(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080118
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】においセンサ及び感応膜
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193030
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 千優
(57)【要約】
【課題】 高湿度下でも優れた感度を示すにおいセンサ及び感応膜を提供する。
【解決手段】 感応膜は、金属をZnとし、リンカーとしてイミダゾール化合物もしくはアゾール化合物を1つ以上含む有機金属構造体と、カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体を側鎖に1つ以上有するポリマーと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属をZnとし、リンカーとしてイミダゾール化合物もしくはアゾール化合物を1つ以上含む有機金属構造体と、
カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体を側鎖に1つ以上有するポリマーと、を有する感応膜。
【請求項2】
前記有機金属構造体のリンカーは、アルキルイミダゾール化合物、アリールイミダゾール化合物、アラルキルイミダゾール化合物、アルキルベンズイミダゾール化合物、アリールベンズイミダゾール化合物、またはアラルキルベンズイミダゾール化合物である、請求項1に記載の感応膜。
【請求項3】
前記有機金属構造体は、MAF-6、ZIF-8、ZIF-318、ZIF-68、ZIF-71、またはZIF-90である、請求項1または請求項2に記載の感応膜。
【請求項4】
前記ポリマーは、モノマー構造に、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、およびフマル酸から選択されるカルボン酸ユニットを含むポリマーである、請求項1または請求項2に記載の感応膜。
【請求項5】
前記ポリマーは、モノマー構造に、カルボキシル基が酸無水物、酸ハロゲン化物、エステル、アミドに変換された化合物のいずれかから選択されるカルボン酸誘導体由来のユニットを含むポリマーである、請求項1または請求項2に記載の感応膜。
【請求項6】
前記ポリマーは、アセチルセルロースである、請求項1または請求項2に記載の感応膜。
【請求項7】
前記ポリマーは、セルロースアセチルブチルレートである、請求項1または請求項2に記載の感応膜。
【請求項8】
前記感応膜における前記有機金属構造体の重量比は、75wt%以上99wt%以下である、請求項1または請求項2に記載の感応膜。
【請求項9】
圧電体と、
前記圧電体上の一方の面に形成される第1の電極と、
前記圧電体上の前記第1の電極とは反対の面に形成される第2の電極と、
前記第1の電極上に請求項1または請求項2に記載の感応膜を有するにおいセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、においセンサ及び感応膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス吸着膜を感応膜として用いたガス検出技術が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-45689号公報
【特許文献2】特開2012-122814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
感応膜を高湿度雰囲気下で使用すると、ガス成分と共に、相対湿度に応じて水分子も感応膜に同時に吸着してしまう。この場合、湿度の影響で正確な測定が困難になる。しかしながら、湿度を除外するための除湿機構を設けようとすると、消費電力の増大や装置の大型化に繋がってしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高湿度下でも優れた感度を示すにおいセンサ及び感応膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る感応膜は、金属をZnとし、リンカーとしてイミダゾール化合物もしくはアゾール化合物を1つ以上含む有機金属構造体と、カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体を側鎖に1つ以上有するポリマーと、を有する。
【0007】
上記感応膜において、前記有機金属構造体のリンカーは、アルキルイミダゾール化合物、アリールイミダゾール化合物、アラルキルイミダゾール化合物、アルキルベンズイミダゾール化合物、アリールベンズイミダゾール化合物、またはアラルキルベンズイミダゾール化合物であってもよい。
【0008】
上記感応膜において、前記有機金属構造体は、MAF-6、ZIF-8、ZIF-318、ZIF-68、ZIF-71、またはZIF-90であってもよい。
【0009】
上記感応膜において、前記ポリマーは、モノマー構造に、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、およびフマル酸から選択されるカルボン酸ユニットを含むポリマーであってもよい。
【0010】
上記感応膜において、前記ポリマーは、モノマー構造に、カルボキシル基が酸無水物、酸ハロゲン化物、エステル、アミドに変換された化合物のいずれかから選択されるカルボン酸誘導体由来のユニットを含むポリマーであってもよい。
【0011】
上記感応膜において、前記ポリマーは、アセチルセルロースであってもよい。
【0012】
上記感応膜において、前記ポリマーは、セルロースアセチルブチルレートであってもよい。
【0013】
上記感応膜において、前記感応膜における前記有機金属構造体の重量比は、75wt%以上99wt%以下であってもよい。
【0014】
本発明に係るにおいセンサは、圧電体と、前記圧電体上の一方の面に形成される第1の電極と、前記圧電体上の前記第1の電極とは反対の面に形成される第2の電極と、前記第1の電極上に請求項1または請求項2に記載の感応膜を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高湿度下でも優れた感度を示すにおいセンサ及び感応膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係るにおいセンサの平面図である。
【
図2】第1実施形態に係るにおいセンサの断面図である。
【
図5】第2実施形態に係るにおいセンサを例示する正面図である。
【
図6】第2実施形態に係るにおいセンサを例示する側面図である。
【
図7】(a)は第3実施形態に係る共振器を例示する平面図であり、(b)は(a)のA-A断面図である。
【
図8】各湿度環境におけるトルエンのガス吸着量を示す図である。
【
図9】0RH%および50RH%の各条件における湿度およびガスの吸着応答変化を示す図である。
【
図12】感応膜中におけるMOFに含まれる金属の特定について例示する図である。
【
図13】MOFとバインダとの配合比について例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0018】
以下の各実施形態は、MOF粒子を含む感応膜を用いてにおいセンサを構成するものである。圧電素子の、少なくとも振動する部位に感応膜を設け、この感応膜がガスを吸着することで質量変化を発生し、この質量変化を圧電素子の周波数変化に変換して検知するものである。圧電素子は、水晶振動子、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)等である。ここで、水晶振動子は、水晶の上に電極が形成される圧電素子であり、FBARは、シリコン基板の上に、キャビティがあり、圧電体と挟むように2つの電極が形成されるものであって、これらも圧電素子と呼ぶこととする。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、においセンサ100の平面図である。
図2は、においセンサ100の断面図であり、
図1のA-A線断面図である。
図1および
図2で例示するように、においセンサ100は、圧電振動子110と感応膜120とが接合された構成を有する。圧電振動子110は、圧電体層111、第1電極112および第2電極113を備える。圧電体層111は、圧電材料を主成分とする層である。第1電極112および第2電極113は、圧電作用を発生させるもので、圧電体層111を挟み、1対の電極を構成している。第1電極112および第2電極113は、導電性材料からなり、例えば金、銀、クロム、チタン又はその他の金属からなる。圧電振動子110は、例えば、圧電体層111が水晶からなるQCM(Quartz Crystal Microbalance)素子またはFBARなどである。においセンサ100は、これに限られず、ガス吸着による物理変化量を検知できるものであればよい。例えば、感応膜120の材料としては、有機系膜である。体積、質量、応力、光、熱、電気抵抗、電気伝導度または電気容量から選択され、検知する機構として形成されればよい。例えば、圧電材を挟んだ電極の一方の表面にこの感応膜120が形成されれば、共振周波数が吸着量に応じて変化する。
【0020】
感応膜120は、吸着量の大小はあるものの、複数のガスや複数のにおい成分を吸着する。これらの成分は気体、浮遊液体、水蒸気などである。
【0021】
なお、感応膜は、複数の成分を吸着する傾向にある。例えば、気体Aだけを吸着する感応膜は珍しく、殆どが他の気体B、他の気体Cなども吸着する。ただし、気体Aを気体B,Cよりも優先的に多く吸着する感応膜は存在する。このような感応膜は、気体Aに対して特異的な感応膜と表現することができる。感応膜120が吸着するにおい物質の種類は、感応膜120を構成する材料によって異なる。
【0022】
一般的に、感応膜を高湿度雰囲気下で使用すると、ガス成分と共に、湿度である水分も同時に吸着してしまう。この場合、湿度の影響で正確な測定が困難になる。しかしながら、湿度を除外するための除湿機構を設けようとすると、装置の大型化、それに伴う消費電力の増大に繋がってしまう。そこで、本実施形態に係る感応膜120について、高湿度下でも優れた感度を示す材料を見出したので、以下に説明する。
【0023】
感応膜120は、Zn(亜鉛)を中心金属とし、リンカーとしてイミダゾール化合物もしくはアゾール化合物を1つ以上含む有機金属構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)で、粒子構造を備えている。また、感応膜120は、カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体を側鎖に1つ以上有するポリマーを備えている。アゾール化合物は、窒素を1つ以上含む複素5員環化合物である。
【0024】
MOF粒子の構造を骨格またはフレームワークと呼ぶ。MOF粒子は、金属有機構造体の粒子であり、ガスを吸着する細孔を骨格内に複数有している。MOF粒子内の細孔に特定のガスが吸着することによって、MOF粒子の質量が変化する。
【0025】
後述するが、本発明者の検討によれば、実施例の感応膜120では、低湿度でも、高湿度でも、出力が一定であり、判定精度が向上することがわかった。まず、MOF粒子のリンカーをイミダゾール化合物またはアゾール化合物とすることで、高湿度環境下においても低湿度時と同等のガス吸着特性を維持することができる。このMOF粒子の表面に、Znが配置されている。Znは、カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体のモノマー構造と作用しやすい。このため、MOF粒子の表面でポリマーが作用し、MOF粒子の内部まで入り込まなくなる。その結果、MOF粒子の内部にガスが入りこみやすくなり、感度が向上したものと推察される。以上のように、本実施形態に係る感応膜120は、高湿度下でも優れた感度を示し、湿度に影響されない精度の高い測定が可能となる。
【0026】
上記のMOF粒子として、MAF-6、ZIF-8、ZIF-318(2-Hmim、2-Hmim-F3)、ZIF-68(Hbim、2-Hnim)、ZIF-71(4,5-Hdcim)、ZIF-90(2-Hcim)などを用いることができる。MAF-6は、2-エチルイミダゾールをリンカーとするMOFである。ZIF-8は、2-メチルイミダゾールをリンカーとするMOFである。
【0027】
MOF粒子のリンカーとして、アルキルイミダゾール化合物、アリールイミダゾール化合物、アラルキルイミダゾール化合物、アルキルベンズイミダゾール化合物、アリールベンズイミダゾール化合物、アラルキルベンズイミダゾール化合物などを用いることができる。さらに具体的には、
図3に示すような各イミダゾール化合物をMOF粒子のリンカーとして用いることができる。
【0028】
MOF粒子のリンカーは、目標とするMOF粒子の構造設計に応じて選択すればよく、金属イオンと有機配位子がMOFの結晶性構造を形成できる範囲で任意に選択してもよい。この場合、Znイオンと1種類のイミダゾール化合物とを組み合せてMOF粒子としてもよいし、複数種類の金属イオンおよび複数種類の有機配位子を含むMOF粒子としてもよい。MOF粒子は、細孔内に何らかの機能性分子を包接していてもよい。
【0029】
MOF粒子は、結晶構造を有する。MOF粒子は、規則構造を有するために結晶化しやすく、単結晶または多結晶として得られやすい。結晶は単結晶であってもよく多結晶であってもよい。
【0030】
MOF粒子の粒子径が小さすぎるとMOF粒子の機能が制限され、MOF粒子の粒子径が大きすぎると複合材料としての強度や耐久性が不十分になるおそれがある。そこで、MOF粒子の粒子径(分布の中央値)に下限および上限を設けることが好ましい。例えば、MOF粒子の粒子径の中央値は、10nm~500μmであることが好ましく、50nm~10μmであることがより好ましく、50nm~500nmであることがさらに好ましい。結晶構造の大きさの中央値が上記範囲内であると、MOF粒子の機能と、複合体としての強度や耐久性の維持を両立することができる。
【0031】
MOF粒子の粒子径の中央値は、以下の方法により測定される。走査型電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて、成形体表面(複合材料面)の画像を得る。このときの倍率は、画像中に存在する結晶(MOF粒子)の数が100~200個になる倍率とする。得られた画像中に存在する全ての結晶の最大径を測定し、それらの中央値(最小値と最大値との平均値)を算出し、その値をMOF粒子の粒子径の中央値とする。
【0032】
感応膜120に含まれるポリマーとして、モノマー構造にアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などから選択されるカルボン酸ユニットを含むものを用いることができる。または、感応膜120に含まれるポリマーとして、モノマー構造にカルボキシル基が酸無水物、酸ハロゲン化物、エステル、アミドに変換された化合物のいずれかから選択されるカルボン酸誘導体由来のユニットを含むものなどを用いることができる。または、感応膜120に含まれるポリマーとして、アセチルセルロースなどを用いることができる。または、感応膜120に含まれるポリマーとして、セルロースアセチルブチルレートなどを用いることができる。なお、カルボン酸誘導体について、
図4のように例示することができる。
【0033】
感応膜120において、MOF粒子の比率が高いほどガス吸着特性が高くなる傾向にある。そこで、感応膜120におけるMOF粒子の重量比率に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、感応膜120において、MOF粒子およびポリマーの合計に対するMOF粒子の重量比は、75wt%以上であることが好ましく、80wt%以上であることがより好ましく、90wt%以上であることがさらに好ましい。一方、感応膜120にポリマーを含ませるために、感応膜120におけるMOF粒子の比率に上限を設けることが好ましい。感応膜120は、圧電振動子110の第1電極112上に形成するが、ポリマーは、この第1電極112とMOF粒子の接着性を高める機能を備えるためである。本実施形態においては、感応膜120において、MOF粒子およびポリマーの合計に対するMOF粒子の重量比は、99wt%以下であることが好ましい。
【0034】
続いて、感応膜120の製造方法について説明する。まず、圧電振動子110を準備し、第1電極112の表面をArプラズマでクリーニング処理する。続いて、Znを中心金属としてリンカーとしてイミダゾール化合物もしくはアゾール化合物を1つ以上含むMOF粒子と、カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体を側鎖に1つ以上有するポリマーとを、溶媒と混合する。当該ポリマーは、バインダとして機能する。得られた分散溶液を第1電極112の表面に塗布する。塗布後、溶媒を揮発させることにより第1電極112上に感応膜120を形成することができる。溶媒は、ポリマーを溶解させるものであればよく、特に限定はされないが、沸点が低くて揮発性の高いアセトンやTHF(tetrahydrofuran)等を用いることが好ましい。
【0035】
分散溶液の塗布には、スプレーコーティング法などを用いることができる。なお、感応膜の塗布方法は、特に限定されず、例えば平面やフィルムへの塗布はロールコーター、バーコーター、凸版印刷、凹版印刷等を用いることができる。ただし、スピンコートでは意図している塗布箇所以外にも塗布されるおそれがあり、ロールコーターまたはバーコーターでは水晶が割れるおそれがあるため、スプレー装置、インクジェット法や蒸着などを用いることが好ましい。
【0036】
(第2実施形態)
図5は、においセンサ100aを例示する正面図である。
図6は、においセンサ100aを例示する側面図である。
図5および
図6で例示するように、においセンサ100aは、水晶13と、電極11A,11Bと、少なくとも一方の電極の上に設けられた感応膜12と、リードランド16A,16Bと、リード14A,14Bと、ピン端子19A,19Bとを備える。水晶13および電極11Aが圧電素子を構成する。感応膜12には、第1実施形態で説明した感応膜120を用いる。
【0037】
水晶13には、例えば、共振周波数が32MHzの水晶振動子を用いることができる。
【0038】
基板となる円形の水晶13の互いに対向する主面13A,13Bには、金属薄膜が一回り小さい円にパターニングされた電極11A,11Bが形成されている。電極11A,11Bは、例えば金などである。電極11A,11Bは、例えば、円形状であり、直径は5.0mmである。
【0039】
感応膜12は、電極11A上に形成され、特定のガスを吸着する。リードランド16Aは、電極11Aと同時に形成されて、一体形成されている。リードランド16Bも同様に、電極11Bと一体形成されている。
【0040】
リード14Aおよびリード14Bは、金属バネ材からなり、互いに平行に配置されている。リード14Aは、一端がリードランド16Aを介して電極11Aと電気的に接続され、他端がピン端子19Aに接続されるように構成されている。リード14Bは、一端がリードランド16Bを介して電極11Bと電気的に接続され、他端がピン端子19Bに接続するように構成されている。
【0041】
ピン端子19A,19Bは、両端に電圧が加わる駆動回路(発振回路)、周波数検出回路および濃度の演算やガス種の特定などの演算回路などに接続されている。この回路により、においセンサ100aは駆動する。なお、ここでは水晶振動子に駆動電圧が印加される。においセンサ100aは、駆動電圧が印加されると、水晶13が固有の周波数(32MHz)で振動する。そして、感応膜12が特定のガスを吸着することにより質量が変化し、その吸着量に応じて水晶13の共振周波数は低下する。検出回路などによって共振周波数を検出することで、特定のガスの吸着量を演算することができる。演算されたガスの吸着量から、雰囲気中の当該ガスの濃度を演算することができる。
【0042】
本実施形態においても、感応膜12として、第1実施形態の感応膜120を用いるため、高湿度下でも優れた感度を実現することができる。
【0043】
(第3実施形態)
ガス吸着膜を備えた圧電薄膜共振器について説明する。
図7(a)は、第3実施形態に係る共振器を例示する平面図である。
図7(b)は、
図7(a)のA-A断面図である。
【0044】
図7(a)および
図7(b)で例示するように、基板40上に圧電膜(振動部とも称する)42が設けられている。圧電膜42を挟むように下部電極41および上部電極43が設けられている。下部電極41と基板40との間に空隙46が形成されている。共振領域48は、圧電膜42の少なくとも一部を挟み下部電極41と上部電極43とが対向する領域である。共振領域48において、下部電極41および上部電極43は圧電膜42内に厚み縦振動モードの弾性波を励振する。基板40上に下部電極41、圧電膜42および上部電極43を覆うように保護膜44が設けられている。ここでは、半導体製造で用いられるシリコン酸化膜、シリコン窒化膜またはガラス膜などの絶縁性を有する無機系の保護膜44を採用し、この保護膜の上に感応膜45が設けられているが、保護膜44がない場合は、上部電極43に直接感応膜45を設けてもよい。平面視において感応膜45は共振領域48を含んで被覆されている。基板40の下面には電極51が設けられている。基板40および圧電膜42を貫通する貫通電極50が設けられている。貫通電極50は、下部電極41および上部電極43を電極51に接続する。
図7(a)および
図7(b)は、基板裏面で半田接続する面実装型である。しかしワイヤボンド型であれば、前記貫通電極はない。なお、本実施形態においては、圧電膜42、上部電極43および保護膜44が圧電素子の一例である。
【0045】
感応膜45にガス分子が吸着すると、感応膜45の質量が増加する。共振領域48内の感応膜45の質量が増加すると、圧電薄膜共振器の共振周波数および反共振周波数が低くなる。感応膜45には、第1実施形態で説明した感応膜120を用いる。
【0046】
基板40は、例えばサファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板またはシリコン基板である。下部電極41および上部電極43は例えばルテニウム(Ru)膜等の金属膜である。圧電膜42は、例えば窒化アルミニウム(AlN)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜または水晶層等である。保護膜44は例えば酸化シリコン膜または窒化シリコン膜等の絶縁膜である。貫通電極50および電極51は例えば金(Au)層または銅(Cu)層等の金属層である。
【0047】
空隙46の代わりに圧電膜42を縦方向に伝搬する弾性波を反射する音響反射膜を用いることができる。共振領域48の平面形状は楕円形状以外に四角形または五角形等の多角形でもよい。
【0048】
本実施形態においても、感応膜45として、第1実施形態の感応膜120と同様のものを用いるため、高湿度下でも優れた感度を実現することができる。
【実施例0049】
以下、上記実施形態に係る感応膜を作製し、特性について調べた。
【0050】
(実施例1)
金からなる第1電極及び第2電極が形成された、共振周波数32MHzの水晶振動子を圧電振動子として用いた。この圧電振動子をプラズマ処理して、電極をクリーニングした後、第1電極上にスプレーコーティングにて感応膜を作製し、においセンサを構成した。実施例1では、MOF粒子に、Znを中心金属とするMAF-6を用い、バインダとして機能するポリマーにセルロースアセチルブチレートを用いた。MOF粒子およびポリマーの合計に対するMOF粒子の重量比を9:1として分散液を作製した。したがって、MOF粒子の重量比は、90wt%とした。
【0051】
(実施例2)
実施例2では、MOF粒子に、Znを中心金属とするZIF-8を用いた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0052】
(比較例1)
比較例では、MOF粒子に、Zrを中心金属とし、テレフタル酸をリンカーとするUiO-66を用いた。また、比較例では、スプレー成膜で感応膜を作製した。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0053】
[ガス評価]
ガス発生装置から一定濃度のガスを発生させた。実施例1,2および比較例1のにおいセンサに対し、一定流速、ここでは300sccmの流速で、ガスをセンサに流し、吸着に伴う周波数変化を測定した。ガスには、トルエンを用いた。
【0054】
[湿度環境下におけるガス評価]
温度は、一定で24℃とした。湿度0,0.2,0.5,1,2,5,10,20,30,40,および50RH%の各条件下でのトルエン50ppmに対するガス評価を行った。評価方法は次の通りである。ガス発生装置から生成した一定濃度のガスと湿度を含むエアーをガス混合装置で混合した。湿度は、上述した湿度を含むガスを一定流速でにおいセンサへ流入し、吸着に伴う周波数変化を測定した。評価には、ガスブレンダ、パーミエータ、および恒温恒湿槽を用いて実施した。
【0055】
図8に、各湿度環境におけるトルエンのガス吸着量を示す。
図9に、0RH%および50RH%の各条件における湿度およびガスの吸着応答変化を示す。UiO-66は、高湿度環境において、ガスによる吸着量より湿度による周波数変化量のほうが大きいことが確認された。これに対して、MAF-6は、低~高湿度環境においても、同等のガス吸着量を維持していることが確認された。
図8および
図9では示されていないが、ZIF-8でも、MAF-6と同様に、低~高湿度環境においても、同等のガス吸着量を維持していることが確認された。低~高湿度環境においても同等のガス吸着量を維持されたのは、MAF-6およびZIF-8が、Znを中心金属とし、リンカーとしてイミダゾール化合物もしくはアゾール化合物を1つ以上含むMOFであり、カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体を側鎖に1つ以上有するポリマーが備わっているからであると考えられる。
【0056】
(比較例2)
実施例1と同等に、分散液とスプレー成膜を実施した。分散液は、MOF(MAF-6)とポリマーとを混合し、MOFの重量比率を90wt%とした。ポリマーの主骨格はシクロオレフィンであり、側鎖にアルキル基のフッ素アルコールを有している。
【0057】
(実施例3)
実施例1と同等に、分散液とスプレー成膜を実施した。分散液は、MOF(MAF-6)とポリマーとを混合し、MOFの重量比率を90wt%とした。ポリマーの主骨格はシクロオレフィンであり、側鎖にカルボン酸エステルを有している。
【0058】
(比較例3)
実施例1と同等に、分散液とスプレー成膜を実施した。分散液は、MOF(MAF-6)とポリマーとを混合し、MOFの重量比率を90wt%とした。ポリマーの主骨格はシクロオレフィンであり、側鎖にフッ素アルコールを有している。
【0059】
(実施例4)
実施例1と同等に、分散液とスプレー成膜を実施した。分散液は、MOF(MAF-6)とポリマーとを混合し、MOFの重量比率を90wt%とした。ポリマーの主骨格はシクロオレフィンであり、側鎖にカルボン酸を有している。
【0060】
(比較例4)
実施例1と同等に、分散液とスプレー成膜を実施した。分散液は、MOF(MAF-6)とポリマーとを混合し、MOFの重量比率を90wt%とした。ポリマーFの主骨格はアセチレンである。
【0061】
(実施例5)
実施例1と同等に、分散液とスプレー成膜を実施した。分散液は、MOF(MAF-6)とセルロースアセチルブチレートとを混合し、MOFの重量比率を90wt%とした。セルロースアセチルブチレートの主骨格はセルロースであり、側鎖にエステルを有している。
【0062】
実施例3~5および比較例2~5に対して、実施例1,2および比較例1と同様のガス評価を行った。結果を
図10に示す。周波数変化量が1000Hz以上であればガス評価を合格「〇」と判定し、周波数変化量が1000Hz未満であればガス評価を不合格「×」と判定した。判定結果を表1に示す。表1に示すように、実施例3~5では、ガス評価が合格「〇」と判定された。これは、Znを中心金属とし、リンカーとしてイミダゾール化合物もしくはアゾール化合物を1つ以上含むMOFを用い、カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体を側鎖に1つ以上有するポリマーを用いたからであると考えられる。
【表1】
【0063】
[発振安定性評価]
続いて、実施例3~5および比較例2~5に対して、発振安定性を評価した。当該安定性は、発振余裕度から判定することができる。発振余裕度とは、発振している状態から発振停止に至るまでのマージンを表したものであり、負性抵抗、水晶振動子の等価直列抵抗規格値を用いて、次式で算出することができる。
発振余裕度[倍]=|-R|/R1spe
【0064】
式中、|-R|は負性抵抗を表し、R1speは水晶振動子の等価直列抵抗値を示す。負性抵抗値は、水晶振動子と直列に純抵抗を加えていき、どこまで発振し続けるかをオシロスコープ等で確認することにより測定される。完全に発振が止まる寸前の純抵抗の値に、測定に使用した水晶振動子の実効抵抗値を加えた値が負性抵抗値となる。また、等価直列抵抗値はクリスタルインピーダンス値(以下、CI値という)ともいい、CI値が高いほど発振が不安定となる。CI値はインピーダンスアナライザ(4294A、キーサイト・テクノロジー株式会社)を用いて測定した。CI値が120Ω以下であれば発振安定性を非常に良好「◎」と判定し、CI値が120Ωを上回り300Ω未満であれば発振安定性を良好「〇」と判定し、CI値が300Ω以上であれば発振安定性をやや良好「△」と判定した。成膜後に発振しなかった場合は、発振安定性を不合格「×」と判定した。
【0065】
結果を上記の表1に示す。表1に示すように、実施例3~5では、発振安定性は不合格「×」と判定されなかった。これは、カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体を側鎖に1つ以上有するポリマーを用いたからであると考えられる。
【0066】
(実施例6)
MOFの重量比率を80%とした。その他の条件は、比較例2と同じとした。
【0067】
実施例1および実施例6に対して、実施例1,2および比較例1と同様のガス評価を行った。結果を
図11に示す。
図11の結果から、感応膜におけるMOFとバインダの比率はMOF比率を75%以上99%以下とすることで、より好ましい結果が得られることが確認された。
【0068】
なお、感応膜中におけるMOFに含まれる金属の特定は、EDS/EDXなどで可能である。また、バインダの種類については、FT-IRあるいは熱分解-GC/MSなどの分析から推定可能である。例えば、
図12に示すように、FT-IRでは、MOFに含まれていない官能基の吸収帯に着目することで、バインダ種および量を推定可能である。特に、上記の実施例で挙げたカルボン酸誘導体のC=0伸縮振動は、1700cm
-1付近に特徴的な鋭いピークが現れる官能基である。MOFとバインダとの配合比に関しては、
図13に示すようにバインダに特徴的なピーク(セルロースアセチルブチレートの場合は1745cm
-1~1749cm
-1)の吸光度変化と検量線からバインダ量を推定可能である。なお、
図13の上図は、セルロースアセチルブチレートのFT-IRスペクトルの抜粋である。
図13の下図は、1745cm
-1~1749cm
-1の吸光度プロット図である。分析手法は一般的なポリマー分析手法によっても可能であって、上記方法に限るものではない。
【0069】
以上、本発明の実施形態および実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態や実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。