(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079974
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】チオフェンジオキシド化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 333/78 20060101AFI20240606BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20240606BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20240606BHJP
【FI】
C07D333/78
C09B57/00 Z CSP
C12N5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192738
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多喜 正泰
(72)【発明者】
【氏名】山口 茂弘
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA87X
4B065CA04
4B065CA15
4B065CA18
4B065CA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞内の脂肪滴に代表される油滴や、リソソームに代表される細胞内小器官を染色することができ、また、要求特性に応じて機能化することができる化合物を提供する。
【解決手段】一般式(1):
[式中、Ar
1及びAr
2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。R
1、R
2、R
3及びR
4は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。ただし、R
3及びR
4は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R
3及び/又はR
4はAr
2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。]で表される、チオフェンジオキシド化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、
Ar
1及びAr
2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
1、R
2、R
3及びR
4は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R
3及びR
4は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R
3及び/又はR
4はAr
2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。]
で表される、チオフェンジオキシド化合物。
【請求項2】
前記R1、R2、R3及びR4は同一又は異なって、置換若しくは非置換アリール基である、請求項1に記載のチオフェンジオキシド化合物。
【請求項3】
前記R
1及びR
2は同一又は異なって、非置換アリール基であるか、又は、一般式(2)
【化2】
[式中、
Ar
3は、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
5は、水素原子又は有機基を示す。]
で表される基である、請求項2に記載のチオフェンジオキシド化合物。
【請求項4】
前記R5が、水素原子、アルキル基、又はポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基である、請求項3に記載のチオフェンジオキシド化合物。
【請求項5】
前記Ar1及びAr2が、同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環である、請求項1に記載のチオフェンジオキシド化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のチオフェンジオキシド化合物を含有する、蛍光色素。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のチオフェンジオキシド化合物を含有する、油滴染色剤。
【請求項8】
脂肪滴染色剤である、請求項7に記載の油滴染色剤。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のチオフェンジオキシド化合物を含有する、細胞内小器官染色剤。
【請求項10】
リソソーム染色剤である、請求項9に記載の細胞内小器官染色剤。
【請求項11】
一般式(3):
【化3】
[式中、
Ar
1及びAr
2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
1、R
2、R
3及びR
4は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R
3及びR
4は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R
3及び/又はR
4はAr
2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。]
で表される化合物。
【請求項12】
一般式(4):
【化4】
[式中、
Ar
1及びAr
2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
1、R
2、R
3及びR
4は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R
3及びR
4は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R
3及び/又はR
4はAr
2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。]
で表される化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオフェンジオキシド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
高い蛍光量子収率を有する蛍光性有機化合物は、有機EL素子の発光材料又は生体蛍光イメージングのための蛍光色素として重要であり、これまでに報告された例は、基礎研究及び応用の両面で枚挙に暇がない。
【0003】
例えば、細胞内脂肪滴(脂肪球)はあらゆる細胞に普遍的に存在するオルガネラの一種であり、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、コレステロールエステル等の中性脂肪がリン脂質一重層で覆われた構造を有している。最近の研究では、脂肪滴の表面には多くのタンパク質が存在することが判明し、脂肪滴が脂質エステルの加水分解によるエネルギー供給をはじめとして、小胞輸送、シグナリング等の様々な生命現象に関わっていることを示唆する報告がなされている。また、脂肪滴の挙動が肥満、循環器疾患、糖尿病、脂肪肝等の様々な病気に関わっていることも知られている。これらの知見から、脂肪滴の挙動の解明は、脂質代謝等の生命現象を理解するために必要であるとともに、病気の早期発見、予防等に有用であるため重要な研究課題である。しかしながら、脂肪滴の挙動に関して判明していることは少なく、脂肪滴表面に存在する様々なタンパク質の挙動や脂肪滴の形成及び分解過程等を直接観測することはできていない。細胞内の脂肪滴動態を時空間的に高精度で解析することができれば、脂肪滴についての研究が飛躍的に発展すると考えられる。
【0004】
また、リソソーム等の細胞内小器官についても、高精度で解析することができ、要求特性に応じて様々に機能化できる蛍光色素が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来の課題を解決しようとするものであり、細胞内の脂肪滴に代表される油滴や、リソソームに代表される細胞内小器官を染色することができ、また、要求特性に応じて機能化することができる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定のチオフェンジオキシド骨格を有する化合物は、細胞内の脂肪滴に代表される油滴や、リソソームに代表される細胞内小器官を染色することができ、また、要求特性に応じて機能化することができる化合物であることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0007】
項1.一般式(1):
【0008】
【0009】
[式中、
Ar1及びAr2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R1、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R3及びR4は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R3及び/又はR4はAr2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。]
で表される、チオフェンジオキシド化合物。
【0010】
項2.前記R1、R2、R3及びR4は同一又は異なって、置換若しくは非置換アリール基である、項1に記載のチオフェンジオキシド化合物。
【0011】
項3.前記R1及びR2は同一又は異なって、非置換アリール基であるか、又は、一般式(2):
【0012】
【0013】
[式中、
Ar3は、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R5は、水素原子又は有機基を示す。]
で表される基である、項1又は2に記載のチオフェンジオキシド化合物。
【0014】
項4.前記R5が、水素原子、アルキル基、又はポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基である、項3に記載のチオフェンジオキシド化合物。
【0015】
項5.前記Ar1及びAr2が、同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環である、請求項1~4のいずれか1項に記載のチオフェンジオキシド化合物。
【0016】
項6.項1~5のいずれか1項に記載のチオフェンジオキシド化合物を含有する、蛍光色素。
【0017】
項7.項1~5のいずれか1項に記載のチオフェンジオキシド化合物を含有する、油滴染色剤。
【0018】
項8.脂肪滴染色剤である、項7に記載の油滴染色剤。
【0019】
項9.項1~5のいずれか1項に記載のチオフェンジオキシド化合物を含有する、細胞内小器官染色剤。
【0020】
項10.リソソーム染色剤である、項9に記載の細胞内小器官染色剤。
【0021】
項11.一般式(3):
【0022】
【0023】
[式中、
Ar1及びAr2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R1、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R3及びR4は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R3及び/又はR4はAr2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。]
で表される化合物。
【0024】
項12.一般式(4):
【0025】
【0026】
[式中、
Ar1及びAr2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R1、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R3及びR4は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R3及び/又はR4はAr2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。]
で表される化合物。
【発明の効果】
【0027】
本発明のチオフェンジオキシド化合物は、細胞内の脂肪滴に代表される油滴や、リソソームに代表される細胞内小器官を染色することができ、また、要求特性に応じて機能化することができる化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例1のCBTOについて、トルエン、CH
2Cl
2又はジメチルスルホキシド中での紫外可視吸光スペクトル及び蛍光スペクトルを示す。
【
図2】実施例3のCBTO-TEGについて、トルエン、CH
2Cl
2又はアセトニトリル中での紫外可視吸光スペクトル、蛍光スペクトル及び外観写真を示す。なお、右図は、左から、トルエン中、CH
2Cl
2中、アセトニトリル中での外観写真を示す。
【
図3】実施例1のCBTOを用いた、試験例2の脂肪滴染色の結果を示す。
【
図4】実施例3のCBTO-TEGを用いた、試験例3のリソソーム染色の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0030】
本明細書において、範囲を「A~B」で表す場合、特に限定されない限り、A以上B以下を意味する。
【0031】
1.チオフェンジオキシド化合物
本発明のチオフェンジオキシド化合物は、一般式(1):
【0032】
【0033】
[式中、
Ar1及びAr2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R1、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R3及びR4は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R3及び/又はR4はAr2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。]
で表される化合物である。
【0034】
上記の一般式(1)で表されるチオフェンジオキシド化合物は、吸収ピーク波長が溶媒の極性に依らず430~450nm程度であり、また、蛍光ピーク波長が溶媒の極性に応じて520~650nm程度の範囲で変化する特異な性質を有している。このような本発明のチオフェンジオキシド化合物は、例えば一般式(1)におけるR1及びR2に所望の置換基を導入することで容易に機能化することができることから、所望の置換基を導入することで、脂肪滴等の油滴を染色する油滴染色剤としても使用することが可能であるし、リソソーム等の細胞内小器官染色剤としても使用することが可能である。なお、一般式(1)におけるR1及びR2に置換基を導入した場合にも、光物性はほとんど変化しない。
【0035】
例えば、一般式(1)におけるR1及びR2を非置換アリール基や、一般式(2A):
【0036】
【0037】
[式中、
Ar3は、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R5aは、C1-6アルキル基を示す。]
で表される基とした場合には、とした場合には、特に、脂肪滴等の油滴を染色しやすく、油滴染色剤として特に有用である。
【0038】
一方、一般式(1)におけるR1及びR2を、一般式(2B):
【0039】
【0040】
[式中、
Ar3は、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R5bは、水素原子、C7-20アルキル基、又はポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基を示す。]
で表される基とした場合には、環Ar3に対して官能基である-OR5基が結合しているため、オルガネラ局在性や分散性を制御することが可能であり、様々な細胞内小器官と結合し、様々な細胞内小器官、例えばリソソーム等を染色することが可能である。
【0041】
なお、一般式(1)におけるR1及びR2を、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性、油滴染色、細胞内小器官染色等の観点から、非置換アリール基とするか、又は、上記した一般式(2A)で表される基及び一般式(2B)で表される基を包含するように、一般式(2):
【0042】
【0043】
[式中、
Ar3は、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R5は、水素原子又は有機基を示す。]
で表される基とすることが好ましい。
【0044】
また、本発明のビチオフェンジオキシド化合物は、電子供与基であるアミノ基又は置換アミノ基を有することで、環境応答性を付与するとともに、吸収ピーク波長の長波長化も達成することができ、細胞内小器官(脂肪滴、リソソーム等)に対する光毒性を低減することができる。
【0045】
一般式(1)、(2)、(2A)及び(2B)において、Ar1、Ar2及びAr3で示される芳香族炭化水素環としては、単環芳香族炭化水素環及び多環芳香族炭化水素環のいずれも採用でき、例えば、単環芳香族炭化水素環としてベンゼン環が挙げられ、多環芳香族炭化水素環としてナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピレン環、トリフェニレン環等が挙げられる。
【0046】
Ar1、Ar2及びAr3で示される芳香族炭化水素環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、アミノ基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0047】
一般式(1)、(2)、(2A)及び(2B)において、Ar1、Ar2及びAr3で示される複素芳香環としては、例えば、単環複素芳香環として、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられ、多環複素芳香環として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環等が挙げられる。
【0048】
Ar1、Ar2及びAr3で示される複素芳香環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、アミノ基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0049】
Ar1、Ar2及びAr3としては、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性、油滴染色、細胞内小器官染色等の観点から、置換又は非置換芳香族炭化水素環が好ましく、置換又は非置換単環芳香族炭化水素環(置換又は非置換ベンゼン環)がより好ましい。
【0050】
一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4で示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用でき、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のC1-20アルキル基(特にC1-10アルキル基、さらにはC1-6アルキル基)が挙げられる。
【0051】
R1及びR2で示されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0052】
一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4で示されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のC3-20シクロアルキル基(特にC4-10シクロアルキル基、さらにはC4-8シクロアルキル基)が挙げられる。
【0053】
R1、R2、R3及びR4で示されるシクロアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0054】
一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4で示されるアリール基としては、例えば、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、単環アリール基としてフェニル基が挙げられ、縮環アリール基としてナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等が挙げられ、多環アリール基としてビフェニル基、ターフェニル基等のC6-18アリール基(特にC6-14アリール基)が挙げられる。
【0055】
R1、R2、R3及びR4で示されるアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0056】
一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4で示されるヘテロアリール基としては、単環ヘテロアリール基及び縮環ヘテロアリール基のいずれも採用でき、例えば、単環ヘテロアリール基としてピロリル基、チエニル基、フラニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジル基等が挙げられ、縮環ヘテロアリール基としてインドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0057】
R1、R2、R3及びR4で示されるヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、上記ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0058】
R1、R2、R3及びR4としては、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性、油滴染色、細胞内小器官染色等の観点から、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換アリール基が好ましく、置換若しくは非置換アリール基がより好ましい。
【0059】
R1及びR2については、上記のとおり、所望の置換基を導入することで、所望の機能を付与することが可能であり、例えば、R1及びR2を非置換アリール基や、一般式(2A)で表される基とした場合には、特に、脂肪滴等の油滴を染色しやすく、油滴染色剤として特に有用である一方、R1及びR2を、一般式(2B)で表される基とした場合には、環Ar3に対して官能基である-OR5基が結合しているため、オルガネラ局在性や分散性を制御することが可能であり、様々な細胞内小器官と結合し、様々な細胞内小器官、例えばリソソーム等を染色することが可能である。
【0060】
また、R3及びR4は一緒になって、隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。つまり、-NR3R4で表される基が、
【0061】
【0062】
等で表される基であってもよい。
【0063】
また、R3及び/又はR4はAr2と一緒になって、隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。つまり、Ar2-NR3R4で表される構造が、
【0064】
【0065】
等であってもよい。
【0066】
この場合、Ar2において、-NR3R4で表される基が結合する置換位置は特に制限されない。
【0067】
一般式(2)において、R5で示される有機基としては、特に制限はなく、アルキル基、ポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基(-(C2H4O)mR6)等が挙げられる。
【0068】
一般式(2)において、R5で示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用でき、上記したものを例示できるが、染色対象によって適切な基を選択することが好ましい。
【0069】
R5で示されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすくなるように、官能基であることが好ましく、例えば、アミノ基、エポキシ基、リン含有基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基(-COOR7)、アミド基若しくはその誘導体基(-CONHR8)等が挙げられる。
【0070】
R5で示されるアルキル基の置換基としてのリン含有基としては、特に制限はなく、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点からは、一般式(6):
-P+R9
nX1
(4-n)
- (6)
[式中、R9は同一又は異なって、置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
X1は同一又は異なって、ハロゲン原子を示す。
nは1~3の整数を示す。]
で表される基が好ましい。
【0071】
一般式(6)において、R9で示されるアリール基としては、例えば、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、単環アリール基としてフェニル基が挙げられ、縮環アリール基としてナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等が挙げられ、多環アリール基としてビフェニル基、ターフェニル基等のC6-18アリール基(特にC6-14アリール基)が挙げられる。
【0072】
R9で示されるアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0073】
一般式(6)において、R9で示されるヘテロアリール基としては、単環ヘテロアリール基及び縮環ヘテロアリール基のいずれも採用でき、例えば、単環ヘテロアリール基としてピロリル基、チエニル基、フラニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジル基等が挙げられ、縮環ヘテロアリール基としてインドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0074】
R9で示されるヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、上記ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0075】
なかでも、R9としては、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、置換若しくは非置換アリール基が好ましく、非置換アリール基がより好ましい。
【0076】
一般式(6)において、X1で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、塩素原子、臭素原子等がより好ましく、臭素原子がさらに好ましい。
【0077】
一般式(6)において、nは、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、1~3の整数が好ましく、2又は3がより好ましく、3がさらに好ましい。
【0078】
R5で示されるアルキル基の置換基としてのアルコキシカルボニル基(-COOR7)としては、R7としてアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含んでいれば特に限定なく使用することができ、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。
【0079】
R5で示されるアルキル基の置換基としてのアミド基若しくはその誘導体基(-CONHR8)としては、R8として水素原子又はアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含んでいれば特に限定なく使用することができ、例えば、アミド基、N-メチルアミド基、N-エチルアミド基、N-n-プロピルアミド基、N-イソプロピルアミド基等が挙げられる。
【0080】
一般式(2)において、R5で示されるポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基(-(C2H4O)mR6)としては、R6として水素原子又はアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含み、mとして例えば1~100の整数を採用していれば特に限定なく使用することができ、例えば、-(C2H4O)mCH3を好ましく使用することができる。
【0081】
以上のような条件を満たすR5で示される有機基としては、具体的には、
【0082】
【0083】
[式中、R7及びR8は前記に同じである。Phはフェニル基を示す。kは5~15の整数を示す。mは2~100の整数を示す。]
等が挙げられる。
【0084】
上記のような条件を満たす一般式(1)で表されるチオフェンジオキシド化合物としては、例えば、
【0085】
【0086】
【0087】
等が挙げられる。特に、後述の実施例において示されるチオフェンジオキシド化合物が好ましい。
【0088】
2.チオフェンジオキシド化合物の製造方法
本発明のチオフェンジオキシド化合物の製造方法は特に制限されない。例えば、反応1:
【0089】
【0090】
[式中、Ar1、Ar2、R1、R2、R3及びR4は前記に同じである。X2はハロゲン原子を示す。]
にしたがって合成することができる。
【0091】
また、R1及びR2が一般式(2)で表される基である場合は、反応2:
【0092】
【0093】
[式中、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、R1、R2、R3、R4、R5は前記に同じである。X2はハロゲン原子を示す。X3は同一又は異なって、ハロゲン原子を示す。]
にしたがって合成することもできる。
【0094】
なお、上記の一般式(5)で表される化合物は、既報(国際公開第2014/075382号)にしたがって合成することができる。
【0095】
反応式1及び2において、X2及びX3で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、塩素原子、臭素原子等がより好ましく、臭素原子がさらに好ましい。
【0096】
(2-1)化合物(5)→化合物(4)、化合物(4A)
当該工程では、化合物(5)と有機リチウム化合物とを反応させた後に、得られた反応物を一般式(7):
【0097】
【0098】
[式中、Ar3及びX3は前記に同じである。]
で表される化合物と反応させることができる。
【0099】
有機リチウム化合物としては、例えば、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム等のアルキルリチウム;シクロヘキシルリチウム等のシクロアルキルリチウム;フェニルリチウム等のアリールリチウム等の1種又は2種以上が挙げられる。これらのうち、本工程では、収率の観点から、アルキルリチウムが好ましく、tert-ブチルリチウムがより好ましい。有機リチウム化合物の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、通常、化合物(5)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。
【0100】
化合物(7)の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、通常、化合物(5)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。
【0101】
反応は通常反応溶媒の存在下で行うことができる。使用できる反応溶媒としては、特に制限はなく、適宜調整することができる。
【0102】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、特に制限はなく、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、また、反応時間は特に制限されず、反応が十分に進行する時間とすることができる。
【0103】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることもできる。また、精製処理を施さずに次の工程を行うこともできる。
【0104】
この工程により得られる一般式(4)で表される化合物、一般式(4A)で表される化合物は、文献未記載の新規化合物である。
【0105】
(2-2)化合物(4)→化合物(3)、化合物(4A)→化合物(3A)
当該工程では、化合物(4)又は化合物(4A)と、ルイス酸とを反応させることにより、化合物(3)又は化合物(3A)を得ることができる。
【0106】
ルイス酸としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化スズ、フッ化アンチモン、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、スカンジウムトリフラート等が挙げられ、これらの錯体も使用することができる。これらのルイス酸は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。ルイス酸の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、通常、化合物(4)又は化合物(4A)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。
【0107】
反応は通常反応溶媒の存在下で行うことができる。使用できる反応溶媒としては、特に制限はなく、適宜調整することができる。
【0108】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、特に制限はなく、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、また、反応時間は特に制限されず、反応が十分に進行する時間とすることができる。
【0109】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることもできる。また、精製処理を施さずに次の工程を行うこともできる。
【0110】
この工程により得られる一般式(3)で表される化合物、一般式(3A)で表される化合物は、文献未記載の新規化合物である。
【0111】
(2-3)化合物(3)→化合物(1)
この工程では、化合物(3)と、酸化剤とを反応させることにより、化合物(1)を得ることができる。
【0112】
酸化剤としては、例えば、過酸化水素;過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸(m-CPBA)等の過酸;メタ過ヨウ素酸ナトリウム等の過ハロゲン酸塩等が挙げられる。これらは単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。酸化剤の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、通常、化合物(3)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。
【0113】
反応は通常反応溶媒の存在下で行うことができる。使用できる反応溶媒としては、特に制限はなく、適宜調整することができる。
【0114】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、特に制限はなく、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、また、反応時間は特に制限されず、反応が十分に進行する時間とすることができる。
【0115】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、本発明のチオフェンジオキシド化合物を得ることができる。
【0116】
(2-4)化合物(3A)→化合物(1A)
当該工程では、化合物(3A)と有機リチウム化合物とを反応させた後に、得られた反応物をボロン酸化合物と反応させて化合物(3A)のハロゲン原子をボロン酸化した後に、得られた反応物を過酸化水素と反応させて化合物(1A)を得ることができる。
【0117】
有機リチウム化合物としては、例えば、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム等のアルキルリチウム;シクロヘキシルリチウム等のシクロアルキルリチウム;フェニルリチウム等のアリールリチウム等の1種又は2種以上が挙げられる。これらのうち、本工程では、収率の観点から、アルキルリチウムが好ましく、n-ブチルリチウムがより好ましい。有機リチウム化合物の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、通常、化合物(3A)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。
【0118】
ボロン酸化合物としては、例えば、一般式(8):
【0119】
【0120】
[式中、R10、R11及びR12は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、又は置換若しくは非置換アリール基を示す。R10、R11及びR12のうち2つが互いに連結して、隣接する-O-B-O-とともに環を形成してもよい。]
で表されるボロン酸化合物が挙げられる。
【0121】
一般式(8)において、R10、R11及びR12で示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用でき、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のC1-10アルキル基(特にC1-6アルキル基)が挙げられる。
【0122】
R10、R11及びR12で示されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記シクロアルキル基、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0123】
一般式(8)において、R10、R11及びR12で示されるアリール基としては、例えば、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、単環アリール基としてフェニル基が挙げられ、縮環アリール基としてナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等が挙げられ、多環アリール基としてビフェニル基、ターフェニル基等のC6-18アリール基(特にC6-14アリール基)が挙げられる。
【0124】
R10、R11及びR12で示されるアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0125】
また、一般式(8)において、R10、R11及びR12のうち2つが連結(結合)して、隣接する-O-B-O-とともに環を形成してもよい。この場合、上記ボロン酸化合物は、例えば、
【0126】
【0127】
[式中、R10は前記に同じである。]
等が挙げられる。
【0128】
このような条件を満たすボロン酸化合物としては、例えば、
【0129】
【0130】
等が挙げられる。
【0131】
ボロン酸化合物の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、通常、化合物(3A)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。
【0132】
過酸化水素の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、通常、化合物(3A)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。
【0133】
反応は通常反応溶媒の存在下で行うことができる。使用できる反応溶媒としては、特に制限はなく、適宜調整することができる。
【0134】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、特に制限はなく、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、また、反応時間は特に制限されず、反応が十分に進行する時間とすることができる。
【0135】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、本発明のチオフェンジオキシド化合物を得ることができる。また、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、次の工程を行うこともできる。
【0136】
(2-5)化合物(1A)→化合物(1B)
当該工程では、化合物(1A)と、一般式(9):
R13-SO2-OR5 (9)
[式中、R5は前記に同じである。R13は水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換アリール基を示す。]
で表される化合物とを反応させ、一般式(1B)で表される化合物を得ることができる。
【0137】
一般式(9)において、R13で示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用でき、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のC1-10アルキル基(特にC1-6アルキル基)が挙げられる。
【0138】
R13で示されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記シクロアルキル基、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0139】
一般式(9)において、R13で示されるアリール基としては、例えば、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、単環アリール基としてフェニル基が挙げられ、縮環アリール基としてナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等が挙げられ、多環アリール基としてビフェニル基、ターフェニル基等のC6-18アリール基(特にC6-14アリール基)が挙げられる。
【0140】
R13で示されるアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0141】
化合物(9)の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、通常、化合物(1A)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。
【0142】
反応は通常反応溶媒の存在下で行うことができる。使用できる反応溶媒としては、特に制限はなく、適宜調整することができる。
【0143】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、特に制限はなく、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、また、反応時間は特に制限されず、反応が十分に進行する時間とすることができる。
【0144】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、本発明のチオフェンジオキシド化合物を得ることができる。
【0145】
なお、上記では、本発明のチオフェンジオキシド化合物の一態様の合成方法の一例について記載したが、この製造方法に限定されることはなく、様々な合成方法で合成することができる。
【0146】
3.蛍光色素、油滴染色剤及び細胞内小器官染色剤
本発明の蛍光色素は、上記の本発明のチオフェンジオキシド化合物を含有する。
【0147】
さらに、一般式(1)におけるR1及びR2を非置換アリール基や、一般式(2A)で表される基とした場合には、特に、脂肪滴等の油滴を染色しやすい。しかも、上記した本発明のチオフェンジオキシド化合物は、細胞内の脂肪球(脂肪滴)等の油滴を強く蛍光させ、脂肪球(脂肪滴)等の油滴以外の組織の蛍光を抑制することができる。上記した本発明のチオフェンジオキシド化合物は、脂肪球(脂肪滴)等の油滴以外の組織の蛍光を抑制することにより、脂肪球(脂肪滴)等の油滴の蛍光強度を他の組織の蛍光強度よりも著しく大きくすることができる。このため、脂肪球(脂肪滴)等の油滴は、小さいサイズでも油滴(特に細胞内脂肪滴)を高感度に検出でき、さらに、他の組織の蛍光染色を抑制できる。このため、本発明のチオフェンジオキシド化合物を用いた本発明の蛍光色素は、油滴染色剤(特に、脂肪滴染色剤)として使用できる点で有用である。
【0148】
また、一般式(1)におけるR1及びR2を一般式(2B)で表される基とした場合には、特に、リソソーム等の細胞内小器官を染色しやすい。しかも、上記した本発明のチオフェンジオキシド化合物は、リソソーム等の細胞内小器官を強く蛍光させ、その他の組織の蛍光を抑制することができる。上記した本発明のチオフェンジオキシド化合物は、リソソーム等の細胞内小器官以外の組織の蛍光を抑制することにより、リソソーム等の細胞内小器官の蛍光強度を他の組織の蛍光強度よりも著しく大きくすることができる。このため、リソソーム等の細胞内小器官は、小さいサイズでも高感度に検出でき、さらに、他の組織の蛍光染色を抑制できる。このため、上記した本発明のチオフェンジオキシド化合物を用いた本発明の蛍光色素は、細胞内小器官染色剤(脂肪滴染色剤、ミトコンドリア染色剤、リソソーム染色剤、小胞体染色剤、細胞膜染色剤等)、特にリソソーム染色剤として使用できる点で有用である。
【0149】
本発明の蛍光色素(油滴染色剤又は細胞内小器官染色剤)は、上記した本発明のチオフェンジオキシド化合物を含有している。その使用形態は特に制限はなく、例えば、有機溶媒中に溶解させて溶液とすることができる。この際、小さいサイズの油滴や細胞内小器官等でも高感度に検出(染色)しやすく、油滴や細胞内小器官以外の組織の蛍光を抑制しやすく、、油滴や細胞内小器官を識別しやすい観点から、上記した本発明のチオフェンジオキシド化合物の含有量は、10nmol/L~10μmol/Lが好ましく、100nmol/L~5μmol/Lがより好ましい。このように、本発明では、本発明のチオフェンジオキシド化合物の含有量を低く抑えることもできることから、生細胞へのダメージを抑制しやすい。
【0150】
本発明の蛍光色素(油滴染色剤又は細胞内小器官染色剤)を、上記した本発明のチオフェンジオキシド化合物を含有する溶液とする場合、使用し得る有機溶媒としては、油滴(特に脂肪球)や細胞内小器官(特にリソソーム)を高感度に蛍光しやすい観点から、非極性溶媒が好ましい。
【0151】
非極性溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族有機溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0152】
本発明の蛍光色素(油滴染色剤又は細胞内小器官染色剤)を溶液の形態とする場合、生細胞内で使用しやすく、小さいサイズでも油滴(特に細胞内の脂肪球)や細胞内小器官(特にリソソーム)を高感度に検出しやすく、他の組織の蛍光染色を抑制しやすい観点から、pHは5~11程度が好ましく、6.5~7.5程度がより好ましい。本発明の蛍光色素(油滴染色剤又は細胞内小器官染色剤)のpHを調整するために、緩衝剤(ヘペス緩衝剤、トリス緩衝剤、トリシン-水酸化ナトリウム緩衝剤、リン酸系緩衝剤、リン酸緩衝生理食塩水等)等を使用することもできる。
【実施例0153】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0154】
特に制限しない限り、全ての反応は、窒素雰囲気下で行った。特に制限しない限り、市販の溶媒及び試薬は、精製せずに使用した。
【0155】
CBTOの合成
【0156】
【0157】
[合成例1:化合物1]
2,3-ジブロモベンゾチオフェン(5.0g,17mmol)及びトリフェニルアミン-4-ボロン酸(5.4g,18mmol)をトルエン(150mL)及び水(30mL)の混合液に溶かし、炭酸ナトリウム(8.1g,58mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2;0.40mg,1.7mmol)、トリ(o-トリル)ホスフィン(1.1g,3.4mmol)を加えた。この混合物を80℃で22時間撹拌した後、トルエンで抽出した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(9/1 ヘキサン/ジクロロメタン,Rf=0.22)で精製し、酢酸エチルから再結晶することにより化合物1の白色固体3.7g(8mmol,収率47%)を得た。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.85 (d, JHH = 7.8 Hz, 1H), 7.79 (d, JHH = 7.2 Hz, 1H), 7.65 (d, JHH = 9.0 Hz 2H), 7.46 (t, JHH = 7.2 Hz, 1H), 7.40-7.37 (m, 1H), 7.33-7.28 (m, 4H), 7.18 (d, JHH = 7.8 Hz, 4H), 7.12 (d, JHH = 7.2 Hz, 2H), 7.09 (t, JHH = 7.8 Hz, 2H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 148.5, 147.4, 139.5, 138.4, 137.5, 130.42, 129.6, 126.1, 125.4, 125.3, 123.8, 123.6, 122.2, 122.2, 104.1; HRMS (ESI): 456.0417 ([M+H]+). Calcd for C26H19BrNS: 456.0416。
【0158】
[合成例2:化合物2a]
合成例1で得た化合物1(685mg,1.5mmol)の無水テトラヒドロフラン(THF;10mL)溶液に、tert-ブチルリチウム(t-BuLi;1.77M,1.86mL,3.3mmol)を-78℃で10分かけて加えた。-78℃で1時間撹拌後、-40℃までゆっくり昇温し,再び-78℃まで冷却した。この溶液にベンゾフェノン(328mg,1.8mmol)を-78℃で加え,そのままの温度で1時間撹拌後、ゆっくりと室温まで昇温させ、18時間撹拌した。混合物に水を加え、酢酸エチル(EtOAc;50mL)で2回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水Na2SO4で乾燥させ、ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(3/1→1/1→2/3 ヘキサン/ジクロロメタン)で精製し、得られた固体をメタノールから再結晶することにより化合物2aの白色固体310mg(0.56mmol、収率37%)を得た。
1H NMR (400MHz, CDCl3) δ 7.70 (d, JHH = 8.0 Hz, 1H), 7.30-7.10 (m, 16H), 7.04-6.96 (m, 7H), 6.90 (d, JHH = 8.6 Hz, 2H) , 6.71 (d, JHH = 8.6 Hz, 2H), 3.19 (s, 1H);
13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 147.5, 147.4, 146.3, 142.0, 140.2, 139.1, 135.6, 130.7, 129.3, 128.4, 128.3, 128.0, 127.5, 126.5, 124.7, 123.9, 123.3, 122.3, 121.6, 81.7。
【0159】
[合成例3:化合物3a]
合成例2で得た化合物2a(285mg,0.51mmol)の無水CH2Cl2(5mL)溶液中に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3・OEt2;0.13mL,1.0mmol)を0℃で加えた。1時間攪拌後、反応溶液を室温まで昇温し、さらに3時間室温で撹拌した。その後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3・OEt2;0.5mL,3.2mmol)を追加し、30時間還流した。水(10mL)を加えて反応を失活させ、混合物をCH2Cl2(50mL)で2回抽出した。無水Na2SO4で乾燥、ろ過、濃縮後に、得られた固体をメタノールから再結晶することで、化合物3aの白色固体227mg(0.42mmol,収率82%)を得た。
【0160】
[実施例1:化合物CBTO]
合成例3で得た化合物3a(202mg,0.37mmol)のCH2Cl2(20mL)溶液中に、メタクロロ過安息香酸(m-CPBA;284mg,1.3mmol)を0℃で加え、1時間撹拌後、さらに室温で24時間撹拌した。減圧下で溶媒を留去した後、混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(1/1→1/2→1/4 ヘキサン/ジクロロメタン)で分離し、ヘキサン/エタノール(5/1)から再結晶することにより、化合物CBTOの黄色固体101mg(0.18mmol,収率47%)を得た。
【0161】
CBTO-TEG
【0162】
【0163】
[合成例4:化合物2b]
合成例1で得た化合物1(1.6g,3.4mmol)のジエチルエーテル(27mL)溶液に、n-ブチルリチウム(n-BuLi;1.6M,2.3mL,3.8mmol)を-78℃で20分かけて加えた。2時間撹拌後、4,4’-ジブロモベンゾフェノン(1.3g,3.8mmol)を-78℃で加え、得られた混合物をゆっくりと室温まで温めた後、室温で18時間撹拌した。混合物に水を加え、酢酸エチル(EtOAc)で2回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水Na2SO4で乾燥し、これをろ過した。ろ液を減圧下で濃縮後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2/1 ヘキサン/ジクロロメタン)で精製し、得られた固体をメタノールで洗浄することにより化合物2bの白色固体2.0g(2.8mmol,収率81%)を得た。
1H NMR (400 MHz, Acetone-d6) δ 7.84 (d, JHH = 8.0 Hz, 1H), 7.63 (d, JHH = 8.0 Hz, 1H), 7.38-7.25 (m, 13H), 7.16-7.07 (m, 7H), 6.93 (d, JHH = 8.4 Hz, 2H), 6.61 (d, JHH = 8.8 Hz, 2H), 5.80 (s, 1H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 147.7, 147.3, 145.0, 143.1, 139.6, 139.2, 133.9, 131.2, 130.6, 129.9, 129.5, 127.0, 126.1, 125.4, 124.2, 123.7, 121.9, 121.8, 121.2, 80.8; HRMS (ESI): 740.0053 ([M+Na]+). Calcd for C39H27Br2NNaOS: 740.0052。
【0164】
[合成例5:化合物3b]
合成例4で得た化合物2b(1.8g,2.5mmol)の無水CH2Cl2(60mL)溶液中に、スカンジウムトリフラート(Sc(OTf)3;1.2g,2.5mmol)を室温で加えた。45℃で12時間攪拌後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を失活させた。混合物をCH2Cl2で2回抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水Na2SO4で乾燥させ、ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2)で精製し、化合物3bの淡黄色固体1.6g(2.3mmol,収率92%)を得た。
1H NMR (400 MHz, acetone-d6) δ 8.02-7.98 (m, 1H), 7.57 (d, JHH = 8.0 Hz 1H), 7.54-7.52 (m, 1H), 7.48-7.42 (m, 4H), 7.32-7.22 (m, 7H), 7.19-7.14 (m, 4H), 7.08-7.01 (m, 7H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 156.8, 147.5, 147.4, 145.9, 144.0, 142.7, 141.7, 134.2, 131.6, 131.5, 130.3, 129.4, 125.0, 124.5, 124.2, 123.9, 123.4, 123.0, 121.7, 121.3, 120.8, 120.7, 63.4; HRMS (ESI): 737.9686 ([M+K]+). Calcd for C39H25Br2KNS: 737.9686。
【0165】
[実施例2:化合物4]
合成例5で得た化合物3b(200mg,0.29mmol)の無水テトラヒドロフラン(THF;10mL)溶液に、n-ブチルリチウム(n-BuLi;1.6M,0.38mL,0.60mmol)を-78℃で10分かけて加えた。2時間撹拌後、ホウ酸トリイソプロピル(0.2mL,0.86mmol)のテトラヒドロフラン(THF;2mL)溶液を-78℃で加えた。混合物をゆっくりと室温まで温めた後、室温で12時間撹拌した。混合物に1M HCl水溶液(5mL)を加えて反応を停止した後、酢酸エチルで2回抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水Na2SO4で乾燥させ、ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮後、得られた固体にテトラヒドロフラン(THF;10mL)を加えて溶解させ、過酸化水素水(1mL)を加えた後、14時間室温で撹拌した。反応溶液に水(5mL)を加え、酢酸エチルで2回抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水Na2SO4で乾燥させ、ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(1/8 アセトン/ジクロロメタン)で精製し、化合物4の黄色固体16mg(0.026mmol、収率9%)を得た。
1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 7.74-7.71 (m, 1H), 7.48-7.42 (m, 3H), 7.29-7.24 (m, 4H), 7.23-7.20 (m, 1H), 7.09-6.97 (m, 12H), 6.72-6.68 (m, 4H). HRMS (ESI): m/z calcd. For C39H27NO4S: 604.1588 ([M-H]-); found: 604.1586。
【0166】
[実施例3:化合物CBTO-TEG]
実施例2で得た化合物4(13mg,0.021mmol)、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル4-トルエンスルホネート(17mg,0.047mmol)、及び炭酸カリウム(8.9mg,0.064mmol)をアセトニトリル(4mL)に加え、10時間還流した。減圧下で溶媒を留去した後、水を加え、ジクロロメタンで抽出した。無水Na2SO4による乾燥、ろ過、濃縮を経て、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2:1 アセトン/ジクロロメタン)で精製し、化合物CBTO-TEGの黄色固体12mg(0.013mmol,収率64%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.71-7.66 (m, 1H), 7.48 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.38-7.30 (m, 2H), 7.25-7.19 (m, 4H), 7.16 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.13-7.08 (m, 4H), 7.07-7.01 (m, 7H), 6.97 (dd, J = 8.3, 2.1 Hz, 1H), 6.81-6.75 (m, 4H), 4.13-4.05 (m, 4H), 3.83 (dd, J = 5.4, 4.4 Hz, 4H), 3.75-3.70 (m, 4H), 3.69-3.62 (m, 8H), 3.55-3.51 (m, 4H), 3.36 (s, 6H). HRMS (ESI): m/z calcd. For C53H55NO10SNa: 920.3444 ([M+Na]+); found: 920.3439。
【0167】
試験例1:光物性
実施例1のCBTO及び実施例3のCBTO-TEGについて、トルエン、CH
2Cl
2、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又はアセトニトリル(CH
3CN)中に溶解させた場合の紫外可視吸光スペクトル(21μmol/L)、蛍光スペクトル(1μmol/L)、絶対蛍光量子収率(1μmol/L)等の測定を行い、外観写真を撮影した。実施例1のCBTOの結果を
図1及び表1に、実施例3のCBTO-TEGの結果を
図2及び表2に示す。
【0168】
【0169】
【0170】
試験例2:脂肪細胞の染色
[細胞培養]
3T3-L1前駆脂肪細胞(RIKEN Cell Bank)を10%FBS(ウシ胎児血清;Biosera社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アムホテリシンB懸濁液(富士フイルム和光純薬(株))を含むDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地;富士フイルム和光純薬(株))を培地として用い、インキュベーター内で37℃、5%CO2、95%空気の条件にして培養した。
【0171】
[細胞染色]
3T3-L1前駆脂肪細胞をガラスボトムディッシュにまき、100%コンフルエンスになった日(0日目と定義する)から2日後に、培地を分化培地に変更することで3T3-L1を脂肪細胞へと分化誘導した。分化培地には、通常の培養時の培地に、インスリンを最終濃度10μg/mL、デキサメタゾンを最終濃度2.5μM、3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)を最終濃度0.5mMになるように加えたものを使用した。インスリン、デキサメタゾン及びIBMXはタカラバイオ(株)のAdipoinducer Reagent(for animal cell)に含まれていたものを使用した。4日目に、維持培地へと培地を切り替えた。維持培地には、通常の培養時の培地に、インスリンを最終濃度10μg/mLになるように加えたものを使用した。9日目に維持培地を除去し、実施例1のCBTOを、DMEMに対して500nM混ぜたもの(0.1%DMSOを含む)を染色用の培地として切り替え、4時間37℃、5%CO2、95%空気の条件にして培養した。L-グルコースとフェノールレッドとを含まないDMEM(以下、「DMEM colorless」と表記することもある;gibco)で3回洗浄し、DMEM colorless2mLで満たした。
【0172】
その後、FV10i共焦点レーザー走査型顕微鏡(オリンパス(株))を用いて観察した。結果を
図3に示す。この結果、実施例1のCBTOは細胞膜透過性を有しており、脂肪滴が染色されていることが理解できる。
【0173】
試験例3:リソソームの染色
イメージングを行う1日前に、COS-7細胞(RIKEN Cell Bank)を400μMのオレイン酸で処理した。250nMのCBTO-TEG(実施例3)、10%FBS及び0.1%DMSOを含むDMEM培地中で細胞を2時間培養した。DMEM(-)で3回洗浄後、DMEM(+)で置換し、FV10i共焦点レーザー走査型顕微鏡(オリンパス(株))を用いて観察した。
【0174】
結果を
図4に示す。主にリソソームが染色されていることが理解できる。