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  • 特開-電力変換装置及びその制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080112
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】電力変換装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
H02M3/28 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193019
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ラクスマン マハルジャン
(72)【発明者】
【氏名】田重田 稔久
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AS08
5H730BB27
5H730BB88
5H730DD03
5H730DD04
5H730EE07
5H730EE13
5H730FD01
5H730FD11
5H730FF09
5H730FG00
(57)【要約】
【課題】スイッチング損失の増大を抑制可能な電力変換装置の提供。
【解決手段】入力側と出力側との間で並列に接続された複数のコンバータと、前記複数のコンバータの各々の伝送電力の総和が前記複数のコンバータに要求される総伝送電力に一致するように前記複数のコンバータのうち一部のコンバータのみをゼロ電圧スイッチングさせる制御装置と、を備える、電力変換装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側と出力側との間で並列に接続された複数のコンバータと、
前記複数のコンバータの各々の伝送電力の総和が前記複数のコンバータに要求される総伝送電力に一致するように前記複数のコンバータのうち一部のコンバータのみをゼロ電圧スイッチングさせる制御装置と、を備える、電力変換装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記一部のコンバータの各々の伝送電力が均等になるように前記一部のコンバータをゼロ電圧スイッチングさせる、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記総伝送電力をPtotal、前記一部のコンバータの台数をk、前記複数のコンバータに含まれる1台のコンバータの定格容量をPunit_ratedとするとき、
前記制御装置は、(Ptotal/k>Punit_rated)の場合、前記一部のコンバータの各々の伝送電力をPunit_ratedに調整する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置は、(Ptotal/k>Punit_rated)の場合、前記複数のコンバータのうち前記一部のコンバータ以外の残りのコンバータの各々の伝送電力の総和が(Ptotal-k×Punit_rated)となるように前記残りのコンバータの各々の伝送電力を調整する、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、(Ptotal/k≦Punit_rated)の場合、前記一部のコンバータの各々の伝送電力を(Ptotal/k)に調整する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御装置は、(Ptotal/k≦Punit_rated)の場合、前記複数のコンバータのうち前記一部のコンバータ以外の残りのコンバータの各々の伝送電力を零に調整する、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御装置は、ゼロ電圧スイッチングさせる前記一部のコンバータの台数が最大となるように前記複数のコンバータの各々の伝送電力を調整する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記総伝送電力をPtotal、前記複数のコンバータの総数をN、nを1以上(N-1)以下の整数、所定の伝送電力をPZVSとするとき、
前記制御装置は、(Ptotal/(N-(n-1))<PZVS)且つ(Ptotal/(N-n)≧PZVS)の場合、ゼロ電圧スイッチングさせる前記一部のコンバータの台数が最大となるように前記複数のコンバータの各々の伝送電力を調整する、請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記複数のコンバータに含まれる1台のコンバータの定格容量をPunit_ratedと、iを1以上(n-1)以下の整数とするとき、
前記制御装置は、(Ptotal/(N-n)>Punit_rated)のとき、1台目から(N-n)台目のコンバータの各々の伝送電力をPunit_ratedに調整し、(N-(n-1))台目のコンバータの伝送電力を(Ptotal-(N-n)×Punit_rated)に調整し、(N-(i-1))台目のコンバータの各々の伝送電力を零に調整する、請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記制御装置は、(Ptotal/(N-n)≦Punit_rated)のとき、1台目から(N-n)台目のコンバータの各々の伝送電力を(Ptotal/(N-n))に調整し、(N-(i-1))台目のコンバータの各々の伝送電力を零に調整する、請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記複数のコンバータのうち前記一部のコンバータ以外の残りのコンバータをハードスイッチングさせる、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記制御装置は、前記複数のコンバータのうち前記一部のコンバータ以外の残りのコンバータの伝送電力を零にする、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記残りのコンバータのスイッチングを停止させる、請求項12に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記制御装置は、前記残りのコンバータの各々の伝送電力が零になるように前記残りのコンバータをスイッチングさせる、請求項12に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記複数のコンバータは、それぞれ、
一次巻線と二次巻線とを有するトランスと、
ハイサイドの第1アームとローサイドの第2アームとが直列に接続された第1レグと、ハイサイドの第3アームとローサイドの第4アームとが直列に接続された第2レグとを有し、前記第1アームと前記第2アームとの接続点と前記第3アームと前記第4アームとの接続点とを接続するブリッジ部分に前記一次巻線が設けられた一次側ブリッジ回路と、
ハイサイドの第5アームとローサイドの第6アームとが直列に接続された第3レグと、ハイサイドの第7アームとローサイドの第8アームとが直列に接続された第4レグとを有し、前記第5アームと前記第6アームとの接続点と前記第7アームと前記第8アームとの接続点とを接続するブリッジ部分に前記二次巻線が設けられた二次側ブリッジ回路と、を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記制御装置は、前記一次側ブリッジ回路と前記二次側ブリッジ回路との間で電力が伝送されるように、前記一次側ブリッジ回路と前記二次側ブリッジ回路との間のスイッチングの位相差を制御する、請求項15に記載の電力変換装置。
【請求項17】
入力側と出力側との間で並列に接続された複数のコンバータを備える電力変換装置の制御方法であって、
前記複数のコンバータの各々の伝送電力の総和が前記複数のコンバータに要求される総伝送電力に一致するように前記複数のコンバータのうち一部のコンバータのみをゼロ電圧スイッチングさせる、電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの単相ブリッジ回路が高周波絶縁トランスを介して接続されたDAB(Dual Active Bridge)と呼ばれる双方向絶縁型DC/DCコンバータが知られている(例えば、非特許文献1参照)。このコンバータは、ブリッジ間の位相差を調整する電力制御を採用した場合には、スイッチング損失を低減可能なZVS(Zero-Voltage Switching:ゼロ電圧スイッチング)を適用できるため、大電力用途に適している。大電力用途に適用する場合、入力側と出力側との間で並列に接続された複数のDABを使用することがある(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】R.W.A.A. De Doncker, D.M. Divan, and M.H. Kheraluwala,"A Three-Phase Soft-Switched High-Power-Density dc/dc Converter for High-Power Applications", IEEE Transactions on Industry Applications, Volume 27, Number 1, Pages 63-73, January/February 1991.
【非特許文献2】W. Ying, H. Zhao, Y. Shen, Z. Li, H. Hu, and T. Long, "Multi-Phase Input-Parallel Output-Parallel Dual Active Bridge with Inherent Current Sharing and Optimized Integrated Transformer," in Proc. IEEE ECCE, September/October 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、入力側と出力側との間で並列に接続された複数のコンバータに要求される総伝送電力をそれらの複数のコンバータで均等に分担すると、要求される総伝送電力が低いとき、全てのコンバータがZVSできずにスイッチング損失が増大する場合がある。
【0005】
本開示は、スイッチング損失の増大を抑制可能な電力変換装置及びその制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様では、
入力側と出力側との間で並列に接続された複数のコンバータと、
前記複数のコンバータの各々の伝送電力の総和が前記複数のコンバータに要求される総伝送電力に一致するように前記複数のコンバータのうち一部のコンバータのみをゼロ電圧スイッチングさせる制御装置と、を備える、電力変換装置が提供される。
【0007】
本開示の第2態様では、
入力側と出力側との間で並列に接続された複数のコンバータを備える電力変換装置の制御方法であって、
前記複数のコンバータの各々の伝送電力の総和が前記複数のコンバータに要求される総伝送電力に一致するように前記複数のコンバータのうち一部のコンバータのみをゼロ電圧スイッチングさせる、電力変換装置の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、スイッチング損失の増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態の電力変換装置の一構成例を示す図である。
図2】制御装置の一構成例を示すブロック線図である。
図3】個別電力指令演算部による演算方法の一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、一実施形態の電力変換装置の一構成例を示す図である。図1に示す電力変換装置100は、入力側と出力側との間で並列に接続された複数のDABと、これらのDABを制御する制御装置150と、を備える。図1は、N台のDABを例示する。Nは、2以上の整数である。
【0012】
N台のDABは、互いに同一の構成を有するので、DAB_1の以下の説明を他のDABに援用することで、他のDABの詳細な説明については省略する。
【0013】
図1に示すDAB_1は、トランス30の両側にブリッジ回路を備える双方向絶縁型DC/DCコンバータである。DAB_1は、一次側ブリッジ回路130と二次側ブリッジ回路140との間で双方向に電力を供給できる。
【0014】
電力変換装置100は、トランス30と、一次側ブリッジ回路130と、二次側ブリッジ回路140と、制御装置150と、を備える。
【0015】
トランス30は、一次巻線31と二次巻線32とを有し、一次巻線31と二次巻線32とが磁気的に結合する変圧器である。一次巻線31および二次巻線32の巻線比は、適宜、設定される。本明細書においては、説明の便宜上、一次巻線31および二次巻線32の巻線比は1:1である場合について例示する。
【0016】
一次側ブリッジ回路130は、一次側直流端子(正側端子および負側端子)に接続され、一次側直流端子に接続される外部装置との間で電力を授受する。また、一次側ブリッジ回路130は、トランス30の一次側に接続され、トランス30の一次巻線31との間で電力を授受する。
【0017】
一次側ブリッジ回路130は、一次側の直流母線対P1,N1を有し、一次側直流端子の正側端子が正側の直流母線P1に、一次側直流端子の負側端子が負側の直流母線N1に接続される。一次側ブリッジ回路130は、トランス30の一次巻線31に一次側の直流母線対P1,N1によって印加される電圧の極性を切り替える。
【0018】
一次側ブリッジ回路130は、複数のレグ11,12を有するフルブリッジ回路である。
【0019】
一次側ブリッジ回路130は、例えば、ハイサイドのアームQ1とローサイドのアームQ2とが直列に接続されたU1相のレグ11と、ハイサイドのアームQ3とローサイドのアームQ4とが直列に接続されたV1相のレグ12とを有する。アームQ1は、第1アームの一例であり、アームQ2は、第2アームの一例であり、アームQ3は、第3アームの一例であり、アームQ4は、第4アームの一例である。U1相のレグ11は、第1レグの一例であり、V1相のレグ12は、第2レグの一例である。
【0020】
一次側ブリッジ回路130は、アームQ1とアームQ2との中間接続点a1と、アームQ3とアームQ4との中間接続点b1とを接続するブリッジ部分に、トランス30の一次巻線31が設けられたフルブリッジ回路である。一次側ブリッジ回路130は、トランス30の一次巻線31に直列に接続されるリアクトルを当該ブリッジ部分に有してもよい。
【0021】
一次側ブリッジ回路130は、図1に示す例では、コンデンサC1と、アームQ1~Q4と、を有する。
【0022】
コンデンサC1は、一次側の直流母線対P1,N1の間に接続され、直流母線対P1,N1間の電圧(コンデンサC1の電圧)を平滑化する。
【0023】
アームQ1~Q4は、一次側のスイッチング素子である。その具体例として、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチング素子が挙げられる。
【0024】
レグ11は、アームQ1とアームQ2とが直流母線対P1,N1の間に直列に接続された構成を含み、レグ12は、アームQ3とアームQ4とが直流母線対P1,N1の間に直列に接続された構成を含む。アームQ1~Q4は、それぞれ、第1主端子と、第2主端子と、制御端子とを有する。例えば、第1主端子は、ドレイン又はコレクタに対応し、第2主端子は、ソース又はエミッタに対応し、制御端子は、ゲートに対応する。アームQ1~Q4は、主端子間に逆接続されたダイオードを含んでよい。アームQ1~Q4がMOSFETの場合、このダイオードは寄生ダイオードであってもよい。図1は、還流ダイオードD1,D2,D3,D4を例示する。
【0025】
このような構成により、一次側ブリッジ回路130は、アームQ1及びアームQ4がオン、アームQ2及びアームQ3がオフとなると、中間接続点a1を直流母線P1に電気的に接続し、中間接続点b1を直流母線N1に電気的に接続して、中間接続点a1と中間接続点b1の間の電圧V1を正電圧"E1"とする。E1は、直流母線対P1,N1の間の電圧値である。また、一次側ブリッジ回路130は、アームQ1及びアームQ4がオフ、アームQ2及びアームQ3がオンとなると、中間接続点a1を直流母線N1に電気的に接続し、中間接続点b1を直流母線P1に電気的に接続して、電圧V1を負電圧"-E1"とする。このようにして、一次側ブリッジ回路130は、トランス30の一次巻線31に一次側の直流母線対P1,N1によって印加される電圧の極性を切り替える。
【0026】
さらに、一次側ブリッジ回路130は、アームQ1及びアームQ3がオン、アームQ2及びアームQ4がオフとなると、中間接続点a1及び中間接続点b1の両方を直流母線P1に電気的に接続して、電圧V1を実質的にゼロとする。又は、一次側ブリッジ回路130は、アームQ1及びアームQ3がオフ、アームQ2及びアームQ4がオンとなると、中間接続点a1及び中間接続点b1の両方を直流母線N1に電気的に接続して、電圧V1を実質的にゼロとする。
【0027】
二次側ブリッジ回路140は、二次側直流端子(正側端子および負側端子)に接続され、二次側直流端子に接続される外部装置との間で電力を授受する。また、二次側ブリッジ回路140は、トランス30の二次側に接続され、トランス30の二次巻線32との間で電力を授受する。
【0028】
二次側ブリッジ回路140は、二次側の直流母線対P2,N2を有し、二次側直流端子の正側端子が正側の直流母線P2に、二次側直流端子の負側端子が負側の直流母線N2に接続される。二次側ブリッジ回路140は、トランス30の二次巻線32に二次側の直流母線対P2,N2によって印加される電圧の極性を切り替える。
【0029】
二次側ブリッジ回路140は、複数のレグ13,14を有するフルブリッジ回路である。
【0030】
二次側ブリッジ回路140は、例えば、ハイサイドのアームQ5とローサイドのアームQ6とが直列に接続されたU2相のレグ13と、ハイサイドのアームQ7とローサイドのアームQ8とが直列に接続されたV2相のレグ14とを有する。アームQ5は、第5アームの一例であり、アームQ6は、第6アームの一例であり、アームQ7は、第7アームの一例であり、アームQ8は、第8アームの一例である。U2相のレグ13は、第3レグの一例であり、V2相のレグ14は、第4レグの一例である。
【0031】
二次側ブリッジ回路140は、アームQ5とアームQ6との中間接続点a2と、アームQ7とアームQ8との中間接続点b2とを接続するブリッジ部分に、トランス30の二次巻線32が設けられたフルブリッジ回路である。二次側ブリッジ回路140は、トランス30の二次巻線32に直列に接続されるリアクトルを当該ブリッジ部分に有してもよい。
【0032】
二次側ブリッジ回路140は、図1に示す例では、コンデンサC2と、アームQ5~Q8と、を有する。
【0033】
コンデンサC2は、二次側の直流母線対P2,N2の間に接続され、直流母線対P2,N2間の電圧(コンデンサC2の電圧)を平滑化する。
【0034】
アームQ5~Q8は、二次側のスイッチング素子である。その具体例として、アームQ1~Q4と同様、MOSFET、IGBTなどの半導体スイッチング素子が挙げられる。
【0035】
レグ13は、アームQ5とアームQ6とが直流母線対P2,N2の間に直列に接続された構成を含み、レグ14は、アームQ7とアームQ8とが直流母線対P2,N2の間に直列に接続された構成を含む。アームQ5~Q8は、アームQ1~Q4と同様、それぞれ、第1主端子と、第2主端子と、制御端子と、ダイオードと、を有する。図1は、還流ダイオードD5,D6,D7,D8を例示する。
【0036】
このような構成により、二次側ブリッジ回路140は、アームQ5及びアームQ8がオン、アームQ6及びアームQ7がオフとなると、中間接続点a2を直流母線P2に電気的に接続し、中間接続点b2を直流母線N2に電気的に接続して、中間接続点a2と中間接続点b2の間の電圧V2を正電圧"E2"とする。E2は、直流母線対P2,N2の間の電圧値である。また、二次側ブリッジ回路140は、アームQ5及びアームQ8がオフ、アームQ6及びアームQ7がオンとなると、中間接続点a2を直流母線N2に電気的に接続し、中間接続点b2を直流母線P2に電気的に接続して、電圧V2を負電圧"-E2"とする。このようにして、二次側ブリッジ回路140は、トランス30の二次巻線32に二次側の直流母線対P2,N2によって印加される電圧の極性を切り替える。
【0037】
さらに、二次側ブリッジ回路140は、アームQ5及びアームQ7がオン、アームQ6及びアームQ8がオフとなると、中間接続点a2及び中間接続点b2の両方を直流母線P2に電気的に接続して、電圧V2を実質的にゼロとする。又は、二次側ブリッジ回路140は、アームQ5及びアームQ7がオフ、アームQ6及びアームQ8がオンとなると、中間接続点a2及び中間接続点b2の両方を直流母線N2に電気的に接続して、電圧V2を実質的にゼロとする。
【0038】
制御装置150は、一次側ブリッジ回路130と二次側ブリッジ回路140との間で電力が伝送されるように、一次側ブリッジ回路130と二次側ブリッジ回路140との間のスイッチングの位相差(以下、位相差δとも称する)を制御する。制御装置150は、電圧V1と電圧V2との位相差δを制御することによって、一次側ブリッジ回路130と二次側ブリッジ回路140との間で伝送される電力を調整する。制御装置150は、一次側ブリッジ回路130のアームQ1~Q4の制御端子のオン又はオフを制御するためのゲート信号g1~g4と、二次側ブリッジ回路140のアームQ5~Q8の制御端子のオン又はオフを制御するためのゲート信号g5~g8とを出力する。
【0039】
制御装置150は、ゲート信号g1~g4によって、一次側ブリッジ回路130のアームQ1~Q4のオン又はオフのスイッチングを制御する。制御装置150は、ゲート信号g5~g8によって、二次側ブリッジ回路140のアームQ5~Q8のオン又はオフのスイッチングを制御する。
【0040】
制御装置150は、一次側ブリッジ回路130及び二次側ブリッジ回路140のそれぞれの直流電圧検出値を取得する。制御装置150は、これらの検出値と電力の指令値とに基づいて、ブリッジ間の伝送電力を制御するためのゲート信号g1~g8を生成してアームQ1~Q8を制御する。本実施形態では、制御装置150は、電圧検出値E1及び電圧検出値E2を取得し、これらの検出値と入力される電力指令Ptotalとに基づいて、N台のDABの各々の伝送電力を調整するため、N台のDABの各々のゲート信号g1~g8を生成してN台のDABの各々のアームQ1~Q8を制御する。
【0041】
電圧検出値E1は、一次側ブリッジ回路130の直流電圧の検出値であり、より具体的には、直流母線対P1,N1の間の電圧E1の検出値である。電圧検出値E2は、二次側ブリッジ回路140の直流電圧の検出値であり、より具体的には、直流母線対P2,N2の間の電圧E2の検出値である。N台のDABの入力側は互いに並列に接続されているので、電圧検出値E1は、N台のDABに共通の値である。N台のDABの出力側は互いに並列に接続されているので、電圧検出値E2は、N台のDABに共通の値である。電力指令Ptotalは、N台のDABに要求される総伝送電力を表す指令値である。指令値は、目標値とも称される。
【0042】
制御装置150の機能は、メモリに記憶されたプログラムによって、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが動作することにより実現される。制御装置150の機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって実現されてもよい。
【0043】
図2は、制御装置の要部を示すブロック線図である。制御装置150は、個別電力指令演算部51、位相差演算部52およびゲート信号生成部53を有する。
【0044】
個別電力指令演算部51は、電力指令Ptotalに基づいて、N台のDABの個別電力指令P1~PNを演算する。個別電力指令P1~PNを演算方法の詳細は、後述する。
【0045】
位相差演算部52は、個別電力指令演算部51から出力される個別電力指令P1~PNに基づいて、N台のDABの各々についての、一次側ブリッジ回路130と二次側ブリッジ回路140との間のスイッチングの位相差δ1~δNを演算する。N台のDABの個別電力指令P1~PNと位相差δ1~δNとの関係は、式1のように表される。
【0046】
【数1】
ただし、jは、1以上N以下の整数である。fは、一次側ブリッジ回路130と二次側ブリッジ回路140のスイッチング周波数、E1は、一次側ブリッジ回路130の直流電圧の検出値、E2は、二次側ブリッジ回路140の直流電圧の検出値を表す。Lは、トランス30の漏れインダクタンスを表し、各DABにおいて等しいと想定している。
【0047】
位相差演算部52は、N台のDABの個別電力指令P1~PN、検出値E1及びE12を式1に代入することで、N台のDABの各々の位相差δ1~δNを演算する。
【0048】
ゲート信号生成部53は、位相差演算部52から出力される位相差δ1~δNに基づいて、N台のDABの各々のゲート信号g1~g8を生成する。位相差δに基づいてゲート信号g1~g8を生成する方法は、周知の方法でよい。
【0049】
図3は、個別電力指令演算部による演算方法の一例を示す表である。演算方法は、下記3つのケースに分類できる。なお、図3の条件において、「&&」は、「且つ」を意味する。Nは、並列接続されるDABの総数(2以上の整数)を表す。電力指令Ptotalは、N台のDABに要求される総伝送電力を表す。所定の伝送電力PZVSは、1台のDABがZVSの実現に必要な最小伝送電力を表す。定格容量Punit_ratedは、N台のDABに含まれる1台のDABの定格伝送電力を表す。
【0050】
ケースIは、電力指令Ptotalが(N×PZVS)以上の場合の個別電力指令P1~PNの演算を示す。ケースIでは、個別電力指令演算部51は、N台のDABに要求される総伝送電力がN台のDABに均等に分担されるようにN台のDABをZVSで動作させる。
【0051】
ケースIIは、電力指令Ptotalが((N-1)×PZVS)以上(N×PZVS)未満の場合の個別電力指令P1~PNの演算を示す。ケースIIでは、個別電力指令演算部51は、ZVSさせるDABの台数が最大となるようにN台のDABの各々の伝送電力を調整する。具体的には、個別電力指令演算部51は、最大数のDABがZVSを実現できるように、N台のDABに要求される総伝送電力に応じて、DABの運転台数を減らしてDAB1台当たりが制御する伝送電力を上昇させる。
【0052】
ケースIIの条件1『if(Ptotal/N<PZVS)&&(Ptotal/(N-1)≧PZVS)』は、PtotalをN台のDABで均等に分担するとN台のDAB全てはZVSできないが、Ptotalを(N-1)台のDABで均等に分担すると(N-1)台のDAB全てはZVSできることを示す。ケースIIの条件1が成立する場合、個別電力指令演算部51は、(Ptotal/(N-1)>Punit_rated)のとき、1台目から(N-1)台目のDABの各々の伝送電力をPunit_ratedに調整し、N台目のDABの伝送電力を(Ptotal-(N-1)×Punit_rated)に調整する。このとき、制御装置150は、1台目から(N-1)台目のDABをZVSで動作させ、N台目のDABをハードスイッチングさせる。
【0053】
一方、ケースIIの条件1が成立する場合、個別電力指令演算部51は、(Ptotal/(N-1)≦Punit_rated)のとき、1台目から(N-1)台目のDABの各々の伝送電力を(Ptotal/(N-1))に調整し、N台目のDAB伝送電力を零に調整する。このとき、制御装置150は、1台目から(N-1)台目のDABをZVSで動作させ、N台目のDABのスイッチングを停止させる、又は、N台目のDABのスイッチングの伝送電力が零になるようにN台目のDABをスイッチングさせる。
【0054】
ケースIIの条件2『if(Ptotal/(N-1)<PZVS)&&(Ptotal/(N-2)≧PZVS)』は、Ptotalを(N-1)台のDABで均等に分担すると(N-1)台のDAB全てはZVSできないが、Ptotalを(N-2)台のDABで均等に分担すると(N-2)台のDAB全てはZVSできることを示す。ケースIIの条件2が成立する場合、個別電力指令演算部51は、(Ptotal/(N-2)>Punit_rated)のとき、1台目から(N-2)台目のDABの各々の伝送電力をPunit_ratedに調整し、(N-1)台目のDABの伝送電力を(Ptotal-(N-2)×Punit_rated)に調整し、N台目のDABの伝送電力を零に調整する。このとき、制御装置150は、1台目から(N-2)台目のDABをZVSで動作させ、(N-1)台目のDABをハードスイッチングさせる。また、このとき、制御装置150は、N台目のDABのスイッチングを停止させる又はN台目のDABのスイッチングの伝送電力が零になるようにN台目のDABをスイッチングさせる。
【0055】
一方、ケースIIの条件2が成立する場合、個別電力指令演算部51は、(Ptotal/(N-2)≦Punit_rated)のとき、1台目から(N-2)台目のDABの各々の伝送電力を(Ptotal/(N-2))に調整し、(N-1)及びN台目のDABの各々の伝送電力を零に調整する。このとき、制御装置150は、1台目から(N-2)台目のDABをZVSで動作させ、(N-1)及びN台目のDABのスイッチングを停止させる、又は、(N-1)及びN台目のDABのスイッチングの伝送電力が零になるように(N-1)及びN台目のDABをスイッチングさせる。
【0056】
よって、条件を一般化すると、制御装置150は、ケースIIの条件『Ptotal/(N-(n-1))<PZVS)且つ(Ptotal/(N-n)≧PZVS) (ただし、n=1~(N-1))』が成立の場合、ZVSさせるDABの台数が最大となるようにN台のDABの各々の伝送電力を調整する。(N-n)は、N台のDABのうちZVSさせる一部のDABの台数kを表す(k=N-n)。nは、N台のDABのうち、ZVSさせる(N-n)台のDAB以外の残りのDABの台数(1以上(N-1)以下の整数)を表す。
【0057】
制御装置150は、ケースIIの一般化条件が成立の場合、(Ptotal/(N-n)>Punit_rated)のとき、1台目から(N-n)台目のDABの各々の伝送電力をPunit_ratedに調整し、(N-(n-1))台目のDABの伝送電力を(Ptotal-(N-n)×Punit_rated)に調整し、(N-(i-1))台目のDABの各々の伝送電力を零に調整する(ただし、i=1~(n-1)である)。このとき、制御装置150は、1台目から(N-n)台目のDABをZVSで動作させ、(N-(n-1))台目のDABをハードスイッチングさせる。また、このとき、制御装置150は、(N-(i-1))台目のDABのスイッチングを停止させる又は、(N-(i-1))台目のDABのスイッチングの伝送電力が零になるように(N-(i-1))台目のDABをスイッチングさせる。
【0058】
一方、ケースIIの一般化条件が成立の場合、(Ptotal/(N-n)≦Punit_rated)のとき、1台目から(N-n)台目のDABの各々の伝送電力を(Ptotal/(N-n))に調整し、(N-(i-1))台目のDABの各々の伝送電力を零に調整する(ただし、i=1~nである)。このとき、制御装置150は、1台目から(N-n)台目のDABをZVSで動作させ、(N-(i-1))台目のDABのスイッチングを停止させる、又は、(N-(i-1))台目のDABのスイッチングの伝送電力が零になるように(N-(i-1))台目のDABをスイッチングさせる。
【0059】
ケースIIIは、電力指令PtotalがPZVS未満の場合の個別電力指令P1~PNの演算を示す。ケースIIIでは、N台のDABに要求される総伝送電力が小さすぎてDABが1台もZVSで動作できないので、1台のDABのみをハードスイッチングさせる。
【0060】
ケースIIIの条件が成立の場合、制御装置150は、1台目のDABのみの伝送電力をPtotalに調整し、2台目からN台目のDABの各々の伝送電力を零に調整する。このとき、制御装置150は、1台目のDABをハードスイッチングで動作させ、2台目からN台目のDABのスイッチングを停止させる、又は、2台目からN台目のDABのスイッチングの伝送電力が零になるように2台目からN台目のDABをスイッチングさせる。
【0061】
このように、制御装置150は、図3に示す演算方法を用いた制御方法に従って、複数のDABの各々の伝送電力の総和が複数のDABに要求される総伝送電力に一致するように複数のDABのうち一部のコンバータのみをゼロ電圧スイッチングさせる。これにより、電力変換装置100のスイッチング損失の増大が抑制され、電力変換装置100の効率が向上する。そして、制御装置150は、図3に示す演算方法によって各DABが制御する伝送電力を決定することによって、ZVSさせるDABの数が最大となるので、電力変換装置100のスイッチング損失の増大を抑制できる。
【0062】
なお、ZVSとは、スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間の電圧が略零の状態(具体的には、スイッチング素子に並列に存在するダイオードに順方向電流が流れている状態)で当該スイッチングをオンさせることをいう。ハードスイッチングとは、スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間に略零でない電圧が印加されている状態(具体的には、スイッチング素子に並列に存在するダイオードに順方向電流が流れていない状態)で当該スイッチングをオンさせることをいう。
【0063】
DABをZVSさせるとは、当該DABに含まれるアームQ1~Q8を、1スイッチング周期以上、ゼロ電圧スイッチングさせることをいう。DABをハードスイッチングさせるとは、当該DABに含まれるアームQ1~Q8を、1スイッチング周期以上、ハードスイッチングさせることをいう。
【0064】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0065】
例えば、上記の実施形態では、各DABの両側のDC/AC変換回路としてフルブリッジ回路を用いたが、ハーフブリッジなどの他の回路を用いてもよい。また、入力側と出力側との間で並列に接続された複数のコンバータは、DAB以外のDC/DCコンバータでもよい。
【符号の説明】
【0066】
100 電力変換装置
11,12,13,14 レグ
30 トランス
31 一次巻線
32 二次巻線
51 個別電力指令演算部
52 位相差演算部
53 ゲート信号生成部
130 一次側ブリッジ回路
140 二次側ブリッジ回路
150 制御装置
C1,C2 コンデンサ
D1~D8 還流ダイオード
Q1~Q8 アーム
図1
図2
図3