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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079897
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】水質測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
G01N33/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192574
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 展行
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真一
(72)【発明者】
【氏名】井上 幸大
(72)【発明者】
【氏名】藤川 圭司
(72)【発明者】
【氏名】池 卓
(57)【要約】
【課題】試料に対応したpHになるまでの試料の酸消費量又はアルカリ消費量を測定可能であり、この酸度測定又はアルカリ度測定とともに試料に含まれる成分の濃度を測定可能な水質測定方法を提供する。
【解決手段】滴定によって試料の酸消費量又はアルカリ消費量、及び試料に含まれる成分の濃度を測定する水質測定方法は、試料に対応する目的pHを設定するステップと、試料に含まれる成分に対応するpH範囲を設定するステップと、目的pHを設定するステップ、及びpH範囲を設定するステップの両方の後に、試料に滴定液を供給するステップと、試料への滴定液の供給を始めた後、試料のpHが目的pHになるまでに試料に供給された滴定液の量に基づいて、試料の酸消費量又はアルカリ消費量を算出するステップと、試料への滴定液の供給を始めた後、試料のpHがpH範囲の上限値から下限値、又は下限値から上限値になるまでに試料に供給された滴定液の量に基づいて、試料に含まれる成分の濃度を算出するステップと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
滴定によって試料の酸消費量又はアルカリ消費量、及び前記試料に含まれる成分の濃度を測定する水質測定方法であって、
前記試料に対応する目的pHを設定するステップと、
前記試料に含まれる成分に対応するpH範囲を設定するステップと、
前記目的pHを設定するステップ、及び前記pH範囲を設定するステップの両方の後に、前記試料に滴定液を供給するステップと、
前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHが前記目的pHになるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料の酸消費量又はアルカリ消費量を算出するステップと、
前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値から下限値、又は下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップと、を備える、
水質測定方法。
【請求項2】
前記試料は、廃棄物を加水分解した改質物を微生物によって低分子化する発酵槽の内容物である、
請求項1に記載の水質測定方法。
【請求項3】
前記発酵槽は、前記改質物を微生物によって低分子化してメタンガスを生成するメタン発酵槽であり、
前記目的pHを設定するステップは、前記メタン発酵槽内における前記メタンガスの生成速度に影響する影響関数に基づいて前記目的pHを設定する、
請求項2に記載の水質測定方法。
【請求項4】
前記目的pHは、pH7であり、
前記試料の酸消費量又はアルカリ消費量を算出するステップは、前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHがpH7になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料の酸消費量を算出する、
請求項3に記載の水質測定方法。
【請求項5】
前記試料に含まれる成分は、揮発性脂肪酸を含み、
前記pH範囲は、pH2.8以上6.8以下である第1のpH範囲を含む、
請求項2から4の何れか一項に記載の水質測定方法。
【請求項6】
前記第1のpH範囲は、pH4.3以上5.3以下である、
請求項5に記載の水質測定方法。
【請求項7】
前記第1のpH範囲は、前記試料の温度に基づいて補正される、
請求項5に記載の水質測定方法。
【請求項8】
前記試料に含まれる成分は、アンモニア態窒素を含み、
前記pH範囲は、pH7.8以上10.8以下である第2のpH範囲を含む、
請求項2から4の何れか一項に記載の水質測定方法。
【請求項9】
前記第2のpH範囲は、pH8.8以上9.8以下である、
請求項8に記載の水質測定方法。
【請求項10】
前記第2のpH範囲は、前記試料の温度に基づいて補正される、
請求項8に記載の水質測定方法。
【請求項11】
前記試料の酸消費量又はアルカリ消費量を算出するステップが前記試料の酸消費量を算出した後に、前記試料から炭酸を脱気するステップをさらに含み、
前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップは、前記炭酸が脱気された前記試料のpHが前記pH範囲の下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料に含まれる成分の濃度を算出する、
請求項1から4の何れか一項に記載の水質測定方法。
【請求項12】
前記試料に前記滴定液を供給するステップは、
前記試料への前記滴定液の供給を開始してから前記試料のpHが前記目的pHになるまで第1供給速度で前記試料に前記滴定液を供給する第1サブステップと、
前記第1サブステップの後に、前記試料のpHが前記pH範囲に達するまで第2供給速度で前記試料に前記滴定液を供給する第2サブステップと、
前記第2サブステップの後に、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値又は下限値に達するまで第3供給速度で前記試料に前記滴定液を供給する第3サブステップと、を含み、
前記第2供給速度は、前記第1供給速度及び前記第3供給速度のそれぞれより大きい、
請求項1から4の何れか一項に記載の水質測定方法。
【請求項13】
前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップにおいて、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値から下限値、又は下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量を濃度算出滴定量とすると、
前記濃度算出滴定量は、前記滴定液の供給による前記試料の前記pH範囲におけるpHの変化量に基づいて算出される、
請求項1から4の何れか一項に記載の水質測定方法。
【請求項14】
前記試料に前記滴定液を供給するステップの前に、前記試料を希釈するステップをさらに備える、
請求項1から4の何れか一項に記載の水質測定方法。
【請求項15】
前記試料に前記滴定液を供給するステップの前に、前記試料に含まれる成分の濃度と前記滴定液の供給量との対応関係を示す検量線を設定するステップをさらに備え、
前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップは、前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値から下限値、又は下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量と前記検量線とに基づいて、前記試料に含まれる成分の濃度を算出する、
請求項1から4の何れか一項に記載の水質測定方法。
【請求項16】
前記試料に含まれる成分は、揮発性脂肪酸を含み、
前記検量線を設定するステップは、
既知の濃度の前記揮発性脂肪酸が含まれる第1サンプル試料を準備するステップと、
前記第1サンプル試料に前記滴定液を供給するステップと、
横軸を前記滴定液の量とし縦軸を前記揮発性脂肪酸の濃度とする第1座標に、前記第1サンプル試料に含まれる前記揮発性脂肪酸の濃度に対応する第1プロットを付けるステップと、
前記第1プロットと前記第1座標の原点とを通過する直線を前記揮発性脂肪酸の検量線とするステップと、を含む、
請求項15に記載の水質測定方法。
【請求項17】
前記第1サンプル試料は、前記揮発性脂肪酸の濃度が9500ppm以上10500ppm以下の範囲に含まれる、
請求項16に記載の水質測定方法。
【請求項18】
前記試料に含まれる成分は、アンモニア態窒素を含み、
前記検量線を設定するステップは、
既知の濃度の前記アンモニア態窒素が含まれる第2サンプル試料を準備するステップと、
前記第2サンプル試料に前記滴定液を供給するステップと、
横軸を前記滴定液の量とし縦軸を前記アンモニア態窒素の濃度とする第2座標に、前記第2サンプル試料に含まれる前記アンモニア態窒素の濃度に対応する第2プロットを付けるステップと、
前記第2プロットと前記第2座標の原点とを通過する直線を前記アンモニア態窒素の検量線とするステップと、を含む、
請求項15に記載の水質測定方法。
【請求項19】
前記第2サンプル試料は、前記アンモニア態窒素の濃度が4500ppm以上5500ppm以下の範囲に含まれる、
請求項18に記載の水質測定方法。
【請求項20】
前記第2サンプル試料は、前記アンモニア態窒素の濃度が3800ppm以上4200ppm以下の範囲に含まれる、
請求項18に記載の水質測定方法。
【請求項21】
前記第2サンプル試料は、前記アンモニア態窒素の濃度が2850ppm以上3150ppm以下の範囲に含まれる、
請求項18に記載の水質測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、滴定によって試料の酸消費量又はアルカリ消費量、及び試料に含まれる成分の濃度を測定する水質測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水中、特に海水中の全アルカリ度及び全炭酸濃度を測定する水質測定方法が開示されている。この水質測定方法では、試料瓶内に被検水(海水)を密閉した状態で所定のpHとなるまで酸滴定を行い、この酸滴定の結果から得られる酸滴定量とph電極の変位から全アルカリ度及び全炭酸濃度を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-264913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料の酸消費量又はアルカリ消費量を測定する際、この試料に対応したpHになるまで滴定液を供給する場合がある。また、試料に供給した滴定液の量から試料に含まれる成分の濃度を測定する場合、滴定液の量を取得するpHの範囲は成分によって異なる。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、試料に対応したpHになるまでの試料の酸消費量又はアルカリ消費量を取得することができない。さらに、濃度測定のためのpHの範囲が酸消費量又はアルカリ消費量を測定するためのpHとずれていると、酸消費量又はアルカリ消費量の測定とともに濃度測定することができない虞がある。
【0005】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、試料に対応したpHになるまでの試料の酸消費量又はアルカリ消費量を測定可能であり、この酸消費量又はアルカリ消費量の測定とともに試料に含まれる成分の濃度を測定可能な水質測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る水質測定方法は、滴定によって試料の酸消費量又はアルカリ消費量、及び前記試料に含まれる成分の濃度を測定する水質測定方法であって、前記試料に対応する目的pHを設定するステップと、前記試料に含まれる成分に対応するpH範囲を設定するステップと、前記目的pHを設定するステップ、及び前記pH範囲を設定するステップの両方の後に、前記試料に滴定液を供給するステップと、前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHが前記目的pHになるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料の酸消費量又はアルカリ消費量を算出するステップと、前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値から下限値、又は下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の水質測定方法によれば、試料に対応したpHになるまでの試料の酸消費量又はアルカリ消費量を測定可能であり、この酸度測定又はアルカリ度測定とともに試料に含まれる成分の濃度を測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】幾つかの実施形態に係る廃棄物処理システムの構成を概略的に示す図である。
図2】第1実施形態に係る水質測定方法のフローチャートである。
図3】第1実施形態における水酸化ナトリウム水溶液の供給量と試料のpHとの関係を示すグラフである。
図4】第3実施形態に係る水質測定方法のフローチャートである。
図5】第1検量線の設定方法のフローチャートである。
図6】第3実施形態における水酸化ナトリウム水溶液の供給量と揮発性脂肪酸の濃度との関係を示すグラフである。
図7】第2検量線の設定方法のフローチャートである。
図8】第3実施形態における水酸化ナトリウム水溶液の供給量とアンモニア態窒素の濃度との関係を示すグラフである。
図9】酸解離定数と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態による水質測定方法について、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
本開示に係る水質測定方法は、滴定によって試料の酸消費量又はアルカリ消費量、及び試料に含まれる成分の濃度を測定するための方法である。本開示において、酸消費量は、所定のpHになるまでに試料に供給された酸性の滴定液の量から算出される値である。アルカリ消費量は、所定のpHになるまでに試料に供給されたアルカリ性の滴定液の量から算出される値である。本開示では、廃棄物からメタンガスを精製するための廃棄物処理システムにおけるメタン発酵槽の内容物が、本開示の水質測定方法によって測定される試料である場合を例にして説明する。尚、試料は、溶媒及び溶質を含む溶液であれば特に限定されない。
【0011】
(廃棄物処理システム)
図1は、幾つかの実施形態に係る廃棄物処理システム1の構成を概略的に示す図である。図1に例示するように、廃棄物処理システム1は、改質装置2と、メタン発酵槽4と、水質測定装置6と、を含む。
【0012】
廃棄物Wは、例えば都市ごみである。都市ごみには生ごみ、紙ごみ、プラスチックごみを主成分として、少量の金属が含まれる。尚、本開示は、廃棄物Wを都市ごみに限定するものではない。廃棄物Wは、工場等からの排水を処理することにより生じた汚泥や農業系廃棄物等のように含有水分量が都市ごみよりも多いものであってもよい。
【0013】
改質装置2は、廃棄物Wを加水分解する。改質装置2は、例えば、廃棄物Wを収集した車両又はプラント等から廃棄物Wをそのまま受け入れて、蒸気によって廃棄物Wをバッチ式に加水分解するものである。改質装置2における廃棄物Wの加水分解は、蒸気が廃棄物Wに接触して廃棄物Wを加熱する湿式の加水分解であってもよいし、蒸気が廃棄物Wには接触しないで間接的に廃棄物Wを加熱する乾式の加水分解であってもよい。廃棄物Wの加水分解によって、廃棄物Wが微細化され、廃棄物Wに含まれる高分子成分が低分子化される。さらに、酢酸のような揮発性脂肪酸(VFA)が増大する。また、廃棄物Wに含まれる有機態窒素が分解されることでアンモニア態窒素(NH4-N)が増大する。
【0014】
改質装置2によって加水分解された廃棄物Wである改質物Xは、メタン発酵槽4に供給されるようになっている。改質物Xは、液体と固体とを含んでいる。一実施形態では、改質物Xは、含有水分量が多くスラリー状となっており、例えば汚泥である。
【0015】
メタン発酵槽4は、改質装置2から供給された改質物Xを微生物によって低分子化する。より具体的には、メタン発酵槽4は、改質物Xが微生物による生物作用を受けることにより低分子化されることで、有価物であるメタンガスを生成する。
【0016】
幾つかの実施形態では、図1に例示するように、メタン発酵槽4には、メタン発酵槽4の内容物Y1の一部を外部に取出して再びメタン発酵槽4に戻す循環ライン8が設けられている。この循環ライン8は、メタン発酵槽4の下部に形成される出口10とメタン発酵槽4の下部より上方に位置する上部に形成される入口12とを接続している。循環ライン8は、出口10を介して、メタン発酵槽4の内容物Y1の一部をメタン発酵槽4の外部に取出している。そして、入口12を介して、循環ライン8を流通するメタン発酵槽4の内容物Y1の一部をメタン発酵槽4に戻している。このように、循環ライン8にメタン発酵槽4の内容物Y1の一部を流通させることで、メタン発酵槽4の内容物Y1が撹拌されるようになっている。
【0017】
水質測定装置6は、滴定によってメタン発酵槽4の内容物Y1の酸消費量又はアルカリ消費量、及びメタン発酵槽4の内容物Y1に含まれる成分の濃度を測定する。このような水質測定装置6は、図1に例示するように、試料取得装置14と、反応槽16と、滴下部18と、抑泡剤供給部20と、pH計測装置22と、を含む。
【0018】
試料取得装置14は、メタン発酵槽4の内容物Y1をメタン発酵槽4から無濾過で取得する。図1に例示する形態では、試料取得装置14は、循環ライン8と反応槽16とを接続する試料供給ライン15を含む。試料供給ライン15は、循環ライン8から分岐しており、メタン発酵槽4の内容物Y1の一部が循環ライン8から反応槽16に向かって流通するように構成されている。試料供給ライン15にはフィルタなどの濾過装置が設けられておらず、試料取得装置14はメタン発酵槽4の内容物Y1の一部を濾過せずに試料Y2として反応槽16に供給する。
【0019】
反応槽16は、内部に試料Y2が供給される反応室17が形成されている。反応槽16は、反応室17に貯留される試料Y2の量が所定の量となるように構成されている。図1に例示する形態では、水質測定装置6は、試料Y2を希釈可能な希釈水Y5を反応室17に供給するための希釈部24をさらに含んでおり、例えば、試料取得装置14から供給された試料Y2を2倍希釈してから試料Y2の酸消費量などを測定する。希釈部24は、例えば、上水道に接続されている希釈ノズルのである。本開示において、滴下を開始する際には、2倍希釈済の試料Y2は弱アルカリ性であり、例えばpH8である。幾つかの実施形態では、水質測定装置6は、試料取得装置14から供給された試料Y2を希釈せずに試料Y2の酸消費量などを測定する。このような構成によれば、試料Y2を無希釈とすることで、試料Y2に含まれる成分のイオンの解離や気液平衡の変化による測定値への影響を抑制することができる。
【0020】
滴下部18は、反応室17に予め濃度が決められている滴定液Y3を滴下するように構成されている。このような滴下部18は、例えば、反応室17の上面に取り付けられている滴下ノズルである。滴定液Y3は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液や硫酸である。
【0021】
抑泡剤供給部20は、反応室17に抑泡剤Y4を供給するように構成されている。このような抑泡剤供給部20は、例えば、反応室17の上面に取り付けられている抑泡剤供給ノズルである。抑泡剤Y4は、泡の発生そのものを抑制するものであってもよいし、発生した泡を破泡するものであってもよい。抑泡剤Y4は、例えば、オイル系消泡剤、界面活性系消泡剤、又はアルコール系消泡剤である。
【0022】
pH計測装置22は、反応室17内の試料Y2の水素イオン濃度(pH)を計測する。
【0023】
幾つかの実施形態では、水質測定装置6は、反応室17内の試料Y2を撹拌する撹拌装置26をさらに含む。撹拌装置26は、反応室17にガスGを供給するガスノズルを含んでおり、エアレーションによって試料Y2を撹拌する。別の実施形態では、撹拌装置26は、反応室17内に配置され磁力によって回転する回転子を含んでおり、回転子の回転によって試料Y2を撹拌する。
【0024】
<第1実施形態>
(構成)
図1に例示した廃棄物処理システム1において、滴定によってpH8の試料Y2の酸消費量、及びこの試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度及びアンモニア態窒素の濃度を測定する水質測定方法について説明する。図2は、第1実施形態に係る水質測定方法のフローチャートである。
【0025】
図2に例示するように、水質測定方法は、目的pH設定ステップS1と、pH範囲設定ステップS2と、滴定液供給ステップ(S7、S9、S11、S13)と、アルカリ度算出ステップS8と、濃度算出ステップ(S12、S14)と、を含む。第1実施形態では、図2に例示するように、水質測定方法は、試料供給ステップS3と、希釈ステップS4と、抑泡剤供給ステップS5と、エアレーション開始ステップS6と、脱気ステップS10と、エアレーション停止ステップS15と、をさらに含む。
【0026】
第1実施形態では、滴定液供給ステップは、第1の硫酸供給ステップS7、第2の硫酸供給ステップS9、第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11、及び第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13を含む。濃度算出ステップは、揮発性脂肪酸濃度算出ステップS12及びアンモニア態窒素濃度算出ステップS14を含む。
【0027】
目的pH設定ステップS1では、試料Y2に対応する目的pHを設定する。目的pHは、メタン発酵槽4内におけるメタンガスの生成速度に影響する影響関数Iに基づいて設定される値である。
【0028】
本発明者らの知見によれば、微生物による生物作用によって酢酸からメタンガスを生成する速度はpHが支配的になり、式(1)に示すpHの影響関数Iの影響を大きく受ける。式(1)において、pHULはpH阻害を生じない上限のpHであり、pHLLはpH阻害により反応速度が最大値の5%に低下するpHである。そして、pHULが7以上である場合には、式(1)のうちの下側の式が採用され、影響関数I=1となり、メタンガスの生成速度は低下しない。一方で、pHULが7未満である場合には、式(1)のうちの上側の式が採用され、微生物による生物作用が鈍化し、メタンガスの生成速度は急激に低下する。第1実施形態では、目的pHはpH7に設定されている。

【0029】
pH範囲設定ステップS2では、試料Y2に含まれる成分に対応するpH範囲を設定する。pH範囲は、濃度を測定する成分ごとに設定される。第1実施形態では、上述したように、改質物Xは、廃棄物Wの加水分解によって生成されており、揮発性脂肪酸及びアンモニア態窒素の両方の成分を含んでいる。つまり、試料Y2は、揮発性脂肪酸及びアンモニア態窒素の両方の成分を含んでいる。pH範囲は、揮発性脂肪酸に対応する第1のpH範囲と、アンモニア態窒素に対応する第2のpH範囲と、を含む。第1のpH範囲は、pH2.8以上6.8以下である。第2のpH範囲は、pH7.8以上10.8以下である。
【0030】
第1のpH範囲について説明する。試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸は、揮発性脂肪酸(酢酸、プロピオン酸)の形態、又は揮発性脂肪酸イオン(酢酸イオン、プロピオン酸イオン)の形態で存在する。標準状態(試料Y2の温度は25度)における酢酸の酸解離定数及びプロピオン酸の酸解離定数は共におよそ4.8である。試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸は、pH2.8以下では大多数が酢酸・プロピオン酸の形態で存在し、pH6.8以上では大多数が酢酸イオン・プロピオン酸イオンの形態で存在する。第1のpH範囲の下限値は、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の大多数が酢酸・プロピオン酸の形態で存在するようになる値である。第1のpH範囲の上限値は、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の大多数が酢酸イオン・プロピオン酸イオンの形態で存在するようになる値である。試料Y2が第1のpH範囲に含まれている間に滴下された滴定液Y3(水酸化ナトリウム水溶液)は、揮発性脂肪酸と揮発性脂肪酸イオンとの間の化学反応に用いられる。
【0031】
第2のpH範囲について説明する。試料Y2に含まれるアンモニア態窒素は、アンモニアの形態、又はアンモニウムイオンの形態で存在する。標準状態におけるアンモニア態窒素の酸解離定数は、およそ9.3である。試料Y2に含まれるアンモニア態窒素は、pH7.8以下では大多数がアンモニウムイオンの形態で存在し、pH10.8以上では大多数がアンモニアの形態で存在する。第2のpH範囲の下限値は、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の大多数がアンモニウムイオンの形態で存在するようになる値である。第2のpH範囲の上限値は、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の大多数がアンモニアの形態で存在するようになる値である。試料Y2が第2のpH範囲に含まれている間に滴下された滴定液Y3(水酸化ナトリウム水溶液)は、アンモニアとアンモニウムイオンとの間の化学反応に用いられる。
【0032】
尚、第1実施形態では、目的pH設定ステップS1及びpH範囲設定ステップS2の順に実行されているが、本開示はこの形態に限定されない。pH範囲設定ステップS2及び目的pH設定ステップS1の順に実行されてもよいし、pH範囲設定ステップS2及び目的pH設定ステップS1は互いに並行して実行されてもよい。
【0033】
試料供給ステップS3では、目的pH及びpH範囲が設定されると、反応室17に試料Y2を供給する。試料供給ステップS3が完了すると、例えば、試料供給ライン15に設けられるバルブを閉じることで、反応槽16への試料Y2の供給を停止する。尚、幾つかの実施形態では、水質測定方法は、試料供給ステップS3の前に、反応室17内に貯留されている液体を排水する排水ステップをさらに含む。
【0034】
希釈ステップS4では、滴定液供給ステップの前に、試料Y2を希釈する。第1実施形態では、希釈ステップS4は、試料供給ステップS3が完了してから、反応室17に希釈水Y5を供給する。試料Y2は、例えば、pH8に調整される。
【0035】
抑泡剤供給ステップS5では、希釈ステップS4による反応室17への希釈水Y5の供給が完了すると、抑泡剤供給部20から反応室17に抑泡剤Y4を供給する。エアレーション開始ステップS6では、希釈ステップS4による反応室17への希釈水Y5の供給が完了すると、撹拌装置26(ガスノズル)から反応室17へのガスGの供給を開始する。エアレーション開始ステップS6は、抑泡剤供給ステップS5の後に実行されてもよいし、抑泡剤供給ステップS5と並行して実行されてもよい。
【0036】
第1の硫酸供給ステップS7(滴定液供給ステップ)では、目的pH設定ステップS1、及びpH範囲設定ステップS2の両方が実行された後に、試料Y2に硫酸(滴定液Y3)を供給する。第1実施形態では、エアレーション開始ステップS6が実行されてから、第1の硫酸供給ステップS7が実行されている。pH計測装置22によって計測される反応室17内の試料Y2のpHが目的pHであるpH7になるまで、滴下部18から試料Y2に硫酸が滴下されている。
【0037】
アルカリ度算出ステップS8では、第1の硫酸供給ステップS7に実行によって試料Y2への硫酸の供給を始めた後、試料Y2がpH8からpH7になるまでに試料Y2に供給された硫酸の量に基づいて、試料Y2のアルカリ度(酸消費量)を算出する。幾つかの実施形態では、pH8からpH7になるまでに試料Y2に供給された硫酸の量そのものが酸消費量であってもよい。
【0038】
第2の硫酸供給ステップS9(滴定液供給ステップ)では、pH計測装置22によって計測される反応室17内の試料Y2のpHが第1のpH範囲の下限値未満(pH2.8未満)になるまで、試料Y2に硫酸を供給する。第1実施形態では、pH2になるまで、滴下部18から試料Y2に硫酸が滴下されている。
【0039】
脱気ステップS10では、アルカリ度算出ステップS8の後に、試料Y2から炭酸を脱気する。第1実施形態では、第2の硫酸供給ステップS9によって試料Y2のpHが第1のpH範囲の下限値未満になった後に、試料Y2から炭酸が脱気されている。具体的には、撹拌装置26から反応室17に供給されているガスGによって、試料Y2から炭酸が脱気されている。尚、ガスGに含まれる二酸化炭素の濃度は、試料Y2に含まれている炭酸の濃度と比較して低くなっている。
【0040】
図3は、第1実施形態における水酸化ナトリウム水溶液の供給量と試料Y2のpHとの関係を示すグラフである。図3において、横軸は水酸化ナトリウム水溶液の供給量を、縦軸は試料Y2のpHを示している。図3に示すグラフには、供給量に対応するプロット(pH)を通過する仮想のライン50が形成されている。
【0041】
第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11(滴定液供給ステップ)では、目的pH設定ステップS1、及びpH範囲設定ステップS2の両方が実行された後に、試料Y2に水酸化ナトリウム水溶液(滴定液Y3)を供給する。第1実施形態では、脱気ステップS10が実行されてから、第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11が実行されている。図3に例示するように、pH2の試料Y2が第1のpH範囲の上限値(pH6.8)になるまで、滴下部18から試料Y2に水酸化ナトリウム水溶液が滴下されている。
【0042】
揮発性脂肪酸濃度算出ステップS12では、試料Y2への水酸化ナトリウム水溶液の供給を始めた後、試料Y2のpHが第1のpH範囲の下限値から上限値になるまでに試料Y2に供給された水酸化ナトリウム水溶液(つまり、試料Y2がpH2.8からpH6.8になるまでに試料Y2に供給された水酸化ナトリウム水溶液)の量に基づいて、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度を算出する。
【0043】
第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13(滴定液供給ステップ)では、pH計測装置22によって計測される反応室17内の試料Y2のpHが第2のpH範囲の上限値(pH10.8)を超えるまで、試料Y2に水酸化ナトリウム水溶液を供給する。第1実施形態では、図3に例示するように、pH12になるまで、滴下部18から試料Y2に水酸化ナトリウム水溶液が滴下されている。
【0044】
アンモニア態窒素濃度算出ステップS14では、試料Y2への水酸化ナトリウム水溶液の供給を始めた後、試料Y2のpHが第2のpH範囲の下限値から上限値になるまでに試料Y2に供給された水酸化ナトリウム水溶液(つまり、試料Y2がpH7.8からpH10.8になるまでに試料Y2に供給された水酸化ナトリウム水溶液)の量に基づいて、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の濃度を算出する。以下、この水酸化ナトリウム水溶液の量を、濃度算出滴定量V2とする。
【0045】
エアレーション停止ステップS15では、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の濃度を算出された後、撹拌装置26から反応室17へのガスGの供給を停止する。つまり、エアレーション開始ステップS6からエアレーション停止ステップS15に亘って、反応室17にガスGが供給されている。尚、幾つかの実施形態では、水質測定方法は、アンモニア態窒素濃度算出ステップS14の後、且つエアレーション停止ステップS15の前に、例えば、純水、又はアンモニア水のような窒素を含む窒素含有水で反応室17内を洗浄する洗浄ステップをさらに含む。
【0046】
第1の硫酸供給ステップS7(第1サブステップ)における硫酸の供給速度をv1とする。第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11のうちpH2からpH2.8に達するまでのサブステップS11a(第2サブステップ)における水酸化ナトリウム水溶液の供給速度をv2とする。第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11のうちpH2.8からpH6.8に達するまでのサブステップS11b(第3サブステップ)における水酸化ナトリウム水溶液の供給速度をv3とする。第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13のうちpH6.8からpH7.8に達するまでのサブステップS13a(第2サブステップ)における水酸化ナトリウム水溶液の供給速度をv4とする。第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13のうちpH7.8からpH10.8に達するまでのサブステップS13b(第3サブステップ)における水酸化ナトリウム水溶液の供給速度をv5とする。第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13のうちpH10.8からpH12に達するまでのサブステップS13cにおける水酸化ナトリウム水溶液の供給速度をv6とする。第1実施形態では、v2、v4、及びv6のそれぞれは、v1、v3及びv5よりも速い。
【0047】
(作用・効果)
第1実施形態に係る水質測定方法の作用・効果について説明する。上述したように、メタン発酵において、メタン発酵槽4の内容物Y1のpHが7未満になると、微生物による生物作用が鈍化し、メタンガスの生成速度は急激に低下する。このため、メタン発酵槽4の内容物Y1をpH8.3まで中和した場合の酸消費量(Pアルカリ度)やpH4.8まで中和した場合の酸消費量(総アルカリ度)のような一般的なアルカリ度では、メタン発酵槽4の状態(微生物の状態)を評価する精度が低くなってしまう。
【0048】
第1実施形態によれば、目的pHをpH7に設定することで、pH7になるまでの試料Y2の酸消費量を測定することができる。よって、メタン発酵槽4の状態の評価精度を高めることができる。さらに、第1のpH範囲及び第2のpH範囲を設定しておくことで、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度及びアンモニア態窒素の濃度も取得することができるので、メタン発酵槽4の状態の評価精度をさらに高めることができる。
【0049】
幾つかの実施形態では、第1のpH範囲は、pH4.3以上5.3以下である。上述したように、標準状態における酢酸の酸解離定数及びプロピオン酸の酸解離定数は共におよそ4.8である。このため、pH4.3以上5.3以下では、酢酸イオン及びプロピオン酸イオン以外のイオンの影響が抑制される(言い換えると、試料Y2のpHの変化は、酢酸イオン及びプロピオン酸イオンが支配的になる)。よって、第1のpH範囲をpH4.3以上5.3以下とすることで、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度の測定精度を高めることができる。
【0050】
幾つかの実施形態では、第2のpH範囲は、pH8.8以上9.8以下である。上述したように、標準状態におけるアンモニア態窒素の酸解離定数は、およそ9.3である。このため、pH8.8以上9.8以下では、アンモニア及びアンモニウムイオン以外のイオンの影響が抑制される(言い換えると、試料Y2のpHの変化は、アンモニア及びアンモニウムイオンが支配的になる)。よって、第2のpH範囲をpH8.8以上9.8以下とすることで、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の濃度の算出精度を高めることができる。
【0051】
試料Y2に炭酸が含まれていると、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度の測定精度及びアンモニア態窒素の濃度の測定精度が低下する虞がある。具体的に説明すると、試料Y2に含まれる炭酸は、炭酸の形態、炭酸水素イオンの形態、炭酸イオンの形態の何れか1つで存在する。標準状態における1段目の酸解離定数(炭酸と炭酸水素イオンとの間の酸解離定数)は、およそ6.3である。このため、第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11による第1のpH範囲の下限値(pH2.8)から上限値(pH6.8)までの水酸化ナトリウム水溶液の供給(滴下)において、水酸化ナトリウム水溶液が炭酸と炭酸水素イオンとの間の化学反応に用いられる。よって、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度が高めに測定される虞がある。同様に、標準状態における2段目の酸解離定数(炭酸と炭酸水素イオンとの間の酸解離定数)は、およそ10.3である。このため、第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13による第2のpH範囲の下限値(pH7.8)から上限値(pH10.8)までの水酸化ナトリウム水溶液の供給(滴下)において、水酸化ナトリウム水溶液が炭酸水素イオンと炭酸イオンとの間の化学反応に用いられる。よって、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の濃度が高めに測定される虞がある。
【0052】
第1実施形態では、水質測定装置6は、温度が25度の試料Y2の酸消費量などを測定していたが、試料Y2の温度は25度に限定されない。幾つかの実施形態では、水質測定装置6は試料Y2の温度を所定温度に維持するように構成されており、第1のpH範囲及び第2のpH範囲のそれぞれは所定温度に基づいて補正される。
【0053】
幾つかの実施形態に係る第1のpH範囲及び第2のpH範囲の補正の一例について説明する。図9は、酸解離定数と温度との関係を示すグラフである。図9には、酢酸の酸解離定数pK1(pK1=-logK1)とアンモニア態窒素の酸解離定数pK2(pK2=-logK2)が図示されている。図9に示すように、酸解離定数は、温度によって変化する。酢酸の酸解離定数pK1は、温度が高くなるにつれて僅かに大きくなる。アンモニア態窒素の酸解離定数pK2は、温度が高くなるにつれて小さくなる。
【0054】
上述する第1実施形態では、第1のpH範囲は、標準状態における酢酸の酸解離定数(およそ4.8)を中央値とし、この中央値に所定の数値(2.0)を加算した値が上限値であり、この中央値から所定の数値(2.0)を減算した値が下限値である。図9に示すように、酢酸の酸解離定数は温度によって決められる。試料Y2の温度が55度である場合には、酢酸の酸解離定数は4.85であり、第1のpH範囲は4.85に所定の数値(2.0)が加算・減算されたpH2.85以上6.85以下に補正される。第1のpH範囲における所定の数値は、温度に関係なく一定である。このような補正によれば、試料Y2の温度に基づいて第1のpH範囲が補正されるので、酢酸の温度依存性が考慮される。このため、試料Y2に含まれる酢酸の濃度の算出精度を高めることができる。尚、揮発性脂肪酸が酢酸である場合を例にして説明したが、酢酸に代わりプロピオン酸であってもよし、酢酸とプロピオン酸の両方を含んでいてもよい。
【0055】
上述する第1実施形態では、第2のpH範囲は、標準状態におけるアンモニア態窒素の酸解離定数(およそ9.3)を中央値とし、この中央値に所定の数値(1.5)を加算した値が上限値であり、この中央値から所定の数値(1.5)を減算した値が下限値である。図9に示すように、アンモニア態窒素の酸解離定数は温度によって決められる。試料Y2の温度が55度である場合には、アンモニア態窒素の酸解離定数は8.45であり、第2のpH範囲は8.45に所定の数値(1.5)が加算・減算されたpH6.95以上9.95以下である。第2のpH範囲における所定の数値は、温度に関係なく一定である。第1のpH範囲における所定の数値と第2のpH範囲における所定の数値とは、同じ数値であってもよいし、互いに異なる数値であってもよい。このような補正によれば、試料Y2の温度に基づいて第2のpH範囲が補正されるので、アンモニア態窒素の温度依存性が考慮される。このため、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の濃度の算出精度を高めることができる。
【0056】
第1実施形態によれば、脱気ステップS10の実行によって、試料Y2から炭酸が脱気されてから、第1のpH範囲が下限値から上限値になるまでの水酸化ナトリウム水溶液の量に基づいて、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度を算出する。同様に、脱気ステップS10の実行によって、試料Y2から炭酸が脱気されてから、第2のpH範囲が下限値から上限値になるまでの水酸化ナトリウム水溶液の量に基づいて、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の濃度を算出する。このため、試料Y2に炭酸が含まれていることによる揮発性脂肪酸の濃度測定の精度低下及びアンモニア態窒素の濃度測定の精度低下を抑制することができる。
【0057】
第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11において、サブステップS11aはサブステップS11bを実行するための準備段階に相当する。このため、サブステップS11aでは、第1の硫酸供給ステップS7及びサブステップS11bと比較して、慎重に水酸化ナトリウム水溶液を供給する必要がない。同様に、第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13において、サブステップS13aはサブステップS13bを実行するための準備段階に相当する。このため、サブステップS13bでは、第1の硫酸供給ステップS7及びサブステップS13bと比較して、慎重に水酸化ナトリウム水溶液を供給する必要がない。第1実施形態によれば、v2、v4のそれぞれをv1、v3及びv5よりも速くすることで、滴定によって試料Y2のアルカリ度、及び試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度及びアンモニア態窒素の濃度を測定する時間を短くすることができる。
【0058】
尚、第1実施形態では、試料Y2がメタン発酵槽4の内容物である場合を例にして説明したが、本開示はこの形態に限定されない。例えば、試料Y2は、デンプンやセルロースのような炭水化物から有価物としての糖を製造する糖化槽の内容物や、炭水化物を堆肥化して堆肥を製造する堆肥化装置の内容物であってもよい。幾つかの実施形態では、試料Y2は、廃棄物Wを加水分解した改質物Xを微生物によって低分子化する発酵槽の内容物である。
【0059】
尚、第1実施形態に係る水質測定方法は、試料Y2の酸消費量を測定していたが、本開示はこの形態に限定されない。幾つかの実施形態では、本開示に係る水質測定方法は、滴定によって試料Y2のアルカリ消費量、及び試料Y2に含まれる成分の濃度を測定する。本開示に係る水質測定方法は、目的pHをpH7に限定するものではなく、試料Y2に応じて目的pHが任意に設定される。同様に、本開示に係る水質測定方法は、pH範囲を第1のpH範囲(pH2.8~pH6.8)や第2のpH範囲(pH7.8~pH10.8)に限定するものではなく、濃度を測定する成分に応じてpH範囲が任意に設定される。
【0060】
<第2実施形態>
本開示の第2実施形態に係る水質測定方法について説明する。第2実施形態では、アンモニア態窒素の濃度の算出方法が第1実施形態とは異なる。それ以外の構成は第1実施形態で説明した構成と同じである。第2実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0061】
第2実施形態において、アンモニア態窒素濃度算出ステップS14では、水酸化ナトリウム水溶液(滴定液Y3)の供給による試料Y2の第2のpH範囲におけるpHの変化量に基づいて、濃度算出滴定量V2を算出する。
【0062】
図3に例示するように、ライン50のうちpH7.8からpH10.8の部分52は、直線状に延びているとみなすことができる。このため、部分52の傾きを取得することで、濃度算出滴定量V2を算出することができる。第2実施形態では、部分52において互いに異なる位置にある2つのプロット52a、52bから部分52の傾きが算出される。プロット52aはpH7.8であり、プロット52bはpH7.8及びpH10.8以外の値である。
【0063】
第2実施形態に係る水質測定方法の作用・効果について説明する。第2実施形態によれば、水酸化ナトリウム水溶液が実際に濃度算出滴定量V2まで供給される前に濃度算出滴定量V2が算出され、この算出された濃度算出滴定量V2に基づいて試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の濃度が算出される。このため、アンモニア態窒素の濃度測定の時間を短くすることができる。
【0064】
幾つかの実施形態では、揮発性脂肪酸濃度算出ステップS12では、水酸化ナトリウム水溶液(滴定液Y3)の供給による試料Y2の第1のpH範囲におけるpHの変化量に基づいて、試料Y2がpH2.8からpH6.8になるまでに試料Y2に供給された水酸化ナトリウム水溶液の量を算出する。
【0065】
<第3実施形態>
本開示の第3実施形態に係る水質測定方法について説明する。第3実施形態に係る水質測定方法は、第1実施形態に係る水質測定方法に検量線設定ステップS16が加えられている。第3実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。幾つかの実施形態に係る水質測定方法は、第2実施形態に係る水質測定方法に検量線設定ステップS16が加えられている。
【0066】
図4は、第3実施形態に係る水質測定方法のフローチャートである。図4に例示するように、水質測定方法は、第1の硫酸供給ステップS7の前に実行される検量線設定ステップS16をさらに含む。第3実施形態では、目的pH設定ステップS1の前に検量線設定ステップS16が実行されている。
【0067】
検量線設定ステップS16では、試料Y2に含まれる成分の濃度と滴定液Y3の供給量との対応関係を示す検量線を設定する。第3実施形態では、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度と水酸化ナトリウム水溶液の供給量との対応関係を示す第1検量線L1を設定する。また、試料Y2に含まれるアンモニア態窒素の濃度と水酸化ナトリウム水溶液の供給量との対応関係を示す第2検量線L2を設定する。つまり、検量線設定ステップS16では、第1検量線L1及び第2検量線L2の両方を設定している。幾つかの実施形態では、検量線設定ステップS16では、第1検量線L1及び第2検量線L2のうちの何れか一方を設定している。
【0068】
第1検量線L1の設定方法の一例について説明する。図5は、第1検量線L1の設定方法のフローチャートである。図5に例示するように、第1検量線L1の設定方法は、第1サンプル試料準備ステップS161と、第1サンプル試料供給ステップS162と、第1プロット付加ステップS163と、第1検量線作成ステップS164と、を含む。
【0069】
第1サンプル試料準備ステップS161では、揮発性脂肪酸の濃度が9500ppm以上10500ppm以下の範囲に含まれる既知の濃度の第1サンプル試料60を準備する。例えば、第1サンプル試料60に含まれる揮発性脂肪酸の濃度は10000ppmである。
【0070】
第1サンプル試料供給ステップS162では、第1サンプル試料60に水酸化ナトリウム水溶液(滴定液Y3)を供給する。この水酸化ナトリウム水溶液は、第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11及び第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13のそれぞれで試料Y2に供給される水酸化ナトリウム水溶液と同じである。
【0071】
図6は、第3実施形態における水酸化ナトリウム水溶液の供給量と揮発性脂肪酸の濃度との関係を示すグラフである。図6に示すグラフは、横軸が水酸化ナトリウム水溶液の供給量を、縦軸が揮発性脂肪酸の濃度とする第1座標62を含む。
【0072】
第1プロット付加ステップS163では、第1座標62に第1サンプル試料60に含まれる揮発性脂肪酸の濃度(10000ppm)に対応する第1プロット64を付ける。そして、第1検量線作成ステップS164では、第1プロット64と第1座標62の原点Oとを通過する直線を揮発性脂肪酸の検量線(第1検量線L1)として作成する。
【0073】
第2検量線L2の設定方法の一例について説明する。図7は、第2検量線L2の設定方法のフローチャートである。図7に例示するように、第2検量線L2の設定方法は、第2サンプル試料準備ステップS165と、第2サンプル試料供給ステップS166と、第2プロット付加ステップS167と、第2検量線作成ステップS168と、を含む。
【0074】
第2サンプル試料準備ステップS165では、アンモニア態窒素の濃度が4500ppm以上5500ppm以下の範囲に含まれる既知の濃度の第2サンプル試料70を準備する。例えば、第2サンプル試料70に含まれるアンモニア態窒素の濃度は5000ppmである。
【0075】
第2サンプル試料供給ステップS166では、第2サンプル試料70に水酸化ナトリウム水溶液(滴定液Y3)を供給する。この水酸化ナトリウム水溶液は、第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS11及び第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップS13のそれぞれで試料Y2に供給される水酸化ナトリウム水溶液と同じである。
【0076】
図8は、第3実施形態における水酸化ナトリウム水溶液の供給量とアンモニア態窒素の濃度との関係を示すグラフである。図8に示すグラフは、横軸が水酸化ナトリウム水溶液の供給量を、縦軸がアンモニア態窒素の濃度とする第2座標72を含んでいる。
【0077】
第2プロット付加ステップS167では、第2座標72に第2サンプル試料70に含まれるアンモニア態窒素の濃度(5000ppm)に対応する第2プロット74を付ける。そして、第2検量線作成ステップS168では、第2プロット74と第2座標72の原点Oとを通過する直線をアンモニア態窒素の検量線(第2検量線L2)として作成する。
【0078】
揮発性脂肪酸濃度算出ステップS12では、試料Y2がpH2.8からpH6.8になるまでに試料Y2に供給された水酸化ナトリウム水溶液の量と第1検量線L1とに基づいて、揮発性脂肪酸の濃度を算出する。具体的には、第1検量線L1から試料Y2に供給された水酸化ナトリウム水溶液の量に対応する揮発性脂肪酸の濃度を取得する。
【0079】
アンモニア態窒素濃度算出ステップS14では、濃度算出滴定量V2と第2検量線L2とに基づいて、アンモニア態窒素の濃度を算出する。具体的には、第2検量線L2から濃度算出滴定量V2に対応するアンモニア態窒素の濃度を取得する。
【0080】
第3実施形態に係る水質測定方法の作用・効果について説明する。第3実施形態によれば、第1検量線L1及び第2検量線L2を使用しない場合と比較して、試料Y2に含まれる揮発性脂肪酸の濃度の測定精度、及びアンモニア態窒素の濃度の測定精度を高めることができる。
【0081】
揮発性脂肪酸の濃度を測定する場合、10000ppm付近における濃度の測定精度が高いことが望ましいことがある。これは、揮発性脂肪酸の濃度が10000ppm以上になると、微生物による改質物Xの低分子化が阻害されるためである。第3実施形態によれば、揮発性脂肪酸の検量線(第1検量線L1)は、第1座標62において、揮発性脂肪酸の濃度が10000ppmである第1サンプル試料60の第1プロット64と原点とを通過する直線であるので、10000ppm付近における揮発性脂肪酸の濃度の測定精度を高めることができる。
【0082】
尚、本開示は、第1サンプル試料60に含まれる揮発性脂肪酸の濃度が9500ppm以上10500ppm以下の範囲に含まれることに限定するものではない。幾つかの実施形態では、第1サンプル試料準備ステップS161では、揮発性脂肪酸の濃度が19000ppm以上21000ppm以下の範囲に含まれる第1サンプル試料60を準備する。
【0083】
アンモニア態窒素の濃度を測定する場合、5000ppm付近における濃度の測定精度が高いことが望ましいことがある。これは、アンモニア態窒素の濃度が5000ppm以上になると、微生物による改質物Xの低分子化が阻害されるためである。第3実施形態によれば、アンモニア態窒素の検量線(第2検量線L2)は、第2座標72において、アンモニア態窒素の濃度が5000ppmである第2サンプル試料70の第2プロット74と原点とを通過する直線であるので、5000ppm付近におけるアンモニア態窒素の濃度の測定精度を高めることができる。
【0084】
尚、本開示は、第2サンプル試料70に含まれるアンモニア態窒素の濃度が9500ppm以上10500ppm以下の範囲に含まれることに限定するものではない。
【0085】
幾つかの実施形態では、第2サンプル試料準備ステップS165では、アンモニア態窒素の濃度が3800ppm以上4200ppm以下の範囲に含まれる第2サンプル試料70を準備する。メタン発酵槽4は、中温(37℃±5℃)の温度条件下で改質物Xを微生物によって発酵する場合がある。この場合、4000ppm付近におけるアンモニア態窒素の濃度の測定精度が高いことが望ましいことがある。上述した方法によれば、メタン発酵槽4が中温発酵した際に、4000ppm付近におけるアンモニア態窒素の濃度の測定精度を高めることができる。
【0086】
幾つかの実施形態では、第2サンプル試料準備ステップS165では、アンモニア態窒素の濃度が2850ppm以上3150ppm以下の範囲に含まれる第2サンプル試料70を準備する。メタン発酵槽4は、高温(55℃±5℃)の温度条件下で改質物Xを微生物によって発酵する場合がある。この場合、3000ppm付近におけるアンモニア態窒素の濃度の測定精度が高いことが望ましいことがある。上述した方法によれば、メタン発酵槽4が高温発酵した際に、4000ppm付近におけるアンモニア態窒素の濃度の測定精度を高めることができる。
【0087】
尚、第3実施形態では検量線は直線であったが、本開示はこの形態に限定されず、検量線は例えば曲線であってもよい。第3実施形態では1つのプロットが座標に付けられていたが、複数のプロットが座標に付けられてもよい。
【0088】
尚、検量線の設定方法は、特に限定されず、例えば、絶対検量線法であってもよいし、標準添加法であってもよい。絶対検量線法は、既知の濃度のサンプル試料を準備し、水質測定装置6の特有の信号を測定することで、濃度と信号との関係を算出して検量線を得る方法である。標準添加法は、水質測定対象である試料Y2、及び試料Y2に揮発性脂肪酸及びアンモニア態窒素の少なくとも1つを直接添加した既知の濃度のサンプル試料を準備し、水質測定装置6の特有の信号を測定することで、濃度と信号との関係を算出して検量線を得る方法である。
【0089】
尚、第3実施形態では検量線を設定することで、試料に含まれる成分の濃度の測定精度を向上させていたが、別の方法によって、測定精度を向上させてもよい。例えば、水質測定方法は、10000ppmを設定値Z1とし、pH範囲の下限値から上限値になるまでに試料Y2に供給された滴定液Y3の量を設定値Z2とし、Z1/Z2で算出される補正係数Kを設定するステップをさらに備えてもよい。そして、濃度算出ステップ(S12、S14)では、pH範囲の下限値から上限値になるまでに試料Y2に供給された滴定液Y3の量に補正係数Kを乗算した値に基づいて、試料Y2に含まれる成分の濃度を算出する。
【0090】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0091】
[1]本開示に係る水質測定方法は、滴定によって試料(Y2)の酸消費量又はアルカリ消費量、及び前記試料に含まれる成分の濃度を測定する水質測定方法であって、
前記試料に対応する目的pHを設定するステップ(S1)と、
前記試料に含まれる成分に対応するpH範囲を設定するステップ(S2)と、
前記目的pHを設定するステップ、及び前記pH範囲を設定するステップの両方の後に、前記試料に滴定液(Y3)を供給するステップ(S7、S9、S11、S13)と、
前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHが前記目的pHになるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料の酸消費量又はアルカリ消費量を算出するステップ(S8)と、
前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値から下限値、又は下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップ(S12、S14)と、を備える。
【0092】
上記[1]に記載の方法によれば、試料に対応する目的pHを設定することで、試料に対応したpHになるまでの試料の酸消費量又はアルカリ消費量を測定することができる。さらに、上記[1]に記載の方法によれば、試料に含まれる成分に対応するpH範囲を設定することで、試料に含まれる成分の濃度も取得することができる。
【0093】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載の方法において、
前記試料は、廃棄物(W)を加水分解した改質物(X)を微生物によって低分子化する発酵槽の内容物である。
【0094】
上記[2]に記載の方法によれば、発酵槽の内容物に対応したpHになるまでの発酵槽の内容物の酸消費量又はアルカリ消費量、及び発酵槽の内容物に含まれる成分の濃度を測定することができる。
【0095】
[3]幾つかの実施形態では、上記[2]に記載の方法において、
前記発酵槽は、前記改質物を微生物によって低分子化してメタンガスを生成するメタン発酵槽(4)であり、
前記目的pHを設定するステップは、前記メタン発酵槽内における前記メタンガスの生成速度に影響する影響関数(I)に基づいて前記目的pHを設定する。
【0096】
上記[3]に記載方法によれば、影響関数に基づいて目的pHが設定されるので、メタンガスの生成速度が考慮されたメタン発酵槽の内容物の酸消費量又はアルカリ消費量を測定することができる。よって、一般的なアルカリ度(例えば、Pアルカリ度や総アルカリ度)を測定する場合と比較して、メタン発酵槽の状態の評価精度を高めることができる。
【0097】
[4]幾つかの実施形態では、上記[3]に記載の方法において、
前記目的pHは、pH7であり、
前記試料の酸消費量又はアルカリ消費量を算出するステップは、前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHがpH7になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料のアルカリ度を算出する。
【0098】
本発明者らの知見によれば、pH7になるまでの酸消費量がメタン発酵槽の状態を高精度に評価することができる値である。上記[4]に記載の方法によれば、メタン発酵槽の内容物のpHがpH7になるまでの酸消費量が算出されるので、メタン発酵槽の状態を高精度に評価することができる。
【0099】
[5]幾つかの実施形態では、上記[2]から[4]の何れか1つに記載の方法において、
前記試料に含まれる成分は、揮発性脂肪酸を含み、
前記pH範囲は、pH2.8以上6.8以下である第1のpH範囲を含む。
【0100】
上記[5]に記載の方法によれば、発酵槽の内容物に含まれる揮発性脂肪酸の濃度を測定することができる
【0101】
[6]幾つかの実施形態では、上記[5]に記載の方法において、
前記第1のpH範囲は、pH4.3以上5.3以下である。
【0102】
上記[6]に記載の方法によれば、発酵槽の内容物に含まれる揮発性脂肪酸の濃度の測定精度を高めることができる。
【0103】
[7]幾つかの実施形態では、上記[5]に記載の方法において、
前記第1のpH範囲は、前記試料の温度に基づいて補正される。
【0104】
本発明者らによれば、試料の温度によって適切なpH範囲に補正することで、発酵槽の内容物に含まれる揮発性脂肪酸の濃度の算出精度を高めることができることを見出した。上記[7]に記載の方法によれば、試料の温度に基づいてpH範囲が補正されるので、発酵槽の内容物に含まれる揮発性脂肪酸の濃度の算出精度を高めることができる。
【0105】
[8]幾つかの実施形態では、上記[2]から[7]の何れか1つに記載の方法において、
前記試料に含まれる成分は、アンモニア態窒素を含み、
前記pH範囲は、pH7.8以上10.8以下である第2のpH範囲を含む。
【0106】
上記[8]に記載の方法によれば、発酵槽の内容物に含まれるアンモニア態窒素の濃度を測定することができる。
【0107】
[9]幾つかの実施形態では、上記[8]に記載の方法において、
前記第2のpH範囲は、pH8.8以上9.8以下である。
【0108】
上記[9]に記載の方法によれば、発酵槽の内容物に含まれるアンモニア態窒素の濃度の測定精度を高めることができる。
【0109】
[10]幾つかの実施形態では、上記[8]に記載の方法において、
前記第2のpH範囲は、前記試料の温度に基づいて補正される。
【0110】
本発明者らによれば、試料の温度によって適切なpH範囲に補正することで、発酵槽の内容物に含まれるアンモニア態窒素の濃度の算出精度を高めることができることを見出した。上記[10]に記載の方法によれば、試料の温度に基づいてpH範囲が補正されるので、発酵槽の内容物に含まれるアンモニア態窒素の濃度の算出精度を高めることができる。
【0111】
[11]幾つかの実施形態では、上記[1]から[10]の何れか1つに記載の方法において、
前記試料の酸消費量又はアルカリ消費量を算出するステップが前記試料の酸消費量を算出した後に、前記試料から炭酸を脱気するステップ(S10)をさらに含み、
前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップは、前記炭酸が脱気された前記試料のpHが前記pH範囲の下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量に基づいて、前記試料に含まれる成分の濃度を算出する。
【0112】
試料に炭酸が含まれていると、試料に含まれる成分の濃度の測定精度が低下する虞がある。上記[11]に記載の方法によれば、試料から炭酸が脱気されてから、pH範囲が下限値から上限値になるまでの滴定液の量に基づいて、試料に含まれる成分の濃度を算出する。このため、試料に炭酸が含まれていることによる濃度測定の精度低下を抑制することができる。
【0113】
[12]幾つかの実施形態では、上記[1]から[11]の何れか1つに記載の方法において、
前記試料に前記滴定液を供給するステップは、
前記試料への前記滴定液の供給を開始してから前記試料のpHが前記目的pHになるまで第1供給速度(v1)で前記試料に前記滴定液を供給する第1サブステップ(S7)と、
前記第1サブステップの後に、前記試料のpHが前記pH範囲に達するまで第2供給速度(v2、v4)で前記試料に前記滴定液を供給する第2サブステップ(S11a、S13a)と、
前記第2サブステップの後に、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値又は下限値に達するまで第3供給速度(v3、v5)で前記試料に前記滴定液を供給する第3サブステップ(S11b、S13b)と、を含み、
前記第2供給速度は、前記第1供給速度及び前記第3供給速度のそれぞれより大きい。
【0114】
第2サブステップは、第3サブステップを実行するための準備段階に相当しており、第1サブステップ及び第3サブステップと比較して、慎重に滴定液を供給する必要がない。上記[12]に記載の方法によれば、第2供給速度は、第1供給速度及び第3供給速度のそれぞれより大きいので、滴定によって試料の酸消費量又はアルカリ消費量、及び試料に含まれる成分の濃度を測定する時間を短くすることができる。
【0115】
[13]幾つかの実施形態では、上記[1]から[12]の何れか1つに記載の方法において、
前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップにおいて、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値から下限値、又は下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量を濃度算出滴定量(V2)とすると、
前記濃度算出滴定量は、前記滴定液の供給による前記試料の前記pH範囲におけるpHの変化量に基づいて算出される。
【0116】
上記[13]に記載の方法によれば、滴定液が実際に濃度算出滴定量まで供給される前に濃度算出滴定量を算出し、試料に含まれる成分の濃度を測定する時間を短くすることができる。
【0117】
[14]幾つかの実施形態では、上記[1]から[13]の何れか1つに記載の方法において、
前記試料に前記滴定液を供給するステップの前に、前記試料を希釈するステップ(S4)をさらに備える。
【0118】
上記[14]に記載の方法によれば、試料の粘性を低下させ、試料の撹拌を容易化することができる。このため、試料と滴定液との反応を促進させることができる。
【0119】
[15]幾つかの実施形態では、上記[1]から[14]の何れか1つに記載の方法において、
前記試料に前記滴定液を供給するステップの前に、前記試料に含まれる成分の濃度と前記滴定液の供給量との対応関係を示す検量線を設定するステップ(S16)をさらに備え、
前記試料に含まれる成分の濃度を算出するステップは、前記試料への前記滴定液の供給を始めた後、前記試料のpHが前記pH範囲の上限値から下限値、又は下限値から上限値になるまでに前記試料に供給された前記滴定液の量と前記検量線(L1、L2)とに基づいて、前記試料に含まれる成分の濃度を算出する。
【0120】
上記[15]に記載の方法によれば、検量線を使用しない場合と比較して、試料に含まれる成分の濃度の測定精度を高めることができる。
【0121】
[16]幾つかの実施形態では、上記[15]に記載の方法において、
前記試料に含まれる成分は、揮発性脂肪酸を含み、
前記検量線を設定するステップは、
既知の濃度の前記揮発性脂肪酸が含まれる第1サンプル試料(60)を準備するステップ(S161)と、
前記第1サンプル試料に前記滴定液を供給するステップ(S162)と、
横軸を前記滴定液の量とし縦軸を前記揮発性脂肪酸の濃度とする第1座標(62)に、前記第1サンプル試料に含まれる前記揮発性脂肪酸の濃度に対応する第1プロット(64)を付けるステップ(S163)と、
前記第1プロットと前記第1座標の原点とを通過する直線を前記揮発性脂肪酸の検量線(L1)とするステップ(S164)と、を含む。
【0122】
上記[16]に記載の方法によれば、試料に含まれる揮発性脂肪酸の濃度の測定精度を向上させる検量線を作成することができる。
【0123】
[17]幾つかの実施形態では、[16]に記載の方法において、
前記第1サンプル試料は、前記揮発性脂肪酸の濃度が9500ppm以上10500ppm以下の範囲に含まれる。
【0124】
揮発性脂肪酸の濃度を測定する場合、10000ppm付近における濃度の測定精度が高いことが望ましいことがある。上記[17]に記載の方法によれば、揮発性脂肪酸の検量線は、第1座標において、揮発性脂肪酸の濃度が9500ppm以上10500ppm以下の範囲に含まれる第1サンプル試料の第1プロットと原点とを通過する直線であるので、10000ppm付近における揮発性脂肪酸の濃度の測定精度を高めることができる。
【0125】
[18]幾つかの実施形態では、上記[15]から[17]の何れか1つに記載の方法において、
前記試料に含まれる成分は、アンモニア態窒素を含み、
前記検量線を設定するステップは、
既知の濃度の前記アンモニア態窒素が含まれる第2サンプル試料(70)を準備するステップ(S165)と、
前記第2サンプル試料に前記滴定液を供給するステップ(S166)と、
横軸を前記滴定液の量とし縦軸を前記アンモニア態窒素の濃度とする第2座標(72)に、前記第2サンプル試料に含まれる前記アンモニア態窒素の濃度に対応する第2プロット(74)を付けるステップ(S167)と、
前記第2プロットと前記第2座標の原点とを通過する直線を前記アンモニア態窒素の検量線(L2)とするステップ(S168)と、を含む。
【0126】
上記[18]に記載の方法によれば、試料に含まれる揮発性脂肪酸の濃度の測定精度を向上させる検量線を作成することができる。
【0127】
[19]幾つかの実施形態では、上記[18]に記載の方法において、
前記第2サンプル試料は、前記アンモニア態窒素の濃度が4500ppm以上5500ppm以下の範囲に含まれる。
【0128】
アンモニア態窒素の濃度を測定する場合、5000ppm付近における濃度の測定精度が高いことが望ましいことがある。上記[18]に記載の方法によれば、アンモニア態窒素の検量線は、第2座標において、アンモニア態窒素の濃度が4500ppm以上5500ppm以下の範囲に含まれる第2サンプル試料の第2プロットと原点とを通過する直線であるので、5000ppm付近におけるアンモニア態窒素の濃度の測定精度を高めることができる。
【0129】
[20]幾つかの実施形態では、上記[18]に記載の方法において、
前記第2サンプル試料は、前記アンモニア態窒素の濃度が3800ppm以上4200ppm以下の範囲に含まれる。
【0130】
(試料の温度が中温である際に)アンモニア態窒素の濃度を測定する場合、4000ppm付近における濃度の測定精度が高いことが望ましいことがある。上記[19]に記載の方法によれば、アンモニア態窒素の検量線は、第2座標において、アンモニア態窒素の濃度が3800ppm以上4200ppm以下の範囲に含まれる第2サンプル試料の第2プロットと原点とを通過する直線であるので、4000ppm付近におけるアンモニア態窒素の濃度の測定精度を高めることができる。
【0131】
[21]幾つかの実施形態では、上記[18]に記載の方法において、
前記第2サンプル試料は、前記アンモニア態窒素の濃度が2850ppm以上3150ppm以下の範囲に含まれる。
【0132】
(試料の温度が高温である際に)アンモニア態窒素の濃度を測定する場合、3000ppm付近における濃度の測定精度が高いことが望ましいことがある。上記[20]に記載の方法によれば、アンモニア態窒素の検量線は、第2座標において、アンモニア態窒素の濃度が2850ppm以上3150ppm以下の範囲に含まれる第2サンプル試料の第2プロットと原点とを通過する直線であるので、3000ppm付近におけるアンモニア態窒素の濃度の測定精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0133】
1 廃棄物処理システム
2 改質装置
4 メタン発酵槽
6 水質測定装置
60 第1サンプル試料
62 第1座標
64 第1プロット
70 第2サンプル試料
72 第2座標
74 第2プロット

I 影響関数
L1 第1検量線
L2 第2検量線
S1 目的pH設定ステップ
S2 pH範囲設定ステップ
S4 希釈ステップ
S7 第1の硫酸供給ステップ
S8 アルカリ度算出ステップ
S9 第2の硫酸供給ステップ
S10 脱気ステップ
S11 第1の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップ
S12 揮発性脂肪酸濃度算出ステップ
S13 第2の水酸化ナトリウム水溶液供給ステップ
S14 アンモニア態窒素濃度算出ステップ
S16 検量線設定ステップ
S161 第1サンプル試料準備ステップ
S162 第1サンプル試料供給ステップ
S163 第1プロット付加ステップ
S164 第1検量線作成ステップ
S165 第2サンプル試料準備ステップ
S166 第2サンプル試料供給ステップ
S167 第2プロット付加ステップ
S168 第2検量線作成ステップ
V2 濃度算出滴定量
W 廃棄物
X 改質物
Y1 メタン発酵槽の内容物
Y2 試料
Y3 滴定液

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9