(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080009
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】操作システムおよび操作支援方法
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20240606BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20240606BHJP
B66C 13/40 20060101ALI20240606BHJP
H04Q 9/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
E02F9/22
E02F9/26 A
B66C13/40 A
H04Q9/00 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192815
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉村 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】宮井 慎一郎
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
5K048
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AA03
2D003BA01
2D003BA04
2D003BA06
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB04
2D015HA03
5K048AA04
5K048BA25
5K048BA48
5K048EB02
5K048EB10
5K048FB05
5K048FC03
5K048GB04
5K048GC03
5K048HA01
5K048HA02
(57)【要約】
【課題】作業機械との通信に係る遅延による操作性の低下を防ぐ。
【解決手段】送信部は、操作信号を作業機械に送信する。記憶部は、操作信号の履歴を記憶する。受信部は、作業機械に設けられたセンサが計測した計測データを受信する。シミュレータは、計測データに基づいて計測データの計測時の前記作業機械の状態を模擬する。シミュレータは、計測データを送信してから受信するまでの第一遅延時間と、操作信号を送信してから受信するまでの第二遅延時間との和だけ現在時刻より前から現在時刻までに送信された一連の操作信号に基づいて、作業機械の挙動を模擬する。表示装置は、作業機械が一連の操作信号に従って駆動した後の作業機械の模擬の結果を表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の操作のために用いる操作システムであって、
オペレータの操作に基づいて前記作業機械の操作信号を出力する操作装置と、
前記操作信号を前記作業機械に送信する送信部と、
前記操作信号の履歴を記憶する記憶部と、
前記作業機械に設けられたセンサが計測した計測データを受信する受信部と、
前記計測データに基づいて前記計測データの計測時の前記作業機械の状態を模擬し、前記作業機械が前記計測データを送信してから前記受信部が前記計測データを受信するまでの第一遅延時間と、前記送信部が前記操作信号を送信してから前記作業機械が前記操作信号を受信するまでの第二遅延時間との和だけ現在時刻より前の時刻と、前記現在時刻との間に送信された一連の操作信号に基づいて、前記計測データの計測時から前記一連の操作信号に従って駆動する前記作業機械の挙動を模擬するシミュレータと、
前記作業機械が前記一連の操作信号に従って駆動した後の前記作業機械の模擬の結果を表示する表示装置と
を備える操作システム。
【請求項2】
前記表示装置は、前記模擬の結果として、前記作業機械が前記一連の操作信号に従って駆動した後の作業現場の状態を表示する
請求項1に記載の操作システム。
【請求項3】
前記表示装置は、前記模擬の結果として、前記作業機械が前記一連の操作信号に従って駆動した後の前記作業機械の状態を表示する
請求項1に記載の操作システム。
【請求項4】
前記計測データと、前記計測データの受信より前記第一遅延時間および前記第二遅延時間の和だけ前の時刻における前記模擬の結果とに基づいて、前記計測データと前記模擬の結果との差分が小さくなるように、前記シミュレータのパラメータを更新する更新部
を備える請求項1から請求項3の何れか1項に記載の操作システム。
【請求項5】
前記送信部は、前記計測データと、前記計測データの受信より前記第一遅延時間および前記第二遅延時間の和だけ前の時刻における前記模擬の結果との差分が所定の閾値を超える場合に、前記操作信号に係る操作量を制限する
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の操作システム。
【請求項6】
作業機械の操作支援方法であって、
オペレータの操作に基づいて前記作業機械の操作信号を出力する操作装置が出力する前記操作信号を前記作業機械に送信するステップと、
前記操作信号の履歴を記憶部に記憶させるステップと、
前記作業機械に設けられたセンサが計測した計測データを受信するステップと、
前記計測データに基づいて前記計測データの計測時の前記作業機械の状態を模擬し、前記作業機械が前記計測データを送信してから前記計測データを受信するまでの第一遅延時間と、前記操作信号を送信してから前記作業機械が前記操作信号を受信するまでの第二遅延時間との和だけ現在時刻より前の時刻と、前記現在時刻との間に送信された一連の操作信号に基づいて、前記計測データの計測時から前記一連の操作信号に従って駆動する前記作業機械の挙動を模擬するステップと、
前記作業機械が前記一連の操作信号に従って駆動した後の前記作業機械の模擬の結果を表示するステップと
を備える操作支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、操作システムおよび操作支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠隔に設けられた作業機械を操作する遠隔運転システムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。遠隔運転システムは、作業機械の状態を表示するための表示装置が設けられる。例えば、表示装置には、作業機械に設けられたカメラが撮像した作業機械の正面の映像が表示される。オペレータは表示装置を見ながら、作業機械を操作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業機械と遠隔運転システムとは通信により接続されるため、通信の遅延によって、実際の作業機械の状態と表示装置に表示される状態とにはずれが生じる。特許文献1に記載の技術によれば、作業機械に設けられたカメラが撮像した画像に、遠隔操作によって作業機が存在すると推定された位置を示す画像を重畳して表示させる。しかしながら、特許文献1に記載の手法では、作業機の位置を推定することはできるが、作業機械の旋回や走行による姿勢の変化に伴う視点の変化や掘削作業等による地形の変化のずれを補完することはできない。
本開示の目的は、作業機械との通信に係る遅延による操作性の低下を防ぐことができる操作システムおよび操作支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、操作システムは、作業機械の操作のために用いる操作システムであって、オペレータの操作に基づいて前記作業機械の操作信号を出力する操作装置と、前記操作信号を前記作業機械に送信する送信部と、前記操作信号の履歴を記憶する記憶部と、前記作業機械に設けられたセンサが計測した計測データを受信する受信部と、前記計測データに基づいて前記計測データの計測時の前記作業機械の状態を模擬し、前記作業機械が前記計測データを送信してから前記受信部が前記計測データを受信するまでの第一遅延時間と、前記送信部が前記操作信号を送信してから前記作業機械が前記操作信号を受信するまでの第二遅延時間との和だけ現在時刻より前の時刻と、前記現在時刻との間に送信された一連の操作信号に基づいて、前記計測データの計測時から前記一連の操作信号に従って駆動する前記作業機械の挙動を模擬するシミュレータと、前記作業機械が前記一連の操作信号に従って駆動した後の前記作業機械の模擬の結果を表示する表示装置とを備える。
【発明の効果】
【0006】
上記態様によれば、操作システムは、作業機械との通信に係る遅延による操作性の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第一実施形態に係る遠隔運転システムの構成を示す概略図である。
【
図2】第一実施形態に係る作業機械の外観図である。
【
図3】第一実施形態に係る遠隔運転装置の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図4】第一実施形態に係る遠隔運転システムの通信遅延の例を示す図である。
【
図5】第一実施形態に係る遠隔運転装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】第二実施形態に係る遠隔運転装置の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図7】第三実施形態に係る遠隔運転装置の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図8】第三実施形態に係る遠隔運転装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈第一実施形態〉
《遠隔運転システム》
図1は、第一実施形態に係る遠隔運転システムの構成を示す概略図である。
遠隔運転システム1は、遠隔運転により動作する作業機械100と、遠隔運転を行うための遠隔運転装置500とを備える。作業機械100は、作業現場(例えば、月面)において稼動する。遠隔運転装置500は、作業機械100から離れた地点(例えば、地球上)に設けられる。作業機械100と遠隔運転装置500とは、無線通信手段を介して接続される。無線通信手段は、インターネットを経由するものであってもよい。
遠隔運転システム1は、遠隔運転装置500を用いて作業機械100を操作するためのシステムである。
【0009】
作業機械100は、遠隔運転装置500から受信する操作信号に従って動作する。
遠隔運転装置500は、オペレータの操作により入力された操作信号を作業機械100に送信する。遠隔運転装置500は、作業機械100の操作のために用いる操作システムの一例である。
【0010】
《作業機械100の構成》
図2は、第一実施形態に係る作業機械100の外観図である。
第一実施形態に係る作業機械100は、油圧ショベル(フェイスショベル)である。なお、他の実施形態に係る作業機械100は、クレーン、電動ショベル、ダンプトラック、モータグレーダ、バックホウショベル等の他の作業機械であってもよい。
作業機械100は、走行体110と、旋回体120と、作業機130とを備える。
【0011】
走行体110は、作業機械100を走行可能に支持する。走行体110は、左右に設けられた2つの無限軌道111と、各無限軌道111を駆動するための走行モータ112を備える。走行体110は支持部の一例である。
旋回体120は、走行体110に旋回中心回りに旋回可能に支持される。
作業機130は、油圧により駆動する。なお、他の実施形態に係る作業機130は電動で駆動するものであってもよい。作業機130は、旋回体120の前部に上下方向に駆動可能に支持される。ここで、旋回体120のうち作業機130が取り付けられる部分を前部という。また、旋回体120について、前部を基準に、反対側の部分を後部、左側の部分を左部、右側の部分を右部という。
【0012】
《作業機130の構成》
作業機130は、ブーム131と、アーム132と、バケット133とを備える。作業機130は、ブームシリンダ131C、アームシリンダ132C、およびバケットシリンダ133Cが伸縮することにより駆動する。ブーム131、アーム132、およびバケット133には、それぞれブーム角度センサ131S、アーム角度センサ132S、およびバケット角度センサ133Sが装着されている。
【0013】
ブーム131の基端部は、旋回体120にピンを介して取り付けられる。
アーム132は、ブーム131とバケット133とを連結する。アーム132の基端部は、ブーム131の先端部にピンを介して取り付けられる。
バケット133は、土砂などを掘削するための刃と掘削した土砂を収容するための容器とを備える。バケット133の基端部は、アーム132の先端部にピンを介して取り付けられる。
【0014】
ブームシリンダ131Cは、例えばブーム131を駆動させるための油圧シリンダである。ブームシリンダ131Cの基端部は、旋回体120に取り付けられる。ブームシリンダ131Cの先端部は、ブーム131に取り付けられる。
アームシリンダ132Cは、例えばアーム132を駆動するための油圧シリンダである。
アームシリンダ132Cの基端部は、旋回体120に取り付けられる。アームシリンダ132Cの先端部は、アーム132に取り付けられる。
バケットシリンダ133Cは、例えばバケット133を駆動するための油圧シリンダである。バケットシリンダ133Cの基端部は、ブーム131に取り付けられる。バケットシリンダ133Cの先端部は、バケット133に取り付けられる。
【0015】
ブーム角度センサ131Sは、ブーム131に取り付けられ、ブーム131の傾斜角を検出する。
アーム角度センサ132Sは、アーム132に取り付けられ、アーム132の傾斜角を検出する。
バケット角度センサ133Sは、バケット133に取り付けられ、バケット133の傾斜角を検出する。
第一実施形態に係るブーム角度センサ131S、アーム角度センサ132S、およびバケット角度センサ133Sは、地平面に対する傾斜角を検出する。なお、他の実施形態に係る角度センサはこれに限られず、他の基準面に対する傾斜角を検出してもよい。例えば、他の実施形態においては、角度センサは、ブーム131、アーム132およびバケット133の基端部に設けられたポテンショメータによって相対回転角を検出してもよいし、ブームシリンダ131C、アームシリンダ132Cおよびバケットシリンダ133Cのシリンダ長さを計測し、シリンダ長さを角度に変換することで傾斜角を検出するものであってもよい。
【0016】
《旋回体120の構成》
旋回体120は、エンジン121、油圧ポンプ122、コントロールバルブ123、旋回モータ124、回転角センサ125、深度センサ126、制御装置127を備える。
エンジン121は、油圧ポンプ122を駆動する原動機である。エンジン121は、動力源の一例である。
油圧ポンプ122は、エンジン121により駆動される可変容量ポンプである。油圧ポンプ122は、コントロールバルブ123を介して各アクチュエータ(ブームシリンダ131C、アームシリンダ132C、バケットシリンダ133C、走行モータ112、及び旋回モータ124)に作動油を供給する。
コントロールバルブ123は、油圧ポンプ122から供給される作動油の流量を制御する。
旋回モータ124は、コントロールバルブ123を介して油圧ポンプ122から供給される作動油によって駆動し、旋回体120を旋回させる。
回転角センサ125は、旋回体120のロール角、ピッチ角およびヨー角を求める。回転角センサ125は、例えば、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)であってもよい。
【0017】
深度センサ126は、旋回体120の周囲環境の深度を計測する。深度センサ126の例としては、LiDAR装置、レーザスキャナ、ステレオカメラなどが挙げられる。第一実施形態に係る深度センサ126は、旋回体120の正面に設けられ、旋回体120の周囲環境のうち正面方向の領域の深度を計測する。なお、他の実施形態においては、深度センサ126は、旋回体120の前部以外の場所、例えば旋回体の側部などに設置されていてもよい。
【0018】
制御装置127は、作業機械100に設けられた各種センサ(回転角センサ125、深度センサ126、ブーム角度センサ131S、アーム角度センサ132S、バケット角度センサ133S)の計測データを遠隔運転装置500に送信する。また制御装置127は、遠隔運転装置500から操作信号を受信し、受信した操作信号に基づいて、作業機130、旋回体120、または走行体110を駆動させる。
【0019】
《遠隔運転装置500》
遠隔運転装置500は、運転席510、表示装置520、操作装置530、制御装置540を備える。
【0020】
表示装置520は、運転席510の前方に配置される。表示装置520は、オペレータが運転席510に座ったときにオペレータの正面に位置する。表示装置520は複数のディスプレイによって構成されててもよいし、1つのディスプレイによって構成されてもよい。また、表示装置520は、プロジェクタ等によって曲面や球面に画像を投影するものであってもよい。
【0021】
操作装置530は、運転席510の近傍に配置される。操作装置530は、オペレータが運転席510に座ったときにオペレータの操作可能な範囲内に位置する。操作装置530は、例えば電気式レバーおよび電気式ペダルを備える。オペレータが電気式レバーおよび電気式ペダルを操作することで、操作装置530は、ブーム131、アーム132およびバケット133の操作信号、旋回体120の旋回操作信号、ならびに走行体110の走行操作信号を出力する。
【0022】
制御装置540は、作業機械100から受信する各種センサの計測データに基づいて作業機械100の挙動、および当該挙動による作業現場の地形の変化をシミュレートし、シミュレーションの結果として得られる作業機械100の状態および作業現場の状態(掘削後の地形)を示す画像を、表示装置520に表示させる。また制御装置540は、操作装置530に入力された操作信号を作業機械100に送信する。
【0023】
《遠隔運転装置500の制御装置540》
図3は、第一実施形態に係る遠隔運転装置の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
制御装置540は、プロセッサ910、メインメモリ930、ストレージ950、インタフェース960を備えるコンピュータである。ストレージ950は、プログラムを記憶する。プロセッサ910は、プログラムをストレージ950から読み出してメインメモリ930に展開し、プログラムに従った処理を実行する。
【0024】
ストレージ950の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ950は、制御装置540の共通通信線に直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース960を介して制御装置540に接続される外部メディアであってもよい。ストレージ950は、一時的でない有形の記憶媒体である。
なお、他の実施形態においては、制御装置540は、上記構成に加えて、または上記構成に代えて、PLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのセミカスタムLSIを備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ910によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0025】
プロセッサ910は、プログラムの実行により、送信部911、記録部912、受信部913、シミュレータ914、表示制御部915を備える。
送信部911は、操作装置530に入力された操作信号を作業機械100に送信する。
記録部912は、送信部911が送信した操作信号の履歴をメインメモリ930に記録する。メインメモリ930は、操作信号の送信時刻と操作量とを関連付けて記憶する。メインメモリ930は、操作信号の履歴を記憶する記憶部の一例である。
受信部913は、作業機械100に設けられた各種センサの計測データを受信する。
シミュレータ914は、受信部913が受信した計測データと、記録部912が記憶する操作信号の履歴とに基づいて、作業機械100の挙動を模擬する。
表示制御部915は、シミュレータ914による模擬の結果を表示装置520に表示させる。
【0026】
ここで、シミュレータ914について説明する。
シミュレータ914は、仮想空間に作業現場の三次元モデルである現場モデルと作業機械100の三次元モデルである車体モデルとを配置する。現場モデルは、例えば作業機械100から受信した深度センサ126の計測データに基づいて生成される。現場モデルには、作業現場の土砂の質(例えば、貫入抵抗係数、粘着力、内部摩擦角、土量換算係数、粒子間付着力など)を表す土壌パラメータが設定される。土壌パラメータは、利用者によって設定されるものであってもよいし、予め設定されたものであってもよい。
車体モデルは、ストレージ950に予め記憶される。シミュレータ914は、車体モデルのうち旋回体120、ブーム131、アーム132およびバケット133のモデルの姿勢を、それぞれ作業機械100から受信した回転角センサ125、ブーム角度センサ131S、アーム角度センサ132S、バケット角度センサ133Sの計測データに基づいて決定する。旋回体120の姿勢は、回転角センサ125の計測データに加えてまたは代えて、深度センサ126の計測データを用いたSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)処理によって決定されてもよい。これにより、シミュレータ914は、作業機械100が計測データを送信したときの状態を再現することができる。車体モデルには、各構成部の重量や各アクチュエータのトルクなどの車両パラメータが設定される。
【0027】
シミュレータ914は、操作信号に基づいて作業機械100の挙動を模擬し、操作信号に基づく駆動後の作業現場および作業機械100の状態を表すように、現場モデルの形状および車体モデルの姿勢を更新する。なお、シミュレータ914は、作業機械100および作業現場の形状の変化に加え、作業機械100の挙動によって生じる音や振動をシミュレートしてもよい。例えば、シミュレータ914は、作業機械100のエンジン音をシミュレートしてもよいし、作業機械100の走行や作業機130と地面との接触による振動をシミュレートしてもよい。
【0028】
図4は、第一実施形態に係る遠隔運転システム1の通信遅延の例を示す図である。作業機械100と遠隔運転装置500との間に、Δtの通信遅延が生じるものとする。作業機械100と遠隔運転装置500とが、それぞれ例えば月と地球のように十分に遠隔に設けられる場合、通信遅延の影響は通信距離に依存する。そのため、作業機械100と遠隔運転装置500とが十分に遠隔に設けられる場合には、遅延時間Δtは予め特定しておくことができる。作業機械100と遠隔運転装置500との距離が近いほど、ネットワークの混雑などが通信遅延に影響を及ぼす。このような場合には、遠隔運転装置500が定期的に通信状況を観測し、遅延時間Δtを更新してもよい。
【0029】
遠隔運転装置500が時刻T0に送信した操作信号は、時刻(T0+Δt)に、作業機械100の制御装置127によって受信される。作業機械100の制御装置127は、時刻(T0+Δt)に、受信した操作信号に基づいて各種アクチュエータを駆動させる。作業機械100に設けられた各種センサが時刻(T0+Δt)に計測した計測データは、時刻(T0+2Δt)に、遠隔運転装置500によって受信される。このように、遠隔運転システム1では、遠隔運転装置500が送信した操作信号によって作業機械100および周囲環境がどのように変化したかを示す計測データは、操作信号の送信から2Δt後に受信されることとなる。そのため、時刻(T0+2Δt)に受信した計測データは、時刻T0から時刻(T0+2Δt)までに送信した一連の操作信号による制御結果を反映しないものである。なお、操作信号の送信周期および計測データの送信周期は、遅延時間Δtより短い。
【0030】
そのため、オペレータが時刻(T0+2Δt)に受信した計測データのみに基づいて時刻(T0+2Δt)以降の操作を行うことは、時刻T0から時刻(T0+2Δt)までの操作装置530の操作量を考慮する必要があるため、オペレータにとって困難である。
【0031】
そこで、第一実施形態に係る遠隔運転システム1は、現在時刻(T0+2Δt)に受信された計測データに基づいてシミュレータ914の初期状態のパラメータを設定し、時刻T0から現在時刻(T0+2Δt)までに送信された一連の操作信号に基づいて、時刻(T0+3Δt)における作業機械100の挙動を模擬する。これにより、シミュレータ914は、現在時刻(T0+2Δt)に送信される操作信号が作業機械100に受信される時刻(T0+3Δt)における作業機械100を模擬することができる。このとき、シミュレータ914は、現場モデルと車両モデルのバケット133の刃先とが接触する点について、現場モデルの土壌パラメータに基づいて土砂の掘削による現場モデルの形状の変化と、反力による車両モデルの姿勢の変化とを計算する。
これにより、オペレータは、これから入力しようとする操作信号を受信する直前の作業機械100の状態を視認しながら、操作装置530を操作することができる。
【0032】
なお、第一実施形態においては、作業機械100が計測データを送信してから遠隔運転装置500がその計測データを受信するまでの第一遅延時間と、遠隔運転装置500が操作信号を送信してから作業機械100がその操作信号を受信するまでの第二遅延時間とが、いずれも時間Δtであるが、これに限られない。例えば、第一遅延時間と第二遅延時間とに差があってもよい。この場合、シミュレータ914は、現在時刻から第一遅延時間と第二遅延時間との和だけ前の時刻以降に送信された一連の操作信号に基づいてシミュレーションを実行する。
【0033】
《遠隔運転装置500の動作》
図5は、第一実施形態に係る遠隔運転装置500の動作を示すフローチャートである。
遠隔運転装置500の制御装置540が起動すると、制御装置540は、第一遅延時間と第二遅延時間の和(2Δt)の間、操作信号の送信をせずに待機する(ステップS1)。その後、受信部913は作業機械100から計測データを受信する(ステップS2)。シミュレータ914は、ステップS2で受信した計測データに基づいて現場モデルおよび車体モデルを更新する(ステップS3)。これにより、現実の作業機械100の状態とシミュレータ914の作業機械100の状態とを合わせることができる。
【0034】
次に、表示制御部915は、シミュレータ914によって再現された車体モデルおよび現場モデルをレンダリングして表示画像を生成する(ステップS4)。表示画像は、仮想空間のうち、車体モデルの運転席に相当する位置にレンダリングカメラを設け、レンダリングを行うことで得られる画像である。表示画像は表示装置520に表示される。
【0035】
オペレータによって操作装置530が操作されると、送信部911は、操作装置530が出力する操作信号を作業機械100に送信する(ステップS5)。記録部912は、ステップS5で送信した操作信号を、現在時刻に関連付けてストレージ950に記録する(ステップS6)。
【0036】
最後に計測データを受信してから所定の通信周期が経過すると、受信部913は、作業機械100から計測データを受信する(ステップS7)。シミュレータ914は、ステップS7で受信した計測データに基づいて現場モデルおよび車体モデルを更新する(ステップS8)。車体モデルは、作業機械の状態を表すパラメータを有し例えば、作業機の姿勢を表している。なお、シミュレータ914は、ステップS7で受信した計測データのみを用いて現場モデルおよび車体モデルを更新してもよいし、前回の現場モデルおよび車体モデルのパラメータと、ステップS7で受信した計測データとをそれぞれ用いて現場モデルおよび車体モデルを更新してもよい。これにより、シミュレータ914は、現在時刻より時間2Δtだけ前の時刻における作業機械100および作業現場の状態を再現する。
【0037】
シミュレータ914は、ストレージ950に記録された送信信号の履歴のうち、現在時刻より時間2Δtだけ前の時刻から、現在時刻までに送信された一連の操作信号を読み出す(ステップS9)。シミュレータ914は、読み出した一連の操作信号に基づいて、現在時刻より時間Δtだけ前の時刻から、現在時刻より時間Δtだけ後の時刻における作業機械100の挙動を模擬する(ステップS10)。これに伴い、シミュレータ914は、作業機械100と作業現場の地形との接触による地形の変化を模擬する。
【0038】
シミュレータ914は、ステップS10で模擬された現在時刻より時間Δtだけ後の時刻における車体モデルおよび現場モデルをレンダリングして表示画像を生成する(ステップS11)。生成された表示画像には、現在時刻より時間Δtだけ後の時刻における作業機械100の状態および作業現場の状態が描画される。作業機械100の状態および作業現場の状態は、いずれもシミュレータ914による作業機械100の模擬の結果の一例である。表示画像は表示装置520に表示される。なお、シミュレータ914が音や振動をシミュレートする場合、図示しないスピーカーが音声を発し、また図示しないアクチュエータが運転席510を振動させてもよい。
【0039】
オペレータによって操作装置530が操作されると、送信部911は、操作装置530が出力する操作信号を作業機械100に送信する(ステップS12)。記録部912は、ステップS12で送信した操作信号を、現在時刻に関連付けてストレージ950に記録する(ステップS13)。
【0040】
制御装置540は、オペレータによる遠隔運転が終了したか否かを判定する(ステップS14)。制御装置540は、例えばオペレータから遠隔運転装置500にキーオフの操作がなされたことなどによって遠隔運転を終了するか否かを判定することができる。遠隔運転を終了しない場合(ステップS14:NO)、制御装置540はステップS7に処理を戻し、遠隔運転を継続する。他方、遠隔運転を終了する場合(ステップS14:YES)、制御装置540は遠隔運転を終了する。
【0041】
《作用・効果》
第一実施形態に係る遠隔運転システム1は、以下のように動作する。送信部911は、操作信号を作業機械100に送信する。ストレージ950は、操作信号の履歴を記憶する。受信部913は、作業機械100に設けられたセンサが計測した計測データを受信する。シミュレータ914は、計測データに基づいて計測データの計測時の作業機械100の状態を模擬する。シミュレータ914は、作業機械100が計測データを送信してから受信部913が計測データを受信するまでの第一遅延時間と、送信部911が操作信号を送信してから作業機械100が操作信号を受信するまでの第二遅延時間との和だけ現在時刻より前の時刻と、現在時刻との間に送信された一連の操作信号に基づいて、計測データの計測時から一連の操作信号に従って駆動する作業機械100の挙動を模擬する。表示装置520は、作業機械100が一連の操作信号に従って駆動した後の作業機械100の模擬の結果を表示する。模擬の結果は、一連の操作信号に従って駆動した後の作業機械100の状態に限られず、作業機130と地形との接触によって変化した作業現場の地形の状態なども含みうる。
これにより、第一実施形態に係る遠隔運転システム1は、シミュレーションによって得られた、送信予定の操作信号を受信する直前の作業機械100の状態を、表示装置520に表示させることができる。つまり、遠隔運転システム1は、通信遅延の影響のない画面をオペレータに提示することができる。そのため、遠隔運転システム1は、遠隔運転装置500と作業機械100との通信に係る遅延による操作性の低下を防ぐことができる。
【0042】
特に、第一実施形態に係る遠隔運転装置500によれば、
図5のフローチャートに示すように、計測データを受信するたびに、当該計測データを初期状態として、時間2Δtの間の操作信号に基づく模擬を行う。したがって、遠隔運転装置500は、シミュレーションと現実との誤差を常に時間2Δtの操作信号によるものに抑え、過去の模擬による誤差が蓄積されることを防ぐことができる。
【0043】
〈第二実施形態〉
第一実施形態に係るシミュレータ914は、利用者から設定された土壌パラメータまたは予め設定された土壌パラメータを用いて、作業機械100による作業現場の掘削をシミュレートする。他方、当該土壌パラメータは実際の作業現場の土壌の状態と一致しない可能性がある。第二実施形態に係る遠隔運転システム1は、シミュレーションの結果と、計測データとに基づいて、土壌パラメータを更新することで、土壌パラメータを実際の作業現場の土壌の状態に近づける。
【0044】
《遠隔運転装置500の制御装置540》
図6は、第二実施形態に係る遠隔運転装置の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
第二実施形態に係る制御装置540は、第一実施形態の構成に加え、さらに更新部916を備える。更新部916は、シミュレータ914のシミュレーションの結果と、受信部913が受信した計測データとに基づいて、現場モデルの土壌パラメータを更新する。
第二実施形態に係る記録部912は、操作信号に加え、シミュレーションの結果である現場モデルの形状および作業機械100の姿勢を、ストレージ950に記録する。
【0045】
《更新部916の動作》
更新部916は、計測データまたはシミュレーションの結果が示す作業機械100の姿勢に基づいて、作業機械100による掘削作業の1サイクルが終了したか否かを判定する。更新部916は、掘削作業の1サイクルが終了したときに、パラメータの更新を行う。これは、掘削中にパラメータが更新されて操作に違和感が生じることを防ぐためである。
【0046】
更新部916は、1サイクルの間に計測された複数の計測データまたは複数のシミュレーションの結果が示す作業機械100の姿勢に基づいて、計測データを、掘削のフェーズごとに区分する。掘削のフェーズは、バケットの刃先が地面に触れながら下方向へ移動する第一フェーズ、バケットの刃先が地面に触れながら上方向へ移動する第二フェーズ、バケットの刃先が地面から離れる第三フェーズからなる。
【0047】
掘削のフェーズが第一フェーズである場合、更新部916は、旋回体120のピッチ角の差に基づいて、土壌パラメータの1つである貫入抵抗係数を更新する。貫入抵抗係数は、バケット133が地中に貫入するときに作業機130が受ける抵抗を表す係数である。更新部916は、ピッチ角の差分が正数である場合、貫入抵抗係数の値を小さくする。ピッチ角の差分は、具体的には、シミュレーションの結果として得られたピッチ角から、受信した計測データが示すピッチ角を減算することで得られる。他方、更新部916は、ピッチ角の差分が負数である場合、貫入抵抗係数の値を大きくする。なお、他の実施形態においては、更新部916はシリンダの抵抗の差分に基づいて貫入抵抗係数を更新してもよい。この場合、作業機械100の各シリンダには、シリンダの抵抗を計測する圧力センサなどが設けられてもよい。
【0048】
掘削のフェーズが第二フェーズである場合、更新部916は、旋回体120のピッチ角の差に基づいて、土壌パラメータの1つである粘着力を更新する。粘着力は、土砂内で発生する粘着する力を表すパラメータである。更新部916は、ピッチ角の差分が正数である場合、粘着力の値を小さくする。他方、更新部916は、ピッチ角の差分が負数である場合、粘着力の値を大きくする。なお、他の実施形態においては、更新部916はシリンダの抵抗の差分に基づいて粘着力を更新してもよい。この場合、作業機械100の各シリンダには、シリンダの抵抗を計測するひずみゲージなどが設けられてよい。
【0049】
掘削のフェーズが第三フェーズである場合、更新部916は、被掘削部分の安息角の差に基づいて、土壌パラメータの1つである内部摩擦角を更新する。内部摩擦角は、土砂のせん断強度を表すパラメータである。更新部916は、安息角の差分が正数である場合、内部摩擦角の値を小さくする。他方、更新部916は、安息角の差分が負数である場合、内部摩擦角の値を大きくする。
また、掘削のフェーズが第三フェーズである場合、更新部916は、掘削重量の差に基づいて、土壌パラメータの1つである粒子間付着力を更新する。粒子間付着力は、土砂の粒子同士に作用する付着力を表すパラメータである。更新部916は、掘削重量の差分が正数である場合、粒子間付着力の値を小さくする。他方、更新部916は、掘削重量の差分が負数である場合、粒子間付着力の値を大きくする。
また、掘削のフェーズが第三フェーズである場合、更新部916は、掘削重量と掘削体積の比の差に基づいて、土壌パラメータの1つである土量換算係数を更新する。土量換算係数は、掘削体積を掘削重量に変換するためのパラメータである。更新部916は、掘削重量の差分が所定の閾値以下であって、かつ掘削重量と掘削体積の比の差分が正数である場合、土量換算係数の値を大きくする。更新部916は、掘削重量の差分が所定の閾値以下であって、かつ掘削重量と掘削体積の比の差分が負数である場合、土量換算係数の値を小さくする。なお、掘削重量の差分が所定の閾値を超える場合、粒子間付着力の更新によって掘削重量の差分が小さくなってから、土量換算係数の値を更新する。パラメータの変化量は、土砂の量の差分の絶対値に基づいて決定されてもよいし、一定値であってもよい。
【0050】
《作用・効果》
第二実施形態に係る遠隔運転システム1は、以下のように動作する。更新部916は、計測データと、その計測データの受信より第一遅延時間および第二遅延時間の和(2Δt)だけ前の時刻における模擬の結果とに基づいて、計測データと模擬の結果との相違が小さくなるように、シミュレータ914のパラメータを更新する。
これにより、第二実施形態に係る遠隔運転システム1は、シミュレータ914のパラメータを、実際の作業現場の状態に近づけ、表示装置520に表示される状況と、作業現場の実際の状況との差を小さくすることができる。
【0051】
〈第三実施形態〉
作業現場には岩石が存在することがある。作業機械100が硬い岩石に接触すると、岩石が破壊されずに乗り上げたり、作業機がひっかかったりすることがある。シミュレータ914ではこのような状況を予測することが困難であり、シミュレーションの結果と実際の状況との差分が大きくなることがある。表示装置520に表示される状況と実際の状況との差分が大きいまま作業を行うと、作業機械100がオペレータが意図しない挙動を取る可能性がある。第三実施形態に係る遠隔運転システム1は、作業機械100の状況がシミュレーションの結果と大きく異なる場合に、作業機械100が意図しない挙動を取ることを防ぐ。
【0052】
《遠隔運転装置500の制御装置540》
図7は、第三実施形態に係る遠隔運転装置の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
第三実施形態に係る制御装置540は、第一実施形態の構成に加え、さらに判定部917を備える。判定部917は、シミュレータ914のシミュレーションの結果と、受信部913が受信した計測データとの差分に基づいて、作業機130の動作速度を制限するか否かを判定する。
第三実施形態に係る記録部912は、操作信号に加え、シミュレーションの結果である車体モデルの姿勢を、ストレージ950に記録する。
【0053】
《遠隔運転装置500の動作》
図8は、第三実施形態に係る遠隔運転装置500の動作を示すフローチャートである。
遠隔運転装置500の制御装置540が起動すると、制御装置540は、第一遅延時間と第二遅延時間の和(2Δt)の間、操作信号の送信をせずに待機する(ステップS41)。その後、受信部913は作業機械100から計測データを受信する(ステップS42)。シミュレータ914は、ステップS42で受信した計測データに基づいて現場モデルおよび車体モデルを更新する(ステップS43)。次に、表示制御部915は、シミュレータ914によって再現された車体モデルおよび現場モデルをレンダリングして表示画像を生成する(ステップS44)。表示画像は表示装置520に表示される。
【0054】
オペレータによって操作装置530が操作されると、送信部911は、操作装置530が出力する操作信号を作業機械100に送信する(ステップS45)。記録部912は、ステップS45で送信した操作信号と、ステップS43によるシミュレーションの結果である車体モデルの姿勢を、現在時刻に関連付けてストレージ950に記録する(ステップS46)。
【0055】
最後に計測データを受信してから所定の通信周期が経過すると、受信部913は、作業機械100から計測データを受信する(ステップS47)。シミュレータ914は、ステップS47で受信した計測データに基づいて現場モデルおよび車体モデルを更新する(ステップS48)。シミュレータ914は、ストレージ950に記録された送信信号の履歴のうち、現在時刻より時間2Δtだけ前の時刻から、現在時刻までに送信された一連の操作信号を読み出す(ステップS49)。シミュレータ914は、読み出した一連の操作信号に基づいて、現在時刻より時間Δtだけ前の時刻から、現在時刻より時間Δtだけ後の時刻における作業機械100の挙動を模擬する(ステップS50)。
【0056】
シミュレータ914は、ステップS10で模擬された現在時刻より時間Δtだけ後の時刻における車体モデルおよび現場モデルをレンダリングして表示画像を生成する(ステップS51)。表示画像は表示装置520に表示される。
【0057】
オペレータによって操作装置530が操作されると、判定部917は、現在時刻より時間2Δtだけ前の時刻に関連付けられたシミュレーションの結果をストレージ950から読み出し、ステップS47で受信した計測データとの差分を算出する(ステップS52)。具体的には、更新部916は、計測データが示す作業機械100の姿勢に係る角度と、車体モデルの姿勢に係る角度との差の絶対値の和を、差分として算出する。姿勢に係る角度は、ピッチ角、ロール角、ヨー角、ブーム131の仰角、アーム132の仰角、およびバケット133の仰角である。判定部917は、一定期間に係る差分の平均値が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS53)。一定期間は、例えば直近の1秒間であってよい。
【0058】
差分が閾値以上である場合(ステップS53:YES)、送信部911は、操作装置530の操作量にリミッタをかけ、所定の上限値および下限値以下の値に制限し(ステップS54)、制限した操作量に係る操作信号を作業機械100に送信する(ステップS55)。差分が閾値未満である場合(ステップS53:NO)、送信部911は、操作装置530の操作量を制限せずに作業機械100に送信する(ステップS55)。
【0059】
記録部912は、ステップS55で送信した操作信号と、ステップS52によるシミュレーションの結果である現場モデルの形状を、現在時刻に関連付けてストレージ950に記録する(ステップS56)。
【0060】
制御装置540は、オペレータによる遠隔運転が終了したか否かを判定する(ステップS57)。遠隔運転を終了しない場合(ステップS57:NO)、制御装置540はステップS47に処理を戻し、遠隔運転を継続する。他方、遠隔運転を終了する場合(ステップS57:YES)、制御装置540は遠隔運転を終了する。
【0061】
《作用・効果》
第三実施形態に係る遠隔運転システム1は、以下のように動作する。送信部911は、計測データと、計測データの受信より第一遅延時間および第二遅延時間の和(2Δt)だけ前の時刻における模擬の結果との相違が所定の閾値を超える場合に、操作信号に係る操作量を制限する。
これにより、第三実施形態に係る遠隔運転システム1は、シミュレーションによる作業機械100の状態と実際の作業機械100の状態との差分が大きくなった場合に、作業機械100の動作速度を遅くすることができる。動作速度が遅くなることにより、第一遅延時間および第二遅延時間の和(2Δt)の間における作業機械100の変化量が小さくなる。これにより、遠隔運転システム1は、シミュレーションによる作業機械100の状態と実際の作業機械100の状態との差分を小さくし、作業機械100が意図しない挙動を取ることを防ぐことができる。
【0062】
なお、他の実施形態においては、遠隔運転装置500は、シミュレーションの結果と実際の状態との差分に基づく操作量の制限に加え、第二実施形態のように差分に基づくパラメータの更新を行ってもよい。この場合、遠隔運転装置500は、掘削作業の1サイクル後にパラメータを更新するため、シミュレーションの結果と実際の状態との差分がパラメータの相違によって生じる場合に、パラメータの更新によって操作量の制限が解除される。
【0063】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
上述した実施形態に係る制御装置540は、単独のコンピュータによって構成されるものであってもよいし、制御装置540の構成を複数のコンピュータに分けて配置し、複数のコンピュータが互いに協働することで制御装置540として機能するものであってもよい。このとき、制御装置540を構成する一部のコンピュータが作業機械100の内部に搭載され、他のコンピュータが作業機械の外部に設けられてもよい。また、他の実施形態においては、制御装置540が作業機械100に備えられていてよい。すなわち、他の実施形態においては操作システムが、オペレータが直接操作する作業機械100に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…遠隔運転システム 100…作業機械 110…走行体 111…無限軌道 120…旋回体 121…エンジン 122…油圧ポンプ 123…コントロールバルブ 124…旋回モータ 125…回転角センサ 126…深度センサ 127…制御装置 130…作業機 131…ブーム 131C…ブームシリンダ 131S…ブーム角度センサ 132…アーム 132C…アームシリンダ 132S…アーム角度センサ 133…バケット 133C…バケットシリンダ 133S…バケット角度センサ 500…遠隔運転装置 510…運転席 520…表示装置 530…操作装置 540…制御装置 910…プロセッサ 911…送信部 912…記録部 913…受信部 914…シミュレータ 915…表示制御部 916…更新部 917…判定部 930…メインメモリ 950…ストレージ 960…インタフェース