(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079978
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】球面滑り支承及び橋梁
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240606BHJP
E01D 19/04 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
F16F15/02 L
E01D19/04 E
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192746
(22)【出願日】2022-12-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 伸介
【テーマコード(参考)】
2D059
3J048
【Fターム(参考)】
2D059AA33
2D059AA34
2D059AA35
3J048AA07
3J048BG01
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】免震機能を保ちつつ、上部構造体と下部構造体との相対変位の特性を調整可能とした球面滑り支承を提供する。
【解決手段】本発明の態様1に係る球面滑り支承100は、上部構造体Uと下部構造体Lとの間に設置される球面滑り支承100であって、上部構造体Uの下部に配置され、下方に面する上凹球面11を有する上コンケイブ10と、上凹球面11と摺動する上凸球面31を少なくとも備えるスライダー部30と、を備え、上凹球面11は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と下部構造体との間に設置される球面滑り支承であって、
前記上部構造体の下部に配置され、下方に面する上凹球面を有する上コンケイブと、
前記上凹球面と摺動する上凸球面を少なくとも備えるスライダー部と、
を備え、
前記上凹球面は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有する、
ことを特徴とする球面滑り支承。
【請求項2】
前記上コンケイブの平面視において、前記第一低摩擦領域が前記上凹球面の中心側に配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の球面滑り支承。
【請求項3】
前記上コンケイブの平面視において、前記第一高摩擦領域が前記上凹球面の中心側に配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の球面滑り支承。
【請求項4】
前記下部構造体の上部に配置され、上方に面する下凹球面を有する下コンケイブを更に備え、
前記スライダー部は、前記下凹球面と摺動する下凸球面を更に備え、
前記下凹球面は、第二低摩擦領域と、第二高摩擦領域と、を有する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の球面滑り支承。
【請求項5】
前記第一低摩擦領域の形状と前記第二低摩擦領域の形状とが同じであり、
前記第一高摩擦領域の形状と前記第二高摩擦領域の形状とが同じである、
ことを特徴とする請求項4に記載の球面滑り支承。
【請求項6】
前記第一低摩擦領域の外縁と前記第一高摩擦領域の外縁とが、同心円状に配置される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の球面滑り支承。
【請求項7】
前記第一低摩擦領域と前記第一高摩擦領域とが、水平方向に交互に配置される、
ことを特徴とする請求項6に記載の球面滑り支承。
【請求項8】
水平方向のうち任意の方向である第1方向において、
前記第一低摩擦領域と前記第一高摩擦領域とが交互に配置される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の球面滑り支承。
【請求項9】
前記上部構造体は橋梁であり、前記第1方向は前記橋梁の橋軸に直交する方向である、
ことを特徴とする請求項8に記載の球面滑り支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球面滑り支承に関する。
【背景技術】
【0002】
地震による地盤の水平変位が建物等の構造物に伝達することを抑えるために、滑り支承が用いられることがある。
特許文献1では、球面滑り支承の上沓と下沓との水平方向変位を抑制するために、変位抑制装置を設けた構造が開示されている。
特許文献2では、平面滑り支承の摺動領域に、低摩擦領域と高摩擦領域とを備えた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-303928号公報
【特許文献2】特開2021-156390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
球面滑り支承において、上部構造体と下部構造体との相対変位の特性を調整することが求められる。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、免震機能を保ちつつ、上部構造体と下部構造体との相対変位の特性を調整可能とした球面滑り支承を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の態様1に係る球面滑り支承は、上部構造体と下部構造体との間に設置される球面滑り支承であって、前記上部構造体の下部に配置され、下方に面する上凹球面を有する上コンケイブと、前記上凹球面と摺動する上凸球面を少なくとも備えるスライダー部と、を備え、前記上凹球面は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、上凹球面は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有する。これにより、上凸球面が第一低摩擦領域と接している場合において、スライダー部と上コンケイブとを摺動しやすくすることができる。上凸球面が第一高摩擦領域と接している場合において、スライダー部と上コンケイブとを摺動しにくくすることができる。したがって、スライダー部と上コンケイブとの摺動のしやすさを保ちつつ、必要以上に摺動することを抑えることができる。よって、第一低摩擦領域及び第一高摩擦領域の大きさや形状を調整することで、免震機能を保ちつつ、上部構造体と下部構造体との相対変位の特性を調整可能とすることができる。
【0008】
上コンケイブの上凹球面が下方に面し、スライダー部は上凸球面において上凹球面と摺動する。つまり、スライダー部の上に上コンケイブが位置し、上凸球面が上凹球面によって覆われる。これにより、上凸球面と上凹球面との間に水滴や埃が溜まることを抑えることができる。
【0009】
<2>本発明の態様2に係る球面滑り支承は、態様1に係る球面滑り支承において、前記上コンケイブの平面視において、前記第一低摩擦領域が前記上凹球面の中心側に配置されることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、上コンケイブの平面視において、第一低摩擦領域が上凹球面の中心側に配置される。これにより、スライダー部と上コンケイブとの摺動を相対的に小さな外力によって開始させることができる。比較的大きな外力に対しては、第一低摩擦領域の外周部に位置する第一高摩擦領域においてスライダー部と上コンケイブとの摺動量を小さくすることができる。
したがって、球面滑り支承において、例えば、想定内の地震(例えば、レベル1又は2の地震)に対する、免震装置としての機能を担保することができる。想定外の地震(例えば、レベル3以上の地震)に対する、スライダー部と上コンケイブとの水平方向における相対変位の最大量を小さくすることができる。
よって、球面滑り支承を必要以上に大きく形成することを不要として、製造費用の低下に寄与することができる。また、球面滑り支承を備える上部構造体において、隣接する構造体等に対して必要以上に間隔を設けることを不要とすることができる。
【0011】
<3>本発明の態様3に係る球面滑り支承は、態様1に係る球面滑り支承において、前記上コンケイブの平面視において、前記第一高摩擦領域が前記上凹球面の中心側に配置されることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、上コンケイブの平面視において、第一高摩擦領域が上凹球面の中心側に配置される。これにより、スライダー部と上コンケイブとの摺動を、比較的小さな外力によっては開始させないようにすることができる。
したがって、例えば、上部構造体が風の影響を受けやすい条件にある場合において、強風によって上部構造体に付加される外力によっては、スライダー部と上コンケイブとを摺動させないようにすることができる。地震によって上部構造体に付加される外力によっては、スライダー部と上コンケイブとを摺動するようにすることができる。
よって、球面滑り支承において免震装置としての機能を担保しつつ、不必要にスライダー部と上コンケイブとが摺動することを抑えることができる。
【0013】
<4>本発明の態様4に係る球面滑り支承は、態様1から態様3のいずれか1つに係る球面滑り支承において、前記下部構造体の上部に配置され、上方に面する下凹球面を有する下コンケイブを更に備え、前記スライダー部は、前記下凹球面と摺動する下凸球面を更に備え、前記下凹球面は、第二低摩擦領域と、第二高摩擦領域と、を有することを特徴とする
【0014】
この発明によれば、下コンケイブを更に備える。これにより、上部構造体と下部構造体との水平方向における相対変位量を大きくすることができる。したがって、球面滑り支承の大きさを小さくしつつ、上部構造体と下部構造体との相対変位量を確保することができる。
【0015】
下凹球面は、第二低摩擦領域と、第二高摩擦領域と、を有する。これにより、下凸球面が第二低摩擦領域と接している場合において、スライダー部と下コンケイブとを摺動しやすくすることができる。下凸球面が第二高摩擦領域と接している場合において、スライダー部と下コンケイブとを摺動しにくくすることができる。したがって、スライダー部と下コンケイブとの摺動のしやすさを保ちつつ、必要以上に摺動することを抑えることができる。
【0016】
<5>本発明の態様5に係る球面滑り支承は、態様4に係る球面滑り支承において、前記第一低摩擦領域の形状と前記第二低摩擦領域の形状とが同じであり、前記第一高摩擦領域の形状と前記第二高摩擦領域の形状とが同じであることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、第一低摩擦領域の形状と第二低摩擦領域の形状とが同じであり、第一高摩擦領域の形状と第二高摩擦領域の形状とが同じである。これにより、スライダー部と上コンケイブ及び下コンケイブとを摺動しやすくすべき領域と、摺動しにくくすべき領域と、を明確に区別しやすくすることができる。よって、第一低摩擦領域と第二低摩擦領域の形状及び第一高摩擦領域と第二高摩擦領域の形状がそれぞれ異なる場合と比較して、より球面滑り支承において求められる性能を担保しやすくすることができる。
【0018】
<6>本発明の態様6に係る球面滑り支承は、態様1から態様5のいずれか1つに係る球面滑り支承において、前記第一低摩擦領域の外縁と前記第一高摩擦領域の外縁とが、同心円状に配置されることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、第一低摩擦領域の外縁と第一高摩擦領域の外縁とが、同心円状に配置される。これにより、水平面におけるいずれの方向においても、スライダー部と上コンケイブ及び下コンケイブとの摺動の特性を同じにすることができる。
【0020】
<7>本発明の態様7に係る球面滑り支承は、態様1から態様6のいずれか1つに係る球面滑り支承において、前記第一低摩擦領域と前記第一高摩擦領域とが、水平方向に交互に配置されることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、第一低摩擦領域と第一高摩擦領域とが、水平方向に交互に配置される。これにより、スライダー部は、1つの方向に変位する際、第一低摩擦領域と第一高摩擦領域とにそれぞれ複数回接触する。このとき、第一低摩擦領域及び第一高摩擦領域の大きさをそれぞれ適宜調整することで、スライダー部と上コンケイブとの摺動の特性を調整しやすくすることができる。よって、上部構造体に求められる変位の特性に対して、柔軟に対応することができる。
【0022】
<8>本発明の態様8に係る球面滑り支承は、態様1から態様7のいずれか1つに係る球面滑り支承において、水平方向のうち任意の方向である第1方向において、前記第一低摩擦領域と前記第一高摩擦領域とが交互に配置されることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、第1方向において、第一低摩擦領域と第一高摩擦領域とが交互に配置される。これにより、第1方向において、スライダー部と上コンケイブとの摺動を規制しやすくすることができる。第1方向に直交する方向において、スライダー部と上コンケイブとを摺動させやすくすることができる。
したがって、第1方向において、上部構造体と下部構造体とを相対変位させにくくすることができる。第1方向と直交する方向において、上部構造体と下部構造体とを相対変位させやすくすることができる。よって、上部構造体に許容される変位方向の条件に対して、柔軟に対応することができる。
【0024】
<9>本発明の態様9に係る球面滑り支承は、態様8に係る球面滑り支承において、前記上部構造体は橋梁であり、前記第1方向は前記橋梁の橋軸に直交する方向であることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、上部構造体は橋梁である。ここで、橋梁は、橋軸に直交する方向における振動は規制されることが好ましい。橋梁は、橋軸方向に沿う方向における振動に対しては比較的余裕がある。これに対し、第1方向は橋梁の橋軸に直交する方向である。つまり、橋軸に直交する方向に沿って第一低摩擦領域と第一高摩擦領域とが交互に配置される。これにより、橋梁と下部構造体(例えば、地盤に配置された基礎構造)とが、橋軸に直交する方向に相対変位することを抑えることができる。よって、橋梁の安全性を向上することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、免震機能を保ちつつ、上部構造体と下部構造体との相対変位の特性を調整可能とした球面滑り支承を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】
図1において、球面滑り支承の上コンケイブと下コンケイブとが相対変位した状態を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る上コンケイブ及び下コンケイブの平面視である。
【
図4】
図3に示す上コンケイブ及び下コンケイブを備えた球面滑り支承に比較的小さな外力が付加された場合の、上コンケイブと下コンケイブとの相対変位の履歴を示すグラフである。
【
図5】
図3に示す上コンケイブ及び下コンケイブを備えた球面滑り支承に比較的大きな外力が付加された場合の、上コンケイブと下コンケイブとの相対変位の履歴を示すグラフである。
【
図6】
図3に示す上コンケイブ及び下コンケイブにおいて、更に第一低摩擦領域を備えた例である。
【
図7】
図6に示す上コンケイブ及び下コンケイブを備えた球面滑り支承に比較的大きな外力が付加された場合の、上コンケイブと下コンケイブとの相対変位の履歴を示すグラフである。
【
図8】上コンケイブ及び下コンケイブの第1変形例である。
【
図9】上コンケイブ及び下コンケイブの第2変形例である。
【
図10】第3実施形態に係る上コンケイブ及び下コンケイブの平面視である。
【
図11】
図10に示す上コンケイブ及び下コンケイブにおいて、更に第一低摩擦領域を備えた例である。
【
図12】上コンケイブ及び下コンケイブの第3変形例である。
【
図13】上コンケイブ及び下コンケイブの第4変形例である。
【
図14】
図13に示す上コンケイブ及び下コンケイブを備えた球面滑り支承に比較的大きな外力が付加された場合の、上コンケイブと下コンケイブとの相対変位の履歴を示すグラフである。
【
図15】第3実施形態に係る上コンケイブ及び下コンケイブの平面視である。
【
図16】
図15に示す上コンケイブ及び下コンケイブにおいて、更に第一低摩擦領域を備えた例である。
【
図17】上コンケイブ及び下コンケイブの第5変形例である。
【
図18】上コンケイブ及び下コンケイブの第6変形例である。
【
図19】球面滑り支承を橋梁に配置する際の第1例である。
【
図20】球面滑り支承を橋梁に配置する際の第2例である。
【
図21】球面滑り支承を橋梁に配置する際の第3例である。
【
図22】上コンケイブ及び下コンケイブの第7変形例である。
【
図23】上コンケイブ及び下コンケイブの第8変形例である。
【
図24】上コンケイブ及び下コンケイブの第9変形例である。
【
図25】上コンケイブ及び下コンケイブの第10変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る球面滑り支承100を説明する。
図1に示すように、球面滑り支承100は、上部構造体Uと下部構造体Lとの間に設置される。
上部構造体Uは、例えば、ビルや橋梁などをはじめとする建物である。下部構造体Lは、例えば、上部構造体Uの基礎構造である。下部構造体Lは、例えば、地盤と上部構造体Uとの間に設置される基礎構造である。これにより、地盤の上に上部構造体Uを支持する。
球面滑り支承100は、例えば、地震が発生した際、
図2に示すように、上部構造体Uと下部構造体Lとを水平方向に相対変位させる。これにより、球面滑り支承100は、下部構造体Lの振動が上部構造体Uに伝達されにくくする。
【0029】
本実施形態において、上部構造体Uはビルである。球面滑り支承100は、例えば、基礎免震に用いられる。球面滑り支承100は、ビルである上部構造体Uの下部と下部構造体Lとの間に設けられて用いられる。
球面滑り支承100は、中間層免震に用いられてもよい。具体的には、球面滑り支承100は、ビルである上部構造体Uの中間層に用いられてもよい。例えば、上部構造体Uが高さ200mのビルである場合において、球面滑り支承100を、地上から10m~50mの高さの部位に配置してもよい。
以下、球面滑り支承100の方向を示す際、水平方向のうち任意の方向を第1方向D1と呼称することがある。第1方向D1に直交する方向を第2方向D2と呼称することがある。
【0030】
球面滑り支承100は、上コンケイブ10と、下コンケイブ20と、スライダー部30と、を備える。本実施形態における球面滑り支承100は、いわゆるダブルペンデュラムと呼ばれる方式である。
上コンケイブ10は、上部構造体Uの下部に配置される。上コンケイブ10と上部構造体Uとは、例えば、ボルトによって相対移動不可に固定される。上コンケイブ10と上部構造体Uとは、溶接によって固定されてもよい。
上コンケイブ10は、下方に面する上凹球面11を有する。上凹球面11は、第一低摩擦領域11aと、第一高摩擦領域11bと、を有する。
【0031】
第一低摩擦領域11aは、上凹球面11における、比較的摩擦係数が低い領域である。具体的には、第一低摩擦領域11aは、少なくとも第一高摩擦領域11b及び後述する第二高摩擦領域21bよりも摩擦係数が低い領域である。
第一低摩擦領域11aは、後述するスライダー部30との摺動をしやすくするための部位である。第一低摩擦領域11aは、上凹球面11の表面粗さを細かくすることによって形成される。具体的には、第一低摩擦領域11aは、例えば、上凹球面11の表面を研磨することによって形成される。
第一低摩擦領域11aの摩擦係数は、0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。なお、第一低摩擦領域11aの摩擦係数は、例えば、二軸せん断試験装置を使用した鉛直-水平載荷試験方法により測定される。上述の摩擦係数を達成するために、例えば、第一低摩擦領域11aを鏡面加工されたSUS板として、スライダー部30の摩擦材を二重織物(後述する)とすることが好ましい。
【0032】
第一高摩擦領域11bは、上凹球面11における、比較的摩擦係数が高い領域である。具体的には、第一高摩擦領域11bは、少なくとも第一低摩擦領域11a及び後述する第二低摩擦領域21aよりも摩擦係数が高い領域である。
第一高摩擦領域11bは、スライダー部30との摺動をしにくくするための部位である。第一高摩擦領域11bは、上凹球面11の表面粗さを粗くすることによって形成される。具体的には、第一高摩擦領域11bは、例えば、上凹球面11の表面にブラスト処理を施すことによって形成される。第一高摩擦領域11bは、上凹球面11の表面に切削加工等によって複数の溝を設けることによって形成されてもよい。
【0033】
第一高摩擦領域11bの摩擦係数は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。なお、第一高摩擦領域11bの摩擦係数は、例えば、二軸せん断試験装置を使用した鉛直-水平載荷試験の方法により測定される。
上凹球面11における第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係については後述する。
【0034】
下コンケイブ20は、下部構造体Lの上部に配置される。下コンケイブ20と下部構造体Lとは、例えば、ボルトによって相対移動不可に固定される。下コンケイブ20と下部構造体Lとは、溶接によって固定されてもよい。
下コンケイブ20は、上方に面する下凹球面21を有する。下凹球面21は、第二低摩擦領域21aと、第二高摩擦領域21bと、を有する。
【0035】
第二低摩擦領域21aは、下凹球面21における、比較的摩擦係数が低い領域である。具体的には、第二低摩擦領域21aは、少なくとも第二高摩擦領域21b及び第一高摩擦領域11bよりも摩擦係数が低い領域である。
第二低摩擦領域21aは、スライダー部30との摺動をしやすくするための部位である。第二低摩擦領域21aは、下凹球面21の表面粗さを細かくすることによって形成される。具体的には、第二低摩擦領域21aは、例えば、下凹球面21の表面を研磨することによって形成される。
第二低摩擦領域21aの摩擦係数は、0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。第二低摩擦領域21aの摩擦係数は、例えば、二軸せん断試験装置を使用した鉛直-水平載荷試験の方法により測定される。上述の摩擦係数を達成するために、例えば、第二低摩擦領域21aを鏡面加工されたSUS板として、スライダー部30の摩擦材を二重織物(後述する)とすることが好ましい。
【0036】
第二高摩擦領域21bは、下凹球面21における、比較的摩擦係数が高い領域である。具体的には、第二高摩擦領域21bは、少なくとも第二低摩擦領域21a及び第一低摩擦領域11aよりも摩擦係数が高い領域である。
第二高摩擦領域21bは、スライダー部30との摺動をしにくくするための部位である。第二高摩擦領域21bは、下凹球面21の表面粗さを粗くすることによって形成される。具体的には、第二高摩擦領域21bは、例えば、下凹球面21の表面にブラスト処理を施すことによって形成される。第二高摩擦領域21bは、下凹球面21の表面に切削加工等によって複数の溝を設けることによって形成されてもよい。
【0037】
第二高摩擦領域21bの摩擦係数は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。第二高摩擦領域21bの摩擦係数は、例えば、二軸せん断試験装置を使用した鉛直-水平載荷試験の方法により測定される。
下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係については、上凹球面11における第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係と併せて後述する。
なお、第一低摩擦領域11aの摩擦係数と第二低摩擦領域21aの摩擦係数とは、同じであってもよい。第一高摩擦領域11bの摩擦係数と第二高摩擦領域21bの摩擦係数とは、同じであってもよい。
【0038】
スライダー部30は、上コンケイブ10の下に配置される。スライダー部30は、上凹球面11と摺動する上凸球面31と、下凹球面21と摺動する下凸球面32と、を備える。
上凸球面31及び下凸球面32の表面には、例えば、摩擦材が設けられる。これにより、スライダー部30を、上コンケイブ10及び下コンケイブ20に対して摺動しやすくすることが好ましい。
【0039】
ここで、摩擦材は、例えば、少なくともPTFEを素材とする摩擦材である。摩擦材は二重織物により形成され、二重織物は、PTFE繊維(polytetrafluoroethylene、ポリテトラフルオロエチレン)と、PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維(高強度繊維)とにより形成される。ここで、「PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維」としては、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルやパラアラミドなどの繊維を挙げることができる。また、メタアラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、カーボン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、LCP、ポリイミド、PEEKなどの繊維を挙げることができる。また、さらに、熱融着繊維や綿、ウールなどの繊維を適用してもよい。その中でも、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、引張強度の極めて高いPPS繊維が望ましい。
【0040】
尚、少なくともPTFEを素材とする摩擦材としては、二重織物以外のPTFE繊維を含む織物でもよく、また、PTFEのみを素材とする摩擦材、PTFEと他の樹脂の複合素材からなる摩擦材、PTFEを素材とする摩擦材と他の樹脂を素材とする摩擦材との積層構造の摩擦材などであってもよい。また、摩擦材には、合撚繊維を用いてもよい。
【0041】
本実施形態において、上凹球面11における第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係については、以下のように構成される。すなわち、
図3に示す平面視のように、第一低摩擦領域11aの外縁と第一高摩擦領域11bの外縁とが、同心円状に配置される。このとき、上コンケイブ10の平面視において、第一低摩擦領域11aが上凹球面11の中心側に配置される。
このような配置は、例えば、建築や橋梁等において想定外の極大地震が発生した時、上コンケイブ10と下コンケイブ20との水平方向の変位を抑える用途に好適に用いられる。これにより、例えば、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが過度に変位して、上コンケイブ10が下コンケイブ20から脱落することを抑える。
【0042】
第一低摩擦領域11aを上凹球面11の中心側に配置することで、スライダー部30と上コンケイブ10との摺動を比較的小さな外力によって開始させる。第一高摩擦領域11bを第一低摩擦領域11aの外側に配置することで、比較的大きな外力に対するスライダー部30と上コンケイブ10との摺動量を小さくする。
【0043】
下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係については、以下のように構成される。すなわち、第一低摩擦領域11aの形状と第二低摩擦領域21aの形状とが同じであり、第一高摩擦領域11bの形状と第二高摩擦領域21bの形状とが同じであるように形成される。これにより、球面滑り支承100において上述した性能をより担保しやすくする。
【0044】
上述の構成を備えた球面滑り支承100について、地震によって負荷される外力の大きさ(kN)を縦軸に、外力に対する上コンケイブ10と下コンケイブ20との相対変位(mm)の大きさを横軸にとったグラフを、
図4及び
図5に示す。後述する
図7、
図14においても、縦軸及び横軸の関係は同じである。
【0045】
図4は、球面滑り支承100に比較的小さな外力が付加された場合を示す。
図5は、球面滑り支承100に比較的大きな外力が付加された場合を示す。本実施形態において、外力は、地震によって付加される。地震によって付加される球面滑り支承100に付加される外力は、周期的に作用する向き及び大きさが変化することを前提に説明する。
【0046】
上述した比較的小さな外力とは、例えば、レベル1又は2の地震によって付加される。比較的大きな外力とは、例えば、レベル3以上の地震によって付加される。ここで、地震のレベルについて、「2020年版 建築物の構造関係技術基準解説書」(編集 一般財団法人 建築行政情報センター、一般財団法人 日本建築防災協会;71頁)の記載に基づき、以下のように規定する。すなわち、稀に起きる(50年に一度程度)震度をレベル1とする。レベル1地震は、例えば、建物の耐用年数中に一度以上は発生する可能性が高い。極めて稀に起きる(500年に一度程度)震度をレベル2とする。また、レベル2地震動よりも規模の大きな極大地震動をレベル3とする。
【0047】
球面滑り支承100に比較的小さな外力が付加された場合は、変位の大きさも比較的小さい。この場合は、上凹球面11及び下凹球面21と摺動するスライダー部30が、第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bに接触しない。よって、荷重の増加に対する変位の増加の割合は、次の通りとなる。
【0048】
すなわち、
図4に示すように、球面滑り支承100は、外力が発生した直後から変位を開始する。このとき、原点Oから第1点P1にかけては、球面滑り支承100が静止状態から変位を開始した際の変位を示す。この原点Oから第1点P1にかけての曲線の傾きが他の曲線と異なるのは、摩擦材のせん断変形、あるいは、球面滑り支承100まわりのせん断剛性の影響によるものである。球面滑り支承100が変位を開始した後は、第1点P1から第2点P2にかけて示すように、他の曲線と同様の傾きで変位及び外力が推移する。
【0049】
第2点P2において、第1の向きへの外力の大きさが最大となると、第2点P2から第3点P3に示すように、外力の向きが変化する。これに伴い、第3点P3から第4点P4に示すように、変位の向きが変化する。
第4点P4において、第2の向きへの外力の大きさが最大となると、第4点P4から第5点P5に示すように、外力の向きが変化する。これに伴い、第5点P5から第2点P2に示すように、変位の向きが変化する。球面滑り支承100は、地震が収まって外力が発生しなくなるまで、上述の変化を継続する。
【0050】
球面滑り支承100に比較的大きな外力が付加された場合は、変位の大きさも比較的大きい。この場合は、上凹球面11及び下凹球面21と摺動するスライダー部30が、第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bに接触する。よって、荷重の増加に対する変位の増加の割合は、次の通りとなる。
【0051】
すなわち、
図5に示すように、原点Oから第1点P1までと、第1点P1から第6点P6までは、外力が比較的小さい場合と同様に変位する。スライダー部30が第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bに接触すると、第6点P6から第7点P7までに示すように、荷重の変化に対して変位の変化量が少なくなる。
【0052】
第7点P7において、第1の向きへの外力の大きさが最大となると、第7点P7から第8点P8に示すように、外力の向きが変化する。これに伴い、第8点P8から第9点P9に示すように、変位の向きが変化する。第8点P8から第9点P9までは、第6点P6から第7点P7までと同様に、荷重の変化に対する変位の変化量が少ない。スライダー部30が第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bから離れると、第9点P9から第10点P10に示すように、外力が比較的小さい場合と同様に変位する。
【0053】
スライダー部30が再び第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bに接触すると、第10点P10から第11点P11までに示すように、荷重の変化に対して変位の変化量が少なくなる。第11点P11において、第2の向きへの外力の大きさが最大となると、第11点P11から第12点P12に示すように、外力の向きが変化する。これに伴い、第12点P12から第13点P13に示すように、変位の向きが変化する。
【0054】
第12点P12から第13点P13までは、第10点P10から第11点P11までと同様に、荷重の変化に対する変位の変化量が少ない。スライダー部30が第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bから離れると、第13点P13から第6点P6に示すように、外力が比較的小さい場合と同様に変位する。球面滑り支承100は、地震が収まって外力が発生しなくなるまで、上述の変化を継続する。
【0055】
第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係、及び第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係を上述したように構成することで、レベル1又は2の地震に対する免震装置としての機能を担保する。レベル3以上の地震に対する、スライダー部30と上コンケイブ10及び下コンケイブ20との水平方向における相対変位の最大量を小さくする。
【0056】
図6に示す変形例のように、第一低摩擦領域11aの外縁と第一高摩擦領域11bの外縁とを同心円状に配置することに加えて、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとが、水平方向に交互に配置されるようにしてもよい。下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係についても同様にしてもよい。
このような配置は、例えば、建築や橋梁等において想定外の極大地震が発生した時、上コンケイブ10と下コンケイブ20との水平方向の変位を抑えることに加えて、上コンケイブ10、下コンケイブ20、及びスライダー部30のそれぞれの間で発生する水平荷重が大きくなりすぎないようにする際に好適に用いられる。これにより、例えば、下コンケイブ20を介して下部構造体Lに伝達される水平荷重による負荷を低減する。また、下部構造体Lを簡素にできるようにすることで、費用の削減に寄与する。
この場合において、球面滑り支承100に比較的大きな外力が付加されると、荷重の増加に対する変位の増加の割合は、次の通りとなる。
【0057】
すなわち、
図7に示すように、原点Oから第1点P1までと、第1点P1から第14点P14までは、外力が比較的小さい場合と同様に変位する。スライダー部30が、内側に位置する第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bに接触すると、第14点P14から第15点P15までに示すように、荷重の変化に対して変位の変化量が少なくなる。
【0058】
スライダー部30が、外側に位置する第一低摩擦領域11a及びと第二低摩擦領域21aに接触すると、第15点P15から第16点P16までに示すように、荷重の変化に対して変位の変化量が大きくなる。
第16点P16において、第1の向きへの外力の大きさが最大となると、第16点P16から第17点P17に示すように、外力の向きが変化する。これに伴い、第17点P17から第18点P18に示すように、変位の向きが変化する。第17点P17から第18点P18までは、第15点P15から第16点P16までと同様に、荷重の変化に対する変位の変化量が大きい。
【0059】
スライダー部30が、再び内側に位置する第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bに接触すると、第18点P18から第19点P19に示すように、荷重の変化に対する変位の変化量が小さくなる。
スライダー部30が外側に位置する第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bから離れると、第19点P19から第20点P20に示すように、外力が比較的小さい場合と同様に変位する。
【0060】
スライダー部30が再び内側に位置する第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bに接触すると、第20点P20から第21点P21までに示すように、荷重の変化に対して変位の変化量が少なくなる。
スライダー部30が、外側に位置する第一低摩擦領域11a及びと第二低摩擦領域21aに接触すると、第21点P21から第22点P22までに示すように、荷重の変化に対して変位の変化量が大きくなる。
【0061】
第22点P22において、第2の向きへの外力の大きさが最大となると、第22点P22から第23点P23に示すように、外力の向きが変化する。これに伴い、第23点P23から第24点P24に示すように、変位の向きが変化する。第23点P23から第24点P24までは、第21点P21から第22点P22までと同様に、荷重の変化に対する変位の変化量が大きい。
【0062】
スライダー部30が、再び内側に位置する第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bに接触すると、第24点P24から第25点P25に示すように、荷重の変化に対する変位の変化量が小さくなる。
スライダー部30が外側に位置する第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bから離れると、第25点P25から第14点P14に示すように、外力が比較的小さい場合と同様に変位する。球面滑り支承100は、地震が収まって外力が発生しなくなるまで、上述の変化を継続する。
【0063】
図8に示す変形例のように、上凹球面11における第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係は、円状の第一低摩擦領域11aの上に、長方形状の第一高摩擦領域11bが、長辺が第1方向D1及び第2方向D2に沿うように複数配置されてもよい。下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係についても同様にしてもよい。
【0064】
このような配置は、例えば、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが水平方向において変位する方向を意図的に偏らせる際に好適に用いられる。すなわち、例えば、上凹球面11の中心側から外側にむけて第一高摩擦領域11b又は第二高摩擦領域21bが延びる方向、つまり、
図8に示す変形例における第1方向D1及び第2方向D2に、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位しにくくする必要がある際に好適に用いられる。
【0065】
例えば、
図8に示す変形例に係る球面滑り支承100を橋梁に配置し、第1方向D1が橋軸直角方向、第2方向D2が橋軸方向に沿うようにすることで、橋梁における球面滑り支承100が配置された部位を橋軸方向及び橋軸直角方向に変位しにくくさせることができる。
【0066】
図19、
図20、
図21を用いて、
図8に示す変形例に係る球面滑り支承100を橋梁Bに配置する例について説明する。以下の説明において、橋梁Bは、例えば、橋桁Gの両端を、それぞれ道路Rに接続することで、互いに離れて位置する道路R同士の間を移動可能とするものであるとする。なお、
図8に示す変形例に係る球面滑り支承100は、それぞれ、第1方向D1が橋梁Bの橋軸直角方向、第2方向D2が橋梁Bの橋軸方向に沿うように配置されるものとする。
【0067】
例えば、
図19に示すように、橋桁Gの橋軸方向の一方の端部に
図8に示す変形例に係る球面滑り支承100を配置し、橋桁Gの橋軸方向の他方の端部に第一低摩擦領域11a及び第二低摩擦領域21aのみを備える球面滑り支承100を配置する。
例えば、道路R同士の間隔が大きい場合は、
図20に示すように、
図19のような関係を有する橋桁Gと球面滑り支承100との組み合わせを、橋軸方向に沿って複数配置してもよい。
【0068】
例えば、道路R同士の間隔が大きい場合は、
図21に示すように、
図19及び
図20に示す橋桁Gよりも長尺の橋桁Gを配置してもよい。この場合、例えば、橋桁Gの橋軸方向の両端部に第一低摩擦領域11a及び第二低摩擦領域21aのみを備える球面滑り支承100を配置し、橋桁Gの橋軸方向の中間部に
図8に示す変形例に係る球面滑り支承100を配置する。
【0069】
これらのような配置とすることで、橋桁Gのうち、
図8に示す変形例に係る球面滑り支承100が配置された部位を、橋軸方向及び橋軸直角方向に変位しにくくする。橋桁Gのうち、第一低摩擦領域11a及び第二低摩擦領域21aのみを備える球面滑り支承100が配置された部位を、橋軸方向及び橋軸直角方向に変位しやすくする。これにより、例えば、橋梁Bを、橋桁Gの気温による膨張及び収縮に対応しやすくする。例えば、橋梁Bを、橋桁Gの上を走行する車両がブレーキにより制動された際に生じる荷重等に対応できるようにする。
【0070】
図9に示す変形例のように、上凹球面11における第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係は、円状の第一低摩擦領域11aの上に、三角形状の第一高摩擦領域11bが、頂点が第一低摩擦領域11aの中央に向くように複数配置されてもよい。下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係についても同様にしてもよい。
【0071】
このような配置は、例えば、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが水平方向において変位する方向を意図的に偏らせる際に好適に用いられる。すなわち、例えば、上凹球面11の中心側から外側にむけて第一高摩擦領域11b又は第二高摩擦領域21bが延びる方向、つまり、
図9に示す変形例における第1方向D1に、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位しにくくする必要がある際に好適に用いられる。また、第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bが三角形状となっていることで、スライダー部30が第1方向D1に向かって移動するにつれて、スライダー部30と第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bとが接する領域が大きくなるとともに、スライダー部30と上凹球面11及び下凹球面21との間に生じる摩擦力が大きくなる。これにより、上コンケイブ10と下コンケイブ20との変位が大きくなるにつれて、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位しにくくなるようにする。
【0072】
例えば、
図9に示す変形例に係る球面滑り支承100を橋梁に配置し、第1方向D1が橋軸直角方向に沿うようにすることで、橋梁における球面滑り支承100が配置された部位を橋軸直角方向に変位しにくくさせることができる。このように、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが橋軸直角方向に相対変位しないように拘束することで、例えば、橋梁である上部構造体Uの近くに隣接する橋桁や建築物に対して、上部構造体Uを干渉させないようにすることができる。
例えば、
図9に示す変形例に係る球面滑り支承100を建物に配置し、第1方向D1が前記建物に隣接する建物が位置する方向に沿うようにすることで、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位することによって、前記建物が、前記建物に隣接する建物に接近又は干渉することを抑えることができる。
【0073】
以上説明したように、本発明の第1実施形態に係る球面滑り支承100によれば、上凹球面11は、第一低摩擦領域11aと、第一高摩擦領域11bと、を有する。これにより、上凸球面31が第一低摩擦領域11aと接している場合において、スライダー部30と上コンケイブ10とを摺動しやすくすることができる。上凸球面31が第一高摩擦領域11bと接している場合において、スライダー部30と上コンケイブ10とを摺動しにくくすることができる。したがって、スライダー部30と上コンケイブ10との摺動のしやすさを保ちつつ、必要以上に摺動することを抑えることができる。よって、第一低摩擦領域11a及び第一高摩擦領域11bの大きさや形状を調整することで、免震機能を保ちつつ、上部構造体Uと下部構造体Lとの相対変位の特性を調整可能とすることができる。
【0074】
上コンケイブ10の上凹球面11が下方に面し、スライダー部30は上凸球面31において上凹球面11と摺動する。つまり、スライダー部30の上に上コンケイブ10が位置し、上凸球面31が上凹球面11によって覆われる。これにより、上凸球面31と上凹球面11との間に水滴や埃が溜まることを抑えることができる。
【0075】
また、上コンケイブ10の平面視において、第一低摩擦領域11aが上凹球面11の中心側に配置される。これにより、スライダー部30と上コンケイブ10との摺動を相対的に小さな外力によって開始させることができる。比較的大きな外力に対しては、第一低摩擦領域11aの外周部に位置する第一高摩擦領域11bにおいてスライダー部30と上コンケイブ10との摺動量を小さくすることができる。
したがって、球面滑り支承100において、例えば、想定内の地震(例えば、レベル1又は2の地震)に対する、免震装置としての機能を担保することができる。想定外の地震(例えば、レベル3以上の地震)に対する、スライダー部30と上コンケイブ10との水平方向における相対変位の最大量を小さくすることができる。
よって、球面滑り支承100を必要以上に大きく形成することを不要として、製造費用の低下に寄与することができる。また、球面滑り支承100を備える上部構造体Uにおいて、隣接する構造体等に対して必要以上に間隔を設けることを不要とすることができる。
【0076】
また、下コンケイブ20を更に備える。これにより、上部構造体Uと下部構造体Lとの水平方向における相対変位量を大きくすることができる。したがって、球面滑り支承100の大きさを小さくしつつ、上部構造体Uと下部構造体Lとの相対変位量を確保することができる。
【0077】
下凹球面21は、第二低摩擦領域21aと、第二高摩擦領域21bと、を有する。これにより、下凸球面32が第二低摩擦領域21aと接している場合において、スライダー部30と下コンケイブ20とを摺動しやすくすることができる。下凸球面32が第二高摩擦領域21bと接している場合において、スライダー部30と下コンケイブ20とを摺動しにくくすることができる。したがって、スライダー部30と下コンケイブ20との摺動のしやすさを保ちつつ、必要以上に摺動することを抑えることができる。
【0078】
また、第一低摩擦領域11aの形状と第二低摩擦領域21aの形状とが同じであり、第一高摩擦領域11bの形状と第二高摩擦領域21bの形状とが同じである。これにより、スライダー部30と上コンケイブ10及び下コンケイブ20とを摺動しやすくすべき領域と、摺動しにくくすべき領域と、を明確に区別しやすくすることができる。よって、第一低摩擦領域11aと第二低摩擦領域21aの形状及び第一高摩擦領域11bと第二高摩擦領域21bの形状がそれぞれ異なる場合と比較して、より球面滑り支承100において求められる性能を担保しやすくすることができる。
【0079】
また、第一低摩擦領域11aの外縁と第一高摩擦領域11bの外縁とが、同心円状に配置される。これにより、水平面におけるいずれの方向においても、スライダー部30と上コンケイブ10及び下コンケイブ20との摺動の特性を同じにすることができる。
【0080】
また、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとが、水平方向に交互に配置される。これにより、スライダー部30は、1つの方向に変位する際、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとにそれぞれ複数回接触する。このとき、第一低摩擦領域11a及び第一高摩擦領域11bの大きさをそれぞれ適宜調整することで、スライダー部30と上コンケイブ10との摺動の特性を調整しやすくすることができる。よって、上部構造体Uに求められる変位の特性に対して、柔軟に対応することができる。
【0081】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態の球面滑り支承100を説明する。
なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
図10に示すように、本実施形態に係る球面滑り支承100は、上コンケイブ10の平面視において、第一高摩擦領域11bが上凹球面11の中心側に配置される。下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係についても同様である。この点で第1実施形態と相違する。
このような配置は、例えば、球面滑り支承100に付加される力が比較的小さい場合には、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位しないようにし、球面滑り支承100に付加される力が比較的大きい場合に、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位するようにする際に好適に用いられる。
【0082】
球面滑り支承100に付加される力のうち、比較的小さいものは、例えば、球面滑り支承100が配置された建物や橋梁に風が当たることで発生する力や、球面滑り支承100が配置された橋梁の橋桁の上を走行する車両がブレーキにより制動された際に生じる荷重等である。
球面滑り支承100に付加される力のうち、比較的大きいものは、例えば、地震により発生する力である。
これにより、例えば、球面滑り支承100が風等によって変位することを抑えつつ、地震に対しては十分に免震機能を発揮できるようにする。
【0083】
図10に示すように、第一低摩擦領域11aの外縁と第一高摩擦領域11bの外縁とが、同心円状に配置される。このとき、上コンケイブ10の平面視において、第一低摩擦領域11aが上凹球面11の中心側に配置される。
図11に示す変形例のように、第一低摩擦領域11aの外縁と第一高摩擦領域11bの外縁とを同心円状に配置することに加えて、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとが、水平方向に交互に配置されるようにしてもよい。下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係についても同様にしてもよい。
【0084】
このような配置は、例えば、球面滑り支承100に付加される力が比較的小さい場合には、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位しないようにし、球面滑り支承100に付加される力が比較的大きい場合に、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位するようにすることに加え、上コンケイブ10と下コンケイブ20との変位を抑える必要がある際に好適に用いられる。すなわち、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位を開始した後においても、スライダー部30と第一高摩擦領域11b及び第二高摩擦領域21bとが接触するようにすることで、上コンケイブ10と下コンケイブ20との変位量を小さくする。これにより、例えば、球面滑り支承100の大きさを小さくすることができる。
【0085】
図12に示す変形例のように、上凹球面11における第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係は、円状の第一高摩擦領域11bの上に、長方形状の第一低摩擦領域11aが、長辺が第1方向D1及び第2方向に沿うように複数配置されてもよい。下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係についても同様にしてもよい。
【0086】
このような配置は、例えば、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが水平方向において変位する方向を意図的に偏らせる際に好適に用いられる。すなわち、例えば、上凹球面11の中心側から外側にむけて第一低摩擦領域11a又は第二低摩擦領域21aが延びる方向、つまり、
図12に示す変形例における第1方向D1及び第2方向D2に、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位しやすくする必要がある際に好適に用いられる。
【0087】
例えば上述した、球面滑り支承100を
図19、
図20、
図21に示す橋梁Bに配置するような場合に、
図12に示す変形例に係る球面滑り支承100を、第1方向D1が橋梁Bの橋軸直角方向、第2方向D2が橋梁Bの橋軸方向に沿うように配置することで、橋梁における
図12に示す変形例に係る球面滑り支承100が配置された部位が、橋軸方向及び橋軸直角方向に変位しやすくしつつ、橋軸方向及び橋軸直角方向以外の方向には変位しにくくすることができる。
【0088】
図13に示す変形例のように、上凹球面11における第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係は、円状の第一高摩擦領域11bの上に、三角形状の第一低摩擦領域11aが、頂点が第一高摩擦領域11bの中央に向くように複数配置されてもよい。下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係についても同様にしてもよい。
【0089】
このような配置は、例えば、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが水平方向において変位する方向を意図的に偏らせる際に好適に用いられる。すなわち、例えば、上凹球面11の中心側から外側にむけて第一低摩擦領域11a又は第二低摩擦領域21aが延びる方向、つまり、
図13に示す変形例における第1方向D1に、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位しやすくする必要がある際に好適に用いられる。また、第一低摩擦領域11a及び第二低摩擦領域21aが三角形状となっていることで、スライダー部30が第1方向D1に向かって移動するにつれて、スライダー部30と第一低摩擦領域11a及び第二低摩擦領域21aとが接する領域が大きくなるとともに、スライダー部30と上凹球面11及び下凹球面21との間に生じる摩擦力が小さくなる。これにより、上コンケイブ10と下コンケイブ20との変位が大きくなるにつれて、上コンケイブ10と下コンケイブ20とが変位しやすくなるようにする。
【0090】
例えば、
図13に示す変形例に係る球面滑り支承100を橋梁に配置し、第1方向D1が橋軸方向又は橋軸直角方向のいずれかに沿うようにすることで、橋梁における球面滑り支承100が配置された部位を橋軸方向又は橋軸直角方向に変位しやすくさせることができる。
例えば、
図13に示す変形例に係る球面滑り支承100を建物に配置し、第1方向D1が前記建物に隣接する建物が位置しない方向に沿うようにすることで、前記建物が、前記建物に隣接する建物に接近又は干渉しない方向にのみ変位しやすくすることができる。
【0091】
ここで、
図13に示す変形例においては、第1方向D1にスライダー部30が変位すると、最初に第一低摩擦領域11aの頂点がスライダー部30と接触し、第一低摩擦領域11aとスライダー部30との接触面積が徐々に増加する。よって、この場合における、荷重の増加に対する変位の増加の割合は、次の通りとなる。
【0092】
すなわち、
図14に示すように、スライダー部30が第一低摩擦領域11aの一部及び第二低摩擦領域21aの一部のみと接触している場合、第26点P26から第27点P27までに示すように、荷重の変化に対する変位の変化量が比較的少ない。
スライダー部30が第一低摩擦領域11aの全部及び第二低摩擦領域21aの全部と接触すると、第27点P27から第28点P28に示すように、荷重の変化に対する変位の変化量が比較的大きくなる。
【0093】
第28点P28において、第1の向きへの外力の大きさが最大となると、第28点P28から第29点P29に示すように、外力の向きが変化する。これに伴い、第29点P29から第30点P30に示すように、変位の向きが変化する。第29点P29から第30点P30までは、第27点P27から第28点P28と同様に、荷重の変化に対する変位の変化量が比較的大きい。
【0094】
スライダー部30が第一低摩擦領域11aの一部及び第二低摩擦領域21aの一部のみと接触している状態となると、第30点P30から第31点P31にかけて、第26点P26から第27点P27までと同様に、荷重の変化に対する変位の変化量が比較的少なくなる。
スライダー部30が再び第一低摩擦領域11aの一部及び第二低摩擦領域21aの一部のみと接触すると、第31点P31から第32点P32までに示すように、荷重の変化に対する変位の変化量が比較的少ない状態で変位が増加する。
スライダー部30が第一低摩擦領域11aの全部及び第二低摩擦領域21aの全部と接触すると、第32点P32から第33点P33に示すように、荷重の変化に対する変位の変化量が比較的大きくなる。
【0095】
第33点P33において、第2の向きへの外力の大きさが最大となると、第33点P33から第34点P34に示すように、外力の向きが変化する。これに伴い、第34点P34から第35点P35に示すように、変位の向きが変化する。第34点P34から第35点P35までは、第32点P32から第33点P33と同様に、荷重の変化に対する変位の変化量が比較的大きい。
スライダー部30が第一低摩擦領域11aの一部及び第二低摩擦領域21aの一部のみと接触している状態となると、第35点P35から第26点P26にかけて、第31点P31から第32点P32までと同様に、荷重の変化に対する変位の変化量が比較的少なくなる。
【0096】
以上説明したように、第2実施形態に係る球面滑り支承100によれば、上コンケイブ10の平面視において、第一高摩擦領域11bが上凹球面11の中心側に配置される。これにより、スライダー部30と上コンケイブ10との摺動を、比較的小さな外力によっては開始させないようにすることができる。
したがって、例えば、上部構造体Uが風の影響を受けやすい条件にある場合において、強風によって上部構造体Uに付加される外力によっては、スライダー部30と上コンケイブ10とを摺動させないようにすることができる。地震によって上部構造体Uに付加される外力によっては、スライダー部30と上コンケイブ10とを摺動するようにすることができる。
よって、球面滑り支承100において免震装置としての機能を担保しつつ、不必要にスライダー部30と上コンケイブ10とが摺動することを抑えることができる。
【0097】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態の球面滑り支承100を説明する。
なお、この第3実施形態においては、第1実施形態及び第2実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0098】
本実施形態において、上部構造体Uは橋梁である。橋梁の橋軸に直交する方向を第1方向D1と呼称する。橋梁の橋軸に平行な方向を第2方向D2と呼称する。この点で、第1実施形態及び第2実施形態と相違する。
本実施形態において、上凹球面11における第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの位置関係については、以下のように構成される。すなわち、
図15に示すように、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとが、第1方向D1において交互に配置される。また、
図16に示すように、それぞれ複数の第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとが交互に配置されていてもよい。下凹球面21における第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの位置関係についても同様にすることが好ましい。
【0099】
このような配置は、例えば、上コンケイブ10と下コンケイブ20とを、第2方向D2にのみ変位させやすくする際に好適に用いられる。すなわち、例えば、
図15に示す変形例に係る球面滑り支承100を橋梁に配置し、第2方向D2が橋軸方向又は橋軸直角方向のいずれかに沿うように配置することで、橋梁における
図15に示す変形例に係る球面滑り支承100が配置された部位が、橋軸方向又は橋軸直角方向の一方に変位しやすくしつつ、他方の方向に変位しにくくすることができる。例えば、
図15に示す変形例に係る球面滑り支承100を建物に配置し、第2方向D2が前記建物に隣接する建物が位置しない方向に沿うようにすることで、前記建物が、前記建物に隣接する建物に接近又は干渉しない方向にのみ変位しやすくすることができる。
【0100】
上述の位置関係とする際、例えば、
図15及び
図16に示すように、上コンケイブ10の平面視において、第一低摩擦領域11aが上凹球面11の中心側に配置されるようにする。これにより、上部構造体Uと下部構造体Lとが第1方向D1に相対変位することを規制し、第2方向D2に相対変位しやすくすることが好ましい。
このような配置は、例えば、上コンケイブ10と下コンケイブ20とを、第2方向D2にのみ変位させやすくしつつ、変位の量を抑える際に好適に用いられる。すなわち、
図15に示す変形例と比較して、上凹球面11又は下凹球面21の中心側に位置する第一低摩擦領域11a及び第二低摩擦領域21aの幅を小さくすることで、スライダー部30と上凹球面11及び下凹球面21との間に生じる摩擦力を大きくすることで、上コンケイブ10と下コンケイブ20との変位の量を抑えることができる。
【0101】
以上説明したように、第3実施形態に係る球面滑り支承100によれば、第1方向D1において、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとが交互に配置される。これにより、第1方向D1において、スライダー部30と上コンケイブ10との摺動を規制しやすくすることができる。第1方向D1に直交する方向において、スライダー部30と上コンケイブ10とを摺動させやすくすることができる。
したがって、第1方向D1において、上部構造体Uと下部構造体Lとを相対変位させにくくすることができる。第1方向D1と直交する方向において、上部構造体Uと下部構造体Lとを相対変位させやすくすることができる。よって、上部構造体Uに許容される変位方向の条件に対して、柔軟に対応することができる。
【0102】
また、上部構造体Uは橋梁である。ここで、橋梁は、橋軸に直交する方向における振動は規制されることが好ましい。橋梁は、橋軸方向に沿う方向における振動に対しては比較的余裕がある。これに対し、第1方向D1は橋梁の橋軸に直交する方向である。つまり、橋軸に直交する方向に沿って第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとが交互に配置される。これにより、橋梁と下部構造体L(例えば、地盤に配置された基礎構造)とが、橋軸に直交する方向に相対変位することを抑えることができる。よって、橋梁の安全性を向上することができる。
【0103】
なお、
図17及び
図18に示すように、上コンケイブ10の平面視において、第一高摩擦領域11bが上凹球面11の中心側に配置されるようにしてもよい。この態様は、例えば、上部構造体Uがビル等の建築物である場合に、第1方向D1に対してのみスライダー部30を相対変位可能として、第2方向に対してはスライダー部30を相対変位不可とするような場合に好適である。
【0104】
図17に示す配置は、例えば、上コンケイブ10と下コンケイブ20とを、第2方向D2に変位しにくくする際に好適に用いられる。すなわち、例えば、
図17に示す変形例に係る球面滑り支承100を橋梁に配置し、第2方向D2が橋軸方向又は橋軸直角方向のいずれかに沿うように配置することで、橋梁における
図17に示す変形例に係る球面滑り支承100が配置された部位が、橋軸方向又は橋軸直角方向の一方に変位しにくくしつつ、他方の方向に変位しやすくすることができる。例えば、
図17に示す変形例に係る球面滑り支承100を建物に配置し、第2方向D2が前記建物に隣接する建物が位置する方向に沿うようにすることで、前記建物が、前記建物に隣接する建物に接近又は干渉することを抑えることができる。
【0105】
図18に示す配置は、例えば、
図17に示す配置と同様の効果を享受しつつ、上コンケイブ10、下コンケイブ20、及びスライダー部30のそれぞれの間で発生する水平荷重が大きくなりすぎないようにする際に好適に用いられる。これにより、例えば、下コンケイブ20を介して下部構造体Lに伝達される水平荷重による負荷を低減する。また、下部構造体Lを簡素にできるようにすることで、費用の削減に寄与する。
【0106】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
球面滑り支承100はいわゆるダブルペンデュラムと呼ばれる方式であると説明したが、これに限らない。球面滑り支承100には、例えば、いわゆるシングルペンデュラムと呼ばれる方式を採用してもよい。シングルペンデュラムとは、上コンケイブ10と、スライダー部30と、のみを備え、下コンケイブ20を備えない方式である。この場合、スライダー部30は、上凸球面31を少なくとも備え、下凸球面32は備えない。
【0107】
上凹球面11は第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとを備えると説明したが、これに限らない。例えば、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの中間の摩擦係数を有する、第一中間摩擦領域(不図示)を備えてもよい。第一中間摩擦領域の摩擦係数は、例えば、0.05以上0.08以下であることが好ましい。第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの間に明確な境界を設けず、摩擦係数を連続的に変化させるようにしてもよい。摩擦係数が連続的に変化している領域を、第一中間摩擦領域としてもよい。
【0108】
下凹球面21は第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとを備えると説明したが、これに限らない。例えば、第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの中間の摩擦係数を有する、第二中間摩擦領域(不図示)を備えてもよい。第二中間摩擦領域の摩擦係数は、例えば、0.05以上0.08以下であることが好ましい。第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとの間に明確な境界を設けず、摩擦係数を連続的に変化させるようにしてもよい。摩擦係数が連続的に変化している領域を、第二中間摩擦領域としてもよい。
【0109】
また、第一低摩擦領域11aと第二低摩擦領域21aの形状は異なっていてもよいし、第一高摩擦領域11bと第二高摩擦領域21bの形状は異なっていてもよい。この場合、より摺動の特性を多段階に制御することが可能になる。しかしながら、スライダー部30が、上コンケイブ10又は下コンケイブ20のいずれかのみと摺動する場合がある。すると、上コンケイブ10の曲面及び下コンケイブ20の曲面と、スライダー部30との位置が対称にならず、上コンケイブ10の曲面及び下コンケイブ20の曲面のいずれかからスライダー部30が離れることがある。これを抑えるために、例えば、スライダー部30にヒンジ部を設ける等して変形可能として対応することが好ましい。
【0110】
また、例えば、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとを、スライダー部30との接触面に対して跨ぐように配置することで、上コンケイブ10の上凹球面11の全体として摩擦係数が設定されるようにしてもよい。すなわち、例えば、
図22及び
図23に示すように、第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとを、上凹球面11の全体に均等に配置することで、上凹球面11全体の摩擦係数が、第一低摩擦領域11aの摩擦係数と第一高摩擦領域11bの摩擦係数との中間の値となるようにしてもよい。
第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとを、下凹球面21において同様に配置することで、下コンケイブ20の下凹球面21の全体として摩擦係数が設定されるようにしてもよい。
【0111】
また、
図24及び
図25に示すように、上凹球面11において第一低摩擦領域11aと第一高摩擦領域11bとの分布を均等にしないことで、摩擦係数が比較的高い領域と低い領域とを設けるようにしてもよい。この時、分布形状を適宜設定することで、摩擦係数が比較的高い領域と低い領域との分布に方向性を持たせてもよい。
例えば、
図24に示すように、上凹球面11の中心付近に直線状に第一高摩擦領域11b又は第一低摩擦領域11aを配置することで、一定の方向における摺動の特性を調整するようにしてもよい。
例えば、
図25に示すように、上凹球面11における一方の側から他方の側に向けて、第一高摩擦領域11b又は第一低摩擦領域11aの数が増加するように配置することで、一定の方向における摺動の特性を調整するようにしてもよい。
第二低摩擦領域21aと第二高摩擦領域21bとを、下凹球面21において同様に配置することで、下コンケイブ20の下凹球面21の摩擦係数が比較的高い領域と低い領域とを設けるようにしてもよい。
【0112】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0113】
10 上コンケイブ
11 上凹球面
11a 第一低摩擦領域
11b 第一高摩擦領域
20 下コンケイブ
21 下凹球面
21a 第二低摩擦領域
21b 第二高摩擦領域
30 スライダー部
31 上凸球面
32 下凸球面
100 球面滑り支承
D1 第1方向
L 下部構造体
U 上部構造体
【手続補正書】
【提出日】2023-04-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と下部構造体との間に設置される球面滑り支承であって、
前記上部構造体の下部に配置され、下方に面する上凹球面を有する上コンケイブと、
前記上凹球面と摺動する上凸球面を少なくとも備えるスライダー部と、
を備え、
前記上凹球面は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有し、
前記上コンケイブの平面視において、前記第一低摩擦領域が前記上凹球面の中心を含む領域に配置される、
ことを特徴とする球面滑り支承。
【請求項2】
上部構造体と下部構造体との間に設置される球面滑り支承であって、
前記上部構造体の下部に配置され、下方に面する上凹球面を有する上コンケイブと、
前記上凹球面と摺動する上凸球面を少なくとも備えるスライダー部と、
を備え、
前記上凹球面は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有し、
前記第一低摩擦領域と前記第一高摩擦領域とが周方向に隣接して配置されることで、前記上凹球面における摩擦係数が周方向で不均一である、
ことを特徴とする球面滑り支承。
【請求項3】
上部構造体と下部構造体との間に設置される球面滑り支承であって、
前記上部構造体の下部に配置され、下方に面する上凹球面を有する上コンケイブと、
前記上凹球面と摺動する上凸球面を少なくとも備えるスライダー部と、
を備え、
前記上凹球面は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有し、
前記第一低摩擦領域及び前記第一高摩擦領域の少なくとも一方が、互いに連続しない閉じた複数の領域に分散して配置されている、
ことを特徴とする球面滑り支承。
【請求項4】
上部構造体と下部構造体との間に設置される球面滑り支承であって、
前記上部構造体の下部に配置され、下方に面する上凹球面を有する上コンケイブと、
前記上凹球面と摺動する上凸球面を少なくとも備えるスライダー部と、
を備え、
前記上凹球面は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有し、
前記下部構造体の上部に配置され、上方に面する下凹球面を有する下コンケイブを更に備え、
前記スライダー部は、前記下凹球面と摺動する下凸球面を更に備え、
前記下凹球面は、第二低摩擦領域と、第二高摩擦領域と、を有し、
前記第一低摩擦領域の形状と前記第二低摩擦領域の形状とが同じであり、
前記第一高摩擦領域の形状と前記第二高摩擦領域の形状とが同じであり、
前記上凸球面における曲率が一定である、
ことを特徴とする球面滑り支承。
【請求項5】
上部構造体と下部構造体との間に設置される球面滑り支承であって、
前記上部構造体の下部に配置され、下方に面する上凹球面を有する上コンケイブと、
前記上凹球面と摺動する上凸球面を少なくとも備えるスライダー部と、
を備え、
前記上凹球面は、第一低摩擦領域と、第一高摩擦領域と、を有し、
水平方向のうち任意の方向である第1方向において、
前記第一低摩擦領域と前記第一高摩擦領域とが交互に配置される、
ことを特徴とする球面滑り支承。
【請求項6】
前記上部構造体は橋梁であり、前記第1方向は前記橋梁の橋軸に直交する直線状の方向である、
ことを特徴とする請求項5に記載の球面滑り支承。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の球面滑り支承により支持される、
橋梁。