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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079903
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】糸掛け具及び巻取装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 7/00 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
D01D7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192584
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】荒木 峻平
(72)【発明者】
【氏名】松井 崇倫
【テーマコード(参考)】
4L045
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045BA03
4L045DA24
4L045DA41
4L045DB07
4L045DB13
4L045DB17
4L045DC03
4L045DC28
4L045DC32
4L045DC41
(57)【要約】
【課題】簡素な構成でメンテナンスコストを低減できる糸掛け具を提供する。
【解決手段】糸掛け具90は、複数の糸Yを複数の支点ガイドにそれぞれ糸掛けするために用いられる。この糸掛け具90は、本体部91と、棒状ガイド部92と、を備える。本体部91は、糸Yを入れるための複数の分糸溝91bが並べて形成された板状に形成されている。棒状ガイド部92は、本体部91の厚み方向の少なくとも一側に配置され、複数の分糸溝91bに跨るように配置される。棒状ガイド部92は、本体部91とは異なる部材である。本体部91の厚み方向で見たときに、棒状ガイド部92は、分糸溝91bと一部重複して配置されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸を複数の糸ガイドにそれぞれ糸掛けするための糸掛け具であって、
前記糸を入れるための複数の溝が並べて形成された板状の本体と、
前記本体の厚み方向の少なくとも一側に配置され、複数の前記溝に跨るように配置されるガイドと、
を備え、
前記ガイドは前記本体と異なる部材であり、
前記ガイドの硬度が前記本体の硬度よりも大きく、
前記本体の厚み方向で見たときに、前記ガイドは、前記溝と一部重複して、又は前記溝の奥部に接して配置されていることを特徴とする糸掛け具。
【請求項2】
請求項1に記載の糸掛け具であって、
前記ガイドが前記本体に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする糸掛け具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸掛け具であって、
前記ガイドは細長く形成されており、
前記ガイドの長手方向両端が前記本体に固定されていることを特徴とする糸掛け具。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の糸掛け具であって、
前記ガイドは前記本体と接触した状態で配置されていることを特徴とする糸掛け具。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の糸掛け具であって、
前記ガイドは曲面を有することを特徴とする糸掛け具。
【請求項6】
請求項5に記載の糸掛け具であって、
前記ガイドは細長く形成されており、
前記ガイドの長手方向と垂直な前記ガイドの断面は、円形であることを特徴とする糸掛け具。
【請求項7】
請求項6に記載の糸掛け具であって、
前記ガイドの断面の直径は、前記本体の厚みよりも大きいことを特徴とする糸掛け具。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の糸掛け具であって、
前記ガイドは、セラミックス製であることを特徴とする糸掛け具。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の糸掛け具であって、
複数の前記溝において、隣接する2つの前記溝の、前記糸を入れる開口側における間隔よりも、当該開口側と反対側の奥部側の間隔が大きいことを特徴とする糸掛け具。
【請求項10】
紡糸装置から連続的に紡出された複数の糸の巻取りを行う巻取装置であって、
複数の前記糸を案内する複数の糸ガイドと、
糸掛け具を用いて、前記紡糸装置から連続的に紡出された複数の前記糸を複数の前記糸ガイドに掛ける糸掛け装置と、
を備え、
前記糸掛け具は、
前記糸を入れるための複数の溝が並べて形成された板状の本体と、
前記本体の厚み方向の少なくとも一側に配置され、複数の前記溝に跨るように配置されるガイドと、
を備え、
前記ガイドは前記本体と異なる部材であり、
前記ガイドの硬度が前記本体の硬度よりも大きく、
前記糸掛け装置が前記糸掛け具を動かす過程における少なくとも何れかの時点で、前記糸が前記ガイドの部分で屈曲することを特徴とする巻取装置。
【請求項11】
請求項10に記載の巻取装置であって、
前記本体の厚み方向で見たときに、前記ガイドは、前記溝と一部重複して、又は前記溝の奥部に接して配置されていることを特徴とする巻取装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の巻取装置であって、
前記糸掛け装置が前記糸掛け具を動かす過程における少なくとも何れかの時点で、前記溝に入れられた前記糸の前記溝に対する接触長よりも、前記糸の前記ガイドに対する接触長が長くなることを特徴とする巻取装置。
【請求項13】
請求項10から12までの何れか一項に記載の巻取装置であって、
前記ガイドが前記本体に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする巻取装置。
【請求項14】
請求項10から13までの何れか一項に記載の巻取装置であって、
前記ガイドは細長く形成されており、
前記ガイドの長手方向両端が前記本体に固定されていることを特徴とする巻取装置。
【請求項15】
請求項10から14までの何れか一項に記載の巻取装置であって、
前記ガイドは前記本体と接触した状態で配置されていることを特徴とする巻取装置。
【請求項16】
請求項10から15までの何れか一項に記載の巻取装置であって、
前記ガイドは曲面を有することを特徴とする巻取装置。
【請求項17】
請求項16に記載の巻取装置であって、
前記ガイドは細長く形成されており、
前記ガイドの長手方向と垂直な前記ガイドの断面は、円形であることを特徴とする巻取装置。
【請求項18】
請求項17に記載の巻取装置であって、
前記ガイドの断面の直径は、前記本体の厚みよりも大きいことを特徴とする巻取装置。
【請求項19】
請求項10から18までの何れか一項に記載の巻取装置であって、
前記ガイドは、セラミックス製であることを特徴とする巻取装置。
【請求項20】
請求項10から19までの何れか一項に記載の巻取装置であって、
複数の前記溝において、隣接する2つの前記溝の、前記糸を入れる開口側における間隔よりも、当該開口側と反対側の奥部側の間隔が大きいことを特徴とする巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸機の糸掛け作業に用いられる糸掛け具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成繊維からなる複数の糸を紡糸装置から供給してそれぞれボビンに巻き取る紡糸機が知られている。この紡糸機において、糸をボビンに巻き取る前の準備として、紡糸装置から送られる複数の糸を複数の糸ガイドにそれぞれ掛ける作業が必要となる。特許文献1及び2は、この種の糸巻取機を開示する。
【0003】
特許文献1及び特許文献2の糸巻取機における糸掛け作業においては、オペレータが糸掛け部材を複数の糸に対して差し込むことで、複数の糸が分離状態で保持される。オペレータは、糸掛け部材を動かすことで糸を案内する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-114573号公報
【特許文献2】特開2015-164875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2の糸巻取機において、糸掛け部材に糸が掛けられた状態では、櫛型に形成された部分の歯元において摩耗が大きく、メンテナンスコストが増大していた。例えば、糸掛け部材の歯元の部分に、歯元の形状に合わせたガイドを取り付けることも考えられるが、構造が複雑であり、コストが増大するおそれがあった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、簡素な構成でメンテナンスコストを低減できる糸掛け具を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の糸掛け具が提供される。即ち、この糸掛け具は、複数の糸を複数の糸ガイドにそれぞれ糸掛けするために用いられる。この糸掛け具は、本体と、ガイドと、を備える。前記本体は、前記糸を入れるための複数の溝が並べて形成された板状に形成されている。前記ガイドは、前記本体の厚み方向の少なくとも一側に配置され、複数の前記溝に跨るように配置される。前記ガイドは前記本体と異なる部材である。前記ガイドの硬度が前記本体の硬度よりも大きい。前記本体の厚み方向で見たときに、前記ガイドは、前記溝と一部重複して、又は前記溝の奥部に接して配置されている。
【0009】
これにより、糸掛け具において、簡素な構成で、糸に接触する部分が摩耗しにくくなる。この結果、メンテナンス作業の頻度及びコストを低減することができる。また、硬度が高いガイドに対する糸の接触長を容易に増加することができる。従って、ガイドが摩耗しにくくなる。
【0010】
前記の糸掛け具においては、前記ガイドが前記本体に着脱可能に取り付けられていることが好ましい。
【0011】
これにより、ガイドが摩耗した場合でも、交換を容易に行うことができる。
【0012】
前記の糸掛け具においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記ガイドは細長く形成されている。前記ガイドの長手方向両端が前記本体に固定されている。
【0013】
これにより、ガイドの外周面が糸に接触可能な状態で、簡素な構成で、ガイドを本体に固定することができる。
【0014】
前記の糸掛け具においては、前記ガイドは前記本体と接触した状態で配置されていることが好ましい。
【0015】
これにより、ガイドのガタツキ等を防止することができる。
【0016】
前記の糸掛け具においては、前記ガイドは曲面を有することが好ましい。
【0017】
これにより、ガイドの曲面に糸を接触させることで、糸を滑らかに曲げることができる。
【0018】
前記の糸掛け具においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記ガイドは細長く形成されている。前記ガイドの長手方向と垂直な前記ガイドの断面は、円形である。
【0019】
これにより、ガイドとの接触部分において、糸を滑らかに曲げることができる。
【0020】
前記の糸掛け具においては、前記ガイドの断面の直径は、前記本体の厚みよりも大きいことが好ましい。
【0021】
これにより、糸とガイドとの接触長を長くすることができる。
【0022】
前記の糸掛け具においては、前記ガイドは、セラミックス製であることが好ましい。
【0023】
これにより、ガイドの耐摩耗性を向上することができる。
【0024】
前記の糸掛け具においては、複数の前記溝において、隣接する2つの前記溝の、前記糸を入れる開口側における間隔よりも、当該開口側と反対側である奥部側の間隔が大きいことが好ましい。
【0025】
これにより、奥部に導かれた糸同士の間隔が大きくなるので、糸を1本ずつ糸ガイドに掛ける作業を容易に行うことができる。
【0026】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の巻取装置が提供される。即ち、この巻取装置は、紡糸装置から連続的に紡出された複数の糸の巻取りを行う。前記巻取装置は、複数の糸ガイドと、糸掛け装置と、を備える。前記糸ガイドは、複数の前記糸を案内する。前記糸掛け装置は、糸掛け具を用いて、前記紡糸装置から連続的に紡出された複数の前記糸を複数の前記糸ガイドに掛ける。前記糸掛け具は、板状の本体と、ガイドと、を備える。前記板状の本体には、前記糸を入れるための複数の溝が並べて形成される。前記ガイドは、前記本体の厚み方向の少なくとも一側に配置され、複数の前記溝に跨るように配置される。前記ガイドは前記本体と異なる部材である。前記ガイドの硬度が前記本体の硬度よりも大きい。前記糸掛け装置が前記糸掛け具を動かす過程における少なくとも何れかの時点で、前記糸が前記ガイドの部分で屈曲する。
【0027】
これにより、糸掛け装置が備える糸掛け具において、簡素な構成で、糸に接触する部分が摩耗しにくくなる。この結果、メンテナンス作業の頻度及びコストを低減することができる。
【0028】
前記の巻取装置においては、前記本体の厚み方向で見たときに、前記ガイドは、前記溝と一部重複して、又は前記溝の奥部に接して配置されていることが好ましい。
【0029】
これにより、糸のガイドに対する接触長を容易に増加することができる。従って、ガイドが摩耗しにくくなる。
【0030】
前記の巻取装置においては、前記糸掛け装置が前記糸掛け具を動かす過程における少なくとも何れかの時点で、前記溝に入れられた前記糸の前記溝に対する接触長よりも、前記糸の前記ガイドに対する接触長が長くなることが好ましい。
【0031】
これにより、溝の部分で糸の屈曲が過大となることを防止することができる。従って、糸掛け具の摩耗及び糸切れの発生等を防止することができる。
【0032】
前記の巻取装置においては、前記ガイドが前記本体に着脱可能に取り付けられていることが好ましい。
【0033】
これにより、糸掛け装置のガイドが摩耗した場合でも、交換を容易に行うことができる。
【0034】
前記の巻取装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記ガイドは細長く形成されている。前記ガイドの長手方向両端が前記本体に固定されている。
【0035】
これにより、ガイドの外周面が糸に接触可能な状態で、簡素な構成で、ガイドを本体に固定することができる。
【0036】
前記の巻取装置においては、前記ガイドは前記本体と接触した状態で配置されていることが好ましい。
【0037】
これにより、ガイドのガタツキ等を防止することができる。
【0038】
前記の巻取装置においては、前記ガイドは曲面を有することが好ましい。
【0039】
これにより、ガイドの曲面に糸を接触させることで、糸を滑らかに曲げることができる。
【0040】
前記の巻取装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記ガイドは細長く形成されている。前記ガイドの長手方向と垂直な前記ガイドの断面は、円形である。
【0041】
これにより、ガイドとの接触部分において、糸を滑らかに曲げることができる。
【0042】
前記の巻取装置においては、前記ガイドの断面の直径は、前記本体の厚みよりも大きいことが好ましい。
【0043】
これにより、糸とガイドとの接触長を長くすることができる。
【0044】
前記の巻取装置においては、前記ガイドは、セラミックス製であることが好ましい。
【0045】
これにより、ガイドの耐摩耗性を向上することができる。
【0046】
前記の巻取装置においては、複数の前記溝において、隣接する2つの前記溝の、前記糸を入れる開口側における間隔よりも、当該開口側と反対側の奥部側の間隔が大きいことが好ましい。
【0047】
これにより、奥部に導かれた糸同士の間隔が大きくなるので、糸掛け装置が糸を1本ずつ糸ガイドに掛ける作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の一実施形態に係る紡糸巻取システムの概略な構成を示す斜視図。
図2】紡糸巻取ユニットの構成を示す模式図。
図3】糸掛け具の構成を示す斜視図。
図4】(a)糸掛け具の構成を示す平面図。(b)糸掛け具の構成を示す底面図。
図5】糸を糸掛け具に入れる作業を示す部分斜視図。
図6】糸が糸掛け具に掛けられた状態を示す部分斜視図。
図7】糸が糸掛け具に掛けられた状態を示す、図6とは別の角度で見た拡大斜視図。
図8】糸が本体部及び棒状ガイド部の両方に接触する場合を示す断面図。
図9】糸が棒状ガイド部にのみ接触する場合を示す断面図。
図10】棒状ガイド部の取付位置に関する変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0049】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る紡糸巻取システム100の構成を示す斜視図である。図2は、紡糸巻取ユニット1の構成を示す模式図である。図3は、糸掛け具90の構成を示す斜視図である。図4(a)は、糸掛け具90の構成を示す平面図である。図4(b)は、糸掛け具90の構成を示す底面図である。
【0050】
図1に示す紡糸巻取システム100は、生成した合成繊維の糸Yを巻き取ってパッケージPを形成するシステムである。紡糸巻取システム100において、合成繊維の糸Yは、溶融された化合繊原料を押し出すことにより生成される。紡糸巻取システム100は、プラントにおいて、複数階層を有する建物内に設置されている。
【0051】
紡糸巻取システム100は、図1に示すように、複数の紡糸巻取ユニット1を備える。複数の紡糸巻取ユニット1は、左右方向に配列される。それぞれの紡糸巻取ユニット1が、合成繊維の糸Yの生成及びパッケージPの生成を行う。
【0052】
以下の説明において「上流」及び「下流」とは、生成された糸Yの巻取時における、糸Yの走行方向での上流及び下流を意味する。左右方向とは、複数の紡糸巻取ユニット1が並べられる方向を意味する。左右方向及び上下方向の何れに対しても垂直な方向を「前後方向」と称する。
【0053】
紡糸巻取ユニット1のそれぞれは、紡糸装置3と、紡糸引取装置4と、を備える。紡糸引取装置4は、紡糸装置3の下流側に配置されている。紡糸引取装置4は、引取部6と、巻取装置7と、を主として備える。引取部6は、紡糸装置3からの糸Yを適宜の経路に沿って巻取装置7へ送り出す処理を行う。巻取装置7は、糸Yを巻き取ってパッケージPを形成する処理を行う。引取部6及び巻取装置7は、糸処理装置の一種である。
【0054】
紡糸引取装置4は、引取部6及び巻取装置7以外に各種の糸処理装置を備える。この糸処理装置には、例えば、油剤ガイド11、糸保持装置14等がある。油剤ガイド11及び糸保持装置14の詳細については後述する。
【0055】
紡糸巻取システム100が設置されている建物は、仕切床9によって、上側の階層と下側の階層とに仕切られている。上側の階層には、紡糸装置3が設置される。下側の階層には、紡糸引取装置4の一部である、引取部6及び巻取装置7等が設置される。
【0056】
仕切床9には、糸通過孔9aが形成されている。糸通過孔9aは、各紡糸巻取ユニット1に対応して1つずつ設けられている。紡糸装置3により紡出された複数の糸Yは、糸通過孔9aを通過することができる。糸通過孔9aは、複数の糸Yを下側の階層に送るための通路を構成する。
【0057】
糸通過孔9aに接続するように、ダクト状のインターフロアチューブ8が仕切床9に固定されている。インターフロアチューブ8は、複数の糸Yが上側の階層から下側の階層へ走行する過程で、風等の外部要因により糸揺れが発生することを防止する。
【0058】
紡糸装置3は、図示しないが、複数(例えば、16個)の紡糸口を備える。紡糸口には、高温状態の溶融ポリマーが、ギアポンプ等からなる図略のポリマー供給装置によって供給される。紡糸装置3は溶融ポリマーを、それぞれの紡糸口から押し出す。これにより、糸Yが紡糸装置3のそれぞれの紡糸口から紡出される。紡糸口の数(言い換えれば、紡糸装置3において紡糸される糸Yの数)は、16個に限定されず、例えば12個等でも良い。図1及び図2には、図面の簡潔さのため、糸Yの数が12である場合の紡糸巻取ユニット1が示されている。
【0059】
紡糸巻取システム100の上側の階層には、冷却装置10と、油剤ガイド11と、が設置されている。
【0060】
冷却装置10は、紡糸装置3のすぐ下側に設置されている。冷却装置10は、図略の複数の冷却筒を備える。それぞれの冷却筒には、図示しない冷却空気配管を通じて、冷却空気が供給される。冷却筒を通過する糸Yは、冷却空気によって冷却されて固化する。
【0061】
油剤ガイド11は、冷却装置10の下方に配置される。油剤ガイド11は、紡糸装置3で紡出される糸Yの本数と同じ数だけ設置されている。複数の油剤ガイド11のそれぞれは、通過する糸Yのそれぞれに油剤を付与する。油剤が付与された複数の糸Yは、仕切床9に形成された糸通過孔9aを通って下側の階層に至る。
【0062】
オペレータは、複数の糸Yを、上側の階層から、巻取装置7等が設置されている下側の階層へ降ろす糸降ろし作業を行う。糸掛け作業とは、紡糸装置3からの糸Yを所定の経路に沿って引取部6にセットした後、巻取装置7のボビンBに固定する作業を意味する。この糸掛け作業により、巻取装置7が糸Yを巻き取ってパッケージPを形成することができる状態になる。
【0063】
下側の階層において、インターフロアチューブ8の下流側開口の近傍には、糸保持装置14が設けられている。糸保持装置14は、吸引装置14a、及び図略のカッタを備える。下流側の紡糸引取装置4の部分(例えば引取部6又は巻取装置7)等において、糸Y又は各装置に何らかの異常が発生した場合に、糸保持装置14は、紡糸装置3から下流側へ走行する複数の糸Yをカッタによって切断する。更に、糸保持装置14は、切断された上流側(紡糸装置3側)の複数の糸Yを吸引装置14aで吸引することによって一時的に保持する。このように、紡糸装置3により紡出された複数の糸Yは、糸保持装置14の吸引装置14aの内部に吸引され、引取部6及び巻取装置7へ走行せず、保持される。糸保持装置14による糸の保持は、異常が解消されるまで継続される。
【0064】
図2に示すように、糸保持装置14よりも下流側かつ引取部6よりも上流側には、糸規制ガイド12が設置されている。糸規制ガイド12は、例えば、糸Yの数に応じて16個の案内溝が形成された櫛歯状の部材とすることができる。糸規制ガイド12は、下側の階層であって、引取部6の近傍に位置する。糸規制ガイド12は、複数の紡糸巻取ユニット1が並ぶ方向と平行な方向において移動可能に設けられている。糸規制ガイド12は、例えばシリンダからなる図略のガイド駆動部により駆動される。
【0065】
引取部6は、上側の階層から降ろされてくる複数の糸Yを引き取るために用いられる。引取部6は、引取フレーム60と、2つのゴデットローラ61,62と、を備える。以下の説明では、糸Yの走行方向において、上流側に位置するゴデットローラを上流ゴデットローラ61と称し、下流側に位置するゴデットローラを下流ゴデットローラ62と称する。
【0066】
糸Yの巻取り時、糸規制ガイド12は実質的に、上流ゴデットローラ61の真上に位置する。以下の説明においては、当該位置を「動作位置」と称する。
【0067】
糸掛け作業のとき、糸規制ガイド12は、上流ゴデットローラ61の真上から左右方向にずれた位置に位置する。これにより、糸掛け作業を容易に行うことができる。以下の説明においては、糸掛け作業時における糸規制ガイド12の位置を「準備位置」と称する。
【0068】
上流ゴデットローラ61は、糸規制ガイド12の動作位置のほぼ真下に位置するように、引取フレーム60に配置されている。一方、下流ゴデットローラ62は、図2の鎖線矢印で示すように、上流ゴデットローラ61に近接した糸掛け位置と、巻取装置7の直上に位置するパッケージ形成位置と、の間で移動可能である。
【0069】
糸掛け作業時、下流ゴデットローラ62は、上流ゴデットローラ61の近傍の糸掛け位置に下降する。糸掛け作業が終了すると、下流ゴデットローラ62は、パッケージ形成位置まで上昇する。
【0070】
巻取装置7は、引取部6から走行してくる複数の糸Yを巻き取ってパッケージPを形成する。巻取装置7は、ターレット71と、2本のボビンホルダ72と、トラバース装置73と、接触ローラ74と、糸掛け装置75と、支点ガイド(糸ガイド)76と、を主として備える。
【0071】
ターレット71は、回転可能に設置されている。ターレット71には、2本のボビンホルダ72のそれぞれが回転可能に支持されている。それぞれのボビンホルダ72は、前後方向に細長く形成されている。2本のボビンホルダ72は、ターレット71の回転軸を挟んで互いに反対側に配置されている。ターレット71が回転することによって、2本のボビンホルダ72の位置が入れ替わる。
【0072】
具体的には、2本のボビンホルダ72は、上側の巻取位置と、下側の待機位置と、のそれぞれに位置する。巻取位置にあるボビンホルダ72は接触ローラ74と近接しており、待機位置にあるボビンホルダ72は接触ローラ74から離れている。各ボビンホルダ72には、複数のボビンBが装着されている。複数のボビンBは、ボビンホルダ72の長手方向に並べられている。
【0073】
トラバース装置73は、複数のボビンBに対応して、複数のトラバースガイド73aを備える。各トラバースガイド73aは、それぞれのボビンBに対応するように配置される。各トラバースガイド73aがボビンホルダ72の長手方向と平行な方向に往復移動することで、糸YがトラバースされつつボビンBに巻き取られる。
【0074】
接触ローラ74は、それぞれのボビンBに形成された複数のパッケージPの外周面に接触して、当該複数のパッケージPのそれぞれに接圧を付与する。
【0075】
糸掛け装置75は、糸掛け作業時に用いられる糸掛け具90を備える。糸掛け作業において、複数の糸Yが当該糸掛け具90によって分離される。これにより、それぞれの糸Yを所定の場所に掛けることが容易となり、作業性が向上する。
【0076】
複数の支点ガイド76は、トラバース装置73の上流側に、複数のトラバースガイド73aに対応して配置されている。支点ガイド76は、トラバースガイド73aのトラバースストロークの中央に相当する位置に配置される。
【0077】
複数の支点ガイド76は、図示しない駆動装置によって、前後方向に適宜移動することができる。この結果、巻取装置7を、隣り合う支点ガイド76の間隔が通常の長さである図2の状態と、通常より短い長さである図5及び図6の状態と、の間で適宜切り換えることができる。
【0078】
糸掛け装置75は、ガイドレール95と、糸掛けアーム96と、糸掛け具90と、を備える。
【0079】
ガイドレール95は、直線状に細長く形成された部材である。ガイドレール95には、後述する糸掛けアーム96の先端部が連結されている。これにより、糸掛けアーム96の先端部は、ガイドレール95の長手方向に沿って移動することができる。
【0080】
ガイドレール95は、概ね前後方向に沿って配置される。ガイドレール95は、その後端部分近傍に配置された上下方向の回転軸を中心として、所定の角度範囲で回転することができる。ガイドレール95には、図示しない第1駆動装置が連結されている。この第1駆動装置の構成は任意であるが、例えば流体シリンダ、モータ等によって構成することができる。第1駆動装置が駆動されることで、ガイドレール95の姿勢を変化させることができる。
【0081】
糸掛けアーム96は、細長く形成された部材である。糸掛けアーム96は、概ね前後方向に沿って配置される。糸掛けアーム96の基端部には、図示しない第2駆動装置が連結されている。この第2駆動装置の構成は任意であるが、例えば流体シリンダ、モータ等によって構成することができる。第2駆動装置が駆動されることで、糸掛けアーム96の基端部を、概ね前後方向に押したり引いたりすることができる。この結果、糸掛けアーム96の先端部を、ガイドレール95に沿って移動させることができる。
【0082】
糸掛け具90は、糸掛けアーム96の先端部に固定される。糸掛け具90は、図3に示すように、櫛型に形成された本体部(本体)91と、棒状ガイド部(ガイド)92と、を主として備える。
【0083】
本体部91は、細長い板状の部材から形成されている。本体部91は、例えば金属により構成することができる。本体部91には、複数の櫛歯91aが、本体部91の長手方向に並べて形成されている。互いに隣接する2つの櫛歯91aの間に、分糸溝(溝)91bが形成される。即ち、本体部91には、複数の分糸溝91bが、本体部91の長手方向に並べて形成されている。以下では、本体部91の長手方向及び厚み方向の両方に対して垂直な方向を、本体部91の幅方向と呼ぶことがある。
【0084】
本実施形態の本体部91には、例えば、糸Yの数に応じて、16個の分糸溝91bが形成されている。1つの分糸溝91bにつき1本の糸Yが取り込まれることで、16本の糸Yが分離される。
【0085】
図3及び図4に示すように、それぞれの分糸溝91bは、本体部91の幅方向一側の縁に開口を形成している。この開口から、糸Yが取り込まれる。以下の説明においては、本体部91の幅方向のうち、分糸溝91bの開口が形成されている側を「開口側」と称し、その反対側(櫛歯91aの根元部分が位置する側)を本体部91の「根元側」と称することがある。
【0086】
分糸溝91bにおいて、根元側に位置する端部である奥部は、図4(a)に示すように、本体部91の長手方向に沿う直線状に並んで位置する。本体部91の開口側における分糸溝91bの幅(本体部91の長手方向における隙間の大きさ)は、根元側における分糸溝91bの幅より大きく形成されている。これにより、糸Yを分糸溝91bへ容易に入れることができる。
【0087】
本体部91の長手方向先端部に位置する分糸溝91bを除いて、分糸溝91bの長手方向中途部には傾斜部が配置され、分糸溝91bは折れ線状となっている。この結果、図4等に示すように、互いに隣接する2つの分糸溝91b同士の間の間隔は、本体部91の開口側より、根元側のほうが大きい。これにより、複数の分糸溝91bに入った複数の糸Yを、その間隔を広げた状態で保持することができる。
【0088】
棒状ガイド部92は、細長い棒状部材である。棒状ガイド部92の長手方向と垂直な面(言い換えれば、本体部91の長手方向と垂直な面)で棒状ガイド部92を切断した断面は、円状である。棒状ガイド部92は、例えば耐摩耗性を有するセラミックから構成される。
【0089】
本実施形態においては、棒状ガイド部92は、その断面としての円の直径D1が本体部91の厚みT1より大きくなるように形成されている(D1>T1)。これにより、糸掛け具90に掛けられた状態での糸Yの屈曲を、より緩やかにすることができる。
【0090】
棒状ガイド部92は、図4に示すように、本体部91の厚み方向一側の面に取り付けられている。棒状ガイド部92は、本体部91との間に隙間なく、互いに接触した状態で配置される。棒状ガイド部92は、例えば、その長手方向両端が本体部91に取外し可能に固定されている。
【0091】
棒状ガイド部92を本体部91に取り付ける方法は任意である。例えば、図4に示すように、棒状ガイド部92の両端が取付部材93にそれぞれ固定される。棒状ガイド部92の取付部材93への固定の方法としては、例えば、取付部材93に形成されている凹部へ棒状ガイド部92を差し込むこと等が考えられるが、これに限定されない。2つの取付部材93のそれぞれが、着脱可能なボルト等を介して、本体部91に取り付けられる。これにより、取付部材93を本体部91から外すと、棒状ガイド部92が本体部91から取り外されることとなる。取付部材93の本体部91に対する取付位置は、本体部91の根元側において、分糸溝91bと重複しないように定められる。これにより、分糸溝91bに入っている糸Yが取付部材93に引っ掛かることを防止できる。
【0092】
本実施形態の棒状ガイド部92は、図4に示すように、分糸溝91bの奥部に対応する位置で、複数の分糸溝91bの奥部が並ぶ直線に沿って延びるように設けられている。図4(a)に示す平面視において、棒状ガイド部92は、その一部が分糸溝91bから露出するように設けられている。即ち、平面視において、棒状ガイド部92の一部が分糸溝91bと重複している。
【0093】
この構成により、分糸溝91bに入った糸Yは、棒状ガイド部92の外周面の一部と接触し易くなる。
【0094】
次に、糸掛け作業について、図5から図8までを参照して詳細に説明する。図5は、糸Yを糸掛け具90に入れる作業を示す部分斜視図である。図6は、糸Yが糸掛け具90に掛けられた状態を示す部分斜視図である。図7は、糸Yが糸掛け具90に掛けられた状態を示す、図6とは別の角度で見た拡大斜視図である。図8は、糸Yが本体部91及び棒状ガイド部92の両方に接触する場合を示す断面図である。図7以降において、取付部材93は、図面の簡潔さのために省略されている。
【0095】
オペレータは、必要に応じて、巻取装置7による糸Yの巻取りを開始(再開)する前に、上側の階層の紡糸装置3から紡出された複数の糸Yを引取部6等に引っ掛ける糸掛け作業を行う。糸掛け作業を行う必要がある場合としては、例えば、パッケージPの形成開始前の準備段階、又は、何らかの原因により糸切れが発生した場合等が考えられる。
【0096】
本実施形態においては、オペレータが適宜の工具を用いて手作業を行うことにより、紡糸装置3からの複数の糸Yが上側の階層から下側の階層まで降ろされる。続いて、複数の糸Yに対する糸掛け作業が、糸掛け装置75によって、本実施形態の糸掛け具90を用いて自動的に行われる。
【0097】
糸掛け作業時には、オペレータは、紡糸引取装置4の前側に立って作業を行う。先ず、オペレータは、紡糸引取装置4の図略の操作部から、糸掛け準備のための指令を入力する。
【0098】
糸掛け準備の指令が入力されると、図略の制御装置は、下記の糸掛け準備動作を紡糸引取装置4に行わせる。まず、制御装置は、図略の昇降用モータを動作させて、下流ゴデットローラ62が図2等に示すパッケージ形成位置にある状態から下降させ、上流ゴデットローラ61の近傍の糸掛け位置まで移動させる。また、制御装置は、全ての支点ガイド76を糸掛け位置に移動させ、紡糸引取装置4の前側に集中して配置させる。この結果、支点ガイド76は、通常よりも前側へ間隔を詰めて位置する。
【0099】
紡糸引取装置4の糸掛け準備動作が完了すると、オペレータは、上方の紡糸装置3から降りてくる複数の糸Yを、図略のサクションガンで吸引して保持する。更に、オペレータは、サクションガンを操作して、巻取装置7の前端部上方において互いに近接して配置された2つのゴデットローラ61,62に、複数の糸Yを順に掛けていく。
【0100】
2つのゴデットローラ61,62への糸掛けが完了した後、オペレータは、上述の糸掛け装置75を操作する。この結果、糸掛け装置75は、糸掛け具90を用いて、複数の支点ガイド76のそれぞれに複数の糸Yを掛ける。
【0101】
以下、支点ガイド76への糸掛け作業について具体的に説明する。糸掛け作業を開始する前に、複数の糸Yを吸引しているサクションガンは、例えば、紡糸巻取ユニット1の前部近傍の床等、所定の位置に置かれる。更に、オペレータは、第1駆動装置及び第2駆動装置を駆動し、糸掛けアーム96が前方へ伸び、かつ、ガイドレール95が左前方へ向けられた状態である、図5の状態としておく。
【0102】
続いて、オペレータは、第2駆動装置を駆動させる。この結果、糸掛けアーム96が後方へ縮むので、糸掛けアーム96は図5の白抜き矢印で示すように後方へ移動する。この結果、下流ゴデットローラ62と図略のサクションガンとの間で走行する複数の糸Yに対して、糸掛け具90の本体部91の開口側を前方から後方に向かって差し込む。
【0103】
上記の作業により、複数の糸Yは、本体部91に形成された複数の分糸溝91bのそれぞれに1本ずつ挿入される。従って、複数の糸Yが分糸された状態で分糸溝91bに保持されることになる。このとき、複数の糸Yは、紡糸装置3から紡糸引取装置4へ継続的に供給されると同時に、下流側のサクションガンによって吸引されている。従って、糸掛け具90の本体部91に保持された糸Yにはテンションが作用しており、糸Yが分糸溝91bから勝手に外れることはない。
【0104】
複数の糸Yを糸掛け具90に掛けた状態で糸掛け具90を移動させることにより、糸掛け具90は、図6に示す位置まで移動する。
【0105】
サクションガンが紡糸巻取ユニット1の前側に位置しているため、糸掛け具90が紡糸巻取ユニット1の後方に移動すると、図6に示すように、複数の糸Yが、糸掛け具90の部分で屈曲した状態で走行する。
【0106】
具体的に説明すると、複数の糸Yは、図8に示すように分糸溝91bの奥部において本体部91に接触し、この部分で少し屈曲される。同時に、複数の糸Yは、糸掛け具90が備える棒状ガイド部92の外周面の一部に接触しながら屈曲される。棒状ガイド部92の硬度は本体部91の硬度よりも大きい。従って、棒状ガイド部92が摩耗しにくいので、メンテナンス作業の頻度及びコストを低減することができる。
【0107】
図8に示すように、それぞれの糸Yに関し、本体部91との接触部分C1における接触長よりも、棒状ガイド部92との接触部分C2における接触長が長い。また、棒状ガイド部92が有する曲面の曲率半径は、分糸溝91bにおいて糸Yと接触する部分の曲率半径よりも大きい。従って、糸Yの走行に伴う本体部91及び棒状ガイド部92の摩耗を良好に抑制できる。また、糸Yの屈曲を効果的に緩和することができるので、糸Yの走行が円滑になる。
【0108】
次に、オペレータは、第2駆動装置を駆動する。この結果、ガイドレール95が図6の破線矢印のように回転し、ガイドレール95が右前方へ向けられた状態となる。次に、オペレータは、第1駆動装置を駆動する。この結果、糸掛けアーム96が前方へ伸びるので、糸掛けアーム96の先端部は、図6の白抜き矢印で示すように左前方へ移動する。これに伴って、糸掛け具90は、複数の支点ガイド76の下方を通過するように移動する。このときの糸掛け具90の移動方向は、前方に行くに従って分糸溝91bが支点ガイド76側に寄せられるような、やや傾斜した方向である。
【0109】
この糸掛け具90の移動の結果、各々の分糸溝91bが、支点ガイド76の配列方向(即ち、前後方向)に対して傾斜した方向に移動する。従って、分糸溝91bに分離状態で保持されている複数の糸Yが、1列に配列された複数の支点ガイド76に導かれ、それぞれ掛けられていく。
【0110】
全ての支点ガイド76への糸掛けが完了した後、オペレータは、紡糸巻取ユニット1の操作部から巻取準備の指令を入力する。巻取準備の指令が入力されると、制御装置は、下記の巻取準備動作を紡糸巻取ユニット1に行わせる。
【0111】
制御装置は、図略の昇降用モータにより、下流ゴデットローラ62を前側の糸掛け位置から後側のパッケージ形成位置へ後退及び上昇させる。また、制御装置は、複数の支点ガイド76を移動させ、間隔が通常である状態へ戻す。この結果、支点ガイド76の間隔が大きくなる。それと同時に、又はその少し前に、制御装置は巻取装置7の巻取動作を開始させる。
【0112】
オペレータは、複数の糸YのそれぞれをそれぞれのボビンBに接触させるように、サクションガンをボビンホルダ72よりも下方の所定位置に移動させる。ボビンBが回転するのに連動して、トラバースガイド73aがボビンBの軸方向と平行な方向に往復移動する。トラバースガイド73aの往復移動中に、それぞれのトラバースガイド73aに糸Yが掛けられる。その後は、トラバースガイド73aの案内によって、糸YをボビンBにトラバースしながら巻き取ることができる。この結果、パッケージPを形成することができる。
【0113】
以上に説明したように、本実施形態の糸掛け具90は、複数の糸Yを複数の支点ガイド76にそれぞれ糸掛けするために用いられる。この糸掛け具90は、本体部91と、棒状ガイド部92と、を備える。本体部91は、糸Yを入れるための複数の分糸溝91bが並べて形成された板状に形成されている。棒状ガイド部92は、本体部91の厚み方向の少なくとも一側に配置され、複数の分糸溝91bに跨るように配置される。棒状ガイド部92は本体部91と異なる部材である。棒状ガイド部92の硬度が本体部91の硬度よりも大きい。本体部91の厚み方向で見たときに、分糸溝91bと棒状ガイド部92が一部重複して配置されている。
【0114】
これにより、糸掛け具90において、簡素な構成で、糸Yに接触する部分が摩耗しにくくなる。この結果、メンテナンス作業の頻度及びコストを低減することができる。また、分糸溝91bと棒状ガイド部92の一部重複配置により、硬度が高い棒状ガイド部92に対する糸Yの接触長を容易に増加することができる。従って、棒状ガイド部92が摩耗しにくくなる。
【0115】
本実施形態の糸掛け具90において、棒状ガイド部92が本体部91に着脱可能に取り付けられている。
【0116】
これにより、棒状ガイド部92が摩耗した場合でも、交換を容易に行うことができる。
【0117】
本実施形態の糸掛け具90において、棒状ガイド部92は細長く形成されている。棒状ガイド部92の長手方向両端が本体部91に固定されている。
【0118】
これにより、棒状ガイド部92の外周面が糸Yに接触可能な状態で、簡素な構成で、棒状ガイド部92を本体部91に固定することができる。
【0119】
本実施形態の糸掛け具90において、棒状ガイド部92は本体部91と接触した状態で配置されている。
【0120】
これにより、棒状ガイド部92のガタツキ等を防止することができる。
【0121】
本実施形態の糸掛け具90において、棒状ガイド部92は曲面を有する。
【0122】
これにより、棒状ガイド部92の曲面に糸Yを接触させることで、糸Yを滑らかに曲げることができる。
【0123】
本実施形態の糸掛け具90において、棒状ガイド部92は細長く形成されている。棒状ガイド部92の長手方向と垂直な棒状ガイド部92の断面は、円形である。
【0124】
これにより、棒状ガイド部92との接触部分において、糸Yを滑らかに曲げることができる。
【0125】
本実施形態の糸掛け具90において、棒状ガイド部92の断面の直径は、本体部91の厚みよりも大きい。
【0126】
これにより、糸Yと棒状ガイド部92との接触長を長くすることができる。
【0127】
本実施形態の糸掛け具90において、棒状ガイド部92は、セラミックス製である。
【0128】
これにより、棒状ガイド部92の耐摩耗性を向上することができる。
【0129】
本実施形態の糸掛け具90においては、複数の分糸溝91bにおいて、隣接する2つの分糸溝91bの、糸Yを入れる開口側における間隔よりも、当該開口側と反対側である奥部側の間隔が大きい。
【0130】
これにより、奥部に導かれた糸Y同士の間隔が大きくなるので、糸Yを1本ずつ支点ガイド76に掛ける作業を容易に行うことができる。
【0131】
本実施形態の巻取装置7は、紡糸装置3から連続的に紡出された糸Yの巻取りを行う。巻取装置7は、支点ガイド76と、糸掛け装置75と、を備える。支点ガイド76は、糸Yを案内する。糸掛け装置75は、糸掛け具90を用いて、紡糸装置3から連続的に紡出された糸Yを支点ガイド76に掛ける。糸掛け装置75が糸掛け具90を動かす過程における少なくとも何れかの時点で、糸Yが棒状ガイド部92の部分で屈曲する。
【0132】
これにより、糸掛け装置75が備える糸掛け具90において、簡素な構成で、糸Yに接触する部分が摩耗しにくくなる。この結果、メンテナンス作業の頻度及びコストを低減することができる。また、分糸溝91bと棒状ガイド部92の一部重複配置により、糸Yの棒状ガイド部92に対する接触長を容易に増加することができる。従って、棒状ガイド部92が摩耗しにくくなる。
【0133】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。変更は単独で行われても良いし、複数の変更が任意に組み合わせて行われても良い。
【0134】
図7のように糸掛け具90に糸Yを掛けた状態で、糸Yは図8に示すように、分糸溝91bの奥部と、棒状ガイド部92と、の両方に接触している。これに代えて、図9に示すように、糸Yが分糸溝91bの奥部に接触せずに棒状ガイド部92にだけ接触しても良い。「糸Yの分糸溝91bに対する接触長よりも、糸Yの棒状ガイド部92に対する接触長が長い」ことには、図9のように、糸Yが分糸溝91bに接触せず棒状ガイド部92だけに接触している場合が含まれる。図9の場合は、糸Yとの接触に伴う摩耗は棒状ガイド部92にだけ生じるので、棒状ガイド部92を交換することにより、摩耗に関するメンテナンス作業は完了する。
【0135】
棒状ガイド部92は、分糸溝91bの奥部が並ぶ方向に対して、多少傾斜した向きで配置されても良い。
【0136】
本体部91の厚み方向で見たときに、棒状ガイド部92が分糸溝91bに対して重複しない位置に配置されても良い。図10には、本体部91の厚み方向で見たときに、棒状ガイド部92が分糸溝91bの奥部と接している変形例が示されている。図10の構成は、本体部91として従来の構成の糸掛け具を使用し、棒状ガイド部92を取り付けた場合に、分糸溝91bの有効深さが既存の糸掛け具と実質的に等しくなる。従って、従来の巻取装置に対して大幅な改造を必要とせずに適用できる点で優れている。
【0137】
棒状ガイド部92が分糸溝91bに対して重複しない場合でも、糸掛け具90の部分で糸Yをある程度屈曲させることで、図8で説明したような、糸Yが分糸溝91bと棒状ガイド部92の両方に接触する状態を実現することができる。
【0138】
図5で説明した、糸掛け装置75が糸Yを糸掛け具90の分糸溝91bに入れるときの下流ゴデットローラ62、糸掛け具90、及びサクションガンのそれぞれの位置を、適宜変更することができる。この結果、糸Yの経路の位置及び向きを変更することができる。従って、本体部91の厚み方向で見たときに棒状ガイド部92と分糸溝91bの奥部とが接している上述の変形例であっても、図10に示すように、糸Yが棒状ガイド部92にだけ接触し、分糸溝91bの奥部と接触しない状態を実現することができる。図10に示すように、糸Yは、棒状ガイド部92との接触部分において少し屈曲する。糸掛け具90に糸Yが掛けられてから図6の位置へ糸掛け具90が移動する過程で、例えば下流ゴデットローラ62が糸掛け位置からパッケージ形成位置へ連動して移動するように制御することで、糸Yが棒状ガイド部92にだけ接触している図10の状態を維持することができる。
【0139】
棒状ガイド部92は、取付部材93を介さずに、例えば接着剤等によって本体部91に直接取り付けられても良い。言い換えれば、棒状ガイド部92が取外し不能に本体部91に固定されても良い。
【0140】
棒状ガイド部92と本体部91との間に適宜の隙間が形成されても良い。
【0141】
棒状ガイド部92の断面は、円形とすることに代えて、例えば楕円形とすることができる。棒状ガイド部92の表面全てが曲面でなくても良い。例えば、棒状ガイド部92の断面を、例えば、矩形の4つの角部のうち1つだけに円弧を形成したような形状とし、この円弧部分に相当する曲面に糸Yが接触するように構成することもできる。
【0142】
棒状ガイド部92の断面の円の直径D1は、糸掛け具90の厚みT1と等しくても良い(D1=T1)。直径D1が厚みT1より小さくても良い(D1<T1)。
【0143】
棒状ガイド部92は、本体部91に対して、高温強度が大きくなるように形成されても良い。この構成の棒状ガイド部92は、糸Yとの接触による摩擦熱に良好に耐えることができる。棒状ガイド部92は、本体部91に対して、剛性及び破壊靭性のうち少なくとも何れかが大きくなるように形成されても良い。この構成の棒状ガイド部92は、糸Yが押し付けられることにより発生するモーメントに良好に耐えることができる。
【0144】
棒状ガイド部92は、セラミックスに代えて、例えば、適宜の表面加工を施した金属から構成することができる。
【0145】
糸掛け具90を、紡糸巻取ユニット1の前後方向に移動させる図略の案内レールを備えても良い。この場合、糸掛け作業時に、紡糸巻取ユニット1の前後方向における糸掛け具90の移動が自動的に行われても良い。
【0146】
上記の実施形態において、棒状ガイド部92は、本体部91の、糸掛け作業時に下流側を向く面に取り付けられている。この代わりに、棒状ガイド部92が、本体部91において上流側を向く面に取り付けられても良い。本体部91の厚み方向の両側の面に、棒状ガイド部92がそれぞれ取り付けられても良い。
【0147】
断面円形状の棒状ガイド部92を、その軸心を中心として角度を変更可能に構成しても良い。棒状ガイド部92がある程度摩耗した場合、棒状ガイド部92の角度を変更することにより、棒状ガイド部92において摩耗していない部分に糸Yが接触するようにすることができる。
【0148】
複数の分糸溝91bにおいて、隣接する2つの分糸溝91bの、糸Yを入れる開口側における間隔と、当該開口側と反対側である奥部側の間隔と、が等しくても良い。
【0149】
細長い形状の棒状ガイド部92に代えて、例えばブロック状のガイドが糸掛け具90に設けられても良い。
【0150】
糸掛け作業は、オペレータが手に持った糸掛け具90を用いて手作業で行っても良い。この場合、ガイドレール95、糸掛けアーム96等を省略することができる。
【符号の説明】
【0151】
76 支点ガイド(糸ガイド)
90 糸掛け具
91 本体部(本体)
91b 分糸溝(溝)
92 棒状ガイド部(ガイド)
Y 糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-11-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0101
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0101】
以下、支点ガイド76への糸掛け作業について具体的に説明する。糸掛け作業を開始する前に、複数の糸Yを吸引しているサクションガンは、例えば、紡糸巻取ユニット1の前部近傍の床等、所定の位置に置かれる。更に、オペレータは、第1駆動装置及び第2駆動装置を駆動し、糸掛けアーム96が前方へ伸び、かつ、ガイドレール95が前方へ向けられた状態である、図5の状態としておく。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0108
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0108】
次に、オペレータは、第2駆動装置を駆動する。この結果、ガイドレール95が図6の破線矢印のように回転し、ガイドレール95が前方へ向けられた状態となる。次に、オペレータは、第1駆動装置を駆動する。この結果、糸掛けアーム96が前方へ伸びるので、糸掛けアーム96の先端部は、図6の白抜き矢印で示すように左前方へ移動する。これに伴って、糸掛け具90は、複数の支点ガイド76の下方を通過するように移動する。このときの糸掛け具90の移動方向は、前方に行くに従って分糸溝91bが支点ガイド76側に寄せられるような、やや傾斜した方向である。