IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社インパクトの特許一覧 ▶ 国立大学法人佐賀大学の特許一覧

<>
  • 特開-酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤 図1
  • 特開-酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080016
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/014 20060101AFI20240606BHJP
   A61L 9/013 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A61L9/014
A61L9/013
B01J20/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192827
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】318001603
【氏名又は名称】株式会社インパクト
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】北垣 浩志
【テーマコード(参考)】
4C180
4G066
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180BB08
4C180BB12
4C180CC04
4C180EB30X
4C180EC01
4G066AC02B
4G066AC39B
4G066CA02
4G066CA56
4G066DA03
(57)【要約】
【課題】本発明では、特有の不快臭を発する酪酸を吸着することができる素材として、日常多用されているティッシュペーパー(セルロース)を超える吸着能を有する素材を食品廃棄物の中から探索し、食品廃棄物の有効な再利用を図りつつ酪酸を有効に吸着することができる酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤を開発することを課題とする。
【解決手段】本発明では、酪酸吸着方法において、コーヒー粕を用いて酪酸を吸着させることにした。また、本発明では、前記酪酸吸着方法において、100mg/10mL~800mg/10mLのコーヒー粕を用いることにした。また、本発明では、酪酸吸着剤において、コーヒー粕を含有し、コーヒー粕で酪酸を吸着させることにした。また、本発明では、前記酪酸吸着剤において、100mg/10mL~800mg/10mLのコーヒー粕を含有することにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー粕を用いて酪酸を吸着させることを特徴とする酪酸吸着方法。
【請求項2】
100mg/10mL~800mg/10mLのコーヒー粕を用いることを特徴とする請求項1に記載の酪酸吸着方法。
【請求項3】
コーヒー粕を含有し、コーヒー粕で酪酸を吸着させることを特徴とする酪酸吸着剤。
【請求項4】
100mg/10mL~800mg/10mLのコーヒー粕を含有することを特徴とする請求項3に記載の酪酸吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酪酸は、特有の不快臭を発する物質として知られており、人に不快感を与える尿臭や便臭などの原因物質の一つともなっている。
【0003】
そのため、従来より、酪酸を吸着させる効果が有る吸着剤がいくつか考案されている。
【0004】
なかでも、日常多用されているティッシュペーパーの主原料であるセルロースを用いて酪酸を吸着させる消臭剤及び消臭方法が開発されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-57522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、特有の不快臭を発する酪酸を吸着することができる素材として、日常多用されているティッシュペーパー(セルロース)を超える吸着能を有する素材を食品廃棄物の中から探索し、食品廃棄物の有効な再利用を図りつつ酪酸を有効に吸着することができる酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明では、酪酸吸着方法において、コーヒー粕を用いて酪酸を吸着させることにした。
【0008】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、100mg/10mL~800mg/10mLのコーヒー粕を用いることにした。
【0009】
また、請求項3に係る本発明では、酪酸吸着剤において、コーヒー粕を含有し、コーヒー粕で酪酸を吸着させることにした。
【0010】
また、請求項4に係る本発明では、前記請求項3に係る本発明において、100mg/10mL~800mg/10mLのコーヒー粕を含有することにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤において、コーヒー粕を用いて酪酸を吸着させることにしているために、食品廃棄物としてのコーヒー粕を有効に再利用することができるとともに、ティッシュペーパー(セルロース)よりも酪酸を良好に吸着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】吸着剤と酪酸の残存量との関係を示すグラフ。
図2】吸着剤添加量と酪酸の残存量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤の具体的な構成について説明する。
【0014】
本発明では、まず、ティッシュペーパーの原料であるセルロースを超える吸着能を有する素材を食品廃棄物の中から探索する実験を行った。
【0015】
実験は、培養後に夾雑物除去を行い、HPLC(高速液体クロマトグラフ)による分析を行って、酪酸の残存量を調べた。
【0016】
この実験では、滅菌蒸留水に酪酸を添加するとともに、滅菌済みの食品廃棄物を添加したものと、セルロース(ティッシュペーパー)を添加したものと、無添加のものについて、24時間37℃で培養した。食品廃棄物及びセルロースは、100mg/10mLと200mg/10mLの濃度で添加した。
【0017】
その結果、食品廃棄物としてコーヒー粕がセルロースを超える酪酸吸着能を有することがわかった。
【0018】
すなわち、図1に示すように、無添加のものでは、80μg/mLの酪酸が残存しているのに対して、セルロース100mg/10mLを添加したものでは、77μg/mL(96.3(77/80)%)の酪酸が残存し、セルロース200mg/10mLを添加したものでは、76.1μg/mL(95.1(76.1/80)%)の酪酸が残存していた。
【0019】
これにより、セルロース100mg/10mLを添加したものでは、3.7(1-77/80)%減の酪酸吸着能を有し、セルロース200mg/10mLを添加したものでは、4.9(1-76.1/80)%減の酪酸吸着能を有していることが分かる。
【0020】
これに対して、コーヒー粕100mg/10mLを添加したものでは、73μg/mL(91.3(73/80)%)の酪酸が残存し、コーヒー粕200mg/10mLを添加したものでは、70.2μg/mL(87.8(70.2/80)%の酪酸が残存していた。
【0021】
これにより、コーヒー粕100mg/10mLを添加したものでは、8.7(1-73/80)%減の酪酸吸着能を有し、コーヒー粕200mg/10mLを添加したものでは、12.2(1-70.2/80)%減の酪酸吸着能を有していることが分かる。
【0022】
この図1に示した実験結果より、コーヒー粕がセルロースを超える酪酸吸着能を有することが分かった。
【0023】
しかも、セルロースでは、添加量を100mg/10mLから200mg/10mLに増大させても、およそ1.01(77/76.1)倍と1%増であったのに対して、コーヒー粕では、添加量を100mg/10mLから200mg/10mLに増大させると、およそ1.04(73/70.2)倍と4%増となることが分かった。
【0024】
このように、食品廃棄物の中でコーヒー粕には、酪酸を吸着することができる酪酸吸着能を有し、その添加量を増大させることでさらなる酪酸吸着能を向上させることが期待できる。
【0025】
そこで、コーヒー粕の添加量を変えて更なる実験を行った。実験は、前記実験と同様に、培養後に夾雑物除去を行い、HPLC(高速液体クロマトグラフ)による分析を行って、酪酸の残存量を調べた。この実験では、滅菌蒸留水に酪酸を添加するとともに、滅菌済みのコーヒー粕を0mg/10mL(無添加)、400mg/10mL、800mg/10mL、1200mg/10mL添加した。
【0026】
その結果、図2に示すように、無添加のものでは、90.3μg/mLの酪酸が残存しているのに対して、コーヒー粕400mg/10mLを添加したものでは、80.6μg/mL(89.3(80.6/90.3)%)の酪酸が残存し、コーヒー粕800mg/10mLを添加したものでは、84.7μg/mL(93.8(84.7/90.3)%の酪酸が残存し、コーヒー粕1200mg/10mLを添加したものでは、89.3μg/mL(98.9(89.3/90.3)%の酪酸が残存していた。
【0027】
これにより、コーヒー粕400mg/10mLを添加したものでは、10.7(1-80.6/90.3)%減の酪酸吸着能を有し、コーヒー粕800mg/10mLを添加したものでは、6.2(1-84.7/90.3)%の酪酸吸着能を有し、コーヒー粕1200mg/10mLを添加したものでは、1.1(1-89.3/90.3)%減の酪酸吸着能を有することが分かる。
【0028】
このように、コーヒー粕では、酪酸吸着能が添加濃度に大きく依存して変化することが分かった。
【0029】
しかも、セルロースの添加濃度が100mg/10mLや200mg/10mLやコーヒー粕の添加濃度が1200mg/10mLでは、酪酸吸着能が5%未満であったのに対して、コーヒー粕の添加濃度が100mg/10mLや200mg/10mLや400mg/10mLや800mg/10mLでは、酪酸吸着能が5%以上であり、セルロースを超える酪酸吸着能を有することが分かった。特に、コーヒー粕の添加濃度が200mg/10mLや400mg/10mLでは、酪酸吸着能が10%以上であり、セルロースを顕著に超える酪酸吸着能を有することが分かった。
【0030】
以上に説明したことから、コーヒー粕には、酪酸を吸着させることができる能力が有り、コーヒー粕を用いて酪酸を吸着させる酪酸吸着方法として利用することができ、また、コーヒー粕を含有し、コーヒー粕で酪酸を吸着させる酪酸吸着剤として利用することができる。
【0031】
このように、本発明では、酪酸吸着方法及び酪酸吸着剤において、コーヒー粕を用いて酪酸を吸着させることにしているために、食品廃棄物としてのコーヒー粕を有効に再利用することができるとともに、ティッシュペーパー(セルロース)よりも酪酸を良好に吸着させることができる。
【0032】
特に、100mg/10mL~800mg/10mLのコーヒー粕を用いた場合には、酪酸を良好に吸着させることができ、さらに、200mg/10mL~400mg/10mLのコーヒー粕を用いた場合には、より顕著に酪酸を良好に吸着させることができる。
【0033】
そして、本発明による酪酸吸着方法や酪酸吸着剤を用いて酪酸を吸着させることで、酪酸によって発せられる尿臭や便臭などの特有の不快臭を抑制することができる。
【0034】
たとえば、直面する高齢化社会における社会問題ともなっている介護者や被介護者の大きな負担の一因として、おむつやポータブルトイレ等の衛生用品から発せられる尿臭や便臭などの酪酸を起因とする不快臭が挙げられるが、この酪酸を起因とする不快臭を本発明による酪酸吸着方法や酪酸吸着剤を用いて抑制することができ、介護者や被介護者の負担軽減に多大に寄与することができる。
図1
図2