(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080083
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240606BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20240606BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240606BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
G11B5/84 A
B24B37/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192974
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大井 信
【テーマコード(参考)】
3C158
5D112
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CA04
3C158CB02
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA18
3C158EA01
3C158EB01
3C158ED04
3C158ED10
3C158ED23
3C158ED26
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
5D112GA09
5D112GA14
(57)【要約】
【課題】一態様において、研磨速度の向上とスクラッチ低減とうねり低減とを達成できる研磨液組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、酸(成分B)、酸化剤(成分C)及び水を含み、成分Aは、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の、一辺が1cmの容器に1g、25℃の環境下における水蒸発速度が、11mg/h以下となるシリカ粒子である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子(成分A)、酸(成分B)、酸化剤(成分C)及び水を含み、
成分Aは、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の、一辺が1cmの容器に1g、25℃の環境下における水蒸発速度が、11mg/h以下となるシリカ粒子である、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項2】
成分Aは、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液を回転数25,000rpmで60分間遠心分離したとき、遠心分離前後の粒径変化率D50’/D50が0.85以上1.15未満となるシリカ粒子である、請求項1に記載の研磨液組成物。
ここで、D50は、動的光散乱法により測定される散乱強度分布において小径側からの累積体積頻度が50%となる、遠心分離前の粒子径を示し、
D50’は、動的光散乱法により測定される散乱強度分布において小径側からの累積体積頻度が50%となる、遠心分離後の粒子径を示す。
【請求項3】
pHが0.1以上6以下である、請求項1又は2に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
成分Aの平均一次粒子径が5nm以上40nm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項5】
成分Aはコロイダルシリカである、請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項6】
成分Aは、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子である、請求項1から5のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項7】
磁気ディスク基板は、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板である、請求項1から6のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項8】
シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の25℃の環境下における水蒸発速度が11mg/h以下となるように、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子を混合する混合工程を含む、研磨液組成物の製造方法。
【請求項9】
前記混合工程は、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液を回転数25,000rpmで60分間遠心分離したときの遠心分離前後の粒径変化率D50’/D50が0.85以上1.15未満となるように、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子を混合することを含む、請求項8に記載の研磨液組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法。
【請求項11】
請求項1から7のいずれかにに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する研磨工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気ディスク基板用研磨液組成物、並びにこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。高記録密度化するために、単位記録面積を縮小し、弱くなった磁気信号の検出感度を向上するため、磁気ヘッドの浮上高さをより低くするための技術開発が進められている。磁気ディスク基板には、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、表面粗さ、うねり、端面ダレ(ロールオフ)の低減に代表される平滑性・平坦性の向上とスクラッチ、突起、ピット等の低減に代表される欠陥低減に対する要求が厳しくなっている。
【0003】
このような要求に対して、例えば、特許文献1には、砥粒、添加剤、及び水溶性ポリマーを含む研磨用組成物であって、D50(前)に対するD50(後)の比率が2.0未満であり、ここで、ここで、D50(前)は、前記研磨用組成物を80℃で5日間放置する前に測定された前記研磨用組成物の粒子のD50の値であり、D50(後)は、前記研磨用組成物を80℃で5日間放置した後に測定された前記研磨用組成物の粒子のD50の値である、研磨用組成物が開示されている。
特許文献2には、水および該水に分散した砥粒を含む砥粒分散液と、前記砥粒分散液が密封状態で充填されている容器と、を備えた容器入り砥粒分散液であって、25℃と43℃との間で昇降温を5回繰り返す温度サイクル試験による前記容器内の空隙の増加体積Δ VAと前記砥粒分散液の体積VDとから式:空隙増加率(%)=(ΔVA/VD)×100;により算出される空隙増加率が0.5%以下である、容器入り砥粒分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/130749号
【特許文献2】特開2018-53147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、研磨速度の向上とともに、基板表面のスクラッチ及びうねりの低減が達成可能な研磨液組成物が求められている。一般的に、研磨速度とスクラッチとうねりとは互いにトレードオフの関係にあり、例えば、研磨速度を向上させると、研磨後の基板表面のスクラッチ及びうねりが悪化するという問題がある。
また、研磨中において、研磨機内や研磨液を供給するスラリータンク内でシリカスラリーが固化し、固化した粗大粒子が研磨液に混入することで、スクラッチが悪化するという問題も発生する。
【0006】
そこで、本開示は、研磨速度の向上とスクラッチ低減とうねり低減とを達成できる磁気ディスク基板用研磨液組成物、並びにこれを用いた基板の研磨方法及び磁気ディスク基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、酸(成分B)、酸化剤(成分C)及び水を含み、成分Aは、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の25℃の環境下における水蒸発速度が11mg/h以下となるシリカ粒子である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の25℃の環境下における水蒸発速度が11mg/h以下となるよう、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子を混合する混合工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する研磨工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度の向上とスクラッチ低減とうねり低減とを達成可能なシリカ分散液を製造できるという効果が奏されうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、シリカ濃度が5質量%であるシリカ水溶液の25℃環境下での水蒸発速度が所定値以下となるシリカ粒子を研磨砥粒として含む研磨液組成物を磁気ディスク基板の研磨に用いることで、研磨速度を向上でき、かつ、研磨後の基板表面のスクラッチ及びうねりを低減できるという知見に基づく。
【0013】
すなわち、本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、酸(成分B)、酸化剤(成分C)及び水を含み、成分Aは、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の、一辺が1cmの容器に1g、25℃の環境下における水蒸発速度が、11mg/h以下となるシリカ粒子である、磁気ディスク基板用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
【0014】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
一般的に、シリカ粒子は、強酸性下では等電点にも関らず、分散安定して存在している。それはシリカ表面に水分子を引き付け、それによる水和反発により分散安定するためである。水蒸発速度が11mg/hを超えるシリカ粒子では、単位体積当たりの水和している領域の密度が小さい。そのため、水和反発力が遠心分離等の強い外的エネルギーより小さくなり、シリカ粒子が凝集してしまう。しかし、水蒸発速度が11mg/h以下となるシリカ粒子では、単位体積当たりの水和密度が増加し、水和反発力が外的エネルギーよりも大きくなる。そのため、シリカ粒子の凝集が抑制され、研磨速度を向上しつつ、スクラッチ及びうねりを低減できると考えられる。
更に、単位体積当たりの水和密度の増加は、水分子1つに作用するシリカの拘束力の増加に繋がり、水分子をシリカ表層に留める作用が増加することで、水が蒸発する速度も抑制できると推定される。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
本開示において、基板の「うねり」とは、粗さよりも波長の長い基板表面の凹凸をいう。本開示において、例えば、60~160μmの波長により観測されるうねりを「短波長うねり」といい、例えば、500~5000μmの波長により観測されるうねりを「長波長うねり」という。研磨後の基板表面のうねり(短波長うねり、長波長うねり)が低減されることにより、磁気ディスクドライブにおいて磁気ヘッドの浮上高さを低くすることができ、磁気ディスクの記録密度の向上が可能となる。基板表面のうねり(短波長うねり、長波長うねり)は、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。本開示において、「うねりの低減」とは、短波長うねり及び長波長うねりの少なくとも一方が低減されることをいう。
本開示において、基板表面のスクラッチは、例えば、光学式欠陥検査装置により検出可能であり、スクラッチ数として定量評価できる。スクラッチ数は、具体的には実施例に記載した方法で評価できる。
【0016】
[シリカ粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物に含まれるシリカ粒子(以下、「成分A」ともいう)は、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の、一辺が1cmの容器に1g、25℃の環境下における水蒸発速度が、11mg/h以下となるシリカ粒子である。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
本開示において、「一辺が1cmの容器」とは、容器の内部の底面が、底辺の1辺が1cmの正四角形である容器をいう。前記容器の高さは、1~5cm又は2~4cm、好ましくは3cmのものを使用できる。
前記水蒸発速度は、研磨速度の向上とスクラッチ低減とうねり低減とを達成する観点から、11mg/h以下であって、10.6mg/h以下が好ましく、10.2mg/h以下がより好ましく、そして、基板及び研磨パッドへの研磨液組成物の濡れ広がりをよくする観点から、6.0mg/h以上が好ましく、7.0mg/h以上がより好ましい。本開示において、水蒸発速度は、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。簡単には、前記水蒸発速度は、1辺が1cmの容器に、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液1gを計り取り、25℃で所定時間(例えば、30時間)保管したときの、保管前後のシリカ水溶液の重量減少量から求めることができる。
上記範囲の水蒸発速度を満たす成分Aは、例えば、後述するように、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子を混合することにより得ることができる。
【0017】
成分Aとしては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、粉砕シリカ、それらを表面修飾したシリカ等が挙げられ、これらのなかでもコロイダルシリカが好ましい。
【0018】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度向上及びうねり低減の観点から、5nm以上が好ましく、7.5nm以上がより好ましく、10nm以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、40nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましい。より具体的には、成分Aの平均一次粒子径は、5nm以上40nm以下が好ましく、7.5nm以上35nm以下がより好ましく、10nm以上30nm以下が更に好ましい。シリカ粒子(成分A)の平均一次粒子径は、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。
【0019】
成分Aは、一又は複数の実施形態において、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子であること、すなわち、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子が混合した混合シリカが好ましい。平均一次粒子径が異なる3種類以上のシリカ粒子が混合した混合シリカでは、粒子密度が高くなりすぎて、遠心分離によりシリカ粒子が凝集しやすくなることから、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子が混合した混合シリカが好ましい場合がある。平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子である成分Aとしては、シリカ粒子凝集抑制の観点から、平均一次粒子径が25nm以上70nm以下であるシリカ粒子a(以下、単に「シリカ粒子a」ともいう)又は平均一次粒子径が10nm以上24nm以下であるシリカ粒子b(以下、単に「シリカ粒子b」ともいう)と、平均一次粒子径が1nm以上9nm以下であるシリカ粒子c(以下、単に「シリカ粒子c」ともいう)との組合せが挙げられる。シリカ粒子a、b、cはそれぞれ、1種でもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
シリカ粒子aの平均一次粒子径は、研磨速度向上及びうねり低減の観点から、25nm以上が好ましく、26nm以上がより好ましく、27nm以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、70nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましい。
シリカ粒子bの平均一次粒子径は、研磨速度向上及びうねり低減の観点から、10nm以上が好ましく、14nm以上がより好ましく、18nm以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、24nm以下が好ましく、23nm以下がより好ましく、22nm以下が更に好ましい。
シリカ粒子cの平均一次粒子径は、研磨速度向上とスクラッチ低減とうねり低減とを達成する観点から、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、3nm以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、9nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、7nm以下が更に好ましい。
【0020】
成分Aは、スクラッチ低減の観点から、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液を回転数25,000rpmで60分間遠心分離したとき、遠心分離前後の粒径変化率D50’/D50が0.85以上1.15未満となるシリカ粒子であることが好ましい。前記粒径変化率D50’/D50は、同様の観点から、0.85以上1.15未満が好ましく、0.9以上1.12以下がより好ましく、0.95以上1.09以下が更に好ましい。
ここで、D50は、動的光散乱法により測定される散乱強度分布において小径側からの累積体積頻度が50%となる、遠心分離前の粒子径を示し、D50’は、動的光散乱法により測定される散乱強度分布において小径側からの累積体積頻度が50%となる、遠心分離後の粒子径を示す。
本開示において、粒径変化率D50’/D50は、具体的には、実施例に記載の方法により求めることができる。
上記範囲の粒径変化率D50’/D50を満たす成分Aは、例えば、平均一次粒子径の異なる2種類のシリカ粒子を混合することにより得ることができる。
【0021】
成分Aは、スクラッチ低減の観点から、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液を回転数25,000rpmで60分間遠心分離したとき、遠心分離前後の粒径変化率D90’/D90が0.8以上1.25以下となるシリカ粒子であることが好ましい。前記粒径変化率D90’/D90は、同様の観点から、0.85以上1.20以下が好ましく、0.90以上1.15以下がより好ましく、0.95以上1.10以下が更に好ましい。
ここで、D90は、動的光散乱法により測定される散乱強度分布において小径側からの累積体積頻度が90%となる、遠心分離前の粒子径を示す。D90’は、動的光散乱法により測定される散乱強度分布において小径側からの累積体積頻度が90%となる、遠心分離後の粒子径を示す。
本開示において、粒径変化率D90’/D90は、具体的には、実施例に記載の方法により求めることができる。
上記範囲の粒径変化率D90’/D90を満たす成分Aは、例えば、平均一次粒子径の異なる2種類のシリカ粒子を混合することにより得ることができる。
【0022】
成分Aの空隙径は、シリカ粒子凝集抑制の観点から、10nm以上が好ましく、12nm以上がより好ましく、14nm以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上とうねり低減の観点から、22nm以下が好ましく、21nm以下がより好ましく、20nm以下が更に好ましい。本開示において、空隙径は、実施例に記載の方法により測定できる。
上記範囲の空隙径を満たす成分Aの空隙径は、例えば、平均一次粒子径の異なる2種類のシリカ粒子を混合することにより得ることができる。
【0023】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上の観点から、SiO2換算で、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、SiO2換算で、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、SiO2換算で、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、3質量%以上10質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上のシリカ粒子からなる場合、成分Aの含有量は、それらの合計含有量をいう。
【0024】
成分Aがシリカ粒子aとシリカ粒子cとの組合せ(混合シリカ)である場合、本開示の研磨液組成物中のシリカ粒子aの含有量とシリカ粒子cの含有量との質量比a/cは、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、90/10~20/80が好ましく、85/15~30/70がより好ましく、80/20~40/60が更に好ましい。
成分Aがシリカ粒子bとシリカ粒子cとの組合せ(混合シリカ)である場合、本開示の研磨液組成物中のシリカ粒子bの含有量とシリカ粒子cの含有量との質量比b/cは、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、90/10~40/60が好ましく、85/15~50/50がより好ましく、80/20~60/40が更に好ましい。
シリカ粒子aが2種以上の組合せの場合、シリカ粒子aの含有量はそれらの合計含有量をいう。シリカ粒子bが2種以上の組合せの場合、シリカ粒子bの含有量はそれらの合計含有量をいう。シリカ粒子cが2種以上の組合せの場合、シリカ粒子cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0025】
[酸(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、酸(成分B)を含有する。本開示において、酸の使用は、酸又はその塩の使用を含む。成分Bは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0026】
成分Bとしては、例えば、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸;有機リン酸、有機ホスホン酸、カルボン酸等の有機酸;等が挙げられる。中でも、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、無機酸及び有機ホスホン酸を含むことが好ましく、無機酸を含むことが好ましい。成分B中の無機酸の含有量は、同様の観点から、0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましく、0.8質量%以上が更に好ましい。
無機酸としては、同様の観点から、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、硫酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、リン酸が更に好ましい。
有機ホスホン酸としては、同様の観点から、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、HEDPがより好ましい。これらの酸の塩としては、例えば、上記の酸と、金属、アンモニア及びアルキルアミンから選ばれる少なくとも1種との塩が挙げられる。上記金属としては、例えば、周期表の1~11族に属する金属が挙げられる。これらの中でも、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、上記の酸と、1A族に属する金属又はアンモニアとの塩が好ましい。
【0027】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、0.01質量%以上3質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0028】
[酸化剤(成分C)]
本開示の研磨液組成物は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、酸化剤(以下、「成分C」ともいう)を含む。成分Cは、一又は複数の実施形態において、ハロゲン原子を含まない酸化剤である。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0029】
成分Cとしては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、例えば、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、研磨速度向上の観点、被研磨基板の表面に金属イオンが付着しない観点及び入手容易性の観点から、過酸化水素がより好ましい。
【0030】
本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、研磨速度向上の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、4質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、0.01質量%以上4質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せである場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0031】
[水]
本開示の研磨液組成物は、媒体として水を含有する。水としては、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。本開示の研磨液組成物中の水の含有量は、成分A、成分B、成分C及び後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0032】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物、脂環式アミン化合物、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、研磨速度向上剤、界面活性剤、水溶性高分子等が挙げられる。
【0033】
[研磨液組成物のpH]
本開示の研磨液組成物のpHは、スクラッチ低減の観点から、0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上の観点から、6以下が好ましく、4以下がより好ましく、2以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物のpHは、0.1以上6以下が好ましく、0.5以上4以下がより好ましく、1以上2以下が更に好ましい。pHは、上述した酸(成分B)や公知のpH調整剤等を用いて調整することができる。本開示において、上記pHは、25℃における研磨液組成物のpHであり、pHメータを用いて測定でき、例えば、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値とすることができる。
【0034】
[研磨液組成物の製造方法]
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A、成分B、成分C及び水と、さらに所望により、任意成分(その他の成分)とを公知の方法で配合することにより製造できる。例えば、本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、少なくとも成分A、成分B、成分C及び水を配合してなるものとすることができる。したがって、本開示は、一態様において、少なくとも成分A、成分B、成分C及び水を配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分C及び水、並びに必要に応じて任意成分(その他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。シリカ粒子(成分A)は、濃縮されたスラリーの状態で混合されてもよいし、水等で希釈してから混合されてもよい。成分Aが複数種類のシリカ粒子からなる場合、複数種類のシリカ粒子は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Bが複数種類の酸からなる場合、複数種類の酸は同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Cが複数種類の酸化剤からなる場合、複数種類の酸化剤は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0035】
本開示の研磨液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。
【0036】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における前記各成分の含有量をいう。
本開示の研磨液組成物中の各成分の含有量は、一又は複数の実施形態において、各成分の配合量とみなすことができる。
【0037】
本開示の研磨液組成物は、その保存安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造及び輸送コストを更に低くできる点で好ましい。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に、必要に応じて前述の水で適宜希釈して使用すればよい。希釈倍率は、希釈した後に上述した各成分の含有量(使用時)を確保できれば特に限定されるものではなく、例えば、10~100倍とすることができる。
【0038】
[研磨液組成物の製造方法]
本開示は、一態様において、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の、一辺が1cmの容器に1g、25℃の環境下における水蒸発速度が、11mg/h以下となるように、平均一次粒子径の2種類のシリカ粒子を混合する混合工程を含む、研磨液組成物の製造方法(以下、「本開示の研磨液組成物製造方法」ともいう)に関する。前記混合工程は、一又は複数の実施形態において、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の、一辺が1cmの容器に1g、25℃の環境下における水蒸発速度が、11mg/h以下となるシリカ粒子(成分A)を得る工程である。本開示の研磨液組成物製造方法によれば、研磨速度の向上とスクラッチ低減とうねり低減とを達成できる研磨液組成物を提供できる。
【0039】
前記混合工程は、うねり低減とスクラッチ低減の観点から、一又は複数の実施形態において、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液を回転数25,000rpmで60分間遠心分離したときの遠心分離前後の粒径変化率D50’/D50が0.85以上1.15未満となるように、平均一次粒子径の異なる2種類のシリカ粒子を混合することを含むことが好ましい。
【0040】
前記混合工程は、平均一次粒子径が25nm以上70nm以下であるシリカ粒子a又は平均一次粒子径が10nm以上24nm以下であるシリカ粒子bと、平均一次粒子径が1nm以上9nm以下であるシリカ粒子cとを混合することを含むことが好ましい。シリカ粒子a又はシリカ粒子bとシリカ粒子cとを混合することは、一又は複数の実施形態において、シリカ粒子a又はシリカ粒子bと、シリカ粒子cと、必要に応じて水、成分B、成分C及びその他の成分と、を混合することを含む。ここで、「混合する」とは、シリカ粒子a又はbとシリカ粒子cと必要に応じて水、成分B、成分C及びその他の成分を同時に又は任意の順で混合することを含む。シリカ粒子a、b及びcはそれぞれ1種であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0041】
前記混合工程において、混合するシリカ粒子aの配合量とシリカ粒子cの配合量との配合比率(a/c)は、研磨速度向上とうねり低減とを達成する観点から、90/10~20/80が好ましく、85/15~30/70がより好ましく、60/40が更に好ましい。
前記混合工程において、混合するシリカ粒子bの配合量とシリカ粒子cの配合量との配合比率(b/c)は、研磨速度向上とうねり低減とを達成する観点から、90/10~40/60が好ましく、85/15~50/50がより好ましく、80/20が更に好ましい。
配合比率が上記範囲を満たすようにシリカ粒子を混合することで、前記水蒸発速度、前記粒径変化率D50’/D50、前記粒径変化率D90’/D90、前記空隙径が上述した好ましい範囲を満たしやすくなる。
シリカ粒子aが2種以上の組合せである場合、シリカ粒子aの配合量はそれらの合計配合量である。シリカ粒子bが2種以上の組合せである場合、シリカ粒子bの配合量はそれらの合計配合量である。シリカ粒子cが2種以上の組合せである場合、シリカ粒子cの配合量はそれらの合計配合量である。
【0042】
[研磨液キット]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を調製するためのキットであって、成分A及び水を含有するシリカ分散液(第1液)と、成分B及び成分Cを含有する添加剤水溶液(第2液)とを、相互に混合されない状態で含む、キット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。
前記第1液と前記第2液とは、使用時に混合され、必要に応じて水を用いて希釈されてもよい。前記第1液に含まれる水は、研磨液組成物の調製に使用する水の全量でもよいし、一部でもよい。前記第2液には、研磨液組成物の調製に使用する水の一部が含まれていてもよい。前記第1液及び前記第2液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分(その他の成分)が含まれていてもよい。前記第1液と第2液との混合時に、上述した任意成分(その他の成分)をさらに混合してもよい。
本開示によれば、研磨速度の向上とスクラッチ低減とうねり低減とを達成可能な研磨液組成物を得ることができる。
【0043】
[被研磨基板]
被研磨基板は、一又は複数の実施形態において、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である。一又は複数の実施形態において、被研磨基板の表面を本開示の研磨液組成物を用いて研磨する工程の後、スパッタ等でその基板表面に磁性層を形成する工程を行うことにより磁気ディスク基板を製造できる。
【0044】
本開示において好適に使用される被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅等の金属及びこれらの金属を主成分とする合金を含有する被研磨基板に好適である。被研磨基板としては、例えば、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板や、結晶化ガラス、強化ガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス等のガラス基板がより適しており、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板が更に適している。本開示において「Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板」とは、アルミニウム合金基材の表面を研削後、無電解Ni-Pメッキ処理したものをいう。
【0045】
被研磨基板の形状としては、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状が挙げられる。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2~100mm程度であり、その厚みは例えば0.4~2mm程度である。
【0046】
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、粗研磨後の基板の研磨に好適に用いることができる。被研磨基板としては、粗研磨後の基板が挙げられる。粗研磨に用いる砥粒は、アルミナ、シリカ等が挙げられる。
【0047】
[基板の研磨方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法(以下、「本開示の研磨方法」ともいう)に関する。本開示の研磨方法を使用することにより、研磨後の基板表面のスクラッチ及びうねりが低減された、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できるという効果が奏されうる。本開示の研磨方法における前記被研磨基板としては、上述のとおり、磁気ディスク基板の製造に使用されるものが挙げられ、なかでも、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造に用いる基板が好ましい。研磨の方法及び条件は、後述する本開示の基板製造方法と同じ方法及び条件とすることができる。
【0048】
本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することは、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することであり、或いは、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨することである。
【0049】
[磁気ディスク基板の製造方法]
一般に、磁気ディスクは、研削工程を経た被研磨基板が、粗研磨工程、仕上げ研磨工程を経て研磨され、記録部形成工程にて磁気ディスク化されて製造される。本開示における研磨液組成物は、磁気ディスク基板の製造方法における、被研磨基板を研磨する研磨工程、好ましくは仕上げ研磨工程に使用されうる。すなわち、本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程(以下、「研磨工程」ともいう)を含む、磁気ディスク基板の製造方法(以下、「本開示の基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の基板製造方法は、とりわけ、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法に適している。
【0050】
本開示の基板製造方法における研磨工程は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程である。また、本開示の基板製造方法における研磨工程は、一又は複数の実施形態において、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する工程である。
【0051】
被研磨基板の研磨工程が多段階で行われる場合は、本開示の基板製造方法における研磨工程は2段階目以降に行われるのが好ましく、最終研磨工程又は仕上げ研磨工程で行われるのがより好ましい。その際、前工程の砥粒や研磨液組成物の混入を避けるために、それぞれ別の研磨機を使用してもよく、またそれぞれ別の研磨機を使用した場合では、研磨工程毎に被研磨基板を洗浄することが好ましい。さらに、使用した研磨液を再利用する循環研磨においても、本開示の研磨液組成物を使用できる。研磨機としては、特に限定されず、基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0052】
本開示で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、例えば、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができ、研磨速度向上の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
【0053】
本開示の基板製造方法の研磨工程における研磨荷重は、研磨速度向上の観点から、好ましくは5.9kPa以上、より好ましくは6.9kPa以上、更に好ましくは7.5kPa以上であり、そして、スクラッチ低減の観点から、20kPa以下が好ましく、より好ましくは18kPa以下、更に好ましくは16kPa以下である。本開示の基板製造方法において、研磨荷重とは、研磨時に被研磨基板の研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。また、研磨荷重の調整は、定盤及び被研磨基板のうち少なくとも一方に空気圧や重りを負荷することにより行うことができる。
【0054】
本開示の基板製造方法の研磨工程における本開示の研磨液組成物の供給速度は、スクラッチ低減の観点から、被研磨基板1cm2当たり、好ましくは0.05mL/分以上15mL/分以下であり、より好ましくは0.06mL/分以上10mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上1mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上0.5mL/分以下である。
【0055】
本開示の研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えばポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本開示の研磨液組成物となる。
【0056】
本開示の基板製造方法によれば、本開示における研磨液組成物を用いることで、研磨後の基板表面のスクラッチが低減された、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できるという効果が奏されうる。
【実施例0057】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0058】
1.シリカ粒子の調製(実施例1~6及び比較例1~3)
(実施例1~6)
表1に示す質量比になるよう表1に示すシリカ粒子から2種類(a+c又はa+b)を混合して実施例1~6のシリカ粒子を調製した。
シリカ粒子の調製において、シリカ粒子a、b及びcには以下のものを使用した。
シリカ粒子a:コロイダルシリカ水分散液(カタロイドSI-50W、40質量%、pH 9.1)、日揮触媒化成製
シリカ粒子b:コロイダルシリカ水分散液(カタロイドSI-40W、40質量%、pH 9.1)、日揮触媒化成製
シリカ粒子c:コロイダルシリカ水分散液(カタロイドSI-550W、20質量%、pH 10.6)、日揮触媒化成製
(比較例1~3)
比較例1、2、3のシリカ粒子には、それぞれ上記シリカ粒子a、b、cを用いた。
【0059】
2.研磨液組成物の調製
表1に示すシリカ粒子(成分A又は非成分A)、酸(成分B)、酸化剤(成分C)及び水を混合し、実施例1~6及び比較例1~3の研磨液組成物を調製した。各研磨液組成物中の各成分の含有量(有効量)は、シリカ粒子(成分A又は非成分A)が6質量%、酸(成分B)が1.6質量%、酸化剤(成分C)が1.0質量%である。水の含有量は、シリカ粒子(成分A又は非成分A)、酸(成分B)及び酸化剤(成分C)を除いた残余である。実施例1~6及び比較例1~3の研磨液組成物のpHは1.6であった。
研磨液組成物の調製に用いた成分B及び成分Cには以下のものを使用した。
(成分B)
リン酸[日本化学工業製75%リン酸]
(成分C)
過酸化水素水[ADEKA製 35%過酸化水素]
【0060】
3.各パラメータの測定
[シリカ粒子の平均一次粒子径の測定]
株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の電解放出型走査型電子顕微鏡(S-4800)を用いて、走査電圧10kV、倍率200Kにおける画像を無作為に10視野撮影を実施した。撮影対象物としては、カーボン膜が蒸着している銅グリットに親水化処理を実施し、各シリカ粒子の水分散液を0.1質量%になるように希釈した水溶液を数滴滴下した。その後、室温において一晩乾燥させ、サンプルを得た。
上記方法により、得られた画像データを三谷商事株式会社製の画像解析ソフト(WinROOF2013)を用いて母数として1000個以上の粒子に対して、粒子形状を数値化して円相当径を算出した。その値を元にD50の値を平均一次粒子径とした。
【0061】
[pHの測定]
研磨液組成物のpHは、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて25℃にて測定し、電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値を採用した。
【0062】
[空隙径の測定]
シリカ分散液を110℃の乾燥機で3日間静置し、大方の水分を揮発させる。その後、得られたシリカの粉体をメノウ乳鉢を用いて粉砕を実施した。粉砕したシリカ粉体を細孔分析装置(ASAP-2020)を用いて300℃、90分間仮焼成を実施することで完全に水分を蒸発させた後に、窒素ガスを用いた物理吸着を利用し、細孔分布を算出した。吸着等温過程においては下記の式が成立する。
Ln(p/p0)=-2VLγcosθ/rRT
VLは毛管凝縮によって液化したガス分子のモル体積、γは表面張力、θは接触角、rは細孔の半径をそれぞれ示す。上記式を元にある相対圧力p/p0における細孔体積と細孔半径rをガス吸着量から解析する。空隙径は最大細孔体積を与えている際の数値を示し、総空隙体積は得られたスペクトルを積分した値から算出した。
【0063】
[25℃環境下における水蒸発速度の測定]
25℃環境下における水蒸発速度は下記のようにして算出した。
(1)5質量%のシリカ水溶液を調整する。
(2)底辺の1辺が1cmの正四角形、高さが3cmのプラスチック製の容器に、上記(1)で調整したシリカ水溶液を精密電子天秤を用いて、1.00gとなるように精密に秤量する。事前に各プラスチック容器の重さも精密に秤量しておく。
(3)25℃の恒温槽に上記(2)で秤量した各シリカ水溶液を入れる。このときの恒温槽内の湿度は35~40%に調整しておく。なお、実験時の湿度は38%であった。
(4)30時間後に恒温槽から各サンプルを取り出し、上記(2)と同様の精密電子天秤を用いて精密に秤量する。
(5)30時間後の重量と事前に測定したプラスチック容器、プラスチック容器に入れたシリカ水溶液の重量から、シリカ水溶液の重量減少量を算出する。
(6)単位時間当たりのシリカ水溶液の重量減少量を水蒸発速度(mg/h)として算出する。
【0064】
[DLS測定によるシリカ粒子の粒子径D50、D90の測定方法]
シリカ粒子をイオン交換水と混合して5質量%シリカ粒子分散液を調製した。なお、実施例1~6では、シリカ粒子a又はシリカ粒子bとシリカ粒子cとの質量比が表1に示すように質量比となるように配合した。調製した5質量%シリカ粒子分散液を、イオン交換水で0.5質量%まで希釈した後に、下記測定装置内に投入し、下記条件で測定した。得られた粒度分布において、小径側からの累積体積頻度が50%、90%となる粒子径をそれぞれD50、D90とした。
<測定条件>
測定機器:マルバーン ゼータサイザー ナノ「Nano S」
サンプル量:1.5mL
レーザー : He-Ne、3.0mW、633nm
散乱光検出角:173°
【0065】
[D50’/D50、D90’/D90の測定]
(1)5質量%シリカ水溶液を調製する。
(2)遠沈管に上記(1)で調製したシリカ水溶液を入れ、超遠心分離機を用いて回転数25000rpmで60分間の遠心処理を実施する。
(3)遠心後のシリカ水溶液を超音波により30分間、分散処理を実施する。
(4)分散したシリカ水溶液を10倍に希釈し、上記DLS測定を実施する。
(5)上記DLS測定により得られる粒子径D50の値に対して、超遠心分離処理を実施の有無で比較し、超遠心分離処理を実施していない方をD50、超遠心分離処理を実施した方をD50’として、粒径変化率D50’/D50を算出した。
さらに、上記DLS測定により得られる粒子径D90と、超遠心分離処理を実施したときの粒子径D90’とから、粒径変化率D90’/D90を算出した。
【0066】
4.研磨方法
実施例1~6及び比較例1~3の研磨液組成物を用い、以下に示す研磨条件にて下記被研磨基板を研磨した。次いで、研磨速度、うねり及びスクラッチ数を後述する測定方法により測定し、結果を表1に示した。
【0067】
[被研磨基板]
被研磨基板として、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板を予めシリカ砥粒を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。この被研磨基板は、厚さが0.6-0.8mm、外径が95-100mm、内径が25mmであり、AFM(Digital Instrument NanoScope IIIa Multi Mode AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nmであった。
【0068】
[研磨条件]
研磨試験機:両面研磨機(スピードファム社製)
研磨パッド:Fujibo社製CF4303(スエードタイプ、発泡層:ポリウレタンエラストマー、厚さ0.69mm)
キャリア:アラミド厚み0.7nm(相模PCI製)
研磨液組成物供給量:100mL/分
下定盤回転数:31.4rpm
研磨荷重:140g/cm2
研磨時間:290秒
基板の枚数:10枚
研磨後、基板を両面研磨機より取り出し、自動洗浄機で基板表面の洗浄を実施。
【0069】
5.評価
[研磨速度の評価]
研磨前後の各基板1枚当たりの重さを計り(Sartorius社製、「BP-210S」)を用いて測定し、各基板の質量変化から質量減少量を求めた。全10枚の平均の質量減少量を研磨時間で割った値を研磨速度とし、下記式により算出した。実施例1~6及び比較例1~3の研磨速度の測定結果を、比較例1を100とした相対値として表1に示す。
質量減少量(mg)={研磨前の質量(mg)- 研磨後の質量(mg)}
研磨速度(mg/分)=質量減少量(mg)/ 研磨時間(分)
【0070】
[短波長うねり及び長波長うねりの評価]
研磨後の10枚の基板から任意に2枚の基板を選択し、選択した各基板の両面を任意の4点(計16点)について、下記の条件で測定した。その16点の測定値の平均値を基板の短波長うねり及び長波長うねりとして算出した。そして、比較例1を100とした相対値を算出し、結果を表1に示した。
<測定条件>
測定機:New View 7300(Zygo社製)
レンズ:2.5倍
ズーム:0.5倍
短波長領域:60~160μm
長波長領域:50~500μm
解析ソフト:Zygo Metro Pro(Zygo社製)
【0071】
[スクラッチの評価]
測定器:Candela OSA7100,6110(KLA Tencor社製)
測定レシピ:95T 基板回転速度:10000 rpm 測定モード:PSc, PScR
レーザー電圧:円周方向レーザー電圧650mV, 半径方向レーザー電圧600mV
評価:研磨試験機に投入した基板のうち、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10,000rpmにてレーザーを照射してスクラッチ数を測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのスクラッチ数を算出した。実施例1~6及び比較例1~3のスクラッチ数の測定結果を、比較例1を100とした相対値として表1に示す。
【0072】
【0073】
上記表1に示すとおり、25℃の環境下における水蒸発速度が11mg/h以下となるシリカ粒子を用いた実施例1~6の研磨液組成物は、25℃の環境下における水蒸発速度が11mg/hを超えるシリカ粒子を用いた比較例1~3の研磨液組成物に比べて、研磨速度が向上し、短波長うねり、長波長うねり及びスクラッチが低減していた。
成分Aは、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液を回転数25,000rpmで60分間遠心分離したとき、遠心分離前後の粒径変化率D50’/D50が0.85以上1.15未満となるシリカ粒子である、請求項1に記載の研磨液組成物。
ここで、D50は、動的光散乱法により測定される散乱強度分布において小径側からの累積体積頻度が50%となる、遠心分離前の粒子径を示し、
D50’は、動的光散乱法により測定される散乱強度分布において小径側からの累積体積頻度が50%となる、遠心分離後の粒子径を示す。
シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液の25℃の環境下における水蒸発速度が11mg/h以下となるように、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子を混合する混合工程を含む、研磨液組成物の製造方法。
前記混合工程は、シリカ粒子の含有量が5質量%であるシリカ水溶液を回転数25,000rpmで60分間遠心分離したときの遠心分離前後の粒径変化率D50’/D50が0.85以上1.15未満となるように、平均一次粒子径が異なる2種類のシリカ粒子を混合することを含む、請求項8に記載の研磨液組成物の製造方法。
請求項1から7のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法。