(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080006
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240606BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192810
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】召田 智也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 寛和
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 悠史
(72)【発明者】
【氏名】増田 真規
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA10
5H050EA08
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】スラリーを集電体の表面に塗工して乾燥させることで、集電体の表面に活物質層を形成する電極の製造方法において、活物質層の剥離強度を向上すること。
【解決手段】バインダ、活物質、カーボンナノチューブおよび溶媒を含むスラリーを調製する、スラリー調製工程と、集電体に前記スラリーを塗工する、塗工工程と、前記集電体に塗工した前記スラリーをレーザ乾燥して活物質層を形成する、レーザ乾燥工程と、を含む、電極の製造方法。前記スラリーに含まれる固形分中に占める前記カーボンナノチューブの比率は0.05質量%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ、活物質、カーボンナノチューブおよび溶媒を含むスラリーを調製する、スラリー調製工程と、
集電体に前記スラリーを塗工する、塗工工程と、
前記集電体に塗工した前記スラリーをレーザ乾燥して活物質層を形成する、レーザ乾燥工程と、を含み、
前記スラリーに含まれる固形分中に占める前記カーボンナノチューブの比率は0.05質量%以上である、
電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2020-145034号公報)には、電極の製造方法として、スラリーを集電体の表面に塗工して乾燥させることで、集電体の表面に活物質層を形成する方法が記載されている。
【0003】
特許文献2(特開2022-014871号公報)には、同様の電極の製造方法において、スラリー中にカーボンナノチューブを配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-145034号公報
【特許文献2】特開2022-014871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に開示される方法で電極膜を製造する場合、スラリーの熱風やランプによる乾燥(特に短時間での乾燥)の際に、スラリー中でバインダのマイグレーションが生じやすい。これにより、スラリー中で集電体側のバインダ量が少なくなると、集電体から活物質層がはがれやすくなる(活物質層の剥離強度が低くなる)といった問題があった。
【0006】
したがって、本開示の目的は、スラリーを集電体の表面に塗工して乾燥させることで、集電体の表面に活物質層を形成する電極の製造方法において、活物質層の剥離強度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕本開示は、
バインダ、活物質、カーボンナノチューブおよび溶媒を含むスラリーを調製する、スラリー調製工程と、
集電体に前記スラリーを塗工する、塗工工程と、
前記集電体に塗工した前記スラリーをレーザ乾燥して活物質層を形成する、レーザ乾燥工程と、を含み、
前記スラリーに含まれる固形分中に占める前記カーボンナノチューブの比率は0.05質量%以上である、
電極の製造方法である。
【0008】
上記〔1〕の製造方法によれば、活物質層の剥離強度を向上することができる。
すなわち、スラリー内にカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略す場合がある)を一定量以上含ませることにより活物質間にCNTのネットワークを形成させる。このネットワークにバインダ(SBR等)が保持されることで、従来は乾燥(特に短時間の乾燥)中にスラリー内で移動していたバインダが移動しなくなり、短時間で乾燥を行ってもマイグレーションが発生しにくくなくなる。これにより、活物質層の剥離強度の低下が抑制されるため、活物質層の剥離強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、スラリーの乾燥時におけるCNTの量とバインダの分散性との関係を説明するための概念図である。
【
図2】
図2は、評価試験1の剥離強度の測定結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、評価試験2のマイグレーション指数の測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、評価試験1の剥離強度の測定結果を示す別のグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1の電極における活物質層の断面についてのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について説明する。ただし、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書では、「正極」および「負極」を総称して「電極」と記す。「本実施形態における電極の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。
【0011】
本製造方法は、
バインダ、活物質、カーボンナノチューブおよび溶媒を含むスラリーを調製する、スラリー調製工程と、
集電体に前記スラリーを塗工する、塗工工程と、
前記集電体に塗工した前記スラリーをレーザ乾燥して活物質層を形成する、レーザ乾燥工程と、を含む。
前記スラリーに含まれる固形分中に占める前記カーボンナノチューブの比率は0.05質量%以上である。
【0012】
なお、本実施形態で製造される電極は、例えば、リチウムイオン二次電池用のシート状の電極(電極シート)である。電極は、正極および負極のいずれであってもよい。
【0013】
《スラリー調製工程》
本工程では、バインダ、活物質、カーボンナノチューブおよび溶媒を含むスラリーを調製する。
例えば、活物質とバインダと導電材と溶媒とが混合されることによりスラリーが調製される。
【0014】
《塗工工程》
本工程では、集電体にスラリーを塗工する。
例えば、ダイコータにより、スラリーが集電体(集電箔など)の表面に塗布される。
【0015】
《レーザ乾燥工程》
本工程では、集電体に塗工したスラリーをレーザ乾燥して活物質層を形成する。
これにより、活物質およびバインダを含む活物質層が形成され、集電体と、該集電体上に設けられた活物質層と、を備える電極が製造される。
【0016】
本工程では、例えば、集電体に塗工されたスラリーの表面全体にレーザを照射することにより、スラリーのレーザ乾燥が実施される。
レーザは、半導体レーザであることが好ましい。半導体レーザは、照射面積が大きく、設備も小型であり、変換効率が高いという特長を有するため、スラリーのレーザ乾燥に好適に用いることができる。
半導体レーザの波長は、例えば、450~1600nmであってもよく、800~980nmであってもよい。
【0017】
レーザの出力は、スラリー中に含まれる活物質層の構成材料(固形分)の変質を生じさせずに溶媒を蒸散させることができれば特に限定されない。レーザの出力は、例えば、0.5W以上1000W以下である。なお、乾燥時間は、レーザ出力密度(W/cm2)の設定により、調整可能である。例えば、放射温度計によって電極(スラリー)表面の温度をモニタリングして、レーザ出力を調整しながら、レーザ乾燥を行ってもよい。
【0018】
レーザは、連続(CW)レーザであってもよく、パルスレーザであってもよい。
【0019】
レーザ乾燥時のスラリーの温度は、例えば、20~100℃である。
レーザ乾燥の際、送風は行ってもよく、行わなくてもよい。送風を行う場合の送風の温度は、例えば、80~120℃であり、風速は、例えば、1~20m/sである。
【0020】
本製造方法は、活物質層を圧縮することを含んでいてもよい。例えば、ロールプレスにより活物質層が圧縮されてもよい。
【0021】
上記の工程により形成された活物質層は、任意の厚さを有し得る。活物質層は、例えば、5~1000μmの厚さを有していてもよいし、10~500μmの厚さを有していてもよいし、50~250μmの厚さを有していてもよい。
【0022】
このようにして、電極が製造され得る。電極は、例えば、スリッタ等を用いて所定のサイズに切断加工されてもよい。
【0023】
(活物質)
活物質は、正極活物質でもよいし、負極活物質でもよい。活物質は、粒子状であってもよく、活物質からなる一次粒子が集合して形成された多孔質活物質粒子であってもよい。
【0024】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有金属酸化物、リチウム含有リン酸塩等が挙げられる。リチウム含有金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、一般式LiNiaCobO2(ただし式中、a+b=1、0<a<1、0<b<1である。)で表される化合物、LiMnO2、LiMn2O4、一般式LiNiaCobMncO2(ただし式中、a+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1である。)で表される化合物、LiFePO4等が挙げられる。ここで、一般式LiNiaCobMncO2で表される化合物としては、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等が挙げられる。リチウム含有リン酸塩としては、例えば、LiFePO4等が挙げられる。
正極活物質の平均粒径は、例えば、1~25μm程度でよい。なお、ここでの「平均粒径」は、レーザ回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布において、積算値50%での粒径(D50)を意味する。
【0025】
負極活物質としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素等の炭素系負極活物質、および、珪素(Si)、錫(Sn)等を含有する合金系負極活物質が挙げられる。負極活物質粒子の平均粒径(D50)は、例えば、1~25μm程度でよい。
【0026】
(バインダ)
バインダは、固体材料同士を結合し得る。バインダの配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば、0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。
バインダとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。バインダは1種単独で使用されてもよいし、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0027】
上記スラリーの固形分(活物質層)がSBRを含む場合、スラリーの固形分に占めるSBRの比率は、例えば、2.0~4.0質量%である。SBRは、主に、活物質層と集電体の接着剤としての役割を有する。このため、特にSBRの分散性が、活物質層と集電体の間の接着性に大きく影響する。
【0028】
また、上記スラリーの固形分(活物質層)がCMCを含む場合、スラリーの固形分に占めるCMCの比率は、例えば、0.40質量%以上である。CMCは、主に、スラリー中で他の固形分の分散性を高める役割と、スラリーの粘度を調整する役割を有する。
なお、スラリーの粘度が高すぎると塗工を実施できなくなる。このため、スラリーの低せん断速度(1S-1)での粘度は、100000mPa・S以下であることが好ましい。
【0029】
(カーボンナノチューブ:CNT)
本製造方法において、スラリー(活物質層)は、導電材であるカーボンナノチューブ(CNT)を含む。CNTは、複数の活物質粒子やSBRを含むネットワークを形成しやすい形状(例えば、ひも状、繊維状等)を有し、バインダ(SBR等)や活物質との親和性(吸着しやすさ)に優れている。このようなCNTの特性により本開示の効果が得られると考えられる。
【0030】
本開示の製造方法において、スラリーに含まれる固形分(例えば、バインダ、活物質およびカーボンナノチューブ)中に占めるカーボンナノチューブの比率は、0.05質量%以上であり、好ましくは0.05~0.15質量%であり、より好ましくは0.05~0.07質量%である。
【0031】
(導電材)
なお、上記スラリー(活物質層)は、CNT以外の他の導電材をさらに含んでいてもよい。導電材は、電子伝導パスを形成し得る。導電材(カーボンナノチューブを含む)の配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば、0.1~10質量部であってもよい。導電材は任意の成分を含み得る。
カーボンナノチューブ以外の導電材としては、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、グラフェンフレーク等が挙げられる。導電材は1種単独で使用されてもよいし、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0032】
(溶媒)
溶媒としては、例えば、水系溶媒、有機溶媒等が挙げられる。水系溶媒とは、水、または、水と極性有機溶媒とを含む混合溶媒を意味する。例えば、活物質、バインダ等の種類に応じて適当な分散媒が選択され得る。
水系溶媒としては、取扱いの容易さからは、水を好適に用いることができる。混合溶媒に使用可能な極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。なお、水系溶媒は、負極製造用の溶媒として好適に用いることができる。
有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる
。なお、有機溶媒は、正極製造用の溶媒として好適に用いることができる。
【0033】
(集電体)
集電体は、活物質層の支持体である。集電体(集電箔)は、例えば、シート状であってもよく、帯状であってもよい。
集電体の材質としては、例えば、アルミニウム(Al)、Al合金、銅(Cu)、Cu合金、ニッケル(Ni)、Ni合金、チタン(Ti)、Ti合金等が挙げられる。電極が正極であるとき、集電箔は、例えば、Al箔等である。電極が負極であるとき、集電箔は、例えば、Cu箔等である。
集電箔は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよいし、5~20μmの厚さを有していてもよい。
【0034】
《リチウムイオン二次電池》
本開示の製造方法によって得られる電極(電極シート)は、例えば、リチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)の電極として用いることができる。そのリチウムイオン二次電池は、例えば、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)等の電源として用いることができる。ただし、本開示の製造方法によって得られる電極は、このような車載用途に限られず、あらゆる用途に適用可能である。
【0035】
リチウムイオン二次電池は、例えば、ケースを含んでいてもよい。ケースは、例えば、金属製の容器であってもよいし、金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。ケースは、電極群と、電解質とを収納している。
【0036】
電極群は、正極、負極およびセパレータを含む。セパレータは正極および負極の間に配置されている。電極群内の空隙には、電解質が存在している。
【0037】
(セパレータ)
セパレータは多孔質である。セパレータは電気絶縁性である。セパレータは、例えば、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製等の多孔質フィルムであってもよい。セパレータは、例えば、10μm以上50μm以下の厚さを有してもよい。
【0038】
セパレータは単層構造を有してもよい。セパレータは、例えば、PE製の多孔質フィルムのみから形成されていてもよい。セパレータは多層構造を有してもよい。セパレータは、例えば、PP製の多孔質フィルム、PE製の多孔質フィルムおよびPP製の多孔質フィルムがこの順序で積層されることにより形成されていてもよい。
【0039】
(電解液)
電解液は、溶媒と支持電解質とを含む。溶媒は非プロトン性である。溶媒は任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等であってもよい。1種の溶媒が単独で使用されてもよく、2種以上の溶媒が組み合わされて使用されてもよい。
【0040】
支持電解質は、溶媒に溶解している。支持電解質は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiN(FSO2)2等であってもよい。1種の支持電解質が単独で使用されてもよく、2種以上の支持電解質が組み合わされて使用されてもよい。支持電解質は、例えば、0.5mоl/L以上2mоl/L以下のモル濃度を有していてもよい。
【0041】
電解液は、任意の添加剤をさらに含んでもよい。電解液は、例えば、質量分率で0.1%以上5%以下の添加剤を含んでもよい。添加剤は、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、フルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)、リチウムビスオキサラトボラート(LiBOB)等であってもよい。1種の添加剤が単独で使用されてもよく、2種以上の添加剤が組み合わされて使用されてもよい。
【実施例0042】
以下、実施例を用いて本実施形態を説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
以下のようにして、実施例1の負極が製造された。
【0044】
下記の負極活物質層の構成材料が準備された。
負極活物質:天然黒鉛(残部)
バインダ :SBR(3.4質量%)、CMC(0.4質量%)
導電材 :CNT(0.05質量%)
【0045】
上記の負極活物質層の構成材料と溶媒(水)が混合されることにより、負極スラリーが調製された。固形分(負極活物質、バインダおよびCNT)の組成比率は上記のとおりである。
【0046】
負極スラリーが負極集電体(Cu箔)の表面に塗布され、レーザ乾燥されることにより、負極活物質層が形成された。負極活物質層が圧縮されることにより、負極が製造された。
【0047】
レーザ乾燥は、半導体レーザ装置(Laserline、IPG製など)を用いて、波長980nmのパルスレーザ光を負極集電体の表面に塗布された負極スラリーの全面に照射することにより、実施された。
なお、乾燥時間が異なる3種類の条件でレーザ乾燥を行った。具体的には、乾燥に要する時間が、5分以下、5~10分、または、20~25分となるように、レーザ光の出力密度が0.33W/cm2以上、0.33~0.17W/cm2、または、0.08~0.07W/cm2に設定された。
【0048】
(比較例1,2)
比較例1,2においては、固形分中のCNTの比率が0.01質量%(比較例1)または0.03質量%(比較例2)に変更された。なお、固形分中の負極活物質の比率(残部)もそれに応じて変更された。それ以外の点は実施例1と同様にして、比較例1,2の負極が製造された。
【0049】
(実施例2)
実施例2においては、乾燥に要する時間が、約120秒、約180秒、または、約240秒となるように、レーザ光の出力密度が0.83W/cm2、0.56W/cm2、または、0.42W/cm2に設定された。それ以外の点は実施例1と同様にして、実施例2の負極が製造された。
【0050】
(比較例3)
比較例3においては、固形分中のCNTの比率が0.01質量%に変更された。なお、固形分中の負極活物質の比率(残部)もそれに応じて変更された。それ以外の点は実施例2と同様にして、比較例3の負極が製造された。
【0051】
(比較例4)
比較例4においては、レーザ乾燥に代えて熱風乾燥によって、負極スラリーの乾燥が実施された。それ以外の点は実施例2と同様にして、比較例3の負極が製造された。
【0052】
<評価>
《評価試験1:剥離強度の測定》
上記実施例および比較例の負極について、90度剥離試験により負極活物質層と集電体(Cu箔)との間の剥離強度が測定された。
具体的には、打ち抜きポンチにより、各々の負極から試料片が採取された。試料片は円形であった。試料片の直径は、11.28mmであった。測定には、アイコーエンジニアリング(株)製の「MODEL-2257」が用いられた。
【0053】
実施例1および比較例1,2についての測定結果を
図2に示す。
実施例2および比較例3,4についての測定結果を
図3に示す。
【0054】
《評価試験2:マイグレーション指数の測定》
上記実施例1と同様にして、乾燥時間を約4分または約21分として製造した負極、および、上記比較例1と同様にして、乾燥時間を約4分として製造した負極、について、負極合材層の厚さ方向におけるバインダの分布を、マイグレーション指数(Migration Index:MI)によって評価した。
【0055】
MIは、負極活物質層の断面をSEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray spectrometry)分析することにより、算出することができる。測定手順は次のとおりである。
まず、負極から断面観察用のサンプルを切り出し、クロスセクションポリッシャ(CP)等を用いて断面の清浄化を行う。次に、所定の元素また化合物でバインダを修飾する。たとえば、SBRのように炭素-炭素二重結合を含むバインダの場合には、臭素(Br)等で当該二重結合を修飾することができる。バインダを修飾した後、該断面をSEM-EDX(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)で面分析してBrのマッピングを行う。このとき、該断面を厚さ方向に2等分し、集電体(Cu箔)側を第1領域、負極活物質層の表面側を第2領域とする。そして第2領域におけるBrの検出強度の積算値を、第1領域におけるBrの検出強度の積算値で除することにより、MIを算出することができる。バインダの分布が均一な状態に近いほど、MIは1.0に近い値となる。
MIの測定結果を
図3に示す。
【0056】
<結果>
図2に示される結果から、比較的短時間(例えば、15分以下または10分以下)での乾燥を行った場合において、負極活物質層を構成する固形分中に占めるCNTの比率(CNT含有率)が0.05質量%以上である場合は、剥離強度の低下を抑制する効果が得られることが分かる。
【0057】
図3に示される結果から、CNT含有率が0.01質量%である場合は、乾燥時間が短い場合にマイグレーション指数(MI)が大きくなることが分かる。すなわち、
図1(b)に示されるように、スラリー中のCNT量が少ないと、スラリーの乾燥が進みにつれて、スラリーの表面(図の上側の面:集電体と反対側の面)でのバインダ(SBR)の密度が高くなりやすいと考えられる。
これに対して、CNT含有率が0.05質量%である場合は、乾燥時間が短い場合でもマイグレーション指数(MI)が上昇しにくい(すなわち、バインダのマイグレーションが発生し難い)ことが分かる。すなわち、
図1(a)に示されるように、スラリー中のCNTの量が多い場合、CNTネットワークの形成によるバインダの保持効果により、バインダのマイグレーションが抑制され、スラリーの乾燥の際でもバインダの分散性が高い状態が維持されると考えられる。
したがって、
図2に示される剥離強度の低下を抑制する効果は、このようなバインダのマイグレーションを抑制する作用によって発揮されたと考えられる。
【0058】
図4に示される結果から、比較的短時間(約120秒、約180秒または約240秒)の乾燥を行う場合において、レーザ乾燥については、CNT含有率が0.05質量%以上となることで剥離強度の低下が抑制されるものの、レーザ乾燥以外の乾燥法(熱風乾燥法)では、CNT含有率が0.05質量%以上となる場合でも剥離強度の低下を抑制する効果は得られないことが分かる。
したがって、本開示における活物質層の剥離強度を向上させる効果を得るためには、活物質層中のCNT含有率を0.05質量%以上にすることだけでなく、スラリーの乾燥をレーザ乾燥で行うことが重要であると考えられる。
【0059】
図5は、実施例1(レーザ乾燥を行い、CNT含有率が0.05質量%である場合)の電極における活物質層の断面についてのSEM像である。
図5から、ひも状のCNTにより、中央の活物質粒子と周囲の他の活物質粒子とがネットワークを形成しており、CNT(ネットワーク)にSBR(バインダ)が保持されていることが分かる。これにより、活物質層におけるバインダの分散性が向上することで、活物質の剥離強度が向上したと考えられる。
【0060】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。