(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080078
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20240606BHJP
B60C 11/16 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 B
B60C11/00 F
B60C11/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192969
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 二朗
(72)【発明者】
【氏名】大西 萌
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA34
3D131AA39
3D131BA01
3D131BA04
3D131BA07
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB11
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC18
3D131BC31
3D131DA34
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3D131EB23V
3D131EB23X
3D131EB31W
3D131EB31X
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3D131EB87X
3D131EB91V
3D131EB91W
3D131EB91X
3D131EC02V
3D131EC12W
3D131EC12X
3D131ED03W
3D131ED03X
3D131ED03Z
(57)【要約】
【課題】タイヤ性能を向上させた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤは、接地面を形成すると共にスタッドピンを打つためのピンホールを形成するキャップゴムと、キャップゴムのタイヤ径方向内側に配置されるベースゴムと、を有する。キャップゴムは、ピンホールの底面を形成する。ピンホールのタイヤ径方向内側におけるベースゴムの厚みは1.0mm以上である。ピンホールのタイヤ径方向内側におけるキャップゴムのゴム厚みは1.0mm以上である。ベースゴムの-5℃におけるゴム硬度が70度以上である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地面を形成すると共にスタッドピンを打つためのピンホールを形成するキャップゴムと、前記キャップゴムのタイヤ径方向内側に配置されるベースゴムと、を備え、
前記キャップゴムは、前記ピンホールの底面を形成し、
前記ピンホールの前記タイヤ径方向内側における前記ベースゴムの厚みは1.0mm以上であり、
前記ピンホールのタイヤ径方向内側における前記キャップゴムのゴム厚みは1.0mm以上であり、
前記ベースゴムの-5℃におけるゴム硬度が70度以上である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ピンホールのタイヤ径方向内側における前記キャップゴムのゴム厚みは1.5mm以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記キャップゴムの23℃におけるゴム硬度が50度以上であり、
前記キャップゴムの-5℃におけるゴム硬度が60度以上である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トレッドにスタッドピンが取り付けられた状態で使用される空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
北欧などの厳冬地域では、冬季タイヤとしてスタッドタイヤが使用される。スタッドタイヤは、金属で形成されたスタッドピンを打ち込むための複数のピンホールがトレッドに形成されている。ピンホールに打ち込まれたスタッドピンによって、氷雪路面性能が発揮される。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゴムの硬度とモジュラスの比によってピン抜け性能を向上可能という開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ピン抜け性能に限らず、スタッドタイヤには種々のタイヤ性能の向上が求められる。
【0006】
本開示は、タイヤ性能を向上させた空気入りタイヤを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の空気入りタイヤは、接地面を形成すると共にスタッドピンを打つためのピンホールを形成するキャップゴムと、前記キャップゴムのタイヤ径方向内側に配置されるベースゴムと、を備え、前記キャップゴムは、前記ピンホールの底面を形成し、前記ピンホールの前記タイヤ径方向内側における前記ベースゴムの厚みは1.0mm以上であり、前記ピンホールのタイヤ径方向内側における前記キャップゴムのゴム厚みは1.0mm以上であり、前記ベースゴムの-5℃におけるゴム硬度が70度以上である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の空気入りタイヤのタイヤ子午線を通る断面図。
【
図3】ピンホール37にスタッドピン8が打ち込まれた状態のトレッドパターンを示す一部拡大平面図。
【
図5】ピンホール37にスタッドピン8が打ち込まれる前の状態のトレッドパターンを示す一部拡大平面図。
【
図7】変形例の空気入りタイヤのタイヤ子午線を通る断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、本開示の第1実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。図において、「CD」はタイヤ周方向を意味し、「AD」はタイヤ軸方向を意味し、「RD」はタイヤ径方向を意味する。各図は、タイヤ新品時の形状を示す。
【0010】
図1は、第1実施形態の空気入りタイヤのタイヤ子午線を通る断面図である。
図2は、トレッドパターンを示す平面図である。
図1に示すように、空気入りタイヤは、一対のビード1と、各々のビード1からタイヤ径方向外側RD1に延びるサイドウォール2と、サイドウォール2のタイヤ径方向外側RD1端同士を連ねるトレッド3とを備える。ビード1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配置されている。ビード1は、リム(非図示)のビードシートに装着され、空気圧が所定圧(例えばJATMAで決められた空気圧)であれば、タイヤ内圧によりリムフランジに適切にフィッティングし、タイヤがリムに嵌合される。
【0011】
また、このタイヤは、トレッド3からサイドウォール2を経てビード1に至るトロイド状のカーカス4を備える。カーカス4は、一対のビード1同士の間に設けられ、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカス4のタイヤ径方向内側RD2には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム5が配置されている。
【0012】
トレッド3におけるカーカス4のタイヤ径方向外側RD1には、カーカス4を補強するための複数枚(第1実施形態では2枚)のベルト6が配置されている。ベルト6は、タイヤ周方向CDに対して所定角度で傾斜して延びるコードを有する。ベルト6のコードは、スチール等の金属で形成される。各々のベルト6のコードが互いに逆向き交差するように各々のベルト6が積層されている。ベルト6のタイヤ径方向外側RD1には、ベルト補強層7が配置される。ベルト補強層7のコードは、ナイロン繊維やポリアミド繊維などの有機繊維で形成される。ベルト補強層7のタイヤ径方向外側RD1には、ベースゴム31が配置される。さらに、ベースゴム31のタイヤ径方向外側RD1には、キャップゴム30が配置されている。
【0013】
図1及び
図2に示すように、トレッド3(キャップゴム30)の表面には、タイヤ周方向CDに延びる複数の主溝32と、主溝32によって区画されタイヤ周方向CDに延びる陸33とが形成されている。第1実施形態では、主溝32によって、ショルダー陸33a、クオーター陸33b、センター陸33cが形成されている。センター陸33cは、タイヤ赤道面CLに最も近い陸である。ショルダー陸33aは、複数の主溝32のうち最もタイヤ軸方向外側AD1にある第1主溝32aよりもタイヤ軸方向外側AD1に形成される陸である。クオーター陸33bは、ショルダー陸33aとセンター陸33cとの間に配置される陸である。
【0014】
第1実施形態では、タイヤ片側に2本の主溝32が形成され、全体で4本の主溝32を有するが、これに限定されない。例えば、全体で主溝32が3本でもよく、5本以上であってもよい。主溝32の数によってクオーター陸33bが省略される場合があり、陸33の数も適宜変更可能である。
【0015】
図2に示すように、トレッド3の陸33は、路面に接触可能な接地面34を形成する。接地端LEは、接地面34のタイヤ軸方向ADの最も外側の端である。接地面34は、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地する面を意味する。
【0016】
正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤごとに定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば「Measuring Rim」である。
【0017】
正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている空気圧であり、トラックバス用タイヤ、ライトトラック用タイヤの場合は、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表IRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURESに記載の最大値、ETRTOであれば、INFLATION PRESSUREである。乗用車用タイヤの場合は通常180kPaとするが、タイヤに、Extra Load、又は、Reinforcedと記載されたタイヤの場合は220kPaとする
【0018】
正規荷重とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている荷重であり、JATMAであれば 最大負荷能力、TRAであれば表 TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES に記載の最大値、ETRTOであれば LOAD CAPACITY である。タイヤが乗用車用の場合には、前記荷重の88%に相当する荷重である。タイヤがレーシングカート用の場合、正規荷重は392Nである。
【0019】
図2に示すように、第1実施形態においてショルダー陸33a及びクオーター陸33bは、スリット35によってタイヤ周方向CDに分断された陸であり、タイヤ周方向CDに複数のブロックを有する。センター陸33cは、リブであり、タイヤ周方向CDに連続する陸である。ショルダー陸33a、クオーター陸33b及びセンター陸33cは、タイヤ軸方向ADに延びるサイプ36を有する。サイプ36のエッジ効果により氷上路面性能が発揮される。
【0020】
本明細書において、主溝32は、特に限定されないが、例えば、4.0mm以上の溝幅を有している、という構成でもよい。また、主溝32は、特に限定されないが、例えば、タイヤ周方向CDに連続し、接地面34内で溝深さが一番深く、溝内には、摩耗による使用限界を示すTWI(トレッドウェアインジケータ)が設けられている、という構成でもよい。本明細書において、サイプ36は、特に限定されないが、幅1.5mm未満の溝を意味する。本明細書において、スリット35は、特に限定されないが、主溝32よりも幅が狭く、サイプ36よりも幅が広い溝を意味する。
【0021】
ショルダー陸33a及びクオーター陸33bには、スタッドピン8を埋め込むためのピンホール37が形成されている。センター陸33cには、ピンホール37が形成されていない。
図2は、スタッドピン8が打ち込まれた状態の大きさのピンホール37を示している。
図3は、ピンホール37にスタッドピン8が打ち込まれた状態のトレッドパターンを示す一部拡大平面図である。
図4は、
図3におけるA1-A1部位の断面図である。
図3及び
図4に示すように、スタッドピン8は、アルミやスチールなどの金属で形成される。スタッドピン8は、ピンホール37の開口から露出する本体80と、本体80から路面へ突出する突起81と、スタッドピン8の径方向に延びるフランジ部82と、フランジ部82と本体80とを接続するくびれ部83と、を有する。
図4に示すように、ピンホール37の底は、キャップゴム30内で終端しており、ベースゴム31に到達していない。ピンホール37の側面及び底面がキャップゴム30で形成されており、スタッドピン8がタイヤ径方向内側RD2からキャップゴム30で覆われている。
図3に示すように、ピンホール37が形成されているブロックにおいて、ピンホール37のタイヤ周方向CDの両側にはサイプ36が形成されていない。ピンホール37を有するブロックにおいて、タイヤ子午線断面に対してタイヤ周方向CDに平行に投影した場合に、ピンホール37とサイプ36とは互いに重ならない位置に配置されている。
【0022】
図5は、ピンホール37にスタッドピン8が打ち込まれる前の状態のトレッドパターンを示す一部拡大平面図である。
図6は、
図5におけるA2-A2部位の断面図である。
図5及び
図6に示すように、スタッドピン8を打ち込む前の状態のピンホール37は、ピンホール37の径がスタッドピン8の径よりも小さい状態である。同図に示すように、ピンホール37は、スタッドピン8のフランジ部82に対応するように、底部の径が、開口の径よりも大きく形成されている。
【0023】
<ベルト補強層7>
図1に示すように、第1実施形態では、ベルト6のタイヤ軸方向外側AD1の端部を覆う位置に配置されるベルト補強層7の層数は、トレッド3のタイヤ軸方向ADの中央部に位置するベルト補強層7の層数よりも多い。具体的には、複数の主溝32のうちタイヤ軸方向ADの最も外側にある第1主溝32aよりもタイヤ軸方向外側AD1の領域がショルダー領域Shであり、第1主溝32aよりもタイヤ軸方向内側AD2の領域がセンター領域Ceである。この場合、ショルダー領域Shにおけるベルト補強層7の最大層数(2層)が、センター領域Ceにおけるベルト補強層7の最大層数(1層)よりも多い、としてもよい。また、ショルダー陸33aのタイヤ軸方向ADの中央に位置するベルト補強層7の層数(2層)が、タイヤ赤道面CLに位置するベルト補強層7の層数(1層)よりも多い、としてもよい。ショルダー陸33aのタイヤ軸方向ADの中央は、第1主溝32aから接地端LEまでのタイヤ軸方向ADに沿った距離の半分となる。第1実施形態では、1枚のベルト補強層7のタイヤ軸方向ADの両端部を折り返すことで、ベルト補強層7をタイヤ軸方向ADの中央部では1層とし、タイヤ軸方向外側AD1の端部では2層にしているが、層数の増やし方はこれに限定されない。例えば、別々のベルト補強層7を重ねて貼り付けることで積層してもよいし、ピッチをずらしつつ複数のベルト補強層7を配置して積層してもよい。
【0024】
第1実施形態では、ショルダー領域Shのピンホール37の数が、センター領域Ceのピンホール37の数よりも大きいが、これに限定されない。ショルダー領域Shのピンホール37の数が、センター領域Ceのピンホール37の数と同じでもよいし、ショルダー領域Shのピンホール37の数が、センター領域Ceのピンホール37の数よりも少なくてもよい。
【0025】
<ベースゴム31の物性値の効果>
ベースゴム31の-5℃におけるゴム硬度は、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能に関係すると考えられる。ベースゴム31を硬くすることで、陸全体の剛性が上がり、陸が動きにくくなるので、ドライ操縦安定性能が向上する。また、陸が動きにくくなることで、スタッドピン8が動きにくくなるので、ピン抜け性能が向上する。ベースゴム31の-5℃におけるゴム硬度は、70度以上であることが好ましい。
【0026】
<キャップゴム30及びベースゴム31の厚み>
図4に示すように、ピンホール37にスタッドピン8が打ち込まれた状態において、ピンホール37のタイヤ径方向内側RD2におけるキャップゴム30のゴム厚みD1及びベースゴム31のゴム厚みD2の合計値(D1+D2)は、2.0mm以上であることが好ましい。上記合計値(D1+D2)はベルト6よりもタイヤ径方向外側RD1のゴム厚みであり、上記合計値(D1+D2)が厚いほど、トレッド3の陸の剛性が下がり、ドライ操縦安定性能が悪化する。一方で、上記合計値(D1+D2)が厚いほど、スタッドピン8を保持するゴムの厚みが増えるので、ピン抜け性能が向上する。ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能は、相反する性能である。上記合計値(D1+D2)を2.0mm以上にすることで、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能のバランスを他の手段(ベースゴム31の高硬度化など)によって取りやすくなる。
なお、
図4に示すピンホール37にスタッドピン8が打ち込まれた状態の上記ゴム厚みD1及びD2は、
図6に示すピンホール37にスタッドピン8が打ち込まれる前の状態の上記ゴム厚みD1及びD2と同じである。
【0027】
図4に示すように、ピンホール37の底からベースゴム31までのタイヤ径方向RDに沿ったキャップゴム30の厚みD1は1.0mm以上であることが好ましい。キャップゴム30の厚みD1が1.0mmを下回れば(
図8のように厚みD1が0の場合を含む)には、ピン抜け性能が著しく悪化してしまう。また、キャップゴム30の上記厚みD1は1.5mm以下であることが好ましい。キャップゴム30の上記厚みD1が1.0mm以上且つ1.5mm以下であれば、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能の向上効果が適切に奏される。
【0028】
図4に示すように、ピンホール37のタイヤ径方向内側RD2の部分におけるベースゴム31の厚みD2は1.0mm以上であることが好ましい。厚みD2が1.0mmを下回れば、ベースゴム31の機能(高硬度によるドライ操縦安定性能及びピン抜け性能の向上)が発揮されにくくなる。また、ベースゴム31の上記厚みD2が1.0mm以上且つ2.0mm以下であれば、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能の向上効果が適切に奏される。
【0029】
<キャップゴムの物性値による効果>
スタッドピン8を包囲するキャップゴム30(ピンホール37を形成するキャップゴム30)の23℃におけるゴム硬度および-5℃におけるゴム硬度が、スタッドピン8の動き易さに関係していると考える。後述するピン抜け性能を向上させるためには、キャップゴム30の23℃におけるゴム硬度が50度以上であることが好ましい。これは、タイヤを履き替えするシーズン(春や秋)におけるピン抜け性能を確保するためである。また、キャップゴム30の-5℃におけるゴム硬度が60度以上であることが好ましい。これは、走行距離が多い使用中心シーズン(冬)のスタッドピン8の底に作用する歪を抑制するためである。
【0030】
ゴム硬度は、JIS K6253-1-2012 3.2 デュロメータ硬さ(durometer hardness)であり、一般ゴム(中硬さ)用のタイプAデュロメータを用いて、23℃又は-5℃の雰囲気下で測定される。
【0031】
スタッドピン8の底に接触するゴム(キャップゴム30)の引き裂き強さが、スタッドピン8の底に接触するゴムの摩耗度合いに関係していると考えている。後述するピン抜け性能を向上させるためには、キャップゴム30の引き裂き強さが55[kN/m]以上であることが好ましい。スタッドピン8の底に接触するキャップゴム30の摩耗が抑制されれば、ピン抜け性能が向上可能となる。
【0032】
引き裂き強さ[kN/m]は、JIS K6252に準じて、クレセント形に打ち抜き、くぼみ中央に0.50±0.08mmの切れ込みを入れた試験片を用い、島津製作所製の引っ張り試験機により、500mm/分の引っ張り速度で引き裂き試験を行って引き裂き力を測定して求められる。
【0033】
キャップゴム30の-5℃における貯蔵弾性率(E’)[MPa]は、東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz、初期歪み10%、動歪み±5%、及び温度-5℃の条件下で測定される。
【実施例0034】
本開示の空気入りタイヤの効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0035】
比較例6~8のピンホール37の周辺の構造について説明する。
図8は、比較例6~8の
図4に対応する図である。比較例6~8は、
図8で示すように、キャップゴム30におけるピンホール37の底からベースゴム31までの厚みがなく、ピンホール37の底がキャップゴム30内で終端しておらず、ピンホール37の底がベースゴム31に到達している。スタッドピン8がベースゴム31に接触している。
【0036】
比較例1~8、実施例1~8について、キャップゴム30の23℃におけるゴム硬度、キャップゴム30の-5℃におけるゴム硬度、キャップゴム30の引き裂き強さ、キャップゴム30の貯蔵弾性率(E’)、ベースゴム31の-5℃におけるゴム硬度、スタッドピン8の底におけるキャップゴム30の厚みD1[mm]、スタッドピン8の底におけるベースゴム31の厚みD2[mm]、スタッドピン8の底におけるゴム厚みの合計値(D1+D2)については、表の通りである。
【0037】
ドライ操縦安定性能
タイヤを車両に装着してアスファルト舗装された乾燥路面にて、加速・制動・旋回・レーンチェンジをする走行を実施した。評価条件は、タイヤサイズが225/50R17、リムが17X7.5Jであり、タイヤ内圧が220kPaであり、テスト車両が排気量1984ccの乗用車を使用した。専門のドライバーが相対的に評価し、比較例1を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど乾燥路面での操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0038】
ピン抜け性能
スタッドピン8をピンホール37に埋めたタイヤを装着した車両を所定距離走行させ、タイヤに残っているスタッドピン8の数を測定した。評価は、比較例1を100として指数評価を行い、数値が大きいほど残っているスタッドピン8の数が多く良好なことを意味する。
【0039】
【0040】
表1の比較例1~4によれば、スタッドピン8の底におけるキャップゴム30とベースゴム31のゴム厚みの合計値(D1+D2)が小さくなるほど、ドライ操縦安定性能が向上する傾向があり、逆にピン抜け性能が悪化する傾向があることがわかる。特に、比較例6のように、
図8に示すキャップゴム30のゴム厚みD1が0mmとなる構成では、ピン抜け性能の悪化が顕著になることがわかる。
【0041】
比較例7のようにベースゴム31の-5℃におけるゴム硬度を70度以上にすれば、比較例6に比べて、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能の双方が向上することがわかる。しかし、ベースゴム31を高硬度にしてピン抜け性能を向上させても、キャップゴム30のゴム厚みD1が0mmとなることによるピン抜け性能の悪化をカバーできず、比較例1のピン抜け性能を確保できないことがわかる。
【0042】
比較例4と5を比べると、キャップゴム30のゴム硬度を高硬度にすることで、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能が向上することがわかる。比較例7と8を比較しても、同様に、キャップゴム30のゴム硬度を高硬度にすることで、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能が向上することがわかる。しかし、キャップゴム30の厚みD1が0mmとなる
図8に示す構成においては、キャップゴム30及びベースゴム31の双方のゴム硬度を高くして、ピン抜け性能の向上を目指しても、比較例1のピン抜け性能に至らないことがわかる。
よって、スタッドピン8の底におけるゴム厚みの合計値(D1+D2)は、薄すぎず厚すぎない厚みにすることで、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能のバランスを取ることが可能とわかる。
【0043】
比較例1及び実施例1~6によれば、スタッドピン8の底におけるキャップゴム30の厚みD1が1.0mm以上あり、且つスタッドピン8の底におけるベースゴム31の厚みD2が1.0mm以上あれば、スタッドピン8の底のゴム厚み(D1+D2)が4.0mmである比較例1の高いピン抜け性能と同じ性能を確保できることがわかる。さらに、スタッドピン8の底におけるキャップゴム30のゴム厚みD1が1.5mm以上あれば、比較例1よりもピン抜け性能を向上可能となることがわかる。
【0044】
実施例1,3~6によれば、上記ゴム厚みの合計値(D1+D2)が大きくなるほど、ドライ操縦安定性能が悪化することがわかる。実施例6は比較例1よりもドライ操縦安定性能が向上しており、実施例6のゴム厚みの合計値(D1+D2)よりも大きな例がないが、ゴム厚みの合計値が大きくなりすぎると、ドライ操縦安定性能の悪化が問題となる場合が想定される。よって、上記ゴム厚みの合計値(D1+D2)は、2.0mm以上且つ4.0mm以下であることが好ましい。さらには、2.0mm以上且つ3.5mm以下であることが好ましい。
【0045】
実施例1,2,7,8によれば、キャップゴム30の23℃におけるゴム硬度を50度以上、キャップゴム30の-5℃におけるゴム硬度を60度以上にすることで、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能の双方を向上可能であることがわかる。
【0046】
<変形例>
(A)前記第1実施形態では、ショルダー領域Shのベルト補強層7の層数とセンター領域Ceのベルト補強層7の層数が異なっているが、これに限定されない。
図7は、変形例の空気入りタイヤのタイヤ子午線を通る断面図である。
図7に示すように、1枚のベルト補強層7がベルト6の全体を覆っており、ショルダー領域Sh及びセンター領域Ceにおけるベルト補強層7の層数は同数(1層)である、としてもよい。
【0047】
[1]
第1実施形態の空気入りタイヤのように、接地面34を形成すると共にスタッドピン8を打つためのピンホール37を形成するキャップゴム30と、キャップゴム30のタイヤ径方向内側RD2に配置されるベースゴム31と、を備え、キャップゴム30は、ピンホール37の底面を形成し、ピンホール37のタイヤ径方向内側RD2におけるベースゴム31の厚みD2は1.0mm以上であり、ピンホール37のタイヤ径方向内側RD2におけるキャップゴム30のゴム厚みD1は1.0mm以上であり、ベースゴム31の-5℃におけるゴム硬度が70度以上である、としてもよい。
【0048】
この構成によれば、ピンホール37の底のゴム厚み(D1+D2)が4.0mmある比較例1の高いピン抜け性能を確保しつつ、高硬度にしたベースゴム31のゴム厚みD2の確保によりドライ操縦安定性能を向上可能となる。よって、ピン抜け性能を確保でき、ドライ操縦安定性能を向上可能となる。
【0049】
[2]
上記[1]に記載の空気入りタイヤにおいて、ピンホール37のタイヤ径方向内側RD2におけるキャップゴム30のゴム厚みD1は1.5mm以下である、としてもよい。
【0050】
この構成によれば、キャップゴム30のゴム厚みD1の確保によるピン抜け性能を向上させる効果が発揮されるので、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能の双方を向上可能となる。
【0051】
[3]
上記[1]又は「2」に記載の空気入りタイヤにおいて、キャップゴム30の23℃におけるゴム硬度が50度以上であり、キャップゴム30の-5℃におけるゴム硬度が60度以上である、としてもよい。
【0052】
この構成によれば、ドライ操縦安定性能及びピン抜け性能の双方を更に向上可能となる。
【0053】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0054】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。