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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008009
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】半導体処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240112BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20240112BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H01L21/68 N
C30B29/06 504D
C30B33/02
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109484
(22)【出願日】2022-07-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】522273366
【氏名又は名称】日本WST合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100096105
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 広
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】和田 優一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 俊秋
【テーマコード(参考)】
4G077
5F131
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077FE11
4G077FK07
4G077FK08
5F131AA02
5F131BA22
5F131CA06
5F131EB43
5F131EB81
(57)【要約】
【課題】シリコン基板の加熱中に、シリコン基板と当該シリコン基板の支持体との間の接触に起因して生じるシリコン基板のシリコン結晶中の歪み(スリップ現象)を防止する。
【解決手段】ブロック(121)に形成された円柱形状の凹部(122)の内部に空気の渦流(124)を発生させる。シリコン基板(101)はこの渦流(124)によってブロック(121)の上方に浮上した状態に維持され、その間にシリコン基板(101)は加熱される。シリコン基板(101)は非接触の状態で加熱されるため、スリップ現象の発生を防止することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、
前記チャンバー内においてシリコン基板を加熱する加熱装置と、
前記チャンバー内において気体の渦流を発生させる少なくとも一つの渦流発生装置と、
を備える半導体処理装置であって、
前記渦流発生装置が発生させた前記渦流によって前記シリコン基板は浮上した状態に維持され、前記シリコン基板が浮上している間に、前記加熱装置が前記シリコン基板を加熱するものである半導体処理装置。
【請求項2】
チャンバーと、
前記チャンバー内においてシリコン基板を加熱する加熱装置と、
前記チャンバー内において気体の渦流を発生させる偶数個の渦流発生装置と、
を備える半導体処理装置であって、
前記偶数個の渦流発生装置の各々は水平面に対して上方に傾斜している気体通路を備えており、
偶数個の前記気体通路のうち任意の2個の気体通路は前記チャンバーの中心に対して対称に位置しており、
前記気体通路を介して前記気体が前記チャンバー内に送り込まれることにより前記チャンバー内に前記渦流が発生し、前記渦流によって前記シリコン基板を浮上させる力と前記シリコン基板の横方向の移動を規制する力とが発生し、前記シリコン基板が浮上している間に、前記加熱装置が前記シリコン基板を加熱するものである半導体処理装置。
【請求項3】
前記気体通路の傾斜角は30度以下であることを特徴とする請求項2に記載の半導体処理装置。
【請求項4】
前記気体通路の傾斜角は15度±3度の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の半導体処理装置。
【請求項5】
前記気体通路の傾斜角Θは次式(A)
arctanΘ=R1/R2 (A)
R1:シリコン基板の浮上量
R2:シリコン基板の横方向の変位量の許容最大値
に基づいて求められることを特徴とする請求項2に記載の半導体処理装置。
【請求項6】
複数個の前記渦流発生装置を備えており、
前記複数個の渦流発生装置は前記シリコン基板の外周に対応するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の半導体処理装置。
【請求項7】
複数個の前記渦流発生装置を備えており、
前記複数個の渦流発生装置のうちの一つの渦流発生装置は前記シリコン基板の中心に、他の渦流発生装置は前記シリコン基板の外周にそれぞれ対応するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の半導体処理装置。
【請求項8】
前記渦流発生装置は一方向及び反対方向に旋回する渦流の双方を発生させることができることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の半導体処理装置。
【請求項9】
前記渦流発生装置が発生させる渦流の向き及び強度の少なくとも何れか一方を制御する制御装置を備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の半導体処理装置。
【請求項10】
チャンバー内において少なくとも一つの気体の渦流を発生させる第一の過程と、
前記渦流の上方にシリコン基板を浮上させる第二の過程と、
前記シリコン基板が浮上している間に、前記チャンバー内において前記シリコン基板を加熱する第三の過程と、
を備える半導体処理方法。
【請求項11】
前記第一の過程は偶数個の気体の渦流を発生させる第四の過程を備えており、
前記第四の過程は、
水平面から上方に傾斜した方向に加圧気体を通過させる過程を備えており、
前記偶数個の気体の渦流のうちいずれか2個の渦流は前記チャンバーの中心に対して対称になるように発生させることを特徴とする請求項10に記載の半導体処理方法。
【請求項12】
前記傾斜した方向の傾斜角は30度以下であることを特徴とする請求項11に記載の半導体処理方法。
【請求項13】
前記傾斜した方向の傾斜角は15度±3度の範囲内にあることを特徴とする請求項11に記載の半導体処理方法。
【請求項14】
前記水平面から上方に傾斜した方向の傾斜角Θは次式(A)
arctanΘ=R1/R2 (A)
R1:シリコン基板の浮上量
R2:シリコン基板の横方向の変位量の許容最大値
に基づいて求められることを特徴とする請求項11に記載の半導体処理方法。
【請求項15】
前記第一の過程は複数個の気体の渦流を発生させるものであり、
前記複数個の気体の渦流は前記シリコン基板の外周に位置的に対応するように形成されることを特徴とする請求項10乃至14の何れか一項に記載の半導体処理方法。
【請求項16】
前記第一の過程は複数個の気体の渦流を発生させるものであり、
前記複数個の気体の渦流のうちの一つの渦流は前記シリコン基板の中心に、他の渦流は前記シリコン基板の外周にそれぞれ位置的に対応するように形成されることを特徴とする請求項10乃至14の何れか一項に記載の半導体処理方法。
【請求項17】
前記第一の過程は前記複数個の気体の渦流のうち少なくとも一つは他の渦流と回転方向が異なる渦流を発生させるものであることを特徴とする請求項15に記載の半導体処理方法。
【請求項18】
前記第三の過程において発生した渦流の向き及び強度の少なくとも何れか一方を制御する第五の過程を備えることを特徴とする請求項10乃至14の何れか一項に記載の半導体処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体処理装置及び半導体処理方法、特に、半導体基板を加熱処理する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程の一つの工程として、シリコン基板を摂氏1200度以下の高温環境下で加熱し、シリコン基板内の不純物の酸化拡散を実施する工程がある。
シリコン基板の加熱処理としては、一度に多数枚(25乃至200枚程度)を処理するバッチ熱処理と、少数枚(1乃至4枚程度)を処理する枚葉処理とがあり、枚葉処理においては、ハロゲンランプを用いてシリコン基板を急速に加熱する急速加熱処理装置(RTP:Rapid Thermal Processor)が一般的に使用される。
このような急速加熱処理装置の一例として特許文献1(特表2015ー536048号公報)に記載されたものがある。
図13は特許文献1に記載された急速加熱処理装置が配置されている急速加熱処理チャンバー10の縦断面図である。
シリコン基板12はポート13を通って熱処理チャンバー10の内部の処理区域18に導入されている。
【0003】
熱処理チャンバー10の内部には環状の支持リング14が配置されており、シリコン基板12は支持リング14上に載置されている。具体的には、支持リング14には熱処理チャンバー10の内側に向かって延びるエッジリップ15が形成されており、シリコン基板12はエッジリップ15上に載置されている。
シリコン基板12の上方には、アレイ状に配置された複数個のハロゲンランプ26からなる放射加熱装置24が配置されている。
シリコン基板12の下方には、シリコン基板12と平行にリフレクター28が配置されている。リフレクター28はシリコン基板12より大きなサイズを有しており、シリコン基板12から放出された熱放射をシリコン基板12に向かって反射させる機能を有している。
【0004】
シリコン基板12の下方には複数個のパイロメーター40が配置されている。各パイロメーター40は複数個のライトパイプ42の各々を介してリフレクター28に接続されている。各パイロメーター40は処理区域18の内部の温度を計測し、その計測結果に応じて、シリコン基板12の温度が均一になるように各ハロゲンランプ26の電圧が制御される。
支持リング14は回転可能なフランジ32上に支持されており、フランジ32は中心線34の回りに回転し、ひいては、支持リング14上に載置されたシリコン基板12も中心線34の回りに回転する。
図14は支持リング14の一例を示す縦断面図である。
図14に示すように、支持リング14から熱処理チャンバー10の内側に向かって延びるエッジリップ15上には直方体形状の支持体35が設けられている。図15に示すように、3個の支持体35がエッジリップ15上に等円周角に配置されており、シリコン基板12はこれら3個の支持体35上に載置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015ー536048号公報(特許第6258334号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、図13乃至図15に示した従来の急速加熱処理装置においては、シリコン基板12は支持体35上に載置されている。
一般的に、シリコン基板12の熱膨張率と支持体35の熱膨張率とは相互に等しいということはなく、相互に異なる。このため、急速加熱処理装置においてシリコン基板12を急速に加熱すると、シリコン基板12の熱膨張と支持体35の熱膨張との間の差、さらには、双方の間の接触摩擦が原因となり、シリコン基板12のシリコン結晶中に歪みが発生し(これは「スリップ現象」と呼ばれる)、シリコン基板12のシリコン結晶中に欠陥が生じることとなる。
接触摩擦及び熱膨張差は物理的な現象であり、シリコン基板12及び支持体35の形状や表面粗さを変更しても解消することは不可能である。
本発明は以上のような従来の急速加熱処理装置における問題点に鑑みてなされたものであり、スリップ現象の発生を回避することが可能な半導体処理装置及び半導体処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明は、チャンバーと、前記チャンバー内においてシリコン基板を加熱する加熱装置と、前記チャンバー内において気体の渦流を発生させる少なくとも一つの渦流発生装置と、を備える半導体処理装置であって、前記渦流発生装置が発生させた前記渦流によって前記シリコン基板は浮上した状態に維持され、前記シリコン基板が浮上している間に、前記加熱装置が前記シリコン基板を加熱するものである半導体処理装置を提供する。
【0008】
本発明は、さらに、チャンバーと、前記チャンバー内においてシリコン基板を加熱する加熱装置と、前記チャンバー内において気体の渦流を発生させる偶数個の渦流発生装置と、を備える半導体処理装置であって、前記偶数個の渦流発生装置の各々は水平面に対して上方に傾斜している気体通路を備えており、偶数個の前記気体通路のうち任意の2個の気体通路は前記チャンバーの中心に対して対称に位置しており、前記気体通路を介して前記気体が前記チャンバー内に送り込まれることにより前記チャンバー内に前記渦流が発生し、前記渦流によって前記シリコン基板を浮上させる力と前記シリコン基板の横方向の移動を規制する力とが発生し、前記シリコン基板が浮上している間に、前記加熱装置が前記シリコン基板を加熱するものである半導体処理装置を提供する。
【0009】
前記気体通路の傾斜角は30度以下であることが好ましい。
前記気体通路の傾斜角は15度±3度の範囲内にあることが好ましい。
前記気体通路の傾斜角Θは次式(A)
arctanΘ=R1/R2 (A)
R1:シリコン基板の浮上量
R2:シリコン基板の横方向の変位量の許容最大値
に基づいて求められることが好ましい。
本発明に係る半導体処理装置は複数個の前記渦流発生装置を備えており、前記複数個の渦流発生装置は前記シリコン基板の外周に対応するように配置されていることが好ましい。
【0010】
本発明に係る半導体処理装置は複数個の前記渦流発生装置を備えており、前記複数個の渦流発生装置のうちの一つの渦流発生装置は前記シリコン基板の中心に、他の渦流発生装置は前記シリコン基板の外周にそれぞれ対応するように配置されていることが好ましい。
前記渦流発生装置は一方向及び反対方向に旋回する渦流の双方を発生させることができることが好ましい。
前記渦流発生装置が発生させる渦流の向き及び強度の少なくとも何れか一方を制御する制御装置を備えることが好ましい。
本発明は、さらに、チャンバー内において少なくとも一つの気体の渦流を発生させる第一の過程と、前記渦流の上方にシリコン基板を浮上させる第二の過程と、前記シリコン基板が浮上している間に、前記チャンバー内において前記シリコン基板を加熱する第三の過程と、を備える半導体処理方法を提供する。
【0011】
前記第一の過程は偶数個の気体の渦流を発生させる第四の過程を備えており、前記第四の過程は、水平面から上方に傾斜した方向に加圧気体を通過させる過程を備えており、前記偶数個の気体の渦流のうちいずれか2個の渦流は前記チャンバーの中心に対して対称になるように発生させることが好ましい。
前記傾斜した方向の傾斜角は30度以下であることが好ましい。
前記傾斜した方向の傾斜角は15度±3度の範囲内にあることが好ましい。
前記水平面から上方に傾斜した方向の傾斜角Θは次式(A)
arctanΘ=R1/R2 (A)
R1:シリコン基板の浮上量
R2:シリコン基板の横方向の変位量の許容最大値
に基づいて求められることが好ましい。
【0012】
前記第一の過程は複数個の気体の渦流を発生させるものであり、前記複数個の気体の渦流は前記シリコン基板の外周に位置的に対応するように形成されることが好ましい。
前記第一の過程は複数個の気体の渦流を発生させるものであり、前記複数個の気体の渦流のうちの一つの渦流は前記シリコン基板の中心に、他の渦流は前記シリコン基板の外周にそれぞれ位置的に対応するように形成されることが好ましい。
前記第一の過程は前記複数個の気体の渦流のうち少なくとも一つは他の渦流と回転方向が異なる渦流を発生させるものであることが好ましい。
前記第三の過程において発生した渦流の向き及び強度の少なくとも何れか一方を制御する第五の過程を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
従来の急速加熱処理装置においては、シリコン基板12は支持体35上に支持された状態で加熱されていたため、シリコン基板12と支持体35との間の熱膨張の差、さらには、双方の間の接触摩擦が原因となり、スリップ現象が発生していた。
これに対して、本発明に係る半導体処理装置及び半導体処理方法によれば、シリコン基板は気体(例えば、空気)のみを用いてチャンバー内において浮上した状態で維持される。すなわち、シリコン基板をいかなる支持部材(従来の急速加熱処理装置における支持体35のような支持部材)とも非接触の状態において、シリコン基板を加熱することが可能である。従って、従来の急速加熱処理装置では回避することが不可能であったスリップ現象の発生を回避することが可能である。
【0014】
さらに、渦流を発生させることによって、渦の回転方向にシリコン基板を回転させることが可能である。このため、シリコン基板を回転させるための機械的な構造(従来の急速加熱処理装置における回転可能なフランジ32のような機械的構造)は不要である。
さらに、渦流発生装置によって発生する渦流の向き及び渦流発生装置に供給する加圧気体の量を制御することによって、シリコン基板の回転方向及び回転速度を制御することが可能である。
また、偶数個の渦流発生装置の各々に水平面に対して上方に傾斜している気体通路を設け、任意の2個の気体通路がチャンバーの中心に対して対称に位置するように配置することにより、発生した渦流はシリコン基板を浮上させる浮力のみならず、シリコン基板の横方向(水平面内)の移動を規制する力をも発生させる。このため、シリコン基板がチャンバーから離れる方向に飛び去ることを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一の実施形態に係る半導体処理装置の概略的な縦断面図である。
図2図1のA-A線における断面図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係る半導体処理装置によってシリコン基板を加熱処理する工程を示すブロック図である。
図4】本発明の第二の実施形態に係る半導体処理装置の部分的な平面図である。
図5】本発明の第二の実施形態における第一浮上装置の平面図である。
図6】本発明の第二の実施形態に係る半導体処理装置によってシリコン基板を加熱処理する工程を示すブロック図である。
図7】本発明の第三の実施形態に係る半導体処理装置の概略的な縦断面図である。
図8図7のB-B線における断面図である。
【0016】
図9】第三気体通路の傾斜角とシリコン基板の横方向(水平面内)の移動を規制する力との間の相関関係を示す概略的なグラフである。
図10図10(A)、図10(B)及び図10(C)は第三気体通路の傾斜角と渦流により発生する力との相関関係を示す模式図である。
図11】ブロックに形成された第三気体通路の一例を示す図であり、図11(A)は第三気体通路を上方から見たときの平面図、図11(B)は第三気体通路を水平方向から見たときの正面図である。
図12図11に示した第三気体通路の斜視図である。
図13】従来の急速加熱処理装置が配置されている急速加熱処理チャンバーの縦断面図である。
図14】従来の急速加熱処理装置における支持リングの一例を示す縦断面図である。
図15】支持リングの配置例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一の実施形態)
図1は本発明の第一の実施形態に係る半導体処理装置100の概略的な縦断面図である。
本実施形態に係る半導体処理装置100は、チャンバー(図示せず)と、チャンバー内においてシリコン基板101を加熱する加熱装置110と、シリコン基板を浮上させる浮上装置120と、を備えている。
本実施形態に係る半導体処理装置100は浮上装置120を備える点において図13乃至図15に示した従来の急速加熱処理装置と構造的に相違しており、この点以外の構造は基本的に従来の急速加熱処理装置と同一である。
図2は浮上装置120の横断面図、具体的には、図1のA-A線における断面図である。
浮上装置120は円柱形状のブロック121を備えており、ブロック121にはブロック121と同心に円柱状の凹部122が形成されている。凹部122の深さはブロック121の高さより小さい。
【0018】
図1に示すように、ブロック121の外径はシリコン基板101の外径と等しいか、あるいは、シリコン基板101の外径より大きく設定されている。凹部122の直径はシリコン基板101の外径より小さく設定されている。
ブロック121の内部には水平方向に延びる直線状の気体通路123が形成されており、気体通路123はその一端(図1の左端)においてブロック121の外部に連通し、その他端(図1の右端)において凹部122の底面に連通している。図2に示すように、気体通路123は凹部122の接線に沿って直線状に延びている。
凹部122の内部にはブロック121の外部に配置されている加圧気体発生装置(図1には図示せず、後述する図4を参照)から気体通路123を介して加圧気体が送られる。図2に示すように、凹部122の内部に送られた加圧気体は凹部122の内壁に沿って旋回し、最終的に凹部122の内部に渦流124を発生させる。
【0019】
図3は半導体処理装置100によってシリコン基板101を加熱処理する工程を示すブロック図である。
最初に、ブロック121の外部から凹部122の内部に気体通路123を介して加圧気体を送り込む(ステップS301)。
凹部122の内部に送り込まれた加圧気体は凹部122の内壁に沿って旋回し、凹部122の内部に渦流124を発生させる(ステップS302)。
次いで、渦流124の上方にシリコン基板101を送り込む。あるいは、最初にシリコン基板101をブロック121上に載置しておき、その後に、凹部122の内部に渦流124を発生させる。
凹部122の内部に発生した渦流124によって、凹部122の中心部には陰圧が発生し、凹部122の外周部には陽圧が発生している。ブロック121の上方に位置しているシリコン基板101は、この陽圧の作用によって、ブロック121の上方において浮上する(ステップS303)。浮上量は、例えば、100乃至200ミクロンである。
【0020】
凹部122の内部に加圧気体を送り続けることにより、凹部122の内部には渦流124が持続的に発生し、従って、シリコン基板101を浮上させている状態を維持することができる。
また、渦流124は渦の回転方向にシリコン基板101を回転させる力を生成する。このため、シリコン基板101は渦流124が旋回する方向(図2においては、反時計回り)に回転する。
シリコン基板101が浮上している間に、加熱装置110によって、シリコン基板101は加熱される(ステップS304)。
シリコン基板101の加熱が終了したときには、凹部122の内部への加圧気体の供給が停止される(ステップS305)。
これにより、凹部122の内部の渦流124は消失し、シリコン基板101はブロック121上に降下する。この後、シリコン基板101がチャンバーから取り出される。
【0021】
従来の急速加熱処理装置においては、シリコン基板12は支持体35上に支持された状態で加熱されていたため、シリコン基板12と支持体35との間の熱膨張の差、さらには、双方の間の接触摩擦が原因となり、スリップ現象が発生していた。
これに対して、本実施形態に係る半導体処理装置100によれば、シリコン基板101は気体(例えば、空気)のみを用いてチャンバー内において浮上した状態で維持される。このため、シリコン基板101をいかなる支持部材(従来の急速加熱処理装置における支持体35のような支持部材)とも接触させることなく、すなわち、他の物と非接触の状態において、シリコン基板101を加熱することが可能である。従って、従来の急速加熱処理装置では回避することが不可能であったスリップ現象の発生を回避することが可能である。
さらに、渦流124を発生させることによって、渦の回転方向にシリコン基板101を回転させることが可能である。このため、シリコン基板101を回転させるための機械的な構造(従来の急速加熱処理装置における回転可能なフランジ32のような機械的構造)はもはや不要である。
【0022】
(第二の実施形態)
図4は、本発明の第二の実施形態に係る半導体処理装置200の部分的な平面図である。具体的には、シリコン基板101の上方から見たときの平面図である。
本実施形態に係る半導体処理装置200は4個の第一乃至第四浮上装置130A,130B,130C,130Dを備えている。4個の第一乃至第四浮上装置130A-130Dの各々の構造は第一の実施形態における浮上装置120と同一であるが、大きさ(具体的には、ブロック121の外径)が異なる。4個の第一乃至第四浮上装置130A-130Dの各々は第一の実施形態における浮上装置120よりも小さく設定されている。
4個の第一乃至第四浮上装置130A-130Dの各々はシリコン基板101の外径より小さい直径の円の円周上に等間隔に(90度の円周角で)配置されている。
【0023】
図5は第一浮上装置130Aを上方から見たときの平面図である。他の第二乃至第四浮上装置130B-130Dの構造は第一浮上装置130Aと同一である。
図5に示すように、第一浮上装置130Aは、第一の実施形態における浮上装置120と同様に、ブロック121、凹部122及び気体通路123にそれぞれ対応するブロック131,凹部132及び気体通路133を備えている。
第一浮上装置130Aは、さらに、気体通路133と平行に水平方向に延びる直線状の第二気体通路134を備えている。
第二気体通路134は、気体通路133と同様に、その一端(図5の下端)においてブロック131の外部に連通し、その他端(図5の上端)において凹部132の底面に連通している。第二気体通路134はブロック131の中心を通る水平線131Aに関して気体通路133とは反対側に位置し、気体通路133と平行に延びている。すなわち、第二気体通路134は、水平線131Aに関して、気体通路133と左右対称に位置している。
【0024】
気体通路133から凹部132の内部に加圧気体が送られると、反時計回りの渦流135Aが生成され、第二気体通路134から凹部132の内部に加圧気体が送られると、時計回りの渦流135Bが生成される。
図4に示すように、4個の第一乃至第四浮上装置130A-130Dの各々の気体通路133及び第二気体通路134はそれぞれ加圧気体発生装置140に接続されている。加圧気体発生装置140は制御装置150に接続され、制御装置150には入力装置160が接続されている。
半導体処理装置200のユーザーが入力装置160を介して制御装置150に動作指示を送ると、制御装置150はその動作指示に従って加圧気体発生装置140の動作を制御する。具体的には、4個の第一乃至第四浮上装置130A-130Dの何れに加圧気体を送るか(すなわち、第一乃至第四浮上装置130A-130Dの何れに渦流を生成させるか)、気体通路133と第二気体通路134の何れに加圧気体を送るか(すなわち、反時計回りの渦流135Aと時計回りの渦流135Bの何れを生成させるか)、加圧気体の流量をどのようにするか、は全て制御装置150によって決定される。
【0025】
図6は半導体処理装置200によってシリコン基板101を加熱処理する工程を示すブロック図である。
最初に、シリコン基板101を回転(自転)させるか否かの決定が行われる(ステップS401)。
シリコン基板101を回転させないときには(ステップS401のNO)、以下の制御が実施される。
前述のように、渦流は渦の回転方向にシリコン基板101を回転させる力を生成する。シリコン基板101を回転させる必要がないときには、4個の浮上装置130A-130Dのうちの2個の浮上装置(例えば、130A及び130C)には気体通路133を介して凹部132に加圧気体を送り込むことにより、反時計回りの渦流135Aを発生させ、他の2個の浮上装置(例えば、130B及び130D)には第二気体通路134を介して凹部132に加圧気体を送り込むことにより、時計回りの渦流135Bを発生させる。これにより、渦流135Aによる反時計回りの回転力と渦流135Bによる時計回りの回転力とが相殺され、シリコン基板101は回転しない(ステップS402)。
【0026】
シリコン基板101を回転させるときには(ステップS401のYES)、以下の制御が実施される。
この場合には、一方向(例えば、時計回りの方向)に回転力を生成する渦流を発生させる浮上装置の数を反対方向(例えば、反時計回りの方向)に回転力を生成する渦流を発生させる浮上装置の数より多くする。
例えば、制御装置150は、4個の第一乃至第四浮上装置130A-130Dのうちの3個または4個の浮上装置において、第二気体通路134を介して凹部132に加圧気体を送り込み、時計回りの方向に旋回する渦流135Bを発生させる(ステップS403)。これにより、シリコン基板101を時計回りの方向に自転させることが可能である。
シリコン基板101を反時計回りの方向に回転させる場合には、制御装置150は、第二気体通路134に代えて気体通路133を介して凹部132に加圧気体を送り込み、反時計回りの方向に旋回する渦流135Aを発生させる(ステップS403)。これにより、シリコン基板101は反時計回りの方向に自転する。
【0027】
あるいは、加圧気体の流量を制御することによっても、シリコン基板101を時計回り及び反時計回りの何れかの方向に回転させることができる。
一方向(例えば、時計回りの方向)に回転力を生成する渦流を発生させる浮上装置の数と反対方向(例えば、反時計回りの方向)に回転力を生成する渦流を発生させる浮上装置の数とを同じに設定している場合には、一方における浮上装置に流す加圧気体の流量を他方における浮上装置に流す加圧気体の流量より大きく設定する。
例えば、反時計回りの方向に旋回する渦流135Aを発生させる浮上装置に供給する加圧気体の流量を1、時計回りの方向に旋回する渦流135Bを発生させる浮上装置に供給する加圧気体の流量を2とすれば、シリコン基板101を時計回りの方向に自転させることができる。
【0028】
このような加圧気体の流量の制御は制御装置150によって実行される。
シリコン基板101の回転方向が決まると(ステップS401)、次には、シリコン基板101の回転速度の増減が決められる(ステップS404)。
シリコン基板101の回転速度を上げるか、あるいは、下げるかは4個の浮上装置130A-130Dの各ブロック131内の渦流の強度を調整することにより制御される。シリコン基板101の回転速度を上げる場合には、各ブロック131に送られる加圧気体の流量を増大させることにより、渦流の強度を上げる制御が実施され、シリコン基板101の回転速度を下げる場合には、各ブロック131に送られる加圧気体の流量を減少させることにより、渦流の強度を下げる制御が実施される。
例えば、第一乃至第三浮上装置130A―130Cには第二気体通路134を介して加圧気体を送り込み、時計回りの渦流135Bを発生させ、第四浮上装置130Dには気体通路133を介して加圧気体を送り込み、反時計回りの渦流135Aを発生させ、最終的には、シリコン基板101を時計回りの方向に回転させる場合を想定する。
【0029】
シリコン基板101の回転速度を変更する必要がない場合には(ステップS404のNO)、各浮上装置に送られる加圧気体の流量はそのままの値に維持される(ステップS405)。
これに対して、シリコン基板101の回転速度を上げる場合には(ステップS404のYES)、第一乃至第三浮上装置130A―130Cに送られる加圧気体の流量は増大される(ステップS406)。あるいは、シリコン基板101の回転速度を下げる場合には(ステップS404のYES)、第一乃至第三浮上装置130A―130Cに送られる加圧気体の流量は減少される(ステップS406)。
このように、4個の浮上装置130A-130Dの各々に供給する加圧気体の量を調整することによって、シリコン基板101の回転方向及び回転速度を制御することができる。
【0030】
4個の浮上装置130A-130Dの各々の凹部132の内部に発生した渦流によって、シリコン基板101は4個の浮上装置130A-130Dの上方において浮上する(ステップS407)。
シリコン基板101が浮上している間に、加熱装置110によって、シリコン基板101は加熱される(ステップS408)。
シリコン基板101の加熱が終了したときには、各凹部132の内部への加圧気体の供給が停止される(ステップS409)。
これにより、各凹部132の内部の渦流は消失し、シリコン基板101は4個のブロック131上に降下する。この後、シリコン基板101がチャンバーから取り出される。
本実施形態に係る半導体処理装置200によれば、第一の実施形態に係る半導体処理装置100による効果に加えて、シリコン基板101の回転方向及び回転速度を制御することができるという効果を得ることができる。
【0031】
本実施形態に係る半導体処理装置200は上記の構造に限定されるものではなく、種々の改変が可能である。
本実施形態に係る半導体処理装置200は4個の浮上装置130A―130Dを備えるものとして構成されているが、浮上装置の個数は4には限定されない。2以上の任意の数を選定することが可能である。
また、複数個の浮上装置の配置のパターンも本実施形態におけるパターンには限定されない。
例えば、本実施形態においては、シリコン基板101の外周に対応する位置に4個の浮上装置130A―130Dが配置されているが、シリコン基板101の中心に対応する位置にもう1個の浮上装置を配置することも可能である。
本実施形態においては、4個の浮上装置130A―130Dは一つの円の円周上に配置されているが、例えば、その円の内側に位置するもう一つの円の円周上にさらに複数個(例えば、4個)の浮上装置を配置することも可能である。
あるいは、アレイ状に複数個の浮上装置を配置することも可能である。
本実施形態における第二気体通路134は第一の実施形態におけるブロック121に形成することも可能である。
【0032】
(第三の実施形態)
図7は本発明の第三の実施形態に係る半導体処理装置300の概略的な縦断面図、図8図7のB-B線における断面図である。
図7図1との比較からわかるように、本実施形態に係る半導体処理装置300のブロック121は第一の実施形態における気体通路123に代えて、第三気体通路310を備えている。この点を除いて、本実施形態に係る半導体処理装置300は第一の実施形態に係る半導体処理装置100と同一の構造を有している。
図8に示すように、第三気体通路310は6個の第三気体通路310A―310Fからなる。6個の第三気体通路310A―310Fはブロック121の中心121Aを中心とする円周上に均等に(すなわち、60度の円周角で)形成されている。すなわち、6個の第三気体通路310A―310Fのうちのいずれか2個の第三気体通路310はブロック121の中心121Aの回りに対称に位置している。具体的には、第三気体通路310Aと第三気体通路310D、第三気体通路310Bと第三気体通路310E,第三気体通路310Cと第三気体通路310Fはそれぞれブロック121の中心121Aに対して相互に対称に位置している。
【0033】
図7に示されているように、第三気体通路310(6個の第三気体通路310A―310Fの各々)は水平面に対して上方に傾斜しており、その傾斜角Θは30度以下に設定されている。
0<Θ≦30
上述のように、第一の実施形態に係る半導体処理装置100は浮上装置120を介してシリコン基板101に対して浮力を与えることが可能であるが、この浮力はシリコン基板101に対して鉛直方向(Z軸方向)にのみ作用する。すなわち、シリコン基板101には水平方向(XY平面内)には何らの力も作用していない。このため、シリコン基板101に何らかの外力が作用すると、例えば、時計回りの方向の回動と反時計回りの方向の回動との間のバランスが失われ、何れか一方の回転の力が強くなると、シリコン基板101はその方向に回転を始め、自身の回転力に起因してシリコン基板101はブロック121から離れる方向に飛び去るおそれがある。
【0034】
本実施形態に係る半導体処理装置300はこのような事態に対処するものである。
上述のように、6個の第三気体通路310A―310Fの各々は水平方向に対して傾斜している。図7に示すように、加圧気体が6個の第三気体通路310A―310Fの各々を通過し、凹部122の内部に進入すると、6個の第三気体通路310A―310Fの各々に対応して、6個の渦流124が発生する(図7においては、第三気体通路310Aに対応する渦流124Aのみを図示している)。
第一の実施形態における渦流124は水平方向に延びる気体通路123を通過して形成されたものであるため、シリコン基板101を浮上させる浮力を発生させることはできるが、シリコン基板101の横方向(水平面内)の移動を規制する力を発生させることはできない(この点は後述する)。
【0035】
これに対して、本実施形態における渦流124は傾斜した第三気体通路310A―310Fを通過して形成されたものであるため、Z軸方向(鉛直方向)の速度成分とXY軸方向(水平面内)の速度成分との双方を有している。このため、渦流124はシリコン基板101を浮上させる浮力のみならず、シリコン基板101の横方向(水平面内)の移動を規制する力をも発生させる。
すなわち、6個の渦流124はブロック121の径方向における力を発生させる。6個の第三気体通路310A―310Fをブロック121の径方向(水平方向)において対称に配置することにより、径方向の力を均衡させ、シリコン基板101の中心の位置を保持する力、すなわち、シリコン基板101の横方向(水平面内)の移動を規制する力を発生させることができる。
このように、本実施形態に係る半導体処理装置300によれば、シリコン基板101の横方向(水平面内)の移動を規制する力を発生させることにより、シリコン基板101がブロック121から離れる方向に飛び去ることを防止することが可能である。
【0036】
図9は第三気体通路310の傾斜角とシリコン基板101の横方向(水平面内)の移動を規制する力との間の相関関係を示す概略的なグラフである。
図9に示すように、シリコン基板101の横方向(水平面内)の移動を規制する力Fは第三気体通路310A―310Fの傾斜角を0度から大きくするほど大きくなり、15度付近でピークに達する。傾斜角をさらに大きくすると、力Fは低下する。傾斜角が30度を超えると、力Fはほぼ0になる。
このように、第三気体通路310の傾斜角は30度以下とすることが好ましく、15度とすることが最も好ましい。
さらに、シリコン基板101の横方向(水平面内)の移動を規制するために最低限必要な最小必要力をFaとすると、傾斜角が15度のときには最小必要力Faを超える力Fが発生し、さらに、傾斜角が12度から18度の範囲内にあるときでも最小必要力Faを発生させることができる。
このように、第三気体通路310A―310Fの傾斜角は15±3度(12乃至18度)が好ましく、15度が最適である。
次いで、第三気体通路310の傾斜角の一般化した決定方法を説明する。
【0037】
図10(A)、図10(B)及び図10(C)は第三気体通路310の傾斜角と渦流により発生する力との相関関係を示す模式図である。
図10(A)に示す第三気体通路310Lは傾斜角S1、図10(B)に示す第三気体通路310Mは傾斜角S2,図10(C)に示す第三気体通路310Nは傾斜角0度(第一の実施形態における気体通路123と同様)を有しており、傾斜角S1は傾斜角S2より小さい。
S1<S2
3個の第三気体通路310L、310M,310Nの高さ(鉛直方向における長さ)は同一である。
加圧気体が同一速度で3個の第三気体通路310L、310M,310Nを通過し、Y軸方向の速度成分Y1,Y2,Y3及びX軸方向の速度成分X1,X2,X3をそれぞれ有するものと想定する。
【0038】
第三気体通路310L、310Mの高さは等しいのでY1=Y2である。第三気体通路310NにはY軸方向の速度成分は発生しないので、Y3=0である。第三気体通路310Lの傾斜角S1は第三気体通路310Mの傾斜角S2より小さいので、第三気体通路310LのX軸方向の速度成分X1は第三気体通路310NのX軸方向の速度成分X2より大きい。
X1>X2
シリコン基板101の浮上量は各第三気体通路310L、310M,310Nを通過する加圧気体の気体流の高さ、すなわち、第三気体通路310L、310M,310Nの鉛直方向における高さに等しい。従って、3個の第三気体通路310L、310M,310Nを通過して発生する渦流によるシリコン基板101の浮上量は相互に等しい。
これに対して、シリコン基板101の横方向(水平面内)の変位量(移動量)は第三気体通路310L、310M,310N内を通過する加圧気体の速度のX軸方向成分に比例する。X軸方向成分が大きいほどシリコン基板101の横方向(水平面内)の変位量は大きくなり、X軸方向成分が小さいほどシリコン基板101の横方向(水平面内)の変位量は小さくなる。
【0039】
前述のように、第三気体通路310Lを通過する加圧気体の速度のX軸方向成分X1(図10(A))は第三気体通路310Mを通過する加圧気体の速度のX軸方向成分X2(図10(B))よりも大きい。従って、第三気体通路310Mを通過して発生した渦流によって浮上しているシリコン基板101の横方向の変位量は第三気体通路310Lを通過して発生した渦流によって浮上しているシリコン基板101の横方向の変位量より大きくなる。第三気体通路310Nを通過する加圧気体の速度のX軸方向成分X3(図10(C))は無限大であるので、シリコン基板101の横方向の変位量も無限大となる(すなわち、シリコン基板101には横方向の移動を規制する力は作用しない)。
【0040】
このように、第三気体通路310L、310M,310Nの鉛直方向における高さが同一であれば、シリコン基板101の横方向の変位量は各第三気体通路310L、310M,310Nを通過する加圧気体の速度のX軸方向成分に比例する。このため、シリコン基板101の浮上量(第三気体通路310L、310M,310Nの鉛直方向における高さ)の値に対して、シリコン基板101の横方向の変位量(すなわち、加圧気体の速度のX軸方向成分)を最大許容値に等しく設定することによって、最適な範囲の傾斜角を求めることができる。
ここで、シリコン基板101の横方向の変位量の許容最大値を500ミクロン(0.5mm)として、シリコン基板101の浮上量を0.5mmから0.05mmまで変化させたときの傾斜角Θを計算した。
傾斜角Θは次の計算式(A)によって求められる。
浮上量/横方向変位量=arctan Θ (A)
【0041】
計算結果を表1に示す。
前述のように、シリコン基板101の浮上量は100乃至200ミクロン(0.1乃至0.2mm)である。横方向の許容変位量を0.5mmとした場合、シリコン基板101の浮上量100乃至200ミクロン(0.1乃至0.2mm)に対して、選択可能な傾斜角Θは21.80度乃至11.31度である。
【0042】
上記の例では、シリコン基板101の横方向の許容変位量を0.5mmとしたが、横方向の許容変位量を増減することによって、最適な傾斜角の範囲は変化する。従って、シリコン基板101の浮上量及びシリコン基板101の横方向の許容変位量が決定されれば、上式(A)に基づいて最適な傾斜角Θの範囲を求めることができる。
本実施形態に係る半導体処理装置300においては、第三気体通路310の個数を6としているが、これは一例であって、第三気体通路310の個数は6に限定されるものではない。偶数であれば、第三気体通路310の個数として任意の数を選択することが可能である。上述のように、偶数個の第三気体通路310のうちの2個の第三気体通路310を一組としてその2個はブロック121の中心121Aに関して対称の位置に設けられる。
【0043】
図11はブロック121に形成された第三気体通路310の一例である第三気体通路310Aを示す図であり、図11(A)は第三気体通路310Aを上方から見たときの平面図、図11(B)は第三気体通路310Aを水平方向から見たときの正面図である。図12は第三気体通路310Aの斜視図である。
図11(B)に示すように、ブロック121(図11及び図12においては、ブロック121は第三気体通路310Aの下方の部分のみを示す)には傾斜角15度の第三気体通路310Aが形成されている。図11(A)に示すように、第三気体通路310Aは6個の第三気体通路310A―1乃至310A-6に分割して形成されている。
図11(A)及び図12に示すように、ブロック121に形成された傾斜角15度の空洞は6個のリング状柱状体311A乃至311Fにより6等分されており、相互に隣接するリング状柱状体311A乃至311Fの間に6個の第三気体通路310A―1乃至310A-6が形成されている。
第三の実施形態の6個の第三気体通路310A―310Fは、例えば、円柱形状(トンネル形状)として形成されるが、図11及び図12に示した第三気体通路310Aのように、6個のリング状柱状体311A乃至311Fで分割した幅広の通路として形成することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
100 本発明の第一の実施形態に係る半導体処理装置
101 シリコン基板
110 加熱装置
120、130A―130D 浮上装置
121、131 ブロック
122、132 凹部
123、133、310 通路
134 第二気体通路
140 加圧気体発生装置
150 制御装置
160 入力装置
200 本発明の第二の実施形態に係る半導体処理装置
300 本発明の第三の実施形態に係る半導体処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2022-09-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、
前記チャンバー内においてシリコン基板を加熱する加熱装置と、
前記チャンバー内において気体の渦流を発生させる偶数個の渦流発生装置と、
を備える半導体処理装置であって、
前記偶数個の渦流発生装置の各々は水平面に対して上方に傾斜している気体通路を備えており、
偶数個の前記気体通路のうち任意の2個の気体通路は前記チャンバーの中心に対して対称に位置しており、
前記気体通路を介して前記気体が前記チャンバー内に送り込まれることにより前記チャンバー内に前記渦流が発生し、前記渦流によって前記シリコン基板を浮上させる力と前記シリコン基板の横方向の移動を規制する力とが発生し、前記シリコン基板が浮上している間に、前記加熱装置が前記シリコン基板を加熱するものである半導体処理装置。
【請求項2】
前記気体通路の傾斜角は30度以下であることを特徴とする請求項に記載の半導体処理装置。
【請求項3】
前記気体通路の傾斜角は15度±3度の範囲内にあることを特徴とする請求項に記載の半導体処理装置。
【請求項4】
前記気体通路の傾斜角Θは次式(A)
arctanΘ=R1/R2 (A)
R1:シリコン基板の浮上量
R2:シリコン基板の横方向の変位量の許容最大値
に基づいて求められることを特徴とする請求項に記載の半導体処理装置。
【請求項5】
複数個の前記渦流発生装置を備えており、
前記複数個の渦流発生装置は前記シリコン基板の外周に対応するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の半導体処理装置。
【請求項6】
複数個の前記渦流発生装置を備えており、
前記複数個の渦流発生装置のうちの一つの渦流発生装置は前記シリコン基板の中心に、他の渦流発生装置は前記シリコン基板の外周にそれぞれ対応するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の半導体処理装置。
【請求項7】
前記渦流発生装置は一方向及び反対方向に旋回する渦流の双方を発生させることができることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の半導体処理装置。
【請求項8】
前記渦流発生装置が発生させる渦流の向き及び強度の少なくとも何れか一方を制御する制御装置を備えることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の半導体処理装置。
【請求項9】
チャンバー内において少なくとも一つの気体の渦流を発生させる第一の過程と、
前記渦流の上方にシリコン基板を浮上させる第二の過程と、
前記シリコン基板が浮上している間に、前記チャンバー内において前記シリコン基板を加熱する第三の過程と、
を備え、
前記第一の過程は偶数個の気体の渦流を発生させる第四の過程を備えており、
前記第四の過程は、
水平面から上方に傾斜した方向に加圧気体を通過させる過程を備えており、
前記偶数個の気体の渦流のうちいずれか2個の渦流は前記チャンバーの中心に対して対称になるように発生させることを特徴とする半導体処理方法。
【請求項10】
前記傾斜した方向の傾斜角は30度以下であることを特徴とする請求項に記載の半導体処理方法。
【請求項11】
前記傾斜した方向の傾斜角は15度±3度の範囲内にあることを特徴とする請求項に記載の半導体処理方法。
【請求項12】
前記水平面から上方に傾斜した方向の傾斜角Θは次式(A)
arctanΘ=R1/R2 (A)
R1:シリコン基板の浮上量
R2:シリコン基板の横方向の変位量の許容最大値
に基づいて求められることを特徴とする請求項に記載の半導体処理方法。
【請求項13】
前記第一の過程は複数個の気体の渦流を発生させるものであり、
前記複数個の気体の渦流は前記シリコン基板の外周に位置的に対応するように形成されることを特徴とする請求項乃至12の何れか一項に記載の半導体処理方法。
【請求項14】
前記シリコン基板の中心に追加的に一つの渦流を発生させる第五の過程を備えることを特徴とする請求項9乃至12の何れか一項に記載の半導体処理方法。
【請求項15】
前記第一の過程は前記複数個の気体の渦流のうち少なくとも一つは他の渦流と回転方向が異なる渦流を発生させるものであることを特徴とする請求項13に記載の半導体処理方法。
【請求項16】
前記第三の過程において発生した渦流の向き及び強度の少なくとも何れか一方を制御する第の過程を備えることを特徴とする請求項乃至12の何れか一項に記載の半導体処理方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
この目的を達成するため、本発明は、チャンバーと、前記チャンバー内においてシリコン基板を加熱する加熱装置と、前記チャンバー内において気体の渦流を発生させる偶数個の渦流発生装置と、を備える半導体処理装置であって、前記偶数個の渦流発生装置の各々は水平面に対して上方に傾斜している気体通路を備えており、偶数個の前記気体通路のうち任意の2個の気体通路は前記チャンバーの中心に対して対称に位置しており、前記気体通路を介して前記気体が前記チャンバー内に送り込まれることにより前記チャンバー内に前記渦流が発生し、前記渦流によって前記シリコン基板を浮上させる力と前記シリコン基板の横方向の移動を規制する力とが発生し、前記シリコン基板が浮上している間に、前記加熱装置が前記シリコン基板を加熱するものである半導体処理装置を提供する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明に係る半導体処理装置は複数個の前記渦流発生装置を備えており、前記複数個の渦流発生装置のうちの一つの渦流発生装置は前記シリコン基板の中心に、他の渦流発生装置は前記シリコン基板の外周にそれぞれ対応するように配置されていることが好ましい。
前記渦流発生装置は一方向及び反対方向に旋回する渦流の双方を発生させることができることが好ましい。
前記渦流発生装置が発生させる渦流の向き及び強度の少なくとも何れか一方を制御する制御装置を備えることが好ましい。
本発明は、さらに、チャンバー内において少なくとも一つの気体の渦流を発生させる第一の過程と、前記渦流の上方にシリコン基板を浮上させる第二の過程と、前記シリコン基板が浮上している間に、前記チャンバー内において前記シリコン基板を加熱する第三の過程と、を備え、前記第一の過程は偶数個の気体の渦流を発生させる第四の過程を備えており、前記第四の過程は、水平面から上方に傾斜した方向に加圧気体を通過させる過程を備えており、前記偶数個の気体の渦流のうちいずれか2個の渦流は前記チャンバーの中心に対して対称になるように発生させることを特徴とする半導体処理方法を提供する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
前記傾斜した方向の傾斜角は30度以下であることが好ましい。
前記傾斜した方向の傾斜角は15度±3度の範囲内にあることが好ましい。
前記水平面から上方に傾斜した方向の傾斜角Θは次式(A)
arctanΘ=R1/R2 (A)
R1:シリコン基板の浮上量
R2:シリコン基板の横方向の変位量の許容最大値
に基づいて求められることが好ましい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
前記第一の過程は複数個の気体の渦流を発生させるものであり、前記複数個の気体の渦流は前記シリコン基板の外周に位置的に対応するように形成されることが好ましい。
本半導体処理方法は前記シリコン基板の中心に追加的に一つの渦流を発生させる第五の過程を備えることが好ましい。
前記第一の過程は前記複数個の気体の渦流のうち少なくとも一つは他の渦流と回転方向が異なる渦流を発生させるものであることが好ましい。
前記第三の過程において発生した渦流の向き及び強度の少なくとも何れか一方を制御する第の過程を備えることが好ましい。