(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079986
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】電子式電力量計の配線接続状態判別コンピュータプログラムおよび模擬負荷
(51)【国際特許分類】
G01R 35/04 20060101AFI20240606BHJP
G01R 31/55 20200101ALI20240606BHJP
【FI】
G01R35/04 B
G01R31/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192771
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000205661
【氏名又は名称】大崎電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 亘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健翔
(72)【発明者】
【氏名】安齊 耕太郎
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA01
2G014AA07
2G014AB01
2G014AB30
2G014AB31
(57)【要約】
【課題】 1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合でも、その接続状態を判別可能な手段を提供する。
【解決手段】 計測値入力手段21は、電子式電力量計2から各種の計測データを計測値として入力する。負荷値入力手段22は負荷値が不平衡の模擬負荷3の定格容量と位相角を負荷値として入力する。基礎データ取得手段23は、模擬負荷3の定格容量と位相角に基づいて求まる皮相電力値PI1,PI3と位相差θ1,θ3を基礎データとして取得する。理論値演算手段24は、基礎データから、配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間についての有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3を理論値として演算する。テーブル作成手段25は、理論値と配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成する。比較手段26は計測値と理論値とを比較し、判別手段27は、計測値に最も近い値を持つ理論値に応じた配線の接続状態を特定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
三相電源の所定の2組みの各相間について電子式電力量計によって計測される有効電力値と無効電力値を計測値として入力する計測値入力手段と、電子式電力量計に接続する、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷の定格容量と位相角を入力する負荷値入力手段と、前記負荷値入力手段に入力される前記模擬負荷の定格容量と位相角に基づいて求まる前記所定の2組みの各相間についての皮相電力値と相間電圧に対する線電流の位相差を基礎データとして取得する基礎データ取得手段と、前記基礎データ取得手段によって取得される前記基礎データから、電子式電力量計に接続される配線の各接続状態における、前記所定の2組みの各相間についての前記有効電力値と前記無効電力値を理論値として演算する理論値演算手段と、前記理論値演算手段によって演算される前記理論値と前記配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成するテーブル作成手段と、前記計測値入力手段によって入力される前記計測値と前記テーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される前記理論値とを比較する比較手段と、前記計測値に最も近い値を持つ前記理論値を前記比較手段の比較結果から判別し、判別した前記理論値に応じた前記配線の接続状態を特定する判別手段と
して機能させるための、電子式電力量計の配線接続状態判別プログラム。
【請求項2】
コンピュータを、
三相電源の所定の2組みの各相間について前記コンピュータと別個に設けられる電子式電力量計によって計測され、前記電子式電力量計の外部通信ポートから出力される、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷についての有効電力値と無効電力値を計測値としてセンサを介して前記外部通信ポートから入力する計測値入力手段と、前記所定の2組みの各相間についての皮相電力値と相間電圧に対する線電流の位相差を基礎データとして取得する基礎データ取得手段と、前記基礎データ取得手段によって取得される前記基礎データから、前記電子式電力量計の端子部に接続される配線の正常接続状態および誤接続状態を含む各接続状態における、前記所定の2組みの各相間についての前記有効電力値と前記無効電力値を理論値として演算する理論値演算手段と、前記理論値演算手段によって演算される前記理論値と前記配線の前記各接続状態との関係を規定するテーブルを作成するテーブル作成手段と、前記計測値入力手段によって入力される前記計測値と前記テーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される前記理論値とを比較する比較手段と、前記計測値に最も近い値を持つ前記理論値を前記比較手段の比較結果から判別し、判別した前記理論値に応じて、前記電子式電力量計の設置時に前記端子部に接続された前記配線の接続状態を正常接続状態か誤接続状態かのいずれかに特定する判別手段と
して機能させるための、電子式電力量計の配線接続状態判別プログラム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電子式電力量計の配線接続状態判別プログラムによって配線接続状態が判別される前記電子式電力量計に前記電子式電力量計の配線接続状態判別時に接続され、前記計測値入力手段による前記計測値、および、前記基礎データ取得手段による前記基礎データの取得に供される、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子式電力量計に接続される配線の接続状態を判別するコンピュータプログラムおよび模擬負荷に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子式電力量計に接続される配線の接続状態を判別するため、例えば、特許文献1に開示された電力量計用模擬負荷装置を使用することがある。この模擬負荷装置は、電力量計の誤結線等のトラブルを回避するため、電力量計の設置後、客先への引き渡し前に使用される。つまり、客先への引き渡し前に、1次側交流電源からの電力が模擬負荷装置へ供給され、模擬負荷装置によって電力を消費させて、電力量計結線の引き渡し前検査が行われる。
【0003】
模擬負荷装置の正面には複数の押しボタンが設けられており、模擬負荷装置は、押しボタンの操作によって1次側交流電源の相線式に応じた結線方式の平衡三相負荷に、制御回路によって切り換えられる。引き渡し前検査は、1次側交流電源の相線式に応じた結線方式に模擬負荷装置が切り換えられた後、測定開始ボタンが操作されることで開始され、制御回路に記憶された測定時間が経過すると、終了する。検査中にリセットボタンが操作されると、測定は強制的に終了させられる。
【0004】
測定が終了すると、ユーザは、交流電源の相線式と平衡三相負荷の結線方式との組み合わせに応じて消費電力の理論値が規定されたテーブルを参照し、電力量計が測定した電力量の消費実測値と理論値とを比較する。そして、実測値と理論値との誤差に応じ、電力量計の結線に誤配線があるか、判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の模擬負荷装置では、平衡三相負荷に模擬負荷が切り換えられるため、電力量計の負荷側端子に接続する配線を、誤接続により、三相電源の1相・2相間の1側と、2相・3相間の3側とで入れ違えた場合、正常接続と判別がつかなくなる。平衡三相負荷の場合、1側と3側とで消費電力の理論値が同じになり、1側と3側とで負荷配線を入れ違えても、また、1側と3側とで配線を正常接続していても、1側と3側とでその理論値に変わりがないので、実測値と理論値とを比較しても、誤接続の有無を判別できなくなる。
【0007】
例えば、電源側端子1S,2S,3Sに三相電源が接続される、
図7に示す三相3線式の電子式電力量計31の場合、同図(a)に示すように、負荷側端子1L,2L,3Lに配線が接続される場合、正常接続とされる。しかし、模擬負荷が平衡三相負荷の場合、同図(b)~(f)に示す負荷側端子1L,2L,3Lへの配線の誤接続と、同図(a)に示す正常接続とは、1L・2L間の1側負荷と、3L・2L間の3側負荷との各理論値が同じになるため、1側負荷および3側負荷についての各消費実測値を測定しても、これら各接続パターン間の区別をつけることができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
コンピュータを、
三相電源の所定の2組みの各相間について電子式電力量計によって計測される有効電力値と無効電力値を計測値として入力する計測値入力手段と、電子式電力量計に接続する、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷の定格容量と位相角を入力する負荷値入力手段と、負荷値入力手段に入力される模擬負荷の定格容量と位相角に基づいて求まる所定の2組みの各相間についての皮相電力値と相間電圧に対する線電流の位相差を基礎データとして取得する基礎データ取得手段と、基礎データ取得手段によって取得される基礎データから、電子式電力量計に接続される配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間についての有効電力値と無効電力値を理論値として演算する理論値演算手段と、理論値演算手段によって演算される理論値と配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成するテーブル作成手段と、計測値入力手段によって入力される計測値とテーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される理論値とを比較する比較手段と、計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段の比較結果から判別し、判別した理論値に応じた配線の接続状態を特定する判別手段と
して機能させるための、電子式電力量計の配線接続状態判別プログラムを構成した。
【0009】
本構成によれば、負荷値入力手段により、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷の定格容量と位相角がコンピュータに入力される。基礎データ取得手段により、不平衡負荷についての皮相電力値と線電流の位相差とが、模擬負荷の定格容量と位相角から、基礎データとして、所定の2組みの各相間について取得される。理論値演算手段では、電子式電力量計に接続される配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間の不平衡負荷についての有効電力値と無効電力値が、基礎データから理論値として演算される。したがって、1側の負荷についての理論値と、3側の負荷についての理論値とは異なるようになる。
【0010】
このため、不平衡の模擬負荷を負荷とする電子式電力量計の負荷端子に配線を接続する時に、1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合、それら配線接続において計測値入力手段によって電子式電力量計から入力される計測値は、1側と3側とで異なる。また、理論値演算手段では、電子式電力量計に接続される配線の1側と3側とで、不平衡負荷に応じて異なる理論値が演算されている。したがって、計測値と理論値とを比較手段で比較し、判別手段で計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段の比較結果から判別することで、1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合でも、その接続状態を判別できるようになる。
【0011】
また、本発明は、
コンピュータを、
三相電源の所定の2組みの各相間についてコンピュータと別個に設けられる電子式電力量計によって計測され、電子式電力量計の外部通信ポートから出力される、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷についての有効電力値と無効電力値を計測値としてセンサを介して外部通信ポートから入力する計測値入力手段と、所定の2組みの各相間についての皮相電力値と相間電圧に対する線電流の位相差を基礎データとして取得する基礎データ取得手段と、基礎データ取得手段によって取得される基礎データから、電子式電力量計の端子部に接続される配線の正常接続状態および誤接続状態を含む各接続状態における、所定の2組みの各相間についての有効電力値と無効電力値を理論値として演算する理論値演算手段と、理論値演算手段によって演算される理論値と配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成するテーブル作成手段と、計測値入力手段によって入力される計測値とテーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される理論値とを比較する比較手段と、計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段の比較結果から判別し、判別した理論値に応じて、電子式電力量計の設置時に端子部に接続された配線の接続状態を正常接続状態か誤接続状態かのいずれかに特定する判別手段と
して機能させるための、電子式電力量計の配線接続状態判別プログラムを構成した。
【0012】
本構成によれば、負荷値が不平衡の模擬負荷が接続されている電子式電力量計から、配線の各接続状態における電子式電力量計の計測値が、計測値入力手段によってコンピュータに入力される。コンピュータに入力される有効電力値と無効電力値の計測値から、基礎データ取得手段により、所定の2組みの各相間の不平衡負荷についての皮相電力値と線電流の位相差とが、基礎データとして取得される。このため、理論値演算手段では、電子式電力量計に接続される配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間の不平衡負荷についての有効電力値と無効電力値が、基礎データから理論値として演算される。よって、本構成によっても、1側の負荷についての理論値と、3側の負荷についての理論値とは異なるようになる。したがって、本構成によっても、計測値と理論値とを比較手段で比較し、判別手段で計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段の比較結果から判別することで、1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合でも、その接続状態を判別できるようになる。
【0013】
また、本発明は、上記のいずれかの電子式電力量計の配線接続状態判別プログラムによって配線接続状態が判別される電子式電力量計にその配線接続状態判別時に接続され、計測値入力手段による計測値、および、基礎データ取得手段による基礎データの取得に供される、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷を構成した。
【0014】
本構成によれば、上記のいずれかの電子式電力量計の配線接続状態判別プログラムに供される模擬負荷が提供され、この模擬負荷により、電子式電力量計の1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合でも、その接続状態を判別できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合でも、その接続状態を判別可能な電子式電力量計の配線接続状態判別コンピュータプログラムおよび模擬負荷を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態によるコンピュータプログラムが適用されるパーソナルコンピュータと電子式電力量計と模擬負荷との接続図である。
【
図2】
図1に示すパーソナルコンピュータの内部構成を示すブロック図である。
【
図3】一実施の形態によるコンピュータプログラムによって作成されるテーブルと電子式電力量計から入力される計測値とを対比して示す第1の表図である。
【
図4】一実施の形態によるコンピュータプログラムによって作成されるテーブルと電子式電力量計から入力される計測値とを対比して示す第2の表図である。
【
図5】一実施の形態によるコンピュータプログラムによって作成されるテーブルと電子式電力量計から入力される計測値とを対比して示す第3の表図である。
【
図7】従来の課題を説明するための電力量計の配線接続例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明による電子式電力量計の配線接続状態判別コンピュータプログラムおよび模擬負荷を実施するための形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態による電子式電力量計の配線接続状態判別コンピュータプログラムがアプリケーションとして適用されるパーソナルコンピュータ(以下、PCと記す)1と、電子式電力量計2と、模擬負荷3との接続図である。
【0019】
電子式電力量計2は、直方体状をした筐体に電子回路基板等の部品が内蔵されて構成されている。電子式電力量計2は、その正面に計測値を表示する表示部2aを備え、その下方に各配線が接続される端子部2bを備える。本実施形態における電子式電力量計2は三相3線式で、三相電源の1相、2相および3相の電源配線からVT(電圧変換器)を介して、端子部2bのP1端子、P2端子およびP3端子の各電源端子に電源電圧が印加される。P1端子はVTの出力端子1uに接続され、P2端子は接地される出力端子1v,3u、P3端子は出力端子3vに接続される。
【0020】
VTの出力端子1u,1v間には三相電源の1相,2相間の相間電圧が現れ、出力端子3u,3v間には三相電源の2相,3相間の相間電圧が現れる。したがって、P1端子,P2端子間には三相電源の1相,2相間の1側の相間電圧が印加され、P3端子,P2端子間には三相電源の3相,2相間の3側の相間電圧が印加される。ここで、1相,2相間および2相,3相間は、三相電源の所定の2組みの各相間を構成する。また、1側の相間電圧および3側の相間電圧は、三相電源の所定の2組みの相間電圧を構成する。
【0021】
電子式電力量計2の配線接続状態の確認時、三相電源に模擬負荷3が接続される。本実施形態では、後述する理論値の取得時にも、三相電源に模擬負荷3が接続される。
【0022】
模擬負荷3は、電子式電力量計2の設置時におけるその配線接続確認用の負荷であり、抵抗またはコンデンサから構成されて、予め負荷容量は分かっている。本実施形態では、模擬負荷3に不平衡の3相負荷が用いられ、模擬負荷3の負荷値が不平衡に設定されている。つまり、模擬負荷3は、1相・2相間の1側の定格容量と、3相・2相間の3側の定格容量とが、異なる値に設定される。模擬負荷3の接続により三相電源の1相、3相にはそれぞれ模擬負荷3の負荷容量に応じた異なる値の線電流が流れる。三相電源の1相に流れる線電流は、1相の電源配線からCT(電流変換器)の出力端子1K,1Lを介して、端子部2bの1S端子,1L端子間に検出され、3相に流れる線電流は、3相の電源配線からCTの出力端子3K,3Lを介して、端子部2bの3S,3L端子間に検出される。1L端子,3L端子はP2端子と共に接地される。
【0023】
電子式電力量計2は、P1端子,P2端子間に印加される1側の相間電圧P1と、1S端子,1L端子間に検出される1側の線電流I1とを乗算することで、符号付きの1側有効電力値W1および1側無効電力値var1を演算する。また、P3端子,P2端子間に印加される3側の相間電圧P3と、3S端子,3L端子間に検出される3側の線電流I3とを乗算することで、符号付きの3側有効電力値W3および3側無効電力値var3を演算する。そして、1側有効電力値W1および3側有効電力値W3の合算有効電力値ΣW、並びに、1側無効電力値var1および3側無効電力値var3の合算無効電力値Σvarを演算する。また、電子式電力量計2は、1側の相間電圧P1と3側の相間電圧P3との間の電圧位相差θp1-p3を演算する。
【0024】
電子式電力量計2は、その正面に図示しない赤外線通信ポートおよび計量パルス出力ポートを持っている。この赤外線通信ポートからは、電子式電力量計2で計測される各種の計測データが電子式電力量計2の外部へ赤外線で出力される。本実施形態では、この計測データとして、有効電力量Wh、無効電力量varh、有効電力(合算有効電力ΣW)、および無効電力(合算無効電力Σvar)等が出力される。また、赤外線通信ポートからは、電子式電力量計2の計器情報、および、電子式電力量計2に設定される設定情報も出力される。本実施形態では、この計器情報として、電子式電力量計2の製造番号および製造年を識別する計器ID、電子式電力量計2の相線式、定格電圧および定格電流が出力される。また、設定情報として、表示部2aの表示値に対する乗率、VT・CTの変成比定数、計量パルス出力ポートから出力される計量パルスのパルス種類、パルス定数およびパルス幅が出力される。
【0025】
PC1は、赤外線通信ポートから出力される赤外線をセンサ4で検出し、ケーブル5を介して、電子式電力量計2で計測される各種の計測データを、その計器情報および設定情報と共に入力する。なお、本実施形態では、電子式電力量計2およびPC1間の通信を赤外線通信で行っているが、RS485といったシリアル通信方式やカレントループ通信方式、無線通信方式といったその他の通信方式によっても、同様に行うことができる。
【0026】
図2は、PC1内の概略構成を表わすブロック図である。PC1では、ROM(読み出し専用メモリ)11に記憶されたプログラムにしたがい、RAM(読み書き可能メモリ)12を一時記憶作業領域として、CPU(中央演算処理装置)13が種々の演算を行う。ROM11に記憶されたプログラムにしたがうこの演算により、CPU13は、コンピュータであるPC1を、計測値入力手段21,負荷値入力手段22,基礎データ取得手段23,理論値演算手段24,テーブル作成手段25,比較手段26,判別手段27,情報入力手段28およびデータ出力手段29として、機能させる。
【0027】
計測値入力手段21は、電子式電力量計2からセンサ4およびケーブル5を介して、所定の2組みの各相間について電子式電力量計2によって計測される有効電力値と無効電力値を始めとする各種の計測データを計測値として入力する。負荷値入力手段22は、PC1のキーボード14等から、電子式電力量計2に接続する模擬負荷3の定格容量と位相角を負荷値として入力する。基礎データ取得手段23は、所定の2組みの各相間についての皮相電力値PI1,PI3と相間電圧P1,P3に対する線電流I1,I3の位相差θ1,θ3を基礎データとして取得する。本実施形態では、基礎データ取得手段23は、負荷値入力手段22に入力される模擬負荷3の定格容量と位相角に基づいて求まる皮相電力値PI1,PI3と位相差θ1,θ3を基礎データとして取得する。
【0028】
本実施形態では、模擬負荷3として不平衡三相負荷を採用するため、1側および3側の各皮相電力値PI1,PI3と各位相差θ1,θ3の理論値は、それぞれ異なる。
【0029】
理論値演算手段24は、基礎データ取得手段23によって取得される基礎データから、電子式電力量計2に接続される配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間についての有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3を理論値として、後述する計算式によって演算する。テーブル作成手段25は、理論値演算手段24によって演算される理論値と、配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成する。比較手段26は、計測値入力手段21によって入力される計測値と、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルに規定される理論値とを比較する。判別手段27は、計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段26の比較結果から判別し、判別した理論値に応じた配線の接続状態を特定する。
【0030】
本実施形態においては、計測値入力手段21は、所定の2組みの相間電圧間である、1側の相間電圧P1と3側の相間電圧P3との間の電圧位相差θp1-p3を電子式電力量計2から入力する。比較手段26は、さらに、計測値入力手段21によって入力される電圧位相差θp1-p3と、所定の電圧位相差である、1側の相間電圧P1と3側の相間電圧P3との間の電圧位相差300°とを比較する。判別手段27は、電圧位相差θp1-p3と所定の電圧位相差300°とについての比較手段26の比較結果をさらに参照して、配線の接続状態を特定する。
【0031】
情報入力手段28は、電子式電力量計2からセンサ4およびケーブル5を介して、電子式電力量計2の計器情報と、電子式電力量計2に設定される設定情報を入力する。データ出力手段29は、判別手段27によって特定される配線の接続状態の情報を、情報入力手段28によって入力される計器情報と設定情報と共にデータとして出力する。このデータ出力は、PC1に設けられたUSBポート15からUSB規格にしたがって行われてPDFデータや表データとして出力されたり、プリンタ16へ行われて紙に出力されたりする。
【0032】
図3~
図6には、テーブル作成手段25によって作成されるテーブルの一部が表わされている。このテーブルには、電子式電力量計2に接続される配線の各接続状態を表す接続図と、接続図に対応して各端子間の接続関係を表す接続端子対応表と、配線の各接続状態に対応する理論値の計算式およびベクトル図とが表されている。ベクトル図は、配線の各接続状態における、所定の2組みの相間電圧P1,P3と線電流I1,I3との相対位相の関係を表わしている。理論値の計算式は、理論値演算手段24における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値の算出に用いられ、その計算式で算出される図示しない計算結果は、理論値として、配線の各接続状態に対応してテーブルに規定される。
【0033】
テーブルに規定される理論値の各値は、計測値入力手段21によって入力される計測値の各値と、比較手段26によって比較される。テーブルに並んで同図に記載される測定結果は、並んでいるテーブルに示される配線の接続状態時に、計測値入力手段21によって入力される計測値等が表される。この計測値は、模擬負荷3が、例えば、ドライヤーなどの力率1.0の純抵抗のR負荷である場合と、進相コンデンサなどの力率0.0のコンデンサのC負荷である場合とについて、表される。
【0034】
電子式電力量計2に接続される配線の接続状態の特定には、測定結果に表される、1側有効電力値W1[W]および1側無効電力値var1[var]、並びに、3側有効電力値W3[W]および3側無効電力値var3[var]と、電圧位相差θp1-p3との計測値だけが参照される。つまり、合算有効電力値ΣW[W]および合算無効電力値Σvar[var]と、1側電圧V1[V]および3側電圧V3[V]との計測値は、配線の接続状態の特定に際して参照されない。1側電圧V1および3側電圧V3の値は、三相電源配線が電子式電力量計2に接続されていることを確認する程度に用いられる。
【0035】
図3の上段に示すテーブルには、電子式電力量計2に接続される配線の正常接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図が示されている。配線の正常接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(1-1)~(1-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の正常接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+30°) …(1-1)
var1=PI1sin(θ1+30°) …(1-2)
W3=PI3cos(θ3-30°) …(1-3)
var3=PI3sin(θ3-30°) …(1-4)
【0036】
配線の正常接続時におけるテーブルに並ぶ測定結果の空欄には、配線の正常接続時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される模擬負荷3についての計測値が表される。これら計測値の有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の値が、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の正常接続状態に対して規定される、(1-1)~(1-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている場合、判別手段27により、計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別される。そして、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、正常接続状態が特定される。
【0037】
また、
図3のテーブルNo.E1には、電圧回路配線のみの誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図が示されている。電圧回路配線のみの誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図は、図示するテーブルNoE1以外にも、それに続くテーブルが存在するが、それらの図示は省略する。
【0038】
テーブルNo.E1には、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続に誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、P1端子がVTの出力端子1uに接続されるべきところ出力端子1vに誤接続され、P2端子がVTの出力端子1v,3uおよびG(グランド・接地)に接続されるべきところ出力端子1u,3uおよびGに誤接続されている。
【0039】
この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(2-1)~(2-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1-150°) …(2-1)
var1=PI1sin(θ1-150°) …(2-2)
W3=PI3cos(θ3-30°) …(2-3)
var3=PI3sin(θ3-30°) …(2-4)
【0040】
テーブルNo.E1に並ぶ測定結果の空欄には、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続に上記誤接続がある時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される模擬負荷3についての計測値が表される。これら計測値の有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の値が、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(2-1)~(2-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている場合、判別手段27により、計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別される。そして、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0041】
また、
図4のテーブルNo.A1およびNo.A2には、電流回路配線のみの誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図が示されている。電流回路配線のみの誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図は、図示するテーブルNo.A1およびNo.A2以外にも、それに続くテーブルが存在するが、それらの図示は省略する。
【0042】
テーブルNo.A1には、1S端子と1L端子との配線接続に誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、1S端子がCTの出力端子1Kに接続されるべきところ出力端子1LおよびGに誤接続され、1L端子がCTの出力端子1LおよびGに接続されるべきところ出力端子1Kに誤接続されている。この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(3-1)~(3-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+210°) …(3-1)
var1=PI1sin(θ1+210°) …(3-2)
W3=PI3cos(θ3+330°) …(3-3)
var3=PI3sin(θ3+330°) …(3-4)
【0043】
テーブルNo.A1に並ぶ測定結果の空欄には、1S端子と1L端子との配線接続に上記誤接続がある時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される模擬負荷3についての計測値が表される。これら計測値の有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の値が、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(3-1)~(3-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている場合、判別手段27により、計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別される。そして、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、1S端子と1L端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0044】
テーブルNo.A2には、3S端子と3L端子との配線接続に誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、3S端子がCTの出力端子3Kに接続されるべきところ出力端子3LおよびGに誤接続され、3L端子がCTの出力端子3LおよびGに接続されるべきところ出力端子3Kに誤接続されている。この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(4-1)~(4-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+30°) …(4-1)
var1=PI1sin(θ1+30°) …(4-2)
W3=PI3cos(θ3+150°) …(4-3)
var3=PI3sin(θ3+150°) …(4-4)
【0045】
テーブルNo.A2に並ぶ測定結果の空欄には、3S端子と3L端子との配線接続に上記誤接続がある時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される模擬負荷3についての計測値が表される。これら計測値の有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の値が、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(4-1)~(4-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている場合、判別手段27により、計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別される。そして、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、3S端子と3L端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0046】
また、
図5のテーブルNo.EA1、No.EA2および
図6のテーブルNo.EA3には、電圧回路配線と電流回路配線との組み合わせ誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図が示されている。これら誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図は、図示するテーブルNo.EA1、No.EA2およびNo.EA3以外にも、それに続くテーブルが存在するが、それらの図示は省略する。
【0047】
テーブルNo.EA1には、1相側と3相側の配線を入れ替えて逆相接続状態になり、1相側のP1端子と3相側のP3端子との配線接続に誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、P1端子がVTの出力端子1uに接続されるべきところ出力端子3vに誤接続され、P3端子がVTの出力端子3vに接続されるべきところ出力端子1uに誤接続されている。この電圧回路配線の誤接続により、1S端子がCTの出力端子1Kに接続されるべきところ出力端子3Kに誤接続され、1L端子がCTの出力端子1LおよびGに接続されるべきところ出力端子3LおよびGに誤接続されている。また、3S端子がCTの出力端子3Kに接続されるべきところ出力端子1Kに誤接続され、3L端子がCTの出力端子3LおよびGに接続されるべきところ出力端子1LおよびGに誤接続されている。
【0048】
この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(5-1)~(5-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI3cos(θ3-30°) …(5-1)
var1=PI3sin(θ3-30°) …(5-2)
W3=PI1cos(θ1+30°) …(5-3)
var3=PI1sin(θ1+30°) …(5-4)
【0049】
テーブルNo.EA1に並ぶ測定結果の空欄には、1相側のP1端子と3相側のP3端子との配線接続に上記誤接続がある時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される模擬負荷3についての計測値が表される。これら計測値の有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の値が、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(5-1)~(5-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている場合、判別手段27により、計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別される。そして、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、1相側のP1端子と3相側のP3端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0050】
テーブルNo.EA2には、テーブルNo.E1に規定されている電圧回路配線についての誤接続と、テーブルNo.A1に規定されている電流回路配線についての誤接続とが組み合わされた誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続が入れ替わり、P1端子がVTの出力端子1uに接続されるべきところ出力端子1vに誤接続され、P2端子がVTの出力端子1v,3uおよびGに接続されるべきところ出力端子1u,3uおよびGに誤接続されている。さらに、1S端子と1L端子との配線接続が入れ替わり、1S端子がCTの出力端子1Kに接続されるべきところ出力端子1LおよびGに誤接続され、1L端子がCTの出力端子1LおよびGに接続されるべきところ出力端子1Kに誤接続されている。
【0051】
この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(6-1)~(6-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+30°) …(6-1)
var1=PI1sin(θ1+30°) …(6-2)
W3=PI3cos(θ3+330°) …(6-3)
var3=PI3sin(θ3+330°) …(6-4)
【0052】
テーブルNo.EA2に並ぶ測定結果の空欄には、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続、および、1S端子と1L端子との配線接続に上記誤接続がある時に、計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される模擬負荷3についての計測値が表される。これら計測値の有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の値は、
図3に示す配線の正常接続状態時に計測値入力手段21によって入力される計測値と同じ値となり、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される(6-1)~(6-4)式で計算される図示しない理論値と最も近い値になると同時に、
図3に示す配線の正常接続状態に対して規定される(1-1)~(1-4)式で計算される図示しない理論値にも最も近い値となってしまう。
【0053】
これは、上記の(6-3)式および(6-4)式の右辺における余弦および正弦の位相であるθ3+330°=θ3-30°となり、(6-3)式および(6-4)式に示される有効電力値W3と無効電力値var3の値が(1-3)式および(1-4)式に示される正常接続状態時の値と同じになってしまうからである。したがって、判別手段27により、配線の上記誤接続状態時における計測値に最も近い値を持つ理論値が、比較手段26の比較結果から2つ判別されてしまい、配線の接続状態が上記誤接続状態であるのか、正常接続状態であるのか、特定されなくなる。
【0054】
このため、本実施形態では、比較手段26は、配線の上記誤接続状態時に計測値入力手段21によって入力される電圧位相差θp1-p3と、所定の電圧位相差である300°とをさらに比較する。判別手段27は、電圧位相差θp1-p3と所定の電圧位相差300°とについての比較手段26の比較結果をさらに参照して、配線の接続状態を特定する。電圧位相差θp1-p3が所定の電圧位相差である300°に一致しない場合には、その電圧位相差θp1-p3と共に計測される計測値は配線の誤接続状態時に計測されたものと、判別手段27によって判別される。
【0055】
配線の正常接続状態時に計測値入力手段21によって入力される電圧位相差θp1-p3は、配線の正常接続状態時のテーブルに並ぶ測定結果(
図3参照)に示されるように300°であり、所定の電圧位相差300°に一致する。一方、配線の上記誤接続状態時に計測値入力手段21によって入力される電圧位相差θp1-p3は、テーブルNo.EA2に並ぶ測定結果に示されるように120°であり、所定の電圧位相差300°に一致しない。このため、120°の電圧位相差θp1-p3と共に計測される有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の計測値は、配線の誤接続状態時に計測されたものと判別手段27によって判別され、配線の接続状態は、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続、および、1S端子と1L端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態であると特定される。
【0056】
なお、配線の接続状態確認時、計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される計測値は、上記のように、配線の各誤接続状態に対してテーブルに規定される2つの理論値と同時に最も近い値になる場合がある。この場合、必ずしも、上記の誤接続時におけるように、電圧位相差θp1-p3と所定の電圧位相差300°とを比較することによっても、配線の誤接続状態を特定できないことがある。しかし、電圧位相差θp1-p3が所定の電圧位相差300°に一致しないことから、配線接続に誤接続があること、および、計測値が最も近い値となる2つの理論値に対応する2つの誤接続状態のいずれかであることは分かる。したがって、そのような場合、2つの誤接続状態に絞って配線状態を調査し、確認する必要がある。
【0057】
図6に示すテーブルNo.EA3には、テーブルNo.E1に規定されている電圧回路配線についての誤接続と、テーブルNo.A2に規定されている電流回路配線についての誤接続とが組み合わされた誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続が入れ替わり、P1端子がVTの出力端子1uに接続されるべきところ出力端子1vに誤接続され、P2端子がVTの出力端子1v,3uおよびGに接続されるべきところ出力端子1u,3uおよびGに誤接続されている。さらに、3S端子と3L端子との配線接続が入れ替わり、3S端子がCTの出力端子3Kに接続されるべきところ出力端子3LおよびGに誤接続され、3L端子がCTの出力端子3LおよびGに接続されるべきところ出力端子3Kに誤接続されている。
【0058】
この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(7-1)~(7-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+210°) …(7-1)
var1=PI1sin(θ1+210°) …(7-2)
W3=PI3cos(θ3+150°) …(7-3)
var3=PI3sin(θ3+150°) …(7-4)
【0059】
テーブルNo.EA3に並ぶ測定結果の空欄には、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続、および、3S端子と3L端子との配線接続に上記誤接続がある時に、計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される模擬負荷3についての計測値が表される。これら計測値の有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の値が、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(7-1)~(7-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている場合、判別手段27により、計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別される。そして、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続、および、3S端子と3L端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0060】
このような本実施形態による電子式電力量計2の配線接続状態判別コンピュータプログラムによれば、上記のように、負荷値入力手段22により、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷3の定格容量と位相角がコンピュータに入力される。基礎データ取得手段23により、不平衡負荷についての皮相電力値PI1,PI3と線電流I1,I3の位相差θ1,θ3とが、模擬負荷3の定格容量と位相角から、基礎データとして、所定の2組みの各相間である1側,3側について取得される。理論値演算手段24では、電子式電力量計2に接続される配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間の不平衡負荷についての有効電力値W1,W3と無効電力値Var1,Var3が、基礎データから理論値として演算される。したがって、1側の負荷についての理論値と、3側の負荷についての理論値とは異なるようになる。
【0061】
このため、不平衡の模擬負荷3を負荷とする電子式電力量計2の負荷端子に配線を接続する時に、1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合、それら配線接続において計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される計測値は、1側と3側とで異なる。また、理論値演算手段24では、電子式電力量計2に接続される配線の1側と3側とで、不平衡負荷に応じて異なる理論値が演算されている。したがって、計測値と理論値とを比較手段26で比較し、判別手段27で計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段26の比較結果から判別することで、1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合でも、その接続状態を判別できるようになる。
【0062】
また、本実施形態による電子式電力量計2の配線接続状態判別コンピュータプログラムによれば、PC1内での演算処理によって配線の接続状態を判別でき、特許文献1に開示された電力量計用模擬負荷装置を使った従来の配線接続判定のように、模擬負荷装置に設けられた押しボタンスイッチを操作する必要はない。このため、押しボタンスイッチの誤操作によって配線接続判定に誤判定が起きるリスクはなくなり、また、押しボタンスイッチを操作する煩わしさを伴うことなく、電子式電力量計の配線接続判定を行える。
【0063】
また、本実施形態による電子式電力量計2の模擬負荷3は、負荷値が不平衡に設定された3相負荷として構成され、上記の電子式電力量計2の配線接続状態判別コンピュータプログラムによって配線接続状態が判別される電子式電力量計2に、その配線接続状態判別時に接続される。そして、計測値入力手段21による計測値、および、基礎データ取得手段23による基礎データの取得に供される。すなわち、模擬負荷3は、上記の電子式電力量計2の配線接続状態判別プログラムに供され、この模擬負荷3により、電子式電力量計2の1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合でも、その接続状態を判別できるようになる。
【0064】
また、本実施形態による電子式電力量計2の配線接続状態判別コンピュータプログラムによれば、電子式電力量計2から計測値入力手段21によって入力される所定の2組みの相間電圧P1,P3間の電圧位相差θp1-p3と所定の電圧位相差300°とが、比較手段26によってさらに比較される。配線の接続状態は、判別手段27によってその比較結果がさらに参照されて特定される。このため、理論値と計測値との比較だけでは判別することのできない配線の接続状態が特定されるようになり、配線の接続状態をより詳しく特定することが可能となる。
【0065】
なお、上記の実施形態では、基礎データ取得手段23が、負荷値入力手段22に入力される模擬負荷3の定格容量と位相角に基づいて求まる皮相電力値PI1,PI3と位相差θ1,θ3を基礎データとして取得した場合について、説明した。しかし、基礎データ取得手段23は、配線の各接続状態で計測値入力手段21によって入力される、負荷値が不平衡に設定されている模擬負荷3の計測値から基礎データを演算して取得するように構成してもよい。
【0066】
この場合、PC1に入力される有効電力値W1,W3と無効電力値Var1,Var3の計測値から、基礎データ取得手段23により、所定の2組みの各相間の不平衡負荷についての皮相電力値PI1,PI3と線電流I1,I3の位相差θ1,θ3とが、基礎データとして取得される。このため、理論値演算手段24では、電子式電力量計2に接続される配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間の不平衡負荷についての有効電力値W1,W3と無効電力値Var1,Var3が、基礎データから理論値として演算される。よって、本構成によっても、1側の負荷についての理論値と、3側の負荷についての理論値とは異なるようになる。したがって、本構成によっても、計測値と理論値とを比較手段26で比較し、判別手段27で計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段26の比較結果から判別することで、1側負荷の配線と3側負荷の配線とを入れ違えた場合でも、その接続状態を判別できるようになる。
【0067】
この際、基礎データ取得手段23は、電子式電力量計2によって計測される1側および3側有効電力値W1,W3と1側および3側無効電力値var1,var3の計測値から、所定の2組みの各相間についての皮相電力値PI1,PI3と位相差θ1,θ3の基礎データを次のように演算する。すなわち、皮相電力値PI1,PI3の基礎データは、計測値から次の(8-1)式,(8-2)式によって演算される。
PI1=(W12+var12)1/2 …(8-1)
PI3=(W32+var32)1/2 …(8-2)
【0068】
また、各位相差θ1,θ3の基礎データは、三相3線における30°の位相ズレを考慮して、次の(9-1)式,(9-2)式から演算される。
θ1=cos-1(W1/PI1)-30° …(9-1)
θ3=cos-1(W3/PI3)+30° …(9-2)
【0069】
ただし、電子式電力量計2によって計測されたvar1,var3の符号が-(マイナス)の場合、各位相差θ1,θ3の基礎データは、次の(10-1)式,(10-2)式から演算される。
θ1=-cos-1(W1/PI1)-30° …(10-1)
θ3=-cos-1(W3/PI3)+30° …(10-2)
【0070】
また、上記の実施形態および変形例においては、電子式電力量計2が変成器付き計器の場合について説明したが、
図7に示す、変成器を備えずに電子式電力量計31の端子部に直接配線を接続する方式の計器についても、上記の実施形態および変形例を同様に適用できる。
【符号の説明】
【0071】
1…パーソナルコンピュータ(PC)
2…電子式電力量計
2a…表示部
2b…端子部
3…模擬負荷
4…センサ
5…ケーブル
6…実負荷
11…ROM
12…RAM
13…CPU