右走行操作量検出装置と、前記左走行操作装置の操作量に関する情報を検出する左走行操作量検出装置と、前記第1油圧ポンプの容積を制御するための制御圧を出力する第1レギュレータと、前記第2油圧ポンプの容積を制御するための制御圧を出力する第2レギュレータと、前記右走行操作量検出装置の検出結果に基づいて前記第1レギュレータを制御し、前記左走行操作量検出装置の検出結果に基づいて前記第2レギュレータを制御するコントローラと、を備える。前記コントローラは、前記右走行操作量検出装置と前記左走行操作量検出装置の検出結果に基づいて前記右走行操作装置の操作量と前記左走行操作装置の操作量との操作量の差を演算し、演算された前記操作量の差が予め定められた閾値未満の場合には、前記右走行操作装置及び前記左走行操作装置の操作量に応じたレギュレータ制御信号を補正し、補正された前記レギュレータ制御信号により前記第1レギュレータ及び前記第2レギュレータが出力する目標とする制御圧に到達する時間を、演算された前記操作量の差が前記閾値以上の場合に比べて遅延させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発進時のショックの発生を防止し、旋回走行から直進走行に移行するための操作が行われたときの作業機械の動きとオペレータの操作感覚のずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベルの構成図である。
【
図3】
図3は、油圧ショベルの油圧システムの概略構成図である。
【
図4】
図4は、レギュレータ制御圧Pcと油圧ポンプの押しのけ容積qとの関係について示す図である。
【
図5】
図5は、コントローラの機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、レギュレータの制御について示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、油圧ショベルが発進するときのレギュレータ制御圧、走行操作圧、及び補正信号の時間的な変化を示すタイムチャートである。
【
図8】
図8は、油圧ショベルが旋回走行から直進走行に移行するとき、及び、油圧ショベルが停止するときのレギュレータ制御圧、走行操作圧、及び補正信号の時間的な変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る作業機械について説明する。本実施形態では、作業機械がクローラ式の油圧ショベルである例について説明する。作業機械は、作業現場において、土木作業、建設作業、解体作業、浚渫作業等の作業を行う。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベル1の構成図である。
図1に示すように、油圧ショベル1は、クローラ式の走行体2と、走行体2上に旋回可能に取り付けられた車体である旋回体3と、旋回体3に取り付けられた作業装置4と、を備える。走行体2は、旋回体3を支持するセンターフレームと、センターフレームの右部に取り付けられる右クローラ2Rと、センターフレームの左部に取り付けられる左クローラ2Lと、を有する。右クローラ2Rは、センターフレームの右部に固定される右サイドフレームと、右サイドフレームに取り付けられるクローラベルトと、右クローラ2Rのクローラベルトを駆動する右走行モータ15Rと、を有する。左クローラ2Lは、センターフレームの左部に固定される左サイドフレームと、左サイドフレームに取り付けられるクローラベルトと、左クローラ2Lのクローラベルトを駆動する左走行モータ15Lと、を有する。走行体2は、左右一対のクローラを左走行モータ15L及び右走行モータ15Rによって駆動することにより走行する。左走行モータ15Lの回転速度と右走行モータ15Rの回転速度との間に差が生じている場合には、走行体2は、その軌道(進路)を変更する走行である旋回走行を行う。左走行モータ15Lの回転速度と右走行モータ15Rの回転速度との間に差が生じていない場合には、走行体2は直進走行を行う。旋回体3は、旋回モータ14を有する旋回装置を介して走行体2に連結され、旋回モータ14によって駆動されて走行体2に対して旋回する。
【0011】
旋回体3は、オペレータが搭乗する運転室17と、動力源であるエンジン18及びエンジン18により駆動される第1油圧ポンプ101、第2油圧ポンプ102及び第3油圧ポンプ103(
図3参照)等の油圧機部が収容されるエンジン室16と、を備える。運転室17内には、油圧ショベル1の各部の動作を制御するコントローラ120が設けられている。
【0012】
作業装置4は、旋回体3に取り付けられる多関節型の作業装置であって、複数の油圧アクチュエータ、及び複数の油圧アクチュエータにより駆動される複数の駆動対象部材を有する。作業装置4は、3つの駆動対象部材(ブーム5、アーム6及びバケット7)が直列的に連結された構成である。ブーム5は、その基端部が旋回体3の前部に、ブームピンを介して回動可能に連結される。アーム6は、その基端部がブーム5の先端部に、アームピンを介して回動可能に連結される。バケット7は、アーム6の先端部に、バケットピンを介して回動可能に連結される。
【0013】
ブーム5は、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)であるブームシリンダ11の伸縮動作によって回転駆動される。アーム6は、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)であるアームシリンダ12の伸縮動作によって回転駆動される。バケット7は、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)であるバケットシリンダ13の伸縮動作によって回転駆動される。油圧ショベル1は、作業装置4を動作させることにより、土砂の掘削作業、均し作業、地面を締め固める転圧作業等を行うことができる。
【0014】
図2は、運転室17の内部を示す図である。
図2に示すように、運転室17内には、オペレータが着座する運転席25と、油圧ショベル1の各部を操作するための操作装置と、が設けられている。運転席25の右側には、バケット7の操作及びブーム5の操作を行うための右作業装置操作装置23が設けられ、運転席25の左側には、旋回体3の操作及びアーム6の操作を行うための左作業装置操作装置24が設けられている。運転席25の前側には走行操作装置20が設けられている。走行操作装置20は、右クローラ2Rの右走行モータ15Rを操作するための右走行操作装置21と、左クローラ2Lの左走行モータ15Lを操作するための左走行操作装置22と、を備える。右走行操作装置21は、操作部材である右走行レバー21a及び右走行ペダル21bを有する。左走行操作装置22は、操作部材である左走行レバー22a及び左走行ペダル22bを有する。
【0015】
図3は、油圧ショベル1の油圧システム115の概略構成図である。
図3に示すように、油圧システム115は、2ポンプ2バルブのオープンセンタシステムであり、エンジン18により駆動される可変容量型の第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102と、第1油圧ポンプ101の容積を制御するための制御圧(以下、第1レギュレータ制御圧とも記す)を出力する第1レギュレータ130aと、第2油圧ポンプ102の容積を制御するための制御圧(以下、第2レギュレータ制御圧とも記す)を出力する第2レギュレータ130bと、第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102から吐出される作動油が供給されるコントロールバルブユニット110と、第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102から吐出される作動油により駆動される複数の油圧アクチュエータ(11~14,15L,15R,19)と、エンジン18により駆動される固定容量型の第3油圧ポンプ(以下、パイロットポンプとも記す)103と、作動油が貯留されるタンク49と、を備える。
【0016】
コントロールバルブユニット110は、第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102から複数の油圧アクチュエータ(11~14,15L,15R,19)へ供給される作動油の流量と方向をそれぞれ制御するオープンセンタ型の複数の流量制御弁31~39と、第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102から吐出される作動油の圧力を制限するリリーフ弁48と、を有する。
【0017】
コントロールバルブユニット110は、第1バルブブロック111と第2バルブブロック112とを有する。第1バルブブロック111は、第1油圧ポンプ101から吐出される作動油をタンク49にバイパスする第1バイパスカット弁41と、複数の流量制御弁31~34と、リリーフ弁48と、を有する。第2バルブブロック112は、第2油圧ポンプ102から吐出される作動油をタンク49にバイパスする第2バイパスカット弁42と、複数の流量制御弁36~39と、を有する。
【0018】
リリーフ弁48は、第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102とタンク49との間に設けられ、油圧回路の最高圧力を規制することにより油圧回路を保護する。
【0019】
第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102は、斜板式または斜軸式の可変容量ポンプであり、第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bによって1回転当たりの作動油の吐出量である押しのけ容積が制御される。第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bは、コントローラ120からのレギュレータ制御信号(ポジティブコントロール信号)により制御される。
【0020】
第1レギュレータ130aは、パイロットポンプ103の吐出圧を減圧して、第1レギュレータ制御圧を生成する第1電磁比例弁131aと、第1電磁比例弁131aで生成された第1レギュレータ制御圧に応じて第1油圧ポンプ101の押しのけ容積を調整する第1調整アクチュエータ132aと、第1電磁比例弁131aで生成された第1レギュレータ制御圧を検出し、検出結果をコントローラ120に出力する圧力センサ(以下、第1制御圧センサとも記す)133aと、を有する。第2レギュレータ130bは、パイロットポンプ103の吐出圧を減圧して、第2レギュレータ制御圧を生成する第2電磁比例弁131bと、第2電磁比例弁131bで生成された第2レギュレータ制御圧に応じて第2油圧ポンプ102の押しのけ容積を調整する第2調整アクチュエータ132bと、第2電磁比例弁131bで生成された第2レギュレータ制御圧を検出し、検出結果をコントローラ120に出力する圧力センサ(以下、第2制御圧センサとも記す)133bと、を有する。
【0021】
第1調整アクチュエータ132a及び第2調整アクチュエータ132bは、それぞれ、傾転制御シリンダと、傾転制御シリンダ内に摺動自在に配置されるサーボピストンと、を有し、レギュレータ制御圧に応じて摺動するサーボピストンにより斜板または斜軸の傾転角を調整する。第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102の押しのけ容積は、斜板または斜軸の傾転角が増加するほど大きくなる。
【0022】
第1レギュレータ制御圧は、右走行操作装置21で生成される操作圧と一定の関係がある。このため、第1制御圧センサ133aは、右走行操作装置21の操作量に関する情報を検出する右走行操作量検出装置として機能する。第2レギュレータ制御圧は、左走行操作装置22で生成される操作圧と一定の関係がある。このため、第2制御圧センサ133bは、左走行操作装置22の操作量に関する情報を検出する左走行操作量検出装置として機能する。
【0023】
コントローラ120から第1電磁比例弁131aのソレノイドに供給される制御電流が、最小電流Iminであるときには、第1レギュレータ制御圧が制御範囲における最小圧力Pcminとなる。コントローラ120から第1電磁比例弁131aのソレノイドに供給される制御電流が増加すると、第1レギュレータ制御圧が増加する。コントローラ120から第1電磁比例弁131aのソレノイドに供給される制御電流が最大電流Imaxであるときには、第1レギュレータ制御圧が制御範囲における最大圧力Pcmaxとなる。同様に、コントローラ120から第2電磁比例弁131bのソレノイドに供給される制御電流が、最小電流Iminであるときには、第2レギュレータ制御圧が制御範囲における最小圧力Pcminとなる。コントローラ120から第2電磁比例弁131bのソレノイドに供給される制御電流が増加すると、第2レギュレータ制御圧が増加する。コントローラ120から第2電磁比例弁131bのソレノイドに供給される制御電流が最大電流Imaxであるときには、第2レギュレータ制御圧が制御範囲における最大圧力Pcmaxとなる。
【0024】
なお、本実施形態では、第1電磁比例弁131a及び第2電磁比例弁131bが、ソレノイドに供給される電流が増加するほど二次圧を増加させる正比例型の制御弁であるが、ソレノイドに供給される電流が増加するほど二次圧を減少させる逆比例型の制御弁としてもよい。
【0025】
図4は、レギュレータ制御圧Pcと油圧ポンプ101,102の押しのけ容積qとの関係について示す図である。第1レギュレータ制御圧Pc1と第1油圧ポンプ101の押しのけ容積qとの関係、及び、第2レギュレータ制御圧Pc2と第2油圧ポンプ102の押しのけ容積qとの関係は同じである。
【0026】
第1レギュレータ130aは、
図4に示すように、第1レギュレータ制御圧Pc1が最小圧力Pcminのときには、押しのけ容積qを最小容積qminとし、第1レギュレータ制御圧Pc1が増加するほど押しのけ容積qを増加させ、第1レギュレータ制御圧Pc1が最大圧力Pcmaxのときには、押しのけ容積qを最大容積qmaxとする。同様に、第2レギュレータ130bは、
図4に示すように、第2レギュレータ制御圧Pc2が最小圧力Pcminのときには、押しのけ容積qを最小容積qminとし、第2レギュレータ制御圧Pc2が増加するほど押しのけ容積qを増加させ、第2レギュレータ制御圧Pc2が最大圧力Pcmaxのときには、押しのけ容積qを最大容積qmaxとする。
【0027】
後述するように、右走行操作装置21の操作量が増加するほど、第1レギュレータ制御圧Pc1が増加する。したがって、右走行操作装置21の操作量の増加に応じて、第1油圧ポンプ101から吐出される作動油の流量が増加する。同様に、左走行操作装置22の操作量が増加するほど、第2レギュレータ制御圧Pc2が増加する。したがって、左走行操作装置22の操作量の増加に応じて、第2油圧ポンプ102から吐出される作動油の流量が増加する。つまり、本実施形態の油圧システム115は、ポジティブコントロール方式の油圧システムである。
【0028】
図3に示すように、流量制御弁31~34は、第1油圧ポンプ101とタンク49とを接続するセンタバイパスライン上に設けられる。つまり、流量制御弁31~34は、中立位置において、第1油圧ポンプ101の作動油をタンク49に導くセンタバイパス通路部30pを有する。右走行モータ用の流量制御弁31は、右走行操作装置21の操作に応じて駆動され、第1油圧ポンプ101から右走行モータ15Rへ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。バケットシリンダ用の流量制御弁32は、右作業装置操作装置23の操作に応じて駆動され、第1油圧ポンプ101からバケットシリンダ13へ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。ブームシリンダ用の流量制御弁33は、右作業装置操作装置23の操作に応じて駆動され、第1油圧ポンプ101からブームシリンダ11へ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。アームシリンダ用の流量制御弁34は、左作業装置操作装置24の操作に応じて駆動され、第1油圧ポンプ101からアームシリンダ12へ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。
【0029】
流量制御弁35~39は、第2油圧ポンプ102とタンク49とを接続するセンタバイパスライン上に設けられる。つまり、流量制御弁35~39は、中立位置において、第2油圧ポンプ102の作動油をタンク49に導くセンタバイパス通路部30pを有する。左走行モータ用の流量制御弁35は、左走行操作装置22の操作に応じて駆動され、第2油圧ポンプ102から左走行モータ15Lへ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。アタッチメント用の流量制御弁36は、第2油圧ポンプ102からアタッチメント駆動用の油圧アクチュエータ19へ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。ブームシリンダ用の流量制御弁37は、右作業装置操作装置23の操作に応じて駆動され、第2油圧ポンプ102からブームシリンダ11へ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。アームシリンダ用の流量制御弁38は、左作業装置操作装置24の操作に応じて駆動され、第2油圧ポンプ102からアームシリンダ12へ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。旋回モータ用の流量制御弁39は、左作業装置操作装置24の操作に応じて駆動され、第2油圧ポンプ102から旋回モータ14へ供給される作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。
【0030】
アームシリンダ12に対して2つの流量制御弁34,38が設けられているため、2つの油圧ポンプ101,102から吐出される作動油を合流して、アームシリンダ12に供給することができる。ブームシリンダ11に対して2つの流量制御弁33,37が設けられているため、2つの油圧ポンプ101,102から吐出される作動油を合流して、ブームシリンダ11に供給することができる。
【0031】
パイロットポンプ103から吐出された作動油は、操作装置21~24に供給される。操作装置21~24は、オペレータによって傾動操作される操作部材と、パイロット圧を生成するパイロット圧生成装置21p~24pと、を有する。パイロット圧生成装置21p~24pは、複数の減圧弁を有する。
【0032】
パイロット圧生成装置21p~24pは、操作部材の操作量と操作方向に応じて、パイロットポンプ103の吐出圧であるパイロット一次圧を減圧し、パイロット二次圧(操作圧と称することもある)を生成する。操作圧は、操作された操作装置21~24に対応する流量制御弁31~39の受圧部に導かれ、流量制御弁31~39を駆動して油圧アクチュエータ(11~14,15L,15R,19)を動作させる指令(信号)として利用される。
【0033】
右走行操作装置21は、操作部材の操作方向と操作量に基づいて走行操作圧TR1,TR2を生成し、流量制御弁31を切り換える。左走行操作装置22は、操作部材の操作方向と操作量に基づいて走行操作圧TR3,TR4を生成し、流量制御弁35を切り換える。
【0034】
右走行操作装置21の操作部材が前進側に操作されると、流量制御弁31の第1受圧部に走行操作圧TR1が作用し、流量制御弁31が第1方向R1に移動する。これにより、第1油圧ポンプ101から吐出された作動油が右走行モータ15Rを前進方向に回転させ、右クローラ2Rが前進する。また、右走行操作装置21の操作部材が後進側に操作されると、流量制御弁31の第2受圧部に走行操作圧TR2が作用し、流量制御弁31が第1方向R1とは逆の第2方向R2に移動する。これにより、第1油圧ポンプ101から吐出された作動油が右走行モータ15Rを後進方向に回転させ、右クローラ2Rが後進する。
【0035】
左走行操作装置22の操作部材が前進側に操作されると、流量制御弁35の第1受圧部に走行操作圧TR3が作用し、流量制御弁35が第1方向L1に移動する。これにより、第2油圧ポンプ102から吐出された作動油が左走行モータ15Lを前進方向に回転させ、左クローラ2Lが前進する。また、左走行操作装置22の操作部材が後進側に操作されると、流量制御弁31の第2受圧部に走行操作圧TR4が作用し、流量制御弁31が第1方向L1とは逆の第2方向L2に移動する。これにより、第2油圧ポンプ102から吐出された作動油が左走行モータ15Lを後進方向に回転させ、左クローラ2Lが後進する。
【0036】
右作業装置操作装置23は、操作部材の操作方向と操作量に基づいて操作圧BOD,BOUを生成し、流量制御弁33,37を切り換える。また、右作業装置操作装置23は、操作部材の操作方向と操作量に基づいて操作圧BKD,BKCを生成し、流量制御弁32を切り換える。左作業装置操作装置24は、操作部材の操作方向と操作量に基づいて操作圧ARD,ARCを生成し、流量制御弁34,38を切り換える。また、左作業装置操作装置24は、操作部材の操作方向と操作量に基づいて操作圧SW1,SW2を生成し、流量制御弁39を切り換える。
【0037】
流量制御弁31~39が操作装置21~24によって操作されることにより、油圧ポンプ101,102から吐出された作動油が流量制御弁31~39を通じて油圧アクチュエータに供給され、作業装置4、旋回体3及び走行体2のそれぞれが駆動される。
【0038】
油圧システム115は、右作業装置操作装置23の操作圧(操作量)を検出し、検出結果をコントローラ120に出力する圧力センサ26a~26dと、左作業装置操作装置24の操作圧(操作量)を検出し、検出結果をコントローラ120に出力する圧力センサ27a~27dと、を備えている。圧力センサ26aはブーム上げ操作指令としての操作圧BOUを検出し、圧力センサ26bはブーム下げ操作指令としての操作圧BODを検出する。圧力センサ26cはバケットダンプ操作指令としての操作圧BKDを検出し、圧力センサ26dはバケットクラウド操作指令としての操作圧BKCを検出する。圧力センサ27aは右旋回操作指令としての操作圧SW1を検出し、圧力センサ27bは左旋回操作指令としての操作圧SW2を検出する。圧力センサ27cはアームクラウド操作指令としての操作圧ARCを検出し、圧力センサ27dはアームダンプ操作指令としての操作圧ARDを検出する。
【0039】
本実施形態に係る油圧システム115は、右走行モータ15Rを前進側に回転させる前進操作指令としての操作圧TR1及び右走行モータ15Rを後進側に回転させる後進操作指令としての操作圧TR2のうち、高い方を選択して出力する第1高圧選択弁141と、第1高圧選択弁141から出力される操作圧に応じて動作する減圧弁145aと、を備えている。また、油圧システム115は、左走行モータ15Lを前進側に回転させる前進操作指令としての操作圧TR3及び左走行モータ15Lを後進側に回転させる後進操作指令としての操作圧TR4のうち、高い方を選択して出力する第2高圧選択弁142と、第2高圧選択弁142から出力される操作圧に応じて動作する減圧弁145bと、を備えている。さらに、油圧システム115は、第1高圧選択弁141から出力された圧力及び第2高圧選択弁142から出力された圧力のうち、高い方を選択して出力する第3高圧選択弁143と、第3高圧選択弁143から出力される圧力を検出し、検出結果をコントローラ120に出力する圧力センサ(以下、走行操作圧センサとも記す)147と、を備えている。つまり、走行操作圧センサ147は、右走行操作装置21及び左走行操作装置22で生成される走行操作圧のうち、最も高い走行操作圧を検出する。高圧選択弁141,142,143は、例えば、シャトル弁である。
【0040】
減圧弁145aは、第1高圧選択弁141から出力される圧力に応じて、パイロットポンプ103の吐出圧であるパイロット一次圧を減圧し、パイロット二次圧(第1レギュレータ指令圧とも記す)を生成する。同様に、減圧弁145bは、第2高圧選択弁142から出力される圧力に応じて、パイロットポンプ103の吐出圧であるパイロット一次圧を減圧し、パイロット二次圧(第2レギュレータ指令圧とも記す)を生成する。油圧システム115は、減圧弁145aで生成された第1レギュレータ指令圧を検出し、検出結果をコントローラ120に出力する圧力センサ(以下、第1指令圧センサとも記す)146aと、減圧弁145bで生成された第2レギュレータ指令圧を検出し、検出結果をコントローラ120に出力する圧力センサ(以下、第2指令圧センサとも記す)146bと、を備えている。
【0041】
第1レギュレータ指令圧は、右走行操作装置21で生成される操作圧と一定の関係がある。このため、第1指令圧センサ146aは、右走行操作装置21の操作量に関する情報を検出する右走行操作量検出装置として機能する。第2レギュレータ指令圧は、左走行操作装置22で生成される操作圧と一定の関係がある。このため、第2指令圧センサ146bは、左走行操作装置22の操作量に関する情報を検出する左走行操作量検出装置として機能する。
【0042】
このように、本実施形態に係る油圧システム115には、右走行操作装置21から出力される走行操作圧に応じて第1レギュレータ指令圧を生成する減圧弁145a及び第1レギュレータ指令圧を検出する第1指令圧センサ146aが設けられている。同様に、本実施形態に係る油圧システム115には、左走行操作装置22から出力される走行操作圧に応じて第2レギュレータ指令圧を生成する減圧弁145b及び第2レギュレータ指令圧を検出する第2指令圧センサ146bが設けられている。
【0043】
ここで、例えば、第1高圧選択弁141を設けずに、右走行操作装置21から出力される前進側の走行操作圧に応じて第1レギュレータ指令圧を生成する減圧弁と、右走行操作装置21から出力される後進側の走行操作圧に応じて第1レギュレータ指令圧を生成する減圧弁とを個別に設けることもできる。しかしながら、この場合、減圧弁及び指令圧センサの数が増加してしまう。これに対して、本実施形態では、高圧選択弁141,142を設けることにより、減圧弁145a,145bの数及び指令圧センサ146a,146bの数を低減することができる。
【0044】
コントローラ120は、演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ121、所謂RAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリ122、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の不揮発性メモリ123、入力インタフェース(不図示)、出力インタフェース(不図示)、及び、その他の周辺回路を備えたコンピュータで構成される。なお、コントローラ120は、1つのコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。
【0045】
不揮発性メモリ123には、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、不揮発性メモリ123は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶装置(記憶媒体)である。プロセッサ121は、不揮発性メモリ123に記憶されたプログラムを揮発性メモリ122に展開して演算実行する処理装置であって、プログラムに従って入力インタフェース、揮発性メモリ122及び不揮発性メモリ123から取り入れたデータに対して所定の演算処理を行う。
【0046】
入力インタフェースは、センサ(例えば、圧力センサ26a~26d,27a~27d,133a,133b,146a,146b,147)から入力された信号をプロセッサ121で演算可能なデータに変換する。また、出力インタフェースは、プロセッサ121での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を装置(例えば、電磁比例弁131a,131b)に出力する。
【0047】
コントローラ120は、第1指令圧センサ146aの検出結果に基づいて第1レギュレータ130aを制御し、第2指令圧センサ146bの検出結果に基づいて第2レギュレータ130bを制御する。コントローラ120は、第1指令圧センサ146aにより検出された第1レギュレータ指令圧に基づいて第1レギュレータ制御信号を生成し、第1レギュレータ130aに出力する。第1レギュレータ130aは、第1レギュレータ制御信号(制御電流)に応じて第1レギュレータ制御圧Pc1を生成し、出力する。コントローラ120は、第2指令圧センサ146bにより検出された第2レギュレータ指令圧に基づいて第2レギュレータ制御信号を生成し、第2レギュレータ130bに出力する。第2レギュレータ130bは、第2レギュレータ制御信号(制御電流)に応じて第2レギュレータ制御圧Pc2を生成し、出力する。
【0048】
コントローラ120は、後述する遅れ処理の実行条件が成立した場合に、第1指令圧センサ146aにより検出された第1レギュレータ指令圧に基づいて生成した第1レギュレータ制御信号に対して遅れ処理を施した第1補正信号を第1レギュレータ130aに出力する。同様に、コントローラ120は、後述する遅れ処理の実行条件が成立した場合に、第2指令圧センサ146bにより検出された第2レギュレータ指令圧に基づいて生成した第2レギュレータ制御信号に対して遅れ処理を施した第2補正信号を第2レギュレータ130bに出力する。
【0049】
なお、コントローラ120は、遅れ処理の実行条件が成立していない場合には、第1レギュレータ指令圧に基づいて生成した第1レギュレータ制御信号に対して遅れ処理を施すことなく、第1レギュレータ制御信号を第1レギュレータ130aに出力する。同様に、コントローラ120は、遅れ処理の実行条件が成立していない場合には、第2レギュレータ指令圧に基づいて生成した第2レギュレータ制御信号に対して遅れ処理を施すことなく、第2レギュレータ制御信号を第2レギュレータ130bに出力する。
【0050】
コントローラ120は、右走行操作装置21の操作量と一定の関係を有する第1レギュレータ制御圧Pc1と、左走行操作装置22の操作量と一定の関係を有する第2レギュレータ制御圧Pc2との圧力差である制御圧力差ΔPcを演算する。制御圧力差ΔPcは、右走行操作装置21の操作量と左走行操作装置22の操作量との操作量の差を表すパラメータである。
【0051】
コントローラ120は、演算された制御圧力差ΔPcが予め定められた閾値ΔPc0未満の場合には、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上の場合に比べて、右走行操作装置21及び左走行操作装置22の操作された時点からその時点の右走行操作装置21及び左走行操作装置22の操作量に応じたレギュレータ制御信号を第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bに出力する時点までの時間を遅延させる。ここで、右走行操作装置21及び左走行操作装置22の操作量に応じたレギュレータ制御信号とは、右走行操作装置21及び左走行操作装置22の操作量に応じた目標とするレギュレータ制御圧を発生させるためのレギュレータ信号である。
【0052】
本実施形態では、コントローラ120は、演算された制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0未満の場合には、右走行操作装置21及び左走行操作装置22の操作量に応じたレギュレータ制御信号を補正し、補正されたレギュレータ制御信号により第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bが出力する目標とするレギュレータ制御圧に到達する時間を、演算された制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上の場合に比べて遅延させる。
【0053】
つまり、左右の走行操作量差が小さい場合には大きい場合に比べて、レギュレータ制御信号の出力の遅れを大きくする。換言すれば、左右の走行操作量差が大きい場合には小さい場合に比べて、操作が行われてから操作量に応じたレギュレータ制御信号が出力されるまでの時間を短くする。以下、
図5を参照して、コントローラ120の機能について詳しく説明する。
【0054】
図5は、コントローラ120の機能ブロック図である。
図5に示すように、コントローラ120は、不揮発性メモリ123に記憶されているプログラムを実行することにより、作業操作判定部151、走行操作判定部152、条件判定部153、係数設定部154、第1制御信号生成部155a、第2制御信号生成部155b、第1切替部156a、第2切替部156b、第1遅れ処理部157a及び第2遅れ処理部157bとして機能する。
【0055】
作業操作判定部151は、圧力センサ26a~26d,27a~27dの検出結果に基づいて、作業操作が行われているか否かを判定する。ここで、作業操作とは、作業装置4の油圧アクチュエータであるブームシリンダ11、アームシリンダ12及びバケットシリンダ13及び旋回体3の油圧アクチュエータである旋回モータ14の少なくともいずれかの操作のことを指す。
【0056】
作業操作判定部151は、圧力センサ26a~26d,27a~27dにより検出された圧力Pwが、作業操作判定閾値Pw0以上であるか否かを判定する。作業操作判定閾値Pw0は、作業操作が行われているか否かを判定するための閾値であり、予め不揮発性メモリ123に記憶されている。作業操作判定部151は、圧力センサ26a~26d,27a~27dにより検出された圧力Pwの少なくともいずれかが作業操作判定閾値Pw0以上であると判定した場合、作業操作が行われていると判定する。作業操作判定部151は、圧力センサ26a~26d,27a~27dにより検出された圧力Pwの全てが作業操作判定閾値Pw0未満であると判定した場合、作業操作が行われていないと判定する。
【0057】
走行操作判定部152は、走行操作圧センサ147の検出結果に基づいて、走行操作が行われているか否かを判定する。ここで、走行操作とは、走行体2の油圧アクチュエータ(油圧モータ)である右走行モータ15R及び左走行モータ15Lの少なくともいずれかの操作のことを指す。
【0058】
走行操作判定部152は、走行操作圧センサ147により検出された圧力Ptが、走行操作判定閾値Pt0以上であるか否かを判定する。走行操作判定閾値Pt0は、走行操作が行われているか否かを判定するための閾値であり、予め不揮発性メモリ123に記憶されている。走行操作判定部152は、走行操作圧センサ147により検出された圧力Ptが走行操作判定閾値Pt0以上であると判定した場合、走行操作が行われていると判定する。走行操作判定部152は、走行操作圧センサ147により検出された圧力Ptが走行操作判定閾値Pt0未満であると判定した場合、走行操作が行われていないと判定する。
【0059】
条件判定部153は、遅れ処理の実行条件が成立しているか否かを判定する。遅れ処理の実行条件は、走行単独操作が行われている場合に成立し、複合操作が行われている場合には成立しない。走行単独操作とは、作業操作が行われず走行操作のみが行われる操作のことを指す。複合操作とは、作業操作と走行操作とが共に行われる操作のことを指す。
【0060】
本実施形態では、条件判定部153は、作業操作判定部151で作業操作が行われていないと判定され、かつ、走行操作判定部152で走行操作が行われていると判定されている場合には、遅れ処理の実行条件が成立していると判定する。条件判定部153は、作業操作判定部151で作業操作が行われていると判定されている場合には、遅れ処理の実行条件が成立していないと判定する。
【0061】
係数設定部154は、第1制御圧センサ133a及び第2制御圧センサ133bの検出結果に基づいて、第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bの制御圧力差ΔPcを演算する。制御圧力差ΔPcは、以下の式(1)で計算される。
ΔPc=|Pc1-Pc2| …(1)
ここで、Pc1は第1制御圧センサ133aにより検出される第1レギュレータ制御圧であり、Pc2は第2制御圧センサ133bにより検出される第2レギュレータ制御圧である。
【0062】
係数設定部154は、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上であるか否かを判定する。係数設定部154は、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上であると判定した場合、旋回走行操作が行われていると判定し、予め不揮発性メモリ123に記憶されている第1遅れ係数Aを時定数Tに設定する。係数設定部154は、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0未満であると判定した場合、直進走行操作が行われていると判定し、予め不揮発性メモリ123に記憶されている第2遅れ係数Bを時定数Tに設定する。閾値ΔPc0は、直進走行操作が行われているか、旋回走行操作が行われているかを判定するための閾値であり、予め不揮発性メモリ123に記憶されている。第1遅れ係数Aは、第2遅れ係数Bよりも小さい値である(A<B)。本実施形態では、第1遅れ係数Aが時定数Tに設定される場合には、遅れ処理が実行されない場合と同程度の応答性が確保される。
【0063】
第1制御信号生成部155aは、第1指令圧センサ146aにより検出された第1レギュレータ指令圧に基づいて第1レギュレータ制御信号を生成する。第2制御信号生成部155bは、第2指令圧センサ146bにより検出された第2レギュレータ指令圧に基づいて第2レギュレータ制御信号を生成する。
【0064】
第1切替部156aは、条件判定部153で遅れ処理の実行条件が成立したと判定された場合には、第1レギュレータ制御信号を第1遅れ処理部157aに出力する。第1切替部156aは、条件判定部153で遅れ処理の実行条件が成立していないと判定された場合には、第1レギュレータ制御信号を第1電磁比例弁131aに出力する。第2切替部156bは、条件判定部153で遅れ処理の実行条件が成立したと判定された場合には、第2レギュレータ制御信号を第2遅れ処理部157bに出力する。第2切替部156bは、条件判定部153で遅れ処理の実行条件が成立していないと判定された場合には、第2レギュレータ制御信号を第2電磁比例弁131bに出力する。
【0065】
一次遅れフィルタ(ローパスフィルタ)である第1遅れ処理部157aは、第1制御信号生成部155aで生成された第1レギュレータ制御信号に一次遅れ処理を施した第1補正信号(補正後の第1レギュレータ制御信号)を第1電磁比例弁131aへ出力する。また、一次遅れフィルタ(ローパスフィルタ)である第2遅れ処理部157bは、第2制御信号生成部155bで生成された第2レギュレータ制御信号に一次遅れ処理を施した第2補正信号(補正後の第2レギュレータ制御信号)を第2電磁比例弁131bへ出力する。
【0066】
遅れ処理では、伝達関数である一次遅れ要素Gp(s)が第1レギュレータ制御信号に付加され、第1補正信号が生成される。また、遅れ処理では、一次遅れ要素Gp(s)が第2レギュレータ制御信号に付加され、第2補正信号が生成される。一次遅れ要素Gp(s)は、以下の式(2)で表される。
Gp(s)=1/(Ts+1) …(2)
ここで、Tは時定数であり、sは演算子である。
【0067】
本実施形態に係る第1遅れ処理部157aは、係数設定部154で設定された遅れ係数を時定数Tとして、時間的な遅れ要素を付加した第1補正信号を第1電磁比例弁131aに出力する。同様に、第2遅れ処理部157bは、係数設定部154で設定された遅れ係数を時定数Tとして、時間的な遅れ要素を付加した第2補正信号を第2電磁比例弁131bに出力する。これにより、第2遅れ係数Bが時定数Tに設定される場合には、第1電磁比例弁131a及び第2電磁比例弁131bの開度が徐々に調整される。その結果、第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102の吐出量の急激な変化が抑制される。
【0068】
図6を参照して、レギュレータの制御における各処理について説明する。
図6に示すフローチャートの処理は、例えば、イグニッションスイッチがオン(すなわちキーオン)されることにより開始され、初期設定が行われた後、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0069】
図6に示すように、ステップS110において、コントローラ120は、作業操作が行われたか否かを判定する。ステップS110において、コントローラ120は、圧力センサ26a~26d,27a~27dにより検出された圧力Pwの全てが作業操作判定閾値Pw0未満である場合、作業操作が行われていないと判定してステップS120へ進む。ステップS110において、コントローラ120は、圧力センサ26a~26d,27a~27dにより検出された圧力Pwの少なくともいずれかが作業操作判定閾値Pw0以上である場合、作業操作が行われていると判定してステップS170へ進む。
【0070】
ステップS120において、コントローラ120は、走行操作が行われたか否かを判定する。ステップS120において、コントローラ120は、走行操作圧センサ147により検出された圧力Ptが走行操作判定閾値Pt0以上である場合、走行操作が行われていると判定してステップS130へ進む。ステップS120において、コントローラ120は、走行操作圧センサ147により検出された圧力Ptが走行操作判定閾値Pt0未満である場合、走行操作が行われていないと判定して、本制御周期における
図6のフローチャートに示す処理を終了する。
【0071】
ステップS130において、コントローラ120は、第1レギュレータ制御圧Pc1から第2レギュレータ制御圧Pc2を減算した値の絶対値である制御圧力差ΔPcが、閾値ΔPc0以上であるか否かを判定する。ステップS130において、コントローラ120は、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上である場合、旋回走行操作が行われていると判定し、ステップS140へ進む。ステップS130において、コントローラ120は、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0未満である場合、直進走行操作が行われていると判定し、ステップS150へ進む。
【0072】
ステップS140において、コントローラ120は、時定数Tに第1遅れ係数Aを設定し、ステップS160へ進む。ステップS150において、コントローラ120は、時定数Tに第2遅れ係数Bを設定し、ステップS160へ進む。ステップS160において、コントローラ120は、ステップS140で設定された第1遅れ係数AまたはステップS150で設定された第2遅れ係数Bを用いて、第1及び第2レギュレータ制御信号に一次遅れ処理を施す。コントローラ120は、遅れ処理を施した補正後の第1及び第2レギュレータ制御信号である第1及び第2補正信号を第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bに出力して、本制御周期における
図6のフローチャートに示す処理を終了する。
【0073】
ステップS170において、コントローラ120は、ステップS120と同様、走行操作が行われたか否かの判定を行う。ステップS170において、コントローラ120は、走行操作が行われたと判定するとステップS180へ進み、走行操作が行われていないと判定すると本制御周期における
図6のフローチャートに示す処理を終了する。
【0074】
ステップS180において、コントローラ120は、第1及び第2レギュレータ制御信号に遅れ処理を施すことなく第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bに出力して、本制御周期における
図6のフローチャートに示す処理を終了する。
【0075】
図7及び
図8を参照して、本実施形態に係る油圧ショベル1の動作について説明する。
図7は、油圧ショベル1が発進するときのレギュレータ制御圧、走行操作圧、及び補正信号(レギュレータ制御信号)の時間的な変化を示すタイムチャートである。
図8は、油圧ショベル1が旋回走行から直進走行に移行するとき、及び、油圧ショベル1が停止するときのレギュレータ制御圧、走行操作圧、及び補正信号(レギュレータ制御信号)の時間的な変化を示すタイムチャートである。なお、
図7及び
図8は、作業操作が行われていない場合のタイムチャートであり、横軸は時間tを表している。縦軸は、最上段の図から順に、第1制御圧センサ133aにより検出された第1レギュレータ制御圧Pc1、第2制御圧センサ133bにより検出された第2レギュレータ制御圧Pc2、走行操作圧センサ147により検出された走行操作圧、コントローラ120から第1電磁比例弁131aに出力される第1補正信号、コントローラ120から第2電磁比例弁131bに出力される第2補正信号を表している。
【0076】
図7に示すように、時点t10において油圧ショベル1は停止状態である。時点t11において、オペレータが、右走行操作装置21の操作部材及び左走行操作装置22の操作部材を同時に前進側に最大操作量まで操作すると、走行操作圧センサ147により検出される走行操作圧が最大操作圧力まで上昇する。
【0077】
時点t11において、右走行操作圧の上昇により減圧弁145aから第1レギュレータ指令圧が出力され、左走行操作圧の上昇により減圧弁145bから第2レギュレータ指令圧が出力される。コントローラ120は、第1レギュレータ指令圧に基づいて、目標とする第1レギュレータ制御圧(最大圧力Pcmax)を発生させるための第1レギュレータ制御信号を生成する。コントローラ120は、第1レギュレータ制御信号に遅れ処理を施すことにより生成される第1補正信号を第1レギュレータ130aの第1電磁比例弁131aに出力する。コントローラ120は、第2レギュレータ指令圧に基づいて、目標とする第2レギュレータ制御圧(最大圧力Pcmax)を発生させるための第2レギュレータ制御信号を生成する。コントローラ120は、第2レギュレータ制御信号に遅れ処理を施すことにより生成される第2補正信号を第2レギュレータ130bの第2電磁比例弁131bに出力する。
【0078】
制御圧力差ΔPcは、時点t10から閾値ΔPc0未満の状態が維持されている。このため、時定数Tには第2遅れ係数Bが設定される。したがって、第1補正信号及び第2補正信号は、時間の経過にしたがって徐々に増加する。これにより、第1レギュレータ制御圧及び第2レギュレータ制御圧が時間の経過にしたがって徐々に増加する。つまり、第1補正信号及び第2補正信号を徐々に増加させることにより、第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bが出力する目標とするレギュレータ制御圧(最大圧力Pcmax)に到達するまでの時間を遅延させることができる。この結果、第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102の押しのけ容積が徐々に増加するので、油圧ショベル1は、機械的なショックを発生することなく滑らかに発進する。
【0079】
なお、
図7に示す例では、右走行操作装置21の操作部材及び左走行操作装置22の操作部材が最大操作量まで操作され、レギュレータ制御圧の目標値が最大圧力Pcmaxとなる場合において、遅れ処理が実行される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。コントローラ120は、右走行操作装置21の操作部材及び左走行操作装置22の操作部材の操作量に応じたレギュレータ制御圧の目標値に到達するまでの時間を遅れ処理により遅延させる。
【0080】
図8に示すように、時点t20において油圧ショベル1は左旋回走行状態、すなわち左へ走行体2の軌道(進路)を変更する走行が行われている状態である。
図8に示す例では、右走行操作装置21の操作部材が前進側の最大操作量まで操作され、左走行操作装置22の操作部材が前進側の所定操作量(例えば、最大操作量の1/3)まで操作されている。左走行操作装置22の操作部材が所定操作量に操作されている状態では、コントローラ120から第2レギュレータ130bに出力される第2補正信号は、所定電流Iaとなっている(Imin<Ia<Imax)。また、第2レギュレータ制御圧は、所定圧力Paとなっている(Pcmin<Pa<Pcmax)。時点t21において、オペレータが、右走行操作装置21の操作部材を最大操作量まで操作した状態を維持しつつ、左走行操作装置22の操作部材を所定操作量から最大操作量まで操作する。なお、右走行操作装置21の操作量は、時点t20から最大操作量が維持されているので、走行操作圧は最大操作圧力に維持されている。
【0081】
左旋回走行状態(t20~t21)では、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上である。このため、時定数Tには第1遅れ係数Aが設定される。したがって、オペレータの左走行操作装置22の操作部材の操作量の増加に対して、第2補正信号が応答性よく増加する。なお、第2補正信号の上昇に追随して第2レギュレータ制御圧が上昇し、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0未満になると、時定数Tに遅れ係数Bが設定される。
【0082】
時点t22において、オペレータが、右走行操作装置21の操作部材及び左走行操作装置22の操作部材を同時に中立位置まで戻し操作すると、走行操作圧センサ147により検出される走行操作圧が最小操作圧力(0MPa)まで低下する。これにより、遅れ処理実行条件が非成立となる。したがって、コントローラ120は、第1レギュレータ指令圧に基づいて生成した第1レギュレータ制御信号に遅れ処理を施すことなく第1レギュレータ130aの第1電磁比例弁131aに出力する。同様に、コントローラ120は、第2レギュレータ指令圧に基づいて生成した第2レギュレータ制御信号に遅れ処理を施すことなく第2レギュレータ130bの第2電磁比例弁131bに出力する。これにより、油圧ショベル1を直ちに停止させることができる。
【0083】
なお、図示しないが、時点t22から所定時間(例えば、数秒程度)だけ、コントローラ120により走行操作が行われていると判定されるように、ある程度の速度で走行操作装置20の操作部材の戻し操作が行われた場合には、遅れ処理が実行されるため、油圧ショベル1の停止時にショックが発生することを防止できる。
【0084】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0085】
(1)コントローラ120は、第1制御圧センサ(右走行操作量検出装置)133aと第2制御圧センサ(左走行操作量検出装置)133bの検出結果に基づいて右走行操作装置21の操作量と左走行操作装置22の操作量との操作量の差を表す制御圧力差ΔPcを演算する。コントローラ120は、演算された制御圧力差ΔPcが予め定められた閾値ΔPc0未満の場合には、右走行操作装置21及び左走行操作装置22の操作量に応じたレギュレータ制御信号を補正し、補正されたレギュレータ制御信号(補正信号)により第1レギュレータ130a及び第2レギュレータ130bが出力する目標とするレギュレータ制御圧(制御圧)に到達する時間を、演算された制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上の場合に比べて遅延させる。
【0086】
この構成によれば、油圧ショベル1の発進時のショックの発生を防止し、旋回走行から直進走行に移行するための操作が行われたときの油圧ショベル1の動きとオペレータの操作感覚のずれを抑制することができる。
【0087】
ここで、仮に、旋回走行から直進走行に移行するための操作が行われたときに、発進時と同じ第2遅れ係数Bを時定数Tに設定した場合について説明する。この場合、右走行操作装置21の操作量と左走行操作装置22の操作量を一致させた後にも旋回走行が行われ、走行体2の向きがオペレータの意図しない向きとなってしまうおそれがある。その結果、オペレータは、走行体2の向きを調整する操作を行う必要が生じるため、作業効率の低下を招くおそれがある。
【0088】
これに対して、本実施形態では、旋回走行から直進走行に移行するための操作が行われたときには、操作部材の操作の応答性が高いため、オペレータの意図する向きに走行体2を向けることができる。つまり、本実施形態では、オペレータは、走行体2の向きを調整する操作を行う必要がないため、作業効率を向上することができる。
【0089】
(2)油圧ショベル1は、作業装置4を操作する作業装置操作装置として右作業装置操作装置23及び左作業装置操作装置24と、右作業装置操作装置23による操作量を検出する作業装置用の操作量検出装置として機能する圧力センサ26a~26dと、左作業装置操作装置24による操作量を検出する作業装置用の操作量検出装置として機能する圧力センサ27c,27dと、を備える。コントローラ120は、圧力センサ26a~26d,27c,27dにより検出された操作量に基づき作業装置4の操作が行われているか否かを判定する。コントローラ120は、作業装置4の操作が行われていない場合には、右走行操作装置21及び左走行操作装置22の操作量に応じたレギュレータ制御信号に対して遅れ処理を実行する(
図6のS110でNo→S120でYes,…,S160)。コントローラ120は、作業装置4の操作が行われている場合には、遅れ処理を実行しない(
図6のS110でYes→S170でYes→S180)。これにより、作業装置4の操作が行われている場合には、作業装置4の操作性が変化することを防止できるので、作業効率を向上することができる。
【0090】
(3)油圧ショベル1は、遅れ処理に用いられる第1遅れ係数A及び第2遅れ係数Bが記憶された不揮発性メモリ(記憶装置)123を備える。不揮発性メモリ123には、第1遅れ係数Aに対し第2遅れ係数Bの値が大きく設定される。コントローラ120は、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上の場合には、不揮発性メモリ123に記憶されている第1遅れ係数Aを用いて遅れ処理を実行し、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0未満の場合には、不揮発性メモリ123に記憶されている第2遅れ係数Bを用いて遅れ処理を実行する。メンテナンス作業員、あるいはオペレータが、不揮発性メモリ123に記憶されている遅れ係数A,Bを調整することにより、油圧ショベル1の挙動を調整することができる。したがって、よりオペレータの意図に沿った動作を油圧ショベル1に行わせることができる。
【0091】
(4)コントローラ120は、第1制御圧センサ133aにより検出された第1レギュレータ制御圧Pc1と、第2制御圧センサ133bにより検出された第2レギュレータ制御圧Pc2との圧力差である制御圧力差ΔPcを、右走行操作装置21の操作量と左走行操作装置22の操作量との操作量の差として演算し、演算された制御圧力差ΔPcに基づいて時定数Tを設定する。これにより、第1指令圧センサ146aにより検出された第1レギュレータ指令圧と、第2指令圧センサ146bにより検出された第2レギュレータ指令圧との圧力差に基づいて時定数Tを設定する場合に比べて、旋回走行から直進走行へ移行する際の油圧ショベル1の動作を、より精度よく制御することができる。
【0092】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0093】
<変形例1>
上記実施形態では、走行体2と、旋回体3または作業装置4との複合操作が行われた場合には、遅れ処理を実行しない例について説明したが、本発明はこれに限定されない。複合操作が行われている場合であっても、走行体2の操作に対する遅れ処理を実行してもよい。
【0094】
<変形例2>
上記実施形態では、制御圧力差ΔPcに基づいて時定数Tを設定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。コントローラ120は、第1指令圧センサ146aにより検出された第1レギュレータ指令圧と、第2指令圧センサ146bにより検出された第2レギュレータ指令圧との圧力差に基づいて時定数Tを設定してもよい。また、右走行操作装置21の走行操作圧と左走行操作装置22の走行操作圧の圧力差に基づいて時定数Tを設定してもよい。この場合、油圧システム115において、右走行操作装置21の操作量を表す走行操作圧を検出する圧力センサと、左走行操作装置22の操作量を表す走行操作圧を検出する圧力センサと、が設けられる。このように、コントローラ120は、右走行操作装置21の操作量と左走行操作装置22の操作量との操作量の差を表す種々のデータ(レギュレータ制御圧の差、レギュレータ指令圧の差、走行操作圧の差)に基づいて、時定数Tを設定することができる。なお、走行操作量を検出するセンサは、圧力センサに限定されず、走行操作装置20の操作部材の操作位置を検出する位置センサとしてもよい。走行操作装置20は、油圧パイロット式の操作装置とする場合に限らず、電気式の操作装置としてもよい。
【0095】
<変形例3>
上記実施形態では、遅れ係数A,Bを時定数Tとして設定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。遅れ係数A,Bを予め定められた値に乗じることで時定数Tが算出されるようにしてもよい。遅れ係数A,Bは、遅れフィルタの遅れ度合いを示す値であればよい。また、上記実施形態では、レギュレータ制御信号に対する時間的な遅れ要素が、一次遅れ要素である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。コントローラ120は、例えば、レギュレータ制御信号に対して二次遅れ要素を付加した補正信号を電磁比例弁131a,131bへ出力してもよい。この場合、コントローラ120は、制御圧力差ΔPcに応じて、二次遅れ処理に用いる係数を設定する。
【0096】
<変形例4>
上記実施形態では、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上である場合には、時定数Tに第1遅れ係数Aが設定され、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0未満である場合には、時定数Tに第2遅れ係数Bが設定される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。コントローラ120は、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0未満である場合には遅れ処理を実行し、制御圧力差ΔPcが閾値ΔPc0以上である場合には遅れ処理を実行しないようにしてもよい。
【0097】
<変形例5>
上記実施形態では、作業機械が油圧ショベル1である場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、左右一対のクローラ2L,2Rを有する不整地運搬車、ドーザ等の種々のクローラ式作業機械に適用することができる。
【0098】
<変形例6>
上記実施形態では、第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102を駆動する動力源として、エンジン18が設けられる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。第1油圧ポンプ101及び第2油圧ポンプ102を駆動する動力源は、電動モータであってもよい。
【0099】
<変形例7>
コントローラ120に係る各構成、当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現してもよい。
【0100】
<変形例8>
上記実施形態では、説明に必要であると解される制御線、情報線を示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線、情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0102】
1…油圧ショベル(作業機械)、2…走行体、2L…左クローラ、2R…右クローラ、3…旋回体、4…作業装置、5…ブーム、6…アーム、7…バケット、11…ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)、12…アームシリンダ(油圧アクチュエータ)、13…バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)、14…旋回モータ(油圧アクチュエータ)、15L…左走行モータ(油圧アクチュエータ)、15R…右走行モータ(油圧アクチュエータ)、17…運転室、18…エンジン(動力源)、20…走行操作装置、21…右走行操作装置、22…左走行操作装置、23…右作業装置操作装置(作業装置操作装置)、24…左作業装置操作装置(作業装置操作装置)、26a,26b,26c,26d,27a,27b,27c,27d…圧力センサ、31,32,33,34,35,36,37,38,39…流量制御弁、101…第1油圧ポンプ、102…第2油圧ポンプ、103…第3油圧ポンプ(パイロットポンプ)、115…油圧システム、120…コントローラ、131a…第1電磁比例弁、131b…第2電磁比例弁、132a…第1調整アクチュエータ、132b…第2調整アクチュエータ、133a…第1制御圧センサ(右走行操作量検出装置)、133b…第2制御圧センサ(左走行操作量検出装置)、145a…減圧弁、145b…減圧弁、146a…第1指令圧センサ(右走行操作量検出装置)、146b…第2指令圧センサ(左走行操作量検出装置)、147…走行操作圧センサ、151…作業操作判定部、152…走行操作判定部、153…条件判定部、154…係数設定部、155a…第1制御信号生成部、155b…第2制御信号生成部、156a…第1切替部、156b…第2切替部、157a…第1遅れ処理部、157b…第2遅れ処理部、A…第1遅れ係数、B…第2遅れ係数、Pc1…第1レギュレータ制御圧、Pc2…第2レギュレータ制御圧