(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080059
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】電極シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20240606BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240606BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/139
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192935
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】増澤 直貴
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050GA02
5H050GA22
(57)【要約】
【課題】電極ペースト層の幅方向中心部にひび割れが生じることを低減できる電極シートの製造方法を提供する。
【解決手段】集電箔3の表面3bに電極ペースト18を塗工して、集電箔3の表面3b上に電極ペースト層15を形成する塗工工程と、電極ペースト層15を乾燥させて、集電箔3の表面3b上に電極材料層5を形成する乾燥工程とを備える。乾燥工程は、定率乾燥期間において、電極ペースト層15の表面15bに赤外線IRを照射すると共に、赤外線IRを照射した電極ペースト層15の表面15bに沿うように送風し、前記送風の風速は、電極ペースト層15の幅方向DBについて、中央部を最速とし、両端部に近づくほど遅くする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の集電箔と、前記集電箔の表面上に形成された電極材料層と、を有する電極シートの製造方法において、
前記集電箔の前記表面に電極ペーストを塗工して、前記集電箔の前記表面上に電極ペースト層を形成する塗工工程と、
前記電極ペースト層を乾燥させて、前記集電箔の前記表面上に前記電極材料層を形成する乾燥工程と、を備え、
前記乾燥工程は、定率乾燥期間において、前記電極ペースト層の表面に赤外線を照射すると共に、前記赤外線を照射した前記電極ペースト層の前記表面に沿うように送風し、
前記送風の風速は、前記電極ペースト層の幅方向について、中央部を最速とし、両端部に近づくほど遅くする
電極シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極シートの製造方法であって、
前記電極シートは、前記集電箔の前記表面上に前記電極ペースト層が形成されている塗工部を有し、
前記乾燥工程は、前記塗工部のうち前記電極ペースト層の前記表面とは反対側の塗工部裏面に接触する搬送ロールによって前記電極シートを搬送しつつ、前記電極ペースト層を乾燥させており、
前記定率乾燥期間では、前記搬送ロールとして、前記幅方向について前記塗工部裏面の全体にわたって接触して前記塗工部を加熱する加熱搬送ロールを用い、
前記加熱搬送ロールの外周面の温度は、前記幅方向について前記塗工部裏面の中央部に接触する部位を最も高温とし、前記幅方向について前記塗工部裏面の両端部に近い部位ほど低温とする
電極シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電極材と溶剤を含む電極用ペーストを金属シート上に塗布することで形成された電極ペースト層の乾燥方法が開示されている。具体的には、第1加熱ステップにおいて、熱風および赤外線加熱の少なくとも一方により電極ペースト層を加熱する。さらに、第2加熱ステップにおいて、第1加熱ステップにおける加熱によって、電極ペースト層の表面に電極材の少なくとも一部が露出するタイミングで、通電加熱による電極ペースト層の加熱を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電極ペースト層の乾燥期間のうち定率乾燥期間では、電極ペースト層内の溶媒が急速に蒸発することで、電極ペースト層が大きく収縮することがある。さらに、この定率乾燥期間において、電極ペースト層を幅方向に均一に加熱した場合に、幅方向の中央部が最も乾燥が遅くなり、幅方向の両端部に向かうほど速く乾燥する傾向にあった。このため、定率乾燥期間において、電極ペースト層が、幅方向について両端側から中央部に向かって収縮し、電極ペースト層の幅方向中心部にひび割れが発生することがあった。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電極ペースト層の幅方向中心部にひび割れが生じることを低減できる電極シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、帯状の集電箔と、前記集電箔の表面上に形成された電極材料層と、を有する電極シートの製造方法において、前記集電箔の前記表面に電極ペーストを塗工して、前記集電箔の前記表面上に電極ペースト層を形成する塗工工程と、前記電極ペースト層を乾燥させて、前記集電箔の前記表面上に前記電極材料層を形成する乾燥工程と、を備え、前記乾燥工程は、定率乾燥期間において、前記電極ペースト層の表面に赤外線を照射すると共に、前記赤外線を照射した前記電極ペースト層の前記表面に沿うように送風し、前記送風の風速は、前記電極ペースト層の幅方向について、中央部を最速とし、両端部に近づくほど遅くする電極シートの製造方法である。
【0007】
上述の製造方法では、乾燥工程は、電極ペースト層の乾燥期間のうち定率乾燥期間において、電極ペースト層の表面(例えば、電極ペースト層の表面のうち長手方向の一部の全体)に赤外線を照射すると共に、赤外線を照射した電極ペースト層の表面に沿うように送風する。このような定率乾燥期間とすることで、以下に説明するように、電極ペースト層を効率良く速やかに乾燥させることができる。
【0008】
具体的には、赤外線照射のみによって電極ペースト層を定率乾燥させた場合は、電極ペースト層の表面上に溶媒蒸気が滞留することで、電極ペースト層の乾燥が進行し難くなる。これに対し、電極ペースト層の表面に赤外線を照射しつつ、赤外線を照射した電極ペースト層の表面に沿うように送風することで、電極ペースト層の表面上に滞留する溶媒蒸気を除去することができる。これにより、電極ペースト層の乾燥を促進させることができる。
【0009】
なお、前述のように、赤外線照射と送風とによって電極ペースト層を乾燥させる場合は、熱風のみによって乾燥させる場合に比べて、電力使用量を低減することが可能になるので、電力使用に伴うCO2の排出量を削減することができる。赤外線照射による加熱は、熱風による加熱に比べて、電極ペースト層の加熱効率が良いからである。
【0010】
ところで、従来、定率乾燥期間において、電極ペースト層をその幅方向に均一に加熱した場合に、幅方向の中央部が最も乾燥が遅くなり、幅方向の両端部に近づくほど速く乾燥する傾向にあった。このため、定率乾燥期間において、電極ペースト層が、幅方向について両端側から中央部に向かって収縮し、電極ペースト層の幅方向中心部にひび割れが発生することがあった。
【0011】
これに対し、本製造方法では、電極ペースト層の乾燥期間のうち定率乾燥期間における送風の風速は、電極ペースト層の幅方向について、中央部を最速とし、両端部に近づくほど遅くする。すなわち、定率乾燥期間において、電極ペースト層の幅方向について中央部が最速で両端部に近づくほど遅くなる風速分布を有する風を、電極ペースト層の表面に沿うように送る。例えば、定率乾燥期間において、赤外線を照射した電極ペースト層の表面に沿って、幅方向に直交する長手方向に流れる気流であって、電極ペースト層の幅方向について中央部が最速で両端部に近づくほど遅くなる速度分布を有する気流を形成する。
【0012】
このようにすることで、定率乾燥期間において、電極ペースト層の表面上に滞留する溶媒蒸気の除去速度は、幅方向の中央部において除去速度が最も速くなり、幅方向の両端部に近づくほど除去速度が遅くなる。これにより、定率乾燥期間では、電極ペースト層のうち最も乾燥し難い幅方向中央部において、溶媒の蒸発(放出)を促進させることができるので、電極ペースト層の幅方向中央部と両端部とにおける乾燥速度(定率乾燥速度)の差異が小さくなり、幅方向中心部にひび割れが生じることを低減できる。
【0013】
(2)さらに、前記(1)の電極シートの製造方法であって、前記電極シートは、前記集電箔の前記表面上に前記電極ペースト層が形成されている塗工部を有し、前記乾燥工程は、前記塗工部のうち前記電極ペースト層の前記表面とは反対側の塗工部裏面に接触する搬送ロールによって前記電極シートを搬送しつつ、前記電極ペースト層を乾燥させており、前記定率乾燥期間では、前記搬送ロールとして、前記幅方向について前記塗工部裏面の全体にわたって接触して前記塗工部を加熱する加熱搬送ロールを用い、前記加熱搬送ロールの外周面の温度は、前記幅方向について前記塗工部裏面の中央部に接触する部位を最も高温とし、前記幅方向について前記塗工部裏面の両端部に近い部位ほど低温とする電極シートの製造方法とすると良い。
【0014】
上述の製造方法では、定率乾燥期間において、搬送ロールとして、幅方向について塗工部裏面の全体にわたって接触(例えば、塗工部裏面のうち長手方向の一部の全体に接触)して塗工部を加熱する加熱搬送ロールを用いる。なお、塗工部とは、電極シートのうち集電箔の表面上に電極ペースト層が形成されている部位である。この塗工部の表面は、電極ペースト層の表面であり、その反対側の面が塗工部裏面である。また、電極シートとしては、例えば、集電箔の表面上に電極ペースト層が形成されている塗工部と、この塗工部に対して幅方向に隣接する部位であって集電箔の表面上に電極ペースト層が形成されていない未塗工部と、からなる電極シートを挙げることができる。
【0015】
定率乾燥期間において、電極シートを搬送する搬送ロールとして、加熱搬送ロールを用いることで、塗工部のうち電極ペースト層の表面側からの赤外線照射及び送風に加えて、塗工部裏面側からの加熱搬送ロールによる加熱も行って、電極ペースト層を乾燥させることができる。このため、電極ペースト層を速やかに乾燥させることができる。
【0016】
しかも、加熱搬送ロールの外周面の温度を、前記幅方向について塗工部裏面の中央部に接触する部位を最も高温とし、前記幅方向について塗工部裏面の両端部に近い部位ほど低温とする。すなわち、加熱搬送ロールの外周面が、塗工部裏面の幅方向中央部に接触する部分を最も高温とし、前記幅方向について塗工部裏面の両端部に近い部位ほど低温になる温度分布を有する。
【0017】
定率乾燥期間において、このような加熱搬送ロールを用いることで、電極ペースト層のうち最も乾燥し難い幅方向中央部において、溶媒の蒸発を促進させることができる。これにより、電極ペースト層の幅方向中央部と両端部とにおける乾燥速度(定率乾燥速度)の差異が小さくなり、幅方向中心部にひび割れが生じることを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態にかかる電極シートの平面図である。
【
図4】実施形態にかかる電極シートの製造装置の概略図である。
【
図5】実施形態にかかる乾燥工程を説明する図である。
【
図6】実施形態にかかる乾燥装置の送風ノズルの構造を示す図である。
【
図7】同送風ノズルの内部構造を示す他の図である。
【
図9】実施形態にかかる乾燥装置の加熱搬送ロールを説明する図である。
【
図10】同加熱搬送ロールの加熱機構を説明する図である。
【
図11】変形形態にかかる電極シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態>
次に、実施形態にかかる電極シート1の製造方法について説明する。本実施形態の電極シート1は、
図1~
図3に示すように、長手方向DAに延びる帯状の集電箔3と、集電箔3の表面3b上に形成された電極材料層5とを有する。電極材料層5は、例えば、活物質粒子とバインダとを有する。なお、電極材料層5は、幅方向DBについて集電箔3の表面3bの全面にわたって形成されておらず、集電箔3の表面3bのうち幅方向DBの両端部を除く部位に形成されている。具体的には、電極シート1は、集電箔3の表面3b上に電極材料層5が形成されている塗工部6と、この塗工部6に対して幅方向DBの両側に隣接する部位であって集電箔3の表面3b上に電極材料層5が形成されていない未塗工部7とからなる。なお、電極材料層5の幅方向DBの中心は、集電箔3の幅方向DBの中心と一致している。幅方向DBは、長手方向DAに直交する方向である。
【0020】
以下、本実施形態の電極シートの製造方法について詳細に説明する。本実施形態では、製造装置300を用いて、電極シート1を製造する。
図4は、製造装置300の概略図である。製造装置300は、塗工装置200と、乾燥装置100と、図示しないプレスロールを備え、これらがこの順で、集電箔3または電極シート1の搬送方向DLに並んで配置されている。
【0021】
具体的には、まず、塗工工程において、塗工装置200を用いて、集電箔3の表面3bに電極ペースト18を塗工して、集電箔3の表面3b上に電極ペースト層15を形成する。塗工装置200は、公知のダイコータであり、ダイ210とバックロール220とを有する(
図4参照)。塗工装置200は、バックロール220によって集電箔3を搬送方向DLに搬送しつつ、ダイ210から吐出する電極ペースト18を、集電箔3の表面3bに塗布してゆく。なお、搬送方向DLは、長手方向DAに一致する。また、電極ペースト18は、例えば、負極活物質粒子とCMC(カルボキシメチルセルロース)とSBR(スチレンブタジエンゴム)と溶媒である水とを混合してペースト状にしたものである。
【0022】
本実施形態では、幅方向DBについて集電箔3の表面3bの全面にわたって電極ペースト層15を形成するのではなく、集電箔3の表面3bのうち幅方向DBの両端部を除く部位に電極ペースト層15を形成する(
図1及び
図5参照)。従って、後の乾燥工程に供される電極シート1は、集電箔3の表面3b上に電極ペースト層15が形成されている塗工部16と、この塗工部16に対して幅方向DBの両側に隣接する部位であって集電箔3の表面3b上に電極ペースト層15が形成されていない未塗工部17とからなる。
【0023】
次に、乾燥工程に進み、乾燥装置100を用いて、集電箔3の表面3b上の電極ペースト層15を乾燥させて、集電箔3の表面3b上に電極材料層5を形成する。なお、電極材料層5は、乾燥工程によって電極ペースト層15から溶媒を蒸発させたものである。乾燥装置100は、
図4に示すように、乾燥室110と、搬送ロール120,180と、送風ノズル130と、赤外線照射装置140と、ダクト150と、気体供給装置160とを備える。乾燥室110は、壁部111によって外部と仕切られた箱状である。この乾燥室110には、塗工工程を終えた乾燥前の電極シート1を外部から乾燥室110内に搬入するための搬入口112と、乾燥後の電極シート1を乾燥室110の外部に搬出するための搬出口113とが設けられている。
【0024】
搬送ロール120,180は、乾燥室110内に複数配置されている。搬送ロール120,180は、モータ(不図示)によって駆動され、電極シート1を搬送方向DL(
図4において左側から右側に向かう方向)に搬送する。より具体的には、搬送ロール120,180は、電極シート1の長手方向DAに沿った搬送方向DLに間隔を空けて設けられている。この搬送ロール120,180は、幅方向DBについて、塗工部16のうち電極ペースト層15の表面15bとは反対側の塗工部裏面16cの全体に接触する態様で、電極シート1を搬送方向DLに搬送する。なお、本実施形態では、搬送ロール120,180は、幅方向DBについて、電極シート1のうち電極ペースト層15の表面15bとは反対側のシート裏面1cの全体に接触する態様で、電極シート1を搬送方向DLに搬送する(
図9参照)。塗工部裏面16cは、シート裏面1cの一部である。
【0025】
気体供給装置160は、乾燥室110の外部に配置されており、ダクト150と連通している(
図4参照)。気体供給装置160は、図示しないヒータ及び送風ファンを有しており、ヒータによって加熱した気体Gを、送風ファンによってダクト150へ送出する。ダクト150は、気体供給装置160と複数の送風ノズル130とを連結する連結管である。気体供給装置160からダクト150内に送出された気体Gは、ダクト150を通じて、複数の送風ノズル130内に供給される(
図4参照)。
【0026】
送風ノズル130は、乾燥室110内に複数設けられている。より具体的には、送風ノズル130は、搬送ロール120によって搬送される電極シート1の上方(電極ペースト層15と対向する位置)において、搬送方向DLに間隙を空けて設けられている(
図4参照)。送風ノズル130には、第1送風ノズル130Aと第2送風ノズル130Bの2種類がある。
【0027】
このうち、第2送風ノズル130Bは、第2送風ノズル130Bの内部空間Sを形成するノズル本体部131と、ノズル本体部131の内部に設けられた仕切り板133b,133c,133d,133eとを備える(
図6及び
図7参照)。内部空間Sは、搬送方向DLに並ぶ第1空間S1と第2空間S2とからなる(
図6及び
図7参照)。第2空間S2は、間隔を空けて幅方向DBに並ぶ仕切り板133b,133c,133d,133eによって、5つの流路(第1流路S21と第2流路S22と第3流路S23と第4流路S24と第5流路S25)に分割されている(
図7参照)。なお、
図6は、第2送風ノズル130Bを、幅方向DBの中心で長手方向DAに沿って切断した図である。
図7は、第2送風ノズル130Bを、上下方向DCの中心で幅方向DBに沿って切断した図である。
【0028】
ノズル本体部131の壁部には、ノズル本体部131の第1空間S1とダクト150の内部空間とを連通する連通孔131bが形成されている。この連通孔131bを通じて、ダクト150内を流通する気体Gが第2送風ノズル130Bの第1空間S1の内部に供給される(
図6参照)。また、ノズル本体部131の下面には、電極ペースト層15の表面15bに向けて気体Gを吹き出す吹き出し口135が設けられている。この吹き出し口135は、第2空間S2に接続する開口である。この吹き出し口135も、仕切り板133b,133c,133d,133eによって5分割されている。従って、吹き出し口135は、第1流路S21の開口をなす第1吹き出し口135bと、第2流路S22の開口をなす第2吹き出し口135cと、第3流路S23の開口をなす第3吹き出し口135dと、第4流路S24の開口をなす第4吹き出し口135eと、第5流路S25の開口をなす第5吹き出し口135fとに分割されている(
図8参照)。
【0029】
このような第2送風ノズル130Bでは、ダクト150内を流通する気体Gが連通孔131bを通じて第2送風ノズル130Bの第1空間S1の内部に供給された後、第2空間S2を構成する5つの流路(第1流路S21と第2流路S22と第3流路S23と第4流路S24と第5流路S25)内へ供給される。その後、気体Gは、吹き出し口135(第1吹き出し口135bと第2吹き出し口135cと第3吹き出し口135dと第4吹き出し口135eと第5吹き出し口135f)から、気流GSとして、電極ペースト層15の表面15bに向けて送出される。吹き出し口135から送出された気流GSは、電極ペースト層15の表面15bに接触する態様で電極ペースト層15の表面15bに沿って、長手方向DA(詳細には、搬送方向DLとは反対の方向)に流れる(
図4~
図8参照)。
【0030】
第1送風ノズル130Aは、第2送風ノズル130Bと比較して、ノズル本体部131の内部に仕切り板133b,133c,133d,133eが設けられていない点のみが異なり、その他は同等である。従って、第1送風ノズル130Aでは、ダクト150内を流通する気体Gが連通孔131bを通じて第1送風ノズル130Aの第1空間S1の内部に供給された後、第2空間S2内へ供給される。そして、この気体Gは、吹き出し口135から、気流GSとして、電極ペースト層15の表面15bに向けて送出される。吹き出し口135から送出された気流GSは、電極ペースト層15の表面15bに接触する態様で電極ペースト層15の表面15bに沿って、長手方向DA(詳細には、搬送方向DLとは反対の方向)に流れる(
図4参照)。気流GSは、熱風(例えば、ホットエア)である。この気流GSが電極ペースト層15の表面15bに接触することによって、電極ペースト層15に含まれる溶媒の蒸発が促進され、電極ペースト層15の乾燥が行われる。
【0031】
なお、第1送風ノズル130Aと第2送風ノズル130Bの吹き出し口135の幅方向DBの寸法は、電極ペースト層15の幅方向DBの寸法よりも大きい。また、吹き出し口135の幅方向DBの中心は、電極ペースト層15の幅方向DBの中心と一致している。従って、気流GSは、電極ペースト層15の表面15bに対し、幅方向DBの全体にわたって吹き出し口135から送出される。
【0032】
ところで、乾燥工程における電極ペースト層15の乾燥期間は、予熱期間と定率乾燥期間と減率乾燥期間とに分けられる。従って、本実施形態の乾燥装置100(乾燥室110)は、
図4に示すように、予熱期間となる予熱領域Aと、定率乾燥期間となる定率乾燥領域Bと、減率乾燥期間となる減率乾燥領域Cとに分けることができる。本実施形態の乾燥装置100では、予熱領域Aに、2つの第1送風ノズル130Aを、搬送方向DLに間隔を空けて搬送方向DLに並べて配置している。定率乾燥領域Bには、3つの第2送風ノズル130Bを、搬送方向DLに間隔を空けて搬送方向DLに並べて配置している。減率乾燥領域Cには、1つの第2送風ノズル130Bと2つの第1送風ノズル130Aを、搬送方向DLに間隔を空けて搬送方向DLにこの順で並べて配置している。
【0033】
また、本実施形態の乾燥装置100は、定率乾燥領域Bに、赤外線照射装置140を3つ設けている。具体的には、定率乾燥領域Bにおいて、赤外線照射装置140と第2送風ノズル130Bとがこの順で搬送方向DLに交互に配置されるようにしている。また、減率乾燥領域Cのうち最も定率乾燥領域Bに近い領域にも、赤外線照射装置140を1つ設けている。従って、減率乾燥領域Cのうち定率乾燥領域B側の領域において、1つの赤外線照射装置140と1つの第2送風ノズル130Bとが、この順で搬送方向DLに並んで配置されている。この赤外線照射装置140は、電極ペースト層15の表面15bに赤外線IRを照射することで、電極ペースト層15に含まれる溶媒の蒸発を促進させて、電極ペースト層15の乾燥を行う。なお、赤外線IRは、電極ペースト層15の表面15bに対し、幅方向DBの全体にわたって照射される。
【0034】
従って、本実施形態の乾燥工程では、電極ペースト層15の定率乾燥期間において、電極ペースト層15の表面15b(具体的には、電極ペースト層15の表面15bのうち長手方向DAの一部の全体)に赤外線IRを照射すると共に、赤外線IRを照射した電極ペースト層15の表面15bに沿うように送風する(気流GSを流す)。このような定率乾燥期間とすることで、以下に説明するように、電極ペースト層15を効率良く速やかに乾燥させることができる。
【0035】
具体的には、赤外線照射のみによって電極ペースト層15を定率乾燥させた場合は、電極ペースト層15の表面15b上に溶媒蒸気が滞留することで、電極ペースト層15の乾燥が進行し難くなる。これに対し、電極ペースト層15の表面15bに赤外線IRを照射しつつ、赤外線IRを照射した電極ペースト層15の表面15bに沿うように送風することで、電極ペースト層15の表面15b上に滞留する溶媒蒸気を除去することができる。これにより、電極ペースト層15の乾燥を促進させることができる。
【0036】
なお、前述のように赤外線照射と送風(気流GS)とによって電極ペースト層15を乾燥させる場合は、熱風のみによって乾燥させる場合に比べて、電力使用量を低減することが可能になるので、電力使用に伴うCO2の排出量を削減することができる。赤外線照射による加熱は、熱風による加熱に比べて、電極ペースト層15の加熱効率が良いからである。
【0037】
ところで、従来、定率乾燥期間では、電極ペースト層内の溶媒が急速に蒸発することで、電極ペースト層が大きく収縮することがある。さらに、この定率乾燥期間において、電極ペースト層を幅方向に均一に加熱した場合に、幅方向の中央部が最も乾燥が遅くなり、幅方向の両端部に近づくほど速く乾燥する傾向にあった。このため、定率乾燥期間において、電極ペースト層が、幅方向について両端側から中央部に向かって収縮し、電極ペースト層の幅方向中心部にひび割れが発生することがあった。
【0038】
これに対し、本実施形態では、定率乾燥期間となる定率乾燥領域Bにおける送風(気流GS)の風速を、電極ペースト層15の幅方向DBについて、中央部を最速とし、両端部に近づくほど遅くする。すなわち、定率乾燥期間において、幅方向DBについて電極ペースト層15の中央部が最速で両端部に近づくほど遅くなる風速分布を有する風(気流GS)を、電極ペースト層15の表面15bに沿うように送る。より具体的には、定率乾燥期間において、赤外線IRを照射した電極ペースト層15の表面15bに沿って、幅方向DBに直交する長手方向DAに流れる気流GSであって、幅方向DBについて電極ペースト層15の中央部が最速で両端部に近づくほど遅くなる速度分布を有する気流GSを形成する(
図5参照)。
【0039】
このようにすることで、定率乾燥期間において、電極ペースト層15の表面15b上に滞留する溶媒蒸気の除去速度は、幅方向DBの中央部において除去速度が最も速くなり、幅方向DBの両端部に近づくほど除去速度が遅くなる。これにより、定率乾燥期間では、電極ペースト層15のうち最も乾燥し難い幅方向DBの中央部において、溶媒の蒸発(放出)を促進させることができるので、電極ペースト層15の幅方向DBの中央部と両端部とにおける乾燥速度(定率乾燥速度)の差異が小さくなり、幅方向DBの中心部にひび割れが生じることを低減できる。
【0040】
なお、本実施形態では、以下のようにして、幅方向DBについて電極ペースト層15の中央部が最速で両端部に近づくほど遅くなる速度分布を有する気流GSを形成している(
図5参照)。具体的には、定率乾燥領域Bに設けられた第2送風ノズル130Bは、前述のように、第2空間S2が、幅方向DBについて5つの流路(具体的には、第1流路S21と第2流路S22と第3流路S23と第4流路S24と第5流路S25)に分割されている(
図7参照)。5つの流路の入り口の開口面積を比較すると、幅方向DBの中央部に位置する第3流路S23が最も大きく、幅方向DBの両端部に位置する第1流路S21と第5流路S25が最も小さく、これらの間に位置する第2流路S22と第4流路S24が中間の大きさとなっている(
図7参照)。
【0041】
従って、5つの流路内への気体Gの供給量を比較すると、幅方向DBの中央部に位置する第3流路S23への供給量が最も多く、幅方向DBの両端部に位置する第1流路S21と第5流路S25への供給量が最も少なく、これらの間に位置する第2流路S22と第4流路S24への供給量は中間の量となる。一方、5つの流路の出口である第1吹き出し口135bと第2吹き出し口135cと第3吹き出し口135dと第4吹き出し口135eと第5吹き出し口135fの開口面積は、同等である(
図8参照)。
【0042】
従って、5つの吹き出し口から送出される気流GSの風速を比較すると、幅方向DBの中央部に位置する第3吹き出し口135dから送出される気流GS3の風速V3が最も速く、幅方向DBの両端部に位置する第1吹き出し口135bと第5吹き出し口135fから送出される気流GS1の風速V1と気流GS5の風速V5が最も遅く、これらの間に位置する第2吹き出し口135cと第3吹き出し口135dから送出される気流GS2の風速V2と気流GS4の風速V4が中間の速度となる(
図5参照)。これにより、定率乾燥期間において、赤外線IRを照射した電極ペースト層15の表面15bに沿って、幅方向DBに直交する長手方向DAに流れる気流GSについて、幅方向DBについて電極ペースト層15の中央部が最速で両端部に近づくほど遅くなる速度分布を有する気流GSが形成される。
【0043】
また、前述のように、乾燥装置100は、複数の搬送ロール120,180を有する。このうち、搬送ロール120は、後述する加熱機構が設けられた加熱搬送ロール120である。このため、加熱搬送ロール120は、その外周面121の温度が高温となる。一方、搬送ロール180は、加熱機構を有しない搬送ロール180である。本実施形態の乾燥装置100は、定率乾燥期間となる定率乾燥領域Bに、加熱搬送ロール120を3つ設けている(
図4参照)。また、減率乾燥領域Cのうち最も定率乾燥領域Bに近い領域にも、加熱搬送ロール120を1つ設けている。この加熱搬送ロール120は、幅方向DBについて塗工部裏面16cの全体にわたって接触(具体的には、塗工部裏面16cのうち長手方向DAの一部の全体に接触)して、塗工部16を加熱する(
図9参照)。
【0044】
従って、本実施形態の乾燥工程では、定率乾燥期間において、塗工部16のうち電極ペースト層15の表面15b側からの赤外線IRの照射及び送風(気流GS)による乾燥に加えて、塗工部裏面16c側からの加熱搬送ロール120による加熱も行われる。これにより、電極ペースト層15を効率良く速やかに乾燥させることができる。
【0045】
ところで、本実施形態では、加熱搬送ロール120の外周面121の温度は、幅方向DBについて塗工部裏面16cの中央部に接触する部位が最も高温とされ、幅方向DBについて塗工部裏面16cの両端部に近い部位ほど低温とされる。すなわち、加熱搬送ロール120の外周面121が、塗工部裏面16cの幅方向DBの中央部に接触する部分を最も高温とし、幅方向DBについて塗工部裏面16cの両端部に近い部位ほど低温になる温度分布を有する。なお、本実施形態では、加熱搬送ロール120の軸線方向DXは、幅方向DBに一致している。さらに、加熱搬送ロール120の軸線方向DXの中心と、塗工部裏面16cの幅方向DBの中心とが一致している。従って、加熱搬送ロール120の外周面121の温度は、軸線方向DXの中央部が最も高温とされ、軸線方向DXの両端部に近い部位ほど低温とされる。
【0046】
定率乾燥期間において、このような加熱搬送ロール120を用いることで、電極ペースト層15のうち最も乾燥し難い幅方向DBの中央部において、溶媒の蒸発を促進させることができる。これにより、電極ペースト層15の幅方向DBの中央部と両端部とにおける乾燥速度(定率乾燥速度)の差異が小さくなり、幅方向DBの中心部にひび割れが生じることを低減できる。
【0047】
なお、加熱搬送ロール120には、以下のような加熱機構が設けられている。具体的には、
図10に示すように、加熱搬送ロール120は、流通管174,176を通じて、温調ユニット170に接続している。温調ユニット170の内部には、液状の熱媒体HCが収容されている。温調ユニット170は、内部に収容されている熱媒体HCの温度が、所定の設定温度になるように制御する。加熱搬送ロール120のうち、軸線方向DXの中央部には、熱媒体HCを収容する熱媒体収容部122が形成されている。
【0048】
熱媒体収容部122の流入口122bと温調ユニット170の熱媒体流出口170bとは、ポンプ172を有する流通管174によって連結されている。これにより、温調ユニット170によって所定の設定温度に調整された熱媒体HCが、流通管174を通じて加熱搬送ロール120の熱媒体収容部122内に供給され、熱媒体収容部122の内部が熱媒体HCによって満たされる。これにより、加熱搬送ロール120のうち軸線方向DXの中央部が、熱媒体HCによって加熱される。さらに、この熱は、軸線方向DXについて、加熱搬送ロール120の中央部から両端部へ伝わる。
【0049】
これにより、加熱搬送ロール120の外周面121の温度は、軸線方向DXの中央部が最も高温とされ、軸線方向DXの両端部に近い部位ほど低温とされる。従って、加熱搬送ロール120の外周面121の温度は、幅方向DBについて塗工部裏面16cの中央部に接触する部位が最も高温となり、幅方向DBについて塗工部裏面16cの両端部に近い部位ほど低温となる。すなわち、加熱搬送ロール120の外周面121が、塗工部裏面16cの幅方向DBの中央部に接触する部分が最も高温で、幅方向DBについて塗工部裏面16cの両端部に近い部位ほど低温になる温度分布を有するようになる。
【0050】
また、熱媒体収容部122の流出口122cと温調ユニット170の熱媒体流入口170cとは、流通管176によって連結されている。これにより、加熱搬送ロール120のうち軸線方向DXの中央部を加熱した熱媒体HCが、流通管176を通じて温調ユニット170の内部に戻る。このようにして、熱媒体HCが、温調ユニット170と加熱搬送ロール120の熱媒体収容部122との間を循環する。これにより、加熱搬送ロール120の外周面121の温度は、軸線方向DXの中央部が最も高温とされ、軸線方向DXの両端部に近い部位ほど低温とされた状態に保たれる。なお、加熱搬送ロール120の加熱機構は、温調ユニット170と流通管174,176とポンプ172と加熱搬送ロール120の熱媒体収容部122とによって構成される。
【0051】
次に、乾燥工程を終えた電極シート1は、ロールプレス工程において、図示しないプレスロールによってロールプレスされる。これにより、電極シート1は、電極材料層5が圧密化された電極シート1になる。以上のようにして製造された電極シート1は、電極材料層5の幅方向DBの中心部におけるひび割れの発生が低減された電極シートとなる。この電極シート1は、例えば、幅方向DBの中心位置において長手方向DAに切断されて、二次電池の電極として用いられる。具体的には、この電極(例えば負極)と他の電極(例えば正極)とセパレータとを捲回(または積層)することによって電極体を形成し、この電極体を電池ケースに収容して、二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)を製造する。
【0052】
<変形形態>
実施形態では、集電箔3の表面3bに電極材料層5を有する電極シート1を製造した。これに対し、本変形形態では、集電箔3の表面3bのみならず裏面3cにも電極材料層5を有する電極シート401(
図11及び
図12参照)を製造する。なお、
図11は、
図1のB-B断面図に相当する図である。また、
図12は、
図1のC-C断面図に相当する図である。具体的には、実施形態と同様にして、集電箔3の表面3bに電極材料層5を形成した後、集電箔3の裏面3cに対しても、同様に、製造装置300を用いて、塗工工程と乾燥工程を行う。これにより、集電箔3の表面3bの電極ペースト層15と裏面3cの電極ペースト層15の両方について、幅方向DBの中心部にひび割れが生じることを低減できる。
【0053】
以上において、本発明を実施形態及び変形形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1,401 電極シート
3 集電箔
5 電極材料層
6,16 塗工部
7,17 未塗工部
15 電極ペースト層
16c 塗工部裏面
18 電極ペースト
100 加熱装置
120 加熱搬送ロール(搬送ロール)
130 送風ノズル
180 搬送ロール
200 塗工装置
300 製造装置
DA 長手方向
DB 幅方向
DL 搬送方向
DX 軸線方向
GS 気流
IR 赤外線