(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008007
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ポリチオフェン誘導体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
C08G61/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109482
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 敦紀
(72)【発明者】
【氏名】岡野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】阪上 雄真
(72)【発明者】
【氏名】桑山 愛香
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032BA04
4J032BB01
4J032BC03
4J032BD05
4J032CG01
4J032CG02
(57)【要約】
【課題】本発明は、位置規則性が高く導電性などに優れるポリチオフェン誘導体、その合成中間体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るポリチオフェン誘導体は、下記式(I)で表される構造単位を有することを特徴とする。
[式中、R
1はC
3-12アルカンジイル基などを示し、M
+は、プロトンまたはアルカリ金属イオンを示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される構造単位を有することを特徴とするポリチオフェン誘導体。
【化1】
[式中、
R
1は、エーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよいC
3-12アルカンジイル基を示し、
M
+は、プロトンまたはアルカリ金属イオンを示す。]
【請求項2】
R1が、-R2-X-R3-基(式中、R2はC1-4アルカンジイル基を示し、R3はC2-6アルカンジイル基を示し、XはOまたはSを示す。)である請求項1に記載のポリチオフェン誘導体。
【請求項3】
M+がアルカリ金属イオンである請求項1に記載のポリチオフェン誘導体。
【請求項4】
下記式(II)で表される構造単位を有することを特徴とするポリチオフェン誘導体。
【化2】
[式中、
R
1は、エーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよいC
3-12アルカンジイル基を示し、
R
4はC
1-6アルキル基を示す。]
【請求項5】
R4がC2-4アルキル基である請求項4に記載のポリチオフェン誘導体。
【請求項6】
下記式(I)で表される構造単位を有するポリチオフェン誘導体を製造するための方法であって、
【化3】
[式中、
R
1は、エーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよいC
3-12アルカンジイル基を示し、
M
+は、プロトンまたはアルカリ金属イオンを示す。]
下記式(III)で表されるチオフェン誘導体とグリニャール試薬を反応させた後、遷移金属触媒により重合することにより、下記式(II)で表される構造単位を有するポリチオフェン誘導体を得る工程、
【化4】
[式中、
R
1は、エーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよいC
3-12アルカンジイル基を示し、
R
4はC
1-6アルキル基を示し、
YとZは、独立して、クロロ、ブロモまたはヨードから選択されるハロゲノ基を示し、但し、Yの原子量はZの原子量より大きいものとする。]
および、上記式(II)で表される構造単位を有するポリチオフェン誘導体を脱保護する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
アルカリ金属のハロゲン化物塩、アルカリ金属の水酸化物、またはアルカリ金属アルコキシドを使って上記式(II)で表される構造単位を有するポリチオフェン誘導体を加水分解する請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置規則性が高く導電性などに優れるポリチオフェン誘導体、その合成中間体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアセチレン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)などの導電性高分子は、近年、有機エレクトロニクス分野において盛んに開発されている。中でもポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)は、良好なπ共役性と位置規則性を有する。
【0003】
P3HTの結合様式としては、head-to-tail(HT)結合様式と、head-to-head(HH)結合様式およびtail-to-tail(TT)結合様式が交互に共重合しているHHTT結合様式がある。
【0004】
【0005】
HHTT-P3HTは、側鎖ヘキシル基同士の立体障害のために主鎖がねじれており、全共役高分子でありながら室温で流動性を示す。一方、HT-P3HTは主鎖の平面性が高く、高融点を有する結晶性高分子である。よって、HT-P3HTの割合が高く位置規則性に優れたポリチオフェン化合物は、導電性に優れた電子材料として有用であると考えられる。
【0006】
しかしP3HTは、外部から酸やヨウ素などの水溶性ドーパントを過剰量添加するドーピングにより初めて実用的な導電性を示す。かかる過剰量の水溶性ドーパントに起因して、導電性高分子を含む電子デバイスの表面は、空気中の酸素や水分などの影響により腐食され易いなど、電子デバイスに応用するには問題点を残している。
【0007】
上記の課題を解決するには、チオフェン分子自身がドープ可能な官能基を持ち、分子内で効率よくドープする自己ドープが有望である。しかしながら、P3HTの側鎖置換基であるヘキシル基では、ポリチオフェンの高分子骨格に自己ドープすることはできない。
【0008】
自己ドープをする機能を持つポリチオフェン誘導体としては、分子内にスルホ基を有するポリチオフェン誘導体が、非特許文献1,2などに開示されている。しかし、かかるポリチオフェン誘導体は、原料チオフェンモノマーから酸化的に水素原子を引き抜いて重合する酸化重合により製造されている。ポリチオフェンの酸化重合は、ラジカル、カルボカチオン、ラジカルカチオンを経由していると考えられ、ラジカルやカチオンの転位のため、また、立体障害による制御が難しいため、位置規則性の高いポリチオフェンを合成することはできない。
【0009】
特許文献1~4には、チオフェン環と1,4-ジオキサン環が縮合した3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体を、酸化重合ではなく、グリニャール試薬と遷移金属触媒を使って製造する方法が記載されている。しかしこれらポリチオフェン誘導体の位置規則性は、ジオキサン環の存在により立体障害による制御が効き難いために十分でないと考えられる。
【0010】
本発明者らは、チオフェン環にベンゼンスルホン酸が直結しており、位置規則性の高いポリチオフェン誘導体を開発している(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-171759号公報
【特許文献2】特開2018-188424号公報
【特許文献3】特開2019-203056号公報
【特許文献4】特開2021-046358号公報
【特許文献5】特開2019-199559号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Yoshiaki Ikenoueら,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1990,pp.1694-1695
【非特許文献2】Karim Faidら,Chem.Commun.,1996,pp.2761-2762
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、本発明者らは、位置規則性の高いポリチオフェン誘導体を開発している。しかし、導電性などが一層優れた有機ポリマーが求められている。
そこで本発明は、位置規則性が高く導電性などに優れるポリチオフェン誘導体、その合成中間体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、チオフェン環にリンカー基を介してスルホ基が結合しており、2位と5位に反応性の異なるハロゲノ基が置換しているモノマーを特定条件で重合させることにより、自己ドープが可能で且つ位置規則性の高いポリチオフェン誘導体が得られることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0015】
[1] 下記式(I)で表される構造単位を有することを特徴とするポリチオフェン誘導体。
【化2】
[式中、
R
1は、エーテル基(-O-)またはチオエーテル基(-S-)で置換されていてもよいC
3-12アルカンジイル基を示し、
M
+は、プロトン(H
+)またはアルカリ金属イオンを示す。]
[2] R
1が、-R
2-X-R
3-基(式中、R
2はC
1-4アルカンジイル基を示し、R
3はC
2-6アルカンジイル基を示し、XはOまたはSを示す。)である上記[1]に記載のポリチオフェン誘導体。
[3] M
+がアルカリ金属イオンである上記[1]に記載のポリチオフェン誘導体。
【0016】
[4] 下記式(II)で表される構造単位を有することを特徴とするポリチオフェン誘導体。
【化3】
[式中、
R
1は、エーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよいC
3-12アルカンジイル基を示し、
R
4はC
1-6アルキル基を示す。]
[5] R
4がC
2-4アルキル基である上記[4]に記載のポリチオフェン誘導体。
【0017】
[6] 上記式(I)で表される構造単位を有するポリチオフェン誘導体を製造するための方法であって、
下記式(III)で表されるチオフェン誘導体とグリニャール試薬を反応させた後、遷移金属触媒により重合することにより、下記式(II)で表される構造単位を有するポリチオフェン誘導体を得る工程、
【化4】
[式中、
R
1は、エーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよいC
3-12アルカンジイル基を示し、
R
4はC
1-6アルキル基を示し、
YとZは、独立して、クロロ、ブロモまたはヨードから選択されるハロゲノ基を示し、但し、Yの原子量はZの原子量より大きいものとする。]
および、上記式(II)で表される構造単位を有するポリチオフェン誘導体を脱保護する工程を含むことを特徴とする方法。
[7] アルカリ金属のハロゲン化物塩、アルカリ金属の水酸化物、またはアルカリ金属アルコキシドを使って上記式(II)で表される構造単位を有するポリチオフェン誘導体を脱保護する上記[6]に記載の方法。
【0018】
「C3-12アルカンジイル基」は、炭素数が3以上、12以下の直鎖状または分枝鎖状の二価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、n-プロパンジイル、メチルエタンジイル、n-ブタンジイル、メチルプロパンジル、ジメチルエタンジイル、n-ペンタンジイル、n-ヘキサンジイル、n-ヘプタンジイル、n-オクタンジイル、n-ノナンジイル、n-デカンジイル、n-ウンデカンジイル、n-ドデカンジイル等である。好ましくはエーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよいC3-12n-アルカンジイル基、即ちエーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよい-(CH2)3-12-であり、より好ましくはエーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよい-(CH2)4-10-であり、より更に好ましくはエーテル基またはチオエーテル基で置換されていてもよい-(CH2)4-8-である。
【0019】
C3-12アルカンジイル基がエーテル基またはチオエーテル基で置換されている場合、エーテル基またはチオエーテル基の置換位置は特に制限されず、例えば、チオフェン環側末端部であってもよいし、スルホ基側末端部であってもよいし、中間部であってもよい。
【0020】
「C1-4アルカンジイル基」は、炭素数が1以上、4以下の直鎖状または分枝鎖状の二価飽和脂肪族炭化水素基をいい、-(CH2)1-4-が好ましく、-(CH2)2-4-がより好ましく、-(CH2)2-3-がより更に好ましい。「C2-6アルカンジイル基」は、炭素数が2以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の二価飽和脂肪族炭化水素基をいい、-(CH2)2-6-が好ましく、-(CH2)2-5-がより好ましく、-(CH2)3-5-がより更に好ましい。
【0021】
「C1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC2-4アルキル基である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るポリチオフェン誘導体は、自己ドープが可能であり、ドーパント無しでも導電性を示す。また、本発明に係るポリチオフェン誘導体は、特定のモノマーを特定条件で重合させることにより、極めて高い位置規則性を有するので、高い導電性を示す。更にその合成中間体は、有機溶媒に対する溶解性が高いため、溶液を用いた成形が可能であり、且つ加水分解により本発明に係るポリチオフェン誘導体に容易に変換することができる。従って本発明に係るポリチオフェン誘導体は、優れた有機電子材料などとして、産業上非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るポリチオフェン誘導体の製造方法を説明する。なお、「式(α)で表される化合物」を「化合物(α)」のように表記するものとする。
【0024】
1.原料化合物
本発明に係るポリチオフェン誘導体の製造原料である化合物(III)は、当業者であれば市販化合物から合成することができる。例えば、3位のみが置換されているチオフェン誘導体として様々な化合物が市販されており、市販化合物から3位にヒドロキシアルキル基を有するチオフェン誘導体(IV)を合成することができる。チオフェン誘導体(IV)から、例えばスルトン化合物を使って、チオフェン誘導体(V)が得られる。例えば、プロパンスルトンを使えばR3がプロパンジイル基のチオフェン誘導体(V)が得られ、ブタンスルトンを使えばR3がブタンジイル基のチオフェン誘導体(V)が得られる。チオフェン誘導体(V)のスルホ基をエステル化することにより、チオフェン誘導体(VI)が得られる。チオフェン誘導体(VI)のチオフェン環の2位は、5位よりも反応性が高いといえるので、例えばN-クロロスクシンイミドなどを使ってチオフェン環の2位へより原子量の小さいハロゲノ基を導入した後、N-ヨードスクシンイミドを使ってなど5位へより原子量の大きいハロゲノ基を導入すればよい。
【0025】
【0026】
なお、R4がメチルである場合、下記の重合工程でスルホン酸エステル基の一部が脱保護され、ポリチオフェン誘導体(II)の分子量が比較的小さくなるおそれがあり得る。また、R4の炭素数の大きいほど、スルホン酸エステル基は脱保護され難い傾向がある。よって、R4としては、C2-4アルキル基が好ましい。
【0027】
2.重合工程
本発明に係るポリチオフェン誘導体は、溶媒中、グリニャール試薬を反応させた後、遷移金属触媒により重合することにより、ポリチオフェン誘導体(II)を製造することができる。
【0028】
【0029】
本工程で用いる溶媒は、チオフェン誘導体(III)とグリニャール試薬を適度に溶解することができ、且つ重合反応を阻害しないものから適宜選択すればよいが、例えば、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒;ベンゼンやトルエンなど芳香族炭化水素溶媒などを用いることができる。
【0030】
グリニャール試薬は適宜選択すればよいが、例えばR5としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル等のC1-4アルキル基が挙げられる。
【0031】
溶媒の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、チオフェン誘導体(III)とグリニャール試薬の合計濃度が5mg/mL以上、50mg/mL以下となるよう調整することができる。
【0032】
チオフェン誘導体(III)において、YはZに比べて原子量が大きく反応性が高い上に、3位置換基の立体障害により、グリニャール試薬はYと優先的に反応し、次いでZと反応することにより、位置規則性の高いポリチオフェン誘導体(II)が得られると考えられる。
【0033】
遷移金属触媒とは、0価の遷移金属を含むクロスカップリング触媒であり、おそらく一方の原料ハロゲノ化チオフェン誘導体のハロゲノ基とチオフェン環との間に酸化的に付加し、他方の原料ハロゲノ化チオフェン誘導体と反応した後、還元的に脱離することによりクロスカップリング反応を触媒するものである。かかる遷移金属触媒としては、例えば、NiCl2(PPh3)2、NiCl2(PPh3)IPr、Ni(cod)2、Ni(cod)2/2SIPr、NiCl2(dppp)、NiCl2(dppe)、NiCl2(dppf)などのニッケル触媒;Pd-PEPPSI-IPr、Pd(PtBu3)2、PdCl2(PPh3)2、PdCl2(dppf)・CH2Cl2、Pd(OAc)2、Pd2(dba)3・CHCl3などのパラジウム触媒を挙げることができる。
【0034】
遷移金属触媒の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、チオフェン誘導体(III)とグリニャール試薬の合計に対して0.1モル%以上、50モル%以下とすることができ、1モル%以上が好ましく、また、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0035】
反応条件は特に制限されず、予備実験で決定したり、適宜調整すればよい。例えば、チオフェン誘導体(III)の溶液にグリニャール試薬を添加した後、-10℃以上、100℃以下程度で、10分間以上、10時間以下攪拌してもよい。遷移金属触媒を添加した後も、-10℃以上、100℃以下程度で、10分間以上、10時間以下攪拌してもよい。また、例えば10℃以上、40℃以下の常温で反応を行ってもよい。
【0036】
反応終了後は、一般的な後処理を行ってもよい。例えば、反応液に貧溶媒を加え、ポリチオフェン誘導体(II)を沈殿させ、濾取した後、貧溶媒で洗浄すればよい。貧溶媒としては、メタノールやエタノールなどの低級アルコール溶媒とその水溶液;n-ヘキサンやn-ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒などを挙げることができる。沈殿用の貧溶媒と洗浄用の貧溶媒は同一であっても異なっていてもよい。沈殿用の貧溶媒は、反応溶媒と相溶するものを選択することが好ましい。また、沈殿用の貧溶媒には、スルホン酸基が脱保護されない限り塩酸などの酸を添加してもよい。
【0037】
3.成形工程
ポリチオフェン誘導体(II)は、有機溶媒に溶解可能であることから、成形することができる。ポリチオフェン誘導体(II)を溶解可能な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒;ベンゼンやトルエンなど芳香族炭化水素溶媒などを挙げることができる。
【0038】
上記ポリチオフェン誘導体(II)の溶液の濃度は、目的の成形体の形状などに応じて適宜調整すればよい。例えば、ポリチオフェン誘導体(II)の膜を製造したい場合には、上記濃度を0.5mg/mL以上、50mg/mL以下とすることができる。上記溶液を基材上にキャストしたり塗布した後、放置または加熱して溶媒を留去することにより、ポリチオフェン膜を得ることができる。
【0039】
4.脱保護工程
ポリチオフェン誘導体(II)の導電性は、比較的低いといえる。そこで、ポリチオフェン誘導体(II)中のスルホン酸エステル基を脱保護して自己ドープさせることにより、導電性を顕著に向上させることが可能である。
【0040】
ポリチオフェン誘導体(II)およびポリチオフェン誘導体(III)は、製造条件よりHT(Head-to-Tail)型で位置規則性が高いため、平面性が高く、共役も良好に延長され、且つ対称性が高いので結晶性が高い。また、ポリチオフェン誘導体(III)は、自己ドープさせることによって、導電性も顕著に向上する。
【0041】
ポリチオフェン誘導体(II)のスルホン酸エステル基の脱保護条件としては、単に加熱するのみであってもよい。加熱条件は適宜調整すればよいが、例えば、185℃以上、300℃以下で1分間以上、1時間以下加熱すればよい。
【0042】
ポリチオフェン誘導体(II)のスルホン酸エステル基は、アルカリ金属のハロゲン化物塩、アルカリ金属の水酸化物、またはアルカリ金属アルコキシドによっても脱保護することもできる。具体的には、ポリチオフェン誘導体(II)の溶液にこれらアルカリ金属化合物を加え、スルホン酸エステル基を脱保護する。アルカリ金属化合物による脱保護で得られるポリチオフェン誘導体(I)はアルカリ金属塩となるため、導電性に加えて、アルカリ金属イオン伝導性を示すと考えられる。例えばリチウム塩であるポリチオフェン誘導体(I)は、リチウムイオン二次電池の電子材料として利用できる可能性がある。
【0043】
本脱保護反応に使用可能な溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒:ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒を用いることができる。
【0044】
本反応に用いるポリチオフェン誘導体(II)溶液の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、0.5mg/mL以上、100mg/mL以下とすることができる。
【0045】
アルカリ金属のハロゲン化物塩としては、例えば、ヨウ化ナトリウムが挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化セシウムから選択される1以上が挙げられる。アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、及びカリウムt-ブトキシドから選択される1以上が挙げられる。
【0046】
脱保護のためのアルカリ金属化合物の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、ポリチオフェン誘導体(II)に対して0.5質量倍以上、5質量倍以下とすることができる。
【0047】
アルカリ金属のハロゲン化物塩または水酸化物を用いる脱保護反応の条件も適宜調整すればよいが、例えば、20℃以上、100℃以下で、1時間以上、50時間以下反応させればよい。
【0048】
反応終了後は、一般的な後処理を行ってもよい。例えば、ポリチオフェン誘導体(II)に比べてポリチオフェン誘導体(I)の脂溶性は低いため、ポリチオフェン誘導体(II)の脱保護反応の進行によりポリチオフェン誘導体(I)が析出する傾向がある。よって、反応終了後、反応液を常温以下に冷却し、析出したポリチオフェン誘導体(I)を濾取し、貧溶媒で洗浄すればよい。洗浄に用い得る貧溶媒としては、例えば、ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒;ベンゼンやトルエンなど芳香族炭化水素溶媒が挙げられる。
【0049】
本発明に係るポリチオフェン誘導体(I)およびポリチオフェン誘導体(II)の位置規則性は、上記重合反応により、非常に高いと考えられる。例えば、具体的には、ポリチオフェン誘導体(I)およびポリチオフェン誘導体(II)の結合様式は大部分がHT(Head-to-Tail)型であり、各ポリチオフェンを構成するチオフェン構造単位に占めるHH(Head-to-Head)型および/またはTT(Tail-to-Tail)型の割合としては、5mol%以下が好ましい。当該割合としては、4mol%以下、3mol%以下または2mol%以下がより好ましく、1mol%以下、0.5mol%以下または0.1mol%以下がより更に好ましい。当該割合の下限としては、当然に0mol%が好ましい。当該割合は、例えば、各ポリチオフェンを1H NMRで分析し、3位置換基を構成する基のピーク面積から、式{HT型/(HT型+HH型+TT型)}×100により計算することができる。
【0050】
本発明に係るポリチオフェン誘導体(I)は、自己ドープが可能であり、且つ非常に高い位置規則性を示すため、導電性に優れるといえる。その上、スルホ基がアルカリ金属イオンと塩を形成している場合には、イオン電導性も示すと考えられる。よって、本発明に係るポリチオフェン誘導体(I)は、電子材料として有用である。
【0051】
本発明に係るポリチオフェン誘導体(I)は、例えば、静電気防止材料、ディスプレイ用透明電極、光電変換素子用電極、固体電解コンデンサ用固体電解質、アルミ固体電解コンデンサ用セパレータ、有機半導体などへの応用が考えられる。
【実施例0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
実施例1
(1)重合反応
【化7】
内部を窒素置換した50mLシュレンク管に、チオフェン化合物(III)(2.5mmol)、及びテトラヒドロフラン(25mL)を加えた。更に塩化エチルマグネシウム(2.4mmol)を加え、室温で10分間撹拌した。続いて、NiCl
2(PPh
3)IPr(0.05mmol)を加えて重合反応を開始した。0℃または常温で1日間撹拌後、1M塩酸(2mL)とメタノール(10mL)を加え、沈殿を生成させた。固形物をヘキサンにより洗浄することで、濃紫色の固体ポリマーを得た。収率を表1に示す。
また、得られたポリマーを下記条件のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)に付し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量M
wと数平均分子量M
nを求めた。結果を表1に示す。
カラム: TSKgel G2500HHR(東ソー社製)
展開溶媒: クロロホルム
展開速度: 1mL/min
【0054】
【0055】
(2)脱保護反応
【化8】
(1)で合成したEntry1のポリチオフェン化合物(II)(10mg)をジメチルスルホキシド(1mL)に溶解し、ヨウ化ナトリウム(3倍量)を加えて70℃で6時間撹拌したところ、濃紫色の沈殿が生成した。沈殿を濾別し、クロロホルムで洗浄した後に減圧下で乾燥したところ、ポリチオフェン化合物(I)が得られた(収率:87%)。
【0056】
得られたポリチオフェン化合物(I)は水に溶解したが、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエンの有機溶媒には不溶だった。
【0057】
ポリチオフェン化合物(II)のクロロホルム溶液およびポリチオフェン化合物(I)の水溶液をそれぞれ石英板上にキャストして乾燥し、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、ポリチオフェン化合物(II)の最大吸収波長が496nmであったのに対して、ポリチオフェン化合物(I)の最大吸収波長は554nmと長波長側に大きくシフトした。
また、ポリチオフェン化合物(I)では波長700nm以上の領域に吸収が観測された。
以上の分析結果から、ポリチオフェン化合物(I)は自己ドープしているものと考えられ、導電性が大きく向上していることが示唆された。