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特開2024-80108吸音材付き空気入りタイヤ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080108
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】吸音材付き空気入りタイヤ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/00 20060101AFI20240606BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B29D30/00
B60C5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193014
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】湯川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松波 翔
【テーマコード(参考)】
3D131
4F215
4F501
【Fターム(参考)】
3D131AA28
3D131AA30
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC07
3D131BC23
3D131BC36
3D131BC43
3D131BC44
3D131BC49
3D131BC55
3D131CB03
3D131LA28
3D131LA39
4F215AA45A
4F215AH20
4F215VA02
4F215VA11
4F215VA12
4F215VC12
4F215VC13
4F215VL04
4F501TA02
4F501TA11
4F501TA12
4F501TB12
4F501TB13
4F501TC25
4F501TE04
4F501TV21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】パンクをスムーズに修理できるとともに、吸音材の廃棄物を低減することができる、吸音材付き空気入りタイヤの製造方法および該タイヤを提供する。
【解決手段】タイヤ内腔内に、吸音材10が配された吸音材付き空気入りタイヤの製造方法である。製造方法は、第2工程S2と第3工程S3とを含んでいる。第2工程S2では、吸音材10の第1平面11aに、第1方向f1と交差する向きである第2方向f2に延びる切り込み12が形成される。この切り込み12は、実質的に切り込み幅w1を有しないスリット状である。第3工程S3は、吸音材10の第1方向f1をタイヤ周方向に沿わせ、かつ、第1平面11aがタイヤ半径方向の外周面となるよう円弧状に湾曲させることにより、切り込み12の切り込み幅w1を拡大させた状態で、吸音材10をタイヤ内腔面に固着する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内腔内に、タイヤ周方向に延びる吸音材が配された吸音材付き空気入りタイヤの製造方法であって、
空気入りタイヤと、第1方向に延びる第1平面を有する吸音材とを準備する第1工程と、
前記吸音材の前記第1平面に、前記第1方向と交差する向きである第2方向に延びる少なくとも一つの切り込みを形成する工程であって、前記切り込みは、前記第2方向と直交する横断面において実質的に切り込み幅を有しないスリット状である第2工程と、
前記吸音材の前記第1方向をタイヤ周方向に沿わせ、かつ、前記第1平面がタイヤ半径方向の外周面となるよう円弧状に湾曲させることにより、前記切り込みの切り込み幅を拡大させた状態で、前記吸音材をタイヤ内腔面に固着する第3工程と、
を含む、吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記切り込みの深さは、前記吸音材の前記第1平面と直交する第3方向の厚さの0.2~0.9倍である請求項1に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記切り込みの前記切り込み幅は、2mm未満である、請求項1又は2に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程において、前記第2方向の前記第1方向に対する角度は、45度以上である、請求項1又は2に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記第2工程において、前記吸音材の前記第2方向と直交する横断面において、前記切り込みと前記第1平面の法線との間の角度は、10度以下である、請求項1又は2に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記第2工程において、前記切り込みは、前記第1方向に複数形成される、請求項1又は2に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記第2工程において、複数の前記切り込みは、前記第1方向に、前記吸音材の厚さの0.5~2倍のピッチを有する、請求項6に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記第3工程において、前記吸音材は、そのタイヤ周方向の両端面間にタイヤ周方向の隙間を有するように固着される、請求項1又は2に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記隙間のタイヤ周方向の長さは、3~60mmである、請求項8に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記吸音材の前記両端面は、それぞれ、タイヤ半径方向の内側に向かって、前記隙間とはタイヤ周方向の逆側に傾斜する傾斜面部を含む、請求項8に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
前記各傾斜面部のタイヤ半径方向に対する角度は、30~80度である、請求項10に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
前記吸音材の前記両端面は、それぞれ、前記タイヤ内腔面からタイヤ半径方向の内側へ延びる半径方向面部をさらに含み、
前記半径方向面部のタイヤ半径方向に対する角度は、10度以下である、請求項10に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項13】
前記第2工程において、前記第1平面には、前記切り込みと交差する別の交差切り込みが設けられる、請求項1又は2に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項14】
タイヤ内腔内に、タイヤ周方向に延びる吸音材が配された吸音材付き空気入りタイヤであって、
前記吸音材は、タイヤ内腔面に固着されるタイヤ半径方向の外周面を有し、
前記外周面には、タイヤ軸方向に延びる少なくとも1本の溝が配されており、
前記溝は、前記外周面に形成された実質的に切り込み幅を有しないスリット状の切り込みの切り込み幅を、前記吸音材をタイヤ周方向に沿わせて円弧状に湾曲させることにより拡大させたものである、
吸音材付き空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材付き空気入りタイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤ内腔面に多孔質状の制音体が配された空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-069984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような空気入りタイヤのパンク修理方法として、空気圧入用のバルブから圧縮空気とともにパンク修理液を注入し、このパンク修理液をパンク孔に流れ込ませて封鎖する方法がある。このようなパンク修理方法において、前記制音体のタイヤ内腔面と接触する面に、タイヤ軸方向に延びる溝を設けておけば、前記パンク修理液が前記制音体のタイヤ軸方向の一方の側面から他方の側面へスムーズに移動でき、ひいては、早期に前記貫通孔を封鎖することができると考えられる。
【0005】
前記溝は、通常、前記プレーンな制音体の一部を切り取って形成されるが、その切り取られた部分は、廃棄物となり、その処理も必要である。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、パンクをスムーズに修理できるとともに、吸音材の溝加工によって生じる廃棄物を低減することができる吸音材付き空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、タイヤ内腔内に、タイヤ周方向に延びる吸音材が配された吸音材付き空気入りタイヤの製造方法であって、空気入りタイヤと、第1方向に延びる第1平面を有する吸音材とを準備する第1工程と、前記吸音材の前記第1平面に、前記第1方向と交差する向きである第2方向に延びる少なくとも一つの切り込みを形成する工程であって、前記切り込みは、前記第2方向と直交する横断面において実質的に切り込み幅を有しないスリット状である第2工程と、前記吸音材の前記第1方向をタイヤ周方向に沿わせ、かつ、前記第1平面がタイヤ半径方向の外周面となるよう円弧状に湾曲させることにより、前記切り込みの切り込み幅を拡大させた状態で、前記吸音材をタイヤ内腔面に固着する第3工程と、を含む、吸音材付き空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸音材付き空気入りタイヤ及びその製造方法は、上記の構成等を採用することで、パンクをスムーズに修理できるとともに、吸音材の溝加工によって生じる廃棄物を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の吸音材付き空気入りタイヤの一実施形態を示すタイヤ子午線断面図である。
図2図1の吸音材付き空気入りタイヤの断面図である。
図3】本発明の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法の手順を示すフローチャートである。
図4】(A)は、第1工程及び第2工程で使用される吸音材の斜視図、(B)は、(A)の断面図である。
図5】(A)は、第3工程で形成される吸音材の斜視図、(B)は、吸音材付き空気入りタイヤの部分断面図である。
図6】(A)は、他の実施形態の第1工程で準備される吸音材の斜視図、(B)は、他の実施形態の第2工程で形成される吸音材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0011】
図1は、本発明の吸音材付き空気入りタイヤ(以下、単に「吸音材付きタイヤ」という場合がある)1Aの一実施形態のタイヤ子午線断面図である。図1に示されるように、本実施形態の吸音材付きタイヤ1Aは、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある)1と、吸音材10とを含んでいる。図1には、好ましい態様として、乗用車用のタイヤ1が示される。但し、本発明は、例えば、重荷重用のタイヤ1に採用されても良い。
【0012】
タイヤ1は、トレッド部2と、トレッド部2のタイヤ軸方向の両側からタイヤ半径方向の内側に延びる一対のサイドウォール部3、3とを含んでいる。また、タイヤ1は、トロイド状に延びるカーカス6と、トレッド部2に配されたベルト層7とを含んでいる。カーカス6及びベルト層7は、周知の構造で構成されている。タイヤ1は、加硫済みのものであれば種々のものが採用される。
【0013】
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤ1の各部の寸法等は、正規状態で測定されたものである。「正規状態」とは、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。
【0014】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0015】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0016】
図2は、吸音材付きタイヤ1Aをタイヤ周方向に切断した部分断面図である。図2に示されるように、吸音材10は、タイヤ内腔1b内に配されており、かつ、タイヤ周方向に延びている。
【0017】
次に、このような吸音材付きタイヤ1Aの製造方法が説明される。図3は、本実施形態の製造方法のフローチャートである。図3に示されるように、本実施形態の製造方法は、第1工程S1と第2工程S2と第3工程S3とを含んでいる。
【0018】
第1工程S1では、タイヤ1と吸音材10とが準備される。本実施形態の第1工程S1では、吸音材付きタイヤ1Aの製造を容易にするために、周知構造の保持具(図示省略)が準備されて、この保持具にタイヤ1が縦置きに保持されてもよい。吸音材10は、多孔質状のスポンジ材により構成される。
【0019】
スポンジ材は、海綿状の多孔構造体であり、例えばゴムや合成樹脂を発泡させた連続気泡を有するいわゆるスポンジそのものの他、動物繊維、植物繊維又は合成繊維等を絡み合わせて一体に連結したウエブ状のものを含む。また「多孔構造体」には、連続気泡のみならず独立気泡を有するものが含まれる。
【0020】
吸音材10として、好ましくはエーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EDPMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジが好適に用いられる。
【0021】
図4(A)は、第1工程S1で準備された吸音材10の部分斜視図である。図4(A)に示されるように、吸音材10は、例えば、第1方向f1に延びる第1平面11aを有している。吸音材10は、本実施形態では、第1方向f1に延びて、第1平面11aとは逆向きの第2平面11bと、第1平面11aと第2平面11bとを繋ぐ一対の側面11c、11cとを含んでいる。本実施形態の吸音材10は、第1平面11a、第2平面11b及び各側面11cを含む、直方体状に形成されている。第1平面11aは、例えば、後述する第2方向f2の中央が滑らかに突出する形状に形成されていてもよい(図示省略)。
【0022】
次に、第2工程S2が行われる。第2工程S2では、第1平面11aに、第1方向f1と交差する第2方向f2に延びる少なくとも一つの切り込み12が形成される。切り込み12は、例えば、ワイヤ式や電熱式を含む周知構造のカッタ(図示省略)で形成される。切り込み12は、例えば、作業員の手作業によって形成されてもよいし、機械作業によって形成されてもよい。
【0023】
図4(B)は、図4(A)の吸音材10の第2方向f2と直交する横断面図である。図4(A)及び(B)に示されるように、切り込み12は、第2工程S2では、実質的に切り込み幅w1を有しないスリット状に形成される。このような切り込み12は、例えば、吸音材10を切り取ることなく設けることができるので、吸音材10の廃棄物を抑えることができる。前記「実質的に切り込み幅w1を有しない」切り込み12とは、本明細書では、吸音材10を切り取ることなく設けることができる切り込み状のものをいう。図4(B)には、便宜上、断面を示すハッチが省略される。
【0024】
第2工程S2において、切り込み12の切り込み幅w1は、2mm未満であるのが望ましい。これにより、上述の作用が効果的に発揮される。切り込み幅w1は、本明細書では、第1平面11a上での切り込み12の開口幅である。また、切り込み12は、切り込み12の底12sでの幅waが、1mm以下とされるのが望ましい。
【0025】
第2工程S2において、切り込み12の深さd1は、吸音材10の第1平面11aと直交する第3方向f3の厚さtの0.2倍以上が望ましく、0.3倍以上がさらに望ましく、0.9倍以下が望ましく、0.8倍以下がさらに望ましい。切り込み12の深さd1が吸音材10の厚さtの0.2倍以上であるので、後述の通り、切り込み12の切り込み幅w1が拡大されて吸音材付きタイヤ1Aが形成されたときに、空気圧入用のバルブ(図示省略)から注入されたパンク修理液をスムーズに切り込み12内で移動させることができる。切り込み12の深さd1が吸音材10の厚さtの0.9倍以下であるので、吸音材10の千切れや欠けが抑えられる。なお、吸音材10の厚さtが25mmよりも大きい場合、切り込み12の深さd1は、5mm以上が望ましい。
【0026】
切り込み12は、本実施形態では、両側面11c、11cを繋ぐように延びている。これにより、パンク修理液をスムーズに吸音材10の側面11c間で移動させることができる。
【0027】
第2方向f2の第1方向f1に対する角度θ1は、45度以上であるのが望ましい。角度θ1が45度以上であるので、後述の通り、第3工程S3において、第1平面11aがタイヤ半径方向の外周面16となるよう円弧状に湾曲させた場合、切り込み12の切り込み幅を大きくできるため、パンク修理液の移動をスムーズにすることができる。角度θ1は、本実施形態では、90度とされている。
【0028】
切り込み12は、第1方向f1に複数形成される。これにより、パンク修理液を、より一層スムーズに吸音材10の両側面11c、11c間に移動させることができる。
【0029】
このような複数の切り込み12は、第1方向f1に、吸音材10の厚さtの0.5倍以上、かつ、2倍以下のピッチPを有しているのが望ましい。複数の切り込み12が0.5倍以上のピッチPを有しているので、吸音材10の欠けや破壊を抑えることができる。複数の切り込み12が2倍以下のピッチPを有しているので、切り込み12の本数が大きくなり、パンク修理液をよりスムーズに移動させることができる。このような観点より、複数の切り込み12は、第1方向f1に、吸音材10の厚さtの0.7倍以上、又は、1.5倍以下のピッチPを有しているのがさらに望ましい。
【0030】
第2方向f2と直交する横断面において、切り込み12と第1平面11aの法線nとの間の角度θ2は、10度以下であるのが望ましい。これにより、後述の通り、第3工程S3において、第1平面11aがタイヤ半径方向の外周面16となるよう円弧状に湾曲させられた場合でも、吸音材10の剛性が高く維持されるので、吸音材10の欠けや破壊が抑制される。角度θ2は、本実施形態では、0度である。
【0031】
次に、第3工程S3が行われる。第3工程S3では、先ず、吸音材10の第1方向f1をタイヤ周方向に沿わせ、かつ、第1平面11aがタイヤ半径方向の外周面16となるよう円弧状に湾曲させる。図5(A)は、前記湾曲された吸音材10の斜視図である。図5(A)に示されるように、第2工程S2で設けられたスリット状の切り込み12が、切り込み幅w1を拡大させた状態(以下、この状態の切り込み12を「溝12A」という)となる。そして、この状態が維持されるように、吸音材10がタイヤ内腔面1y(図1に示す)に固着される。吸音材10とタイヤ1とは、例えば、周知材料の接着剤によって固着されるのが望ましい。なお、前記固着方法は、このような態様に限定されるものではなく、周知の方法が適宜採用される。このようにして、吸音材付きタイヤ1Aが製造される。
【0032】
このような溝12Aは、パンク修理時に、空気圧入用のバルブから注入されたパンク修理液を吸音材10の第2方向f2(タイヤ軸方向)の一方から他方にスムーズに移動させることができるので、パンク修理液を容易に貫通孔(図示省略)に到達させ得る。また、溝12Aは、吸音材10の一部を切り取ることなく形成されるため、吸音材10への溝加工によって生じる廃棄物をなくすか、又は、低減することができる。したがって、廃棄物の処理に要する手間も軽減される。
【0033】
図1に示されるように、第3工程S3では、吸音材10は、例えば、トレッド部2のタイヤ内腔面2bに固着される。吸音材10は、本実施形態では、そのタイヤ軸方向の中心がタイヤ赤道Cと重なるように固着される。
【0034】
図5(B)は、吸音材付きタイヤ1Aをタイヤ周方向に切断した部分断面図である。図5(B)には、吸音材10のタイヤ周方向の両端面15、15が示される。図5(B)に示されるように、第3工程S3において、吸音材10は、両端面15、15間にタイヤ周方向の隙間14を有するように固着されている。このように、本実施形態の吸音材10は、その端面15、15同士が接触していないので、隙間14からもパンク修理液を吸音材10のタイヤ軸方向の一方から他方へ移動することができる。
【0035】
隙間14のタイヤ周方向の長さLは、3mm以上が望ましく、10mm以上がさらに望ましく、60mm以下が望ましく、50mm以下がさらに望ましい。隙間14が3mm以上であるので、切り込み12の端面15からパンク修理液を確実に移動することができる。隙間14が60mm以下であるので、タイヤ周方向における不均衡を抑制し、高速走行時の振動、ノイズ等の発生を抑制することができる。
【0036】
また、吸音材10の両端面15、15は、それぞれ、タイヤ半径方向の内側に向かって、隙間14とはタイヤ周方向の逆側に傾斜する傾斜面部15aを含んでいる。傾斜面部15aでは、吸音材10の厚さtが隙間14に向かって連続して小さくなっている。傾斜面部15aは、本実施形態では、平面状に形成されている。なお、傾斜面部15aは、円弧状に形成されてもよい。このような吸音材10は、走行時に応力が集中する端面15からの剥離を抑制する。
【0037】
吸音材10による吸音効果と、吸音材10の剥離を抑制する効果とを両立させるために、傾斜面部15aのタイヤ半径方向に対する角度α1は、30度以上が望ましく、40度以上がさらに望ましく、80度以下が望ましく、70度以下がさらに望ましい。
【0038】
本実施形態の両端面15は、それぞれ、タイヤ内腔面1yからタイヤ半径方向の内側へ延びる半径方向面部15bをさらに含んでいる。半径方向面部15bのタイヤ半径方向に対する角度α2は、例えば、10度以下である。このような半径方向面部15bは、吸音材10の端面15の剛性を高く維持するのに役立つ。半径方向面部15bでの吸音材10の厚さt1は、3~10mmであるのが望ましい。
【0039】
図1に示されるように、第3工程S3(吸音材付きタイヤ1A)において、吸音材10のタイヤ軸方向の幅W1は、トレッド幅TWの20%以上が望ましく、30%以上がさらに望ましく、70%以下が望ましく、60%以下がさらに望ましい。また、吸音材10の厚さt(図4(B)に示される)は、吸音材10が固着されるタイヤ1のタイヤ断面高さHaの15%以上が望ましく、20%以上がさらに望ましく、40%以下が望ましく、35%以下がさらに望ましい。タイヤ断面高さHaは、ビードベースラインBLからタイヤ最大径位置までのタイヤ半径方向の距離である。ビードベースラインBLは、正規リム(図示省略)のリム径の位置を通るタイヤ軸方向線である。
【0040】
トレッド幅TWは、前記正規状態におけるタイヤ軸方向の両側に位置するトレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離である。トレッド端Teは、前記正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。
【0041】
前記「正規荷重」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0042】
図6(A)は、他の実施形態の第1工程S1で準備される吸音材10の部分斜視図である。図6(A)に示されるように、この実施形態の吸音材10は、第2平面11bが、第1部分21と第2部分22とを含んでいる。第1部分21は、第3方向f3において、最も第1平面11a側に配された面で形成されている。第2部分22は、第1部分21から突出する面で形成されている。このような吸音材10は、タイヤ内腔1b内の振動や共鳴音を低減することができる。この実施形態の切り込み12は、第1部分21よりも第1平面11a側に底12sを有している。
【0043】
図6(B)は、他の実施形態の第1平面11aを有する吸音材10の部分斜視図である。図6(B)に示されるように、この実施形態の第1平面11aは、第2工程S2において、切り込み12と交差する別の交差切り込み25が設けられる。交差切り込み25は、この実施形態では、第1方向f1と平行に延びている。このような第1平面11aで形成された吸音材付きタイヤ1Aは、より一層、パンク修理液を貫通孔に到達しやすくするのに役立つ。
【0044】
以上、本発明の一実施形態が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【0045】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0046】
[本発明1]
タイヤ内腔内に、タイヤ周方向に延びる吸音材が配された吸音材付き空気入りタイヤの製造方法であって、
空気入りタイヤと、第1方向に延びる第1平面を有する吸音材とを準備する第1工程と、
前記吸音材の前記第1平面に、前記第1方向と交差する向きである第2方向に延びる少なくとも一つの切り込みを形成する工程であって、前記切り込みは、前記第2方向と直交する横断面において実質的に切り込み幅を有しないスリット状である第2工程と、
前記吸音材の前記第1方向をタイヤ周方向に沿わせ、かつ、前記第1平面がタイヤ半径方向の外周面となるよう円弧状に湾曲させることにより、前記切り込みの切り込み幅を拡大させた状態で、前記吸音材をタイヤ内腔面に固着する第3工程と、
を含む、吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明2]
前記切り込みの深さは、前記吸音材の前記第1平面と直交する第3方向の厚さの0.2~0.9倍である本発明1に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明3]
前記第2工程において、前記切り込みの前記切り込み幅は、2mm未満である、本発明1又は2に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明4]
前記第2工程において、前記第2方向の前記第1方向に対する角度は、45度以上である、本発明1ないし3のいずれかに記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明5]
前記第2工程において、前記吸音材の前記第2方向と直交する横断面において、前記切り込みと前記第1平面の法線との間の角度は、10度以下である、本発明1内容のいずれかに記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明6]
前記第2工程において、前記切り込みは、前記第1方向に複数形成される、本発明1ないし5のいずれかに記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明7]
前記第2工程において、複数の前記切り込みは、前記第1方向に、前記吸音材の厚さの0.5~2倍のピッチを有する、本発明6に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明8]
前記第3工程において、前記吸音材は、そのタイヤ周方向の両端面間にタイヤ周方向の隙間を有するように固着される、本発明1ないし7のいずれかに記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明9]
前記隙間のタイヤ周方向の長さは、3~60mmである、本発明8に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明10]
前記吸音材の前記両端面は、それぞれ、タイヤ半径方向の内側に向かって、前記隙間とはタイヤ周方向の逆側に傾斜する傾斜面部を含む、本発明8又は9に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明11]
前記各傾斜面部のタイヤ半径方向に対する角度は、30~80度である、本発明10に記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明12]
前記吸音材の前記両端面は、それぞれ、前記タイヤ内腔面からタイヤ半径方向の内側へ延びる半径方向面部をさらに含み、
前記半径方向面部のタイヤ半径方向に対する角度は、10度以下である、本発明8ないし11のいずれかに記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明13]
前記第2工程において、前記第1平面には、前記切り込みと交差する別の交差切り込みが設けられる、本発明1ないし12のいずれかに記載の吸音材付き空気入りタイヤの製造方法。
[本発明14]
タイヤ内腔内に、タイヤ周方向に延びる吸音材が配された吸音材付き空気入りタイヤであって、
前記吸音材は、タイヤ内腔面に固着されるタイヤ半径方向の外周面を有し、
前記外周面には、タイヤ軸方向に延びる少なくとも1本の溝が配されており、
前記溝は、前記外周面に形成された実質的に切り込み幅を有しないスリット状の切り込みの切り込み幅を、前記吸音材をタイヤ周方向に沿わせて円弧状に湾曲させることにより拡大させたものである、
吸音材付き空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0047】
1A 吸音材付き空気入りタイヤ
1b タイヤ内腔
1y タイヤ内腔面
10 吸音材
11a 第1平面
12 切り込み
16 外周面
f1 第1方向
f2 第2方向
S2 第2工程
S3 第3工程
w1 切り込み幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6