IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人公立諏訪東京理科大学の特許一覧 ▶ NECネッツエスアイ株式会社の特許一覧

特開2024-80066水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法
<>
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図1
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図2
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図3
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図4
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図5
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図6
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図7
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図8
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図9
  • 特開-水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080066
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/26 20240101AFI20240606BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20240606BHJP
   E02B 3/00 20060101ALI20240606BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20240606BHJP
【FI】
G06Q50/26
G01W1/00 Z
E02B3/00
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192956
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】390001454
【氏名又は名称】NECネッツエスアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 恭助
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和弘
(72)【発明者】
【氏名】河西 竜二
(72)【発明者】
【氏名】川崎 孝史
(72)【発明者】
【氏名】塩路 善紀
(72)【発明者】
【氏名】大薗 友
(72)【発明者】
【氏名】大高 恭輔
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC35
5L050CC35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】小規模河川の水位変化を精度よく予測する水位予測装置、降水量推定装置及び水位予測方法を提供する。
【解決手段】予測降水量X、地形情報G及び予測地点における河川水位Wを使って河川の予測地点における未来の予測水位Hを予測する水位予測装置11であって、予測降水量Xに地形情報Gを適用して、降水が予測地点に流れ込む流域における流域予測降水量Xrを抽出する流域抽出部5と、複数の状態変数Sにより内部状態が定まる第1の河川モデル4と、予測地点における河川水位Wを得する水位取得部21と、河川水位Wを用いて予測地点に流れ込む降水量を推定する推定降水量演算部3と、を含む。第1の河川モデル4は、推定降水量演算部3の演算結果に応じて、予測水位Hを算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測される未来における降水量である予測降水量、地形情報、及び、予測地点における河川水位を使って河川の前記予測地点における未来の予測水位を予測する水位予測装置であって、
前記予測降水量に前記地形情報を適用して、降水が前記予測地点に流れ込む流域における流域予測降水量を抽出する流域抽出部と、
複数の状態変数により内部状態が定まる第1の河川モデルと、
前記予測地点における前記河川水位を取得する水位取得部と、
前記河川水位を用いて前記予測地点に流れ込む流域推定降水量を推定する推定降水量演算部と、を含み、
前記第1の河川モデルは、前記推定降水量演算部の演算結果に応じて前記予測水位を算出することを特徴とする水位予測装置。
【請求項2】
前記推定降水量演算部は、前記流域推定降水量からモデル水位を出力する第2の河川モデルと、前記河川水位と前記モデル水位との差分を計算して差分水位を演算する差分演算手段と、を含み、
前記差分水位が0に近づくように前記第2の河川モデルの演算を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の水位予測装置。
【請求項3】
前記水位取得部は、複数の水位計測手段と水位フィルタとを含み、
前記水位フィルタは、前記複数の水位計測手段で取得した河川の水位情報の中から、異常値を示す水位情報を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の水位予測装置。
【請求項4】
複数の前記推定降水量演算部と複数の前記第1の河川モデルとを含み、
複数の前記予測水位を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の水位予測装置。
【請求項5】
前記流域推定降水量と前記流域予測降水量とを切り替える切り替えスイッチを含み、
前記流域推定降水量と前記流域予測降水量とを切り替えながら、前記第1の河川モデルに入力することを特徴とする請求項1又は2に記載の水位予測装置。
【請求項6】
水位予測地点における河川水位を取得し、前記河川水位の計測地点流域に降った流域推定降水量を出力する降水量推定装置であって、
前記流域推定降水量からモデル水位を出力する第2の河川モデルと、
前記河川水位と前記モデル水位との差分を計算して差分水位を演算する差分演算手段と、を備え、
前記積算手段は、前記差分水位が0に近づくように前記第2の河川モデルの演算を繰り返すこと、を特徴とする降水量推定装置。
【請求項7】
予測降水量、地形情報及び河川水位を使って河川の予測地点における未来の予測水位を予測する水位予測方法であって、
前記予測降水量に前記地形情報を適用して、降水が前記予測地点に流れ込む流域における流域予測降水量を抽出する流域予測降水量抽出工程と、
前記予測地点における前記河川水位を取得する河川水位取得工程と、
前記河川水位から前記予測地点に流れ込む流域推定降水量を推定する流域推定降水量推定工程と、
前記流域予測降水量と前記流域推定降水量を使って前記予測水位を算出する予測水位算出工程と、を備えることを特徴とする水位予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水位予測装置、降水量推定装置、及び、水位予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
降水等による河川の水位上昇による水害や土砂災害を軽減するために、河川水位予測が多くの研究機関や企業で開発されている。これらの多くは大規模河川(一級・二級河川)を対象としていて、山岳地帯や山麓の市街地を流れている小規模河川の水位予測はほとんど行われていない。
【0003】
しかし小規模河川の流域にも居住地があり、水害が被害をもたらすことに変わりはない。例えば2021年8月と9月に長野県諏訪地域を襲った2回の土石流は、いずれも川幅1m未満の小さな流れから発生した。8月の土石流では3名の尊い人命が奪われ、9月の土石流では60棟以上の家屋が被害を受けた。このような状況から、山岳地帯やその麓を流れている小規模河川の水位予測を行い、確度の高い避難情報を出すことが求められている。
【0004】
気象庁により、雨雲レーダで計測された降水量と2時間先までの予測降水量が全国を250mのメッシュに区分けして提供されている。これは高解像度ナウキャストと呼ばれている。また国土交通省のインターネットサーバからは、100mのメッシュで全国の地形情報が入手できる。そこでこれらの情報(降水量と地形情報)を使って、小規模河川の水位を予測する方法が考えられる。
【0005】
小規模河川の水位を予測する方法として、例えば非特許文献1には、降雨流出氾濫(RRI)モデルを使った中小河川の水位予測について論じられている。降水レーダ等を基に算出した解析雨量(1kmメッシュ単位の降水量)をRRIモデルに適用して水位予測を行うものである。また特許文献1には、降水レーダの情報に流出解析モデルを適用することにより中小河川の水位予測を行う手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】柿沼太貴、他8名、「中小河川を対象とした洪水時におけるリアルタイム水位予測システムの開発に向けた研究」、河川技術論文集、第27巻、2021年6月,p.105-110
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-045290号公報
【0008】
これら先行文献で水位予測の入力として使われる降水レーダは上空(2000m付近)の雨雲の様子を捉えて降水量を算出するものである。そのため低高度の雨雲や局所的な豪雨等は捕捉できないことがある。また、風が強い場合、雨は斜めに降ってくるので、地上で観測される降水は位置ずれが生じる。解析雨量ではそれらを補正しているが、それでも局所的豪雨が捕捉できないことがある。モデルに入力する降水量が正しくないと、モデルの計算結果(予測水位)も不正確になるという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況に鑑みて、本発明は小規模河川の水位変化を精度良く予測する水位予測装置、降水量推定装置及び水位予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水位予測装置は、予測される未来における降水量である予測降水量、地形情報、及び、予測地点における河川水位を使って河川の前記予測地点における未来の予測水位を予測する水位予測装置であって、前記予測降水量に前記地形情報を適用して、降水が前記予測地点に流れ込む流域における流域予測降水量を抽出する流域抽出部と、複数の状態変数により内部状態が定まる第1の河川モデルと、前記予測地点における前記河川水位を取得する水位取得部と、前記河川水位を用いて前記予測地点に流れ込む流域推定降水量を推定する推定降水量演算部と、を含み、前記第1の河川モデルは、前記推定降水量演算部の演算結果に応じて前記予測水位を算出することを特徴とする
【0011】
本発明の降水量推定装置は、水位予測地点における河川水位を取得し、前記河川水位の計測地点流域に降った流域推定降水量を出力する降水量推定装置であって、前記流域推定降水量からモデル水位を出力する第2の河川モデルと、前記河川水位と前記モデル水位との差分を計算して差分水位を演算する差分演算手段と、を備え、前記積算手段は、前記差分水位が0に近づくように前記第2の河川モデルの演算を繰り返すこと、を特徴とする。
【0012】
本発明の水位予測方法は、予測降水量、地形情報及び河川水位を使って河川の予測地点における未来の予測水位を予測する水位予測方法であって、前記予測降水量に前記地形情報を適用して、降水が前記予測地点に流れ込む流域における流域予測降水量を抽出する流域予測降水量抽出工程と、前記予測地点における前記河川水位を取得する河川水位取得工程と、前記河川水位から前記予測地点に流れ込む流域推定降水量を推定する流域推定降水量推定工程と、前記流域予測降水量と前記流域推定降水量を使って前記予測水位を算出する予測水位算出工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のような構成により、予測降水量と、地形情報と、予測地点で計測した河川水位を入力として、より誤差の少ない河川モデルの状態変数を求めることにより、局所的な豪雨の影響を捕捉することができる。この結果、山岳地を流れる河川に代表される小規模河川の水位を精度良く予測することができる。
【0014】
また本発明の水位予測装置及び水位予測方法を用いて、土壌雨量指数を計算することもできる。例えば地方自治体が土石流の発生が危惧される河川に本発明を適用した水位予測装置を設置すれば、地方自治体は従来よりも精度の高い避難勧告情報を流域住民に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1に係る水位予測装置11の構成を説明するために示すブロック図である。
図2】実施形態1に係る水位予測装置11の水位取得部21の構成を説明するために示す図である。
図3】実施形態1に係る水位予測装置11の推定降水量演算部3の構成を説明するために示すブロック図である。
図4】実施形態1に係る水位予測装置11の流域抽出部5の構成を説明するために示す図である。
図5】実施形態1に係る水位予測装置11の第1の河川モデル4を説明するために示す図である。
図6】実施形態2に係る水位予測方法を説明するために示す図である。
図7】実施形態3に係る水位取得部22の構成を説明するために示すブロック図である。
図8】実施形態4に係る水位予測装置12の構成を説明するために示すブロック図である。
図9】実施形態5に係る水位予測装置13の構成を説明するために示すブロック図である。
図10】実施形態6に係る降水量推定装置8の構成を説明するために示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と記す。)について説明する。以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明に必須であるとは限らない。また、各実施形態において説明が重複する場合は、説明を省略することがある。
【0017】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係る水位予測装置11の構成を説明するために示すブロック図である。図2は、実施形態1に係る水位予測装置11の水位取得部21の構成を説明するために示す図である。図3は、実施形態1に係る水位予測装置11の推定降水量演算部3の構成を説明するために示すブロック図である。図4は、実施形態1に係る水位予測装置11の流域抽出部5の構成を説明するために示す図である。図5は、実施形態1に係る水位予測装置11の第1の河川モデル4を説明するために示す図である。
【0018】
水位予測装置11は、図1に示すように、水位取得部21、推定降水量演算部3、第1の河川モデル4、流域抽出部5及びモデルパラメタPを備え、未来における降水量である予測降水量Xと、予測地点周辺の標高や緯度経度等の情報である地形情報Gを入力し、対象河川の予測地点における未来の予測水位Hと、土砂災害危険度の高まりを表す指数である土壌雨量指数Dを出力する。ここで予測降水量Xとは、ある地域、又は、一定の領域おいて、降水が予想される降水量のことをいう。予測降水量Xとして、例えば気象庁から提供される予測降水量の情報を利用することができる。以下、水位予測装置11を構成する各要素について説明する。
【0019】
〔水位取得部〕
水位取得部21は、対象河川の水位を予測する場所に設置して、対象河川の水位を予測する場所における水位である河川水位Wを計測する。
【0020】
実施形態1における水位取得部21は、図2に示すように、1台の水位計測手段50を含む。水位計測手段50は、水位センサ51、ケーブル52、回路ボックス53及び送信アンテナ54を備える。回路ボックス53及び送信アンテナ54を対象河川の横に設置し、水位センサ51を対象河川の水中に設置して、河川水位Wを計測する。
【0021】
水位センサ51は半導体圧力センサなどを含んで構成され、河川水位Wに応じて変化する電気信号を出力する。ケーブル52は、この電気信号を回路ボックス53に伝送する。回路ボックス53は、電気信号をディジタル信号に変換して、河川水位Wとして送信アンテナ54で無線送信する。無線送信された河川水位Wは、図示しない受信装置により受信される。
【0022】
[推定降水量演算部]
推定降水量演算部3は、図3に示すように、第2の河川モデル31、モデルパラメタP、差分演算手段32及び積算手段33を備える。
【0023】
推定降水量演算部3は、河川水位Wを用いて、対象河川の流域に降ったと推定される流域推定降水量Erを計算により求める。これにより、その時点での対象河川の流域における降水量を正確に把握することができる。さらに、その時点における対象河川の状態を、後で説明する第1の河川モデル4に正確に反映させることができる。
【0024】
第2の河川モデル31は、時間とともに変化しないパラメタであるモデルパラメタPと、予測地点における水位変化を表し、時間とともに変化する状態変数Sと、を含む。第2の河川モデル31は、後で説明する第1の河川モデル4と同一構成であってもよい。
【0025】
差分演算手段32は、時々刻々変わる第2の河川モデル31の出力であるモデル水位Mと、計測された河川水位Wとの差分である差分水位Dhを求める。流域推定降水量Erは、差分水位Dhがゼロになった時の第2の河川モデル31の入力として求めることができる。差分水位Dhがゼロにならない場合、差分水位Dhを積算手段33にて積算し、積算結果を第2の河川モデル31にフィードバックしながら第2の河川モデル31の出力を再計算する。このフィードバックと再計算のループを、差分水位Dhがゼロに近くなるまで繰り返す。
【0026】
このようにして第2の河川モデル31の出力が河川水位Wと一致するようになったとき、流域推定降水量Erは対象河川の流域に降った降水量を反映している。また第2の河川モデル31内部の状態変数Sは、対象河川の状態を反映している。このようにして推定降水量演算部3は、河川水位Wを使って、流域推定降水量Erと状態変数Sとを求めて出力する。
【0027】
〔流域抽出部〕
流域抽出部5は、未来(例えば、5分後、10分後、15分後、2時間後)における予測降水量Xを入力として、対象流域における降水量を抽出し、流域予測降水量Xrとして出力する。
【0028】
流域抽出部5は、図4に示すように地形情報Gを使って、降水が予測地点100に流れ込む流域を特定し、流域メッシュ101を抽出する。例えば図4では、地形情報Gにより予測地点100より上流に位置する尾根筋103を特定し、尾根筋103と予測地点100で形成される三角形に含まれるメッシュが流域メッシュ101として抽出される。
【0029】
流域抽出部5は、予測降水量Xを流域メッシュ101に関して積算し、流域予測降水量Xrとして出力する。このようにして予測地点100に流れ込んでくる全降水量の予測値(流域予測降水量Xr)を得る。
【0030】
〔第1の河川モデル〕
降水量から対象河川の水位を予測する「河川モデル」として、様々な提案がされている。以後の説明においては、第1の河川モデル4として、図5に示す「直列3段タンクモデル」を適用した場合を例にして説明する。なお、第1の河川モデル4として、「直列3段タンクモデル」以外の河川モデルであっても好適に適用できることは言うまでもない。
【0031】
「直列3段タンクモデル41」は、3段のタンクを上下方向に重ね、各タンクの側面には横孔が、底部には下孔があって、それぞれ水が排出されるように構成されている。
【0032】
最上段の第1タンクへは、降水による雨が降り注ぎ、その降水量(r)を直列3段タンクモデルの入力とする。第1タンク横孔からの流出は河川の表面から流出する水を反映している。同様にして第2タンクの横孔からの流出は河川表層での浸透流出に、第3タンクの横孔からの流出は地下水に相当する。
【0033】
第1の河川モデル4は、変化しないモデルパラメタPと、流域における降雨により変化する状態変数Sとで構成されている。状態変数Sは3つのタンクの貯水量(S1,S2,S3)である。
【0034】
モデルパラメタPは、以下に示す12個のパラメタ(u,a,a,a,a,b,b,b,z,z,z,z)である。

u … 河川の規定流出量(雨が長期間降っていない平常時の水位)
,a,a,a … 各タンクの横孔の大きさ
,b,b … 各タンクの下孔の大きさ
,z,z,z … 各タンクに設けられた横孔の高さ
【0035】
〔河川モデルの演算〕
モデル演算は、最初に3つの各タンク貯水量(S1,S2,S3)から、横孔流出量q,q,q,qを求める。
【数1】
【0036】
次に、各タンクの貯水量(S1,S2,S3)を更新する。
【数2】
【0037】
流量演算部42により、横孔流出量q,q,q,qと、規定流出量uとを足し合わせ、予測流量Q(t)を求める。
【数3】
【0038】
最後に水位変換部43が、式(3)で求めた予測流量Q(t)と、係数a,bを用いた以下の式(4)によって、予測水位H(t)を求める。
【数4】
【0039】
ここで式(4)は、一般にH-Q曲線と呼ばれる特性であって、水位(予測水位)Hと流量(予測流量)Qの関係を係数a,bを使った関数で近似する。(係数a、bは、過去の観測結果を用いて、例えば最小二乗法により定めることができる。)
【0040】
土壌雨量指数抽出部44は、各タンクの貯水量(S1,S2,S3)を式(5)のように加えることによって、土壌雨量指数Dを求める。
【数5】
【0041】
従来技術における気象庁が発表している土壌雨量指数Dは、山岳地のように降水レーダの精度が低い場所では土壌雨量指数Dの誤差も大きいという問題があった。これに対して、実施形態1に係る水位予測装置11は、各タンクの貯水量(S1,S2,S3)を河川水位Wから求めているので、土壌雨量指数Dの信頼度が高いという効果を有する。
【0042】
[実施形態2]
図6は、実施形態2に係る水位予測方法を説明するために示す図である。
【0043】
水位予測方法は、図2に示すように、予測降水量X、地形情報G及び河川水位Wを使って予測地点における未来の河川の予測水位Hを予測する水位予測方法であって、流域予測降水量抽出工程S1と、河川水位取得工程S2と、流域推定降水量推定工程S3と、予測水位算出工程S4と、を備える。水位予測方法は、実施形態1に係る水位予測装置11を用いて好適に実施することができる。以下、図1図6を用いて、実施形態2に係る水位予測方法について説明する。
【0044】
流域予測降水量抽出工程S1は、予測降水量Xに地形情報Gを適用して、流域予測降水量Xrを抽出する工程である。具体的には、予測降水量Xに地形情報Gを適用して、予測降水量Xから、降水が河川の予測地点に流れ込む流域における流域予測降水量Xrを抽出する工程である。
【0045】
河川水位取得工程S2は、予測地点における河川水位Wを取得する工程である。河川水位Wは、対象河川の水位を予測する場所に設置した水位取得部21(図2参照)により取得することができる。
【0046】
流域推定降水量推定工程S3は、河川水位Wから予測地点に流れ込む降水量である流域推定降水量Erを推定する工程である。流域推定降水量推定工程S3においては、河川水位Wと第2の河川モデル31の出力との差分水位Dhを取得し、第2の河川モデル31への入力にフィードバックして更新する。第2の河川モデル31の出力が河川水位Wと一致するようになったときの第2の河川モデル31の状態変数Sと、第2の河川モデル31への入力である流域推定降水量Erとを出力する(図3参照)。
【0047】
予測水位算出工程S4は、流域予測降水量Xrと、流域推定降水量推定工程S3の出力である状態変数Sとを使って予測水位Hを算出する工程である。第1の河川モデル4に、流域予測降水量Xrと状態変数Sとを適用して、予測水位Hを算出する。
【0048】
〔実施形態3〕
図7は、実施形態3に係る水位予測装置に含まれる水位取得部22を説明するために示す図である。
【0049】
実施形態3に係る水位予測装置に含まれる水位取得部22は、図7に示すように、複数の水位計測手段50、例えば3つの水位計測手段50A~50Cと、水位フィルタ55とにより構成される。水位計測手段50A~50Cのそれぞれは、実施形態1において説明した水位計測手段50と同様の構成を有する。それぞれの水位計測手段50が備える、水位センサ51A~51Cにより計測された水位情報wa~wcは、送信アンテナ54(図2参照)により送信され、図示しない受信装置で受信される。
【0050】
複数の水位計測手段50A~50Cは、対象河川500の同じ場所に設置してもよく、流れに沿った異なる場所に設置してもよい。また、3台以上の水位計測手段50を、流れに沿った異なる場所に設置する場合、隣りあって設置される水位計測手段50の間の距離は一定である必要はなく、任意の距離をおいて設置されてよい。
【0051】
河川は、その流れの位置が移動したり、あるいは小規模な崖崩れによって水深が局所的に変わることがある。また水位センサ51A~51Cにより計測された水位情報wa~wcは、それぞれ設置場所の状況(設置場所の水深、川幅等)によって、異なる値を示す。そこで本発明では複数の水位計測手段50A~50Cを設け、それらの計測値を水位フィルタ55により総合的に判断することにより正しい河川水位Wを計測することを可能とする。
【0052】
水位フィルタ55は、流量変換手段551A~551C、流量フィルタ552と水位変換手段553とを備える。流量変換手段551A~551Cは、水位情報wa~wcを設置場所状況に依らない流量情報qa~qcに変換する。水位情報から流量情報への変換は、例えば水位センサ51A~51Cを設置した場所の川幅と流速を求め、式(4)として示したH-Q曲線の逆関数を定めて適用することにより実現できる。
【0053】
流量フィルタ552は、複数の流量情報qa~qcの異常値を除去することにより予測流量Qを求める。最後に水位変換手段553が予測流量Qを河川水位Wへと変換して出力する。
【0054】
流量フィルタ552は、例えば複数の流量情報qa~qcを平均することによって、予測流量Qを求めることができる。これにより水位センサ51A~51Cの設置場所に依存してランダムに変化する外乱を取り除き、より正確な河川水位Wを得ることができる。
【0055】
流量フィルタ552はまた、複数の流量情報qa~qcを比較し、所定値を超えて乖離していた流量情報を除去してから平均することによって予測流量Qとしてもよい。あるいは、複数の流量情報qa~qcから最大値と最小値とを除去し、残った値を予測流量Qとしてもよい。流量フィルタ552により、例えば豪雨によって河川の流量が増大し、水位センサ51の一台が流失したり、ケーブル52が破損したりして、3台の水位計測手段50のうち1台から異常な水位情報wが得られた場合、異常値を除去して正しい河川水位Wを得ることができる。
【0056】
以上述べたように実施形態3に係る水位取得部22は、複数の水位計測手段50と、水位フィルタ55とを有する。これにより、様々な自然現象があっても安定した河川水位Wの計測が可能になる。
【0057】
〔実施形態4〕
図8は、実施形態4に係る水位予測装置12の構成を説明するために示すブロック図である。
【0058】
水位予測装置12は、図8に示すように、第1の推定降水量演算部3A、第2の推定降水量演算部3B、第1の河川モデル4A、及び、第3の河川モデル4Bを備える。かかる構成により、2つの予測水位Ha、Hbを出力することができる。
【0059】
2つの予測水位Ha,Hbの出力が近似している場合には、第1の河川モデル4A及び第3の河川モデル4Bの予測精度は十分に高いということができる。
【0060】
水位予測装置12において、第1の河川モデル4Aと第3の河川モデル4Bとは、異なるモデルパラメタPaとPbを用いることもできる。この場合、推定降水量演算部3A及び3Bは、それぞれ異なる状態変数SaとSbを出力することになる。
【0061】
例えば、第1の河川モデル4Aの3つのタンク水位(S1,S2,S3)を低めに設定して状態変数Saを作り出し、第3の河川モデル4Bの3つのタンク水位(S1,S2,S3)を高めに設定して状態変数Sbを作り出す。このように異なるパラメタ及び状態変数を意図的に第1の河川モデル4A及び4Bに入力して同時動作させることで、予測水位Hの取り得る変化幅を表すことができる。
【0062】
土壌雨量指数に関しても同様に、二つの異なるモデルパラメタP及び状態変数Sを使って二つの指数Da、Dbを出力することにより、それぞれの出力が近似している場合には、土壌雨量指数の精度は十分に高いということができ、ユーザは土壌雨量指数の信頼度を窺い知ることができる。
【0063】
〔実施形態5〕
図9は、実施形態5に係る水位予測装置13の構成を説明するために示すブロック図である。
【0064】
水位予測装置13は、図9に示すように、流域推定降水量Erと流域予測降水量Xrとを切り替える切り替えスイッチ7を備える。実施形態1に係る水位予測装置11は、推定降水量演算部3によって状態変数Sを計算し、その結果得られた状態変数Sを使って第1の河川モデル4が水位予測を行うものであった。水位予測装置13は、切り替えスイッチ7を有し、最初は流域推定降水量Erを第1の河川モデル4に入力するが、予測開始時点までの流域推定降水量Erを入力し終え、状態変数Sが所望の値になったところで第1の河川モデル4への入力を流域予測降水量Xrに切り替え、水位予測を行う。
【0065】
水位予測装置13は、第1の河川モデル4が流域推定降水量Erを入力として受け取り、状態変数Sを第1の河川モデル4内部で計算する点で実施形態1に係る水位予測装置11と異なる。この結果、第1の河川モデル4と第2の河川モデル31において、それぞれ異なるモデルを使うことができる。例えば第1の河川モデル4として「直列3段タンクモデル」を適用し、推定降水量演算部3に含まれる第2の河川モデル31(図3参照)として「RRIモデル」を適用することが可能となるから、流域推定降水量Erの推定と、予測水位Hの予測演算にそれぞれ最適なモデルを適用して、より精度の高い水位予測が可能となる。
【0066】
[実施形態6]
図10は、実施形態6に係る降水量推定装置8の構成を説明するために示すブロック図である。
【0067】
降水量推定装置8は、図10に示すように、第2の河川モデル31、モデルパラメタP、差分演算手段32及び積算手段33を備える。降水量推定装置8は、所定の地点において計測した河川水位Wを第2の河川モデル31に入力し、その地点の流域の降水量である流域推定降水量Erを出力する。降水量推定装置8は、実施形態1において説明した推定降水量演算部3(図3参照)と同様の構成のものであってもよい。実施形態6に係る降水量推定装置8によれば、河川水位Wから流域推定降水量Erを推定することができる。
【0068】
以上説明した実施形態において、水位予測装置11~13に入力するデータは所定の時間間隔でまとめて取得されたものであっても良い。
【0069】
水位予測装置11~13に入力するデータは、予測地点の流域に設けられたダム又は水門の放水量、前記ダム又は水門の放水時刻、前記予測地点の流域内の損失雨量、前記予測地点の流域の風向風速など、水位や降水量に影響を及ぼすその他の情報のうちの少なくとも1つを含んでも良い。
【0070】
水位予測装置11~13には、第1の河川モデル4が予測した予測水位Hが所定の基準値を超えると、予測水位Hに応じた災害対処計画を実施する旨の警告を発する警告部を備えることもできる。また予測した地点の周辺住民に対し、災害対処計画として前記予測水位Hに応じた避難計画を実施する旨の警告を発しても良い。
【0071】
さらに水位予測装置11~13において、第1の河川モデル4が予測した予測水位Hと河川水位Wを比較し、著しく乖離していた場合に河川に土石流や水位センサ51の故障など、何らかの異常が起きたと判断する機能を持たせても良い。
【0072】
水位予測装置11~13において、流域抽出部5が抽出する範囲には、予測地点の流域のみならず、その近隣の流域を含んだ地形情報Gを用いて流域抽出を行っても良い。また流域抽出部5は、予測降水量Xを流域メッシュ101に関して積算する際に、流域メッシュ101から予測地点100までの距離に応じた時間遅延を加味して積算することにより、流域予測降水量Xrを算出しても良い。
【0073】
水位予測装置11~13において、第1の河川モデル4に使用する河川モデルは、直列3段タンクモデルの代わりに、降水量を入力として水位を出力とする別のモデル(例えば、RRIモデル)を使用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、河川の水位予測に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
11,12,13…水位予測装置、21、22…水位取得部、3…推定降水量演算部、4…第1の河川モデル、5…流域抽出部、7…切り替えスイッチ、8…降水量推定装置、30…モデルパラメタ、31…第2の河川モデル、32…差分演算手段、33…積算手段、41…3段タンク、42…流量演算部、43…水位変換部、44…土壌雨量指数抽出部、50…水位計測手段、51…水位センサ、52…ケーブル、53…回路ボックス、54…アンテナ、55…水位フィルタ、551… 流量変換手段、552… 流量フィルタ、553… 水位変換手段、S…状態変数、P…モデルパラメタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10