(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079972
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】差圧ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
F24F 11/72 20180101AFI20240606BHJP
F24F 7/10 20060101ALI20240606BHJP
F24F 13/14 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
F24F11/72
F24F7/10 Z
F24F13/14 D
F24F13/14 H
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192735
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】594187253
【氏名又は名称】岡谷精立工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079980
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 伸行
(74)【代理人】
【識別番号】100167139
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】川喜多 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀江 信吾
【テーマコード(参考)】
3L081
3L260
【Fターム(参考)】
3L081AA03
3L081AB05
3L081FC03
3L081HA01
3L081HA02
3L081HA09
3L260AA06
3L260AA16
3L260BA01
3L260CA14
3L260CB61
3L260EA07
3L260EA08
3L260FA01
3L260FC07
3L260FC32
(57)【要約】
【課題】 部屋間の差圧の乱れを素早く調整する差圧ダンパ装置を提供することである。
【解決手段】 本発明の差圧ダンパ装置は、支持体と、一端が前記支持体に取り付けられる軸体と、前記両空間の連通を閉塞可能にする大きさの略板状体で形成された羽根体であって、前記軸体に取り付けられた羽根体と、前記軸体を該軸体の円周方向に作動させる電動モータと、前記圧力差又は室圧に関する設定値を記憶する記憶部と、前記圧力差及び/又は室圧を検出する検出部と、前記記憶部に記憶された設定値及び前記検出部により検出された圧力差及び/又は室圧に関する検出値に基づき前記電動モータを作動させる制御部とを備える。前記軸体と前記羽根体は回転可能に取り付けることができる。更に、この回転を暫定的に規制する回転規制手段を設けることもできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う二つの空間を隔てる壁に配設され、一方の空間の他方の空間に対する圧力差及び/又は一方の空間の室圧が一定の設定値以下の場合には両空間を非連通とする閉塞状態にする一方、前記圧力差及び/又は一方の空間の室圧が一定の設定値を超える場合には開放状態となって両空間を連通させ、前記一方の空間から他方の空間への気体の移動を許容する差圧ダンパ装置であって、
支持体と、
一端が前記支持体に取り付けられる軸体と、
前記両空間の連通を閉塞可能にする大きさの略板状体で形成された羽根体であって、前記軸体に取り付けられた羽根体と、
前記軸体を該軸体の円周方向に作動させる電動モータと、
前記圧力差又は室圧に関する設定値を記憶する記憶部と、
前記圧力差及び/又は室圧を検出する検出部と、
前記記憶部に記憶された設定値及び前記検出部により検出された圧力差及び/又は室圧に関する検出値に基づき前記電動モータを作動させる制御部と、
を備えることを特徴とする差圧ダンパ装置。
【請求項2】
前記羽根体が前記軸体に対して回転可能に取り付けられ、前記羽根体の自重を超える室圧になると、前記羽根体が前記軸体に対して回転することにより前記閉塞状態又は開放状態を生じさせて前記圧力差が調整される請求項1に記載の差圧ダンパ装置。
【請求項3】
前記羽根体がヒンジによって前記軸体に取り付けられることにより該軸体に対して回転可能とされる請求項2に記載の差圧ダンパ装置。
【請求項4】
前記羽根体と前記軸体を暫定的に固定し、前記羽根体に対して気体の流れによる所定の負荷がかかるまで前記羽根体の前記軸体に対する回転を規制する回転規制手段を備えた請求項2又は3に記載の差圧ダンパ装置。
【請求項5】
前記回転規制手段が磁性体により構成される請求項4に記載の差圧ダンパ装置。
【請求項6】
前記回転規制手段の大きさ、位置、個数、磁力の少なくとも一つを調整及び/又は変更することにより前記負荷が調整及び/又は変更可能である請求項5に記載の差圧ダンパ装置。
【請求項7】
前記検出部によって検出された圧力差及び/又は室圧の検出値がリアルタイムで表示される圧力表示部を備える請求項1に記載の差圧ダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの空間を隔てる壁に配設され、両空間の圧力差を所定範囲に抑える差圧ダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クリーンルーム、食品・健康食品の清潔区域、病院・調剤薬局の清潔区域などにおいて、空気調和設備の一つとして差圧ダンパが用いられている。差圧ダンパは、二つの空間を仕切る壁等に配設され、一方の空間内の気体圧力が設定値を超えて他方の空間より高くなった場合に、圧力差に基づいて開放状態となり、相対圧力の高い気体を一方の空間から他方の空間へ流出させて圧力差を緩和し、一方の空間の圧力をほぼ一定に維持すると共に他方の空間からの気体の逆流を防ぐというものである。差圧ダンパは開口扉(羽根体)を有し、これが開閉して室圧差を調整する。開口扉の開き具合の調整は、開口扉に装着された重りにより行われる。
【0003】
差圧ダンパは、用途や問題に応じて様々なものが提案されている。例えば 特許文献1(特開2022-157580)においては、医薬品製造工場、再生医療等製品工場、再生医療の研究施設等おける複数室の室圧の室間差圧を保持するための室圧制御システムが提案されている。これは、異なる室圧に設定した複数の室4,5,6において、各室4,5,6に接続された還気枝ダクト34,35,36を圧力調整ダクト41で接続し、当該圧力調整ダクト41のチャンバ内に差圧ダンパを設け、これにより目標室圧の最も高い室から低い対象室へと室圧を制御するというシステムである。ダンパには通常の差圧ダンパが用いられる(段落0008、
図2参照)。
【0004】
特許文献2(特開2017-161117)においては、簡便に差圧を保持することができ、かつ、追従性に優れた差圧保持システムが提案されている。これは、部屋間の差圧を計測する差圧計20により計測された計測差圧と、予め設定された設定差圧とを比較し、抵抗部材(通風抵抗発生装置)11を制御するものであり、差圧ダンパ(差圧保持ダンパ)10は一般的な構成のものが用いられる(
図2参照)。
【0005】
更に、特許文献3(特開2002-61943)においては、給排気量を調整することによる差圧制御と、差圧保持ダンパによる差圧制御とを併用した場合に、差圧変動を最小限に抑える制御性の高い室圧制御システム及びその室圧制御システムに使用される差圧保持ダンパが提案されている。これは、差圧保持ダンパ20が、差圧を一定に保持することができる制御可能な範囲内で常時作動するように、差圧保持ダンパ20に設けられたセンサ26によって検出されるフロート部材25の高さ位置に基づいて、クリーンルームCRへの給気量を変動させるように構成されたものである(
図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-157580
【特許文献2】特開2017-161117
【特許文献3】特開2002-61943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献の発明はいずれも差圧を効率的に保持するものであるが、特定のシステムを導入する必要がある。また、これらの発明においては、差圧ダンパ自体は通常のものが用いられるか、あるいはそのシステムに合致したものが用いられる。
【0008】
しかしながら、システムの導入や変更には大掛かりな設備工事が必要となり、ユーザーにとって必ずしも容易に行えるものではない。
【0009】
また、通常(従来)の差圧ダンパには次のような問題がある。まず、従来の差圧ダンパは、室内への給気量が変化し低風量になると変化に対応できないことがある。例えば陽圧を保つ必要がある室内(天井など)に設置された給気ファンのフィルターが目詰まりしてくると、室内への給気量が長期的に徐々に減少する。このような場合、従来の差圧ダンパは、仕様範囲外の風量になると制御範囲を超え、室圧を一定にすることが不可能となり、ハンチング動作(開閉を繰り返す)が発生し室圧が乱れる事もある。そのため、定期的な圧力測定や、フィルターが目詰まりしていないかの定期的な確認が必要となっていた。
【0010】
更に、クリーンルームその他上記のように室圧が差圧ダンパにより調整されている部屋において、部屋のドアが一旦開けられると、ドアにより通じる部屋間の差圧が0pa(0パスカル)になる。その後ドアが閉じられると、一度低下した室圧が上がるが、この時に風量によってはハンチング状態になり、室圧が安定するまでに時間がかかり、室圧が乱れる時間が長期化することがある。
【0011】
加えて、差圧ダンパが設置されている部屋の隣にも差圧ダンパが設置されているような連なった部屋の場合、1つ目の部屋の室圧設定をおもり或いはばね等で調整し、次に隣の部屋の室圧をおもり或いはばねで調整すると、2つ目の部屋から出ていく空気量が変わるので、1つ目の部屋の室圧が変化する。全ての差圧を調整するにはこれを繰り返すことになるので、部屋数が多いほど調整は非常に困難になる。
【0012】
一方、部屋のドアが開けられた場合は、上記のとおり部屋間の差圧が0pa(0パスカル)になるため、室圧を直ちに上げる必要がある。
【0013】
また、部屋間の差圧は、上記及び上記以外の諸事情により微妙に変動し得る。
【0014】
これらの点を両立させ、各状況に応じて部屋間の差圧の乱れを素早く調整する差圧ダンパはこれまで提案されていない。
【0015】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、部屋の天井等に設置されたフィルターを定期的に監視、確認等することなく、かつ、部屋間の差圧の乱れを素早く調整する差圧ダンパ装置を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は、
第1の側面として、
隣り合う二つの空間を隔てる壁に配設され、一方の空間の他方の空間に対する圧力差及び/又は一方の空間の室圧が一定の設定値以下の場合には両空間を非連通とする閉塞状態にする一方、前記圧力差及び/又は一方の空間の室圧が一定の設定値を超える場合には開放状態となって両空間を連通させ、前記一方の空間から他方の空間への気体の移動を許容する差圧ダンパ装置であって、
支持体と、
一端が前記支持体に取り付けられる軸体と、
前記両空間の連通を閉塞可能にする大きさの略板状体で形成された羽根体であって、前記軸体に取り付けられた羽根体と、
前記軸体を該軸体の円周方向に作動させる電動モータと、
室圧に関する設定値を記憶する記憶部と、
前記圧力差及び/又は室圧を検出する検出部と、
前記記憶部に記憶された設定値及び前記検出部により検出された圧力差及び/又は室圧に関する検出値に基づき前記電動モータを作動させる制御部と、
を備えることを特徴とする差圧ダンパ装置
を提供する。
【0017】
第2の側面として、本発明は、
前記羽根体が前記軸体に対して回転可能に取り付けられ、羽根体の自重を超える室圧になると、前記羽根体が前記軸体に対して回転することにより前記閉塞状態又は開放状態を生じさせて前記圧力差が調整される上述の差圧ダンパ装置
を提供する。
【0018】
第3の側面として、本発明は、
前記羽根体がヒンジによって前記軸体に取り付けられることにより該軸体に対して回転可能とされる上述の差圧ダンパ装置
を提供する。
【0019】
第4の側面として、本発明は、
前記羽根体と前記軸体を暫定的に固定し、前記羽根体に対して気体の流れによる所定の負荷がかかるまで前記羽根体の前記軸体に対する回転を規制する回転規制手段を備えた上述の差圧ダンパ装置
を提供する。
【0020】
第5の側面として、本発明は、
前記回転規制手段が磁性体により構成される上述の差圧ダンパ装置
を提供する。
【0021】
第6の側面として、本発明は、
前記回転規制手段の大きさ、位置、個数、磁力の少なくとも一つを調整及び/又は変更することにより前記負荷が調整及び/又は変更可能である上述の差圧ダンパ装置
を提供する。
【0022】
第7の側面として、本発明は、
前記検出部によって検出された圧力差及び/又は室圧の検出値がリアルタイムで表示される圧力表示部を備える上述の差圧ダンパ装置
を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、室圧が上がった場合、室圧が下がった場合のいずれにおいても、部屋間の差圧の乱れを素早く調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置を示す図である。
【
図5】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置の一部を示す図である。
【
図6】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置の一部を示す図である。
【
図7】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置の一部を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置の一部を示す図である。
【
図9】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置の一部を示す図である。
【
図10】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置を用いた実験の実験室を示す図である。
【
図11】実験における確認結果を示すグラフである。
【
図12】実験における確認結果を示すグラフである。
【
図13】実験における確認結果を示すグラフである。
【
図14】実験における確認結果を示すグラフである。
【
図15】本発明の一実施例における差圧ダンパ装置を示す図である。
【
図16】本発明の差圧ダンパ装置における回転規制手段を示す図である。
【
図17】従来の一般的な差圧ダンパを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施例を、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0026】
図1~
図4に本発明に係る差圧ダンパ装置の一例を示す。
図1は差圧ダンパ装置(1)を一方向から示したものである。
図2は、同じ差圧ダンパ装置(1)を、
図1と同じ方向から内部の構造が分かるように示した図である。
図3は、同じ差圧ダンパ装置(1)を、
図1及び
図2とは異なる方向(側面)から示したものである。
図4は、同じ差圧ダンパ装置(1)を、
図3と同じ方向から内部の構造が分かるように示した図である。
【0027】
図5~
図9においては、説明のため
図1等に示される差圧ダンパ装置(1)の一部が、それぞれ別の方向から示されている。なお
図1~
図9は実施例1及び2を説明するために用いる(実施例1で説明する構成のほか実施例2で説明する部材、機構等も示されている)。
【0028】
本発明に係る差圧ダンパ装置(1)は、隣り合う二つの空間を隔てる壁に配設される。そして、一方の空間の他方の空間に対する圧力差が一定の設定値以下の場合には、両空間を非連通とする閉塞状態にし、前記圧力差が一定の設定値を超える場合には開放状態となって両空間を連通させ、前記一方の空間から他方の空間への気体の移動を許容する。あるいはその逆の動作をする。
【0029】
(実施例1)
本実施例の差圧ダンパ装置(1)は、支持体(2)と、軸体(3)と、羽根体(4)と、電動モータ(5)と、記憶部(12)と、検出部(6)と、制御部(7)を有する。
【0030】
支持体(2)は、差圧ダンパ装置(1)の枠組みを形成するものであり、他のいくつかの部材が取り付けられる。
【0031】
軸体(3)は、後述の羽根体(4)を回動し開閉するための軸である。軸体(3)の一端が支持体(2)に取り付けられる。軸体は、羽根体(4)と係合して羽根体(4)を開きやすくするため図示されているように角軸とするのが好適であるが、必ずしも角軸に限られない。
【0032】
羽根体(4)は、空間(部屋)と空間(部屋)の連通を閉塞可能にする大きさの略板状体で形成される。羽根体(4)は軸体(3)に取り付けられる。
【0033】
電動モータ(5)は、軸体(3)を、この軸体の円周方向に作動(回転)させるものである。この実施例においては、電動モータ(5)は図に示されるように支持体(2)に取り付けられている。
【0034】
記憶部(12)は、室圧に関する設定値(例えば10Pa(パスカル))を記憶する。部屋間の差圧を記憶するように構成してもよい。
【0035】
検出部(6)すなわちセンサは、室圧や、一方の空間(部屋)の他方の空間(部屋)に対する圧力差を検出する。
【0036】
制御部(7)は、電動モータ(5)、記憶部(12)及び検出部(6)と電気的に接続し、電動モータの作動を制御する。なお、記憶部(12)、制御部(7)はそれぞれ公知のメモリー、プロセッサーを用いることができ、同一の基板上に設置することができる。
【0037】
制御部(7)は、記憶部(12)に記憶された設定値を基準としつつ、検出部(6)により検出された圧力差に応じ、電動モータ(5)を稼働し、軸体(3)(及びこれと結合している羽根体(4))を、軸体(3)の円周方向に作動させる。
【0038】
室圧に関する設定値を入力して記憶部(12)に記憶させ差圧の制御が開始されると、羽根体(4)の開度が設定値を基準として自動で調整される。例えば、給気のある部屋に本発明の差圧ダンパ装置(1)を設置する場合、検出部(6)により検出された現在の室圧の検出値が5Pa、設定値が10Paとすると、設定値に対して室圧が低いため、制御部(7)により電動モータ(5)が作動され羽根体(4)を閉塞方向に動作させる。羽根体(4)が閉塞方向に動作することで部屋から排気される風量が少なくなるため、室圧が上昇する。設定値と室圧の検出値が同等になると、制御部(7)が電動モータ(5)を停止させ、室圧を一定にさせる。
【0039】
また、例えば本発明の差圧ダンパ装置(1)が開いた状態でこれが設置されている部屋のドアが開けられた場合、部屋間の差圧が下がり、検出部(6)がこれを検出する。この検出結果を制御部(7)が感知すると、電動モータ(5)を稼働し、軸体(3)(及びこれと結合している羽根体(4))を回転させて羽根体(4)により直ちにかつ強制的に両空間(部屋間)の連通部分を閉じる(全閉する)。
【0040】
図7において羽根体(4)が閉じた状態の例が示され、
図8において電動モータ(5)が作動して羽根体(4)が開いた状態の例が示されている。
【0041】
電動モータ(5)により軸体(3)を回転させる速度は任意に設定変更することができる。また、羽根体(4)を全閉にする場合など特定の場合に速度を速めるように設定することも可能である。
【0042】
記憶部(12)には圧力差又は室圧に関する複数の設定値を設定することも可能であり、それぞれの設定値に応じて制御部(7)が各部材を制御、作動できるように構成することもできる。
【0043】
従って、例えば、第1の設定値として通常保たれるべき室圧の値を設定すると共に第2の設定値として異常室圧の基準としての値を設定してこれらを記憶部(12)に記憶させ、かつ、室圧が第2の設定値を逸脱した場合は両空間(部屋間)を直ちに強制的に開閉するため電動モータ(5)による羽根体(4)の開閉速度を通常の開閉速度よりも早める、というように構成することもできる。
【0044】
本発明の差圧ダンパ装置(1)によれば、羽根体(4)の開度が自動的に調整されるため、環境に応じた設定値を入力すれば、両空間(部屋間)の差圧が自動的に適切に調整される。例えば、室内(天井など)に設置されたファンフィルターユニットのフィルターが目詰まりし、室内への給気量が減少した場合においても、記憶部(12)に設定された設定値を基準として羽根体の開度が自動的に調整される。そのため、室圧が乱れて室圧差が逆転する事態を可及的に抑止することが可能となる。結果として、定期的な圧力測定や、フィルターが目詰まりしていないかの定期的な確認の必要が従来よりも格段に少なくなる。
【0045】
また、本発明の差圧ダンパ装置(1)によれば、室間差圧が安定的に制御され、より適切な風量と室間差圧を実現することができるので、例えば室内への給気量を少なくしても(低風量でも)室圧を制御することが可能となるため、給気ファンの電気代を従来よりも抑えることが可能となる。
【0046】
(実施例2)
本実施例においては、羽根体(4)と軸体(3)につき、羽根体(4)が軸体(3)に対して(軸体(3)を中心として)回転可能に取り付けられるように構成する(なお、羽根体(4)が軸体(3)に対して回転可能とされる構成を、本明細書及び図面において「回転機構」ともいう。)。このような構成の一例として、図に示されるように、羽根体(4)と軸体(3)をヒンジ(8)により相互に取り付けることができる。
【0047】
この構成によれば、記憶部(12)に設定された設定値にかかわらず、所定の圧力すなわち羽根体の自重を超える圧力により気体の流れが(例えば
図9において左側から)羽根体(4)に対して加えられると、これにより羽根体(4)が押され、
図9に示されるように羽根体(4)が開き、両空間を連通させる。
【0048】
例えば気密性の高い部屋の場合、部屋のドアを閉めた際に部屋の圧力が上がりドアが閉めにくくなる。このような場合においても、本実施例のごとく羽根体(4)が軸体(3)に対して(回転不能に固定して取り付けられるのではなく)回転可能に取り付けられるように差圧ダンパ装置を構成すれば、羽根体(4)に対し所定の圧力すなわち羽根体(4)の自重を超える力が加えられると(電動モータ(5)による軸体(3)の動作に関わらず)羽根体(4)が直ちに開くため、部屋の圧力を逃し、ドアを閉めやすくすることができる。
【0049】
羽根体(4)と軸体(3)を回転可能に取り付ける手段はヒンジ(8)に限らず、これと同様の機能を有するものであればよい。
【0050】
本実施例の差圧ダンパ装置(1)は、実施例1の構成に加え、羽根体(4)と軸体(3)が回転可能に取り付けられている。従って、本実施例の差圧ダンパ装置によると、両空間(部屋間)の差圧は、記憶部(12)に記憶された設定値を基準として調整され、室圧が細かく変動するときは電動モータ(5)が作動して羽根体(4)が適宜開閉し、圧力差が調整される。一方、羽根体(4)と軸体(3)が回転可能に取り付けられているため、例えば室圧が前記設定値を大きく超えて羽根体(4)の自重を超える圧力が羽根体(4)に対して加えられた場合は羽根体(4)が直ちに開いて差圧を調整する。この場合、異常室圧の値を第2の設定値として記憶部に記憶させていれば、この設定値を逸脱したとき、両空間(部屋間)を可及的速やかに強制的に開閉するため電動モータ(5)により羽根体(4)が早急に開閉されるので、電動モータ(5)による羽根体(4)の作動に加え、回転可能とされた羽根体(4)自体の動きによって室圧が調整される得るものとなる。
【0051】
更に、羽根体(4)と軸体(3)は、回転可能としつつ、回転に一定の規制が設けられるように構成することができる。すなわち、本発明においては、羽根体(4)と軸体(3)を暫定的に固定し、羽根体に対して気体の流れによる所定の負荷がかかるまで羽根体(4)の軸体(3)に対する回転を規制するための回転規制手段(9)を設けると好適である。
【0052】
図16は、
図4と同じ方向から、軸体(3)、羽根体(4)及びヒンジ(8)の部分を拡大して示すものである。
図16においては、
図4とは異なり、回転規制手段(9)が示されている。
【0053】
回転規制手段は、例えば磁石等の磁性体で構成することができる。これにより、軸体(3)と羽根体(4)が相互に着脱可能となる。すなわち、羽根体に対して気体の流れによる所定の負荷がかかるまで、羽根体(4)と軸体(3)が磁力により暫定的に固定され得るものとなり、両者が固定されているときは羽根体(4)の軸体(3)に対する回転が規制される。
【0054】
軸体(3)に対し回転可能に取り付けられた羽根体(4)と、軸体(3)とが暫定的に固定された状態で羽根体(4)が開くと、例えば
図8に示される状態と同様の状態となる。ここでは、羽根体に対して(
図8においては左側からの)気体の流れによる所定以上の負荷がかかっていないので、羽根体(4)が軸体(3)に対し回転可能に取り付けられていても、回転規制手段によって回転が規制される。すなわち、羽根体(4)と軸体(3)が暫定的に固定された状態においては、羽根体(4)は、これが軸体(3)に対し回転可能に取り付けられていない場合と同様の動作を行う。
【0055】
一方、羽根体に対して気体の流れによる所定以上の負荷がかかると、羽根体(4)と軸体(3)の暫定的な固定状態が解放される。そして、羽根体(4)が軸体(3)に対し回転可能であることから、
図9に示されるように、羽根体(4)が(電動モータによる軸体(3)の動作に関わらず)直ちに開く。
【0056】
回転規制手段は磁性体に限らず、これと同様の機能を有するものであればよい。
【0057】
羽根体(4)の軸体(3)に対する回転が規制されない場合、例えば異常でない高い室圧でも羽根体が開いてしまうので、室圧を乱す可能性がある。これに対し、回転規制手段を設け、羽根体(4)の軸体(3)に対する回転が規制され得るようにすると、このような点を防ぐことができ、回転規制手段が存しないときに比べ、より高い室圧で羽根体(4)を閉塞状態又は開放状態とすることが可能となる。
【0058】
回転規制手段は、大きさ、位置、個数などを変更、調整することにより、羽根体(4)と軸体(3)とを固定する負荷、換言すると羽根体に対してかかる気体の流れによる負荷を変更することが可能である。例えば回転規制手段を磁石で構成する場合、大きさを大きくしたり個数を増やしたりするほか、より強い磁力の磁石を用いること、軸体(3)から距離を遠くすることなどでも、固定する負荷を大きくすることができる。これにより、任意の室圧で羽根体(4)を閉塞状態又は開放状態とすることが可能となる。
【0059】
回転規制手段は、軸体(3)と羽根体(4)の間に配するものとすることができるが、これに限られない。例えば、軸体(3)の一部を磁石(N極)で構成し、これに対応する羽根体(4)の一部を磁石(S極)で構成するようにしてもよい。
【0060】
回転規制手段による場合、軸体(3)と羽根体(4)が完全に固定されず、羽根体に対し所定以上の力が加わると両者の固定状態が解放され、羽根体(4)は軸体(3)に対し回転可能となる。そのため、羽根体(4)が軸体(3)に対し回転可能となることによる上述の利点が依然得られるものとなる。
【0061】
(実験)
本発明の差圧ダンパ装置と従来の一般的な差圧ダンパの制御性を比較する実験を行った。
【0062】
本発明の差圧ダンパ装置として用いたのは上述の構成であり、支持体(2)、軸体(3)、羽根体(4)、電動モータ(5)、記憶部(12)、検出部(6)、制御部(7)を有するものである。羽根体(4)と軸体(3)をヒンジ(8)により回転可能に相互に取り付けた。
【0063】
従来の一般的な差圧ダンパとして用いたのは基本的な構成が
図17に示されるような差圧ダンパであり、羽根、この羽根と結合する軸、この軸を回転させる軸受け、空気を通すダクト部、軸受けを保持する筐体部(図示せず)で構成されている。羽根の自重で閉塞状態となり、風圧が掛かると風圧と羽根の自重によるモーメント荷重が釣り合い一定の開度となる構造である。従来の一般的な差圧ダンパは、羽根の開度が大きくなるとモーメント荷重が大きくなる。開度により釣り合う力が異なるため、ハンチングを起こすと、室圧が収束しなかったり、安定するのに時間がかかったりすることになる。
【0064】
図10に示されるように、実験室(ROOM1)の給気ファンから給気を行い、そこから本発明の差圧ダンパ装置又は従来の一般的な差圧ダンパ(これらは図において「BD」で示される)を通過させてROOM2に排気する。ROOM2及びROOM3はドアを開放し、大気に排気する。ROOM1に局所排気装置を設置する。各部屋の圧力、容積及び区域の性質は以下のとおりである。
【0065】
【0066】
テスト項目は以下のとおりである。
1.室圧制御状態
図10で示される実験室において、従来の一般的な差圧ダンパ、本発明の差圧ダンパ装置のそれぞれによる室圧制御を行い、これらの制御性を確認した。確認結果のグラフを
図11に示す。グラフに示されるとおり、本発明の差圧ダンパ装置、従来の一般的な差圧ダンパのいずれも、20Paをやや超える程度にて室圧制御を行えることが確認された。
【0067】
2.ファン立ち上げ時の状態
一旦給気ファンを停止して室圧を0Paにした後、再度給気ファンを立ち上げて稼働させ、従来の一般的な差圧ダンパ、本発明の差圧ダンパ装置のそれぞれによる場合の室圧の状態(変化)を確認した。確認結果のグラフを
図12に示す。グラフに示されるとおり、従来の一般的な差圧ダンパでは約25秒後から室圧の上下が激しくなり、これが80秒過ぎまで続いた。これは上記の期間羽根体のハンチング動作が激しくなっていることを示しており、室圧が乱れた状態が80秒過ぎまで続いたことが認められた。これに対し、本発明の差圧ダンパ装置によると、約45秒後まで室圧が徐々に上昇し、約50秒後からこれが23Pa程度となり、以降は20Paをやや超える程度で安定した。
【0068】
3.局所排気装置稼働時の状態
局所排気装置を稼働して約25秒後にこれを停止し、従来の一般的な差圧ダンパ、本発明の差圧ダンパ装置のそれぞれによる場合の室圧の状態を確認した。確認結果のグラフを
図13に示す。なお
図13において「局排」は「局所排気」を指す。グラフに示されるとおり、従来の一般的な差圧ダンパでは、局所排気装置が稼働してからこれが停止する少し前(40秒付近)まで室圧が下がり続け、局所排気装置が停止すると、室圧の上下が激しくなり、これが約85秒後まで続いた。これは上記の期間羽根体のハンチング動作が激しくなっていることを示しており、室圧が乱れた状態が約85秒後まで続いたことが認められた。これに対し、本発明の差圧ダンパ装置によると、局所排気装置が稼働してからこれが停止するまで室圧20Pa付近を上下し、局所排気装置が停止した直後は室圧が約27Pa程度まで上昇したものの、その後は20Paをやや超える程度で安定した。
【0069】
4.ドア開閉時の状態
ドア1を開き、数秒後(約5秒後)にこれを閉じた。この状況において従来の一般的な差圧ダンパ、本発明の差圧ダンパ装置のそれぞれによる場合の室圧の状態を確認した。確認結果のグラフを
図14に示す。グラフに示されるとおり、従来の一般的な差圧ダンパでは、ドアが開いたときに室圧が約39Paとなった後、約-2Paで推移し、ドアが閉じられたときに室圧が約-50Paとなった後、20Paを境に室圧の上下が激しくなり、これが継続した。これは上記の期間羽根体のハンチング動作が激しくなっていることを示しており、室圧が乱れた状態がグラフに示される40秒後以降も続いたことが認められた。これに対し、本発明の差圧ダンパ装置によると、ドアが開いたときに室圧が約60Paとなった後、約0Paで推移し、ドアが閉じられたときに室圧が約-50Paとなった後、約23秒後まで約30Paを境に室圧が若干上下し、約25秒後から25Pa程度で安定した(
図14における「差圧ダンパ装置(回転機構あり)」を参照)。なお、
図14では、本発明の差圧ダンパ装置において回転機構を有しない場合についての計測結果も示されており(
図14における「差圧ダンパ装置(回転機構なし)」を参照)、この場合、約23秒後から室圧が25Pa程度で安定している。一方、ドアが閉じられたときは、回転機構なしの場合は室圧が約85Paまで上昇するが、回転機構ありの場合は室圧が約40Paに抑えられており、回転機構があることにより、ドアが閉じられたときに羽根体(4)が開くことで異常な室圧を減少させる効果があることが認められる。
【0070】
これらの結果からわかるとおり、上記1のように空調に変化がない場合においては、本発明の差圧ダンパ装置と一般的な差圧ダンパは同等の室圧制御を行う。一方、上記3のように、空調の局所排気等により風量が変化すると、一般的な差圧ダンパでは圧力が低下するのに対し、本発明の差圧ダンパ装置では圧力を低下させずに一定にすることができる。また、上記2のようなファン立ち上げ時、上記3の局所排気停止時、上記4のドア閉時のように、圧力が急激に変化する場合、一般的な差圧ダンパではハンチングを起こし室圧が大きく変動することがあるが、本発明の差圧ダンパ装置では、モータにより動作させるためハンチングを起こさない。
【0071】
表2は、本発明の差圧ダンパ装置による制御可能な風量と、従来の一般的な差圧ダンパによる制御可能な風量を対比するものである。
【0072】
【0073】
また、例えば陽圧を保つ必要がある室内(天井など)に設置されたファンフィルターユニットのフィルターが目詰まりした場合、室内への給気量が減少する。本発明の差圧ダンパ装置によれば、このような場合においても、室間差圧が自動的に調整されるため、差圧が安定的に制御されることとなる。従来の差圧ダンパでは、このような場合は室間差圧が全く制御されないため、室圧が乱れて室圧差が逆転する可能性があることから、定期的な圧力測定や、フィルターが目詰まりしていないかの定期的な確認が必要である。
【0074】
なお、上記のような場合に備え、本発明の差圧ダンパ装置に羽根体の開度が例えば5%(一例であり、変更可能)となったときに、開度下限となるアラームを備えるように構成しても良い。このように構成することにより、羽根体の開度と室間差圧の変化が知らされるものとなり、羽根体の開度の変化から上記フィルターの交換時期を推測することなども可能となる。
【0075】
本発明の差圧ダンパ装置(1)は、検出部によって検出された室圧がリアルタイムで表示される圧力表示部を備えるように構成することもできる。
図11は差圧ダンパ装置(1)を
図1とは反対側から示した図である。
図11において、差圧ダンパ装置(1)の外側カバー(10)に設けられる圧力表示部(11)の一例が示されている。圧力表示部は任意の箇所には設けることができる。また、圧力表示部は電光式、タッチパネル式等、表示部を適宜構成することができる。圧力表示部を有するように構成すると、室圧が差圧ダンパ装置(1)において表示され可視化されるため、従来のように実際の室圧や室間差圧を別機器により測定する必要がなくなることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
従来の差圧ダンパは、例えば陽圧を保つ必要がある室内(天井など)に設置された給気ファンのフィルターが目詰まりしてくると、室内への給気量が長期的に徐々に減少するので、仕様範囲外の風量になると制御範囲を超え、室圧を一定にすることが不可能となり、ハンチング動作(開閉を繰り返す)が発生し室圧が乱れることもあり、定期的な圧力測定や、フィルターが目詰まりしていないかの定期的な確認が必要となっていた。
【0077】
また、クリーンルームその他室圧が差圧ダンパにより調整されている部屋において、部屋のドアが一旦開けられた後ドアが閉じられると、一度低下した室圧が上がるが、従来の差圧ダンパでは、この時に風量によってはハンチング状態になることがあり、室圧が安定するまでに時間がかかり、室圧が乱れる時間が長期化することがあった。
【0078】
更に、従来の差圧ダンパが設置されている部屋の隣にも同様の差圧ダンパが設置されているような連なった部屋の場合、各部屋の室圧設定をおもり或いはばね等で調整することを繰り返す必要がことになるので、部屋数が多いほど調整は非常に困難になっていた。
【0079】
これまではこれらに対応できる差圧ダンパが存しなかったところ、本発明によれば、係る要請に応えることができる。
【0080】
このような効果を得るためには従来はダクトやファンの大掛かりな設備が必要となると考えられるところ、本発明によれば、給気のある部屋の壁等に設置するだけで上記効果を得ることが可能となる。
【0081】
従って、本発明の当業界における産業上の利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0082】
1 差圧ダンパ装置
2 支持体
3 軸体
4 羽根体
5 電動モータ
6 検出部
7 制御部
8 ヒンジ
9 回転規制手段
10 外側カバー
11 圧力表示部
12 記憶部