(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079909
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】高増殖性細胞、その製造方法、およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240606BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240606BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20240606BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N15/113 Z
C07K14/435
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192595
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】505457994
【氏名又は名称】学校法人東京医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 和也
(72)【発明者】
【氏名】篠田 達也
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BC03
4B065BC07
4B065BD25
4B065CA23
4B065CA24
4B065CA44
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA72
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞増殖能が高められた高増殖性細胞およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】外胚葉性細胞の特徴を備え、以下のA1の発現挙動を示す、外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞。(A1)前記高増殖性細胞において、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量(E1)およびコントロール遺伝子の発現量(EC)によって決定される相対値(E1/EC)が、特定の基準範囲を充たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外胚葉性細胞の特徴を備え、以下のA1の発現挙動を示す、外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞。
(A1)前記高増殖性細胞において、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量(E
1)およびコントロール遺伝子の発現量(E
C)によって決定される相対値(E
1/E
C)が、下記表1で表される基準範囲を充たす。
【表1】
【請求項2】
外胚葉性細胞の特徴を備え、外胚葉性細胞を低分子シグナル伝達経路阻害剤と接触させた28日以下の培養期間後の細胞数が、前記阻害剤と非接触である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の細胞数に対して、1.0倍を超える増殖能を有する、高増殖性細胞。
【請求項3】
前記高増殖性細胞が、GFAP、SOX2、Musashi1、およびNestinから選択される少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量が、低分子シグナル伝達経路阻害剤と非接触である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の1.0倍以上である細胞を含む、請求項1または2に記載の高増殖性細胞。
【請求項4】
前記高増殖性細胞が、外胚葉性前駆細胞を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の高増殖性細胞。
【請求項5】
前記外胚葉性細胞が、アストロサイトを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の高増殖性細胞。
【請求項6】
高増殖性細胞の製造方法であって、
(i)原料となる外胚葉性細胞を用意すること、
(ii)低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下、前記原料となる外胚葉性細胞を培養することにより、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞を得ること
を含み、
前記(ii)において、前記阻害剤の存在下での培養期間が、28日以下である、高増殖性細胞の製造方法。
【請求項7】
高増殖性細胞の製造方法であって、
(i)原料となる外胚葉性細胞を用意すること、
(ii)低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下、前記原料となる外胚葉性細胞を培養することにより、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞を得ること
を含み、
前記(ii)において、条件a1、条件b1および条件c1からなる群より選択される少なくとも1つを充たすまで、前記阻害剤の存在下での培養を行う、高増殖性細胞の製造方法。
(a1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞において、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量(E
1)およびコントロール遺伝子の発現量(E
C)によって決定される相対値(E
1/E
C)が、下記表2で表される基準範囲を充たす。
【表2】
(b1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞の細胞数が、前記阻害剤の非存在下である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の細胞数に対して、1.0倍を超える。
(c1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞において、GFAP、SOX2、Musashi1、およびNestinから選択される少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量が、前記阻害剤の非存在下である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の1.0倍以上である。
【請求項8】
前記原料となる外胚葉性細胞が、中枢神経系の細胞を含む、請求項6または7に記載の高増殖性細胞の製造方法。
【請求項9】
前記原料となる外胚葉性細胞が、アストロサイトを含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の高増殖性細胞の製造方法。
【請求項10】
前記阻害剤が、TGFβ受容体阻害剤およびROCK阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の高増殖性細胞の製造方法。
【請求項11】
前記(ii)において、前記阻害剤の存在下での培養が、前記阻害剤を含む培地を用いた培養であり、前記培地における前記阻害剤の濃度が、0.001μM~100μMの範囲内である、請求項6~10のいずれか1項に記載の高増殖性細胞の製造方法。
【請求項12】
(I)請求項1~5のいずれか1項に記載の外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞の培養物を得ること、または、請求項6~11のいずれか1項に記載の製造方法を実施して高増殖性細胞の培養物を得ること、および
(II)前記培養物から、前記高増殖性細胞から分泌された細胞分泌物を分離すること
を含む、高増殖性細胞由来の細胞分泌物の製造方法。
【請求項13】
前記細胞分泌物が、エクソソームを含む、請求項12に記載の細胞分泌物の製造方法。
【請求項14】
タンパク質およびmiRNAの少なくとも一方を含む細胞分泌物であって、
前記タンパク質は、
糖タンパク質M6B(Q13491)、HLAクラスII組織適合抗原、DRα鎖(P01903)、トゥイーティーホモログ1(Q9H313)、フィブリリン-2(P35556)、HLAクラスII組織適合抗原、DRB1β鎖(P01911)、およびS100カルシウム結合タンパク質A8(P05109)の組み合わせを含み、
前記miRNAは、
hsa-miR-206(MIMAT0000462)、hsa-miR-204-5p(MIMAT0000265)、hsa-miR-128-3p(MIMAT0000424)、hsa-miR-363-3p(MIMAT0000707)、およびhsa-miR-323a-3p(MIMAT0000755)の組み合わせを含む、細胞分泌物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高増殖性細胞、その製造方法、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療の分野において、生体内の種々の細胞、種々の分化段階の細胞、または特定方向へ分化誘導された細胞等が利用されている。生体での使用を考慮すれば、これらの細胞については、遺伝子改変を伴わないことが望ましい。これまで、内胚葉性の成熟細胞に特定の低分子化合物を接触させることにより、遺伝子改変を伴うことなく、前記成熟細胞を、幹細胞または前駆細胞にリプログラミングできることが報告されている(特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/119512号
【特許文献2】国際公開第2020/080550号
【発明の概要】
【0004】
一方、遺伝子改変を行わずに得られる細胞、なかでも比較的、成熟細胞に近い細胞の多くは、増殖能に制限があって、長期にわたって生体内外で維持できない傾向がある。このため、細胞の機能の長期利用、または、細胞が生成する有用物質の大量生産等に有効な高増殖性の細胞に対する要請が、依然として残されている。特に、神経系の細胞を含む外胚葉性細胞については、内胚葉性細胞と異なり十分に利用できていない。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、高増殖性細胞、高増殖性細胞を製造する方法、およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、特定の性質を有する外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞を得た。
【0007】
すなわち、本開示は以下の形態を含む。
[1]外胚葉性細胞の特徴を備え、以下のA1の発現挙動を示す、外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞。
(A1)前記高増殖性細胞において、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量(E
1)およびコントロール遺伝子の発現量(E
C)によって決定される相対値(E
1/E
C)が、下記表1で表される基準範囲を充たす。
【表1】
[2]外胚葉性細胞の特徴を備え、外胚葉性細胞を低分子シグナル伝達経路阻害剤と接触させた28日以下の培養期間後の細胞数が、前記阻害剤と非接触である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の細胞数に対して、1.0倍を超える増殖能を有する、高増殖性細胞。
[3]前記高増殖性細胞が、GFAP、SOX2、Musashi1、およびNestinから選択される少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量が、低分子シグナル伝達経路阻害剤と非接触である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の1.0倍以上である細胞を含む、[1]または[2]に記載の高増殖性細胞。
[4]前記高増殖性細胞が、外胚葉性前駆細胞を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の高増殖性細胞。
[5]前記外胚葉性細胞が、アストロサイトを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の高増殖性細胞。
【0008】
[6]高増殖性細胞の製造方法であって、
(i)原料となる外胚葉性細胞を用意すること、
(ii)低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下、前記原料となる外胚葉性細胞を培養することにより、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞を得ること
を含み、
前記(ii)において、前記阻害剤の存在下での培養期間が、28日以下である、高増殖性細胞の製造方法。
[7]高増殖性細胞の製造方法であって、
(i)原料となる外胚葉性細胞を用意すること、
(ii)低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下、前記原料となる外胚葉性細胞を培養することにより、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞を得ること
を含み、
前記(ii)において、条件a1、条件b1および条件c1からなる群より選択される少なくとも1つを充たすまで、前記阻害剤の存在下での培養を行う、高増殖性細胞の製造方法。
(a1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞において、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量(E
1)およびコントロール遺伝子の発現量(E
C)によって決定される相対値(E
1/E
C)が、下記表2で表される基準範囲を充たす。
【表2】
(b1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞の細胞数が、前記阻害剤の非存在下である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の細胞数に対して、1.0倍を超える。
(c1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞において、GFAP、SOX2、Musashi1、およびNestinから選択される少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量が、前記阻害剤の非存在下である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の1.0倍以上である。
[8]前記原料となる外胚葉性細胞が、中枢神経系の細胞を含む、[6]または[7]に記載の高増殖性細胞の製造方法。
[9]前記原料となる外胚葉性細胞が、アストロサイトを含む、[6]~[8]のいずれか1項に記載の高増殖性細胞の製造方法。
[10]前記阻害剤が、TGFβ受容体阻害剤およびROCK阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む、[6]~[9]のいずれか1項に記載の高増殖性細胞の製造方法。
[11]前記(ii)において、前記阻害剤の存在下での培養が、前記阻害剤を含む培地を用いた培養であり、前記培地における前記阻害剤の濃度が、0.001μM~100μMの範囲内である、[6]~[10]のいずれか1項に記載の高増殖性細胞の製造方法。
【0009】
[12](I)[1]~[5]のいずれか1項に記載の外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞の培養物を得ること、または、[6]~[11]のいずれか1項に記載の製造方法を実施して高増殖性細胞の培養物を得ること、および
(II)前記培養物から、前記高増殖性細胞から分泌された細胞分泌物を分離すること
を含む、高増殖性細胞由来の細胞分泌物の製造方法。
[13]前記細胞分泌物が、エクソソームを含む、請求項12に記載の細胞分泌物の製造方法。
【0010】
[14]タンパク質およびmiRNAの少なくとも一方を含む細胞分泌物であって、
前記タンパク質は、
糖タンパク質M6B(Q13491)、HLAクラスII組織適合抗原、DRα鎖(P01903)、トゥイーティーホモログ1(Q9H313)、フィブリリン-2(P35556)、HLAクラスII組織適合抗原、DRB1β鎖(P01911)、およびS100カルシウム結合タンパク質A8(P05109)の組み合わせを含み、
前記miRNAは、
hsa-miR-206(MIMAT0000462)、hsa-miR-204-5p(MIMAT0000265)、hsa-miR-128-3p(MIMAT0000424)、hsa-miR-363-3p(MIMAT0000707)、およびhsa-miR-323a-3p(MIMAT0000755)の組み合わせを含む、細胞分泌物。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、高増殖性細胞、その製造方法、およびその用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1-1】
図1は、実施例1に係る培養後の外胚葉性細胞の形態を示し、
図1-1は、40倍の拡大図である。
【
図1-2】
図1-2は、実施例1に係る培養後の外胚葉性細胞の形態を示し、
図1-2は、100倍の拡大図である。
【
図2】
図2は、実施例5に係るNHA-YA由来エクソソームのプロテオーム解析により選出されたタンパク質を示す。
【
図3】
図3は、実施例5に係るNHA-YA由来エクソソームのプロテオーム解析により選出されたタンパク質を示す。
【
図4】
図4は、実施例5に係るNHA-YA由来エクソソームのプロテオーム解析により選出されたタンパク質を示す。
【
図5】
図5は、実施例6に係るNHA-YA由来エクソソームのmiRNA解析により選出されたパーキンソン病マーカーとしてのmiRNAを示す。
【
図6】
図6は、実施例6に係るNHA-YA由来エクソソームのmiRNA解析により選出されたアルツハイマー病マーカーとしてのmiRNAを示す。
【
図7】
図7は、実施例6に係るNHA-YA由来エクソソームのmiRNA解析により選出されたアルツハイマー病マーカーとしてのmiRNAを示す。
【
図8】
図8は、実施例6に係るNHA-YA由来エクソソームのmiRNA解析により選出されたアルツハイマー病マーカーとしてのmiRNAを示す。
【
図9】
図9は、実施例6に係るNHA-YA由来エクソソームのmiRNA解析により選出されたアルツハイマー病マーカーとしてのmiRNAを示す。
【
図10】
図10は、実施例6に係るNHA-YA由来エクソソームのmiRNA解析により選出されたうつ病マーカーとしてのmiRNAを示す。
【
図11-1】
図11は、実施例8に係るNHA-YA群の細胞の形態を示し、
図11-1は、N-D9(P3)、YA-D9(P3)、N-D28(P5)およびYA-D28(P5)の細胞の形態を示す。
【
図11-2】
図11は、実施例8に係るNHA-YA群の細胞の形態を示し、
図11-2は、N-D9(P6)、YA-D9(P6)、N-D28(P8)およびYA-D28(P8)の形態を示す。
【
図12】
図12は、本開示の細胞分泌物に含まれるmiRNAの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について例をあげて説明する。なお、各発明に関する記載は、特に述べない限り、それぞれの記載を援用できる。
【0014】
本明細書において、用語「細胞」は、特に断らない限り、少なくとも1つの細胞が含まれる用語として解釈される。このため、特に断らない限り、用語「細胞」が意味する細胞は、一細胞であることに限定されず、細胞集団と同義として使用され得る。
【0015】
本明細書において、用語「細胞集団」は、特に断らない限り、少なくとも1種類の細胞が含まれる用語として解釈される。このため、特に断らない限り、用語「細胞集団」が意味する細胞は、1種類の細胞であることに限定されない。
【0016】
「外胚葉」は、後生動物の発生途中に生ずる三胚葉の1つである。外胚葉は、胚の外側の層に由来し、皮膚、神経系、感覚器等に発達する。本明細書において、皮膚としては、例えば、表皮、髪、爪および皮膚腺が挙げられ、神経系としては、例えば、脳神経、脊髄および末梢神経が挙げられ、感覚器としては、例えば、視覚器、聴覚器、平衡覚器、味覚器、嗅覚器および触覚器が挙げられる。
【0017】
本明細書において、用語「前駆細胞(Progenitor cell)」は、特に断らない限り、成熟細胞に至るまでの分化段階の細胞であって、幹細胞から発生して体を構成する最終分化細胞へと分化することができる細胞を意味する。
【0018】
本明細書において、用語「低分子シグナル伝達経路阻害剤」は、単に「阻害剤」と称することもある。
【0019】
本明細書において、「遺伝子の発現量」は、例えば、直接的に、遺伝子そのものの発現量でもよいし、間接的に、その遺伝子がコードするタンパク質の発現量でもよい。このため、本明細書において、遺伝子の発現は、例えば、遺伝子がコードするタンパク質の発現に読み替え可能である。
【0020】
<1>高増殖性細胞
本開示の高増殖性細胞としては、第1の高増殖性細胞または第2の高増殖性細胞が挙げられる。
【0021】
まず、本開示の第1の高増殖性細胞は、前述のように、外胚葉性細胞の特徴を備え、以下のA1の発現挙動を示す、外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞である。
(A1)前記高増殖性細胞において、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量(E1)およびコントロール遺伝子の発現量(EC)によって決定される相対値(E1/EC)が、下記表1で表される基準範囲を充たす。
【0022】
【0023】
本開示において、前記マーカー遺伝子の発現量(E1)は、例えば、前記マーカー遺伝子がコードするタンパク質の発現量により表されてもよいし、前記コントロール遺伝子の発現量(EC)は、例えば、前記コントロール遺伝子がコードするタンパク質の発現量により表されてもよい。なお、相対値(E1/EC)は、例えば、マーカー遺伝子を用いる場合と、マーカー遺伝子がコードするタンパク質を用いる場合とで、同じ値であっても異なる値であってもよい。
【0024】
本開示において、高増殖性細胞(highly proliferating cells)(本明細書では、「HP細胞」と称することがある)とは、増殖能が高い細胞である。増殖能が高い細胞とは、例えば、対照細胞と比較して、細胞増殖活性がより高く、より短時間で増殖する性質、すなわち細胞倍加時間がより短いという性質、より長期間に亘って増殖する性質、またはこれら双方を充たす性質を備える細胞であることを意味する。
【0025】
本開示の高増殖性細胞は、外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞であり、高い細胞増殖能を示す。このため、本開示の高増殖性細胞は、例えば、長期間にわたる培養が可能であり、また、培養によって効率よく細胞数を増やすことができる。また、本開示の高増殖性細胞は、例えば、後述するような細胞分泌物を生成可能であるため、例えば、多数の細胞が得られることにより、前記細胞分泌物の回収量を増加させることができる。
【0026】
本開示の高増殖性細胞において、「増殖能が高い」とは、前述のように、前記対照細胞と比較して、より増殖能が高いことを意味する。前記対照細胞は、例えば、低分子シグナル伝達経路阻害剤と非接触の外胚葉性細胞である。ここで、高増殖性細胞に関連して言及される低分子シグナル伝達経路阻害剤については、後述する製造方法に関して記述されているものが該当する。
【0027】
本明細書において、「低分子シグナル伝達経路阻害剤と非接触の外胚葉性細胞」とは、例えば、前記阻害剤で処理されていない外胚葉性細胞、具体的には、前記阻害剤の存在下で培養されていない外胚葉性細胞である。前記外胚葉性細胞は、例えば、本開示の高増殖性細胞の製造方法において後述するように、前記阻害剤の存在下での培養によって、その増殖能が高められる。このため、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞、すなわち、前記阻害剤で処理されていない外胚葉性細胞は、増殖能の向上が誘導されていない細胞ということができ、本明細書では、「増殖未誘導の外胚葉性細胞」と称することがある。
【0028】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、外胚葉性細胞を原料として、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤存在下での培養によって得ることができ、具体例としては、後述する、本開示の高増殖性細胞の第1の製造方法または第2の製造方法(以下、あわせて「本開示の高増殖性細胞の製造方法」ともいう)により得ることができる。本開示の高増殖性細胞の製造方法において、原料として使用する外胚葉性細胞は、本明細書では、「原料細胞」と称することがある。前記原料細胞は、例えば、前記阻害剤と非接触である外胚葉性細胞、すなわち前記増殖未誘導の外胚葉性細胞である。本開示の高増殖性細胞が、例えば、前記本開示の高増殖性細胞の製造方法により得られた場合、本開示の高増殖性細胞は、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)と比較して、増殖能が高められた細胞ということができる。なお、本開示の高増殖性細胞は、例えば、以下に示す本開示の高増殖性細胞の特徴を示す限り、本開示の高増殖性細胞の製造方法に製造されるものには限定されず、その他の製造方法により製造されてもよい。
【0029】
本開示の高増殖性細胞については、特に示さない限り、後述する本開示の高増殖性細胞の第1の製造方法または第2の製造方法の記載を援用できる。具体的に、本開示の高増殖性細胞の説明において、例えば、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤、前記外胚葉性細胞(原料細胞)等は、前記本開示の高増殖性細胞の製造方法における記載を援用できる。
【0030】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、細胞集団でもよい。前記細胞集団は、例えば、HP細胞のみを含んでもよいし、HP細胞に加えて、それ以外の細胞を含んでもよい。前記それ以外の細胞とは、例えば、HP細胞よりも増殖能が低い細胞、すなわち、非高増殖性細胞(non-highly proliferating cells)(本明細書では、「non-HP細胞」と称することがある)でもよい。本開示の高増殖性細胞が、例えば、本開示の高増殖性細胞の製造方法で得られた場合、前記細胞集団は、HP細胞に加えて、前記それ以外の細胞として、例えば、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)と比較して増殖能が高められておらず、前記原料細胞の増殖能と変わらない細胞を含んでもよい。前記細胞集団におけるHP細胞の割合は、例えば、細胞数基準で、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上でもよい。
【0031】
本開示の高増殖性細胞において、その特徴は、コントロール遺伝子の発現量(EC)に対するマーカー遺伝子の発現量(E1)の相対値で表すことができる。具体的に、本開示の高増殖性細胞は、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の相対値(E1/EC)が、前記表1の基準範囲を充たせばよい。なお、CSPG4は、NG2と称されることもある。前記表1の基準範囲を充たすマーカー遺伝子は、例えば、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、または全てでもよい。
【0032】
各マーカー遺伝子の相対値(E1/EC)の基準範囲は、例えば、以下の基準を基に設定することができる。下記(1)または(2)における培養日数(28日超え、または28日以下)は、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下における前記原料細胞(前記外胚葉性細胞)の培養日数を意味する。
(1)28日超での培養で、前記マーカー遺伝子が発現している範囲を除く;および
(2)28日以下の培養で、前記マーカー遺伝子が発現している範囲である。
但し、28日以下の培養の全ての期間で、28日超での培養で前記マーカー遺伝子が発現している範囲が除かれている必要はない。
【0033】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、少なくともマーカー遺伝子GFAPの相対値(E1/EC)が、前記表1の基準範囲を充たすことが好ましい。また、本開示の高増殖性細胞において、前記表1の基準範囲を充たすマーカー遺伝子の組み合わせは、例えば、
GFAPとCSPG4との組み合わせ、
GFAPとMusashi1とCSPG4とSLC1A3との組み合わせ、
GFAPとMusashi1とNestinとCSPG4とSLC1A3との組み合わせ、
GFAPとMusashi1とCSPG4との組み合わせ、
GFAPとNestinとCSPG4とSLC1A3との組み合わせ、または、
GFAPとMusashi1とNestinとS100BとCSPG4とSLC1A3との組み合わせ等が例示できる。
【0034】
前記表1において、SLC1A3の基準範囲は、「>0.09」であり、好ましくは、「>0.090」である。また、前記表1において、CSPG4の基準範囲は、「<0.015」であり、好ましくは、「<0.0150」である。
【0035】
本開示の高増殖性細胞において、前記A1の発現挙動は、例えば、さらに前記マーカー遺伝子としてOLIG2を含み、前記コントロール遺伝子との相対値(E1/EC)が、基準範囲「<0.0001」を充たしてもよく、前記基準範囲は、好ましくは「<0.00010」である。
【0036】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、前記マーカー遺伝子の少なくとも1つの相対値(E1/EC)が、前記A1の基準範囲を充たし、且つ、前記マーカー遺伝子の少なくとも1つの相対値(E1/EC)が、下記表3の下限と上限の範囲を充たしてもよい。
【0037】
【0038】
前記コントロール遺伝子は、例えば、細胞の種類に関わらず、恒常的に発現する遺伝子が好ましく、例えば、beta-actin(ACTB)およびGlyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)が例示できる。前記表1におけるコントロール遺伝子は、例えば、GAPDHまたはACTBであり、好ましくはGAPDHである。
【0039】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、高い未分化性を示す細胞である。本開示の高増殖細胞について、未分化性が高いとは、例えば、前記対照細胞と比較して、未分化性がより高いことを意味する。前記対照細胞は、例えば、前述と同様に、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤と非接触の外胚葉性細胞、すなわち、前記増殖未誘導の外胚葉性細胞である。本開示の高増殖性細胞が、例えば、本開示の高増殖性細胞の製造方法により得られた場合、本開示の高増殖性細胞は、例えば、前記原料細胞と比較して、未分化性が高められた細胞ということができる。また、本開示において「高増殖性細胞」は、特に示さない限り、未分化性が高い高増殖性細胞の意味を包含する。本開示の高増殖性細胞が、未分化性が高い細胞であることは、例えば、未分化に関係するマーカーの発現挙動によって特定できる。前記マーカーは、例えば、遺伝子マーカーでもよいし、前記遺伝子マーカーでコードされるタンパク質マーカーでもよい。
【0040】
本明細書において、未分化性とは、例えば、分化の最終段階、換言すれば、それ以上分化しない段階に至る途中段階の細胞の特徴を有することを意味する。あるいは、未分化性とは、例えば、分化していない状態が維持されていることを意味し、未分化の性質を示す(例えば、幹細胞の性質を示す)、または、より未分化に近い分化段階の性質を示す(例えば、より幹細胞に近い性質を示す)ことを意味してもよい。
【0041】
本開示の高増殖性細胞の特徴は、前述のように、前記コントロール遺伝子に対する前記マーカー遺伝子の発現量の相対値(E1/EC)として特定でき、それ以外にも、例えば、同じ項目について、前記対照細胞との比較を行うことにより特定することもできる。前記項目(以下、特定項目ともいう)は、例えば、細胞の性質であり、具体的には、例えば、前述の増殖能、未分化性、マーカーの発現挙動等である。前記マーカーは、例えば、マーカー遺伝子でもよいし、前記マーカー遺伝子がコードするタンパク質(マーカータンパク質)でもよい。前記マーカー遺伝子および前記マーカータンパク質は、例えば、前述した遺伝子およびタンパク質には制限されず、その他に、以下に例示するようなマーカーを含んでもよい。
【0042】
前記高増殖性細胞と前記対照細胞との比較は、例えば、前記対照細胞として、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)を使用し、以下のように評価することができる。
【0043】
前記評価の第1態様は、例えば、前記高増殖性細胞と前記対照細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)とを、それぞれ、前記阻害剤の非存在下で培養し、同じ項目について比較を行う。
【0044】
前記第1態様において、前記阻害剤を非存在下とする以外の他の培養条件は、特に制限されない。前記他の培養条件は、例えば、4×103細胞/cm2の播種密度、37℃の培養温度、5%CO2濃度等が挙げられる。また、培養期間(以下、培養期間Sともいう)は、特に制限されず、例えば、5~24日間である。前記培養期間は、例えば、前記項目に応じて、同一期間でもよいし、異なる期間でもよいが、同一期間が好ましい。また、培養に使用する培地は、特に制限されず、後述する本開示の高増殖性細胞の製造方法において例示するものが使用できる。前記高増殖性細胞と前記対照細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)の各細胞の培養においては、例えば、前記阻害剤未添加の同一の培地を使用できる。
【0045】
つぎに、前記評価の第2態様は、例えば、前記阻害剤の存在下、28日以下の培養期間(以下、培養期間Tともいう)で前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)を培養することによって得られた前記高増殖性細胞と、前記阻害剤の非存在下、前記培養期間Tで培養した前記対照細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)とについて、同じ項目について比較を行う。前記培養期間Tは、例えば、後述する本開示の高増殖性細胞の製造方法における例示を援用できる。
【0046】
前記第2の態様において、前記阻害剤の有無および前記培養期間T以外の培養条件は、特に制限されない。前記他の培養条件は、例えば、4×103細胞/cm2の播種密度、37℃の培養温度、5%CO2濃度等が挙げられる。培養に使用する培地は、特に制限されず、後述する本開示の高増殖性細胞の製造方法において例示するものが使用できる。前記阻害剤存在下の前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)の培養と、前記阻害剤非存在下の前記対照細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)の培養は、例えば、前記阻害剤の有無以外は、同一の培地を使用でき、また、前記高増殖性細胞の製造および維持に適用される培養条件と同一の培養条件にて、実施できる。
【0047】
具体例として、前記高増殖性細胞の増殖能は、例えば、前記対照細胞の細胞数との比較により、以下のように評価できる。前記増殖能の評価には、前記対照細胞として、前述したように、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤と非接触の外胚葉性細胞、すなわち、前記増殖未誘導の外胚葉性細胞が使用できる。また、本開示の高増殖性細胞を、本開示の高増殖性細胞の製造方法によって製造した場合、前記対照細胞は、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)でもよい。
【0048】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、前記対照細胞に対して、以下のN1の増殖能を示し、前記対照細胞が、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)である。N1において、培養期間は、特に制限されず、例えば、前記培養期間Sで例示した日数が挙げられる。
(N1)前記高増殖性細胞と前記対照細胞とを、それぞれ、前記阻害剤の非存在下、同一の培養期間、同一の培養条件で培養した場合、得られた前記高増殖性細胞の細胞数(N1)と得られた前記対照細胞の細胞数(N1’)とが、(N1/N1’)>1.0を充たす。
【0049】
本態様において、得られた前記高増殖性細胞の細胞数(N1)と得られた前記対照細胞の細胞数(N1’)との比率(N1/N1’)は、例えば、前述のように、1.0倍超であり、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、または1.5倍以上でもよい。前記比率(N1/N1’)は、好ましくは、1.5倍以上である。
【0050】
本態様は、前記評価の第1態様が参照できる。この場合、前記高増殖性細胞および前記対照細胞を、それぞれ、前記阻害剤の非存在下、同一の培養期間、同一の培養条件により培養すればよい。前記阻害剤の有無および前記培養期間の項目以外で、さらに同一にする培養条件の項目は、例えば、前記阻害剤を含有しない培地の組成、播種密度、培養温度、CO2濃度等である。前記培養期間は、特に制限されず、前記培養期間Sで例示した日数が挙げられる。
【0051】
また、本開示の高増殖性細胞は、例えば、前記対照細胞に対して、以下のN2の増殖能を有し、前記対照細胞が、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)である。
(N2)前記阻害剤の存在下、28日以下の培養期間T、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)を培養して得られた前記高増殖性細胞の細胞数(N2)と、前記阻害剤の非存在下である以外は、前記培養期間T、同一の培養条件で培養して得られた前記対照細胞の細胞数(N2’)とが、(N2/N2’)>1.0を充たす。
【0052】
本態様において、得られた前記高増殖性細胞の細胞数(N2)と得られた前記対照細胞の細胞数(N2’)との比率(N2/N2’)は、例えば、前述のように、1.0倍超であり、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、または1.5倍以上でもよい。前記比率(N2/N2’)は、好ましくは、1.5倍以上である。
【0053】
本態様においては、前記評価の第2態様が参照できる。この場合、前記培養期間Tは、前述のように、その上限が、28日以下であり、例えば、20日、18日、14日、その下限が、例えば、1日、4日、5日、7日、その範囲が、例えば、1~28日、4~28日、5~28日、7~28日、7~20日、7~18日、7~14日である。本態様は、前記原料細胞と前記対照細胞とを、前者は前記阻害剤の存在下とし、後者は前記阻害剤の非存在下とする以外は、同一の培養期間T、同一条件により培養すればよい。また、前記培養期間Tの項目以外で、同一にする培養条件の項目は、例えば、培地の組成(前記阻害剤の有無は除く)、播種密度、培養温度、CO2濃度等である。
【0054】
評価方法としては、例えば、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)を、前記阻害剤含有培地および前記阻害剤未含有培地を使用した以外は、同一期間(例えば、5~14日間、または5~10日間)、同一条件で培養し、前記阻害剤含有培地で培養された細胞(すなわち、高増殖性細胞)の細胞数と、前記阻害剤未含有培地で培養された細胞(すなわち、原料細胞)の細胞数とを比較する方法が挙げられる。この他にも、例えば、前記原料細胞を前記阻害剤含有培地で28日以下の培養を行うことで得られた高増殖性細胞と、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)とを、それぞれ、前記阻害剤未含有培地で、同一期間(例えば、5~14日間、または5~10日)、同一条件で培養し、前者の細胞数と後者の細胞数とを比較する方法でもよい。
【0055】
また、前記高増殖性細胞は、前述のとおり、例えば、前記阻害剤の存在下、28日以下の培養期間(本明細書では、「期間T」とする。)で前記外胚葉性細胞を培養して得ることができる。こうして得られた前記高増殖性細胞の高増殖性は、例えば、次のように確認できる。すなわち、前述の培養で得られた前記高増殖性細胞の細胞数(本明細書では、「高増殖性細胞の細胞数N」とする。)が、前記阻害剤の非存在下である以外は、同一の培養期間、同一の培養条件で培養された前記外胚葉性細胞の細胞数(本明細書では、「外胚葉性細胞の細胞数N’」とする。)に対して、1.0倍を超える場合、高増殖能と評価する。
【0056】
一態様において、高増殖性細胞の細胞数Nは、外胚葉性細胞の細胞数N’の1.0倍超であれば、特に制限はなく、例えば、細胞数N’の1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上または1.5倍以上であってもよい。好ましくは、高増殖性細胞の細胞数Nが、外胚葉性細胞の細胞数N’の1.5倍以上である。
【0057】
前記高増殖性細胞は、前述のように、細胞に特有のマーカー、すなわち前記高増殖性細胞に特有のマーカー(例えば、遺伝子またはタンパク質)の発現によって特定してもよい。前記高増殖性細胞のマーカーの発現は、前述したように、前記マーカー遺伝子およびそれがコードする前記マーカータンパク質のいずれに基づいて確認してもよい。遺伝子またはタンパク質の発現の確認方法は、特に制限されず、例えば、発現の有無、測定方法に依存した具体的な発現量もしくは相対的な発現量、前記高増殖性細胞とは別の特定の細胞における同一遺伝子またはタンパク質の発現量との比較等よって行うことができる。
【0058】
本明細書では、前記マーカー(前記マーカー遺伝子または前記マーカータンパク質)の発現に関して、「陽性」または「陰性」と表現することがある。遺伝子またはタンパク質の発現に関して、一般的に、「陽性」とは、対象となる遺伝子またはタンパク質の発現が認められる場合を意味し、一方、「陰性」とは、対象となる遺伝子またはタンパク質の発現が認められない場合、または検出限界以下である場合を意味する。遺伝子またはタンパク質の発現に関して、「発現が高い」もしくは「陽性」、または「発現が低い」もしくは「陰性」と表現する場合、前記高増殖性細胞とは異なる特定の細胞を比較対照とすることができる。比較対照となる特定の細胞、すなわち、比較する「対照細胞」は、特に制限されず、対象となる遺伝子またはタンパク質の発現量が、極めて低い細胞(以下、低発現細胞ともいう)でもよく、極めて高い細胞(以下、高発現細胞ともいう)でもよい。前記低発現細胞は、例えば、対象となるマーカーの発現量が、検出限界以下であり検出できない細胞でもよい。
【0059】
前記高増殖性細胞と比較する前記対照細胞は、例えば、本開示の製造方法において原料となる外胚葉性細胞、すなわち前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)でもよい。また、前記対照細胞は、例えば、成熟細胞もしくはその前駆細胞であってもよい。前記対照細胞は、例えば、外胚葉性成熟細胞(以下、成熟細胞ともいう)でもよく、前駆細胞(以下、外胚葉性前駆細胞ともいう)でもよい。
【0060】
また、本開示の高増殖性細胞が、前記マーカーの発現に関し「陽性」であるとは、前記高増殖性細胞での前記マーカーの発現量が、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)での前記マーカーの発現量の1.0倍以上であることを意味することができる。これに対し、前記高増殖性細胞が、前記マーカーの発現に関し「陰性」であるとは、前記高増殖性細胞での前記マーカーの発現量が、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)での前記マーカーの発現量の1.0倍未満であることを意味することができる。
【0061】
本明細書において、前記マーカーの発現について、「同じかそれ以上」という場合は、特に示さない限り、比較する対照細胞における発現量に対して、1.0倍以上の発現量であることを意味する。
【0062】
前記高増殖性細胞の特定を、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)を前記対照細胞として、前記マーカーの発現の比較により行う場合、前記比較は、例えば、前述した、前記評価の第1態様、または前記評価の第2態様により行うことができる。
【0063】
すなわち、前記評価の第1態様の場合、前記高増殖性細胞および前記対照細胞は、例えば、前記阻害剤の非存在下、同一の培養期間S、同一条件により培養し、評価項目となる前記マーカーの発現を比較すればよい。前記阻害剤の項目以外で、さらに同一にする培養条件の項目は、例えば、培地の組成、播種密度、培養温度、CO2濃度等である。
【0064】
また、前記評価の第2態様の場合、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)と前記対照細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)とを、前者は前記阻害剤の存在下、後者は前記阻害剤の非存在下とする以外は、同一の培養期間T、同一条件により培養し、評価項目となる前記マーカーの発現を比較すればよい。前記培養期間Tの項目以外で、さらに同一にする培養条件の項目は、例えば、培地の組成(前記阻害剤の有無は除く)、播種密度、培養温度、CO2濃度等である。
【0065】
なお、前記評価の第2態様において、前記マーカーの発現の比較を行う場合、発現量の確認方法に供与する高増殖性細胞および外胚葉性細胞の培養条件は、阻害剤と接触または非接触であること以外は、同一とすることができる。前記培養条件は、例えば、細胞の状態、増殖性および細胞数等に基づいて、対象となる細胞が同一または極めて同一の状態となるように等、培養期間、細胞継代数および細胞密度等を調整でき、当業者は、細胞の状態に基づいて、条件を選択可能である。
【0066】
前記マーカーの発現量は、例えば、コントロールに対する発現量、すなわち、コントロールの発現量(EC)に対するマーカーの発現量(E1)の相対値(E1/EC)として表される。前記コントロールは、例えば、遺伝子またはタンパク質であり、具体例として、前記マーカーがマーカー遺伝子の場合は、遺伝子であり、前記マーカーがマーカータンパク質の場合は、タンパク質である。前記コントロールは、例えば、細胞の種類に関わらず、恒常的に発現する遺伝子またはタンパク質が好ましい。前記コントロール遺伝子としては、例えば、前述のように、ACTBおよびGAPDHが使用可能であり、前記コントロールタンパク質としては、例えば、ACTBタンパク質、GAPDHタンパク質が使用可能である。
【0067】
未分化性に関するマーカー(未分化性マーカー)としては、例えば、SOX2、Nestin、CSPG4、Musashi1(MSI1)、Notch1、PAX6等が挙げられる。これらの未分化性マーカーの発現挙動に基づいて、例えば、発現が陽性か否か、発現量が相対的に多いか否かによって、細胞の未分化性を評価できる。ここで、前記未分化性マーカーが陽性であるとは、例えば、前記阻害剤と未接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)での発現量と比較して、1.0倍以上であることを意味する。本開示の高増殖性細胞は、例えば、SOX2、Nestin、CSPG4、Musashi1(MSI1)、Notch1、およびPAX6からなる群より選択される少なくとも1つマーカー遺伝子が陽性である。本開示の高増殖性細胞は、例えば、SOX2、Nestin、CSPG4、Musashi1、Notch1、およびPAX6のうち、2種類以上が陽性でもよいし、全てが陽性でもよい。
【0068】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、前記未分化性マーカーに関し、以下の(1)~(6)からなる群から選択された少なくとも1つの細胞を含むことができる。以下の例示において、陽性とは、前述のように、例えば、前記阻害剤と未接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)での発現量と比較して、同じがそれ以上、具体例として、1.0倍以上であることを意味する。
(1)SOX2陽性細胞、好ましくは、さらに、Musashi1、Nestin、Notch1、およびS100Bからなる群から選択された少なくとも1つが陽性であり、CSPG4が陰性であるSOX2陽性細胞
(2)Musashi1陽性細胞、好ましくは、さらに、SOX2、Nestin、Notch1、およびS100Bからなる群から選択された少なくとも1つが陽性であり、CSPG4が陰性であるMusashi1陽性細胞
(3)Nestin陽性細胞、好ましくは、さらに、SOX2、Musashi1、Notch1、およびS100Bからなる群から選択された少なくとも1つが陽性であり、CSPG4が陰性であるNestin陽性細胞
(4)Notch1陽性細胞、好ましくは、さらに、SOX2、Musashi1、Nestin、およびS100Bからなる群から選択された少なくとも1つが陽性であり、CSPG4が陰性であるSOX2陽性細胞
(5)S100B陽性細胞、好ましくは、さらに、SOX2、Musashi1、Nestin、およびNotch1からなる群から選択された少なくとも1つが陽性であり、CSPG4が陰性であるS100B陽性細胞
(6)SOX2、Musashi1、Nestin、Notch1、およびS100Bからなる群から選択された少なくとも1つが陽性であり、CSPG4が陰性であるCSPG4陰性細胞
【0069】
本開示の高増殖性細胞は、前述のように、外胚葉性細胞を由来とする高い増殖能を有する細胞であればよく、その分化段階は問わない。本開示の高増殖性細胞の分化段階は、例えば、前駆細胞に特有のマーカー、成熟細胞に特有のマーカー、または、前駆細胞から成熟細胞に至る分化段階に特有のマーカーを検出することによって、特定できる。
【0070】
一態様において、本開示の高増殖性細胞は、例えば、未成熟な分化段階の細胞である。本開示の高増殖性細胞が、高増殖性を示し且つ未成熟な分化段階である場合、例えば、高増殖性を示す外胚葉性前駆細胞と呼ぶことができ、以下、「高増殖性外胚葉性前駆細胞または高増殖性前駆細胞」と称することもある。また、本開示において「高増殖性細胞」は、特に示さない限り、高増殖性前駆細胞を包含する。
【0071】
一態様において、本開示の高増殖性細胞は、例えば、成熟細胞に特有の少なくとも1つのマーカーを、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)と同じかそれ以上に発現し、かつ、前駆細胞に特有の少なくとも1つのマーカーを、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)と同じかそれ以上に発現することができる。
【0072】
成熟細胞に特有のマーカー遺伝子は、例えば、GFAP、S100B、およびSLC1A3を挙げることができる。これらは、例えば、外胚葉性細胞に分類されるグリア細胞、具体例として、アストロサイト等で、比較的高く発現している遺伝子である。これらの遺伝子およびこれらがコードするタンパク質は、外胚葉性成熟細胞をはじめとする成熟細胞について、成熟細胞であることを示すマーカーとして知られている。
【0073】
前駆細胞に特有のマーカー遺伝子は、例えば、CSPG4、Notch1、Nestin、およびSOX2等を挙げることができる。これらは、例えば、オリゴデンドロサイト前駆細胞、神経上皮細胞および放射状グリア細胞等で比較的高く発現している遺伝子である。これらの遺伝子およびこれらがコードするタンパク質は、外胚葉性前駆細胞をはじめとする前駆細胞について、前駆細胞であることを示すマーカーとして知られている。
【0074】
本開示の高増殖性細胞は、前述のように、高い増殖能を有し、前記A1の発現挙動を示す細胞であればよく、その他のマーカー(遺伝子またはタンパク質)に関しては、如何なる発現パターンを示す細胞でもよく、また、前記高増殖性細胞を含む細胞集団でもよい。本開示の高増殖性細胞は、例えば、次に挙げるようなマーカーの発現パターンを示すものでもよい。前記A1の発現挙動に加えて、以下に例示するマーカーの発現パターンにしたがって、本開示の高増殖性細胞を、例えば、迅速に特定し、抽出することもできる。
【0075】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、GFAPが陽性の細胞を含むことができる。この場合、前記高増殖性細胞は、例えば、GFAPを、前記対照細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)と同じかそれ以上に発現できる。具体例として、前記対照細胞に対するGFAPの発現量は、下限が、例えば、1.0倍以上、4.0倍以上であり、上限が、例えば、200倍以下である。
【0076】
他の一態様では、前記高増殖性細胞は、例えば、GFAPが陽性、かつ、CSPG4が陰性の細胞を含むことができ、または、GFAPを前記対照細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)と同じかそれ以上に発現し、かつ、CSPG4の発現量が前記対照細胞の発現量未満(1.0倍未満)とする細胞を含むことができる。他の一態様では、前記高増殖性細胞は、GFAPおよびS100Bが陽性、かつ、CSPG4が陰性の細胞を含むことができ、または、GFAPおよびS100Bを、前記対照細胞と同じかそれ以上に発現し、かつ、CSPG4の発現量を前記対照細胞の発現量未満(1.0倍未満)とする細胞を含むことができる。
【0077】
別の一態様において、前記高増殖性細胞は、例えば、前記外胚葉性成熟細胞に特有の少なくとも1つの遺伝子を、前記対照細胞(前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞)と同じかそれ以上に発現し、かつ、前記外胚葉性前駆細胞に特有の少なくとも1つの遺伝子を、前記対照細胞と同じかそれ以上に発現する細胞を含むことができる。
【0078】
一態様において、前記高増殖性細胞は、例えば、CSPG4が陰性の細胞を含むことができ、または、CSPG4を前記対照細胞(前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞)におけるCSPG4の発現量よりも少なく発現する細胞を含むことができる。すなわち、この態様において、前記高増殖性細胞は、例えば、CSPG4の発現量が、前記対照細胞におけるCSPG4の発現量よりも低いものでもよい。
【0079】
一態様において、前記高増殖性細胞は、例えば、S100Bが陽性、かつ、CSPG4が陰性の細胞を含むことができ、または、S100Bを前記対照細胞(前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞)と同じかそれ以上に発現し、かつ、CSPG4を前記対照細胞よりも少なく発現することができる。
【0080】
本開示の高増殖性細胞は、高い増殖能を有する高増殖性細胞、特に高増殖性外胚葉性細胞であればよく、前述のように、その分化段階は問わない。前記高増殖性細胞の細胞集団は、例えば、前記高増殖性外胚葉性成熟細胞および前記高増殖性外胚葉性前駆細胞の両方が含まれたヘテロな細胞集団でもよく、あるいは比較的分化段階の近い複数種の高増殖性外胚葉性細胞が極めて大多数を占める細胞集団でもよい。
【0081】
一態様では、本開示の高増殖性細胞の細胞集団は、例えば、前記高増殖性外胚葉性前駆細胞を主要な構成成分として含む集団でもよく、または、前記高増殖性外胚葉性前駆細胞および前記高増殖性外胚葉性成熟細胞の双方を含む集団でもよい。ここで、細胞集団における「主要な構成成分」とは、例えば、細胞集団において細胞数基準で少なくとも50%を占める細胞を意味する。本明細書において、「極めて大多数」とは、例えば、細胞集団において、特定の細胞の細胞数が、細胞数基準で95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または99.5%以上であることを意味する。
【0082】
前記高増殖性細胞の細胞集団における前記高増殖性外胚葉性成熟細胞の割合は、例えば、細胞数基準で、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、または5%未満でもよい。
【0083】
前記高増殖性細胞の細胞集団には、例えば、アストロサイトに関連する外胚葉性細胞系統の細胞が含まれてもよい。すなわち、前記高増殖性細胞が、例えば、原料となる外胚葉性細胞としてアストロサイトが使用されたもの、換言すれば、アストロサイトから誘導されるものであってもよく、本開示の製造方法により製造された場合、アストロサイトに関連する外胚葉性細胞系統の細胞が含まれてもよい。アストロサイトに関連する前記外胚葉性細胞系統の細胞としては、例えば、アストロサイト、放射状グリア細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞(ポリデンドロサイトとも言われる)、オリゴデンドロサイトおよび神経上皮細胞が挙げられる。また、アストロサイトに関連する前記外胚葉性細胞系統の細胞を含む前記細胞集団は、高い増殖能を示す細胞集団である限り、例えば、外胚葉性細胞に見られる特徴の一部を備え、かつ、上述した細胞のいずれにも分類できない細胞が含まれてもよい。
【0084】
また、本開示の製造方法において、原料となる外胚葉性細胞が、最終分化段階に到達したアストロサイト(成熟アストロサイト)を含む場合、例えば、本開示の高増殖性細胞は、アストロサイトよりも未成熟な分化段階の特徴を示す細胞が含まれてもよい。このような未成熟な分化段階の外胚葉性細胞は、アストロサイトよりも高められた増殖能を有することに加え、さらに、以下の(a)、(b)、(c)または(d)の特性を有することができる。
【0085】
(a)アストロサイトと比較して、
GFAPおよびS100Bの組み合わせ、GFAPおよびNotch1の組み合わせ、GFAPおよびNestinの組み合わせ、GFAPおよびSOX2の組み合わせ、
S100BおよびNotch1の組み合わせ、S100BおよびNestinの組み合わせ、S100BおよびSOX2の組み合わせ、
Notch1およびNestinの組み合わせ、Notch1およびSOX2の組み合わせ、または
NestinおよびSOX2の組み合わせ
の発現量が増加している。
(b)アストロサイトと比較して、
GFAP、S100B、およびNotch1の組み合わせ;GFAP、S100B、およびNestinの組み合わせ;GFAP、S100B、およびSOX2の組み合わせ;
GFAP、Notch1、およびNestinの組み合わせ;GFAP、Notch1、およびSOX2の組み合わせ;
GFAP、Nestin、およびSOX2の組み合わせ;
S100B、Notch1、およびNestinの組み合わせ;S100B、Notch1、およびSOX2の組み合わせ;
またはNotch1、Nestin、およびSOX2の組み合わせの発現量が増加している。
(c)アストロサイトと比較して、
GFAP、S100B、Notch1、およびNestinの組み合わせ;GFAP、S100B、Notch1、およびSOX2の組み合わせ;GFAP、S100B、Nestin、およびSOX2の組み合わせ;GFAP、Notch1、Nestin、およびSOX2の組み合わせ;
またはS100B、Notch1、Nestin、およびSOX2の組み合わせ
の発現量が増加している。
(d)アストロサイトと比較して、
GFAP、S100B、Notch1、Nestin、およびSOX2の組み合わせの発現量が増加している。
【0086】
本開示の高増殖性細胞は、上述したように、例えば、GFAP、S100B、Notch1、Nestin、およびSOX2からなる群より選択される少なくとも1つが陽性である細胞を含むことができる。前記高増殖性細胞は、例えば、以下の細胞(I)~(V)からなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。なお、以下の例示において、陽性の細胞とは、マーカー遺伝子を、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞と同じかそれ以上(例えば、1.0倍以上)に発現する細胞とも読み替え可能である。本開示の高増殖性細胞を、後述する本開示の高増殖性細胞の製造方法により得た場合、「前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞」は、例えば、「原料となる外胚葉性細胞」でもよい。
(I-1)GFAP陽性細胞;
(I-2)S100B陽性細胞;
(I-3)Notch1陽性細胞;
(I-4)Nestin陽性細胞;
(I-5)SOX2陽性細胞;
(II-1)GFAPが陽性、かつ、S100Bが陽性の細胞;
(II-2)GFAPが陽性、かつ、Notch1が陽性の細胞;
(II-3)GFAPが陽性、かつ、Nestinが陽性の細胞;
(II-4)GFAPが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(II-5)S100Bが陽性、かつ、Notch1が陽性;
(II-6)S100Bが陽性、かつ、Nestinが陽性;
(II-7)S100Bが陽性、かつ、SOX2が陽性;
(II-8)Notch1が陽性、かつ、Nestinが陽性;
(II-9)Notch1が陽性、かつ、SOX2が陽性;
(II-10)Nestinが陽性、かつ、SOX2が陽性;
(III-1)GFAPが陽性、S100Bが陽性、かつ、Notch1が陽性の細胞;
(III-2)GFAPが陽性、S100Bが陽性、かつ、Nestinが陽性の細胞;
(III-3)GFAPが陽性、S100Bが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(III-4)GFAPが陽性、Notch1が陽性、かつ、Nestinが陽性の細胞;
(III-5)GFAPが陽性、Notch1が陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(III-6)GFAPが陽性、Nestinが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(III-7)S100Bが陽性、Notch1が陽性、かつ、Nestinが陽性の細胞;
(III-8)S100Bが陽性、Notch1が陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(III-9)S100Bが陽性、Nestinが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(III-10)Notch1が陽性、Nestinが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(IV-1)GFAPが陽性、S100Bが陽性、Notch1が陽性、かつ、Nestinが陽性の細胞;
(IV-2)GFAPが陽性、S100Bが陽性、Notch1が陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(IV-3)GFAPが陽性、S100Bが陽性、Nestinが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(IV-4)GFAPが陽性、Notch1が陽性、Nestinが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(IV-5)S100Bが陽性、Notch1が陽性、Nestinが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞;
(V-1)GFAPが陽性、S100Bが陽性、Notch1が陽性、Nestinが陽性、かつ、SOX2が陽性の細胞。
【0087】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、GFAP、およびS100Bからなる群より選択される少なくとも1つが陽性であり、Musashi1、Notch1、Nestin、およびSOX2から選択される少なくとも1つが陽性であり、かつ、CSPG4が陰性である細胞を含むことができる。すなわち、この態様において、上記(I)~(V)の細胞は、例えば、CSPG4が陰性である。
【0088】
本開示の高増殖性細胞は、例えば、アストロサイトのマーカーであるSLC1A3が陽性でもよい。すなわち、この態様において、上記(I)~(V)の細胞は、例えば、さらに、SLC1A3が陽性である。本開示の高増殖性細胞は、例えば、オリゴデンドロサイトのマーカーであるOLIG2が陰性でもよい。すなわち、この態様において、上記(I)~(V)の細胞は、例えば、さらに、OLIG2が陰性である。
【0089】
本開示の高増殖性細胞の細胞集団において、
GFAP陽性細胞の割合は、例えば、10%以上、好ましくは40%以上、80%以上であり、Musashi1陽性細胞の割合は、例えば、10%以上、好ましくは40%以上、80%以上であり、
SOX2陽性細胞の割合は、例えば、10%以上、10%以上80%未満、好ましくは40%以上、40%~80%未満であり、
Nestin陽性細胞の割合は、例えば、10%以上、10%以上80%未満、好ましくは40%以上、40%以上80%未満である。
なお、Musashi1陽性細胞は、例えば、SOX2陽性でもよいし、Nestin陽性でもよく、また、SOX2陽性細胞は、例えば、Musashi1陽性でもよいし、Nestin陽性でもよく、SOX2陽性細胞は、例えば、Musashi1陽性でもよいし、Nestin陽性でもよい。
【0090】
つぎに、本開示の第2の高増殖性細胞は、外胚葉性細胞の特徴を備え、外胚葉性細胞を前記低分子シグナル伝達経路阻害剤と接触させた28日以下の培養期間後の細胞数が、前記阻害剤と非接触である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の細胞数に対して、1.0倍を超える増殖能を有する、高増殖性細胞である。
【0091】
本開示の第2の高増殖性細胞は、前述の第1の高増殖性細胞と同様に、例えば、前記本開示の高増殖性細胞の製造方法により得ることができる。すなわち、例えば、外胚葉性細胞(前記原料細胞)を、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤と接触させた28日以下の培養により、本開示の高増殖性細胞を得ることができる。そして、前記阻害剤存在下での28日以下の前記培養により得られた前記高増殖性細胞は、前記阻害剤と非接触である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の細胞数に対して、1.0倍を超える増殖能を有する。
【0092】
本開示の第2の高増殖性細胞においては、例えば、前記本開示の第1の高増殖性細胞における記載を全て、例示として援用できる。
【0093】
本開示の第2の高増殖性細胞は、例えば、GFAP、SOX2、Musahshi1、およびNestinから選択される少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量が、前記阻害剤と非接触である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の1.0倍以上である細胞を含む。
【0094】
<2>高増殖性細胞の第1の製造方法
本開示の高増殖性細胞の第1の製造方法は、高増殖性細胞の製造方法であって、
(i)原料となる外胚葉性細胞を用意すること、
(ii)低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下、前記原料となる外胚葉性細胞を培養することにより、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞を得ること
を含み、
前記(ii)において、前記阻害剤の存在下での培養期間が、28日以下である。
【0095】
本開示の製造方法によれば、前記(ii)の前記低分子シグナル伝達経路阻害剤存在下での培養により、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞(前記HP細胞)を得ることができる。すなわち、本開示の製造方法によれば、前記<1>で述べた本開示の高増殖性細胞を製造できる。なお、本開示の製造方法の説明は、前記<1>で述べた本開示の高増殖性細胞の製造方法を限定するものではない。
【0096】
本開示の高増殖性細胞の製造方法は、例えば、高増殖性の外胚葉性細胞の製造方法、または、細胞増殖能が高められた外胚葉性細胞の富化方法にも読み替え可能である。
【0097】
本開示の製造方法によれば、前述のように、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下、28日以下の培養期間、原料となる外胚葉性細胞を培養することによって、例えば、前記外胚葉性細胞への遺伝子導入または遺伝子改変等を伴うことなく、細胞増殖能が高められた高増殖性細胞を得ることができる。このようにして得られた高増殖性細胞は、前記阻害剤の非存在下で培養した外胚葉性細胞と比較して、例えば、より長期間に亘って培養を行うことができ、また、より多くの数の細胞を得ることができる。
【0098】
また、本開示の製造方法によれば、前記(ii)の前記低分子シグナル伝達経路阻害剤存在下での培養により、例えば、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められ、且つ、前記原料となる外胚葉性細胞よりも未分化性が高められた性質を示す高増殖性細胞を得ることができる。このことから、本開示の高増殖性細胞の製造方法は、例えば、未分化性が高い高増殖性細胞の製造方法にも読み替え可能である。また、本開示において「高増殖性細胞」は、特に示さない限り、未分化性が高い高増殖性細胞を包含する。
【0099】
また、本開示の製造方法によれば、前記(ii)の前記低分子シグナル伝達経路阻害剤存在下での培養により、例えば、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められ、且つ、未成熟な分化段階の特徴を示す高増殖性細胞を得ることができる。このように、高増殖性を示し且つ未成熟な分化段階の高増殖性細胞は、例えば、前記<1>で例示した、前記高増殖性を示す外胚葉性前駆細胞(高増殖性前駆細胞)である。このことから、本開示の高増殖性細胞の製造方法は、例えば、高増殖性前駆細胞の製造方法にも読み替え可能である。また、本開示において「高増殖性細胞」は、特に示さない限り、高増殖性前駆細胞を包含する。
【0100】
本開示で用いられる前記外胚葉性細胞は、例えば、神経系の細胞を含み、具体例として、例えば、中枢神経系の細胞を含んでもよく、末梢神経系の細胞を含んでもよく、中枢神経系の細胞および末梢神経系の細胞を含んでもよい。したがって、本開示において、外胚葉性細胞は、例えば、中枢神経系の細胞を含むことができる。本開示において、外胚葉性細胞は、例えば、グリア細胞を含んでもよく、具体例として、後述するように、アストロサイトを含んでもよい。
【0101】
本開示で用いられる前記外胚葉性細胞は、いかなる起源から提供されてもよく、例えば、哺乳動物から提供される。哺乳動物としては、例えば、ヒト、または、非ヒト動物が挙げられる。前記非ヒト動物は、例えば、ラット、マウス、ネコ、イヌ、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシおよびサル等が挙げられる。哺乳動物は、好ましくは、ヒト、ラット、マウス、ネコ、またはイヌであり、より好ましくは、ヒト、ラットまたはマウスである。
【0102】
本開示で用いられる前記外胚葉性細胞は、例えば、外胚葉性組織および外胚葉性器官を構成する細胞である。外胚葉性組織および外胚葉性器官としては、例えば、中枢神経(例えば、脳の中枢神経または脊髄の中枢神経)、下垂体、末梢神経、腸神経、副腎髄質、メラノサイト、顔面軟骨、歯の象牙質、表皮、髪、爪、皮膚、皮脂腺、唾液腺、汗腺、乳腺、鼻腔、鼻の粘膜、口上皮、口腔、目、膀胱、肛門等を挙げることができる。脳は、大脳、小脳および脳幹に大きく分けることができる。大脳は、さらに、終脳および間脳に分けることができ、脳幹は、さらに、中脳、橋および延髄に分けることができる。中枢神経は、神経細胞(ニューロン)およびグリア細胞から構成される。本開示の製造方法においては、例えば、これらの細胞、すなわち、神経細胞、グリア細胞、またはこれらの両方を、原料細胞(培養の出発材料ともいう)に選ぶことができる。例示したこれらの組織または器官には、最終分化段階を終えた成熟細胞が多く存在する。
【0103】
本開示において用いられる前記外胚葉性細胞は、特に制限されず、例えば、グリア細胞である。前記グリア細胞としては、例えば、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイト、オリゴデンドロサイト前駆細胞(あるいはポリデンドロサイトとも言われる。)、上衣細胞、シュワン細胞および衛星細胞からなる群より選択される少なくとも1つを選択することができる。前記グリア細胞は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上の混合物でもよい。これらの細胞は、例えば、生体から得られた初代細胞、樹立された細胞株、または、ES細胞等の多能性幹細胞もしくは人工多能性幹細胞(iPS細胞)から誘導された外胚葉性細胞でもよい。
【0104】
本開示において用いられる前記外胚葉性細胞は、例えば、哺乳動物より採取した脳サンプルから、単離精製等によって調製された細胞であってもよい。哺乳動物からの脳サンプルの採取は、例えば、哺乳動物の状態に応じて、脳全体の摘出でもよいし、脳組織片の切除でもよい。
【0105】
具体例として、前記哺乳動物がラットの場合、例えば、10週齢~20週齢の成体ラットから摘出した脳サンプルを用いることが好ましく、また、これには制限されず、例えば、10週齢未満の幼若ラット由来の脳サンプルを用いてもよい。脳サンプルの採取は、例えば、生検による採取でも、外科手術による採取でもよい。ヒトの場合、脳サンプルは、例えば、生検または外科手術により得ることができる。例えば、神経細胞およびグリア細胞は、いずれも、生検により採取した脳組織片から得ることができる。外科手術の場合、前記外胚葉性細胞の調製には、例えば、切除した成人の脳組織片を用いることも、死亡胎児から摘出した脳を用いることもできる。また、例えば、これらの採取した脳サンプルから、神経細胞またはグリア細胞を単離精製した後、凍結し、その凍結した細胞を、前記外胚葉性細胞として用いることもできる。
【0106】
本開示において用いられる前記外胚葉性細胞は、例えば、外胚葉性細胞の特徴を示す細胞として定義することができる。外胚葉性細胞の特徴としては、例えば、細胞の形態、細胞に特有の遺伝子またはタンパク質(「マーカー遺伝子またはマーカータンパク質」と称する場合がある。)の発現等を挙げることができる。前記外胚葉性細胞であることは、分化段階のいずれかにおいて、例えば、GFAP、S100B、およびCSPG4からなる群より選択される少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現があることで、確認できる。前記外胚葉性細胞のマーカー遺伝子の発現は、遺伝子およびタンパク質のいずれに基づいて確認してもよい。遺伝子またはタンパク質の発現の確認は、例えば、発現の有無、測定方法に依存した具体的な発現量、特定の細胞における同一遺伝子またはタンパク質の発現量との比較等、当業界で公知の方法によって行うことができる。
【0107】
なお、本明細書において、前記マーカーの発現は、当業界で公知の技術を用いて確認することができ、前記マーカー遺伝子の場合は、例えば、定量PCR(「qPCR」と記載することがある。)等を用いた遺伝子の発現量の測定、前記マーカータンパク質の場合は、例えば、ELISA、フローサイトメトリー法等の免疫測定法を用いたタンパク質量の測定等によって、確認することができる。
【0108】
本開示の製造方法において、前記高増殖性細胞の製造に使用する、原料となる前記外胚葉性細胞(原料細胞)は、前述の通りである。前記原料細胞は、例えば、前記(ii)の培養を行う前において、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤と接触させていない外胚葉性細胞、すなわち、前記増殖未誘導の外胚葉性細胞である。
【0109】
本開示の製造方法においては、上記のようにして用意された原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)を、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤と接触させる。前記原料細胞と前記阻害剤との接触は、インビトロであってよい。本開示の製造方法に使用可能な前記阻害剤としては、特に制限はなく、シグナル伝達経路を阻害する低分子の阻害剤であれば、いずれも使用可能である。前記阻害剤としては、例えば、トランスフォーミング増殖因子(Transforming growth factor;TGF)β受容体阻害剤、ROCK[Rho結合タンパク質キナーゼ(Rho-associated protein kinase)]阻害剤、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(Glycogen synthase kinase 3;GSK3)阻害剤等が挙げられる。本開示の製造方法において、前記阻害剤は、例えば、いずれか1種類を使用してもよいし、2種類以上を併用してもよく、その組み合わせは、特に制限されない。
【0110】
本開示の製造方法において、前記阻害剤は、例えば、TGFβ受容体阻害剤、ROCK阻害剤およびGSK3阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含んでよい。本開示の製造方法において、前記阻害剤は、例えば、TGFβ受容体阻害剤およびROCK阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含んでよい。
【0111】
TGFβ受容体阻害剤は、TGFβ受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば、特に限定されない。前記TGFβ受容体阻害剤は、例えば、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-(4-ピリジルアミノ)]プテリジン(SD-208)、3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(以上、いずれもメルク社)、SB431542(Sigma Aldrich社)およびCultureSure(登録商標)A-83-01(富士フイルム和光純薬株式会社)が挙げられる。TGFβ受容体阻害剤は、好ましくはCultureSure(登録商標)A-83-01である。TGFβ受容体阻害剤には、例えば、TGFβ受容体アンタゴニストも含まれる。TGFβ受容体阻害剤は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
ROCK阻害剤は、Rho結合タンパク質キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。前記ROCK阻害剤としては、例えば、GSK269962A(Axon medchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、CultureSure(登録商標)Y-27632(富士フイルム和光純薬株式会社)およびH-1152 dihydrochloride(富士フイルム和光純薬株式会社)が挙げられる。ROCK阻害剤は、好ましくはCultureSure(登録商標)Y-27632である。ROCK阻害剤は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0113】
GSK3阻害剤は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK)3の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。前記GSK3阻害剤としては、例えば、SB216763(Selleck社)、CHIR 98014(Axon medchem社)、CHIR 99021(Axon medchem社)、SB415286(Tocris Bioscience社)およびKenpaullone(コスモ・バイオ社)が挙げられる。GSK3阻害剤は、好ましくはCHIR 99021である。GSK3阻害剤は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
本開示の製造方法において用いられる前記低分子シグナル伝達経路阻害剤は、例えば、TGFβ受容体阻害剤およびROCK阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つとすることができる。すなわち、本開示の製造方法において用いられる前記阻害剤は、例えば、
・TGFβ受容体阻害剤とROCK阻害剤との組み合わせ、
・TGFβ受容体阻害剤、または
・ROCK阻害剤
でもよい。本開示の一態様において、用いられる前記阻害剤は、TGFβ受容体阻害剤とROCK阻害剤との組み合わせである。
【0115】
本開示の一態様は、例えば、前記阻害剤として、以下の阻害剤が含まれる:
(1) 2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-(4-ピリジルアミノ)]プテリジン(SD-208)、3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、SB431542およびCultureSure(登録商標)A-83-01からなる群より選択される少なくとも1の化合物;
(2) 2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-(4-ピリジルアミノ)]プテリジン(SD-208)、3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、SB431542およびCultureSure(登録商標)A-83-01からなる群より選択される少なくとも1の化合物と、
GSK269962A、Fasudil hydrochloride、CultureSure(登録商標)Y-27632およびH-1152 dihydrochlorideからなる群より選択される少なくとも1の化合物との組み合わせ;ならびに、
(3) GSK269962A、Fasudil hydrochloride、CultureSure(登録商標)Y-27632およびH-1152 dihydrochlorideからなる群より選択される少なくとも1の化合物。
【0116】
本開示の製造方法においては、前記阻害剤の存在下、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)の培養を行う。前記培養は、例えば、前記阻害剤を含む培地を使用でき、前記培地中で、前記阻害剤と前記原料細胞とを接触させた状態で培養できる。前記培地中の前記阻害剤の濃度は、特に制限されず、例えば、以下のような濃度が例示できる。すなわち、前記培地中の前記阻害剤の濃度は、下限が、例えば、0.001μM、0.05μMであり、上限が、例えば、30μM、50μM、80μM、100μMであり、その範囲が、例えば、0.001μM~100μM、0.01μM~80μM、0.01μM~50μM、0.01~30μM、または0.05μM~30μMである。前記阻害剤の濃度は、例えば、使用する前記阻害剤の種類によって適宜調整できる。本明細書において、濃度の「M」は、いずれも「mol/L」に読み替え可能である。
【0117】
例示した前記阻害剤の濃度範囲は、例えば、1種類の阻害剤を単独で使用する場合、2種類以上の阻害剤を組み合わせて使用する場合のいずれにも適用できる。前記阻害剤は、例えば、そのまま培地に添加してもよいし、溶媒に溶解してから、前記最終濃度となるように培地に添加してもよい。前記溶媒は、例えば、水性溶媒および有機溶媒が挙げられる。水性溶媒は、例えば、水、緩衝液、生理食塩水等が挙げられる。前記阻害剤が水不溶性または水難溶性である場合は、例えば、有機溶媒を使用する。前記有機溶媒は、例えば、低毒性であることが好ましく、具体例として、DMSO等が使用でき、前記阻害剤は、例えば、少量の前記有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0118】
前記阻害剤がTGFβ受容体阻害剤の場合、培地中のTGFβ受容体阻害剤の濃度は、例えば、0.001μM~100μM、0.01μM~50μM、または0.05μM~30μMの範囲内であり、用いるTGFβ受容体の種類によって適宜調整可能である。一態様において、培地中のTGFβ受容体阻害剤、例えば、CultureSure(登録商標)A-83-01の濃度は、0.1μM~3μMである。
【0119】
前記阻害剤がROCK阻害剤の場合、培地中のROCK阻害剤の濃度は、例えば、0.001μM~100μM、0.01μM~80μM、または0.1μM~50μMの範囲内であり、用いるROCK阻害剤の種類によって適宜調整可能である。一態様において、培地中のROCK阻害剤、例えば、CultureSure(登録商標)Y-27632の濃度は、1μM~30μMである。
【0120】
前記阻害剤がGSK3阻害剤の場合、培地中のGSK3阻害剤の濃度は、例えば、0.001μM~100μM、0.01μM~80μM、または0.1μM~50μMの範囲内であり、用いるGSK3阻害剤の種類によって適宜調整可能である。
【0121】
例示した上記濃度範囲は、例えば、TGFβ受容体阻害剤、ROCK阻害剤およびGSK3阻害剤がそれぞれ単独で使用される場合、および、これらの阻害剤が組み合わせて使用される場合のいずれにも適用可能である。また、前記阻害剤が、水不溶性または水難溶性である場合、前述のように、少量の低毒性の有機溶媒(例えば、DMSO等)に溶解した後、上記の最終濃度となるよう培地に添加することができる。
【0122】
本開示の製造方法は、前述のように、前記阻害剤の存在下、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)の培養が行われる。前記培養には、前記阻害剤を含む培地が使用でき、前記培地中において、前記阻害剤と接触させた状態で、前記原料細胞を培養できる。具体的には、培地に前記阻害剤を、例示したような濃度で添加して、前記原料細胞の培養を行うことが好ましい。前記原料細胞を前記阻害剤の存在下で培養することにより、培養の出発段階における前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)と比較して、細胞増殖能が高められた、前記外胚葉性細胞由来の高増殖性細胞が得られる。
【0123】
本開示の製造方法においては、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)を用意して、そのまま、前記阻害剤の存在下での培養を行ってもよいし、まず、前記阻害剤非存在下での培養を行ってから、前記阻害剤存在下での培養を行ってもよい。後者の場合、前記原料細胞の前記阻害剤非存在下での培養、つまり、前記阻害剤と接触させるまでの培養を、「前培養」または「第1の培養」ともいう。そして、前記原料細胞の前記阻害剤存在下での培養、つまり、前記阻害剤と接触させた状態での培養を、「本培養」、または「第2の培養」ともいう。なお、前記本培養は、前記阻害剤存在下での所定時間の培養であり、前記培地中には前記阻害剤が含まれているため、前記本培養の間、細胞と阻害剤との接触は継続している。
【0124】
本開示において、前培養および本培養で用いる培地としては、特に制限されず、広く動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として使用でき、市販されている基礎培地を使用してもよい。市販の基礎培地としては、例えば、アストロサイト培地(Astrocyte Growth Medium;AGM)、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最小必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、Ham’s F12培地、William’s E培地、および、NS基礎培地(富士フイルム和光純薬株式会社)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。培地としては、上記のものを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前培養と本培養とは、例えば、同じ培地を用いても、異なる培地を用いてもよい。
【0125】
前記培地は、例えば、さらに添加剤を含んでもよい。培地に添加される添加剤としては、例えば、サイトカイン、増殖因子(例えば、上皮増殖因子(EGF)、および線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2))、ホルモン(例えば、インスリン、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロンおよびチロキシン)、ステロイド(例えば、デキサメタゾン(Dex))、血漿由来タンパク質(例えば、トランスフェリン)、各種アミノ酸(例えば、L-グルタミンおよびL-プロリン)、各種無機塩(例えば、亜セレン酸塩およびNaHCO3)、各種ビタミン(例えば、ニコチンアミドおよびアスコルビン酸誘導体)、N2サプリメント(富士フイルム和光純薬株式会社)、NSサプリメント(富士フイルム和光純薬株式会社)、B-27 Plus Supplement(Thermo Fisher Scientific)、各種抗生物質(例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシン)、抗真菌剤(例えば、アンホテリシン)、ならびに緩衝剤(例えば、HEPES等のグッド緩衝剤)が挙げられる。
【0126】
前培養(第1の培養)の培地および本培養(第2の培養)の培地には、例えば、それぞれ、血清添加培地または無血清培地のいずれを用いてもよい。
【0127】
血清添加培地を使用する場合、血清としては、例えば、ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)を用いることができる。また、後述するように、培養後の細胞から細胞分泌物である細胞外小胞(例えば、エクソソーム)を分離する場合には、例えば、エクソソーム分離を容易にするために、エクソソームを除去したFBSを用いることもできる。市販のエクソソーム除去培地としては、例えば、FBS exosome-depleted,OneShot format(Gibco(登録商標)、Thermo Fisher Scientific)を挙げることができる。培地中の血清の濃度は、例えば、0.5~25%(v/v)、1~25%(v/v)、1~20%(v/v)、1~15%(v/v)、2~15%(v/v)、2~10%(v/v)、3~10%(v/v)、3~8%(v/v)、および、3~5%(v/v)である。具体的な一態様において、培地中の血清の濃度は、例えば、3%(v/v)である。
【0128】
無血清培地を使用する場合、前記培地には血清代替物を添加してもよい。血清代替物としては、例えば、ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin;BSA)、ノックアウト血清代替物(KnockOut Serum Replacement;KSR)、ヒト血清アルブミン(Human serum albumin;HSAまたはHuman albumin,serum;HAS)等が挙げられる。ヒト血清アルブミンとしては、例えば、ヒト血漿から分離されたヒト血清アルブミン、または、ヒト血清アルブミン遺伝子を発現するイネから精製されたヒト血清アルブミン(富士フイルム和光純薬)を使用することができる。無血清培地の場合、通常、増殖因子(hEGH等)、サイトカイン、ホルモン等の因子が更に添加される。これらの添加される因子としては、例えば、上皮増殖因子(EGF)、インスリン、トランスフェリン、ヒドロコルチゾン21-ヘミコハク酸またはその塩、および、デキサメタゾン(Dex)、N2サプリメント(富士フイルム和光純薬株式会社)、NSサプリメント(富士フイルム和光純薬株式会社)およびB-27 Serum Free Supplement(Thermo Fisher Scientificが挙げられるが、これらに限定されない。
【0129】
培養に用いられる培養容器は、特に制限されず、例えば、接着培養に適したものが使用でき、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイおよび培養バック等が挙げられる。接着培養の場合は、例えば、細胞との接着性を向上させる目的で、その内表面が細胞支持用基質によりコーティングされたものも用いることができる。前記細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、マトリゲル、ポリ-L-リジン、ラミニンおよびフィブロネクチンが挙げられる。好ましい細胞支持用基質は、コラーゲンまたはマトリゲルである。また、例えば、細胞の浮遊培養を行う場合、培養容器としては、細胞が接着できないように表面が加工された培養容器を用いることもできる。
【0130】
本開示の製造方法において、前記原料細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)の播種条件、例えば、播種する細胞密度は、特に制限されない。具体例として、前記原料細胞は、例えば、1×102~1×106細胞/cm2、1×103~1×105細胞/cm2、または1×103~1×104細胞/cm2の細胞密度で、培養容器上に播種することができる。
【0131】
前記原料細胞の培養条件は、例えば、一般に外胚葉性細胞の培養に適用される条件をそのまま適用可能である。培養には、CO2インキュベーターを用いることができる。培養温度およびCO2濃度としては、特に制限されず、一般的に用いられるものであればよく、例えば、37℃および5%(v/v)とすることができる。
【0132】
本開示の製造方法において、前記本培養の培養期間(培養期間T)は、前記阻害剤の存在下、すなわち前記阻害剤と共に培養している期間である。前記培養期間Tは、例えば、連続する期間でもよく、不連続な期間、すなわち、不連続な複数の期間を合計した期間でもよい。前記本培養の培養期間Tは、その上限が、28日であり、例えば、20日、18日、14日とすることができる。前記本培養の培養期間Tの下限は、例えば、1日、4日、5日、7日とすることができる。前記本培養の培養期間Tの範囲は、例えば、1~28日、4~28日、5~28日、7~28日、7~20日、7~18日、7~14日とすることができる。前記本培養において、培養中の細胞の継代は、特に制限されず、例えば、培養容器内の細胞密度、培地の状態、または細胞の状態等に応じて適宜行うことができ、継代間隔は、例えば、2~20日間程度とすることができる。
【0133】
本開示の製造方法において、本培養に先だって、前培養を行う場合、前記阻害剤の非存在下での培養期間は、特に制限されない。
【0134】
本開示の高増殖性細胞の製造方法は、例えば、前記(ii)の本培養の後、さらに、下記(iii)を含んでもよい。
(iii)前記(ii)の低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下での培養により得られた培養物から、前記高増殖性細胞を単離すること
【0135】
本開示の製造方法によれば、前記本培養により前記高増殖性細胞が得られる。そして、前記本培養の培養物には、前記高増殖性細胞を含む細胞集団が含まれる。このため、本開示の製造方法においては、例えば、前記培養物から、さらに前記高増殖性細胞を単離してもよい。前記高増殖性細胞の単離は、例えば、前記高増殖性細胞を含む細胞集団としての単離でもよいし、前記高増殖性細胞の単離精製でもよい。
【0136】
前記(iii)の単離において、前記高増殖性細胞の単離には、例えば、特定の細胞を単離する公知の手段を適用することができる。前記単離方法は、例えば、前記高増殖性細胞に特有の前述したマーカー遺伝子に由来するタンパク質の発現に基づく蛍光活性化セルソーティング(Fluorescence-activated cell sorting;FACS)法、および、ダイナビーズ(Dynabeads)等を用いた磁気細胞分離法等を利用できる。
【0137】
本開示の製造方法によれば、前述のように、本開示の高増殖性細胞を得ることができる。そして、本開示の製造方法により得られる高増殖性細胞の特性は、前記<1>に記載した高増殖性細胞の特性を援用できる。なお、本開示の製造方法により得られる高増殖性細胞の特性は、例えば、前記原料となる外胚葉性細胞との比較により示すことができる。前記高増殖性細胞と比較する「原料となる外胚葉性細胞」とは、例えば、前記<1>で述べた前記対照細胞が挙げられ、具体的には、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞、つまり、前記増殖未誘導の外胚葉性細胞である。また、前記高増殖性細胞と比較する「原料となる外胚葉性細胞」とは、例えば、本開示の製造方法における前記本培養を行っていない外胚葉性細胞、つまり、前記阻害剤存在下での培養を行っていない外胚葉性細胞であり、前記増殖未誘導の外胚葉性細胞が該当する。前記高増殖性細胞と比較する「原料となる外胚葉性細胞」は、例えば、前記高増殖性細胞の製造において実際に原料として使用した外胚葉性細胞には限定されず、本開示の製造方法において原料として使用し得る、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)であればよい。このため、本明細書において、前記高増殖性細胞との比較における「原料となる外胚葉性細胞」とは、特に示さない限り、実際に前記高増殖性細胞の製造に原料として使用したか否かには限定されず、原料として使用し得る外胚葉性細胞(前記増殖未誘導の外胚葉性細胞)を意味する。
【0138】
本開示の製造方法により得られた前記高増殖性細胞の増殖能の評価は、前述のように、前記本開示の高増殖性細胞において記載した方法を援用できる。また、前記本開示の製造方法により得られた前記高増殖性細胞の増殖能は、前述のように、例えば、前記高増殖性細胞の細胞数(前記N1、N2、またはN)が、前記対照細胞の細胞数(前記N1’、N2’、またはN’)に対する前記高増殖性細胞の細胞数(前記N1、N2、またはN)の倍率(前記N1/N1’、N2/N2’、またはN/N’)が、1.0倍を超え、例えば、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、または1.5倍以上でもよい。前記対照細胞は、例えば、前述のように、前記増殖未誘導の外胚葉性細胞である。
【0139】
本開示の製造方法により得られる高増殖性細胞は、例えば、前述のように、細胞に特有のマーカーによって特定してもよい。本開示において、前記高増殖性細胞のマーカーの種類、前記マーカーの発現の確認方法、発現挙動等は、前記<1>の本開示の高増殖性細胞における記載を援用できる。
【0140】
本開示の製造方法において、原料となる外胚葉性細胞がアストロサイトである場合、例えば、前記高増殖性細胞の前記細胞集団には、アストロサイトに関連する外胚葉性細胞系統の細胞が含まれてもよい。アストロサイトに関連する前記外胚葉性細胞系統の細胞は、例えば、アストロサイト、放射状グリア細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞(ポリデンドロサイトとも言われる)、オリゴデンドロサイトおよび神経上皮細胞が挙げられる。また、アストロサイトに関連する前記外胚葉性細胞系統の細胞集団は、例えば、高められた細胞増殖能を示す細胞集団である限り、外胚葉性細胞に見られる特徴の一部を備え、かつ、上述した細胞のいずれにも分類できない細胞が含まれてもよい。
【0141】
一態様において、本開示の製造方法は、例えば、前記原料細胞として、ヒト初代成熟アストロサイトを使用し、前記阻害剤として、TGFβ受容体阻害剤およびROCK阻害剤の組み合わせを使用する。この態様において得られる前記高増殖性細胞(阻害剤接触群ともいう)は、前記阻害剤の非存在下で前記原料細胞を培養して得られた細胞(阻害剤非接触細胞群ともいう)と比較して、例えば、より長期間に亘って培養を行うことができる。すなわち、この態様において得られる高増殖性細胞(阻害剤接触群)では、例えば、前記阻害剤非接触群と比較して、より長期間、細胞の増殖が継続できる。また、増殖によって最終的に得られる細胞数については、前記阻害剤接触群の細胞数は、前記阻害剤非接触群の細胞数に対して、例えば、2倍以上、5倍以上、10倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、または400倍である。
【0142】
<3>高増殖性細胞の第2の製造方法
本開示の高増殖性細胞の第2の製造方法は、
高増殖性細胞の製造方法であって、
(i)原料となる外胚葉性細胞を用意すること、
(ii)低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下、前記原料となる外胚葉性細胞を培養することにより、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞を得ること
を含み、
前記(ii)において、条件a1、条件b1および条件c1からなる群より選択される少なくとも1つを充たすまで、前記阻害剤の存在下での培養を行う。
【0143】
(a1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞において、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量(E
1)およびコントロール遺伝子の発現量(E
C)によって決定される相対値(E
1/E
C)が、下記表2で表される基準範囲を充たす。
【表2】
(b1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞の細胞数が、前記阻害剤の非存在下である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の細胞数に対して、1.0倍を超える。
(c1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞において、GFAP、SOX2、Musashi1、およびNestinから選択される少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量が、前記阻害剤の非存在下である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の1.0倍以上である。
【0144】
本開示の第2の製造方法によれば、前記(ii)の前記低分子シグナル伝達経路阻害剤存在下での培養により、前記本開示の第1の製造方法と同様に、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞(前記HP細胞)を得ることができる。すなわち、本開示の製造方法によれば、前記<1>で述べた本開示の高増殖性細胞を製造できる。なお、本開示の製造方法の説明は、前記<1>で述べた本開示の高増殖性細胞の製造方法を限定するものではない。
【0145】
本開示の第2の製造方法は、前記(ii)において、少なくとも条件a1および条件b1を充たす、または、少なくとも条件b1および条件c1を充たすまで、前記阻害剤の存在下での培養を行うことが好ましい。
【0146】
前記(ii)における前記原料細胞(外胚葉性細胞)の前記阻害剤存在下での培養は、培養中の細胞が、条件b1または条件c1を充たすまで行われる。条件b1または条件c1を判断するにあたって、前記阻害剤の非存在下で培養された前記原料細胞(外胚葉性細胞)の細胞数または前記マーカー遺伝子の発現量は、例えば、前記(ii)における前記原料細胞の前記阻害剤存在下での培養と並行して、前記原料細胞の前記阻害剤非存在下での培養を行うことにより、得てもよい。また、前記(i)で使用する原料細胞(外胚葉性細胞)について、別途、前記阻害剤非存在下での培養を行い、細胞数または前記マーカー遺伝子の発現量の情報を得てもよい。
【0147】
本開示の第2の製造方法は、例えば、特に示さない限り、前記<1>の本開示の高増殖性細胞および前記<2>の本開示の第2の高増殖性細胞の製造方法における記載を援用できる。
【0148】
本開示は、例えば、高増殖性細胞の評価方法を含んでもよい。本開示の評価方法によれば、例えば、評価対象の細胞が、本開示の高増殖性細胞か否かを評価することができる。本開示の評価方法における以下の各工程は、例えば、本開示の高増殖性細胞の製造方法における記載を援用できる。
【0149】
すなわち、本開示の高増殖性細胞の評価方法は、
原料となる外胚葉性細胞を用意すること、
前記低分子シグナル伝達経路阻害剤の存在下、前記原料となる外胚葉性細胞を培養すること、
培養中の細胞が、条件a1、条件b1および条件c1からなる群より選択される少なくとも1つを充たす場合、前記細胞を、前記原料となる外胚葉性細胞よりも細胞増殖能が高められた高増殖性細胞であると評価すること、を含む。
【0150】
(a1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞において、GFAP、S100B、Musashi1、CSPG4、Nestin、およびSLC1A3からなる群から選択された少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量(E1)およびコントロール遺伝子の発現量(EC)によって決定される相対値(E1/EC)が、前記表2で表される基準範囲を充たす。
(b1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞の細胞数が、前記阻害剤の非存在下である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の細胞数に対して、1.0倍を超える。
(c1)前記阻害剤の存在下で培養している細胞において、GFAP、SOX2、Musashi1、およびNestinから選択される少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現量が、前記阻害剤の非存在下である以外は同一の培養条件で同一の培養期間にわたり培養された外胚葉性細胞の1.0倍以上である。
【0151】
本開示の高増殖性細胞の評価方法は、例えば、前記培養中の細胞が、さらに、前記<1>の本開示の高増殖性細胞において例示した各種マーカーの発現を充たす場合に、前記高増殖性細胞であると評価できる。
【0152】
<4>高増殖性外胚葉性前駆細胞の用途
本開示の高増殖性細胞としては、例えば、前記<1>に示すように、前記高増殖性外胚葉性前駆体(前記高増殖性前駆細胞)が挙げられる。前記高増殖性前駆細胞は、例えば、以下のような用途に供することができる。なお、本開示は、これらの用途には何ら制限されない。
【0153】
本開示の外胚葉性前駆細胞は、例えば、神経障害治療剤の評価方法に使用できる。具体的には、例えば、神経障害治療剤の候補薬剤を、前記外胚葉性前駆細胞と接触させることにより、前記候補薬剤の有用性を評価できる。したがって、本開示は、神経障害治療剤の候補薬剤の評価方法に関し、神経障害治療剤の候補薬剤を、前記本開示の外胚葉性前駆細胞と接触させることを含む。本開示の評価方法によれば、例えば、前記候補薬剤の接触によって、障害を受けた神経(例えば、コルチコステロンによって障害を受けた細胞)が、障害を受けて低下した機能を回復するとなれば、前記候補薬剤が有用であると評価することができる。
【0154】
本開示は、さらに、神経疾患モデルの評価方法に関し、前記高増殖性外胚葉性前駆細胞を使用することを含む。例えば、神経疾患に関連する遺伝子が同定されている場合、当該遺伝子に変異をもったマウスを人工的に作出し、当該遺伝子変異マウスに対して、前記高増殖性外胚葉性前駆細胞を投与し、神経疾患に対応する神経機能やマウスの行動等を評価することが含まれる。
【0155】
本開示は、さらに、外胚葉性成熟細胞の製造方法に関し、前記高増殖性外胚葉性前駆細胞を使用し、前記高増殖性外胚葉性前駆細胞の分化を誘導することにより、外胚葉性成熟細胞を得ることを含む。前記分化誘導の条件は、特に制限されず、一般的な分化誘導の方法が採用でき、例えば、前記高増殖性外胚葉性前駆細胞を、成熟化への分化を誘導する成熟条件下、培養すればよい。
【0156】
ここで、「成熟条件下」とは、特に制限されず、既知の分化誘導因子を用いた培養条件を意味する。前記分化誘導因子としては、例えば、線維芽細胞成長因子-2(Fibroblast growth factor-3;FGF-2);白血病阻害因子(Leukemia inhibitory factor;LIF)または毛様体神経栄養因子(Ciliary neurotrophic factor;CNTF)等のIL-6ファミリーサイトカイン;BMP2またはBMP4等のBone morphogenetic protein(BMP)ファミリーサイトカイン、Notchファミリータンパク質;Wnt遺伝子ファミリータンパク質;ソニック・ヘッジホッグタンパク質;およびレチノイン酸が挙げられる。さらに成熟細胞の増殖または維持に必要な因子として、例えば、神経成長因子(Nerve growth factor;NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、Neurotrophin-3(NT-3)、Neurotrophin-4/5(NT-4/5)、および血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor;PDGF)を挙げることができる。
【0157】
前記分化誘導因子を用いた培養条件としては、例えば、分化誘導因子による分化誘導方法において適用される既知の分化誘導条件を選択でき、前記分化誘導条件は、例えば、用いる分化誘導因子の種類によって適宜選択できる。
【0158】
<5>阻害剤の用途
本開示の製造方法で使用される低分子シグナル伝達経路阻害剤は、前述したように、外胚葉性細胞の増殖能の維持または促進に用いることができる。したがって、本開示の更なる側面は、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤を含む、外胚葉性細胞の増殖性調整剤に関する。具体的に、本開示は、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤を含む、前述の高増殖性細胞、または外胚葉性細胞の増殖能の維持または促進に使用される、増殖性調整剤にも関する。前記阻害剤は、例えば、前記<2>の本開示の第1の製造方法で例示列挙した阻害剤を援用でき、また、前記阻害剤の組み合わせも、例示列挙した組み合わせを援用できる。前記阻害剤は、例えば、一例として、TGFβ受容体阻害剤およびROCK阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの阻害剤を含む。ここで、本明細書において、用語「増殖性調整」とは、細胞の増殖維持および増殖促進の少なくとも一方を達成することを意味することができる。用語「増殖維持」および「増殖促進」については、例えば、細胞が培養期間にわたって細胞数が維持または増加している限り、特に区別されない。細胞の増殖性調整のための前記増殖性調整剤の使用濃度としては、特に制限されず、例えば、前述した本開示の第1製造方法において記述した、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤の濃度をそのまま適用できる。
【0159】
<6>細胞分泌物およびその製造方法
本開示のさらに別の側面は、細胞分泌物の製造方法に関し、前記本開示の高増殖性細胞の培養物を得ること、または、前記本開示の高増殖性細胞の製造方法を実施して高増殖性細胞の培養物を得ること、および、前記高増殖性細胞由来の細胞分泌物を、前記培養物から分離することを含む。本開示の製造方法は、例えば、必要に応じて任意の工程をさらに含んでもよい。前記本開示の高増殖性細胞は、細胞増殖能が高められた高増殖性細胞であるので、例えば、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞と比較して、より短時間で増殖し、より長期間に亘って増殖し、または、より短時間で増殖すると共に長期間に亘って増殖する。したがって、本開示の細胞分泌物の製造方法では、例えば、前記高増殖性細胞が分泌する細胞分泌物を、対照となる細胞と比較して、より短時間で大量に得ることができる。前記対照となる細胞は、例えば、前述した前記対照細胞であり、前記阻害剤と非接触の外胚葉性細胞である。
【0160】
細胞分泌物は、一般的に、「セクレトーム」とも称される。前記本開示の細胞分泌物は、前記本開示の高増殖性細胞から分泌される物質であれば、特に制限されず、例えば、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小胞等の細胞外小胞;サイトカイン、ホルモン、抗体等の機能性タンパク質等が挙げられる。本開示の一形態では、前記細胞分泌物は、例えば、前記細胞外小胞でよく、なかでも、エクソソームでもよい。
【0161】
本開示の細胞分泌物の製造方法において、用意される培養物は、本開示の高増殖性細胞の培養物であり、前記培養物は、前記高増殖性細胞から分泌された細胞分泌物を含む。前記細胞分泌物を含む培養物は、例えば、本開示の高増殖性細胞の製造方法を実施して製造したものでもよく、本開示の高増殖性細胞を入手して、それを培養することで製造したものでもよく、本開示の高増殖性細胞の製造方法を実施することで得られた培養物を別途入手したものであってもよく、本開示の高増殖性細胞の培養物を別途入手したものでもよい。本明細書において「培養物」とは、例えば、細胞を培養することによって得られる培養細胞と培養上清(馴化培地(conditioned medium))との組み合わせを意味する。
【0162】
本開示の細胞分泌物の製造方法は、前述のように、前記細胞分泌物を、前記培養物から分離することを含む。前記培養物からの前記細胞分泌物の分離方法は、特に制限されず、例えば、前記培養物からの上清の回収、および遠心分離等の公知の分離方法を使用できる。前記培養物から分離された細胞分泌物は、例えば、前記細胞分泌物を含有する組成物の形態で得てもよい。前記細胞分泌物が、前記細胞分泌物を含有する組成物、すなわち細胞分泌物含有組成物である場合、細胞分泌物含有組成物は、例えば、前記細胞分泌物および水性媒体を含むことができる。前記水性媒体としては、特に制限されず、例えば、前記細胞分泌物の種類等に応じて選択される公知の水性媒体であり、具体例として、前記培養物における培養上清、水、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、グッド緩衝液)、生理食塩水および培地等を挙げることができる。
【0163】
本開示の細胞分泌物の製造方法は、さらに、前記培養物から分離された前記細胞分泌物を、精製または単離することを含むことができる。前記細胞分泌物の精製方法または単離方法としては、特に制限されず、前記細胞分泌物の種類に応じて、公知の方法を適用できる。
【0164】
前記細胞分泌物の単離または精製方法としては、例えば、ろ過、および濃縮等を挙げることができる。単離または精製には、例えば、前記培養物から分離した、前記細胞分泌物含有組成物を供することができる。前記ろ過の場合、例えば、目的の細胞分泌物の大きさ等に応じて、サイズまたは分子量カットオフ値を有する膜を用いて、前記細胞分泌物含有組成物のろ過を行い、前記細胞分泌物を単離または精製できる。他の方法として、例えば、タンジェンシャルフローフィルトレーションまたは限外ろ過を用いて、前記細胞分泌物含有組成物をろ過または濃縮し、前記細胞分泌物を単離または精製してもよい。単離または精製された前記細胞分泌物は、例えば、単離細胞分泌物ともいう。
【0165】
前記細胞分泌物は、例えば、前記細胞分泌物を含有する組成物の形態、または単離もしくは精製後に得られる前記単離細胞分泌物の形態で、使用できる。前記細胞分泌物は、例えば、前記組成物もしくは前記単離細胞分泌物の形態のままで保存できる。また、前記細胞分泌物の組成物または前記単離細胞分泌物は、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥処理等の公知の処理を行い、乾燥体としてもよく、前記乾燥体として使用してもよく、また前記乾燥体として保存してもよい。保存方法は、特に制限されず、例えば、常温保存、冷蔵保存、または冷凍保存等が挙げられる。
【0166】
本開示の前記高増殖性細胞由来の細胞分泌物は、具体的には、以下に示すタンパク質およびmiRNAの少なくとも一方を含む細胞分泌物であり、または、以下に示すタンパク質およびmiRNAの両方を含む細胞分泌物である。前記タンパク質は、例えば、
図2~
図4に示すものから選択され、前記miRNAは、例えば、
図5~10および
図12に示すものから選択される。
図2~
図4において、記号は、タンパク質の略語であり、名称は、タンパク質の名称、アクセッション番号は、UniProtKB/Swiss-Prot(https://www.uniprot.org/)におけるアクセッション番号である。
図5~
図10および
図12において、miRNAの欄は、miRNA名であり、アクセッション番号は、miRBase(Release 21)(https://www.mirbase.org/)におけるアクセッション番号である。本開示の細胞分泌物は、例えば、これらのタンパク質から選択される少なくとも1つ、またはこれらのmiRNAから選択される少なくとも1つを含むものであればよく、これらのタンパク質から選択される少なくとも1つと、これらのmiRNAから選択される少なくとも1つとを含むものでもよい。
【0167】
本開示の細胞分泌物は、一実施形態においては、タンパク質として、
・PA群:糖タンパク質M6B(Q13491)、HLAクラスII組織適合抗原、DRα鎖(P01903)、トゥイーティーホモログ1(Q9H313)、フィブリリン-2(P35556)、HLAクラスII組織適合抗原、DRB1β鎖(P01911)、およびS100カルシウム結合タンパク質A8(P05109)の組み合わせを少なくとも含むものであってよく、
・PB群:糖タンパク質M6B(Q13491)、HLAクラスII組織適合抗原、DRα鎖(P01903)、トゥイーティーホモログ1(Q9H313)、フィブリリン-2(P35556)、HLAクラスII組織適合抗原、DRB1β鎖(P01911)、およびS100カルシウム結合タンパク質A8(P05109)の組み合わせと、エンドフィリン-A2(Q99961)、NEDD4様E3ユビキチンリガーゼ(Q96PU5)、インテグリンサブユニットβ8(P26012)、細胞間接着分子1(P05362)、エフリン-B2(P52799)、DnaJホモログサブファミリーAメンバー2(O60884)、コイルドコイル領域含有タンパク質50(Q8IVM0)、潜在的トランスフォーミング成長因子β結合タンパク質2(Q14767)、ミッドカイン(P21741)、および基底細胞接着分子(P50895)からなる群より選択される少なくとも1つと、を含むものであってもよく、
・PC群:糖タンパク質M6B(Q13491)、HLAクラスII組織適合抗原、DRα鎖(P01903)、トゥイーティーホモログ1(Q9H313)、フィブリリン-2(P35556)、HLAクラスII組織適合抗原、DRB1β鎖(P01911)、およびS100カルシウム結合タンパク質A8(P05109)の組み合わせと、エンドフィリン-A2(Q99961)、NEDD4様E3ユビキチンリガーゼ(Q96PU5)、インテグリンサブユニットβ8(P26012)、細胞間接着分子1(P05362)、エフリン-B2(P52799)、DnaJホモログサブファミリーAメンバー2(O60884)、コイルドコイル領域含有タンパク質50(Q8IVM0)、潜在的トランスフォーミング成長因子β結合タンパク質2(Q14767)、ミッドカイン(P21741)、および基底細胞接着分子(P50895)の組み合わせと、テトラスパニン-3(O60637)、ラディキシン(P35241)、Gタンパク質共役型受容体ファミリーCグループ5メンバーB(Q9NZH0)、テトラスパニン-6(O43657)、ガレクチン-3結合タンパク質(Q08380)、リン脂質スクランブラーゼ1(O15162)、エフリンB1(P98172)、グリア由来ネキシン(P07093)、フィブリリン-1(P35555)、Ras関連タンパク質Rab-5A(P20339)、ガレクチン-7(P47929)、Toll相互作用タンパク質(Q9H0E2)、クラスタリン(P10909)、CD47(Q08722)、カドヘリン-13(P55290)、エズリン(P15311)、および液胞タンパク質選別タンパク質37C(A5D8V6)からなる群より選択される少なくとも1つと、を含むものであってもよく、あるいは、
・PD群:
図2、
図3、または
図4に記載された全てのタンパク質を含むものであってもよい。
【0168】
本開示の細胞分泌物に含まれるmiRNAは、例えば、
図12に列挙するmiRNAが挙げられる。
図12に列挙するmiRNAのうち、パーキンソン病の治療に関与するmiRNAは、例えば、
図5に列挙したmiRNAが例示でき、アルツハイマー病の治療に関与するmiRNAは、例えば、
図6~
図9に列挙したmiRNAが例示でき、うつ病の治療に関与するmiRNAは、例えば、
図10に列挙したmiRNAが例示できる。
【0169】
本開示の細胞分泌物は、一実施形態において、miRNAとして、
・RA群:hsa-miR-206(MIMAT0000462)、hsa-miR-204-5p(MIMAT0000265)、hsa-miR-128-3p(MIMAT0000424)、hsa-miR-363-3p(MIMAT0000707)、およびhsa-miR-323a-3p(MIMAT0000755)の組み合わせを少なくとも含むものであってよく、
・RB群:hsa-miR-206(MIMAT0000462)、hsa-miR-204-5p(MIMAT0000265)、hsa-miR-128-3p(MIMAT0000424)、hsa-miR-363-3p(MIMAT0000707)、およびhsa-miR-323a-3p(MIMAT0000755)の組み合わせと、hsa-miR-29c-3p(MIMAT0000681)、hsa-miR-708-5p(MIMAT0004926)、hsa-miR-218-5p(MIMAT0000275)、hsa-miR-4484(MIMAT0019018)、hsa-miR-183-5p(MIMAT0000261)、hsa-miR-186-5p(MIMAT0000456)、hsa-miR-484(MIMAT0002174)、hsa-miR-374b-5p(MIMAT0004955)、およびhsa-miR-93-5p(MIMAT0000093)からなる群より選択される少なくとも1つと、を含むものであってもよく、
・RC群:hsa-miR-206(MIMAT0000462)、hsa-miR-204-5p(MIMAT0000265)、hsa-miR-128-3p(MIMAT0000424)、hsa-miR-363-3p(MIMAT0000707)、およびhsa-miR-323a-3p(MIMAT0000755)の組み合わせと、hsa-miR-29c-3p(MIMAT0000681)、hsa-miR-708-5p(MIMAT0004926)、hsa-miR-218-5p(MIMAT0000275)、hsa-miR-4484(MIMAT0019018)、hsa-miR-183-5p(MIMAT0000261)、hsa-miR-186-5p(MIMAT0000456)、hsa-miR-484(MIMAT0002174)、hsa-miR-374b-5p(MIMAT0004955)、およびhsa-miR-93-5p(MIMAT0000093)の組み合わせと、hsa-miR-222-3p(MIMAT0000279)、hsa-miR-25-3p(MIMAT0000081)、hsa-miR-425-5p(MIMAT0003393)、hsa-miR-328-3p(MIMAT0000752)、hsa-miR-485-5p(MIMAT0002175)、hsa-miR-151a-3p(MIMAT0000757)、hsa-miR-16-5p(MIMAT0000069)、hsa-miR-4534(MIMAT0019073)、およびhsa-miR-320a(MIMAT0000510)からなる群より選択される少なくとも1つと、を含むものであってもよく、あるいは、
・RD群:
図5~
図10のいずれか1つの図に記載された全てのmiRNA、または
図12に記載された全てのmiRNAを含むものであってもよい。
【0170】
本開示の細胞分泌物は、他の一実施形態において、タンパク質として、上述したPA群、PB群、PC群またはPD群のタンパク質群と、miRNAとして、上述したRA群、RB群、RC群またはRD群のmiRNA群とを含むものであってよい。これにより、一実施形態に係る前記細胞分泌物は、例えば、これらのタンパク質およびmiRNAに起因した既知の作用を有する医薬組成物として使用できる。
【0171】
本開示の細胞分泌物は、一態様において、前記細胞外小胞であり、具体的には、脂質二重層を含む小胞である。前記細胞外小胞の直径は、例えば、50nm~5μm、または50nm~1000nmである。前記細胞外小胞のひとつであるエクソソームの直径は、例えば、50nm~200nmである。エクソソームは、例えば、タンパク質、核酸、糖質、脂質等の様々な生理活性物質を含むことから、疾患の治療および診断法、医薬品、化粧品等への利用が期待される。
【0172】
エクソソームは、由来となる細胞が接着細胞の場合、前記接着細胞から培養物中、特に、培養上清中に分泌される。また、エクソソームは、由来となる細胞が非接着細胞であり、前記非接着細胞が細胞懸濁液中に存在する場合、前記非接着細胞から培養上清中または細胞懸濁液中に分泌される。本開示の細胞分泌物において、前記接着細胞または前記非接着細胞に由来する細胞外小胞(例えば、エクソソーム)を含む場合、例えば、前記本開示の高増殖性細胞として、接着細胞(高増殖性の外胚葉性接着細胞ともいう)または非接着細胞(高増殖性の外胚葉性非接着細胞ともいう)を調製し、前記接着細胞または前記非接着細胞から前記細胞外小胞を得ることができる。前記エクソソームとしては、例えば、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース 323巻、225頁~239頁(2020年)に記載されているエクソソームが挙げられる。
【0173】
エクソソームは、例えば、分子量、大きさ、形状、組成または生物活性に基づいて単離できる。具体的には、超遠心分離による沈降物の分取、密度勾配超遠心による分画の分取、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた分取、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、CIMmultusTM EV(BIA separations製)を用いた分取、タンパク質(例えば、MagCaptureTM エクソソームアイソレーションキット PS(富士フイルム和光純薬株式会社))を用いた捕捉による分取、抗体を用いた捕捉による分取、ポリエチレングリコール等のポリマーを用いた沈澱物の分取等によって、単離できる。これらの方法は、例えば、1つまたは複数を組み合わせて実施できる。
【0174】
本開示の細胞分泌物の製造方法において、前記細胞分泌物としてエクソソームを製造する場合、エクソソームの性質は、エクソソームの活性を追跡するために使用し得る。エクソソームの活性は、例えば、静的光散乱、動的光散乱、紫外可視検出器、蛍光検出器または示差屈折率検出器を使用して確認できる。
【0175】
本開示の細胞分泌物の製造方法は、例えば、前記本開示の高増殖性細胞の製造方法における本培養後の培養物から、前記細胞分泌物を分離してもよいし、得られた前記高増殖性細胞をさらに追加培養し、その培養物から、前記細胞分泌物を分離してもよい。前記細胞分泌物としてエクソソームを純度よく得る観点から、エクソソームの単離または精製に際し、例えば、前記高増殖性細胞が含まれる培養物について、前記培養物の培養用培地(例えば、前記本培養における培地)を、さらに、回収用培地に交換して、追加培養を行うことができる。前記回収用培地は、具体的には、培養上清回収用培地である。前記追加培養は、例えば、前記培養用培地による培養後に行う、前記回収用培地による培養を意味する。前記追加培養の期間は、特に制限されず、前記本培養よりも短時間の培養であり、例えば、6時間以上、12時間以上、18時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上、または60時間以上とすることができ、例えば、96時間以下、または72時間以下とすることができる。前記追加培養をすることによって、例えば、前記高増殖性細胞とは異なる起源に由来するエクソソームであって、前記本培養で使用した前記本培養用培地に含まれ得るエクソソームの混入率を下げて、目的とする前記高増殖性細胞に由来するエクソソームの純度を上げることができる。
【0176】
前記回収用培地としては、例えば、血清無添加の培地、およびエクソソーム除去処理済みの培地を挙げることができる。市販のエクソソーム除去処理済み培地としては、例えば、FBS exosome-depleted,OneShot format(Gibco(登録商標)、Thermo Fisher Scientific)を挙げることができる。前記回収用培地は、例えば、前記低分子シグナル伝達経路阻害剤を未含有であることが好ましい。
【0177】
前記血清無添加の培地は、例えば、非ヒト哺乳類の血清、具体例としては、ウシ胎児血清等のウシ血清を含まない培地を使用することが好ましい。一般的に、細胞の培養に使用する培地には、細胞増殖を促すための因子を含んだウシ胎児血清等が添加されるため、前記培地に、ウシ由来のエクソソームが混入する場合がある。また、ヒト由来のエクソソームと牛由来のエクソソームとは、分離が困難である。このため、例えば、ヒト細胞からエクソソームを分離する場合には、前記本培養の後、あらためて、例えば、ウシ胎児血清を含まない回収用培地を使用した短期間の追加培養を行うことによって、ヒト細胞由来のエクソソームをさらに純度よく単離することができる。
【0178】
前記回収用培地を用いた場合、例えば、前記追加培養後に、追加培養の培養物に対して、遠心分離を実施して、エクソソーム含有組成物として培養上清を分取し、必要に応じて、分取された培養上清を、上述したエクソソームの単離または精製方法に供することによって、エクソソームを得ることができる。
【0179】
<7>高増殖性細胞および細胞分泌物の用途
前述した本開示の高増殖性細胞由来の細胞分泌物は、例えば、種々の細胞種に対する種々の作用、例えば、神経保護作用、神経突起伸長抑制作用、神経突起伸張作用、神経突起ネットワーク形成作用、神経細胞死予防作用および神経細胞増殖促進作用を有することが予想される。これらの機能に基づいて、前記高増殖性細胞由来の細胞分泌物は、例えば、末梢神経細胞または中枢神経細胞に関係する障害に対する予防または治療用の医薬組成物としての有用性が期待される。前記高増殖性細胞由来の細胞分泌物は、特に制限されず、前記<6>で列挙したものが挙げられ、中でもエクソソームが好ましい。
【0180】
前記神経保護作用は、例えば、神経細胞が障害を受にくくする、あるいは神経障害の進行を遅延する作用である。例えば、コルチコステロン等の一部のホルモンは、中枢において局所的に過剰となることによって、ホルモンレセプターの過剰刺激による神経障害と機能障害とにより、うつ病等の中枢疾患の原因となりうることが知られている。本開示の細胞分泌物が神経細胞死を抑制する効果を有する場合、神経細胞が障害を受にくくする、あるいは神経障害の進行を遅延することによって、神経を保護することが期待される。
【0181】
前記神経突起伸張抑制作用は、例えば、末梢神経細胞の分化に関して、より未分化な細胞から末梢神経細胞、特に交感神経細胞への分化を抑制する作用である。このため、本開示の細胞分泌物を、例えば、末梢神経細胞に対して用いることによって、末梢神経系、特に交感神経系を抑制することが期待できる。また、例えば、本開示の細胞分泌物を、例えば、中枢神経細胞に対して用いることによって、その神経突起伸張作用、神経突起ネットワーク形成作用、神経細胞死予防作用および神経細胞増殖促進作用等に基づいて、中枢神経系を活性化することが期待できる。
【0182】
したがって、本開示は、医薬組成物に関し、治療または予防としての有効量の本開示の細胞分泌物および薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物を含み、また、本開示は、治療または予防方法に関し、前記本開示の医薬組成物を対象へ投与することを含む。本明細書において「治療」との文言には、障害の根治だけでなく、緩和および寛解等、障害の症状の改善も含まれる。
【0183】
治療または予防の対象の前記障害としては、特に制限されず、末梢神経細胞または中枢神経細胞に関係する障害であり、例えば、がん、疼痛、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、統合失調症および痴呆症からなる群より選択される障害が挙げられる。末梢神経細胞に関係する障害、特に、交感神経細胞に関係する障害としては、例えば、交感神経細胞に関係するがん、疼痛等が挙げられる。中枢神経細胞に関係する障害は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、統合失調症および痴呆症からなる群より選択される。
【0184】
前記薬学的に許容可能な担体としては、特に制限されず、例えば、当該分野で公知のものが使用でき、例えば、生理食塩水等が挙げられる。さらに、本開示は、例えば、上記作用に関連して、交感神経の抑制方法または神経突起の伸長抑制方法に関し、前記高増殖性細胞由来の細胞分泌物(具体的には、エクソソーム)を、神経細胞(例えば交感神経細胞)に接触させることを含む。
【0185】
本開示の治療または予防方法において、投与対象は、ヒトまたは非ヒト動物であり、前記非ヒト動物は、例えば、前述の例示が援用できる。本開示の治療または予防方法において、投与形態は、特に制限されず、例えば、経口投与、または非経口投与がある。前記非経口投与は、例えば、患部注射、静脈注射、皮下注射、皮内注射、点滴注射、経皮投与等が挙げられる。
【0186】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値と任意に組み合わせることができる。
【0187】
本開示に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、参照によりその全体が本開示に組み入れられる。
【実施例0188】
[実施例1]阻害剤添加培地によるヒトアストロサイトの培養
以下に示す材料、試薬、および培養用製品を用いて、ヒトアストロサイトの培養を行った。特に示さない限り、実施例1以降の実施例においても、同様の材料、試薬、培養用製品、装置等を使用した。
【0189】
<材料>
・Normal Human Astrocytes(NHA)(CC-2565、Lonza)
<使用試薬および培養用製品>
・培養用培地:AGM Astrocyte Growth Medium Bullet Kit(CC-3186、Lonza)(AGMの組成:基礎培地、FBS(3%(v/v))、L-グルタミン、アスコルビン酸、hEGF、インスリン、抗生物質)
・阻害剤Y:CultureSure(登録商標)Y-27632(034-24024、富士フイルム和光純薬株式会社)、終濃度:10μM
・阻害剤A:CultureSure(登録商標)A-83-01(035-24113、富士フイルム和光純薬株式会社)、終濃度:0.5μM
・細胞剥離剤:Accutase(AT104、ICT)
・細胞用緩衝液:リン酸緩衝塩水溶液(PBS(-);ダルベッコ;カルシウムおよびマグネシウム不含)(14190250、Thermo Fisher Scientific)
・細胞凍結用培地:CELLBANKER 1(CB011 TaKaRa、日本全薬工業株式会社)
・細胞培養用ディッシュ 60mm(150462、Thermo Fisher Scientific)
・細胞培養用ディッシュ 100mm(150466、Thermo Fisher Scientific)
・細胞培養用ディッシュ 150mm(150468、Thermo Fisher Scientific)
・細胞培養用フラスコ T-75(3290、Corning)
・Stericup Quick Release-GP Sterile Vacuum Filtration System(登録商標、S2GPU02RE、Merck Millipore)
・培養上清回収用阻害剤非含有培地:AGM Astrocyte Growth Medium Bullet Kit(CC-3186、Lonza)(AGMの組成:基礎培地、L-グルタミン、アスコルビン酸、hEGF、インスリン、抗生物質、付属のFBSの代わりにエクソソームが除去されたFBS[3%(v/v)](A2720803、Gibco)を添加)
・遠心分離機:Optima XE-90、Beckman Coulter
<培養装置>
・CO2インキュベーター: MCO-170AICUVD-PJ、PHC株式会社
<培養条件>
温度37℃、CO2濃度5%
<細胞観察・撮影装置>
・蛍光顕微鏡 BZ-X810、CKX53、オリンパス株式会社
【0190】
<培養の手順>
培養は下記の手順に従って行った。ヒトアストロサイト細胞(NHA)の凍結チューブを37℃のウォーターバスで融解した。次いで、溶解後の細胞を計10mLになるよう培養用培地に移し、180×g、5分間、室温で遠心分離に供した後、前記培地を除去した。細胞を再度、新たな培養用培地に懸濁し、150mm細胞培養用ディッシュへ5.8×103細胞/cm2の播種密度で播種した。培養10日目に細胞剥離剤を用いて前記ディッシュから細胞を剥がし、新たな培養用培地に懸濁した。この細胞懸濁液を、遺伝子発現・タンパク発現の解析用として、60mm細胞培養用ディッシュへ4.8×103~1.4×104細胞/cm2の播種密度で播種し、また、前記細胞懸濁液を、継代用として、100mm細胞培養用ディッシュへ5.5×103/cm2の播種密度で播種した。翌日、解析用のディッシュおよび継代用のディッシュのそれぞれを、Normal群(NHA群ともいう)、YA群(NHA-YA群ともいう)、Y群(NHA-Y群ともいう)、A群(NHA-A群ともいう)にわけ、それぞれの群に応じた本培養用培地に交換し(培養日数0日)、本培養を行った。前記Normal群には、阻害剤非含有の培養用培地を、前記YA群には、前記阻害剤Yおよび前記阻害剤Aを添加した含有するYA含有本培養用培地を、前記Y群には、前記阻害剤Yを添加した培養用培地を、前記A群には、前記阻害剤Aを添加した培養用培地を、それぞれ本培養用培地として使用した。前記本培養用培地における前記阻害剤の濃度は、前述の通りとした。以下、阻害剤YAとの記載は、前記阻害剤Yと前記阻害剤Aの両方の添加を意味する。培養期間中、2日または3日おきに培地交換を行った。この際、新鮮な本培養用培地(阻害剤含有または非含有)に交換するとともに、顕微鏡による細胞の観察と写真撮影(KEYENCE、BZ-X810、または、トミー精工、MX-307)を行った。
【0191】
継代用の細胞は、7日目毎に細胞剥離剤を用いて前記ディッシュから剥がし、前記本培養用培地(阻害剤含有または非含有)に懸濁した。そして、前記細胞懸濁液を、新たに遺伝子発現・タンパク発現の解析用として、60mm細胞培養用ディッシュへ4.8×103~1.4×104細胞/cm2の播種密度で播種し、新たに継代用として、100mm細胞培養用ディッシュへ5.5×103/cm2の播種密度で播種することにより、継代した。前記の工程を繰り返しながら、前記阻害剤存在下または前記阻害剤非存在下で、最大28日間の本培養を行った。
【0192】
遺伝子発現・タンパク発現解析用の細胞は、前記60mm細胞培養用ディッシュで最大14日間培養を継続し、それ以降は、前述のように、継代用の細胞を新たに播種して培養を継続した。そして、前記本培養用培地(阻害剤含有または非含有)を使用した本培養において、1、3、5、7、9、11、14、21、28日目に、解析用のディッシュから細胞を剥がし、細胞数の測定、RNA回収、タンパクの免疫染色を行った。サンプリングされた細胞の一部を、後の解析のために凍結保存した。
【0193】
本培養の培養日数と各群の総細胞数との関係を表4に示す。総細胞数は、継代時に全ての細胞を継代したと仮定した累積として示す(以下、同様)。
【0194】
【0195】
前記表4に示すように、YA群では、前記阻害剤存在下での本培養5日間を経過した以降に、増殖率が増加し始め、その後、本培養28日間まで、細胞の増殖率が高いまま継続したことがわかった。また、YA群の細胞数は、本培養7日目には、Normal群の増殖率の1.2倍となり、14日目には24倍、21日目には92倍、28日目には326倍となった。これらの結果から、前記阻害剤存在下での本培養により得られた細胞集団は、増殖性が向上した高増殖性細胞を含むことがわかった。また、Y群およびA群においても、本培養によって増殖性の向上が確認できた。
【0196】
全ての実験群について、本培養開始から28日目まで、細胞の観察を行った。
図1(
図1-1および
図1-2)に、本培養開始から所定日数(3日目、7日目、14日目、28日目)の細胞について、顕微鏡写真を示す。
図1-1において、各写真は、40倍の拡大写真であり、図中のバーは、200μmであり、
図1-2において、各写真は、100倍の拡大写真であり、図中のバーは、100μmである。
図1において、AGMは、Normal群の写真であり、YAは、YA群の写真、Yは、Y群の写真である。
図1から、前記阻害剤存在下で培養したYA群、Y群、A群は、前記阻害剤非存在下で培養したNormal群と比較して、以下のような特徴が確認できた。
【0197】
Y群、およびYA群では、前記阻害剤の添加翌日(1日目)から細胞形態の変化が始まり、細胞が細い神経突起様の構造を伸ばす像が認められた。
図1においては、3日目にその特徴が顕著であった。また、A群の細胞では、若干の細胞の萎縮が生じた。その後、添加から5~7日目を経過する頃になると、Y群、A群、およびYA群において、細胞の中から小型で密集した細胞集団が現れ、形態の異なる複数の細胞集団がコロニー状に増殖していく様子が観察された。
図1においては、7日目と14日目に、その特徴が観察された。また、Y群およびYA群において、細胞形態の異なる集団は、それぞれに増殖を続けるが、Normal群と比較して顕著に細胞増殖が促進された。これに対して、Normal群では、細胞がやや大型化し、増殖が抑制される細胞密度に達しても、神経突起様の構造を持つ細胞群が、小型で密集した細胞層の上部に立体的に増殖を続けていく様子が観察された。また、A群においても、小型で密集した細胞層は形成されるが、神経突起様の構造を持つ細胞群の増殖は、Y群またはYA群と比べて限定的であった。
図1においては、28日目の細胞像に、前記の特徴が認められた。
【0198】
[実施例2]定量PCRによる外胚葉性細胞マーカーの確認
前記実施例1と同様に前記阻害剤存在下での本培養により得られた高増殖性細胞を含む細胞集団(YA群)と前記阻害剤非存在で培養した細胞集団(Normal群)について、外胚葉性細胞マーカー遺伝子の発現量を検討した。
【0199】
以下の細胞検体より常法に従ってRNAを抽出し、そのRNA試料を用いてcDNAを合成した。RNA試料の調製および反応条件の設定は、製品添付のプロトコールにしたがった。
細胞検体:
・Normal Human Astrocytes(NHA)
前記実施例1において、前記阻害剤非存在下での本培養により得られた細胞集団(Normal群)を使用した。なお、28日間の本培養期間中、2回の継代を行った。
・NHA-YA
前記実施例1において、前記阻害剤YAの存在下での本培養により得られた細胞集団(YA群)を使用した。なお、28日間の本培養期間中、2回の継代を行った。
【0200】
<トータルRNAの回収>
試薬:PureLink RNA Mini Kit(登録商標、製品番号:12183018A、TermoFisher社)、PureLink DNase Set(登録商標、製品番号:12185010、TermoFisher社)
機器:冷却遠心機 MX-307、Bio・Rad社、分光光度計 Nanodorop(商標)、TermoFisher社
【0201】
<cDNAの合成>
試薬:PrimeScript RT Master Mix(登録商標、製品番号:RR037A、タカラ・バイオ社)
機器:CFX96 Touch Real-time PCR Detection system(バイオ・ラッド社)
【0202】
<定量PCR>
前記トータルRNAから合成したcDNAを鋳型として、下記のプライマーおよびプローブを用いて、定量PCRによって、外胚葉性細胞マーカー遺伝子の発現を確認した。前記トータルRNAの調製および反応条件の設定は、製品添付のプロトコールに従った。
【0203】
試薬:TaqMan Fast Advanced Master Mix(製品番号:4444557、TermoFisher社)
機器:CFX96 Touch Real-time PCR Detection system(バイオ・ラッド社)
プライマー/プローブセット:
・TaqMan(登録商標、以下同じ) Gene Expression Assays GAPDH:Hs02786624_g1(製品番号:4331182、Termofisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays GFAP:Hs00909233_m1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays SOX2:Hs01053049_s1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays NES:Hs04187831_g1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays MSI1:Hs01045894_m1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays Notch1:Hs01062014_m1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays S100b:Hs00902901_m1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays SLC1A3:Hs00904823_g1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays CSPG4:Hs00361541_g1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays PAX6:Hs01088114_m1(製品番号:同上、TermoFisher社)
・TaqMan Gene Expression Assays Olig2:Hs00377820_m1(製品番号:同上、TermoFisher社)
統計処理:遺伝子の発現量の算出はExcel(Microsoft)を用いて行った。
【0204】
(2-1)コントロール遺伝子の発現量(EC)に対するマーカー遺伝子の発現量(E1)の相対値(E1/EC)
各種マーカー遺伝子の発現量(E1)を、内部標準のコントロール遺伝子(GAPDH)の発現量(EC)に対する相対値(E1/EC)として算出した。その結果を表5(5-1、5-2)に示す。表5において、太字の数値は、後述する表6に示す最高値と最低値である。
【0205】
【0206】
【0207】
培養日数28日超(35日から63日)の表5-2の結果から、各マーカー遺伝子の発現量の相対値(E1/EC)の最高値と最低値を抽出した。一方、培養日数28日以下(1日から28日)の表5-1の結果について、下記(1)および(2)の基準にしたがって、各マーカー遺伝子の発現量の相対値(E1/EC)の最高値と最低値とを抽出し、各マーカー遺伝子について、培養日数28日超の結果と差別化するカットオフ値を決定した。これらの結果を、下記表6に示す。下記表において、カットオフ値は、例えば、かっこ内の値でもよい。
(1)28日超での培養で、前記マーカー遺伝子が発現している範囲を除く。
(2)28日以下の培養で、前記マーカー遺伝子が発現している範囲である。
ただし、28日以下の培養の全ての期間で、28日超での培養での前記マーカー遺伝子が発現している範囲が除かれている必要はない。
【0208】
【0209】
前記カットオフ値は、前記阻害剤存在下での28日以下の培養により得られる細胞を、前記阻害剤存在下での28日超の培養により得られる細胞と区別する条件となり得る。このため、前記カットオフ値は、本開示の高増殖性細胞を特定するための、マーカー遺伝子の発現挙動の基準範囲とすることができる。
【0210】
(2-2)Normal群でのマーカー遺伝子の発現量(EN)に対するYA群でのマーカー遺伝子の発現量(EYA)の相対値(EYA/EN)
定量PCRによる、神経幹細胞のマーカーであるMusashi1、Notch1、神経上皮細胞のマーカーであるNotch1、Nestin、SOX2、および放射状グリア細胞のマーカーであるNestinの発現確認の結果、ならびに、アストロサイトのマーカーであるGFAPおよびS100B、SLC1A3、およびオリゴデンドロサイト前駆体細胞のマーカーであるNG2の発現確認の結果を表7に示す。
【0211】
表7では、本培養5日目、7日目、9日目、14日目、28日目の各マーカー遺伝子の発現量を示す。マーカー遺伝子の発現量は、マーカー遺伝子の発現量の測定値をコントロール遺伝子(GAPDH)の発現量の測定値により補正したものを用いた。そして、同じ培養日における、Nomal群のマーカー遺伝子の補正した発現量(EN)を「1」として、YA群の同マーカー遺伝子の補正した発現量(EYA)の相対値(EYA/EN)として示した。
【0212】
【0213】
表7に示すように、前記阻害剤存在下で得られた細胞集団(YA群)においては、前記阻害剤非存在下で培養したアストロサイト(Normal群)と比較して、アストロサイトのマーカーであるGFAP、S100BおよびSLC1A3の発現が高く、対してオリゴデンドロサイト前駆体細胞のマーカーであるNG2の発現は低かった。また、神経細胞の発生において、アストロサイトの上流に存在する放射状グリア細胞のマーカーおよび神経上皮細胞のマーカーでもあるNestin、同じく神経上皮細胞のマーカーであるNotch1およびSOX2、さらに神経幹細胞のマーカーであるMusashi1が、いずれも高く発現することが認められた。
【0214】
これらの結果から、前記阻害剤存在下で得られた細胞集団(YA群)は、成熟細胞であるアストロサイト(Normal群)よりも前駆細胞に近く、高い増殖能を有する細胞であることがわかった。この細胞集団(YA群)は、高い増殖能を有することから、アストロサイトよりも短時間でより多く増殖することができる。また、短時間でより多くのエクソソームを得るには、前記YA群を用いることが有利であることがわかった。
【0215】
[実施例3]免疫染色による外胚葉性細胞マーカーの確認
前記実施例1と同様の方法により、前記阻害剤存在下での本培養により得られた高増殖性細胞を含む細胞集団(YA群)と前記阻害剤非存在で培養した細胞集団(Normal群)を調製し、それぞれの細胞集団について、免疫染色法を用いて外胚葉性細胞のマーカータンパク質の発現を確認した。
【0216】
<使用試薬および培養用製品>
試薬:
・細胞固定液および細胞膜処理液:eBioscience Foxp3 / Transcription Factor Staining Buffer Set(商標、製品番号:00-5523-00、Invitrogen社)、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(PFA)(製品番号:161-20141、富士フイルム和光純薬)、Triton X-100 (製品番号:93443、Sigma Aldrich)、大塚蒸留水(製品番号:05206903、大塚製薬)
・細胞洗浄液:リン酸緩衝塩水溶液(PBS(-): カルシウムおよびマグネシウム不含、以下同様)(製品番号:166-23555、富士フイルム和光純薬)、Phosphate Buffered Saline with Tween 20 (PBS-T)(製品番号:T9183、富士フイルム和光純薬)
・一次抗体:
・Rabbit monoclonal Anti-Human GFAP(製品番号:ab68428、Abcam)
・Rabbit monoclonal Anti-Human SOX2(製品番号:ab92494、Abcam)
・Rabbit monoclonal Anti-Human NOTCH1(製品番号:ab52627、Abcam)
・Rabbit monoclonal Anti-Human Musashi1(製品番号:ab52865、Abcam)
・Rabbit monoclonal Anti-Human Neural/Glial antigen 2(NG2)(製品番号:ab275024、Abcam)
・Rabbit IgG monoclonal Isotype Control(製品番号:ab172730、Abcam)
・Mouse IgG1 Isotype Control(製品番号:401401、Biolegend)
・Alexa Flour 488 conjugate Anti-Anti-Human GFAP(製品番号:53-9792-82、Invitorogen)
・Alexa Flour 488 conjugate Anti-SOX2(製品番号:656109、Biolegend)
・Alexa Flour 488 conjugate Anti-Anti-Human Musashi1(製品番号:ab199781、Abcam)
・Alexa Flour 488 conjugate Anti-Anti-Human Neural/Glial antigen 2(NG2)(製品番号:53-4504-80、Biolegend)
・PE conjugate Anti-Nestin(製品番号:656805、Biolegend)
・FITC conjugate Mouse IgG1 Isotype Control(製品番号:400107、Biolegend)
・PE conjugate Mouse IgG1 Isotype Control(製品番号:400111、Biolegend)
・APC conjugate Mouse IgG1 Isotype Control(製品番号:400119、Biolegend)
・Alexa Flour 488 conjugate Mouse IgG1 Isotype Control(製品番号:50-6714-80、Invitrogen)
・PE conjugate Mouse IgG2a Isotype Control(製品番号:400211、Biolegend)
・Donkey anti-Mouse IgG Alexa Fluor plas 488(製品番号:A32796、Invitorogen社)
・二次抗体:
・Donkey anti-Mouse IgG Alexa Fluor plas 488(製品番号:A32766、Invitorogen社)
・Donkey anti-Rabbit IgG Alexa Fluor plas 488(製品番号:A32790、Invitorogen社)
・核染色液:7-AAD Viability Dye(製品番号:A07704、Beckman Coulter社)
・FACS溶液:リン酸緩衝塩水溶液(PBS(-))にFBS[2%(v/v)]と2mMのEDTA(製品番号:311-90075、ニッポンジーン)を添加し、0.22μmのASFILシリンジフィルタ(2-856-01 AZONE)でろ過したもの。
・細胞培養用ディッシュ 100mm(150466、Thermo Fisher Scientific)
・プロテオセーブ SS 1.5mLマイクロチューブ(MS-4265M、住友ベークライト)
【0217】
装置:
・遠心分離機:MX-307、トミー精工
・細胞解析装置:フローサイトメーター BD FACSVerse、商標、日本ベクトン・ディッキンソン
・解析ソフトウェア:BD FACSiute Version 1.3、FlowJo Version 10.8.1(商標、日本ベクトン・ディッキンソン)
【0218】
<免疫染色>
・前記実施例1と同様にして、ヒトアストロサイト細胞(NHA)について、前記阻害剤YAの存在下および前記阻害剤非存在下での7日間の本培養を行った(Normal群およびYA群の調製)。そして、本培養7日間の細胞を、細胞剥離剤を用いてディッシュから剥がし、一部の細胞を15mL遠沈管に回収し、13mLの増殖用培地(前記実施例1における前記阻害剤非含有の培養用培地)に懸濁した後、1,500rpm、5分間、4℃で遠心分離に供し、細胞を洗浄した。
・前記遠沈管の細胞を前記FACS溶液で懸濁し、細胞濃度が1.0×107個/mLとなるように調整した。
・1.5mLミクロチューブ内に濃度調整後の細胞懸濁液100μL(1.0×106個)を分注し、さらに前記一次抗体を1/100~1/250容量となるように加えて、4℃で1時間反応させた。なお、前記一次抗体に、直接、蛍光色素が標識されている場合、遮光下で反応させた。
・前記チューブに、PBSを1mL加えて、1,200rpm、3分間、4℃で遠心分離に供し、細胞を洗浄した。
・前記チューブ内の細胞を100μLのPBS(-)に懸濁し、さらに、900μLの前記4%PFAを加え、室温で30分間のインキュベートにより前記細胞を固定した後、1,200rpm、3分間、4℃で遠心分離に供した。遠心分離後、上清を除去し、前記チューブにPBS(-)を1mL加えて、細胞を洗浄した。
・前記チューブ内の細胞を1mLの0.2%Triton-X溶液でゆっくり懸濁し、室温で15分間、細胞膜の透過処理をした。処理後、前記チューブに1mLのFACS溶液を添加し、1,500rpm、5分間、4℃で遠心分離に供し、細胞を洗浄した。なお、市販試薬(eBioscience Foxp3 / Transcription Factor Staining Buffer Set)を使用して、細胞の固定、細胞膜の透過処理を行う場合は、製品添付のプロトコールに従った。
・前記チューブ内の細胞を100μLのFACS溶液に懸濁し、さらに、前記二次抗体を1/50~1/175容量となるように加えて、4℃で30分間~1時間反応させた。なお、この際も、前記一次抗体に、直接、蛍光色素が標識されている場合、遮光下で反応させた。
・前記チューブに、PBS(-)を1mL加えて、1,500rpm、5分間、4℃で遠心分離に供し、細胞を2回洗浄した。
・前記チューブ内の細胞を500μLのFACS溶液に懸濁した。なお、生細胞の判別が必要な場合は、前記FACS溶液に代えて、1/50容量の7-AAD Viability DyeをFACS溶液に懸濁した懸濁液を加えた。
・そして、懸濁した細胞について、前記フローサイトメトメーターを使用して、マーカー陽性細胞の比率を計測し、前記解析ソフトを用いて細胞集団の構成を解析した。
【0219】
表8に、本培養7日目の前記Normal群の細胞集団と前記YA群の細胞集団のそれぞれについて、マーカータンパク質の発現が陽性である細胞の割合(細胞陽性率)と、前記Normal群の細胞陽性率に対する比率(対Normal比)を示す。
【0220】
【0221】
表8に示すように、YA群においては、アストロサイトのマーカーであるGFAP、放射状グリア細胞のマーカーおよび神経上皮細胞のマーカーであるNestin、同じく神経上皮細胞のマーカーであるNotch1、およびSOX2、さらに神経幹細胞のマーカーであるMusashi1のいずれもが、Normal群と比較して高い陽性細胞率を示した。これに対して、オリゴデンドロサイト前駆体細胞のマーカーであるNG2の陽性細胞率は、Normal群と比較して低くかった。これらの結果から、培養7日目のNormal群に対するYA群における各種外胚葉性細胞マーカータンパクの発現量の比は、前記実施例2(2-2)における、培養7日目のマーカー遺伝子の発現量の相対値(EYA/EN)と一致することが確認された。
【0222】
[実施例4]培養上清中のエクソソームの回収および確認
【0223】
<ヒトアストロサイト細胞の培養上清の回収>
以下の手順に沿って、前記阻害剤YA含有または前記阻害剤非含有の前記本培養用培地を用いてヒトアストロサイト細胞を培養し、その培養上清をそれぞれ回収した。
【0224】
まず、前記実施例1と同様に、NHAの凍結チューブを37℃のウォーターバスで融解した。溶解後の細胞を30mLの培養用培地に懸濁し、T-75細胞培養用フラスコに、1.3×104細胞/cm2の播種密度で播種し、培養した。翌日、前記本培養用培地(前記阻害剤YA含有または非含有)により、15mL/フラスコの容量で培地交換し、2-3日毎に同様の培地交換を行いながら培養を継続した。前記本培養用培地で7日間培養後、細胞剥離剤を用いて細胞を剥がし、細胞を前記本培養用培地に懸濁し、150mm細胞培養用ディッシュへ、6.6×103細胞/cm2かつ20mL/ディッシュの容量の播種密度で継代した(2継代目)。前記阻害剤YA含有および前記阻害剤非含有の条件毎にディッシュを各5枚使用したため、播種した総細胞総数は、各5×106細胞ずつであった。前記実施例1と同様に、前記阻害剤YA含有本培養用培地で培養された細胞群をYA群、前記阻害剤YAを含まない本培養用培地で培養された細胞群をNormal群と称する。
【0225】
前記2継代目からの3日間の培養後(本培養:合計10日)、前記ディッシュの培地を、前記本培養用培地から前記培養上清回収用の阻害剤非含有培地(以下、回収用培地と称する)に、20mL/ディッシュの容量で交換し、エクソソーム回収用の追加培養を開始した。
【0226】
前記追加培養の開始から48時間後、前記ディッシュから培養上清を回収し、0.22μmフィルターシステム(Stericup、Merck Millipore)でろ過し、ろ液を4℃で保存した。さらに、前記培養上清回収後の前記ディッシュには、新鮮な前記回収用培地を20mL/ディッシュの容量で添加し、追加培養を継続した。このような方法により、前記培養上清の回収は、合計6日間、計3回行い、各条件下で合計300mLの培養上清P2(エクソソーム含有溶液)を得た。ここで、P2とは、継代培養を2回行ったことを意味する。同様に、PN(ここで、Nとは正の整数を表す)とは、継代培養をN回行ったことを意味し、これ以降も同様である。したがって、ここでの「培養上清P2」とは、継代培養を2回行って得られた培養上清を意味する。
【0227】
[実施例5]NHA-YA由来エクソソームのプロテオーム解析
前記実施例4の細胞上清P2(エクソソーム含有溶液)を用いて、エクソソームに含まれるタンパク質のプロテオーム解析を行った。
【0228】
<上清中のエクソソームの精製>
前記実施例4で得られた前記YA群および前記Normal群の各培養上清P2(エクソソーム含有溶液)から、市販キット(MagCapture Exosome Isolation Kit PS:商標、293-7760、富士フイルム和光純薬)を使用してエクソソームを精製した。精製したエクソソーム検体は、Nanosight NS300(Malvern Panalytical社)により粒径および粒子濃度を測定した。なお、各培養上清P2の粒子濃度は、培養上清回収用の阻害剤非含有培地の粒子濃度を減算することによって求めた。表9に、各群のエクソソーム検体における粒子径および粒子濃度の測定結果を示す。また、前記エクソソーム検体の一部を用いてBCA-Assayを行い、エクソソームが含有するタンパクのクオリティーチェックを行った。
【0229】
【0230】
表9に示すように、前記YA群および前記Normal群のいずれのエクソソーム検体においても、粒径100nm~200nmに平均値(Mean)および最頻値(Mode)を有する粒子が含まれており、エクソソームの存在が確認できた。また、前記YA群のエクソソーム検体は、前記Normal群のエクソソーム検体と比較して、前記粒子径の粒子の含有量が約2.2倍程度を示した。このことから、前記阻害剤YA存在下での培養により得られた前記YA群の細胞集団によれば、効率よく、エクソソームを調製できることがわかった。
【0231】
<エクソソームのプロテオーム解析>
前記実施例4で得られた培養上清P2(エクソソーム含有溶液)に、還元処理液を加え、57℃、30分間の還元処理を行った。前記還元処理液は、1.5mgのDTTを1mLの100mM炭酸水素アンモニウムに溶解して調製した。還元後のサンプルに、アルキル化処理液を加え、25℃、30分間反応を行った。前記アルキル化処理液は、10mgのヨードアセトアミドを1mLの100mM炭酸水素アンモニウムに溶解して調製した。次いで、前記反応液にトリプシン消化液100μL、および50mM炭酸水素アンモニウム100Lを順に添加し、30℃で16時間処理することで、エクソソームを分解した。得られたエクソソームの分解物を遠心濃縮機で乾燥し、0.1%ぎ酸を30μL加えて撹拌後、遠心分離(20,000×g、10分間)を行い、上清を回収し、これを分析試料として、nanoLC-MS/MS分析に供した。
【0232】
nanoLC-MS/MS分析は、液体クロマトグラフ(LC)にUltiMate(登録商標)3000、質量分析装置(MS)にQ-Exactive Plusを用い、Xcalibur(サーモフィッシャーサイエンティフィック)でLCおよびMSを制御して、測定を実施した。nanoLC-MS/MSの分析条件およびProteome Discoverer Ver2.5(サーモフィッシャーサイエンティフィック)によるデータベース検索を実施した。次いで、検索結果をエクスポートして、Scaffold Ver5.2.0(プロテオームサイエンス)で定量比較解析を実施した。分析試料のMS/MSデータについて、Proteome Discovererを使用し、SwissProt_Homo sapiens(ID:9606)、UniProtKB_Bos taurus(ID:9913)、およびこれらを混合したSwissProt_Homo sapiens(ID:9606)+UniProtKB_Bos taurus(ID:9913)の3種のデータベースを検索した。
・ヒト由来タンパク質:SwissProt(配列数20376)
・ウシ由来タンパク質:UniProtKB(配列数47043)
【0233】
解析のQuantitative Methodには、iBAQ(Intensity-Based Absolute Quantification)値を使用し、検索結果として、Normal群由来のエクソソーム画分とNHA-YA群由来のエクソソーム画分と培地成分とを合わせた全てのタンパク質断片を同定した。前記データベース上で検出された全タンパクから、Normal群よりもYA群由来のエクソソーム画分において多く検出されるものを選び、Quantitative Value(検出されたスペクトル数。補正あり。)が5.0以上のものを、高いものから順に選出した。さらに、選出したタンパク質の中から、さらにヒト由来タンパク質を選出し、もし対象がウシ由来タンパク質であった場合には、ヒト由来タンパク質での同定確率を検討し、同定確率が高いものを選出した。以下に、その後に行った、特徴的なタンパク質の選出ステップについて述べる。
【0234】
a:膜タンパク質、および細胞外領域等に特徴的なタンパク質の選出ステップ
SwissProt上の検索結果として、Normal群由来のエクソソーム画分とYA群由来のエクソソーム画分と培地成分とを合わせて、合計1966種類のタンパク質断片を検出した。検出された全1966個のタンパク質から、Normal群よりもYA群由来のエクソソーム画分において多く検出され、Quantitative Value(検出されたスペクトル数。補正あり。)が5.0以上のものを選出し、41個のタンパク質を抽出した。
(a1) 上記で抽出した41個のタンパク質のうち、Scaffold Proteome viewerのGOで「membrane」に括られているタンパク質として、29個のタンパク質を選出した;
(a2) 上記で抽出した41個のタンパク質のうち、Scaffold Proteome viewerのGOで「extracellular region」に括られているタンパク質として、35個のタンパク質を選出した;
(a3) 上記で抽出した41個のタンパク質のうち、Scaffold Proteome viewerのGOで「membrane」および「extracellular region」のいずれにも括られていないタンパク質として、1個のタンパク質を選出した;
(a4) 上記ステップ(a1)、(a2)および(a3)で抽出したタンパク質のうち、前記培地に含まれていないタンパク質として、12個のタンパク質を選出した。そのうち、8個については、下記のステップ(b1)~(b4)により選出されたタンパク質と重複した。
上記ステップ(a1)~(a5)により選出された12個のタンパク質を
図2に記す。
【0235】
上記選出ステップaとは異なる選出ステップbで特徴的なタンパク質を選出した。
b:中枢神経疾患に対して薬理効果を持つと予想される特徴的なタンパク質の選出ステップ
(b1) SwissProt_Homo sapiensとUniProtKB_Bos taurusとを合わせた検索結果として、Normal群由来のエクソソーム画分およびYA群由来のエクソソーム画分と培地成分とを合わせて、合計1642種類のタンパク質断片を検出した。検出された全1642個の配列から、Normal群よりもYA群由来のエクソソーム画分において多く検出され、Quantitative Value(検出されたスペクトル数。補正あり。)が5.0以上のものを選出し、35個のタンパク質を抽出した。
(b2) 上記(b1)で選出した35個の配列について、論文検索サイトPubMed(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/)により、中枢神経疾患と関連するもの、または、脳、神経細胞の増殖、発生、分化、形態形成、移動、代謝等に関与していることが推定されるものを、30個選出した。選出した30個のうち、9個については、上記ステップ(a1)~(a5)により選出されたタンパク質と重複した。
上記ステップ(b1)~(b3)により選出された30個のタンパク質を
図3に記す。
【0236】
上記選出ステップaとbを合わせて、合計33個のタンパク質を選出することができた。これらを
図4に示す。
【0237】
[実施例6]NHA-YA由来エクソソームのmiRNA解析
前記実施例4の培養上清P2(エクソソーム含有溶液P2)を用いて、エクソソームに含まれるSmall-RNA(miRNA、piRNA、tRNA、その他のRNAを含む)の解析を行った。
【0238】
<前記YA群由来エクソソームからのRNAの抽出>
前記実施例4のエクソソーム含有溶液P2から、exoRNeasy Serum/Plasma kit(77144、Qiagen)を用いてトータルRNAを抽出した。
【0239】
<RNA解析>
得られたトータルRNAを、Agilent RNA 6000 pico kit(Agilent Technologies)およびAgilent small RNA kit(Agilent Technologies)を使用して、Agilent 2100 Bioanalyzerによりクオリティーチェックを行った。クオリティーチェック後、ディレクショナル(Stranded)用RNAライブラリー調製キット、NEBNext Ultra II Directional RNA Library Prep Kit for Illuminaを用いて、前記トータルRNAからRNAライブラリーを調製した。調製したRNAライブラリーを用いて、mRNA-Seq解析を行った。
【0240】
同様に、miRNAライブラリー調製キット、QIAseq miRNA Library Kit(Qiagen)、およびQIAseq miRNA NSG 96 Index IL(Qiagen)を用いて、前記トータルRNAからmiRNAライブラリーを調製した。調製したmiRNAライブラリーを用いて、miRNA-Seq解析を行った。
【0241】
シークエンスライブラリーのクオリティーチェックは、High Sensitivity DNA kit (Agilent Technologies)を使用し、Agilent 2100 Bioanalyzerにより行った。
【0242】
NGSは、NextSeq500、およびIlluminaを用いて行った(シングルエンド、75bp、平均リード数約1,000万リード)。
【0243】
シーケンス後のデータは、リードの品質評価(FastQC)を行った後、GeneGlobe:Data Analysis Center(QIAGEN)にてリファレンスゲノム(Human hg38)にアライメント(マッピング)し、Trimmed mean of M values(TMM)で発現量を正規化した。そして、各miRNAのアノテーション情報とSmall RNA組成の分類集計とを含むExcel形式のファイルを作成した(解析ツール:StrandNGS v4.0、R v3.6.2;アノテーション情報:miRBase Release21準拠)。その後、データ解析として、発現変動遺伝子の抽出後、ターゲット遺伝子予測からのGO解析、およびPathway解析を実施した。
【0244】
前記エクソソーム含有溶液P2から検出された遺伝子数は、Normal群で1350個、前記YA群で1346個であった。次いで、前記Normal群と前記YA群とで比較した場合、Fold Change 1.1以上の遺伝子が377個検出された。そのうち、前記YA群において、Fold Change 2以上で発現が亢進するものが121個検出された。
【0245】
<機能的マーカーmiRNAの選出>
1.パーキンソン病マーカーとしてのmiRNA
以下の文献を参照し、パーキンソン病のヒト脳組織で発現が低下しているmiRNAを39個選出した。前記miRNAを含有するエクソソームをパーキンソン病患者の細胞に投与することにより、パーキンソン病患者において、外因性に前記miRNAの機能が補完され、パーキンソン病の治療効果が期待される。
【0246】
参照文献:
・MicroRNAs in Parkinson’s disease and emerging therapeutic targets. Neural Regeneration Research, 12(12), pp.1945-1959 (2017)
・"Lei Zhou et al. MicroRNA―128 Protects Dopamine Neurons from Apoptosis and Upregulates the Expression of Excitatory Amino Acid Transporter 4 in Parkinson‘s Disease by Binding to AXIN1. Cell Physiol Biochem. 2018;51(5):2275-2289.
・Eashita Das et al. MicroRNA-432 contributes to dopamine cocktail and retinoic acid induced differentiation of human neuroblastoma cells by targeting NESTIN and RCOR1 genes. FEBS Lett. 2014 May 2;588(9):1706-14.
・Anna-Elisa Roser et al. miR-182-5p and miR-183-5p Act as GDNF Mimics. Molecular Therapy. Mol Ther Nucleic Acids. 2018 Jun 1;11:9-22.
・Sifan Sun et al. MicroRNA-212-5p Prevents Dopaminergic Neuron Death by Inhibiting SIRT2 in MPTP-Induced Mouse Model of Parkinson‘s Disease. Front Mol Neurosci. 2018 Oct 11;11:381.
【0247】
次いで、この中から、前記YA群由来のエクソソームmiRNAとして検出されるmiRNAを3個選出した。選出した3個のmiRNAを
図5に示す。
【0248】
2.アルツハイマー病マーカーとしてのmiRNA
IMOTA(https://ccb-web.cs.uni-saarland.de/imota/)を用いて、アルツハイマー病の病態に関連するタンパク質、特にアルツハイマー病治療薬の薬理作用に寄与する複数のタンパク質と関連することが知られる下記のタンパク質と関連付けられるmiRNAを選抜した。
【0249】
2-1.アルツハイマー病マーカーとしてのmiRNA(1)
IMOTAを用いて、大脳皮質においてアミロイド前駆体タンパク質(APP:Amyloid Precursor Protein)と関連付けられるmiRNAを70個選出した。APPは、アルツハイマー病発症の原因の一つに上げられる老人斑、すなわち、アミロイドβタンパクの沈着物の主要構成成分である。
【0250】
次いで、この中から、NHA-YA由来のエクソソームmiRNAとして検出されるmiRNAを5個選出した。選出した5個のmiRNAを
図6に示す。
【0251】
2-2.アルツハイマー病マーカーとしてのmiRNA(2)
IMOTAを用いて、大脳皮質においてBACE1(β-site APP cleaving enzyme)と関連付けられるmiRNAを42個選出した。アルツハイマー病発症時BACE1はAPPのN末端部分を切断することにより、異常なアミロイドβタンパクを産生する。
【0252】
次いで、この中から、NHA-YA由来のエクソソームmiRNAとして検出されるmiRNAを2個選出した。選出した2個のmiRNAを
図7に示す。
【0253】
2-3.アルツハイマー病マーカーとしてのmiRNA(3)
IMOTA (https://ccb-web.cs.uni-saarland.de/imota/)を用いて、大脳皮質においてNMDA受容体(N-methyl-D-aspartate receptor)と関連付けられるmiRNAを66個選出した。アルツハイマー病発症時、脳内に異常なタンパク質が蓄積することで、神経を興奮させる物質が過剰に放出される。この興奮物質によりNMDA受容体が過剰に活性化されることで、神経伝達や記憶が障害される。
【0254】
次いで、この中から、NHA-YA由来のエクソソームmiRNAとして検出されるmiRNAを3個選出した。選出した3個のmiRNAを
図8に示す。
【0255】
2-4.アルツハイマー病マーカーとしてのmiRNA(4)
IMOTA (https://ccb-web.cs.uni-saarland.de/imota/)を用いて、大脳皮質においてグルコーゲン合成酵素キナーゼ-3-β(GSK-3β:Glycogen synthase kinase-3β)と関連付けられるmiRNAを58個選出した。GSK-3βは、様々な蛋白質をリン酸化する酵素で,複数のパスウェイ制御を介して細胞の生命維持や生理機能の調節に多様な働きをしている。アルツハイマー病においては脳内でのアミロイドβタンパクの沈着や神経細胞中にタウタンパク質の蓄積を促進する。その結果として神経細胞のアポトーシスを誘発する。
【0256】
次いで、この中から、NHA-YA由来のエクソソームmiRNAとして検出されるmiRNAを2個選出した。選出した2個のmiRNAを
図9に示す。
【0257】
3.うつ病マーカーとしてのmiRNA
以下の文献を参照し、うつ病の個人における血漿中で発現が低下しているmiRNAを24個選出した。当該miRNAを含有するエクソソームをうつ病患者の細胞に投与することにより、うつ病患者において、外因性に当該miRNAの機能が補完され、うつ病の治療効果が期待される。
文献:MicroRNAs expressed in depression and their associated pathways:A systematic review and a bioinformatics analysis(Journal of Chemical Neuroanatomy 100 (2019) 101650)
【0258】
次いで、この中から、NHA-YA由来のエクソソームmiRNAとして検出されるmiRNAを1個選出した。選出した1個のmiRNAを
図10に示す。
【0259】
[実施例7]NHA-YA由来エクソソームによるコルチコステロン障害性に対する神経保護効果の検証
NHA-YA由来エクソソームによる機能性評価試験として、ラット副腎褐色細胞腫由来細胞株であるPC-12細胞(RCB0009、RIKEN Cell Bank)に対する神経突起伸長抑制試験を行った。コルチコステロンは副腎皮質で合成される副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)であり、規定量を培地に添加することによりPC-12細胞に対して毒性を示し、細胞のアポトーシスを誘導する。アポトーシスの誘導の定量化はCaspase-3およびCaspase-7の活性を測定することで行った。
【0260】
<試薬および培養用製品>
以下の試薬および培養用製品を使用した。
【0261】
PC-12細胞の培養
・増殖用培地の組成:基礎培地、10%(v/v)FBS、10%(v/v)HS、抗生物質
基礎培地:DMEM,high glucose,pyruvate(11995-073;Gibco)
FBS:Fetal Bovine Serum,qualified,Brazil(10270-106;Gibco)
HS:Horse Serum,heat inactivated,New Zealand origin(26050-088;Gibco)
抗生物質:Antibiotic-Antimycotic(100X)(15240-062;Gibco)
・細胞剥離剤1:Accutase(AT104、ICT)
・細胞剥離剤2:TrypLE Express Enzyme(1X),フェノールレッド非含有(12604-013、Gibco)
・細胞用緩衝液:リン酸緩衝塩水溶液(PBS(-)、ダルベッコ;カルシウムおよびマグネシウム不含)(BNDSBN200、KAC)
・細胞凍結用培地: CELLBANKER 1 (CB011 Takara Bio (日本全薬工業))
・アッセイ用培地の組成:基礎培地、添加剤、抗生物質
基礎培地:Advanced DMEM(12491-015、Gibco)
添加剤:GlutaMAX Supplement(100X)(35050-061、Gibco)
抗生物質:Antibiotic-Antimycotic(100X)(15240-062、Gibco)
・アポトーシス誘導試薬:Corticosterone-100MG (C0388-100MG 東京化成工業)
・溶解溶媒: Dimethyl Sulfoxide(DMSO)(472301-100ML SIGMA-ALDRICH)
・アポトーシス測定試薬: Caspase-GlO 3/7 Assay System(G8091 Promega)
器材
・増殖用:細胞培養用ディッシュ100mm(150466 THERMO Scientific)
・アッセイ用:コラーゲンIコート製品96ウェルプレート(4860-010 IWAKI)
・発光量測定機器:Synergy H4(BioTeck)
【0262】
エクソソーム回収用アストロサイト細胞の培養
使用した培地、試薬、および機材は、前記実施例4に準じた。
・培養用培地:AGM Astrocyte Growth Medium Bullet Kit(CC-3186、Lonza)(AGMの組成:基礎培地、FBS(3%(v/v))、L-グルタミン、アスコルビン酸、hEGF、インスリン、抗生物質)(実施例1で使用したのと同じもの)
・阻害剤Y:CultureSure(登録商標)Y-27632(034-24024、富士フイルム和光純薬株式会社)、終濃度:10μM(実施例1で使用したのと同じもの)
・阻害剤A:CultureSure(登録商標)A-83-01(035-24113、富士フイルム和光純薬株式会社)、終濃度:0.5μM(実施例1で使用したのと同じもの)
・エクソソーム除去ウシ血清:Exosome-Depleted Fetal Bovine Serum Qualified One shot(A2720803、Gibco)
・0.22μmフィルターシステム:Stericup Quick Release-GP Sterile Vacuum Filtration System(S2GPU02RE、Merck Millipore)
・培養上清回収用培地:AGM Astrocyte Growth Medium Bullet Kit(CC-3186、Lonza)中の成分であるウシ血清(FBS)の代りに3%(v/v)のエクソソーム除去ウシ血清(A2720803;Gibco)が添加されたもの
・洗浄用緩衝液 :ダルベッコPBS(-) 粉末「ニッスイ」 (05913日水製薬)
・96ウェルプレート:コラーゲンIコート96ウェルプレート(4860-010、IWAKI)
・細胞培養用フラスコ T-75(430641、Corning)
・細胞培養用ディッシュ 100mm:150466、Thermo Fisher Scientific(実施例1で使用したのと同じもの)
・細胞培養用ディッシュ 150mm:150468、Thermo Fisher Scientific(実施例1で使用したのと同じもの)
器材
・超遠心機 : Optima XE-90 (Beckman Coulter)
・ローター : SW-41Ti 6×13.2 mL (Beckman Coulter)
・遠心用チューブ : Ultra-Clear Tube (344059 Beckman Coulter)
・保存用チューブ : プロキープ タンパク質低吸着チューブ 1.5mL (PK-15C-500N ワトソン)
【0263】
<培養上清中のエクソソームの回収および確認>
実施例4で使用したのと同じ、材料、試薬、培養用製品、およびプロトコールにしたがって、前記阻害剤YA含有本培養用培地または阻害剤非含有本培養培地を用いて、ヒトアストロサイト細胞を培養したときの培養上清をそれぞれ回収した。具体的な方法を以下に示す。
【0264】
1.材料
NHAとして、実施例1で使用したのと同じ材料を使用した。
【0265】
2.ヒトアストロサイト細胞の培養上清の回収
NHAを含有する細胞培養液が保管された凍結チューブを37℃のウォーターバスで融解した。融解後の細胞を30mLの培養用培地に再度懸濁し、T-75細胞培養用フラスコに、1.4×104細胞/cm2の播種密度で播種し、培養した。翌日、前記阻害剤YA含有の本培養用培地、および前記阻害剤非含有の本培養用培地(以下、本培養用培地と称する)に15mL/フラスコの容量で培地交換し、2日または3日おきに培地交換を行いながら、本培養を継続した。
【0266】
前記本培養用培地で7日間培養後、細胞剥離剤を用いて細胞を剥がし、新鮮な前記本培養用培地に懸濁して、150mm細胞培養用ディッシュへ、3.3×103細胞/cm2、20mL/ディッシュの容量の播種密度で継代した(2継代目)。前記阻害剤YA含有、および前記阻害剤非含有の条件毎にディッシュを各5枚使用したため、播種した総細胞総数は、各5×106細胞ずつであった。前記実施例1と同様に、前記YA含有本培養用培地で培養された細胞群をYA群、前記YAを含まない本培養用培地で培養された細胞群をNormal群と称する。
【0267】
前記2継代目からの3日間の培養後(本培養:合計10日)、前記ディッシュの培地を、前記本培養用培地から前記培養上清回収用の阻害剤非含有の回収用培地(以下、回収用培地と称する)に、20mL/ディッシュの容量で交換し、エクソソーム回収用の追加培養を開始した。なお、前記回収用培地は、前記実施例1と同様のものを使用した。
【0268】
前記追加培養の開始から48時間後、前記ディッシュから培養上清を回収して、0.22μmフィルターシステム(Stericup、Merck Millipore)でろ過し、ろ液を4℃で保存した。さらに、前記培養上清回収後の前記ディッシュには、新鮮な前記回収用培地を20mL/ディッシュの容量で添加し、追加培養を継続した。このような方法により、前記培養上清の回収は、合計6日間、計3回行い、各条件下で合計305mLの培養上清P2(エクソソーム含有溶液)を得た。
【0269】
計3回の培養上清を回収した後の前記ディッシュ上に残った細胞を、細胞剥離剤を用いて剥がし、細胞数をカウントした。その結果、Normal群として得られた総細胞数は6.4×106細胞であり、播種総細胞総数に対する残存率は73.6%であったのに対して、前記YA群として得られた総細胞数は7.1×107細胞であり、播種総細胞総数に対する残存率は96.7%であり、前記Normal群よりも高い結果が得られた。
【0270】
3.培養上清中のエクソソームの濃縮
上記で回収された前記YA群、および前記Normal群、の培養上清P2(エクソソーム含有溶液)305mL分をチューブに移し、超遠心機(本体:Optima XE-90、ローター:SW41 Ti;BeckmanCoulter)を使用して、250,000×g、70分間、4℃で遠心分離を行った。上清を除去して沈殿物を回収した後、得られた沈殿物を洗浄するために、前記沈殿物に前記洗浄用緩衝液(PBS(-))を添加した後、250,000×g、70分間、4℃で遠心分離を行った。上清を除去し、洗浄された沈殿物を得た。洗浄された沈降物は、前記培養上清P2の容積の凡そ1/1000となるよう、PBS(-)にて再懸濁した。再懸濁したものを、評価用サンプルとした。前記評価用サンプルのコントロールは、PBS(-)を使用した。
【0271】
<評価実験プロトコール>
前記PC-12細胞の凍結チューブを37℃のウォーターバスで融解した。溶解後の細胞を計10mLになるよう前記増殖用培地に移し、180×g、5分間、室温で遠心分離に供した後、前記培地を除去した。細胞を再度、新鮮な増殖用培地に懸濁し、100mm細胞培養用ディッシュに凡そ5,300細胞/cm2の播種密度で播種した。2日または3日おきに培地を交換しながら37℃で培養を行い、継代を交えながら細胞を増殖させた。得られたPC-12細胞を、前記細胞剥離剤2を用いて剥がし、前記アッセイ用培地にて洗浄した後、新鮮なアッセイ用培地で再懸濁した。懸濁した細胞を、96ウェルプレート(コラーゲンIコート96ウェルプレート)に1ウェルあたり2.0×104個/100μL培地、すなわち、61,000細胞/cm2の播種密度で播種し、約24時間のインキュベートにより細胞を接着させた後、前記ウェルの培地を、100μMコルチコステロンおよび前記各評価用サンプルを含むアッセイ用培地50μL(タンパク質量:10μg/mL)に交換した。その後、前記評価用サンプルを含むアッセイ培地において、37℃で2日間培養を行い、得られた培養物における細胞の障害状況を、カスパーゼ3/7活性を測定することにより評価した。
【0272】
カスパーゼ3/7活性は、市販のアポトーシス測定試薬を用いて、前記測定試薬に付随のプロトコールに基づき測定した。前記測定試薬は、カスパーゼ3/7活性を測定する発光ホモジニアスアッセイ用試薬を使用した。カスパーゼ3/7活性の活性化は、アポトーシス誘導の指標となるため、カスパーゼ3/7活性の測定結果(発光量)をアポトーシスの程度の間接的な結果として、表10に示す。表10において、YAは、YA群由来の評価用サンプルを使用した結果、Normalは、Normal群由来の評価用サンプルを使用した結果、PBSは、コントロール(PBS(-))を使用した結果である。表10において、発光量は、コントロールの平均発光量を1とした発光量相対値として示す。
【0273】
【0274】
その結果、表10に示すように、前記Normal群由来の評価用エクソソームサンプルおよび前記YA群由来の評価用エクソソームサンプルでは、コントロール(PBS(-))と比較して、発光量相対値が、Normal群で25%減、NHA-YA群で27%減と顕著に低下した。また、前記YA群由来の評価用エクソソームサンプルは、前記Normal群由来の評価用エクソソームと比較して、さらに発光量の低下が確認できた。
【0275】
コルチコステロンにより細胞(PC-12)が障害を受けると、カスパーゼ3/7経路が活性化され、細胞が死ぬ方向に向かう。すなわち、アポトーシスが誘導される。カスパーゼ3/7がより活性化されると、前述のような活性評価においては、発光量もより増える。すなわち、発光量が相対的に多いことは、対象の細胞が障害を受けている度合いが強く、アポトーシスに向かっていることを意味する。したがって、本開示のエクソソームを含む前記YA群由来の評価用サンプルを使用した場合、対象細胞であるPC-12が、コントロール(PBS(-))および前記Normal群由来の評価用サンプルを使用した場合と比較して、障害の度合いが最も小さいことを示した。よって、前記YA群の細胞から分泌される本開示のエクソソームは、細胞がコルチコステロンにより障害を受けることを抑制し、細胞を保護する機能を有することが分かった。
【0276】
[実施例8]YA誘導細胞の形質安定性の確認
前記阻害剤YA含有本培養用培地によって培養された外胚葉性細胞集団の形質が、前記阻害剤非存在下においても維持されるかを確認した。
【0277】
<検体>
・Normal
前記実施例1において、前記阻害剤非存在下での本培養により得られた細胞集団(Normal群)。本培養開始9日目(2継代目、N-D9)、28日目(4継代目、N-D28)の細胞を凍結チューブで保存したものを使用した。以下、前者をN-D9(P2)、後者をN-D28(P4)と表す。
・NHA-YA
前記実施例1において、前記阻害剤Yおよび前記阻害剤Aの存在下での本培養により得られた細胞集団(Normal群)。本培養開始9日目(2継代目、YA-D9)、28日目(4継代目、YA-D28))の細胞を凍結チューブで保存したものを使用した。
【0278】
<使用試薬および培養用製品>
・培養用培地:AGM Astrocyte Growth Medium Bullet Kit(CC-3186、Lonza)(AGMの組成:基礎培地、FBS(3%(v/v))、L-グルタミン、アスコルビン酸、hEGF、インスリン、抗生物質)
・細胞剥離剤:Accutase(AT104、ICT)
・細胞用緩衝液:リン酸緩衝塩水溶液(PBS(-)、ダルベッコ;カルシウムおよびマグネシウム不含)(14190250、Thermo Fisher Scientific)
・細胞凍結用培地:CELLBANKER 1(CB011 TaKaRa(日本全薬工業株式会社))
・細胞培養用ディッシュ100mm(150466、Thermo Fisher Scientific)
・遠心分離機:Optima XE-90、Beckman Coulter
<培養装置>
・CO2インキュベーター: MCO-170AICUVD-PJ、PHC株式会社
<培養条件>
温度37℃、CO2濃度5%
<細胞観察・撮影装置>
・蛍光顕微鏡 CKX53、オリンパス株式会社
【0279】
<培養の手順>
培養の手順は、特に示さない限り実施例1に倣って行った。前記N-D9(P2)、前記N-D28(P2)、前記YA-D9(P4)、前記YA-D28(P4)のそれぞれの凍結チューブを、37℃のウォーターバスで融解した。次いで、溶解後の細胞を計10mLになるよう培養用培地に移し、180×g、5分間、室温で遠心分離に供した後、培地を除去した。細胞を再度、新鮮な培養用培地に懸濁し、100mm細胞培養用ディッシュへ播種した。その際、YA-D9、およびYA-D28は、同じ細胞を2つに分けて、それぞれを100mm細胞培養用ディッシュへ播種した。翌日、前記ディッシュの培地を、前記阻害剤非含有の培養用培地に交換し(培養開始0日目)、培養を継続させた。これ以降も、N-D9、N-D28、YA-D9、およびYA-D28は、前記阻害剤非含有の培養用培地で培養した。培養期間中、2日または3日おきに、前記阻害剤非含有の培養用培地への培地交換を行い、5~7日間培養した後、継代を重ね、24日間、4継代分培養した。培養期間中、培地交換を行うとともに、顕微鏡による細胞の観察および写真撮影(トミー精工、MX-307)を行った。
【0280】
そして、2継代であるN-D9およびYA-D9について、前記阻害剤非存在下でさらに4継代培養した培養期間中の各継代(P3、P4、P5、P6)の増殖率、4継代であるN-D28およびYA-D28について、前記阻害剤非存在下でさらに4継代培養した培養期間中の各継代(P5、P6、P7、P8)の増殖率を算出した。そして、YA-D9およびYA-D28の各継代における阻害剤非存在下(YA(-))の増殖率について、それぞれ、Normal群の同じ継代の増殖率を1として相対値を算出した。これらの結果を表11に示す。
【0281】
【0282】
表11に示すように、前記実施例1において前記阻害剤存在下の培養により得られた前記YA群(YA-D9およびYA-D28)は、さらに前記阻害剤YA非存在下での培養においても、前記Normal群(N-D9およびN-D28)に対して、高い増殖率を維持できた。
【0283】
代表例として、
図11として、
図11-1に、N-D9およびYA-D9の3継代目(P3)とN-D28およびYA-D28の5継代目(P5)の細胞の形態を、また、
図11-2に、N-D9およびYA-D9の6継代目(P6)と、N-D28およびYA-D28の8継代目(P8)の細胞の形態を示す。YA-D9およびYA-D28では、いずれの継代においても、小型で密集した細胞集団に加えて、突起様の形態を持つ細胞が立体的に増殖する像が認められた。一方、N-D9(P4)およびN-D28(P6)では、いずれの継代においても、細胞が大きくなり、突起様の形態を持つ細胞は減少した。また、YA-D9およびYA-D28は、いずれの継代でも、小型の細胞は減少するものの、突起様の形態を持つ細胞は、N-D9、N-D28よりも多く維持された。YA-D9およびYA-D28の形態は、前記実施例1で確認した形態と類似していることから、本開示の高増殖性細胞を、さらに前記阻害剤の非存在下で培養しても、前記高増殖性細胞の増殖性および形態は維持できることがわかった。
【0284】
<定量PCRによる外胚葉性細胞マーカーの確認>
本実施例において、前記阻害剤非存在下で培養したN-D9の4継代目(P4)およびYA-D9の4継代目(P4)と、前記阻害剤非存在下で培養したN-D28の6継代目(P6)およびYA-D28の6継代目(P6)の各細胞からRNA試料を抽出し、以下の外胚葉性細胞マーカー遺伝子について発現量を検討した。
【0285】
前記RNA試料の調製および定量PCRの反応条件の設定は、前記実施例2に準じて行った。前記RNA試料について、神経幹細胞のマーカーであるMushashi1、およびNotch1、神経上皮細胞のマーカーであるNotch1、Nestin、およびSOX2、放射状グリア細胞のマーカーであるNestin、アストロサイトのマーカーであるGFAP、S100B、およびSLC1A3、ならびにオリゴデンドロサイト前駆体細胞のマーカーであるNG2の発現量を測定し、内部標準遺伝子GAPDHの発現量で補正した(E1/EC)。また、同様に、継代を開始する前の、前記N-D9(P2)、前記N-D28(P2)、前記YA-D9(P4)および前記YA-D28(P4)について、前記阻害剤非含有の培養用培地に交換した培養開始0日目の細胞からも、同様にRNA試料を調製して、前記マーカー遺伝子の発現量を測定し、補正した(E1/EC)。つぎに、培養0日目の細胞における補正した相対値と、継代後のN-D9(P4)、YA-D9(P4)、N-D28(P6)およびYA-D28(P6)の細胞における補正した相対値とから、増減量を求めた。そして、N-D9の発現の増減量に対するYA-D9の発現の増減量、N-D28の発現の増減量に対するYA-D28の発現の増減量を、相対値(EYA/EN)として計算した。これらの結果を表12に示す。
【0286】
【0287】
表12に示すように、YA-D9(P4)では、GFAP、Mushashi1、Notch1、Nestin、S100B、およびSLC1A3の発現量が、N-D9(P4)よりも高く、前述した実施例2の結果と一致した。一方、YA-D9(P4)では、SOX2の発現量がNormalよりもやや低く、NG2の発現量がやや高い結果となった。また、YA-D28(P6)では、GFAP、Mushashi1、Notch1、SOX2、Nestin、S100B、およびSLC1A3の全ての発現量が、N-28(P6)よりも高く、NG2の発現量がN-28(P6)よりも低く、前記実施例2において確認されたYA阻害剤存在下で培養された細胞の遺伝子発現パターンと一致した。
【0288】
これらの結果から、前記阻害剤YA含有の本培養用培地によって培養された外胚葉性細胞集団の形質は、その後、前記阻害剤非存在下で培養した場合においても、維持されることを確認した。