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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080030
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】コーティング用組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240606BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240606BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20240606BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/02
C09D133/04
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192850
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 晃司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥田 治和
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG142
4J038CJ182
4J038CP072
4J038DG121
4J038DG131
4J038DL102
4J038DL132
4J038MA10
4J038MA14
4J038MA15
4J038NA01
4J038NA07
4J038NA09
4J038PC03
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】透明性と光沢性を維持しながら、シリコーンの摺動性を効果的に付与した水系コーティング用組成物、及び該組成物から成る皮膜を有する積層体を提供する。
【解決手段】(A)皮膜形成能を有する、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂から選ばれる樹脂のエマルジョン:固形分量で100質量部、及び、(B)メルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基を有するポリオルガノシロキサンと、アクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体から選ばれる少なくとも一つの単量体との共重合物であり、該ポリオルガノシロキサンに対するアクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位の質量比が30:70~99:1であり、メディアン径8~150μmを有する、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂:5~70質量部を含む、コーティング用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)皮膜形成能を有する、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂から選ばれる樹脂のエマルジョン:固形分量で100質量部、及び、
(B)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、アクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体から選ばれる少なくとも一つの単量体との共重合物であり、該ポリオルガノシロキサンに対するアクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位の質量比が30:70~99:1であり、メディアン径8~150μmを有する、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂:5~70質量部
を含む、コーティング用組成物
【化1】
(式中、R1は互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基を有する炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは、X又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基であり、上記式(1)は少なくとも2個のケイ素原子結合ヒドロキシル基又はアルコキシ基を有し、Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0~1,000の整数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。ただし、上記式(1)において各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されない)。
【請求項2】
上記一般式(1)において、R及びXが、互いに独立に、炭素数1~20の、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である、請求項1記載のコーティング用組成物。
【請求項3】
上記一般式(1)におけるX及びY、並びに上記-[O-Si(X)-XにおけるXのうち少なくとも2個は、ヒドロキシル基又はアルコキシ基である、請求項1または2記載のコーティング用組成物。
【請求項4】
(B)前記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂がメディアン径10~130μmを有する、請求項1記載のコーティング用組成物。
【請求項5】
(B)前記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂が、
(b1)上記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、
(b2)アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体と、
任意的な(b3)前記(b2)成分と共重合可能な官能基含有単量体と
の共重合物である、請求項1記載のコーティング用組成物。
【請求項6】
基材と請求項1記載のコーティング用組成物から成る塗膜を有する積層体において、前記塗膜のヘーズ値が、前記塗膜を有さない前記基材表面のヘーズ値に対し2000%以下の増加率を有する、請求項1記載のコーティング用組成物。
【請求項7】
基材と、請求項1~6のいずれか1項記載のコーティング用組成物から成る皮膜とを有し、該皮膜が前記基材の片面又は両面に形成される、積層体。
【請求項8】
前記基材が、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1つである、請求項7記載の積層体。
【請求項9】
前記基材が、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラスから選ばれる少なくとも1つである、請求項7記載の積層体。
【請求項10】
前記基材が、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、又はモクセイ科の木材から選ばれる少なくとも1つである、請求項7記載の積層体。
【請求項11】
前記基材が、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、及び炭素からから選ばれる少なくとも1つの繊維である、請求項7記載の積層体。
【請求項12】
前記皮膜の厚さが1~500μmである、請求項7~11のいずれか1項記載の積層体。
【請求項13】
メディアン径(D50)8~150μmを有するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂から成る、粉体であって、該シリコーンアクリルグラフト共重合体が、
下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、アクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体から選ばれる少なくとも一つの単量体との共重合物であり、該ポリオルガノシロキサンに対するアクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位の質量比が30:70~99:1である、前記粉体
【化2】
(式中、R1は互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基を有する炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは、X又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基であり、上記式(1)は少なくとも2個のケイ素原子結合ヒドロキシル基又はアルコキシ基を有し、Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0~1,000の整数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。ただし、上記式(1)において各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されない)。
【請求項14】
上記一般式(1)において、R1及びXが、互いに独立に、炭素数1~20の、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である、請求項13記載の粉体。
【請求項15】
上記一般式(1)におけるX及びY、並びに上記-[O-Si(X)-XにおけるXのうち少なくとも2個は、ヒドロキシル基又はアルコキシ基である、請求項13または14記載の粉体。
【請求項16】
前記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂が、
(b1)上記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、
(b2)アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体と、
任意的な(b3)前記(b2)成分と共重合可能な官能基含有単量体と
の共重合物である、請求項13記載の粉体。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか1項記載のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂から成る、コーティング剤用粉体。
【請求項18】
請求項13~16のいずれか1項記載の粉体を含むコーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用組成物に関する。詳細には、基材表面にコーティングすることで、透明性を維持しながら、さらに光沢性と摺動性を付与することができる水系コーティング用組成物に関する。また本発明は、当該コーティング用組成物による皮膜が形成された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コーティング剤の分野においては、環境問題の点で有機溶剤系から水系へと分散媒の移行が進んでいる。ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系などのエマルジョンは優れた皮膜形成能があり、コーティング剤として広く用いられてきた。
【0003】
また、シリコーン系樹脂は、基材に摺動性を付与することができる樹脂として知られている。しかしながら、シリコーン系の樹脂をコーティング剤として使用する場合には、塗膜が白化するなどの不具合があった。
【0004】
そこで、皮膜形成能を有するウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂のエマルジョンとシリコーン系の樹脂を混合してコーティング剤として使用する方法が試みられている。しかし、混合することによってシリコーン系樹脂の摺動性を十分に発揮できず、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂の性能を劣化させるなど、満足な性能を発揮していないのが現実である。
【0005】
特開2013-67787号(特許文献1)は、ウレタン系、アクリル系、又は塩化ビニル系樹脂のエマルジョンとシリコーン系の樹脂を混合したコーティング剤が基材に撥水性を付与できることを開示している。しかし、摺動性と塗膜の透明性については改善の余地があった。
【0006】
特開2020-55938号(特許文献2)は、ウレタン系エマルジョンとシリコーンアクリル樹脂エマルジョンを含有するコーティング剤を開示している。しかし、塗膜の透明性は改善されるが、シリコーンアクリル樹脂エマルジョンを使用することで、塗膜の光沢性がなくなるため、光沢を求める用途のコーティング剤としては適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-67787号公報
【特許文献2】特開2020-55938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂から選ばれる樹脂のエマルジョンと混合した際に、透明性と光沢性を維持しながら、シリコーンの摺動性を効果的に付与した水系コーティング用組成物、及び該組成物から成る皮膜を有する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、皮膜形成能を有するウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、又は塩化ビニル系樹脂から選ばれるエマルジョンに特定のメディアン径(50%粒子径)を有するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の粉体を所定の割合で配合したコーティング用組成物が上記課題を解決することを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記のコーティング用組成物を提供する。
(A)皮膜形成能を有する、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂から選ばれる樹脂のエマルジョン:固形分量で100質量部、及び、
(B)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、アクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体から選ばれる少なくとも一つの単量体との共重合物であり、該ポリオルガノシロキサンに対するアクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位の質量比が30:70~99:1であり、メディアン径8~150μmを有する、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂:5~70質量部
を含む、コーティング用組成物
【化1】
(式中、R1は互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基を有する炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは、X又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基であり、上記式(1)は少なくとも2個のケイ素原子結合ヒドロキシル基又はアルコキシ基を有し、Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0~1,000の整数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。ただし、上記式(1)において各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されない)。
さらに本発明は下記[1]~[5]から選ばれる少なくとも1の構成要件をさらに有する前記コーティング剤組成物を提供する。
[1]上記一般式(1)において、R及びXが、互いに独立に、炭素数1~20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である、前記コーティング用組成物。
[2]上記一般式(1)におけるX及びY、並びに上記-[O-Si(X)-XにおけるXのうち少なくとも2個は、ヒドロキシル基又はアルコキシ基である、前記コーティング用組成物。
[3](B)前記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂がメディアン径10~130μmを有する、前記コーティング用組成物。
[4](B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂が、
(b1)上記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、
(b2)アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体と、
任意的な(b3)前記(b2)成分と共重合可能な官能基含有単量体と
の共重合物である、前記コーティング用組成物。
[5]基材と前記コーティング用組成物から成る塗膜を有する積層体において、前記塗膜のヘーズ値が、前記塗膜を有さない前記基材表面のヘーズ値に対し2000%以下の増加率を有する、前記コーティング用組成物。
【0011】
さらに本発明は、基材と、前記コーティング用組成物から成る皮膜とを有し、該皮膜が基材の片面又は両面に形成される、積層体を提供する。
さらに本発明は、下記[i]~[v]から選ばれる少なくとも1の構成要件をさらに有する前記積層体を提供する。
[i]基材が、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン及びエポキシ樹脂から選ばれるプラスチックである、前記積層体。
[ii]基材が、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラスから選ばれるガラスである、前記積層体。
[iii]基材が、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科から選ばれる木材である、前記積層体。
[iv]基材が、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素から選ばれる繊維である、前記積層体。
[v]前記皮膜の厚さが1~500μmである、前記積層体。
【0012】
さらに本発明は、メディアン径(D50)8~150μmを有するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の粉体であって、該シリコーンアクリルグラフト共重合体が、上記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、アクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体から選ばれる少なくとも一つの単量体との共重合物であり、該ポリオルガノシロキサンに対するアクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位の質量比が30:70~99:1である、前記粉体を提供する。該粉体は、好ましくは上記[1]乃至[4]から選ばれる少なくとも1の構成要件をさらに有する。
さらに好ましくは、前記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂から成るコーティング剤用粉体、及びシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の粉体を含むコーティング剤を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコーティング用組成物は、優れた透明性を維持しながら、光沢性と摺動性を有し、該コーティング用組成物による皮膜が形成された積層体の外観を損なわずに高い耐摩耗性を維持することができる。さらに水系であるため作業面及び環境面で利点が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、(A)皮膜形成能を有する、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂から選ばれる樹脂のエマルジョン:固形分比で100質量部、及び、(B)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、アクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体から選ばれる少なくとも一つの単量体との共重合物であり、該ポリオルガノシロキサンに対するアクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位の質量比が30:70~99:1であり、メディアン径10~150μmを有する、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂:5~70質量部を含む、コーティング用組成物である。上記皮膜形成能を有する樹脂のエマルジョンにシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂が分散しているコーティング用組成物である。より好ましくは、前記コーティング用組成物は、基材と前記コーティング用組成物から成る塗膜を有する積層体において、前記塗膜のヘーズ値が、前記塗膜を有さない前記基材表面のヘーズ値に対し2000%以下の増加率を有する。
【0015】
(A)皮膜形成能を有するウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系から選ばれる樹脂エマルジョンは、公知の方法、例えばアニオン又はノニオン系乳化剤等を用いた乳化重合法で合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。皮膜形成能とは、一定温度以上で、乾燥後の塗膜表面の粒子性がなくなり、かつ、乾燥時に細かいひび割れなどを起こさない性能である。皮膜形成のための乾燥温度範囲は特に限定されないが、好ましくは30~150℃、より好ましくは100~150℃である。
【0016】
上記樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂エマルジョン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単量体を用いたアクリル系樹脂エマルジョン、塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル、又は塩化ビニル/(メタ)アクリル酸、又はそのエステル等を用いた塩化ビニル系樹脂エマルジョンが挙げられる。(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。これらの樹脂エマルジョンが皮膜形成能を有するには、粒子径が10~750nmであり、10~500nmが好ましく、より好ましくは20~200nmがよい。また、ガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)は、120℃以下であり、60℃以下が好ましく、30℃以下がさらに好ましい。なお、ガラス転移温度の下限値は-50℃が好ましい。
【0017】
ガラス転移温度Tgの計算方法は、以下の式の通りである。
(Pa+Pb+Pc)/Tg=(Pa/Ta)+(Pb/Tb)+(Pc/Tc)
式中、Tgは重合体粒子のガラス転移温度(K)を表し、Pa、Pb、Pcは、それぞれ単量体a、b、cの含有量(質量%)を表し、Ta、Tb、Tcは、それぞれ単量体a、b、cのホモポリマーガラス転移温度(K)を表す。なお、上記ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0018】
ウレタン系樹脂エマルジョンとしては、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとの反応物で、該ポリオールとしてポリエーテル系、ポリカーボネート系、ポリエステル系等を用いた各種水溶性ウレタン樹脂が挙げられる。このウレタン系樹脂エマルジョンが皮膜形成能を有するためには、粒子径が10~750nmであり、10~500nmが好ましく、より好ましくは20~200nmであることが好ましい。粘度(25℃)は10~500mPa・sであるのがよい。また、ガラス転移温度は、120℃以下であり、60℃以下が好ましく、30℃以下がさらに好ましい。なお、ガラス転移温度の下限値は-50℃が好ましい。ガラス転移温度はJIS K7121に基づき測定できる。
【0019】
市販のポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、アデカ社製アデカボンタイターHUX-350、DIC社製WLS-201,WLS-202、第一工業製薬社製スーパーフレックスE-4000,E-4800などが挙げられる。ポリカーボネート系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、例えば、DIC社製ハイドランWLS-210,WLS-213、宇部興産社製UW-1005E,UW-5502、三洋化成社製パーマリンUA-368、第一工業製薬社製スーパーフレックス460,スーパーフレックス470などが挙げられる。ポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、アデカ社製アデカボンタイターHUX-380,HUX-540、第一工業製薬社製スーパーフレックス420,スーパーフレックス860などが挙げられる。
【0020】
市販のアクリル系樹脂エマルジョンとしては、日信化学工業社製ビニブラン、ヘンケルジャパン社製ヨドゾール、東亜合成社製アロン等が挙げられる。
市販の塩化ビニル系樹脂エマルジョンとしては、日信化学工業社製ビニブランが挙げられる。
【0021】
皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンは、使用する基材によって好ましいものが異なるが、合成皮革等の用途で使用する場合にはウレタン系樹脂エマルジョンが好ましい。
【0022】
皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンの配合量は、コーティング組成物中の全固形分量100%に対し、固形分で60~99質量%であり、好ましくは65~95質量%である。樹脂エマルジョンの量が上記下限値未満であると、耐摩耗性など皮膜特性が非常に悪くなるという不具合があり、上記上限値を超えると表面が滑らかでないために触感が悪いという不具合がある。
【0023】
(B)成分のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、好ましくは、(b1)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと、(b2)(メタ)アクリル酸エステル単量体と、任意的な(b3)上記(b2)成分と共重合可能な官能基含有単量体との混合物とを、乳化グラフト重合したのち、乾燥させて得られる共重合物である。
【0024】
(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、好ましくは(b1)成分100質量部に対して、(b2)成分が1~233質量部、及び、任意的な(b3)成分0.01~20質量部を用いて得ることが好ましい。より好ましくは、(b1)成分100質量部に対して、(b2)成分は5.3~144質量部、より好ましくは8.7~66.7質量部であり、任意的な(b3)成分は0.01~5質量部がよい。
【0025】
(b1)ポリオルガノシロキサンは、下記一般式(1)で示される。
【化2】

式中、Rは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、Rはメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基を有する炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは、X又は-[O-Si(X)-Xで示される同一又は異種の基であり、上記式(1)は少なくとも2個のケイ素原子結合ヒドロキシル基又はアルコキシ基を有し、Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0~1,000の整数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。
なお、上記式(1)において、シロキサン単位の結合順所は上記に制限されず、各シロキサン単位はブロック単位を形成しても、ランダムに結合していてもよい。
【0026】
上記式においてR1は、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、好ましくは、直鎖状、分岐状もしくは環状の、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基、又は、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アルキル又はアルコキシもしくは(メタ)アクリロキシ置換アミノ基などで置換されたものが挙げられる。R1としては、好ましくはメチル基である。
【0027】
2は、メルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。例えば、メルカプトプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基、ビニル基等が好ましい。
【0028】
Xは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、R1で例示したものと同様のものが例示できる。炭素数1~20のアルコキシ基として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。Xとして、好ましくはヒドロキシル基、メチル基、ブチル基、フェニル基、又はメトキシ基である。
【0029】
Yは、互いに独立に、X又は-[O-Si(X)2d-Xで示される基である。dは1~1,000の正数であり、好ましくは1~200の正数である。
【0030】
Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基又はメチル基である。
【0031】
上記式(1)において、aが1,000より大きい数では、得られる皮膜の強度が不十分となる。aは0~1,000の整数であり、好ましくは0又は1~200の正数である。bが100未満の数では皮膜の柔軟性が乏しいものとなり、10,000より大きい数であると、皮膜の引き裂き強度が低下する。従って、bは100~10,000の正数であり、好ましくは1,000~5,000の正数であるのがよい。cは1~10の正数、好ましくは1~6の正数である。cが10を超える数であると、該組成物でコーティングした際に基材の耐摩耗性が良化しないおそれがある。dは1~1,000の正数であり、好ましくは1~200の正数である。また、上記式(1)は、架橋性の面から1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~4個のケイ素原子結合ヒドロキシル基又はアルコキシ基を有するのがよい。
好ましくは、上記式(1)においてX又はYで示される基として少なくとも2個のケイ素原子結合ヒドロキシル基又はアルコキシ基を有するのがよい。より好ましくは、上記式(1)におけるX及びY、並びに上記-[O-Si(X)-XにおけるXのうち少なくとも2個がヒドロキシル基又はアルコキシ基であるのがよい。さらに好ましくは上記式(1)における両末端にあるXの少なくとも2個、好ましくは2~4個がヒドロキシル基又はアルコキシ基であるのがよい。アルコキシ基は、好ましくは炭素数1~4アルコキシ基であり、より好ましくはメトキシ基である。
より好ましくはケイ素原子結合ヒドロキシル基を両末端に有する化合物がよい。
【0032】
上記(b1)ポリオルガノシロキサンは、エマルジョンの形態で使用されることが好ましく、市販品を使用してもよいし、合成してもよい。合成する場合は、公知の乳化重合法を行えばよい。例えば、フッ素原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基を有してもよい環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤を、アニオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸等の触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。

3 (4-e-f)4 fSi(OR5e (2)

上記式(2)中、R3は重合性二重結合を有する1価有機基であり、特にアクリロキシ基又はメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基である。R4は炭素数1~4のアルキル基であり、R5は炭素数1~4のアルキル基であり、eは2又は3であり、fは0又は1であり、e+f=2又は3である。
【0033】
上記環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。好ましくは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが用いられる。
【0034】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニルシラン類;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどのアクリルシラン類;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン類等が挙げられる。又はこれらを縮重合したオリゴマーはアルコールの発生が抑えられより好ましい場合がある。ここで、(メタ)アクリロキシは、アクリロキシ又はメタクリロキシを示す。シランカップリング剤の量は、環状オルガノシロキサン100質量部に対し0.01~10質量部であることが好ましく、0.01~5質量部であることがさらに好ましい。シランカップリング剤の量が0.01質量部未満であると、コーティング剤の透明性が低下するおそれがある。シランカップリング剤の量が10質量部を超えると、コーティング剤は摺動性が発揮できないおそれがある。
【0035】
上述した環状オルガノシロキサン等と上記一般式(2)で示されるシランカップリング剤を共重合することにより、下記(R(Z)SiO)単位を有する下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンが得られ、(b2)又は(b3)成分の単量体をグラフトさせる効果が得られる。
【化3】
【0036】
重合に用いる重合触媒としては、公知の重合触媒を使用すればよい。中でも強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは乳化能を持つドデシルベンゼンスルホン酸である。酸触媒の配合量は、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.01~10質量部が好ましく、より好ましくは0.2~2質量部であるのがよい。
【0037】
重合する際の界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等が挙げられる。中でも水に溶けやすく、ポリエチレンオキサイド鎖を持たないものが好ましい。さらに好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、及びアルキルりん酸塩である。特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムである。アニオン系界面活性剤の量は、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0038】
重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上がさらに好ましい。さらに、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。
【0039】
本発明に用いる(b2)アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル(以下、アクリル成分ということがある)は、ヒドロキシル基、アミド基、カルボキシル基等の官能基を持たないアクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体を指し、炭素数1~10のアルキル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましく、さらにはアクリル成分のポリマーのガラス転移温度(以下、Tgということがある)が40℃以上、好ましくは60℃以上になる単量体が好ましく、かかる単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等Tgが低い単量体でもTgが高い単量体と併用して使用することが可能である。なお、Tgの上限は、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0040】
(b2)成分と共重合可能な官能基含有単量体(b3)としては、カルボキシル基、アミド基、水酸基、ビニル基、アリル基等を含む不飽和結合を有する単量体であり、例えばには、メタクリル酸、アクリル酸、アクリルアマイド、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが挙げられ、これらを共重合することで相容性を向上させることが可能となる。
【0041】
本発明の(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンは、上記のようにして得られた(b1)ポリオルガノシロキサンに(b2)(メタ)アクリル酸エステル単量体と(b3)上記(b2)成分と共重合可能な官能基を含有する単量体との混合物を、乳化グラフト重合させる。
【0042】
グラフト重合させる際の式(1)のポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル酸エステル単量体との質量比(式(1)のポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル単位との質量比)は30:70~99:1であり、好ましくは45:65~95:5であり、より好ましくは60:40~92:8である。シリコーン成分が上記下限値より少ないとコーティングした際に耐摩耗性が良化しないという不具合がある。
【0043】
上記反応にはラジカル開始剤を用いてもよい。該ラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素が挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。
【0044】
上述したポリオルガノシロキサンエマルジョン中に含まれている界面活性剤で十分にグラフト重合可能だが、安定性向上のためアニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。
【0045】
(b1)成分に対する(b2)及び(b3)成分のグラフト重合温度は25~55℃が好ましく、25~40℃がさらに好ましい。また重合時間は2~8時間が好ましく、3~6時間がさらに好ましい。
【0046】
さらに、グラフトポリマーの分子量、グラフト率を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。
【0047】
上記により得られるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンは、(b2)及び(b3)成分が(b1)成分にランダムにグラフトされているポリマーである。
【0048】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンの固形分は35~50質量%が好ましい。また、粘度(25℃)は、500mPa・s以下が好ましく、50~500mPa・sがさらに好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。エマルジョンの分散粒子のメディアン径は、180nm以下、好ましくは50nm~180nm、さらに好ましくは80~170nmである。メディアン径が大きすぎる場合には、透明なコーティング剤が得られず、小さすぎる場合には、分散性が低下する問題がある。なお、分散粒子のメディアン径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定することができる体積基準の粒径である。
【0049】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合エマルジョンは、例えば、加熱脱水、ろ過、遠心分離、デカンテーション等の方法により分散液を濃縮した後に、必要に応じて水洗を行い、さらに常圧もしくは減圧下での加熱乾燥、気流中に分散液を噴霧するスプレードライ、流動熱媒体を使用しての加熱乾燥などにより水分の除去を行い、一旦乾燥し、粉体化する。なお、乾燥温度は40~105℃が好ましい。得られた粉体が若干凝集を生じている場合には、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル等の粉砕機を適宜使用して解砕を行ってもよい。
【0050】
得られたシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂に残存する環状オルガノシロキサン及び界面活性剤を除去するために、洗浄をしてもより。洗浄に使用する溶剤は、アルコール系有機溶剤、炭化水素系有機溶剤が好ましく、例えば、炭素数1~4の低級アルコール、炭素数5~20の脂肪族炭化水素が挙げられる。詳細には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、イソドデカンがさらに好ましい。洗浄方法は特に制限されないが、例えば、100質量部の粉体をビーカーに採取し、その質量の5倍以上の上記溶剤を加え、数時間撹拌の後、吸引濾過する。その後、同じ溶剤で洗うか、アルコール系など水に溶ける溶剤にて水洗をするとさらに効果的である。洗浄は、通常、室温(25℃)で行うが、場合によって加熱してもよい。
【0051】
洗浄した場合は、再乾燥して粉体化するが、濾過した粉体は単純に乾燥機で40~105℃の温度で、数時間乾燥したり、流動乾燥機などを用いてもよい。
【0052】
上記方法にて乾燥して得られる(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、体積基準のメディアン径8~150μm、好ましくは10~130μm、より好ましくは40~120μm、特には50~100μmを有することが好ましい。メディアン径はレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用い、メタノールなどを分散媒として測定することができる。
【0053】
本発明は、上記メディアン径を有するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の粉体を配合したエマルジョンであることを特徴とする。当該樹脂を、上述した(A)皮膜形成性樹脂のエマルジョンと混合することで、透明性と光沢性を維持しながら、シリコーンの摺動性を効果的に付与したコーティング用組成物を提供する。シリカや他のシリコーン系樹脂では一部凝集し塗工時に筋や塊が発生することがあるが、本発明は(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂微粒子の表面性がよいため、(A)皮膜形成性樹脂のエマルジョンとの相溶性と分散性の良さから均一な塗膜の生成が可能である。
【0054】
シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の重量平均分子量は、5万~50万が好ましい。5万未満では、ゴム配合物表面への析出が激しくなる可能性があり、50万を超えても摩擦低減効果が不十分な場合がある。なお、重量平均分子量は、エマルジョンとイソプロピルアルコール(IPA)を混合し、オイル抽出乾燥後その1gをトルエン100mLに溶解した25℃の動粘度測定値からジメチルシリコーン分子量換算により測定する。
【0055】
(B)成分であるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の配合量は、コーティング組成物中、固形分で1~40質量%であり、好ましくは1~35質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンが上記下限値未満であると耐摩耗性において全く改善が見られないという不具合があり、上記上限値を超えると白化する上に耐摩耗性も低下していくという不具合がある。
(A)皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンと(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂との配合比は、固形分比で、(A)成分100質量部に対して(B)成分が5~70質量部、好ましくは8~50質量部、より好ましくは10~25質量部であればよい。
【0056】
本発明のコーティング用組成物は、(A)皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンに(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を、好ましくは水系下でプロペラ式撹拌機やホモジナイザーなどの公知の混合調製方法(1000~5000rpm)によって混合し、(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を分散させることによって得られる。
【0057】
また、本発明のコーティング用組成物には、性能に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、造膜助剤などの有機溶剤、他の樹脂等を添加してもよい。
【0058】
本発明のコーティング用組成物については、所望の高い透明性を確保する点から、基材に塗布した際のヘーズ増加率が、塗布前の基材のヘーズ値に対して0%以上2000%以下であることが好適であり、基材の種類によるが、より好ましくは0%以上1800%以下とするものである。本発明で言う「ヘーズ」は、JIS K7136(2000年)の規格に従い、全光線透過率及び拡散透過率から下記式により算出されるHAZE(曇価)である。
HAZE(曇価) = (拡散透過率Td/全光線透過率Tt)×100 (%)
基材に塗布したヘーズの値は、例えば、日本電色工業社製のヘーズメーターによって測定することができる。また、コーティング用組成物の塗布前の基材のヘーズの値も上記と同様の規格にしたがって測定することができる。また、本発明でいう「ヘーズ増加率」は、基材のヘーズ値をX,コーティング組成物を塗布した後のヘーズ値をYとすると、
[ヘーズ値の増加率(%)] = 〔( Y - X ) / X〕 × 100
で表すことができる。
【0059】
このようにして得られた本発明のコーティング用組成物を基材、例えば、プラスチック(PET、PI、合成皮革等)、硝子(汎用ガラス、SiO2等)、金属(Si、Cu、Fe、Ni、Co、Au、Ag、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、それらの合金等)、木材、繊維(布、糸等)、紙、セラミック(酸化物、炭化物、窒化物等の焼成物など)などの基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥(室温~150℃)すると、樹脂の長所を維持しながら、シリコーン樹脂の撥水性、耐候性、耐熱性、耐寒性、ガス透過性、摺動性などの利点を、長期に亘って付与することができる。これは、皮膜形成能を有する樹脂と硬化性シリコーン樹脂が丈夫な海島構造を作っているためと考えられる。
【0060】
ここで、プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が使用される。プラスチック加工品としては、自動車内装材や有機ガラス、電材や建材、建築物の外装材、液晶ディスプレイ等に使用する光学フィルム、光拡散フィルム、携帯電話、家電製品等がある。乾燥させる方法としては、室温下で1~10日間放置する方法が挙げられるが、硬化を迅速に進行させる観点から、20~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。また、前記プラスチック基材が加熱によって変形や変色を引き起こしやすい材質からなるものである場合には、20~100℃の比較的低温下で乾燥することが好ましい。
【0061】
ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用される。ガラス加工品としては、建築用板ガラス、自動車等車両用ガラス、レンズ用ガラス、鏡用ガラス、ディスプレイパネル用ガラス、太陽電池モジュール用ガラス等がある。乾燥させる方法としては、室温で1~10日程度放置したり、20~150℃、特に60~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。
【0062】
木材基材としては、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科等の木材が使用される。木材加工品としては、木そのものを原料とする加工及び成形品、合板及び集成材及びそれらの加工及び成形品、及びそれらの組み合わせから選択されるものであってよく、例えば、建物の外装及び内装用資材を包含する住建築用資材、机などの家具類、木のおもちゃ、楽器等がある。20~150℃、特に50~150℃で0.5~5時間熱風乾燥させる方法が好ましい。また、乾燥温度は120℃以下にすれば塗膜の変色を避けることができる。
【0063】
繊維基材としては、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿等の天然繊維及び、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素等の化学繊維が例示される。繊維加工品としては、すべての種類の織物、編物、不織布、あるいはフィルム、紙等がある。乾燥させる方法としては、室温で10分~数十時間放置したり、20~150℃の温度で、0.5分~5時間乾燥させる方法が好ましい。
【0064】
本発明のコーティング用組成物を基材へコーティングする方法は、特に限定しないが、例えば、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、スクリーンコーター、カーテンコーター、刷毛塗りなどの各種コーターによる塗布方法、スプレー塗布、浸漬等が挙げられる。
【0065】
本発明のコーティング用組成物の基材への塗布量は、特に限定しないが、通常は、防汚性、施工作業性などの点から固形分換算で、好ましくは1~300g/m2、より好ましくは5~100g/m2の範囲であればよく、得られる皮膜の厚さ1~500μm、好ましくは5~100μmで形成するのがよい。自然乾燥又は100~200℃に加熱乾燥して成膜させるとよい。
【実施例0066】
以下、製造例、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
また、下記に示すオルガノポリシロキサンの構造式において、シロキサン単位の結合順所は下記に制限されない。
【0067】
[製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン0.6g、ラウリル硫酸ナトリウム8.4gをイオン交換水76gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間、重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液20gでpH6~8に中和した。得られたシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.8%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは下記の構成を有する。
【化4】
(上記式において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはメトキシ基である)
上記で得たシリコーンエマルジョン1200gにメタクリル酸メチル(MMA)227gおよびメタクリル酸ヒドロキシエチル(2―HEMA)4.6gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで、シリコーンへアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.0%を有するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂のエマルジョンを得た。当該エマルジョンを135℃でスプレードライ乾燥することにより、メディアン径69.9μmを有するシリコーン樹脂の粉体を得た(製造例1)。
【0068】
[製造例2]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン0.5g、ラウリル硫酸ナトリウム8.4gをイオン交換水76gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間、重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液20gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が46.0%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは下記の構成を有する。
【化5】
(上記式において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはメトキシ基である)
【0069】
上記で得たシリコーンエマルジョンにメタクリル酸メチル(MMA)227gおよびメタクリル酸ヒドロキシエチル(2―HEMA)4.6gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーンへアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.6%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂のエマルジョンを得た。このエマルジョンを115℃でスプレードライ乾燥することにより、メディアン径12.2μmを有するシリコーン樹脂の粉体を得た(製造例2)。
【0070】
[製造例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン3g、ラウリル硫酸ナトリウム8.4gをイオン交換水76gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間、重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液20gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.0%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは下記の構成を有する。
【化6】
(上記式において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはメトキシ基である)
【0071】
上記で得たシリコーンエマルジョンにメタクリル酸メチル(MMA)58.8gおよびメタクリル酸ヒドロキシエチル(2―HEMA)1.2gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーンへアクリルグラフト共重合し、不揮発分44.5%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂のエマルジョンを得た。このエマルジョンを135℃でスプレードライ乾燥することにより、メディアン径92.1μmを有するシリコーン樹脂の粉体を得た(製造例3)。
【0072】
[製造例4]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン3g、ラウリル硫酸ナトリウム8.4gをイオン交換水76gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間、重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液20gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.0%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは下記の構成を有する。
【化7】
(上記式において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはメトキシ基である)
【0073】
上記で得たシリコーンエマルジョンにメタクリル酸メチル(MMA)529.6gおよびメタクリル酸ヒドロキシエチル(2―HEMA)10.8gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーンへアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.3%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂のエマルジョンを得た。このエマルジョンを135℃でスプレードライ乾燥することにより、メディアン径43.3μmを有するシリコーン樹脂の粉体を得た(製造例4)。
【0074】
[製造例5]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン3g、ラウリル硫酸ナトリウム8.4gをイオン交換水76gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間、重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液20gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.0%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは下記の構成を有する。
【化8】
(上記式において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはメトキシ基である)
【0075】
上記で得たシリコーンエマルジョンにメタクリル酸メチル(MMA)358.2gおよびアクリル酸ブチル(BA)182.1gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーンへアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.6%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。このエマルジョンを135℃でスプレードライ乾燥することにより、メディアン径58.0μmの粉体のシリコーン樹脂(製造例5)を得た。
【0076】
[比較製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン0.6g、ラウリル硫酸ナトリウム8.4gをイオン交換水76gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間、重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液20gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.8%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは下記の構成を有する。
【化9】
(上記式において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはメトキシ基である)
【0077】
上記で得たシリコーンエマルジョンにメタクリル酸メチル(MMA)227gおよびメタクリル酸ヒドロキシエチル4.6gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーンへアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.0%であり、乳化粒子のメディアン径232nmを有するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂のエマルジョンを得た。(比較製造例1)
【0078】
[比較製造例2]
製造例1で得られたシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂のエマルジョンを水と塩化カルシウムを加えて塩析し、脱水した後に乾燥しメディアン径684μmの粉体のシリコーン樹脂(比較製造例2)を得た。
【0079】
〔蒸発残分(固形分濃度)測定〕
試料約1gをアルミ箔製の皿に量り取り、105~110℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R : 蒸発残分(%)
W : 乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L : アルミ箔皿の質量(g)
T : 乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0080】
〔粒子径測定〕
上記実施例及び比較例におけるメディアン径の測定方法は下記の通りである。
メディアン径の測定には、レーザー回折型の粒子径測定機(堀場製作所製 LA-950V2)を用いた。製造例1~5では、樹脂屈折率1.45、メタノール屈折率1.329の設定を用い、製造例1~5で得た粉体をそのまま機器内のメタノールを攪拌しているところに投入し、樹脂の体積基準のメディアン径を測定した。
比較製造例1では、樹脂屈折率1.45、水屈折率1.333の設定を用い、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンをそのまま機器内のイオン交換水を攪拌しているところに投入し、エマルジョン乳化粒子の体積基準のメディアン径を測定した。
【0081】
[実施例1]
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂エマルジョンとして、DIC株式会社製の製品名「ハイドランWLS-213」(粘度200mPa・s(25℃)、平均粒径80nm、固形分約35wt%、Tg-15℃)を用いた。該樹脂エマルジョンを撹拌しているところに、分散剤としてオルフィンPD-002W(日信化学工業株式会社製)、レベリング剤としてオルフィンEXP-4300(日信化学工業株式会社製)、増粘剤としてアデカノールUH450VF(株式会社ADEKA製)、及び製造例1で得られたシリコ-ンアクリルグラフト共重合樹脂を、表2に記載の固形分質量比率にて投入し、ディスパーミキサーで30分以上撹拌の後、80メッシュでろ過してコーティング用組成物を得た。
【0082】
[実施例2~9、比較例1~7]
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンとして、DIC株式会社製の製品名「ハイドランWLS-201」(粘度200mPa・s(25℃)、平均粒径80nm、固形分約35wt%、Tg-15℃)を用いた。
また、塩ビアクリル共重合樹脂エマルジョンとしてビニブラン278 日信化学工業株式会社製、平均粒径180nm、固形分約43wt%、Tg33℃)を用いた。
表2(実施例2~9)及び表3(比較例1~6)に示す各成分の配合比率(固形分質量比率)としたほかは上記実施例1の方法を繰り返して、コーティング用組成物を得た。
なお、表2及び表3中で示す原料比率は、固形分の質量比率である。
【0083】
上記実施例及び比較例で得たコーティング用組成物を用い下記の方法で塗膜を形成した。得られた塗膜について「ヘーズ値・ヘーズ増加率」「静・動摩擦係数」「水接触角」及び「光沢度」を測定した。各測定方法は下記の通りである。結果を表2及び表3に示す。
【0084】
<成膜方法>
PETフィルム
各例のコーティング組成物をバーコーターにて塗布し、105℃×5分で乾燥を行い、ドライで約10μmになるようにPETフィルムの上に塗膜を形成した。
【0085】
<ヘーズ値・光線透過率の測定>
製品名「ヘーズメーター COH400」(日本電色工業社製)にて上記塗膜を有する基材のヘーズ値を測定した。PETフィルム(ヘーズ値5%)でのヘーズ値の好ましい範囲は、5.0~40.0%である。
【0086】
<ヘーズ増加率>
ヘーズ増加率は、下記式により求められる。
ヘーズ値の増加率が0以上2000%以下であれば、透明性が高いと判断できる。1000%以下であるとさらに透明性が高く好ましい。
一方、ヘーズ値の増加率が2000%を超えると、積層体の透明性が悪くなり、白っぽく感じるようになる。
「ヘーズ値の増加率(%)」 = 〔( Y - X ) / X〕 × 100
X:基材のヘーズ値
Y:コーティング組成物を塗布した後のヘーズ値
【0087】
<静・動摩擦係数測定>
HEIDON TYPE-38(新東科学社製)にて200gの金属圧子を上記塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から摩擦係数を算出した。
PETフィルムでの静・動摩擦係数の好ましい範囲は、静摩擦係数が0.01~0.40であり、動摩擦係数が0.01~0.20である。静摩擦係数が0.40、動摩擦係数が0.20超えると表面の摩擦が大きくなり引っ掛かりが生じ触感が悪化するため好ましくない。
【0088】
<水接触角>
2μlの純水を塗膜上に滴下し10秒後の接触角値を協和界面科学社製の接触角計CA-D型を用いて測定した。水接触角の好ましい範囲は40°以上である。40°未満であると水系の汚れを弾かず付着が多くなり防汚性が落ちるため好ましくない。
【0089】
<光沢度>
塗膜の光沢度をグロスメーターPG-1M(日本電色工業社製)で測定し60°の値を読み取った。光沢度の好ましい範囲は50以上、さらに好ましくは54以上である。50未満であると表面の光沢が出なくなり、外観が悪化するため好ましくない。
【0090】
上記製造例及び比較製造例で得た各シリコ-ンアクリルグラフト共重合樹脂又はエマルジョンの樹脂の原料構成比及びメディアン径を下記表1にまとめる。
【0091】

【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
上記表3に示す通り、比較例1~7のコーティング剤組成物では、塗膜の透明性及び光沢性を維持しながら良好な摺動性、撥水性、防汚性を塗膜に与えることはできない。また、比較例3のコーティング用組成物は、特開2020-55938号(特許文献2)記載のシリコーンアクリル樹脂エマルジョンを含有するコーティング剤に相当する。当該コーティング用組成物では塗膜の透明性は改善されるが、実施例のコーティング剤組成物に対して塗膜の光沢性に劣る。また、比較例4で得られたコーティング用組成物は粒子径が大きいため短時間で成分が分離し均一な塗膜が得られないため塗工評価ができなかった。
一方、上記表2に示す通り、本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の粉体を含むコーティング用組成物は、透明性及び光沢性に優れ、且つ、摺動性、撥水性、防汚性に優れる塗膜を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のコーティング用組成物は、優れた透明性を維持しながら、光沢性と摺動性を有し、該コーティング用組成物による皮膜が形成された積層体の外観を損なわずに高い耐摩耗性を維持することができる。また塗膜の均一性が高く塗工性が良い。さらに水系であるため、作業面・環境面で利点が大きい。