(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079952
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】粘着剤および粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20240606BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240606BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240606BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20240606BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J11/08
C09J7/38
C08G18/10
C08G18/42 069
C08G18/42 080
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192678
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 豪
【テーマコード(参考)】
4J004
4J034
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA14
4J004AB01
4J004BA02
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC02
4J004DB02
4J004EA06
4J004FA08
4J034DF01
4J034DF04
4J034DF12
4J034HA01
4J034HA02
4J034HA07
4J034HC03
4J034JA42
4J034RA08
4J040EF111
4J040EF281
4J040EF282
4J040HC16
4J040JB09
4J040KA16
4J040KA26
4J040LA01
4J040LA11
(57)【要約】
【課題】生分解性原料を使用し、粘着特性、タック性、保持特性および透明性に優れる、粘着剤の提供。
【解決手段】本発明の課題は、特定のポリオール(ax)を含むポリオール(a)と、ポリイソシアネート(b)の反応物である、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を含む粘着剤であり、前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の分子量分散度は1.9~8.7であり、かつ、前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析により得られた微分分子量分布曲線の総面積を、微分分子量分布曲線のピークトップを境界として、高分子量成分の面積(PH)と低分子量成分の面積(PL)に分けた際の比(PH/PL)が43/57~70/30である、粘着剤によって解決できる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール(ax)を含むポリオール(a)と、ポリイソシアネート(b)の反応物である、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を含む粘着剤であり、
前記ポリオール(ax)は、ラクチド単量体(ax’1)と、ラクトン単量体(ax’2)とを含む単量体混合物の共重合体であり、
前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の分子量分散度は1.9~8.7であり、かつ、
前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析により得られた微分分子量分布曲線の総面積を、微分分子量分布曲線のピークトップを境界として、高分子量成分の面積(PH)と低分子量成分の面積(PL)に分けた際の比(PH/PL)が43/57~70/30である、粘着剤。
【請求項2】
ポリオール(a)が、さらにその他ポリオール(ay)を含む、請求項1記載の粘着剤。
【請求項3】
さらにイソシアネート硬化剤(B)を含む、請求項1記載の粘着剤。
【請求項4】
さらに粘着付与樹脂(C)を含む、請求項1記載の粘着剤。
【請求項5】
さらにカルボジイミド化合物(D)を含む、請求項1記載の粘着剤。
【請求項6】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に設けられた、請求項1~5いずれか記載の粘着剤から形成されてなる粘着剤層とを有する粘着シート。
【請求項7】
基材が、生分解性樹脂である、請求項6記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粘着剤およびそれを用いた粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、容器の粘着ラベルを構成する粘着剤は、代表的に石油由来の原料を含む。粘着ラベルは、使用後に容器から剥がされ、または容器に貼付されたまま、土中に廃棄される場合がある。この場合、粘着ラベルを構成する粘着剤の分解速度が極めて遅いために、粘着剤は半永久的に土中に残り、さらには土中の生態系を破壊する原因となり得る。また、石油由来の原料を含む製品を焼却した場合には、二酸化炭素が発生し、地球温暖化進行の一つの原因となる。これらのことから、近年、生分解性原料の使用が推奨され始めている。
【0003】
特許文献1では、生分解性原料であるL-乳酸を主とする脂肪族ヒドロキシカルボン酸をスルホン酸塩基含有ポリオールに付加して得られた脂肪族ポリエステルポリオールと、活性水素を片末端にのみ有するポリエーテルと、ジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート基末端のプレポリマーが、カルボン酸基含有ジオールまたは3官能以上のポリオールで鎖長延長されて得られる共重合ポリウレタン樹脂を含む、接着剤組成物が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている共重合ポリウレタン樹脂を用いた接着剤組成物では、十分な粘着特性を得ることが困難であった。特に、被着体への濡れ性が高くなくタック性が不十分である。さらに、高温時の凝集力が低いため保持特性が不十分であるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、生分解性原料を使用したポリウレタン樹脂を含む、従来の接着剤組成物では、粘着特性を満足し、さらに、タック性、保持特性と透明性を十分に満たすことが困難である。
したがって、本発明の実施形態は、生分解性原料を使用し、粘着特性、タック性、保持特性および透明性に優れる、粘着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、本発明を完成した。すなわち、本発明の実施形態は以下に関する。しかし、本発明は以下に記載する実施形態に限定されることなく、様々な実施形態を含む。
【0008】
本発明の一実施形態は、ポリオール(ax)を含むポリオール(a)と、ポリイソシアネート(b)の反応物である、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を含む粘着剤であり、
前記ポリオール(ax)は、ラクチド単量体(ax’1)と、ラクトン単量体(ax’2)とを含む単量体混合物の共重合体であり、
前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の分子量分散度は1.9~8.7であり、かつ、
前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析により得られた微分分子量分布曲線の総面積を、微分分子量分布曲線のピークトップを境界として、高分子量成分の面積(PH)と低分子量成分の面積(PL)に分けた際の比(PH/PL)が43/57~70/30である、粘着剤に関する。
【0009】
本発明の他の実施形態は、ポリオール(a)が、さらにその他ポリオール(ay)を含む上記粘着剤に関する。
【0010】
本発明の他の実施形態は、さらにイソシアネート硬化剤(B)を含む上記粘着剤に関する。
【0011】
本発明の他の実施形態は、さらに粘着付与樹脂(C)を含む上記粘着剤に関する。
【0012】
本発明の他の実施形態は、さらにカルボジイミド化合物(D)を含む上記粘着剤に関する。
【0013】
本発明の他の実施形態は、基材と、上記基材の少なくとも一方の面に上記粘着剤から形成されてなる粘着剤層とを有する、粘着シートに関する。
【0014】
本発明の他の実施形態は、基材が生分解性樹脂である粘着シートに関する。
【0015】
本発明によれば、生分解度が高い粘着剤であって、粘着特性を十分に満足し、さらに、タック性に優れ、保持特性かつ透明性にも優れる、粘着剤の提供が可能となる。また、上記粘着剤を用いた粘着シートの提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の説明の前に用語を定義する。
本明細書で記載する「粘着シート」とは、基材と、本発明の粘着剤または粘着剤の硬化物からなる粘着剤層とを有することを意味する。
【0017】
本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むことを意味する。
本明細書に記載する各種成分は、特に注釈しない限り、それぞれ独立して1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
本明細書において、ラクチド単量体(ax’1)、ラクトン単位を有する単量体(ax’2)およびその他単量体(ax’3)を、それぞれ、単量体(ax’1)、単量体(ax’2)、単量体(ax’3)と略記することがある。また、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)をウレタンプレポリマー(A)と略記することがある。
【0019】
本明細書において、「Mw」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。「Mn」は、GPC測定によって求めたポリスチレン換算の数平均分子量である。これらは、[実施例]の項に記載する方法によって測定することができる。
【0020】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
【0021】
<1>粘着剤
本発明の一実施形態である粘着剤は、ウレタンプレポリマー(A)を少なくとも含む。上記粘着剤は、必要に応じて、硬化剤、粘着付与樹脂、可塑剤、またはその他任意成分をさらに含んでよい。上記粘着剤は、さらに溶剤を含んでよい。
【0022】
本発明の一実施形態である粘着剤は、特定の分子量分散度を有し、かつ、GPC分析により得られた微分分子量分布曲線の総面積を、微分分子量分布曲線のピークトップを境界として、高分子量成分の面積(PH)と低分子量成分の面積(PL)に分けた際の比(PH/PL)が特定の範囲内である、ウレタンプレポリマー(A)を含むことで、低分子量成分が適度に含まれ、被着体への濡れ性が向上し、優れたタック性が得られる。また、高分子量成分も含むことで、高い凝集力が得られるため、保持特性についても良好となり、これらの性能を満足することができる。
【0023】
≪ウレタンプレポリマー(A)≫
ウレタンプレポリマー(A)は、ポリオール(ax)を含むポリオール(a)と、ポリイソシアネート(b)との反応物である、水酸基を有するウレタンプレポリマーである。前記「反応物」とは、ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)との反応生成物を意味する。
【0024】
ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)との反応において、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基(イソシアナト基)は、ポリオール(a)の水酸基よりも少なくなるようなモル比(NCO/OH)で使用する。これにより、得られるウレタンプレポリマーは、水酸基を有するウレタンプレポリマーとなる。
【0025】
ウレタンプレポリマー(A)の分子量分散度は1.9~8.7であり、3.5~6.6が好ましい。分散度が上記範囲内である場合、分子量分布が広く、低分子量から高分子量のポリマー成分が得られる。分子量分散度は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値である。
【0026】
ウレタンプレポリマー(A)は、GPC分析により得られた微分分子量分布曲線の総面積を、微分分子量分布曲線のピークトップを境界として、高分子量成分の面積(PH)と低分子量成分の面積(PL)に分けた際の比(PH/PL)は43/57~70/30であり、45/55~67/33が好ましく、54/46~63/37がより好ましい。
高分子量成分の面積と低分子量成分の面積の比が適切な範囲になることで、低分子量成分を適度に含み、被着体への濡れ性が向上し、優れたタック性が得られる。また、高分子量成分も含むことで、高い凝集力が得られるため、保持特性についても良好となる。
微分分子量分布曲線の総面積とは、微分分子量分布曲線と、分子量1,000と6,000,000における微分分子量分布曲線を直線で結んだベースラインとの間の領域面積である。
【0027】
上記ピークトップは、分子量10,000~100,000の範囲内に有していることが好ましく、20,000~80,000がより好ましい。ピークトップが上記範囲内である場合、低分子量の成分により被着体への濡れ性が向上し、優れたタック性が得られる。
【0028】
上記の分子量分散度および高分子量成分の面積と低分子量成分の面積の比を満足するウレタンプレポリマー(A)を製造方法は、重量平均分子量が異なる2種類のウレタンプレポリマー(A)を配合する方法、ポリオール(a)をポリイソシアネート(b)との反応にて合成する方法等が挙げられる。
【0029】
ウレタンプレポリマー(A)の重量平均分子量は、10,000~300,000が好ましく、30,000~200,000より好ましい。ウレタンプレポリマー(A)の重量平均分子量が上記範囲内である場合、分子量分散度および高分子量成分の面積と低分子量成分の面積の比(PH/PL)を適切な範囲に調整することが可能となる。
【0030】
以下、粘着剤の構成成分についてより具体的に説明する。
<ポリオール(a)>
ポリオール(a)は、1分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物であり、ポリオール(ax)を含む。ポリオール(a)は、ポリオール(ax)以外に、さらにその他ポリオール(ay)を含むことが好ましい。その他ポリオール(ay)を含むことでポリオール(a)の凝集力を適度に調節することができ保持特性が向上する。
【0031】
[ポリオール(ax)]
ポリオール(ax)は、ラクチド単量体(ax’1)と、ラクトン単位を有する単量体(ax’2)とを含む単量体混合物の共重合によって得られる共重合体である。上記単量体混合物は、必要に応じて、その他単量体(ax’3)をさらに含んでもよい。その他単量体(ax’3)を適切に選択することで、ポリオールの分子量を制御することが容易となり、所望とする数平均分子量を有するポリオール(ax)を容易に得ることができる。
【0032】
ポリオール(ax)を構成する単量体混合物の全質量を基準として、単量体(ax’1)と単量体(ax’2)との合計含有率は、10~99.8質量%であることが好ましく、40~99.8質量%がより好ましく、50~99.8質量%がさらに好ましい。上記合計含有率が上記範囲内である場合、粘着剤の生分解性度を向上できる点で好ましい。
ポリオール(ax)を構成する単量体混合物における単量体(ax’1)の含有量と単量体(ax’2)の含有量との比率(ax’1)/(ax’2)は、10/90~90/10が好ましく、より好ましくは、20/80~60/40である。
上記比率(ax’1)/(ax’2)を上記範囲内に調整することによって、単量体(ax’1)および単量体(ax’2)の結晶性を抑制することができ粘着剤から形成されてなる粘着剤層の透明性を向上でき、かつ、タック性も向上できる点で好ましい。
【0033】
ポリオール(ax)の数平均分子量(Mn)は、1,000~45,000が好ましい。より好ましくは1,000~35,000であり、さらに好ましくは2,500~25,000である。上記範囲内に調整することでウレタンポリマー(A)の凝集力が向上する。
【0034】
(単量体(ax’1))
ラクチド単量体(ax’1)は、例えば、L-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチド、meso-ラクチドなどが挙げられる。ここで、DL-ラクチドとは、L-ラクチドとD-ラクチドの等モル混合物を意味する。
【0035】
ラクチド単量体(ax’1)としては、L-ラクチドとD-ラクチドとの併用、DL-ラクチド、またはmeso-ラクチドが好ましい。特に、非晶性で濡れ性を向上させタック性より向上させる観点から、meso-ラクチドが好ましい。
L-ラクチドおよびD-ラクチドを併用する場合には、L-ラクチド/D-ラクチドの質量比は、5/95~95/5であることが好ましく、より好ましくは、15/85~85/15である。この範囲内となることで、ウレタンプレポリマー(A)中のラクチド由来の結晶化度を低くすることができ、タック性を向上できる。
【0036】
一実施形態において、ラクチド単量体(ax’1)は、少なくともmeso-ラクチドを含むことが好ましい。一実施形態において、ラクチド(ax’1)は、meso-ラクチドに加えて、L-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチドといった他のラクチド体をさらに含んでもよい。例えば、meso-ラクチドの製造では、その精製段階でmeso-ラクチド以外のラクチド体が取り除かれる。しかし、本実施形態では、未精製のmeso-ラクチドを使用してもよい。すなわち、meso-ラクチド以外に、L-ラクチド、D-ラクチド、及びDL-ラクチドの少なくとも1種が混在していてもよい。
【0037】
(単量体(ax’2))
ラクトン単位を有する単量体(ax’2)としては、例えば、炭素数3~12のラクトン等が挙げられる。例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、エナントラクトン、カプリロラクトン、ラウロラクトン等が挙げられる。
ラクトン単位を有する単量体(ax’2)なかでも、生分解性を有する観点から、ε-カプロラクトン、またはδ-バレロラクトン好ましい。上記ラクトン単位を有する単量体(ax’2)は、1種のみで使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
これらの単量体(ax’2)を、単量体(ax’1)と共重合させることによって、ウレタンプレポリマー(A)中のラクチドまたはラクトン由来の成分の結晶化度を低下させることができる。
その結果、粘着剤において優れた透明性とタック性などの特性を実現できるウレタンプレポリマー(A)を得ることができる。
【0039】
(単量体(ax’3))
単量体(ax’3)は、単量体(ax’1)および単量体(ax’2)以外のその他単量体であって、単量体(ax’1)および単量体(ax’2)との反応性を有するものであれば特に限定されない。
例えば、単量体(ax’3)として、脂肪族グリコール、脂肪族二塩基酸とグリコールとの反応生成物であるポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ヒマシ油ポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、カーボネートポリオール等のポリオールを使用することができる。ポリオール(ax)を構成する単量体混合物が、その他単量体(ax’3)をさらに含む場合、ウレタンプレポリマー(A)中のラクチド由来の成分の結晶化度を低くすることがより容易となる。
【0040】
単量体(ax’3)は、水酸基を2つ以上有する化合物が好ましい。水酸基を2つ以上有することでポリイソシアネート(b)との共重合性が良好なものとなり、低結晶性のウレタンプレポリマー(A)が得られことができ、粘着性能や粘着剤から形成されてなる粘着剤層の透明性を更に向上できる。
水酸基を2つ有する化合物を使用する場合、単量体(ax’1)および単量体(ax’2)との反応では、得られるポリオール(ax)は直鎖骨格となる。3つ以上有する化合物を使用する場合、ポリオール(ax)は分岐骨格となる。また、水酸基を2つ有する化合物と3つ以上有する化合物を併用してもよい。単量体(ax’3)は、水酸基を3つ以上有する化合物が好ましい。単量体(ax’3)が水酸基を3つ以上有する化合物を含有することで、ポリイソシアネート(b)との反応で得られるウレタンプレポリマー(A)は多分岐骨格となり、凝集力を向上できるため保持特性の付与および、分子量分散度、高分子量成分の面積と低分子量成分の面積の比(PH/PL)の調整が可能となる。
【0041】
生分解性原料の含有率を高めるためには、単量体(ax’3)についても、生分解性原料であることが好ましい。一実施形態では、単量体(ax’3)として、ポリエステルポリオールまたはポリカプロラクトンポリオールを好適に使用することができる。特に、ポリエステルポリオールを使用した場合、単量体(ax’1)および(ax’2)との相溶性に優れ、共重合性が向上することによって、ラクチド由来の成分の結晶化度を低下させることができる。
【0042】
単量体(ax’3)として使用できる脂肪族グリコールは、特に限定されない。例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチルオクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。特に、生分解性原料であることから、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、が好ましい。上記脂肪族グリコールは、1種のみを使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
単量体(ax’3)として使用できるポリエステルポリオールは、例えば、脂肪族二塩基酸と脂肪族グリコールとを縮合反応させて得られる。上記ポリエステルポリオールは、COOH/OHモル比が1.0未満となる、末端に水酸基を有する脂肪族ポリエステルポリオールを含むことが好ましい。このような脂肪族ポリエステルポリオールは、芳香族ポリエステルポリオールとは異なり、脂肪族ポリエステルポリオールを分解可能な酵素が自然界に多数存在するために好ましい。
【0044】
上記脂肪族二塩基酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデセニル無水コハク酸、フマル酸、コハク酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。特に、生分解性原料であることから、セバシン酸、およびコハク酸が好ましい。上記脂肪族二塩基酸は、1種のみを使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。一方、脂肪族グリコールは、先に説明したとおりである。
【0045】
本発明において所望とする粘着剤の特性、並びに粘着剤の生分解性度を低下させない程度であれば、ポリエステルポリオールの原料として、芳香族二塩基酸を使用することができる。
使用できる上記芳香族二塩基酸としては、特に限定されない。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種のみを使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
一実施形態において、ポリエステルポリオールとして、市販品を使用することもできる。例えば、クラレ社製の「クラレポリオールP-1010」、及び「クラレポリオールP-6010」が挙げられる。これらは、アジピン酸と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとの共重合体である。
【0047】
単量体(ax’3)として使用できるポリエーテルポリオールは、例えば、1分子中に2つの活性水素を有する活性水素含有化合物を開始剤として用い、1種以上のオキシラン化合物を付加重合させた反応物であってよい。
上記オキシラン化合物としては、例えば、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、およびブチレンオキシド(BO)等のアルキレンオキシド(AO);テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
一実施形態において、上記ポリエーテルポリオールとして、市販品を使用することもできる。例えば、三洋化成社製の「サンニックスPP-400」(ポリオキシプロピレングリコール)を使用できる。
【0048】
単量体(ax’3)として使用できるポリブタジエン変性ポリオールは、例えば、2つ以上の水酸基末端を有し、1,2-ビニル部位、1,4-シス部位、1,4-トランス部位またはそれらが水素化された構造を有し、直鎖状若しくは分岐状のポリブタジエンであってよい。
【0049】
単量体(ax’3)として使用できるヒマシ油ポリオールは、例えば、ヒマシ油から誘導されるポリオール、またはヒマシ油を変性して得られるポリオールであってよい。
【0050】
上記ヒマシ油から誘導されるポリオールとしては、例えば、このグリセリンエステルのリシノレイン酸の一部をオレイン酸に置換したもの、ヒマシ油を鹸化して得られるリシノレイン酸を短分子ポリオールとエステル化したもの、これらとヒマシ油との混合物等、ヒマシ油由来の脂肪酸エステルポリオールであってよい。
【0051】
上記ヒマシ油を変性して得られるポリオールとしては、例えば、植物油変性ポリオール、芳香族骨格(例えばビスフェノールA等)を有する変性ポリオール等が挙げられる。植物油変性ポリオールは、グリセリンエステルのリシノレイン酸の一部を、他の植物より得られる脂肪酸、例えば大豆油、なたね油、オリーブ油等より得られるリノール酸、リノレン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸に置換して得られるものである。
【0052】
一実施形態において、上記ヒマシ油ポリオールとして、市販品を使用することもできる。例えば、伊藤製油社製「URIC HF-1300、Y-403、HF-2009」等が挙げられる。
【0053】
単量体(ax’3)として使用できるポリカプロラクトンポリオールは、例えば、先に単量体(ax’2)に関する説明で記載した化合物を開環重合して得られたポリオールが挙げられる。
【0054】
単量体(ax’3)として使用できるポリカーボネートポリオールは、例えば、上記グリコール成分とホスゲンとを重縮合反応させて得られるポリカーボネートポリオール; 上記ポリオール成分と、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジブチル、エチルブチル炭酸、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジフェニル、炭酸ジベンジル等の炭酸ジエステルとをエステル交換縮合させて得られるポリカーボネートポリオール; 上記ポリオール成分を2 種以上併用して得られる共重合ポリカーボネートポリオール; これらのポリカーボネートポリオールとカルボキシル基含有化合物とをエステル化反応させて得られるポリカーボネートポリオール; これらのポリカーボネートポリオールとヒドロキシル基含有化合物とをエーテル化反応させて得られるポリカーボネートポリオール; これらのポリカーボネートポリオールとエステル化合物とをエステル交換反応させて得られるポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0055】
一実施形態において、ポリカーボネートポリオールとして、市販品を使用することもできる。例えば、住化バイエルウレタン社製「デスモフェン 2020E」等が挙げられる。
【0056】
一実施形態において、単量体(ax’3)の含有率は、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物の全質量を基準として、0.2質量%以上、90質量%以下が好ましい。一実施形態において、単量体(ax’3)の含有率は、0.8~60質量%であることがより好ましく、2.0~50質量%がさらに好ましい。例えば、この実施形態では、単量体(ax’3)として数平均分子量が500~6,000のポリエステルポリオールを好適に使用できる。
【0057】
単量体(ax’3)は、単独または2種類以上を併用できる。
【0058】
(ポリオール(ax)の製造方法)
ポリオール(ax)の製造方法は、特に制限されない。ポリオール(ax)は、塊状重合法および溶液重合法等の公知の重合方法によって製造することができる。製造方法の手順としては、例えば、以下が挙げられる。
(手順)ラクチド単量体(ax’1)と、ラクトン単量体(ax’2)を使用し、これらを溶融重合する開環重合法(例えば、米国特許2,758,987号に開示されている製造方法)。この(手順)では、ラクチドおよびラクトンは全て開環したポリオールが得られる。
【0059】
ポリオール(ax)の製造には、必要に応じて、触媒、および溶剤等を用いることができる。触媒は、後述するウレタンプレポリマー(A)の製造で例示する触媒と同じであってよい。また、触媒は2種以上を併用してもよい。
【0060】
一実施形態において、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物は、ウレタン化において十分な反応性を得る観点から、水酸基などの活性水素を片末端にのみ有する化合物、及びスルホン酸塩などの酸性基が塩を形成している化合物を含まないことが好ましい。したがって、一実施形態において、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物は、単量体(ax’1)、及び単量体(ax’2)、さらに必要に応じて単量体(ax’3)のみからなることが好ましい。
【0061】
[その他ポリオール(ay)]
その他ポリオール(ay)は、ポリオール(ax)を除いた、水酸基を2つ以上有する化合物である。その他ポリオール(ay)を含むことでポリオール(a)の凝集力を適度に調節することができ保持特性が向上する。好ましくは水酸基を3つ以上有する化合物である。その他ポリオール(ay)が水酸基を3つ以上有する化合物を含有することで、ウレタンプレポリマー(A)に分岐骨格を生じさせ、凝集力を向上できるため、保持特性を付与することができる。
【0062】
その他ポリオール(ay)の数平均分子量は、80~5,000が好ましく、より好ましくは500~3,000である。数平均分子量がこの範囲内にあることで、さらにイソシアネート硬化剤(B)との反応で充分な架橋密度が得られ、保持力が向上する。
【0063】
その他ポリオール(ay)として、脂肪族ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ヒマシ油ポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール等を使用することができる。なかでも、脂肪族ポリエステルポリオールまたはポリカプロラクトンポリオールが好ましい。
【0064】
その他ポリオール(ay)は、先に単量体(ax’3)に関する説明で記載した化合物と同様であってよい。
【0065】
一実施形態において、その他ポリオール(ay)として、市販品を使用することもできる。例えば、三洋化成工業社製のサンニックスPP-400が挙げられる。これは、グリセリンとプロピレンオキシド(PO)とエチレンオキシド(EO)との共重合体である、ポリオキシプロピレングリコールである。
また、例えば、クラレ社製の「クラレポリオールF-1010」が挙げられる。これは、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、アジピン酸と、トリメチロールプロパンとの共重合体である、3分岐構造のポリエステルポリオールである。
さらに、例えば、ダイセル社製の「Placcel410」が挙げられる。これは、4官能水酸基含有化合物とε-カプロラクトンとの重合体である、4分岐構造のポリエステルポリオールである。
【0066】
その他ポリオール(ay)の含有率は、ウレタンプレポリマー(A)の全質量を基準として、0.5~30質量%が好ましく、より好ましくは、2~20質量%である。0.5質量%以上であると、分岐骨格が充分に形成され、凝集力に優れ、また、30質量%以下であると、ウレタンプレポリマー(A)の製造時に、ゲル化物または凝集物の発生を抑制できるため好ましい。
【0067】
<ポリイソシアネート(b)>
ポリイソシアネート(b)としては公知の化合物を使用できる。例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、および脂環族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0068】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、および4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアネート-1,3-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、および1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0069】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、および2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0070】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、および1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0071】
その他、ポリイソシアネートとして、例えば、上記ポリイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット体、アロファネート体、および3量体(この3量体はイソシアヌレート環を含む。)等が挙げられる。
【0072】
ポリイソシアネート(b)としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、および、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が好ましい。これらの少なくとも1種を使用した場合、適度なウレタン結合による凝集力を付与することができ、充分な粘着特性が容易に得られる。
【0073】
ウレタンプレポリマー(A)の製造において、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基(イソシアナト基)に対する、ポリオール(a)の水酸基のモル比(NCO/OHの値)は、0.1以上であってよく、好ましくは0.15~0.9である。上記モル比(NCO/OHの値)が上記範囲内となるように、原料の配合比を調整することが好ましい。
NCO/OHの値が1に近づくと、ウレタンプレポリマー(A)の製造時にゲル化物または凝集物が生じやすくなる場合がある。そのため、NCO/OHの値を0.9以下に調整することによって、ウレタンプレポリマー(A)の製造時のゲル化を効果的に抑制することができる。NCO/OHの値を0.1以上に調整した場合、得られるウレタンプレポリマー(A)の分子量が高くなり、充分な粘着特性が得られる点で好ましい。
【0074】
ポリイソシアネート(b)の含有率は、高い粘着力を得るために、ウレタンプレポリマー(A)の全質量を基準として、0.3以上であってよく、0.5~30質量%が好ましい。
(触媒)
ポリオール(ax)、または水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の製造において、必要に応じて、1種以上の触媒を用いることができる。使用できる触媒として、例えば、3級アミン系化合物および有機金属系化合物等が挙げられる。
【0075】
3級アミン系化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、および1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7(DBU)等が挙げられる。
【0076】
有機金属系化合物としては、例えば、錫系化合物および非錫系化合物等が挙げられる。
錫系化合物としては、例えば、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルファイド、ジオクチル錫ジラウレート、トリブチル錫スルファイド、トリブチル錫オキシド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキサイド、トリブチル錫エトキサイド、ジオクチル錫オキシド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2-エチルオクチル酸錫、および2-エチルヘキサン酸錫、モノブチルスズオキシド等が挙げられる。
【0077】
非錫系化合物としては、例えば、ジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、およびブトキシチタニウムトリクロライド等のチタン系;オレイン酸鉛、2-エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、およびナフテン酸鉛等の鉛系;2-エチルヘキサン酸鉄および鉄アセチルアセトネート等の鉄系;安息香酸コバルトおよび2-エチルヘキサン酸コバルト等のコバルト系;ナフテン酸亜鉛および2-エチルヘキサン酸亜鉛等の亜鉛系;ナフテン酸ジルコニウム等のジルコニウム系;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、酢酸アルミニウム等のアルミニウム系が挙げられる。触媒の種類および添加量は、反応が良好に進む範囲で適宜調整することができる。
【0078】
触媒の使用量は、ポリオール(ax)またはウレタンプレポリマー(A)の構成成分の合計100質量部に対して、0.0001~1.0質量部であることが好ましい。上記使用量は、0.001~0.5質量部であることがより好ましく、0.005~0.1質量部であることがさらに好ましい。
【0079】
ポリオール(ax)またはウレタンプレポリマー(A)の製造時に触媒を用いる場合、上記触媒を不活性化させてもよい。特に、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の製造では、不活性化させた触媒を使用することが好ましい。反応停止剤として、例えば、アセチルアセトン、またはリン酸化合物等を配合することができる。反応停止剤は、1種のみを使用しても、または2種以上を組合せて使用してもよい。
【0080】
(溶剤)
ポリオール(ax)、ウレタンプレポリマー(A)の製造には、必要に応じて、1種以上の溶剤を用いることができる。使用できる溶剤として、例えば、アセトン、およびメチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、トルエン、およびキシレン等の炭化水素系溶剤、並びにジフェニルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。特に、ウレタンプレポリマー(A)の製造では、上記溶剤のなかでも、溶解性および溶剤の沸点等の点から、エステル系溶剤、および炭化水素系溶剤等が好ましい。一実施形態において、粘着剤は、ポリオール(ax)、ウレタンプレポリマー(A)の製造時に使用した溶剤を含んでいてもよい。
【0081】
[ウレタンプレポリマー(A)の製造方法]
ウレタンプレポリマー(A)の製造方法は、特に制限されない。ウレタンプレポリマー(A)は、例えば、塊状重合法および溶液重合法等の公知の重合方法によって製造することができる。製造方法の手順としては、例えば、以下が挙げられる。
(手順1)1種以上のポリイソシアネート(b)、ポリオール(a)、必要に応じて1種以上の触媒、および必要に応じて1種以上の溶剤を使用し、これらを一括してフラスコに仕込む手順。
(手順2)ポリオール(a)、必要に応じて1種以上の触媒、および必要に応じて1種以上の溶剤をフラスコに仕込み、これに1種以上のポリイソシアネート(b)を滴下添加する手順。
【0082】
これらの手順のなかでも、上記(手順2)が好ましい。上記(手順2)では、ポリオール(a)およびポリイソシアネート(b)の局所的な反応性の低下を抑制し、および過度な高分子量成分の反応を抑制することによって、分子量分散度を広くすることができる。
【0083】
反応温度は、触媒を使用する場合、100℃未満が好ましく、85~95℃がより好ましい。反応温度を100℃未満に調整した場合、ウレタン反応以外の副反応を抑制できるため、所望とするポリマーを容易に得ることができる。反応温度は、触媒を使用しない場合、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。
【0084】
(硬化剤)
本発明の一実施形態である粘着剤は、さらに硬化剤を含んでもよい。硬化剤の使用は、ポリマーの硬化性を向上できる点で好ましい。
硬化剤として、例えば、イソシアネート硬化剤(B)、エポキシ硬化剤、メラミン硬化剤、カルボジイミド硬化剤、オキサゾリン硬化剤、及びアジリジン硬化剤等を使用することができる。
一実施形態において、粘着剤は、イソシアネート硬化剤(B)を含むことが好ましい。イソシアネート硬化剤(B)の使用は、保持特性を更に向上させることができる点で好ましい。
【0085】
≪イソシアネート硬化剤(B)≫
イソシアネート硬化剤(B)としては、公知の化合物を使用できる。例えば、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の原料であるポリイソシアネート(b)として例示した化合物であってよい。具体的には、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、および、これらのトリメチロールプロパンアダクト体/ビウレット体/3量体を用いることができる。
【0086】
一実施形態において、粘着剤は、必要に応じて、さらにイソシアネート硬化剤(B)を含んでもよい。イソシアネート硬化剤(B)の含有量は、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、0.1~15質量部がより好ましい。イソシアネート硬化剤(B)の含有量を上記範囲内に調整した場合、より優れた保持特性を容易に得ることができる。
【0087】
≪粘着付与樹脂(C)≫
一実施形態において、粘着剤は、さらに粘着付与樹脂(C)を含んでもよい。粘着付与樹脂の使用は、より粘着特性を向上させることができる点で好ましい。
粘着付与樹脂(C)として、例えば、ロジン系樹脂、ポリテルペン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(油性フェノール樹脂)等を使用することができる。粘着付与樹脂は、ウレタンプレポリマー(A)との相溶性の点で、例えば、ロジン系樹脂、またはポリテルペン樹脂等の樹脂が好ましい。
【0088】
粘着付与樹脂(C)の含有量は、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、0.9~50質量部であり、0.9~30質量部がより好ましく、1~25質量部がよりさらに好ましい。
上記含有量を0.9質量部以上に調整した場合、粘着付与樹脂(C)の添加による効果によって、タック性を向上できる点で好ましい。また、上記含有量を50質量部以下に調整した場合、ウレタンプレポリマー(A)等のポリマー成分との良好な相溶性が得られる点で好ましい。そのため、粘着剤から形成されてなる粘着剤層の透明性を向上できる。
【0089】
(変質防止剤)
本発明の粘着剤は必要に応じて、1種以上の変質防止剤を含むことができる。これにより、粘着層の長期使用による各種特性の低下を抑制することができる。変質防止剤としては、耐加水分解剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、および光安定剤等が挙げられる。
【0090】
(耐加水分解剤)
湿熱環境下等において粘着層に加水分解反応が生じてカルボキシ基が生成した場合、このカルボキシ基を封鎖するために、耐加水分解剤を用いることができる。耐加水分解剤としては、カルボジイミド系、オキサゾリン系、およびエポキシ系等が挙げられる。中でも、加水分解抑制効果の観点から、カルボジイミド系が好ましい。
【0091】
≪カルボジイミド化合物(D)≫
カルボジイミド系耐加水分解剤は、1分子中に1つ以上のカルボジイミド基を有する化合物である。
モノカルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミドおよびN,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド等が挙げられる。
ポリカルボジイミド化合物は、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートを脱炭酸縮合反応させて生成することができる。ここで、ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1-メトキシフェニル-2,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、およびテトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。カルボジイミド化触媒としては、1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-エチル-3-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-エチル-2-ホスホレン-1-オキシド、およびこれらの3-ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等が挙げられる。ポリカルボジイミド化合物として、市販品を使用することもできる。例えば、日清紡ケミカル社製の「V-01」、「V-02B」、「V-03」、「V-04K」、「V-04PF」、「V-05」、「V-07」、「V-09」、「V-09GB」等が挙げられる。
【0092】
オキサゾリン系耐加水分解剤としては、例えば、2,2’-o-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4 -メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、および2,2’-ジフェニレンビス(2-オキサゾリン)等が挙げられる。
【0093】
エポキシ系耐加水分解剤としては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、およびポリアルキレングリコール等の脂肪族ジオールのジグリシジルエーテル;ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセロール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセロール、およびトリメチロールプロパン等の脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル;シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ポリオールのポリグリシジルエーテル;テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、アジピン酸、およびセバシン酸等の脂肪族または芳香族の多価カルボン酸のジグリシジルエステルまたはポリグリシジルエステル;レゾルシノール、ビス-(p-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス-(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、トリス-(p-ヒドロキシフェニル)メタン、および1,1,2,2-テトラキス(p-ヒドロキシフェニル)エタン等の多価フェノールのジグリシジルエーテルまたはポリグリシジルエーテル;N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、およびN,N,N',N'-テトラグリシジル-ビス-(p-アミノフェニル)メタン等のアミンのN-グリシジル誘導体;アミノフェノールのトリグリシジル誘導体;トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、およびトリグリシジルイソシアヌレート;オルソクレゾール型エポキシ樹脂およびフェノールノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0094】
耐加水分解剤の添加量は特に制限されず、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~4.5質量部、特に好ましくは0.5~3質量部である。
【0095】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、ラジカル捕捉剤および過酸化物分解剤等が挙げられる。ラジカル捕捉剤としては、フェノール系化合物およびアミン系化合物等が挙げられる。過酸化物分解剤としては、硫黄系化合物およびリン系化合物等が挙げられる。
【0096】
フェノール系化合物としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリン-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-,C7-C9側鎖アルキルエステル、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、およびトコフェロール等が挙げられる。
【0097】
硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、およびジステアリル3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0098】
リン系化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、および2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
【0099】
酸化防止剤を用いることで、ウレタンプレポリマー(A)の熱劣化を防ぐことができる。
酸化防止剤の添加量は特に制限されず、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部、特に好ましくは0.2~2質量部である。
【0100】
酸化防止剤としては、安定性と酸化防止効果の観点から、ラジカル捕捉剤であるフェノール系化合物を1種以上用いること好ましく、ラジカル捕捉剤である1種以上フェノール系化合物と過酸化物分解剤である1種以上リン系化合物とを併用することがより好ましい。また、酸化防止剤として、ラジカル捕捉剤であるフェノール系化合物と過酸化物分解剤であるリン系化合物とを併用し、これら酸化防止剤と前述の耐加水分解剤とを併用することが特に好ましい。
【0101】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、シアノアクリレート系化合物、およびトリアジン系化合物等が挙げられる。
紫外線吸収剤の添加量は、活性エネルギー線照射によるラジカル重合性単量体(MX)の重合の開始および進行が阻害されず、かつ、蛍光灯の光および太陽光等の環境光により容易にラジカル重合性単量体(MX)の反応が開始されない範囲内で、適宜設計することができる。ラジカル重合性単量体(MX)が紫外線硬化性である場合、紫外線吸収剤の添加量は、紫外線吸収剤の種類、および、粘着層に照射される紫外線の波長域と積算光量に応じて設計される。紫外線吸収剤の添加量は、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.1~2.5質量部、特に好ましくは0.2~2質量部である。
【0102】
(光安定剤)
光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物およびヒンダードピペリジン系化合物等が挙げられる。光安定剤の添加量は特に制限されず、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部、より好ましくは0.1~1.5質量部、特に好ましくは0.2~1質量部である。
【0103】
(レベリング剤)
本発明の粘着剤は必要に応じて、レベリング剤を含むことができる。レベリング剤を添加することで、粘着層のレベリング性を向上させることができる。レベリング剤としては、アクリル系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、およびシリコーン系レベリング剤等が挙げられる、粘着シート再剥離後の被着体汚染抑制の観点から、アクリル系レベリング剤等が好ましい。
【0104】
レベリング剤の添加量は特に制限されず、粘着シート再剥離後の被着体汚染抑制と粘着層のレベリング性向上の観点から、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.001~2質量部、より好ましくは0.01~1.5質量部、特に好ましくは0.1~1質量部である。
【0105】
(その他任意成分)
本発明の粘着剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の任意成分を含むことができる。他の任意成分としては、可塑剤、界面活性剤、触媒、ウレタン系樹脂以外の他の樹脂、帯電防止剤、剥離調整剤、充填剤(タルク、炭酸カルシウム、および酸化チタン等)、金属粉、着色剤(顔料等)、箔状物、軟化剤、導電剤、シランカップリング剤、潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、重合禁止剤、および消泡剤等が挙げられる。
【0106】
<2>粘着シート
本発明の他の実施形態は、粘着シートに関する。粘着シートは、基材の少なくとも一方の面に、上記実施形態の粘着剤から形成されてなる粘着剤層を有する。すなわち、粘着シートは、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層とを有し、粘着剤層は上記実施形態の粘着剤または粘着剤の硬化物から構成される。一実施形態において、基材と接していない粘着剤層の他方の面には、異物の付着を防止するために剥離シートを設けてよい。通常、粘着剤層は、使用する直前まで剥離シートによって保護される。
【0107】
基材は、柔軟なシートおよび板材であればよく、制限なく使用できる。基材は、プラスチック、紙、および金属箔、ならびにこれら1種以上の材料から構成される積層体等が挙げられる。
粘着剤層と接する基材の表面は、密着性向上のため、簡便な接着処理を適用してもよい。例えば、コロナ放電処理等の乾式処理、アンカーコート剤塗布等の湿式処理を適用することができる。
【0108】
一実施形態において、基材を構成するプラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびシクロオレフィンポリマー(COP)等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂;ナイロン66等のアミド系樹脂;ウレタン系樹脂(発泡体を含む)等が挙げられる。
一実施形態において、基材の原料となる樹脂は生分解性を有しているのが好ましく、例えば、
セルロース樹脂(日本製紙ケミカル社製溶解パルプ)、
ポリビニルアルコール樹脂(三菱ケミカル社製ニチゴーGポリマー)、
ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)樹脂(Dupon社製Apexa4026/6926)、
ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)樹脂(BASF社製エコフレックス)、
ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂(PTT MCC バイオケム社製BioPBS FZ71、FZ91、FZ78)、
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)樹脂(PTT MCC バイオケム社製BioPBS FD92)、
ポリ乳酸(PLA)樹脂(NaturteWorks社製3000~7000シリーズ)、
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)樹脂(PHB Industorial社製BIOCYCLE 1000)、
ポリ(4-ヒドロキシブチレート)(P4HB)樹脂(Tepha Medical Devices社製TephaFLEX)、
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHHx)樹脂(カネカ社製AONILEX)、
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート(PHBHV)樹脂(TianAn Biopolymer社製ENMAT Y1000)、
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)(PHBHB)樹脂(CJ CheilJedang社製Yield10)等の:ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂、
ポリカプロラクトン樹脂(ダイセル社製プラクセル H1P、H5C、H8C)、
酢酸セルロース(CA)樹脂(ダイセル社製L-シリーズ)等が挙げられる。
【0109】
上記基材の他に、生分解性を促進する脂肪酸金属塩を含む分解処理液で処理された樹脂を用いることもできる。例えば、市販品としてはピーライフ・ジャパン・インク社製
P-LIFE GREEN 20(PE樹脂、分解処理液 同社製SMC2360 20%含有)やP-LIFE GREEN 20(PP樹脂、分解処理液 同社製SMC2360 20%含有)等が挙げられる。
【0110】
上記樹脂用いて基材(シート)へ成形加工する方法は、押出機を用いてT ダイにて押出したシートをキャストロールで冷却固化する押出成形や、インフレーション成形機により成形する方法等が適している。
【0111】
基材の厚みは、一般的に10~300μmであってよい。基材としてポリウレタンシート(発泡体を含む)を使用する場合、基材(シート)の厚みは、一般的に20~50,000μmであってよい。基材として紙を使用することもできる。例えば、普通紙、コート紙、およびアート紙等が挙げられる。また、基材として金属箔を使用することもできる。金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、及び銅箔等が挙げられる。
剥離シートは、公知の構成を有する剥離シートであってよい。例えば、プラスチックまたは紙等のシート状の材料表面に、シリコーン系剥離剤等の公知の剥離処理を適用した剥離シートを使用できる。
【0112】
粘着シートの製造方法としては、例えば、基材の表面または両面に上記実施形態の粘着剤を塗工して塗工層を形成し、塗工層を乾燥して粘着剤層を形成する方法や、塗工層を乾燥および硬化して、粘着剤層を形成する方法が挙げられる。
加熱および乾燥温度は、一般的に60~150℃であってよい。粘着剤層の厚みは、一般的に0.1~200μmであってよい。
【0113】
塗布方法としては、公知の方法であってよく、例えば、ロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、およびグラビアコーター法等が挙げられる。
【0114】
また、上記方法とは別の方法として、剥離シートの表面に上記実施形態の粘着剤を塗工して塗工層を形成し、塗工層を乾燥して粘着剤層を形成し、最後に粘着剤層の露出面に基材を貼り合わる方法。または、剥離シートの表面に上記実施形態の粘着剤を塗工して塗工層を形成し、塗工層を乾燥および硬化して粘着剤層を形成し、最後に粘着剤層の露出面に基材を貼り合わる方法が挙げられる。この方法において、基材の代わりに剥離シートを粘着剤層に貼り合わせると、剥離シート/粘着剤層/剥離シートの構成を有するキャスト粘着シートが得られる。
【実施例0115】
以下、本発明の実施態様について実施例によって説明する。なお、本発明の実施態様が実施例に限定されないことはいうまでもない。以下に記載する「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
また、以下に記載する実施例および表に記載された原料(溶剤を除く)の配合量は、不揮発分換算の値である。
【0116】
さらに、以下に記載するMwおよびMnは、以下のようにして測定した値である。
[重量平均分子量(Mw)、および数平均分子量(Mn)の測定]
重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定した。測定条件は、以下のとおりである。なお、MwおよびMnはいずれも、ポリスチレン換算値である。
(測定条件)
装置:SHIMADZUProminence(島津製作所社製)
カラム:SHODEXLF-804(昭和電工社製)を3本直列に接続
検出器:示差屈折率検出器
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.5mL/分
溶媒温度:40℃
試料濃度:0.1%
試料注入量:100μL
【0117】
表1に示した材料は、以下のとおりである。
<ポリオール(ax)>
[単量体(ax’1)]
L-ラクチド
meso-ラクチド
【0118】
[単量体(ax’2)]
ε-カプロラクトン
δ-バレロラクトン
【0119】
[単量体(ax’3)]
F-510:クラレ社製クラレポリオールF-510、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/アジピン酸/トリメチロールプロパン、ポリエステルポリオール、Mn500、水酸基数3
P-1010:クラレ社製クラレポリオールP-1010、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/アジピン酸、ポリエステルポリオール、Mn1,000、水酸基数2
P-6010:クラレ社製クラレポリオールP-6010、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/アジピン酸、ポリエステルポリオール、Mn6,000、水酸基数2
HF-1300:伊藤製油社製URIC HF-1300、ヒマシ油ポリオール、Mn1,400、水酸基数2
2020E:住化バイエルウレタン社製デスモフェン2020E、ポリカーボネートポリオール、Mn2,000、水酸基数2
BD:1,4-ブタンジオール、Mn90、水酸基数2
【0120】
(ポリオール(ax-1)の製造例)
撹拌機、温度計、流出用冷却機を装備した反応缶内に、表1に示すように、L-ラクチドを35.0部、ε-カプロラクトンを15.0部、F-510を50.0部、および触媒としてモノブチルスズオキシド0.01部を仕込んだ。これら材料を、窒素雰囲気の常圧下で、2時間かけて155℃まで昇温させた後、6時間反応させ、留出する水を系外に除去し、重合反応を行った。
その後、10mmHgまで減圧しながら、残存する未反応の単量体を3時間かけて除去し、ポリオール(ax-1)を得た。このポリオール(ax-1)の数平均分子量(Mn)は、1,000であった。
【0121】
(ポリオール(ax-2~ax-17、X-1~X-3))
配合量(質量部)を表1に示すとおりに変更した以外は、ポリオール(ax-1)の製造と同様にして、それぞれポリオール(ax-2~ax-17、X-1~X-3)を得た。得られたポリオールの数平均分子量(Mn)を表1に示す。
【0122】
【0123】
表2に示した材料は、以下のとおりである。
<その他ポリオール(ay)>
PP-400:サンニックス PP-400、グリセリン/PO、ポリオキシプロピレングリコール、Mn400、水酸基数2、
F-1010:クラレ社製クラレポリオールF-1010、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/アジピン酸/トリメチロールプロパン、ポリエステルポリオール、Mn1000、水酸基数3
Placcel410:ダイセル社製Placcel410、ポリカプロラクトンポリオール、Mn1,010、水酸基数4
【0124】
<ポリイソシアネート(b)>
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
XDI:m-キシレンジイソシアネート
【0125】
(水酸基を有するウレタンプレポリマー(A-1)の製造例:合成例1)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコにポリオール(ax-1)100部、HDIを12.9部、触媒としてジオクチル錫ジラウレートを0.04部、およびトルエンを不揮発分が50%となる量で仕込んだ。これらの材料を100℃まで徐々に昇温して、5時間反応を行った。IRチャートのNCO特性吸収(2,270cm-1)が消失していることを確認した後に、25℃まで冷却し、アセチルアセトン0.8部を加え、反応を終了した。
このようにして得たウレタンプレポリマー(A-1)の重量平均分子量(Mw)は170,000、分子量分散度は6.7、高分子量成分の面積(PH)と低分子量成分の面積(PL)の比(PH/PL)は64/36であった。
【0126】
(ウレタンプレポリマー(A-2~A-20、AC-1~AC-4)の製造例:合成例2~23)
ウレタンプレポリマー(A-1)の材料および配合量(質量部)を表2に示すとおりに変更した以外は、ウレタンプレポリマー(A-1)の製造と同様し、不揮発分50%となるようにトルエンを調整して、それぞれウレタンプレポリマー(A-2~A-20、AC-1~AC-4)を得た。得られたウレタンプレポリマーの重量平均分子量(Mw)、分子量分散度、高分子量成分の面積(PH)と低分子量成分の面積(PL)の比(PH/PL)を表2に示す。
【0127】
(ウレタンプレポリマー(A-21)
ウレタンプレポリマー(A-1)40部、ウレタンプレポリマー(A-8)60部およびトルエンを不揮発分50%となるように配合し、ディスパーで撹拌して、ウレタンプレポリマー(A-21)を得た。
このようにして得たウレタンプレポリマー(A-21)の重量平均分子量(Mw)は70,000、分子量分散度は5.5、高分子量成分の面積と低分子量成分の面積の比(PH/PL)は63/37であった。
【0128】
なお、表2において、「NCO/OH」の値は、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を製造する際のポリイソシアネート(b)のイソシアネート基(NCO)と、ポリオール(ax)およびその他ポリオール(ay)の水酸基(OH)とのモル比(NCO/OH)である。
【0129】
【0130】
表3に示した材料は、以下のとおりである。
【0131】
<硬化剤>
[イソシアネート硬化剤(B)]
B-1:三井化学社製タケネートD-165N、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体
B-2:三井化学社製タケネートD-110N、キシレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体
B-3:三井化学社製タケネートD-204、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体
【0132】
<粘着付与樹脂(C)>
C-1:荒川化学社製スーパーエステルA-75、ロジン系樹脂
C-2:荒川化学社製ペンセルD-125、ロジン系樹脂
【0133】
<カルボジイミド化合物(D)>
D-1:N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、モノカルボジイミド化合物
D-2:日清紡社製カルボジライトV-03、ポリカルボジイミド化合物
【0134】
(粘着剤の製造例)
(実施例1)
ウレタンプレポリマー(A-1)を100部、粘着付与樹脂(C-1)を5.0部、および溶剤として酢酸エチルを不揮発分40%となるように配合し、ディスパーで撹拌して、粘着剤を得た。
【0135】
(粘着シートの製造例)
基材として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)(「ルミラーT-60」、東レ社製)を準備した。コンマコーター(登録商標)を用いて、上記基材上に、先に調製した粘着剤を塗工し、塗工層を形成した。塗工は、塗工速度3m/分、幅30cmで乾燥後厚みが25μmになるように実施した。次に、形成された塗工層を、乾燥オーブンを使用して100℃1分間の条件で乾燥して、粘着剤層を形成した。この粘着剤層の上に、厚さ38μmの市販の剥離シートを貼り合わせ、さらに23℃、50%RHの条件下で1週間養生を行うことによって、粘着シート1を得た。
【0136】
(実施例2~22、比較例1~4)
実施例1の材料および配合量(質量部)を表3に示すとおりに変更し、これ以外は実施例1と同様にして、それぞれ実施例2~22、比較例1~4の粘着剤および粘着シートを得た。
(実施例23~25)
下記記載の基材に変更する以外は、実施例9と同様にして、それぞれ実施例23~25の粘着剤および粘着シートを得た。
<生分解性基材>
PBS:ポリブチレンサクシネート「PTT MCC バイオケム社製BioPBS FZ71」
PLA:ポリ乳酸「(NaturteWorks社製4032D)
PHBHHx:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)「カネカ社製AONILEX」、
上記記載の樹脂を、30mmΦインフレーション押出機(東測精密工業社製)を用いて押出成形をし、生分解性基材( 厚さ50μm)を得た。
【0137】
(評価項目および評価方法)
粘着剤および粘着シートの評価項目および評価方法は、以下の通りである。結果を表3に示した。
【0138】
《粘着剤の評価》
<生分解度>
粘着剤の生分解性度を、JIS K 6953-1に準拠し、評価した。
評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A :生分解性度百分率60%以上。良。
B :生分解性度百分率40%以上60%未満。実用可。
C :生分解性度百分率40%未満。実用不可。
【0139】
《粘着シートの評価》
<粘着特性>
(タック性)
得られた粘着シートを幅25mm・長さ280mmの大きさに切り取り試料とした。次いで23℃-50%RH雰囲気下、FINAT-1991 FTM-9(Quick-stick tack measurementに準拠して、試料から剥離シートを剥がし、露出した粘着剤層を研磨したステンレス(SUS)板に貼着し、引張試験機にて剥離速度300mm/minの条件で剥離強度(N/25mm)を測定した。
評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A :粘着力が11N/25mm以上。非常に良好。
B :粘着力が8N/25mm以上、11N/25mm未満。より良好。
C :粘着力が5N/25mm以上、8N/25mm未満。良好。
D :粘着力が2N/25mm以上、5N/25mm未満。実用化。
E :粘着力が2N/25mm未満。実用不可。
【0140】
[保持力]
実施例および比較例で製造した粘着シート1から剥離シートを剥がし、露出した粘着剤層の部分(粘着シートの先端部、幅25mm、長さ25mm)を、研磨したステンレス(SUS)板に貼着し、2kgロールで1往復圧着した。その後、80℃の雰囲気で1kgの荷重をかけ、7万秒にわたって保持した。評価は、SUS板から試料が落下するか否かを判定した。試料が落下しなかった場合は、SUS板に対する粘着剤層の接着部(粘着シートの先端部)が、荷重によって下にずれたmm数を測定した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A :試料のずれが2mm未満。非常に良好。
B :試料のずれが2mm以上5mm未満で落下しなかった。より良好。
C :試料のずれが5mm以上10mm未満で落下しなかった。良好。
D :試料のずれが10mm以上で落下しなかった。実用可。
E :試料が落下した。実用不可。
【0141】
[透明性]
得られた粘着シートの粘着層の透明性を目視で確認した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A :粘着層は透明である。良好。
B :粘着層は微かに濁っている。実用化。
C :粘着層は白化している。実用不可。
【0142】
【0143】
表3の結果から、実施例で得られた粘着剤は、生分解度が高い粘着剤であっても、タック性、保持特性、透明性の全てに優れた結果を示した。