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特開2024-79937コア/シェル型粒子およびその製造方法ならびに中空粒子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079937
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】コア/シェル型粒子およびその製造方法ならびに中空粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 5/02 20060101AFI20240606BHJP
C01F 5/14 20060101ALI20240606BHJP
C01F 5/28 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C01F5/02
C01F5/14
C01F5/28
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192644
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】390024419
【氏名又は名称】森田化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】服部 慎一
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AA05
4G076AA10
4G076AB02
4G076AB04
4G076AB06
4G076BA10
4G076BA25
4G076BC02
4G076BE11
4G076BF05
4G076CA02
4G076CA06
4G076DA11
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、コア粒子の合成や、コア粒子表面の電荷調整を必要としないコア/シェル型粒子の製造方法、ならびにコア/シェル型粒子の中空化工程においての熱エネルギーを不要とする中空粒子の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、マグネシウム無機塩からなるコア粒子の表層を直接フッ素化してシェルを形成させる工程を備える。次に、フッ化物の中空粒子の製造方法は、上記製造方法により得られたコア/シェル型粒子から、コア粒子のみを酸で除去する工程を備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム無機塩からなるコア粒子の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成させるシェル形成工程を備える、コア/シェル型粒子の製造方法。
【請求項2】
前記シェル形成工程では、フッ素化剤の溶液と前記マグネシウム無機塩とを反応させて前記シェルを形成する、請求項1に記載のコア/シェル型粒子の製造方法。
【請求項3】
前記シェル形成工程では、気体のフッ素化剤と前記マグネシウム無機塩とを反応させて前記シェルを形成する、請求項1に記載のコア/シェル型粒子の製造方法。
【請求項4】
前記シェル形成工程では、フッ素化剤と前記マグネシウム無機塩とを含む固体混合物をフッ素化剤の分解温度まで加熱して前記シェルを形成する、請求項1に記載のコア/シェル型粒子の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素化剤が、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤である、請求項2から4のいずれか1項に記載のコア/シェル型粒子の製造方法。
【請求項6】
前記マグネシウム無機塩が、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種のマグネシウム無機塩である、請求項1から4のいずれか1項に記載のコア/シェル型粒子の製造方法。
【請求項7】
マグネシウム無機塩からなるコア粒子と、
フッ化マグネシウムからなり、前記コア粒子の表層に形成されるシェルと、
を備える、コア/シェル型粒子。
【請求項8】
マグネシウム無機塩からなるコア粒子と、フッ化マグネシウムからなり、前記コア粒子の表層に形成されるシェルとを有するコア/シェル型粒子から、前記コア粒子を酸で除去する除去工程を備える、中空粒子の製造方法。
【請求項9】
前記酸が、塩酸、硝酸、硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸である、請求項8に記載の中空粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム無機塩をコア粒子として、そのコア粒子の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成させたコア/シェル型粒子、およびその製造方法に関する。また、本発明は、上述のコア/シェル型粒子のコア粒子を酸で除去する工程を備える中空粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンやスマートフォン等のディスプレイの表面に反射防止膜が用いられている。また、カメラレンズ等の光学素子の表面にも反射防止膜がコーティングされている。これらの反射防止膜の最表層に用いられる材料には、屈折率が低く、かつ透明であることが求められるため、シリカ、フッ化マグネシウム、シリコン樹脂などが用いられることが知られている。
【0003】
さらに、反射率を低く抑えるために、空気の屈折率1.0を利用する反射防止膜が知られており、シリカやフッ化マグネシウムの層内に空隙を形成することによって、更に屈折率の低い材料を製造する方法も知られている。
【0004】
上記に関する先行技術として、ポリビニル重合体をコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを連続した層として形成することにより、シェル強度が高いコア/シェル型粒子、および前記コア/シェル型粒子から得られる中空粒子の製造方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、ポリスチレン重合体をコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成させるコア/シェル型粒子、および中空粒子の製造方法であって、コア粒子を合成する際にスチレンモノマーの濃度や反応時の温度などを制御することで、得られる粒子の粒径や表面形状を制御できる製造工程が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-19626号公報
【特許文献2】特開2015-14325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の製造方法においては、ポリビニル重合体やポリスチレン重合体などをコア粒子とするため、一からコア粒子の合成を行う必要がある。そのため、コア粒子の合成過程で有機系の溶剤やモノマー、重合開始剤などが必要となる。
【0008】
また、上記合成樹脂からなるコア粒子表面にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成するためには、コア粒子表面へ官能基修飾を施す手法などにより、コア粒子表面のゼータ電位を適切に調整することが必要である。さらに、そのコア粒子表面にフッ化マグネシウムからなる強度が高い連続したシェル層を形成させてコア/シェル型粒子を得るためには、限定的な温度条件下でコア粒子表面にフッ素とマグネシウムで構成された結晶核を付着させる工程を経た後、温度などの反応条件を変更してコア粒子表面の結晶核成長を進めることでフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させる工程が必要となる。
【0009】
その上、上述の方法で得られたコア/シェル型粒子から中空粒子を得るために、そのコア/シェル型粒子を200℃以上の高温条件で加熱してコア粒子を除去する工程が必要となる。
【0010】
以上のように特許文献1、2の製造方法では、コア/シェル型粒子や中空粒子の製造に係る工程や反応条件が多岐にわたるため、一連の製造工程が複雑化する。そのため、製造設備の確保、製造効率、経済性を考慮すると産業上利用の観点からも好ましくない。
【0011】
本発明の課題は、コア粒子の合成工程、コア粒子への表面修飾による電荷調整、コア/シェル型粒子からフッ化物中空粒子を得るための中空化工程での熱エネルギー、などを必要とせず、従前の方法よりも少ない工数で得られるコア/シェル型粒子、およびその製造方法、ならびにフッ化物中空粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、シェル形成工程を備える。シェル形成工程では、マグネシウム無機塩からなるコア粒子の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルが形成される。
【0013】
本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、従前の方法のように一からコア粒子を合成する必要がなく、合成工程およびその工程に係る設備や化学物質、溶剤などを用いずにコア/シェル型粒子を製造することが可能となる。また、ポリビニル重合体やポリスチレン重合体をコア粒子とする従前の方法とは異なり、本局面に係る製造方法では、コア粒子となるマグネシウム無機塩の表層とフッ素化剤を直接反応させてフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成できる。このため、コア粒子表面への官能基修飾やコア粒子表面のゼータ電位などを管理する必要がなくコア/シェル型粒子の製造が可能となる。そのため、従前の方法と比べて、工程管理の簡易化、および製造コストの削減、ならびに製造効率の向上が実現できる。さらに、従前のようなコア粒子表層にフッ素とマグネシウムを付着させ、その結晶核を成長させることでフッ化マグネシウムのシェル層を形成させる方法と異なり、本局面に係る製造方法では、コア粒子となるマグネシウム無機塩の表層を直接フッ素化してシェルを形成できる。このため、シェル強度が高いコア/シェル型粒子を得ることができる。
【0014】
本発明の第2局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、フッ素化剤の溶液とマグネシウム無機塩とが反応してシェルが形成される。
【0015】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、より均一な膜厚のシェル層を備えるコア/シェル型粒子を得ることができることが明らかとなった。また、湿式条件下での本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、コア粒子表層に粒状のフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が得られるため、後述の乾式条件下での製造方法で得られる粒子とは異なる形状のコア/シェル型粒子が得られる。そのため、フッ素化工程の条件を変更することで形状が異なるコア/シェル型粒子を選択的に製造することができる。
【0016】
本発明の第3局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、気体のフッ素化剤とマグネシウム無機塩とが反応してシェルが形成される。
【0017】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、粒子が1μm以下の小さなコア粒子の表層においても、フッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させてコア/シェル型粒子を得ることができる。その結果、粒径が小さいコア/シェル型粒子を得ることができる。また、乾式条件下での本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、コア粒子表層にきわめて細かい針状のフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が得られる。そのため、上述の湿式条件下での製造方法で得られる粒子とは異なる形状のコア/シェル型粒子を選択的に得ることが可能である。
【0018】
本発明の第4局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、マグネシウム無機塩と、固体フッ素化剤を分解温度まで加熱することで発生するフッ化水素とを反応させることでシェルが形成される。
【0019】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、フッ素化剤の分解反応性が増大し、コア粒子となるマグネシウム無機塩表層のフッ素化の効率が向上する。なお、ここでフッ素化剤として粒径の小さい固体粒子を使用することで、マグネシウム無機塩表層のフッ素化の効率がさらに向上する。したがって、上記の液相工程や気相工程よりも少量のフッ素化剤によりコア粒子表層にフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成することができるコストパフォーマンスの高さと、液相からの分離工程を必要としないこと、および無水フッ化水素ガスを直接的に取り扱わないこと、などのハンドリング性の高さを兼ね備えた、工業的に実用性が高い製法となる。
【0020】
本発明の第5局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第2局面から第4局面のいずれか1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、フッ素化剤は、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤である。
【0021】
上記のフッ素化剤を用いてコア粒子であるマグネシウム無機塩の表層を直接フッ素化することで、強度の高いシェル層を有するコア/シェル型粒子を得ることができる。具体的には、本発明の第2局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素にエタノールに溶解させた混合溶液などが用いられ、特にフッ化水素酸を使用することが好ましい。また、本発明の第3局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムなどが用いられ、特にフッ化水素を使用することが好ましい。最後に、本発明の第4局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素カリウム、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムなどが用いられ、特にフッ化アンモニウム、あるいは酸性フッ化アンモニウムを使用することが好ましい。
【0022】
本発明の第6局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面から第5局面のいずれか1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、マグネシウム無機塩が、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種のマグネシウム無機塩である。
【0023】
上記のマグネシウム無機塩をコア粒子とすることで、一からコア粒子の合成を行うことを必要とせずにコア/シェル型粒子を製造できる。その中でも、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが表層をフッ素化するのにより適しており、コア粒子として使用することが好ましい。また、本発明に係る製造工程で得られるコア/シェル型粒子あるいはフッ化物の中空粒子の粒径や形状は、コア粒子となるマグネシウム無機塩の粒径や形状に沿う。このため、コア粒子として使用するマグネシウム無機塩の粒径や形状を制御することにより、そこから得られるコア/シェル型粒子あるいはフッ化物の中空粒子の粒径や形状を制御することができる。
【0024】
本発明の第7局面に係るコア/シェル型粒子は、コア粒子およびシェルを備える。コア粒子は、マグネシウム無機塩からなる。シェルは、コア粒子の表層に形成される。このシェルは、フッ化マグネシウムからなる。
このコア/シェル型粒子は、第1局面から第6局面のいずれか1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法により得られる。
【0025】
このため、本局面に係るコア/シェル型粒子から得られるフッ化物の中空粒子は、強度の高いシェル層を備えている。なお、本局面に係るコア/シェル型粒子は、高い耐熱性を有しており、高温クリープなどが発生しにくい新規材料の発明にも貢献できる。
【0026】
本発明の第8局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法は、除去工程を備える。除去工程では、マグネシウム無機塩からなるコア粒子と、フッ化マグネシウムからなり、コア粒子の表層に形成されるシェルとを有するコア/シェル型粒子から、コア粒子を酸で除去する。
【0027】
このため、コア/シェル型粒子からコア粒子のみを除去する中空化工程において、熱エネルギーを必要とせずにフッ化物の中空粒子を得ることができる。
【0028】
本発明の第9局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法は、第8局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法であって、酸は、塩酸、硝酸および硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸である。
【0029】
このため、コア粒子を除去する際に使用する、塩酸、硝酸、硫酸の濃度を調節することにより、コア粒子の溶出時間を制御することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、従前の方法では必須であった、コア/シェル型粒子のコアとなる粒子の合成工程、そのコア粒子表層にフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させるための表面電荷調整工程、熱エネルギーを用いたコア/シェル型粒子のコア粒子の除去工程を必要とせず、フッ化マグネシウムからなる強固なシェル層と、望みの粒径あるいは形状とを備えるコア/シェル型粒子、およびフッ化物中空粒子を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例1で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図2】実施例2で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図3】実施例3で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図4】実施例1で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【
図5】実施例2で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【
図6】実施例3で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態に係る中空粒子の製造方法は、(1)液相法(湿式法)、あるいは、気相法・固相法(乾式法)によるコア粒子表層へのシェル形成工程と、(2)酸によるコア粒子の除去工程と、を備える。以下、これらの工程について詳述する。
【0033】
<シェル形成工程>
この工程では、コア粒子となるマグネシウム無機塩に対して、フッ素化剤を反応させてコア粒子表層にシェル層を形成させることにより、コアがマグネシウム無機塩、シェルがフッ化マグネシウムであるコア/シェル型粒子を作製することができる。
【0034】
マグネシウム無機塩としては、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種のマグネシウム無機塩であればよい。その中でも、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムは表層をフッ素化するのにより適しており、コア粒子の材料として使用することが好ましい。
【0035】
また、コア粒子として使用するマグネシウム無機塩の粒径は50nm以上5μm以下の範囲内であるものが好ましく、反射防止膜の形成を目的とする場合は、低屈折率性を実現する観点から50nm以上100nm以下の範囲内の粒径のものを使用することが特に好ましい。
【0036】
フッ素化剤としては、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。
【0037】
なお、コア粒子にフッ素化剤を反応させる方法としては、例えば、(a)溶媒により溶解させたフッ素化剤の溶液に、マグネシウム無機塩を添加して反応させる方法(液相法)、(b)気化させたフッ素化剤をそのまま、もしくは窒素ガスなどの不活性ガスで希釈した混合ガスをマグネシウム無機塩の載置空間に通気させ、マグネシウム無機塩と接触反応させる方法(気相法)、(c)フッ素化剤とマグネシウム無機塩をそれぞれ固体の状態で混合し、フッ素化剤の分解温度まで加熱し反応させる方法(固相法)などが挙げられる。ただし、本発明の実施の形態において、コア粒子にフッ素化剤を反応させる方法としては、マグネシウム無機塩の表層をフッ素化できる方法であれば上述の方法に限定されない。
【0038】
上述の液相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム水溶液、もしくはフッ化水素をエタノールなどに溶解させた溶液などが挙げられる。特に、フッ化水素酸を使用することが好ましい。なお、フッ化水素酸の濃度は1~10質量%に調整するのが好ましい。反応時の温度は、生成するフッ化物の粒子成長を抑える観点から、25℃以上50℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0039】
上述の気相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化水素、フッ化アンモニウム、および酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。特に、無水のフッ化水素ガスを使用することが好ましい。なお、マグネシウム無機塩を採取した反応容器に気化させたフッ素化剤を通気させて反応させる際は、フッ素化剤を気化させたガスを窒素ガスなどの不活性ガスで希釈して通気させてもよい。反応時の温度は、フッ化水素ガスの凝縮を抑える観点から、フッ化水素の凝集点以上300℃以下の範囲内であることが好ましい。また、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムにおいての反応時の温度は、これらのフッ素化剤の沸点以上であればよく、具体的には、常圧下で240℃以上であることが好ましい。
【0040】
上述の固相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。また、反応時の温度は、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムの分解温度以上で反応させることが好ましい。具体的には、常圧下においてフッ化アンモニウムでは100℃以上、酸性フッ化アンモニウムでは240℃以上であることが好ましい。
【0041】
なお、上述の液相法、気相法、固相法それぞれのシェル形成工程におけるフッ素化により得られる表面に凸凹を有するコア/シェル型粒子の表面に対して、600℃以上800℃以下の範囲内で加熱処理を行うことにより平滑にすることが可能である。特に、表面に凸凹を有するコア/シェル型粒子の表面を平滑にするには800℃付近で加熱処理を行うことが好ましい。
【0042】
<酸によるコア粒子の除去工程>
この工程では、上記のシェル形成工程で得られたコア/シェル型粒子から、コア部分であるマグネシウム無機塩を酸により溶解させて中空粒子を作製することができる。
【0043】
コア部分であるマグネシウム無機塩を溶解させる酸としては、塩酸、硝酸あるいは硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸であればよい。特に、塩酸を使用することが好ましい。
【0044】
また、コアの除去に使用する酸の濃度は0.5~2Mが好ましい。この濃度範囲の酸を使用することで、コア部分のみを選択的に溶解することができる。また、コア部分溶解後の固液分離の際に処理する液量も少なくなるので経済的である。
【0045】
溶解時の温度は室温であることが好ましい。また、コア部分を溶出する際の懸濁液の濃度は1~4質量%であることが好ましい。
(実施例)
【0046】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されることはない。
【実施例0047】
1.液相法(湿式法)での酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
500mLのフッ素樹脂製容器に50質量%のフッ化水素酸を採取し、そこに水を加えてフッ化水素酸の濃度を5質量%まで希釈して5質量%のフッ化水素酸250.8gを調製した。次に、調製した5質量%のフッ化水素酸に酸化マグネシウム(堺化学工業社製SMO-5、粒径約5μm)を8.1g加えて、室温下で2時間攪拌した。得られた懸濁液を遠心分離(2500rpm、10分)によって沈降分離を行い、上澄み液を除去した。続いて、上澄み液を除去した沈殿物に水を40mL加え再度遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。その後、沈殿物を120℃、3時間で乾燥させることで白色粉末9.9gを得た。
【0048】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約5μmの粒子の表層に細かい粒状の粒子が付着していることが確認された(
図1)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0049】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子0.1gに対して2Mの塩酸水溶液を10mL加えて2時間静置した。その後、上澄み液を除去し、その残渣にメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約5μm、シェルの膜厚が約500nmの中空粒子が観察された(
図4)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の中空粒子の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
【実施例0050】
1.気相法(乾式法)での酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
1Lのフッ素樹脂製反応容器に酸化マグネシウム(堺化学工業社製SMO-1、粒径約1μm)を40.1g採取し、その反応容器を20rpmの速度で回転させて反応容器内の酸化マグネシウムを攪拌させた。続いて、フッ化水素ガス発生容器として上述とは別の1Lのフッ素樹脂製容器を用意し、そこに液体のフッ化水素を60.1g(酸化マグネシウムの当量の2.9倍)採取した。次いで、ウォーターバスでフッ化水素ガス発生容器を24℃に加熱してフッ化水素ガスを発生させた。上述で発生させたフッ化水素ガスを流速1L/分の窒素ガスで希釈した混合ガスを反応容器内に通気し、酸化マグネシウムとフッ化水素ガスを室温下で3時間反応させた。その後、前述で得られた反応物を120℃、5時間で乾燥し白色粉末45.3gを得た。
【0051】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約1μmの粒子の表層に細かい針状の粒子が付着していることが確認された(
図2)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0052】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子1gに対して2Mの塩酸水溶液を48mL加えて24時間静置した。その後、前述で得られた沈殿物を遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。その後、上澄み液を除去して得られた残渣に水を40mL加えて再度遠心分離(2500rpm、10分)により分離し、上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返したのち、120℃、3時間で乾燥させて白色粉末0.19gを得た。この白色粉末を0.1g採取し、そこにメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約1μm、シェルの膜厚が200nmの中空粒子が観察された(
図5)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の中空粒子の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
【実施例0053】
1.気相法(乾式法)での水酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
1Lのフッ素樹脂製反応容器に水酸化マグネシウム(富士フィルム和光純薬製、粒径約0.07μm)を11.4g採取し、その反応容器を20rpmの速度で回転させて反応容器内の水酸化マグネシウムを攪拌させた。続いて、フッ化水素ガス発生容器として上述とは別の1Lのフッ素樹脂製容器を用意し、そこに液体のフッ化水素を8.7g(水酸化マグネシウムの当量の2.2倍)採取した。次いで、ウォーターバスでフッ化水素ガス発生容器を24℃に加熱してフッ化水素ガスを発生させた。上述で発生させたフッ化水素ガスを流速2L/分の窒素ガスで希釈した混合ガスを反応容器内に通気し、1.5時間、110℃設定のオイルバスで反応容器を加熱することで、水酸化マグネシウムとフッ化水素ガスを反応させた。その後、前述で得られた反応物を120℃、5時間で乾燥し白色粉末10.3gを得た。
【0054】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約100nmの粒子が確認された(
図3)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0055】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子5.0gに対して0.5Mの塩酸水溶液を200mL加えて24時間静置した。その後、上述で得られた沈殿物を遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返したのち、120℃、3時間で乾燥し白色粉末1.58gを得た。この白色粉末を0.1g採取し、そこにメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約100nm、シェルの膜厚が約20nmの中空粒子が観察された(
図6)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の白色粉末の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子としてのマグネシウム無機塩とフッ素化剤とを含む混合物を前記フッ素化剤の分解温度まで加熱して前記マグネシウム無機塩の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成する、コア/シェル型粒子の製造方法。
【請求項2】
マグネシウム無機塩からなるコア粒子と、フッ化マグネシウムからなり、前記コア粒子の表層に形成されるシェルとを有するコア/シェル型粒子から、前記コア粒子を酸で除去する除去工程を備える、中空粒子の製造方法。
【請求項3】
前記酸が、塩酸、硝酸、硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸である、請求項2に記載の中空粒子の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム無機塩をコア粒子として、そのコア粒子の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成させたコア/シェル型粒子、およびその製造方法に関する。また、本発明は、上述のコア/シェル型粒子のコア粒子を酸で除去する工程を備える中空粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンやスマートフォン等のディスプレイの表面に反射防止膜が用いられている。また、カメラレンズ等の光学素子の表面にも反射防止膜がコーティングされている。これらの反射防止膜の最表層に用いられる材料には、屈折率が低く、かつ透明であることが求められるため、シリカ、フッ化マグネシウム、シリコン樹脂などが用いられることが知られている。
【0003】
さらに、反射率を低く抑えるために、空気の屈折率1.0を利用する反射防止膜が知られており、シリカやフッ化マグネシウムの層内に空隙を形成することによって、更に屈折率の低い材料を製造する方法も知られている。
【0004】
上記に関する先行技術として、ポリビニル重合体をコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを連続した層として形成することにより、シェル強度が高いコア/シェル型粒子、および前記コア/シェル型粒子から得られる中空粒子の製造方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、ポリスチレン重合体をコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成させるコア/シェル型粒子、および中空粒子の製造方法であって、コア粒子を合成する際にスチレンモノマーの濃度や反応時の温度などを制御することで、得られる粒子の粒径や表面形状を制御できる製造工程が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-19626号公報
【特許文献2】特開2015-145325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の製造方法においては、ポリビニル重合体やポリスチレン重合体などをコア粒子とするため、一からコア粒子の合成を行う必要がある。そのため、コア粒子の合成過程で有機系の溶剤やモノマー、重合開始剤などが必要となる。
【0008】
また、上記合成樹脂からなるコア粒子表面にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成するためには、コア粒子表面へ官能基修飾を施す手法などにより、コア粒子表面のゼータ電位を適切に調整することが必要である。さらに、そのコア粒子表面にフッ化マグネシウムからなる強度が高い連続したシェル層を形成させてコア/シェル型粒子を得るためには、限定的な温度条件下でコア粒子表面にフッ素とマグネシウムで構成された結晶核を付着させる工程を経た後、温度などの反応条件を変更してコア粒子表面の結晶核成長を進めることでフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させる工程が必要となる。
【0009】
その上、上述の方法で得られたコア/シェル型粒子から中空粒子を得るために、そのコア/シェル型粒子を200℃以上の高温条件で加熱してコア粒子を除去する工程が必要となる。
【0010】
以上のように特許文献1、2の製造方法では、コア/シェル型粒子や中空粒子の製造に係る工程や反応条件が多岐にわたるため、一連の製造工程が複雑化する。そのため、製造設備の確保、製造効率、経済性を考慮すると産業上利用の観点からも好ましくない。
【0011】
本発明の課題は、コア粒子の合成工程、コア粒子への表面修飾による電荷調整、コア/シェル型粒子からフッ化物中空粒子を得るための中空化工程での熱エネルギー、などを必要とせず、従前の方法よりも少ない工数で得られるコア/シェル型粒子、およびその製造方法、ならびにフッ化物中空粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、シェル形成工程を備える。シェル形成工程では、マグネシウム無機塩からなるコア粒子の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルが形成される。
【0013】
本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、従前の方法のように一からコア粒子を合成する必要がなく、合成工程およびその工程に係る設備や化学物質、溶剤などを用いずにコア/シェル型粒子を製造することが可能となる。また、ポリビニル重合体やポリスチレン重合体をコア粒子とする従前の方法とは異なり、本局面に係る製造方法では、コア粒子となるマグネシウム無機塩の表層とフッ素化剤を直接反応させてフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成できる。このため、コア粒子表面への官能基修飾やコア粒子表面のゼータ電位などを管理する必要がなくコア/シェル型粒子の製造が可能となる。そのため、従前の方法と比べて、工程管理の簡易化、および製造コストの削減、ならびに製造効率の向上が実現できる。さらに、従前のようなコア粒子表層にフッ素とマグネシウムを付着させ、その結晶核を成長させることでフッ化マグネシウムのシェル層を形成させる方法と異なり、本局面に係る製造方法では、コア粒子となるマグネシウム無機塩の表層を直接フッ素化してシェルを形成できる。このため、シェル強度が高いコア/シェル型粒子を得ることができる。
【0014】
本発明の第2局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、フッ素化剤の溶液とマグネシウム無機塩とが反応してシェルが形成される。
【0015】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、より均一な膜厚のシェル層を備えるコア/シェル型粒子を得ることができることが明らかとなった。また、湿式条件下での本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、コア粒子表層に粒状のフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が得られるため、後述の乾式条件下での製造方法で得られる粒子とは異なる形状のコア/シェル型粒子が得られる。そのため、フッ素化工程の条件を変更することで形状が異なるコア/シェル型粒子を選択的に製造することができる。
【0016】
本発明の第3局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、気体のフッ素化剤とマグネシウム無機塩とが反応してシェルが形成される。
【0017】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、粒子が1μm以下の小さなコア粒子の表層においても、フッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させてコア/シェル型粒子を得ることができる。その結果、粒径が小さいコア/シェル型粒子を得ることができる。また、乾式条件下での本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、コア粒子表層にきわめて細かい針状のフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が得られる。そのため、上述の湿式条件下での製造方法で得られる粒子とは異なる形状のコア/シェル型粒子を選択的に得ることが可能である。
【0018】
本発明の第4局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、マグネシウム無機塩と、固体フッ素化剤を分解温度まで加熱することで発生するフッ化水素とを反応させることでシェルが形成される。
【0019】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、フッ素化剤の分解反応性が増大し、コア粒子となるマグネシウム無機塩表層のフッ素化の効率が向上する。なお、ここでフッ素化剤として粒径の小さい固体粒子を使用することで、マグネシウム無機塩表層のフッ素化の効率がさらに向上する。したがって、上記の液相工程や気相工程よりも少量のフッ素化剤によりコア粒子表層にフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成することができるコストパフォーマンスの高さと、液相からの分離工程を必要としないこと、および無水フッ化水素ガスを直接的に取り扱わないこと、などのハンドリング性の高さを兼ね備えた、工業的に実用性が高い製法となる。
【0020】
本発明の第5局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第2局面から第4局面のいずれか1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、フッ素化剤は、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤である。
【0021】
上記のフッ素化剤を用いてコア粒子であるマグネシウム無機塩の表層を直接フッ素化することで、強度の高いシェル層を有するコア/シェル型粒子を得ることができる。具体的には、本発明の第2局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素にエタノールに溶解させた混合溶液などが用いられ、特にフッ化水素酸を使用することが好ましい。また、本発明の第3局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムなどが用いられ、特にフッ化水素を使用することが好ましい。最後に、本発明の第4局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素カリウム、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムなどが用いられ、特にフッ化アンモニウム、あるいは酸性フッ化アンモニウムを使用することが好ましい。
【0022】
本発明の第6局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面から第5局面のいずれか1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、マグネシウム無機塩が、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種のマグネシウム無機塩である。
【0023】
上記のマグネシウム無機塩をコア粒子とすることで、一からコア粒子の合成を行うことを必要とせずにコア/シェル型粒子を製造できる。その中でも、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが表層をフッ素化するのにより適しており、コア粒子として使用することが好ましい。また、本発明に係る製造工程で得られるコア/シェル型粒子あるいはフッ化物の中空粒子の粒径や形状は、コア粒子となるマグネシウム無機塩の粒径や形状に沿う。このため、コア粒子として使用するマグネシウム無機塩の粒径や形状を制御することにより、そこから得られるコア/シェル型粒子あるいはフッ化物の中空粒子の粒径や形状を制御することができる。
【0024】
本発明の第7局面に係るコア/シェル型粒子は、コア粒子およびシェルを備える。コア粒子は、マグネシウム無機塩からなる。シェルは、コア粒子の表層に形成される。このシェルは、フッ化マグネシウムからなる。
このコア/シェル型粒子は、第1局面から第6局面のいずれか1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法により得られる。
【0025】
このため、本局面に係るコア/シェル型粒子から得られるフッ化物の中空粒子は、強度の高いシェル層を備えている。なお、本局面に係るコア/シェル型粒子は、高い耐熱性を有しており、高温クリープなどが発生しにくい新規材料の発明にも貢献できる。
【0026】
本発明の第8局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法は、除去工程を備える。除去工程では、マグネシウム無機塩からなるコア粒子と、フッ化マグネシウムからなり、コア粒子の表層に形成されるシェルとを有するコア/シェル型粒子から、コア粒子を酸で除去する。
【0027】
このため、コア/シェル型粒子からコア粒子のみを除去する中空化工程において、熱エネルギーを必要とせずにフッ化物の中空粒子を得ることができる。
【0028】
本発明の第9局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法は、第8局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法であって、酸は、塩酸、硝酸および硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸である。
【0029】
このため、コア粒子を除去する際に使用する、塩酸、硝酸、硫酸の濃度を調節することにより、コア粒子の溶出時間を制御することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、従前の方法では必須であった、コア/シェル型粒子のコアとなる粒子の合成工程、そのコア粒子表層にフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させるための表面電荷調整工程、熱エネルギーを用いたコア/シェル型粒子のコア粒子の除去工程を必要とせず、フッ化マグネシウムからなる強固なシェル層と、望みの粒径あるいは形状とを備えるコア/シェル型粒子、およびフッ化物中空粒子を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例1で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図2】実施例2で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図3】実施例3で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図4】実施例1で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【
図5】実施例2で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【
図6】実施例3で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態に係る中空粒子の製造方法は、(1)液相法(湿式法)、あるいは、気相法・固相法(乾式法)によるコア粒子表層へのシェル形成工程と、(2)酸によるコア粒子の除去工程と、を備える。以下、これらの工程について詳述する。
【0033】
<シェル形成工程>
この工程では、コア粒子となるマグネシウム無機塩に対して、フッ素化剤を反応させてコア粒子表層にシェル層を形成させることにより、コアがマグネシウム無機塩、シェルがフッ化マグネシウムであるコア/シェル型粒子を作製することができる。
【0034】
マグネシウム無機塩としては、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種のマグネシウム無機塩であればよい。その中でも、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムは表層をフッ素化するのにより適しており、コア粒子の材料として使用することが好ましい。
【0035】
また、コア粒子として使用するマグネシウム無機塩の粒径は50nm以上5μm以下の範囲内であるものが好ましく、反射防止膜の形成を目的とする場合は、低屈折率性を実現する観点から50nm以上100nm以下の範囲内の粒径のものを使用することが特に好ましい。
【0036】
フッ素化剤としては、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。
【0037】
なお、コア粒子にフッ素化剤を反応させる方法としては、例えば、(a)溶媒により溶解させたフッ素化剤の溶液に、マグネシウム無機塩を添加して反応させる方法(液相法)、(b)気化させたフッ素化剤をそのまま、もしくは窒素ガスなどの不活性ガスで希釈した混合ガスをマグネシウム無機塩の載置空間に通気させ、マグネシウム無機塩と接触反応させる方法(気相法)、(c)フッ素化剤とマグネシウム無機塩をそれぞれ固体の状態で混合し、フッ素化剤の分解温度まで加熱し反応させる方法(固相法)などが挙げられる。ただし、本発明の実施の形態において、コア粒子にフッ素化剤を反応させる方法としては、マグネシウム無機塩の表層をフッ素化できる方法であれば上述の方法に限定されない。
【0038】
上述の液相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム水溶液、もしくはフッ化水素をエタノールなどに溶解させた溶液などが挙げられる。特に、フッ化水素酸を使用することが好ましい。なお、フッ化水素酸の濃度は1~10質量%に調整するのが好ましい。反応時の温度は、生成するフッ化物の粒子成長を抑える観点から、25℃以上50℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0039】
上述の気相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化水素、フッ化アンモニウム、および酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。特に、無水のフッ化水素ガスを使用することが好ましい。なお、マグネシウム無機塩を採取した反応容器に気化させたフッ素化剤を通気させて反応させる際は、フッ素化剤を気化させたガスを窒素ガスなどの不活性ガスで希釈して通気させてもよい。反応時の温度は、フッ化水素ガスの凝縮を抑える観点から、フッ化水素の凝集点以上300℃以下の範囲内であることが好ましい。また、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムにおいての反応時の温度は、これらのフッ素化剤の沸点以上であればよく、具体的には、常圧下で240℃以上であることが好ましい。
【0040】
上述の固相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。また、反応時の温度は、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムの分解温度以上で反応させることが好ましい。具体的には、常圧下においてフッ化アンモニウムでは100℃以上、酸性フッ化アンモニウムでは240℃以上であることが好ましい。
【0041】
なお、上述の液相法、気相法、固相法それぞれのシェル形成工程におけるフッ素化により得られる表面に凸凹を有するコア/シェル型粒子の表面に対して、600℃以上800℃以下の範囲内で加熱処理を行うことにより平滑にすることが可能である。特に、表面に凸凹を有するコア/シェル型粒子の表面を平滑にするには800℃付近で加熱処理を行うことが好ましい。
【0042】
<酸によるコア粒子の除去工程>
この工程では、上記のシェル形成工程で得られたコア/シェル型粒子から、コア部分であるマグネシウム無機塩を酸により溶解させて中空粒子を作製することができる。
【0043】
コア部分であるマグネシウム無機塩を溶解させる酸としては、塩酸、硝酸あるいは硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸であればよい。特に、塩酸を使用することが好ましい。
【0044】
また、コアの除去に使用する酸の濃度は0.5~2Mが好ましい。この濃度範囲の酸を使用することで、コア部分のみを選択的に溶解することができる。また、コア部分溶解後の固液分離の際に処理する液量も少なくなるので経済的である。
【0045】
溶解時の温度は室温であることが好ましい。また、コア部分を溶出する際の懸濁液の濃度は1~4質量%であることが好ましい。
(実施例)
【0046】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されることはない。
【実施例0047】
1.液相法(湿式法)での酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
500mLのフッ素樹脂製容器に50質量%のフッ化水素酸を採取し、そこに水を加えてフッ化水素酸の濃度を5質量%まで希釈して5質量%のフッ化水素酸250.8gを調製した。次に、調製した5質量%のフッ化水素酸に酸化マグネシウム(堺化学工業社製SMO-5、粒径約5μm)を8.1g加えて、室温下で2時間攪拌した。得られた懸濁液を遠心分離(2500rpm、10分)によって沈降分離を行い、上澄み液を除去した。続いて、上澄み液を除去した沈殿物に水を40mL加え再度遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。その後、沈殿物を120℃、3時間で乾燥させることで白色粉末9.9gを得た。
【0048】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約5μmの粒子の表層に細かい粒状の粒子が付着していることが確認された(
図1)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0049】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子0.1gに対して2Mの塩酸水溶液を10mL加えて2時間静置した。その後、上澄み液を除去し、その残渣にメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約5μm、シェルの膜厚が約500nmの中空粒子が観察された(
図4)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の中空粒子の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
【実施例0050】
1.気相法(乾式法)での酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
1Lのフッ素樹脂製反応容器に酸化マグネシウム(堺化学工業社製SMO-1、粒径約1μm)を40.1g採取し、その反応容器を20rpmの速度で回転させて反応容器内の酸化マグネシウムを攪拌させた。続いて、フッ化水素ガス発生容器として上述とは別の1Lのフッ素樹脂製容器を用意し、そこに液体のフッ化水素を60.1g(酸化マグネシウムの当量の2.9倍)採取した。次いで、ウォーターバスでフッ化水素ガス発生容器を24℃に加熱してフッ化水素ガスを発生させた。上述で発生させたフッ化水素ガスを流速1L/分の窒素ガスで希釈した混合ガスを反応容器内に通気し、酸化マグネシウムとフッ化水素ガスを室温下で3時間反応させた。その後、前述で得られた反応物を120℃、5時間で乾燥し白色粉末45.3gを得た。
【0051】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約1μmの粒子の表層に細かい針状の粒子が付着していることが確認された(
図2)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0052】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子1gに対して2Mの塩酸水溶液を48mL加えて24時間静置した。その後、前述で得られた沈殿物を遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。その後、上澄み液を除去して得られた残渣に水を40mL加えて再度遠心分離(2500rpm、10分)により分離し、上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返したのち、120℃、3時間で乾燥させて白色粉末0.19gを得た。この白色粉末を0.1g採取し、そこにメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約1μm、シェルの膜厚が200nmの中空粒子が観察された(
図5)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の中空粒子の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
【実施例0053】
1.気相法(乾式法)での水酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
1Lのフッ素樹脂製反応容器に水酸化マグネシウム(富士フィルム和光純薬製、粒径約0.07μm)を11.4g採取し、その反応容器を20rpmの速度で回転させて反応容器内の水酸化マグネシウムを攪拌させた。続いて、フッ化水素ガス発生容器として上述とは別の1Lのフッ素樹脂製容器を用意し、そこに液体のフッ化水素を8.7g(水酸化マグネシウムの当量の2.2倍)採取した。次いで、ウォーターバスでフッ化水素ガス発生容器を24℃に加熱してフッ化水素ガスを発生させた。上述で発生させたフッ化水素ガスを流速2L/分の窒素ガスで希釈した混合ガスを反応容器内に通気し、1.5時間、110℃設定のオイルバスで反応容器を加熱することで、水酸化マグネシウムとフッ化水素ガスを反応させた。その後、前述で得られた反応物を120℃、5時間で乾燥し白色粉末10.3gを得た。
【0054】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約100nmの粒子が確認された(
図3)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0055】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子5.0gに対して0.5Mの塩酸水溶液を200mL加えて24時間静置した。その後、上述で得られた沈殿物を遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返したのち、120℃、3時間で乾燥し白色粉末1.58gを得た。この白色粉末を0.1g採取し、そこにメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約100nm、シェルの膜厚が約20nmの中空粒子が観察された(
図6)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の白色粉末の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子とフッ素化剤とを含む混合物を前記フッ素化剤の分解温度まで加熱して前記コア粒子の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成する、コア/シェル型粒子の製造方法。
【請求項2】
酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子と、フッ化マグネシウムからなり、前記コア粒子の表層に形成されるシェルとを有するコア/シェル型粒子から、前記コア粒子を酸で除去する除去工程を備える、中空粒子の製造方法。
【請求項3】
前記酸が、塩酸、硝酸、硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸である、請求項2に記載の中空粒子の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなる粒子をコア粒子として、そのコア粒子の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成させたコア/シェル型粒子、およびその製造方法に関する。また、本発明は、上述のコア/シェル型粒子のコア粒子を酸で除去する工程を備える中空粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンやスマートフォン等のディスプレイの表面に反射防止膜が用いられている。また、カメラレンズ等の光学素子の表面にも反射防止膜がコーティングされている。これらの反射防止膜の最表層に用いられる材料には、屈折率が低く、かつ透明であることが求められるため、シリカ、フッ化マグネシウム、シリコン樹脂などが用いられることが知られている。
【0003】
さらに、反射率を低く抑えるために、空気の屈折率1.0を利用する反射防止膜が知られており、シリカやフッ化マグネシウムの層内に空隙を形成することによって、更に屈折率の低い材料を製造する方法も知られている。
【0004】
上記に関する先行技術として、ポリビニル重合体をコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを連続した層として形成することにより、シェル強度が高いコア/シェル型粒子、および前記コア/シェル型粒子から得られる中空粒子の製造方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、ポリスチレン重合体をコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成させるコア/シェル型粒子、および中空粒子の製造方法であって、コア粒子を合成する際にスチレンモノマーの濃度や反応時の温度などを制御することで、得られる粒子の粒径や表面形状を制御できる製造工程が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-19626号公報
【特許文献2】特開2015-145325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の製造方法においては、ポリビニル重合体やポリスチレン重合体などをコア粒子とするため、一からコア粒子の合成を行う必要がある。そのため、コア粒子の合成過程で有機系の溶剤やモノマー、重合開始剤などが必要となる。
【0008】
また、上記合成樹脂からなるコア粒子表面にフッ化マグネシウムからなるシェルを形成するためには、コア粒子表面へ官能基修飾を施す手法などにより、コア粒子表面のゼータ電位を適切に調整することが必要である。さらに、そのコア粒子表面にフッ化マグネシウムからなる強度が高い連続したシェル層を形成させてコア/シェル型粒子を得るためには、限定的な温度条件下でコア粒子表面にフッ素とマグネシウムで構成された結晶核を付着させる工程を経た後、温度などの反応条件を変更してコア粒子表面の結晶核成長を進めることでフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させる工程が必要となる。
【0009】
その上、上述の方法で得られたコア/シェル型粒子から中空粒子を得るために、そのコア/シェル型粒子を200℃以上の高温条件で加熱してコア粒子を除去する工程が必要となる。
【0010】
以上のように特許文献1、2の製造方法では、コア/シェル型粒子や中空粒子の製造に係る工程や反応条件が多岐にわたるため、一連の製造工程が複雑化する。そのため、製造設備の確保、製造効率、経済性を考慮すると産業上利用の観点からも好ましくない。
【0011】
本発明の課題は、コア粒子の合成工程、コア粒子への表面修飾による電荷調整、コア/シェル型粒子からフッ化物中空粒子を得るための中空化工程での熱エネルギー、などを必要とせず、従前の方法よりも少ない工数で得られるコア/シェル型粒子、およびその製造方法、ならびにフッ化物中空粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、シェル形成工程を備える。シェル形成工程では、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子の表層にフッ化マグネシウムからなるシェルが形成される。
【0013】
本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、従前の方法のように一からコア粒子を合成する必要がなく、合成工程およびその工程に係る設備や化学物質、溶剤などを用いずにコア/シェル型粒子を製造することが可能となる。また、ポリビニル重合体やポリスチレン重合体をコア粒子とする従前の方法とは異なり、本局面に係る製造方法では、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子の表層とフッ素化剤を直接反応させてフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成できる。このため、コア粒子表面への官能基修飾やコア粒子表面のゼータ電位などを管理する必要がなくコア/シェル型粒子の製造が可能となる。そのため、従前の方法と比べて、工程管理の簡易化、および製造コストの削減、ならびに製造効率の向上が実現できる。さらに、従前のようなコア粒子表層にフッ素とマグネシウムを付着させ、その結晶核を成長させることでフッ化マグネシウムのシェル層を形成させる方法と異なり、本局面に係る製造方法では、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子の表層を直接フッ素化してシェルを形成できる。このため、シェル強度が高いコア/シェル型粒子を得ることができる。また、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法では、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが表層をフッ素化するのにより適しており、コア粒子として使用することが好ましい。また、本発明に係る製造工程で得られるコア/シェル型粒子あるいはフッ化物の中空粒子の粒径や形状は、上記コア粒子の粒径や形状に沿う。このため、上記コア粒子の粒径や形状を制御することにより、そこから得られるコア/シェル型粒子あるいはフッ化物の中空粒子の粒径や形状を制御することができる。
【0014】
本発明の第2局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、フッ素化剤の溶液と酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子とが反応してシェルが形成される。
【0015】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、より均一な膜厚のシェル層を備えるコア/シェル型粒子を得ることができることが明らかとなった。また、湿式条件下での本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、コア粒子表層に粒状のフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が得られるため、後述の乾式条件下での製造方法で得られる粒子とは異なる形状のコア/シェル型粒子が得られる。そのため、フッ素化工程の条件を変更することで形状が異なるコア/シェル型粒子を選択的に製造することができる。
【0016】
本発明の第3局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、気体のフッ素化剤と酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子とが反応してシェルが形成される。
【0017】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、粒子が1μm以下の小さなコア粒子の表層においても、フッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させてコア/シェル型粒子を得ることができる。その結果、粒径が小さいコア/シェル型粒子を得ることができる。また、乾式条件下での本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、コア粒子表層にきわめて細かい針状のフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が得られる。そのため、上述の湿式条件下での製造方法で得られる粒子とは異なる形状のコア/シェル型粒子を選択的に得ることが可能である。
【0018】
本発明の第4局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、シェル形成工程では、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子と、固体フッ素化剤を分解温度まで加熱することで発生するフッ化水素とを反応させることでシェルが形成される。
【0019】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法によれば、フッ素化剤の分解反応性が増大し、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子表層のフッ素化の効率が向上する。なお、ここでフッ素化剤として粒径の小さい固体粒子を使用することで、上記コア粒子表層のフッ素化の効率がさらに向上する。したがって、上記の液相工程や気相工程よりも少量のフッ素化剤によりコア粒子表層にフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成することができるコストパフォーマンスの高さと、液相からの分離工程を必要としないこと、および無水フッ化水素ガスを直接的に取り扱わないこと、などのハンドリング性の高さを兼ね備えた、工業的に実用性が高い製法となる。
【0020】
本発明の第5局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法は、第2局面から第4局面のいずれか1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法であって、フッ素化剤は、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤である。
【0021】
上記のフッ素化剤を用いて酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子の表層を直接フッ素化することで、強度の高いシェル層を有するコア/シェル型粒子を得ることができる。具体的には、本発明の第2局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素にエタノールに溶解させた混合溶液などが用いられ、特にフッ化水素酸を使用することが好ましい。また、本発明の第3局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムなどが用いられ、特にフッ化水素を使用することが好ましい。最後に、本発明の第4局面に係るフッ素化剤として、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素カリウム、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムなどが用いられ、特にフッ化アンモニウム、あるいは酸性フッ化アンモニウムを使用することが好ましい。
【0022】
本発明の第6局面に係るコア/シェル型粒子は、コア粒子およびシェルを備える。コア粒子は、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなる。シェルは、コア粒子の表層に形成される。このシェルは、フッ化マグネシウムからなる。このコア/シェル型粒子は、第1局面から第5局面のいずれか1局面に係るコア/シェル型粒子の製造方法により得られる。
【0023】
このため、本局面に係るコア/シェル型粒子から得られるフッ化物の中空粒子は、強度の高いシェル層を備えている。なお、本局面に係るコア/シェル型粒子は、高い耐熱性を有しており、高温クリープなどが発生しにくい新規材料の発明にも貢献できる。
【0024】
本発明の第7局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法は、除去工程を備える。除去工程では、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種からなるコア粒子と、フッ化マグネシウムからなり、コア粒子の表層に形成されるシェルとを有するコア/シェル型粒子から、コア粒子を酸で除去する。
【0025】
このため、コア/シェル型粒子からコア粒子のみを除去する中空化工程において、熱エネルギーを必要とせずにフッ化物の中空粒子を得ることができる。
【0026】
本発明の第8局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法は、第7局面に係るフッ化物の中空粒子の製造方法であって、酸は、塩酸、硝酸および硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸である。
【0027】
このため、コア粒子を除去する際に使用する、塩酸、硝酸、硫酸の濃度を調節することにより、コア粒子の溶出時間を制御することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、従前の方法では必須であった、コア/シェル型粒子のコアとなる粒子の合成工程、そのコア粒子表層にフッ化マグネシウムからなるシェル層を形成させるための表面電荷調整工程、熱エネルギーを用いたコア/シェル型粒子のコア粒子の除去工程を必要とせず、フッ化マグネシウムからなる強固なシェル層と、望みの粒径あるいは形状とを備えるコア/シェル型粒子、およびフッ化物中空粒子を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施例1で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図2】実施例2で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図3】実施例3で作製されたコア/シェル型粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【
図4】実施例1で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【
図5】実施例2で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【
図6】実施例3で作製された中空粒子の透過型電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態に係る中空粒子の製造方法は、(1)液相法(湿式法)、あるいは、気相法・固相法(乾式法)によるコア粒子表層へのシェル形成工程と、(2)酸によるコア粒子の除去工程と、を備える。以下、これらの工程について詳述する。
【0031】
<シェル形成工程>
この工程では、コア粒子に対して、フッ素化剤を反応させてコア粒子表層にシェル層を形成させることにより、コアがマグネシウム塩、シェルがフッ化マグネシウムであるコア/シェル型粒子を作製することができる。
【0032】
マグネシウム塩としては、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種のマグネシウム塩であればよい。その中でも、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムは表層をフッ素化するのにより適しており、コア粒子の材料として使用することが好ましい。
【0033】
また、コア粒子として使用するマグネシウム塩の粒径は50nm以上5μm以下の範囲内であるものが好ましく、反射防止膜の形成を目的とする場合は、低屈折率性を実現する観点から50nm以上100nm以下の範囲内の粒径のものを使用することが特に好ましい。
【0034】
フッ素化剤としては、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。
【0035】
なお、コア粒子にフッ素化剤を反応させる方法としては、例えば、(a)溶媒により溶解させたフッ素化剤の溶液に、マグネシウム塩を添加して反応させる方法(液相法)、(b)気化させたフッ素化剤をそのまま、もしくは窒素ガスなどの不活性ガスで希釈した混合ガスをマグネシウム塩の載置空間に通気させ、マグネシウム塩と接触反応させる方法(気相法)、(c)フッ素化剤とマグネシウム塩をそれぞれ固体の状態で混合し、フッ素化剤の分解温度まで加熱し反応させる方法(固相法)などが挙げられる。ただし、本発明の実施の形態において、コア粒子にフッ素化剤を反応させる方法としては、マグネシウム塩の表層をフッ素化できる方法であれば上述の方法に限定されない。
【0036】
上述の液相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム水溶液、もしくはフッ化水素をエタノールなどに溶解させた溶液などが挙げられる。特に、フッ化水素酸を使用することが好ましい。なお、フッ化水素酸の濃度は1~10質量%に調整するのが好ましい。反応時の温度は、生成するフッ化物の粒子成長を抑える観点から、25℃以上50℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0037】
上述の気相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化水素、フッ化アンモニウム、および酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。特に、無水のフッ化水素ガスを使用することが好ましい。なお、マグネシウム塩を採取した反応容器に気化させたフッ素化剤を通気させて反応させる際は、フッ素化剤を気化させたガスを窒素ガスなどの不活性ガスで希釈して通気させてもよい。反応時の温度は、フッ化水素ガスの凝縮を抑える観点から、フッ化水素の凝集点以上300℃以下の範囲内であることが好ましい。また、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムにおいての反応時の温度は、これらのフッ素化剤の沸点以上であればよく、具体的には、常圧下で240℃以上であることが好ましい。
【0038】
上述の固相法について使用されるフッ素化剤としては、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化剤であればよい。また、反応時の温度は、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムの分解温度以上で反応させることが好ましい。具体的には、常圧下においてフッ化アンモニウムでは100℃以上、酸性フッ化アンモニウムでは240℃以上であることが好ましい。
【0039】
なお、上述の液相法、気相法、固相法それぞれのシェル形成工程におけるフッ素化により得られる表面に凸凹を有するコア/シェル型粒子の表面に対して、600℃以上800℃以下の範囲内で加熱処理を行うことにより平滑にすることが可能である。特に、表面に凸凹を有するコア/シェル型粒子の表面を平滑にするには800℃付近で加熱処理を行うことが好ましい。
【0040】
<酸によるコア粒子の除去工程>
この工程では、上記のシェル形成工程で得られたコア/シェル型粒子から、コア部分であるマグネシウム塩を酸により溶解させて中空粒子を作製することができる。
【0041】
コア部分であるマグネシウム塩を溶解させる酸としては、塩酸、硝酸あるいは硫酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸であればよい。特に、塩酸を使用することが好ましい。
【0042】
また、コアの除去に使用する酸の濃度は0.5~2Mが好ましい。この濃度範囲の酸を使用することで、コア部分のみを選択的に溶解することができる。また、コア部分溶解後の固液分離の際に処理する液量も少なくなるので経済的である。
【0043】
溶解時の温度は室温であることが好ましい。また、コア部分を溶出する際の懸濁液の濃度は1~4質量%であることが好ましい。
(実施例)
【0044】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されることはない。
【実施例0045】
1.液相法(湿式法)での酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
500mLのフッ素樹脂製容器に50質量%のフッ化水素酸を採取し、そこに水を加えてフッ化水素酸の濃度を5質量%まで希釈して5質量%のフッ化水素酸250.8gを調製した。次に、調製した5質量%のフッ化水素酸に酸化マグネシウム(堺化学工業社製SMO-5、粒径約5μm)を8.1g加えて、室温下で2時間攪拌した。得られた懸濁液を遠心分離(2500rpm、10分)によって沈降分離を行い、上澄み液を除去した。続いて、上澄み液を除去した沈殿物に水を40mL加え再度遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。その後、沈殿物を120℃、3時間で乾燥させることで白色粉末9.9gを得た。
【0046】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約5μmの粒子の表層に細かい粒状の粒子が付着していることが確認された(
図1)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0047】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子0.1gに対して2Mの塩酸水溶液を10mL加えて2時間静置した。その後、上澄み液を除去し、その残渣にメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約5μm、シェルの膜厚が約500nmの中空粒子が観察された(
図4)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の中空粒子の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
【実施例0048】
1.気相法(乾式法)での酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
1Lのフッ素樹脂製反応容器に酸化マグネシウム(堺化学工業社製SMO-1、粒径約1μm)を40.1g採取し、その反応容器を20rpmの速度で回転させて反応容器内の酸化マグネシウムを攪拌させた。続いて、フッ化水素ガス発生容器として上述とは別の1Lのフッ素樹脂製容器を用意し、そこに液体のフッ化水素を60.1g(酸化マグネシウムの当量の2.9倍)採取した。次いで、ウォーターバスでフッ化水素ガス発生容器を24℃に加熱してフッ化水素ガスを発生させた。上述で発生させたフッ化水素ガスを流速1L/分の窒素ガスで希釈した混合ガスを反応容器内に通気し、酸化マグネシウムとフッ化水素ガスを室温下で3時間反応させた。その後、前述で得られた反応物を120℃、5時間で乾燥し白色粉末45.3gを得た。
【0049】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約1μmの粒子の表層に細かい針状の粒子が付着していることが確認された(
図2)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0050】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子1gに対して2Mの塩酸水溶液を48mL加えて24時間静置した。その後、前述で得られた沈殿物を遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。その後、上澄み液を除去して得られた残渣に水を40mL加えて再度遠心分離(2500rpm、10分)により分離し、上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返したのち、120℃、3時間で乾燥させて白色粉末0.19gを得た。この白色粉末を0.1g採取し、そこにメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約1μm、シェルの膜厚が200nmの中空粒子が観察された(
図5)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の中空粒子の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
【実施例0051】
1.気相法(乾式法)での水酸化マグネシウムコア粒子表層のフッ素化によるコア/シェル型粒子の作製
1Lのフッ素樹脂製反応容器に水酸化マグネシウム(富士フィルム和光純薬製、粒径約0.07μm)を11.4g採取し、その反応容器を20rpmの速度で回転させて反応容器内の水酸化マグネシウムを攪拌させた。続いて、フッ化水素ガス発生容器として上述とは別の1Lのフッ素樹脂製容器を用意し、そこに液体のフッ化水素を8.7g(水酸化マグネシウムの当量の2.2倍)採取した。次いで、ウォーターバスでフッ化水素ガス発生容器を24℃に加熱してフッ化水素ガスを発生させた。上述で発生させたフッ化水素ガスを流速2L/分の窒素ガスで希釈した混合ガスを反応容器内に通気し、1.5時間、110℃設定のオイルバスで反応容器を加熱することで、水酸化マグネシウムとフッ化水素ガスを反応させた。その後、前述で得られた反応物を120℃、5時間で乾燥し白色粉末10.3gを得た。
【0052】
上述で得られた白色粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)で観察を行ったところ、粒径が約100nmの粒子が確認された(
図3)。また、観察された白色粉末について元素分析を行った結果、その粉末の組成には、酸素、マグネシウム、フッ素が含まれていた。このことから、酸化マグネシウムをコア粒子とし、その表層にフッ化マグネシウムからなるシェルを備えるコア/シェル型粒子が作製されていることが確認された。
【0053】
2.コア粒子の除去による中空粒子の作製
上述で得られたコア/シェル型粒子5.0gに対して0.5Mの塩酸水溶液を200mL加えて24時間静置した。その後、上述で得られた沈殿物を遠心分離(2500rpm、10分)によって分離し、上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返したのち、120℃、3時間で乾燥し白色粉末1.58gを得た。この白色粉末を0.1g採取し、そこにメタノール1mLを加えて分散液を得た。観察用TEMグリッドを前述で得られた分散液に浸した後、そのグリッドをデシケータ内で一晩常温減圧乾燥を行い、観察用試料を得た。前述で得られた観察用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2010-K)で観察したところ、粒径が約100nm、シェルの膜厚が約20nmの中空粒子が観察された(
図6)。また、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(EDS)(日本電子株式会社製、JSM-IT200)による元素分析の結果、上述の白色粉末の組成には、マグネシウム、フッ素が含まれており、酸素は検出されなかった。このことから、コア粒子である酸化マグネシウムが除去されていることが確認された。
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