(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080115
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】クロスローラ軸受およびクロスローラ軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/60 20060101AFI20240606BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20240606BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
F16C33/60
F16C19/36
F16C33/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193027
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼谷 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松原 幸生
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA26
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA64
3J701BA69
3J701DA02
3J701DA09
3J701DA12
3J701DA20
3J701FA31
3J701FA48
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB26
3J701XB31
(57)【要約】
【課題】メンテナンスが容易で長寿命なクロスローラ軸受を提供すること。
【解決手段】鋼製の外輪と、前記外輪と共通の中心軸を有し、前記外輪の内周側に配置される鋼製の内輪と、前記外輪の内周面および前記内輪の外周面上を転動可能に配置される複数の転動体と、を備えるクロスローラ軸受である。前記外輪は、第1転走面と、第2転走面を有する。前記内輪は、第3転走面と、第4転走面を有する。前記転動体は、前記第1転走面および前記第4転走面上を転動可能に配置される第1ローラと、前記第2転走面および前記第3転走面上を転動可能に配置される第2ローラと、を含む。前記第1転走面および前記第2転走面、または、前記第3転走面および前記第4転走面の少なくとも一方の表面性状が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たす。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の外輪と、
前記外輪と共通の中心軸を有し、前記外輪の内周側に配置される鋼製の内輪と、
前記外輪の内周面および前記内輪の外周面上を転動可能に配置される複数の転動体と、を備え、
前記外輪は、
前記外輪の前記内周面を構成する円環状の第1転走面と、
前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記外輪の前記内周面を構成する円環状の第2転走面と、を有し、
前記内輪は、
前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記第2転走面に対向するとともに前記内輪の前記外周面を構成する円環状の第3転走面と、
前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記第1転走面に対向するとともに前記中心軸を含む断面において前記第1転走面とをつなぐ線分が前記第2転走面と前記第3転走面とをつなぐ線分に交差し、前記内輪の前記外周面を構成する円環状の第4転走面と、を有し、
前記転動体は、
前記第1転走面および前記第4転走面上を転動可能に配置される第1ローラと、
前記第2転走面および前記第3転走面上を転動可能に配置される第2ローラと、
を含み、
前記第1転走面および前記第2転走面、または、前記第3転走面および前記第4転走面の少なくとも一方の表面性状が、
アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下
を満たす、
クロスローラ軸受。
【請求項2】
前記転動体の転走面の表面性状が、
二乗平均平方根高さSqが0.2μm以下
を満たす、請求項1に記載のクロスローラ軸受。
【請求項3】
前記外輪および前記内輪のそれぞれが、曲げられた1枚の鋼板から構成されている、
請求項1または請求項2に記載のクロスローラ軸受。
【請求項4】
(1) 円環状の第1転走面と、前記第1転走面と共通の中心軸を有する円環状の第2転走面と、を内周面に有する外輪、
円環状の第3転走面と、前記第3転走面と共通の中心軸を有する円環状の第4転走面と、を外周面に有する内輪、および、
複数のローラである転動体
を準備する工程と、
(2)前記外輪と、前記内輪と、前記複数のローラと、を組み合わせて、クロスローラ軸受を得る工程と、
を含み、
前記(1)準備する工程は、
(a)ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板をプレスすることによって、前記第1転走面および第2転走面を成形する工程を含む、または、
(b)ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板をプレスすることによって、前記第3転走面および前記第4転走面を成形する工程を含む、
クロスローラ軸受の製造方法。
【請求項5】
前記(2)クロスローラ軸受を得る工程において得られた前記クロスローラ軸受は、
前記第1転走面および前記第2転走面、または、前記第3転走面および前記第4転走面の少なくとも一方の表面性状が、
アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下
を満たす、
請求項4に記載のクロスローラ軸受の製造方法。
【請求項6】
前記(a)の後に、前記プレスすることによって成形された前記第1転走面および前記第2転走面に浸炭焼入れおよび焼き戻しを実施し、その後、バレル処理を実施する工程を含む、
または、
前記(b)の後に、前記プレスすることによって成形された前記第3転走面および前記第4転走面に浸炭焼入れおよび焼き戻しを実施し、その後、バレル処理を実施する工程を含む、
請求項4または請求項5に記載のクロスローラ軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスローラ軸受およびクロスローラ軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外輪、内輪のそれぞれが一対の板部材からなるクロスローラ軸受が知られている(例えば特許文献1)。外輪、内輪の転動部の表面に等方性の凹凸が形成され、前記表面上に鉄の酸化物および化合物を主成分とする複合皮膜が形成された玉軸受が知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-178735号公報
【特許文献2】特開2019-157978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メンテナンスが容易で長寿命なクロスローラ軸受に対するニーズが存在する。そこで、本開示は、メンテナンスが容易で長寿命なクロスローラ軸受を提供することを目的の1つとする。また、メンテナンスが容易で長寿命なクロスローラ軸受の製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に従ったクロスローラ軸受は、鋼製の外輪と、前記外輪と共通の中心軸を有し、前記外輪の内周側に配置される鋼製の内輪と、前記外輪の内周面および前記内輪の外周面上を転動可能に配置される複数の転動体と、を備える。前記外輪は、前記外輪の前記内周面を構成する円環状の第1転走面と、前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記外輪の前記内周面を構成する円環状の第2転走面と、を有する。前記内輪は、前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記第2転走面に対向するとともに前記内輪の前記外周面を構成する円環状の第3転走面と、前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記第1転走面に対向するとともに前記中心軸を含む断面において前記第1転走面とをつなぐ線分が前記第2転走面と前記第3転走面とをつなぐ線分に交差し、前記内輪の前記外周面を構成する円環状の第4転走面と、を有する。前記転動体は、前記第1転走面および前記第4転走面上を転動可能に配置される第1ローラと、前記第2転走面および前記第3転走面上を転動可能に配置される第2ローラと、を含む。前記第1転走面および前記第2転走面、または、前記第3転走面および前記第4転走面の少なくとも一方の表面性状が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たす。
【0006】
本開示に従ったクロスローラ軸受の製造方法は、(1)円環状の第1転走面と、前記第1転走面と共通の中心軸を有する円環状の第2転走面と、を内周面に有する外輪、円環状の第3転走面と、前記第3転走面と共通の中心軸を有する円環状の第4転走面と、を外周面に有する内輪、および、複数のローラである転動体を準備する工程と、(2)前記外輪と、前記内輪と、前記複数のローラと、を組み合わせて、クロスローラ軸受を得る工程と、を含む。前記(1)準備する工程は、(a)ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板をプレスすることによって、前記第1転走面および第2転走面を成形する工程を含む、または、(b)ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板をプレスすることによって、前記第3転走面および前記第4転走面を成形する工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
上記クロスローラ軸受によれば、メンテナンスが容易で長寿命なクロスローラ軸受が提供される。また、上記クロスローラ軸受の製造方法によれば、メンテナンスが容易で長寿命なクロスローラ軸受の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示にかかるクロスローラ軸受の構造を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-IIで切断した状態の一部を示す断面一部拡大図である。
【
図3】
図3は、本開示にかかるクロスローラ軸受の構造を示す概略平面図である。
【
図4】
図4は、
図3のIV-IVで切断した状態の一部を示す断面一部拡大図である。
【
図5】
図5は、本開示にかかる製造方法のフローを示す図である。
【
図6】
図6は、評価試験に用いたクロスローラ軸受No.1およびNo.7の転走面のレーザマイクロスコープ像を示す。
【
図7】
図7は、評価試験に用いたクロスローラ軸受No.1~No.7の半価幅の減少分(Δ半価幅)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施態様の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に従ったクロスローラ軸受は、鋼製の外輪と、前記外輪と共通の中心軸を有し、前記外輪の内周側に配置される鋼製の内輪と、前記外輪の内周面および前記内輪の外周面上を転動可能に配置される複数の転動体と、を備える。前記外輪は、前記外輪の前記内周面を構成する円環状の第1転走面と、前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記外輪の前記内周面を構成する円環状の第2転走面と、を有する。前記内輪は、前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記第2転走面に対向するとともに前記内輪の前記外周面を構成する円環状の第3転走面と、前記第1転走面と共通の中心軸を有し、前記第1転走面に対向するとともに前記中心軸を含む断面において前記第1転走面とをつなぐ線分が前記第2転走面と前記第3転走面とをつなぐ線分に交差し、前記内輪の前記外周面を構成する円環状の第4転走面と、を有する。前記転動体は、前記第1転走面および前記第4転走面上を転動可能に配置される第1ローラと、前記第2転走面および前記第3転走面上を転動可能に配置される第2ローラと、を含む。前記第1転走面および前記第2転走面、または、前記第3転走面および前記第4転走面の少なくとも一方の表面性状が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たす。
【0010】
従来、クロスローラ軸受が公知である。例えば特許文献1には、外輪、内輪のそれぞれが一対の板部材からなるクロスローラ軸受が開示されている。クロスローラ軸受の外輪および内輪はそれぞれ、径方向に沿う断面がV字状である一対の転走面を有する。クロスローラ軸受は、軌道内にグリースを注入し、転走面にグリースの油膜が形成された状態で使用される。ただし、油膜の形成状態が悪いと、転走面にピーリング等の表面損傷が発生することがある。このような損傷個所を起点として剥離が発生すると、軸受としての機能を果たせなくなることがある。
【0011】
一方、特許文献2には、玉軸受において、外輪や内輪の転動部の表面に等方性の凹凸を有し、表面上に鉄の酸化物および化合物を主成分とする複合皮膜が形成されたものが記載されている。特許文献2は、複合皮膜を形成するための化成処理によって、機械加工によって形成された表面の凹凸の凸部の突起形状の曲率や頂点高さのばらつきが小さくなることを開示している。特許文献2は、この構成によれば、油膜形成性が悪い状態で使用されても、長寿命を実現できることを開示している。
【0012】
このような状況の下、クロスローラ軸受の長寿命化を図るための構成が検討された。従来、クロスローラ軸受の転走面は研削加工によって形成されている。研削加工においては、転走面の周方向に沿うよう砥石を回転させるため、転走面の周方向に沿って研削目が形成される。すなわち、従来のクロスローラ軸受は、転走面の周方向に沿う研削目を有していた。これに対して本開示によれば、クロスローラ軸受の転走面を等方性の表面性状とすること、具体的には次の条件を満たす表面性状とすることによって、クロスローラ軸受の長寿命化が図られることが見出された。本開示にかかるクロスローラ軸受は、外輪または内輪の少なくとも一方の転走面のアスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下である。
【0013】
前記クロスローラ軸受において、前記転動体の転走面の表面性状が、二乗平均平方根高さSqが0.2μm以下を満たすものとしてよい。転動体の表面性状がこの条件を満たすと、外輪および内輪の転走面の疲労の進行が抑制され、長寿命化の効果が確実になる。
【0014】
前記クロスローラ軸受において、前記外輪および前記内輪のそれぞれが、曲げられた1枚の鋼板から構成されているものとできる。このようなクロスローラ軸受は、前述の効果を有するとともに、きわめて薄く、軽量な軸受となる。
【0015】
本開示に従ったクロスローラ軸受の製造方法は、(1)円環状の第1転走面と、前記第1転走面と共通の中心軸を有する円環状の第2転走面と、を内周面に有する外輪、円環状の第3転走面と、前記第3転走面と共通の中心軸を有する円環状の第4転走面と、を外周面に有する内輪、および、複数のローラである転動体を準備する工程と、(2)前記外輪と、前記内輪と、前記複数のローラと、を組み合わせて、クロスローラ軸受を得る工程と、を含む。前記(1)準備する工程は、(a)ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板をプレスすることによって、前記第1転走面および第2転走面を成形する工程を含む、または、(b)ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板をプレスすることによって、前記第3転走面および前記第4転走面を成形する工程を含む。
【0016】
この製造方法によれば、転走面における疲労の進行が少なく、メンテナンスが容易で長寿命であるクロスローラ軸受を合理的な製造方法によって得ることができる。
【0017】
前記製造方法において、前記(2)クロスローラ軸受を得る工程において得られた前記クロスローラ軸受は、前記第1転走面および前記第2転走面、または、前記第3転走面および前記第4転走面の少なくとも一方の表面性状が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たすものとできる。このような構成によれば、長寿命化の効果が確実になる。
【0018】
前記製造方法において、前記(a)の後に、前記プレスすることによって成形された前記第1転走面および前記第2転走面に浸炭焼入れおよび焼き戻しを実施し、その後、バレル処理を実施する工程を含む、
または、
前記(b)の後に、前記プレスすることによって成形された前記第3転走面および前記第4転走面に浸炭焼入れおよび焼き戻しを実施し、その後、バレル処理を実施する工程を含む、ものとしてよい。この製造方法によれば、長寿命化の効果が確実になる。
【0019】
[実施形態の具体例]
次に、本開示に従うクロスローラ軸受の具体的な実施の形態の例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本開示の一実施の形態におけるクロスローラ軸受1の構造を示す概略斜視図である。
図1におけるZ軸方向は、クロスローラ軸受1の中心軸Rが延びる方向に沿う方向である。
図2は、クロスローラ軸受1を
図1中のII-IIで切断した場合の断面を一部拡大した、一部拡大断面図である。II-IIで切断した断面は、後述する第1ローラの中心軸を含む断面である。
【0021】
図1を参照して、実施の形態1におけるクロスローラ軸受1は、外輪1Aと、内輪1Bと、複数の転動体としてのローラ1Cと、を備える。外輪1Aおよび内輪1Bは、鋼製である。内輪1Bは、外輪1Aの内周側に配置される。外輪1Aおよび内輪1Bは、所定の形状に加工された鋼板からなる。本実施の形態において、外輪1Aおよび内輪1Bを構成する鋼は、例えば、JIS規格に規定されるSCM415である。
【0022】
外輪1Aは、円環状の第1外輪10と、円環状の第2外輪20と、を含む。第1外輪10と、第2外輪20とは、互いに同一の形状を有する。第1外輪10および第2外輪20は、中心軸Rの方向に互いに並べて配置されている。第1外輪10と第2外輪20とは、互いに固定されている。
【0023】
内輪1Bは、円環状の第1内輪30と、円環状の第2内輪40と、を含む。第1内輪30と、第2内輪40とは、互いに同一の形状を有する。第1内輪30および第2内輪40は、中心軸Rの方向に互いに並べて配置されている。第1内輪30と第2内輪40とは、互いに固定されている。
【0024】
クロスローラ軸受1の具体的な寸法は、本開示にかかる効果を奏する限り特に制限されないが、典型的には、外輪1Aの外径が30mm~150mm程度、内輪1Bの内径が0mm~120mm程度であってよい。また、軸方向の厚みは4mm~15mm程度とできる。クロスローラ軸受1は超薄型とも称される、軸方向の寸法が特に抑制されたクロスローラ軸受である。
【0025】
図1および
図2を参照して、外輪1Aの内周面と内輪1Bの外周面とによって構成される円環状の軌道路内に、複数のローラ1Cが配置される。ローラ1Cは、複数の第1ローラ51と、複数の第2ローラ52と、を含む。第1ローラ51および第2ローラ52は、周方向に並んで交互に配置される。第1ローラ51および第2ローラ52は、円柱状の形状を有する。第1ローラ51と第2ローラ52とは、配置方向が異なるのみで、同一の材料および寸法を有する。第1ローラ51および第2ローラ52は、鋼製である。第1ローラ51および第2ローラ52は、例えば、JIS規格に規定されるSUJ2からなる。
【0026】
外輪1Aについて説明する。
図1および
図2を参照して、第1外輪10は、中心軸Rに直交する方向に延びる第1部分15を有する。第2外輪20は、中心軸Rに直交する方向に延びる第1部分25を有する。第1部分15、25は、円盤環状の部分である。第1部分15は、中心軸Rと共通の中心軸を有する。第1部分15、25には、厚み方向(中心軸Rの方向)に貫通した取り付け用孔11が周方向において等間隔に複数(実施の形態1においては6つ)形成されている。クロスローラ軸受1を外部部材に対して固定する際には、例えば、取り付け用孔11にボルトを挿入し、外部部材のねじ孔にボルトをねじ込むことによって、外輪1Aが外部部材に対して固定される。
【0027】
第1部分15には、取り付け用孔11の間に、貫通孔12および突出部13が形成されている。貫通孔12には、第2外輪20の突出部22が嵌合している。突出部13は、第2外輪20に形成される、貫通孔12と同径である貫通孔に嵌合されている。嵌合部は接着剤によって接着されていてもよい。この構成によって、第1外輪10と第2外輪20が互いに固定されている。第1外輪10と第2外輪20との固定の仕方はこれに制限されず、例えばビス等で固定されていてもよい。
【0028】
図2を参照して、第1外輪10は、第1部分15と、第2部分16と、第3部分17と、を含む。第1部分15、第2部分16および第3部分17は、おおむね同一の厚みを有する。第3部分17は、第1部分15よりも若干(例えば0.1~0.3mm程度)薄くてもよい。第1部分15が、第2部分16および第3部分17よりも厚くてもよい。第1部分15は、円盤環状の形状を有する。第2部分16は、筒状の形状を有する。第2部分16の外形形状は、円錐台状である。第2部分16は、第1部分15の内縁からZ軸方向において第1部分15から離れるにしたがって内径が小さくなるように延びる。言い換えると、第2部分16は、クロスローラ軸受1の径方向の外方に向かうにしたがって大きくなる径を有する。第2部分16は、円環状の内周面16aを有する。内周面16aは、第1ローラ51がその上を転走する第1転走面を構成する。内周面16aは、クロスローラ軸受1の中心軸Rと共通の中心軸を有する。第3部分17は、円筒状の形状を有する。第3部分17は、クロスローラ軸受1の中心軸Rと共通の中心軸を有する。第3部分17は、第2部分16のZ軸方向における第1部分15とは反対側の端部に接続され、Z軸方向に沿って延びる。
【0029】
同様に、第2外輪20は、第1部分25と、第2部分26と、第3部分27と、を含む。第1部分25は第1部分15と同様の構成である。第2部分26は第2部分16と同様の構成である。第3部分27は第3部分17と同様の構成である。第2部分26は、Z軸方向において第1外輪10の第2部分16とは反対側に延びるよう配置される。第2部分26は、円環状の内周面26aを有する。内周面26aは、第2ローラ52がその上を転走する第2転走面を構成する。第3部分27は、第2部分26のZ軸方向における第1部分25とは反対側の端部に接続され、Z軸方向に沿って第3部分17とは反対側に延びる。
【0030】
第1外輪10と第2外輪20とは、第1外輪10における第1部分15の主面15aおよび第2外輪20における第1部分25の主面25aにおいて相対し、互いに固定されている。
【0031】
内輪1Bについて説明する。
図1および
図2を参照して、第1内輪30は、中心軸Rに直交する方向に延びる第1部分35を有する。第2内輪40は、中心軸Rに直交する方向に延びる第1部分45を有する。第1部分35、45は、円盤環状の部分である。第1部分35、45には、厚み方向(中心軸Rの方向)に貫通した取り付け用孔31が周方向において等間隔に複数(実施の形態1においては6つ)形成されている。クロスローラ軸受1を外部部材に対して固定する際には、例えば、取り付け用孔31にボルトを挿入し、外部部材のねじ孔にボルトをねじ込むことによって、内輪1Bが外部部材に対して固定される。
【0032】
第1部分35には、取り付け用孔31の間に、貫通孔32および突出部33が交互に形成されている。貫通孔32には、第2内輪40の突出部42が嵌合している。突出部33は、第2内輪40に形成される、貫通孔32と同径である貫通孔に嵌合されている。嵌合部は接着剤によって接着されていてもよい。この構成によって、第1内輪30と第2内輪40が互いに固定されている。第1内輪30と第2内輪40との固定の仕方はこれに制限されず、例えばビス等で固定されていてもよい。
【0033】
第1内輪30は、第1部分35と、第2部分36と、第3部分37と、を含む。第1部分35、第2部分36および第3部分37は、おおむね同一の厚みを有する。第3部分37は、第1部分35よりも若干(例えば0.1~0.3mm程度)薄くてもよい。第1部分35が、第2部分36および第3部分37よりも厚くてもよい。第1外輪10の厚みと、第1内輪30の厚みとは一致する。第1部分35は、円盤環状の形状を有する。第1部分35は、クロスローラ軸受1の中心軸Rと共通の中心軸を有する。第2部分36は、筒状の形状を有する。第2部分36の外形形状は、円錐台状である。第2部分36は、第1部分35の外縁からZ軸方向において第1部分35から離れるにしたがって外径が大きくなるように延びる。言い換えると、第2部分36は、クロスローラ軸受1の径方向の外方に向かうにしたがって大きくなる径を有する。
【0034】
第2部分36は、円環状の外周面36aを有する。外周面36aは、第2ローラ52がその上を転走する第3転走面を構成する。外周面36aは、クロスローラ軸受1の中心軸Rと共通の中心軸を有する。第3部分37は、円筒状の形状を有する。第3部分37は、クロスローラ軸受1の中心軸Rと共通の中心軸を有する。第3部分37は、第2部分36のZ軸方向における第1部分35とは反対側の端部に接続される。
【0035】
同様に、第2内輪40は、第1部分45と、第2部分46と、第3部分47と、を含む。第1部分45は第1部分35と同様の構成である。第2部分46は第2部分36と同様の構成である。第3部分47は第3部分37と同様の構成である。第2部分46は、Z軸方向において第1内輪30の第2部分36とは反対側に延びるよう配置される。第2部分46は、円環状の外周面46aを有する。外周面46aは、第1ローラ51がその上を転走する第4転走面を構成する。第3部分47は、第2部分46のZ軸方向における第1部分45とは反対側の端部に接続され、Z軸方向に沿って第3部分47とは反対側に延びる。
【0036】
第1内輪30と第2内輪40とは、第1内輪30における第1部分35の主面35aおよび第2内輪40における第1部分45の主面45aにおいて相対し、互いに固定されている。
【0037】
第1外輪10の内周面16a(第1転走面)と、第2内輪40の外周面46a(第4転走面)とは、対向し、互いに平行に配置される。また、第2外輪20の内周面26aと、第1内輪30の外周面36aとは、対向し、互いに平行に配置される。中心軸Rを含む断面において、内周面16aと外周面46aとをつなぐ線分V1は、内周面26aと外周面36aとをつなぐ線分V2に交差する(直交する)。
【0038】
ローラ1Cについて説明する。
図2を参照して、第1ローラ51は、円筒状の外周面51aと、外周面51aの両端のそれぞれに円形の端面51b、51cとを有する。第1ローラ51において、円柱形状における径U
1と軸方向における長さU
2との関係は、U
2<U
1である。第1ローラ51の外周面51aが、第1外輪10の内周面16a(第1転走面)および第2内輪40の外周面46a(第4転走面)と接触し、第1ローラ51が内周面16aおよび外周面46a上を転動する。第2ローラ52(
図1)は第1ローラ51と同様の形状である。第2ローラ52の円筒状の外周面が、第2外輪20の内周面26a(第2転走面)および第1内輪30の外周面36a(第3転走面)と接触し、第2ローラ52が内周面26aおよび外周面36a上を転動する。
【0039】
クロスローラ軸受1の表面性状について説明する。クロスローラ軸受1は、外輪1Aの内周面である内周面16aおよび内周面26a、または、内輪1Bの外周面である外周面36aおよび外周面46aの少なくとも一方の表面性状が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たす。すなわち、外輪1Aが有する転走面および内輪1Bが有する転走面のうち、少なくとも一方の表面性状が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たす。外輪1Aの転走面および内輪1Bの転走面の両方が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たすことも好ましい。
【0040】
アスペクト比Strは、表面性状における等方性の指標である。アスペクト比Strは、ISO25178に定義される面粗さのパラメータである。具体的な測定方法の一例が、後述の実施例に示される。アスペクト比Strは0~1の範囲の値をとり、等方的な面のアスペクト比Strは1に近い値となり、異方的な面のアスペクト比Strは0に近い値となる。
【0041】
二乗平均平方根高さSqは、表面性状における粗さの指標である。二乗平均平方根高さSqは、ISO25178に定義される面粗さのパラメータである。具体的な測定方法の一例が、後述の実施例に示される。二乗平均平方根高さSqの値が大きいほど表面は粗く、表面に突起を有する表面形状であることを表す。
【0042】
本開示にかかるクロスローラ軸受は、外輪および/または内輪の転走面における二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下であり、かつ、アスペクト比Strが0.2以上であるという構成を有する。二乗平均平方根高さSqは、0.4μm以下であれば好ましい。また、二乗平均平方根高さSqは0.2μm以上であってよい。
【0043】
クロスローラ軸受の転走面において、二乗平均平方根高さSqは小さいほど好ましいと考えられていた。また従来、表面の精度を上げる手段として、超仕上げ等の高精度の仕上げ加工を実施すること等が知られている。しかしながら、クロスローラ軸受の軌道輪は形状が複雑であることや加工コスト等の状況から、二乗平均平方根高さSqを例えば0.2μm未満にまで低減することは、実用上、採用され難かった。この点、本開示では、クロスローラ軸受の転走面において、二乗平均平方根高さSqとアスペクト比Strの両方が一定の範囲を充足するときに、転走面の疲労進行が抑制され、長寿命のクロスローラ軸受が得られることを見出している。この構成によれば、二乗平均平方根高さSqを極限まで下げることなく、実用上採用可能かつ合理的な手段によって、長寿命のクロスローラ軸受が得られる。
【0044】
また、クロスローラ軸受1は、ローラ1Cの転走面、すなわち、第1ローラ51の外周面51aおよび第2ローラ52の円筒状の外周面の表面性状が、二乗平均平方根高さSqが0.2μm以下を満たすことが好ましい。ローラの表面性状をこの範囲とすることによって、相手面である内外輪の転走面に悪影響を及ぼすことが防止され、クロスローラ軸受の長寿命化が確実になる。
【0045】
(実施の形態2)
図3は、本開示の実施の形態の一例であるクロスローラ軸受100の構造を示す概略平面図である。
図4は、クロスローラ軸受100を
図3中のIV-IVで切断した場合の断面を一部拡大して示す一部拡大断面図である。IV-IVで切断した場合の断面はクロスローラ軸受100の中心軸Rを含む断面である。クロスローラ軸受100は、外輪および内輪の構成において、クロスローラ軸受1と相違する。クロスローラ軸受100は、転走面の表面性状を除いて、公知のクロスローラ軸受と共通あるいは類似する構成を有してよい。
【0046】
クロスローラ軸受100の具体的な寸法は、本開示にかかる効果を奏する限り特に制限されないが、典型的には、外輪の外径が20mm~250mm程度、内輪の内径が10mm~200mm程度のクロスローラ軸受であってよい。また、軸方向の厚みも特に制限されないが、例えば5mm~30mm程度とできる。
【0047】
クロスローラ軸受100の概要を説明する。
図3を参照して、クロスローラ軸受100は、円環状の外輪100Aと、円環状の内輪100Bと、外輪100Aと内輪100Bとの間に挿入された複数の転動体としてのローラ100Cと、を備える。外輪100Aと内輪100Bは共通の中心軸Rを有する。中心軸Rの延びる方向を軸方向という。ローラ100Cは、円筒形状を有する。ローラ100Cは、交互に配置された第1ローラ510と第2ローラ520とを含む。クロスローラ軸受100において、隣接する第1ローラ510と第2ローラ520は、転動軸が互いに直交するように配置されている。
【0048】
図4を参照して、外輪100Aは、軸方向に分割された2つの分割輪である第1外輪110および第2外輪120から構成される。第1外輪110は、第1転走面としての内周面160aを有する。第2外輪120は、第2転走面としての内周面260aを有する。内輪100Bは一体に形成された一部品からなる。内輪100Bは、外周面に、第3転走面としての外周面360aおよび第4転走面としての外周面460aを有する。
【0049】
図4を参照して、第1ローラ510は、円筒状の外周面510aと、外周面510aの両端のそれぞれに円形の端面510b、510cとを有する。第1ローラ510の外周面510aが、第1外輪110の内周面160a(第1転走面)および内輪100Bの外周面460a(第4転走面)と接触し、第1ローラ510が内周面160aおよび外周面460a上を転動する。第2ローラ520(
図3)は第1ローラ510と同様の形状である。第2ローラ520の円筒状の外周面が、第2外輪120の内周面260a(第2転走面)および内輪100Bの外周面360a(第3転走面)と接触し、第2ローラ520が内周面260aおよび外周面360a上を転動する。
【0050】
クロスローラ軸受100においても、外輪100Aの内周面である内周面160aおよび内周面260a、または、内輪100Bの外周面である外周面360aおよび外周面460aの少なくとも一方の表面性状が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たす。すなわち、外輪100Aが有する転走面および内輪100Bが有する転走面の少なくとも一方の表面性状が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たす。外輪100Aが有する転走面および内輪100Bが有する転走面の両方が、アスペクト比Strが0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSqが0.5μm以下を満たしてもよい。
【0051】
(クロスローラ軸受の製造方法1)
本開示にかかるクロスローラ軸受が前述のクロスローラ軸受1のような超薄型クロスローラ軸受である場合、一定の厚さを有する鋼板の順送プレス加工によって製造できる。
図5は、本開示にかかるクロスローラ軸受の製造方法における工程を示すフローである。
図5を参照して、まず、クロスローラ軸受を構成する各部材を準備する(S10)。
【0052】
準備工程S10において、外輪と、内輪と、転動体とを準備する。外輪は、円環状の第1転走面と、前記第1転走面と共通の中心軸を有する円環状の第2転走面と、を内周面に有する。内輪は、円環状の第3転走面と、前記第3転走面と共通の中心軸を有する円環状の第4転走面と、を外周面に有する。外輪、内輪、転動体の準備は順次行われてもよく、同時に並行して行われてもよい。また、外輪、内輪、転動体のそれぞれをあらかじめまとめて準備してもよい。
【0053】
外輪を準備する工程は、ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板をプレスすることによって、第1転走面および第2転走面を成形する工程を含む。具体的には、ブライト仕上げの冷間圧延鋼板が所定の形状に曲げられ、所定箇所がカットおよび成形された後、成形部分が鋼板から切断されることによって、第1外輪、第2外輪のそれぞれが作製される。所定の形状に曲げられる際のプレスの過程で、転走面が成形される。なお、成形においては公知の絞り加工が用いられうる。カット部分にはバーリングを施してもよい。また、プレス成形の後には、浸炭焼入れおよび焼戻しを施してもよい。さらに、熱処理スケールを除去するために、バレル処理を施してもよい。第1外輪および第2外輪は、区別なく製造されうる。多数製造された外輪部材の中から任意に、あるいは選択の上で、2つの外輪部材が一対に組み合わされ、互いに固定されて、ひとつの外輪が構成される。
なお、ブライト仕上げとは、JIS G 0203:2009において「冷間圧延鋼板及び鋼帯の表面状態を示し、研磨した冷間圧延ロールで圧延し、鋼板の表面を平滑で光沢のある状態に仕上げたもの。」と定義されている。ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板の一例として、例えば、Sqが0.2μm程度、Strが0.6程度である冷間圧延鋼板を使用できる。
【0054】
内輪を準備する工程は、ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板をプレスすることによって、第3転走面および第4転走面を成形する工程を含む。第1内輪、第2内輪のそれぞれは、一定の厚さを有する鋼板の順送プレス加工によって製造できる。具体的には、まず板材にスリットを入れ、次いで絞りによって立ち上がり部を成形した後、所定箇所をカットし、次いで成形部分が板材から切断されることによって、第1内輪および第2内輪のそれぞれが作製される。外輪を作製する場合と同様、所定の形状に曲げられる際のプレスの過程で、転走面が成形される。成形においては公知の絞り加工が用いられうる。カット部分にはバーリングを施してもよい。また、プレス成形の後には、浸炭焼入れおよび焼戻しを施してもよい。さらに、熱処理スケールを除去するために、バレル処理を施してもよい。第1内輪および第2内輪は、区別なく製造されうる。多数製造された内輪部材の中から任意に、あるいは選択の上で、2つの内輪部材が一対に組み合わされ、互いに固定されて、ひとつの内輪が構成される。
【0055】
ローラは、公知の製造方法で作製し、あるいは、作製されたものを入手して用いることができる。所望の表面性状とするために、公知の方法によって外周面を研磨してもよい。
【0056】
材料となるブライト仕上げの冷間圧延鋼板としては、例えば厚みが0.3mm~5mm程度のものを用いることができる。
【0057】
次いで、組み立て工程を実施する(S20)。組み立て工程S20は、クロスローラ軸受において採用される公知の組み立て手順を適用できる。例えば、まず、第1内輪と第2内輪を組み合わせて内輪を構成する。次いで第2外輪をセットし、続いてローラを所定の方向に並べて配置する。すべてのローラが配置された後、第1外輪が組み合わされて固定される。以上の手順でクロスローラ軸受が得られる(S30)。
【0058】
ブライト仕上げの冷間圧延鋼板を用いてプレス加工によって外輪および内輪を製造する場合、転走面の表面性状が、アスペクト比Str0.2以上、かつ、二乗平均平方根高さSq0.5μm以下を満たす外輪および内輪を得ることができる。上述の製造方法によって得られるクロスローラ軸受は、転走面の疲労の進行が少なく、長寿命のクロスローラ軸受となる。
【0059】
(クロスローラ軸受の製造方法2)
本開示にかかるクロスローラ軸受が前述のクロスローラ軸受100のようなクロスローラ軸受である場合、公知の方法に鋼材の切削等によって外輪および内輪を成形し、外輪および内輪を得ることができる。従来のクロスローラ軸受の転走面は、転走面の周方向に沿った研削加工によって成形されていた。本開示にかかるクロスローラ軸受は、例えば転走面の研削を実施した後、バレル研磨を実施することによって得られる。
【0060】
(変形例)
本開示にかかるクロスローラ軸受は、軸方向に分割された外輪部材が組み合わされて外輪が構成されるものに限られない。外輪および/または内輪は、一体の部材から構成されてもよい。ローラの間にセパレータが配置されてもよい。また、ローラが保持器に保持されていてもよい。
【0061】
(実施例)
以上に述べた実施の形態による作用効果を調べるため、クロスローラ軸受における疲労の進行が評価された。
【0062】
[評価対象]
表1に示す表面性状(アスペクト比Str,二乗平均平方根高さSq)を有するクロスローラ軸受No.1~No.7を用いた。クロスローラ軸受No.1~3は本開示にかかるクロスローラ軸受であり、実施例である。クロスローラ軸受No.4~No.7は比較例である。
図6に、クロスローラ軸受No.1およびNo.7の外輪転走面のレーザマイクロスコープ像を示す。表1には、クロスローラ軸受No.1~No.7の油膜パラメータΛも合わせて示す。ただし、油膜パラメータΛは、グリースの基油温度を45℃として計算した値である。
【0063】
【0064】
(クロスローラ軸受No.1~No.7の準備)
クロスローラ軸受No.1~No.7はいずれも
図1に示す形態の超薄型クロスローラ軸受(外径φ70mm、内径φ30mm)であり、一対の分割輪が組み合わされた外輪、一対の分割輪が組み合わされた内輪、および、50本のローラ(φ3.2mm×t3.14mm)からなるものとした。周方向に隣接するローラは回転軸が互いに交差するよう、内外輪の間に形成される軌道路に順次配置された。ローラ間にセパレータが配置されない、総ローラ仕様とした。
【0065】
クロスローラ軸受No.1~No.7は次のとおり準備した。
外輪、内輪はいずれも、ブライト仕上げされた冷間圧延鋼板(SCM415、厚さ1mm)をプレス成型した後、浸炭焼入・焼戻を施し、その後バレル処理を施すことによって作製した。ローラはSUJ2製で、ズブ焼入を施した後、研磨した。これらを組み立てたものをクロスローラ軸受No.1~3とした。
外輪の転走面をさらにエメリーペーパ#240を用いて周方向に研磨すること以外はクロスローラ軸受No.1と同様にして、クロスローラ軸受No.4を得た。
外輪の転走面をさらにエメリーペーパ#320を用いて周方向に研磨すること以外はクロスローラ軸受No.1と同様にして、クロスローラ軸受No.5を得た。
外輪の転走面をさらにエメリーペーパ#400を用いて周方向に研磨すること以外はクロスローラ軸受No.1と同様にして、クロスローラ軸受No.6を得た。
外輪の転走面をさらにエメリーペーパ#600を用いて周方向に研磨すること以外はクロスローラ軸受No.1と同様にして、クロスローラ軸受No.7を得た。
【0066】
(表面性状の測定)
クロスローラ軸受No.1~No.7のそれぞれの外輪の転走面、およびローラについて表面性状(アスペクト比Str,二乗平均平方根高さSq)を測定した。測定には、形状測定レーザマイクロスコープ(VK-X1000、キーエンス社製)を用いた。測定箇所は3箇所とし、平均値を算出した。測定条件は次のとおりとした。
・対物レンズ:20倍
・フィルタ:ガウシアンフィルタ
・S-フィルタ:2μm
・L-フィルタ:0.8μm
【0067】
(疲労試験)
クロスローラ軸受No.1~No.7について疲労試験を実施した。具体的な手順は次のとおりとした。
クロスローラ軸受の内輪を固定し、固定した内輪に32.7Nmの純モーメント荷重を与え、外輪を585rpmで回転させた。潤滑剤としてグリース(トライボール(登録商標)GR 100-2PD、基油粘度:94.9mm2/s@40℃、9.3mm2/s@100℃)を0.17g注入した(空間体積の50%に相当する量とした)。このとき、弾性ヘルツ接触計算での外輪とローラとの間の最大接触面圧は1.97GPaであった。ただし、ローラの接触の軸方向有効長さは1.2mmとして計算した。
【0068】
外輪を100万回転させた後、ローラの転走面の半価幅を測定した。半価幅の測定には、残留応力測定装置(AutoMATEII、リガク社製(sin2ψ法))を用いた。測定条件は次のとおりとした。
・特性X線:Cr-Kα
・回折面:α-Fe[211]
・X線管球出力:40kV/40mA
・X線照射径:φ0.5
・X線照射時間:83s
・ψ角度:0、24.1、35.3、45°
【0069】
測定はローラ1本につき軸方向に2箇所とし、2本のローラについて測定を実施した。すなわち、各クロスローラ軸受について4箇所を測定し、平均値を算出した。また、未使用のローラについても同様に半価幅を算出した。未使用のローラの半価幅(5.841°)から試験後のローラの半価幅を差し引き、「Δ半価幅」を疲労度の指標とした。Δ半価幅が小さいほど、疲労の進行が少ないと判断された。
【0070】
なお、ローラを測定対象とした理由は、ローラは外輪の転走面よりもSqが小さく(表1参照)、粗い方(外輪)が細かい方(ローラ)に疲労を与えるためである。表2に、クロスローラ軸受No.1~No.7のそれぞれについてΔ半価幅およびピーリング発生の有無を示す。
図7にクロスローラ軸受No.1~No.7のそれぞれのΔ半価幅の値をグラフで示す。
【0071】
【0072】
表2に示されるとおり、クロスローラ軸受No.1~3はいずれもΔ半価幅がきわめて小さく(0.1未満)、ほとんど疲労が進行しなかった。一方、クロスローラ軸受No.6,7では半価幅が低下し、Δ半価幅が0.3程度となった。さらに、クロスローラ軸受No.4,5では半価幅の低下が大きく、Δ半価幅が0.5程度となるとともにピーリングが発生した。なお、表1および表2に示されるとおり、油膜パラメータを参照すると、クロスローラ軸受No.1とNo.7は同程度である。しかしながら、クロスローラ軸受No.1はNo.7と比較して明らかにΔ半価幅が小さかった。すなわち、クロスローラ軸受No.1は疲労の進行が少なかった。クロスローラ軸受No.1ではStrが大きいことが影響し、疲労の進行が抑制されたと考えられた。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1、100 クロスローラ軸受、1A、100A 外輪、1B、100B 内輪、1C、100C ローラ、10、110 第1外輪、11、31 取り付け用孔、12、32 貫通孔、13、22、33、42 突出部、15、25、35、45 第1部分、16、26、36、46 第2部分、17、27、37、47 第3部分、20、120 第2外輪、30 第1内輪、40 第2内輪、51、510 第1ローラ、52、520 第2ローラ