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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079964
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】皮膚再生を可能にする足場製剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/22 20060101AFI20240606BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240606BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240606BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A61L27/22
A61P17/00
A61P17/02
A61L27/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192714
(22)【出願日】2022-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) 発行日 2022年7月12日 刊行物 第31回日本形成外科学会基礎学術集会 プログラム抄録集 (その2) 開催日 2022年10月13日(開催期間:2022年10月13日~2022年10月14日) オンデマンド配信:2022年10月21日~2022年11月14日 集会名、開催場所 第31回日本形成外科学会基礎学術集会(現地開催及びWEB開催) 開催場所:岡山コンベンションセンター(岡山県岡山市北区駅元町14-1) (その3) ウェブサイトの掲載日 2022年11月29日 ウェブサイトのアドレス https://www.nature.com/articles/s41598-022-24957-1
(71)【出願人】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 純子
(72)【発明者】
【氏名】白井 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】小島 秀人
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB19
4C081CD151
4C081DA02
4C081DB03
(57)【要約】
【課題】皮膚組織再生剤及び皮膚組織再生用足場材を提供する。
【解決手段】ゼラチンスポンジを含む皮膚組織再生剤、及びゼラチンスポンジを含む皮膚組織再生用足場材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンスポンジを含む皮膚組織再生剤。
【請求項2】
軟部組織を伴う皮膚欠損の治療用である、請求項1に記載の再生剤。
【請求項3】
骨皮質露出創の治療用である、請求項1に記載の再生剤。
【請求項4】
前記骨皮質露出創が、骨膜が欠損した創である、請求項3に記載の再生剤。
【請求項5】
骨膜、軟部組織及び皮膚の層構造の再生用である、請求項1に記載の再生剤。
【請求項6】
ゼラチンスポンジを含む皮膚組織再生用足場材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚組織再生剤及び皮膚組織再生用足場材に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚及び軟部組織欠損を伴った骨皮質露出創は、外傷、悪性腫瘍広範囲切除後等にしばしば生じ、難治性である。骨皮質が露出しているため、容易に腐骨に移行して感染の可能性が高く、さらに敗血症等のリスクもあるため、遊離皮弁を用いた外科的治療の適応となる。しかし顕微鏡下での微小血管吻合を必要とする長時間手術、ドナー部位の犠牲、皮弁壊死のリスクを伴い、術者及び患者双方にとってストレスの大きい手術と言える。しかも皮弁が生着しても、皮弁周囲の瘢痕、ドナー部位の瘢痕には皮膚付属器は再生せず、知覚も無く温度調節もできず、ケロイド及び潰瘍に悩む患者も多い。
【0003】
キズを残さない治療(組織再生)は別名scarless wound healingとも言われるが、ヒトの場合は胎児の時のみ実現し、出生以降は皮膚全層以上の欠損創は全て瘢痕治療である。したがって、瘢痕がもたらす掻痒、感覚麻痺、潰瘍再発等の合併症は必須であり、出生以降のscarless wound healingは長年喫緊の課題であった。
【0004】
創の治療に足場材(scaffold)を用いることは代替的な治療法である。しかしながら、従来の足場材は、創傷治癒促進をうたうものの、治療ゴールは瘢痕治癒である。
【0005】
臨床現場において止血剤としてゼラチンスポンジが使用されている。このようなゼラチンスポンジの他の使用例として、特許文献1及び2、非特許文献1などに報告されている。
【0006】
特許文献1では、外耳道から挿入し、鼓室内から顔面神経に到達する位置に設けた顔面神経管開放部位に留置して、顔面神経麻痺を治療するための組成物であって、神経再生効果を有する物質を、生体吸収性高分子からなる担体に担持させた、顔面神経麻痺治療用組成物が報告されており、生体吸収性高分子からなる担体としてゼラチンスポンジが挙げられている。
【0007】
特許文献2では、塩基性線維芽細胞増殖因子、ゼラチンスポンジおよび被覆材料を組み合わせてなる、鼓膜または外耳道再生剤であって、使用時、該ゼラチンスポンジは該塩基性線維芽細胞増殖因子を担持した状態で再生部位に留置され、該被覆材料は該再生部位を外部と遮断する、剤が報告されている。
【0008】
非特許文献1では、ゼラチンスポンジの足場を使用した、鼓膜穿孔治療法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-176072号公報
【特許文献2】特許第5398712号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日耳鼻125: 933-939,2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、代表的には骨皮質が露出した深部組織欠損創に対する、皮膚組織再生剤及び皮膚組織再生用足場材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ラット頭部広範囲骨露出モデルにゼラチンスポンジ(以下、本明細書において「GS」と称することもある)を足場(スキャフォールド)として使用したところ、骨膜、軟部組織、皮膚の層構造の組織再生が可能であることを見出した。さらに、皮膚は層構造だけでなく毛包、末梢神経等の皮膚付属器の再生も可能であった。
【0013】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の皮膚組織再生剤及び皮膚組織再生用足場材を提供するものである。
【0014】
項1.ゼラチンスポンジを含む皮膚組織再生剤。
項2.軟部組織を伴う皮膚欠損の治療用である、項1に記載の再生剤。
項3.骨皮質露出創の治療用である、項1に記載の再生剤。
項4.前記骨皮質露出創が、骨膜が欠損した創である、項3に記載の再生剤。
項5.骨膜、軟部組織及び皮膚の層構造の再生用である、項1に記載の再生剤。
項6.ゼラチンスポンジを含む皮膚組織再生用足場材。
項7.軟部組織を伴う皮膚欠損の治療用である、項6に記載の足場材。
項8.骨皮質露出創の治療用である、項6に記載の足場材。
項9.前記骨皮質露出創が、骨膜が欠損した創である、項8に記載の足場材。
項10.骨膜、軟部組織及び皮膚の層構造の再生用である、項6に記載の足場材。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一番重症である皮膚、軟部組織及び骨膜までもが欠損した創において瘢痕ではなく組織再生をもたらすことができる。さらに、毛包、皮脂腺などの皮膚付属器を再生することが可能である。また、本発明の皮膚組織再生剤及び皮膚組織再生用足場材は、ドナーが不要であり、複雑な手術が不要であり手技的に容易である。
【0016】
本発明において使用するゼラチンスポンジは、既に臨床で止血剤として長年使用されているものであるから、安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ゼラチンスポンジにより露出した骨皮質を有する深い創における皮膚再生が可能となることを示す図である。(a-f)ゼラチンスポンジが投与されるか又は投与されなかった時の骨膜の欠損を有する/有しない皮膚/皮下欠損の外観を示す写真(0及び4週間後)、(g-l)骨膜欠損を有する深い創の4週間後のH&E染色像を示す写真、(m-p)創傷4週間後のPOSTIN、CD31及びSMAによる免疫蛍光染色画像、スケールバー:(a-f)5mm、(g、j)1mm、(h、i、k、l)100μm、(m-p)10μm、d:日、w:週、pw:創傷後、B:骨、g及びjの角括弧を有する創:最初に切除された領域、点線:先端の境界、破線:骨皮質の表面、POSTIN:ペリオスチン、SMA:平滑筋アクチン
図2】BMTラットモデルでの骨膜欠損を有する深い創におけるゼラチンスポンジによる組織再生を示す図である。(a)BMTラットの調製の概要、(b)ゼラチンスポンジ投与有又は無の各時点での深い創の外観、(c)ゼラチンスポンジ投与有又は無の創面積を示すグラフ、(d-t)ゼラチンスポンジ投与有又は無の創のH&E染色像を示す写真、スケールバー:(b)5mm、(d、g、j、m、p、r)1mm、(e、f、h、i、k、l、n、o、q、s、t)100μm、B:骨皮質、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.005
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明の皮膚組織再生剤及び皮膚組織再生用足場材は、ゼラチンスポンジを含むことを特徴とする(以下、「本発明の再生剤及び足場材」と称することもある)。
【0020】
ゼラチンスポンジは、ゼラチンを、多孔性の構造に加工したものである。ゼラチンスポンジの原料となるゼラチンの種類は特に制限されず、通常入手できるものであればよい。例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ、サケ等の骨、じん帯、腱、皮膚を酸又はアルカリで処理して得た粗コラーゲンを、水で加熱抽出したものなどが挙げられる。ゼラチンは、一種類単独で使用してもよく、原料、及び溶解性、分子量、等電点等の物性の異なるものを適宜混合して使用してもよい。
【0021】
ゼラチンスポンジは、耐水性を高めるために架橋されていてもよい。架橋方法は特に限定されず、例えば、架橋剤を用いる方法、γ線照射法、紫外線照射法、電子線照射法、X線照射法、真空熱脱水法、乾熱法などが挙げられる。
【0022】
ゼラチンスポンジは、多数の微細小孔を有しコラーゲンと比較して自由度が高いものである。多数の微細小孔を有することにより、足場素材として用いる場合に、周辺の細胞が容易にスポンジ内部に進入することができ、良好な皮膚組織再生が可能となる。
【0023】
ゼラチンスポンジの微細小孔の平均孔径は、スポンジ内部へ細胞が容易に進入して良好な細胞接着性が得られることなどを考慮すると、約10~約500μmであることが好ましく、約100~約400μmがより好ましい。
【0024】
ゼラチンスポンジは、公知の方法(例えば、国際公開第2009/157558号に記載の方法)により製造することができる。具体的には、(I)ゼラチンを加温した水に溶解させ、45℃以上に保ったまま孔径0.2μmのフィルターを用いて濾過する、(II)得られたゼラチン水溶液を、ホモジナイザー等を用いて激しく撹拌して発泡させる、(III)発泡させたゼラチン水溶液を公知の方法にて直ちに凍結乾燥する、(IV)得られた凍結乾燥物を所望の厚さのシート状に切断する、などの工程により、製造することができる。また、上記工程に加え、(V)得られたシートを加熱してさらにゼラチンを熱架橋させる工程を加えてもよい。この工程により、得られたゼラチンスポンジの強度を増強させることができる。なお、ゼラチン水溶液におけるゼラチン濃度は、所望の物性となるように、適宜調整することができる。具体的には、吸水試験における吸水量(水で浸潤後の質量を浸潤前の質量で除した値)が、約40~50倍となるように調整すればよく、例えば、5.5~6.5質量%が挙げられる。
【0025】
ゼラチンスポンジとして、止血剤として市販されているもの、例えば、スポンゼル(登録商標)(アステラス製薬株式会社、LTLファーマ株式会社)、ゼルフォーム(登録商標)(ファイザー)等を使用することができる。
【0026】
ゼラチンスポンジの形状及びサイズは、患者の皮膚の欠損部位を覆うに十分な大きさであればよく、特に制限されない。
【0027】
本発明の再生剤及び足場材は、その機能に悪影響を及ぼさない限り、ゼラチンスポンジ以外の他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、合成ペプチドや感染予防目的でのバクテリオファージ等が挙げられる。
【0028】
本発明の再生剤及び足場材におけるゼラチンスポンジの含量は、例えば、本発明の再生剤及び足場材全量中0.001~100質量%であり得る。当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.01質量%、0.1質量%、1質量%、5質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%、95質量%、99質量%、99.9質量%である。
【0029】
本発明の再生剤及び足場材を滅菌して使用する場合の滅菌方法としては、特に制限されず、適用可能な公知な方法を適宜使用することができ、例えば、高圧蒸気滅菌、ろ過滅菌、乾熱滅菌、電子線(EB)滅菌、ガンマ線滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、過酸化水素ガス滅菌などが挙げられる。
【0030】
本発明の再生剤及び足場材は、皮膚の損傷部位に直接留置して、用いることができる。本発明の再生剤及び足場材を皮膚の損傷部位に留置した後は、固定のために周囲の組織と縫合したり、上からテープで圧迫するなどの処置を行うことにより、ゼラチンスポンジを固定することができる。
【0031】
本発明の再生剤及び足場材は、外傷、悪性腫瘍広範囲切除後などによる皮膚欠損の治療に用いることができ、軟部組織を伴う皮膚欠損の治療に好適に使用することができ、骨皮質露出創の治療に特に好適に使用することができる。ここでの、骨皮質露出創とは、特に骨膜が欠損した創を意味するものとして使用される。従来は、骨膜が欠損している創は、皮膚を再生させる方法が存在しなかった。しかしながら、本発明の再生剤及び足場材を使用することにより、骨膜が欠損し骨皮質が露出しているような創であっても、皮膚の層構造を保って再生することが可能である。そのため、本発明の再生剤及び足場材は、骨膜、軟部組織及び皮膚の層構造の再生のために使用することができる。
【0032】
本発明の再生剤及び足場材の適用対象は、外傷、悪性腫瘍広範囲切除後などによる皮膚欠損を有する患者であり、軟部組織を伴う皮膚欠損を有する患者に好適に使用でき、骨皮質露出創(中でも骨膜が欠損した創)を有する患者に特に好適に使用することができる。
【0033】
本発明の再生剤及び足場材は、ヒト、サル、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタを含む哺乳動物に対して投与され、特にヒトに対して投与される。
【0034】
本発明の再生剤及び足場材の投与量は、患者の皮膚の欠損部位の大きさを考慮して適宜設定され、例えば、一辺の長さが1~5cm程度の四角形とすることができる。
【0035】
本発明の再生剤及び足場材によれば、一番重症である皮膚、軟部組織及び骨膜までもが欠損した骨露出創において瘢痕ではなく組織再生をもたらすことができる。すなわち、本発明によれば創を残さない治療scarless wound healingが可能である。さらに、毛包、皮脂腺などの皮膚付属器を再生することが可能である。皮膚付属器がない場合、汗もかかない、毛包も生えない、脂腺もないので皮膚乾燥が生じ掻痒を伴う。また、本発明の再生剤及び足場材は、ドナーが不要であり、複雑な手術が不要であり手技的に容易である。このように本発明は、侵襲度が低く、長時間手術、長期間入院が不要である。
【0036】
本発明において使用するゼラチンスポンジは、既に臨床で止血剤として長年使用されているものであるから、安全性が高い。したがって、リポジショニングであり、臨床応用へのプロセスは比較的容易である。
【0037】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of.”)。また、本発明は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0038】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0039】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0040】
方法
<動物>
野生型スプラーグ・ドリー(SD)ラット及びSD-Tg(CAG-EGFP)CZ-004Osb(GFP)ラット(日本エスエルシー株式会社)が、本研究で使用された。GFPラットはSDラットと交配させ、その子孫が骨髄移植(BMT)のドナーとして使用された。7週齢の雄の野生型SDラット(日本エスエルシー株式会社)がレシピエントとして使用された。実験期間中、ラットは水とCLEA Rodent Diet CE-2(日本クレア株式会社)に自由にアクセスできるようにした。本研究は滋賀医科大学動物実験倫理委員会から承認を受け、滋賀医科大学動物実験ガイドライン及び動物の愛護及び管理に関する法律に従って実施した。
【0041】
<骨髄移植(BMT)>
レシピエントラットにX線源(富士フイルムヘルスケア株式会社)から9Gy全身照射した。遺伝子組換えドナーラットの大腿骨、脛骨及び上腕骨から、リン酸緩衝液(PBS)を流して骨髄を採取した、X線照射6時間後、骨髄由来細胞(BMDC)1.0×10をレシピエントラットの尾静脈に注射した。骨髄移植4週間後、レシピエントラット由来の末梢白血球をフローサイトメトリー(FACScant II,Becton Dickison)によってGFP発現を分析し、血液細胞の88%以上がドナー由来に置き換わっていることを確認した。
【0042】
<骨膜欠損を有する深い創の動物モデル>
メデトミジン塩酸塩(0.15mg/kg)、ミダゾラム(2mg/kg)、及びブトルファノール酒石酸塩(2.5mg/kg)の腹腔内注射と組み合わせた2%イソフルランの全身麻酔下で、骨膜を有する又は有さない全層皮膚の10mm×10mm(100mm)の正方形の欠損を野生型又はBMTラットの頭蓋冠に作製した。ゼラチンスポンジ(LTLファーマ株式会社)を一方の群の創に投与し、他方の群は創を開いたままにした。創が無い動物を対照として使用した。創は、0、2、4及び6週間後に写真を撮り、創の面積をImageJ software(National Institutes of Health)を使用して測定した。各群で3匹のラットを調製し、実験は2回繰り返した。
【0043】
<組織構造及び免疫組織化学>
放血し、0.1M PBS中の4%PFAを使用した経心腔的灌流後に、4℃で24時間10%EDTAを使用して頭蓋冠を脱灰した。ヘマトキシリンエオジン剤での染色のために、クリオスタットを使用して7μm厚に、頭蓋冠の切片を調製した。免疫組織化学のため、切片を5%正常ヤギ血清で25℃で1時間処理し、1次抗体を使用し4℃オーバーナイトでインキュベートした後、2次抗体を使用し25℃2時間インキュベートした。使用した1次抗体は次の通りである。anti-smooth actin(1:200,ab5694,Abcam)、anti-CD31(1:50,ab281583,Abcam)、及びanti-POSTN(1:200,ab215199,Abcam)
使用した2次抗体はGoat anti-rabbit Alexa 555 (1:400,A27039,Thermo Fisher Scientific)である。
【0044】
免疫蛍光のための切片は、4’-6-ジアミジノ-2-フェニルリンドール(DAPI)(Vector Laboratories)を使用してVector Shieldで封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Leica TCS SP8,Leica Microsystems)を使用して撮影した。
【0045】
<統計解析>
2群間の差を解析するためにt検定を使用してデータを評価した。データは平均±SEで表す。P<0.05を有意であると考えた。
【0046】
結果
骨膜欠損を有するか又は有しない、皮膚及び皮下組織欠損のラットを使用したモデルにおいて、創傷治癒の過程を比較した。まず、骨膜欠損を有しない深い創をラットの頭蓋冠に作製した(図1a)。創は1つの群では開いたままにし、他の群では創にゼラチンスポンジを投与した(図1b、c)。その結果、創は4週間後にゼラチンスポンジの投与に関わらずわずかな毛包を有して回復した。
【0047】
次に、骨膜の切除を含む同じ創を、ラットの頭蓋冠に作製した(図1d)。創は1つの群では開いたままにし(GS(-))、他の群では創にゼラチンスポンジを投与した(GS(+))。4週間後に、GS(-)ラットでは痂皮で覆われ、一方でゼラチンスポンジの投与によって骨膜を有する創と同様に創が治癒した(図1b、c、e、f)。H&E染色により、骨髄炎による骨溶解のために骨欠損が中央部で観察され(図1g、角括弧)、GS(+)ラットよりGS(-)ラットでは骨皮質が菲薄化していること(図1g、j、破線)が示された。高倍率表示では、GS(-)ラットでは骨に隣接して免疫細胞と細胞破片が存在し、多核細胞、おそらく破骨細胞が骨皮質に浸潤したことを明らかにした(図1h、i、矢頭)。反対に、GS(+)ラットでは、創の中央の骨の厚さは周りの骨と同等であり(図1j、角括弧)、驚くべきことに露出した骨が膜質の組織で覆われていた(図1k、矢頭)。加えて、毛包が創で観察された(図1l、矢頭)。GS(+)ラットで4週間後に骨皮質を覆っている膜質組織が、骨膜で選択的に発現しているペリオスチン陽性であり、GS(-)ラットの創の骨では存在しないことを発見した(図1m、n)。次に、血管形成が骨膜欠損を有する深い創に形成された皮膚で生じるかを調査した。その結果、CD31及び平滑筋アクチン(SMA)陽性の血管構造が4週間後のGS(+)ラットの新しい真皮で観察されたが、GS(-)ラットでは観察されなかった(図1o、p)。特に、CD31陽性細胞はSMA陽性細胞で囲まれており、CD31は内皮細胞マーカーであり、SMAは血管平滑筋細胞で発現していることを考慮すると、観察された血管はGS(+)ラットで機能していると考えられる。
【0048】
9Gy放射線照射後にGFPラットから同種の骨髄細胞を移植し、続いて骨膜の切除を含む深い創を作製し、それらを2群、すなわちGS(-)及びGS(+)ラットに分けた(図2a)。GS(+)BMTラットにおいて図1と同様の経過が観察され、GS(-)ラットでは6週間後にかさぶたが残っていた(図2b)。創の面積の経時的分析は、GS(-)BMTラットと比べてGS(+)BMTラットで有意に創の面積が減少していたことが示された(図2c)。H&E染色は、2週間後の低倍率像においてGS(-)BMTラットとGS(+)BMTラットの間で、ゼラチンスポンジの分解がGS(+)BMTラットで既に始まっていることを除いて大きな違いを示さなかった(図2d、g)。しかし、高倍率像は、2週間後にGS(-)BMTラットで、露出した骨皮質の中心で骨溶解が既に発症しており、創の端で破骨様細胞の骨皮質への浸潤が観察されたことを明らかにした(図2e、f)。逆に、2週間後のGS(+)BMTラットでは、創の端で骨皮質への細胞浸潤が観察されなかっただけでなく、細胞によって囲まれた多くの空洞が観察された(図2h、i)。4週間後では、図1g-lで示されるのと同様の像が得られており、これはBMTラットが通常の創傷治癒を再現していることを示す(図2j-o)。6週間後に、GS(-)BMTラットにおいて骨皮質上で線維組織が観察され、驚くべきことに、GS(+)BMTラットにおいて創の中心で新たな毛包/皮脂腺を有する層状の皮膚が再構成された(図2p-s)。その上、骨皮質上での細胞の蓄積は骨膜の再生を示唆した(図2t)。
図1
図2